説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】動力の伝達効率の低下を抑制しつつ、駆動系全体を小型に構成する。
【解決手段】ハイブリッド車両(10)の制御装置は、内燃機関(200)、第1回転電機及び第2回転電機を含む動力要素と、差動機構(300)と、第1及び第2回転電機との間で電力の入出力が可能な蓄電手段(12)とを備える。更に、差動機構における一の回転要素(303)の回転速度に対し、第1回転電機の回転速度を減速可能な第1係合要素、及び第1回転電機の回転速度を増速可能な第2係合要素を含み、第1及び第2係合要素の係合状態に応じて、第1回転電機を回転不能に固定するロック状態及び回転可能な非ロック状態の間で切り替え可能である変速機構(400)と、ロック状態に切り替える場合、第1及び第2係合要素を共に係合するように変速機構を制御する変速制御手段(100)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、動力源として内燃機関及び電動発電機を備えるハイブリッド車両において、主に電動発電機の回転をロックするための制御に係る制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の装置として、ハイブリッド車両において、第1モータジェネレータが減速機構を介して動力分割機構に接続されたものが提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1では、動力分割機構におけるキャリアの回転速度及び第1モータジェネレータの回転速度の比たる変速比が、減速機構の作用により、少なくとも高低2段階に設定可能であるとされる。
【0003】
また、ハイブリッド車両において、差動歯車機構として構成される第1及び第2遊星歯車機構を備えるものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3では、第2モータジェネレータの回生発電時に、第1遊星歯車機構のキャリアと第1モータジェネレータとを接続可能な第1クラッチ、並びに第1遊星歯車機構及び第2遊星歯車機構のサンギアと第1モータジェネレータとを接続可能な第2クラッチの双方を切断状態とする。こうした切断状態とすることで、第1及び第2遊星歯車機構の各要素が空回りし、駆動輪から入力される動力の全てが、第2モータジェネレータの回生発電に割り当てられ、効率的に回生発電を行うことが可能であるとされる。
【0004】
また、ハイブリッド車両において、駆動モータと駆動車輪との間の動力伝達を遮断可能な第1及び第2ブレーキを備えるものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。特許文献4では、パーキングレンジが選択された場合、第1及び第2ブレーキの双方が開放状態になることで、駆動モータの回転を複数段に変速する変速装置におけるサンギアの回転が駆動軸に伝達されないニュートラル状態が現出されるとされる。
【0005】
更には、ハイブリッド車両において、差動機構に備えられた切り替えクラッチ或いは切り替えブレーキにより、無段変速状態と有段変速状態とに切り替えるものが提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5では、エンジン回転速度を増速して差動機構に入力する増速機構を備える。この増速機構の作用によりエンジン回転速度が増速する一方で、本来のエンジン出力におけるエンジントルクの最大値は保持される。このため、エンジントルクに対応する反力トルクを負担する第1モータジェネレータを比較的小型に構成することが可能であるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−120039号公報
【特許文献2】特開2005−119573号公報
【特許文献3】特開2009−096356号公報
【特許文献4】特開2004−353781号公報
【特許文献5】特開2006−298066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載のハイブリッド車両について、エンジンからの動力が常時、減速機構及び第1モータジェネレータを介して駆動輪に伝達される。このため、駆動系における動力循環が悪化し、動力の伝達効率が低下してしまうといった技術的問題点がある。
【0008】
ここで、ハイブリッド車両の駆動系について、典型的には、動力の伝達効率を向上させるべく、エンジンの回転速度と駆動軸の回転速度との比たる変速比を固定するように、第1モータジェネレータを回転不能なロック状態に切り替えるロック機構が設けられる。こうしたロック機構を、上記特許文献1のハイブリッド車両に新たに設けると、ハイブリッド車両の駆動系全体を大型化し兼ねないといった技術的問題点がある。
【0009】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、動力の伝達効率の低下を抑制しつつ、駆動系全体を小型に構成し得るハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、(i)内燃機関、(ii)該内燃機関との間で動力の入出力が可能な第1回転電機、及び(iii)車軸に繋がる駆動軸との間で動力の入出力が可能な第2回転電機を含む動力要素と、前記動力要素を連結する複数の回転要素を含み、該複数の回転要素が相互に差動回転可能である差動機構と、前記第1回転電機及び前記第2回転電機との間で電力の入出力が可能な蓄電手段と、前記第1回転電機と前記差動機構との間に設けられた歯車機構であって、前記複数の回転要素のうち当該歯車機構に連結される一の回転要素の回転速度に対し、前記第1回転電機の回転速度を減速可能な第1係合要素、及び前記第1回転電機の回転速度を増速可能な第2係合要素を含み、前記第1係合要素及び前記第2係合要素の係合状態に応じて、前記第1回転電機を回転不能に固定するロック状態及び回転可能な非ロック状態の間で切り替え可能である変速機構と、前記非ロック状態から前記ロック状態に切り替える場合、前記第1係合要素及び前記第2係合要素を共に係合するように前記変速機構を制御する変速制御手段とを備える。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力供給可能な動力要素として、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等、その物理的、機械的又は電気的構成を問わない各種の態様を採り得る、燃料の燃焼により動力を生成可能な機関としての内燃機関と、例えばモータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る第1及び第2回転電機とを少なくとも備えた車両である。
【0012】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0013】
