説明

ヒータ付座席

【課題】熱損失を小さくしつつ、柔軟性を確保することができるヒータ付座席を提供する。
【解決手段】ヒータ付座席10は、異方性熱伝導シート31を構成する積層部41が表皮21の内側に積層されて、表皮21とクッション部材23との間に設けられる。異方性熱伝導シート31は柔軟性を有するので、乗員が着座したとき表皮21の内側には柔軟性を有する積層部41によって座り心地を損なうことを抑制することができる。また異方性熱伝導シート31を構成する接触部42は、積層部41における表皮21に積層されている厚み方向一方側の面に連なる発熱面31aが、発熱体32と接触する。異方性熱伝導シート31は、厚み方向への熱伝導率よりも平面方向への熱伝導率が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータを有し、座席を加熱可能なヒータ付座席に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冬季などに車両のシートを加熱して、乗員を暖める技術が開示されている(たとえば特許文献1および特許文献2参照)。特許文献1に記載の車両用空調装置では、発熱体および熱拡散板をシートに内蔵し、乗員がシートに着座する時に発熱体および熱拡散板が接触しないように、クッション材の下方に位置するように構成されている。発熱体からの熱は、クッション材の下方に配置される熱拡散板によって拡散され、シートが加熱される。また特許文献2に記載のヒータ付座席では熱拡散板を用いずに、面状発熱体をシートの表皮に直接貼り付けてシートを加熱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−73883号公報
【特許文献2】特開2004−95498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1に記載の従来技術では、発熱体の熱は、熱拡散板、クッション材および表皮を順次介して、乗員に伝わる構成である。ここでクッション材は、柔軟性を有するウレタンなどの発泡材料が用いられるので、熱伝導性が低い。したがって発熱体からの熱が、乗員に伝わりにくいという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、クッション材の上方に熱拡散板を配置することも考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では熱拡散板は熱伝導性が優れるアルミニウム材が用いられている。アルミニウムはクッション材よりも剛性を有するので、表皮直下に配置されると座り心地が悪くなるという問題がある。
【0006】
また前述の特許文献2に記載の従来技術では、面状発熱体をシートの表皮の直下に貼り付けているので、特許文献1に記載の構成よりも熱伝導性が高くなる。しかしながら、面状発熱体を表皮直下に配置すると、座り心地を確保するため面状発熱体に柔軟性が必要である。また面状発熱体は、通電することによって発熱する電熱線を有する。このような面状発熱体が表皮直下に配置されると、乗員が着座することに起因する押圧力が直接に電熱線に作用する。乗員の着座は何度も繰返されるので、押圧力が電熱線に何度も作用する。これによって電熱線が疲労して、断線するおそれがある。
【0007】
また従来技術の他の問題として、発熱体の熱損失が多いということが挙げられる。この問題の要因は、熱拡散板において、発熱体から熱は面方向および厚み方向に伝わることにある。これによって乗員に伝えたい熱が乗員とは反対側のシートの裏側へも熱拡散板から伝熱し、本来加熱したい乗員とは別の所を加熱してしまう。したがって全体として熱損失が多くなる。このような問題は、面状発熱体においても同様である。
【0008】
そこで、本発明は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、熱損失を小さくしつつ、柔軟性を確保することができるヒータ付座席を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0010】
請求項1に記載の発明では、使用者が座席(11)に着座する際に使用者に接触する表皮(21)と、
表皮の内側に設けられ、柔軟性を有する緩衝部(23)と、
柔軟性および熱伝導性を有するシート状の熱伝導シート(31)と、
表皮の内側に設けられ、熱伝導シートの厚み方向に交差する方向に延び、発熱する長手状の発熱体(32)と、を含み、
熱伝導シートは、
厚み方向への熱伝導率よりも、厚み方向に直交する平面方向への熱伝導率が大きく、
表皮の内側に積層されて、表皮と緩衝部との間に設けられる積層部(41)と、
積層部と一体に構成され、発熱体と接触する接触部(42)と、を有し、
