説明

ハイブリッド車の制御装置

【課題】ハイブリッド車において、ドライブフィーリングの悪化を招くことなくエンジンを可能な限り最高効率点近傍で運転させてエネルギ効率の向上を図る。
【解決手段】駆動トルクを出力可能な走行用モータ1F及びエンジン2と、エンジン2により駆動されるジェネレータ3と、ジェネレータ3の発電電力で充電され走行用モータ1Fへの電力供給を行なうバッテリ7とを備え、車両の必要トルクに基づいてエンジン2及び走行用モータ1Fへの要求出力トルクを設定するトルク設定手段11と、トルク判定手段12により設定されたエンジン2への要求出力トルクがエンジン2の最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいと判定されるとエンジン2への要求出力トルクよりも大きなエンジン出力トルクを発生させて、エンジン出力トルクの要求出力トルクに対する余剰トルクによってジェネレータ3を駆動してバッテリ7を充電する制御手段13,15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラレル式ハイブリッド車の制御に用いて好適の、ハイブリッド車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パラレル式ハイブリッド車では、ドライバがアクセルペダルを踏み込み操作する車両の駆動時(力行時)には、走行用モータ及びエンジンの何れかまたは両方の出力トルクにより駆動輪を駆動して走行する。特に、ドライバがアクセルペダルを一定以上踏み込み、走行トルクの要求を強めると、走行用モータとエンジンとの両方の出力トルクを用いて車両を駆動する。
【0003】
このようなハイブリッド車において、エンジンを最高効率点近傍で運転させることがエネルギ効率上望ましい。エンジンを最高効率点近傍で運転させた場合に、走行のために必要なトルクが足りなければ、この不足のトルク分をモータのトルクで補うというロジックで対応できる。
例えば、特許文献1には、エンジンを最高効率点近傍で運転させ、このエンジンの出力トルクを車両の走行に利用するが、エンジンの出力トルクが車両の必要トルク(車両の走行トルクと駆動系の機械損失との和)に対して余剰の場合には、エンジン出力トルクでモータジェネレータを駆動することによりモータジェネレータに発電を行なわせて、発電した電力をバッテリに充電し、一方、エンジンの出力トルクが車両の必要トルクに対して不足する場合にはモータからトルクを供給する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−137518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術の場合、エンジンの出力トルクが余剰であればモータジェネレータを発電機として作動させ、エンジンの出力トルクが不足であればモータジェネレータを電動機として作動させるので、ドライバの走行トルク要求が急変すると、モータジェネレータは、発電機と電動機との間で急激に切り替えられることになる。この場合、走行トルクの要求の変化に対する追従応答性を確保するには、モータジェネレータの制御を適切に(つまり、応答性よく高精度に)行なわなければ、ドライブフィーリングの悪化を招くが、かかるモータジェネレータの制御を適切に行なうことは容易ではない。
【0006】
さらに、余剰のエンジン出力トルクにより、モータジェネレータを駆動して発電を行なわせ、発電した電力をバッテリに充電する場合、バッテリの状態も考慮することが好ましい。つまり、一般に、バッテリを、充電状態(SOC)がフル充電(100%)付近の状態で充電したり、SOCが大きく低下した状態で放電したりすると、バッテリの寿命劣化が急激に進んでしまう。また、SOCが低下すると要求される電力を放電できなくなる。このため、通常、走行用モータに電力を供給するバッテリについても、SOCが予め設定した上限値と下限値とで規定した一定の範囲内に保持されるように管理している。上記の余剰のエンジン出力トルクを用いて発電した電力をバッテリに充電する際にも、このようなバッテリの管理は必要となるため、これを考慮した制御が好ましい。