本発明に係る差動機構は、典型的には、(I)第1回転電機に後述の変速機構を介して連結される一の回転要素たる第1回転要素(サンギア)、(II)駆動軸に連結される第2回転要素(ピニオンギア)及び(III)内燃機関に連結される第3回転要素(リングギア)を含む、相互に差動作用をなし得る複数の回転要素を備えており、係る差動作用により各回転要素の状態(端的には、回転可能であるか否か及び他の回転要素又は固定要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて、内燃機関と第1回転電機と駆動軸との間の動力伝達、端的にはトルクの伝達を行う機構である。差動機構に備わる複数の回転要素のうち、上述した第1から第3回転要素は、常時或いは選択的に、これらのうち二回転要素の回転速度が定まれば自ずと残余の一回転要素の回転速度が定まる回転二自由度の機構(尚、この差動機構に含まれる回転要素は必ずしもこれら三要素に限定されない)を構築する。
【0014】
本発明に係る変速機構は、一の回転要素の回転を変速して第1回転電機に伝達するための変速機能に加えて、第1回転電機の回転を固定するためのロック機能を有する歯車機構に構成される。変速機構は、例えば2つの遊星歯車機構からなり、少なくとも第1及び第2係合要素を備える。第1及び第2係合要素の各々は、例えば湿式多板ブレーキ装置若しくはクラッチ装置、ドグクラッチ装置又は電磁カムロック式クラッチ装置等の各種態様を採り得る。第1及び第2係合要素の各々は、例えば物理的、機械的、電気的又は磁気的な各種係合力により、所定の回転要素を回転不能に固定する状態と、少なくとも係合力の影響を受けない、言い換えれば、係合力から開放された回転可能な状態との間で動作状態を切り替える機構である。こうした第1及び第2係合要素は、第1回転電機と共に又は第1回転電機に代わって、内燃機関のトルクに対応する反力トルクを負担する反力要素として機能し得るものであり、内燃機関の回転速度制御機構としても機能し得るものである。
【0015】
本発明に係る変速制御手段は、上記ECU(Electronic Controlled Unit)等に含まれており、主として、当該ハイブリッド車両の駆動系における動力伝達を効率的に行うべく、変速機構を制御して、第1及び第2係合要素の係合状態を設定又は変更する。具体的には、第1及び第2係合要素が共に係合するように係合状態を設定すると、第1回転電機が非ロック状態からロック状態(所謂、MG1ロックと称される状態)に切り替わる。これに伴って、一の回転要素もまたロック状態に切り替わる。即ち、第1回転電機及び一の回転要素の回転速度が共にゼロとなる。こうしたロック状態では、一の回転要素たる第1回転要素の回転速度(即ち、ゼロ)と、車速と一義的な回転状態を示す第2回転要素の回転速度とによって、残余の内燃機関に連結された第3回転要素における回転速度は一義に規定される。言い換えれば、内燃機関の回転速度と駆動軸の回転速度との比たる変速比が一義に規定される場合には、動力循環と称される、当該ハイブリッド車両の駆動系全体のシステム効率を低下させ得る非効率な電気パスの発生を回避することが可能である。
【0016】
上述したように、本発明によれば、変速機構における第1及び第2係合要素を共に係合することで、MG1ロックを実現し得る。これにより、ロック機構を別途設ける必要がないので、当該ハイブリッド車両の駆動系全体の小型化を図ることが可能である。
【0017】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の一の態様では、前記変速制御手段は、前記第1係合要素を開放すると共に前記第2係合要素を係合することで前記第1回転電機の回転速度を増速させる第1モード、又は前記第1係合要素を係合すると共に前記第2係合要素を開放することで前記第1回転電機の回転速度を減速させる第2モードに、前記変速機構の動作モードを設定可能であって、前記非ロック状態から前記ロック状態に切り替える際に、前記第1モード及び前記第2モードに順番に前記動作モードを設定した後に、前記第1係合要素及び前記第2係合要素を共に係合するように前記変速機構を制御する。
【0018】
ここで、第1及び第2係合要素に係る「開放する」とは、各係合要素が固定可能である所定の回転要素をその係合力から開放する動作を示す。この態様によれば、変速制御手段は、第1モード又は第2モードに変速機構の動作モードを設定することが可能である。即ち、変速機構には、第1及び第2係合要素の係合状態に応じて、一の回転要素の回転速度に対し、第1回転電機の回転速度を増速するための第1モード、又は第1回転電機の回転速度を減速するための第2モードに設定するようにギア比が設定されている。
【0019】
また、この態様によれば、非ロック状態からロック状態への切り替えが行われる際には、変速制御手段により、先ず動作モードが第1モードに設定又は変更されることで、第1回転電機の回転速度が増速する。続いて、動作モードが第2モードに設定されることで、第1回転電機の回転速度が減速する。この後、第1及び第2係合要素が共に係合され、第1回転電機及び一の回転要素の回転速度がゼロとなり、ロック状態への切り替えが完了したこととなる。ここに、ロック状態に係る「切り替える際」とは、切り替えの過程における一時点を含む短い所定期間、例えば、この一時点の直後及び直前の少なくとも一方を含む所定期間を意味してもよい。或いは、この一時点を含むことなくその直後を含む一時点若しくは所定期間又はその直前を含む一時点若しくは所定期間を意味してもよい。
【0020】
このように、非ロック状態からロック状態に切り替える際に、動作モードを第1モード、第2モードに順番に設定した後にロック状態に切り替えることで、エンジン動作点を最適燃費動作線上に維持しつつ、第1回転電機の回転速度をゼロに近づける。これは、エンジン動作点が最適燃費動作線上にある時間を延長することとなる。これにより、燃費及びドライバビリティの向上を図ることが可能である。
【0021】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記変速制御手段は、前記第1係合要素及び前記第2係合要素を共に開放することで、前記一の回転要素を回転可能にしつつ前記第1回転電機の回転速度をゼロに設定可能であるEVモードに、前記動作モードを設定可能である。
【0022】
この態様によれば、変速制御手段は、第1モード及び第2モードに加えてEVモードに変速機構の動作モードを設定することが可能である。ここに、当該ハイブリッド車両において、EVモードに設定される走行状態とは、典型的に、内燃機関の回転速度をゼロとし、第2回転電機からの動力のみで走行する状態、即ち、EV走行を示す。こうしたEV走行時に、第2回転電機と一義的な回転状態を示す一の回転要素の回転速度が一義に規定される。また、変速制御手段により、動作モードがEVモードに設定されることで、一の回転要素と第1回転電機との間の動力伝達のための経路が分断される。すると、第1回転電機の回転速度がゼロを含む自由な値に設定可能となる、所謂フリーの状態となる。これにより、EV走行時に、差動機構と第1回転電機とが直接に連結された場合に生じる第1回転電機の引き摺り(即ち、空転)がなくなり、エネルギー損失が解消される分、エネルギー効率を向上させることが可能である。