接触部は、積層部における表皮に積層されている厚み方向一方側の面(31a)に連なる面が、発熱体の外周面を囲んで発熱体の外周面に少なくとも一部に接触していることを特徴とするヒータ付座席である。
【0011】
請求項1に記載の発明に従えば、熱伝導シートを構成する積層部は、表皮の内側に積層されて、表皮と緩衝部との間に設けられる。従来技術のように熱伝導シートが剛性を有する場合には、表皮の内側に熱伝導シートがあると、座り心地が悪くなるという問題がある。しかしながら本発明では、熱伝導シートは柔軟性を有するので、使用者が着座したとき表皮の内側には柔軟性を有する積層部によって座り心地を損なうことを抑制することができる。
【0012】
また熱伝導シートを構成する接触部は、積層部における表皮に積層されている厚み方向一方側の面に連なる面が、発熱体と接触する。熱伝導シートは、厚み方向への熱伝導率よりも平面方向への熱伝導率が大きい。したがって発熱体が接触した面から平面方向へ熱は伝わりやすく、厚み方向へ熱は伝わりにくい。発熱体が発した熱は、発熱体が接触した面に連なる面を介して、積層部における表皮に積層されている面に伝わる。したがって使用者へ伝わる熱を多くして、積層部から緩衝部側に伝わる熱を小さくすることができる。これによって発熱体が発する熱が使用者に伝わりやすいので、発熱体の熱損失を小さくすることができる。
【0013】
さらに発熱体は、熱伝導シートの厚み方向に交差する方向に延びる。したがって発熱体は、熱伝導シートとスポット状に接触することなく、長手状の接触領域から熱が伝わるので、熱伝導シートを短時間で加熱することができる。このような発熱体の外周面は、接触部の厚み方向一方側の面によって囲まれている。したがって発熱体が発した熱を、緩衝部など他の部材に伝わることを抑制して、熱伝導シートの加熱に効率よく用いることができる。さらに発熱体が発した熱が緩衝部に直に伝わると、緩衝部が発熱体の熱によって損傷することがあるが、発熱体が熱伝導シートによって囲まれることによって、緩衝部の熱による損傷を防止することができる。また発熱体が発生した熱が表皮に直に伝わると、表皮が局所的に熱くなるので、表皮に熱ムラが発生する。しかしながら発熱体を熱伝導シートによって囲むことによって、厚み方向へ熱が伝わりにくいので、発熱体付近の表皮でも局所的に加熱されることが抑制される。したがって熱ムラを発生しにくくすることができる。
【0014】
また請求項2に記載の発明では、緩衝部において表皮側に位置する面には、表皮とは反対側に凹となる溝(51)が形成され、
接触部および発熱体は、溝に収容されることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の発明に従えば、緩衝部において表皮側に位置する面には、表皮とは反対側に凹となる溝が形成される。そして接触部および発熱体は、溝に収容される。接触部および発熱体が溝に収容されることによって、表皮付近に配置される接触部および発熱体によって表皮に凹凸が発生することを抑制することができる。これによって使用者が接触部および発熱体に接触することが抑制されるので、座り心地をさらに向上することができる。
【0016】
さらに請求項3に記載の発明では、熱伝導シートは、平面方向への熱伝導率が、厚み方向への熱伝導率の30倍以上であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載の発明に従えば、熱伝導シートは、平面方向への熱伝導率が、厚み方向への熱伝導率の30倍以上である。これによって、さらに積層部の表皮側の面の熱が伝わりやすく、反対側に位置する緩衝部などに熱が伝わりにくくなる。したがって熱損失をさらに小さくすることができる。
【0018】
さらに請求項4に記載の発明では、溝には、さらに表皮が掛け止められることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載の発明に従えば、溝には、さらに表皮が掛け止められる。表皮をかけ止めるための溝は、従来から存在する溝である。このような既存の溝に、接触部および発熱体を収容することによって、接触部および発熱体を収容するための専用の溝を形成する必要がなくなる。換言すると、既存の掛け止め用の溝を、接触部および発熱体を収容するための溝として利用することができる。したがって溝を共用しない場合に比べて溝の数を少なくすることができる。これによって溝を製造するための形成コストを低減することができる。
【0020】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態のヒータ付座席10を示す斜視図である。
【図2】シートクッション14を分解して示す分解斜視図である。
【図3】シートバック13を分解して示す分解斜視図である。
