説明

パーフルオロカーボン重合体の製造方法

【課題】−SOF基の含有比率が高く、かつ高分子量であるパーフルオロカーボン重合体を効率良く得ることが可能なパーフルオロカーボン重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】式(1)の液状モノマー(A)と、TFEを含む原料モノマーを、式(2)の開始剤(X)を逐次的に添加して25〜45℃の重合温度で重合させる。CF2=CF(OCF2CFX)-O-(CF2)-(CF2CFX)-SO2F(1)(ただし、式(1)において、X、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、kは0〜3の整数であり、lは0又は1であり、mは0〜12の整数であり、nは0〜3の整数である。)[CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)COO]2(2)(ただし、式(2)において、pは0〜8の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質材料の原料として好適に使用できるパーフルオロカーボン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基を有するポリマー(以下、スルホン酸型ポリマーという)は、耐熱性、耐薬品性、耐久性、長時間安定性等に優れ、燃料電池用隔膜や食塩電解用陽イオン交換膜等の電解質材料として多く用いられている。
このスルホン酸型ポリマーは、ポリマー主鎖の末端基の少なくとも一部が、−COOH基、−COF基等の不安定末端基になっている。そのため、長期間の電極反応に晒されると、該不安定末端基から連鎖的に主鎖が分解することによって、劣化することが知られている。
不安定末端基が生成しにくいスルホン型ポリマーの製造方法として、重合開始時に含フッ素化合物からなるラジカル重合化剤を添加して、パーフルオロカーボンモノマーを重合させ、得られた−SOF基を有する重合体を加水分解した後、酸型化処理する方法がある(特許文献1、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2004/52954号パンフレット
【特許文献2】特開2006−173098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の方法で得られるスルホン酸型ポリマーはイオン交換容量が充分ではなく、電気抵抗が高くなってしまう問題があった。また、特許文献2の方法では、高イオン交換容量のスルホン酸型ポリマーが得られるが、高分子量とすることができず、機械的強度が不充分になりがちであった。
このように、従来、高イオン交換容量と高分子量とを兼ね備えたスルホン酸型ポリマーを得ることは困難であった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高イオン交換容量と高分子量とを兼ね備えたスルホン酸型ポリマーを得ることを目的として、−SOF基の含有比率が高く、かつ高分子量であるパーフルオロカーボン重合体を効率良く得ることが可能なパーフルオロカーボン重合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]下式(1)で表される液状モノマー(A)から得られる構造単位を20〜40mol%と、テトラフルオロエチレンから得られる構造単位とを含む分子量が250,000以上、−SOF基1molあたりの質量が600〜900g/molのパーフルオロカーボン重合体の製造方法であって、前記液状モノマー(A)と、テトラフルオロエチレンを含む原料モノマーを、下式(2)で表される開始剤(X)を逐次的または連続的に添加して25〜45℃の重合温度で重合させることを特徴とするパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
CF2=CF(OCF2CFX)-O-(CF2)-(CF2CFX)-SO2F (1)
(ただし、式(1)において、X、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、kは0〜3の整数であり、lは0又は1であり、mは0〜12の整数であり、nは0〜3の整数である。)
[CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)COO]2 (2)
(ただし、式(2)において、pは0〜8の整数である。)
【0006】
[2]前記原料モノマーが、さらに、下式(3)で表される液状モノマーおよび/または下式(4)で表される液状モノマーを含む[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