【0023】
第1及び第2モードに変速機構の動作モードを設定可能である態様では、前記変速制御手段は、前記駆動軸に要求される要求パワーの増大により前記ロック状態から前記非ロック状態に切り替える場合、前記第1モードに前記動作モードを設定してもよい。
【0024】
このように構成すれば、要求パワーの増大に伴って非ロック状態への切り替えを行う場合、変速制御手段により、動作モードが第1モードに設定されることで、第1回転電機が負担するべき、内燃機関のトルクに対応する反力トルクとして必要とされるトルク(以下、単に「必要トルク」と称する)を小さくする。これにより、エンジン動作点を高回転、低トルク側に変更する必要がないため、ドライバビリティの向上を図ることが可能である。
【0025】
第1及び第2モードに変速機構の動作モードを設定可能である態様では、前記変速制御手段は、前記駆動軸に要求される要求パワーの減少により前記ロック状態から前記非ロック状態に切り替える場合であって、前記動作モードを、前記蓄電手段における蓄電可能量の絶対値が所定量の絶対値より小さい場合、前記第1モードに設定し、前記蓄電可能量の絶対値が所定量の絶対値より大きい場合、前記第2モードに設定してもよい。
【0026】
このように構成すれば、要求パワーの減少に伴って非ロック状態への切り替えを行う場合、変速制御手段により、蓄電手段の蓄電可能量に応じて、動作モードが第1又は第2モードに設定される。具体的には、蓄電可能量の絶対値が所定量の絶対値より小さい場合、動作モードが第1モードに設定されることで、第1回転電機の回転速度が、ロック状態時のゼロから比較的大幅に変化する。第1回転電機は、回転速度を増速するための回転速度変化量分、自身のエネルギーを消費することになるので、回転速度変化量が大きい分、回生エネルギーを比較的小さく出力する。すると、蓄電手段は、小さく出力された回生エネルギーを蓄電する。
【0027】
他方、蓄電可能量の絶対値が所定量の絶対値より大きい場合、動作モードが第2モードに設定されることで、第1回転電機の回転速度が、ロック状態時のゼロから比較的小幅に変化する。第1回転電機は、回転速度変化量が小さい分、回生エネルギーを比較的大きく出力する。すると、蓄電手段は、大きく出力された回生エネルギーを蓄電する。
即ち、蓄電可能量の絶対値が所定値の絶対値より小さい場合、蓄電手段における実際の蓄電量が制御目標範囲の上限値(即ち、制御上限)を超過しないように、回生エネルギーの出力を小さくするべく動作モードを第1モードに設定する。他方、蓄電可能量の絶対値が所定値の絶対値より大きい場合、実際の蓄電量が制御上限を超過するまでもなく蓄電可能量に余裕があるとして、回生エネルギーの出力を大きくするべく動作モードを第2モードに設定する。ここに、「蓄電可能量」とは、蓄電手段に設定される蓄電量の制御目標範囲において、制御上限まで蓄電可能である蓄電量を示す。この蓄電可能量は、蓄電手段の状態(即ち、バッテリ温度や蓄電残量SOC等)に応じて変化する、例えばバッテリパワーの入力制限値である。具体的には、例えばバッテリ温度が高温又は低温である場合、その入力制限値が少量に制限されることで、蓄電手段の回生能力が小さくなる。こうした蓄電可能量に係る「所定量」とは、実際の蓄電量が制御上限を超越することによる蓄電手段の劣化を防止するべく、回生エネルギーを蓄電するのに十分な蓄電状態にあるか否か、言い換えれば、蓄電手段が一定の回生エネルギーを蓄電する程に蓄電可能量を保有しているか否かを判断するための蓄電可能量の上限値である。言い換えれば、回生エネルギー出力が比較的大きい第2モードに設定し、最大量の回生エネルギーが出力されたとしても、実際の蓄電量が制御上限を超過することがないように設定された値である。この所定量は、蓄電手段の状態によらず、過去の走行履歴等から算出、特定或いは想定される、例えばバッテリパワーの入力想定値である。こうした所定量及び蓄電可能量は共に負の数である。この場合、具体的には、変速制御手段により、蓄電可能量が所定量より負の側で大きい(即ち、絶対値では小さい)場合、第1モードが設定され、蓄電可能量が所定量より負の側で小さい(即ち、絶対値では大きい)場合、第2モードが設定される。
【0028】
上述したように、要求パワーの減少に伴って非ロック状態への切り替えを行う場合、蓄電手段の蓄電可能量に応じて第1又は第2モードを設定することで、第1回転電機の回転速度変化量が変化し、回生エネルギー量を調整することが可能である。これにより、蓄電量が蓄電手段における制御目標範囲の上限値を超過する事態を回避し、蓄電手段の劣化を防止することが可能である。
【0029】
発明に係るハイブリッド車両の制御装置の他の態様では、前記変速機構は、前記第1係合要素を含む第1遊星歯車機構と、前記第2係合要素を含む第2遊星歯車機構とを備えており、前記第1遊星歯車機構は、前記第1回転電機に連結される第1サンギアと、前記第1係合要素に連結される第1ピニオンギアと、第1リングギアとを備え、前記第2遊星歯車機構は、前記一の回転要素に連結される第2サンギアと、前記第1リングギア及び前記第2係合要素に連結される第2ピニオンギアと、前記第1ピニオンギアと共に前記第1係合要素に連結される第2リングギアとを備える。
【0030】
この態様によれば、第1及び第2遊星歯車機構は、各々が第1又は第2の係合要素に加えて、サンギア、ピニオンギア及びリングギアを備えており、各係合要素の径、相互の連動に応じて、第1回転電機の回転速度を増速又は減速する変速機能と、第1回転電機をロック状態及び非ロック状態の間で切り替えるロック機構とを備える。即ち、本発明の変速機構は、上記第1及び第2遊星歯車機構を備えるものに限定されず、上述したような変速機能及びロック機能を備えていれば、他の構成であっても構わない。
【0031】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド車両の構成を概念的に表すブロック図である。
【図2】図1のハイブリッド車両におけるハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表す構成図である。
【図3】図2のハイブリッド駆動装置における第1及び第2モード時の動作状態を説明する動作共線図である。
【図4】図2のハイブリッド駆動装置におけるMG1ロック時の動作状態を説明する動作共線図である。
【図5】図2のハイブリッド駆動装置におけるEVモード時の動作状態を説明する動作共線図である。