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたもので、ドライブフィーリングの悪化を招くことなくエンジンを可能な限り最高効率点近傍で運転させてエネルギ効率の向上を図ることができるようにした、ハイブリッド車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のハイブリッド車の制御装置は、駆動輪にトルクを出力可能な走行用モータ及びエンジンと、前記エンジンにより駆動され発電するジェネレータと、前記ジェネレータによる発電電力で充電されると共に前記モータへの電力供給を行なうバッテリと、を備えたハイブリッド車の制御装置であって、車両が要求する必要トルクを算出し、前記必要トルクに基づいて前記エンジン及び前記走行用モータのそれぞれに要求される要求出力トルクを設定するトルク設定手段と、前記トルク設定手段により設定された前記エンジンへの要求出力トルクが前記エンジンの最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいかを判定するトルク判定手段と、前記トルク判定手段により前記要求出力トルクが前記最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいと判定されると、前記要求出力トルクよりも大きなエンジン出力トルクを発生させるよう前記エンジンを稼働させて前記エンジン出力トルクの前記要求出力トルクに対して余剰となる余剰エンジントルクによって前記ジェネレータを駆動して前記バッテリを充電する制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0009】
前記バッテリの状態を検出するバッテリ状態検出手段を備え、前記制御手段は、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの状態が充電を規制すべきであるとされ、かつ、前記トルク判定手段により前記要求出力トルクが前記最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいと判定されたときに、前記エンジンへの要求出力トルクと前記余剰エンジントルクとの和が前記最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さくなるように前記エンジンを稼働することが好ましい。
【0010】
前記バッテリ状態検出手段は、前記バッテリの充電状態を演算する充電状態演算手段であって、前記制御手段は、前記充電状態演算手段により演算された充電状態が予め設定された充電上限値よりも大きいと前記バッテリへの充電を規制すべきであるとすることが好ましい。
前記バッテリ状態検出手段は、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段であって、前記制御手段は、前記バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が予め設定された温度上限値よりも大きい場合、及び/又は、前記バッテリの温度状態が予め設定された温度下限値よりも小さい場合に、前記バッテリへの充電を規制すべきであるとすることが好ましい。
【0011】
前記トルク設定手段は、アクセル操作量に基づいて、前記必要トルクを算出し、前記走行用モータの許容出力トルクが前記必要トルクよりも大きい場合は前記走行用モータへの要求出力トルクを前記必要トルクに設定し、前記走行用モータの前記許容出力トルクが前記必要トルクよりも小さい場合は前記走行用モータへの要求出力トルクを前記許容出力トルクに設定すると共に前記必要トルクの前記走行用モータの前記許容出力トルクに対して余剰となる分を前記エンジンへの要求出力トルクとして設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のハイブリッド車の制御装置によれば、駆動輪にエンジンからトルクを出力する状況において、車両がエンジンに要求する必要トルクがエンジンの最高効率点のトルクよりも低いエンジントルク余剰状態の場合に、エンジンを最高効率点またはその近傍で運転しながら、エンジンへの要求出力トルクに対して余剰となる余剰エンジントルクによってジェネレータを駆動し発電を行ない、バッテリを充電する。したがって、エンジンを最高効率点またはその近傍で運転して燃費を低減しつつ、車両の走行に要求されるエンジントルクを過不足なく駆動輪に出力し、且つ余剰エンジントルクによって発電した電力でバッテリを充電するため、エネルギ効率を大きく向上させることができる。しかも、走行用モータを用いずにジェネレータを用いて余剰エンジントルクによる発電を行なうので、車両の走行に要求されるトルクの急変に対しても、走行用モータを発電機と電動機との間で急激に切り替える必要はなく、ジェネレータによる発電制御のみのシンプルな制御でドライブフィーリングを低下させることなく、上記の効果を得ることができる。
