説明

ファイバ及びその製造方法

【課題】小さな曲率半径で曲げても折れたり、損失が増大したり、損失が変動したり、光伝送波形が乱れたりすることがないファイバ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明のファイバは、断面円形状で長尺のSiOガラスファイバの長手方向に設けられた中空断面内に、Fを添加した又は添加しないSiOガラス製の断面が円形状あるいは矩形状の低屈折率ガラス層と、その中心部に設けられた、屈折率を高めるための添加物が添加されたSiOガラス製の断面円形状のコア層とを有し、該低屈折率ガラス層の外周部が少なくとも3箇所で該中空断面の内表面に接し、他の部分が空隙で覆われた構造からなり、該低屈折率ガラス層が、該コア層外周を取り囲む少なくとも6個の空孔を有していることを特徴とするファイバである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2mm以下の曲率半径で曲げたり、結んだりして配線が容易に出来る、いわゆる小さな曲げに対して機械的強度に優れ、かつ光学的特性も良好なファイバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバ通信の発展、普及に伴い、ファイバには電線と同様に小さな曲げ半径で曲げたり、結んだりすることが出来る性能が要求されるようになってきた。このような要求に対して、少しずつ新しい構造のファイバが出現して来るようになってきた。その一つとして、図18に示すようなファイバが提案され、製品化されている。これは、ファイバの中心の高屈折率コア層を覆っている低屈折率のクラッド層内に、該コア層の外周を取り囲むように複数の空孔を設けた構造である。
【0003】
またその改良品として、図19に示すようなファイバも開発されている。これも上記と同様にコア層の外周を取り囲むようにクラッド層に複数の空孔を設け、その空孔のサイズと配置を工夫した構造である。
【0004】
更にその応用のファイバとして図20に示すようなファイバも提案されている。これは高屈折率コア層をクラッド層内に複数個設け、上記各コア層の外周を取り囲むように複数の空孔を設けたマルチコアファイバ構造である。そしてこれらに関する特許出願として13件(WO2006/006604、特開2004-117498号公報、特開2004-226539号公報、特開2005-003821号公報、特開2005-024851号公報、特開2005-337845号公報、特開2005-345805号公報、特開2006-069871号公報、特開2006-083037号公報、特開2008-015338号公報、特開2008-129335号公報、特開2010-014893号公報、特開2010-055028号公報(特許文献1〜13))がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2006/006604
【特許文献2】特開2004-117498号公報
【特許文献3】特開2004-226539号公報
【特許文献4】特開2005-003821号公報
【特許文献5】特開2005-024851号公報
【特許文献6】特開2005-337845号公報
【特許文献7】特開2005-345805号公報
【特許文献8】特開2006-069871号公報
【特許文献9】特開2006-083037号公報
【特許文献10】特開2008-015338号公報
【特許文献11】特開2008-129335号公報
【特許文献12】特開2010-014893号公報
【特許文献13】特開2010-055028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、従来のファイバはかなり小さな曲げ半径で曲げたり、結んだりすることが出来る性能を実現することができるようになってきた。しかし電線のように自在に扱えるようにするには更に特性を改善する必要があった。すなわち、2mm前後の小さな曲率半径でファイバを曲げたり、結んだり、捻ったりすると、ファイバはいずれもガラス材料で構成されているので、ファイバが折れたり、損失が増大したり、損失が変動したり、ファイバ内を伝送する光伝送波形が乱れたりするという課題があった。
本発明が解決しようとする課題は、小さな曲率半径で曲げても折れたり、損失が増大したり、損失が変動したり、光伝送波形が乱れたりすることがないファイバ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず第1の発明は、外形断面円形状で長尺のSiOガラスファイバの中空断面内に、Fを添加した又は添加しないSiOガラス製の外形断面が円形状あるいは矩形状の低屈折率ガラス層と、その中心部に設けられた、屈折率を高めるための添加物が添加されたSiOガラス製の外形断面円形状のコア層とを有し、該低屈折率ガラス層の外周部が少なくとも3箇所で該中空断面内表面に接し、他の部分が空隙で覆われた構造からなり、該低屈折率ガラス層が、該コア層外周を取り囲む少なくとも6個の空孔を有していることを特徴とするファイバである。
【0008】
前記ファイバにおいては、前記SiOガラスファイバの中空断面形状が矩形、円形、あるいは三角形のいずれかであることが好ましい。
【0009】
また、前記低屈折率ガラス層がFを添加しないSiOガラスから成るときは、前記コア層の外周を覆う、Fを添加したSiOガラス製の中間層を設けるとよい。
【0010】
さらに、前記低屈折率ガラス層の外周に、Fを添加したSiOガラス製の薄層を設け、該薄層の外周部が少なくとも3箇所で前記中空断面内表面に接し、他の部分が空隙で覆われるようにしてもよい。
【0011】
また本発明のファイバは、前記SiOガラスファイバの前記中空断面内に、少なくとも2個の前記低屈折率ガラス層が該中空断面内表面に接するように配置され、各低屈折率ガラス層の中心部に前記コア層と、コア層の外周を取り囲む少なくとも6個の空孔を有していることを特徴とするファイバである。
【0012】
さらに本発明のファイバは、前記低屈折率ガラス層が、少なくとも2個の前記コア層と、該それぞれのコア層の外周を取り囲む少なくとも6個ずつの空孔を有していることを特徴とするファイバである。
【0013】
上述の本発明のファイバにおいては、前記屈折率を高めるための添加物を、GeO、P、TiO、Al、BaO、B、ZrO、Nのうちの少なくとも1種にするとよい。
【0014】
また、本発明のファイバ製造方法は、断面が矩形状、三角形状及び円形状のいずれかの中空部を有する、外形断面円形状のSiOガラス管を製造する第1の工程、
