パワーステアリング機構
【課題】エンジンに直結された油圧ポンプにおける無駄な動力を削減することが出来て、車両の既存部品を生かして後付けが可能なパワーステアリング機構の提供。
【解決手段】油圧ポンプの吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通するバイパスライン(Lb)を有し、該バイパスライン(Lb)には流量調整弁(16)が介装されており、該流量調整弁(16)には制御装置(20)から開閉制御信号が入力され、制御装置(20)は、操舵角度センサ(18)が計測したステアリングの操作量と、操舵力センサ(19)で計測したパワーシリンダ(3)或いはナックルアーム(11)に作用する力とに基づいて、前記流量調整弁(16)を開閉制御する機能を有している。
【解決手段】油圧ポンプの吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通するバイパスライン(Lb)を有し、該バイパスライン(Lb)には流量調整弁(16)が介装されており、該流量調整弁(16)には制御装置(20)から開閉制御信号が入力され、制御装置(20)は、操舵角度センサ(18)が計測したステアリングの操作量と、操舵力センサ(19)で計測したパワーシリンダ(3)或いはナックルアーム(11)に作用する力とに基づいて、前記流量調整弁(16)を開閉制御する機能を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式の操舵機構であって、操舵力が可変なパワーステアリング機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、大型商用車で前輪2軸の3軸車両で使用されているいわゆるリンケージタイプのパワーステアリングシステムのブロック図を示し、図16は当該車両のパワーステアリングシステムの主要部を斜視図として立体的に示している。
なお、説明を簡略化するため、前輪の2軸目等は図示を省略している。
【0003】
図15のパワーステアリングシステムは、エンジン1で駆動される油圧ポンプ2と、パワーシリンダ3と、ギヤボックス4と、オイルタンク5と、油圧供給ラインLと、油圧戻りラインLrを備えている。
油圧供給ラインLには、流量制御弁6と圧力制御弁7が介装されており、ともに必要に応じて、油圧供給ラインLの作動油の一部を油圧ポンプ2の吸込み側、或いはオイルタンク5に戻している。
【0004】
パワーシリンダ3にはバルブユニット8が組込まれている。バルブユニット8は、4ポート3ポジションの流路変換バルブで、図15は、中立状態、例えば、直進走行時の状態を示している。
バルブユニット8は、パワーシリンダ3と一体化された固定部であるハウジング80内を、第1のポジション(左旋回用流路を有するブロック)81、第2のポジション(中立ブロック:直進用流路を有するブロック)82、第3のポジション(右旋回用流路を有するブロック)83が、切換可能に構成されている。
【0005】
バルブユニット8の、図15における左右両端部には、リターンスプリング8sl、8srが設けられている。そして、バルブユニット8の一端(第1のポジション81側の端部)は、接続リンク89を介してギヤボックス4に係合したピットマンアーム9の先端に接続されている。
また、パワーシリンダ3のシリンダ本体30において、図15における左端31は、第1のリンク10を介して前輪Wfのナックルアーム11に接続され、パワーシリンダ3内を摺動するピストン32は、第2のリンク12を介して車両のフレーム13に接続されている。
【0006】
ギヤボックス4は、ステアリングコラム14を介してステアリングホイール15に接続され、ドライバがステアリングホイール15を操舵すると、ギヤボックス4に係合したピットマンアーム9が矢印Rのように回動する。
ドライバがステアリングホイール15を右に操舵(矢印Rhの動作)すると、ピットマンアーム9は、図15において矢印Rの反時計回りに回動する。
ピットマンアーム9が矢印Rの反時計方向に回動すると、バルブユニット8はポジション83の流路に切り換わり、パワーシリンダ3の右室34に作動油が流入し、右室34の圧力が昇圧し、左室33の圧力が減圧する。
【0007】
パワーシリンダ3内のピストン32は、フレーム13側に第2のリンク12を介して固定されているため、右室34が昇圧すると、パワーシリンダ本体30が右側に移動する。パワーシリンダ本体30が右側に移動すると、第1のリンク10に接続されたナックルアーム11は、前輪WfのキングピンKの中心軸に関して時計方向(矢印RL方向)に回動させられ、車両は右に旋回する。
この時、左室33内のオイルの一部は、油圧戻りラインLrを介してオイルタンク5に戻される。
【0008】
一方、ドライバがステアリングホイール15を左に操舵した場合は、ピットマンアーム9は矢印Rの時計方向に回動し、バルブユニット8の流路はポジション81の流路となり、パワーシリンダ本体30を左側に移動して、ナックルアーム11を反時計方向(矢印RKL方向)に回動する。
【0009】
車両を直進状態に戻す場合は、ドライバがステアリングホイール15を操舵して、中立状態に戻す。
中立状態に戻ると、バルブユニット8はポジション82の流路(中立)に切り換わり、油圧ポンプ2からの油圧と、パワーシリンダ3の左右の油室33、34内の油圧とが拮抗し、新たに送り込まれる作動油は、油圧戻りラインLrを介してオイルタンク5に戻される。
【0010】
図15で示す従来のシステムでは、中立であってもパワーシリンダ3には油圧が作用するので、エンジン1は油圧ポンプ4を駆動するために出力の一部を消費しなければならない。
このような中立時において、パワーシリンダ3に油圧を作用させることは、直進時のステアリングホイール15のふらつきの防止や、路面入力(キックバック)の対処、直進から操舵に移る際の腕への過大な入力の防止のために、従来技術では必要とされている。
【0011】
図17は、図15で示す従来のシステムにおける、油圧ポンプ4の回転数に対する油圧供給量の関係を示している。ここで、図15の従来システムには、油圧供給回路Lに流量制御弁6が介装してある。
ここで、流量制御弁6は、弁作動のパイロット圧として、図15のラインLpを介して、パワーシリンダ3の入口圧力を用いている。すなわち、パワーシリンダ3の入口圧力が高いほど流量制御弁6におけるリリーフ量が多くなる。
流量制御弁6は、ポンプ回転数が所定値以上になると動作し、一定割合の圧油、すなわち、図17における破線(特性Q0)から実線(特性Qr)を引いた量(リリーフされる量)がポンプ2の吸込み側、或いはタンク5に戻される。
【0012】
図18は、図15のシステムにおける、油圧ポンプ2の回転数に対する油圧供給量(特性Qr)と、ポンプ駆動力(特性W)を示している。
供給量特性Qrでは、実線側がパワーシリンダ3の圧力が低い場合で、破線がパワーシリンダ3の圧力が高い場合である。
一方、駆動力特性Wでは、実線側がパワーシリンダ3の圧力が高い場合で、破線がパワーシリンダ3の圧力が低い場合となっている。
【0013】
前述したように、図15〜図18で示すシステムではバルブユニット8が中立時(例えば、車両の直進時)であっても、油圧ポンプ2には一定の負荷がかかっている。すなわち、直進時においてもエンジン1は操舵系で出力を消費している。係る状況は、省エネルギーの観点からは容認しがたい。
【0014】
ここで、パワーシリンダや油圧ポンプを電動化した技術も存在する。
電動化されたパワーシリンダや油圧ポンプであれば、エンジンに直結した油圧ポンプのような無駄な動力の問題はない。
しかし、大型のトラックでは、パワーシリンダの重量が大きくなり、電動モータでは操舵力をアシストすることが困難である。
また、油圧ポンプやパワーシリンダを電動モータで駆動する場合には、それに伴い、各種部品を新たに交換しなければならず、既存の部品が使えなくなる。そのため、導入時のコストが高騰化してしまうという問題がある。すなわち、既存部品をなるべく生かして、後付けが可能なシステムを提供したいという要請に応えることが出来ない。
【0015】
その他の従来技術としては、例えば、切替えシリンダ内の切替えスプールに受圧室を備え、受圧室に作用する圧力により切替えスプールを摺動して第1ポートと第2ポートの連通・非連通を切替える切替え弁を設けた容積式ポンプの制御装置が提案されている(特許文献1)。
この技術(特許文献1)は、油圧ポンプの駆動動力を低減できる可能性があるが、新たな弁システムを開発しなければならず、既存の車両に後付けすることが困難である。
【0016】
また、ハンドルが操作された場合にのみ油圧ポンプを駆動し、操舵負荷圧力の上昇に対応して油圧ポンプから吐出される圧油流量が増大してアクチュエータに供給される動力操取装置が提案されている(特許文献2)。
しかし、この技術(特許文献2)を貨物自動車等の商用車両、特に大型商用車両に適用した場合には、乗用車の様な小型車量に比較して、電動油圧ポンプが巨大で大出力のものが要求され、専用装置となってしまい従来の機器との互換性が期待できない。
【0017】
さらに、油圧ポンプの吐出口から吸入口に至るバイパスラインを設け、当該バイパスラインに流量調整弁を介装し、当該流量調整弁の開度を制御することにより、操舵力パターンを切替える技術が提案されている(非特許文献1参照)。
しかし、係る技術(非特許文献1)は、車速に対するハンドルの重さの特性を制御して、操舵感覚を変更することを目的としており、上述した様に、油圧ポンプにおける無駄な動力を削減し、且つ、既存部品をなるべく生かして後付けが可能にする、という従来技術における要請に応えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平6−71889号公報
【特許文献2】特公昭64−6984号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】カヤバ工業株式会社編集、「自動車の操舵系と操安性」、株式会社山海堂、平成8年9月10日、p.90−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、エンジンに直結された油圧ポンプにおける無駄な動力を削減することが出来て、車両の既存部品を活かして後付けが可能なパワーステアリング機構の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のパワーステアリング機構は、エンジン(1)に直結した油圧ポンプ(2)と、パワーシリンダユニット(3)と、リザーバタンク(5)と、油圧ポンプの吐出口(2o)をパワーシリンダ(3)のバルブユニット(8)と連通する圧油ライン(L)を有しているパワーステアリング機構において、油圧ポンプの吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通するバイパスライン(Lb)を有し、該バイパスライン(Lb)には流量調整弁(バイパス流量調整弁16)が介装されており、該流量調整弁(16)には制御装置(コントローラ20)から開閉制御信号が入力され、制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)が計測したステアリングの操作量(操作角度、或いは、ステアリングに作用する力)と、操舵力センサ(19)で計測したパワーシリンダ(3)或いはナックルアーム(11)に作用する力とに基づいて、前記流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を開閉制御する機能を有していることを特徴としている。
【0022】
本発明において、操舵角度センサ(18)はステアリングの軸(ステアリングコラム14)に設けられているのが好ましい。
また、操舵力センサ(19)は、パワーシリンダ(3)とナックルアーム(11)の間の領域に設けられているのが好ましい。
そして、操舵力センサ(19)の検出信号を制御装置(コントローラ20)へ伝達するライン(Si2)には、高い周波数の信号を除去する装置(例えば、ローパスフィルタ21)が介装されているのが好ましい。
【0023】
