説明

バッテリ上がり防止装置

【課題】エンジンを一旦停止した後の作業の再開時に、バッテリの電圧低下を防止してエンジンを確実に始動可能なバッテリ上がり防止装置を提供する。
【解決手段】バッテリ上がり防止装置60は、エンジンEと、これを駆動させる電動モータMと、これに電力を供給するバッテリBと、電動モータMによって駆動されたエンジンEからPTOを介して取り出された動力を受けて所定の作業を行う伸縮ブームとを有する移動式クレーン1に設けられる。バッテリ上がり防止装置60は、バッテリBの電圧を検出するバッテリ電圧センサ47と、エンジンEが停止状態にあるか否かを検出するエンジン停止センサ49と、PTOが作動状態にある時に、エンジン停止センサ49によりエンジンが停止状態にあると検出され、且つバッテリ電圧センサ47により検出された電圧値が所定値よりも小さくなると、エンジンEを始動させる下部コントローラ30とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと、エンジンを駆動させる電動モータと、電動モータに電力を供給するバッテリと、電動モータによって駆動されたエンジンからの動力を受けて所定の作業を行う作業部とを有するバッテリ上がり防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機には、エンジンから取り出した動力を受けて所定の作業を行うブーム等を備えたものが知られている(特許文献1参照)。この作業機には車体上に作業者が搭乗可能な運転キャビンが設けられ、この運転キャビン内には、ブーム等を操作する操作装置が設けられている。
【0003】
また作業機には、作業者がエンジン駆動状態のままで作業機から長時間離れた場合にエンジンを自動的に停止させるエンジン停止機能が備えられている。このエンジン停止機能は、操作装置が操作されず、且つ運転キャビンに作業者がいないことが同時に検出されたときから、予め設定された時間が経過すると、エンジンを停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−13425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来の作業機は、作業者がエンジンを掛けたままで作業機から離れると、前述した条件のもとでエンジンが自動的に停止するが、作業機に設けられたライトやエアコン等は、エンジンの始動とは関係なく、作業機に搭載されたバッテリから電力供給を受けて駆動するように構成されている。またエンジンは電動モータの駆動によって始動するが、この電動モータはバッテリからの電力を受けて駆動する。
【0006】
このため、エンジンが停止した状態で、ライトが点灯し、またエアコンが運転されると、バッテリの電圧が低下する。この状態が継続すると、ブームによって作業を再開するためにエンジンを始動させようとすると、電動モータが駆動せず、エンジンが掛からない事態が発生して、ブームによる作業ができなくなる。
【0007】
また、ブームが作業機に格納されていない状態のままで、作業者が作業機から離れてエンジンが自動的に停止した場合に、ライトの点灯等によってバッテリの電圧が低下すると、ブームの姿勢が変化してブームを安全側へ移動させようとしても、エンジンが始動せず、ブームの緊急回避的な操作ができない虞が生じる。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みて提案されたものであり、エンジンが停止した後の作業の再開時に、バッテリの電圧低下を防止してエンジンを確実に始動させることができるバッテリ上がり防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明のバッテリ上がり防止装置は、エンジンと、エンジンを駆動させる電動モータと、電動モータに電力を供給するバッテリと、電動モータによって駆動されたエンジンから取り出された動力を受けて所定の作業を行う作業部とを有する作業機のバッテリ上がり防止装置であって、バッテリの電圧を検出する電圧検出手段と、エンジンが停止状態にあるか否かを検出するエンジン停止状態検出手段と、エンジンを停止させる機能を有し、エンジンを停止させた状態で、エンジン停止状態検出手段によりエンジンが停止状態にあると検出されるとともに、電圧検出手段により検出された電圧値が所定値よりも小さくなると、エンジンを始動させるエンジン作動制御手段とを有することを特徴とする(請求項1)。
