説明

パーキングブレーキシステム

【課題】ドライバによるパーキングブレーキ操作の操作量が不足している場合に、ドライバにさらなる操作を喚起する技術を提供する。
【解決手段】パーキングブレーキシステム10は、車両停止時の路面の傾斜を検知する傾斜検知部136と、傾斜検知部136により検知された路面傾斜と、パーキングブレーキ特性マップとから、パーキングブレーキ14の必要操作量を予測する操作量予測部122と、ドライバのパーキングブレーキ14の操作量が予測された必要操作量に満たない場合に、ドライバに対して引き続きパーキングブレーキ操作を誘導する誘導手段とを備える。誘導手段は、ドライバのパーキングブレーキ14の操作量が必要操作量に達した場合には、パーキングブレーキ14のセクタと回転爪とを係合させることにより、パーキングブレーキ14を作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキングブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パーキングブレーキを意図せず解除してしまうことを回避するために、パーキングブレーキレバー本体を操作していない状態においては、操作ノブが突出しない構造により、誤って操作ノブが押圧動作されないようにする機構が提案されている(たとえば特許文献1参照)。また、電気的作動装置が故障した場合に、機械的に作動する構造を有する駐車ブレーキが提案されている(たとえば特許文献2参照)。また、運転者による制動要求がなく且つ車両が駐停車状態にある状況が所定の時間継続するまで、電子制御ブレーキの作動解除が禁止される構成が提案されている(たとえば特許文献3参照)。また、坂道登進路においてアクセルが踏み込み操作された場合に、クリープトルクの大きさに応じて選択されたトルク特性マップを使用し、アクセル操作量およびモータ回転速度に基づいてトルク制御値を求め、電動モータのトルク制御を行うことにより、登り勾配の相違に拘らず車両のずり下がりを防止できる構成が提案されている(たとえば特許文献4参照)。また、基本ワイヤの張力が所定の目標張力になるまでパーキングブレーキ作動制御を行い、その後、所定の場合に再度パーキングブレーキ作動制御を行うことにより、パーキングブレーキのブレーキ力を回復させることができる装置が提案されている(たとえば特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−3065号公報
【特許文献2】特開平8−244596号公報
【特許文献3】特開平11−235975号公報
【特許文献4】特開平6−261418号公報
【特許文献5】特開2004−175203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、傾斜路での車両のずり下がりを防止するために、ホイールの車輪速センサを用い、必要時にABS(Antilock Brake System)、VSC(Vehicle Stability Control)等のアクチュエータを電気で作動させ、制動力を発生させていた。このような技術では、ずり下がり現象の情報を車輪速センサから得ており、この情報を基に絶えずセンサリングし、アクチュエータを作動させる必要があった。そのため、パーキングブレーキの作動中はバッテリからの電力を消費するため、傾斜路で長時間作動させることは容易ではなかった。また、ドライバがエンジンを切り、車外に出てしまう駐車状況でパーキングブレーキを作動させることも容易ではなかった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドライバによるパーキングブレーキ操作を必要操作量まで誘導する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のパーキングブレーキシステムは、セクタと回転爪との係合により、車両を継続的に停止させるパーキングブレーキシステムにおいて、車両停止時の路面の傾斜を検知する傾斜検知手段と、前記傾斜検知手段により検知された路面傾斜と、前記路面傾斜とパーキングブレーキの必要操作量を対応づけたパーキングブレーキ特性マップとから、パーキングブレーキの必要操作量を予測する操作量予測手段と、ドライバのパーキングブレーキの操作量が予測された前記必要操作量に満たない場合に、ドライバに対して引き続きパーキングブレーキ操作を誘導する誘導手段と、を備える。前記誘導手段は、ドライバのパーキングブレーキの操作量が前記必要操作量に達した場合には、前記パーキングブレーキの前記セクタと前記回転爪とを係合させることにより、パーキングブレーキを作動させる。
【0007】