中心孔とその外周に空孔を設けた低屈折率層用のSiOガラス母材を製造する第2の工程、
上記SiOガラス母材の中心孔に、コア用SiO-GeOガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造する第3の工程、
上記第1の工程で得たSiOガラス管の中空部に上記第3の工程で得た内部用プリフォームを挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程、
上記ファイバプリフォームを線引きしてファイバを製造する第5の工程からなることを特徴とするファイバの製造方法である。
【0015】
上記ファイバの製造方法において、前記第1の工程で得たSiOガラス管の中空部の断面が三角形状であるときは、
前記第4の工程において、前記SiOガラス管の断面三角形の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所で該中空部の内表面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造することが好ましい。
【0016】
また、前記第1の工程で得たSiOガラス管の中空部の断面が円形状であるときは、
前記第2の工程において、外形断面が矩形状の前記SiOガラス母材を製造し、
前記第4の工程において、前記SiOガラス管の断面円形状の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所で該中空部の内表面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明のファイバの製造方法は、前記第3工程で前記SiOガラス母材の中心孔に挿入する前記コア用SiO−GeOガラスロッドが、その外周に、Fを添加したSiO2ガラス製の薄層を有することを特徴とする。
【0018】
さらにまた、本発明のファイバの製造方法は、前記第2の工程で得た前記SiOガラス母材の外周に、Fを添加したSiOガラスの薄層を形成する工程を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明のファイバの製造方法は、前記第5の工程において、前記ファイバプリフォーム内の空隙内の圧力を制御してプリフォームを延伸してファイバを線引きすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は下記に示すような効果を有している。
【0021】
本発明のファイバは、外形断面円形状で長尺のファイバからなるSiOガラス(これを第3クラッド層という。)の中空断面内にFを添加した又は添加しないSiOガラス製の断面が円形状あるいは矩形状の低屈折率ガラス層(これを第1クラッド層という。)を有し、該低屈折率ガラス層の外周の少なくとも3箇所が該中空断面の内表面に接し、該低屈折率ガラス層の外周の大部分が空隙(これを第2クラッド層という。)で覆われた構造からなり、該低屈折率ガラス層の中心部に屈折率を高めるための添加物を添加したSiOガラス製の断面円形状のコア層を有し、該コア層外周を取り囲むように空孔を少なくとも6個有していることを特徴とするファイバである。従来のクラッド層は大きな断面積を有するSiOガラス層で構成されているが、本発明のクラッド層は断面積の小さな外形断面円形状あるいは矩形状の第1クラッド層と大きな断面積の空隙(第2クラッド層)とSiOガラスファイバ(第3のクラッド層)で構成されている。
【0022】
すなわち、本発明のクラッド層は、その断面の中に従来のファイバには無い、広い面積を有する空隙を持った構造である。そして本発明の第1クラッド層の面積は従来のファイバのクラッド層の面積に比して小さいことと、クラッド層全体のガラス層の面積が小さいことを特徴とする。そのために本発明のファイバは小さな曲げ半径で曲げることができるとともに曲げに柔軟な構造であり、結果的に従来のファイバに比して機械的な曲げ強度に強く、より小さな曲率半径で曲げることが出来る。また小さな曲率半径で曲げた際のコア層からクラッド層に漏れる光信号が従来のファイバではクラッド層全体に漏れてファイバの損失増加と損失変動を生じさせるが、本発明のファイバでは大きな面積の空隙があることと3つのクラッド層から構成される等価的なクラッド層の屈折率が従来のクラッド層が一層の場合に比して大幅に低くなるので、コア層内への光信号の閉じ込めが強まり、光信号の第1クラッド層への漏れを大幅に抑える事が出来、かつ損失増加とその損失変動も小さく抑えることができる。
【0023】
また本発明のファイバの比屈折率差を従来のファイバの比屈折率差と同じにすれば、コア層への屈折率を高める添加物の量を減らすことが出来るので、それによるコア層の軟化温度を第1クラッド層の軟化温度に近づけることが出来、ファイバの製造が容易になると共に、ファイバの構造(特に空孔や空隙の形状、サイズ)をより均一に製造することが出来る。またファイバの構造不整による損失も低減することが出来る。なお本発明において、屈折率を高める添加物を添加したSiOガラスとして、GeO、P、TiO、Al、BaO、B、ZrO、Nなどを少なくとも1種添加したSiOガラスを用いることができる。また上記ガラスに希土類元素(例えば、Er、Yb、Nd、La、Ho、Pr、Sm、Tm、Euなど)を少なくとも1種添加したものを用いることにより、光増幅器やレーザーをより小さな面積にて実装して小型に作ることができる。
【0024】
次に第2の発明は、SiOガラスファイバの中空断面が矩形か円形、あるいは三角形からなることを特徴とするファイバである。このような構造にしておくと、まずSiOガラスファイバの中空断面が矩形の場合には、断面円形構造の第1クラッド層を第3クラッド層(SiOガラスファイバ)の内面に4箇所で接するように構成することにより、第1クラッド層と第3クラッド層との間の大部分は空隙となり、第1クラッド層は対称的に安定に保持されるので、ファイバの曲げ方向に関係なく良好な機械的強度と光学的特性を得ることが出来る。
次にファイバの中空断面が三角形の場合には、断面円形構造の第1クラッド層と第3クラッド層との間の空隙をより広く取ることが出来、より安定した良好な機械的強度と光学的特性を得ることが出来る。そしてSiOガラスファイバの中空断面が円形の場合にも、第1クラッド層の外形断面が矩形状構造のものを第3クラッド層の内面に4箇所で接するように構成することにより、第1クラッド層と第3クラッド層との間の大部分は空隙となり、第1クラッド層を対称的に安定に保持することが出来る。
【0025】
