説明

ハイブリッド自動車用冷却システム

【課題】エンジンが停止している場合に暖房要求が行われる場合において、冷却水循環路内の冷却水の温度を短時間で上昇させ得る技術を提供する。
【解決手段】冷却システムは、冷却水循環路と、ポンプと、ラジエータ経路と、ラジエータと、第1温度センサと、第1切り替え弁と、ECUを備える。ECUは、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度センサが測定する温度が第2設定温度より低いとき(S22でNO)は、インバータの損失が大きくなるようにインバータを制御するとともに、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が増加するようにポンプを制御する(S24)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、ハイブリッド自動車用冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車用冷却システムの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1のハイブリッド自動車用冷却システム(以下、「冷却システム」と呼ぶ場合がある。)は、エンジンを冷却するための冷却水によってモータを駆動するインバータを冷却する。この冷却システムは、冷却水がインバータ及びヒータコアを通過する第1冷却水循環路と、第1冷却水循環路から分岐してエンジンを通過して第1冷却水循環路に戻る第2冷却水循環路を有している。エンジンの動作中に暖房要求が行われる場合、冷却水の一部は第2冷却水経路を流れてエンジンを冷却し、その他の冷却水が第1冷却水循環路を流れてインバータ及びヒータと熱交換を行う。これによって、エンジンとインバータの両者を冷却する。また、エンジン及びインバータの熱によって高温になった冷却水の熱によってヒートコアが加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−182857号公報
【特許文献2】特開2008−230422号公報
【特許文献3】特開2006−103537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のハイブリッド自動車用冷却システムにおいて、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合、冷却水は、停止中のエンジンとの間で熱交換を行えない場合がある。その場合、冷却水はインバータとの間でのみ熱交換を行う。そのため、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合、エンジンの動作中に暖房要求が行われる場合と比較して、冷却水の温度が暖房運転を行うために十分な温度に上昇するまでに長時間を要する場合がある。
【0005】
本明細書は、エンジンを冷却するための冷却水によってインバータを冷却するハイブリッド自動車用冷却システムにおいて、エンジンが停止している場合に暖房要求が行われる際に、冷却水の温度が暖房運転を行うために十分な温度に上昇するまでの時間を短縮し得る技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、ハイブリッド自動車用冷却システムを開示する。このハイブリッド自動車用冷却システムは、冷却水循環路と、ポンプと、ラジエータ経路と、ラジエータと、第1温度測定手段と、第1切り替え手段と、制御手段を備える。冷却水循環路は、内部に冷却水が循環され、エンジンと、モータを駆動するインバータと、車室内を暖房するためのヒータを直列に通過する。ラジエータ経路は、一端が前記ヒータの上流側において前記冷却水循環路と接続され、他端が前記ヒータの下流側において前記冷却水循環路と接続され、前記ヒータをバイパスして冷却水を流す。ラジエータは、ラジエータ経路に配置され、ラジエータ経路を流れる冷却水を冷却する。第1温度測定手段は、冷却水循環路内の冷却水の温度を測定する。第1切り替え手段は、冷却水循環路内の冷却水がラジエータ経路を流れない第1の状態と、冷却水循環路内の冷却水がラジエータ経路を流れる第2の状態とに切り替える。制御手段は、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度測定手段が測定する温度が第1設定温度より低いときは、第1切り替え手段を第1の状態とする一方で、第1温度測定手段が測定する温度が第1設定温度以上であるときに第1切り替え手段を第2の状態とし、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度測定手段が測定する温度が第1設定温度より低く設定された第2設定温度より低いときは、第1温度測定手段が測定する温度が第2設定温度以上であるときと比較して、インバータの損失が大きくなるようにインバータを制御する。
【0007】
上記のハイブリッド自動車用冷却システムでは、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度測定手段が測定する温度が第2設定温度より低いときは、インバータの損失が大きくなる。インバータの損失が大きくなることに伴ってインバータの発熱量は大きくなる。そのため、インバータから冷却水により多くの熱量が伝えられる。その結果、冷却水循環路内の冷却水の温度が暖房運転を行うために十分な温度に上昇するまでの時間を短縮し得る。
