説明

フィルムの製造方法、フィルムの製造装置及び切削加工方法

【課題】
表面に交差溝からなる凹凸形状を有するフィルムの製造方法及びその装置と転写成形用のロール金型の交差溝部を高精度かつ高効率に形成する加工方法を提供する。
【解決手段】
交差する溝部の交差角度と同じ角度に2つの工具を対面するように取付け、かつ双方の工具刃先の先端部は切削するロール金型の中心軸に対してオフセットして取付けた2つの工具を用いて、ロール金型表面の交差溝部を一端より他方へ交互に切削することで、高精度かつ効率よく表面に交差した溝部を形成したロール金型でフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロール金型により表面に微細な凹凸形状を転写形成したフィルムの製造方法及びその装置と製造時に使用されるロール金型の切削加工方法に関するもので、特に微細な凹凸形状をフィルムの表面に転写して光学フィルムを製造することが可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイのバックライトなどには、光源からの光を視野方向に反射・拡散させてディスプレイを発光させるためのプラスチック製板状部品あるいはフィルム状の部品が用いられる。これらの光学部品は表面に微細な凹凸形状が形成されており、凹凸形状によって光源からの光の反射・透過方向を制御してディスプレイの視野方向に光を導くものである。これらの光学部品はプラスチックなどの樹脂成形品であり、転写原版である金型を製作し、金型より転写成形して製造される。金型表面には切削加工などにより微細な凹凸形状を形成することで、転写成形した光学部品にこれらの形状が転写されることになる。特にフィルム状の光学部品については、生産効率向上のためロール金型により連続転写成形により製造される。
【0003】
金型表面に形成される凹凸形状は、寸法形状が数十〜数百ミクロンである。また、光の損失を低減するため表面の鏡面性が必要である。このため金型の加工には、切削工具にダイヤモンドバイトを用いた超精密切削加工によって形成される。刃先形状にV字形をしたダイヤモンドバイトで切削することにより、金型表面にV字形の溝部を形成し、溝部を繰り返し切削することにより凹凸形状を形成する。また切削を複数の方向より実施し、交差させた溝部を切削することにより三角錐や四角錘状の凹凸形状を形成できる。ロール金型に上記のような溝部を形成する場合は、ロールを回転させながらダイヤモンドバイトを近づけるようにして金型表面へ切込みを行い、溝部を切削加工する。
【0004】
このような加工形態として特表2002−536702にロール金型へのV溝加工の例がある。ロール金型に螺旋状の溝部を形成する場合、ロール金型を回転させながら工具をロール金型の軸方向に移動することによって、螺旋状の溝部がロール金型表面に切削される。ロール金型1回転あたりの軸方向の工具移動量を、溝形状1本分として切削するとプリズム状の連続溝部が形成できる。この場合、ロール全体に溝部を形成するための工具軌跡は1本の螺旋軌跡となる。ここで、ロール金型に対して三角錐や四角錘などの凹凸形状を形成するには交差させた溝部を形成する必要がある。このためには、ロール金型の両端を始点として軸方向に対して45〜60°の傾斜角度を有する螺旋状の溝部を切削加工して、ロール金型の全体に溝部を形成することとなる。溝部の傾斜角度が大きくなると、溝部を切削する工具の螺旋軌跡は1本とならず、多数本の必要となる。凹凸形状における溝のピッチは数十ミクロンから数百ミクロンであり、ロール金型の直径は100mm以上あるため、螺旋軌跡の本数は数千〜2万本近くになり、螺旋軌跡を1本切削しては、開始点まで工具を戻し、次の螺旋軌跡を切削する加工手順が必要である。
【0005】
またロール状の金型を被加工材として、ロール金型の表面に微細な交差溝形状を得る手法として、特開2004−223836号に見られるような加工方法がある。これは、切削加工において一方向の溝加工を実施した後、他方側からの溝加工を実施するものである。
【非特許文献1】最新の超精密加工・成形技術と部品化プロセス技術,P19-26,2001,(株)技術情報協会
【特許文献1】特表2002−536702号公報
