説明

ハイブリット車の制御装置、及び制御方法

【課題】 ハイブリット車において、電池の残存容量が少なくなって、駆動モータ走行モードからエンジンを駆動して走行するモードに移行する際に、エンジンが故障していて走行不能とならないようにする。

【解決手段】 前回のエンジン始動時のエンジン状態を記憶しておき、前回のエンジン状態によって、エンジンの始動判定値を可変に設定する。本構成によれば、エンジンが異常である可能性が高い場合、エンジンの始動判定値を小さくして、通常よりエンジンを早く始動させ、エンジンの異常を早期に検出でき、ユーザにエンジンの異常を通知することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリット車の制御装置およびその制御方法に関し、詳しくは、エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリット車の制御装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車としては、エンジンと、このエンジンのクランクシャフトをキャリアに接続すると共に車軸に機械的に連結された駆動軸にリングギヤを接続したプラネタリギヤと、このプラネタリギヤのサンギヤに動力を入出力する第1モータと、駆動軸に動力を入出力する第2モータと、第1モータおよび第2モータと電力のやりとりが可能なバッテリとを備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車では、アクセル開度と車速とに基づいて駆動要求パワーを求めると共にバッテリの残存容量(SOC)に基づいて充放電要求パワーを求め、この駆動要求パワーと充放電要求パワーとに基づいて車両要求パワーを求めてエンジンからの出力を設定している。例えば、車両要求パワーが小さいときにはエンジンの運転を停止して第2モータから車軸に連結された駆動軸に動力を出力することにより走行し、車両要求パワーが大きいときにはエンジンを運転すると共にこのエンジンからの動力をバッテリの充放電を伴ってトルク変換して駆動軸に出力することにより走行する。
【0003】
ところで、エンジンの異常を自動的に検出して運転者が故障原因等を容易に把握できるようにした自己診断装置というものが知られているが、この種のハイブリッド車では、モータのみによる走行時や停車時などエンジン出力が不要なときにはエンジンを停止させるようにしているため、従来の自己診断装置を上述したようにエンジンを一時的に停止させる車両に適用すると的確な故障診断ができないという問題が生じる。すなわち、エンジン停止の直前に異常検出履歴を記憶するバックアップ回路を設け、エンジン始動後にその記憶内容を引き継ぐようにすることが考えられるが、このようにすると、エンジン停止により診断に要する時間が長くなり、また特にエンジン停止の間の雰囲気条件の変化等に原因して診断の精度が低下したり誤診断を起こしたりする可能性が生じて好ましくない。
【0004】
こうした事情に鑑み、特許文献2には、エンジン停止条件を満足したとしても、異常検出処理が完了するまで、エンジンの停止を禁止することにより、現在のエンジン制御において異常検出処理を完了させることができ、その異常検出処理を早期に完了させることができるものが開示されている。
【特許文献1】特開平10−326115号公報
【特許文献2】特開2000−257498号公報 ところが近年では、家庭用コンセント等から電池の充電を可能とした「プラグイン・ハイブリット車」と呼ばれるものがある。プラグイン・ハイブリット車は、従来型のハイブリット車よりも電池の容量を増やし、かつ家庭用プラグから容易に充電可能となっており、短距離走行では、モータによる電気自動車モードで駆動し、長距離走行や高速走行などはエンジンとモータによるハイブリット車モードで駆動するように制御している。そのため、従来型のハイブリット車より、エンジンを駆動して車両を走行させる機会が減少している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の発明は、あくまでエンジンが駆動していることを前提にしているため、エンジンにより車両を走行させる機会の少ないプラグイン・ハイブリット車においては、異常検出処理の実行の機会も少なくなる。万一、エンジンに異常が発生している状態で、かつエンジンの異常状態が検出できていない場合に、長距離の駆動モータ走行により電池の残存容量がなくなって、エンジンを始動して車両を走行させようとしても、エンジンに異常が発生しているのでエンジンを始動することができない。つまり、急に走行不能な状態に陥るという問題がある。
本発明は、この点に着目してなされたものであり、駆動モータ走行から、電池の残存容量がなくなって、エンジンを始動して走行するモードに移行する前に、エンジンの異常チェックを最適に実施することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、エンジン始動中のエンジン状態を検出するエンジン状態検出手段とを備え、前記エンジン始動判定手段は、エンジン状態検出手段のエンジン状態に応じて、前記エンジン始動判定値を可変にすることを特徴とした。