[3]前記重合中の開始剤(X)の濃度を、前記重合を開始した時の開始剤(X)の濃度に対して、0.25〜2倍の範囲に維持する[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
[4]前記重合中の開始剤(X)の濃度を、前記重合を開始した時の開始剤(X)の濃度に対して、0.5〜1.5倍の範囲に維持する[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【0010】
[5]添加する開始剤(X)の総量の全液状モノマーに対するモル比を、1×10−5〜3×10−3とする[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
[6]添加する開始剤(X)の総量の全液状モノマーに対するモル比を、5×10−5〜1×10−3とする[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【0011】
[7]30〜45℃の重合温度で重合させる[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
[8]分子量が400,000以上である[1]に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、−SOF基の含有比率が高く、かつ高分子量であるパーフルオロカーボン重合体を効率よく製造することができる。
本発明によって得られるパーフルオロカーボン重合体を原料とすれば、イオン交換容量が高いため電気抵抗が低く、かつ高分子量であって機械的強度に優れたスルホン酸型ポリマーが得られる。
すなわち、本発明によれば、高品質の燃料電池用隔膜や食塩電解用陽イオン交換膜等の電解質材料の原料として好適なパーフルオロカーボン重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[構造単位]
本発明は、下式(1)で表される液状モノマー(A)から得られる構造単位を20〜40mol%と、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)から得られる構造単位とを含む分子量が250,000以上、−SOF基1molあたりの質量が600〜900g/molのパーフルオロカーボン重合体(以下「本重合体」という。)の製造方法である。
CF2=CF(OCF2CFX)-O-(CF2)-(CF2CFX)-SO2F (1)
(ただし、式(1)において、X、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、kは0〜3の整数であり、lは0又は1であり、mは0〜12の整数であり、nは0〜3の整数である。)
【0014】
式(1)において、kは0〜2の整数であることが好ましく、lは0または1(但しkが0の時はlは1)であることが好ましく、mは0〜4の整数であることが好ましく、nは0であることが好ましい。特に、k、l、m、nについて、上記好ましい値を組み合わせたものが好ましい。
具体的には、
CF=CFO(CFSO
CF=CFO(CFSO
CF=CFO(CFSO
CF=CFOCFCF(CF)O(CFSO
CF=CFOCFCFO(CFSO
などが挙げられる。
【0015】
本重合体を得るための原料モノマーは、液状モノマー(A)とTFEとを含む。また、本重合体を得るための原料モノマーは、液状モノマー(A)とTFEの他に、これらと共重合可能な他のモノマーを含んでもよい。
すなわち、本重合体は、液状モノマー(A)から得られる構造単位とTFEから得られる構造単位の他に、これらと共重合可能な他のモノマーから得られる構造単位を含んでもよい。
共重合可能な他のモノマーとしては、下式(3)で表される液状モノマー(以下、MMDという。)および/または下式(4)で表される液状モノマー(以下、PDDという。)を含むことが好ましい。これらのモノマーから得られる構造単位を含むことにより、本重合体から得られる電解質材料の軟化点温度を高くすることができる。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
MMD、PDD以外の他の共重合可能なモノマーとしては、CF=CFORf1、CH=CHRf2、CH=CHCHf2で表わされる化合物も使用できる。ただし、Rf1は炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基であり、枝分かれ構造であってもよく、エーテル結合性の酸素原子を含有してもよい。Rf2は炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基である。また、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン等の気体状モノマーも使用できる。