さらに本発明において、前記制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも大きくなるか、或いは、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を閉鎖し、操舵角度センサ(19)で計測された操舵(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、且つ、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも小さくなった場合には、所定時間(T1)が経過してから流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を開放する機能を有しているのが好ましい。
【0024】
また、本発明において、前記制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)に基づいて操舵角速度(dθ/dt)を演算する機能と、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)に基づいて操舵力の変化率(dF/dt)を演算する機能とを有しているのが好ましい。
【0025】
その場合、前記制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも大きくなるか、操舵角速度(dθ/dt)がしきい値([dθ/dt]T)よりも大きくなるか、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも大きくなるか、或いは、操舵力の変化率(dF/dt)がしきい値([dθ/dt]T)よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を閉鎖し、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、操舵角速度(dθ/dt)がしきい値([dθ/dt]T)よりも小さく、操舵力センサ(19)で計測された操舵(F)力がしきい値(FT)よりも小さく、且つ、操舵力の変化率(dF/dt)がしきい値([dF/dt]T)よりも小さくなった場合には、所定時間(T1)が経過してから流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を開放する機能を有しているのが好ましい。
【0026】
これに加えて、本発明において、前記バイパスライン(Lb)に圧損機構(圧力損失を発生させる機構:例えばオリフィス17)が介装されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
上述する構成を具備する本発明によれば、油圧ポンプ(2)の吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通するバイパスライン(Lb)を設け、該バイパスライン(Lb)には流量調整弁(バイパス流量調整弁16)が介装されており、該流量調整弁(16)は、操舵時等には閉鎖するが、車両の直進時の様にパワーシリンダ(3)の負荷が低い場合には開放される。
そのためパワーシリンダ(3)の負荷が低い場合には流量調整弁(16)が開放されて、油圧ポンプ(2)の吐出口(2o)と吸入口(2i)とが連通され、圧油循環のための消費動力が減少し、無駄な動力消費が削減される。そして、エンジン(1)の補機駆動動力が低減され、燃費も向上する。
一方、操舵時の様には、流量調整弁(16)が閉鎖して、バイパスライン(Lb)も閉鎖するので、油圧ポンプ(2)から吐出される圧油は確実にパワーシリンダユニット(3)のバルブユニット(8)へ供給され、操舵補助力が確実に発生する。
【0028】
本発明によれば、流量調整弁(16)は制御装置(コントローラ20)により開閉制御され、制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測したステアリングの操作量(操作角度、或いは、ステアリングに作用する力)と、操舵力センサ(19)で計測したパワーシリンダ(3)或いはナックルアーム(11)に作用する力とに基づいて開放制御を行なうので、例えば、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも大きくなるか、或いは、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも大きくなった場合には、操舵時等の操舵補助力が必要な状態であると判断して、直ちに流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を閉鎖して、操舵補助力を確実に発生される。
一方、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、且つ、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも小さい場合には、パワーシリンダ(3)の負荷が低く、操舵補助力は不要であると判断して、流量調整弁(16)を開放して、油圧ポンプ(2)の吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通する。これにより、無駄な動力消費が削減される。
【0029】
ここで本発明において、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、且つ、操舵力センサ(19)で計測された操舵力が(F)しきい値(FT)よりも小さい場合には、直ちに流量調整弁(16)を開放するのではなく、所定の時間(T1)経過後に流量調整弁(16)を開放する様に構成すれば、操舵時から直進時に移行した場合の様に、パワーシリンダ(3)の負荷が高い状態から負荷が低い状態に移行してから、流量調整弁(16)を開放するまでの間に、若干の遅れが存在する。
例えば、車線の変更等では、操舵して、瞬間的に直進する状態となってから、再び逆方向へ操舵することになる。その様な場合に、瞬間的に直進する際に(パワーシリンダ3の負荷が低い状態になった際に)、直ちに流量調整弁(16)が開放した状態に移行してパワーシリンダ(3)の圧力を減圧すると、次に逆方向へ操舵する際に操舵補助力が発生せず、ステアリングが非常に重い状態が生じてしまう。
これに対して、パワーシリンダ(3)の負荷が高い状態から負荷が低い状態に移行した場合に、流量調整弁(16)が閉鎖した状態から開放した状態に移行するのに若干の遅れが存在すれば、係る瞬間的な直進時にパワーシリンダ(3)の圧力が直ちに減圧されてしまうことが無く、ステアリングが非常に重い状態が生じることが防止されるのである。
【0030】
同様に、本発明において、バイパスライン(Lb)にオリフィス(17)の様な圧損機構(圧力損失を発生させる機構)が介装されていれば、前記流量調整弁(16)が開放状態となったとしても、圧損機構(17)で圧力損失が生じる分だけ、前記圧油ライン(L)を介してパワーシリンダ(3)へ供給される圧油量を確保することが出来る。そのため、パワーシリンダ(3)内の圧力が無くなり、その後に操舵する際にステアリングが重くなり過ぎてしまうことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態のブロック図である。
【図2】図1における制御系のブロック図である。
【図3】第1実施形態におけるバイパス流量制御弁の制御フローチャートである。
【図4】レーンチェンジ時のステアリングホイールの操舵角の特性図である。
【図5】図4における操舵角速度の特性図である。
【図6】図4における操舵角の絶対値の特性図である。
【図7】図5の操舵角速度の絶対値の特性図である。
【図8】バイパス作動弁の開閉と、操舵角の絶対値と、操舵角速度の絶対値を対応させて示す特性図である。
【図9】操舵輪に外乱が作用した場合におけるステアリングホイールの操舵力の特性図である。
【図10】図9における操舵力変化率の特性図である。
【図11】バイパス作動弁の開閉と、操舵力と、操舵力変化率を対応させて示す特性図である。
【図12】実施形態において、油圧ポンプ回転数とパワーシリンダに供給される作動油流量の関係を示す特性図である。
【図13】実施形態において、油圧ポンプ回転数とパワーシリンダに作用する圧力の関係を示す特性図である。
【図14】実施形態において、油圧ポンプ回転数と油圧ポンプ消費動力の関係を示す特性図である。
【図15】従来技術の一例を示すブロック図である。
【図16】パワーステアリングシステムの配置の一例を示す斜視図である。
【図17】従来技術のポンプ回転数とオイル供給量の関係を示す特性図である。
【図18】従来技術のポンプ回転数とオイル供給量の特性と、ポンプ回転数とポンプ駆動力の特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号100で示すステアリングシステムは、エンジン1で駆動される油圧ポンプ2と、パワーシリンダ3とギヤボックス4と、オイルタンク5と、油圧供給ラインLと、油圧戻りラインLr、Laを備えている。
【0033】
油圧供給ラインLはラインL1〜L4を有し、包括的に符号6で示す流量制御弁と、包括的に符号7で示す圧力制御弁とを介装している。
ラインL1は、油圧ポンプ(以下、「ポンプ」と言う)2の吐出側2oと、第1の分岐点B1とを接続している。
ラインL2は、第1の分岐点B1と第2の分岐点B2とを接続しており、第2の分岐点B2は流量制御弁6内に位置している。
ラインL3は、第2の分岐点B2と第3の分岐点B3を接続しており、第3の分岐点B3は圧力制御弁7内に位置している。
ラインL4は、第3の分岐点B3と、バルブユニット8のハウジング80のポートP1とを接続している。
【0034】
包括的に符号6で示す流量制御弁は、ラインL2、L3の一部領域と、第2の分岐点B2と、流量制御弁本体61と、オリフィス62と、ラインL6と、パイロット圧ラインLpと、第1の合流点G1と、ラインL7の一部領域と、ラインL67を有している。
ラインL67は第2の合流点G2に接続され、第2の合流点G2はラインLaに設けられている。そして、ラインLaは、オイルタンク5とポンプ2の吸込側2iとを接続している。
【0035】
ラインL6は、第2の分岐点B2と第1の合流点G1とを接続し、流量制御弁本体61を介装している。
オリフィス62は、ラインL3に介装されている。
流量制御弁本体61は、例えば、外部パイロット方式のシーケンス弁として構成されている。
なお図1において、上述した流量制御弁6は、符号6を付した破線の矩形で囲って包括的に示されている。
【0036】
包括的に符号7で示す圧力制御弁は、ラインL3、L4の一部領域と、第3の分岐点B3と、圧力制御弁本体71と、オリフィス72と、ラインL7を有している。
ラインL7は、第3の分岐点B3と第1の合流点G1を接続しており、圧力制御弁本体71を介装している。
ラインL7において、第3の分岐点B3と圧力制御弁本体71の間の領域には、オリフィス72が介装されている。
圧力制御弁本体71は、例えば、内部パイロット方式のシーケンス弁として構成されている。
なお図1において、上述した圧力制御弁7は、符号7を付した破線の矩形で囲って包括的に示されている。
【0037】
パワーシリンダ3にはバルブユニット8が組込まれている。図示の実施形態では、バルブユニット8は、4ポート3ポジションの流路変換バルブである。
バルブユニット8における4ポートは、ハウジング80に形成されているポートP1〜P4である。
ポートP1にはラインL4が接続しており、ポートP2はパワーシリンダ3の右室34に連通し、ポートP3はパワーシリンダ3の左室33に連通し、ポートP4にはラインLrが接続されている。そしてラインLrは、オイルタンク5に接続されている。
図1は、バルブユニット8の中立状態(P1、P2、P3とP4とが全て連通している状態)を示しており、係る中立状態は、車両の走行時であれば直進状態に対応している。
【0038】
バルブユニット8は、パワーシリンダ3と一体化されたハウジング(固定部)80内を、第1のポジション(左旋回用流路を有するブロック)81、第2のポジション(直進用流路を有するブロック)82、第3のポジション(右旋回用流路を有するブロック)83が、切換可能に設けられている。
図1において、バルブユニット8の左右両端部には、リターンスプリング8sl、8srが設けられている。
【0039】
