説明

ハイブリッド型磁気軸受

【課題】隣り合うステータコアの永久磁石を共有化することでバイアス磁束を強化するとともに、小型化を実現するハイブリッド型磁気軸受を提供する。
【解決手段】複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを、支持対象物を挟んで径方向に対向するように配設し、軸受コアに電磁石用コイルを巻着するとともに、軸受コアを挟んで配設する永久磁石の磁極を同一に配設するハイブリッド型磁気軸受である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気力によって支持対象物を非接触で支持するハイブリッド型磁気軸受の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転体を非接触で支持する磁気軸受の技術発展に伴って、磁気軸受が各種軸受に利用されている。磁気軸受として電磁石を使用する場合、支持対象物(ロータなど)を浮上させるために大きな電流を必要とするため消費電力が大きくなる。そのため、少ない電流で磁気力を大きくするために、永久磁石のバイアス磁束を利用したハイブリッド型磁気軸受が使用されている。
【0003】
ハイブリッド型磁気軸受の基本構成は、支持対象物の回転軸方向に隔てて配置された2つのラジアル磁気軸受の間に軸方向に着磁された永久磁石を挟み、一方のラジアル軸受をN極にする。
【0004】
また、他方のラジアル軸受をS極にバイアス磁化する。このようにして発生したバイアス磁束を励磁コイルによってラジアル方向の一方では強め、他方では弱めることによってラジアル吸引力を制御するものである。
【0005】
また、このようなハイブリッド型磁気軸受は、例えば人工心臓ポンプ等に利用する試みが盛んになり小型化が要求されている。
特許文献1によれば、円周上の外面または内面に多数の突極を持つロータと、このロータの外側または内側に対向する突極と上下に案内用の突極を持ったステータコアを2つで1組とし、この間に永久磁石を挟んでバイアス磁束を与え、上下の突極に巻かれた位置制御用のコイルによってロータの磁気浮上制御を行い、ロータの外面または内面に対向した突極に巻かれた駆動用のコイルがロータに回転トルクを与えるマルチポール磁気浮上回転方法およびその装置により小型化を行う提案がされている。
【特許文献1】特開2001−224154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では各ステータコアに設けられる永久磁石がステータヨーク間に設けれ、隣り合うステータコア間にある程度の間隔を必要とするため、小型化を実現することが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は上記のような実情に鑑みてなされたものであり、隣り合うステータコアの永久磁石を共有化することでバイアス磁束を強化するとともに、小型化を実現するハイブリッド型磁気軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様のひとつである複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを、前記支持対象物を挟んで径方向に対向するように配設し、前記軸受コアに電磁石用コイルを巻着するとともに、前記軸受コアを挟んで配設する前記永久磁石の磁極を同一に配設する構成とする。
【0009】
好ましくは、前記電磁石用コイルは、前記永久磁石が発生するバイアス磁束と同方向または逆方向に制御磁束を発生し、前記支持対象物の位置を制御してもよい。
本発明の他の態様のある複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアの前記第1の突極と前記第2の突極の間に第3の突極を設け、前記支持対象物を挟んで径方向に対向するように配設し、前記第3の突極と前記軸受コア本体部分に電磁石用コイルを巻着するとともに、前記軸受コアを挟んで配設する前記永久磁石の磁極を同一に配設する構成とする。
【0010】
好ましくは、前記電磁石用コイルは、前記永久磁石が発生するバイアス磁束と同方向または逆方向に制御磁束を発生し、前記支持対象物の位置を制御を制御してもよい。
本発明の他の態様の複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを対向するように配設し、前記軸受コアに電磁石用コイルを巻着するとともに、前記軸受コアを挟んで配設する前記永久磁石の磁極を同一に配設する構成である。
【0011】
好ましくは、支持対象物をステータの外側に配置するインナーステータであってもよい。