請求項2の発明は、前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段が排気酸素センサまたは空燃比センサからの信号に基づいて燃料供給量をフィードバック制御する空燃比制御装置のフィードバック量が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくするようにした。
【0007】
請求項3の発明は、前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段がスロットルのデポジット量が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくするようにした。
【0008】
前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段がエンジン始動時のクランキング時間が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくするようにした。
【0009】
請求項5の発明は、前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段がエンジンの失火回数が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくするようにした。
請求項6の発明は、エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、連続してエンジンを始動せずに走行したトリップ回数をカウントするカウント手段とを備え、前記エンジン始動判定手段は、前記カウント手段によるカウント回数が所定回数以上であると検出した場合に始動判定値を小さくすることを特徴とした。
請求項7の発明は、エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、前記ハイブリット車を制御する制御装置への電源供給手段が遮断されたことを検出する検出手段を備え、前記エンジン始動判定手段は、前記検出手段により電源供給手段が遮断されたことを検出した場合、前記エンジン始動判定値に関わらず、エンジンを始動させることを特徴とする。
請求項8の発明は、エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、ボンネットの開閉を検出するボンネット開閉手段を備え、前記エンジン始動判定手段は、イグニッションスイッチがOFFからONに切り換わった場合に、前記ボンネット開閉手段によりイグニッションスイッチがOFF時にボンネットが開いたことを検出している場合、前記エンジン始動判定値に関わらず、エンジンを始動させることを特徴とした。
請求項9の発明は、エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、エンジン停止時間を計測する計測手段とを備え、前記エンジン始動判定手段は、前記計測手段が所定値以上の場合に小さくすることを特徴とした。
【発明の効果】
【0010】
上記請求項1〜5の各発明は、前回のエンジン始動時のエンジン状態を記憶しておき、今回の車両運転時には、前回のエンジン始動時のエンジン状態に応じてエンジンの始動判定値を小さくする。このとき、電池の残存容量が残っている状態であっても、素早くエンジンを始動させるようにするため、エンジンの異常状態を素早く検出することができる。これにより、電池の残存容量が少なくなって、駆動モータ走行モードからエンジンを始動させて運転するモードに移行する前までに、運転者にエンジンの異常を素早く通知することができるようになる。すなわち、エンジンの異常を早期に検出し、エンジン異常を運転者に通知することができるため、運転者は、電池の残存容量がある間に、ディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【0011】
更に請求項2の発明では、排気酸素センサまたは空燃比センサからの信号に基づいて燃料供給量をフィードバック制御する空燃比制御装置のフィードバック量が所定値以上のときにエンジンの始動判定値を小さくするようにした。これにより、電池の残存容量が少なくなって、駆動モータ走行モードからエンジンを始動させて運転するモードに移行する前までに、運転者にエンジンの空燃比異常を素早く通知することができるようになる。すなわち、エンジンの空燃比異常を早期に検出し、エンジンの空燃比異常を運転者に通知することができるため、運転者は、電池の残存容量がある間に、ディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【0012】
更に請求項3の発明では、スロットルのデポジット量が所定値以上のときにエンジンの始動判定値を小さくするようにした。これにより、電池の残存容量が少なくなって、駆動モータ走行モードからエンジンを始動させて運転するモードに移行する前までに、運転者にスロットルの異常を素早く通知することができるようになる。すなわち、スロットルの異常を早期に検出し、スロットルの異常を運転者に通知することができるため、運転者は、電池の残存容量がある間に、ディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【0013】