【0008】
上記のハイブリッド自動車用冷却システムは、バイパス経路と、第2温度測定手段と、第2切り替え手段と、をさらに備えてもよい。バイパス経路は、一端がエンジンの上流側において冷却水循環路と接続され、他端がエンジンの下流側において冷却水循環路と接続され、エンジンをバイパスして冷却水を流すことが好ましい。第2温度測定手段は、エンジンの温度を測定することが好ましい。第2切り替え手段は、冷却水循環路内の冷却水がバイパス経路を流れない状態と、冷却水循環路内の冷却水がバイパス経路を流れる状態とに切り替えることが好ましい。制御手段は、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、第2温度測定手段が測定する温度が第3設定温度より低いときに、第2切り替え手段を冷却水がバイパス経路を流れる状態とする一方で、第2温度測定手段が測定する温度が第3設定温度以上であるときに第2の切り替え手段を冷却水がバイパス経路を流れない状態とすることが好ましい。
【0009】
上記の構成のハイブリッド自動車用冷却システムでは、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合に、エンジンの温度が第3設定温度より低いときは、冷却水はエンジンを流れずにバイパス経路を流れる。冷却水がバイパス経路を流れる場合は、冷却水がエンジンを流れる場合と比べて、流路抵抗を小さくでき、冷却水循環路を流れる単位時間当りの冷却水の流量を多くすることができる。このため、冷却水からヒータにより多くの熱が伝えられ、適切に暖房を行うことができる。
【0010】
制御手段は、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合以外の場合であって、第1温度測定手段が測定する温度が第1設定温度より低く設定された第4設定温度より低いときは、第1切り替え手段を第1の状態とする一方で、第1温度測定手段が測定する温度が第4設定温度以上であるときに第1切り替え手段を第2の状態としてもよい。この構成によると、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合以外の場合は、冷却水循環路内の冷却水の温度が第1設定温度以上となると冷却水がラジエータを流れるが、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合は、冷却水循環路内の冷却水の温度が第4設定温度より高い第1設定温度以上とならない限り、冷却水はラジエータを流れない。そのため、エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合には、それ以外の場合と比べて、冷却水の温度の低下を抑制することができる。その結果、暖房効率の低下も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例のハイブリッド自動車用冷却システムの構成を示すブロック図。
【図2】ハイブリッド自動車用冷却システムの動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する実施例の技術的特徴を列挙する。
(形態1)ハイブリッド自動車用冷却システムは、冷却水循環路内の冷却水を循環させるポンプをさらに備える。エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度測定手段が測定する温度が第1設定温度以下に設定された第2設定温度より低いときは、第1温度測定手段が測定する温度が第2設定温度以上であるときと比較して、インバータの損失が大きくなるように前記インバータを制御するとともに、冷却水循環路内を流れる冷却水の単位時間当りの流量が多くなるようにポンプを制御する。
(形態2)インバータは、SiCスイッチング素子を備えている。
(形態3)第1切り替え手段は、ラジエータ経路の上流端に配置され、冷却水循環路とラジエータ経路を連通する状態と連通しない状態とに切り替える切り替え弁と、ラジエータ経路の下流端に配置され、冷却水循環路内の冷却水の温度が第1設定温度より低いときは、冷却水循環路とラジエータ経路を連通しない状態とする一方で、冷却水循環路内の冷却水の温度が第1設定温度以上であるときは、冷却水循環路とラジエータ経路を連通する状態とするサーモスタットを有している。サーモスタットは、温度センサと、開閉弁とを備えている。
【実施例】
【0013】
図面を参照して本実施例のハイブリッド自動車用冷却システム(冷却システム)について説明する。本実施例の冷却システムは、エンジン及びモータを共に走行用駆動源として利用するハイブリッド自動車に搭載されている。本実施例に係るハイブリッド自動車では、モータ及びエンジンの駆動状態は自動車の走行状態に応じて制御される。本実施例の冷却システムは、エンジンと、モータに電力を供給するインバータとを冷却するシステムである。図1に示すように、冷却システム2は、冷却水循環路10と、冷却水循環路10に接続されるラジエータ経路30及びバイパス経路60を備える。また、冷却システム2は、冷却システム2の動作を制御するためのECU(Electronic Control Unit)70を備える。
【0014】