【0013】
また、バッテリへの充電を規制すべきでない場合には、エンジントルク余剰状態が判定されると、エンジンを最高効率点で運転し、余剰エンジントルクによってジェネレータを駆動し発電した電力でバッテリを充電することにより、エネルギ効率を大きく向上させることができる。逆に、バッテリへの充電を規制すべきである場合には、エンジントルク余剰状態が判定されると、バッテリへの充電を許容限度内に制限しながら、エンジンの出力トルクを最高効率点に接近させて運転し、余剰エンジントルクによって発電を行ない、バッテリを充電することにより、バッテリの保護と、エネルギ効率の向上とを両立させることができる。
【0014】
例えば、バッテリの充電状態が予め設定された充電上限値よりも大きいときには、バッテリへの充電を規制すべきであり、バッテリの温度状態が予め設定された温度上限値よりも大きい場合、及び/又は、バッテリの温度状態が予め設定された温度下限値よりも小さい場合には、バッテリへの充電を規制すべきであり、このような場合に、バッテリへの充電を許容限度内に制限しながら、エンジンの出力トルクを最高効率点に接近させて運転することが有効である。
【0015】
また、アクセル操作量に基づいて算出した必要トルクに対して、走行用モータの出力トルクにより必要トルクを満たせる場合は走行用モータへの要求出力トルクを必要トルクに設定し、走行用モータの出力トルクにより必要トルクを満たせない場合は走行用モータへの要求出力トルクを最大トルクに設定すると共に走行用モータの出力トルクでは不足する分をエンジンへの要求出力トルクとして設定することにより、走行用モータを優先的に用いて排気ガス発生を削減した走りを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車の駆動系を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車の制御装置の要部を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車の制御を説明する燃料消費特性図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車の制御を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。
<構成>
まず、本実施形態にかかるハイブリッド車の駆動系を説明する。
図1に示すように、本ハイブリッド車の駆動系は、前輪用及び後輪用の走行用モータ(走行用電動機)1F,1Rと、エンジン(内燃機関)2と、ジェネレータ(発電機)3と、動力断接クラッチ(単に、クラッチとも言う)4と、左右前輪及び左右後輪の各駆動輪5FL,5FR,5RL,5RRと、前輪側及び後輪側のインバータ6F,6Rと、走行用モータ1F,1Rに電力を供給するバッテリ(高圧電源、走行用バッテリとも言う)7と、をそなえ、走行用モータ1F,1R及びジェネレータ3は、走行用バッテリ7との間に介装されたインバータ6F,6Rを通じて作動を制御される。また、インバータ6F,6R、エンジン2、動力断接クラッチ4はハイブリッドECU(電子制御ユニット)10によって制御される。
【0018】
なお、以下の説明では、走行用モータ,駆動輪,インバータについて、個々のものを区別しない場合には、符号1,5,6で示す。
また、詳細には図示しないが、ECU10は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)及びタイマカウンタ等を含んで構成され、ECU10には、アクセル開度センサ(アクセルポジションセンサ)21,車輪速センサ(車速センサ)22,エンジントルクセンサ23,エンジン回転数センサ24といった車両側情報の各種センサ、及び走行用バッテリ7の温度を検出するバッテリ温度検出手段(バッテリ状態検出手段)としての温度センサ27(図2参照)等が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。
【0019】
さらに、ECU10には、BMU(バッテリマネジメントユニット)30が接続されている。BMU30には、電流センサ25及び電圧センサ26(図2参照)により検出され、インバータ6F,6Rを通じて得られる、走行用モータ1の電流(モータ電流)及び電圧(モータ電圧)から走行用バッテリ7の充電状態(SOC)を演算する機能(SOC演算手段)31が充電状態演算手段(バッテリ状態検出手段)として備えられ、SOC演算手段31により演算されたSOCがECU10に入力される。なお、電流センサ25は、走行用バッテリ7と各走行用モータ1A,1B及びジェネレータ3との間の充放電電流Bをそれぞれ検知する。
