説明

パックシール

【課題】スリンガと弾性シール部材を備えた芯金との相互のばらけを効果的に防止する機能を備えたパックシールを提供する。
【解決手段】相互に同軸回転する2部材間に介装されるパックシール6であって、前記2部材の一方の部材に嵌合一体に装着されるスリンガ7と、他方の部材に嵌合一体に装着される円筒部8a及びこの円筒部の一端に連設された鍔部8bを備える芯金に固着一体とされ前記スリンガに弾性摺接するシールリップ部9を備える弾性シール部材10とよりなり、前記芯金の円筒部に配された前記シールリップ部の基部は、前記2部材間に介装される前において、前記スリンガと芯金のそれぞれの円筒部及び鍔部が互いに対向するように組合わされた状態で、前記スリンガの鍔部の周縁部に、弾接部9dを備えており、前記2部材間に介装されたときには、前記弾接部による前記結合状態が解除された空間に、ラビリンス構造が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互に同軸回転する2部材間に介装されるパックシールであって、例えば自動車などの車軸を支持する軸受部における回転側部材と固定側部材との間に介装され、両部材間の軸受空間をシールするパックシールに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用車輪は、内輪、外輪及び内外輪間に介在される転動体によって構成される軸受部を介して回転自在に支持される。そして、転動体が介在される軸受空間は、内外輪間に介装されたシールリングによって密封され、軸受部内に装填された潤滑剤の漏出防止や外部からの汚泥等の浸入嵌合一体に装着される芯金と、スリンガに弾性摺接する弾性シール部材とを組合わせたいわゆるパックシールが多用されるようになった。
【0003】
スリンガとシール部材とは、軸受部内に組付けられる状態に組合わされて出荷・搬送され、この出荷・搬送時は、取り扱い上或いは軸受部に装着させる際に圧入治具によって圧入させ易いよう、決まった個数毎に一方向に方向性を持たせて積み重ねられる。
このように積み重ねて梱包する際や、製品を取り出して軸受部に介装させる際に、スリンガとシール部材とがばらけてしまうと作業性が悪くなることが問題となっている。特に、多くの種類のパックシールを扱う軸受部の組立工場においては、このようなばらけが生じると、スリンガとシール部材の再組付が必要となったり、誤組み付け防止のため設備の点検、シールの検査が必要になったりする。
【0004】
下記特許文献1、2には、芯金に固着されたシールリップの基部に径方向内方に突出した外径側係合部(特許文献1ではrelief23)を設けたパックシールが記載されている。これらによれば、該外径側係合部の内径を、スリンガの外周縁の外径よりも小さく形成することにより、スリンガとシール部材の分離を防止し、搬送、組付け作業を容易にすることができるとされている。
下記特許文献3には、スリンガの円筒部の一端部を径外側に屈曲形成されたばらけ防止用突部が設けられたパックシールが記載されている。これによれば、芯金に固着されたメインとなるラジアルリップがスリンガの円筒部から外れてしまうことを防止できるとされている。
【特許文献1】米国特許第6,170,992号明細書
【特許文献2】特開2002−206550号公報
【特許文献3】特開2007−270859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び上記特許文献2に記載のパックシールは、スリンガとシール部材とがばらけて分離しないように、スリンガの鍔部の外周縁寄り部分を軸方向内側に全周に亙り断面クランク形に折り曲げて、芯金の外端縁よりも軸方向内側に形成する必要がある。また上記特許文献3に記載のパックシールも、スリンガの円筒部の一端部を径外側に屈曲する必要がある。すなわち、いずれもばらけを防止するために、スリンガの一端部を折曲加工する必要があるため、製造工程が増えてしまう。
更に特許文献1〜3のシール部材は、いずれもスリンガの円筒部に弾性的に当接するラジアルリップを備えたものであり、このラジアルリップの存在により、スリンガとシール部材との相互の嵌合力を保持する構造となっている。
