説明

ピストンリング上にコーティング層を生成するための方法およびピストンリング

ピストンリング本体の外周面上にコーティング層を生成するための方法において、複数の層を重ね合わせて外周面に付与することによる方法であって、プロセスガスへ窒素を添加することなく、PVD法により先ず最初にCrベースの少なくとも1層の金属性接着層を外周面に付与し、続いて、接着層の上にCrN勾配層を形成するため、窒素分圧を引き上げながら窒素をプロセスガスへ添加し、最後にCrN、Cr2Nまたは両相からの混合体をベースとする一定組成の少なくとも1層の被覆層を勾配層の上に付与する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンリング本体の外周面上にコーティング層を生成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムおよび少なくとも1種の窒化クロムを含む、支持材上に形成された耐摩耗性被覆はDE−C 41 12 422から公知になっている。被覆の窒素濃度は、支持材と被覆との間の界面から被覆外表面の方向へ連続的に増加している。被覆は、Cr2NとCrNからの混合体を主要成分として含む、外表面に隣接する領域を有している。被覆には、代替案としてクロムを含ませることができる。耐摩耗性の被覆は、例えば滑り摩擦の影響下に置かれているピストンリングなどの部材に付与することができる。
【0003】
US−A 5851659では、滑作動体およびこの種の滑作動体の形成方法が論じられているが、そこでは、滑作動体にCr2Nをベースとする有孔率1.5〜20%の層が付与されている。その場合、窒化クロムの結晶はコーティング層表面に平行な方向に揃えられている。なお、コーティング層の窒化クロムにはCrN、Cr2Nまたは両相からの混合体を含ませることができる。
【0004】
DE−Gbm 296 95 666では燃焼室領域の部材のことが、それも真空過程で少なくともその1つの面に沈積させた、金属不含の無定形炭素層から成る、層厚全体にわたってその硬度推移が段階付けられているコーティング層を持つ部材のことが論じられている。この場合コーティング層はCVDプロセスで付与されるが、なお、段階付けは工程パラメータによって調整可能である。
【0005】
特にピストンの第1溝において使用されるピストンリングには、要求される耐用期間(Lebensdauer)が実現されるように、前記の技術レベルから推察できるような層が、とりわけ摩滅保護層が付与される。シリンダ圧力の増大、直接噴射、排気ガスの再循環およびエンジンの新規開発によるその他の構造的特徴、あるいはまたオイル消費量の最少化により、ピストンリングには従来のピストンリングコーティングでは要求される耐用期間を期待することはもはや保証し得ないほどの負担がかかる。
【0006】
窒化クロムをベースとし、一部に酸素および/または炭素の添加を伴う薄層技術によるピストンリングコーティングは現状技術から公知になっている。そのような層は良好な強度特性および燃焼痕跡特性を有している。摩損値を維持したままで、特に、高負荷のディーゼルエンジンにおいて耐用期間の要求を叶えるためには、薄層技術の典型よりは厚い層を生成しなければならない。層厚は、厚さが増すに従って増大する層内の拘束応力(Einspannung)により制限される。それが原因で、コーティング層に亀裂および/または剥落(Abplatzen)の発生することがある。特にDE−C 41 12 422に描かれたコーティング層の場合では、摩損特性の時系列的連続性は確認できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明では、上記のようなエンジン負荷があってもエンジンの全耐用期間中を通して、それ自体の機能を十分に果たすピストンリング被覆層(コーティング層)を生成させることのできる、ピストンリング本体の外周面上にコーティング層を生成するための方法を提供することを基本課題に置いている。それに加え、前記の欠点を持たない、且つ高負荷エンジンの場合にはエンジンの全耐用期間を通じて十分な機能性を維持し得るだけの沈積層厚の形成できる層を薄層技術の使用下で生成することも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、ピストンリング本体の外周面(Umfangsflaech)上にコーティング層を生成するための方法において、複数の層を積層して外周面に付与することによる方法であって、プロセスガス(Prozessgas)へ窒素を添加することなく、PVD法により先ず最初にCrベースの少なくとも1層の金属性接着層を外周面に付与し、続いて、接着層の上にCrN勾配層を形成するため、窒素分圧を引き上げながらプロセスガスへ添加し、最後にCrN、Cr2Nまたは両相からの混合体をベースとする一定組成の少なくとも1層の被覆層(外層)を勾配層の上に付与する方法によって解決される。
