説明

ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、がん細胞を上皮増殖因子受容体阻害剤に対して感受性にする

癌治療のためのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせの使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に、癌治療のためのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非小細胞肺癌(NSCLC)は世界中で癌死亡を導いている原因である。化学療法は病気がかなり進行した段階で適度の延命効果を生み出すが、標準的な二つの薬の組み合わせはかなりの毒を生成するため、点滴投与を必要とする。生物学的な肺癌分野の進歩は、細胞増殖、アポトーシス、および血管形成に関与する標的タンパク質の小分子阻害剤の発展につながった。イマチニブやトラスツズマブのような分子標的治療薬は、標的タンパクを過剰発現する、慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍(GIST)、および乳癌の中で、一貫性のある延命効果を生み出した。4つの異なる受容体であるEGFR/erbB−1、HER2/erbB−2、HER3/erbB−3、およびHER4/erbB−4を包む上皮細胞成長因子受容体(EGFR)スーパーファミリーは、固形癌において治療可能な標的として早期に特定された。リガンドが結合した後、これらの受容体は、ホモ二量体化、またはヘテロ二量体化して、チロシンキナーゼドメインが活性化される。これにより、細胞周期の進行、アポトーシス、血管新生、および転移への影響を介した癌の発達と進行に関わりがある事象のカスケードが開始される。EGFRはNSCLCを含む多くのヒト上皮悪性腫瘍に過剰に発現される。
【0003】
癌におけるEGFR分子ネットワークの生物学的重要性に鑑みて、いくつかの分子がEGFRのチロシンキナーゼドメインを阻害するために合成された。これら新薬の中で最も期待できるのは、ゲフィチニブ(ZD1839、IRESSA、AstraZeneca、UK)とエルロチニブ(OSI774、TARCEVA、Genentech、USA)である。これらは、経口活性であり、EGFR発現しているさまざまなヒト癌細胞系に対して抗癌活性を示す選択的EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(EGFR−TKI)である。さらに、これらの薬は、化学療法に抵抗力のあるNSCLC患者を含んだフェイズIの試験において、単独の薬としての活性を証明した。上記患者における奏功率は約10%であった。活性は、大規模なフェイズIIの試験によって確認され、前もって治療していないNSCLCを進行させた患者において19−26%、および、ひとつ、またはさらに以前にいくつかの化学治療に不成功に終わった患者において12−18%の奏功率が示された。さらに近年、第二または第三の治療法として、エルロチニブによる延命効果が、カナダ国立癌機関で行われた試験において報告された。
【0004】
ゲフィチニブでのフェイズII試験において、EGFRタンパク質発現と治療への反応性の間には、相互関係が見出されなかった。へん平上皮細胞癌の患者は、彼らの高いEGFRが発現率にも関わらず、腺癌患者と比較すると、奏功率が低かった。近年、EGFR遺伝子のチロシンキナーゼドメインにおける特異的ミスセンスおよび欠失変異が、ゲフィチニブ感受性と極めて関連するということが報告された。しかしながら、客観的な奏功率は18%に達しようとしており、ゲフィチニブで治療した無作為なNSCLC患者の40%に改善兆候が報告されている一方、無作為に選ばれたアメリカ人における上記変異の頻度は低く、他のメカニズムがゲフィチニブへの反応に関わっていることを示唆している。EGFRは、インテグリンおよびEカドヘリン(E−cad、CDH1)を含む細胞接着分子と相互作用する。Eカドヘリンは、腫瘍の浸潤性および転移可能性に重要な役割を果たすカルシウム依存性上皮細胞接着分子である。Eカドへリンの発現量の減少は、NSCLCの患者において、癌細胞の脱分化、病気がかなり進行した段階および縮められた命に関連付けられる。Eカドヘリン介在性細胞接着は、β、α、およびγカテニンとの相互作用を介したアクチン細胞骨格との細胞内接着を必要とする。EGFRの活性化は、Eカドへリンおよびβカテニンの膜内局在性およびプロテオソーム分解性の低下を導く。Eカドへリンはまた、EGFRおよびその下流の標的の制御に関与する。EカドへリンはEGFRおよびその他のRTKsのリガンド依存性の活性化を阻害する。一方、近隣細胞に対するEカドへリンの作用は、AKTのPI3キナーゼ依存性活性化、および核へのAKTの急速な移動を導く。Eカドへリンはまたさらに、EGFRのリガンド非依存性活性化を通じてMAPKパスウェイを刺激する。転写段階において、Eカドへリンの発現は、wnt/B−カテニンシグナル、ERKまたはカベオニンを介したEGFRシグナル、転写因子AP−2、塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックスE12/E47因子、ならびにSlug/Snailファミリー、SIP1、およびTF8(TFB−1、ZFHX1A、AREB6、σEF1)を含むいくつかのジンクフィンガー転写因子によって制御される。これらのジンクフィンガー転写因子は2つの5’−CACCTG(E−box)プロモーター配列との相互作用を介して、いくつかの遺伝子の発現を制御する。この制御は、クロマチン縮合および遺伝子スライシングを導くヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)をリクルートするCtBPとの相互作用によって、促進される。肺癌細胞系におけるトリコスタチンA(TSA)を利用したHDACの阻害は、E−cadの活性化を導いた。
【0005】
現在まで、11の哺乳類HDACが同定されており、三つのクラスに分類されている(クラスI〜III)。HDAC阻害剤は、クロマチンの再構築および遺伝子発現の制御により、血液および固形の悪性腫瘍において、分化とアポトーシスを促進する治療薬の新たなクラスである。ベンズアミド(MS−275)、短鎖脂肪酸(すなわち、フェニル酪酸ナトリウム)、ヒドロキサム酸(すなわち、スベロイルアニリド(suberoylanilide)ヒドロキサム酸、およびトリコスタチン A);2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいるサイクリックテトラペプチド(すなわち、トラポキシンA)、2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含まないサイクリックペプチド(すなわち、FK228)を含むいくつかのHDAC阻害剤が同定された。これらの大多数は臨床試験を受けている途中である。MS275(ScheringAG)は血液および固形の悪性腫瘍においてフェイズI試験を受けているベンズアミドHDAC阻害剤である。MS275は急速に吸収され、100時間の半減期を有している;すなわち、ヒストンのアセチル化における変化は、MS275の投与後、数週間持続される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
EGFR阻害剤によって利益を得ることのできる患者を同定すること、および、特にEGFRを発現しているがん細胞において用いるための、EGFR阻害剤に耐性のがん細胞の感受性を向上させ得る処置を同定することは非常に重要である。特に、EGFRを発現するがん細胞系の、EGFR阻害剤への感受性を向上される治療計画を見出すことは望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態は、がん患者を治療する方法に関するものである。上記方法は、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤の組み合わせを患者へと投与する工程を含む。一つの局面において、上記組み合わせは、連続して投与される。本局面では、一例として、上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の大部分が、上記上皮成長因子受容体阻害剤の大部分よりも前に投与される。一つの局面において、上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤はMS−275であり、上記上皮成長因子受容体阻害剤はゲフィチニブである。本局面では、投与の計画は、MS−275を毎週2mg/m経口で4週間、続いて、ゲフィチニブを毎日250mg経口で4週間投与することを含み得る。他の局面では、上記組み合わせは、実質的に同時に投与される。本局面では、一例として、投与の計画は、4週間、MS−275を毎週2mg/m経口で投与するとともに、ゲフィチニブを毎日250mg経口で投与することを含み得る。
【0008】
本発明の他の実施形態は、上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤耐性がんを有する患者を、該がんをEGFR阻害剤に感受性にすることにより治療する方法に関するものである。上記方法は、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせを患者へと投与することを含む。本実施形態の一つの局面において、治療学的組成物の投与の前に、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性を予測するために上記がんを評価する工程をさらに含む。上記がんを評価する工程は、例えば、(a)患者からの腫瘍細胞サンプルにおいて、(i)上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子の増幅のレベル;(ii)EGFR遺伝子の多染色体性のレベル;(iii)ヒトチロシンキナーゼ受容体型受容体(HER2)遺伝子の増幅のレベル;および(iV)HER2遺伝子の多染色体性のレベルからなる群より選ばれる生体マーカーのレベルを検出する工程;(b)腫瘍細胞サンプルにおける生体マーカーのレベルを、(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する生体マーカーの対照レベル;および(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する生体マーカーの対照レベルからなる群より選ばれる生体マーカーの対照レベルと比較する工程;ならびに(c)患者の腫瘍細胞における生体マーカーのレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する生体マーカーの対照レベルよりも統計的に低い場合、または、患者の腫瘍細胞における生体マーカーのレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する生体マーカーの対照レベルと統計的に同じ、またはより低い場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程を包含し得る。
【0009】
本実施形態の他の局面において、上記方法は、(a)腫瘍細胞における上記増殖因子受容体(EGFR)タンパク質の発現のレベルを検出する工程;(b)腫瘍細胞サンプルにおける上皮増殖因子受容体タンパク質の発現のレベルを、(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベルからなる群より選ばれる上皮増殖因子受容体タンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに(c)患者の腫瘍細胞における上皮増殖因子受容体タンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する上皮増殖因子受容体タンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に低い場合、または、患者の腫瘍細胞における上皮増殖因子受容体タンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する上皮増殖因子受容体タンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ、またはより低い場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程をさらに包含する。
【0010】
本実施形態のさらに他の局面において、上記方法は、(d)腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを検出する工程;(e)腫瘍細胞サンプルにおけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを、(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベルからなる群より選ばれるE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに(f)患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に減少している場合、または、患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程をさらに包含する。
【0011】
本実施形態のなおさらに他の局面において、上記方法は、(d)腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルを検出する工程;(e)腫瘍細胞サンプルにおけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルを、(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベルからなる群より選ばれるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに(f)患者の腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に亢進している場合、または、患者の腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程をさらに包含する。
【0012】
本発明のまた別の実施形態は、少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤に耐性のがんを有する患者を治療する方法であって、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせを患者へと投与することを含んでおり、該がんが上皮悪性腫瘍である方法に関するものである。
【0013】
本発明の何れの実施形態においても、上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、これに限定されるものではないが、ヒドロキサム酸、カルボキシル酸、ベンズアミド、エポキシド、短鎖脂肪酸、2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいるサイクリックテトラペプチド、および2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいないサイクリックペプチドを包括する。上記ヒドリキサム酸は、これに限定されるものではないが、スベロイルアニリジンヒドロキサム酸、TSA、およびSAHAを包括するる。上記カルボキシル酸は、これに限定されるものではないが、ブタン酸、バルプロ酸、および4フェニルブタン酸を包括する。上記ベンズアミドは、これに限定されるものではないが、N−アセチルジアミンおよびMS−275を包括する。上記エポキシドは、これに限定されるものではないが、トラポキシン、デペウデシン、およびデプシペプチドFK228を包括する。好ましい実施形態において、上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤阻害剤は、MS−275である。一つの局面において、上記MS−275は、4週間にわたって週一回経口で2mg/m、または、MS−275を4週間にわたって隔週に経口で4mg/m投与することを含む投与計画によって投与される。