【0020】
走行用モータ1F,1Rは、各左右駆動輪5FL,5FR,5RL,5RRと前輪側及び後輪側の各デファレンシャル8F,8Rを介して常時接続されており、走行用バッテリ7のSOCが管理範囲内にあれば、アクセル開度センサ21によりドライバの出力要求(アクセル踏み込み)が検知されると、走行用バッテリ7の電力を用いてモータ(電動機)として作動し出力トルクを発生して、車両の走行のための駆動トルク(走行駆動力)として駆動輪5に出力する。
【0021】
また、走行用バッテリ7のSOCが管理範囲内にあれば、ドライバがアクセルを開放するとこれがアクセル開度センサ21により検知され、走行用モータ1はジェネレータ(発電機)として機能し、回生制動を実施する。つまり、駆動輪5からの回転トルクを受けて発電しこの発電負荷を車両の制動力として発揮する。この時には、クラッチ4を切り離し、エンジン2によるエンジンブレーキを与えないようにして、エンジンブレーキ相当の制動力を可能な限り回生制動により賄うようにすることが好ましい。
【0022】
エンジン2は、ジェネレータ3と直結されると共に動力断接クラッチ4を介して駆動輪5(本実施形態では、前輪5FL,5FR)にトルクを伝達する前輪側デファレンシャル8Fと断接可能に接続されている。アクセル開度センサ21により検出されるドライバの出力要求(アクセル踏み込み)が一定以上(例えば、アクセル開度が基準値以上、又は、アクセル開度増加率が基準値以上)となって走行用モータ1のみでは駆動トルクが足りない場合や、BMU30により算出される走行用バッテリ7のSOCが基準値以下で走行用モータ1の出力を抑えたい場合には、エンジン2にも走行駆動力が要求される。
【0023】
このときには、クラッチ4を接続して、エンジン2の出力トルクを駆動輪5に供給する。この場合、ジェネレータ3を無負荷状態にしてエンジン2の出力トルクを全て駆動輪5に供給する状態と、ジェネレータ3を発電負荷状態にしてエンジン2の出力トルクの一部を駆動輪5に供給し残りのトルクでジェネレータ3を駆動する状態とを取り得る。
一方、エンジン2に走行駆動力が要求されない場合には、クラッチ4を動力遮断にする。このクラッチ4が動力遮断された状態では、走行用バッテリ7のSOCが基準領域内にある限り、エンジン2は停止されるが、走行用バッテリ7のSOCが基準領域以下となり走行用バッテリ7の充電が必要になると、エンジン2が作動してジェネレータ3を駆動する。
【0024】
つまり、ECU10は、走行用バッテリ7のSOCを、予め設定した上限値と下限値とで規定した一定の管理範囲内に管理する。走行用バッテリ7のSOCが下限値或いは下限値付近まで低下したら、エンジン1の出力トルクによりジェネレータ3を駆動して発電を行なって、この電力によりSOCが上限値或いは上限値付近に到達するまで走行用バッテリ7を充電する。また、ジェネレータ3による発電のほか、上述の回生制動による発電によっても、走行用バッテリ7のSOCが上昇する。
【0025】
したがって、走行用バッテリ7のSOCが上限値或いは上限値付近に到達している場合には、走行用バッテリ7は更なる充電を受け入れることはできなくなる。このため、走行用バッテリ7のSOCが上限値或いは上限値付近にある場合には、回生制動すべき状況になっても回生制動を中止する或いは回生制動に制限を加えて、走行用バッテリ7のSOCが上限値を超えないようにすることが必要になる。
【0026】
ここで、本実施形態にかかるハイブリッド車の制御装置を説明すると、本装置では、ECU10内に、車両が要求する必要トルクを算出し、この必要トルクに基づいてエンジン2及び走行用モータ1F,1Rにそれぞれ要求される出力トルクを設定する機能(トルク設定手段)11と、トルク設定手段11により設定されたエンジン2への要求出力トルクがエンジンの最高効率点のトルクよりも低いエンジントルク余剰状態か否かを判定する機能(トルク判定手段)12と、トルク判定手段12によりエンジントルク余剰状態が判定されたら、エンジン2を前記最高効率点またはその近傍で運転しながら、エンジン2への要求出力トルクに対して余剰となる余剰エンジントルクによってジェネレータ3を駆動し発電を行ない、走行用バッテリ7を充電する機能(制御手段)13,15とを備えている。
【0027】