また、複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを対向するように配設し、前記軸受コアに電磁石用コイルを巻着し、前記軸受コアの両端に前記電磁石用コイルを挟み対向して前記永久磁石を配置し、前記永久磁石の磁極を前記軸受コアを挟んで同一に配設する構成である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、バイアス磁束を強化するとともに小型化することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細を説明する。
(実施例1)
本発明であるハイブリッド型磁気軸受は、4つの磁気軸受を使いプッシュプル方式により支持対象物(ロータなどの磁気支持対象)を浮上制御するものである。
【0014】
図1は、本発明である2突極形のハイブリッド型磁気軸受の構造を示す正面上側からの斜視図である。図1に示す本発明のハイブリッド型磁気軸受は、ステータ(軸受コア1と永久磁石から構成)、支持対象物2から構成される。図1に示す軸受コア1は積層板を上下に対向する突極3を設け略C字型に形成する。軸受コア1は支持対象物2を挟んで軸方向に対向する第1の突極3と第2の突極3を両端部に配設し、支持対象物2を挟んで径方向に対向するように配設する。
【0015】
この軸受コア1から延長された突極3を磁気支持方向に設ける。突極3間にバイアス磁束発生用の第1の磁極(N極)、第2の磁極(S極)を有する永久磁石4を配置する。つまり、軸受コア1に電磁石用コイルを巻着するとともに、軸受コア1を挟んで配設する永久磁石4の磁極を同一に配設する。
【0016】
電磁石用コイル6は、軸受コア1に巻回される。電磁石用コイル6は永久磁石4の配設された軸受コア1の両端に分割または直列に構成する。どちらか他端に構成されてもよい

【0017】
支持対象物2は対向し合う突極3の間に配置される。ここで、電磁石用コイル6が分割または直列に構成される場合、電磁石コイル6と永久磁石4が本配置を取ることにより、永久磁石4を流れる電磁石発生磁束がほとんどなくなり、大きな電磁石発生磁束を得ることが可能となるとともに、永久磁石の減磁等の問題を避けることが可能となる。
【0018】
なお、上記説明した永久磁石4の材質は、例えば、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリューム−コバルト、サマリューム−鉄−窒素などの(希土類磁石)を使用する。ステータ1や支持対象物2等の材質は、磁性軟鉄、磁性ステンレス、圧粉磁心などの(軟磁性材料)を使用する。なお、上記説明した材料に限定されるものではない。
【0019】
次に、ハイブリッド型磁気軸受に発生する磁束を示した図である。図2は説明のため4分の1モデルを用いている。ここで、突極は3a、3bは第1の突極、突極3c、3dは第2の突極である。
【0020】
永久磁石4により、破線の方向へバイアス磁束(b−1、b−2)が発生する。図2においてバイアス磁束(b−1、b−2)は、第1の磁極から流れ出して第2の磁極に流れ込む方向に発生する。バイアス磁束(b−1)は、軸受コア1(図2で示す1a)のコア本体を介して突極3(図2で示す3a)側の端部(下向き)より支持対象物2に発生する。そして、バイアス磁束(b−1)は、支持対象物2から突極3(図2で示す3b)側の端部(下向き)より、軸受コア1(図2で示す1b)のコア本体を介して第2の磁極側に発生する。また、バイアス磁束(b−2)は、軸受コア1(図2で示す1a)のコア本体を介して突極3(図2で示す3c)側の端部(上向き)より支持対象物2に発生する。そして、バイアス磁束(b−2)は、支持対象物2から突極3(図2で示す3d)側の端部(上向き)より、軸受コア1(図2で示す1b)のコア本体を介して第2の磁極側に発生する。
【0021】
この状態で電磁石用コイル6に電流を流すと、実線に示す方向(または逆の方向)に制御磁束(c−1、c−2)が発生する。
制御磁束(c−1)は、軸受コア1(図2で示す1a)のコア本体を介して突極3(図2で示す3a)側の端部(下向き)より支持対象物2の上端部に発生する。そして、支持対象物2の上端部より下端部に抜け、突極3(図2で示す3c)側の端部(上向き)より、軸受コア1に発生する。制御磁束(c−2)は、軸受コア1(図2で示す1b)のコア本体を介して突極3(図2で示す3b)側の端部(下向き)より支持対象物2の上端部に発生する。そして、支持対象物2の上端部より下端部に抜け、突極3(図2で示す3d)側の端部(上向き)より、軸受コア1に発生する。
【0022】