【0014】
本発明の何れの実施形態においても、上記EGFR阻害剤は、これに限定されるものではないが、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブのアゴニスト、およびエルロチニブのアゴニストを包括する。ゲフィチニブは、例えば、一日につき経口で250mg投与することを含む投与計画によって投与され得る。エルロチニブは、例えば、一日につき経口で150mg投与することを含む投与計画によって投与され得る。
【0015】
上述した本発明の何れの実施形態においても、上記がんは、これに限定されるものではないが、上皮悪性腫瘍、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)を包括する。一つの局面において、上記がんは、上皮増殖因子受容体阻害剤耐性である。一つの局面において、上記がんは、例えば、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、低いか、もしくは全く増加していないコピー数の上皮増殖因子受容体遺伝子、または低いか、もしくは全く増加していないコピー数のHER2遺伝子、またはそれらの組み合わせを有するがん性細胞を含んでいる。一つの局面において、上記がんは、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、低下した上皮増殖因子受容体タンパク質の発現を有するがん性細胞を含んでいる。一つの局面において、上記がんは、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、低減したレベルのE−カドヘリン遺伝子の発現を有するがん性細胞を含んでいる。一つの局面iおいて、上記がんは、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、亢進したレベルのTF8の少なくとも一つのコンポーネントの発現を有するがん性細胞を含んでいる。そのようなコンポーネントは、ZEB1を包括し得る。
【0016】
本発明の他の実施形態は、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤の組み合わせの治療学的な投与から利益を得ると予測される患者を選択する方法に関するものである。上記方法は、(a)腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを検出する工程;(b)腫瘍細胞サンプルにおけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを、(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベルからなる群より選ばれるE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに(c)患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に減少している場合、または、患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程を包含する。
【0017】
本発明の他の実施形態は、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤の組み合わせの治療学的な投与から利益を得ると予測される患者を選択する方法に関するものである。上記方法は、(a)腫瘍細胞におけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルを検出する工程;(b)腫瘍細胞サンプルにおけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルを、(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベルからなる群より選ばれるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅の対照レベルと比較する工程;ならびに(c)患者の腫瘍細胞におけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅の対照レベルよりも統計的に大きい場合、または、患者の腫瘍細胞におけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は主に、悪性腫瘍患者を治療する方法に関するものであり、特に、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)を発現する、ゲフィチニブのようなEGFR阻害剤に耐性の悪性腫瘍に関するものである。本発明者らは、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を事前に、または同時に処置した場合、EGFR耐性の非小細胞肺癌(NSCL)のようなEGFR耐性の腫瘍が、EGFR治療へ強い感受性を示すことを見出した。本発明に係る方法は主に、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤とEGFR阻害剤とを含んでなる組み合わせ様式の治療をこのような患者へ施すことを含んでいる。一実施形態において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤およびEGFR阻害剤は順次投与される。本発明に係る方法はまた、EGFR阻害剤に対して感受性または耐性を有する対照の腫瘍細胞と比較したときの、上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子(すなわち、EGFRをコードする遺伝子)の増幅レベル、および/または上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子の多染色体性(polysomy)のレベル、もしくはその欠失を、患者からの腫瘍細胞のサンプルにおいて検出することによって、EGFR阻害剤への感受性または耐性に関して患者の悪性腫瘍を評価することを含んでいる。本発明に係る方法は、EGFR阻害剤に対して感受性または耐性を有する対照の腫瘍細胞と比較したときの、Eカドへリンのタンパク質もしくは転写産物の亢進された発現レベル、またはZEB−1タンパク質もしくは転写産物の減少した発現レベルを、腫瘍細胞サンプルにおいて検出することを、付加的、または選択的に含んでもよい。
【0019】
本発明者らは腫瘍治療に用いられるEGFR阻害剤への反応性(感受性)または耐性を予測する分子を見出した。NSCLC細胞系は、NSCLCにおけるEGFR阻害剤の効果を強める、分子の同定および戦略の発展のためのモデルとして用いられた。本発明者らは、ウェスタンブロット分析およびリアルタイムRT−PCRを用いて、EGFR阻害剤へ感受性のある5つのUCCC細胞系中のEカドへリンの発現を検出した。Eカドへリンの発現は、ジンクフィンガー阻害タンパク質によって阻害される。リアルタイムRT−PCRを用いることによって、ジンクフィンガー転写因子の発現が、ゲフィチニブ耐性の細胞系において亢進していることが見出された。また、上記発現は、ゲフィチニブ感受性細胞系では欠失していた。ゲフィチニブへの耐性のあるNSCLC細胞系におけるEカドへリンの過剰発現はそれらの感受性を増加させた。最も耐性のある細胞系において、単に、またはHDAC阻害剤のMS−275によってEカドへリンの発現を誘発することは、EGFRの変異を内包している細胞系に見出されるものと類似したアポトーシス作用を導いた。本発明者らは、EカドへリンおよびZEB1の発現が、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤への感受性を予測することと、ならびにHDAC阻害剤の前処理がEGFR阻害剤への耐性を無効にすることを見出した。手短に言うと、本発明者らはNSCLC細胞系におけるE−cadおよびE−cadが制御する分子の発現を評価し、E−cadの発現が、EGFR阻害剤ゲフィチニブへの耐性のある細胞系で欠失または低減しており、感受性を有する細胞系において活性化されていることを見出した。
【0020】
本発明者らはまた、EGFR阻害剤へ耐性のある細胞系が高いTF8の発現を有することを見出した。特に、本発明者らは、E−cad発現を復元すること、HDAC阻害剤のMS−275で細胞を起爆すること、およびEGFR阻害剤とHDAC阻害剤を利用する組み合わせ治療で細胞を処理することによってNSCLC細胞系のゲフィチニブへの感受性を無効にすることを示している。本発明者らは、本明細書において、肺癌および他の種類の固形癌患者におけるEGFR阻害剤への耐性の克服のための初めての戦略を提案する。
【0021】
本発明はまた、EGFR阻害剤とHDAC阻害剤による組み合わせ治療を、このような治療から顕著な効果が期待される患者(EGFR阻害剤への奏功性のない病歴の患者、およびEGFR阻害剤を用いた治療に対する奏功性が少ないか、または全くないと予測される患者(例えば、耐性または感受性を測定するテストに基づく)を含む)に処置することを含む。EGFR阻害剤を用いた治療に対する感受性を有する、または有しない患者を選択するための特に好ましい方法は、国際公開WO2006/117553号パンフレットに記載されており、本明細書中において参考として援用される。本発明において、本発明者らはこれらの基準が、EGFR阻害剤とHDAC阻害剤との組み合わせ治療から効果を受けることを予測される患者を特定することに利用され得ることを提案する。特に、国際公開WO2006/117553号パンフレットの中に記載された方法を用いて、EGFR阻害剤治療へ耐性である(または感受性がない)と予測された患者は、本発明の治療法から、顕著な利益を得ることができる。さらに、EGFR阻害剤治療に反応しやすい(敏感になりやすい)と予測される患者もなお、本研究の方法を使用して治療することができる。
【0022】
具体的に言うと、国際公開WO2006/117553号パンフレットに記載されているように、以下のマーカーの組み合わせの使用は、EGFR阻害剤に感受性がある、または耐性がある患者を識別する:(1)上皮細胞成長因子(EGFR)遺伝子(すなわち、EGFRをコードする遺伝子)の増幅レベルの検出;(2)上皮細胞成長因子(EGFR)遺伝子の多染色体性のレベルの検出;(3)HER2遺伝子の遺伝子増幅のレベルの検出;(4)HER2遺伝子の多染色体性のレベルの検出;(5)EGFR遺伝子内の突然変異の検出;(6)EGFRタンパク質の発現の検出;および(7)リン酸化Akt発現の検出。たとえば、EGFR遺伝子の増幅、および/または、EGFR遺伝子に関係する高多染色体性(本明細書において、EGFR遺伝子のコピー数の増加、またはEGFRコピー数の向上として主に言及される)、および/または、HER2遺伝子の増幅、および/または、HER2遺伝子に関係する高多染色体性(本明細書において、HER2遺伝子のコピー数の増加、またはHER2コピー数の向上として主に言及される)を示す腫瘍細胞をもつ患者は、特にEGFR阻害剤での治療への反応が予測され、そのため、この治療方針の使用法に最適な患者であることをこの文書は開示している。対照的に、EGFRおよび/またはHER2の遺伝子のコピー数がほとんどないか全く増幅していない腫瘍をもつ患者は、EGFR阻害剤による治療において乏しい結果となることが予測される。これらの患者は、本発明を使用する治療に、特に最適な患者である。また、EGFR陰性の(すなわち、EGFRの結果のみに基づくと、EGFR阻害剤への反応が期待されない)患者にとって、もしこのような患者の腫瘍がHER2遺伝子の増幅および/またはHER2遺伝子の多染色体性(高トリソミーまたは低もしくは高多染色体性)を有していたならば、その患者の結果は、HER2遺伝子の増幅のない患者と比べて、より良好であるということをこの文書は公開する。さらに、EGFRの単独の結果に基づきEGFR阻害剤へ反応すると予測された患者において、これら患者の腫瘍におけるHER2遺伝子の増幅および/または高多染色体性は、EGFR阻害剤治療への感受性が、HER2遺伝子の増幅がないものよりもなおさらに強いことを予測させる。この文書はまた、EGFRタンパク質の発現を、EGFR阻害剤による治療の患者の結果を予測するための用い得ることを開示している。上記予測は、発現の強度およびサンプル中の発現陽性細胞の画分についての評価基準を用いるものであり、採点手法(すなわち、陽性/高EGFR発現体として示される)において、50%の上位である、腫瘍細胞を有する患者を、発現が少ない群に比べて、EGFR阻害剤によって処置されたとき、よりよい結果(例えば、よりよい反応時間、より緩やかな進行率、および、より長い生存時間)を得られるとしている。そのうえさらに、国際公開第WO2006/117553号パンフレットは、EGFRタンパク質の発現を、HER2またはEGFR遺伝子の増幅または多染色体性とともに組合わせて検出することは、ただ一つのマーカーを検出する場合、またはマーカーの検出をしない場合に比べて、患者の結果をより顕著に予測し得ることを示している。全NSCLC人口の約30%を構成する、低/無EGFR遺伝子増幅(例えば、「FISH陰性」)を伴う腫瘍患者、および低/無EGFRタンパク発現(例えば、「IHC陰性」)を伴う腫瘍患者の他の群は、EGFR阻害剤からどんな医療効果も得られないようにみえる(全くないか、非常に低い奏功率、短時間の進行、および短い生存期間)。これら患者もまた、本発明の組み合わせ治療法を使用する治療に最適な候補者である。最後に、他の二つの生体マーカー、つまり、EGFR変異遺伝子およびリン酸化Aktの発現は、上述したいかなる生体マーカーおよび手法とも組み合わせることができ、EGFR阻害剤による治療が奏功すると予測される患者を判別する性能を向上させることができる。たとえば、国際公開第WO2006/117553号パンフレットは、EGFR遺伝子野変異の検出と、EGFRタンパク質の発現、EGFR遺伝子の増幅および/もしくは多染色体性、ならびに/またはHER2遺伝子の増幅および/もしくは多染色体性との組み合わせは、EGFR阻害剤による治療から医療効果がある患者の選択に利用し得ることを示す。リン酸化Akt(すなわち活性化されたAkt)の検出と、EGFRタンパク質の発現、ならびに/またはEGFR遺伝子の増幅、および/もしくは多染色体性の検出との組み合わせはEGFR阻害剤による治療から医療効果がある患者の選択に利用し得る。したがって、これらの何れかの基準により、EGFR阻害剤による治療に感受性が乏しいか、まったくないとして選択された患者は、とくに本発明の方法を利用する治療に最適の候補者である。
【0023】
上記に加えて、または上記に代えて、E−cad発現が減少された、もしくは存在しない腫瘍細胞を有する患者はまた、EGFR阻害剤に耐性的な悪性腫瘍の表現型を示し、本発明において公開されたような組み合わせ治療に対する候補者となる。上記に加えて、または上記に代えて、TF−8の発現が活性化もしくは増進させている腫瘍細胞による患者はまた、EGFR阻害剤に耐性的な悪性腫瘍の表現型を示し、本発明において公開されたような組み合わせ治療に対する候補者である。
【0024】
しかしながら、いかなる悪性腫瘍患者でも、本発明において公開された組み合わせ治療法の使用によって効果が得られるので、本発明は上述の患者の候補のいずれにも限定されるものではない。
【0025】
本発明の各種定義と観点は以下に記載されるが、本発明は、いずれの特定の実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態は説明的または例証的に用いられる。
【0026】
本発明の第1の実施形態において、本発明は、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含んでいる有効量の治療学的組成物と、少なくとも一つのEGFR阻害剤とを含んでいる有効量の治療学的組成物との組み合わせを患者に投与することを含む、悪性腫瘍患者を治療するための方法を含む。本発明に係る治療法はまた、少なくともひとつのEGFR阻害剤に耐性の悪性腫瘍患者を治療する方法であって、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含んでいる有効量の治療学的組成物と、少なくとも一つのEGFR阻害剤とを含んでいる有効量の治療学的組成物との組み合わせを患者に投与することを含んでおり、該悪性腫瘍は、上皮悪性腫瘍である。