この態様によると、パーキングブレーキの操作量が不足していることが予測される場合には、ドライバに対してさらなる操作を促すことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ドライバによるパーキングブレーキ操作を必要操作量まで誘導する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態にかかるパーキングブレーキシステムの機能ブロックを示す図である。
【図2】実施形態にかかるパーキングブレーキ操作を説明するためのフローチャートである。
【図3】パーキングブレーキの第一の実施形態の内部構造を説明するための図である。
【図4】パーキングブレーキの第二の実施形態の内部構造を説明するための図である。
【図5】パーキングブレーキの第三の実施形態の内部構造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、実施形態にかかるパーキングブレーキシステム10の機能ブロックを示す。パーキングブレーキシステム10は、車両に搭載されドライバにより手動操作されるブレーキレバー12と、ブレーキレバー12の操作を受けて制動力を生成するパーキングブレーキ14とを有する。
【0012】
また、パーキングブレーキシステム10は、制御部100、操作量検知部130、傾斜検知部136および保持部20を有する。制御部100は、情報取得部112、操作量予測部122、操作量比較部124、シフト位置検知部126および電源供給部128を有する。
【0013】
操作量検知部130は、ドライバによるブレーキレバー12の操作量を検知する。操作量検知部130は、たとえば回転角センサであって、ドライバがブレーキレバー12を係合方向に操作したときのブレーキレバー12の回転角を、操作量として検知してもよい。
【0014】
傾斜検知部136は、車両の傾きを検知することで、車両停止時の路面の傾斜を検知する。傾斜検知部136は、たとえば加速度センサを含んで構成されていてもよい。
【0015】
保持部20はメモリであって、パーキングブレーキ(PKB)特性マップを保持する。PKB特性マップの情報は、必要な時に保持部20から情報取得部112に対し供給される。ここで、PKB特性マップとは、傾斜角と必要操作量を1対1に対応づけたマップである。また、必要操作量とは、長時間傾斜路で車両を駐車するのに必要十分な、ドライバによるパーキングブレーキの操作量をいう。必要操作量は、ブレーキレバー12の回転角として表されてもよい。
【0016】
情報取得部112は、傾斜検知部136から路面の傾斜情報を取得する。また、情報取得部112は、ドライバがブレーキレバー12を係合方向に操作する際に、操作量検知部130からドライバによるブレーキレバー12の操作量情報を取得する。また、情報取得部112は、傾斜角に対応づけられている必要操作量を、PKB特性マップから取得する。必要操作量は出荷前に予め設定されていてもよく、また、出荷後に学習により定められてもよい。
【0017】
操作量予測部122は、PKB特性マップを参照することにより、情報取得部112により取得された路面の傾斜情報から必要操作量を予測する。PKB特性マップから、傾斜角情報に対応づけられている必要操作量を読み出すことで、パーキングブレーキ14の必要操作量を一義的に予測できる。
【0018】
操作量比較部124は、操作量予測部122で予測された必要操作量を、操作量検知部130により検知され情報取得部112により取得されたパーキングブレーキ14の操作量と比較する。
【0019】
シフト位置検知部126は、ギアのシフト位置を検知する。電源供給部128は、後述するポール駆動機構に対し、電源を供給する。
【0020】
図2は、実施形態にかかるパーキングブレーキ操作を説明するためのフローチャートである。車両が停止すると(S10)、傾斜検知部136が路面の傾斜を検知し(S12)、情報取得部112が検知された情報を取得する。ギアがPレンジにシフトされたことをシフト位置検知部126が検知すると(S14)、パーキングブレーキ14におけるセクタと回転爪との係合が解除され(S16)、操作量予測部122によりPKB特性マップに基づき必要操作量が予測される(S18)。ドライバによりブレーキレバー12が操作されると(S20)、操作量検知部130が、その時点におけるブレーキレバー12の操作量を検知し(S22)、情報取得部112が検知された情報を取得する。
【0021】