バルブユニット8の一端(図1では右側端部)は、接続リンク89を介してピットマンアーム9の先端に接続されている。ここで、ピットマンアーム9は、ギヤボックス4に係合している。
そしてパワーシリンダ3のシリンダ本体30の一端(図1では左端31)は、第1のリンク10を介して前輪Wfのナックルアーム11に接続されている。
また、パワーシリンダ3内を摺動するピストン32は、第2のリンク12を介して、車両のフレーム13に接続(固定)されている。
【0040】
ギヤボックス4は、ステアリングコラム14を介してステアリングホイール15に接続される。そして、ドライバがステアリングホイール15を操舵すると、ギヤボックス4に係合したピットマンアーム9が矢印Rのように回動する。
例えば、ドライバがステアリングホイール15を右に操舵(矢印Rhの動作)すると、ピットマンアーム9は、図1において矢印Rの反時計回りに回動する。
ピットマンアーム9が矢印Rの反時計方向に回動すると、バルブユニット8はポジション83の流路に切り換わり、パワーシリンダ3の右室34に作動油が流入し、右室34の圧力が昇圧し、左室33の圧力が減圧する。
【0041】
パワーシリンダ3内のピストン32は、フレーム13側に第2のリンク12を介して固定されているため、右室34が昇圧すると、パワーシリンダ本体30が右側に移動する。パワーシリンダ本体30が右側に移動すると、第1のリンク10に接続されたナックルアーム11は、前輪WfのキングピンKの中心軸に関して時計方向(矢印RL方向)に回動させられ、車両は右に旋回する。
この時、左室33内のオイルの一部は、油圧戻りラインLrを介してオイルタンク5に戻される。
【0042】
一方、ドライバがステアリングホイール15を左に操舵した場合は、ピットマンアーム9は矢印Rの時計方向に回動し、バルブユニット8の流路はポジション81の流路となり、左室33を昇圧してパワーシリンダ本体30を左側に移動する。
そして、ナックルアーム11を反時計方向(矢印RKL方向)に回動して、車両を左に旋回する。
【0043】
さらに図示の実施形態では、ラインLにおける第1の分岐点B1と、ラインLaにおける第2の合流点とは、バイパスラインLbによって接続されている。
バイパスラインLbには、流量調整弁16が介装されている。バイパスラインLbにおいて、流量調整弁16と第2の合流点G2との間の領域には、オリフィス17が介装されている。
【0044】
図2は、図1における制御系の構成を示している。
図1及び図2において、ステアリングシステム100は、制御装置であるコントロールユニット20と、操舵角度検出手段である操舵角度センサ18と、操舵力検出手段である操舵力センサ19と、前記バイパス流量調整弁16を備えている。
コントロールユニット20は、入力手段20Aと、入力手段20Bと、演算手段20Cと、出力手段である出力信号発信装置20Dを備えている。
コントロールユニット20の演算手段20Cは、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θに基づいて操舵角速度dθ/dtを演算する機能と、操舵力センサ19で計測された操舵力Fに基づいて操舵力の変化率dF/dtを演算する機能とを有している。
【0045】
操舵角度センサ18は、ステアリングコラム14に介装されており、入力信号ラインSi1を介して、コントロールユニット20の入力手段20Aと接続されている。
操舵力センサ(例えば、ロードセル)19は、パワーシリンダ3の第1のリンク10に介装されており、入力信号ラインSi2を介して、コントロールユニット20の入力手段20Bと接続されている。ここで、入力信号ラインSi2には、高い周波数の信号を除去するローパスフィルタ21が介装されている。
コントロールユニット20は、制御信号ラインSoを介して、バイパス流量調整弁16に接続されている。
【0046】
コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θがしきい値θTよりも大きい場合、或いは、操舵力センサ19で計測された操舵力Fがしきい値FTよりも大きくなった場合に、直ちにバイパス流量調整弁16を閉鎖する機能を有している。
それと共に、コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵θがしきい値θTよりも小さく、且つ、操舵力センサ19で計測された操舵力Fがしきい値FTよりも小さくなった場合には、所定時間(T1)が経過してから、バイパス流量調整弁16を開放する機能を有している。
【0047】
或いは、コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θがしきい値θTよりも大きくなるか、操舵角速度がしきい値[dθ/dt]Tよりも大きくなるか、操舵力センサ19で計測された操舵力がしきい値Fよりも大きくなるか、或いは、操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dθ/dt]Tよりも大きくなった場合に、直ちにバイパス流量調整弁16を閉鎖する機能を有することが可能である。
それと共に、コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θがしきい値θTよりも小さく、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]Tよりも小さく、操舵力センサ19で計測された操舵F力がしきい値FTよりも小さく、且つ、操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]Tよりも小さい場合に、所定時間(T1)が経過してからバイパス流量調整弁16を開放する機能を有することが可能である。
【0048】
バイパス流量調整弁16の開閉制御を説明する前に、図4〜図11の特性図を参照して、制御の概要を説明する。
操舵角度センサ18からの入力情報によって得られた操舵角θは、図4で示すように変化する。
図4で示す様な操舵角θを、コントロールユニット20の演算手段20Cによって時間について微分し、求めた操舵角速度dθ/dtが図5で示されている。
【0049】
図4で示す操舵角θの絶対値|θ|が、図6で示されている。コントロールユニット20の演算手段20Cは、操舵角θの絶対値|θ|(図6参照)を求める機能をも有している。
図8や図3等で後述するように、操舵角θはしきい値θTと比較される。ここで、操舵角θは正の値を取る場合と、負の値を取る場合が存在するので、しきい値θTと比較する際には、しきい値θTについても、正の値と負の値の2通りを設定しなければならない。それに対して、その際に、操舵角θの絶対値|θ|をしきい値θTと比較するのであれば、しきい値θTは一つだけ設定すれば良い。
図6において、符号「θT」で示す横軸に平行な点線は、バイパス流量調整弁16が閉鎖するための一つの要因となる操舵角(の微分値)のしきい値である。
【0050】
図7は、図5の操舵角速度dθ/dtを、絶対値|dθ/dt|で示している。操舵角速度dθ/dtを、絶対値|dθ/dt|に変換する機能も、コントロールユニット20の演算手段20Cが担っている。
図7において、横軸に平行な点線[dθ/dt]Tは、操舵角速度(操舵角の微分値)のしきい値である。操舵角速度のしきい値[dθ/dt]Tは、バイパス流量調整弁16の開閉制御における一つのパラメータとして用いられる。
図5〜図7において、図4で示す操舵角の特性を、破線で併記している。
【0051】
図8は、操舵角θ或いはその絶対値|θ|と、操舵角速度dθ/dt或いはその絶対値|dθ/dt|と、バイパス流量調整弁16の開閉動作のパターンとを重ね合わせて示している。
図8において、バイパス流量調整弁16は、操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|Tを超えた場合、或いは、操舵角速度dθ/dtの絶対値がしきい値[dθ/dt]Tを越えた場合に閉鎖する。
そして、操舵角θの絶対値がしきい値|θ|T以下になった後、或いは、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T以下になった後、所定時間T1を経過すると開放する。
なお、図示の簡略化のため、図8では、しきい値|θ|T、しきい値[dθ/dt]Tは、単一の点線で示されている。
【0052】
操舵力Fは、操舵力センサ19の出力から演算される。図9では、操舵輪に外乱が作用した際における操舵力センサ19の出力から演算された操舵力を示している。
図10は、操舵力Fの微分値(操舵力の変化率)dF/dtを示している。操舵力Fの微分値(操舵力の変化率)dF/dtは、図9で示す操舵力Fを、コントロールユニット20の演算手段20Cにより微分して、求めている。
【0053】
図11は、操舵力Fの絶対値|F|と、操舵力の微分値(操舵力の変化率、以下、操舵力の変化率とも言う)dF/dtと、バイパス流量調整弁16の開閉動作のパターンとを重ね合わせて示している。
図11において、バイパス流量調整弁16は、操舵力の絶対値|F|がしきい値|F|Tを超えた場合、或いは、操舵力の微分値(操舵力の変化率)dF/dtがしきい値|dF/dt|Tを越えた際に閉鎖する。
そして、バイパス流量調整弁16は、操舵力の絶対値|F|がしきい値|F|T以下になった後、或いは、操舵力の微分値(操舵力の変化率)dF/dtがしきい値|dF/dt|T以下になった後、所定時間T2が経過すると開放する。
なお、図示の簡略化のため、図11でも、しきい値|F|T、しきい値[dF/dt]Tは、単一の点線で示されている。
ここで、図3で示す制御では、所定時間T2は所定時間T1(図8参照)とは同一に設定されている。ただし、所定時間T2は所定時間T1と異なる値とすることも出来る。
【0054】
以下、図3のフローチャートに基づいて、図1、図2、図4〜図11も参照して、バイパス流量調整弁16の開閉制御について説明する。
図3において、イグニションをONにして制御をスタートする。
ステップS1では、バイパス流量調整弁16の開度フラグを「開」にセットし、ステップS2では、タイマをT=0にセットする。
ステップS3では、操舵角度センサ18で検出された操舵角θ(図4参照)を読み込み、ステップS4に進む。
【0055】
ステップS4では、コントロールユニット20の演算手段20Cにより、ステップS3で読み込んだ操舵角θから操舵角速度dθ/dt(図5参照)を演算する。
次に、ステップS5では、操舵力センサ19で検出した操舵力F(図9参照)を読み込み、ステップS6で、操舵力の変化率dF/dt(図10参照)を演算する。
そして、ステップS7に進む。
【0056】
ステップS7では、コントロールユニット20により、操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|T以上であるか否かを判断する。
なお、図3では簡略化のため、ステップS7は「操舵角『θ』はしきい値以上?」と記載している。
操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|T以上であれば(ステップS7がYES)、ステップS11まで進む。
一方、操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|T未満であれば(ステップS7がNO)、ステップS8に進む。
【0057】
ステップS8では、コントロールユニット20により、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T以上であるか否かを判断する。
操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T以上であれば(ステップS8がYES)、ステップS11まで進む。
一方、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T未満であれば(ステップS8がNO)、ステップS9に進む。
【0058】
ステップS9では、コントロールユニット20により、操舵力センサ19で計測された操舵力F(図9参照)の絶対値|F|が、しきい値|F|T以上であるか否かを判断する。
簡略化のため、図3ではステップS9は「操舵力『Fはしきい値以上?」と記載している。