第3の発明は、低屈折率ガラス層にSiOガラス層を用いた場合にはコア層を覆うようにFを添加したSiOガラスの中間層を設けたことを特徴とするファイバであるが、これは低損失ファイバを実現する上で極めて重要な構造である。すなわち、後述するように、本発明のファイバを製造するとき、中心孔とその外周に空孔を設けた第1クラッド用SiOガラス母材を製造する工程の後に上記母材中心孔にコア用ガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造するので、その際にVAD(Vapor phase Axial Deposition)法、あるいはMCVD(Modified Chemical Vapor phase Deposition)法でコア層を作成した直後に連続的にその外周にFを添加したSiOガラスの薄層を成膜しておけば、コア層とFを添加したSiOガラスの薄層との界面の構造不整による損失増加を大幅に抑えたコア用ガラスロッドを得る事が出来、上記母材中心孔にコア用ガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造する工程での損失増加を抑えることが出来る。
【0026】
また低屈折率ガラス層(第1クラッド層)の外周にFを添加したSiOガラスの薄層を有し、該薄層の外周の少なくとも3箇所が該中空断面内表面に接し、該低屈折率ガラス層の外周の大部分が空隙で覆われたファイバ構造とすることにより、第1クラッド層の外周にFを添加したSiOガラスの薄層があることによって小さな曲率半径でファイバを曲げた場合の第1クラッド層に漏れた光信号によって第1クラッド層外周表面の不均一な表面状態がある場合に生ずる損失が変動するのを抑えることができる。
【0027】
また本発明のファイバは、長尺のSiOガラスファイバの中空断面内にFを添加した又は添加しないSiOガラス製の外形断面円形状あるいは矩形状の低屈折率ガラス層が少なくとも2個、該中空断面内表面に接し、該低屈折率ガラス層の外周の大部分が空隙で覆われ、該それぞれの低屈折率ガラス層の中心部に屈折率を高めるための添加物を添加したSiOガラス製の断面円形のコア層を有し、該それぞれのコア層の外周を取り囲むように空孔を少なくとも6個有していることを特徴とする。このようにすることによって長尺のファイバ内に複数個の信号伝送用ファイバが内蔵された構造を実現することができるので、一度に多くの情報量を並列に伝送することが出来る。これにより大幅な経済効果を期待することができる。また個別のファイバを複数本並べて用いる場合に比してもファイバの集合費用、敷設費用などの点でも経済的に有利である。
【0028】
また長尺のSiOガラスファイバの中空断面内にFを添加した又は添加しないSiOガラス製の断面円形状あるいは矩形状の低屈折率ガラス層を有し、該低屈折率ガラス層が該中空断面内表面に接して該低屈折率ガラス層の外周の大部分が空隙で覆われ、該低屈折率ガラス層内に少なくとも2個のコア層を有し、該それぞれのコア層の外周を取り囲むように空孔を少なくとも6個有していることを特徴とするファイバとすることにより、小さいファイバ断面内に一度に少なくとも2つの情報を伝送することが出来る。また広い面積の空隙の存在により、機械的にも光学的にも曲げに強いマルチコアファイバを実現することができる。
【0029】
本発明の第1のファイバ製造方法は、断面矩形状の中空部を有し、外形断面が円形のSiOガラス管を製造する第1の工程、中心孔とその外周に空孔を設けたクラッド用SiOガラス母材を製造する第2の工程、上記母材の中心孔にコア用SiO‐GeOガラスロッドの挿入による内部用プリフォームを製造する第3の工程、上記第1の工程で得たSiOガラス管の断面矩形状の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所が上記中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程、上記ファイバプリフォームを線引きしてファイバを製造する第5の工程からなるファイバの製造方法である。
まず断面矩形状の中空部を有し、外形断面が円形のSiOガラス管を製造する第1の工程はゾルゲル法、あるいはスラリーキャスト法を用いて製造する。ゾルゲル法、あるいはスラリーキャスト法を用いれば断面矩形状の中空部を有し、外形断面が円形のSiOガラス管を高寸法精度で製造することが出来る。
また中心孔とその外周に空孔を設けたクラッド用SiOガラス母材を製造する第2の工程もゾルゲル法、あるいはスラリーキャスト法を用いて製造する。またコア用SiO‐GeOガラスロッドはVAD法を用いて高透明度ガラスロッドを製造することが出来る。そして上記母材中心孔に上記コア用SiO‐GeOガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造する第3の工程も実施することが出来る。そして上記第1の工程で得たSiOガラス管の断面矩形状の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所が上記中空部の内面に接するように挿入すればファイバプリフォームを製造することが出来る。上記ファイバプリフォームを線引きしてファイバを製造することが出来る。この製造方法の特徴は、ゾルゲル法、あるいはスラリーキャスト法を用いることによって断面矩形状の中空部を有し、外形断面が円形のSiOガラス管を容易に製造することが出来、また中心孔とその外周に空孔を設けたクラッド用SiOガラス母材も製造することが出来る点である。
【0030】
本発明の第2のファイバ製造方法は、第1の工程において断面矩形ではなくて三角形の中空部に変えたことと、第4の工程において上記第1の工程で得たSiOガラス管の断面三角形の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所が上記中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程としたことを特徴とするファイバの製造方法である。上記断面三角形の中空部を有するSiOガラス管もゾルゲル法、あるいはスラリーキャスト法で高寸法精度に製造することが出来るので、この三角形の中空部内に内部用プリフォームを少なくとも3箇所が上記中空部の内面に接するように挿入させることが出来る。
【0031】