請求項4の発明では、前回のエンジン始動時のクランキング時間が所定値以上のときにエンジンの始動判定値を小さくするようにした。これにより、スタータ異常でエンジンが始動できなくなるような状態を早期に検出できるため、電池の残存容量がなくなって、走行不能に陥るような危険な状態になる前に運転者にエンジン系統の異常を早期に通知でき、走行不能に陥る前に、運転者はディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【0014】
請求項5の発明では、前回のエンジンの失火回数が所定値以上のときにエンジンの始動判定値を小さくするようにした。これにより、電池の残存容量が少なくなって、駆動モータ走行モードからエンジンを始動させて運転するモードに移行する前までに、運転者にエンジンの失火異常を素早く通知することができるようになる。すなわち、エンジンの失火異常を早期に検出し、エンジンの失火異常を運転者に通知することができるため、運転者は、電池の残存容量がある間に、ディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【0015】
請求項6の発明では、連続してエンジンを始動せずに走行したトリップ回数をカウントし、このカウント回数が所定値以上のときにエンジン始動判定値を小さくするようにした。つまり、エンジンが始動しないで走行した回数が所定回数以上ならエンジンを始動させ易くし、エンジンの以上検出回数を増やすことができるようになる。そのため、電池の残存容量がなくなって、走行不能に陥るような危険な状態になる前に運転者にエンジンの異常を早期に通知でき、走行不能に陥る前に、運転者はディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。尚、トリップとはイグニッションスイッチのOFF⇒ON⇒OFFを1トリップとする。
請求項7の発明では、ハイブリット車を制御する制御装置への電源供給手段が遮断されたときに、エンジンの始動判定手段に関わらず、エンジンを始動させることを特徴とする発明である。運転者がバッテリを外すようなときは長期間、車両を運転しないようなときや、エンジンの部品を取り替えるようなときである。すなわち、長期間、車両を放置して、経時劣化等でエンジンに異常が発生する場合や、エンジン部品の組替えミスでエンジンに異常が発生する場合などを早期に発見できるようになる。そのため、電池の残存容量がなくなって、走行不能に陥るような危険な状態になる前に運転者にエンジンの異常を早期に通知でき、走行不能に陥る前に、運転者はディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
請求項8の発明では、イグニッションスイッチがOFF時にボンネットが開いたかどうかを検出しておき、イグニッションスイッチがOFFからONに切り換わったときに、ボンネットの開履歴を検出していれば、前記エンジン始動判定部の判定結果に関わらず、エンジンを始動させることを特徴とする発明である。運転者がボンネットを開けるよなときは、エンジンの部品を取り替えるようなときであるため、このような状態を検出した場合、エンジンの始動判定手段に関わらず、エンジンを始動すれば、エンジン部品の組替えミス等でエンジンに異常が発生していたとしても早期にエンジンの異常を検出できるようになる。そのため、電池の残存容量がなくなって、走行不能に陥るような危険な状態になる前に運転者にエンジンの異常を早期に通知でき、走行不能に陥る前に、運転者はディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【0016】
請求項9の発明では、エンジンの停止時間が所定時間以上であることを検出すると、エンジンの始動判定値を小さくするようにした。すなわち、長期間、エンジンを使用せずに、エンジンや燃料が経時劣化してエンジンが始動できないような状態が発生しないように、適切な時期にエンジンを始動させエンジン状態を検出できるようにした。そのため、電池の残存容量がなくなって、走行不能に陥るような危険な状態になる前に運転者にエンジンの異常を早期に通知でき、走行不能に陥る前に、運転者はディーラ等に車両を持ち込み、エンジンを修理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。
以下、本発明による燃料情報表示装置の制御方法について説明する。図1は本発明の家庭用コンセント12から充電可能な充電器9を備えたハイブリッド車1であり、ハイブリット車1は、エンジン2、高圧バッテリ3、インバータ4、駆動輪5、遊星歯車6、電子制御装置8、及びモータジェネレータ10、11などから構成され、電子制御装置8はハイブリット制御装置81とボデー制御装置82とエンジン制御装置83とモータ制御装置84とバッテリ制御装置85などから構成される。
【0018】
エンジン2は図2に示すように、内燃部20と、内燃部20へ吸入される空気及び燃料の通路となる吸気管21と、外気の汚れを除去するエアフィルタ22と、吸気量を検出するエアフロメータ23と、吸入される空気量を制御するスロットルバルブ24と、内燃部20の吸気ポート20Aに対して燃料タンクに貯蔵された燃料を噴射するための燃料噴射弁としてフュエルインジェクション25と、内燃部20で燃焼されたガスを排気する排気通路26と、排気されたガスを浄化する触媒27と、触媒の上流側に設置された酸素濃度センサ28等を備えて構成されている。尚、スロットルバルブ24には、例えば、リニア式スロットル・ポジション・センサからなるスロットル開度を検出するためのスロットル開度検出手段24Aが設置されている。