このとき、図2で示す突極3aと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−1)がバイアス磁束(b−1)と同じ方向に発生する。その結果、磁束密度が増加し、上方向への磁気吸引力が発生する。同様に、図2で示す突極3bと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−2)がバイアス磁束(b−1)と同じ方向に発生する。その結果、磁束密度が増加し、上方向への磁気吸引力が発生する。
【0023】
一方、図2で示す突極3cと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−1)がバイアス磁束(b−2)と反対方向に発生する。その結果、磁束が打ち消し合い磁束密度が減少する。
【0024】
同様に、図2で示す突極3dと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−2)がバイアス磁束(b−2)と反対方向に発生する。その結果、磁束が打ち消し合い磁束密度が
減少する。
【0025】
このように構成することで、支持対象物2の一方端で磁束を強め、他端で磁束を弱め、軸方向の磁気力を発生する。
なお、逆に電磁石に図2と逆方向の制御磁束を発生させると上記説明と逆方向への磁気吸引力が発生する。
【0026】
また、図1では4つの軸受コア1で実現しているが、最低2個から偶数個の軸受コア1で実現することが可能である。
また、各軸受コアを個別に制御することで軸方向の制御のみならず、径方向軸周りの傾きの制御も可能となる。
(浮上制御方法の説明)
上記説明したように磁気軸受の中央に設置してある永久磁石4によって、図2の破線のようにバイアス磁束が流れている。ここで、支持対象物2が図の下方向にずれたときには磁気軸受に設置される電磁石用コイル6によって図2の実線のように磁束を流す。これにより、図2の上のエアギャップの磁束を強め、下側のエアギャップの磁束を弱める。したがって、支持対象物には図の上向きの吸引力が加わり支持対象物を中心に戻すことが可能となる。ラジアル方向の位置は受動安定性で支持する。
【0027】
本磁気軸受の電気等価回路を図3に示す。VeとVpはそれぞれ電磁石用コイル6と永久磁石4による起磁力、Rはギャップにおける磁気抵抗、kRは永久磁石部の磁気抵抗を表す。ただし、本モデルでは軸受コア1の磁気抵抗については考慮していない。
【0028】
制御磁束により、片方のギャップでは磁束が増加し、反対のギャップでは磁束が減少する。制御磁束により磁束が増加する側の磁束φpull(Wb)は数式1で表すことができる。
【0029】
【数1】

【0030】
磁束が減少する側の磁束φpush(Wb)は数式2で表すことができる。
【0031】
【数2】

【0032】
磁束が増加する側の1箇所のギャップで発生する軸方向の吸引力Fpull(n)は数式3で表すことができる。
【0033】
【数3】

【0034】
ここで、μ(H/m)は真空中の透磁率で4π×10−7(H/m)、Ag(m)はポールと支持対象物2の断面積を示す。同様に、磁束が減少する側の1箇所のギャップで発生する軸方向の吸引力Fpush(N)は数式4で表すことができる。
【0035】
【数4】

【0036】
ギャップはそれぞれ4箇所あるので、支持対象物2に働く吸引力F(N)は数式5で表すことができる。
【0037】
【数5】

【0038】
ここで、永久磁石4の動作点は単純に磁気回路の構造によって決まると仮定すると、永久磁石4の磁界強度Hmは数式6になる。
【0039】
【数6】

【0040】
ここで、Br(T)は磁石の残留磁束密度、Hc(A/m)は保磁力、Am(m)は軸受コア1の断面積(すなわち永久磁石の断面積と同じ)、g(m)はエアギャップの長さ、lm(m)は永久磁石4の長さを表す。
【0041】
支持対象物2に働く吸引力F(N)は数式6となり、電磁石用コイル6の巻数N(turns)、電磁石用コイル6に流す制御電流I(A)、を用いて数式5を書き換えると数式7が導くことができる。
【0042】
【数7】

【0043】
(浮上制御回路)
図4、5に本磁気軸受の制御システムを示す。図4に示すセンサ7a〜7cを永久磁石以外の部分の電磁石間に設置する。センサ7a〜7cは、支持対象物2の変位により永久磁石4によるバイアス磁束が変化する量を検出し磁束の変化量より変位と傾きを推定する。
【0044】
ここで、上記センサは例えば渦電流センサを用い位置センサとして使用している。