【特許文献2】特開2004−223836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、液晶ディスプレイのバックライトなどに光源からの光を視野方向に反射・拡散させてディスプレイを発光させるため使用されるプラスチック製板状部品あるいはフィルム状の部品などの光学部品は、表面により微細な凹凸形状が高精度に形成されることが要求されている。これらの光学部品は主にプラスチックなどの樹脂成形品であり、金型より転写成形して製造されるため、切削加工などにより微細な凹凸形状を高精度に形成した金型で、これらの形状を転写成形して光学部品を製造することが大きな課題であった。特にフィルム状の光学部品については、生産効率向上のためロール金型により連続転写成形により製造されている。
【0007】
ここでロール金型について述べると、ロール金型へ交差させた溝部を形成するには、切削する螺旋軌跡が数千〜2万本となる。その場合、加工開始位置への工具の戻し移動も螺旋軌跡の本数と同じだけ繰り返され、切削せずに工具を移動する時間が、切削加工する時間とほぼ同じく発生する。この結果、ロール金型を加工するための時間が多大となる問題があった。特に、ロール金型の直径が大きく、幅が長くなるほど加工時間は増加し、2万本の螺旋溝加工では仮に螺旋軌跡1本を1秒で加工できたとしても、約1日以上の加工時間が必要となる。通常、螺旋軌跡1本の切削時間は、前記の5〜10倍必要である。そのため、金型の加工コストが増大するほか、地震や停電などの発生により加工中の金型加工部に不良が発生するリスクも増加する。
【0008】
また多数の溝を切削するには位置割出しのために螺旋軌跡の溝部の開始部と終了部分でロール金型を回転、停止させる必要がある。傾斜角度の大きな螺旋軌跡の溝部を切削加工するには、ロール金型は数回転しか回らず、回転速度を高めることによる切削速度の向上も困難となり、加工時間の短縮化が大きな課題となっている。ここで最も効果があるのは、加工に寄与しない工具移動の時間を小さくすることが重要となる。また、切削速度を一定として考えると溝部の傾斜角度が大きくなるほど工具の軸方向の移動速度が大きくなり、装置の駆動部の発熱起因による切込み深さの精度低下が発生する。特開2004−223836号の加工方法では、切削加工において一方向の加工が終了した後他方の溝加工を実施するため、加工に寄与しない移動時間は大きい。
【0009】
また、切削軌跡を反転させる記述もあるが、ダイヤモンドバイトは1方向にしか切削する面を持たないため、切削軌跡を反転させるには工具の向きを反転させる必要がある。このための機構部を切削加工機に備えさせる必要があるが、装置が複雑化し駆動機構部が増加して工具支持剛性が低下することに起因する切削加工部の形状精度・切削面精度の低下や、工具反転移動追加による加工時間の増加の問題がある。
【0010】
これらの理由から、表面に精度のよいV字形の溝部からなる凹凸形状を有するロール金型を得て、表面上に微細な凹凸形状がより高精度に形成されたフィルムの製造が困難となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するため表面上に微細な凹凸形状が高精度に形成されるフィルムとその製造方法及び装置、また特にロール金型に対して交差させた溝部を形成する加工に適した切削加工方法とロール金型を提供するものである。
【0012】
本発明は、ロール金型により表面に交差した溝部からなる凹凸形状を転写形成したフィルムの製造方法であって、表面に未硬化の樹脂材料を塗布したフィルム部材に、加工ヘッドに前記交差する溝部の交差角度と同じ角度に対面するようにかつ前記加工ヘッドの中心軸から互いに異なる位置に取付けられた第一の工具と第二の工具とを交互に用いてそれぞれ螺旋状に切削した溝部からなる凹凸形状を形成したロール金型に前記フィルム部材を押し付け、前記凹凸形状を前記未硬化の樹脂材料の表面に転写させながら、前記未硬化の樹脂材料を硬化させて表面に凹凸形状を転写形成したことを特徴とするものである。
【0013】
また本発明のフィルムの製造方法は、前記未硬化の樹脂材料が未硬化の紫外線硬化樹脂であり、紫外線を照射して前記未硬化の紫外線硬化樹脂を硬化させることを特徴とするものである。
【0014】
また本発明は、前記フィルム製造方法により、表面に凹凸形状を転写形成したことを特徴とするフィルムである。