これらのなかでも、パーフルオロモノマー(エーテル性酸素原子は含んでも良い)を用いることが化学的安定性、耐久性の観点から好ましい。
上記モノマーにおいてCF=CFORf1で表される化合物としては、CF=CF−(OCFCFZ)−O−Rf4で表されるパーフルオロビニルエーテル化合物が好ましい。ただし、式中、yは0〜3の整数であり、Zはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、Rf4は直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基(以下、本明細書において、Rf4は同じ意味で用いる。)である。
なかでも、下式(5)〜(7)で表わされる化合物が好ましく挙げられる。ただし、下式(5)〜(7)中、aは1〜8の整数であり、bは1〜8の整数であり、cは2又は3である。
CF=CFO(CFCF (5)
CF=CFOCFCF(CF)O(CFCF (6)
CF=CF(OCFCF(CF))O(CFCF (7)
なお、本発明において、「液状モノマー」とは、重合温度において液体であるモノマーを意味し、「気体状モノマー」とは、重合温度において気体であるモノマーを意味する。
【0019】
本重合体中の液状モノマー(A)から得られる構造単位の割合は20〜40mol%であり、20〜35mol%であることが好ましい。また得られる重合体の−SOF基1molあたりの質量が600〜900g/molとなるように(A)の構造単位の割合は調整される。
本重合体中のTFEから得られる構造単位の割合は10〜80mol%であることが好ましく、20〜78mol%であることがより好ましい。
本重合体中の液状モノマー(A)から得られる構造単位およびTFEから得られる構造単位の合計の割合は、30〜100mol%であることが好ましく、50〜100 mol%であることがより好ましい。
原料モノマーが、MMDおよび/またはPDDを含む場合、本重合体中のこれらのモノマーから得られる構造単位の割合は1〜70mol%であることが好ましく、5〜50 mol%であることがより好ましい。
【0020】
本重合体を得るための各モノマーの仕込み量の割合と本共重合体中の当該モノマーに基づく構造単位の含有割合は必ずしも一致しない。例えば液状モノマー(A)から得られる構造単位の割合は、原料モノマー中の液状モノマー(A)の割合より低くなりやすいので、原料モノマー中の液状モノマー(A)の割合は目標とする構造単位の割合より高くすることが好ましい。
また、MMDおよびPDDは、液状モノマー(A)よりも反応中に消費されやすく、原料モノマー中における割合が低下しやすい。そのため、重合反応中に逐次追加して、原料モノマー中における割合を一定の範囲に保つことが好ましい。
【0021】
[重合温度]
本発明において、重合温度は25〜45℃であり、30〜45℃が好ましく、35〜45℃がより好ましい。
重合温度が低すぎると、充分な重合速度が得られず、高分子量の重合体を得ることが困難となる。また、重合の進行と共に粘度が上昇して撹拌が困難になる問題がある。一方、重合温度が高すぎると、ビニルエーテル分解による連鎖移動反応が起きやすくなり、この場合も、充分に高分子量の重合体を得ることが困難となる。
本発明で規定した重合温度範囲であれば、重合促進効果が、連鎖移動反応促進効果よりも上回り、高分子化がはかれるものと考えられる。
重合温度は、重合工程中、できるだけ一定に保つことがましい。これにより、得られる重合体の品質を管理しやすくなる。
【0022】
[開始剤]
本発明では、原料モノマーを、開始剤(X)を用いて重合させる。開始剤(X)は、下式(2)で表される。
[CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)COO]2 (2)
(ただし、式(2)において、pは0〜8の整数である。)
式(2)において、pは0〜4であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0023】
開始剤(X)の10時間半減期温度は、例えば、pが1の場合16.4℃であり、pが0〜8の何れの値であっても25℃より低い。そのため、本発明で規定した重合温度範囲であれば、充分な重合速度が得られる。
なお、10時間半減期温度とは、重合開始から10時間経過後に開始剤の量が半量になる温度をいう。開始剤の分解反応温度が重合温度より大幅に低い場合は、ラジカル発生効率が低いため大量の開始剤を用いる必要がある。開始剤の分解反応温度が重合温度より大幅に高い場合は、重合時間が長くなり生産効率が低く工業的に不利である。
【0024】
重合温度と開始剤の半減期との関係については特に制限がないが、重合温度における開始剤の半減期としては1分間〜5時間程度が好ましい。より好ましくは10分間〜2時間、特に好ましくは10分間〜1時間である。半減期が短すぎると、開始剤の添加制御が難しくなる。
