説明

ノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートおよびその重合体

【課題】常温で液状であり、取り扱いが容易である(メタ)アクリレートの提供、さらには溶剤に対する溶解性が向上した(メタ)アクリレート(共)重合体を提供することを目的とする。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレート。
【化1】


(上式において、R1は炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜3の整数、R2は水素原子またはメチル基を表す。)
また、一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートを含む単量体混合物を重合することによって得られる(共)重合体。
本発明の好ましい態様として、一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種と、共重合可能な化合物の少なくとも1種を含む単量体混合物を重合することによって得られる共重合体であって重量平均分子量(Mw)が2000〜200000である共重合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレート及びその(共)重合体に関するものである。特に、エキシマレーザーを使用する微細加工に好ましく用いることができるレジスト、医薬、農薬、その他の精密化学品の原料として使用が期待される化合物に関するものである。さらに詳しくは、本発明のノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートは常温で液体であるため取り扱いが容易であり、またその(共)重合体が溶剤への溶解特性に優れるため半導体等の製造工程上好都合である化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、液晶等の分野において、リソグラフィー工程において用いる光源を短波長化することによる素子の微細化が急速に進行している。現在、KrFエキシマレーザー(248nm)を光源とするリソグラフィー技術が主流となっている。さらなる微細化を目的として、ArFエキシマレーザー(193nm)も導入されつつある。
【0003】
光源の波長により、好適に用いることができるフォトレジスト樹脂の構造も異なっている。KrFエキシマレーザー光を利用する場合、透過率の高いポリヒドロキシスチレンやその誘導体が多く用いられている。しかしこれらはその構造中に波長が200nm以下の紫外光を吸収する芳香環を有している。そのため、ArFエキシマレーザーを用いてレジストを形成する場合には、大部分の露光光がレジスト表面で吸収されてしまい、露光光がレジスト内部まで透過しにくく、したがって、レジストパターンを正確に形成することが困難となる。
近年、数多くの脂環式構造を有する(メタ)アクリレートが、微細加工用フォトレジストの原料として提案されている。中でも、5−ヒドロキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトンを直接(メタ)アクリル酸と反応させることにより得られるエステル化合物は、その構造中に芳香環を有していない上に、該化合物を用いて得られた重合体はドライエッチング耐性に優れているため、注目を浴びている(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3042618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら該エステル化合物は常温で固体であるため、取り扱いが容易ではない。さらに該エステル化合物をその構成要素として含む(共)重合体は溶剤に対する溶解性が低いため、高濃度のレジスト組成物を調製する上で不利となる。特に、レジスト溶剤として好適に用いられるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等の溶剤に難溶であるという難点がある。
【0005】
本発明は、常温で液状であり、取り扱いが容易である(メタ)アクリレートを提供すること、さらには溶剤に対する溶解性が向上した(メタ)アクリレート(共)重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を行った結果、ノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートの構造が溶解性に大きく影響することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートに関する。
【化1】

(上式において、R1は炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜3の整数、R2は水素原子またはメチル基を表す。)
本発明はまた、一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートを含む単量体混合物を重合することによって得られる(共)重合体でもある。
本発明の好ましい態様は、一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種と、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含む単量体混合物を重合することによって得られる共重合体であって重量平均分子量(Mw)が2000〜200000である共重合体に関する。
【化2】

