説明

バルブシート部のレーザ肉盛装置

【課題】熱変形等に影響されることがなく、各バルブシート部に対して所望の肉盛り処理を高精度且つ良好に施すことを可能にする。
【解決手段】レーザクラッド装置10は、シリンダヘッド12を支持し各バルブシート部16aを半導体レーザ22が照射される処理位置に搬送するとともに、各バルブシート部16aの処理面の中心を回転軸として回転可能な載置駆動機構28と、前記処理位置に配置される前記バルブシート部16aを撮像する撮像機構30と、前記撮像機構30による撮像画像を画像処理し、撮像された前記バルブシート部16aの位置を演算するとともに、前記演算結果に基づいて前記バルブシート部16aの位置を調整可能な制御機構32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッドのバルブシート部に金属粉末を供給しつつ、該金属粉末にレーザを照射することにより溶融及び固化させて肉盛りをするバルブシート部のレーザ肉盛装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、内燃機関を構成するシリンダヘッドでは、バルブがバルブシート部に繰り返し接触している。このため、バルブシート部には、耐摩耗性が要求されており、例えば、アルミニウム合金製のシリンダヘッドでは、前記バルブシート部に焼結リングを圧入する構成が採用されている。
【0003】
一方、バルブシート部に金属粉末を供給しつつ、この金属粉末にレーザを照射することにより溶融及び固化させて肉盛りをするレーザ肉盛装置(所謂、レーザクラッド装置)が用いられている。
【0004】
この種のレーザ肉盛装置では、シリンダヘッドのバルブシート部において、被処理面が水平に維持された状態で、前記シリンダヘッドを前記バルブシート部の軸線の周りに回転させる必要がある。このため、シリンダヘッドが載置台に載置されるとともに、この載置台をバルブシート部の軸線の周りに回転可能なシリンダヘッド支持装置が採用されている。
【0005】
その際、シリンダヘッドの各バルブシート部に肉盛処理を行う毎に、前記シリンダヘッドを載置台から一旦取り外している。そして、次に処理されるバルブシート部を肉盛処理位置に位置決めし、シリンダヘッドを再度載置台に固定する作業が行われている。このため、各バルブシート部に対する肉盛処理が煩雑化している。
【0006】
そこで、特許文献1に開示されているシリンダヘッド支持装置では、処理されるべきバルブシート部の被処理面が実質的に水平になるようシリンダヘッドを支持するシリンダヘッド載置台と、前記載置台を回転軸線の周りに回転可能に、且つ、各バルブシート部が配列される直線に沿って移動可能に支持するとともに、前記載置台を前記回転軸線の周りに選択的に回転させる回転駆動手段と、処理されるべきバルブシート部の軸線が前記回転軸線に整合するように前記載置台を前記回転駆動手段に対し選択的に位置決めする位置決め手段とを有している。
【0007】
これにより、シリンダヘッドを載置台に対し繰り返し着脱する必要がなく、直線に沿って配列された全てのバルブシート部を効率的に処理することが可能になる、としている。
【0008】
【特許文献1】特許第2929785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記の肉盛処理では、シリンダヘッドに対してレーザが直接照射されるため、このシリンダヘッドに熱変形が惹起し易い。このため、各バルブシート部の位置が変動するおそれがある。
【0010】
しかしながら、上記の特許文献1では、シリンダヘッドが載置される載置台を各バルブシート部に対応して位置決めしても、前記バルブシート部が実際の肉盛処理位置に対して正確に載置されない場合がある。これにより、バルブシート部の肉盛処理が高精度に遂行されないという問題が指摘されている。
【0011】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、熱変形等に影響されることがなく、各バルブシート部に対して所望の肉盛り処理を高精度且つ良好に施すことが可能なバルブシート部のレーザ肉盛装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、シリンダヘッドのバルブシート部に金属粉末を供給しつつ、該金属粉末にレーザを照射することにより溶融及び固化させて肉盛りをするバルブシート部のレーザ肉盛装置に関するものである。