よって回転トルクの低減を図るためには、ラジアルリップを少なく構成することが望ましいが、これらの場合は、両者の嵌合力を保持するため、ラジアルリップを減らすことができず、シールリップの設計自由度が制約される。
また、特許文献1〜3に記載のパックシールは、軸受部に介装される前は、スリンガとシール部材とが分離しないとしても結合状態となっているわけではないので、がたつきが生じる。よって軸受部に介装される前にパックシール内にグリスを封入しているような場合は、封入していたグリスが想定外の場所に付着してしまうという問題もある。またスリンガとシール部材がパックされた状態でも、スリンガとシール部材間にがたつきが生じる場合があり、両者が完全に分離するわけではないが、両者の芯がずれた場合にスリンガの一部が係合部を越え、ばらけが生じるという問題もある。
【0006】
本発明は、前記実情に鑑みなされたものであり、スリンガと弾性シール部材を備えた芯金との相互のばらけを効果的に防止する機能を備えたパックシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパックシールは、相互に同軸回転する2部材間に介装されるパックシールであって、前記2部材の一方の部材に嵌合一体に装着される円筒部及びこの円筒部の一端に連設された鍔部を備えるスリンガと、他方の部材に嵌合一体に装着される円筒部及びこの円筒部の一端に連設された鍔部を備える芯金に固着一体とされ前記スリンガに弾性摺接するシールリップ部を備える弾性シール部材とよりなり、前記芯金の円筒部に配された前記シールリップ部の基部は、前記2部材間に介装される前において、前記スリンガと芯金のそれぞれの円筒部及び鍔部が互いに対向するように組合わされた状態で、前記スリンガの鍔部の周縁部に、弾性的に結合状態となるよう形成された弾接部を備えており、前記2部材間に介装されたときには、前記弾接部による前記結合状態が解除された空間に、ラビリンス構造が形成されることを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記弾接部は、肉厚或いは前記スリンガの鍔部の周縁部側に突出して形成されているものとすることができる。また一方の部材が回転側部材、他方の部材が固定側部材であり、前記スリンガにおける鍔部の前記芯金の鍔部に対向する面とは反対側の面には、環状多極ゴム磁石からなる磁気エンコーダが固着一体とされているものとしてもよい。更に前記磁気エンコーダの一部は、スリンガの鍔部の周縁部に回り込むように配されており、前記弾接部は、前記スリンガの鍔部の周縁部に、前記磁気エンコーダの一部を介在させた状態で弾性的に結合状態となるよう形成されているものとしてもよい。そして、本発明において前記結合状態における前記スリンガと前記弾性シール部材とに対して、軸方向に2kgf〜20kgfの力を加えた場合に前記結合状態が解除されるものとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るパックシールによれば、前記芯金の円筒部に配された前記シールリップ部の基部は、前記2部材間に介装される前において、前記スリンガと芯金のそれぞれの円筒部及び鍔部が互いに対向するように組合わされた状態で、前記スリンガの鍔部の周縁部に、弾性的に結合状態となるよう形成された弾接部を備えている。よって、2部材間に介装される前において、前記弾接部とスリンガの鍔部の周縁部とは、スリンガとシール部材とがばらけることなく、弾性的に結合状態となっているので、取り扱い性が向上し、出荷の際の梱包作業、製品管理などがし易くなる。また軸受部に介装される前でもスリンガとシール部材とが結合状態となっているので、がたつきが生じることがない。よって軸受部に介装される前にパックシール内にグリスを封入しているような場合でも、グリスを保持でき、想定外の場所に付着してしまうことがない。
更にシールリップ部の形状を工夫するだけでよく、従来のようにスリンガを折曲加工する必要がないので、コストアップの懸念がなく、製造に手間がかからない。
