説明

ヒト上皮細胞修復で用いるジエン化合物、並びにそれを含有する医薬及び化粧品組成物

本発明は、サイトケラチンcK−19によって媒介されるケラチンの産生によってヒト上皮細胞修復活性を向上させるための医薬又は化粧品組成物における有効成分としての、一般式(I):CH(−CH=CH)−R(I)[式中、n=2〜7であり、Rは、CHO、CHOH、CHO−CO−R’、CO−OR’及びCO−O(−)から選択される(ここで、R’は、H及びC〜C22のアルキルから選択される)]を有する化合物の単独又は混合物での新規な使用に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ケラチンフィラメントの網の目は、一般に構造骨組として役立ち、個々の細胞だけでなく、上皮層全体の機械的な支持をも提供する。ケラチンは、ケラチン1型(ケラチン9〜23)及びケラチン2型(ケラチン1〜8)のヘテロ二量体を形成するように構築された中間径フィラメントタンパク質のファミリーを構成する。その二重の、上皮組織タイプと分化特異的制御のため、ケラチンは、サイトケラチンの特異的mRNA発現プロファイル(cK mRNA)を用いて上皮分化を研究するのに有用な手段である。
【背景技術】
【0002】
ケラチン1型及び2型は、同義遺伝子ファミリー(それぞれが25を超えるメンバーを持つ)によってコードされ、それらは、上皮細胞の細胞質における中間寸法のフィラメントを産生するため、互いに必ずヘテロ多量体化する(Hesse et al,2000;Coulombe et al,2001)。
・ケラチンI型(K9−K21;Ha1−Ha8)は、40〜63kDaの範囲に及び、より酸性である。
・ケラチンII型(K1−K8;Hb1−Hb6)は、より大きく(53〜67kDa)、より塩基性である。
【0003】
K16は、無傷のヒトの皮膚において珍しく又は確認できず、多数の複合上皮においてK6イソ型と共に発現されるが、その発現と上皮のあらゆる特定最終分化プログラム又は機能との間には、明らかな相互関係はない。
【0004】
K16の発現は、急性負荷によって強く誘発され、異常な上皮分化を伴う病気と関連している。cK−16は、皮膚刺激の早期兆候のマーカーである。
【0005】
成人の皮膚において、K19は、毛包の根の外鞘に限定されており、上皮では検出されていない。各種上皮においてK19が陽性である細胞の特定部位は、それが上皮の前駆体のマーカーになり得るという仮説を立てた。上記皮膚において、この考えは、3H−チミジンで標識された細胞が確認された毛包の「バルジ領域」においてK19が存在することを根拠にして提案された。cK19は、レチノイン酸及びその誘導体によって上記皮膚において選択的に発現され、上皮分化の促進における役割を示す。
【0006】
cK10〜cK14は、有糸分裂活性のマーカーである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、cK−19サイトケラチンによって媒介されるケラチン産生を介してヒト上皮細胞修復を向上させるための医薬又は化粧品組成物における有効成分としての、一般式(I):
CH(−CH=CH)−R (I)
[式中、
n=2〜7であり、
Rは、CHO、CHOH、CHO−CO−R’、CO−OR’及びCO−O(−)から選択される(ここで、R’は、H及びC〜C22のアルキルから選択される)]を有する化合物の単独又は混合物での新規な使用に関するものである。
【0008】
生体外で再構築された上皮に関する実験的な研究が、本願明細書の以下の段落において報告されるが、驚くべきことに、本発明に係る化合物で処理された上皮の最終分化においてcK−19の発現の増加を示した。
【0009】
また、本発明は、治療分野及び化粧品分野の両方における上述の用途の組成物であり、上述の有効成分と、特に皮膚への使用に、適切な任意の賦形剤とを含む組成物に関するものである。
【0010】
本発明において想定された用途用の式(I)に対応する好適な化合物は、以下のとおりである。
2,4,6−オクタトリエン−1−オール(E,E,E),CAS#:130971−00−5
2,4,6−オクタトリエン酸(E,E,E),CAS#:130971−00−5
2,4,6−オクタトリエン酸ナトリウム塩(E,E,E),CAS#:n/a
2,4,6−オクタトリエン酸エチルエステル(E,E,E),CAS#:5941−49−1
2,4,6−オクタトリエン酸L−リシン塩,CAS#:n/a
2,4,6−オクタトリエン−1−オールアセタート(E,E,E),CAS#79541−79−0
2,4,6−オクタトリエン−1−オールパルミタート(E,E,E),CAS#:n/a
【0011】
以下に示す例は、本発明を説明するものであるが、決して本発明の範囲を制限するものではない。
【0012】
以下、一般式(I)の化合物の一部についての特性データ及び式を与える。
【0013】
【化1】