【0013】
このレーザ肉盛装置は、シリンダヘッドを支持し、各バルブシート部をレーザが照射される処理位置に搬送するとともに、各バルブシート部の処理面の中心を回転軸として回転可能な載置駆動機構と、前記処理位置に配置される前記バルブシート部を撮像する撮像機構と、前記撮像機構による撮像画像を画像処理し、撮像された前記バルブシート部の位置を演算するとともに、前記演算結果に基づいて前記バルブシート部の位置を調整可能な制御機構とを備えている。
【0014】
また、載置駆動機構は、シリンダヘッドが所定の角度姿勢で載置される載置台と、前記載置台を移動させることにより、前記シリンダヘッドに設けられる各バルブシート部を、処理位置に選択的に配置する移動台と、前記移動台を回転可能な回転台とを備えることが好ましい。
【0015】
さらに、撮像機構は、レーザが照射されるバルブシート部に照明光を照射する照明部と、処理位置に配置される前記バルブシート部を撮像する固体撮像素子とを備えることが好ましい。
【0016】
さらにまた、固体撮像素子は、載置駆動機構の回転軸の延長線上に配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、処理位置に配置されるバルブシート部が撮像機構により撮像されると、このバルブシート部の撮像画像が画像処理される。このため、処理位置に対するバルブシート部の位置が正確に演算され、前記演算結果に基づいて前記バルブシート部の位置が調整されている。従って、レーザ照射によりシリンダヘッドに熱変形が惹起していても、処理位置に対して各バルブシート部を正確に位置決めすることができる。これにより、バルブシート部の肉盛り処理が、高精度且つ良好に遂行可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係るバルブシート部のレーザ肉盛装置であるレーザクラッド装置10の概略斜視説明図であり、図2は、前記レーザクラッド装置10の側面説明図である。
【0019】
図3は、レーザクラッド装置10により肉盛りされるシリンダヘッド12を示す。このシリンダヘッド12は、例えば、4気筒型のエンジン(内燃機関)であり、各気筒には、2つの給気用バルブ孔14a、14bの周囲にバルブシート部16a、16bと、2つの排気用バルブ孔18a、18bの周囲にバルブシート部20a、20bとが設けられる。
【0020】
図1及び図2に示すように、レーザクラッド装置10は、シリンダヘッド12のバルブシート部16a、16b及びバルブシート部20a、20bに対し半導体レーザ22を照射して銅合金粉末24を溶融及び固化させるためのレーザ発振機構部26を備える。
【0021】
シリンダヘッド12は、アルミ合金製であり、軽量化されている。銅合金粉末24は、銅及びニッケルをベースとする合金の粉末であり、アトマイズ粉末となっている。
【0022】
レーザクラッド装置10は、シリンダヘッド12を支持し、各バルブシート部16a、16b、20a及び20bを、半導体レーザ22が照射される処理位置に搬送するとともに、前記バルブシート部16a、16b、20a及び20bの処理面の中心を回転軸として回転可能な載置駆動機構28と、前記処理位置に配置される前記バルブシート部16a、16b、20a及び20bを撮像する撮像機構30と、前記撮像機構30による撮像画像を画像処理し、撮像された前記バルブシート部16a、16b、20a及び20bの位置を演算するとともに、前記演算結果に基づいて、前記バルブシート部16a、16b、20a及び20bの位置を調整可能な制御機構32とを備える。なお、制御機構32は、レーザクラッド装置10全体の駆動制御を行う。
【0023】
載置駆動機構28は、シリンダヘッド12が所定の角度姿勢で、すなわち、バルブシート部16a、16b、20a及び20bの各処理面が処理位置に配置された際に、前記処理面が水平面に向かうように載置する載置台34と、前記載置台34を直交2軸方向(矢印A方向及び矢印B方向)に移動させる第1ステージ(移動台)36及び第2ステージ(移動台)38と、軸心ROを中心に前記載置台34上の前記シリンダヘッド12を回転させる回転テーブル40とを備える。
【0024】