冷却水循環路10は、インバータ12、エンジン14、ヒータ16、サーモスタット24、ポンプ26を直列に通過するとともに、排気熱回収器18とEGRクーラ20とを並列に通過する。冷却水循環路10内には、インバータ12及びエンジン14を冷却するための冷却水が循環されている。本実施例では、冷却水には、エチレングリコール系の不凍液が混入された水が用いられている。本実施例では、冷却水循環路10内の冷却水は、インバータ12、エンジン14、ヒータ16、排気熱回収器18及びEGRクーラ20、サーモスタット24、ポンプ26の順で流れる。
【0015】
ラジエータ経路30は、一端がヒータ16と排気熱回収器18とEGRクーラ20の上流側において冷却水循環路10と接続され、他端がヒータ16と排気熱回収器18とEGRクーラ20の下流側において冷却水循環路10と接続されている。ラジエータ経路30は、ヒータ16と排気熱回収器18とEGRクーラ20をバイパスし、ラジエータ32に冷却水を流すための経路である。ラジエータ32は、ラジエータ経路30内を流れる冷却水を冷却する。ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10との接続部分には、第1切り替え弁40が配置されている。また、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10との接続部分には、サーモスタット24が配置されている。
【0016】
バイパス経路60は、一端がエンジン14の上流側において冷却水循環路10と接続され、他端がエンジン14の下流側において冷却水循環路10と接続されている。バイパス経路60は、エンジン14をバイパスして冷却水を流すための経路である。バイパス経路60の上流側端部と冷却水循環路10との接続部分には、第2切り替え弁50が配置されている。また、バイパス経路60の下流側端部と冷却水循環路10との接続部分には、上記の第1切り替え弁40が配置されている。
【0017】
インバータ12は、図示しないモータに対して電力を供給する。インバータ12は、SiCにより形成されたスイッチング素子(以下「SiCスイッチング素子」と呼ぶ)を備えている。SiCスイッチング素子は、従来のSiにより形成されたスイッチング素子(以下「Siスイッチング素子」と呼ぶ)と比べて、より高い温度の下で動作可能である。インバータ12は、冷却水循環路10内を循環する冷却水によって冷却される。
【0018】
エンジン14はいわゆるガソリンエンジンであって、上記のモータとともにハイブリッド自動車の主たる動力源として機能する。インバータ12と同様に、エンジン14も、冷却水循環路10内を循環する冷却水によって冷却される。図1に示すように、エンジン14には、エンジン14の温度を測定するための第2温度センサ52が備えられている。
【0019】
ヒータ16は、暖房要求が行われた場合に車内に温風を供給するための装置であり、冷却水循環路10が通過するヒータコア(図示省略)と、ヒータコアに風を当てて車内に温風を供給するための送風装置(図示省略)を備えている。ヒータコアは、金属の塊であり、冷却水循環路10が貫通している。そのため、ヒータコアは、インバータ12及びエンジン14を通過した後の、インバータ12及びエンジン14の熱によって高温になった冷却水の熱によって加熱される。加熱された状態のヒータコアに対して送風装置によって風が送られることにより、ヒータコアにより加熱された温風が車内に供給される。
【0020】
排気熱回収器18は、作動中のエンジン14で発生した排気ガスの熱を回収し、エンジンの加温に利用するための装置である。排気熱回収器18では、作動中のエンジン14で発生した排気ガスと、冷却水循環路10内を流れる冷却水との間で熱交換が行われる。排気ガスの熱を回収した冷却水は、冷却水循環路10内を循環することによってエンジン14を通過し、エンジン14を加温する。本実施例では、排気熱回収器18は、エンジン14が始動した直後から、冷却水循環路10内の冷却水の温度が所定温度に上昇するまでの間にのみ、排気ガスの熱を回収する。従って、回収した排気ガスの熱を利用して始動直後のエンジン14を暖めることにより、エンジン14の燃費を向上させることができる。
【0021】
なお、本実施例では、冷却水循環路10のうち、排気熱回収器18を通過する部分に制御弁(図示しない)を備えている。制御弁は、冷却水の温度が上記の所定温度まで上昇した後に閉じるように制御されている。そのため、本実施例では、冷却水の温度が上記の所定温度まで上昇するまでの間に限り、排気熱回収器18が排気ガスの熱を回収することができる。
【0022】
EGRクーラ20は、エンジン14から排出された排気ガスの一部を吸気側に戻す(EGR:Exhaust Gas Recirculation)際に、吸気側に戻す排気ガスを冷却するための装置である。EGRクーラ20では、エンジン14の吸気側に戻すための排気ガスと、冷却水循環路10内を流れる冷却水との間で熱交換が行われる。熱交換の結果、排気ガスが冷却され、冷却水が加熱される。
【0023】