【図4】シートクッション14の左右方向に切断して示す断面図である。
【図5】異方性熱伝導シート31を示す正面図である。
【図6】第2実施形態における異方性熱伝導シート31Aを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態について説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0023】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に関して、図1〜図5を用いて説明する。図1は、本実施形態のヒータ付座席10を示す斜視図である。ヒータ付座席10は、乗員が着座する座席(シート)11に、座席11を加熱するシートヒータ(ヒータ)12が内蔵されて構成される。シートヒータ12は、自動車用シート暖房装置とも称される。座席11は、背もたれ部であるシートバック13と、着座部であるシートクッション14を含んで構成される。図2は、シートクッション14を分解して示す分解斜視図である。図3は、シートバック13を分解して示す分解斜視図である。
【0024】
シートヒータ12は、シートバック13と、シートクッション14にそれぞれ内蔵される。これによって着座した乗員の背中および腰部などがシートバック13に内蔵されるシートヒータ12によって加熱される。また乗員の尻部および腿裏部などがシートクッション14に内蔵されるシートヒータ12によって加熱される。
【0025】
先ず、図2および図3を用いて、シートクッション14の構成に関して説明する。シートクッション14の構成とシートバック13との構成とは、互いに略同一であるので、シートクッション14について主に説明し、シートバック13においてシートクッション14と同様の構成については、シートクッション14と同一の符号を付して説明を省略することがある。
【0026】
シートクッション14は、乗員の座り心地を考慮して、クッション構造を備えて構成されている。シートクッション14は、表皮21、シートヒータ12、クッション部材23、および構造部材24を含んで構成される。シートクッション14は、骨格を成す構造部材24に対してクッション部材23が設置されており、その表面側に表皮21が張り付けられた構成となっている。
【0027】
表皮21は、乗員(使用者)が座席11に着座する際に乗員に接触する部分である。表皮21は、カバーとも称され、柔軟性を有し、手触りがよく、防汚性に優れる材料、たとえば革から構成される。表皮21は、クッション部材23の表層側に覆い被された状態で、クッション部材23に縫いつけ、および留め具によってクッション部材23および構造部材24に固定される。
【0028】
クッション部材23は、緩衝部であって、表皮21の内側に設けられ、柔軟性を有する。クッション部材23は、たとえば発泡材料のウレタンから構成される。クッション部材23は、構造部材24に載置される。クッション部材23が発泡性材料である場合、断熱性を有する。
【0029】
構造部材24は、クッション部材23を支持するように設けられる。図2および図3では、理解を容易にするため構造部材24を簡略化して示す。構造部材24は、車両の所定位置に固定され、乗員が着座した際に乗員を主に支持する部分である。構造部材24は、剛性を有する金属材料から構成される。構造部材24は剛性を有するので、構造部材24に直接乗員が着座すると乗り心地が損なわれる。したがって構造部材24に柔軟性を有するクッション部材23を載置することによって、乗員に快適性を与えている。
【0030】
シートヒータ12は、熱伝導性を有する異方性熱伝導シート31、および発熱する発熱体32を含んで構成される。異方性熱伝導シート31は、クッション部材23と表皮21との間に設けられる。発熱体32は、給電配線33に接続され、給電配線33から通電されることによって発熱し、異方性熱伝導シート31を加熱する。したがって発熱体32からの熱は、異方性熱伝導シート31、および表皮21を介して乗員に伝わる。
【0031】
次に、図4および図5を用いて、シートヒータ12に関してさらに説明する。図4は、シートクッション14の左右方向に切断して示す断面図である。図5は、異方性熱伝導シート31を示す正面図である。
【0032】
異方性熱伝導シート31は、柔軟性および熱伝導性を有し、図5に示すようにシート状である。異方性熱伝導シート31は、熱の伝わりやすさを示す熱伝導率が、厚み方向よりも厚み方向に直交する平面方向の方が大きい(図5参照)。異方性熱伝導シート31は、平面方向への熱伝導率が、厚み方向への熱伝導率の10倍以上、好ましくは20倍以上、さらに好ましくは30倍以上である。異方性熱伝導シート31は、たとえば黒鉛からなるグラファイトシートによって実現される。グラファイトシートは、グラファイト結晶を平面方向に延びるように圧延した結晶構造を有し、この結晶構造に起因して厚み方向よりも平面方向への熱伝導率が大きくなる。