【0027】
上述の組み合わせは、順次に、あるいは同時に投与されてもよい。悪性腫瘍治療のために効果的である投与方法、投与形態、ならびに投与すべきEGFR阻害剤およびHDAC阻害剤の投与量は公知である。また、用いるべき化合物の投与方法、形態、および投与量は、当業者であればルーチン的な最適化によって好適に決定し得る。前記の組み合わせ治療法は、EGFR阻害剤の投与前、投与中、および/または投与後に、HDAC阻害剤を投与することを含んでもよい。EGFR阻害剤の投与は、HDAC阻害剤の投与から最大数週間まで時間を隔ててもよい。また、EGFR阻害剤の投与は、HDAC阻害剤の投与の前でも後でもよい。しかし通常は、EGFR阻害剤の投与とHDAC阻害剤の投与との間は最大でも48時間以内である。さらに最も一般的なのは、24時間以内であり、0から24時間まで30分ずつ延長したり、それより長時間(例えば30分、1時間、90分、2時間、など)も含んでいる。
【0028】
好ましい実施形態において、少なくともひとつのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含んでいる治療学的組成物の少なくとも実質部分は、少なくともひとつのEGFR阻害剤を含んでいる治療学的組成物の実質部分が投与される前に処方される。上記実質部分は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の量、すなわち供給される全投与量の50%以上、またさらに好ましくは、供給される全投与量の約60%以上、さらに好ましくは供給される全投与量の約70%を以上、さらに好ましくは供給される全投与量の約80%を以上、さらに好ましくは供給される全投与量の約90%を以上、また、最も好ましいのは、供給される全投与量の約100%を以上の量を含む。とくに好ましい投与方法は、好ましい量以上の、少なくともひとつのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含んでいる治療学的組成物の約100%の投与に続いて、好ましい量以上の少なくともひとつのEGFR阻害剤を含んでいる治療学的組成物の約100%の投与を含む。
【0029】
もうひとつの好ましい実施形態は、実質的に同一の期間にわたって上述の組み合わせを投与することを含む。言い換えれば、少なくともひとつのヒストンデアセチレート阻害剤を含んでいる治療学的組成物の少なくとも実質部分は、少なくともひとつのEGFR阻害剤を含んでいる治療学的組成物の実質部分とともに投与される。上記実質部分は、ヒストンデアセチレート阻害剤の供給される全投与量の約50%以上を含む。また、さらにいっそう好ましいのは供給される全投与量の約60%以上含む。より好ましいのは、供給される全投与量の約70%以上であり、より好ましいのは、供給される全投与量の約80%以上であり、より好ましいのは、供給される全投与量の約90%以上であり、最も好ましいのは、供給される全投与量の約100%である。
【0030】
「治療学的有効量」は、悪性腫瘍を治療するために、哺乳類、特にヒトに投与したとき、その投与量が悪性腫瘍の治療効果に十分な量であるということを意味する。哺乳類における悪性腫瘍の「処置」または「治療」は、ひとつもしくはそれ以上、次のものを含む。すなわち、悪性腫瘍の成長阻害すること(例えば、その進行を阻止すること)、悪性腫瘍の展開を防ぐこと(例えば、転移を防ぐこと)、悪性腫瘍を取り除くこと(例えば、悪性腫瘍の退行をもたらすこと)、悪性腫瘍の再発を防ぐこと、および悪性腫瘍の症状を和らげることである。このように、治療学的効果または治療は、必ずしも特定の疾患または病態を快復することに限られず、むしろ好ましくは、疾患もしくは病態の緩和、疾患もしくは病態の除去、疾患もしくは病態に関連する症候の低減、一次的な疾患もしくは病状の発生に起因する二次的な疾患もしくは病状(例えば、初期悪性腫瘍に起因する転移悪性腫瘍増殖)の予防もしくは緩和、ならびに/または病気もしくは病状の予防を典型的に含む、最も一般的な成果を好ましく含む。有益な効果は、当業者、および/または患者を治療している、訓練を受けた臨床医学者によって容易に評価され得る。用語「疾患」は、いかなる健常の哺乳類からの逸脱についても言及しており、また、逸脱(例えば、感染、遺伝子変異、遺伝的欠損など)が発生している状態、および疾患の症状があるときの状態を含む。上記症状は特に限定されない。本発明によれば、本明細書において開示される方法は、霊長類、家畜類、および家庭用ペット(例えば、連れ合いとしての動物)を含み、これに限定されない脊椎動物、哺乳類の一員である患者に使用するのに適している。
【0031】
EGFR阻害剤および/またはHDAC阻害剤は、治療されている対象、および対象の状態の性質に適した手段によって投与されてもよい。投与手段は、これに限定はされないが、静脈、腹腔内、筋肉内、および皮下注射を含む注射、経粘膜的もしくは経皮的な供給、局所的な適用、鼻腔用スプレー、座薬等、または好ましくは経口により投与されることを含む。製剤は状況に応じて、リポソーム製剤、乳化製剤、粘膜中に薬を投与するための製剤、または経皮的な製剤でもよい。これら各投与方法に適した製剤は、たとえばレミントン:The Science and Practice of Pharm, 20th ed., A.Gennaro, ed., Lippincott Williams&Wilkins, Philadelphia, pa, U.S.A.中に見出される。典型的な製剤は、経口製剤、または点滴注入のための溶剤である。主な投薬形態は、錠剤(経口投与のため)、点滴注入のための溶剤であり、また点滴注入の溶剤として再生される凍結乾燥された粉末であるが、いかなる適当な投薬形態も、本発明に含まれる。キットは、HDAC阻害剤およびEGFR阻害剤を含み、また投与形態において、たとえば共通の外装とともに包装される。
【0032】
本発明の治療学的組成物は、本発明のHDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤に加えて、従来の薬学的賦形剤、その他従来の薬学的に不活性な物質を含んでもよい。さらに、本発明の治療学的組成物は、本発明のHDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤に加えて、活性物質を含んでもよい。これら付加的な活性物質は、一つまたはそれ以上の他の薬学的な活性物質を含んでもよい。本発明の治療学的組成物は、用いられる投与経路に適した形態で製剤されている、気体、固体、半固体、および液体の形状でもよい。経口投与にはカプセルおよびタブレットが典型的に用いられる。非経口的投与には、本明細書において記載されたように調合された凍結乾燥された粉末の再構成が典型的に用いられる。本発明の治療学的組成物は、さらにまた以下のものを含んでもよい。すなわち、ラクトース、スクロース、ジカルシウムホスフェート、およびカルボキシメチルセルロースのような希釈剤;マグネシウムステアレート、カルシウムステアレート、およびタルクのような潤滑剤;およびスターチ、天然ガムのような結合剤、アカシアゼラチン、グルコース、糖蜜、ポリニルピロリジン、セルロースおよびその誘導体、ポビドン、クロスポビドン、および当業者において知られているそれらのような結合剤。液状の薬学的に投与可能な治療学的組成物は、上述した活性化合物、および、たとえば、水、生理食塩水、水溶性D型グルコース、グリセロール、グリコール、エタノール等のような溶液または懸濁液を形成するための担体に含まれる付加的な補助剤を、溶解、分散、または混合することにより調製され得る。必要に応じて、投与される治療学的組成物はまた、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、pH緩衝剤等のような少量の補助物質、たとえば、酢酸塩、クエン酸ナトリウム、シクロデキストリン誘導体、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンナトリウムアセテート、トリエタノールアミンオレアート、およびその他の物質を含んでもよい。このような投薬形態を調合する実際の方法は公知であるか、または当業者にとって自明である。投与される治療学的組成物または製剤は、いかなる事象においても生体内における前記の活性を低減するために十分な量の、本発明のHDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤を含み、これによって対象の病状を治療している。
【0033】
投薬形態または組成物は、状況に応じて、本発明に係るひとつ以上のHDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤を、本明細書において記載されたような付加的な物質に対して、0.005%から100%(weight/weight)の範囲のバランスで含んでいてもよい。経口投与のため、薬学的に許容される組成物は、状況に応じて、一またはそれ以上の一般に採用される、例えば、薬学的な純度のマンニトール、ラクトース、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、滑石粉、セルロース誘導体、クロスカルメロースナトリウム、グルコース、スクロース、カルボン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカムのような賦形剤を含み得る。そのような組成物は、溶剤、懸濁液、タブレット、カプセル、粉末、吸入器のための乾燥粉末を含み、これに限定はされないが、たとえば移植物や極小カプセルに包まれた運搬装置など、錠剤の放出を維持され、たとえば、コラーゲン、エチレンビニルアセテート、ポリアンハイドライド、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、およびその他のものなど生体分解性、生体適合性のあるポリマーを含む。これら製剤の調合方法は、本明細書中に知られる。治療学的組成物は、状況に応じて、本発明のHDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤のひとつ以上の0.01%〜100%(weight/weight)を含んでもよい。状況に応じて0.1〜95%、および1〜95%である。
【0034】
本発明のHDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤の塩、できればナトリウム塩は、製剤および被膜剤の持続放出のような、体内からの急速な排除に対して、前記組成物を保護する輸送体とともに調合されてもよい。前記製剤は、さらに、目的とする性質の組み合わせを得るために、他の活性のある化合物を含んでもよい。経口薬の投与形態は、固体、ゲル、および液体であってもよい。固体の投与形態の例は、タブレット、カプセル、顆粒、バルク粉末に限定はされないが、これらを含む。さらに、経口錠剤の具体的な例では、固められたチュワブルトローチおよびタブレットを含み、それは腸溶コーティング、糖コーティング、およびフィルムコーティングされてもよい。カプセルの一例は、ハードまたはソフトゼラチンカプセルを含む。顆粒および粉末は、無発泡性、または発泡性の形態であってもよい。各々は、本発明に係り知られる他の成分と組み合わせてもよい。一実施形態において、本発明によるHDAC阻害剤は、固形の投与形態、できればカプセル、およびタブレットとされる。タブレット、ピル、カプセル、トローチ、およびその同等のものは、状況に応じて、ひとつ以上の下記の成分、または類似天然化合物を含んでもよい。すなわち、結合剤;希釈剤;崩壊剤;潤滑剤;流動促進剤;甘味剤;および香料添加剤である。結合剤の一例は、これに限定はされないが、微結晶セルロース、トラガカントゴム、グルコース溶液、アラビアゴム粘液、ゼラチン溶液、スクロース、およびでんぷん糊を含んで用いてもよい。潤滑剤の一例は、限定はされないが、タルク、デンプン、マグネシウム、カルシウムステアレート、リコポディウム、およびステアリン酸を含んで用いてもよい。希釈剤の一例は、限定はされないが、ラクトース、スクロース、デンプン、カオリン、塩、マンニトール、および第二リン酸カルシウムを含んでもよい。流動促進剤の一例は、限定はされないが、コロイド状二酸化ケイ素を含んでもよい。崩壊剤の一例は、限定はされないが、クロスカルメロースナトリウム、ナトリウムデンプングリコール酸塩、アルギニン酸、コーンスターチ、ポテトスターチ、ベントナイト、メチルセルロース、寒天、およびカルボキシメチルセルロースを含んでもよい。着色剤の一例は、限定はされないが、認可された水溶性のFDならびにC色素、およびその混合物のいずれかを含んでもよい。また、不溶性のFDおよびC色素は、アルミナ白に懸濁される。甘味剤の一例は、限定はされないが、スクロース、ラクトース、マンニトール、シクラミン酸ナトリウムまたはサッカリンのような人口甘味料、および吹きつけ乾燥させた風味がいくらでも含まれてよい。香料添加剤の一例は、限定はされないが、植物から抽出された天然香料が含まれてもよい。前記天然香料は、果物、ならびに限定はされないが、ペパーミントおよびメチルサリチル酸のような心地よさを生み出す化合物の人口合成が含まれてもよい。湿潤剤の一例は、限定はされないが、プロピレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ジエチレングリコールモノラウレート、およびポリオキシチレンラウリルエーテルを含んでもよい。制吐薬コーティングの一例は、限定はされないが、脂肪酸、脂肪、ろう、セラック、アンモニア処理したセラック、およびセルロースアセテートフタル酸を含んでもよい。フィルムコーティングの一例は、これに限定はされないが、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレングリコール4000、およびセルロースアセテートフタル酸を含んでもよい。経口投与が必要なら、化合物の塩は、状況に応じて、胃の酸性環境から守る組成物につくられてもよい。たとえば、上記組成物は、胃の中で薬を完全に維持し、また、腸の中で活性のある化合物を放出する腸溶性コーティングに作り変えることができる。前記組成物は、酸中和剤、および他の成分との組み合わせに作り変えられてもよい。化合物は、本発明によれば、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエハース、粉砂糖、チューイングガム、およびその同等のもののように投与されてもよい。シロップは、状況に応じて、活性のある化合物に加えて、甘味剤としてスクロース、保存料、色素、着色剤、および香料を含む。
【0035】
本発明に係る方法に適合するHDAC阻害剤が含まれている治療学的組成物は、たとえば以下のようなHDAC阻害剤を含んでいる組成物を含む。すなわち、スベロイルアニリジンヒドロキサム酸、TSA、およびSAHA(NVP−LAQ−824,PXD−1−1)のようなヒドロキサム酸;ブタン酸、バルプロ酸、および4フェニルブタン酸のようなカルボキシル酸;N−アセチルジアミンおよびMS−275のようなベンズアミド;トラポキシン、デペウデシン、デプシペプチドFK228のようなエポキシド;短鎖脂肪酸;2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいるサイクリックテトラペプチド、および2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいないサイクリックペプチド。図1Aを参照すれば、とりわけ好ましいHDAC阻害剤にはMS−275である。
【0036】