より詳細には、図2に示すように、トルク設定手段11では、アクセル開度センサ(アクセルポジションセンサ)21から得られるアクセル開度と、車輪速センサ(車速センサ)22から得られる車輪速Vwに対応する車速Vとから、車両が要求する必要トルクを算出する。そして、この算出トルクを各駆動源(走行用モータ1F,1R及びエンジン2)に割り当てる。本実施形態では、4輪駆動を採用しているため、必要トルク(車両が要求する総トルク)を、前後輪に配分し、さらに、後輪については、後輪配分トルク分を全て走行用モータ1Rへの要求トルク(モータ要求トルク)として割り当てるが、前輪については、前輪配分トルク分を走行用モータ1Fとエンジン2とに配分し、それぞれへの要求トルク(モータ要求トルク及びエンジン要求トルク)として割り当てる。
【0028】
なお、車両の走行状態(例えば要求トルクや車速V)に応じて、走行用モータ1Fのトルクにより前輪配分トルク分を全て満たせる場合には、前輪配分トルク分を走行用モータ1Fに全て配分し、エンジン2への要求トルクは0としてもよい。あるいは、走行用モータ1Fのトルクにより前輪配分トルク分を全て満たせない場合には、走行用モータ1Fを最大出力として、不足のトルクをエンジン2への要求トルクとして配分してもよい。この場合、走行用モータ1Fのトルクにより前輪配分トルク分を全て満たせるか否かの判定は、走行用モータ1Fの最大出力トルクで判定する。
【0029】
トルク判定手段12では、このようにトルク設定手段11により設定されたエンジン2への要求出力トルクを、エンジンの最高効率点のトルクと比較して、エンジン2への要求出力トルクが最高効率点のトルクよりも低い場合に、エンジントルク余剰状態であると判定する。つまり、ECU10内のメモリには、例えば、図3に示すようなマップが記憶されており、エンジン回転数Neに応じた最高効率点(二点鎖線上の点)が存在する。
【0030】
図3中には、100km/h,120km/hの各巡航運転時の最高効率点を白丸印で示している。また、100km/h,120km/hの各速度においてトルク設定手段11により設定されたエンジン2への要求出力トルクの例を黒丸印で示している。この例では、何れもエンジン2への要求出力トルク(黒丸のトルク)が最高効率点のトルク(白丸)よりも低くなっている。
【0031】
制御手段の一つであるエンジン制御手段13は、原則として、エンジン2が図3に示すような車速Vに対応した最高効率点のトルクを発生するように、トルクセンサ23により検出されるエンジントルクTeが最高効率点のトルクとなるようにエンジン2を制御する。ただし、最大充電電流が制限されると、最高効率点のトルクよりも所要量だけ低下させたトルクとなるようにエンジン2を制御する。
【0032】
また、制御手段の一つである発電制御手段15は、エンジン2への要求出力トルクが最高効率点のトルクよりも低い場合に、原則として、最高効率点のトルクからエンジン2への要求出力トルクを減算した余剰トルクをジェネレータ3の駆動のために供給し発電を行なう。ただし、最大充電電流が制限されると、エンジン2の出力トルクを低下させた分だけ、ジェネレータ3の駆動のためのエンジントルクを減少させる。
【0033】
このため、ECU10には、最大充電電流を制限するための補正係数を設定する機能(最大電流補正手段)14が備えられている。この最大電流補正手段14では、ジェネレータ3の発電電流(出力電流)の最大値(最大充電電流)を設定する。この最大充電電流には、走行用バッテリ7のSOCに基づいて、SOCが管理範囲内にあれば、予め設定された最大充電電流値に設定し、SOCが管理範囲を上回るとその上回り量に応じて予め設定された最大充電電流値から減少させた値とする。これにより、SOCが過剰に増加してバッテリ寿命が低下することを防止している。
【0034】
さらに、最大電流補正手段14では、温度センサ27により検出された走行用バッテリ7の温度(電池温度)Tに基づいて、このSOCに基づく最大充電電流を補正する。つまり、電池温度Tが常用下限温度Taから常用上限温度Tbの範囲(常用温度域)内にあれば補正しない(補正係数は1)が、常用温度域外になると、常用温度域から離れるのに従って最大充電電流を低下させるように補正する。つまり、電池温度Tが常用下限温度Taよりも低下すると低下温度分に対して例えば図4中のマップMに示すように二次曲線的に補正係数を1から低下させ、電池温度Tが常用上限温度Tbよりも上昇すると上昇温度分に対して例えば図4中のマップMに示すように二次曲線的に補正係数を1から低下させる。
【0035】