操作量比較部124は、操作量予測部122により予測された必要操作量を、操作量検知部130により検知され情報取得部112により取得された操作量と比較し、操作量が必要操作量に達しているか否かの比較を行う(S24)。パーキングブレーキ14の操作量が不足していると判断される場合は(S24のY)、パーキングブレーキ14におけるセクタと回転爪との係合は解除されたままであり、ブレーキレバー12は抵抗なく動くため、ドライバはパーキングブレーキ14がロックされていないことを認識し、ブレーキレバー12をさらに上に引き上げる。これにより、ドライバに対して必要操作量に至るまでブレーキレバー12を操作する契機を与えることができる。これにより、確実にパーキングブレーキを機能させることができる。パーキングブレーキ14の操作量が必要操作量に達した場合には(S24のN)、セクタと回転爪とが係合することにより(S26)、パーキングブレーキが作動する(S28)。
【0022】
また、パーキングブレーキ14の操作量が不足していることをドライバに警告し、さらなる操作を促すための警報部を有してもよい。これにより、パーキングブレーキ14の操作量が予測された必要操作量に満たないことによりずり下がり動作が発生することが予測される場合、ドライバにその旨の警告を行い、必要操作量に達するまで操作を促してもよい。警報部は、たとえば音声により警報を発生してもよく、また車両に搭載したディスプレイを通じて警報を発生してもよい。
【0023】
図3〜5は、実施形態にかかるパーキングブレーキ14の内部構造を示す図である。
【0024】
(第一の実施形態)
図3は、第一の実施形態を示す。ブレーキレバー12は、グリップ202とパーキングブレーキレバー本体204から構成される。グリップ202の端部には、ノブ206が設けられ、ノブ206は、ロッド208と連結されている。ロッド208は、ブレーキレバー12の内部において長軸方向に設置され、パーキングブレーキレバー本体204まで伸びる。ロッド208は、ロッド取付部224においてポール220と連結されている。
【0025】
ポール220は、ピン222を回転中心として回転可能な回転爪である。ポール220の回転により、ポール220の下端部に設けられた爪226と、セクタ210の上部に設けられたラチェット212とを係合させたり、また係合を解除したりすることが可能である。パーキングブレーキを作動させていない運転時等においては、ポール220は、パーキングブレーキ14の係合解除位置にてセクタ210に対して付勢され、爪226とラチェット212とが係合している。
【0026】
操作量比較部124、電源供給部128およびソレノイドバルブ230は、ドライバのパーキングブレーキ14の操作量が予測された必要操作量に満たない場合に、ドライバに対して引き続きパーキングブレーキ操作を誘導する誘導手段を構成する。パーキングブレーキ14の必要操作量は、ギアがPレンジにシフトされたことがシフト位置検知部126により検知された場合に、操作量予測部122により導出される。操作量比較部124が、操作量検知部130で検知された操作量が必要操作量に到達したことを判定すると、電源供給部128が、ポール駆動機構であるソレノイドバルブ230に電源を供給して、ソレノイドバルブ230により、ポール220のピン222より上部を押圧させる。これにより、ポール220がピン222を中心とし、時計回りに回転する。その結果、爪226とラチェット212の係合が解除される。
【0027】
ドライバが必要操作量までブレーキレバー12を引き上げると、ロッド208と連結したポール220も引き上げられる。操作量比較部124が操作量の不足が無くなったことを検出したところで、電源供給部128からの電源の供給が停止することにより、ソレノイドバルブ230のポール220に対する押圧が解除される。これにより、ポール220がピン222を中心とし、付勢力により反時計回りに回転する。その結果、ポールの下部の爪226とラチェット212との係合が、パーキングブレーキが十分機能できるようなラチェット212の位置において形成される。
【0028】
この際、ドライバによる操作量が必要操作量に達した旨やパーキングブレーキが機能している旨が、爪226とラチェット212の係合する音によりドライバに知らされてもよいし、その旨がディスプレイに表示されてもよい。
【0029】
本技術によれば、ドライバによるパーキングブレーキ操作の操作量が不足している場合に、ドライバのさらなる操作を喚起できる。これにより、駐車時のずり下がりを抑制できる。
【0030】
(第二の実施形態)
図4は、第二の実施形態を示す。第二の実施形態で説明するパーキングブレーキ14は、パーキングブレーキ内のポールの回転制御をポール320の上部に設けた突起328において行うことを除いて、図2で説明したパーキングブレーキ14と同一の構成となる。このため、第二の実施形態では、図2で説明したパーキングブレーキ14の符号を適宜用いて説明することとし、重複を避けるため構成の説明は省略する。以下、図4に基づいて第二の実施形態のパーキングブレーキ14の動作について説明する。