【0009】
本発明の上記対象物に関する有利な改良形態は方法についての従属請求項から読み取ることができる。
【0010】
この課題は、外周面に複数の層が積層されて付与されている本体から成るピストンリングであって、外周面の方に向いた接着層がCrベースのPVD接着層であり、接着層の上にCrから始まりCr/Cr2N混合体、Cr2N、Cr2N/CrN混合体を経てCrNに至るまでの層組成を持つPVD−CrN勾配層が付与され、CrN勾配層の上にCrN、Cr2Nまたは両相からの混合体をベースとする一定組成の少なくとも1層の被覆層が付与されている、本体から成るピストンリングによっても同様に解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に基づくピストンリングの有利な改良形態は当該対象に関する従属請求項から読み取ることができる。
【0012】
上記のように、部分的に段階付けられた層構造を持つ、PVD法で付与されるCrNベースの層が提案される。PVD法で沈積させ得る多数の硬質層系のうちCr/N系は比較的に残留応力(Eigenspannung)の小さいことで秀でている。他の層では、発生した残留応力が層を損傷するまでに生成される層の厚さは数μmにしか達しないが、CrN層の場合ではそれより明かに厚みのある塗布層を形成することができる。しかし、特にディーゼルエンジンの耐用期間の観点からは現在30〜50μmの層厚が必要であるが、その場合従来のコーティングでは発生した残留応力がピストンリング基材における層の剥落または亀裂を惹き起こすことがある。
【0013】
層厚の増したCr/N系内の残留応力は、本発明に基づき、ランプ関数(Rampenfunktion)で表される勾配層内の窒素含有量を高めることによって減少させる。本発明に基づく層はピストンリングの基材から始まって次の順序で構成されている:
基材−Cr接着層−CrN勾配層−CrN被覆層
Cr/N層系内にはCr2N(33原子%のN)およびCrN(50原子%のN)を伴う含む金属性Crのほかに2つの窒化物が存在する。PVD工程における窒素分圧の調整如何に応じて様々な相または混合相が形成される。
【0014】
被覆工程では、先ず最初に、プロセスガスへ窒素を添加することなく層厚<1μmの金属性Cr層を沈積させる。続いて、プロセスガスに窒素を添加するが、それにより窒素分圧は連続的に高められる。その場合勾配層内の層組成はCrから始まってCr/Cr2N混合体、Cr2N、Cr2N/CrN混合体を経てCrNへと変化している。続いて、一定の組成を持つ被覆層を沈積させる。この場合、CrN、Cr2Nまたは両相からの混合体とすることができる。
【0015】
驚いたことに、層全体の厚さが30〜50μmとして、層に剥落や亀裂がもはや発生することがないように残留応力を低下させる場合、勾配層の厚さは3〜5μmで十分であることが明らかになった。
【0016】
図面には本発明の対象を実施例に基づいて描いてあるが、以下ではその内容を説明する。
図面の簡単な説明
図1は、ピストンリング本体およびその上に付与された作動面コーティング層の横断面である。
【0017】
図2は、図1に描かれた作動面コーティング層におけるCr/N濃度構成の断面図である。
【0018】
図1は、作動面を形成する外周面3の設けられた基体2を含むピストンリング1の切断面を示している。本例では外周面3の上に3つの層4、5、6がPVD法によって付与されている。本例では層4はCrベースの接着層で形成され、層厚は0.5μmとなっている。
【0019】
接着層4の上には同様にPVD法により層厚3μmのCrN勾配層5を付与した。CrN勾配層5内の層組成はプロセスガスへの窒素添加により変化させ、Crから始まりCr/Cr2N混合体、Cr2N、Cr2/CrN混合体を経てCrNに至るまでの沈積(付着)が調整できるようにした。
【0020】
CrN勾配層5の上に、一定の組成を持つ層厚30μmの被覆層6を同じくPVD法により付与した。その組成はCrNである。Cr2Nまたは両相からの混合体も同様にその対象として考えられる。
【0021】
一例にかかる試験では層全体の厚さを30μmとしてピストンリング1上にCrN層を沈積(付着)させた。一例では、先ず最初に、0.5μmのCr接着層を、他の一例では同じ厚さのCr接着層と、それに加えて厚さ3μmの勾配層を付与した。勾配層の追加された変形層は、勾配層なしの層に比べて半分の圧縮残留応力(Druckeigenspannung)しか示さなかった。
【0022】