25〜45℃の範囲内であれば、半減期が適切な範囲となるように、重合温度を調整してもよい。
【0025】
開始剤(X)は、重合開始時に纏めて添加するのではなく、逐次的または連続的に添加する。これにより、重合速度や開始剤濃度に大きな変化を及ぼすことなく、重合速度を低下させずに分子量の大きい重合体を効率良くかつ分子量を制御しながら得ることができる。
添加は、重合設備が簡易であり、工程管理が容易であることから、逐次的であることが好ましい。ただし、重合中の開始剤(X)の濃度をできるだけ一定にするためには、連続的に添加することが好ましい。
【0026】
重合中は開始剤(X)の濃度が大きく変動しないように維持されることが好ましい。
重合体の分子量は開始剤濃度の1/2乗に反比例するので、開始剤(X)の濃度変動が大きすぎると、得られる重合体の分子量の分布が広くなる。また、開始剤(X)の濃度が一時的に高くなりすぎて、重合場の発熱による開始剤の分解促進により、重合速度の制御や得られる重合体の分子量制御が難しくなるという問題も発生する。
具体的には、開始剤(X)の濃度を、重合を開始した時の開始剤(X)の濃度に対して、0.25〜2倍の範囲に維持することが好ましく、0.5〜1.5倍の範囲に維持することがより好ましい。
【0027】
添加する開始剤(X)の総量の全液状モノマーに対するモル比は、5×10−6〜5×10−3であることが好ましく、1×10−5〜3×10−3であることがより好ましく、5×10−5〜1×10−3であることが特に好ましい。
モル比が小さすぎると充分な重合速度が得られない。一方、モル比が大きすぎると、重合速度が速くなりすぎる、充分な重合度の重合体が得られない等の問題が生じる。
【0028】
系内(重合容器内)の開始剤の濃度は、その重合温度における開始剤の半減期から計算することができる。分割して添加する場合の具体的な開始剤の添加方法としては、例えば半減期毎に初期の半量を加える方法がある。この場合は系内には常に開始剤が初期濃度の0.5〜1倍量含まれていることになる。また、開始剤の初期濃度は、最終的に系内に加えたい開始剤の総量と重合時間とから決定できる。具体例を挙げて説明すると、実施する重合温度での半減期が1時間の開始剤を用い、重合時間を8時間とする場合には、目標総開始剤量の1/5の量の開始剤を初期に添加し、その後1時間ごとに目標総開始剤量の1/10の量の開始剤を加えれば、内には常に開始剤が初期濃度の0.5〜1倍量含まれていることになる。
【0029】
[重合方法]
本発明の重合方法としては、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、塊状重合など公知の重合方法が限定されず採用できるが、特に溶液重合又は塊状重合が好ましい。懸濁重合及び乳化重合では重合媒体として水を用いるため、重合媒体中にパーフルオロカーボンモノマーを溶解し難く、重合を安定的に行うことは困難である。
【0030】
溶液重合の場合の重合媒体としては、連鎖移動定数が小さい含フッ素有機溶媒が好ましい。特に、炭素数3〜10のパーフルオロカーボン、炭素数3〜10のハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜10のハイドロクロロフルオロカーボン及び炭素数3〜10のクロロフルオロカーボンからなる群から選ばれる一種以上が好ましい。これらのハロゲノカーボンは、直鎖状、分岐状又は環状の構造のいずれも好ましく使用でき、分子中にエーテル性酸素原子を含んでもよいが、飽和化合物であることが好ましい。
【0031】
具体的な重合媒体としては以下のものが挙げられる。
パーフルオロカーボンとしては、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロ(ジプロピルエーテル)、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)等が挙げられる。
ハイドロフルオロカーボンとしては、分子中のフッ素原子の数が水素原子よりも多いことが好ましく、CHOC、CHOC、C12(好ましい構造は、CFCFHCFHCFCFCF)、C13H(好ましい構造は、CFCFCFCFCFCFH)、C12(好ましい構造は、CFHCFCFCFCFCFH)等が挙げられる。
ハイドロクロロフルオロカーボンとしては、水素原子数が3個以下であることが好ましく、CHClFCFCFCl等が挙げられる。クロロフルオロカーボンとしては、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等が挙げられる。
本発明に好ましい溶媒はCHClFCFCFCl、CFCFCFCFCFCFHであり、CClFCFCHClFが特に好ましい。
【0032】