HDAC阻害剤の好ましい投与量は、当業者によって選ばれ得、悪性腫瘍を治療するのに有効として公知である量を含む。HDAC阻害剤による悪性腫瘍を治療するのに適した方法、およびHDAC阻害剤の適した使用量は公知である。たとえば、米国特許公開2004132825(U.S.シリアルナンバー10/692,523、Bacopulousら、表題METHODS OF TREATING CANCER WITH HDAC INHIBITORS、2003年10月24日に出願)において記載されており、本明細書中において参考として採用される。HDACに好ましい投薬は、公知であり、本明細書において列挙された文献において記載されているHDAC阻害剤ですでに確立された投薬を含む。MS−275に好ましい投薬量は、たとえば最小約0.01mg/mであり、最大約1,000mg/mを含む。また、次の間の範囲も含まれる:約0.1mgと約100mgとの間、約0.2mgと約90mgとの間、約0.3mg/mと70mg/mとの間、約0.4mg/mと約50mg/mとの間、約0.5mg/mと約30mg/mとの間、約0.6mg/mと約20mg/mとの間、約0.7mg/mと約15mg/mとの間、約0.8mg/mと約10との間、および約0.9mg/mと約5mg/mとの間。その他好まれる投与量は、約0.1mg/m、約0.5mg/m、約1mg/m、約1.5mg/m、約2mg/m、約2.5mg/m、約3mg/m、約3.5mg/m、約4mg/m、約4.5mg/m、約5mg/m、約5.5mg/m、約6mg/m、約6.5mg/m、約7mg/m、および約7.5mg/mを含む。前記投薬は、たとえば毎日、週2−6日、隔週、月1回、および一形態において週1回と、いかなる期間でもあり得る。一実施形態では、静脈および筋肉内注射による投与も可能だが、好ましい実施形態においては、経口で本発明に係るHDAC阻害剤化合物を投与すればよい。一実施形態においてMS−275のようなHDAC阻害剤は、4週間のうち3週間、週1回経口で2mg/mで、または隔週に経口で4mg/m投与される。
【0037】
本発明に係る方法に準拠したEGFR阻害剤含有治療学的組成物は、EGFR阻害剤を含んでいる組成物を含む。現在、2つの主なEGFRの種類がある。すなわち抗EGFRファミリーチロシンキナーゼ阻害剤(小分子)および抗EGFRモノクローナル抗体である。小分子の一例は、たとえばゲフィチニブ(IRESSA,ZD1839)、エルロチニブ(TARCEVA、OSI−774,CP−358)、およびPKI−166のようなEGFR標的ならびに症状が改善することが可能な阻害剤;EKI−569のようなEGFR標的ならびに症状改善できない阻害剤;GW2016(EGFRとHer2/neuの両方を標的とする)のような、PAN−HER(ヒトEGFR阻害剤ファミリー)改善阻害剤;およびCI−1033(4−アニリンキナゾリン)のようなPAN−HER付加逆阻害剤を含む。モノクローナル抗体の一例は、C225(ケツキシマブ)、ABX−EGR(ヒト)(CA、サンフランシスコ、Abgenics)、EMD−72000(ヒト化)、h−R3(ヒト化)、およびMDX−447(2つの標識、EGFR−CK64)を含む。治療学的組成物ではまた、ゲフィチニブならびにエルロチニブと実質的に同等の生物学的活性のある薬を含む。とりわけ好ましいEGFR阻害剤は、ゲフィチニブおよび/またはエルロチニブである。好ましいEGFR阻害剤の投与量は、本明細書のひとつによって選択されてもよい。また、その他の悪性腫瘍を治療するのに有効となる本明細書中に周知の量を含む。EGFR阻害剤に適した投薬は、以下に記載され本明細書に周知の前記文献に記載されるようなEGFR阻害剤ですでに確立された投薬法である。EGFR阻害剤およびEGFR阻害剤の適切な使用量による悪性腫瘍の適当な治療法は、たとえば、2002年10月27日に申請され、悪性腫瘍治療のための組成物および方法と名づけられた、U.S.シリアルナンバー10/228、544、Webster他、U.S.特許公開2003114504のように、本明細書において周知であり、それは、本明細書中において参考として採用される。好まれる投与量および悪性腫瘍の治療は、最小約5mg、最大約20000mgであり、また、次の間の範囲を含んでもよい。約20mgと約15000mgとの間、約40mgと約10000mgとの間、約80mgと約5000mgとの間、約120mgと約2000mgとの間、約180mgと約1500mgとの間、約200と約1000mgとの間、約250mgと約800mgとの間、約300mgと約700mgとの間、および約400mgと約600mgとの間である。その他好まれる量は、約10mg、約50mg、約100mg、約150mg、約200mg、約250mg、約300mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、約600mg、約650mg、約700mg、約750mg、約800mg、約850mg、約900mg、約950mg、約1000mg、約1200mg、約1400mg、約1600mg、約1800mg、約2000mg、約2200mg、約2400mg、約2600mg、約2800mg、約3000mg、約3500mg、約4000mg、約4500mg、約5000mg、約5500mg、約6000mg、約6500mg、約7000mg、約8000mg、約10、000mg、約12000mg、および約15000mgを含む。投薬はできれば月1回、さらに望ましくは週1回、またさらに好ましくは毎日と、いかなる期間にわたってもよい。
【0038】
一実施形態において、静脈および筋肉内注射によって本発明のEGFR阻害組成物を投与するのも可能だが、それらを経口で投与することもできる。一実施形態において、EGFR阻害剤はゲフィチニブであり、1週間につき1度、約2,000mgのボーラスで経口投与される。もうひとつの実施形態において、EGFR阻害剤はゲフィチニブであり、1日につき約250mgで毎日投与される。もうひとつの実施形態において、阻害剤はエルロチニブであり、1日につき約150mg経口で投与される。
【0039】
HDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤を投与する期間は、公知であるか、および/または当業者によって決定され得、約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、約6日間、約1週間、約1週間半、約2週間、約2週間半、約3週間、約3週間半、約4週間、約5週間、約6週間、約8週間、約10週間、約15週間、約20週間、約25週間、約30週間、約40週間、および約52週間を含む。HDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤は状況に応じて、ひとつ以上の休息期間(すなわち、HDAC阻害剤および/またはEGFR阻害剤を投与しない)を含む連続的な期間にわたって投与されてもよい。休息期間はさらに、公知であるか、および/または当業者によって決定され得、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約1週間、約1週間半、約2週間、約2週間半、約3週間、約3週間半、約4週間、約5週間、約6週間、約8週間、約10週間、約15週間、約20週間、約25週間、約30週間、約40週間、および約52週間を含む。
【0040】
本発明の方法を用いて治療される癌として好ましいものには、上皮悪性腫瘍、そして、特にEGFRを発現している任意の癌(腫瘍)が含まれる。治療される癌として、好ましいものは、EGFR阻害剤に耐性があるものであり、1つの態様では、EGFRに耐性のある上皮悪性腫瘍であってもよい。EGFR阻害剤耐性癌には、(i)コピー数が、ほとんど増加しないか、または、まったく増加しない(遺伝子増幅または多染色体性が少ないか、もしくは、まったくない、)腫瘍(癌性細胞)、(ii)EGFRタンパク質の発現レベルが少ない腫瘍(国際公報2005/117553号パンフレットのような適切な採点プロトコールの50%を下回る腫瘍)、あるいは、(iii)特に、EGFR遺伝子の発現レベルが少ないか、もしくは、まったくなく、且つ、EGFRタンパク質の発現レベルが少なくか、もしくは、まったくないことが組み合わされた腫瘍が含まれていてもよい。EGFR耐性癌にはEGFRの増幅が少ないか、もしくは、まったくなく、且つ、P‐Akt陽性の腫瘍、または、EGFR遺伝子が増幅しており、および/もしくは、多染色体性であるが、P‐Akt陰性の腫瘍も含まれる。EGFR耐性癌には、上記で論じたような反応不良者、もしくは、非反応者についての他の判断基準に1以上合致する、EGFRの変異のない腫瘍も含まれてもよい。
【0041】
もう1つ別の好ましいEGFR耐性癌は、好ましくは、EGFR阻害剤に感受性のある癌性細胞と比べて、E‐カドヘリン遺伝子の発現レベルが減少している癌性細胞を含む。さらにもう1つ別の好ましいEGFR耐性癌は、好ましくは、EGFR阻害剤に感受性のある癌性細胞と比べて、ジンクフィンガー転写因子の発現レベルが増加している癌性細胞を含む。好ましいジンクフィンガー転写因子は、TF8である。もう1つ別の好ましい種類の治療される癌は肺癌であり、特に好ましい肺癌は上皮細胞由来の肺癌、例えば非小細胞肺癌である。
【0042】
本発明の方法は、EGFR阻害剤耐性癌にかかっている患者を治療する方法であって、少なくとも1つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を含有する治療学的組成物と、少なくとも1つのEGFR阻害剤を含有する治療学的組成物とを、それぞれ有効量で組み合わされたものを患者に投与する段階を含む、癌細胞を感作する工程を含んでもよい。
【0043】
本発明の方法は、EGFR阻害剤への耐性に対する感受性を予測するために癌を評価する段階を含む工程を含有してもよい。この方法は、EGFR阻害剤療法への反応がないか、もしくは、その反応に乏しいことを予測するための上述したマーカーの何れかを評価する段階を含んでもよい。例えば、1実施の形態では、EGFR阻害剤への感受性または耐性について癌を評価する段階は、(a)上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)の増幅レベル、および/または、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)の多染色体性のレベルを検査するために患者に由来する腫瘍細胞の試料を検出する手順、(b)腫瘍細胞の試料におけるEGFR遺伝子増幅、ならびに/または、多染色体性のレベルを、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した対照レベル、および、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した対照レベル、からなる群より選ばれるEGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性の対照レベルと比較する手順、(c)患者の腫瘍細胞におけるEGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性のレベルが、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、EGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性の対照レベルよりも減少している場合に、あるいは、患者の腫瘍細胞におけるEGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性のレベルが、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、EGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性の対照レベルと比べて実質的にほぼ同様である場合に、上記組み合わせされたものを治療のために投与することによって、恩恵を受けると予測されるような患者を選抜する手順を、含む。腫瘍を評価する他の同様の段階は、本明細書において論じられている判断基準に基づいて実施されてもよい。
【0044】
もう1つ別の実施の形態では、EGFR阻害剤に対する感受性または耐性に関して、癌を評価する段階は、(d)腫瘍細胞の試料における、E‐カドヘリンタンパク質の発現レベルを検出する手順、(e)腫瘍細胞の試料におけるE‐カドヘリンの発現レベルを、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、E‐カドヘリンの発現の対照レベルと比較するか、または、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、E‐カドヘリンの発現の対照レベルと比較する手順、ならびに、(f)患者の腫瘍細胞におけるE‐カドヘリンの発現レベルが、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、E‐カドヘリンの対照発現レベルよりも実質的に減少している場合に、あるいは、患者の腫瘍細胞におけるE‐カドヘリンの発現レベルが、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、E‐カドヘリンの発現レベルと比べて実質的にほぼ同様である場合に、上記組み合わされたものを治療のために投与することによって、恩恵を受けると予測されるような患者を選抜する手順を付加的にあるいは代わりに含んでもよい。
【0045】
もう1つ別の実施の形態では、EGFR阻害剤に対する感受性または耐性に関して、癌を評価する段階は、(g)腫瘍細胞の試料における、TF8の少なくとも1つの構成要素の発現レベルを検出する手順、(h)腫瘍細胞の試料におけるTF8の少なくとも1つの構成要素の発現レベルを、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、TF8の少なくとも1つの発現の対照レベルと比較するか、または、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、TF8の少なくとも1つの発現の対照レベルと比較する手順、ならびに、(i)患者の腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも1つの発現レベルが、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、TF8の少なくとも1つの発現の対照レベルよりも実質的に増加している場合に、あるいは、患者の腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも1つの発現レベルが、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、TF8の少なくとも1つの発現のレベルと比べて実質的にほぼ同様である場合に、上記組み合わされたものを治療のために投与することによって、恩恵を受けると予測されるような患者を選抜する手順を付加的にあるいは代わりに含んでもよい。なお、TF8の好ましい構成要素は、ZEB1である。
【0046】
患者試料を採取する適切な方法は、当業者に知られている。患者試料には、腫瘍細胞もしくは腫瘍細胞のタンパク質を含んでもよい患者に由来する任意の体液または組織が含まれてもよい。より具体的に、本発明における用語「検査試料」もしくは「患者試料」は、細胞、あるいは、本発明の方法により評価される細胞から分泌された産物を含有する任意の種類の試料のことを言うために一般的に用いられ、単離された細胞試料、組織試料、および/または、体液試料などを含む。本発明における最も典型的な試料は、組織試料である。本発明における単離された試料は、一般的に懸濁液に存在するか、または、インビボの組織内にある細胞に結合していたかもしれない結合組織から分離された細胞の標本である。この細胞は、臓器、組織または体液から、本発明の方法による評価のための適切な数の細胞が回収される任意の適切な方法によって回収される。細胞試料における細胞は、同じ種類である必要はないが、好ましく評価される細胞を濃縮するために、精製方法が用いられてもよい。細胞は、例えば組織を削ることによって、組織試料を処理して個々の細胞をバラバラにすることによって、または、体液から単離することによって、得られてもよい。
【0047】
単離された細胞の試料と同様であるが、組織試料は、本明細書において、いくつかの細胞種および/または細胞をつなぎ合わせる細胞骨格構造を一般的に含む体の臓器あるいは組織の部分として定義される。当業者は、用語「組織試料」と「細胞試料」とを場合によっては同義に用いてもよいことを十分理解すると考えられる。しかし、「組織試料」は、細胞試料よりもより複雑な構造物を示すために用いられることが好ましい。組織試料は、切断、スライス、または、穿孔などを含む生体組織検査によって採取されてもよい。
【0048】