【0015】
また本発明は、ロール金型により表面に交差した溝部からなる凹凸形状を転写形成したフィルムの製造装置であって、フィルム部材を供給する手段と、フィルム部材の表面に未硬化の樹脂材料を塗布する手段と、加工ヘッドに前記交差する溝部の交差角度と同じ角度に対面するようにかつ前記加工ヘッドの中心軸から互いに異なる位置に取付けられた第一の工具と第二の工具とを交互に用いてそれぞれ螺旋状に切削した溝部からなる凹凸形状を形成したロール金型と、前記凹凸形状を形成したロール金型に前記フィルム部材を押し付ける手段と、前記凹凸形状を前記未硬化の樹脂材料の表面に転写させながら前記未硬化の樹脂材料を硬化させる手段とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
また本発明のフィルムの製造装置は、前記未硬化の樹脂材料を硬化させる手段が紫外線照射装置であることを特徴とするものである。
【0017】
また本発明は、ロール金型の表面に交差した溝部からなる凹凸形状を形成する切削加工であって、交差する溝部の交差角度と同じ角度に第一の工具と第二の工具を対面するように取付け、更に前記第一の工具と前記第二の工具は前記ロール金型の中心軸に対して前記第一の工具の刃先先端部と前記第二の工具の刃先先端部とが前記中心軸上に配置されないようにオフセットするように工具支持体に取付け、前記第一の工具を用いて前記ロール金型の一方の端部より他方の端部に向かって螺旋状に溝部を切削した後、前記第二の工具を用いて前記ロール金型の前記他方の端部より前記一方の端部方向に螺旋状に溝部を切削し、これを交互に繰り返すことを特徴とするものである。
【0018】
また本発明は、前記工具支持体をピエゾ駆動を用いた微小駆動機構部に取付けて前記工具支持体を切込み方向に移動可能とし、前記微小駆動機構部と前記ロール金型を回転駆動して切削する加工機との相対距離を計測して相対距離変化を計測し、前記相対距離変化による切込み深さ変化を打ち消す方向に前記微小駆動機構部によって前記工具支持体を切込み方向に移動させることにより、切込み量を補正して切削加工することを特徴とする切削加工方法である。
【0019】
また本発明は、前記切削加工方法により表面に溝部を交差させた凹凸形状を付与したことを特徴とするロール金型である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高精度なV字形の溝部からなる凹凸形状を有するフィルムを製造でき、特に光利用効率に優れた光学フィルムの入手が可能となる。また本発明によれば、表面に微細な凹凸形状を形成したロール金型を、金型加工時間を大幅に短縮してかつ高精度に加工し得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、発明を実施するための最良の形態について述べる。
【実施例1】
【0022】
最初に本発明による切削加工方法について図面を参照して具体的に説明する。図1は本発明における2つの切削工具であるダイヤモンドバイトを対面するように取付けた加工ヘッドを示している。図1において、1は加工ヘッド、1aは工具支持部、2は第一工具、3は第二工具である。それぞれの工具は、先端部に単結晶のダイヤモンドチップを有するダイヤモンドバイトであり、先端部2a、先端部3aはダイヤモンドチップである。2b、3bは第一工具および第二工具を工具支持部1aに固定するための取付けボルトである。
【0023】
図2(a)は、加工ヘッド1をZ方向より見た図である。第一工具2および第二工具3は、切削加工する交差溝の角度に応じた角度に取付けられる。X軸に対して所望の角度を傾斜させて工具支持部1aに取付けられており、第一工具2は角度α、第二工具3は角度βの傾斜角度で工具支持部1aに取付けられている。なお、傾斜角度α、βは交差する溝部の角度が左右対称の場合にはα=βとなる。また、工具支持部1aに取付けられた第一工具2、第二工具3の位置は工具支持部1aの中心軸OよりそれぞれL1、L2の距離に工具の刃先中心2c,3cが位置するように取付けられている。即ち工具2と工具3はそれぞれ中心軸からの異なる距離に固定している。これによって、第一工具2と第二工具3のY軸方向の刃先中心位置は、中心軸Oを通る直線からそれぞれY1、Y2の距離となる。このように第一工具2と第二の工具3とをY軸方向の距離が異なる距離でオフセットして工具支持部1aに取付けることによって、ロール金型の中心軸に対して第一の工具2の刃先先端部と第二の工具3の刃先先端部とが中心軸上に配置されないようにオフセットするように取付けられているため、ロール金型を切削加工する際に一方の工具でロール金型を切削加工している際に他方の工具の接触を回避することが可能となる。