【図6】本発明の実施形態におけるMG1ロック切り替え制御処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施形態におけるMG1ロック解除制御処理を示すフローチャートである。
【図8】図3の第1及び第2モードに応じたモータジェネレータMG1の回転速度変化量を表す動作共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態>
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照し、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両10の構成について説明する。ここに、図1は、ハイブリッド車両10の構成を概念的に表すブロック図である。
【0034】
図1において、ハイブリッド車両10は、主として、ECU100、PCU11、バッテリ12、車速センサ13、アクセル開度センサ14及びハイブリッド駆動装置1000を備えた、本発明に係る「ハイブリッド車両」の一例である。
【0035】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両10の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するMG1ロック切り替え制御処理及びMG1ロック解除制御処理を実行可能に構成されている。
【0036】
尚、ECU100は、本発明に係る「変速制御手段」の一例たるMG1変速制御部100aと、走行モード判定部100bとを有する一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等の各種コンピュータシステムとして構成されていてもよい。
【0037】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能に構成されたインバータを含む。PCU11は、バッテリ12と各モータジェネレータMG1,MG2との間の電力の入出力を、或いは各モータジェネレータMG1,MG2相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータMG1,MG2相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0038】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力を供給すると共に、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2の回生による発電電力を蓄電することが可能に構成された、本発明に係る「蓄電手段」の一例である。バッテリ12には、SOCセンサ12aが組み付けられている。
【0039】
SOCセンサ12aは、バッテリ12の蓄電状態を示す値として蓄電残量SOC(State OfCharge)(以後、単に「SOC」と称する)を検出することが可能に構成される。SOCセンサ12aは、ECU100と電気的に接続されており、検出されたSOCは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0040】
車速センサ13は、ハイブリッド車両10の車速Vを検出することが可能に構成されたセンサである。車速センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0041】
アクセル開度センサ14は、ハイブリッド車両10の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0042】
<ハイブリッド駆動装置の構成>
ハイブリッド駆動装置1000は、ハイブリッド車両10のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置1000の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置1000の構成を概念的に表す構成図である。
【0043】
図2において、ハイブリッド駆動装置1000は、エンジン200、動力分割機構(言い換えれば、プラネタリギア部)300、MG1変速機構(言い換えれば、MG1変速ギア部)400、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を備える。
【0044】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両10の主たる動力源として機能するように構成されている。尚、本発明における「内燃機関」とは、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等、その物理的、機械的又は電気的構成を問わない各種の態様を採り得る、燃料の燃焼により動力を生成可能な機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明の内燃機関は、各種の態様を採り得る。
【0045】
動力分割機構300は、中心部に設けられたサンギア303と、サンギア303の外周に同心円状に設けられたリングギア301と、サンギア303とリングギア301との間に配置されてサンギア303の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギア305と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するプラネタリキャリア306とを備えた、本発明に係る「差動機構」の一例たる動力伝達装置である。
【0046】
ここで、サンギア303は、サンギア軸304を介してMG1変速機構400の一回転要素に結合される。また、リングギア301は、駆動軸302、及び駆動軸302に固定されたギア501に噛合するギア502を介してモータジェネレータMG2のロータ(符合は省略)に連結される。リングギア301の回転速度はモータジェネレータMG2の回転速度に対し一定のギヤ比に固定される。更に、プラネタリキャリア306は、エンジン200のクランクシャフト205に結合されており、その回転速度はエンジン200の機関回転速度Neと等価である。
【0047】
駆動軸302は、ハイブリッド車両10の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFLと結合される。モータジェネレータMG2から駆動軸302に出力されるモータトルクは、各ドライブシャフトSFR及びSFLへと伝達され、同様に各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、駆動軸302を介してモータジェネレータMG2に入力される。即ち、モータジェネレータMG2の回転速度は、ハイブリッド車両10の車速Vと一義的な関係にある。