12O mw 124.18
2E,4E,6E−オクタトリエン−1−オール
CAS#:130971−00−5
【0014】
【化2】


10 mw 138.17
2E,4E,6E−オクタ−2,4,6−トリエン酸
CAS#:5205−32−3
ナトリウム塩:CNa mw 160.15,CAS#:利用不可
リシン塩:C.C15,mw 284.36,CAS#:利用不可
【0015】
【化3】


1014 mw 166.22
2E,4E,6E−オクタ−2,4,6−トリエン酸エチルエステル
CAS#:5941−49.1
【0016】
【化4】


1014 mw 166.22
2,4,6−オクタトリエン−1−オール,アセタート,(E,E,E)
CAS#:79541−79−0
【0017】
【化5】


2442 mw 362.60
2E,4E,6E−オクタトリエン−1−オール,パルミタート
CAS#:利用不可
【0018】
以下のものは、上述の用途に特に適した組成物の非制限的な例である。
【0019】
上記組成物の量は、重量対重量の百分率として示される。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
以下に示す通り、添付図面の図1〜3を参照しながら、本発明の化合物の上皮に対する効果を実証するために研究を行った。なお、図1〜3は、以下、この研究、特に「結果」との関連で詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】13日目の再構築ヒト上皮組織(RHE)における、処置の24時間後のmRNA遺伝子発現を示す。
【図2】15日目のRHEにおける、処置の48時間後のmRNA遺伝子発現を示す。
【図3】17日目のRHEにおける、処置の120時間後のmRNA遺伝子発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
実験的な研究
1.序論及び目的
再構築されたヒト上皮組織(RHE)等の3Dヒト組織培養物は、その組織機能性及び多層構造のために使用され、生体内の場合と同様に、浸透及び組織吸収を考慮する。
【0031】
それらは、実験動物の使用に取って代わることを目的とし、また、ヒトへの試験との関連で物質の刺激力の予測を向上させるため、皮膚に関する生物学的調査及び適合性試験に適切で感受性のあるモデルとして認識されている(ECVAM−Atla 33 Suppl 1,47−81−2005)。
【0032】
本研究の目的は、以下に示す特定のサイトケラチンの発現に基づき、11日間の分化から始まり17日間にわたって、RHEにおける細胞修復に対する活性と毒性効果を試験することであった。
・cK−16 サイトカイン活性化及び炎症のマーカー
・cK−19 試験される化合物の活性及び役割を評価する
・cK−14 基底レベルでの有糸分裂活性のマーカー
【0033】
それら3つの遺伝子の発現は、RT−PCRを用いたmRNA定量化及び免疫組織化学(cK19及びcK16)によって評価された。
【0034】
適切な細胞の再生を定義するための相補パラメータとして、研究の期間中、IL−1αの放出を監視した。
【0035】
2.実験計画
2.1 器具及び試薬
・メトラー・トレド 天びん S204 01g
・COインキュベーター NuAir
・DMSO シグマ(バッチ D5879)
・リン酸緩衝食塩溶液−PBS Fluka(バッチ 79382)
・10%緩衝ホルマリン−シグマ(HT 50−1−128)
【0036】
2.2 実験モデル
上皮の形態を再生するRHE(SkinEthic(登録商標))0.5cmを正確に特徴付けた:完全に分化した上皮は、所定の培地(MCDB153)における皮膚の生検から、NHK(正常ヒトケラチノサイト)の17日間のエアリフト培養後に発現する。
【0037】
生体外でのヒトモデルと比べると、試験分子に対する浸透性の観点から、良好なバリア機能、良好なバッチ内再現性及び低い可変性が、文献に報告されている。
【0038】
2.2 実験条件
明確に規定された品質保証手順(ISO認証9002)に従って、組織を作製した。
【0039】
上皮及び成長培地キットの全生物学的要素について、ウイルス、細菌及びマイコプラズマが存在するかどうか試験した。
【0040】
ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)によるMTT細胞毒性テストを用いて、最終産物の品質を確かめた。
【0041】
到達次第、無菌空気の流れの下、アガロース栄養液からRHE(11日目)を取り除いた。挿入物の下に気泡が形成するのを避けるように注意しながら、37℃、0.5%CO及び90%相対湿度にて、成長培地1mlが予め充填された6ウェルプレート中に挿入物を迅速に蒔いた。
【0042】
RHE(12日目)の到達の24時間後に研究を始めた。
【0043】
研究の期間中に用いた成長培地を24時間毎に取り換えた。
【0044】
3.試験物質
本発明に従う以下の化合物を試験物質として選択した。
2,4,6−オクタトリエン−1−オール
2,4,6−オクタトリエン酸エチルエステル(オクタトリエン酸エチル)
【0045】
【表9】