【0033】
異方性熱伝導シート31がグラファイトシートである場合、その厚み寸法は、たとえば0.05mmから0.6mm程度である。グラファイトシートの熱伝導率は、その製造方法および黒鉛の状態によって様々であるが、一例をあげると、厚さ方向が3.5(W/m・K)であり平面方向が400(W/m・K)である組み合わせ、厚さ方向が6(W/m・K)であり平面方向が240(W/m・K)である組み合わせ、厚さ方向が10(W/m・K)であり平面方向が150(W/m・K)である組み合わせがある。
【0034】
異方性熱伝導シート31は、積層部41と接触部42とを有する。積層部41と接触部42とは、一体に構成される。積層部41は、表皮21の内側に積層されて、表皮21とクッション部材23との間に設けられる。接触部42は、積層部41と一体に構成され、発熱体32と接触する。本実施形態では図4に示すように、シート状の異方性熱伝導シート31のうち、左右方向の両端部が接触部42であり、左右方向の中間部が積層部41となる。
【0035】
接触部42は、積層部41における表皮21に積層されている厚み方向一方側の面(表皮21側の面)に連なる面が、発熱体32の外周面の少なくとも一部と接触する。接触部42は、発熱体32の外形に沿うようにして、発熱体32の外周面を囲うように配置される。接触部42は、図4に示すように断面形状が全体として釣針状である。具体的には、接触部42は、積層部41の左右方向の両端から下方に屈曲し、屈曲した部分から下方に延びる部分の先端が発熱体32を覆うように略C字に湾曲している。これによって発熱体32の外周面の露出を小さくすることができる。
【0036】
発熱体32は、表皮21の内側に設けられる。発熱体32は、異方性熱伝導シート31の厚み方向に交差する方向(本実施形態では前後方向)に延び、長手状の部材である。発熱体32の形状は、具体的には円柱状である。本実施形態では、発熱体32は2本であり、異方性熱伝導シート31の左右方向の両端部に、前後方向に延びるようにそれぞれ設けられる。本実施形態の発熱体32は、通電することによって発熱し、たとえばニッケルにクロムを添加したニクロム(登録商標)線によって実現される。発熱体32の外周面は、接触部42の厚み方向一方側の面によって囲まれている。したがって発熱体32は、異方性熱伝導シート31で包まれている。
【0037】
次に、シートヒータ12とクッション部材23との配置関係について説明する。図4に示すように、クッション部材23における表皮21側に位置する面には、表皮21とは反対側に凹となる溝51が形成されている。換言すると、クッション部材23には、前後方向に延び、下方に凹となる略U字状の溝51が形成される。溝51には、発熱体32および接触部42が収容される。
【0038】
また溝51には、表皮21が掛け止められる。図4では、隣接する表皮21同士を繋ぎあわせられている状態を示しているが、溝51の内壁の他の部分で表皮21がクッション部材23に固定されている。また表皮21が掛け止められる溝51は、発熱体32および接触部42が収容される溝51だけでなく、他の掛け止め専用の吊込溝52も複数、クッション部材23に形成される。溝51と吊込溝52に表皮21を引っ張り込んで掛け止めることにより、しわがなくなった状態で表皮21をクッション部材23に密着させることができ、見栄え良く張設することができる。また使用中にしわが発生することを抑制する
ことができる。
【0039】
次に、発熱体32からの熱の伝わり方に関して説明する。発熱体32は、異方性熱伝導シート31に囲まれているので、発熱体32からの熱は、異方性熱伝導シート31の積層部41における表皮21側の面(以下、「発熱面31a」という)に伝わる。前述のように、異方性熱伝導シート31は、発熱体32の熱が発熱面31aの平面方向には伝わりやすく、発熱面31aから反対側の面に向かう厚さ方向には伝わりにくい。したがって発熱体32の熱は、発熱体32→異方性熱伝導シート31の発熱面31a→表皮21→乗員の順に伝えることができる。異方性熱伝導シート31の厚さ方向には熱が伝わり難いので、クッション部材23への熱の逃げ(ロス)が低減できることになる。また異方性熱伝導シート31の厚さ方向に伝わる熱は少ないが、伝わった熱は、クッション部材23側の面がクッション部材23に接触しているので、断熱性を有するクッション部材23によって放熱しにくくなっている。これによっても熱の逃げを低減することができる。
【0040】