【0048】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200が発生させる動力を、プラネタリキャリア306及びピニオンギア305によって、サンギア303とリングギア301とに所定の比率(各ギア相互間のギア比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0049】
尚、本発明に係る「差動機構」の実施形態上の構成は、動力分割機構300のものに限定されない。例えば、本発明に係る差動機構は、複数の遊星歯車機構を備え、一の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素が、他の遊星歯車機構に備わる複数の回転要素の各々と適宜連結され、一体の差動機構を構成していてもよい。
【0050】
MG1変速機構400は、第1及び第2遊星歯車機構410及び420を備える。第1遊星歯車機構410は、サンギア軸401を介してモータジェネレータMG1のロータに結合されるサンギアS1と、サンギアS1の外周に同心円状に設けられたリングギアR1と、サンギアS1とリングギアR1との間に配置されてサンギアS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギアP1と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するプラネタリキャリアC1と、プラネタリキャリアC1の回転を停止可能なブレーキB1とを備える。
【0051】
第2遊星歯車機構420は、動力分割機構300のサンギア軸304に結合されるサンギアS2と、サンギアS2の外周に同心円状に設けられたリングギアR2と、サンギアS2とリングギアR2との間に配置されてサンギアS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギアP2と、これら各ピニオンギアの回転軸を軸支するプラネタリキャリアC2と、プラネタリキャリアC2の回転を停止可能なブレーキB2とを備える。
【0052】
第1及び第2遊星歯車機構410及び420の連結について、第1遊星歯車機構410のプラネタリキャリアC1と、第2遊星歯車機構420のリングギアR2とが結合されており、第1遊星歯車機構410のリングギアR1と、第2遊星歯車機構420のサンギアS2とが連結されている。
【0053】
ブレーキB1及びB2の各々は、二枚のブレーキ板からなり、油圧駆動装置からの油圧の供給により、二枚のブレーキ板の間隔を広狭可能に構成されている。各ブレーキB1,B2は、二枚のブレーキ板の間隔を狭める場合、プラネタリキャリアC1,C2の回転を固定する係合状態と、その間隔を広げる場合、プラネタリキャリアC1,C2の回転を可能にする開放状態との間で、プラネタリキャリアC1,C2との状態を切り替えるブレーキ機構の一例である。
【0054】
MG1変速機構400は、ブレーキB1及びB2の係合状態に応じて、モータジェネレータMG1の回転速度を変速する変速機能と併せて、モータジェネレータMG1を回転不能に固定するロック機能を備える。尚、本発明に係る「変速機構」の実施形態上の構成は、MG1変速機構400のものに限定されず、変速機能に併せてロック機能を備えていれば、どのような構成であってもよい。
【0055】
モータジェネレータMG1は、本発明に係る「第1回転電機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、本発明に係る「第2回転電機」の一例たる電動発電機であり、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有していてもよいし、他の構成を有していてもよい。
【0056】
<MG1変速機構の動作モード>
本実施形態に係るハイブリッド車両10では、MG1変換機構400におけるブレーキB1及びB2の係合状態に応じて、MG1変速機構400の動作モードを、第1モード(ロー)、第2モード(ハイ)、MG1ロック及びEVモード(フリー)のうちのいずれかに設定することが可能である。
【0057】
次に、図3及び図4を参照し、第1及び第2モード、MG1ロック並びにEVモードについて説明する。ここに、図3及び図4は共通して、ハイブリッド駆動装置1000の各部の動作状態を説明する動作共線図である。具体的には、図3(i)は、第1モードでの動作状態を示し、図3(ii)は、第2モードでの動作状態を示し、図4は、MG1ロックでの動作状態を示し、図5は、EVモードでの動作状態を示す。尚、図3及び図4において、図2と重複する要素に対し同一の符号を付して、その説明を適宜省略することとする。
【0058】
図3及び図4において、縦軸は回転速度を表しており、横軸は左から順にモータジェネレータMG1、ブレーキB1、ブレーキB2、サンギア303、エンジン200及びモータジェネレータMG2が表されている。サンギア303からモータジェネレータMG2までの領域には、動力分割機構300における動力伝達が示されている。ここで、動力分割機構300は、遊星歯車機構により構成されており、サンギア303、プラネタリキャリア306(即ち、実質的にエンジン200)及びリングギア301(即ち、実質的にモータジェネレータMG2)のうち二要素の回転速度が定まれば、残余の一要素の回転速度が必然的に決定される。即ち、共線図上において、サンギア303、エンジン200及びモータジェネレータMG2の各要素の動作状態は、一の直線(動作共線)によって表すことができる。
【0059】
例えば、図3(i)において、モータジェネレータMG2の動作点を図示白丸m1とし、サンギア303の動作点が図示白丸m3であるとすれば、エンジン200の動作点は必然的に図示白丸m2となる。ここで、車速V(即ち、モータジェネレータMG2の回転速度と一義的である)を一定とすれば、サンギア303の回転速度を制御することで、エンジン200の動作点が増速側又は減速側に変化する。
【0060】
サンギア303からモータジェネレータMG1までの領域には、MG1変速機構400における動力伝達が示されている。ここで、MG1変速機構400は、第1及び第2遊星歯車機構410,420を含んで構成されており、サンギア303、ブレーキB2、ブレーキB1及びモータジェネレータMG1のうち二要素の回転速度が定まれば、残余の2要素の回転速度が必然的に決定される。即ち、共線図上において、サンギア303、ブレーキB2、ブレーキB1及びモータジェネレータMG1の各要素の動作状態は、一の直線(動作共線)によって表すことができる。尚、図3及び図4における図示「+」(プラス)は、回転速度が正回転(増速)する側を示す。即ち、サンギア303、エンジン200及びモータジェネレータMG2について、ゼロより上方が増速側を表すが、一方で、MG1については、ゼロより下方が増速側を表す。
【0061】