【0046】
3.1 投与量及び曝露
0.2%の最終濃度を得るように、試験物質をDMSO(シグマ)中で可溶化した。
この原液は、0.1%の有効成分を達成するためにPBS中で希釈された。
その溶液を試験まで−20℃にて保存した。
マイクロピペットを用い、その溶液を20μlの単一用量で注意しながら各組織に適用した。
【0047】
3.2 対照
我々は、上記試験物質(20μl)と同様の手順で適用されたレチノールを正の対照として考えた。
【0048】
負の対照としては、以下のものである。
・PBS中のDMSOで処理された1RHE
・PBSで処理された1RHE
【0049】
【表10】

【0050】
4.方法
4.1 組織学及び免疫組織化学
原理
組織学は、再構築組織に関する生体外での全ての研究において、重要な相補パラメータであり、生化学的分子結果を確認することを可能にする。皮膚修復過程の場合、組織学は、皮膚適合性及び組織再構築についての定量的情報を提供することができる。
【0051】
免疫組織化学は、タンパク質発現の定量的評価を可能にする。
【0052】
−材料
・ライカ顕微鏡DM2500−20X
・10%ホルマリン−シグマ
【0053】
−手順
研究期間の終了時に、その組織をPBCで洗浄し、10%緩衝ホルマリン中に固定し、組織学的検査用に調製した。
【0054】
その組織をパラフィンブロックに埋め込み、ミクロトーム上で切片(3〜5μ厚)に切り取った。次いで、その切片をスライドに移し、脱パラフィン及び脱水を行い、次いで、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色した。
【0055】
免疫組織学用に、pH=6の10nMクエン酸塩緩衝液中で、Cooker法により、抗原検索を行った。
抗体:
・cK16:マウスモノクローナル抗体,クローンLL025(Neo Markers USA)
・cK19:マウスモノクローナル抗体,クローンKs19.1(Neo Markers USA)
信号増幅−ポリマー(Labvision USA)
酵素:酸化酵素(HRP)
色素原:DAB(Dako)
対比染色:ヘマトキシリン(Merck)
【0056】
4.2 リアルタイムPCR
4.2.1 RNA抽出
−材料
・RNAqueousキット(AMBION)
【0057】
−原理
RNAqueous法は、フェノール無しの急速濾過に基づきDNAを単離するために用いるシステムである。
【0058】
その方法は、カオトロピック濃縮食塩溶液中で核酸を結合するガラス繊維の能力に基づいている。サンプルは、細胞を溶解し且つ内在性リボヌクレアーゼを不活性化するグアニジウム塩の高濃縮溶液中で分裂する。フィルターカートリッジ内のフィルターのガラス繊維と結合するのに適格なDNAを作るため、可溶化液をエタノールで希釈する。RNAはフィルターに結合するが、他の細胞成分は、フィルターを通って自由にスライドする。次いで、フィルターを3回洗浄し、非常に低いイオン強度の溶液にRNAを溶出する。
【0059】
4.2.2 cDNA逆転写
−材料
・大容量cDNA逆転写キット(Applied Biosystems)
【0060】
−原理
この方法の原理は、存在する全てのRNA分子の第一へリックスの効率的な合成を確保するcDNA合成を始めるためにランダムプライマーを使用することに基づいている。
【0061】
cDNAは、希釈され、−20℃で保存される。
【0062】
4.2.3.リアルタイムPCR
−原理
「Applied Biosystems7500リアルタイムPCR」機器は、蛍光に基づくPCR化学,TaqManアッセイを用いる。
【0063】
この技術は、蛍光信号を確認するためにTaqmanプローブを用いる:それは、高い感受性があり、特定の核酸配列を増幅し定量化することにある。PCR産物は、リアルタイムで検出される。PCR産物を最初に確認できるサイクルを決定することによって、DNA、cDNA又はRNAが定量化され、それ故に、反応が飽和に達する場合がない。その産物は、サイクル毎に測定される蛍光を検出することによって定量化される:信号の実体は、増幅した産物の量に正比例する。
【0064】
試験サンプルの核酸配列と較正サンプルの同一配列の発現間の違いから、相対定量化を測定する。
【0065】
遺伝子発現は、DNA配列等の遺伝子の伝染性情報を遺伝子の機能性産物、即ちタンパク質又はRNAに転換するプロセスである。
【0066】
多くの遺伝子の発現は、転写後に調節されるため、mRNAの濃度の増加がタンパク質の発現の増加を常に決定するのではない。そのため、mRNAの研究が重要である。遺伝子の調節は、細胞に、構造及び機能の制御を与える。遺伝子発現のタイミング、部位及び量を制御することは、身体における遺伝子機能(作用)への計り知れない影響を与えることができる。
【0067】
mRNAの存在量を測定する方法は、RT−PCR(リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応)である。RT−PCRにより得られるデータにおける低いレベルのノイズは、遺伝子発現を評価するための選択方法となることが多い。
【0068】
−材料
・2X TaqMan Universal PCR Master Mix
・20X TaqMan 遺伝子発現アッセイ
・「ヌクレアーゼフリー」水
・GAPDH(内在性制御)Hs99999905_m1
・標的遺伝子:
【0069】
【表11】