【0010】
また、本発明に係わる作業機には、エンジンから動力を取り出すPTOと、PTOを作動及び非作動させる際に操作されるPTOスイッチとが設けられ、エンジン制御手段は、PTOスイッチの作動操作によってPTOが作動状態にある時に、エンジン停止状態検出手段によりエンジンが停止状態にあると検出されるとともに電圧検出手段により検出された電圧値が所定値よりも小さくなるとエンジンを始動させることを特徴とする(請求項2)。
【0011】
また、本発明に係わる所定値はエンジンの始動及び作業機に搭載された電気部品を作動させるのに必要な大きさの電圧値であることを特徴とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係わるバッテリ上がり防止装置によれば、上記特徴を有することで、エンジンが停止した後の作業の再開時に、バッテリの電圧低下を防止してエンジンを確実に始動させることができる作業機のバッテリ上がり防止装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係わるバッテリ上がり防止装置のブロック図を示す。
【図2】本発明の一実施の形態に係わるバッテリ上がり防止装置を搭載した移動式クレーンの斜視図を示す。
【図3】本発明のバッテリ上がり防止装置の作動を説明するためのフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係わるバッテリ上がり防止装置の最良の形態を図1から図3に基づいて説明する。先ず、バッテリ上がり防止装置が搭載された作業機について概説する。本実施の形態は、作業機として多段伸縮ブームを搭載した移動式クレーンを例にして説明する。
【0015】
移動式クレーン1は、図2(斜視図)に示すように、車体3の前後の車体幅方向両側に車輪5を有して走行可能である。車体3の後側には旋回台7が旋回自在に設けられている。旋回台7は車体3に設けられた油圧モータ4(図2では記載省略)からの動力によって旋回可能である。旋回台7の一方側には運転キャビン8が設けられ、旋回台7の他方側には起伏シリンダ11を介して伸縮ブーム10が起伏可能に設けられている。
【0016】
車体3の前端部及び後端部には、車体3を安定支持するアウトリガ装置13が設けられている。アウトリガ装置13は、車体3または運転キャビン8に設けられたアウトリガ操作装置(図示省略)の操作によって、車体3を支持し及び車体3に格納可能に構成されている。
【0017】
伸縮ブーム10は複数のブーム部材を入れ子式に組み合わされて構成され、伸縮ブーム10内の伸縮シリンダ12(図2では記載省略)の伸縮によって伸縮動可能である。伸縮ブーム10の先端部にはワイヤWが繰り出し及び巻き取り可能に設けられ、ワイヤWにはフック15が吊り下げられている。伸縮ブーム10の伸縮及び起伏、ワイヤWの繰り出し及び巻き取り、旋回台7の旋回の各操作は、運転キャビン8内に設けられた作業部操作装置20によって操作可能になっている。車体3の一端側にはエンジンEが搭載され、エンジンEの動力によって作業機が走行可能であるとともに、伸縮ブーム10等の作動が可能である。
【0018】
このように構成された移動式クレーン1には、図1に示すように、エンジンEの作動を制御するとともにバッテリ上がりを防止する下部コントローラ30と、伸縮ブーム10や旋回台7等の作動を制御する作業部コントローラ40が備えられている。作業部コントローラ40は、作業部操作装置20の操作に応じて、起伏シリンダ11、伸縮シリンダ12、油圧モータ4等への作動油の給排制御を行う作動制御弁Vをコントロールする。
【0019】
また、作業部コントローラ40は、伸縮ブーム10の操作の有無や、伸縮ブーム10の先端に吊り下げられる吊荷の有無を検出するアイドリングストップセンサ43からの検出信号を下部コントローラ30に送る。即ち、作業部コントローラ40は、アイドリングストップセンサ43によって伸縮ブーム10の操作が無い状態が検出されたとき、又は伸縮ブーム10の操作が無くて且つ吊荷が無い状態が同時に検出されたときから所定時間経過すると、エンジンEを停止させる信号を下部コントローラ30に送り、下部コントローラ30はこの停止信号を受け取ると、ECUを介してエンジンEを停止させる。以下、エンジンEが自動的に停止された状態を「アイドリングストップ」と記す。なお、アイドリングストップセンサ43は、伸縮ブーム10の操作の有無や、伸縮ブーム10の先端に吊り下げられている吊荷の有無を検出する場合に限るものではなく、作業者が運転キャビン8から離れているか否かを検出するものを含んでもよい。