磁気軸受の各コイルにアンプを介して電流を流した。アンプはパワーアンプを使用し、入力電流に比例した電流を供給する。制御にはディジタルPID制御を用いる。また、センサの信号はA/Dコンバータ51を介して、磁気軸受の各コイルに流す電流値を計算し、D/Aコンバータ513を介してアンプに出力する。
【0045】
アキシャル方向の位置と傾きの制御は、まず、A/D変換された3つのセンサからの出
力電圧を距離ZX、ZYに変換する。次に、その距離からアキシャル方向の位置Zと傾きθX、θYを求め、目標差をPIDコントローラに入力することによって、それぞれの制御のためにコイルに流す電流値を決定する。次に、アキシャル方向の位置制御の電流値Izと傾き制御の電流値IθX、IθYを一方では足し、もう一方では引くことによって4つの電磁石用コイル6に流す電流値を決定する。
【0046】
本実施例では、変位量はA/Dコンバータ51等でディジタル信号に変換され、センサ7aのセンサ出力1はZx1、センサ7bのセンサ出力2はZy1、センサ7cのセンサ出力3はZx2に変換される。その後、軸方向コントローラ51、Y方向コントローラ52、X方向コントローラ53に受け渡される。
【0047】
軸方向コントローラ53ではA/D変換して得られたZx1とZx2を入力し軸方向の移動量を検出し、Zy2算出部52ではZx1、Zx2、Zy1によりZy2を算出する。Y方向コントローラ54ではZx1とZx2を入力してY軸周りの傾き角度算する。X方向コントローラ55ではZy1とZy2を入力してX軸周りの傾き角度を算出する。
【0048】
次に、ギャップの目標値と軸方向コントローラ54の出力を加算器514に入力し、その出力をPIDコントローラ56に入力し制御電流値Izを算出する。また、Y方向コントローラ54の出力をPID57に入力し制御電流値Iθyを算出する。X方向コントローラ55の出力をPID58に入力し制御電流値Iθxを算出する。
【0049】
この制御電流値Iz、Iθy、Iθxを各加算器59〜512に入力し計算後、各出力をD/Aコンバータ513によりアナログ変換し電磁石用コイル6に供給される電流値(各軸受コア1に巻かれている電磁石用コイル6へ供給する電流値コイルX1、コイルX2、コイルY1、コイルY2)を算出する。
【0050】
なお、センサの数は軸方向の位置のみ制御する場合には図4の中央部に1つあればよい。傾きを制御する場合に4つのセンサを用いてもよい。
(変形例)
図6に示す永久磁石の形状は、曲面を有する形状ではなく略平面となるように形成した図である。このように配置することによりコストを下げることができ磁気軸受の小型化ができる。
(実施例2)
図7は、本発明である3突極形のハイブリッド型磁気軸受の構造を示す正面上側からの斜視図である。図7に示す本発明のハイブリッド型磁気軸受は、ステータ(軸受コア8と永久磁石から構成)、支持対象物2から構成される。ただし、図7では説明のため図1に示した永久磁石は図示していない。実際には永久磁石4を図1に示したように軸受コア8間に配設する。
【0051】
図7に示した磁気軸受は、実施例1に示した支持対象物2(磁気支持対象物)に対して軸受コア1の両端に設けた2突極で支持した2突極形の軸受コア1の中央部に支持対象物2の径方向にもう一つ突極10(第3の突極)を設けた磁気軸受8を用いる。そして突極10に電磁石用コイル9を設ける構造である。このような3突極形では、軸方向の磁気支持方式は2突極形と同じである。支持対象物2の径方向位置の制御を径方向の突極10に巻かれた電磁石コイル9で行うことが可能となる。
【0052】
図8に支持対象物2の径方向位置のバイアス磁束と制御磁束を示す。図8は図9に示すA−A’断面の正面図である。
バイアス磁束(破線)Bpは、第2の磁極から第1の磁極の方向に発生し、さらに、バイアス磁束の一方は、軸受コア8の本体上側を介して下向きの突極の端部より支持対象物
2を介し発生する(Bp1)。また、軸受コア8の他方は本体下側を介して上向きの突極の端部より支持対象物2を介し発生する(Bp2)。また、突極10には支持対象物方向にバイアス磁束が発生する(Bp3)。これらのバイアス磁束Bp1、Bp2、Bp3は支持対象物2で合成され、支持対象物2に磁束が発生する。このように各軸受コア8と支持対象物2にはバイアス磁束が同じように発生する。
【0053】
制御磁束(実線)Beは、電磁石用コイル9に電流を流すことにより発生する。突極10から支持対象物2を介し軸受コア8の下向きの突極の端部から軸受コア8本体を介して突極10に発生する。また、突極10から支持対象物2を介し軸受コア8の上向きの突極の端部から軸受コア8本体を介して突極10に発生する。
【0054】