サーモスタット24は、冷却水循環路10内を循環する冷却水の温度に応じて、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10とを、連通する状態と連通させない状態との間で切り替えるための装置である。サーモスタット24は、第1温度センサ42と、開閉弁44を備えている。第1温度センサ42は、冷却水循環路10内を流れる冷却水の温度を測定する。開閉弁44は、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度に応じて機械的に開弁状態と閉弁状態とに切り替える。具体的には、第1温度センサ42が測定する温度が第4設定温度未満の場合は、開閉弁44は閉弁状態となり、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10とを連通させない状態とする。一方、第1温度センサ42で測定される温度が第4設定温度以上の場合は、開閉弁44は開弁状態となり、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10とを連通させる状態とする。本実施例では、サーモスタット24は、エンジン14が運転中か否か、暖房要求が行われているか否かに関わらず、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度に応じて上記の切り替えを行う。なお、以下では、開閉弁44を開弁状態として、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10とを連通させる状態にすることを「サーモスタット24を作動させる」と呼ぶ場合がある。本実施例では、例えば、第4設定温度は85℃である。
【0024】
第1切り替え弁40も、サーモスタット24と同様に、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度に応じて、ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10とを、連通する状態と連通させない状態とに切り替える。第1切り替え弁40は、ECU70によって開閉制御される。本実施例では、第1切り替え弁40は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われた場合において、温度センサ42で検出される温度が第1設定温度未満の場合は、閉弁状態とされるように制御される。第1切り替え弁40が閉弁状態の場合、ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10とが連通しない状態となる。一方、第1切り替え弁40は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われた場合において、温度センサで検出される温度が第1設定温度以上の場合は、開弁状態とされるように制御される。第1切り替え弁40が開弁状態の場合、ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10とが連通する状態となる。ここで、第1設定温度は、第4設定温度よりも高い温度に設定されている。本実施例では、例えば、第1設定温度は90℃である。また、本実施例では、第1切り替え弁40は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われた場合以外の場合においては、常時開弁状態となるように制御される。また、第1切り替え弁40は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われるか否かに関らず、バイパス経路60の下流側端部と冷却水循環路10とを常時連通状態としている。
【0025】
上述した説明から明らかなように、開閉弁44と第1切り替え弁40とがともに開弁状態にある場合、ラジエータ経路30の両端と冷却水循環路10とが連通する。この場合、冷却水循環路10を流れる冷却水の一部がラジエータ経路30を通って冷却水循環路10に戻される。その結果、冷却水循環路10内の冷却水の温度上昇が抑制される。一方、開閉弁44と第1切り替え弁40のうち一方又は双方が閉弁状態にある場合、冷却水がラジエータ経路30を流れず、ラジエータ経路30と冷却水循環路10との間で冷却水が流れることはない。その結果、冷却水循環路10内の冷却水の温度がラジエータによって冷却されることはない。
【0026】
ポンプ26は、冷却水循環路10内の冷却水を循環させる電動式ウォーターポンプである。ポンプ26は、ECU70と接続されている。ポンプ26の回転数は、ECU70によって制御される。ECU70によるポンプ26の制御については後で説明する。
【0027】
第2切り替え弁50は、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れない状態と、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れる状態との間で切り替える。第2切り替え弁50は、ECU70によって制御される。本実施例では、第2切り替え弁50は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第2温度センサが測定する温度が第3設定温度より低いときは、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れる状態とするように制御される。一方、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第2温度センサ52が測定する温度が第3設定温度以上であるときは、第2切り替え弁50は、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れない状態とするように制御される。ここで、第3設定温度は、例えば80℃である。なお、エンジン14が運転している場合は、暖房要求の有無や第2温度センサ52が測定する温度に関らず、第2切り替え弁50は、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れない状態とするように制御される。