組織資料と同様に、体液試料は、評価される細胞を含む。体液試料は、試料採取される特定の体液にとって適切な任意の方法によって、得られる液体のことである。試料採取される適切な体液には、血液、粘液、精液、唾液、母乳、胆汁、および尿などが含まれる。
【0049】
一般的に、試料の種類(すなわち、細胞、組織、または体液)は、腫瘍細胞の増殖を評価される臓器または組織に関する入手の容易性および構造に基づいて、ならびに/あるいは、評価される癌の種類に基づいて選択される。例えば、評価される臓器/組織が乳房である場合に、試料は、生体組織検査に由来する上皮細胞試料(つまり細胞試料)であってもよいし、または、生体組織検査に由来する乳房組織試料(つまり組織試料)であってもよい。本発明は、肺癌、特に非小細胞肺癌にかかっている患者の評価に特に有用である。ここで、肺癌の場合、典型的な試料は、患者の肺腫瘍の部分である。
【0050】
本発明において、腫瘍細胞の遺伝子のコピー数は、原発性腫瘍、転移性腫瘍、局所再発性の腫瘍、インサイチューの腺管癌、またはその他の腫瘍において測定されてもよい。マーカーは、新鮮な、凍結の、固定された、または、別の方法によって保存された固体の腫瘍において測定されてもよい。上記マーカーは、(i)腫瘍の細胞質抽出物または核抽出物、(ii)形質膜、ミトコンドリア膜、ゴルジの膜、または核膜などを含む腫瘍の膜、あるいは、(iii)リボソーム、核、ミトコンドリア、ゴルジなどを含む腫瘍細胞の細胞小器官およびそれらの抽出物、において測定されてもよい。
【0051】
患者から試料が採取されれば、本明細書に開示されているようにして、その試料のEGFR阻害剤に対する感受性または耐性が評価される。本発明のいくつかの実施の形態では、組織、細胞、または、それらの一部(例えば、組織の部分、核酸などの細胞の構成要素)は、1以上の核酸と接触される。そのような方法は、細胞に基づいた分析または細胞に基づかない分析を含んでもよい。標的遺伝子を発現する組織または細胞は、一般的に、任意の適切な方法によって、検出試薬(例えば、プローブ、プライマー、または他の検出可能なマーカー)と接触される。この任意の適切な方法として、例えば、混合、ハイブリダイズ、または、適切な技術を用いて標的遺伝子を検出することができる様式の組み合わせなどが挙げられる。
【0052】
患者試料は、利用される検出技術のための任意の適切な方法によって調製される。1つの実施の形態では、患者試料として、新鮮な、凍結の、固定された、または、別の方法によって保存されたものが用いられてもよい。例えば、患者の腫瘍細胞は、パラフィンなどに患者組織を固定することによって調製される。固定された組織は切片化され、それから、プローブを標的遺伝子にハイブリダイズする検出のためのプローブと接触される。
【0053】
好ましい実施の形態では、本発明における遺伝子の検出は、ハイブリダイゼーション分析を用いて達成される。核酸のハイブリダイゼーションは、プローブ(例えばオリゴヌクレオチドまたはより大きなポリヌクレオチド)と標的遺伝子とを、プローブおよびそれに相補的な標的が、相補的塩基対を介して安定な混成2本鎖を形成することができる条件下において、接触させる手順を単に含む。本明細書に用いられるような、ハイブリダイゼーション条件は、核酸分子が、類似の核酸分子を同定するために用いられる標準のハイブリダイゼーション条件のことをいう。そのような標準のハイブリダイゼーション条件は、例えば、「サムブルックら、モルキュラークロニング:ラボラトリーマニュアル、コールドスプリングハーバーラボ出版、1989年(Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Labs Press, 1989.)」に開示されている(具体的には、9.31−9.61ページを参照のこと。)。サムブルックらの同書は、参照によってその全てが本明細書に組み込まれる。さらに、ヌクレオチドのミスマッチの度合いが変化される、ハイブリダイゼーションを達成するための適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件の計算式は、例えば、「メインコスら(Meinkoth et al.)、1984、Anal. Biochem. 138, 267-284」に開示されている。メインコスらの同書は、参照によってその全てが本明細書に組み込まれる。混成2本鎖を形成しない核酸は、ハイブリダイズした核酸から洗い流され、その後、ハイブリダイズした核酸は、一般的に付属する検出可能な標識を検出することによって検出される。温度の上昇、または、核酸を含む緩衝液の塩濃度の減少によって、核酸は変性されることが一般的に認識されている。ストリンジェンシーが低い条件下(例えば、低温度および/または高塩濃度)では、アニールされる配列が完全に相補的でなくても、混成2本鎖(例えば、DNA:DNA、RNA:RNA、RNA:DNA)が形成される。したがって、ハイブリダイゼーションの特異性は、ストリンジェンシーが低くなるほど減少する。反対に、ストリンジェンシーが高ければ(高温度または低塩濃度)、より少ないミスマッチでハイブリダイゼーションが成功する。
【0054】
本明細書における、ストリンジェンシーが高いときのハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は、単離される核酸分子の核酸配列が、ハイブリダイゼーション反応のプローブに用いられる核酸分子の核酸配列に対して、少なくとも約90%同一であることを可能にする条件(言い換えれば、ヌクレオチドのミスマッチが約10%以下であることを可能にする条件)のことをいう。当業者は、「メインコスら、1984、Anal. Biochem. 138, 267-284(参照によってその全てが本明細書に組み込まれる。)」に記載の計算式を用いて、ヌクレオチドに関するミスマッチのこれらの特定レベルを達成するための適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を計算することができる。そのような条件は、DNA:RNAの混成が形成されるか、または、DNA:RNAの混成が形成されるかに依存して、変化すると考えられる。計算された融点では、DNA:DNAの混成は、DNA:RNAの混成よりも10℃よりも低い。特定の実施の形態では、DNA:DNAの混成のためのストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、温度が約20℃と約35℃の間、より好ましくは約28℃と約40℃との間、さらに好ましくは約35℃と45℃との間であり、イオン強度が6×SSC(0.9M Na)であるハイブリダイゼーションを含む。特定の実施の形態では、DNA:RNAの混成のためのストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、温度が約30℃と約45℃の間、より好ましくは約38℃と約50℃との間、さらに好ましくは約45℃と55℃との間であり、イオン強度が6×SSC(0.9M Na)であるハイブリダイゼーションを含む。これらの数値は、約100のヌクレオチド、0%のホルムアミド、および約40%のG+C含量に基づくというよりも、分子の融点の計算により基づいている。その代わりに、Tmが上記サムブルックらの上述した9.31〜9.62ページのようにして経験的に計算されてもよい。
【0055】
ハイブリダイズした核酸は、試料の核酸に付属した1以上の標識を検出することによって検出される。標識は当業者に公知の多くの手段の何れかによって組み込まれてもよい。本発明に用いられる適切な検出可能な標識には、分光的手段、光化学的手段、生物化学的手段、免疫化学的手段、電気的手段、光学的手段、または、化学的手段によって検出可能な任意の合成物が含まれる。本発明における実用的な標識には、蛍光染料、放射性標識、および、呈色標識が含まれる。上記蛍光染料としては、例えば、フルオレセイン、テキサス・レッド、ローダミン、および、緑色蛍光タンパク質などが挙げられる。上記放射性標識としては、例えば、H、125I、35S、14C、または、32Pなどが挙げられる。そのような標識を検出する手段は、当業者に公知である。したがって、例えば、放射標識は写真用フィルムまたはシンチレーション・カウンターを用いて検出されてもよいし、蛍光マーカーは放出された光を検出するための光検出器を用いて検出されてもよい。呈色標識は、呈色した標識を単に視覚化することによって検出される。ハイブリダイズしている核酸は、蛍光標識によって検出されることが好ましく、FISH分析の状況で蛍光標識によって検出されることがより好ましい。
【0056】
本発明によれば、単離されたポリヌクレオチド、または単離された核酸分子は、その天然環境から取り去られた(すなわち、ヒトの操作を受けた)核酸分子である。ここで上記天然環境は、核酸分子が天然に発見されるゲノムまたは染色体である。そのようなときに、「単離された」は、(i)核酸分子は精製されているが、(ii)核酸分子には、核酸分子が天然に発見される完全なゲノムまたは完全な染色体が含まれないことを示す範囲を必ずしも表すわけではない。(例えば遺伝子とハイブリダイズすることによって)遺伝子を検出するために本発明の方法において用いられるような、ポリヌクレオチドは、一般的には、所定の試料(例えば細胞試料)における全長の遺伝子(またはその一部)を同定するためのハイブリダイゼーションのプローブまたはPCRのプライマーとしての、使用に適している標的遺伝子の一部である。単離された核酸分子は、遺伝子または遺伝子の一部(遺伝子の調節またはプロモータ)を含んでもよい。遺伝子を含む単離された核酸は、当該遺伝子を含む染色体の断片ではなく、むしろ、コード領域と当該遺伝子に関連する調節領域とを含み、同じ染色体に天然に発見される別の遺伝子を含まない。単離された核酸分子は、別の核酸によって隣接された(すなわち、配列の5’末端または3’末端)特定の核酸配列を含んでもよい(すなわち、異種配列)。なお、この別の核酸は、天然では通常、上記特定の核酸配列に隣接しないものである。単離された核酸配列は、DNA、RNA(例えばmRNA)、または、DNAもしくはRNAのどちらか一方の誘導体(例えばcDNA)を含む。用語「核酸分子」は、主に物質的な核酸分子のことをいい、用語「核酸配列」は核酸分子における核酸の並びのことをいうが、これら2つの用語は、タンパク質をコードすることができる核酸分子または核酸配列に関して、特に同義で用いられる。本発明の単離された核酸分子は、好ましくは組み換えDNA技術または化学合成を用いて製造される。上記組み換えDNA技術には、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた増幅、クローニングが挙げられる。ポリヌクレオチドがオリゴヌクレオチドプローブである場合、プローブの範囲は一般的に、約5ヌクレオチドから約50ヌクレオチドまたは約500ヌクレオチドまでの長さであり、約10ヌクレオチドから約40ヌクレオチドまでの長さであり、または、約15ヌクレオチドから約40ヌクレオチドまでの長さであり、あるいは、整数の刻みの10ヌクレオチドから1000ヌクレオチドまでの任意の長さ(すなわち10、11、12、13・・・999、1000)である。
【0057】
本発明によれば、プローブは、上述したような約8ヌクレオチドから数百ヌクレオチドの長さの典型的な範囲の核酸分子である。そのような分子は、ストリンジェトなハイブリダイゼーション条件下において、試料における標的核酸配列にハイブリダイズすることによって、標的核酸配列を同定するために用いられる。ハイブリダイゼーション条件は、上記において詳しく記載されている。
【0058】
PCRのプライマーも核酸配列であるが、PCRのプライマーは、一般的には、ポリメラーゼ連鎖反応に用いられる、かなり短いオリゴヌクレオチドである。PCRのプライマーおよびハイブリダイゼーションのプローブは、標的遺伝子の配列情報を用いることにより(例えば、上述したサムブルックら、または上述したグリックらを参照のこと。)、当業者によって容易に開発され、且つ、製造される。
【0059】
1実施の形態では、本発明の方法は、細胞における、E‐cadおよび/またはTF8の構成要素(例えばZEB1など)の発現レベルが変化(調節、変更)しているかどうかを検出する工程も含む。本明細書において用いられるような、用語「発現」は、遺伝子の転写を検出すること、および/または、遺伝子にコードされるタンパク質の翻訳を検出することをいう。「遺伝子またはタンパク質の発現を検出する」は、遺伝子またはタンパク質が発現しているか否かを積極的に決定する行為のことをいう。このことは、発現が対照と比べて上方調節されているか、対照と比べて下方調節されているか、または、対照と比べて変化していないかどうかを決定することを含む。転写物および/またはタンパク質の発現は、技術的に公知の様々な方法の何れかによって測定される。RNAの発現に関していえば、方法は、(i)細胞のmRNAを抽出し、本発明の1以上の遺伝子の全てもしくは一部をコードする転写物にハイブリダイズする、標識されたプローブを用いてノーザンブロット法を行う方法、(ii)遺伝子に特異的なプライマー、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および逆転写連鎖反応(RT‐PCR)を用いて、本発明の1以上の遺伝子の全部もしくは一部から発現したmRNAを増幅し、その後、様々な手段の何れかによって増幅産物を定量的に検出する方法、(iii)細胞から全RNAを抽出し、その後、その全RNAを標識して、様々な表面の何れかに配列し、全RNAを本発明の遺伝子の全部もしくは一部をコードするcDNAまたはオリゴヌクレオチドを探査するために用いる方法、(iv)インサイチュー・ハイブリダイゼーション法、および(v)レポーター遺伝子を検出する方法を含むが、これらに限定されない。タンパク質の翻訳の測定は、細胞もしくは細胞抽出物からタンパク質を検出するまたは測定する任意の適切な方法を含む。そのような方法は、イムノブロット法(例えばウェスタン・ブロット法)、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定(RIA)法、免疫沈降法、免疫組織染色(IHC)法、免疫蛍光検査法、蛍光活性化細胞選別装置(FACS)を用いる方法、および、免疫蛍光顕微鏡検査法を含むが、これらに限定されない。
【0060】
ヒトの上皮細胞成長因子受容体(EGFR)遺伝子、E‐カドヘリン遺伝子、およびTF8遺伝子のヌクレオチド配列は公知であり、例えば例えばジェンバンク(Genbank)の受入番号AY588246(参照によってその全てが本明細書に組み込まれる。)において発見される。ヌクレオチドのプロ−ブおよび抗体も公知であり、EGFR遺伝子、E‐カドヘリン遺伝子、およびTF8(ZEB1)遺伝子ならびにそれらのタンパク質を検出するためのプローブとして使用することができる。
【0061】
本発明の方法では、腫瘍細胞の試料における、EGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性のレベルが、(i)EGFR阻害剤に対する感受性に関連した対照レベル、および、(ii)EGFR阻害剤に対する耐性に関連した対照レベルから選ばれる、EGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性の対照レベルと比較される。患者は、患者の腫瘍細胞におけるEGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性のレベルが、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、EGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性の対照レベルと統計的に同様である場合に、あるいは、患者の腫瘍細胞におけるEGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性のレベルが、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、EGFR遺伝子増幅、および/または、多染色体性のレベルよりも統計的に低い(減少している)場合に、本発明の治療用の組み合わされたものを治療のために投与することによって、恩恵を受けると予測されるように選択される。
【0062】