重合媒体の使用量は、重合槽容積に対して体積比で10〜90%とすることが好ましく、さらには30〜70%が好ましい。重合媒体の量が少ない場合、重合媒体に溶解しえるパーフルオロカーボンモノマーの量も少なくなり、得られるポリマーが少なくなるので生産効率が低く工業的に不利である。一方重合媒体の量が多すぎると全体を均一に撹拌することが困難となる。なお、懸濁重合および乳化重合の場合、実質的な重合媒体としては水が挙げられる。
【0033】
本発明では、連鎖移動剤を実質的に使用しないことが好ましい。連鎖移動剤を使用するとポリマーの末端基に水素原子が導入され不安定となるおそれがあるからである。
重合圧力は、0.05〜10MPaが好ましい。重合圧力が低すぎると反応の制御が困難になり、重合圧力が高すぎると製造設備上好ましくない。より好ましくは0.1〜2.5MPaが採用される。
【0034】
[−SOF基の含有比率]
本発明では、パーフルオロカーボン重合体における−SOF基の含有比率をEWで評価する。EWは、得られるパーフルオロカーボン重合体の−SOF基1molあたりの質量であり、EWが低いほど−SOF基の含有比率が高いことになる。
本発明の製造方法によれば、EWが600〜900g/molの本重合体を製造することができる。
【0035】
[分子量]
本発明の製造方法によれば、上記のように低いEWにもかかわらず、分子量が250,000以上である本重合体を製造することができる。また、分子量が400,000以上である本重合体を製造することもできる。
なお、本発明における分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフイー(以下、GPCという。)を用いた重量平均分子量である。
【0036】
分子量の制御については公知の方法で行うことができる。溶液重合の場合には、溶媒濃度を高くすると分子量が低下する傾向があり、溶媒濃度を低くすると分子量が増加する傾向がある。また、連鎖移動剤の添加により調整することもできる。また、開始剤量で制御することも可能である。
本発明の場合、開始剤を逐次的または連続的に添加するが、反応場に存在する開始剤濃度を高くすれば、重合速度が高くなると同時に分子量が低下する傾向があり、開始剤濃度を低くすれば、重合速度は低下するが、分子量は増加する傾向がある。
【0037】
[電解質材料]
本重合体は、−SOF基を−SOH基またはスルホンイミド基に変換することにより、電解質材料とすることができる。
なお、−SOH基やスルホンイミド基への変換に先立ち、フッ素ガスと接触させるフッ素化の処理を行なってもよい。これにより、重合体の不安定末端基のより少ない電解質材料とすることができる。
【0038】
−SOF基の−SOH基への変換は、加水分解後酸型化することにより行う。
加水分解は、例えば、水又は水とアルコール類(メタノール、エタノール等)若しくは極性溶媒(ジメチルスルホキシド等)との混合液を溶媒とするNaOH、KOH等の塩基性溶液中において、パーフルオロカーボン重合体の−SOF基を、−SONa基又は−SOK基等に変換する。
次いで、塩酸、硝酸、硫酸等の酸の水溶液中において−SONa基又は−SOK基等を酸型化し、−SOH基(スルホン酸基)に変換する。加水分解および酸型化処理は通常0〜120℃で行う。
【0039】
スルホンイミド基への変換方法としては、公知の方法が使用できる。例えば、米国特許5463005号明細書や、Inorg.Chem.32(23)5007頁(1993年)に記載の方法等が挙げられる。すなわち、パーフルオロカーボン重合体中の−SOF基をスルホンアミド等と反応させ、塩基由来の塩型のスルホンイミド基に変換した後、さらに塩酸や硫酸等の水溶液で酸型化することで酸型のスルホンイミド基に変換できる。
【0040】
また、本重合体を、アンモニアと接触させて−SOF基をスルホンアミド基に変換した後、アルカリ金属フッ化物や有機アミン等の塩基性化合物の存在下にトリフルオロメタンスルホニルフルオライド、ヘプタフルオロエタンスルホニルフルオライド、ノナフルオロブタンスルホニルフルオライド、ウンデカフルオロシクロヘキサンスルホニルフルオライド等の−SOF基含有化合物と接触させることでも変換できる。
【0041】
本重合体から得られる電解質材料(以下本電解質材料という。)は固体高分子電解質膜として使用できる。
固体高分子電解質膜は、本重合体を溶融押し出し又は加熱プレス等によりフィルム化した後に、−SOF基を−SOH基またはスルホンイミド基に変換することにより得られる。
また、本重合体を粉体の状態で−SOF基を−SOH基またはスルホンイミド基に変換し、電解質材料とした後、溶媒に溶解させてキャスト法で成膜することもできる。なお、この場合、電解質膜はポリテトラフルオロエチレン多孔体やポリテトラフルオロエチレン繊維(フィブリル)等で補強することも可能である。
【0042】
本電解質材料は固体高分子型燃料電池用膜・電極接合体を構成する材料として使用できる。
固体高分子型燃料電池用膜・電極接合体は触媒と電解質材料とを含む触媒層をそれぞれ有するアノード及びカソードと、それらの間に配置される電解質膜とからなる。