レーザ発振機構部26の近傍には、銅合金粉末24を処理位置に対応してバルブシート部16a、16b、20a及び20bに供給する粉末供給ノズル42と、前記処理位置に向かってアルゴンガスを供給するガスノズル44とが配設される。レーザ発振機構部26、粉末供給ノズル42及びガスノズル44は、一体として昇降並びに水平移動可能である。
【0025】
撮像機構30は、処理位置で半導体レーザ20が照射されるバルブシート部16a、16b、20a及び20bに照明光Lを照射する照明部46と、前記処理位置に配置される前記バルブシート部16a、16b、20a及び20bを撮像する固体撮像素子、例えば、CCDカメラ48とを有する。
【0026】
照明部46は、例えば、ハロゲン光源50を備える。CCDカメラ48は、載置駆動機構28の回転軸ROの延長線上に配置される。このCCDカメラ48で撮像された画像は、制御機構32に接続されるモニタ52に表示される。
【0027】
このように構成されるレーザクラッド装置10の動作について、以下に説明する。
【0028】
先ず、図4に示すように、載置台34上には、マスターワーク60が載置される。このマスターワーク60に設けられている基準バルブ孔62は、半導体レーザ22の照射位置(処理位置)に対応して配置される。
【0029】
そこで、撮像機構30を構成する照明部46は、ハロゲン光源50から導入される照明光Lを基準バルブ孔62に照射するとともに、CCDカメラ48が前記基準バルブ孔62を撮像する。CCDカメラ48による撮像画像は、モニタ52に送られる。
【0030】
従って、制御機構32では、モニタ52に表示されるマスターワーク60の基準バルブ孔62の中心、すなわち、マスター中心MCの位置を記憶する。その際、基準バルブ孔62の位置と直径を検出しており、撮影時の前記基準バルブ孔62の画素数に基づいて、画素と距離との換算がなされる。
【0031】
上記のように、マスターワーク60に基づいて制御機構32のキャリブレーションが行われた後、このマスターワーク60が載置台34から取り外される一方、ワークであるシリンダヘッド12が前記載置台34に載置保持される。そして、制御機構32の作用下に、載置駆動機構28を構成する第1ステージ36及び第2ステージ38が駆動される。このため、シリンダヘッド12の、例えば、バルブシート部16aが、処理位置に対応して回転軸ROの延長線上に配置されるとともに、前記バルブシート部16aの処理面が水平方向に配置される。
【0032】
次に、図2に示すように、バルブシート部16aの周囲の一部に、粉末供給ノズル42から銅合金粉末24が供給されるとともに、ガスノズル44から不活性ガスであるアルゴンガスが噴出される。この状態で、レーザ発振機構部26から半導体レーザ22が照射されるとともに、回転テーブル40が回転される。
【0033】
これにより、銅合金粉末24の供給位置及び半導体レーザ22の照射位置は、バルブシート部16aの周囲に沿って相対的且つ環状に移動し、前記銅合金粉末24の溶融池が環状に移動する。さらに、回転テーブル40が、少なくとも1回転することにより、バルブシート部16aの周囲に肉盛層が形成される。
【0034】
バルブシート部16aの肉盛処理が終了した後、半導体レーザ22の照射が停止されるとともに、第2ステージ38が駆動される。従って、載置台34と一体的にシリンダヘッド12が気筒配列方向(図1中、矢印A方向)に所定距離だけ移動され、バルブシート部16bが半導体レーザ22の照射位置に対応して配置される。
【0035】
この場合、本実施形態では、予め設定された処理位置(照射位置)に対応して、バルブシート部16bが配置される際、撮像機構30を介して前記処理位置における前記バルブシート部16bの画像が撮像される。このバルブシート部16bの画像は、モニタ52に表示される。
【0036】
図5に示すように、制御機構32では、モニタ52上に表示されるバルブ孔14bの中心VCと、マスターワーク60によって得られた基準バルブ孔62のマスター中心MCとのずれ量及び径変化が演算される。マスター中心MCからバルブ孔14bの中心VCまでのずれ量及び径変化は、画素数に基づいた画素−距離換算によって数値化処理され、載置駆動機構28の直交2軸座標上の補正位置として設定される。
【0037】