本発明のもう1つ別の代替えのまたは付加的な方法では、腫瘍細胞の試料におけるE‐カドヘリンの発現レベルが、(i)EGFR阻害剤に対する感受性に関連した対照レベル、および、(ii)EGFR阻害剤に対する耐性に関連した対照レベルから選ばれる、E‐カドヘリンの発現の対照レベルと比較される。患者は、患者の腫瘍細胞におけるE‐カドヘリンの発現レベルが、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、E‐カドヘリンの発現の対照レベルと統計的に同様である場合に、あるいは、患者の腫瘍細胞におけるE‐カドヘリンの発現レベルが、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、E‐カドヘリンの発現のレベルよりも統計的に低い(減少している)場合に、本発明の治療用の組み合わされたものを治療のために投与することによって、恩恵を受けると予測されるように選択される。
【0063】
本発明のもう1つ別の代替えのまたは付加的な方法では、腫瘍細胞の試料におけるTF8の構成要素(好ましくはZEB1)の発現レベルが、(i)EGFR阻害剤に対する感受性に関連した対照レベル、および、(ii)EGFR阻害剤に対する耐性に関連した対照レベルから選ばれる、TF8の構成要素の発現の対照レベルと比較される。患者は、患者の腫瘍細胞におけるTF8の構成要素の発現レベルが、EGFR阻害剤に対する耐性と関連した、TF8の構成要素の発現の対照レベルと統計的に同様である場合に、あるいは、患者の腫瘍細胞におけるTF8の構成要素の発現レベルが、EGFR阻害剤に対する感受性と関連した、TF8の構成要素の発現のレベルよりも統計的に高い(増加している)場合に、本発明の治療用の組み合わされたものを治療のために投与することによって、恩恵を受けると予測されるように選択される。
【0064】
より具体的には、本発明によれば、「対照レベル」は、遺伝子増幅および/または多染色体性、ならびに/あるいは、転写または翻訳の対照レベルのことであり、EGFR阻害剤に対する感受性と関連したレベル、または、EGFR阻害剤に対する耐性と関連したレベルを含む。したがって、患者試料がEGFR阻害剤療法に対して、感受性を示す傾向が強いか、または、耐性を示す傾向が強いかどうかが、遺伝子増幅および/または多染色体性の対照または基本レベルに基づいて決定される。1実施の形態では、患者は、1細胞あたりコピー数が上昇する6の区分に分類される。(1)2染色体性(90%を上回る細胞において両方の標的のコピー数が2以下である。)、(2)低3染色体性(40%以上の細胞において遺伝子のコピー数が2以下であり、細胞の10%‐40%において遺伝子のコピー数が3である。)、(3)高3染色体性(細胞の40%以上において遺伝子のコピー数が2以下であり、細胞の40%以上において遺伝子のコピー数が3である。)、(4)低多染色体性(細胞の10%‐40%において遺伝子のコピー数が4以上である。)、(5)高多染色体性(細胞の40%以上において遺伝子のコピー数が4以上である。)、および、(6)遺伝子増幅(GA)(密接したEGFR遺伝子集団の存在、1細胞当たりの遺伝子/染色体の比が2以上、または、分析した細胞の10%以上における、1細胞当たりのEGFRのコピー数が平均15以上によって定義される。)。本発明の発明者らは、EGFRおよび/またはHER2の遺伝子のコピー数が多い(コピー数が増加している。例えば、遺伝子増幅および/または多染色体性(高3染色体性、低多染色体性、または高多染色体性を含む))患者では、EGFR阻害剤療法へ反応する割合がより高くなる傾向が強いこと、進行性疾患の割合がより低くなる傾向が強いこと、および、長期生存者の割合がより高くなる傾向が強いことを見出した。多染色体性がより高くなる(遺伝子のコピー数が全体的に増加する)と、予測される成果はより良好になる。本発明の発明者らは、患者の腫瘍細胞にHER2の遺伝子増幅および/または多染色体性が存在することによって、EGFR陽性の患者(EGFR遺伝子のコピー数が増加していることを示す患者)の表現型がより感受性になり、EGFR陰性の患者(EGFR遺伝子のコピー数の増加が少ないかまたは、増加していない患者))の結果がより良好になることを見出した。
【0065】
遺伝子増幅、多染色体性、および/または、遺伝子の転写、もしくは、翻訳の対照レベルを確立する方法は、試料の種類、試料が得られる組織または臓器、および、評価される患者の状態に基づいて選択される。上記方法は、患者試料の評価に用いられる方法と同じものであることが好ましい。好ましい実施の形態では、対照レベルは、評価される細胞のように同じ細胞種類を用いて確立される。好ましい実施の形態では、対照レベルは、EGFR阻害剤に対する耐性がある、もしくは、感受性があることが知られている患者または細胞株に由来する対照試料から確立される。1つの態様では、対照試料は、適合した個体の母集団から得られた。本発明によれば、用語「適合した個体」は、細胞の種類または腫瘍増殖が評価されるのに適している1以上の特徴に基づく、対照個体の適合のことをいう。例えば、対照個体は、性別、年齢、人種、または、任意の適切な生物的もしくは社会学的な要因と適合される。上記任意の適切な生物的もしくは社会学的な要因は、対照の個体または患者の基準に影響を与えるかもしれないものであり、例えば、前から存在する病気、特定の物質の消費、他の生物学的または社会学的な要因のレベルのことである。対照レベルを確立するために、多くの適合した個体に由来する試料が得られ、そして、検査される試料と同じ方法を用いて評価される。適切な対照レベルを確立するために、対照試料が得られる必要のある適合した個体の数(例えば母集団)は、当業者によって決定されもよいが、評価される患者(すなわち検査される患者)と比較するための適切な基準を確立するのに統計的に適切であるべきである。対照試料から得られる数値は、任意の適切な統計分析方法を用いて統計的に処理される。そして、適切な基準レベルがそのような数値を確立するための技術的に標準の方法を用いて確立される。
【0066】
対照レベルは、分析が行われたときに各分析について確立される必要はなく、むしろ、基準レベルまたは対照レベルは、感受性および耐性のある患者(応答者および非応答者)に関する予め決定された対照レベル(例えば、上記方法の何れかによって確立された対照レベル)について、保存された情報の形態を参照することによって確立されてもよいことは当業者に理解される。そのような保存された情報の形態は、例えば、感受性および耐性のある腫瘍/患者に関する母集団もしくは個体のデータの参考図、一覧表、または、電子ファイル、あるいは、評価される患者にとって有益である、対照レベルの遺伝子増幅もしくは多染色体性に関する他の任意のデータ源を含むが、これらに限定されない。
【0067】
本発明の方法は、EGFR阻害剤、HDAC阻害剤、または、それらのアゴニスト、あるいは、EGFR阻害剤もしくはHDAC阻害剤と実質的に同等の生物活性を有する薬物の使用を含む。本明細書において用いられるアゴニストは、天然に生じるもしくは参照の、タンパク質または化合物の生物的活性を活性化する(刺激する、誘導する、増加する、増強する、または類似する)能力によって特徴付けられる化合物である。より具体的には、アゴニストは、(i)天然のもしくは参照の化合物の活性に類似するか、または、その活性を増強する化合物、タンパク質、ペプチドまたは核酸などを含んでもよいし、さらに、(ii)任意の相同物、模倣剤、または、天然に生じるもしくは参照の化合物の生物的活性を活性化する(刺激する、誘導する、増加する、増強する)能力によって特徴付けられる薬物/化合物/ペプチドの設計または選抜によって得られた任意の適切な製品を含む。対照的に、アンタゴニストは、上述した天然に生じるもしくは参照の化合物の効果に拮抗する(中和する、減少する、縮小する、妨害する、反対にする、変更する)任意の化合物のことをいう。より具体的には、アンタゴニストは、参照の化合物の活性に関連する様式で作用することができ、その結果、天然または参照の化合物の生物的活性が、参照の化合物の天然の作用に拮抗する(逆らう、反転する、反対する)様式で減少する。そのようなアンタゴニストは、任意の化合物、タンパク質、ペプチド、または核酸(リボザイムおよびアンチセンスを含む)、あるいは、拮抗効果を示す、薬物/化合物/ペプチド/の設計もしくは選抜によって得られた製品を含むが、これらに限定されない。
【0068】
薬物の設計による製品であるアゴニストおよびアンタゴニストは、公知の様々な方法を用いて製造されてもよい。本発明において有益な模倣剤もしくは他の化合物を設計するために有益な薬物設計の様々な方法は、「マウリクら、1997年、モルキュラー・バイオテクノロジー、臨床応用および戦略、ウィリー‐リス有限会社(Maulik et al., 1997, Molecular Biotechnology: Therapeutic Applications and Strategies, Wiley-Liss, Inc.)」に開示されている。また、「マウリクら、1997年、モルキュラー・バイオテクノロジー、臨床応用および戦略、ウィリー‐リス有限会社」は、参照によってその全てが本明細書に組み込まれる。例えば、アゴニストまたはアンタゴニストは、分子多様性に基づく戦略から、または、天然もしくは合成の化合物のライブラリーから得られるか、あるいは、合理的な、直接的な、もしくは、無作為的な薬物設計によって得られる。ここで、分子多様性に基づく戦略は、化学的に多様な大きい分子ライブラリーを迅速に構築することができる関連した戦略の組み合わせであり、天然もしくは合成の化合物のライブラリーは、特に、化学ライブラリーまたは組み合わせライブラリー(すなわち、配列または大きさが異なるが、同様の構成単位を有する化合物のライブラリー)である。例えば、上述したマウリクらを参照のこと。
【0069】
分子多様性に基づく戦略では、生物学的、酵素的、および/または、化学的手法を用いて、例えば、ペプチド、オリゴヌクレオチド、天然もしくは合成のステロイド系化合物、炭水化物、および/または、天然もしくは合成の非ステロイド系有機分子などの、大きな化合物ライブラリーが合成される。分子多様性に基づく戦略を開発するときの重要なパラメーターは、サブユニットの多様性、分子の大きさ、および、ライブラリーの多様性を含む。そのようなライブラリーをスクリーニングするときの一般的な目標は、組み合わせ選抜の連続的な適用を利用して、所望の標的に対する高親和性のリガンドを獲得し、それから、無作為的なもしくは直接的な設計戦略のどちらかによって、リード分子を最適化することである。分子多様性の方法は、上記のマウリクらの同書に詳細に記載されている。
【0070】
本明細書に記載されているHDAC阻害剤またはEGFR阻害剤と実質的に同等の活性を有する薬物は、インビボ(生理的条件下)またはインビトロ(実験室条件下)において測定されるか、または観察されるような参照の化合物に属すると考えられる参照の化合物によって示されるか、あるいは、実施される任意の機能を実質的に有する薬物のことをいう。
【0071】
本発明のもう1つ別の実施の形態は、(a)E‐カドヘリンの発現レベル、および/または、TF8の構成要素(好ましくはZEB1)の発現レベルから選択される、生物マーカーあるいは生物マーカーの組み合わせのレベルを検出する手段、ならびに、(b)E‐カドヘリンの転写物、および/または、タンパク質の所定の対照レベルを含む情報、ならびに/あるいは、TF8の構成要素(好ましくはZEB1)の転写物、および/または、タンパク質の所定の対照レベルを含む情報を備える検査キットを含む。上記検査キットは、(i)上皮細胞成長因子(EGFR)遺伝子の増幅のレベル、(ii)EGFR遺伝子の多染色体性のレベル、(iii)ヒト・チロシンキナーゼ受容体型受容体(HER2)遺伝子の増幅のレベル、(iv)HER2遺伝子の多染色体性のレベル、(v)EGFRタンパク質の発現レベル、および(iv)Aktタンパク質の発現レベルから選択される、生物マーカーまたは生物マーカーの組み合わせのレベルを検出する手段をさらに含んでもよい。また、適切な対照が含まれてもよい。
【0072】
1実施の形態では、E‐カドヘリン、またはTF8の構成要素を検出する手段、あるいは、EGFRまたはHER2の遺伝子またはタンパク質、あるいは他の生物マーカーを検出する手段は、本発明の方法に用いられる任意の種類の試薬である。そのような検出する手段は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下において遺伝子とハイブリダイズするプローブ、E‐カドヘリンのペプチドまたはTF8の構成要素のペプチドと反応する抗体、E‐カドヘリンの転写物またはTF8の構成要素のRNA転写物とハイブリダイズする標識されたプローブを含むが、これらに限定されない。これらの遺伝子の核酸配列およびタンパク質配列は公知であり、検出のための上記試薬を製造するために用いられてもよい。
【0073】
本発明の検査キットにおける検出する手段は、検出可能なタグ、または検出可能な標識を接合されてもよい。上記検出可能なタグは、目的の遺伝子を検出するために用いられる試薬の検出を可能にする任意の適切なタグであって、分光的手段、光化学的手段、電気的手段、光学的手段、または、化学的手段による検出が可能な任意の合成物または標識などを含む任意の適切なタグであってもよい。本発明における実用的な標識は、蛍光染料、放射性標識、および、呈色標識が含まれる。上記蛍光染料としては、例えば、フルオレセイン、テキサス・レッド、ローダミン、および、緑色蛍光タンパク質などが挙げられる。上記放射性標識としては、例えば、H、125I、35S、14C、または、32Pなどが挙げられる。
【0074】
さらに、本発明の検査キットにおける検出する手段は、基板上に固相化されてもよい。上記基板は、上述した検出方法の何れかに用いられるような検出試薬を固相化するための任意の適切な基板を含んでもよい。すなわち、検出する手段を固相化するための適切な基板は、所望の標的分子を検出するための検出手段の活性および/または能力に著しい影響を及ぼすことなく、検出するための手段と結合することができる任意の固体の支持体を含む。上記固体の支持体としては、例えば、任意の固体の有機支持体、任意の固体の生体高分子支持体、または任意の固体の無機支持体などが挙げられる。固体の有機支持体としては、例えば、ポリスチレン、ナイロン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、およびアクリル系共重合体(例えばポリアクリルアミド)などの重合体が挙げられる。
【0075】
本発明のキットは、本発明のEGFR阻害剤およびHDAC阻害剤の治療用化合物を投与するための所定の使用説明書をさらに備えていてもよい。いくつかの実施の形態では、本発明のキットは、患者に投与するための、服用量のEGFR阻害剤および/またはHDAC阻害剤を備えていてもよい。
【0076】
以下の実施例は、本発明の具体的な実施の形態、および、それらの様々な使用の実例である。それらは、説明の目的だけのために記載されたのもであって、本発明を限定するものではない。
【0077】
<実施例>
以下の材料および方法が、本明細書に示された全ての実施例に用いられた。
【0078】
〔材料および方法〕
‐細胞培養、薬物、およびMTS分析‐
20のNSCLC細胞株が用いられた:扁平上皮(NCI‐H157、HCC95、HCC15およびH441)、大型細胞(H460、H1299、H2126およびH1264、H460の派生物)、腺(Calu3、A549、H2122、H1648、H520、HCC78、HCC193、H2009、HCC44およびH3255)ならびに気管支肺胞(bronchioalveolar)(H358およびH322)。NSCLC細胞株(HCC78、H2126、HCC95、H1299、HCC193、HCC44、HCC15、およびH2009)は、UTSWから入手した。H3255は、ブルース・ジョンソン博士から贈呈された。全ての細胞株は、標準の条件下でRPMI1640培地において培養した。ゲフィニチブは、アストラゼネカから贈呈された。MS‐275は、日本シェーリング株式会社から贈呈された。保存溶液は、ジメチルスルホキシドにおいて調製し、−20℃で保存した。薬物は、各実験の前に新鮮な培地で希釈した。ジメチルスルホキシドの最終濃度は<0.1%であった。上皮細胞成長因子(EGF)はR&Dシステムズ社(R&D Systems Inc., ミネアポリス、ミネソタ州)から購入した。増殖阻害は、MTS(3‐(4,5‐ジメチルチアゾール‐2‐イル)‐5‐(3‐カルボキシメトキシフェニル)‐2‐(4‐スルホフェニル)2H‐テトラゾリウム、内塩)分析(プロメガ、マディソン、ウィスコンシン州)によって評価された。すなわち、2.10のNSCLC細胞が、96ウェルの平底のマイクロタイタープレートの各ウェルに播種された。ゲフィニチブは、細胞培養物が50‐80%のコンフレント(集密度)になったときに加えた。4日間のインキュベーションの後、RPMI1640に溶解した、2mg/mlのテトラゾリウム塩MTT(プロメガ)の溶液を50μlを各ウェルの加えた。マイクロタイタープレートを37℃で4時間インキュベートした。各ウェルの吸光度を自動プレートリーダーを用いて測定した。データを、薬物のIC50を決定するスライドライト・プログラム(SlideWrite program)を用いて分析した。