本電解質材料は、前記電解質膜を構成する電解質材料、前記アノード触媒層に含まれる電解質材料及び前記カソード触媒層に含まれる電解質材料の何れにも使用でき、また、総てに使用することもできる。
【0043】
固体高分子型燃料電池用膜・電極接合体は通常の手法に従い、例えば以下のようにして得られる。まず、白金触媒粒子又は白金合金触媒微粒子を担持させた導電性のカーボンブラック粉末と電解質材料とを含む均一な分散液を得て、以下のいずれかの方法でガス拡散電極を形成して膜・電極接合体を得る。
【0044】
第1の方法は、電解質膜の両面に上記分散液を塗布し乾燥後、両面を2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパーで密着する方法である。第2の方法は、上記分散液を2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパー上に塗布乾燥後、分散液が塗布された面が上記電解質膜と密着するように、上記電解質膜の両面から挟みこむ方法である。第3の方法は、上記分散液を別途用意した基材フィルム上に塗布、乾燥して触媒層を形成した後、電解質膜の両面に電極層を転写し、さらに2枚のカーボンクロス又はカーボンペーパーで両面を密着する方法である。なお、ここでカーボンクロス又はカーボンペーパーは触媒を含む層により均一にガスを拡散させるためのガス拡散層としての機能と集電体としての機能を有するものである。
【0045】
得られた膜・電極接合体に、燃料ガス又は酸化剤ガスの通路となる溝を形成してセパレータの間に挟み、セルに組み込むことにより固体高分子型燃料電池が得られる。固体高分子型燃料電池では、膜・電極接合体のアノード側には水素ガスが供給され、カソード側には酸素又は空気が供給される。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
撹拌機を有する内容積10mLのステンレス製反応器に、7.238gのCF=CFOCFCF(CF)O(CFSOF(以下、PSVEという。)と、[CFCFCFOCF(CF)CFOCF(CF)COO] (以下(HFPO)という。)を0.13質量%の濃度でCClFCFCHClF(以下、HCFC−225cbという。)に溶解した溶液223mg((HFPO)としての量。以下同じ。)とを、N雰囲気下にて仕込んだ。
その後、33℃に昇温して、TFEを圧力が0.497MPaG(ゲージ圧、以下同じ。)になるまで仕込み、重合を開始した。反応中の温度は一定になるように制御した。また、重合の進行に伴い、圧力が低下するので、圧力が一定になるようにTFEを連続的に後仕込みした。
また、反応開始後、(HFPO)を0.13質量%の濃度でHCFC−225に溶解した溶液112mgを、30分毎に9回添加した。すなわち、(HFPO)の添加総量を1.6mgとし、この添加総量(モル数)のPSVEの仕込み量(モル数)に対するモル比を1×10−4とした。
そして、反応開始の5時間後に内温を室温まで冷却し、未反応のTFEを空放して反応を終了した。
なお、(HFPO)の33℃における半減期は30分なので、反応中の(HFPO)濃度は、重合開始時の濃度の1〜0.5倍の範囲に維持されたこととなる。
【0047】
重合により得られた生成物をおよそ重合液と同体積のHCFC−225cbで希釈後、CClFCH(以下、HCFC−141bという。)を添加して凝集させてろ過した。
その後、濾過残渣にHCFC−225cbを加えて撹拌し、HCFC−141bで再凝集させたものを80℃で16時間減圧乾燥した。得られたポリマーの生成量は523mgであった。
ラマン分光分析装置で組成を分析したところ、ポリマー中のPSVE由来の構成単位は25.3mol%であり、この組成に基づき求めたEWは741であった。また、GPCで分子量Mwを測定したところ580,000であった。
【0048】
(実施例2)
撹拌機を有する内容積10mLのステンレス製反応器に、7.238gのPSVEと、(HFPO)を0.13質量%の濃度でHCFC−225cbに溶解した溶液95mgとをN雰囲気下で仕込んだ。
その後、40℃に昇温して、TFEを圧力が0.628MPaGになるまで仕込み、重合を開始した。反応中の温度は一定になるように制御した。また、重合の進行に伴い、圧力が低下するので、圧力が一定になるようにTFEを連続的に後仕込みした。
また、反応開始後、(HFPO)を0.13質量%の濃度でHCFC−225cbに溶解した溶液47.5mgを、12分毎に24回添加した。すなわち、(HFPO)の添加総量を1.6mgとし、この添加総量(モル数)のPSVEの仕込み量(モル数)に対するモル比を1×10−4とした。
そして、反応開始の5時間後に内温を室温まで冷却し、未反応のTFEを空放して反応を終了した。