【0024】
図2(b)は加工ヘッド1をY方向より見た図である。工具支持部1aに対して、第一工具,第二工具の先端部であるダイヤモンドチップ2a,3aはZ軸下方向に刃先のみが突き出た状態で取付けており、切削加工時に工具支持部1aがロール金型に接触しないようにしている。
【0025】
図3は本発明により、ロール金型4を切削加工する際の加工状態を示している。図3(a)は加工ヘッド1の第一工具2を用いて切削加工する際の工具軌跡を実線にて示しており、図3(b)は第ニ工具3を用いて切削加工する際の工具軌跡を示している。図3(a)において、工具軌跡5aはX軸の+方向に向かって進行する螺旋軌跡を切削加工するときの工具軌跡を示している。このとき加工ヘッド1に取付けられた第一工具2を用いて矢印の方向に切削加工する。工具軌跡5aはZ軸方向に対して傾斜角度θ1の溝部を加工する工具軌跡である。また、第一工具2の取付け角度αと工具軌跡5aの傾斜角度θ1との関係はα=θ1である。工具軌跡5aにて切削加工し、加工ヘッド1がX軸+方向の加工終了部4bまで達した後、図3(b)に示すようにロール金型4の反対側の端面より第二工具3を用いてX軸−方向に進行する螺旋軌跡の工具軌跡5bにて矢印の方向に切削加工する。なお、第二工具3で切削加工する際に、Y軸方向に加工ヘッドを微小量移動してから切削加工する。
【0026】
ここで微小量移動とは、図2(a)におけるY1とY2の差分の距離であり、ロール金型に2つの工具が同時に接触しないようにオフセットさせて取付けているためである。工具軌跡5bはZ軸方向に対して傾斜角度θ2の溝部を加工する軌跡である。また、第二工具3の取付け角度βと工具軌跡5bの傾斜角度θ2との関係はβ=θ2である。なお、交差する溝部の形状が左右対称な場合にはθ1=θ2である。上記のように、第一工具2によるX軸+方向の螺旋軌跡による溝部の切削加工と第二工具3によるX軸−方向の螺旋軌跡による溝部の切削加工を繰り返し実施することで、ロール金型4の円周上に交差する溝部が形成できる。この際に、加工ヘッド1がX軸方向に移動する毎に切削加工が行われるため、加工ヘッドの戻り移動時間を削減でき、効率のよいロール金型の切削加工が実現できる。上記の加工によって図4に示す交差溝部を有するロール金型4の切削加工が可能となる。
【0027】
図4(a)は加工後のロール金型の斜視図を示しており、図4(b)はロール金型4をY方向から見た図を示している。交差する溝部の傾斜角度θ1、θ2が45度の場合、互いに直交する溝部が形成される。図4(c)は図4(b)におけるA部の拡大図を示しており、第一工具2および第二工具3のダイヤモンドチップ2a、3aに示すV字形状の刃先で溝部を切削することにより、四角錘状の凹凸形状が形成できる。また、溝部の深さを浅くすることによって、図4(d)に示すような、頂点部に平面を有する四角錘台状の凹凸形状が形成できる。
【実施例2】
【0028】
図5は本発明の切削加工方法における、第2の実施例を示すもので、加工ヘッド1をピエゾ駆動による微小駆動機構部10に取付けた図を示している。図5(a)はY方向より見た図を示しており、微小駆動機構部10はピエゾ駆動部10aの先端部に加工ヘッド1を具備し、駆動部ベース10bに取付けられている。微小駆動機構部10は加工ヘッド1をZ軸方向のみに移動可能としており、ピエゾ駆動部10aで移動させる。ピエゾ駆動素子の性能により駆動ストロークは数十〜百ミクロンである。
【0029】
図5(b)はX方向より見た図を示しており、微小駆動機構部10における駆動部ベース10bのY軸方向の後方部に変位センサ13を具備している。変位センサ13はセンサ支持部11とセンサ固定部12によって駆動部ベース10bに取付けられている。また、13aはセンサ13のケーブルである。変位センサ13は微小駆動機構部10とロール金型を駆動するロール金型加工機との距離を計測するものである。図6に微小駆動機構部10と、ロール金型4を回転駆動させて切削加工するためのロール金型加工機20を示している。