【0079】
−細胞の溶解、ウェスタン・ブロット法、および、免疫組織染色‐
細胞は、溶解緩衝液(10mM Tris‐HCl、pH7.5/150mM NaCl/0.5%イゲパル(IGEPAL)/0.5mM PMSF/10μg/mlロイペプチン/5μg/mlペプスタチンA/2.1μg/mlアプロチニン)において、氷上で破壊した。超音波処理の後、ブラッドフォード分析を用いてタンパク質を定量した。タンパク質の可溶化物(30‐50μg)を、7.5%‐10%のポリアクリルアミドのゲル電気泳動によって分離し、PVDFメンブレンを用いてウェスタン・ブロット法によって分析した(バイオ‐ラッド・ラボラトリーズ株式会社、リッチンモンド、カリフォルニア州)。抗EGFR抗体および、リン化特異的EGFR抗体(pY1068)(セル・シグナリング、ベバリー、マサチューセッツ州)を、1:1000に希釈して用いた。E‐cad抗体、および、βアクチン抗体(BDバイオサイエンシーズ・ファーミンゲン(Biosciences Pharmingen)/トランスダクション・ラボラトリーズ(Transduction Laboratories)、サンノゼ、カリフォルニア州、シグマ‐アルドリッチ、#A5316、セントルイス、ミズーリ州)を、1:3000、1:5000にそれぞれ希釈して用いた。検出には、ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ共役2次抗体、および、化学発光を用いた(アマシャム・バイオサイエンス(Amersham Biosciences)株式会社)。E‐cad分子の細胞質ドメインと反応する抗E‐cad抗体(マウス・モノクローナル抗体、クローン36、トランスダクション・ラボラトリーズ、レキシントン、ケンタッキー州)を、パラフィンに包埋された細胞株の切片に1/100に希釈して適用した。抗原回復を、バイオケア・メディカル(ウォールナットクリーク、カリフォルニア州)抗原賦活化装置を用いてクエン酸緩衝液において実施した。過酸化水素のブロッキングを、無水メタノールに溶けた3%過酸化水素を用いて実施した。ブロッキングを、パワーブロック(Powerblock、バイオゲニックス(Biogenics)、サンラモン、カリフォルニア州)、または、アビジン/ビオチンブロックを用いて実施した。1時間37℃で一次抗体をインキュベーションした後、2次抗体(ダコ・ビオチン化マルチリンク・抗マウス抗体、40%のヒト血清を含む免疫グロブリン)を、30分間室温で適用した。この後、ストレプトアビジン・ホースラディシュ・ペルオキシダーゼ酵素複合体、および、ジアミノベンゼン色素原を適用した。それから、スライドをヘマトキシリンを用いて対比染色し、カバーガラスを用いて覆った。
【0080】
‐RNA、プライマー、定量的リアルタイムRT‐PCR‐
全RNAを、NSCLC細胞株からRNAeasy(キアゲン)を用いて調製した。調製の間、cDNAを合成する前に、全ての試料をRNA分解酵素を持たないDNA分解酵素1(10mg/ml、キアゲン)を用いて処理した。cDNAを、0.3mgの全RNAからRT‐PCT反応の一環として合成した。定量的リアルタイムRT‐PCR分析を、サイバーグリーンRT−PCRキット(SYBR Green RT‐PCR Kit、キアゲン)を用いて、GeneAmp 5700配列検出器(GeneAmp 5700 Sequence Detector、アプライド・バイオシステムズ)を用いて実施した。これによれば、同じチューブにおいて増幅と蛍光による検出とを行うことができ、速度論的な手法を用いることができる。増幅データを、GENEAMP 5700 SDSソフトウェアを用いることによって分析し、設定されたサイクルの閾値(Ct値)においてサイクル数に変換して、標準に対する割合として定量した。ヒトの大人の肺(クロンテック社(Clontech Lab. Inc))または、ヒト胎児肺のRNA(ストラタジーン)を、全ての実験において標準として用いた。標準を、20mg、100mg、500mgで用いた。各実験において、鋳型が用いられていない対照を対照として用いた。投入されたcDNA量を正規化するため、生成された産物の定量化された相対量を、ハウスキーピング遺伝子(β‐アクチン)の生成量によって割った。全ての試料を3回実施した。
【0081】
‐細胞周期の分析‐
NSCLC細胞を、6ウェルプレートに0.5×lO細胞/ウェルの密度で播種した。ゲフィニチブを24時間後に培地に添加し、細胞をさらに72時間インキュベートした。その後、細胞を上述したようにして分析した。アポトーシスの割合を、サブG1分画から評価した。
【0082】
(実施例1)
以下の例は、ゲフィチニブ感受性、およびゲフィチニブ抵抗性のNSCLC細胞系におけるE−cadの発現を説明する。
【0083】
MTTアッセイを用い、21のNSCLCおよび一つの子宮細胞系の組の、ゲフィチニブによる成長阻害を分析した。21のNSCLCのうち、H3255、H358、H322、Calu3、H1648、およびHCC78の6つの細胞系は、IC50が1μM未満であったのに対し、HCC15、H157、H460、H520、およびH1264(H460の複製細胞系)の6つの細胞系はIC50が10μM以上であった。このゲフィチニブに応答する成長の多様性は、この細胞系の組において、様々に発現されている標的遺伝子の同定のために用いられた。
【0084】
リアルタイムRT−PCRを用いて、E−cadの発現と、ゲフィチニブへの感受性との間の正の相関を検出した(r=0.76、p>0.0001)。最も高いE−cadの発現は、最も感受性のある細胞系である、EGFR変異L858Rを有しているH3255(IC50=0.015μM)において見出された。この正の相関は、20の細胞系により現像されたマイクロアレイにおけるE−cadの発現において検出された(r=0.74、p=0.0002)。E−cadの発現を、タンパク質レベルにおいて、11のNSCLC細胞系におけるウェスタンブロット分析によって測定した。上述したように、EGFRの発現とゲフィチニブ感受性の間には相関関係がなかった。しかしながら、E−cad発現の存在または欠如とゲフィチニブへの感受性または抵抗性の間にはそれぞれ100%の相関関係があった。
【0085】
免疫組織化学を利用し、ゲフィチニブ感受性の2つの細胞系(A431およびCalu3)と、ゲフィチニブ抵抗性の2つの細胞系(H520およびH157)とにおけるE−カドヘリンの発現を評価した。感受性の細胞系では、E−cadの強い発現が膜質および細胞質への局在とともに検出されたの対し、2つの抵抗性の細胞系では、上記発現は存在していなかった。
【0086】
(実施例2)
以下の例は、NSCLC細胞系におけるE−cad制御分子の発現を説明する。
【0087】
E−cad発現の制御にWntパスウェイが関与していることが知られている。Wnt/E−cadパスウェイの分子(Wnt1、Wnt5A、Wnt5B、Wnt6、Wnt7A、frizzled、axin1、disheveled、GSK3、α−カテニン、β−カテニン、γ−カテニンおよびE−cad)の発現が、IC50が1μM未満の細胞系(H3255、H358、H322、Calu3、H1648、HCC78)およびIC50が10μM以上の細胞系(H157、H520、H460、およびH1264)におけるマイクロアレイのアフィメトリックスデータにおいてスクリーニングされた。E−cadは、感受性の細胞系において、抵抗性の細胞系と比べて最も高倍率(200倍)にアップレギュレートされていた。Wntパスウェイのその他の分子はひとつとして、感受性のある細胞系と抵抗力のある細胞系との間で、同様の差を示す発現を示さなかった。
【0088】
E−cadの制御には、4つのジンクフィンガー転写因子、TF−8、slug、snailおよびSIP1が関与している。細胞系のマイクロアレイデータを評価することにより、TF−8がその他の3つの分子、SIP1、snaliおよびslugと比較して、感受性の細胞系と抵抗性の細胞系との間で発現に最も大きい差(10.4倍)を有することが明らかになった。
【0089】
TF−8の発現は、RT−PCRを用いて確認された。TF−8の発現と20のNSCLC細胞系におけるゲフィチニブへの感受性との間に、負の相関が検出された(r=0.74、p=0.0002)。このTF−8の発現とゲフィチニブ感受性との負の相関は、20の細胞系により現像されたマイクロアレイにおいて見出された(r=0.71、p=0.0004)。
【0090】
(実施例3)
以下の例は、NSCLC細胞系におけるゲフィチニブが誘導したアポトーシスへのE−カドへリンの影響を説明する。
【0091】
ゲフィチニブに対し感受性の、および耐性のNSCLC細胞系において、アポトーシスおよび細胞死を誘導することに関するゲフィチニブの影響が評価された。細胞系がゲフィチニブ10μMによって処理されたとき、35倍増のアポトーシスと細胞死が、最も感受性のあるH3255細胞系において見つかった。同じ細胞系で、より感受性の低い細胞系(H322、H358、およびCalu3)中のアポトーシスと細胞死には2.3から3.4倍の増加があり、その一方、アポトーシスまたはネクローシスの影響は、より耐性の強い細胞系(H460、H520、H157、およびA549)において見つからなかった。
【0092】
ゲフィチニブへのNSCLC細胞系アポトーシス反応でのE−cadの影響は、E−cadをコードするアデノウィルスを、ゲフィチニブ耐性の細胞系であるH157に感染させることにより評価された。この細胞系はE−cadの発現欠失、EGFRの存在、ゲフィチニブへの耐性に基づいて選別された。H157細胞系は、E−cadが核酸導入され、2つの安定した核酸導入された細胞系、H157−E−cad−3およびH157−E−cad−8が用いられた。GFP構成物が核酸導入されたH157細胞系が対照として用いられた。E−cadの発現はウェスタンブロットによって検証された。E−cadの発現は、H157−E−cad−3細胞系と比較してH157−E−cad−3でより高いと明らかになった。従来の発明はEGFRとE−cadの相互作用を示唆した。我々は、EGFRのリン酸化でE−cadの異所発現と、EGFへの反応の影響を評価した。E−cadの転位発現は、EGFR活性化(リン酸化)につながらなかった。しかしながら、2倍増加したリン酸化は、EGFで処理された細胞系が核酸導入されたとき認められた。
【0093】
生存細胞でのE−cad転位発現の影響は評価された。アポトーシス細胞の生存細胞に対する比に3および9倍増加されたことが、157−GFP制御細胞と比較したとき、H157−E−cad−8とH157−E−cad−3(それぞれ、8.8:87.8%〜21:69%、および43.5:48.4%)の両細胞中で明らかになった。ゲフィチニブへの感受性は、さらに強められた。細胞系はゲフィチニブ10μMで48時間処理され、アポトーシスおよびネクローシスはアネキシンVとプロプリジウムヨウ素を使って評価された。ゲフィチニブで処理されたとき、アポトーシス細胞の生存力のある細胞(それぞれ、8.4:87.4%〜31.5:55.3%;8.4:87.4〜49.8:37.8%)に対する比の6および13倍増加と、壊死細胞の生存力のある細胞(それぞれ、8.4:87.4%〜31.5:55.3%;8.4:87.4〜49.8:37.8%)に対する比の3から9倍増加が、H157−GFPと比較してH157−E−cad−3およびH157−E−cad−8細胞系で明らかにされた。
【0094】
3つのデータは、修復しているE−cad発現はアポトーシスを増加へ導いており、ゲフィチニブに耐性のある細胞系で、ゲフィチニブの影響を回復しているということを示す。
【0095】
(実施例4)
以下の例は、ヒストンデアセチレートHDAC阻害剤がゲフィチニブ耐性を改善することを示す。
【0096】
Eカドへリン発現が、TSAとともにHDACを阻害することによって、NSCLCにおいて復元されることが知られている。本発明者らは、HDACiによるNSCLC細胞系の前処理が遺伝子とタンパク質の発現の変化および、ゲフィチニブへの感受性を改善に導くかどうかを決定した。MS−275のICは、ゲフィチニブ耐性のあるNSCLC細胞系のH157、H520、およびH460で評価された。これら細胞系のIC25−75は0.5μMと4μMの間で検出された。E−cadの発現は、これら細胞系中で評価された。E−cad発現の8から12倍の上昇調節が、4または10μMのMS−275で処理した後の24時間試験されたすべての細胞系で見つけられた。次に、本発明者らは、NSCLC肺がん細胞系のゲフィチニブへの感受性に関して、MS−275でNSCLC肺がん細胞系の前処理の影響を評価した。NSCLC細胞系H157、H520、H460、およびH1703は、ゲフィチニブによって処理する前の24時間、HDAC阻害剤であるMS−275単独剤、ゲフィチニブ単剤またはMS−275を併用して処理された。相乗効果は、MS−275の後、これら細胞にゲフィチニブを順次的な使用によって見つかった。MS−275の服用を増やすことは用いられる。細胞系がそれぞれの薬のみによって治療することに比べ、2つの薬で順次に治療されたとき、細胞死は数倍高い。図2は、H175細胞における、ゲフィチニブの単剤かそれともゲフィチニブとMS−275の組み合わせによる治療の効果を表す、アポトーシスおよびネクローシス細胞の正常細胞に対する比を調節された比率を示す。
【0097】
ここに引用された各文献は、すべて参考のために示す。
【0098】
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【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1A】ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の概略構造を示す模式図である。
【図1B】ヒストン脱アセチル化酵素を阻害する化学物質の例を示す図である。TSA(1)およびSAHA(2)は、ヒドロキサム酸であり;ブタン酸(3)、バルプロ酸(4)、および4フェニルブタン酸(5)は、カルボキシル酸であり;MS−275(6)、およびN−アセチルジアミン(7)は、ベンズアミドであり;デペウデシン(8)、およびトラポキシンA(9)は、であり;アピシジン(10)、およびデプシペプチドFK228(11)をまた示す。
【図2】H175細胞における、ゲフィチニブ単体、またはゲフィチニブおよびMS−275の組み合わせを用いた治療の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤の組み合わせを患者へと投与することを含むことを特徴とする患者のがんを治療する方法。
【請求項2】
上記組み合わせが、連続して投与されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の大部分が、上記上皮成長因子受容体阻害剤の大部分よりも前に投与されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤がMS−275であり、上記上皮成長因子受容体阻害剤がゲフィチニブであることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項5】
上記投与の計画が、MS−275を毎週2mg/m経口で4週間、続いて、ゲフィチニブを毎日250mg経口で4週間投与することを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記組み合わせが、実質的に同時に投与されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