本発明の第3のファイバ製造方法は、第1の工程において断面矩形ではなくて円形の中空部に変えたことと、第2の工程において中心孔とその外周に空孔を設けたクラッド用SiOガラス母材の断面の外形を矩形に変えたことと、第4の工程において上記第1の工程で得たSiOガラス管の断面円形の中空部に第3の工程で得た断面の外形が矩形の内部用プリフォームを少なくとも3箇所が上記中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程としたことを特徴とするファイバの製造方法である。上記中心孔とその外周に空孔を設けたクラッド用SiOガラス母材の断面の外形が矩形構造のものはゾルゲル法で高寸法精度に製造することが出来る。また断面円形のSiOガラス管はゾルゲル法でも製造することが出来るが、市販のSiOガラス管を用いてもよい。
【0032】
本発明の第4のファイバ製造方法は、第3工程の母材中心孔に挿入するコア用SiO‐GeOガラスロッドの外周にFを添加したSiOガラスの薄層を形成したものを挿入することを特徴とするファイバの製造方法である。上記母材中心孔に挿入するコア用SiO‐GeOガラスロッドの外周にFを添加したSiOガラスの薄層を形成したものはVAD法、あるいはMCVD法で製造することが出来る。
【0033】
本発明の第5のファイバ製造方法は、第2の工程におけるクラッド用SiOガラス母材の外周にFを添加したSiOガラスの薄層を形成した母材を製造することを特徴とするファイバの製造方法である。上記クラッド用SiOガラス母材の外周にFを添加したSiOガラスの薄層を形成した母材もVAD法、あるいはMCVD法で製造することが出来る。
【0034】
本発明の第6のファイバ製造方法は、第5の工程において、プリフォーム内の空隙内の圧力を制御してファイバを線引きして製造する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)、(a)のA−A断面内屈折率分布(c)。
【図2】本発明の第2実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図3】本発明の第3実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図4】本発明の第4実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図5】本発明の第5実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図6】本発明の第6実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図7】本発明の第7実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図8】本発明の第8実施例に係るファイバの正面断面図(a)、側面図(b)。
【図9】本発明の第9実施例に係るファイバの正面断面図。
【図10】本発明の第10実施例に係るファイバの正面断面図。
【図11】本発明の第11実施例に係るファイバの正面断面図。
【図12】本発明の第12実施例に係るファイバの正面断面図。
【図13】本発明の第13実施例に係るファイバの正面断面図。
【図14】本発明の第14実施例に係る第1のファイバ製造方法のフローチャート。
【図15】本発明の第15実施例に係る第2のファイバ製造方法のフローチャート。
【図16】本発明の第16実施例に係る第3のファイバ製造方法のフローチャート。
【図17】本発明の第17実施例に係る第4のファイバ製造方法のフローチャート。
【図18】従来のファイバの例。
【図19】従来のファイバの例。
【図20】従来のファイバの例。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明のいくつかの実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0037】
図1に本発明のファイバに関する第1の実施例を示す。この図はファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図、(c)は(a)のA−A断面内屈折率分布である。このファイバ1は、中空断面を有し、該断面の外形が略円形状で長尺のSiOガラスファイバ2(以下、これを第3クラッド層2とする。)の矩形状中空断面内に、中心部がGeOを添加したSiOガラス製の外形断面円形状のコア層3からなり、該コア層3の外周が、外形断面が円形状のSiOガラス層4(これを第1クラッド層とする。)で覆われ、該第1クラッド層4内に該コア層3の外周を取り囲むように空孔5を8個有し、該第1クラッド層4の外周の4箇所の接触部61〜64で前記矩形状の中空断面の内表面に接し、前記第1クラッド層4の外周の大部分が空隙7(これを第2クラッド層7とする。)で覆われた構造である。
【0038】
本実施例に係るファイバ1の最大の特徴は、SiOガラス製の第1クラッド層4の外周の大部分を空隙7(第2クラッド層)で覆い、その空隙7の外周をSiOガラスからなる中空断面の第3クラッド層2で構成したことにある。つまり、本実施例のファイバ1のクラッド層は、第1クラッド層4、第2クラッド層7(空隙)、第3クラッド層2の3つの層から成る。これにより、まず第1クラッド層4を従来のファイバよりも小さな断面積で構成できるため、ファイバ1をより小さな曲げ半径で曲げることが出来、その機械的曲げ強度が強くなる。また第1クラッド層4の外径を小さくすることによってファイバの引張り強度も強くなる。
【0039】
次に本実施例に係るファイバ1は、クラッド層の断面のかなりの面積を第2クラッド層である空隙7が占める構造であるので、さらに機械的な曲げ強度に強く、より小さな曲率半径で曲げることが出来る。また曲率半径が小さくなればなるほど曲げたときにコア層からクラッド層に漏れる光信号が多くなるため、従来のファイバではクラッド層全体に光信号が漏れてファイバの損失増加と損失変動を生じさせるが、本実施例のファイバ1では大きな面積の空隙があるためにファイバの等価的な比屈折率差が大きくなり、これによりコア層3への光信号の閉じ込めが強くなって光信号の漏れが抑えられる。なお、コア層からわずかに漏れた光信号は第1クラッド層で抑える事が出来、いわゆる損失増加を抑え、損失変動も小さく抑え、光学的にも曲げに対して安定である。
【0040】
また同図(c)のファイバの屈折率分布で示すように、3つのクラッド層から構成されるクラッド層全体の等価的な屈折率は、空隙の存在により、クラッド層が一層の従来のファイバに比して更に低くなるので、コア層への光の閉じ込め効果もよくなり、ファイバの曲げによる損失増加を抑えることができる。第3クラッド層は第2クラッド層である空隙を形成するために設けた構成である。
【0041】