【0019】
図1に戻り、高圧バッテリ3は、複数の電池セルが一体化されたモジュールで複数直列に接続されたリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の組電池で構成されている。また、高圧バッテリは家庭用コンセント12から充電機9を介して充電が可能となっている。
【0020】
インバータ4は、バッテリ3から入力された直流電流を交流電流に変換してモータジェネレータ10(主に発電機として動作)およびモータジェネレータ11(主に駆動用モータとして動作)を制御する。
【0021】
遊星歯車6は、エンジン2のクランクシャフトから出力されたトルクをモータジェネレータ10およびプロペラ軸7に分割伝達する。モータジェネレータ11はリダクションギヤ13を介して備えられ、プロペラ軸7がデファレンシャルギヤ機構14を介して駆動輪5に連結されている。
電子制御装置8は、高圧バッテリ3の充電状態の監視を行うバッテリ制御装置85と、エンジン2の吸入空気量及び燃料噴射量の制御等を実行するエンジン制御装置83と、インバータ4およびモータジェネレータ10、11を制御するモータ制御装置84と、車両要求パワーを満たすために、エンジン2とモータジェネレータ10、11が出力すべきパワーおよびトルクを管理するハイブリット制御装置81と、ドアやボンネットなどの開錠を検知するボデー制御装置82等から構成されている。
【0022】
各制御装置8の81〜85にはCPUを備えたマイクロコンピュータ、CPUで実行される制御プログラムが格納されたROM及び/またはEEPROM、ワーキングエリアとして使用されるRAM、及び入出力回路等が設けられており、以下で説明する各電子制御装置8の各機能は、CPUが制御プログラムを実行することで実現される。尚、各電子制御装置は相互に通信可能に接続されている。また、各電子制御装置は図示しない低圧バッテリから電源を供給している。
【0023】
バッテリ制御装置85は、高圧バッテリ3の出力電圧を測定する電圧測定部15と、出力電流を測定する電流測定部16からの測定値が入力されており、バッテリ制御装置85は、これらの測定値に基づいてバッテリ残存容量(以下、「SOC(State of Charge)」と記す。)を演算する。
ハイブリット制御装置81について以下に詳述する。ハイブリット制御装置81は、図示しない車両に備えられたアクセルポジションセンサから得られたアクセル開度、シフトポジションセンサから得られたシフト位置、及び車速センサから得られた車速情報Spd等から運転者が必要とする駆動要求パワーPusを算出する。例えば、シフト位置がDレンジであれば図3のようなマップ情報から駆動要求トルクTusを算出し、(式1)により駆動要求パワーを算出する。
(式1) Pus=Tus×Spd
また、バッテリ制御装置85が出力したSOCを基に設定されたマップ情報から電池が要求する電池要求パワーPbtを算出する。例えば、図4のようなマップ情報から電池要求パワーPbtを算出する。図4は、SOCを60%で制御するようにしたマップで、SOCが60%より大きい値のときは電池から電力を放電するように負の値とし、SOCが60%より小さな値のときは電池を充電するように正の値とするマップとなっている。
【0024】
また、(式2)より車両要求パワーPvsを算出する。
(式2) Pvs=Pus+Pbt
この車両要求パワーPvsと予め設定されたエンジン始動判定値Pestとを比較して、車両要求パワーPvsが大きければエンジンを始動させ、小さければエンジン2を停止して駆動モータ11のみで走行するようハイブリット車両1を制御する。尚、エンジン始動判定値は図5のように車速が高くなれば低くなるように予め設定したマップである。
【0025】
つまり、家庭用コンセント12で高圧バッテリ3を充電しておけば、電池要求パワーPbtが負の値に大きくなり、結果的に車両要求パワーPvsが小さくなるため、エンジンを始動させずに、駆動モータ11のみで走行可能となり、エンジン2の使用頻度が少なくなる。
【0026】
次に、こうして構成された実施例のハイブリット車1のエンジン始動動作のフローチャートを図6に示す。
【0027】
ステップS1でイグニッションスイッチがOFFからONに切り換わったかどうかチェックする。YESであれば、ステップS2で前回エンジン始動時のエンジン状態を読み込む。NOであればルーチンを終了する。尚、ステップS2の前回エンジン始動時のエンジン状態とは、ステップS8で記憶したエンジン状態である。
【0028】
ステップS3では、アクセル開度、車速、シフト位置、電池電圧値、電池電流値などの車両情報を取り込む。
【0029】
ステップS4では、ステップS3で取り込んだ車両情報をもとに上段で記載した駆動要求パワーPus,電池要求パワーPbt、エンジン始動判定値Pest、車両要求パワーPvsを算出する。
【0030】