つまり、バッテリ温度Tが上限値Tbを超えると上昇するのにしたがってバッテリの劣化を招き、しかもこの状態で充電をするとバッテリ温度Tの更なるに上昇を招いてバッテリの劣化を促進してしまう。また、バッテリ温度Tが下限値Ta未満になると下降するのにしたがってバッテリの劣化を招き、しかもこの状態で充電をするとバッテリの劣化を促進する。
【0036】
そこで、バッテリ温度Tが上限値Tbを超えると上昇するのにしたがって走行用バッテリ7の充電を規制し、下限値Ta未満になると下降するのにしたがって走行用バッテリ7の充電を規制するようにしている。なお、最大充電電流は走行用バッテリ7のSOCに基づく温度特性によって決定され、走行用バッテリ7のバッテリ温度Tが上限値Tbを超えて上昇するのに従って最大充電電流は二次曲線的に低下する。この最大充電電流の温度特性に従い補正係数を決定していくと、図4中のマップMにある上限値Tbよりもバッテリ温度の高温部で示すような二次曲線になる。また、バッテリ温度Tが下限値Ta未満になると下降するのに従って最大充電電流は二次曲線的に低下する。この最大充電電流の温度特性に従い補正係数を決定していくと、図4中のマップMにある下限値Taよりもバッテリ温度の低温部で示すような二次曲線になる。
【0037】
発電制御手段15は、このように設定された最大充電電流を超えない範囲で、ジェネレータ3からの出力電流(つまり、充電電流)を制御する。この制御には、電流センサ25で検出されるジェネレータ3からの出力電流(充電電流)Bに基づいて、検出される出力電流Bが最大充電電流以下となるようにエンジン制御手段13を通じてエンジン出力を制御する。具体的には、検出される出力電流Bが最大充電電流を超えなければ、エンジントルクTeが最高効率点のトルクとなるようにエンジン2の出力トルク(ジェネレータトルクと相関するトルク)を制御し、検出される出力電流Bが最大充電電流を超えれば、出力電流Bが最大充電電流となるように、エンジン2の出力トルク(ジェネレータトルクと相関するトルク)を規制(補正)する。
【0038】
<作用、効果>
本発明の一実施形態にかかるハイブリッド車の制御装置は、上述のように構成されているので、車両の走行時には、図4に示すように、エンジン及び発電系統が制御される。
【0039】
つまり、車両の走行時には、エンジントルクとエンジン回転数とのマップ(図3参照)に基づいて、そのエンジン回転数における最高効率点トルクを読み出し(ステップS10)、アクセル開度APと車速Vとに基づいて車両が要求する必要トルクを求め、更に、エンジンに要求される出力トルク(要求出力トルク)を決定する(ステップS20)。
そして、最高効率点トルクと要求出力トルクとを比較して(ステップS30)、要求出力トルクが最高効率点トルク以上であれば特に制御を実施しないが、最高効率点トルクが要求出力トルクよりも大きければ、制御を実施する。
【0040】
つまり、まず、余剰トルク分(=最高効率点トルク−要求出力トルク)に基づいて目標発電量を演算し(ステップS40)、目標発電量に基づいてジェネレータトルクを演算する(ステップS50)。
そして、温度センサ27により検出された走行用バッテリ7の温度(電池温度)Tを、常用下限温度Ta及び常用上限温度Tbと比較し(ステップS60)、電池温度Tが常用下限温度Taと常用上限温度Tbとの間の常用温度域にあれば、予め設定された最大充電電流値を最大充電電流に設定する。
【0041】
さらに、検出されるジェネレータ3からの出力電流(充電電流)Bを最大充電電流と比較し(ステップS70)、出力電流Bが最大充電電流を超えなければ、エンジントルクTeが最高効率点のトルクとなるようにエンジン2の出力トルク(ジェネレータトルクと相関するトルク)を制御し(ジェネレータトルク維持,ステップS80)、検出される出力電流Bが最大充電電流を超えれば、出力電流Bが最大充電電流となるように、エンジン2の出力トルク(ジェネレータトルクと相関するトルク)を規制(補正)する(ステップS90)。
【0042】
一方、電池温度Tが常用温度域外になると、常用温度域から離れるのに従って最大充電電流を低下させるように補正する(ステップS100)。つまり、電池温度Tが常用下限温度Taよりも低下すると低下温度分に対して補正係数を1から低下させ、電池温度Tが常用上限温度Tbよりも上昇すると上昇温度分に対して補正係数を1から低下させる。このような補正係数を最大充電電流に乗算することにより、最大充電電流を補正する。
【0043】