【0028】
ECU70は、インバータ12、エンジン14、ヒータ16、排気熱回収器18、EGRクーラ20、ポンプ26、第1切り替え弁40、第2切り替え弁50、第1温度センサ42、第2温度センサ52に電気的に接続されており、冷却システム2を制御している。
【0029】
ECU70は、インバータ12のスイッチング周波数を増減させることにより、インバータ12の損失(スイッチングロス)を増減させることができる。インバータ12は、損失が増加すると、単位時間当りの発熱量が増加する。また、ECU70は、ポンプ26の回転数を制御して、単位時間当りに循環させる冷却水の流量を増減させることができる。具体的には、ECU70は、PWM(Pulse Width Modulation)制御によってポンプ26の回転数を制御している。ECU70は、ポンプ26に供給するパルス幅を調整することによって、ポンプ26の回転数を増減させ、単位時間当りの流量を調整することができる。冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が増加すると、インバータ12等の熱源と冷却水との間で熱交換がより頻繁に行われる。そのため、インバータ12等の熱源から冷却水に伝えられる熱量が増加する。
【0030】
本実施例では、ECU70は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度センサ42が測定する温度が第2設定温度より低いときは、第1温度センサ42が測定する温度が第2設定温度以上であるときと比較して、インバータ12の損失が大きくなるようにインバータ12を制御するとともに、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を多くするようにポンプ26を制御する。ここで、第2設定温度は、第1設定温度より低い温度に設定され、本実施例では、80℃に設定されている。以下では、インバータ12の損失が大きい状態を損失「大」、インバータ12の損失が小さい状態を損失「小」と呼び換える場合がある。また、以下では、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が多い状態を流量「多」、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が少ない状態を流量「少」と呼び換える場合がある。
【0031】
本実施例の冷却システム2の動作を、図2を参照して説明する。図2は、本実施例の冷却システム2のECU70が実行する処理を示すフローチャートである。図2の処理は、ハイブリッド自動車のイグニッションをONとし、ハイブリッド自動車の運転を開始したことをトリガとしてスタートする。
【0032】
S2では、ECU70は、暖房要求が行われているか否かを判断する。ECU70は、車室内に配置されたヒータスイッチ(図示省略)から、暖房要求が行われていることを示す所定の信号を受信する場合にS2でYESと判断する。S2でYESの場合、S4に進む。一方、S2でNOの場合、S6に進む。
【0033】
S4では、ECU70は、エンジン14が駆動中であるか否かを判断する。ECU70は、エンジン14から駆動中であることを示す所定の信号を受信する場合にS4でYESと判断する。例えば、ハイブリッド自動車が、エンジン14とモータの駆動力で走行している場合等は、エンジン14が駆動しているため、ECU70はS4でYESと判断する。S4でYESの場合、S6に進む。一方、例えば、ハイブリッド自動車がモータの駆動力のみで走行している場合等は、エンジン14が動作していないため、ECU70はS4でNOと判断する。S4でNOの場合、S10に進む。
【0034】
S6では、ECU70は、第2切り替え弁50を、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れない状態(エンジン14を流れる状態)に切り替える。さらに、ECU70は、第1切り替え弁40を開弁状態とし、ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10とを連通する状態にし、S2に戻る。
【0035】
ここで、S6で第1切り替え弁40が開弁状態に切替えられた状態では、サーモスタット24が作動すると、冷却水循環路10とラジエータ経路30とが連通する状態となり、サーモスタット24が作動しないと、冷却水循環路10とラジエータ経路30とが連通しない状態となる。すなわち、第1温度センサ42で測定される冷却水の温度が第4設定温度以上である場合は、サーモスタット24が作動し、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10とが連通する状態となる。これにより、冷却水循環路10を流れる冷却水の一部がラジエータ経路30を通って冷却水循環路10に戻されるようになる。一方、第1温度センサ42で測定される冷却水の温度が第4設定温度未満である場合は、サーモスタット24は作動せず、ラジエータ経路30の下流側端部と冷却水循環路10とが連通しない状態となる。このため、冷却水循環路10からラジエータ経路30に冷却水が流れることはない。したがって、暖房要求が無い場合(S2でNO)や、エンジン14が運転中の場合(S4でYES)は、冷却水は常にエンジン14を流れ、第1温度センサ42で測定される冷却水の温度に応じてラジエータ経路30を流れる状態と流れない状態に切替えられる。