【0070】
−手順
各生物サンプルを三通りに加工した。Taqman遺伝子発現アッセイ及びcDNA(25ng)を「2X TaqMan Universal PCR Master Mix」に加え、全体積を25μlにした。
【0071】
PRISM反応器7500の工程は以下の通りであった。
【0072】
【表12】

【0073】
4.2.4 RT−PCR分析用のサンプル調製
DNA抽出用溶解緩衝液300μl中で、組織を均質化した。
【0074】
4.3 ELISAを用いた成長培地におけるIL−1α定量化
−原理
インターロイキン1−αは、炎症の初期兆候として認められる。
【0075】
IL−1αの放出は、製造者の取扱説明書に従って高感度の特異的ELISA(酵素結合イムノソルベントアッセイ)キットを用い、本サンプリング時間にて、RHEの下、成長培地200μl中でアッセイされた。最終産物は、450nmで数量化された。
【0076】
回復時間後速やかに各RHEの基礎成長培地を集め、プラスチック製冷凍バイアル中、−20℃で保存した。
【0077】
試験前に、該培地を室温にて調整した。その結果をIL−1αのpg/mlとして表した。3.9〜250pg/ml間の濃度は感度の範囲内であると考えられた。
【0078】
−材料
・Quantikine(登録商標)キット(R&D Systems)Code DLA50(IL−1)
・成長培地−SkinEthic
・ミクロプレートオートリーダーM−100 Infinite Tecan
【0079】
5.手順
時間及び分析を表Iに示す。
【0080】
毎日、設定した時間にて、方法にて説明したように、対応するサンプルを分析用に加工した。
【0081】
【表13】