本実施例の具体的な例として、シングルモードファイバを試作した。試作例は、ファイバ1の外径を125μmに選び、ファイバのコア層3の直径を10μm、空孔5の直径を7μm、コア層3と空孔5との間隔を5μm、第1クラッド層4の直径を55μmとして、コア層3にGeOを添加したSiOガラスを用いることにより、コア層3とSiOガラスとの比屈折率差が1%となるようにコア層3のGeOの添加量を制御して作製した。この試作例は後述する作製方法で作製成した。
【0042】
試作例のファイバの損失を評価した結果、波長1.55μmにおいて0.27dB/km、波長1.3μmで0.49dB/kmであった。そして、ファイバの曲げ損失増加量を波長1.55μmで測定した結果、曲げ直径5mmで0.05dB/1ターン、曲げ直径10mmで0.003dB/1ターンであり、従来のファイバよりも半分程度に低減させることが出来た。また曲げ半径を2mmにしても破断することは無かった。これは第1クラッド層の直径を小さくすることができたことと、第1クラッド層と第3クラッド層との間に広い面積の空隙の第2クラッド層を設けたことが効果的に寄与しているためだと思われる。
【0043】
次の試作例として、ファイバ1の外径を100μmに選び、ファイバのコア層3の直径を10μm、空孔径を6μm、コア層3と空孔との間隔を3μm、第1クラッド層4の直径を40μm、コア層3とSiOガラスとの比屈折率差を1%として作成した。その結果、ファイバの曲げ損失増加量を波長1.55μmで測定した結果、曲げ直径5mmで0.04dB/1ターン、曲げ直径10mmで0.002dB/1ターンであった。この結果も第1クラッド層4の直径を小さくしたことと、第2クラッド層7である空隙の存在が効果を発揮しているためだと思われる。
【0044】
なお本実施例のファイバ1の比屈折率差は0.2%程度から3.5%程度までが好ましい範囲である。コア層3の直径は2μmから20μmの範囲が好ましい。空孔5の直径は大きい方が好ましいが、その数量に依存しており、空孔5の数量が多い場合には空孔5は小さく、数量が少ない場合には大きくするのが好ましく、3μmから10μmの範囲から選ぶのがよい。またファイバ1内の空孔5の直径は必ずしも同じである必要は無く、それぞれ異なっていてもよい。第1クラッド層4の直径は内部にコア層3と空孔5を形成するだけの面積を有していればよく、40μmから60μm程度であればよい。第1クラッド層4はFを添加したSiOガラスを用いてもよい。
【実施例2】
【0045】
図2に本発明のファイバに関する第2の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ8は、図1のファイバ1のコア層3を囲むように、Fを添加したSiOガラス層9を設けた構造である。このコア層3を囲むようにFを添加したSiOガラス層9という中間層を設けることは、低損失ファイバを実現する上で極めて重要である。
【0046】
すなわち、ファイバ8を製造するとき、中心孔とその外周に設けた空孔を有する第1クラッド用SiOガラス母材を製造する工程の後に、上記母材の中心孔にコア用ガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造するので、その際にコア層の外周にFを添加したSiOガラスの薄層(この薄層の屈折率は、Fの添加量により、SiOガラスの屈折率よりも0.05%から1.5%程度低くすることが出来る。)を形成したコア用ガラスロッドをVAD(Vapor phase Axial Deposition)法、あるいはMCVD(Modified Chemical Vapor phase Deposition)法により閉じた反応系により連続的に製造しておけば、コア層とFを添加したSiOガラスから成る中間層との界面の構造不整による損失増加を大幅に抑える事が出来る。
【0047】
具体的な試作結果を示す。ファイバ8のコア層3の直径を10μm、Fを添加したSiOガラス層9の厚みを2μm、Fを添加したSiOガラス層9の屈折率を1.452(波長0.633μmにおける値)、空孔5の直径を7μm、コア層3と空孔5との間隔を4μm、第1クラッド層4の直径を55μm、コア層3とSiOガラスとの比屈折率差を1%として作成した。ファイバ8の損失を評価した結果、波長1.55μmにおいて0.22dB/km、波長1.3μmで0.46dB/kmであり、実施例1の結果より低損失化を実現することができた。
【実施例3】
【0048】
図3に本発明のファイバに関する第3の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ10は、図1のファイバにおいて、第1クラッド層4の外周にFを添加したSiOガラス薄層11を設けた構造のファイバである。第1クラッド層4の外周にFを添加したSiOガラスの薄層11が形成されていない場合には、第1クラッド層4に漏れた光信号が第1クラッド層の外周表面の不均一な表面状態よって変動し易くなり、損失変動を生じ易くなるが、第1クラッド層4の外周にFを添加したSiOガラスの薄層11を、気相化学反応を利用して形成しておくと上記損失の変動を抑えることができる。
【0049】
具体的な試作結果を示す。ファイバ10のコア層3の直径を10μm、Fを添加したSiOガラス薄層11の厚みを2μm、その薄層11の屈折率を1.452(波長0.633μmにおける値)、空孔5の直径を7μm、コア層3と空孔5との間隔を4μm、第1クラッド層4の直径を55μm、コア層3とSiOガラスとの比屈折率差を1%として作成した。ファイバ10の損失を評価した結果、波長1.55μmにおいて0.24dB/km、波長1.3μmで0.48dB/kmであった。なお上記損失値よりも更に損失を低減するには、図2に示したように、コア層3の外周にもFを添加したSiOガラス層9を設ければよい。そうすることにより、図2示でしたファイバ8の損失よりも低くすることが出来る。
【実施例4】
【0050】
図4に本発明のファイバに関する第4の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ12は第3クラッド層13として、中空断面形状が三角形をしたSiOガラスファイバを用いた構造である。このように第3クラッド層13の中空断面形状を三角形にすることにより、円形構造の第1クラッド層4と第3クラッド層13との間の空隙14をより広く取ることが出来、そして第1クラッド層4の外周面が第3クラッド層13の内面に3箇所で接するように構成することが出来るので、第1クラッド層4と第3クラッド層13との間の大部分を広い空隙14で対称的に安定に保持することが出来る。これにより良好な機械的強度と光学的特性を得ることが出来る。
【実施例5】
【0051】