ステップS5では、S2で読み込んだ情報をもとに、S4で算出したエンジン始動判定値Pestに補正処理を実施する。尚、補正処理の詳細については後段で説明する。
ステップS6では、車両要求パワーPvsが補正処理後のエンジン始動判定値Pest以上かをチェックする。YESであれば、ステップS7でエンジンを始動し、ステップS8でエンジン状態の検出およびエンジン状態の記憶を実施する。NOであれば、ステップS9でエンジンを停止する。尚、ステップS8のエンジン状態の検出およびエンジン状態の記憶処理については、後段で詳細に説明する。
【0031】
ステップS10では、S8で検出したエンジン状態がエンジン異常判定閾値と比較して異常であれば、運転者にランプ等で報知する。
ステップS11では、イグニッションスイッチがOFFになったかどうかを確認し、YESであれば処理を終了し、NOであればステップS3に戻る。
【0032】
次に、ステップS8とステップS5の処理について詳細に説明する。ステップS8とステップS5の第1の実施形態として、図7に示すようにエンジンのクランキングに要する時間を記憶し、図11に示すようにクランキング時間によってエンジン始動判定値の補正係数を算出する。クランキング時間が長いほどエンジンの始動判定補正係数を小さな値に設定すれば効果的である。すなわち、スタータモータの経時劣化等によって、前回のエンジン始動時にエンジンが始動しにくい状態を検出していた場合、今回の走行時は、エンジンを始動させ易くし、早期にエンジンの異常を検出し、運転者に通知することができる。そうすることにより、長距離走行で電池容量がなくなり、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジンが異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。このエンジン始動判定補正係数を0倍に設定しておけば、車両要求パワーによらず、直ちにエンジンを始動させることもできる。
【0033】
ステップS8とステップS5の第2の実施形態として、図8に示すように失火検出回数を記憶し、図12に示すように失火検出回数によってエンジン始動判定値の補正係数を算出する。失火検出回数が多いほどエンジンの始動判定補正係数を小さな値に設定すれば効果的である。すなわち、点火プラグ等の異常によって、前回のエンジン始動時にエンジンが始動しにくい状態を検出していた場合、今回の車両走行は、エンジンを始動させ易くし、早期にエンジン系統の異常を検出し、運転者に通知することができる。そうすることにより、長距離走行で電池容量がなくなり、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジン系統が異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。このエンジン始動判定補正係数を0倍に設定しておけば、車両要求パワーによらず、直ちにエンジンを始動させることもできる。
【0034】
ステップS8とステップS5の第3の実施形態として、図9に示すようにスロットルデポジット異常を検出した場合、スロットルデポジット異常カウンタをインクリメントし記憶させ、図12に示すように前記スロットルデポジットカウンタによってエンジン始動判定値の補正係数を算出する。スロットルデポジットカウンタが大きいほどエンジンの始動判定補正係数を小さな値に設定すれば効果的である。すなわち、前回のエンジン始動時にスロットル経路にデポジットが堆積してエンジンが始動しにくい状態を検出していた場合、今回の走行時は、エンジンを始動させ易くし、早期にエンジン系統の異常を検出し、運転者に通知することができる。そうすることにより、長距離走行で電池容量がなくなり、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジン系統が異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。このエンジン始動判定補正係数を0倍に設定しておけば、車両要求パワーによらず、直ちにエンジンを始動させることもできる。
【0035】
ステップS8とステップS5の第4の実施形態として、図10に示すように燃料フィードバック制御量が所定値以上の場合、燃料系異常として燃料系異常カウンタをインクリメントし記憶させ、図13に示すように前記燃料系異常カウンタによってエンジン始動判定値の補正係数を算出する。燃料系異常カウンタが大きいほどエンジンの始動判定補正係数を小さな値に設定すれば効果的である。すなわち、前回のエンジン始動時に燃料系統(インジェクタ、燃料ポンプなど)に異常が発生してエンジンが始動しにくい状態を検出していた場合、今回の走行時は、エンジンを始動させ易くし、早期にエンジン系統の異常を検出し、運転者に通知することができる。そうすることにより、長距離走行で電池容量がなくなり、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジン系統が異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。このエンジン始動判定補正係数を0倍に設定しておけば、車両要求パワーによらず、直ちにエンジンを始動させることもできる。
【0036】
また、別の実施形態を図15に示す。図6と同様な個所に関しては説明を省略する。