そしてスリンガの鍔部の周縁部に、弾性的に結合状態となるようシールリップ部の基部に弾接部が形成されているので、例えばスリンガの円筒部に弾性的に当接するラジアルリップを備えていなくても、スリンガとシール部材との相互の嵌合力を保持することができる。よって回転トルクを低減するためにラジアルリップを減らすことができ、シール部材の設計自由度が増す。
また、2部材間に介装されたときには、前記弾接部による前記結合状態が解除された空間に、ラビリンス構造が形成されるので、パックシールの介装部位への組付性に問題が生じることがなく、シール性が低減されるおそれもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1の実施形態のパックシールを用いて組立てられた軸受ユニットの一例を示す縦断面図、図2は図1におけるX部の拡大図、図3(a)〜図3(c)は同パックシールを軸受ユニットの軸受部に介装していく状態を段階的に示す縦断面図、図4は複数個の同パックシールを積み重ねた状態を示す縦断面図、図5は同パックシールに磁気エンコーダを備えた例を示した図であり、同軸受部に介装される前の状態を示す縦断面図、図6は図5に示すパックシールの変形例であって、図5と同様図、図7は本発明の第2の実施形態のパックシールであって、図2と同様図、図8(a)〜図8(c)は図7に示すパックシールを軸受ユニットの軸受部に介装していく状態を段階的に示す縦断面図である。
【0011】
まず、本発明に係るパックシールの第1の実施形態について、図1〜図4を参照しながら説明する。
図1は自動車の車輪を転がり軸受ユニット1により支持する構造の一例を示すものであり、内輪(回転側部材)2を構成するハブ2Aのハブフランジ2aにボルト2bによりタイヤホイール(不図示)が固定される。また、ハブ2Aに形成されたスプライン軸孔2cには駆動シャフト(不図示)がスプライン嵌合されて、該駆動シャフトの回転駆動力がタイヤホイールに駆動伝達される。そして、ハブ2Aは内輪部材2Bと共に内輪2を構成する。外輪(固定側部材)3は、車体の懸架装置(不図示)に取付固定される。この外輪3と前記内輪2との間に2列の転動体(玉)4…がリテーナ4aで保持された状態で介装されている。この転動体4…及び内外輪2,3に形成された各軌道面により軸受部1Aが構成され、軸受部1Aを介して、内輪2が外輪3に対して軸回転可能に支持される。2列の転動体(玉)4…の軌道面の軸方向外側、即ち、前記軸受部1Aの軸方向両側には、前記転動体4…の転動部(軸受空間)に装填される潤滑剤(グリス)の漏出或いは外部からの汚泥等の浸入を防止するためのシールリング5,6が、外輪3と内輪2との間に圧入装着されており、特に6で使用されているのがパックシールである(以下、6をパックシールという)。
【0012】
図2は、車体側に介装されたパックシール6の装着部の拡大断面図を示す。該パックシール6は、前記内輪部材(回転側部材)2Bの外周(外径面)に嵌合一体に装着される円筒部7a(以下、スリンガ円筒部と言う)及びこのスリンガ円筒部7aの一端に連設された外向鍔部(以下、スリンガ鍔部と言う)7bを備えるスリンガ7と、外輪(固定側部材)3に嵌合一体に装着される円筒部(以下、芯金円筒部と言う)8a及びこの芯金円筒部8aの一端に連設された内向鍔部(以下、芯金鍔部という)8bを備える芯金8に固着一体とされ上記スリンガ7に弾性摺接する複数のシールリップ部9(9a、9b)を備えるシール部材10とよりなる。
【0013】
シールリップ部9は、ゴムの成型体からなり、基部9cをして、芯金8の芯金円筒部8a及び芯金鍔部8bに固着一体とされ、該基部9cよりスリンガ7側に向いて複数構成されている。図例では、スリンガ円筒部7aの外周面に弾接するシールリップ部9がラジアルリップ9aとされ、スリンガ鍔部7bの反車体側面に弾接するシールリップ9がサイドリップ(アキシャルリップ)9bとされている。
シールリップ部9の基部9cは、芯金円筒部8aの他端部(芯金鍔部8bが連設されている側とは反対側の端部)の外周に形成された環状段部8aaに回り込むように固着されており、この回り込み部分9fの外輪4側と弾接する部分に環状突部9eが形成されている。