なお、(HFPO)の40℃における半減期は12分なので、反応中の(HFPO)濃度は、重合開始時の濃度の1〜0.5倍の範囲に維持されたこととなる。
【0049】
重合により得られた生成物をおよそ重合液と同体積のHCFC−225cbで希釈後、HCFC−141bを添加して凝集させてろ過した。
その後、濾過残渣にHCFC−225cbを加えて撹拌し、HCFC−141bで再凝集させたものを80℃で16時間減圧乾燥した。得られたポリマーの生成量は607mgであった。
ラマン分光分析装置で組成を分析したところ、ポリマー中のPSVE由来の構成単位は24.1mol%であり、この組成に基づき求めたEWは761であった。また、GPCで分子量Mwを測定したところ604,000であった。
【0050】
(実施例3)
撹拌機を有する内容積10mLのステンレス製反応器に、0.615gのPDDと、5.492gのPSVEと、(HFPO)を0.10質量%の濃度でHCFC−225cbに溶解した溶液69mgとをN雰囲気下で仕込んだ。
その後、40℃に昇温して、TFEを圧力が0.162MPaGになるまで仕込み、重合を開始した。反応中の温度は一定になるように制御した。また、重合の進行に伴い、圧力が低下するので、圧力が一定になるようにTFEを連続的に後仕込みした。
また、反応開始後、PDDを10.08質量%の濃度でPSVEに溶解した溶液の0.0161g(PDDとして)を、43.6分毎に10回添加した。すなわち、PDDの添仕込み量を0.78g、PSVEの添仕込み量を6.93gとした。
また、反応開始後、(HFPO)を0.10質量%の濃度でHCFC−225cbに溶解した溶液の35mgを、19.2分毎に24回添加した。すなわち、(HFPO)の添加総量を0.9mgとし、この添加総量(モル数)のPSVEとPDDの合計総仕込み量(モル数)に対するモル比を5×10−5とした。
そして、反応開始の8時間後に、下式(8)で表される重合禁止剤0.00018gを添加してから、未反応のTFEを空放して反応を終了した。
なお、(HFPO)の40℃における半減期は12分なので、反応中の(HFPO)濃度は、重合開始時の濃度の0.25〜1.0倍の範囲に維持されたこととなる。
【0051】
【化5】

【0052】
重合により得られた生成物をHCFC−225cbで希釈後、ヘキサンを添加して凝集させてろ過した。
その後、濾過残渣にHCFC−225cbを加えて撹拌し、ヘキサンで再凝集させたものを80℃で16時間減圧乾燥した。得られたポリマーの生成量は342mgであった。
19−FNMRで組成を分析したところ、ポリマー中のPSVE由来の構成単位は28.4mol%、PDD由来の構成単位は35.8mol%であり、この組成に基づき求めたEWは880であった。また、GPCで分子量Mwを測定したところ361,000であった。
【0053】
(比較例1)
撹拌機を有する内容積10mLのステンレス製反応器に、7.238のPSVEgと、(HFPO)を0.26質量%の濃度でHCFC−225cbに溶解した溶液1.23gとをN雰囲気下で仕込んだ。
その後、21℃に昇温して、TFEを圧力が0.421MPaGになるまで仕込み、重合を開始した。反応中の温度は一定になるように制御した。また、重合の進行に伴い、圧力が低下するので、圧力が一定になるようにTFEを連続的に後仕込みした。
すなわち、(HFPO)の添加総量を3.21mgとし、この添加総量(モル数)のPSVEの仕込み量(モル数)に対するモル比を2×10−4とした。
そして、反応開始の5時間後に内温を室温まで冷却し、未反応のTFEを空放して反応を終了した。
【0054】
重合により得られた生成物を重合液とおよそ同体積のHCFC−225cbで希釈後、HCFC−141bを添加して凝集させてろ過した。
その後、濾過残渣にHCFC−225cbを加えて撹拌し、HCFC−141bで再凝集させたものを80℃で16時間減圧乾燥した。得られたポリマーの生成量は661mgであった。
ラマン分光分析装置で組成を分析したところ、ポリマー中のPSVE由来の構成単位は21.9mol%であり、この組成に基づき求めたEWは803であった。また、GPCで分子量Mwを測定したところ508,000であった。
【0055】
(比較例2)
撹拌機を有する内容積10mLのステンレス製反応器に、0.526gのPDDと、5.905gのPSVEと、(HFPO)を0.26質量%の濃度でHCFC−225cbに溶解した溶液0.73gとをN雰囲気下で仕込んだ。
その後、21℃に昇温して、TFEを圧力が0.107MPaGになるまで仕込み、重合を開始した。反応中の温度は一定になるように制御した。また、重合の進行に伴い、圧力が低下するので、圧力が一定になるようにTFEを連続的に後仕込みした。
また、反応開始後、PDDを8.18質量%の濃度でPSVEに溶解した溶液0.0137g(PDDの量として)を、43.6分毎に10回添加した。すなわち、PDDの添仕込み量を0.66g、PSVEの添仕込み量を7.44g、(HFPO)の添加総量を0.19mgとし、この添加総量(モル数)のPSVEとPDDの合計総仕込み量(モル数)に対するモル比を1×10−4とした。