【0082】
1日目−産物の適用
1日目で、RHEは、生後12日であった。試験物質(2通り)及び対照を単回投与量(20μl)で適用した。
次いで、RHEを更なる処置なしで24時間インキュベートした。
【0083】
2日目−24時間の処置
成長培地を毎日変更し、集めて、更なる分析のため−20℃にて保存した。
24時間処置に対応するサンプルを加工し、分析した(表I参照)。
【0084】
4日目−48時間の処置
成長培地を毎日変更し、集めて、更なる分析のため−20℃にて保存した。
48時間処置に対応するサンプルを加工し、分析した(表I参照)。
【0085】
6日目−120時間の処置
成長培地を毎日変更し、集めて、更なる分析のため−20℃にて保存した。
120時間処置に対応するサンプルを加工し、分析した(表I参照)。
【0086】
6.データ収集及び解釈
分析によりもたらされたデータを社内ソフトウェアSDS1.3.1に直接記録し、生の相対定量的データとして記録した。
【0087】
その結果をエクセルにエクスポートした。
【0088】
較正サンプルとの比較により遺伝子が±1SD増加したときの値を受け入れた。
【0089】
組織学用サンプルを顕微鏡下で分析した。総合的な形態及び負の対照との比較によるあらゆる変化を評価し、実験報告に記録した。
【0090】
組織学用サンプルをライカ顕微鏡DM2500の下で分析し、ライカアプリケーションスイート(LAS)ソフトウェアを用いて記録した。
【0091】
6.結果
DMSOによる対照は、cK19の発現に関してPBSによる対照と異なっていた:その結果は、較正用のDMSOによる対照を用いてもたらされ、添付のグラフに示される。
【0092】
図1は、試験物質及び対照に関し、13日目、24時間処理後のRHEにおけるmRNA遺伝子発現を示す(上記識別コード参照)。
【0093】
cK−14は、PBS+DMSO対照との比較により、PBS対照において有意に増大したことが分かった。
【0094】
24時間後、有意なcK−16の発現の痕跡はなかった。
【0095】
cK−19は、PRT及びDPRTで処理したサンプルにおいてかなり減少し、キャリブレーターの値と似ている調節レベルを示したRET(正の対照)とは異なっていた。
【0096】
図2は、15日目、48時間処理後のRHEにおけるmRNA遺伝子発現を示す。
【0097】
PBS対照に関し、処理により誘導されたcK−14における有意な差異はなかった。
【0098】
cK−19は、PBS対照との比較により、RET及びPRTの両方の処理について減少したことが分かった。一方、DPRTによる処理後の遺伝子の発現は、減少しなかった。
【0099】
cK−16の遺伝子発現は、3つ全ての試験物質による処理後の対照との比較により、低いことが分かった。
【0100】
図3は、17日目、120時間処理後のRHEにおけるmRNA遺伝子発現を示す。
【0101】
処置後に、RHEの最終分化に対応した、有意な変化はcK−14及びcK−16の発現において見られず、一方、cK−19の発現は、対照との比較により、処理組織で有意に増大した。
【0102】
PRTは、RETの正の対照のものと同程度の増加を引き起こした。
【0103】
また、炎症の状態への長期的効果を研究するため、IL−1αの放出を監視した。その結果は以下のことを示した。
・24時間後では、RETによる処理後、IL−1αの放出は早いが非常に低く、PRT又はDPRTについては、かかる放出がなかった。
・48時間後では、PRT及びRETの両方と、DMSO対照について、IL−1αの放出が有意であった。
・120時間後では、DMSO対照(0.2%)のみがサイトカインの著しい放出を示した。
【0104】
IL−1αは、一方で、組織学的結果に関連している必要があり、他方では、レチノイドの作用機序に関連している必要がある:48時間後の結果は、組織学的観察(IL−1αの高い放出に対応する組織の損傷)との相互関係を示し、確認させるが、120時間後では、生細胞の非存在によって、RET及びPRTについてのIL−1αの放出がないことが説明される(壊死組織,H&E組織学において示され、cK−16の活性化により確認される)。
【0105】
レチノイドによる処理後のIL−1αの放出は、皮膚レベルでの機能的意義を有する。レチノイド(特にレチノイン酸による処理後)は、基底ケラチノサイトによるIL−1αの放出を介して、炎症促進性効果を有するが、この現象は、間接的上皮増殖促進活性にも関連している。この挙動は、RHEモデル(Experimental Dermatology 2002,11;59−74 Bernard F.X.et al.)において確認されており、このIL−1αメッセージは、cKではなく、皮膚線維芽細胞等の細胞下部と相関しているように思われる。
【0106】
【表14】