この場合も、検出されるジェネレータ3からの出力電流(充電電流)Bを補正後の最大充電電流と比較し(ステップS110)、出力電流Bが最大充電電流を超えなければ、エンジントルクTeが最高効率点のトルクとなるようにエンジン2の出力トルク(ジェネレータトルクと相関するトルク)を制御し(ジェネレータトルク維持,ステップS80)、検出される出力電流Bが最大充電電流を超えれば、出力電流Bが最大充電電流となるように、エンジン2の出力トルク(ジェネレータトルクと相関するトルク)を規制(補正)する(ステップS120)。
【0044】
したがって、車両がエンジン2に要求する必要トルクがエンジンの最高効率点のトルクよりも低いエンジントルク余剰状態の場合には、エンジン2を最高効率点またはその近傍で運転しながら、エンジンへの要求出力トルクに対して余剰となる余剰エンジントルクによってジェネレータを駆動し発電を行ない、バッテリを充電することができ、エンジン2を最高効率点またはその近傍で運転して燃費を低減しつつ、車両の走行に要求されるエンジントルクを過不足なく駆動輪に出力し、且つ余剰エンジントルクによって発電した電力でバッテリを充電するため、エネルギ効率を大きく向上させることができる。
【0045】
しかも、走行用モータ1Fを用いずにジェネレータ3を用いて余剰エンジントルクによる発電を行なうので、車両の走行に要求されるトルクの急変に対しても、走行用モータ1Fを発電機と電動機との間で急激に切り替える必要はなく、ジェネレータ3による発電制御のみのシンプルな制御でドライブフィーリングを低下させることなく、上記の効果を得ることができる。
【0046】
また、アクセル開度APに基づいて算出した必要トルクに対して、走行用モータ1Fの出力トルクにより必要トルクを満たせる場合は走行用モータ1Fへの要求出力トルクを必要トルクに設定し、走行用モータ1Fの出力トルクにより必要トルクを満たせない場合は走行用モータ1Fの要求出力トルクを最大トルクに設定すると共に走行用モータ1Fの出力トルクでは不足する分をエンジン2への要求出力トルクとして設定することにより、走行用モータ1Fを優先的に用いて排気ガス発生を削減した走りを実現することができる。
【0047】
走行用バッテリ7への充電を規制すべきでない場合には、エンジントルク余剰状態が判定されると、エンジンを最高効率点で運転し、余剰エンジントルクによってジェネレータを3駆動し発電した電力でバッテリを充電することにより、エネルギ効率を大きく向上させることができる。逆に、走行用バッテリ7への充電を規制すべきである場合には、エンジントルク余剰状態が判定されると、バッテリ7への充電を許容限度内に制限しながら、エンジン2の出力トルクを最高効率点に接近させて運転し、余剰エンジントルクによって発電を行ない、バッテリ7を充電することにより、バッテリ7の保護と、エネルギ効率の向上とを両立させることができる。
【0048】
特に、走行用バッテリ7の充電状態が予め設定された充電上限値よりも大きいときには、走行用バッテリ7への充電を規制すべきであり、走行用バッテリ7の温度状態が予め設定された温度上限値よりも大きい場合、及び/又は、走行用バッテリ7の温度状態が予め設定された温度下限値よりも小さい場合には、走行用バッテリ7への充電を規制すべきであり、このような場合に、バッテリ7への充電を許容限度内に制限してその保護(寿命低下の抑制)を図りながら、エンジン2の出力トルクを最高効率点に接近させて運転することにより、バッテリ7の保護とエネルギ効率の向上とを確実に両立させることができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、かかる実施の形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して実施することができる。
例えば、上記の実施の形態では、走行用バッテリ7の温度に応じた充電規制も行なっているが、この点を省略して制御の簡素化を図っても良い。
また、バッテリ温度に応じた充電規制については、図4のステップS100のTa〜Tbの間も用いることにより、ステップS60,S70,S80を省略することもできる。
【0050】
また、本実施形態では、4輪駆動車を例示したが、本実施形態の前輪側のみの構成を適用した前輪駆動車や、本実施形態の前輪側のみの構成を後輪に適用した後輪駆動車に、本発明を適用することももちろん有効である。
【符号の説明】
【0051】
1,1F,1R 走行用モータ(走行用電動機)
2 エンジン(内燃機関)
3 ジェネレータ(発電機)
4 動力断接クラッチ
5,5FL,5FR,5RL,5RR 駆動輪
6,6F,6R インバータ
7 走行用バッテリ(高圧電源)