操舵力Fがしきい値|F|T以上であれば(ステップS9がYES)、ステップS11まで進み、操舵力Fがしきい値|F|T未満であれば(ステップS9がNO)、ステップS10に進む。
【0059】
ステップS10では、コントロールユニット20は、操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]T以上であるか否かを判断する。
操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]T以上であれば(ステップS10がYES)、ステップS11に進む。操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]T未満であれば(ステップS10がNO)、ステップS13に進む。
【0060】
ステップS11では、コントロールユニット20は、バイパス流量調整弁16に対して、制御信号So経由で弁開度「閉」の指令を下し、ステップS12で、バイパス流量調整弁開度フラグを「閉」にセットする。これにより、バイパス流量調整弁16は閉鎖する。
そして、ステップS22まで進む。
【0061】
ステップS13では、コントロールユニット20は、前回フラグは「開」であったか否かを判断する。前回フラグが「開」であれば(ステップS13がYES)、すなわち、バイパス流量調整弁16が開放されて状態が続いている場合には、ステップS14に進む。
ステップS14では、バイパス流量調整弁開度「開」の指令をそのまま継続するべく、バイパス流量調整弁開度フラグ「開」にセットして(ステップS15)、ステップS22に進む。
【0062】
一方、ステップS13において、前回フラグが「開」でなければ(ステップS13がNO)、すなわち、直前の制御サイクル(ステップS3〜S22までの一連の制御)まではバイパス流量調整弁16が閉鎖されており、直前の制御サイクルではフラグが「閉」の状態となっていた場合には、ステップS16まで進む。
ステップS16ではタイマをT=0にセットし、次のステップS17では、タイマをT=0にセットしてからの経過時間Tが、所定値T1を超えたか否かを判断する。
【0063】
経過時間Tが、所定値T1を超えていなければ(ステップS17がNO)、ステップS20に進み、バイパス流量調整弁開度「閉」の指令を継続し、タイマの設定Tを、T=T+1にセットした後、再びステップS17以降を繰り返す。
【0064】
ステップS17において、経過時間Tが、所定値T1を超えていれば(ステップS17がYES)、ステップS18に進む。
ステップS18では、バイパス流量調整弁16に対して弁開度「開」を指令し、バイパス流量調整弁開度フラグを「開」にセットする(ステップS19)。これにより、バイパス流量調整弁16は閉鎖する。
そして、ステップS22に進む。
【0065】
ステップS17、S20、S21により、前回フラグが「開」でなければ(ステップS13がNO)、すなわち、直前の制御サイクル(ステップS1〜S22までの一連の制御)まではバイパス流量調整弁16が閉鎖されており、直前の制御サイクルではフラグが「閉」の状態となっていた場合に、ステップS7〜S10の何れかが「YES」となれば、直ちにステップS18、S19を実行することなく、所定時間T1だけ待機することが保証される。
そのため、車線の変更等で、瞬間的に直進した際に、バイパス流量調整弁16が瞬間的に開放してパワーシリンダ3の圧力を減圧して、操舵補助力が発生しない状態となってしまうことが防止されるのである。
【0066】
ステップS22において、イグニションがOFFとなったか否かを判断する。
イグニションがOFFになったのであれば(ステップS22がYES)、制御を終了する。
イグニションがONであれば(ステップS22がNO)、ステップS3まで戻り、ステップS3〜S22の新たな制御サイクルを実行する。
【0067】
図1の実施形態は、バイパス流量調整弁16及びオリフィス17を介装したバイパスラインLbを油圧供給ラインLの途中に追加し、ステアリングコラム14に操舵角度センサ18を取付け、パワーシリンダ3に接続する第1のリンク10に操舵力センサ(例えばロードセル)19を取り付けることで実施可能である。
これらの追加装備は、改修工事に要する時間も短く、その費用も最小限に留めることが出来る。
【0068】
図12は、図1の実施形態における油圧ポンプ2の回転数に対するパワーシリンダ3への油圧供給量(流量)を示している。
図12の実線は、例えば、パワーシリンダ3の入口圧が「中」以上で、バイパスラインLbの流量調整弁16を閉じた場合の流量特性を示している。
なお、入口圧「大」で、その値が一定以上になれば、圧力制御弁7が作動して作動油の一部を油圧ポンプ2の入口2iに戻すので、入口圧「中」の場合よりもパワーシリンダ流量は減少する。
図12の破線は、直進時のようにパワーシリンダ3の負荷が小さく、バイパス流量調整弁16が開いている場合の流量特性を示している。
【0069】
図13は、油圧ポンプ2の回転数に対するパワーシリンダ3入口の油圧を示している。この油圧は、パワーシリンダ3の第1のリンク10に取付けた操舵力センサ19によって間接的に検知することも出来る。
図13の実線は、パワーシリンダ3の入口圧が「中」以上で、バイパスラインLbの流量調整弁16を閉じた場合の圧力特性を示している。
図13の破線は、パワーシリンダ3の入口圧が小さくバイパス流量調整弁16が開いた状態の圧力特性を示している。
【0070】
図14は、油圧ポンプ2の回転数に対する油圧ポンプ2の消費動力を示している。
図15の実線は、バイパスラインLbの流量調整弁16を閉じた場合の油圧ポンプ2の消費動力を示し、図15の破線は流量調整弁16を開いた場合の油圧ポンプ2の消費動力を示している。
図12〜図15から明らかなように、バイパス流量調整弁16を開放した方が、バイパス流量調整弁16を閉鎖している場合よりも、油圧ポンプ2の消費動力は明らかに小さくなる。
【0071】
図示の実施形態では、車両が直進状態や操舵輪が大きな外乱を受けない場合のように、パワーシリンダ3に作用する負荷が小さければ、バイパス流量調整弁16を開放してバイパスLbを開放するので、油圧ポンプ2の消費動力は低い。
例えば図14において、ポンプ回転数がNpの場合は、バイパス流量調整弁16を開放した場合は、バイパス流量調整弁16を閉鎖した場合(バイパス流量調整弁16を備えていない従来技術の場合も包含)に比較して、符号「ΔWp」で示す分だけ、油圧ポンプの消費駆動力が削減できる。
【0072】
上述した構成の図示の実施形態によれば、パワーシリンダ3の負荷が低い場合、或いは操舵輪に大きな外乱が作用しない場合には、バイパス流量調整弁16を開放して、油圧ポンプ2から吐出された作動油の多くは、バイパスラインLbによりそのまま油圧ポンプの入口側2iに戻される。
そのため、油圧ポンプ2の消費動力が減少し、パワーシリンダ3の負荷が低い場合や操舵輪に大きな外乱が作用しない場合には、無駄な動力消費が削減される。
すなわち、エンジン1の補機駆動動力の低減によって燃費も向上する。
【0073】
一方、所定以上の操舵角や操舵角速度変動を伴う操舵時や、操舵輪に大きな外乱が生じた場合の様に、パワーシリンダ3の負荷が高い場合には流量調整弁16は閉鎖するので、油圧ポンプ2から吐出される圧油は確実にパワーシリンダユニット3のバルブユニット8へ供給される。そのため、係る操舵時には十分な操舵補助力を発生することが出来る。
【0074】
また図示の実施形態は、圧油ラインLの途中に流量調整弁16を介装したバイパスラインLbを既存のパワーステアリング機構に追加し、操舵角度センサ18および操舵力センサ19を既存の部位に追加装備するだけであるので、既にパワーステアリング機構を有している車両の既存部品を活かして、いわゆる「後付け」により既存の車両に対して容易に実施することが出来る。
そのため、導入コストを安価に抑えることが出来る。
【0075】
図示の実施形態では、バイパスラインLbにオリフィス17が介装されているので、バイパス流量調整弁16が開放状態となり、油圧ポンプ2の吐出口2oと吸入口2iとがバイパスされても、オリフィス17で圧力損失が生じる分だけ、油圧供給ラインLを介してパワーシリンダ3へ供給される圧油量を確保することが出来る。
そのため、バイパス流量調整弁16を開放しても、パワーシリンダ3内の圧力が無くなってしまうことはなく、操舵力の補助が全くなくなってしまうことを防止することができる。
【0076】
車線の変更等では、操舵して、瞬間的に直進する状態となってから、再び逆方向へ操舵することになる。その様な場合に、瞬間的に直進する際に(パワーシリンダ3の負荷が低い状態になった際に)、直ちにバイパス流量調整弁16が開放した状態に移行してパワーシリンダ3の圧力を減圧すると、次に逆方向へ操舵する際に操舵補助力が発生せず、ステアリングが非常に重くなってしまう。
これに対して、図示の実施形態では、パワーシリンダ3の負荷が高い状態から負荷が低い状態に移行した場合に、図3のステップS17、S20、S21の制御によって、バイパス流量調整弁16が閉鎖した状態から開放した状態に移行するのに所定時間T1の遅れが存在するので、係る瞬間的な直進時にパワーシリンダ3の圧力が直ちに減圧されてしまうことが無く、ステアリングが非常に重い状態が生じることが防止される。
【0077】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【符号の説明】
【0078】
1・・・エンジン
2・・・油圧ポンプ
3・・・パワーシリンダユニット/パワーシリンダ
4・・・ギヤボックス
5・・・オイルタンク
6・・・流量制御弁
7・・・圧力制御弁
8・・・バルブユニット
9・・・ピットマンアーム
10・・・第1のリンク
11・・・ナックルアーム
12・・・第2のリンク
13・・・フレーム
14・・・ステアリングコラム
15・・・ステアリングホイール
16・・・バイパス流量調整弁
17・・・オリフィス
18・・・操舵角度センサ
19・・・操舵力センサ
Lb・・・バイパスライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式の操舵機構であって、操舵力が可変なパワーステアリング機構の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
図15は、大型商用車で前輪2軸の3軸車両で使用されているいわゆるリンケージタイプのパワーステアリングシステムのブロック図を示し、図16は当該車両のパワーステアリングシステムの主要部を斜視図として立体的に示している。
なお、説明を簡略化するため、前輪の2軸目等は図示を省略している。
【0003】
図15のパワーステアリングシステムは、エンジン1で駆動される油圧ポンプ2と、パワーシリンダ3と、ギヤボックス4と、オイルタンク5と、油圧供給ラインLと、油圧戻りラインLrを備えている。
油圧供給ラインLには、流量制御弁6と圧力制御弁7が介装されており、ともに必要に応じて、油圧供給ラインLの作動油の一部を油圧ポンプ2の吸込み側、或いはオイルタンク5に戻している。
【0004】
パワーシリンダ3にはバルブユニット8が組込まれている。バルブユニット8は、4ポート3ポジションの流路変換バルブで、図15は、中立状態、例えば、直進走行時の状態を示している。
バルブユニット8は、パワーシリンダ3と一体化された固定部であるハウジング80内を、第1のポジション(左旋回用流路を有するブロック)81、第2のポジション(中立ブロック:直進用流路を有するブロック)82、第3のポジション(右旋回用流路を有するブロック)83が、切換可能に構成されている。
【0005】
バルブユニット8の、図15における左右両端部には、リターンスプリング8sl、8srが設けられている。そして、バルブユニット8の一端(第1のポジション81側の端部)は、接続リンク89を介してギヤボックス4に係合したピットマンアーム9の先端に接続されている。
また、パワーシリンダ3のシリンダ本体30において、図15における左端31は、第1のリンク10を介して前輪Wfのナックルアーム11に接続され、パワーシリンダ3内を摺動するピストン32は、第2のリンク12を介して車両のフレーム13に接続されている。
【0006】
ギヤボックス4は、ステアリングコラム14を介してステアリングホイール15に接続され、ドライバがステアリングホイール15を操舵すると、ギヤボックス4に係合したピットマンアーム9が矢印Rのように回動する。