【0036】
S10では、ECU70は、エンジン14の温度が、第3設定温度以上か否かを判断する。具体的には、ECU70は、第2温度センサ52が測定する温度が、第3設定温度以上である場合、S10でYESと判断する。S10でYESの場合、S12に進み、ECU70は、第2切り替え弁50を、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れない状態(エンジン14を流れる状態)に切り替える。一方、S10でNOの場合、S14に進み、ECU70は、第2切り替え弁50を、冷却水循環路10内の冷却水がバイパス経路60を流れる状態(エンジン14をバイパスする状態)に切り替える。S12又はS14を終えると、S16に進む。
【0037】
S16では、冷却水循環路10内の冷却水の温度が、第1設定温度以上か否かを判断する。ECU70は、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が、第1設定温度以上である場合、S16でYESと判断する。S16でYESの場合、S18に進む。一方、S16でNOの場合、S20に進む。
【0038】
S18では、ECU70は、第1切り替え弁40を開弁状態とし、ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10とを連通する状態とする。第1設定温度は第4設定温度より高いため、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が第1設定温度以上であれば、サーモスタット24は作動している。このため、冷却水循環路10を流れる冷却水の一部がラジエータ経路30を通って冷却水循環路10に戻されるようになる。S18を終えると、S2に戻る。
【0039】
S20では、ECU70は、第1切り替え弁40を閉弁状態とし、ラジエータ経路30の上流側端部と冷却水循環路10とを連通させない状態とする。このため、サーモスタット24の状態に関らず、冷却水循環路10を流れる冷却水はラジエータ経路30を流れない。すなわち、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が第4設定温度以上となってサーモスタット24が作動しても、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が第1設定温度以上とならないと、冷却水循環路10を流れる冷却水がラジエータ経路30に供給されることはない。その結果、冷却水循環路10内の冷却水がラジエータ32によって冷却されることはなく、冷却水の温度の低下が抑制される。次いで、S22において、ECU70は、冷却水循環路10内の冷却水の温度が、第2設定温度以上か否かを判断する。ECU70は、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が、第2設定温度以上である場合、S22でYESと判断する。S22でYESの場合、S23に進む。一方、S22でNOの場合、S24に進む。
【0040】
S23では、ECU70は、インバータ12のスイッチング周波数を増加させずに、インバータ12の損失を「小」とする。同時に、ECU70は、ポンプ26の回転数を増加させずに、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を「少」とする。なお、S23の時点で既にインバータ12の損失が「小」である場合、ECU70は、インバータ12の損失が「小」の状態を維持する。同様に、S23の時点で既に冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が「少」である場合、ECU70は、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が「少」の状態を維持する。S23を終えると、S2に戻る。
【0041】
S24では、ECU70は、インバータ12のスイッチング周波数を増加させ、インバータ12の損失を増加させる(すなわち、インバータ12の損失を「大」とする)。インバータ12の損失が増加することにより、単位時間当りのインバータ12の発熱量が増加する。同時に、ECU70は、ポンプ26の回転数を増加させ、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を増加させる(すなわち、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を「多」とする)。冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が増加することにより、インバータ12から冷却水に伝えられる熱量が増加する。なお、S24の時点で既にインバータ12の損失が「大」である場合、ECU70は、インバータ12の損失が「大」の状態を維持する。同様に、S24の時点で既に冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が「多」である場合、ECU70は、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が「多」の状態を維持する。S24を終えると、S2に戻る。