【0020】
下部コントローラ30には、エンジンEを始動又は停止させる際に操作されるエンジンスイッチ45(エンジンSW)と、エンジンEを駆動させる電動モータMに電力を供給するバッテリBの電圧値を検出可能なバッテリ電圧センサ47と、エンジンEが停止しているか否かを検出可能なエンジン停止センサ49とが電気的に接続されている。
【0021】
また下部コントローラ30には、エンジンEの作動をコントロールするECU、及びエンジンEから動力を取り出すパワーテイクオフ機構(PTO)を作動させる際に操作されるPTOスイッチ(PTO SW)が電気的に接続されている。ECUは、エンジンスイッチ45のON操作に応じてエンジンEに接続された電動モータMを駆動させてエンジンEを始動させ、また運転キャビン8内に設けられたアクセル9(図2参照)の操作に応じてエンジン回転数を制御する。電動モータMはバッテリBに電気的に接続され、バッテリBからの電力供給を受けて駆動してエンジンEを始動させる。なお、バッテリBの電圧の監視については後述する。
【0022】
エンジンEにはジェネレータGが接続され、ジェネレータGはバッテリBに電気的に接続されている。このため、エンジンEが始動すると、ジェネレータGによってバッテリBを充電することができる。
【0023】
エンジンEにはトランスミッションTMが接続されて、エンジンEの動力はトランスミッションTMにより変速されて図2に示す車輪5に伝達される。トランスミッションTMにはパワーテイクオフ機構(PTO)が組み込まれ、PTOスイッチがON操作されると、パワーテイクオフ機構(PTO)によって、エンジンEによる駆動先きを車輪5から油圧ポンプPに切り替えられる。
【0024】
油圧ポンプPから吐出する作動油は、油路51を介して作動制御弁Vに供給される。作動制御弁Vは、電磁式の方向切替弁であり、作業部コントローラ40からの信号に応じて油圧ポンプPから供給される作動油を対応する起伏シリンダ11等に給排制御を行う。
【0025】
下部コントローラ30は、前述したように、エンジンEの停止時に、バッテリBの電圧を監視し、バッテリ電圧が所定値よりも小さくなるとエンジンEを始動させてバッテリBを充電させる機能を有している。移動式クレーン1は、前述したように、作業が中断して伸縮ブーム10が非作動状態になり、アイドリングストップセンサ43からの信号に応じてエンジンEが停止しても、作業機に設けられたライトやエアコン等の電気部品53(図2参照)を、バッテリBからの電力供給によって点灯及び運転させることができる。また、下部コントローラ30や作業部コントローラ40は、エンジンEが停止してもPTOスイッチがONであれば、バッテリBから電量供給される。このため、この状態が継続すると、バッテリBの電圧が低下し、エンジンEを始動させようとしても、電動モータMが駆動しないため、エンジンEが掛からない虞が生じる。
【0026】
そこで、下部コントローラ30は、図3を更に追加して説明すると、アイドリングストップセンサ43からの停止信号を受け取っているか否かを判断し(ステップ100)、停止信号を受け取っている場合にはエンジンを停止させる(ステップ101)。停止信号を受け取っていない場合には、アイドリングストップセンサ43からの停止信号を受け取るまで、ステップ100を繰り返す。
【0027】
下部コントローラ30がエンジンEを停止させると、下部コントローラ30はバッテリ電圧センサ47からの検出値が所定値よりも小さいか否かを判断する(ステップ102)。ここで、所定値は、エンジンEの始動及び作業機に搭載されたライトやエアコン等の電気部品53の作動、及び下部コントローラ30や作業部コントローラ40等の電気部品を作動させるのに必要な大きさの電圧値である。
【0028】
下部コントローラ30は、ステップ102において、バッテリ電圧センサ47からの検出値が所定値よりも小さくなると、ECUを介してエンジンEを始動させる(ステップ103)。従って、ジェネレータGが作動してバッテリBを充電することができる。そして、バッテリ電圧値が所定値以上になるまで、ステップ104によってバッテリ電圧が監視される。そして、ステップ104において、バッテリ電圧が所定値以上になると、バッテリBの充電が終了する。また、ステップ102において、バッテリ電圧が所定値よりも小さくなると(バッテリ電圧が所定値以上になるとき)には、終了する。なお、下部コントローラ30、バッテリ電圧センサ47、エンジン停止センサ49を併せて、「バッテリ上がり防止装置60」と記す。