上記投与の計画が、4週間、MS−275を毎週2mg/m経口で投与するとともに、ゲフィチニブを毎日250mg経口で投与することを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、ヒドロキサム酸、カルボキシル酸、ベンズアミド、エポキシド、短鎖脂肪酸、2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいるサイクリックテトラペプチド、および2−アミノ−8−オキソ−9,10−エポキシ−デカノイル成分を含んでいないサイクリックペプチドからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記ヒドリキサム酸が、スベロイルアニリジンヒドロキサム酸、TSA、およびSAHAからなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記カルボキシル酸が、ブタン酸、バルプロ酸、および4フェニルブタン酸からなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
上記ベンズアミドが、N−アセチルジアミンおよびMS−275からなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項12】
上記エポキシドが、トラポキシン、デペウデシン、およびデプシペプチドFK228からなる群より選ばれることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項13】
上記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤阻害剤が、MS−275であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
MS−275を4週間にわたって週一回経口で2mg/m、または、MS−275を4週間にわたって隔週に経口で4mg/m投与することを含む投与計画によって上記MS−275が投与されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
上記上皮成長因子受容体阻害剤が、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブのアゴニスト、およびエルロチニブのアゴニストからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
上記上皮成長因子受容体阻害剤が、ゲフィチニブ、またはエルロチニブであることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
ゲフィチニブを一日につき経口で250mg投与することを含む投与計画によって上記ゲフィチニブが投与され、
エルロチニブを一日につき経口で150mg投与することを含む投与計画によって上記エルロチニブが投与されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記がんが、上皮悪性腫瘍であることを特徴とする請求項1〜17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
上記がんが、肺癌であることを特徴とする請求項1〜17の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
上記がんが、非小細胞肺癌であることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記がんが、上皮増殖因子受容体阻害剤耐性であることを特徴とする請求項1〜20の何れか一項に記載の方法。
【請求項22】
上記がんが、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、低いか、もしくは全く増加していないコピー数の上皮増殖因子受容体遺伝子、または低いか、もしくは全く増加していないコピー数のHER2遺伝子、またはそれらの組み合わせを有するがん性細胞を含んでいることを特徴とする請求項1〜21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
上記がんが、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、低下した上皮増殖因子受容体タンパク質の発現を有していることを特徴とする請求項1〜21の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
上記がんが、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、低減したレベルのE−カドヘリン遺伝子の発現を有有するがん性細胞を含んでいることを特徴とする請求項1〜23の何れか一項に記載の方法。
【請求項25】
上記がんが、上皮増殖因子受容体阻害剤に感受性のがん性細胞に比べ、亢進したレベルのTF8の少なくとも一つのコンポーネントの発現を有有するがん性細胞を含んでいることを特徴とする請求項1〜24の何れか一項に記載の方法。
【請求項26】
上記コンポーネントが、ZEB1を含んでいることを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤耐性がんを有する患者を、該がんをEGFR阻害剤に感受性にすることにより治療する方法であって、少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせを患者へと投与することを含んでいることを特徴とする方法。
【請求項28】
治療学的組成物の投与の前に、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性を予測するために上記がんを評価する工程をさらに含むことを特徴とする請求項27に記載の方法。
【請求項29】
上記がんを評価する工程が、
(a)患者からの腫瘍細胞サンプルにおいて、
(i)上皮増殖因子受容体(EGFR)遺伝子の増幅のレベル;
(ii)上皮増殖因子受容体遺伝子の多染色体性のレベル;
(iii)ヒトチロシンキナーゼ受容体型受容体(HER2)遺伝子の増幅のレベル;および
(iV)HER2遺伝子の多染色体性のレベル
からなる群より選ばれる生体マーカーのレベルを検出する工程;
(b)腫瘍細胞サンプルにおける生体マーカーのレベルを、
(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する生体マーカーの対照レベル;および
(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する生体マーカーの対照レベル
からなる群より選ばれる生体マーカーの対照レベルと比較する工程;ならびに
(c)患者の腫瘍細胞における生体マーカーのレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する生体マーカーの対照レベルよりも統計的に低い場合、または、患者の腫瘍細胞における生体マーカーのレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する生体マーカーの対照レベルと統計的に同じ、またはより低い場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程
を包含することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項30】
(a)腫瘍細胞における上記増殖因子受容体(EGFR)タンパク質の発現のレベルを検出する工程;
(b)腫瘍細胞サンプルにおける上皮増殖因子受容体タンパク質の発現のレベルを、
(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および
(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベル
からなる群より選ばれる上皮増殖因子受容体タンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに
(c)患者の腫瘍細胞における上皮増殖因子受容体タンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する上皮増殖因子受容体タンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に低い場合、または、患者の腫瘍細胞における上皮増殖因子受容体タンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する上皮増殖因子受容体タンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ、またはより低い場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程
をさらに包含することを特徴とする請求項28に記載の方法。
【請求項31】
(d)腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを検出する工程;
(e)腫瘍細胞サンプルにおけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを、
(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および
(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベル
からなる群より選ばれるE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに
(f)患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に減少している場合、または、患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程
をさらに包含することを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項32】
(d)腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルを検出する工程;
(e)腫瘍細胞サンプルにおけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルを、
(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および
(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベル
からなる群より選ばれるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに
(f)患者の腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に亢進している場合、または、患者の腫瘍細胞におけるTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するTF8の少なくとも一つのコンポーネントタンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程
をさらに包含することを特徴とする請求項29に記載の方法。
【請求項33】
少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤の組み合わせの治療学的な投与から利益を得ると予測される患者を選択する方法であって、
(a)腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを検出する工程;
(b)腫瘍細胞サンプルにおけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルを、
(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および
(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベル
からなる群より選ばれるE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと比較する工程;ならびに
(c)患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルよりも統計的に減少している場合、または、患者の腫瘍細胞におけるE−カドヘリンタンパク質の発現のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するE−カドヘリンタンパク質の発現の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程
を包含することを特徴とする方法。
【請求項34】
少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤の組み合わせの治療学的な投与から利益を得ると予測される患者を選択する方法であって、
(a)腫瘍細胞におけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルを検出する工程;
(b)腫瘍細胞サンプルにおけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルを、
(i)上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関する対照レベル;および
(ii)上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関する対照レベル
からなる群より選ばれるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅の対照レベルと比較する工程;ならびに
(c)患者の腫瘍細胞におけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への感受性に相関するジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅の対照レベルよりも統計的に大きい場合、または、患者の腫瘍細胞におけるジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅のレベルが、上皮増殖因子受容体阻害剤への耐性に相関するジンクフィンガー転写因子遺伝子の増幅の対照レベルと統計的に同じ場合に、該患者を、上皮増殖因子受容体阻害剤の治療学的な投与から利益を得ないと予測される患者、またはヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせから利益を得ると予測される患者として選択する工程
を包含することを特徴とする方法。
【請求項35】
少なくとも一つの上皮増殖因子受容体(EGFR)阻害剤に耐性のがんを有する患者を治療する方法であって、
少なくとも一つのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、および少なくとも一つの上皮増殖因子受容体阻害剤の組み合わせを患者へと投与することを含んでおり、
該がんが上皮悪性腫瘍であることを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−533053(P2008−533053A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501062(P2008−501062)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【国際出願番号】PCT/US2006/009078
【国際公開番号】WO2006/099396
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(303044077)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド (11)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of Colorado
【Fターム(参考)】