以上説明したように本実施形態のヒータ付座席10は、異方性熱伝導シート31を構成する積層部41が表皮21の内側に積層されて、表皮21とクッション部材23との間に設けられる。従来技術のように異方性熱伝導シート31が剛性を有する場合には、表皮21の内側に異方性熱伝導シート31があると、座り心地が悪くなるという問題がある。しかしながら本実施形態では、異方性熱伝導シート31は柔軟性を有するので、乗員が着座したとき表皮21の内側には柔軟性を有する積層部41によって座り心地を損なうことを抑制することができる。
【0041】
また異方性熱伝導シート31を構成する接触部42は、積層部41における表皮21に積層されている厚み方向一方側の面に連なる発熱面31aが、発熱体32と接触する。異方性熱伝導シート31は、厚み方向への熱伝導率よりも平面方向への熱伝導率が大きい。したがって発熱体32が接触した面から平面方向へ熱は伝わりやすく、厚み方向へ熱は伝わりにくい。発熱体32が発した熱は、発熱体32が接触した面に連なる面を介して、積層部41における表皮21に積層されている面に伝わる。したがって乗員へ伝わる熱を多くして、積層部41からクッション部材23側に伝わる熱を小さくすることができる。これによって発熱体32が発する熱が乗員に伝わりやすいので、発熱体32の熱損失を小さくすることができる。
【0042】
さらに発熱体32は、異方性熱伝導シート31の厚み方向に交差する方向、本実施形態では前後方向に延びる。したがって発熱体32は、異方性熱伝導シート31とスポット状に接触することなく、長手状の接触領域から熱が伝わるので、異方性熱伝導シート31を短時間で加熱することができる。このような発熱体32の外周面は、接触部42の厚み方向一方側の面によって囲まれている。したがって発熱体32が発した熱を、クッション部材23など他の部材に伝わることを抑制して、異方性熱伝導シート31の加熱に効率よく用いることができる。さらに発熱体32が発した熱がクッション部材23に直に伝わると、クッション部材23が発熱体32の熱によって損傷することがあるが、発熱体32が異方性熱伝導シート31によって囲まれることによって、クッション部材23の熱による損傷を防止することができる。また発熱体32が発生した熱が表皮21に直に伝わると、表皮21が局所的に熱くなるので、表皮21に熱ムラが発生する。しかしながら発熱体32を異方性熱伝導シート31によって囲むことによって、厚み方向へ熱が伝わりにくいので、発熱体32付近の表皮21でも局所的に加熱されることが抑制される。したがって熱ムラを発生しにくくすることができる。
【0043】
また本実施形態では、クッション部材23において表皮21側に位置する面には、表皮21とは反対側に凹となる溝51が形成される。そして接触部42および発熱体32は、溝51に収容される。接触部42および発熱体32が溝51に収容されることによって、表皮21付近に配置される接触部42および発熱体32によって表皮21に凹凸が発生することを抑制することができる。これによって乗員が接触部42および発熱体32に接触することが抑制されるので、座り心地をさらに向上することができる。
【0044】
換言すると、異方性熱伝導シート31は薄い面状シートのため、発熱体32自体を包み、かつ、クッション部材23に埋め込むような構造とすることで、乗員が直接発熱体32に触れる心配を防ぐことができ、ニクロム線のような硬い発熱体32であってもすわり心地に影響せず、熱を積層部41へ運ぶことが可能となる。
【0045】
さらに本実施形態では、異方性熱伝導シート31は、平面方向への熱伝導率が、厚み方向への熱伝導率の30倍以上にすることが好ましい。これによって、さらに積層部41の表皮21側の面の熱が伝わりやすく、反対側に位置するクッション部材23などに熱が伝わりにくくなる。したがって熱損失をさらに小さくすることができる。
【0046】
また本実施形態では、溝51には、さらに表皮21が掛け止められる。表皮21をかけ止めるための溝は、従来から存在する溝である。このような既存の溝に、接触部42および発熱体32を収容することによって、接触部42および発熱体32を収容するための専用の溝を形成する必要がなくなる。換言すると、既存の掛け止め用の溝51を、接触部42および発熱体32を収容するための溝として利用することができる。したがって溝を共用しない場合に比べて溝の数を少なくすることができる。これによって溝を製造するための形成コストを低減することができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に関して、図6を用いて説明する。図6は、第2実施形態における異方性熱伝導シート31Aを示す正面図である。本実施形態では、図6に示すように、発熱体32が両端部の2つだけでなく、中央部にも発熱体32Aを配置している点に特徴を有する。これに伴って異方性熱伝導シート31Aの左右方向の中央に、第3の接触部42Aが設けられる。接触部42Aは、中央の発熱体32Aを、他の発熱体32と同様に、周囲を囲んで発熱体32Aの外周面に少なくとも一部に接触している。接触する面は、発熱面31aである。また第3の接触部42Aは、積層部41から下方に位置するように配置される。したがってクッション部材23には、第3の接触部42Aを収容する溝51が形成されている(図示せず)。これによって中央部の発熱体32Aは、積層部41よりも下方に位置することになる。