これにより、バルブシート部16bのバルブ孔14bの中心VCは、回転テーブル40の軸心RO上に正確に配置され、前記バルブシート部16bには、上記のバルブシート部16aと同様に肉盛処理が施される。その際、バルブシート部16bは、半導体レーザ22の照射位置に対応して高精度に位置決めされており、例えば、シリンダヘッド12が前記半導体レーザ22の照射によって熱変形していても、前記バルブシート部16bを処理位置に対して高精度且つ確実に位置決めすることができる。
【0038】
このため、クラッド位置制御不良により、例えば、図6に示すように、肉盛後に黒皮残り70が発生したり、図7に示すように、バルブシート部16b、20b間に部材(アルミニウム合金)の溶けや割れ等の品質不良部位72が発生することを確実に阻止することができる。従って、バルブシート部16a、16bの肉盛処理が、高精度且つ良好に遂行され、効率的な肉盛処理が遂行されるという効果が得られる。
【0039】
なお、排気側のバルブシート部20a及び20bにおいても同様に、上記の品質不良を確実に阻止し、高品質且つ良好な肉盛処理が図られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係るバルブシート部のレーザ肉盛装置であるレーザクラッド装置の概略斜視説明図である。
【図2】前記レーザ肉盛装置の側面説明図である。
【図3】シリンダヘッドの説明図である。
【図4】前記レーザ肉盛装置のキャリブレーションの説明図である。
【図5】前記バルブシート部の中心ずれの説明図である。
【図6】前記バルブシート部に黒皮残りの説明図である。
【図7】前記バルブシート部の品質不良部位の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
10…レーザクラッド装置 12…シリンダヘッド
14a、14b、18a、18b…バルブ孔
16a、16b、20a、20b…バルブシート部
22…半導体レーザ 24…銅合金粉末
26…レーザ発振機構部 28…載置駆動機構
30…撮像機構 32…制御機構
34…載置台 36、38…ステージ
40…回転テーブル 42…粉末供給ノズル
44…ガスノズル 46…照明部
48…CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドのバルブシート部に金属粉末を供給しつつ、該金属粉末にレーザを照射することにより溶融及び固化させて肉盛りをするバルブシート部のレーザ肉盛装置であって、
前記シリンダヘッドを支持し、各バルブシート部を前記レーザが照射される処理位置に搬送するとともに、各バルブシート部の処理面の中心を回転軸として回転可能な載置駆動機構と、
前記処理位置に配置される前記バルブシート部を撮像する撮像機構と、
前記撮像機構による撮像画像を画像処理し、撮像された前記バルブシート部の位置を演算するとともに、前記演算結果に基づいて前記バルブシート部の位置を調整可能な制御機構と、
を備えることを特徴とするバルブシート部のレーザ肉盛装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ肉盛装置において、前記載置駆動機構は、前記シリンダヘッドが所定の角度姿勢で載置される載置台と、
前記載置台を移動させることにより、前記シリンダヘッドに設けられる各バルブシート部を、前記処理位置に選択的に配置する移動台と、
前記移動台を回転可能な回転台と、
を備えることを特徴とするバルブシート部のレーザ肉盛装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のレーザ肉盛装置において、前記撮像機構は、前記レーザが照射される前記バルブシート部に照明光を照射する照明部と、
前記処理位置に配置される前記バルブシート部を撮像する固体撮像素子と、
を備えることを特徴とするバルブシート部のレーザ肉盛装置。
【請求項4】
請求項3記載のレーザ肉盛装置において、前記固体撮像素子は、前記載置駆動機構の回転軸の延長線上に配置されることを特徴とするバルブシート部のレーザ肉盛装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−149326(P2008−149326A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336891(P2006−336891)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】