また芯金円筒部8aに配された基部9cは、軸受部1Aに介装される前において、スリンガ鍔部7bの周縁部7baに弾接し、弾性的に結合状態となるようゴム材が肉厚に形成された弾接部9dを備えている。
なお、シールリップ部9の形状、構成は図例に限定されるものではなく、図7に示すようにラジアルリップ9aを2個、サイドリップ9bを1個備えたものにも適用可能である。
【0014】
次にパックシール6の組立て及び軸受部1Aへの装着要領について、図2〜図4を参照して説明する。図中、13は軸受部1Aの装着部位へパックシール6を圧入させるための圧入治具である。
まず、パックシール6の組立て要領について説明する。
シールリップ部9を固着一体に備えた芯金8を、図4に示すように、芯金鍔部8bが下になるように作業台(不図示)の上に平置きする。次いで、スリンガ7を図4に示すようにスリンガ円筒部7aの他端部7aaが下向きになるように芯金8の上方に同軸的に配置する。このとき、弾接部9dとスリンガ鍔部7bの周縁部7baとが弾性的に結合されるようスリンガ7を押し込むようにして嵌め合せる。スリンガ鍔部7bが芯金鍔部8b方向へ押し込まれることにより、サイドリップ9bが押し込み圧を受け、スリンガ鍔部7bとシールリップ部9の基部9cとの間に形成される空間内で圧縮変形された状態となる。
その結果、図3(a)或いは図4に示すように、軸受部1Aに介装する前のパックシール6は、スリンガ7のスリンガ円筒部7a及びスリンガ鍔部7b及び芯金8の芯金円筒部8a及び芯金鍔部8bとが、それぞれが互いに対向するよう組合わされ、シールリップ部9の弾接部9dとスリンガ鍔部7bの周縁部7baとが弾性的に結合状態となる。この結合状態は、スリンガ7とシール部材10とに対して、軸方向に2kgf〜20kgfの力を加えた場合に結合状態が解除されるよう構成されている。詳しくは後記する。
【0015】
図4は軸受部1Aに介装される前の複数個のパックシール6を積み重ねた状態を示す縦断面図である。
上述の要領で組立てられたパックシール6は、図3(a)或いは図4に示すように組合わせたものを完成品として、順次積み重ねられ、梱包、出荷、保管される。
パックシール6の1個当たりの平均重量はおよそ20gであり、これが50個ぐらい積み重ねられて梱包されるので、最下段に置かれたパックシール6にはおよそ1000gの荷重が加わることになる。
よって、弾性部9dと周縁部7baの結合状態は、梱包されている状態で解除されてしまうことがないように、2kgf以上の力が加わらないと両者の結合状態が解除されないよう構成される。一方、弾性部9dと周縁部7baの結合力が高すぎると、軸受部1Aの所定部位(内輪部材2Bと外輪3との間)にパックシール6を圧入する際に圧入治具10を用いても結合状態が解除されない場合がある。このような場合は、シール部材10とスリンガとをばらす必要があったときに、手でばらすことが出来ず、扱い辛くなるので、最高でも20kgfの力を加えた場合に、両者の結合状態が解除されるように構成される。
これによれば、弾接部9dと周縁部7baとが弾性的に結合状態であり、スリンガ7とシール部材10とに対して、軸方向に2kgf〜20kgfの力を加えないと、両者(スリンガ7とシール部材10)がばらけてしまうことがないので、取り扱い性が向上し、出荷の際の梱包作業、製品管理などがし易くなり、前記両者間にがたつきが生じることがない。また図例のように回り込み部分9fの突出量とスリンガ円筒部7aの他端部7aaの突出量が同じになるように設計すれば、回り込み部分9fが芯金鍔部8bの外面側に弾接するとともに、スリンガ円筒部7aの他端部7aaが下に重ねられたスリンガ7の折曲角部に当接するので、介装前のパックシール6を整然と積み重ねていくことができる。
【0016】
また弾接部9dはゴム材など弾性力のある素材からなるので、別途治具を用意することなく、手の力で押し込めば容易に図3(a)に示す結合状態とすることができる。