【0042】
以上、本実施例の冷却システム2について説明した。上述の通り、本実施例の冷却システム2では、図2に示すように、ECU70は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度センサ42が測定する温度が第2設定温度より低いとき(S22でNO)は、インバータ12の損失を増加させるとともに、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を増加させる(S24)。インバータ12の損失が増加することにより、インバータ12の発熱量が大きくなる。さらに、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量が増加することにより、インバータ12から冷却水に伝えられる熱量が増加する。その結果、冷却水循環路10内の冷却水の温度がより早く上昇し、暖房運転を行うために十分な温度までより短時間で上昇する。そのため、ヒータスイッチをオンしてから、短時間で温風を車室内に供給することができる。
【0043】
さらに、本実施例の冷却システム2では、図2に示すように、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合(S4でNO)に、エンジン14の温度が第3設定温度より低い場合(S10でNO)には、冷却水はエンジン14を流れずにバイパス経路60を流れる(S14)。冷却水がバイパス経路60を流れる場合は、冷却水がエンジン14を流れる場合と比べて、冷却水が流れる際の通水抵抗が小さい。このため、同じ駆動力のポンプ26を使用した場合であっても、単位時間当りにより多くの冷却水を冷却水循環路10内で循環させることができ、暖房効率も良くなる。また、エンジン14を通過することによって冷却水の熱が失われることを抑制することもできる。従って、エンジン14の温度が第3設定温度より低い場合には、冷却水がバイパス経路60を流れることにより、暖房効率の低下をさらに抑制することができる。また、エンジン14の温度が第3設定温度より高い場合(S10でYES)には、冷却水はエンジン14を流れる(S12)。高温のエンジン14を熱源として利用することができ、暖房効率も良くなる。
【0044】
さらに、本実施例の冷却システム2では、図2に示すように、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合(S4でNOの場合)、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合以外の場合(S2でNOの場合又はS4でYESの場合)と異なり、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が第4設定温度より高い第1設定温度以上とならない限り、冷却水はラジエータ32を流れない(S18、S20参照)。そのため、本実施例の冷却システム2では、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合には、それ以外の場合と比べて冷却水の温度の低下を抑制することができる。その結果、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合における暖房効率の低下も抑制することができる。
【0045】
本実施例の構成と本発明の構成との対応関係を記載しておく。第1温度センサ42、第2温度センサ52が、それぞれ「第1温度測定手段」、「第2温度測定手段」の一例である。開閉弁44及び第1切り替え弁40が、「第1切り替え手段」の一例である。第2切り替え弁50が、「第2切り替え手段」の一例である。開閉弁44と第1切り替え弁40がともに開弁状態にある状態が、「第1の状態」の一例である。開閉弁44と第1切り替え弁40の少なくとも一方が閉弁状態にある状態が、「第2の状態」の一例である。
【0046】
上記の実施例の変形例を以下に列挙する。
(1)上述の第1〜第4設定温度の値は例示であって、これに限られるものではない。従って、第3設定温度は、エンジン14を暖房の熱源として利用できる温度であればよく、例えば30℃〜120℃の間の任意の温度に設定してもよい。
(2)上記の実施例では、図2に示すように、ECU70は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度センサ42が測定する温度が第2設定温度より低いとき(S22でNO)は、インバータ12の損失を増加させるとともに、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を増加させる(S24)。これに代えて、ECU70は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度センサ42が測定する温度が第2設定温度より低いときには、インバータ12の損失を増加させる制御と、冷却水循環路10内を循環する冷却水の単位時間当りの流量を増加させる制御のうちいずれか一方のみを実行するようにしてもよい。