向い合う軸受コア8には、電磁石用コイル9に反対の電流を流すことにより、軸受コア8の下向きの突極の端部から支持対象物2を介し突極10を通り軸受コア8本体を介して発生する。また、軸受コア8の上向きの突極の端部から支持対象物2を突極10を通り軸受コア8本体を介して発生する。
【0055】
このようにエアギャップ間に発生するバイアス磁束を制御磁束により制御することで径方向の制御が可能になる。
このとき数式8に示すように上側方向の吸引力F1と下側方向の吸引力F2は、バイアス磁束(破線)Bp、制御磁束(実線)Be、軸受コア8の上側と下側の端部断面積A、真空時透磁率μ0によりを示すことができる。
【0056】
【数8】

【0057】
上記によりF1=F2であれば上下の吸引力に差はない。そのため、突極10に巻かれた電磁石コイル9により、軸方向制御に影響を与えることなく径方向の指示対象物2の位置制御することができる。
(浮上制御回路)
図9、10に本磁気軸受の制御システムを示す。図9に示すセンサ7a〜7cを永久磁石以外の部分の電磁石間に設置する。センサ7a〜7cは、支持対象物2の変位により永久磁石4によるバイアス磁束が変化する量を検出し磁束の変化量より変位を推定する。さらにセンサ9aと9bを設置することで、上記径方向の制御を行う。
【0058】
変位量はA/Dコンバータ101等でディジタル信号に変換され、センサ9aのセンサ出力4、センサ9bのセンサ出力5は、X軸方向移動量コントローラ102とY軸方向移動量コントローラ103に受け渡される。
【0059】
X軸方向移動量コントローラ102により移動量が算出され、加算器109によりギャップの目標値とX軸方向移動量コントローラ102の出力を加算し、その出力をPIDコントローラ104に入力し制御電流値を算出する。
【0060】
Y軸方向移動量コントローラ103により移動量が算出され、加算器110によりギャップの目標値とY軸方向移動量コントローラ102の出力を加算し、その出力をPIDコントローラ105に入力し制御電流値を算出する。
【0061】
この制御電流値を反転するために−1を乗算器106、107で計算した後、出力をD/Aコンバータ108によりアナログ変換し電磁石用コイル9に供給される電流値(コイル+X、コイル−X、コイル+Y、コイル−Y)を算出する。
【0062】
本例ではコイル6に供給される電流値(コイルX1、コイルX2、コイルY1、コイルY2)の算出は実施例1と同様であるため省略する。
(実施例3)
図11は、本発明であるステータ(軸受コア1と永久磁石4から構成)の全体を支持対象物2で被う形のハイブリッド型磁気軸受の構造を示す正面上側からの斜視図である。
【0063】
図11に示す軸受コア1は、棒状に形成し、磁気支持方向である軸方向に支持対象物2に対向して第1の突極3と第2の突極3を両端部に配設する。円周状に遇数個の軸受コア1が配置される。ここで、軸受コア1の形状が棒状としたが平板や円柱などであってもよい。なお、図11には1a、1bのみ符号が付されているが、図11は軸受コアが4本の構成である。
【0064】
突極3間にバイアス磁束発生用の第1の磁極(N極)、第2の磁極(S極)を有する永久磁石4を配置する。
電磁石用コイル6は軸受コア1に巻回される。電磁石用コイル6は永久磁石4の配設された軸受コア1の両端に分割または直列に構成する。また、軸受コア1のどちらか一方の端に構成してもよい。
【0065】
軸受コア1に電磁石用コイル6を巻着するとともに、軸受コア1を挟んで永久磁石4の磁極を同一に配設する。
支持対象物2はステータ(軸受コア1と永久磁石4、電磁石用コイル6から構成)を被うように配置される(インナーステータ)。
【0066】
なお、上記説明した永久磁石4の材質は、例えば、ネオジウム−鉄−ボロン、サマリューム−コバルト、サマリューム−鉄−窒素などの(希土類磁石)を使用する。軸受コア1や支持対象物2の材質は、磁性軟鉄、磁性ステンレス、圧粉磁心などの(軟磁性材料)を使用する。なお、永久磁石4および軸受コア1の材質は、上記説明した材料に限定されるものではない。
【0067】
また、図11では、4つの軸受コア1で実現しているが、最低2個から偶数個の軸受コア1で実現することが可能である。
(磁路説明)
永久磁石4により破線で示した方向にバイアス磁束(b−1、b−2)が発生する。バイアス磁束(b−1、b−2)は、第2の磁極から第1の磁極の方向に発生し、バイアス磁束の一方(b−1)は、軸受コア1のコア本体を介して突極3a側の端部より支持対象物2に流れ込み、突極3b側の端部から軸受コア1のコア本体を介して第2の磁極に戻る。また、バイアス磁束のもう一方(b−2)は、軸受コア1のコア本体を介して突極3c側の端部より支持対象物2に流れ込み、突極3d側の端部から軸受コア1のコア本体を介して第2の磁極に戻る。