(上式において、R3は水素原子またはメチル基、R4は炭素数3〜19の置換された、または非置換の炭化水素基を表す。)
さらに、本発明はフォトレジスト材料としての用途のための上述の(共)重合体にも関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートは常温で液体であり、さらに本化合物を含む単量体混合物を重合することによって得られる(共)重合体は、溶剤に対する溶解性が良好であり、より詳しくは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、乳酸エチルに対する溶解性が良好である。このため、半導体レジスト用樹脂、医薬、農薬、その他の精密化学品の原料としての利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。一般式(1)において、R1は炭素数2〜4のアルキレン基を示す。具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基を挙げることができる。5−ヒドロキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトンにアルキレンオキサイドを付加することにより、(R1O)nで表される(ポリ)オキシアルキレン基を導入することができる。アルキレンオキサイドの付加反応は、必要によりKOH、NaOH等の塩基性触媒を使用して公知の方法で行うことができる。
【0009】
一般式(1)においてアルキレンオキサイドの付加モル数を示すnは1〜3の整数であるが、硬化性の点で1〜2の整数であることが好ましく、さらに好ましくは1である。nが3を超えると不飽和基の密度が低くなり、硬化性に劣る。nが2以上の場合、R1は同一であっても異なっていてもよく、またその付加形態はランダムであってもブロックでもよい。本発明の化合物が半導体製造用レジストの原料として用いられる場合、高い感度が要求されるため、アルキレンオキサイドの付加モル数nが1であることが好ましい。この場合、アルキレンオキサイドとしてブチレンオキサイドを用いることにより、付加モル数を容易に1モルとすることができる。また、付加反応の触媒として第三級アミン、特にトリエチルアミンを使用することによっても比較的容易に1モル付加体を得ることができる。
【0010】
本発明のノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートは、上述の方法で得た5−ヒドロキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトンのアルキレンオキサイド付加物(以降、化合物Aとする)を(メタ)アクリレート化した化合物である。該化合物は、化合物Aと(メタ)アクリル酸もしくは(メタ)アクリル酸クロライドを公知の方法により反応させるか、(メタ)アクリル酸エステルと公知の方法によりエステル交換することにより得ることができる。ここで、化合物Aの反応性末端がオキシブチレン基である場合には、(メタ)アクリル酸との反応性に劣るため、エステル交換法をとることが好ましい。
【0011】
一般式(2)において、R4で表される炭素数3〜19の置換された、または非置換の炭化水素基の具体例としては、t−ブチル基、テトラヒドロピラン−2−イル基、テトラヒドロフラン−2−イル基、4−メトキシテトラヒドロピラン−4−イル基、1−エトキシエチル基、1−ブトキシエチル基、1−プロポキシエチル基、3−オキソシクロヘキシル基、2−メチル−2−アダマンチル基、8−メチル−8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、または1,2,7,7−テトラメチル−2−ノルボルニル基、2−アセトキシメンチル基、2−ヒドロキシメンチル基、1−メチル−1−シクロヘキシルエチル基、水酸基またはカルボキシル基、もしくはエステル基を有するトリシクロ[5.2.1.02,6]デシルメチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基、メチルノルボルニル基、イソボルニル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基、メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデシル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明の(共)重合体の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、好ましくは2000〜200000、より好ましくは8000〜25000の範囲である。
【0013】
本発明の(共)重合体の分散度(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に限定されないが、1.05〜3.00、より好ましくは1.10〜2.50の範囲である。
【0014】