【0030】
図6(a)はY方向より見た図であり、ロール金型加工機20のZ軸方向の上部に微小駆動機構部10を配置して、ロール金型4に溝部を切削加工する。ここで、微小駆動機構部10は図示していないロール金型加工機20のZ軸駆動部によって支持され、ロール金型4への接近や切込み移動、戻し移動などのZ軸方向の移動が可能である。ロール金型加工機20において22はロール金型を滑らかに回転させるためのベアリング支持部であり、超精密切削を行うためベアリング支持部22は空気静圧式や油静圧式のベアリングを用いる。24はロール金型4を回転駆動するためのモータであり、カップリング21とベアリング支持部22を介して回転力をロール金型4に伝達する。ロール金型4の回転と、微小駆動機構部10をZ軸方向に移動することにより、ロール金型4に溝部を切削加工することが可能である。
【0031】
図6(b)はX方向より見た図であり、ロール金型加工機20は微小駆動機構部10が位置するX軸位置での断面を示したものである。微小駆動機構部10とロール金型加工機20の距離dは変位センサ13によって計測される。ロール金型加工機20のY軸方向後部にはセンサターゲット25が設置され、変位センサ13により相対距離dを計測する。以上の構成により、切削加工中に微小駆動機構部10とロール金型加工機20に取付けたセンサターゲット25との相対距離変化を計測する。切削加工中に加工機の熱変形によって相対距離dが変化した場合、変位センサによって変化量が算出される。そして、相対距離dの変化で切込み深さの変化が生じるが、それを打ち消す方向に微小駆動機構部10によって加工ヘッド1を移動させることで、切込み深さ変化を抑制することが可能となり、長時間の切削加工においても切込み深さ精度を安定化させることができる。図7に切削加工中における相対距離dの計測と微小駆動機構部10による加工ヘッド1の移動の手順を示す。まず加工開始時に相対距離dをd0として計測する。第一工具2により溝部を切削する。続いて第二工具3により溝部を切削する。次に相対距離dを計測する。この値をd1とする。d0とd1より相対距離変化量Δdを計算する。微小駆動機構部10により加工ヘッド1をZ軸のΔdの変化を補正する方向にΔzだけ微小移動する。溝部の切削加工が完了するまで繰り返し、完了したら加工終了とする。以上の手順により相対距離dの計測と、微小駆動機構部10による切込み補正を行う。
【0032】
以下本発明方式を用いた具体的な実施例について述べる。直径130mm長さ400mmのロール金型に対し、ロール金型の表面に交差するV字形状の溝部の切削加工を実施した。交差する溝の角度θ1およびθ2の角度は45度である。したがって加工ヘッド1における第一工具2および第二工具3の傾斜角度α、βも45度である。溝部の切込み深さは3ミクロンとし、隣接する溝部と溝部のピッチは50ミクロンとした。ロール金型4の表面にはダイヤモンドバイトによる切削加工に適しためっき材料である無電解ニッケル・燐めっきを100ミクロン施し、めっき部分をダイヤモンドバイトで切削した。第一工具2、第二工具3は刃先が90度のV字形状を有する単結晶ダイヤモンドバイトである。本発明方式による切削加工の結果、従来方式である1本の工具で切削加工する方式と比較して切削加工時間の低減が可能となった。また、相対距離dの計測と微小駆動機構部10の切込み補正により切込み深さの変動を低減できた。従来方式と比較して切削加工時間は約60%に、深さ変動は相対距離変化が6ミクロン以上発生した条件で、深さ変動を±0.1ミクロン以下に低減することができた。
【実施例3】
【0033】
図8は、本発明による切削加工方法により得られたロール金型4よりフィルム部材30を製造する状態を示している。ロール金型4には本発明の切削加工方法による凹凸形状4cが形成されている。フィルム部材30には表面に未硬化の樹脂材料が塗布してあり、ロール金型4に対しフィルム部材30を押し付けるようにして凹凸形状4cを未硬化の樹脂材料が塗布されたフィルム部材30に転写成形する。ロール金型4を回転させ、かつフィルム部材30をロール金型4に押し付けながら矢印方向に移動することでロール金型4の凹凸形状4cを、フィルム部材30に凹凸形成部30dが形成される。この製造方法により、表面上に微細な凹凸形状がより高精度に形成されたフィルムの製造が可能となる。