【0029】
このように、本願のバッテリ上がり防止装置60は、アイドリングストップの信号を受けてエンジンEを停止させた場合、バッテリBの電圧を監視し、バッテリ電圧が所定値よりも小さくなると、エンジンEを再始動させてバッテリBを充電させる。このため、エンジンEが停止した後に作業を再開する場合にエンジンEが始動しない事態を防止することができる。
【0030】
また、伸縮ブーム10が作業機に格納されていない状態のままで、下部コントローラ30がアイドリングストップの信号を受けてエンジンEを停止させた場合でも、バッテリ上がり防止装置60によってバッテリ電圧が監視され、バッテリ電圧が所定値よりも小さくなると、エンジンEを再始動させてバッテリBを充電させる。このため、例えば、伸縮ブーム10の姿勢が変化して、伸縮ブーム10を安全側へ移動させるためにエンジンEを掛ける際に、確実にエンジンEを始動させることができる。このため、伸縮ブーム10の緊急回避的な操作を確実に行うことができる。
【0031】
なお、前述した実施例では、エンジンEを停止させる機能として、アイドリングストップによるエンジン停止状態でバッテリ電圧を監視する内容を記載したが、エンジン停止はアイドリングストップに限定されるものではない。また、前述した実施例では、作業機として移動式クレーン1を例に示したが、高所作業車、レッカー車、車両運搬車でもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 移動式クレーン(作業機)
10 伸縮ブーム(作業部)
30 下部コントローラ(エンジン作動制御手段)
47 バッテリ電圧センサ(電圧検出手段)
49 エンジン停止センサ(エンジン停止状態検出手段)
53 電気部品
60 バッテリ上がり防止装置
B バッテリ
E エンジン
M 電動モータ
PTO パワーテイクオフ機構
PTOスイッチ パワーテイクオフスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンを駆動させる電動モータと、前記電動モータに電力を供給するバッテリと、前記電動モータによって駆動されたエンジンから取り出された動力を受けて所定の作業を行う作業部とを有する作業機のバッテリ上がり防止装置であって、
前記バッテリの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記エンジンが停止状態にあるか否かを検出するエンジン停止状態検出手段と、
前記エンジンを停止させる機能を有し、前記エンジンを停止させた状態で、前記エンジン停止状態検出手段により前記エンジンが停止状態にあると検出されるとともに、前記電圧検出手段により検出された電圧値が所定値よりも小さくなると、前記エンジンを始動させるエンジン作動制御手段とを有する
ことを特徴とするバッテリ上がり防止装置。
【請求項2】
前記作業機には、前記エンジンから動力を取り出すPTOと、前記PTOを作動及び非作動させる際に操作されるPTOスイッチとが設けられ、
前記エンジン制御手段は、前記PTOスイッチの作動操作によって前記PTOが作動状態にある時に、前記エンジン停止状態検出手段により前記エンジンが停止状態にあると検出されるとともに前記電圧検出手段により検出された電圧値が所定値よりも小さくなると前記エンジンを始動させる
ことを特徴とする請求項1に記載のバッテリ上がり防止装置。
【請求項3】
前記所定値は、前記エンジンの始動及び前記作業機に搭載された電気部品を作動させるのに必要な大きさの電圧値であることを特徴とする請求項1に記載のバッテリ上がり防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−44286(P2013−44286A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182710(P2011−182710)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】