本発明の共重合体は、一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレート由来の構成成分を含むことを特徴とするが、本発明において期待する効果を発揮させるために、その比率は10モル%以上であることが好ましく、より好ましくは20モル%以上、特に好ましくは30モル%以上である。また、本発明により得られる効果を損なわない範囲で他の共重合可能なモノマーに由来する構成要素を含めることもできる。
【0015】
本発明の(共)重合体を製造する方法は特に限定されないが、有機溶剤中に単量体、開始剤を溶解し、公知の条件で重合させるのが簡便である。他に、単量体、開始剤を有機溶剤に混合したものを、あらかじめ一定温度に保った有機溶剤中に滴下し一定時間重合させる方法を利用することもできる。
【0016】
重合に用いられる有機溶剤は特に限定されないが、単量体および生成する(共)重合体を良好に溶解する溶剤が好ましい。例えば、1,4−ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0017】
重合に用いられる開始剤は特に限定されないが、例えばアゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等のアゾ化合物、および過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、さらにn−ブチルリチウム等の有機アルキル化合物が挙げられる。
【0018】
重合温度については特に限定されないが、−80℃〜150℃、好ましくは−75℃〜80℃の範囲である。所望の温度に到達後、5〜10時間程度温度を維持し重合を実施することが好ましい。
【0019】
重合終了後の(共)重合体の精製方法についても特に限定されないが、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等の良溶媒で適度に希釈した後、水、ヘキサン等の貧溶媒中に滴下し(共)重合体を析出させたものをろ過し、乾燥することにより好ましく精製された(共)重合体を得ることができる。必要に応じ得られた(共)重合体を良溶媒に再溶解し、貧溶媒に滴下、ろ過、乾燥の工程を繰り返してもよい。
以上の工程により所望の(共)重合体を得る。
【0020】
得られた(共)重合体は、これに露光により酸を発生する光酸発生剤などを適量配合することにより、上記(共)重合体をベースとするフォトレジスト組成物に調製される。
この化学増幅型フォトレジスト組成物を半導体基板(シリコンウエハ)上に塗布し、例えばArFエキシマレーザーを用いて波長180ないし220nmの光で露光し、続いてベークし、その後現像することにより、所望のパターンが基板上に形成された超LSI等が製造される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限を受けるものではない。なお、実施例および比較例中の物性等は以下の方法により測定した。
【0022】
(重量平均分子量)
20mgの共重合体を5mLのテトラヒドロフランに溶解し、0.5μmのメンブランフィルターで濾過した試料溶液をShodex社製ゲル・パーミエイション・クロマトゲラフィーGPC−101を用いて測定した。分離カラムはShodexGPC KF−G、KF−805、KF−803、KF−802を直列して用い、溶媒はテトラヒドロフラン、流量1.0mL/分、検出器は示差屈折計、測定温度40℃、注入量0.1mL標準ポリマーとしてスチレンを使用した。
【0023】
(共重合体の平均組成比)
1H−NMRの測定により求めた。この測定は、日本電子(株)製JNM−AL400型FT−NMRを用いて試料の約15質量%の重クロロホルムを直径5mmのチューブに入れ64回の積算でおこなった。
【0024】
(実施例1)
5Lのオートクレーブに5−ヒドロキシ−2,6−ノルボルナンカルボラクトン(以降、NLAとする)770g(5mol)、トルエン770g、トリエチルアミン10.1g、ブチレンオキサイド432.7g(6mol)を仕込んだ。窒素置換を行った後125℃まで昇温し、125〜130℃で8時間反応させた。反応後の液組成は、GC面積比で(未反応NLA):(NLA−BO1モル付加体):(NLA−BO2モル付加体)=43:56:1、収量は1970gであった。得られた反応液300gを10wt%水酸化ナトリウム水溶液150gで洗浄し、更にpHが中性になるまで水洗を行って未反応NLAを除去した。洗浄後、脱溶媒を行いNLA−BO1モル付加体の精製物を得た。GC純度93.8%、収量45.7g、1H−NMR(CDCl3) δ0.95(t、3H)、δ1.49(m、2H)、δ1.58(t、3H)、δ2.02(m、2H)、δ2.33(t、1H)、δ2.54(m、2H)、δ3.16(m、1H)、δ3.33(m、2H)、δ3.51(m、1H)、δ3.67(m、1H)、δ4.50(s、1H)。また、GC−MS(CI法)より分子量が226であることが確認された。
【0025】