【0031】
第二の実施形態では、操作量比較部124、電源供給部128およびソレノイドバルブ330は、ドライバのパーキングブレーキ14の操作量が予測された必要操作量に満たない場合に、ドライバに対して引き続きパーキングブレーキ操作を誘導する誘導手段を構成する。ポール320の上部に設けた突起328を、ポール駆動機構であるソレノイドバルブ330で押圧する。パーキングブレーキ14が必要操作量に達した場合には、ソレノイドバルブ330の押圧を終了し、ポール320の下部に設けられた爪326とラチェット312とが係合する。
【0032】
第二の実施形態では、突起328をロッド308よりも上部に設けたことにより、より小さな力で爪326とラチェット312との係合を解除することができ、ソレノイドバルブの押圧力を低減することができる。これにより、ソレノイドバルブを小型化でき、消費電力も少なくできるため、本パーキングブレーキ14の搭載がより容易となる。
【0033】
(第三の実施形態)
図5は、第三の実施形態を示す。第三の実施形態で説明するパーキングブレーキ14は、パーキングブレーキ内のポールの回転制御を、モータ440を動力源としてポールの上部に設けたウォームギア428において行うことを除いて、図2で説明したパーキングブレーキ14と同一の構成となる。このため、第三の実施形態では、図2で説明したパーキングブレーキ14の符号を適宜用いて説明することとし、重複を避けるため構成の説明は省略する。以下、図5に基づいて第三の実施形態のパーキングブレーキ14の動作について説明する。
【0034】
第三の実施形態では、操作量比較部124、電源供給部128、ウォームギア428およびモータ440は、ドライバのパーキングブレーキ14の操作量が予測された必要操作量に満たない場合に、ドライバに対して引き続きパーキングブレーキ操作を誘導する誘導手段を構成する。ソレノイドバルブの代わりに設けたウォームギア428を、ウォームギア428に接続されたモータ440を作動させることにより、回転させる。これにより、パーキングブレーキ操作の操作量の不足時には、ポール420の上部を右側に動かし、ポール420の下部側における爪426とラチェット412との係合を解除させる。
【0035】
また、パーキングブレーキ14が必要操作量に達した場合には、モータ440を逆向きに回転させる。これにより、ポール420の下部の爪426とラチェット412とを係合させ、パーキングブレーキを機能させるという可逆的な制御が可能となる。
【0036】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0037】
10 パーキングブレーキシステム、12 ブレーキレバー、14 パーキングブレーキ、20 保持部、100 制御部、112 情報取得部、122 操作量予測部、124 操作量比較部、126 シフト位置検知部、128 電源供給部、130 操作量検知部、136 傾斜検知部、202 グリップ、204 パーキングブレーキレバー本体、206 ノブ、208、308 ロッド、210 セクタ、212、312、412 ラチェット、220、320、420 ポール、222 ピン、224 ロッド取付部、226、326、426 爪、230、330 ソレノイドバルブ、328 突起、428 ウォームギア、440 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セクタと回転爪との係合により、車両を継続的に停止させるパーキングブレーキシステムにおいて、
車両停止時の路面の傾斜を検知する傾斜検知手段と、
前記傾斜検知手段により検知された路面傾斜と、前記路面傾斜とパーキングブレーキの必要操作量を対応づけたパーキングブレーキ特性マップとから、パーキングブレーキの必要操作量を予測する操作量予測手段と、
ドライバのパーキングブレーキの操作量が予測された前記必要操作量に満たない場合に、ドライバに対して引き続きパーキングブレーキ操作を誘導する誘導手段と、を備え、
前記誘導手段は、ドライバのパーキングブレーキの操作量が前記必要操作量に達した場合には、前記パーキングブレーキの前記セクタと前記回転爪とを係合させることにより、パーキングブレーキを作動させることを特徴とするパーキングブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−215026(P2010−215026A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61757(P2009−61757)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】