8,8F,8R デファレンシャルギア
10 ハイブリッドECU(電子制御ユニット)
11 トルク設定手段
12 トルク判定手段
13 エンジン制御手段
14 最大電流補正手段
15 発電制御手段
21 アクセル開度センサ
22 車輪速センサ(車速センサ)
23 トルクセンサ
24 エンジン回転数センサ
25 電流センサ
26 電圧センサ
27 温度センサ
30 BMU(バッテリマネジメントユニット)
31 SOC演算手段(充電状態演算手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪にトルクを出力可能な走行用モータ及びエンジンと、前記エンジンにより駆動され発電するジェネレータと、前記ジェネレータによる発電電力で充電されると共に前記モータへの電力供給を行なうバッテリと、を備えたハイブリッド車の制御装置であって、
車両が要求する必要トルクを算出し、前記必要トルクに基づいて前記エンジン及び前記走行用モータのそれぞれに要求される要求出力トルクを設定するトルク設定手段と、
前記トルク設定手段により設定された前記エンジンへの要求出力トルクが前記エンジンの最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいかを判定するトルク判定手段と、
前記トルク判定手段により前記要求出力トルクが前記最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいと判定されると、前記要求出力トルクよりも大きなエンジン出力トルクを発生させるように前記エンジンを稼働させて、前記エンジン出力トルクの前記要求出力トルクに対して余剰となる余剰エンジントルクによって前記ジェネレータを駆動して、前記バッテリを充電する制御手段とを備えている
ことを特徴とする、ハイブリッド車の制御装置。
【請求項2】
前記バッテリの状態を検出するバッテリ状態検出手段を備え、
前記制御手段は、前記バッテリ状態検出手段により検出された前記バッテリの状態が充電を規制すべきであるとされ、かつ、前記トルク判定手段により前記要求出力トルクが前記最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さいと判定されたときに、前記エンジンへの要求出力トルクと前記余剰エンジントルクとの和が前記最高効率点でのエンジン出力トルクよりも小さくなるように前記エンジンを稼働する
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリ状態検出手段は、前記バッテリの充電状態を演算する充電状態演算手段であって、
前記制御手段は、前記充電状態演算手段により演算された充電状態が予め設定された充電上限値よりも大きいと前記バッテリへの充電を規制すべきであるとする
ことを特徴とする、請求項2記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項4】
前記バッテリ状態検出手段は、前記バッテリの温度を検出するバッテリ温度検出手段であって、
前記制御手段は、前記バッテリ温度検出手段により検出されたバッテリ温度が予め設定された温度上限値よりも大きい場合、及び/又は、前記バッテリ温度が予め設定された温度下限値よりも小さい場合に、前記バッテリへの充電を規制すべきであるとする
ことを特徴とする、請求項2又は3記載のハイブリッド車の制御装置。
【請求項5】
前記トルク設定手段は、アクセル操作量に基づいて、前記必要トルクを算出し、前記走行用モータの許容出力トルクが前記必要トルクよりも大きい場合は前記走行用モータへの要求出力トルクを前記必要トルクに設定し、前記走行用モータの許容出力トルクが前記必要トルクよりも小さい場合は前記走行用モータへの要求出力トルクを前記許容出力トルクに設定すると共に、前記必要トルクが前記走行用モータの前記許容出力トルクに対して余剰となる分を前記エンジンへの要求出力トルクとして設定する
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のハイブリッド車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−255824(P2011−255824A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133196(P2010−133196)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】