図3(i)において、第1モードでは、ブレーキB2が係合状態(即ち、プラネタリキャリアC2の回転速度がゼロ)にあり、ブレーキB1が開放状態にある。この場合、サンギア303の動作点が図示白丸m3であり、ブレーキB2の動作点がゼロであるので、モータジェネレータMG1の動作点が図示白丸m61となる。即ち、ブレーキB2がゼロを取ることにより動作共線の傾きが大きくなることで、モータジェネレータMG1の回転速度がサンギア303の回転速度に対して増速する。ここで、モータジェネレータMG1のトルクは、必要トルクが一定である場合、その回転速度に反比例する。従って、モータジェネレータMG1の回転速度が増速する場合、モータジェネレータMG1は、反力トルクとしての必要トルクの出力が比較的小さい、所謂「ロー」の状態となる
図3(ii)において、第2モードでは、ブレーキB1が係合状態(即ち、プラネタリキャリアC1の回転速度がゼロ)にあり、ブレーキB2が開放状態にある。この場合、サンギア303の動作点が図示白丸m3であり、ブレーキB1の動作点がゼロであるので、モータジェネレータMG1の動作点が図示白丸m62となる。即ち、ブレーキB1がゼロを取ることにより動作共線の傾きが小さくなることで、モータジェネレータMG1の回転速度がサンギア303の回転速度に対して減速する。従って、モータジェネレータMG1の回転速度が減速する場合、モータジェネレータMG1は、必要トルクの出力が比較的大きい、所謂「ハイ」の状態となる。
【0062】
図4において、MG1ロックでは、ブレーキB1及びB2が共に係合状態(即ち、プラネタリキャリアC1及びC2の回転速度がゼロ)にある。この場合、ブレーキB1及びB2の動作点と共に、モータジェネレータMG1及びサンギア303の動作点がゼロとなる。即ち、モータジェネレータMG1及びサンギア303の回転が共に固定され(即ち、ロック状態とされ)、MG1ロックの状態となる。
【0063】
図5において、モータジェネレータMG2の出力のみで走行するべくエンジン200の動作点がゼロであるEV走行時に設定されるEVモードでは、ブレーキB1及びB2が共に開放状態にあることで、サンギア303とモータジェネレータMG1との間の動力伝達経路が分断される。この場合、モータジェネレータMG2の動作点、図示白丸m12により一義に規定されるサンギア303の動作点、図示白丸m32に対して、モータジェネレータMG1の動作点が自由に設定可能となる。従って、モータジェネレータMG1が不要に回転することがなく、回転速度がゼロ(所謂「フリー」)の状態となる。
【0064】
<実施形態の走行モード>
本実施形態では、上述したようにモータジェネレータMG1の回転を制御するMG1変速機構400を回転速度制御装置として利用し、エンジン200を所望の動作点で動作させることが可能である。エンジン200の回転速度(即ち、機関回転速度)Neをある程度の範囲で自由に選択可能であれば、機関回転速度Neと駆動軸302との比たる変速比を、少なくともある程度の範囲で自由に設定することが可能となり、動力分割機構300を一種のCVT(Continuously Variable Transmission:無段変速装置)として機能させることができる。このように変速比を自由に選択可能な走行モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点は、基本的に、エンジンにおける要求出力パワー毎にエンジン200の燃料消費率が最小となる最適燃費動作点(言い換えれば、最適燃費動作線上)に制御されるように、動作モードを第1又は第2モードに設定することが可能である。
【0065】
ここで、仮に、MG1変速機構400を介さずに動力分割機構300とモータジェネレータMG1とが直接に連結される構成において、無段変速モードが選択されている場合、モータジェネレータMG2の回転速度が高いものの機関回転速度Neが低くて済むような運転条件において、モータジェネレータMG1の動作点を、負回転側に設定する必要が生じ得る。この場合、モータジェネレータMG1は、エンジン200の反力トルクとして負トルクを出力しており、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。モータジェネレータMG1が力行状態となると、電力収支のバランスを取るべく、モータジェネレータMG2が正回転負トルクの状態となって発電状態となる。この時、ドライブシャフトに供給するべき要求駆動力を保持するべく、エンジン200のトルクをより大きくする必要がある。このような状態では、駆動軸302が要求駆動力を出力するべく、エンジン200の直達トルクが増大すると、モータジェネレータMG1のトルクがより増大することとなる。より増大されたトルクでモータジェネレータMG1を力行し、これに必要とされる電力を補うべく、モータジェネレータMG2を発電するといった、所謂「動力循環」と称される無駄な電気パスが生じることとなる。こうした動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置1000における動力の伝達効率ηtが低下してハイブリッド駆動装置1000のシステム効率ηsys(例えば、エンジン200の熱効率ηe×伝達効率ηt等として定義される)が低下し、エンジン200における燃料消費量が増加してしまう。
【0066】
そこで、上述した動力循環が生じ得る運転領域においては、図4に示すMG1ロックが設定される。モータジェネレータMG1がロック状態となると、必然的にサンギア303もまたロック状態となり、モータジェネレータMG1及びサンギア303の回転速度はゼロとなる。このため、エンジン200の機関回転速度は、車速Vと一義的なモータジェネレータMG2の回転速度とサンギア303(モータジェネレータMG1)の回転速度とにより一義的に決定され、変速比が一定となる。このようにモータジェネレータMG1がロック状態にある場合、即ち、MG1ロックに対応する走行モードが、固定変速モードである。
【0067】
固定変速モードでは、エンジン200のトルク(即ち、機関トルク)に対応する反力トルクは、MG1変速機構400の物理的な制動力、即ち、ブレーキB1及びB2の係合力に代替され、モータジェネレータMG1を発電状態にも力行状態にも制御する必要はなくなり、モータジェネレータMG1は停止される。従って、基本的にモータジェネレータMG2の出力トルクがゼロに設定され、モータジェネレータMG2は空転状態となる。結局、固定変速モードでは、ハイブリッド駆動装置1000の出力トルク(駆動軸302に供給されるトルク)は、エンジン200の出力トルクのうち、動力分割機構300により駆動軸302側に分割された、直達トルクのみとなる。このように、固定変速モードでは、エンジン200からの直達トルクのみがハイブリッド車両10の駆動トルクとなり、ハイブリッド駆動装置1000は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、伝達効率ηtが上昇する。
【0068】
<MG1ロック切り替え制御処理>