そして、反応開始の8時間後に、0.00038gの前記式(8)で表される重合禁止剤を添加してから、未反応のTFEを空放して反応を終了した。
【0056】
重合により得られた生成物をHCFC−225cbで希釈後、ヘキサンを添加して凝集させてろ過した。
その後、濾過残渣にHCFC−225cbを加えて撹拌し、ヘキサンで再凝集させたものを80℃で16時間減圧乾燥した。得られたポリマーの生成量は349mgであった。
19−FNMRで組成を分析したところ、ポリマー中のPSVE由来の構造単位は27.6mol%、PDD由来の構造単位は33.7mol%であり、この組成に基づき求めたEWは884であった。また、GPCで分子量Mwを測定したところ265,000であった。
【0057】
実施例、比較例の結果を表1に示す。
【表1】

【0058】
実施例1、2は比較例1と同じ重合時間であるが、実施例1、2で得られたポリマーの分子量は、比較例1で得られたポリマーの分子量より大きかった。また、実施例3は比較例2と同じ重合時間であるが、実施例3で得られたポリマーの分子量は、比較例2で得られたポリマーの分子量より大きかった。
すなわち、本発明の重合方法により、一定の重合時間中に得られる収量を低下させることなく、高い官能基含量でかつ高分子量の重合体を得られることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される液状モノマー(A)から得られる構造単位を20〜40mol%と、テトラフルオロエチレンから得られる構造単位とを含む分子量が250,000以上、−SOF基1molあたりの質量が600〜900g/molのパーフルオロカーボン重合体の製造方法であって、
前記液状モノマー(A)と、テトラフルオロエチレンを含む原料モノマーを、下式(2)で表される開始剤(X)を逐次的または連続的に添加して25〜45℃の重合温度で重合させることを特徴とするパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
CF2=CF(OCF2CFX)-O-(CF2)-(CF2CFX)-SO2F (1)
(ただし、式(1)において、X、Xはフッ素原子又はトリフルオロメチル基であり、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、kは0〜3の整数であり、lは0又は1であり、mは0〜12の整数であり、nは0〜3の整数である。)
[CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)pCF(CF3)COO]2 (2)
(ただし、式(2)において、pは0〜8の整数である。)
【請求項2】
前記原料モノマーが、さらに、下式(3)で表される液状モノマーおよび/または下式(4)で表される液状モノマーを含む請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項3】
前記重合中の開始剤(X)の濃度を、前記重合を開始した時の開始剤(X)の濃度に対して、0.25〜2倍の範囲に維持する請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合中の開始剤(X)の濃度を、前記重合を開始した時の開始剤(X)の濃度に対して、0.5〜1.5倍の範囲に維持する請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【請求項5】
添加する開始剤(X)の総量の全液状モノマーに対するモル比を、1×10−5〜3×10−3とする請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【請求項6】
添加する開始剤(X)の総量の全液状モノマーに対するモル比を、5×10−5〜1×10−3とする請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【請求項7】
30〜45℃の重合温度で重合させる請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。
【請求項8】
分子量が400,000以上である請求項1に記載のパーフルオロカーボン重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−209365(P2009−209365A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38385(P2009−38385)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】