【実施例4】
【0034】
図9は、本発明による切削加工方法により得られたロール金型4によりフィルム部材30を成形するフィルムの装置の構成を示している。このフィルムの製造装置は、塗工用ダイ44、支持ロール45、ロール金型4、押しロール42、剥離ロール43、紫外線照射装置41を備え、基材フィルム30aに紫線硬化樹脂を塗工、成形、硬化し、フィルム30を成形する。
【0035】
このフィルムの製造装置の動作と共にフィルムの製造方法を述べると、まず基材フィルム30aがロール状に巻かれた素材より供給され、またフィルム30は図示していない巻き取り部によってロール状に巻き取られる。支持ロール45は外周面が金属であり、塗工用ダイ44と対面する位置に配置されて、塗工用ダイ44と支持ロール45は基材フィルム30aへの紫外線硬化樹脂の塗工部を構成しており、基材フィルム30aは塗工用ダイ44と支持ロール45との間を通過し、支持ロール45により搬送される。この間、塗工用ダイ44には紫外線硬化樹脂が供給され、開口部から紫外線硬化樹脂を吐出して、塗工用ダイ44は搬送される基材フィルム30a上に未硬化の紫外線硬化樹脂層30bを形成する。ロール金型4には外周面に紫外線硬化樹脂を成形すべき凹凸形状4cが形成されている。押しロール42は外周面がロール金型4の外周面と向き合う位置に配置されており、これにより押しロール42は基材フィルム30aの搬送方向を変更し、ロール金型4に巻き付けるとともに、基材フィルム30aをロール金型4に対して押圧し、未硬化の紫外線硬化樹脂層30bを凹凸形状4cに押し込む。剥離ロール43はロール金型4に巻き付いて搬送されていた基材フィルム30aの搬送方向を変更し、ロール金型4から剥離する。
【0036】
また、押しロール42と剥離ロール43との間にロール金型4の外周面に対向して紫外線照射装置41が配置されており、この紫外線照射装置41はロール金型4に巻き付いている基材フィルム30aの裏面側から紫外線を照射する。これにより未硬化の紫外線硬化樹脂層30bは凹凸形状4cを充填した状態のまま硬化し、硬化した紫外線硬化樹脂層30cに変化する。硬化した紫外線硬化樹脂層30cが付着した基材フィルム30aは剥離ロール43まで走行する途中でロール金型4から剥離する。これにより基材フィルム30a状に紫外線硬化樹脂層30cが形成されたフィルム部材30を得ることができる。
【0037】
このようにフィルム部材の表面に紫外線硬化樹脂を塗布し、転写成形の凹凸形状が転写される部分に紫外線をあてながら成形することで、転写と樹脂の硬化が同時にでき、より効率よいフィルムの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明における加工ヘッドの斜視図である。
【図2】本発明における加工ヘッドの正面図および側面図である。
【図3】本発明における加工ヘッドでロール金型を切削加工する際の加工状態を示す斜視図である。
【図4】本発明による切削加工後のロール金型の斜視図及び正面図と凹凸形状の拡大図である。
【図5】本発明における微小駆動機構部を備えた加工ヘッドの正面図と側面図である。
【図6】本発明における加工ヘッドとロール金型加工機の位置関係を示す正面図と側面図である。
【図7】本発明における切削加工工程順序を示すフロー図である。
【図8】本発明によるフィルム部材の成形状態を示した斜視図である。
【図9】本発明によるフィルムの製造装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1…加工ヘッド、2…第一工具、2a…第一工具のダイヤモンドチップ、
2b…第一工具の固定用ボルト、3…第二工具、3a…第二工具のダイヤモンドチップ、
3b…第二工具の固定用ボルト、4…ロール金型、
4a…第一工具における加工開始側の円周線図、
4b…第二工具における加工開始側の円周線図、
4c…ロール金型表面に形成された凹凸形状、5a…第一工具による螺旋状の工具軌跡、
5b…第二工具による螺旋状の工具軌跡、10…微小駆動機構部、10a…ピエゾ駆動部、
10b…駆動部ベース、11…センサ支持部、12…センサ固定部、
13…変位センサ、13a…センサケーブル、20…ロール金型加工機、