図5に本発明のファイバに関する第5の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ15は図4のファイバにおいて、第1クラッド層4の外周にFを添加したSiOガラス薄層11を設けた構造のファイバである。これは実施例3と同様に、第1クラッド層4に漏れた光信号が、第1クラッド層4の外周表面の表面不均一状態によって変動して損失変動を生じさせるのをより強く抑えさせる効果がある。
【実施例6】
【0052】
図6に本発明のファイバに関する第6の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ16は中空断面形状が円形のSiOガラスファイバ17を用いた構造である。そして第1クラッド層19として外形断面が矩形状の構造のものを用い、該第1クラッド層19の外周が第3クラッド層17の内面に4箇所で接するように構成し、第1クラッド層19と第3クラッド層17との間の大部分が空隙18で対称的に安定に保持するように構成した構造である。断面の外形が矩形状の上記第1クラッド層19のサイズは30μm角から80μm角程度が好ましい。また、第1クラッド層19の断面の外形状は正方形以外の長方形でもよい。
【実施例7】
【0053】
図7に本発明のファイバに関する第7の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ20は、円形状で長尺のSiOガラスファイバ21の中空断面形状を矩形状に形成し、その矩形状の中空断面内表面に4箇所の接触部261〜264で接するようにSiOガラス製の断面矩形状のクラッド層23を設け、そのクラッド層23の中心部にGeOを添加したSiOガラス製の円形のコア層22を設け、そのコア層22の外周を取り囲むように空孔24を6個設けた構造である。そして該クラッド層23の外周の大部分が空隙25で覆われた構造である。このファイバ20も第1クラッド層23と第3クラッド層21の間に広い面積の空隙25を取れる構造である。またファイバ20の断面構造も対称構造であるので、該ファイバ20を任意の方向に曲げても機械的な曲げ強度、曲げ損失の変動が少ない。
【実施例8】
【0054】
図8に本発明に関するファイバの第8の実施例を示す。この図もファイバの概略図を示したものである。同図(a)は正面断面図、(b)は側面図である。このファイバ27は図7のファイバのコア層22の外周にFを添加したSiOガラスの中間層28を設けた構造である。
【実施例9】
【0055】
図9に本発明に関するファイバの第9の実施例を示す。この図はファイバの正面断面図を示したものである。このファイバ29は、長尺のSiOガラスファイバ30の中空断面内に2つの外形断面円形状のSiOガラスからなる第1クラッド層4Aと4Bを有し、該第1クラッド層内それぞれの中心にGeOを添加したSiOガラスの断面円形状のコア層3A、3Bを有し、該それぞれのコア層の外周を取り囲むように空孔5を6個ずつ有した構造からなり、該第1クラッド層それぞれが該SiOガラスファイバ30の中空断面内表面に接し、該第1クラッド層それぞれの外周の大部分が空隙31(第2クラッド層)で覆われた構造のファイバである。このように一つのファイバ内に複数個の信号伝送用ファイバを内蔵した構造により、一度に多くの情報量を並列に伝送することが出来る。これにより大幅な経済効果を期待することができる。
【実施例10】
【0056】
図10に本発明に関するファイバの第10の実施例を示す。この図はファイバの正面断面図を示したものである。このファイバ32は、長尺のガラスファイバからなる第3クラッド13内の三角形の中空断面内に外形断面円形状の第1クラッド層4A、4B、4Cを有し、該第1クラッド層内それぞれの中心に、GeOを添加したSiOガラスから成る断面円形状のコア層3A、3B、3Cを有し、該コア層それぞれの外周を取り囲むように空孔5が8個ずつ設けられ、該第1クラッド層はそれぞれ該三角形状の中空断面の内表面に接するように配置された構造のファイバである。そして該第1クラッド層それぞれの外周面の大部分が空隙14(第2クラッド層)で覆われた構造である。このファイバ32は、その小さい断面内に3個のコア層を有し、各コア層内に情報を伝送することが出来るので、一度に大容量の情報を光伝送することが出来る。
【実施例11】
【0057】
図11に本発明に関するファイバの第11の実施例を示す。この図はファイバの正面断面図を示したものである。このファイバ33は長尺のSiOガラスファイバからなる第3クラッド層13内の三角形状の中空断面内に、SiOガラスから成る外形断面円形状の第1クラッド層34を該中空断面の内表面に3箇所で接するように配置させ、該第1クラッド層34内にGeOを添加したSiOガラス製の断面円形状の3個のコア層3A、3B、3Cを有し、該コア層それぞれの外周を取り囲むように空孔5を6個ずつ設けた構造である。該第1クラッド層31の外周の大部分が空隙14で覆われた構造である。本実施例では、ファイバ30の小さい断面内に一度に3種類の情報を伝送することが出来るので、これも一度に大容量伝送を行なうことが出来る。第1クラッド層31内に更に多くのコア層を設けてもよい。
【実施例12】
【0058】
図12に本発明に関するファイバの第12の実施例を示す。この図はファイバの正面断面図を示したものである。このファイバ35は長尺のSiOガラスファイバからなる第3クラッド層36内の矩形状の中空断面内に、外形断面円形状のSiOガラス製の第1クラッド層37を、該中空断面の内表面に4箇所で接するように配置させ、該第1クラッド層37内にGeOを添加したSiOガラス製の断面円形状の5個のコア層3A、3B、3C、3D、3Eを有し、該それぞれのコア層の外周を取り囲むように空孔5を8個ずつ設けた構造である。該第1クラッド層37の外周の大部分は空隙38で覆われている。本実施例では、ファイバ内に一度に5種類の情報を伝送することが出来るので、これも一度に大容量伝送を行なうことが出来る。第1クラッド層37内のコア層の数はさらに多くてもよい。
【実施例13】
【0059】
図13に本発明に関するファイバの第13の実施例を示す。この図はファイバの正面断面図を示したものである。このファイバ39は、長尺のSiOガラスファイバからなる第3クラッド層40の円形状の中空断面内に、外形断面矩形状のSiOガラス製の第1クラッド層41を該中空断面の内表面に4箇所で接するように配置させ、該第1クラッド層41内にGeOを添加したSiOガラス製の断面円形状のコア層3A、3B、3C、3D、3Eを5個有し、該コア層それぞれの外周を取り囲むように空孔5を8個ずつ設けた構造である。該第1クラッド層41の外周の大部分が空隙42で覆われている。本実施例でも、小さいファイバ断面内に一度に5種類の情報を伝送することが出来るので、これも一度に大容量伝送を行なうことが出来る。