本実施形態では、固定変速モード(即ち、MG1ロック)への切り替えが行われる過程に、無段変速モードにおける最適燃費動作点を維持するべく、ECU100は、MG1ロック切り替え制御処理を実行する。
【0069】
図6を参照し、本実施形態におけるMG1ロック切り替え制御処理について説明する。ここに、図6は、MG1ロック切り替え制御処理を示すフローチャートである。
【0070】
図6において、ECU100の走行モード判定部100bは、先ず、車速V及びアクセル開度Taに基づいて固定変速モード(即ち、MG1ロック)への切り替え要求があるか否かを判定する(ステップS11)。この時、ハイブリッド駆動装置1000の動作モードについて、EV走行中であればEVモードに設定されており、EV走行中でなければ第1又は第2モードに設定されている。ステップS11の判定の結果、MG1ロックへの切り替え要求がないと判定された場合(ステップS11:NO)、再度ステップS11の処理を実行する。
【0071】
一方、ステップS11の判定の結果、MG1ロックへの切り替え要求があると判定された場合(ステップS11:YES)、ECU100のMG1変速制御部100aは、ブレーキB1を開放状態にすると共にブレーキB2を係合状態にすることで図3(i)の第1モードに動作モードを設定する(ステップS12)。この設定により、モータジェネレータMG1の回転速度がサンギア303の回転速度に対し増速する。続いて、MG1変速制御部100aは、ブレーキB1を係合状態にすると共にブレーキB2を開放状態にすることで、図3(ii)の第2モードに動作モードを設定する(ステップS13)。この設定により、モータジェネレータMG1の回転速度がサンギア303の回転速度に対し減速する。この後、MG1変速制御部100aは、ブレーキB1及びB2を共に係合状態にすることで図4のMG1ロックに動作モードを設定する(ステップS14)。この設定により、モータジェネレータMG1及びサンギア303について、回転速度がゼロになるロック状態への切り替えがなされると、一連のMG1ロック切り替え制御処理が終了する。
【0072】
本実施形態のMG1ロック切り替え制御処理によれば、MG1ロックへの切り替えを行う際に、第1モード、第2モードに順番に設定した後にロック状態に切り替えることで、エンジン動作点を最適燃費動作点に維持しつつ、第1回転電機の回転速度をゼロに近づけることで、エンジン動作点が最適燃費動作線上にある時間を延長する。これにより、燃費及びドライバビリティの向上を図ることが可能である。
【0073】
<MG1ロック解除制御処理>
本実施形態では、固定変速モード(即ち、MG1ロック)の解除が行われる過程に、ドライバビリティの向上及びバッテリ12の劣化防止を実現するべく、ECU100は、MG1ロック解除制御処理を実行する。
【0074】
図7を参照し、本実施形態におけるMG1ロック解除制御処理について説明する。ここに、図7は、MG1ロック解除制御処理を示すフローチャートである。
【0075】
図7において、走行モード判定部100bは、先ず、車速V及びアクセル開度Taに基づいて固定変速モード(即ち、MG1ロック)から無段変速モード(即ち、CVT)への切り替え要求があるか否かを判定する(ステップS21)。この判定の結果、CVTへの切り替え要求がないと判定された場合(ステップS21:NO)、再度ステップS21の処理を実行する。
【0076】
一方、ステップS21の判定の結果、CVTへの切り替え要求があると判定された場合(ステップS21:YES)、ECU100は、車速V及びアクセル開度Taに基づいて算出される、駆動軸302における要求パワーが増加する又は減少するかを判定する(ステップS22)。この判定の結果、要求パワーが増加すると判定された場合、MG1変速制御部100aは、ブレーキB1を開放状態にすると共にブレーキB2を係合状態にする図3(i)の第1モードに動作モードを設定する(ステップS24)。この設定により、モータジェネレータMG1について、反力トルクとしての必要トルクを小さくすることが可能である。これにより、CVTへの切り替えがなされると、一連のMG1ロック解除制御処理が終了する。
【0077】
一方、ステップS22の判定の結果、要求パワーが減少すると判定された場合(ステップS22:減)、ECU100は、バッテリ12の充電可能量(即ち、本発明に係る「蓄電可能量」の一例)Winの絶対値が充電可能上限値(即ち、本発明に係る「所定量」の一例)Win0の絶対値より小さいか否かを判定する(ステップS23)。ここで、充電可能量Winとは、バッテリ12において実際に充電可能な充電量を負の数で示す。これに対し、充電可能上限値Win0とは、バッテリ12における制御目標範囲において、一定の回生エネルギーを充電する程に十分な充電可能量Winを保有可能か否かを判断するための充電可能量の上限値を負の数で示す。この判定の結果、充電可能量Winの絶対値が充電可能上限値Win0の絶対値より小さいと判定された場合(ステップS23:Yes)、十分な充電可能量Winを保有しておらずバッテリ12の回生能力が低いため、MG1変速制御部100aは、図3(i)の第1モードに動作モードを設定することで(ステップS24)、モータジェネレータMG1の回転速度が比較的大幅に変化し、モータジェネレータMG1における回生エネルギーの生成が比較的少量となる。この時、回生エネルギーの一部をモータジェネレータMG1の回転エネルギーとして蓄えることで、ブレーキのために熱として捨ててしまうエネルギー量を低減することが可能である。これにより、CVTへの切り替えがなされると、一連のMG1ロック解除制御処理が終了する。
【0078】
一方、ステップS23の判定の結果、充電可能量Winの絶対値が充電可能上限値Win0の絶対値より大きいと判定された場合(ステップS23:No)、十分な充電可能量Winを保有しておりバッテリ12の回生能力が高いため、図3(ii)の第2モードに動作モードを設定することで(ステップS25)、モータジェネレータMG1の回転速度が比較的小幅に変化し、モータジェネレータMG1における回生エネルギーの生成が比較的大量となる。これにより、CVTへの切り替えがなされると、一連のMG1ロック解除制御処理が終了する。
【0079】
ここで、図8を参照し、充電可能量Winに応じた第1又は第2モードの設定により、モータジェネレータMG1において生成される回生エネルギーの差異について説明する。ここに、図8は、図3から図5と同様にして、ハイブリッド駆動装置1000の各部の動作状態を説明する動作共線図である。具体的には、図8(i)は、充電可能量Winの絶対値が充電可能上限値Win0の絶対値より小さい場合に設定される第1モードでの動作状態を示し、図8(ii)は、充電可能量Winの絶対値が充電可能上限値Win0の絶対値より大きい場合に設定される第2モードでの動作状態を示す。
【0080】