図2は図1に描かれたコーティング層における濃度構成の断面を示している。CrおよびNの含有量は原子%で、層厚はμmで示されている。コーティング工程では、先ず最初に、プロセスガスへ窒素を添加することなく、金属性Cr層(接着層4)を沈積(付着)させる。層厚の増したCr/N系内の残留応力は、本発明に基づき、ランプ関数で表されるCrN勾配層5の窒素含有量を高めて窒素がプロセスガスに添加されるようにすることによって減少させる。その場合本例では窒素分圧が連続的に高められる。その場合CrN勾配層5内の層組成はCrから始まりCr/Cr2N混合体、Cr2N、Cr2N/CrN混合体を経てCrNへと変化している。続いて、一定の組成を持つ被覆層6を沈積させるが、その組成はCrNである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ピストンリング本体およびその上に付与された作動面コーティング層の横断面である。
【図2】図1に描かれた作動面コーティング層におけるCr/N濃度構成の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンリング本体(2)の外周面(3)上に被覆層を生成するための方法において、複数の層(4、5、6)を積層して前記外周面(3)に付与することによる方法であって、プロセスガスへ窒素を添加することなく、PVD法により先ず最初にCrベースの少なくとも1層の金属性接着層(4)を前記外周面(3)に付与し、続いて、前記接着層(4)の上にCrN勾配層を形成するため、窒素分圧を引き上げながら窒素をプロセスガスへ添加し、最後にCrN、Cr2Nまたは両相の混合体をベースとする一定組成の少なくとも1層の被覆層(6)を前記CrN勾配層(5)の上に付与する方法。
【請求項2】
前記窒素分圧の引き上げがランプ関数により行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記窒素分圧の引き上げが連続的に行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記CrN勾配層(5)内の層組成がCrから始まってCr/Cr2N混合体、Cr2N、Cr2N/CrN混合体を経てCrNへと変化していることを特徴とする請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
前記接着層(4)が0.1〜1μmの層厚で生成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記CrN勾配層(5)が1〜8μmの層厚で生成されることを特徴とする請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
前記被覆層(6)が10〜80μmの層厚で生成されることを特徴とする請求項1から6の一項に記載の方法。
【請求項8】
層全体の厚さが30〜50μmである場合、CrN勾配層(5)が2〜6μm、接着層(4)が<0.6μmの層厚で生成されることを特徴とする請求項1から7の一項に記載の方法。
【請求項9】
複数の層(4、5、6)がその外周面(3)に積層されて付与されている本体(2)から成るピストンリングであって、前記外周面(3)の方に向いた前記接着層(4)がCrベースのPVD接着層であり、前記接着層(4)の上にCrから始まりCr/Cr2N混合体、Cr2N、Cr2N/CrN混合体を経てCrNに至るまでの層組成を持つCrN勾配層(5)が付与され、前記CrN勾配層(5)の上にCrN、Cr2Nまたは両相からの混合体をベースとする一定組成の少なくとも1層の被覆層(6)が付与されている本体から成るピストンリング。
【請求項10】
前記接着層(4)が0.1〜1μmの層厚を有していることを特徴とする、請求項9に記載のピストンリング。
【請求項11】
前記CrN勾配層(5)が1〜8μmの層厚を有していることを特徴とする、請求項9または10に記載のピストンリング。
【請求項12】
前記被覆層(6)が10〜80μmの層厚を有していることを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載のピストンリング。
【請求項13】
層全体の厚さが30〜50μmである場合、前記接着層(4)が<0.6μmおよび前記CrN勾配層(5)が2〜6μの層厚を有していることを特徴とする請求項9から12のいずれか一項に記載のピストンリング。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−505251(P2008−505251A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519606(P2007−519606)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001103
【国際公開番号】WO2006/005288
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(398071439)フェデラル−モーグル ブルシャイト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (28)
【Fターム(参考)】