これによれば、図例のようにスリンガ円筒部7aに摺接するラジアル方向に配されたラジアルリップ9aが一個しかなくても、弾接部9dとスリンガ7の周縁部7baとが弾性的に結合状態となるので、スリンガ7とシール部材10との相互の嵌合力が低下することなく、しっかり組合わさった状態を保持することができる。よってシール部材10の設計自由度が増し、図例のように回転トルクの低減に配慮したシール設計も可能となる。
なお、パックシール6の組立て要領は、上述の例に限定されるものではなく、スリンガ7を上記とは天地逆にして作業台に平置きし、この上からシール部材10を被せるように嵌合合体するようにしてもよい。
【0017】
次に、軸受部1Aへの装着要領を説明する。
上述のように組立てられ、結合状態のパックシール6を取り出し、内輪部材2Bと外輪3との間に圧入していく(図3(a)参照)。圧入の際には、圧入治具13が用いられる。ここで用いられる圧入治具13は図のように押圧部13aが平らに形成されている。該圧入治具13を用いて、スリンガ円筒部7aを内輪部材2Bの外径部に、芯金円筒部8aを外輪3の内径部に圧嵌する。このとき、圧入治具13によってパックシール6を装着方向(図3(a)の矢印方向)に押すと弾接部9dとスリンガ7の周縁部7baとの結合状態が解除される(図3(b)参照)。このとき、結合状態のパックシール6は、スリンガ7とシール部材10とに対して、軸方向(図3(a)の矢印方向)に2kgf〜20kgfの力を加えた場合に、結合状態が解除されるよう構成されているので、圧入する前は結合状態が維持され、圧入治具13で力を加えるとスムーズに解除をなされる。
【0018】
そしてまた圧入治具13でパックシール6を押していくと、芯金円筒部8aの環状段部8aaに回り込むように固着された回り込み部分9fが、スリンガ鍔部7bより突出しているので、芯金円筒部8aがスリンガ円筒部8aよりも先に外輪3の内径部に圧嵌される(図3(b)〜図3(c)参照)。このとき、回り込み部分9fが押圧されるに伴って、パックシール6の組立て時に押し込み圧を受け、スリンガ鍔部7bとシールリップ部9の基部9cとの間に形成される空間内で圧縮変形されたサイドリップ9bが、次第にその押し込み圧から解放されていく。
【0019】
更に回り込み部分9fを押圧部13aで押圧していくと、回り込み部分9fの車体側面とスリンガ鍔部7bの車体側面とが面一になる(図3(c)参照)。すると弾接部9dと回り込み部分9fとが段差状になっているため、弾接部9dと周縁部7baの結合状態が解除された空間にラビリンス構造が形成される。
そして回り込み部分9fの車体側面とスリンガ鍔部7bの車体側面とを圧入治具13で圧入していくと、スリンガ円筒部7aと芯金円筒部8aとが一緒に内輪部材2B、外輪3に圧嵌されていき、パックシール6が内輪部材2Bと外輪3との間に介装された状態となる。このとき、環状突部9eが両嵌合面間で環状段部8aaへのゴム材の逃げを伴いながら圧縮される。よって環状突部9eの復元弾力により、外輪3と芯金円筒部8aとの嵌合面間が密封され、外部から軸受部1A内への水などの浸入が阻止される。圧入治具13の押圧部13aが外輪3及び内輪部材2Bの車体側面に到達すると、パックシール6が内輪部材2Bと外輪3との間に介装された状態となり、押圧され圧縮変形されていたサイドリップ9bが、スリンガ鍔部7bの反車体側面に、ラジアルリップ9aがスリンガ円筒部7aの外周面に、それぞれ弾性摺接される(図2参照)。
よって、軸受部1Aがシールされ、軸受部1A内に装填されたグリスの外部への漏出が阻止され、また外部から軸受部1A内への汚泥などの侵入が阻止される。
【0020】
続いて説明する図5は第1の実施形態のパックシール6に磁気エンコーダを備えた場合を示した図であり、図6は図5に示すパックシール6の変形例である。なお、上述の例と共通の部分には同一の符号を付し、説明を割愛する。