【実施例14】
【0060】
図14に本発明の第1のファイバ製造方法を示す。この製造方法は、断面が矩形状の中空部を有し、断面の外形が円形のSiOガラス管を製造する第1の工程、中心孔とその外周に設けた空孔を有するクラッド用SiOガラス母材を製造する第2の工程、上記クラッド用SiOガラス母材の中心孔にコア用SiO-GeOガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造する第3の工程、上記第1の工程で得たSiOガラス管の断面矩形の中空部内に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所で該中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程、上記ファイバプリフォームを線引きしてファイバを製造する第5の工程からなる。この製造方法では、第2の工程において、断面の外形状が矩形、三角形或いは円形のクラッド用SiOガラス母材を製造する。
【0061】
SiOガラス管を製造する第1の工程ではゾルゲル法を用いた。これは、断面の外形が円形の金属管内の中心に断面矩形状の金属体を保持した容器の型を作成し、その容器の金属管内の前記金属体の外周にテトラエトキシシラン、バインダー、純水を含む溶液を流し込み、乾燥、硬化させた後に前記金属体及び前記金属管を脱着してSiOガラス多孔質管を形成し、その後、SiOガラス多孔質管を高温加熱し、高温での塩素処理の工程を経て断面の外形状が円形の透明なSiOガラス管を製造する方法である。
【0062】
この方法を用いると、任意の形状のSiOガラス管を正確な寸法で製造することが出来る。特に、内部に断面矩形状の中空部を有し、断面の外形が円形のSiOガラス管を製造するのに好適な製造方法である。同様に、中心孔とその外周の空孔を有するクラッド用SiOガラス母材を製造する第2の工程でも、上記ゾルゲル法により容易に該母材を製造することが出来た。またコア用SiO-GeOガラスロッドはVAD法で製造した。そして上記母材の中心孔にコア用SiO-GeOガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造する第3の工程はロッドインチューブ法で実施した。最後に上記プリフォームをファイバ線引き装置により線引きしてファイバを製造した。
【実施例15】
【0063】
図15に本発明の第2のファイバ製造方法を示す。本発明の第2のファイバ製造方法は、第1の工程において、SiOガラス管の中空部の断面形状を矩形状ではなくて三角形状に変えたことと、第2の工程において、クラッド用SiOガラス母材の断面の外形状を円形にしたこと、第4の工程において上記第1の工程で得たSiOガラス管の三角形の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所で上記中空部の内表面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程としたことを特徴とするファイバの製造方法である。
【実施例16】
【0064】
図16に本発明の第3のファイバ製造方法を示す。本発明の第3のファイバ製造方法は、第1の工程においてSiOガラス管の中空部の断面形状を矩形状ではなくて円形状に変えたことと、第2の工程において、中心孔とその外周に空孔を設けたクラッド用SiOガラス母材の断面の外形を矩形又は三角形にしたことと、第4の工程において上記第1の工程で得たSiOガラス管の円形の中空部に第3の工程で得た外形が矩形の内部用プリフォームを少なくとも3箇所で上記中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造したことを特徴とするファイバの製造方法である。
【実施例17】
【0065】
図17に本発明の第4のファイバ製造方法を示す。この製造方法は、第5の工程において、プリフォーム内の空隙内の圧力を制御してファイバを線引きする方法である。すなわち、プリフォーム内には空隙や空孔が多く設けられているので、プリフォームを2000℃以上の高温電気炉内に所望速度で送り込みながら加熱して溶融したプリフォームの一方の下端を所望速度で引き伸ばしながら線引きしてファイバ化する際に、上記空隙及び空孔内の圧力が変化することにより、上記空隙及び空孔の形状が変化する。そこで上記線引き工程(第5工程)において、プリフォームの空隙内及び空孔内の圧力を一定に保てるようにプリフォームの反対端面側からプリフォーム内に圧力をかけて線引きする方法を用いた。
【0066】
本発明は上記実施例に限定されない。例えば、図1から図13のファイバの外周は、一層あるいは複数層のプラスチック樹脂(たとえば、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂など)で覆われていてもよい。これらのプラスチック樹脂の層はファイバの線引き時、あるいはファイバのケーブル化時に形成することができる。ファイバの外周はプラスチック樹脂層と金属層の両方で覆われていてもよい。また、本発明のファイバは複数本束ねて使用してもよい。さらに、プラスチック材で被覆したファイバを変形自在な金属管(ジャバラ管)内に入れてもよい。
【0067】
円形状で長尺のSiOガラスファイバからなる第3クラッド層の中空断面形状が矩形状か三角形状である場合に、矩形や三角形の角の部分はわずかに丸まっていてもよい。また、中空断面形状が円形の場合は真円でなくてもよく、略円形であればよい。
空孔の断面形状も略円形か楕円、略矩形に近い形状でもよい。
【0068】
第1クラッド層が第3クラッド層の内面に点接触するように局部的に突型形状あるいはふくらみを持たせた構造に加工されていてもよい。
コア層に、GeO以外のTiO、Al、P、Nなどを添加して該コア層の屈折率を制御してもよい。
【0069】
また、本発明の製造方法を用いれば、テトラエトキシシラン、バインダー、純水を含む溶液に希土類元素の溶液を含ませてガラスを製造し、この希土類元素添加ガラスをコア用ロッドとすることにより、コア層に希土類元素を添加した能動的ファイバ(増幅機能や発振機能を有するファイバ)を実現することも容易である。このようなファイバも本発明に含まれる。
【0070】
ファイバ内の空隙内には気体(N、Ar、Heなど)を封入して密封しておいてもよく、液体(たとえばフッ素系のオイル)を封入して密封しておいてもよい。