ドライバがステアリングホイール15を右に操舵(矢印Rhの動作)すると、ピットマンアーム9は、図15において矢印Rの反時計回りに回動する。
ピットマンアーム9が矢印Rの反時計方向に回動すると、バルブユニット8はポジション83の流路に切り換わり、パワーシリンダ3の右室34に作動油が流入し、右室34の圧力が昇圧し、左室33の圧力が減圧する。
【0007】
パワーシリンダ3内のピストン32は、フレーム13側に第2のリンク12を介して固定されているため、右室34が昇圧すると、パワーシリンダ本体30が右側に移動する。パワーシリンダ本体30が右側に移動すると、第1のリンク10に接続されたナックルアーム11は、前輪WfのキングピンKの中心軸に関して時計方向(矢印RL方向)に回動させられ、車両は右に旋回する。
この時、左室33内のオイルの一部は、油圧戻りラインLrを介してオイルタンク5に戻される。
【0008】
一方、ドライバがステアリングホイール15を左に操舵した場合は、ピットマンアーム9は矢印Rの時計方向に回動し、バルブユニット8の流路はポジション81の流路となり、パワーシリンダ本体30を左側に移動して、ナックルアーム11を反時計方向(矢印RKL方向)に回動する。
【0009】
車両を直進状態に戻す場合は、ドライバがステアリングホイール15を操舵して、中立状態に戻す。
中立状態に戻ると、バルブユニット8はポジション82の流路(中立)に切り換わり、油圧ポンプ2からの油圧と、パワーシリンダ3の左右の油室33、34内の油圧とが拮抗し、新たに送り込まれる作動油は、油圧戻りラインLrを介してオイルタンク5に戻される。
【0010】
図15で示す従来のシステムでは、中立であってもパワーシリンダ3には油圧が作用するので、エンジン1は油圧ポンプ4を駆動するために出力の一部を消費しなければならない。
このような中立時において、パワーシリンダ3に油圧を作用させることは、直進時のステアリングホイール15のふらつきの防止や、路面入力(キックバック)の対処、直進から操舵に移る際の腕への過大な入力の防止のために、従来技術では必要とされている。
【0011】
図17は、図15で示す従来のシステムにおける、油圧ポンプ4の回転数に対する油圧供給量の関係を示している。ここで、図15の従来システムには、油圧供給回路Lに流量制御弁6が介装してある。
ここで、流量制御弁6は、弁作動のパイロット圧として、図15のラインLpを介して、パワーシリンダ3の入口圧力を用いている。すなわち、パワーシリンダ3の入口圧力が高いほど流量制御弁6におけるリリーフ量が多くなる。
流量制御弁6は、ポンプ回転数が所定値以上になると動作し、一定割合の圧油、すなわち、図17における破線(特性Q0)から実線(特性Qr)を引いた量(リリーフされる量)がポンプ2の吸込み側、或いはタンク5に戻される。
【0012】
図18は、図15のシステムにおける、油圧ポンプ2の回転数に対する油圧供給量(特性Qr)と、ポンプ駆動力(特性W)を示している。
供給量特性Qrでは、実線側がパワーシリンダ3の圧力が低い場合で、破線がパワーシリンダ3の圧力が高い場合である。
一方、駆動力特性Wでは、実線側がパワーシリンダ3の圧力が高い場合で、破線がパワーシリンダ3の圧力が低い場合となっている。
【0013】
前述したように、図15〜図18で示すシステムではバルブユニット8が中立時(例えば、車両の直進時)であっても、油圧ポンプ2には一定の負荷がかかっている。すなわち、直進時においてもエンジン1は操舵系で出力を消費している。係る状況は、省エネルギーの観点からは容認しがたい。
【0014】
ここで、パワーシリンダや油圧ポンプを電動化した技術も存在する。
電動化されたパワーシリンダや油圧ポンプであれば、エンジンに直結した油圧ポンプのような無駄な動力の問題はない。
しかし、大型のトラックでは、パワーシリンダの重量が大きくなり、電動モータでは操舵力をアシストすることが困難である。
また、油圧ポンプやパワーシリンダを電動モータで駆動する場合には、それに伴い、各種部品を新たに交換しなければならず、既存の部品が使えなくなる。そのため、導入時のコストが高騰化してしまうという問題がある。すなわち、既存部品をなるべく生かして、後付けが可能なシステムを提供したいという要請に応えることが出来ない。
【0015】
その他の従来技術としては、例えば、切替えシリンダ内の切替えスプールに受圧室を備え、受圧室に作用する圧力により切替えスプールを摺動して第1ポートと第2ポートの連通・非連通を切替える切替え弁を設けた容積式ポンプの制御装置が提案されている(特許文献1)。
この技術(特許文献1)は、油圧ポンプの駆動動力を低減できる可能性があるが、新たな弁システムを開発しなければならず、既存の車両に後付けすることが困難である。
【0016】
また、ハンドルが操作された場合にのみ油圧ポンプを駆動し、操舵負荷圧力の上昇に対応して油圧ポンプから吐出される圧油流量が増大してアクチュエータに供給される動力操取装置が提案されている(特許文献2)。
しかし、この技術(特許文献2)を貨物自動車等の商用車両、特に大型商用車両に適用した場合には、乗用車の様な小型車量に比較して、電動油圧ポンプが巨大で大出力のものが要求され、専用装置となってしまい従来の機器との互換性が期待できない。
【0017】
さらに、油圧ポンプの吐出口から吸入口に至るバイパスラインを設け、当該バイパスラインに流量調整弁を介装し、当該流量調整弁の開度を制御することにより、操舵力パターンを切替える技術が提案されている(非特許文献1参照)。
しかし、係る技術(非特許文献1)は、車速に対するハンドルの重さの特性を制御して、操舵感覚を変更することを目的としており、上述した様に、油圧ポンプにおける無駄な動力を削減し、且つ、既存部品をなるべく生かして後付けが可能にする、という従来技術における要請に応えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特公平6−71889号公報
【特許文献2】特公昭64−6984号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】カヤバ工業株式会社編集、「自動車の操舵系と操安性」、株式会社山海堂、平成8年9月10日、p.90−93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、エンジンに直結された油圧ポンプにおける無駄な動力を削減することが出来て、車両の既存部品を活かして後付けが可能なパワーステアリング機構の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のパワーステアリング機構は、エンジン(1)に直結した油圧ポンプ(2)と、パワーシリンダユニット(3)と、リザーバタンク(5)と、油圧ポンプの吐出口(2o)をパワーシリンダ(3)のバルブユニット(8)と連通する圧油ライン(L)を有しているパワーステアリング機構において、油圧ポンプの吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通するバイパスライン(Lb)を有し、該バイパスライン(Lb)には流量調整弁(バイパス流量調整弁16)が介装されており、該流量調整弁(16)には制御装置(コントローラ20)から開閉制御信号が入力され、制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)が計測したステアリングの操作量(操作角度、或いは、ステアリングに作用する力)と、操舵力センサ(19)で計測したパワーシリンダ(3)或いはナックルアーム(11)に作用する力とに基づいて、前記流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を開閉制御する機能を有していることを特徴としている。
【0022】
本発明において、操舵角度センサ(18)はステアリングの軸(ステアリングコラム14)に設けられているのが好ましい。
また、操舵力センサ(19)は、パワーシリンダ(3)とナックルアーム(11)の間の領域に設けられているのが好ましい。
そして、操舵力センサ(19)の検出信号を制御装置(コントローラ20)へ伝達するライン(Si2)には、高い周波数の信号を除去する装置(例えば、ローパスフィルタ21)が介装されているのが好ましい。
【0023】
さらに本発明において、前記制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも大きくなるか、或いは、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を閉鎖し、操舵角度センサ(19)で計測された操舵(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、且つ、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも小さくなった場合には、所定時間(T1)が経過してから流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を開放する機能を有しているのが好ましい。
【0024】
また、本発明において、前記制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)に基づいて操舵角速度(dθ/dt)を演算する機能と、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)に基づいて操舵力の変化率(dF/dt)を演算する機能とを有しているのが好ましい。
【0025】
その場合、前記制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも大きくなるか、操舵角速度(dθ/dt)がしきい値([dθ/dt]T)よりも大きくなるか、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも大きくなるか、或いは、操舵力の変化率(dF/dt)がしきい値([dθ/dt]T)よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を閉鎖し、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、操舵角速度(dθ/dt)がしきい値([dθ/dt]T)よりも小さく、操舵力センサ(19)で計測された操舵(F)力がしきい値(FT)よりも小さく、且つ、操舵力の変化率(dF/dt)がしきい値([dF/dt]T)よりも小さくなった場合には、所定時間(T1)が経過してから流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を開放する機能を有しているのが好ましい。
【0026】
これに加えて、本発明において、前記バイパスライン(Lb)に圧損機構(圧力損失を発生させる機構:例えばオリフィス17)が介装されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
上述する構成を具備する本発明によれば、油圧ポンプ(2)の吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通するバイパスライン(Lb)を設け、該バイパスライン(Lb)には流量調整弁(バイパス流量調整弁16)が介装されており、該流量調整弁(16)は、操舵時等には閉鎖するが、車両の直進時の様にパワーシリンダ(3)の負荷が低い場合には開放される。
そのためパワーシリンダ(3)の負荷が低い場合には流量調整弁(16)が開放されて、油圧ポンプ(2)の吐出口(2o)と吸入口(2i)とが連通され、圧油循環のための消費動力が減少し、無駄な動力消費が削減される。そして、エンジン(1)の補機駆動動力が低減され、燃費も向上する。
一方、操舵時の様には、流量調整弁(16)が閉鎖して、バイパスライン(Lb)も閉鎖するので、油圧ポンプ(2)から吐出される圧油は確実にパワーシリンダユニット(3)のバルブユニット(8)へ供給され、操舵補助力が確実に発生する。
【0028】