ここでは、スリンガ鍔部7bの車体側面7bbに、周方向に沿って多数のN極、S極が交互に着磁形成された磁気エンコーダ11が貼着一体とされたパックシール6を示している。外輪3又は車体の固定側部材には、磁気センサ12(図1参照)が固定配置されており、磁気エンコーダ11とにより、タイヤホイールの回転速度を検出する回転検出装置が構成される。磁気エンコーダ11は、NBR、H−NBR、ACM、AEM、FKM等から選ばれたいずれかのゴム材にフェライト系、希土類系等の磁性粉末を事前に混練してなる磁性ゴムシートからなり、周方向に多数のN極、S極が交互に並ぶよう着磁形成されている。磁気エンコーダ11としては、上述の磁性ゴムからなるものに限定されず、プラスチック磁石、焼結磁石としてもよい。
【0021】
磁気エンコーダ11はスリンガ鍔部7bの車体側面7bbに加硫接着或いは接着剤を介して固着一体とされている。接着剤としては、エポキシ系或いはフェノール系の接着剤が接着力が強く望ましく採用されるが、シアノ系、エポキシ系、フェノール系、ゴム系、ウレタン系などの接着剤或いは、シーラントやエラストマー系接着剤のような弾性接着剤も使用可能である。
その他、弾接部9dを備えており、内輪部材2Bと外輪3との間に介装される前は、スリンガ鍔部7bの周縁部7baにシールリップ部9の弾接部9dが弾性的に結合状態とされる点、結合状態における前記スリンガ7とシール部材10とに対して、軸方向に2kgf〜20kgfの力を加えた場合に結合状態が解除される点などは上述の例と同様である。
これによれば、図4のようにパックシール6を積み重ねた場合、磁気エンコーダ11が、磁気エンコーダ11より突出して形成されている回り込み部分9fによって保護された状態となるので、磁気エンコーダ11への傷付きを防止できる。また磁気エンコーダ11より突出して形成されている該回り込み部分9fによって、磁気エンコーダ11の上(或いは下)に芯金鍔部8bが直接積み重ねられることがない。よって、磁気エンコーダ11が持つ磁力によって金属材からなる芯金鍔部8bに引き寄せられて、くっついてしまうことがなく、梱包作業や軸受部1Aの介装作業のときなどにおいて、取り扱い性が向上する。もちろん第1の実施形態におけるパックシール6の効果も備えたものであることはいうまでもない。
【0022】
図6は図5に示すパックシール6の変形例である。
図5に示す例とは磁気エンコーダ11の一部が、スリンガ鍔部7bの周縁部7baに回り込むように配されたエンコーダ回り込み部分11aを備えている点で異なる。この場合、弾接部9dは、スリンガ鍔部7bの周縁部7baに、エンコーダ回り込み部分11aを介在させた状態で弾性的に結合状態となるよう形成される。
このように磁気エンコーダ11の一部をスリンガ鍔部7bの周縁部7baに回り込むように配することにより、磁気エンコーダ11とスリンガ鍔部7bの車体側面7bbとの固着関係がより強固になり、外れにくいものとすることができる。よって、上述した第1の実施形態におけるパックシール6の効果も兼ね備えたものでありながら、磁気エンコーダ11がスリンガ鍔部7bの車体側面7bbに強固に固着されたものとすることができる。また磁気エンコーダ11が磁性ゴムシートからなる場合は、このようにエンコーダ回り込み部分11aが、弾接部9dと周縁部7baとの間に介在することにより、弾性同士が結合状態となるため、軸受部1Aに介装される前において、スリンガ7とシール部材10とがよりばらけにくくなる。
【0023】
次に、本発明に係るパックシールの第2の実施形態について、図7、図8(a)〜(c)を参照しながら説明する。なお、上述の例と共通の部分には同一の符号を付し、説明を割愛する。
ここに示す例は、シール部材10のシールリップ部9の形状が上述の例とは異なる。
芯金8に固着されたシールリップ部9は、ゴムの成型体からなり、基部9cをして、芯金8の芯金円筒部8a及び芯金鍔部8bに固着一体とされ、該基部9cよりスリンガ円筒部7aの外周面に弾接するラジアルリップ9aが2個、スリンガ鍔部7bの反車体側面に弾接する1個のサイドリップが形成されている。
シールリップ部9の基部9cは、芯金円筒部8aの環状段部8aaに回り込むように固着されている点、この回り込み部分9fの外輪4側と弾接する部分に環状突部9eが形成されている点は上述と同様である。
芯金円筒部8aに配された基部9cは、軸受部1Aに介装される前において、スリンガ鍔部7bの周縁部7baに弾接し、弾性的に結合状態となるようゴム材が周縁部7ba側(内径側)へ突出して形成された弾接部9dを備えている。