(3)開閉弁44を省略し、第1切り替え弁40のみによって、ラジエータ経路30と冷却水循環路10とが連通する状態と、連通しない状態と、を切り替えるようにしてもよい。その場合、ECU70は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合以外の場合において、第1温度センサ42で測定する冷却水の温度が第4設定温度より低いときは、第1切り替え弁40を閉弁状態とする一方で、第1温度センサ42が測定する冷却水の温度が第4設定温度以上であるときは、第1切り替え弁40を開弁状態とする。また、ECU70は、エンジン14の停止中に暖房要求が行われる場合であって、第1温度センサ42が測定する温度が第1設定温度より低いときは、第1切り替え弁40を閉弁状態とする一方で、第1温度センサ42が測定する温度が第1設定温度以上であるときに第1切り替え弁40を開弁状態とする。
(4)第1切り替え弁40は、開度を調整可能な開閉弁であってもよい。この場合、ECU70は、第1切り替え弁40が開弁状態にある場合において、第1切り替え弁40の開度を調整することにより、冷却水循環路10からラジエータ経路30に流れる冷却水の流量を調整することができる。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2:冷却システム
10:冷却水循環路
12:インバータ
14:エンジン
16:ヒータ
18:排気熱回収器
20:EGRクーラ
24:サーモスタット
26:ポンプ
30:ラジエータ経路
32:ラジエータ
40:第1切り替え弁
42:第1温度センサ
50:第2切り替え弁
52:第2温度センサ
60:バイパス経路
70:ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッド自動車用冷却システムであって、
内部に冷却水が循環され、エンジンと、モータを駆動するインバータと、車室内を暖房するためのヒータを直列に通過する冷却水循環路と、
一端が前記ヒータの上流側において前記冷却水循環路と接続され、他端が前記ヒータの下流側において前記冷却水循環路と接続され、前記ヒータをバイパスして冷却水を流すラジエータ経路と、
前記ラジエータ経路に配置され、前記ラジエータ経路を流れる冷却水を冷却するラジエータと、
前記冷却水循環路内の冷却水の温度を測定する第1温度測定手段と、
前記冷却水循環路内の冷却水がラジエータ経路を流れない第1の状態と、前記冷却水循環路内の冷却水がラジエータ経路を流れる第2の状態とに切り替える第1切り替え手段と、
制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、前記第1温度測定手段が測定する温度が第1設定温度より低いときは、前記第1切り替え手段を前記第1の状態とする一方で、前記第1温度測定手段が測定する温度が前記第1設定温度以上であるときに前記第1切り替え手段を前記第2の状態とし、
前記エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、前記第1温度測定手段が測定する温度が前記第1設定温度より低く設定された第2設定温度より低いときは、前記第1温度測定手段が測定する温度が前記第2設定温度以上であるときと比較して、前記インバータの損失が大きくなるように前記インバータを制御する、
ハイブリッド自動車用冷却システム。
【請求項2】
一端が前記エンジンの上流側において前記冷却水循環路と接続され、他端が前記エンジンの下流側において前記冷却水循環路と接続され、前記エンジンをバイパスして冷却水を流すバイパス経路と、
前記エンジンの温度を測定する第2温度測定手段と、
前記冷却水循環路内の冷却水がバイパス経路を流れない状態と、前記冷却水循環路内の冷却水がバイパス経路を流れる状態とに切り替える第2切り替え手段と、をさらに備えており、
前記制御手段は、
前記エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合であって、前記第2温度測定手段が測定する温度が第3設定温度より低いときに、前記第2切り替え手段を冷却水が前記バイパス経路を流れる状態とする一方で、前記第2温度測定手段が測定する温度が前記第3設定温度以上であるときに前記第2の切り替え手段を冷却水が前記バイパス経路を流れない状態とする、
請求項1に記載のハイブリッド自動車用冷却システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記エンジンの停止中に暖房要求が行われる場合以外の場合であって、前記第1温度測定手段が測定する温度が前記第1設定温度より低く設定された第4設定温度より低いときは、前記第1切り替え手段を前記第1の状態とする一方で、前記第1温度測定手段が測定する温度が前記第4設定温度以上であるときに前記第1切り替え手段を前記第2の状態とする、
請求項1又は2に記載のハイブリッド自動車用冷却システム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−166667(P2012−166667A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28695(P2011−28695)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】