【0068】
軸受コア1aの制御磁束(c−1)は、軸受コア1a上の電磁石用コイル6より発生し、突極3a側の端部より支持対象物2に流れ込み、支持対象物2側面を通り、突極3c側の端部から軸受コア1aに戻る経路と軸受コア1bを通り軸受コア1aに戻る経路となる。
【0069】
軸受コア1bの制御磁束(c−2)は、軸受コア1b上の電磁石用コイル6より発生し
、突極3b側の端部より支持対象物2に流れ込み、支持対象物2側面を通り、突極3d側の端部から軸受コア1bに戻る経路と軸受コア1aを通り軸受コア1bに戻る経路となる。
【0070】
他の磁路については説明を省略するが上記と同じように制御磁束が発生する。
なお、軸受コア1a、1bに基づいた磁路以外については説明を省略するが、他の磁路についても上記と同じように発生する。
(浮上制御説明)
突極3aと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−1)をバイアス磁束(b−1)と同じ方向に発生させる。その結果、磁束密度が増加し、上方向への磁気吸引力が発生する。同様に突極3bと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−2)をバイアス磁束(b−1)と同じ方向に発生させる。その結果、磁束密度が増加し、上方向への磁気吸引力が発生する。一方、突極3cと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−1)はバイアス磁束(b−2)と反対方向に発生しており、磁束が打ち消し合い磁束密度が減少する。同様に突極3dと支持対象物2のギャップでは、制御磁束(c−2)が打ち消しあい磁束密度が減少する。このようにして、支持対象物2の一方端で磁束を強め、他端で磁束を弱め、軸方向の磁気力を発生する。
【0071】
ここで、支持対象物2が図11の下方向にずれたときには磁気軸受に設置される電磁石用コイル6によって図11の実線のように磁束を流す。これにより、図11の上側エアギャップの磁束を強め、下側エアギャップの磁束を弱める。したがって、支持対象物2には図11の上向きの磁気吸引力が加わり支持対象物2を中心に戻すことが可能となる。なお、逆に支持対象物2が図の上方向にずれたときには電磁石に図11と逆方向に制御磁束を発生させると下向きの磁気吸引力が加わり支持対象物2を中心に戻すことが可能となる。また、各軸受コアを個別に制御することで軸方向のみならず、径方向軸周りの傾きの制御も可能となる。ラジアル方向の位置は受動安定性で支持する。
【0072】
なお、軸受コア1a、1bに基づいた浮上制御以外については説明を省略するが、他の浮上制御の上記と同じように制御する。
(変形例)
図12に示す支持対象物2の形状は、実施例3のようにステータの全体を磁性体で被う形状ではなくカゴ形形状としたものである。図12に示すようにステータ形状をすることにより、支持対象物2の軽量化、製作の簡単化、製作コストの削減ができる。また、カゴ形の支持対象物2の材質は、磁性軟鉄、磁性ステンレス、圧粉磁心などの(軟磁性材料)を使用する。ただし、支持対象物2の柱2bは非磁性ステンレス、アルミニウムなどの(非磁性材料)でも良い。なお、支持対象物2の材質は上記説明した材料に限定されるものではない。
【0073】
磁路および浮上制御は図11実施例3と同様である。ただし、図12において柱2bを非磁性材料とした場合、制御磁束(c−1、c−2)は柱2bを通らない。
(変形例)
図13に、実施例1に示したハイブリッド型磁気軸受の変形例を正面上側からの斜視図により示す。
【0074】
図13に示す構造は、実施例1の軸受コア1間の永久磁石4が1つづつ、軸受コア1に電磁石用コイル6が2つづつの形状と異となり、軸受コア1の両端に永久磁石4を配設し、電磁石用コイル6を1つにまとめて軸受コア1を略中央に巻着する。
【0075】
図13に示す形状とすることにより、永久磁石4からのバイアス磁束がより多く支持対象物2と突極3とのギャップに流れ込み、ギャップの磁束密度が増加し、より強力な磁気
吸引力が発生でき、小型化も可能である。この永久磁石4と電磁石用コイル6の配置は実施例3においても可能であり、同様に強力な磁気吸引力が発生可能となり、小型化も可能である。
【0076】
また、本発明は、上記実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1の構造を示す図である。
【図2】実施例1の磁束を示した図である。
【図3】等価回路を示した図である。
【図4】実施例1のセンサ取付け位置を示す図である。
【図5】実施例1の制御回路を示した図である。
【図6】実施例1の変形例を示した図である。