【0037】
ステップS23でイグニッションスイッチがOFFからONになったときに、ステップS22で読み込んだトリップ回数をインクリメントする。また、エンジンが始動するとステップS29でトリップ回数をクリア(0にセット)する。このようにして、エンジンを連続して始動していないトリップ数を検出する。また、図16に示すように連続してエンジンを始動していないトリップ回数によってステップS26のエンジン始動判定値の補正係数を算出する。このエンジン始動判定補正係数を0倍に設定しておけば、車両要求パワーによらず、直ちにエンジンを始動させることもできる。すなわち、エンジンを始動させていない状況が長く続いた場合においても、定期的にエンジンのチェックができるので、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジンが異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。
【0038】
また、別の実施形態を図18に示す。図6と同様な個所に関しては説明を省略する。
【0039】
ステップS42でイグニッションスイッチがOFFの間に制御装置81への電源供給の遮断履歴もしくはボンネットの開履歴をチェックし、YESであればSステップ47に進み、エンジンを始動させる。すなわち、エンジンが長期間放置された可能性のある場合やエンジンの部品の取り替えを行った可能性があることを検知した場合、エンジンを直ぐに始動させる。これにより、エンジンのチェックが素早くできるので、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジンが異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。
【0040】
また、別の実施形態を図19に示す。図6と同様な個所に関しては説明を省略する。
【0041】
ステップS71でエンジン停止カウンタをインクリメントし、ステップS68でエンジン停止カウンタをクリアする構成とする。すなわち、長期間エンジンを停止した状態で運転していることを検知した場合、図17のエンジン停止時間によってステップS65でエンジン始動判定値を補正する。これにより、エンジンのチェックが素早くできるので、駆動モータ走行からエンジンを使用して走行するモードに移行した場合にエンジン系統が異常で走行不能に陥る危険を回避することができる。また、図示していないが、イグニッションスイッチがOFFの間もエンジンは始動することがないので、イグニッションスイッチがOFFの間もエンジン停止時間としてカウントする構成とすれば、更に効果的である。
【0042】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリット車の構成の概略図を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施例であるエンジンの構成の概略図を示す構成図である。
【図3】駆動要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図4】電池要求パワー設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】エンジン始動判定マップの一例を示す説明図である。
【図6】本発明のエンジン始動方法の一例を示すフローチャートである。
【図7】エンジン系統の状態検出の一例を示すフローチャートである。
【図8】エンジン系統の状態検出の一例を示すフローチャートである。
【図9】エンジン系統の状態検出の一例を示すフローチャートである。
【図10】エンジン系統の状態検出の一例を示すフローチャートである。
【図11】エンジン始動判定値を補正する係数の一例を示す説明図である。
【図12】エンジン始動判定値を補正する係数の一例を示す説明図である。
【図13】エンジン始動判定値を補正する係数の一例を示す説明図である。
【図14】エンジン始動判定値を補正する係数の一例を示す説明図である。
【図15】本発明のエンジン始動方法の一例を示すフローチャートである。
【図16】エンジン始動判定値を補正する係数の一例を示す説明図である。
【図17】エンジン始動判定値を補正する係数の一例を示す説明図である。
【図18】本発明のエンジン始動方法の一例を示すフローチャートである。
【図19】本発明のエンジン始動方法の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1:ハイブリット車
2:エンジン
3:高圧バッテリ
4:インバータ
5:駆動輪
6:遊星歯車
7:プロペラ軸
8:電子制御装置
9:充電器
10:モータジェネレータ(発電機)
11:モータジェネレータ(駆動用モータ)
12:家庭用コンセント
13:リダクションギヤ
14:デファレンシャルギヤ
15:電圧測定部
16:電流測定部
81:ハイブリット制御装置
82:ボデー制御装置
83:エンジン制御装置
84:モータ制御装置
85:バッテリ制御装置
20:内燃部
21:吸気管
22:エアフィルタ
23:エアフロメータ
24:スロットルバルブ
25:フュエルインジェクション
26:排気通路
27:触媒