【0048】
このような構成であっても、前述の第1実施形態と同様の作用および効果を達成することができる。また発熱体32を増やすことによって、異方性熱伝導シート31Aの熱分布をさらに一様にすることができるとともに、異方性熱伝導シート31Aの発熱面31aの全域をより短時間で所定の温度まで加熱することができる。
【0049】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0050】
前述の第1実施形態では、吊込溝と発熱体32を収容するための溝51とを共用する構成であったが、このような構成に限るものではなく、発熱体32を収容するための専用の溝を設けても良い。これによって異方性熱伝導シート31を、均一に加熱できるように、発熱体32を配置することができ、設計の自由度を向上することができる。また発熱体32を収容する溝51を形成しなくともよい。乗員が接触しない部分、たとえばシートクッション14の端部に発熱体32を収容するように構成してもよい。
【0051】
また前述の第1実施形態では、異方性熱伝導シート31は、矩形状であるが、矩形状に限るものではなく、他の形状であってもよい。たとえば、乗員の着座する領域が尻部の形状にあわせて略円形状であってもよい。
【0052】
また前述の第1実施形態では、発熱体32および接触部42は、2つであったが、2つに限るものではなく、第2実施形態のように3つであってもよく、1つまたは4つ以上であってもよい。さらにシートバック13およびシートクッション14の両方にシートヒータ12が内蔵されているが、いずれか一方であってもよい。
【0053】
また前述の第1実施形態では、ヒータ付座席10は、車両に搭載される座席11であるが、車両に限るものではなく、電車および飛行機などに搭載される座席であってもよい。
【符号の説明】
【0054】
10…ヒータ付座席
11…座席
12…シートヒータ
13…シートバック
14…シートクッション
21…表皮
22…ヒータ部材
23…クッション部材(緩衝部)
24…構造部材
31…異方性熱伝導シート(熱伝導シート)
31a…発熱面
32…発熱体
33…給電配線
41…積層部
42…接触部
51…溝
52…吊込溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が座席(11)に着座する際に前記使用者に接触する表皮(21)と、
前記表皮の内側に設けられ、柔軟性を有する緩衝部(23)と、
柔軟性および熱伝導性を有するシート状の熱伝導シート(31)と、
前記表皮の内側に設けられ、前記熱伝導シートの厚み方向に交差する方向に延び、発熱する長手状の発熱体(32)と、を含み、
前記熱伝導シートは、
厚み方向への熱伝導率よりも、厚み方向に直交する平面方向への熱伝導率が大きく、
前記表皮の内側に積層されて、前記表皮と前記緩衝部との間に設けられる積層部(41)と、
前記積層部と一体に構成され、前記発熱体と接触する接触部(42)と、を有し、
前記接触部は、前記積層部における前記表皮に積層されている厚み方向一方側の面(31a)に連なる面が、前記発熱体の外周面を囲んで前記発熱体の外周面に少なくとも一部に接触していることを特徴とするヒータ付座席。
【請求項2】
前記緩衝部において前記表皮側に位置する面には、前記表皮とは反対側に凹となる溝(51)が形成され、
前記接触部および前記発熱体は、前記溝に収容されることを特徴とする請求項1に記載のヒータ付座席。
【請求項3】
前記熱伝導シートは、平面方向への熱伝導率が、厚み方向への熱伝導率の30倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒータ付座席。
【請求項4】
前記溝には、さらに前記表皮が掛け止められることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のヒータ付座席。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−96560(P2012−96560A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243235(P2010−243235)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】