内輪部材2Bと外輪3との間に介装される前は、スリンガ鍔部7bの周縁部7baにシールリップ部9の弾接部9dが弾性的に結合状態とされる点、結合状態における前記スリンガ7とシール部材10とに対して、軸方向に2kgf〜20kgfの力を加えた場合に結合状態が解除される点も上述と同様である。
なお、シールリップ部9の形状、構成は図例に限定されるものではなく、図2に示すようにラジアルリップ9aを1個、サイドリップ9bを2個備えたものも適用可能である。
【0024】
パックシール6の組立て要領は、上述の例と同様に行うことができる。
シールリップ部9を固着一体に備えた芯金8を芯金鍔部8bが下になるように作業台(不図示)の上に平置きにし、スリンガ円筒部7aの他端部7aaが下向きになるように芯金8の上方に同軸的に配置する。このとき、弾接部9dとスリンガ鍔部7bの周縁部7baとが弾性的に結合されるようスリンガ7を押し込むようにして嵌め合せれば、シールリップ部9の弾接部9dとスリンガ鍔部7bの周縁部7baとが弾性的に結合状態となる。
これによれば、両者(スリンガ7とシール部材10)がばらけてしまうことがなく、取り扱い性が向上し、出荷の際の梱包作業、製品管理などがし易くなり、介装前のパックシール6をきれいに積み重ねていくことができる。
なお、パックシール6の組立て要領は、上述の例に限定されるものではなく、スリンガ7を上記とは天地逆にして作業台に平置きし、この上からシール部材10を被せるように嵌合合体するようにしてもよい。
【0025】
次に、軸受部1Aへの装着要領を説明する。
上述のように組立てられ、結合状態のパックシール6を取り出し、内輪部材2Bと外輪3との間に圧入していく(図8(a)参照)。圧入の際には、上述の例と同様に圧入治具13が用いられる。ここで用いられる圧入治具13は図に示すように、回り込み部分9f及び弾接部9dの突出具合に応じて形成された段部13bとスリンガ鍔部7bを押圧する押圧部13aとを備えたものを用いる。段部13bと押圧部13aの段差度合いは、上述の結合状態が解除されたときにラビリンスが形成されるよう設計される。
【0026】
該圧入治具13を用いて、スリンガ円筒部7aを内輪部材2Bの外径部に、芯金円筒部8aを外輪3の内径部に圧嵌する。このとき、圧入治具13によってパックシール6を装着方向(図8(a)の矢印方向)に押すと、まず押圧部13aによってスリンガ鍔部7bが押圧され、弾接部9dとスリンガ7の周縁部7baとの結合状態が容易に解除される(図8(b)参照)。更に圧入治具13でパックシール6を圧入していくと、押圧部13aによって押されるスリンガ円筒部8aが、芯金円筒部8aよりも先に内輪部材2Bの外径部に圧嵌されていく(図8(c)参照)。弾接部9dの端部9daを押圧部13aの弾接部9d側の側面13cに弾接させた状態で、回り込み部分9fが段部13bに弾接するまで圧入治具13をスライドさせる。すると、弾接部9dと周縁部7dの結合状態が解除され、その解除された空間にラビリンス構造が形成される。
そして更に回り込み部分9fの車体側面とスリンガ鍔部7bの車体側面とを圧入治具13で圧入していくと、スリンガ円筒部7aと芯金円筒部8aとが一緒に内輪部材2B、外輪3に圧嵌されていく。このとき、環状突部9eが両嵌合面間で環状段部8aaへのゴム材の逃げを伴いながら圧縮される。
圧入治具13の段部13bの押圧面が外輪3の車体側面に到達すると、パックシール6が内輪部材2Bと外輪3との間に介装された状態となり、サイドリップ9bが、スリンガ鍔部7bの反車体側面に、ラジアルリップ9aがスリンガ円筒部7aの外周面に、それぞれ弾性摺接される。
ここでは磁気エンコーダ11を備えていないパックシール6について説明したが、図5に示す例のように磁気エンコーダ11を備えたものにも適用可能である。
【0027】
なお、前記各実施形態では、内輪2が回転側部材、外輪3が固定側部材である例について述べたが、内輪2が固定側部材、外輪3が回転側部材である場合にも適用可能である。更に、自動車の車輪を支持する軸受ユニットに適用した例について述べたが、これに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態のパックシールを用いて組立てられた軸受ユニットの一例を示す縦断面図である。