本発明によれば、流量調整弁(16)は制御装置(コントローラ20)により開閉制御され、制御装置(コントローラ20)は、操舵角度センサ(18)で計測したステアリングの操作量(操作角度、或いは、ステアリングに作用する力)と、操舵力センサ(19)で計測したパワーシリンダ(3)或いはナックルアーム(11)に作用する力とに基づいて開放制御を行なうので、例えば、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも大きくなるか、或いは、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも大きくなった場合には、操舵時等の操舵補助力が必要な状態であると判断して、直ちに流量調整弁(バイパス流量調整弁16)を閉鎖して、操舵補助力を確実に発生される。
一方、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、且つ、操舵力センサ(19)で計測された操舵力(F)がしきい値(FT)よりも小さい場合には、パワーシリンダ(3)の負荷が低く、操舵補助力は不要であると判断して、流量調整弁(16)を開放して、油圧ポンプ(2)の吐出口(2o)と吸入口(2i)とを連通する。これにより、無駄な動力消費が削減される。
【0029】
ここで本発明において、操舵角度センサ(18)で計測された操舵角度(θ)がしきい値(θT)よりも小さく、且つ、操舵力センサ(19)で計測された操舵力が(F)しきい値(FT)よりも小さい場合には、直ちに流量調整弁(16)を開放するのではなく、所定の時間(T1)経過後に流量調整弁(16)を開放する様に構成すれば、操舵時から直進時に移行した場合の様に、パワーシリンダ(3)の負荷が高い状態から負荷が低い状態に移行してから、流量調整弁(16)を開放するまでの間に、若干の遅れが存在する。
例えば、車線の変更等では、操舵して、瞬間的に直進する状態となってから、再び逆方向へ操舵することになる。その様な場合に、瞬間的に直進する際に(パワーシリンダ3の負荷が低い状態になった際に)、直ちに流量調整弁(16)が開放した状態に移行してパワーシリンダ(3)の圧力を減圧すると、次に逆方向へ操舵する際に操舵補助力が発生せず、ステアリングが非常に重い状態が生じてしまう。
これに対して、パワーシリンダ(3)の負荷が高い状態から負荷が低い状態に移行した場合に、流量調整弁(16)が閉鎖した状態から開放した状態に移行するのに若干の遅れが存在すれば、係る瞬間的な直進時にパワーシリンダ(3)の圧力が直ちに減圧されてしまうことが無く、ステアリングが非常に重い状態が生じることが防止されるのである。
【0030】
同様に、本発明において、バイパスライン(Lb)にオリフィス(17)の様な圧損機構(圧力損失を発生させる機構)が介装されていれば、前記流量調整弁(16)が開放状態となったとしても、圧損機構(17)で圧力損失が生じる分だけ、前記圧油ライン(L)を介してパワーシリンダ(3)へ供給される圧油量を確保することが出来る。そのため、パワーシリンダ(3)内の圧力が無くなり、その後に操舵する際にステアリングが重くなり過ぎてしまうことが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態のブロック図である。
【図2】図1における制御系のブロック図である。
【図3】第1実施形態におけるバイパス流量制御弁の制御フローチャートである。
【図4】レーンチェンジ時のステアリングホイールの操舵角の特性図である。
【図5】図4における操舵角速度の特性図である。
【図6】図4における操舵角の絶対値の特性図である。
【図7】図5の操舵角速度の絶対値の特性図である。
【図8】バイパス作動弁の開閉と、操舵角の絶対値と、操舵角速度の絶対値を対応させて示す特性図である。
【図9】操舵輪に外乱が作用した場合におけるステアリングホイールの操舵力の特性図である。
【図10】図9における操舵力変化率の特性図である。
【図11】バイパス作動弁の開閉と、操舵力と、操舵力変化率を対応させて示す特性図である。
【図12】実施形態において、油圧ポンプ回転数とパワーシリンダに供給される作動油流量の関係を示す特性図である。
【図13】実施形態において、油圧ポンプ回転数とパワーシリンダに作用する圧力の関係を示す特性図である。
【図14】実施形態において、油圧ポンプ回転数と油圧ポンプ消費動力の関係を示す特性図である。
【図15】従来技術の一例を示すブロック図である。
【図16】パワーステアリングシステムの配置の一例を示す斜視図である。
【図17】従来技術のポンプ回転数とオイル供給量の関係を示す特性図である。
【図18】従来技術のポンプ回転数とオイル供給量の特性と、ポンプ回転数とポンプ駆動力の特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号100で示すステアリングシステムは、エンジン1で駆動される油圧ポンプ2と、パワーシリンダ3とギヤボックス4と、オイルタンク5と、油圧供給ラインLと、油圧戻りラインLr、Laを備えている。
【0033】
油圧供給ラインLはラインL1〜L4を有し、包括的に符号6で示す流量制御弁と、包括的に符号7で示す圧力制御弁とを介装している。
ラインL1は、油圧ポンプ(以下、「ポンプ」と言う)2の吐出側2oと、第1の分岐点B1とを接続している。
ラインL2は、第1の分岐点B1と第2の分岐点B2とを接続しており、第2の分岐点B2は流量制御弁6内に位置している。
ラインL3は、第2の分岐点B2と第3の分岐点B3を接続しており、第3の分岐点B3は圧力制御弁7内に位置している。
ラインL4は、第3の分岐点B3と、バルブユニット8のハウジング80のポートP1とを接続している。
【0034】
包括的に符号6で示す流量制御弁は、ラインL2、L3の一部領域と、第2の分岐点B2と、流量制御弁本体61と、オリフィス62と、ラインL6と、パイロット圧ラインLpと、第1の合流点G1と、ラインL7の一部領域と、ラインL67を有している。
ラインL67は第2の合流点G2に接続され、第2の合流点G2はラインLaに設けられている。そして、ラインLaは、オイルタンク5とポンプ2の吸込側2iとを接続している。
【0035】
ラインL6は、第2の分岐点B2と第1の合流点G1とを接続し、流量制御弁本体61を介装している。
オリフィス62は、ラインL3に介装されている。
流量制御弁本体61は、例えば、外部パイロット方式のシーケンス弁として構成されている。
なお図1において、上述した流量制御弁6は、符号6を付した破線の矩形で囲って包括的に示されている。
【0036】
包括的に符号7で示す圧力制御弁は、ラインL3、L4の一部領域と、第3の分岐点B3と、圧力制御弁本体71と、オリフィス72と、ラインL7を有している。
ラインL7は、第3の分岐点B3と第1の合流点G1を接続しており、圧力制御弁本体71を介装している。
ラインL7において、第3の分岐点B3と圧力制御弁本体71の間の領域には、オリフィス72が介装されている。
圧力制御弁本体71は、例えば、内部パイロット方式のシーケンス弁として構成されている。
なお図1において、上述した圧力制御弁7は、符号7を付した破線の矩形で囲って包括的に示されている。
【0037】
パワーシリンダ3にはバルブユニット8が組込まれている。図示の実施形態では、バルブユニット8は、4ポート3ポジションの流路変換バルブである。
バルブユニット8における4ポートは、ハウジング80に形成されているポートP1〜P4である。
ポートP1にはラインL4が接続しており、ポートP2はパワーシリンダ3の右室34に連通し、ポートP3はパワーシリンダ3の左室33に連通し、ポートP4にはラインLrが接続されている。そしてラインLrは、オイルタンク5に接続されている。
図1は、バルブユニット8の中立状態(P1、P2、P3とP4とが全て連通している状態)を示しており、係る中立状態は、車両の走行時であれば直進状態に対応している。
【0038】
バルブユニット8は、パワーシリンダ3と一体化されたハウジング(固定部)80内を、第1のポジション(左旋回用流路を有するブロック)81、第2のポジション(直進用流路を有するブロック)82、第3のポジション(右旋回用流路を有するブロック)83が、切換可能に設けられている。
図1において、バルブユニット8の左右両端部には、リターンスプリング8sl、8srが設けられている。
【0039】
バルブユニット8の一端(図1では右側端部)は、接続リンク89を介してピットマンアーム9の先端に接続されている。ここで、ピットマンアーム9は、ギヤボックス4に係合している。
そしてパワーシリンダ3のシリンダ本体30の一端(図1では左端31)は、第1のリンク10を介して前輪Wfのナックルアーム11に接続されている。
また、パワーシリンダ3内を摺動するピストン32は、第2のリンク12を介して、車両のフレーム13に接続(固定)されている。
【0040】
ギヤボックス4は、ステアリングコラム14を介してステアリングホイール15に接続される。そして、ドライバがステアリングホイール15を操舵すると、ギヤボックス4に係合したピットマンアーム9が矢印Rのように回動する。
例えば、ドライバがステアリングホイール15を右に操舵(矢印Rhの動作)すると、ピットマンアーム9は、図1において矢印Rの反時計回りに回動する。
ピットマンアーム9が矢印Rの反時計方向に回動すると、バルブユニット8はポジション83の流路に切り換わり、パワーシリンダ3の右室34に作動油が流入し、右室34の圧力が昇圧し、左室33の圧力が減圧する。
【0041】
パワーシリンダ3内のピストン32は、フレーム13側に第2のリンク12を介して固定されているため、右室34が昇圧すると、パワーシリンダ本体30が右側に移動する。パワーシリンダ本体30が右側に移動すると、第1のリンク10に接続されたナックルアーム11は、前輪WfのキングピンKの中心軸に関して時計方向(矢印RL方向)に回動させられ、車両は右に旋回する。
この時、左室33内のオイルの一部は、油圧戻りラインLrを介してオイルタンク5に戻される。
【0042】
一方、ドライバがステアリングホイール15を左に操舵した場合は、ピットマンアーム9は矢印Rの時計方向に回動し、バルブユニット8の流路はポジション81の流路となり、左室33を昇圧してパワーシリンダ本体30を左側に移動する。
そして、ナックルアーム11を反時計方向(矢印RKL方向)に回動して、車両を左に旋回する。
【0043】
さらに図示の実施形態では、ラインLにおける第1の分岐点B1と、ラインLaにおける第2の合流点とは、バイパスラインLbによって接続されている。
バイパスラインLbには、流量調整弁16が介装されている。バイパスラインLbにおいて、流量調整弁16と第2の合流点G2との間の領域には、オリフィス17が介装されている。
【0044】
図2は、図1における制御系の構成を示している。
図1及び図2において、ステアリングシステム100は、制御装置であるコントロールユニット20と、操舵角度検出手段である操舵角度センサ18と、操舵力検出手段である操舵力センサ19と、前記バイパス流量調整弁16を備えている。
コントロールユニット20は、入力手段20Aと、入力手段20Bと、演算手段20Cと、出力手段である出力信号発信装置20Dを備えている。
コントロールユニット20の演算手段20Cは、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θに基づいて操舵角速度dθ/dtを演算する機能と、操舵力センサ19で計測された操舵力Fに基づいて操舵力の変化率dF/dtを演算する機能とを有している。
【0045】
操舵角度センサ18は、ステアリングコラム14に介装されており、入力信号ラインSi1を介して、コントロールユニット20の入力手段20Aと接続されている。
操舵力センサ(例えば、ロードセル)19は、パワーシリンダ3の第1のリンク10に介装されており、入力信号ラインSi2を介して、コントロールユニット20の入力手段20Bと接続されている。ここで、入力信号ラインSi2には、高い周波数の信号を除去するローパスフィルタ21が介装されている。
コントロールユニット20は、制御信号ラインSoを介して、バイパス流量調整弁16に接続されている。
【0046】
コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θがしきい値θTよりも大きい場合、或いは、操舵力センサ19で計測された操舵力Fがしきい値FTよりも大きくなった場合に、直ちにバイパス流量調整弁16を閉鎖する機能を有している。