【0107】
同一の垂直断面でさえ、同一の処置の分析において違いが明らかになったことを強調することが重要である。
【0108】
様々な処置後17日目の上皮分化は、その対照と比較して満足できる。
【0109】
免疫組織化学的結果は、cK−16の発現の転写の研究と一致する。
【0110】
反対に、cK−19の発現は、その比較が最も重要な時、即ち17日目での免疫局在性におけるRT−PCRの結果で描かれる場合、全く観察されなかった:それらの所見の説明は、処理された組織で起こった形態変化(多くの壊死細胞)にあり、形質導入反応に影響を与えることができる。
【0111】
7.結論
上述の研究は、ヒト上皮の生体外モデルに関して行われ、セクション3.3「試験物質」において定義されるように、本発明に係る2つの化合物の活性を確認した。それを以下に示す。
・組織学分析に関し、cK−16の発現及びIL−1αの局在性は、考察された濃度(0.1%)での単一の急性投与後に、レチノール及び2,4,6−オクタトリエン−1−オールについて類似の毒性を示し、一方、オクタトリエン酸エチルは毒性の関連兆候を示さなかった。
・cK−14の発現は、その対照との比較により、研究の期間中、著しく異ならず、本発明に係る2つの化合物又はレチノールによる処理により、有糸分裂活性が影響を受けなかったことを示した。
・cK−19に関する転写の研究は、レチノール、2,4,6−オクタトリエン−1−オール又はオクタトリエン酸エチルによる処理後の生体外での再構築ヒト上皮組織(17日目のRHE)の最終分化において、cK−19の上方制御を示した。これは、本発明に係る化合物の細胞修復活性の有意な証拠を提供する。
・RT−PCRの結果は、先に結果で検討された理由により、免疫組織化学的所見によって確認されなかった。
【0112】
RHEにおけるcK10の発現
最後に、類似の方法を用いて行った別の研究において、RHEにおけるcK10の発現を、分化の15日目及び17日目に関して研究し、その免疫組織化学的発現によって記録した。cK−10は、顆粒及び脊髄レベルでのケラチノサイトの末端分化のマーカーである。
【0113】
その結果が示すように、17日目では、2,4,6−オクタトリエン−1−オールで処理したサンプルについての発現は、未処理の対照と比べて強く、レチノールサンプルについてはマイナスであり、本発明に係る化合物の優れた活性が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイトケラチンcK−19によって媒介されるケラチン産生を介してヒト上皮細胞修復を向上させるための医薬又は化粧品組成物における有効成分としての、一般式(I):
CH(−CH=CH)−R (I)
[式中、
n=2〜7であり、
Rは、CHO、CHOH、CHO−CO−R’、CO−OR’及びCO−O(−)から選択される(ここで、R’は、H及びC〜C22のアルキルから選択される)]を有する化合物の単独又はその混合物での使用。
【請求項2】
請求項1の使用のための組成物であって、
前記有効成分が、一般式(I):
CH(−CH=CH)−R (I)
[式中、
n=2〜7であり、
Rは、CHO、CHOH、CHO−CO−R’、CO−OR’及びCO−O(−)から選択される(ここで、R’は、H及びC〜C22のアルキルから選択される)]を有する化合物又はその混合物であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン−1−オールであることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン酸であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン酸の薬理学的に又は美容的に容認できる塩であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン酸ナトリウム塩であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン酸L−リシン塩であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン酸エチルエステルであることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン−1−オール,アセタートであることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項10】
前記有効成分が、2,4,6−オクタトリエン−1−オール,パルミタートであることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項11】
前記有効成分が、式(I)の化合物の2種以上の混合物であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項12】
前記有効成分を0.05〜0.3重量%の範囲の量で含むことを特徴とする請求項2〜11のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
前記有効成分を皮膚上への局所投与に適した任意の賦形剤と共に含むことを特徴とする請求項2〜12のいずれかに記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2012−508213(P2012−508213A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535127(P2011−535127)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064880
【国際公開番号】WO2010/052328
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(504244025)ギウリアニ ソシエタ ペル アチオニ (7)
【Fターム(参考)】