21…カップリング、22…ベアリング支持部、23…ロール加工機ベース、
24…モータ、30…フィルム部材、30a…基材フィルム、
30b…未硬化の紫外線硬化樹脂層、30c…硬化後の紫外線硬化樹脂層、
30d…フィルム上に転写された凹凸形状、
41…紫外線照射機構部、42…押しロール、43…剥離ロール、44…塗工用ダイ、
45…支持ロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール金型により表面に交差した溝部からなる凹凸形状を転写形成したフィルムの製造方法であって、
表面に未硬化の樹脂材料を塗布したフィルム部材に、加工ヘッドに前記交差する溝部の交差角度と同じ角度に対面するようにかつ前記加工ヘッドの中心軸から互いに異なる位置に取付けられた第一の工具と第二の工具とを交互に用いてそれぞれ螺旋状に切削した溝部からなる凹凸形状を形成したロール金型に前記フィルム部材を押し付け、前記凹凸形状を前記未硬化の樹脂材料の表面に転写させながら、前記未硬化の樹脂材料を硬化させて表面に凹凸形状を転写形成したことを特徴とするフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記未硬化の樹脂材料が未硬化の紫外線硬化樹脂であり、紫外線を照射して前記未硬化の紫外線硬化樹脂を硬化させることを特徴とする請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフィルム製造方法により、表面に凹凸形状を転写形成したことを特徴とするフィルム。
【請求項4】
ロール金型により表面に交差した溝部からなる凹凸形状を転写形成したフィルムの製造装置であって、
フィルム部材を供給する手段と、フィルム部材の表面に未硬化の樹脂材料を塗布する手段と、加工ヘッドに前記交差する溝部の交差角度と同じ角度に対面するようにかつ前記加工ヘッドの中心軸から互いに異なる位置に取付けられた第一の工具と第二の工具とを交互に用いてそれぞれ螺旋状に切削した溝部からなる凹凸形状を形成したロール金型と、前記凹凸形状を形成したロール金型に前記フィルム部材を押し付ける手段と、前記凹凸形状を前記未硬化の樹脂材料の表面に転写させながら前記未硬化の樹脂材料を硬化させる手段と、を備えることを特徴とするフィルムの製造装置。
【請求項5】
前記未硬化の樹脂材料を硬化させる手段が紫外線照射装置であることを特徴とする請求項4に記載のフィルムの製造装置。
【請求項6】
ロール金型の表面に交差した溝部からなる凹凸形状を形成する切削加工であって、
交差する溝部の交差角度と同じ角度に第一の工具と第二の工具を対面するように取付け、更に前記第一の工具と前記第二の工具は前記ロール金型の中心軸に対して前記第一の工具の刃先先端部と前記第二の工具の刃先先端部とが前記中心軸上に配置されないようにオフセットするように工具支持体に取付け、前記第一の工具を用いて前記ロール金型の一方の端部より他方の端部に向かって螺旋状に溝部を切削した後、前記第二の工具を用いて前記ロール金型の前記他方の端部より前記一方の端部方向に螺旋状に溝部を切削し、これを交互に繰り返すことを特徴とする切削加工方法。
【請求項7】
前記工具支持体をピエゾ駆動を用いた微小駆動機構部に取付けて前記工具支持体を切込み方向に移動可能とし、前記微小駆動機構部と前記ロール金型を回転駆動して切削する加工機との相対距離を計測して相対距離変化を計測し、前記相対距離変化による切込み深さ変化を打ち消す方向に前記微小駆動機構部によって前記工具支持体を切込み方向に移動させることにより、切込み量を補正して切削加工することを特徴とする請求項6に記載の切削加工方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の切削加工方法により表面に溝部を交差させた凹凸形状を付与したことを特徴とするロール金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−142926(P2008−142926A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329635(P2006−329635)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】