それと共に、コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵θがしきい値θTよりも小さく、且つ、操舵力センサ19で計測された操舵力Fがしきい値FTよりも小さくなった場合には、所定時間(T1)が経過してから、バイパス流量調整弁16を開放する機能を有している。
【0047】
或いは、コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θがしきい値θTよりも大きくなるか、操舵角速度がしきい値[dθ/dt]Tよりも大きくなるか、操舵力センサ19で計測された操舵力がしきい値Fよりも大きくなるか、或いは、操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dθ/dt]Tよりも大きくなった場合に、直ちにバイパス流量調整弁16を閉鎖する機能を有することが可能である。
それと共に、コントロールユニット20は、操舵角度センサ18で計測された操舵角度θがしきい値θTよりも小さく、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]Tよりも小さく、操舵力センサ19で計測された操舵F力がしきい値FTよりも小さく、且つ、操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]Tよりも小さい場合に、所定時間(T1)が経過してからバイパス流量調整弁16を開放する機能を有することが可能である。
【0048】
バイパス流量調整弁16の開閉制御を説明する前に、図4〜図11の特性図を参照して、制御の概要を説明する。
操舵角度センサ18からの入力情報によって得られた操舵角θは、図4で示すように変化する。
図4で示す様な操舵角θを、コントロールユニット20の演算手段20Cによって時間について微分し、求めた操舵角速度dθ/dtが図5で示されている。
【0049】
図4で示す操舵角θの絶対値|θ|が、図6で示されている。コントロールユニット20の演算手段20Cは、操舵角θの絶対値|θ|(図6参照)を求める機能をも有している。
図8や図3等で後述するように、操舵角θはしきい値θTと比較される。ここで、操舵角θは正の値を取る場合と、負の値を取る場合が存在するので、しきい値θTと比較する際には、しきい値θTについても、正の値と負の値の2通りを設定しなければならない。それに対して、その際に、操舵角θの絶対値|θ|をしきい値θTと比較するのであれば、しきい値θTは一つだけ設定すれば良い。
図6において、符号「θT」で示す横軸に平行な点線は、バイパス流量調整弁16が閉鎖するための一つの要因となる操舵角(の微分値)のしきい値である。
【0050】
図7は、図5の操舵角速度dθ/dtを、絶対値|dθ/dt|で示している。操舵角速度dθ/dtを、絶対値|dθ/dt|に変換する機能も、コントロールユニット20の演算手段20Cが担っている。
図7において、横軸に平行な点線[dθ/dt]Tは、操舵角速度(操舵角の微分値)のしきい値である。操舵角速度のしきい値[dθ/dt]Tは、バイパス流量調整弁16の開閉制御における一つのパラメータとして用いられる。
図5〜図7において、図4で示す操舵角の特性を、破線で併記している。
【0051】
図8は、操舵角θ或いはその絶対値|θ|と、操舵角速度dθ/dt或いはその絶対値|dθ/dt|と、バイパス流量調整弁16の開閉動作のパターンとを重ね合わせて示している。
図8において、バイパス流量調整弁16は、操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|Tを超えた場合、或いは、操舵角速度dθ/dtの絶対値がしきい値[dθ/dt]Tを越えた場合に閉鎖する。
そして、操舵角θの絶対値がしきい値|θ|T以下になった後、或いは、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T以下になった後、所定時間T1を経過すると開放する。
なお、図示の簡略化のため、図8では、しきい値|θ|T、しきい値[dθ/dt]Tは、単一の点線で示されている。
【0052】
操舵力Fは、操舵力センサ19の出力から演算される。図9では、操舵輪に外乱が作用した際における操舵力センサ19の出力から演算された操舵力を示している。
図10は、操舵力Fの微分値(操舵力の変化率)dF/dtを示している。操舵力Fの微分値(操舵力の変化率)dF/dtは、図9で示す操舵力Fを、コントロールユニット20の演算手段20Cにより微分して、求めている。
【0053】
図11は、操舵力Fの絶対値|F|と、操舵力の微分値(操舵力の変化率、以下、操舵力の変化率とも言う)dF/dtと、バイパス流量調整弁16の開閉動作のパターンとを重ね合わせて示している。
図11において、バイパス流量調整弁16は、操舵力の絶対値|F|がしきい値|F|Tを超えた場合、或いは、操舵力の微分値(操舵力の変化率)dF/dtがしきい値|dF/dt|Tを越えた際に閉鎖する。
そして、バイパス流量調整弁16は、操舵力の絶対値|F|がしきい値|F|T以下になった後、或いは、操舵力の微分値(操舵力の変化率)dF/dtがしきい値|dF/dt|T以下になった後、所定時間T2が経過すると開放する。
なお、図示の簡略化のため、図11でも、しきい値|F|T、しきい値[dF/dt]Tは、単一の点線で示されている。
ここで、図3で示す制御では、所定時間T2は所定時間T1(図8参照)とは同一に設定されている。ただし、所定時間T2は所定時間T1と異なる値とすることも出来る。
【0054】
以下、図3のフローチャートに基づいて、図1、図2、図4〜図11も参照して、バイパス流量調整弁16の開閉制御について説明する。
図3において、イグニションをONにして制御をスタートする。
ステップS1では、バイパス流量調整弁16の開度フラグを「開」にセットし、ステップS2では、タイマをT=0にセットする。
ステップS3では、操舵角度センサ18で検出された操舵角θ(図4参照)を読み込み、ステップS4に進む。
【0055】
ステップS4では、コントロールユニット20の演算手段20Cにより、ステップS3で読み込んだ操舵角θから操舵角速度dθ/dt(図5参照)を演算する。
次に、ステップS5では、操舵力センサ19で検出した操舵力F(図9参照)を読み込み、ステップS6で、操舵力の変化率dF/dt(図10参照)を演算する。
そして、ステップS7に進む。
【0056】
ステップS7では、コントロールユニット20により、操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|T以上であるか否かを判断する。
なお、図3では簡略化のため、ステップS7は「操舵角『θ』はしきい値以上?」と記載している。
操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|T以上であれば(ステップS7がYES)、ステップS11まで進む。
一方、操舵角θの絶対値|θ|がしきい値|θ|T未満であれば(ステップS7がNO)、ステップS8に進む。
【0057】
ステップS8では、コントロールユニット20により、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T以上であるか否かを判断する。
操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T以上であれば(ステップS8がYES)、ステップS11まで進む。
一方、操舵角速度dθ/dtがしきい値[dθ/dt]T未満であれば(ステップS8がNO)、ステップS9に進む。
【0058】
ステップS9では、コントロールユニット20により、操舵力センサ19で計測された操舵力F(図9参照)の絶対値|F|が、しきい値|F|T以上であるか否かを判断する。
簡略化のため、図3ではステップS9は「操舵力『Fはしきい値以上?」と記載している。
操舵力Fがしきい値|F|T以上であれば(ステップS9がYES)、ステップS11まで進み、操舵力Fがしきい値|F|T未満であれば(ステップS9がNO)、ステップS10に進む。
【0059】
ステップS10では、コントロールユニット20は、操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]T以上であるか否かを判断する。
操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]T以上であれば(ステップS10がYES)、ステップS11に進む。操舵力の変化率dF/dtがしきい値[dF/dt]T未満であれば(ステップS10がNO)、ステップS13に進む。
【0060】
ステップS11では、コントロールユニット20は、バイパス流量調整弁16に対して、制御信号So経由で弁開度「閉」の指令を下し、ステップS12で、バイパス流量調整弁開度フラグを「閉」にセットする。これにより、バイパス流量調整弁16は閉鎖する。
そして、ステップS22まで進む。
【0061】
ステップS13では、コントロールユニット20は、前回フラグは「開」であったか否かを判断する。前回フラグが「開」であれば(ステップS13がYES)、すなわち、バイパス流量調整弁16が開放されて状態が続いている場合には、ステップS14に進む。
ステップS14では、バイパス流量調整弁開度「開」の指令をそのまま継続するべく、バイパス流量調整弁開度フラグ「開」にセットして(ステップS15)、ステップS22に進む。
【0062】
一方、ステップS13において、前回フラグが「開」でなければ(ステップS13がNO)、すなわち、直前の制御サイクル(ステップS3〜S22までの一連の制御)まではバイパス流量調整弁16が閉鎖されており、直前の制御サイクルではフラグが「閉」の状態となっていた場合には、ステップS16まで進む。
ステップS16ではタイマをT=0にセットし、次のステップS17では、タイマをT=0にセットしてからの経過時間Tが、所定値T1を超えたか否かを判断する。
【0063】
経過時間Tが、所定値T1を超えていなければ(ステップS17がNO)、ステップS20に進み、バイパス流量調整弁開度「閉」の指令を継続し、タイマの設定Tを、T=T+1にセットした後、再びステップS17以降を繰り返す。
【0064】
ステップS17において、経過時間Tが、所定値T1を超えていれば(ステップS17がYES)、ステップS18に進む。
ステップS18では、バイパス流量調整弁16に対して弁開度「開」を指令し、バイパス流量調整弁開度フラグを「開」にセットする(ステップS19)。これにより、バイパス流量調整弁16は閉鎖する。
そして、ステップS22に進む。
【0065】
ステップS17、S20、S21により、前回フラグが「開」でなければ(ステップS13がNO)、すなわち、直前の制御サイクル(ステップS1〜S22までの一連の制御)まではバイパス流量調整弁16が閉鎖されており、直前の制御サイクルではフラグが「閉」の状態となっていた場合に、ステップS7〜S10の何れかが「YES」となれば、直ちにステップS18、S19を実行することなく、所定時間T1だけ待機することが保証される。
そのため、車線の変更等で、瞬間的に直進した際に、バイパス流量調整弁16が瞬間的に開放してパワーシリンダ3の圧力を減圧して、操舵補助力が発生しない状態となってしまうことが防止されるのである。
【0066】
ステップS22において、イグニションがOFFとなったか否かを判断する。
イグニションがOFFになったのであれば(ステップS22がYES)、制御を終了する。
イグニションがONであれば(ステップS22がNO)、ステップS3まで戻り、ステップS3〜S22の新たな制御サイクルを実行する。
【0067】
図1の実施形態は、バイパス流量調整弁16及びオリフィス17を介装したバイパスラインLbを油圧供給ラインLの途中に追加し、ステアリングコラム14に操舵角度センサ18を取付け、パワーシリンダ3に接続する第1のリンク10に操舵力センサ(例えばロードセル)19を取り付けることで実施可能である。
これらの追加装備は、改修工事に要する時間も短く、その費用も最小限に留めることが出来る。
【0068】
図12は、図1の実施形態における油圧ポンプ2の回転数に対するパワーシリンダ3への油圧供給量(流量)を示している。