本発明のファイバはシングルモードファイバ以外のマルチモードファイバにも適用することが出来る。この場合には、コア層の直径は25μmから100μmの範囲が好ましい。そして第1クラッド層は、断面円形状の場合には直径は60μmから150μm、断面矩形状の場合には60μm角から150μm角が好ましい値である。
【符号の説明】
【0071】
1、8、10、12、15、16、20、27、29、32、33、35、39…ファイバ
2…第3クラッド層
3…コア層
4…第1クラッド層
5…空孔
61、62、63、64…接触部
7…空隙(第2クラッド層)
9…中間層(Fを添加したSiOガラス層)
11…薄層
13…第3クラッド層
14…空隙(第2クラッド層)
17…第3クラッド層
18…空隙(第2クラッド層)
19…第1クラッド層
21…第3クラッド層
22…コア層
23…第1クラッド層
24…空孔
25…空孔
261、262、263、264…接触部
28…中間層
30…第3クラッド層
31…空隙
34…第1クラッド層
36…第3クラッド層
37…第1クラッド層
38…空隙
40…第3クラッド層
41…第1クラッド層
42…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形断面円形状で長尺のSiOガラスファイバの中空断面に、Fを添加した又は添加しないSiOガラス製の外形断面が円形状あるいは矩形状の低屈折率ガラス層と、その中心部に設けられた、屈折率を高めるための添加物が添加されたSiOガラス製の外形断面円形状のコア層とを有し、該低屈折率ガラス層の外周部が少なくとも3箇所で該中空断面内表面に接し、他の部分が空隙で覆われた構造からなり、該低屈折率ガラス層が、該コア層外周を取り囲む少なくとも6個の空孔を有していることを特徴とするファイバ。
【請求項2】
請求項1において、前記SiOガラスファイバの中空断面形状が矩形、円形、あるいは三角形のいずれかであることを特徴とするファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記低屈折率ガラス層がFを添加しないSiOガラスから成り、前記コア層の外周を覆う、Fを添加したSiOガラス製の中間層を設けたことを特徴とするファイバ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、前記低屈折率ガラス層の外周に、Fを添加したSiOガラス製の薄層を設け、該薄層の外周部が少なくとも3箇所で前記中空断面内表面に接し、他の部分が空隙で覆われた構造であることを特徴とするファイバ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、前記SiOガラスファイバの前記中空断面内に、少なくとも2個の前記低屈折率ガラス層が該中空断面内表面に接するように配置され、各低屈折率ガラス層の中心部に前記コア層と、コア層の外周を取り囲む少なくとも6個の空孔を有していることを特徴とするファイバ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかにおいて、前記低屈折率ガラス層が、少なくとも2個の前記コア層と、該それぞれのコア層の外周を取り囲む少なくとも6個ずつの空孔を有していることを特徴とするファイバ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかにおいて、前記屈折率を高めるための添加物が、GeO、P、TiO、Al、BaO、B、ZrO、Nのうちの少なくとも1種であることを特徴とするファイバ。
【請求項8】
断面が矩形状、三角形状及び円形状のいずれかの中空部を有する、外形断面円形状のSiOガラス管を製造する第1の工程、
中心孔とその外周に空孔を設けた低屈折率層用のSiOガラス母材を製造する第2の工程、
上記SiOガラス母材の中心孔に、コア用SiO-GeOガラスロッドを挿入して内部用プリフォームを製造する第3の工程、
上記第1の工程で得たSiOガラス管の中空部に上記第3の工程で得た内部用プリフォームを挿入してファイバプリフォームを製造する第4の工程、
上記ファイバプリフォームを線引きしてファイバを製造する第5の工程からなるファイバの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、前記第1の工程で得たSiOガラス管の中空部の断面が三角形状であるときは、
前記第4の工程において、前記SiOガラス管の断面三角形の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所で該中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造することを特徴とするファイバの製造方法。
【請求項10】
請求項8において、前記第1の工程で得たSiOガラス管の中空部の断面が円形状であるときは、
前記第2の工程において、外形断面が矩形状の前記SiOガラス母材を製造し、
前記第4の工程において、前記SiOガラス管の断面円形状の中空部に第3の工程で得た内部用プリフォームを少なくとも3箇所で該中空部の内面に接するように挿入してファイバプリフォームを製造することを特徴とするファイバの製造方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれかにおいて、前記第3工程で前記SiOガラス母材の中心孔に挿入する前記コア用SiO−GeOガラスロッドが、その外周に、Fを添加したSiO2ガラス製の薄層を有することを特徴とするファイバの製造方法。
【請求項12】
請求項8から11のいずれかにおいて、前記第2の工程で得た前記SiOガラス母材の外周に、Fを添加したSiOガラスの薄層を形成する工程を有することを特徴とするファイバの製造方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれかにおいて、前記第5の工程において、前記ファイバプリフォーム内の空隙内の圧力を制御してプリフォームを延伸してファイバを線引きすることを特徴とするファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−230156(P2012−230156A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96870(P2011−96870)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(392017004)湖北工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】