28:酸素濃度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、
少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、
エンジン始動中のエンジン状態を検出するエンジン状態検出手段とを備え、
前記エンジン始動判定手段は、エンジン状態検出手段のエンジン状態に応じて、前記エンジン始動判定値を可変にすることを特徴とするハイブリット車の制御装置。
【請求項2】
前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段が排気酸素センサまたは空燃比センサからの信号に基づいて燃料供給量をフィードバック制御する空燃比制御装置のフィードバック量が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリット車の制御装置。
【請求項3】
前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段がスロットルのデポジット量が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリット車の制御装置。
【請求項4】
前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段がエンジン始動時のクランキング時間が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリット車の制御装置。
【請求項5】
前記エンジン始動判定手段は、前記エンジン状態検出手段がエンジンの失火回数が所定値以上であると検出した場合に始動判定値を小さくすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリット車の制御装置。
【請求項6】
エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、
少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、
連続してエンジンを始動せずに走行したトリップ回数をカウントするカウント手段とを備え、
前記エンジン始動判定手段は、前記カウント手段によるカウント回数が所定回数以上であると検出した場合に始動判定値を小さくすることを特徴とするハイブリット車の制御装置。
【請求項7】
エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、
少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、
前記ハイブリット車を制御する制御装置への電源供給手段が遮断されたことを検出する検出手段を備え、
前記エンジン始動判定手段は、前記検出手段により電源供給手段が遮断されたことを検出した場合、前記エンジン始動判定値に関わらず、エンジンを始動させることを特徴とするハイブリット車の制御装置。
【請求項8】
エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、
少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、
ボンネットの開閉を検出するボンネット開閉手段を備え、
前記エンジン始動判定手段は、イグニッションスイッチがOFFからONに切り換わった場合に、前記ボンネット開閉手段によりイグニッションスイッチがOFF時にボンネットが開いたことを検出している場合、前記エンジン始動判定値に関わらず、エンジンを始動させることを特徴とするハイブリット車の制御装置。
【請求項9】
エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御装置であって、
少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定手段と、
エンジン停止時間を計測する計測手段とを備え、
前記エンジン始動判定手段は、前記計測手段が所定値以上の場合に小さくすることを特徴とするハイブリット車の制御装置。
【請求項10】
エンジンによる動力と電動機による動力による走行が可能なハイブリッド車の制御方法であって、
少なくともアクセル開度およびシフト位置および車速から決定される駆動要求パワーと、少なくとも電池の残存容量から決定される電池要求パワーとから車両要求パワーを算出し、車両要求パワーが所定のエンジン始動判定値を超える場合にエンジンを始動させるエンジン始動判定ステップと、
エンジン始動中のエンジン状態を検出するエンジン状態検出ステップとを備え、
前記エンジン始動判定ステップは、エンジン状態検出ステップの状態に応じて、前記エンジン始動判定値を可変にすることを特徴とするハイブリット車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−52610(P2010−52610A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220740(P2008−220740)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】