図12の実線は、例えば、パワーシリンダ3の入口圧が「中」以上で、バイパスラインLbの流量調整弁16を閉じた場合の流量特性を示している。
なお、入口圧「大」で、その値が一定以上になれば、圧力制御弁7が作動して作動油の一部を油圧ポンプ2の入口2iに戻すので、入口圧「中」の場合よりもパワーシリンダ流量は減少する。
図12の破線は、直進時のようにパワーシリンダ3の負荷が小さく、バイパス流量調整弁16が開いている場合の流量特性を示している。
【0069】
図13は、油圧ポンプ2の回転数に対するパワーシリンダ3入口の油圧を示している。この油圧は、パワーシリンダ3の第1のリンク10に取付けた操舵力センサ19によって間接的に検知することも出来る。
図13の実線は、パワーシリンダ3の入口圧が「中」以上で、バイパスラインLbの流量調整弁16を閉じた場合の圧力特性を示している。
図13の破線は、パワーシリンダ3の入口圧が小さくバイパス流量調整弁16が開いた状態の圧力特性を示している。
【0070】
図14は、油圧ポンプ2の回転数に対する油圧ポンプ2の消費動力を示している。
図15の実線は、バイパスラインLbの流量調整弁16を閉じた場合の油圧ポンプ2の消費動力を示し、図15の破線は流量調整弁16を開いた場合の油圧ポンプ2の消費動力を示している。
図12〜図15から明らかなように、バイパス流量調整弁16を開放した方が、バイパス流量調整弁16を閉鎖している場合よりも、油圧ポンプ2の消費動力は明らかに小さくなる。
【0071】
図示の実施形態では、車両が直進状態や操舵輪が大きな外乱を受けない場合のように、パワーシリンダ3に作用する負荷が小さければ、バイパス流量調整弁16を開放してバイパスLbを開放するので、油圧ポンプ2の消費動力は低い。
例えば図14において、ポンプ回転数がNpの場合は、バイパス流量調整弁16を開放した場合は、バイパス流量調整弁16を閉鎖した場合(バイパス流量調整弁16を備えていない従来技術の場合も包含)に比較して、符号「ΔWp」で示す分だけ、油圧ポンプの消費駆動力が削減できる。
【0072】
上述した構成の図示の実施形態によれば、パワーシリンダ3の負荷が低い場合、或いは操舵輪に大きな外乱が作用しない場合には、バイパス流量調整弁16を開放して、油圧ポンプ2から吐出された作動油の多くは、バイパスラインLbによりそのまま油圧ポンプの入口側2iに戻される。
そのため、油圧ポンプ2の消費動力が減少し、パワーシリンダ3の負荷が低い場合や操舵輪に大きな外乱が作用しない場合には、無駄な動力消費が削減される。
すなわち、エンジン1の補機駆動動力の低減によって燃費も向上する。
【0073】
一方、所定以上の操舵角や操舵角速度変動を伴う操舵時や、操舵輪に大きな外乱が生じた場合の様に、パワーシリンダ3の負荷が高い場合には流量調整弁16は閉鎖するので、油圧ポンプ2から吐出される圧油は確実にパワーシリンダユニット3のバルブユニット8へ供給される。そのため、係る操舵時には十分な操舵補助力を発生することが出来る。
【0074】
また図示の実施形態は、圧油ラインLの途中に流量調整弁16を介装したバイパスラインLbを既存のパワーステアリング機構に追加し、操舵角度センサ18および操舵力センサ19を既存の部位に追加装備するだけであるので、既にパワーステアリング機構を有している車両の既存部品を活かして、いわゆる「後付け」により既存の車両に対して容易に実施することが出来る。
そのため、導入コストを安価に抑えることが出来る。
【0075】
図示の実施形態では、バイパスラインLbにオリフィス17が介装されているので、バイパス流量調整弁16が開放状態となり、油圧ポンプ2の吐出口2oと吸入口2iとがバイパスされても、オリフィス17で圧力損失が生じる分だけ、油圧供給ラインLを介してパワーシリンダ3へ供給される圧油量を確保することが出来る。
そのため、バイパス流量調整弁16を開放しても、パワーシリンダ3内の圧力が無くなってしまうことはなく、操舵力の補助が全くなくなってしまうことを防止することができる。
【0076】
車線の変更等では、操舵して、瞬間的に直進する状態となってから、再び逆方向へ操舵することになる。その様な場合に、瞬間的に直進する際に(パワーシリンダ3の負荷が低い状態になった際に)、直ちにバイパス流量調整弁16が開放した状態に移行してパワーシリンダ3の圧力を減圧すると、次に逆方向へ操舵する際に操舵補助力が発生せず、ステアリングが非常に重くなってしまう。
これに対して、図示の実施形態では、パワーシリンダ3の負荷が高い状態から負荷が低い状態に移行した場合に、図3のステップS17、S20、S21の制御によって、バイパス流量調整弁16が閉鎖した状態から開放した状態に移行するのに所定時間T1の遅れが存在するので、係る瞬間的な直進時にパワーシリンダ3の圧力が直ちに減圧されてしまうことが無く、ステアリングが非常に重い状態が生じることが防止される。
【0077】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
【符号の説明】
【0078】
1・・・エンジン
2・・・油圧ポンプ
3・・・パワーシリンダユニット/パワーシリンダ
4・・・ギヤボックス
5・・・オイルタンク
6・・・流量制御弁
7・・・圧力制御弁
8・・・バルブユニット
9・・・ピットマンアーム
10・・・第1のリンク
11・・・ナックルアーム
12・・・第2のリンク
13・・・フレーム
14・・・ステアリングコラム
15・・・ステアリングホイール
16・・・バイパス流量調整弁
17・・・オリフィス
18・・・操舵角度センサ
19・・・操舵力センサ
Lb・・・バイパスライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに直結した油圧ポンプと、パワーシリンダユニットと、リザーバタンクと、油圧ポンプの吐出口をパワーシリンダのバルブユニットと連通する圧油ラインを有しているパワーステアリング機構において、油圧ポンプの吐出口と吸入口とを連通するバイパスラインを有し、該バイパスラインには流量調整弁が介装されており、該流量調整弁には制御装置から開閉制御信号が入力され、制御装置は、操舵角度センサが計測したステアリングの操作量と、操舵力センサで計測したパワーシリンダ或いはナックルアームに作用する力とに基づいて、前記流量調整弁を開閉制御する機能を有していることを特徴とするパワーステアリング機構。
【請求項2】
操舵角度センサはステアリングの軸に設けられており、操舵力センサはパワーシリンダとナックルアームの間の領域に設けられている請求項1のパワーステアリング機構。
【請求項3】
操舵力センサの検出信号を制御装置へ伝達するラインには、高い周波数の信号を除去する装置が介装されている請求項2のパワーステアリング機構。
【請求項4】
前記制御装置は、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも大きくなるか、或いは、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁を閉鎖し、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも小さく、且つ、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも小さくなった場合には、所定時間が経過してから流量調整弁を開放する機能を有している請求項1〜3の何れか1項のパワーステアリング機構。
【請求項5】
前記制御装置は、操舵角度センサで計測された操舵角度に基づいて操舵角速度を演算する機能と、操舵力センサで計測された操舵力に基づいて操舵力の変化率を演算する機能とを有している請求項1〜4の何れか1項のパワーステアリング機構。
【請求項6】
前記制御装置は、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも大きくなるか、操舵角速度がしきい値よりも大きくなるか、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも大きくなるか、或いは、操舵力の変化率がしきい値よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁を閉鎖し、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも小さく、操舵角速度がしきい値よりも小さく、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも小さく、且つ、操舵力の変化率がしきい値よりも小さくなった場合には、所定時間が経過してから流量調整弁を開放する機能を有している請求項5のパワーステアリング機構。
【請求項7】
前記バイパスラインに圧損機構が介装されている請求項1〜6の何れか1項のパワーステアリング機構。
【請求項1】
エンジンに直結した油圧ポンプと、パワーシリンダユニットと、リザーバタンクと、油圧ポンプの吐出口をパワーシリンダのバルブユニットと連通する圧油ラインを有しているパワーステアリング機構において、油圧ポンプの吐出口と吸入口とを連通するバイパスラインを有し、該バイパスラインには流量調整弁が介装されており、該流量調整弁には制御装置から開閉制御信号が入力され、制御装置は、操舵角度センサが計測したステアリングの操作量と、操舵力センサで計測したパワーシリンダ或いはナックルアームに作用する力とに基づいて、前記流量調整弁を開閉制御する機能を有していることを特徴とするパワーステアリング機構。
【請求項2】
操舵角度センサはステアリングの軸に設けられており、操舵力センサはパワーシリンダとナックルアームの間の領域に設けられている請求項1のパワーステアリング機構。
【請求項3】
操舵力センサの検出信号を制御装置へ伝達するラインには、高い周波数の信号を除去する装置が介装されている請求項2のパワーステアリング機構。
【請求項4】
前記制御装置は、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも大きくなるか、或いは、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁を閉鎖し、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも小さく、且つ、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも小さくなった場合には、所定時間が経過してから流量調整弁を開放する機能を有している請求項1〜3の何れか1項のパワーステアリング機構。
【請求項5】
前記制御装置は、操舵角度センサで計測された操舵角度に基づいて操舵角速度を演算する機能と、操舵力センサで計測された操舵力に基づいて操舵力の変化率を演算する機能とを有している請求項1〜4の何れか1項のパワーステアリング機構。
【請求項6】
前記制御装置は、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも大きくなるか、操舵角速度がしきい値よりも大きくなるか、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも大きくなるか、或いは、操舵力の変化率がしきい値よりも大きくなった場合には直ちに流量調整弁を閉鎖し、操舵角度センサで計測された操舵角度がしきい値よりも小さく、操舵角速度がしきい値よりも小さく、操舵力センサで計測された操舵力がしきい値よりも小さく、且つ、操舵力の変化率がしきい値よりも小さくなった場合には、所定時間が経過してから流量調整弁を開放する機能を有している請求項5のパワーステアリング機構。
【請求項7】
前記バイパスラインに圧損機構が介装されている請求項1〜6の何れか1項のパワーステアリング機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−42246(P2011−42246A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191594(P2009−191594)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】
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