図8(i)において、充電可能量Winの絶対値が充電可能上限値Win0の絶対値より小さく、動作モードが第1モードに設定される場合、サンギア303の動作点が図示白丸m33であり、ブレーキB2の動作点がゼロであると、モータジェネレータMG1の動作点が図示白丸m63となる。即ち、ブレーキB2がゼロを取ることにより動作共線の傾きが大きくなることで、モータジェネレータMG1の回転速度がMG1ロック時のゼロから大幅に変化する。この大幅な変化は、モータジェネレータMG1の回転速度変化量が大きいことを示す。
【0081】
図8(ii)において、充電可能量Winの絶対値が充電可能上限値Win0の絶対値より大きく、第2モードが設定される場合、サンギア303の動作点が図示白丸m33であり、ブレーキB1の動作点がゼロであると、モータジェネレータMG1の動作点が図示白丸m64となる。即ち、ブレーキB1がゼロを取ることにより動作共線の傾きが小さくなることで、モータジェネレータMG1の回転速度がMG1ロック時のゼロから小幅に変化する。この小幅な変化は、モータジェネレータMG1の回転速度変化量が小さいことを示す。
【0082】
モータジェネレータMG1の回転速度変化量の大小は、モータジェネレータMG1の回転速度を規定値(即ち、図示白丸m63又はm64の値)まで増速するための運動エネルギー(言い換えれば、消費エネルギー)の大きさを示す。モータジェネレータMG1では、運動エネルギーが多く消費されれば(言い換えれば、モータジェネレータMG1自身に多く蓄えられれば)、回生エネルギーが少なく生成される。一方、運動エネルギーが少なく消費されれば、回生エネルギーが多く生成される。このように、モータジェネレータMG1の回転速度変化量が変化することで、バッテリ12に蓄電される回生エネルギー量を調整することが可能である。
【0083】
本実施形態のMG1ロック解除制御処理によれば、要求パワーの増大に伴ってMG1ロックを解除する場合、動作モードが第1モードに設定されることで、モータジェネレータMG1が負担するべき反力トルクとしての必要トルクが小さくなる。これにより、エンジン動作点を高回転、低トルク側に変更する必要がないため、ドライバビリティの向上を図ることが可能となる。
【0084】
また、要求パワーの減少に伴ってMG1ロックを解除する場合、バッテリ12の充電可能量Winに応じて第1又は第2モードが設定され、モータジェネレータMG1の回転速度が大幅又は小幅に変化する。これにより、モータジェネレータMG1の回転速度変化量に差異を生じさせることで、モータジェネレータMG1が生成する回生エネルギー量を調整することが可能である。これにより、バッテリ12における充電量が制御目標範囲の制御上限値を超過する事態を回避し、バッテリ12の劣化を防止することが可能である。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0086】
10…ハイブリッド車両、11…PCU、12…バッテリ、100…ECU、200…エンジン、300…動力分割機構、400…MG1変速機構、1000…ハイブリッド駆動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)内燃機関、(ii)該内燃機関との間で動力の入出力が可能な第1回転電機、及び(iii)車軸に繋がる駆動軸との間で動力の入出力が可能な第2回転電機を含む動力要素と、
前記動力要素を連結する複数の回転要素を含み、該複数の回転要素が相互に差動回転可能である差動機構と、
前記第1回転電機及び前記第2回転電機との間で電力の入出力が可能な蓄電手段と、
前記第1回転電機と前記差動機構との間に設けられた歯車機構であって、前記複数の回転要素のうち当該歯車機構に連結される一の回転要素の回転速度に対し、前記第1回転電機の回転速度を減速可能な第1係合要素、及び前記第1回転電機の回転速度を増速可能な第2係合要素を含み、前記第1係合要素及び前記第2係合要素の係合状態に応じて、前記第1回転電機を回転不能に固定するロック状態及び回転可能な非ロック状態の間で切り替え可能である変速機構と、
前記非ロック状態から前記ロック状態に切り替える場合、前記第1係合要素及び前記第2係合要素を共に係合するように前記変速機構を制御する変速制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記変速制御手段は、
前記第1係合要素を開放すると共に前記第2係合要素を係合することで前記第1回転電機の回転速度を増速させる第1モード、又は前記第1係合要素を係合すると共に前記第2係合要素を開放することで前記第1回転電機の回転速度を減速させる第2モードに、前記変速機構の動作モードを設定可能であって、
前記非ロック状態から前記ロック状態に切り替える際に、前記第1モード及び前記第2モードに順番に前記動作モードを設定した後に、前記第1係合要素及び前記第2係合要素を共に係合するように前記変速機構を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記変速制御手段は、前記第1係合要素及び前記第2係合要素を共に開放することで、前記一の回転要素を回転可能にしつつ前記第1回転電機の回転速度をゼロに設定可能であるEVモードに、前記動作モードを設定可能であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記変速制御手段は、前記駆動軸に要求される要求パワーの増大により前記ロック状態から前記非ロック状態に切り替える場合、前記第1モードに前記動作モードを設定する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記変速制御手段は、前記駆動軸に要求される要求パワーの減少により前記ロック状態から前記非ロック状態に切り替える場合であって、前記動作モードを、前記蓄電手段における蓄電可能量の絶対値が所定量の絶対値より小さい場合、前記第1モードに設定し、前記蓄電可能量の絶対値が所定量の絶対値より大きい場合、前記第2モードに設定する
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記変速機構は、前記第1係合要素を含む第1遊星歯車機構と、前記第2係合要素を含む第2遊星歯車機構とを備えており、
前記第1遊星歯車機構は、前記第1回転電機に結合される第1サンギアと、前記第1係合要素に連結される第1ピニオンギアと、第1リングギアとを備え、
前記第2遊星歯車機構は、前記一の回転要素に結合される第2サンギアと、前記第1リングギア及び前記第2係合要素に連結される第2ピニオンギアと、前記第1ピニオンギアと共に前記第1係合要素に連結される第2リングギアとを備える
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−179946(P2012−179946A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42322(P2011−42322)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】