【図2】図1におけるX部の拡大図である。
【図3】(a)〜(c)は同パックシールを軸受ユニットの軸受部に介装していく状態を段階的に示す縦断面図である。
【図4】複数個の同パックシールを積み重ねた状態を示す縦断面図である。
【図5】同パックシールに磁気エンコーダを備えた例を示した図であり、同軸受部に介装される前の状態を示す縦断面図である。
【図6】図5に示すパックシールの変形例であって、図5と同様図である。
【図7】同パックシールの変形例であって、図2と同様図である。
【図8】(a)〜(c)は図7に示すパックシールを軸受ユニットの軸受部に介装していく状態を段階的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 軸受ユニット
1A 軸受部
2 内輪(回転側部材)
3 外輪(固定側部材)
6 パックシール
7 スリンガ
7a スリンガ円筒部
7b スリンガ鍔部
7ba 周縁部
9 シールリップ部
9a ラジアルリップ
9b サイドリップ
9d 弾接部
10 (弾性)シール部材
11 磁気エンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に同軸回転する2部材間に介装されるパックシールであって、
前記2部材の一方の部材に嵌合一体に装着される円筒部及びこの円筒部の一端に連設された鍔部を備えるスリンガと、他方の部材に嵌合一体に装着される円筒部及びこの円筒部の一端に連設された鍔部を備える芯金に固着一体とされ前記スリンガに弾性摺接するシールリップ部を備える弾性シール部材とよりなり、
前記芯金の円筒部に配された前記シールリップ部の基部は、前記2部材間に介装される前において、前記スリンガと芯金のそれぞれの円筒部及び鍔部が互いに対向するように組合わされた状態で、前記スリンガの鍔部の周縁部に、弾性的に結合状態となるよう形成された弾接部を備えており、
前記2部材間に介装されたときには、前記弾接部による前記結合状態が解除された空間に、ラビリンス構造が形成されることを特徴としたパックシール。
【請求項2】
請求項1に記載のパックシールにおいて、
前記弾接部は、肉厚に形成されてなることを特徴とするパックシール。
【請求項3】
請求項1に記載のパックシールにおいて、
前記弾接部は、前記スリンガの鍔部の周縁部側に突出して形成されてなることを特徴とするパックシール。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のパックシールにおいて、
前記一方の部材が回転側部材、他方の部材が固定側部材であり、
前記スリンガにおける鍔部の前記芯金の鍔部に対向する面とは反対側の面には、環状多極ゴム磁石からなる磁気エンコーダが固着一体とされていることを特徴とするパックシール。
【請求項5】
請求項4に記載のパックシールにおいて、
前記磁気エンコーダの一部は、スリンガの鍔部の周縁部に回り込むように配されており、
前記弾接部は、前記スリンガの鍔部の周縁部に、前記磁気エンコーダの一部を介在させた状態で弾性的に結合状態となるよう形成されていることを特徴とするパックシール。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のパックシールにおいて、
前記結合状態における前記スリンガと前記弾性シール部材とに対して、軸方向に2kgf〜20kgfの力を加えた場合に、前記結合状態が解除されることを特徴とするパックシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−112489(P2010−112489A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286330(P2008−286330)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】