【図7】実施例2の構造を示す図である。(永久磁石は図示されていない)
【図8】実施例2の磁束を示した図である。
【図9】実施例2のセンサ取付け位置を示す図である。
【図10】実施例2の制御回路を示した図である。
【図11】実施例3の構造を示す図である。
【図12】支持対象物がカゴ形形状の構造を示す図である。
【図13】軸受コアの両端に永久磁石を配設し、電磁石用コイルを1つにまとめて軸受コアの略中央に巻着した構造を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1 軸受コア、2 支持対象物、3 突極(第1の突極、第2の突極)
4 永久磁石、6 電磁石用コイル、7 センサ
8 軸受コア、9 電磁石用コイル、10 突極(第3の突極)
51 A/Dコンバータ、52 Zy2算出部
53 軸方向コントローラ、54 Y方向コントローラ、55 X方向コントローラ
56〜58 PIDコントローラ
59〜512、514 加算器
513 D/Aコンバータ
101 A/Dコンバータ
102 X軸方向移動量コントローラ、103 Y軸方向移動量コントローラ
104、105 PIDコントローラ
106、107 乗算器
108 D/Aコンバータ
109、110 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、
前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを、前記支持対象物を挟んで径方向に対向するように配設し、前記軸受コアに電磁石用コイルを巻着するとともに、前記軸受コアを挟んで配設する前記永久磁石の磁極を同一に配設することを特徴とするハイブリッド型磁気軸受。
【請求項2】
前記電磁石用コイルは、前記永久磁石が発生するバイアス磁束と同方向または逆方向に制御磁束を発生し、前記支持対象物の位置を制御することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド型磁気軸受。
【請求項3】
複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、
前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアの前記第1の突極と前記第2の突極の間に第3の突極を設け、前記支持対象物を挟んで径方向に対向するように配設し、前記第3の突極と前記軸受コア本体部分に電磁石用コイルを巻着するとともに、前記軸受コアを挟んで配設する前記永久磁石の磁極を同一に配設することを特徴とするハイブリッド型磁気軸受。
【請求項4】
前記電磁石用コイルは、前記永久磁石が発生するバイアス磁束と同方向または逆方向に制御磁束を発生し、前記支持対象物の位置を制御することを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド型磁気軸受。
【請求項5】
複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、
前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを対向するように配設し、前記軸受コアに電磁石用コイルを巻着するとともに、前記軸受コアを挟んで配設する前記永久磁石の磁極を同一に配設することを特徴とするハイブリッド型磁気軸受。
【請求項6】
支持対象物をステータの外側に配置するインナーステータであることを特徴とする請求項5に記載のハイブリッド型磁気軸受。
【請求項7】
複数の電磁石と永久磁石の磁気力を制御して非接触状態で支持する支持対象物を有するハイブリッド型磁気軸受であって、
前記支持対象物を挟んで軸方向に対向する第1の突極と第2の突極を両端部に配設する軸受コアを対向するように配設し、
前記軸受コアに電磁石用コイルを巻着し、前記軸受コアの両端に前記電磁石用コイルを挟み対向して前記永久磁石を配置し、
前記永久磁石の磁極を前記軸受コアを挟んで同一に配設することを特徴とするハイブリッド型磁気軸受。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−69964(P2008−69964A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208595(P2007−208595)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(503234229)
【出願人】(000127352)株式会社イワキ (23)
【Fターム(参考)】