検水管、攪拌機、温度計付300mLフラスコに先の合成で得たNLA−BO1モル付加体30g(0.13mol)、メタクリル酸メチル131.7g(1.31mol)とモノメトキシハイドロキノン0.03gを仕込んだ。100℃まで昇温した後、チタンテトライソプロポキシド1.71g(0.006mol)添加した。留出液を回収しながら8時間反応を行った後、未反応メタクリル酸メチルを留去し、水100g添加して触媒を失活させ、ろ過で沈殿物を除去した。次に10wt%水酸化ナトリウム水溶液50gで洗浄を行い、更にpHが中性になるまで水洗を実施した。洗浄後、脱水を行い、NLA−BO1モル付加体のメタクリレートの淡橙色透明液を得た。GC純度95%、収量30g、1H−NMR(CDCl3) δ0.93(t、3H)、δ1.60(m、4H)、δ1.95(m、5H)、δ2.49(m、2H)、δ3.12(br、1H)、δ3.34(s、1H)、δ3.55(m、2H)、δ4.44(m、1H)、δ4.97(m、1H)、δ5.57(s、1H)、δ6.10(s、1H)。また、GC−MS(CI法)より分子量が294であることが確認された。
【0026】
(実施例2)
実施例1で得たメタクリレート14.1g、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート25.1g、ヒドロキシアダマンチルメタクリレート6.1g、アゾビスイソブチロニトリル4.5g、ジオキサン110gを反応器に仕込み72℃で10時間重合反応を行った。次に反応液を2000gのヘキサンに注ぎ、生じた沈澱物をろ別した。回収した沈澱物を減圧乾燥後、ジオキサンに溶解させ、さらにもう一度沈澱精製を繰り返すことで所望の樹脂25gを得た。この樹脂の共重合比は1H−NMRの積分比から(合成例1で得たメタクリレート):(2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート):(ヒドロキシアダマンチルメタクリレート)=35:50:15であった。GPC分析による重量平均分子量(Mw)は14000、分散度(Mw/Mn)は1.90であった。
【0027】
(比較例1)
ノルボルネンカルボラクトンメタクリレート7.8g、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート13.9g、ヒドロキシアダマンチルメタクリレート3.4g、アゾビスイソブチロニトリル3.3g、ジオキサン58gを反応器に仕込み72℃で10時間重合反応を行った。次に反応液を1200gのメタノールに注ぎ、生じた沈澱物をろ別した。回収した沈澱物を減圧乾燥後、ジオキサンに溶解させ、さらにもう一度沈澱精製を繰り返すことで所望の樹脂20gを得た。この樹脂の共重合比は1H−NMRの積分比から(ノルボルネンカルボラクトンメタクリレート):(2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート):(ヒドロキシアダマンチルメタクリレート)=35:50:15であった。GPC分析による重量平均分子量(Mw)は13000、分散度(Mw/Mn)は1.90であった。
【0028】
(溶解性試験)
樹脂0.5gと一定量の特定の溶媒をバイアル瓶に取り40℃にて1時間撹拌した後、不溶物、濁りの視認されないものを溶解とした。
◎:30wt%溶解、○:20wt%溶解、×:難溶
【0029】
(溶解性試験結果)
実施例2と比較例1で得られた樹脂の各種溶媒に対する溶解性試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0030】
上記の結果から、本発明の重合体は比較例に比して溶解性が良好であることが示された。特に、本発明の重合体は半導体製造過程で用いられるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートや酢酸エチルにも良く溶解するため、レジスト原料としても好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレート。
【化1】

(上式において、R1は炭素数2〜4のアルキレン基、nは1〜3の整数、R2は水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)で表されるノルボルナンラクトン系(メタ)アクリレートを含む単量体混合物を重合することによって得られる(共)重合体。
【請求項3】
一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種と、下記一般式(2)で表される化合物の少なくとも1種を含む単量体混合物を重合することによって得られる共重合体であって、重量平均分子量(Mw)が2000〜200000である請求項2に記載の共重合体。
【化2】

(上式において、R3は水素原子またはメチル基、R4は炭素数3〜19の置換された、または非置換の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
フォトレジスト材料としての用途のための請求項2又は3記載の(共)重合体。


【国際公開番号】WO2005/058854
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516374(P2005−516374)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018944
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】