説明

フィルム光導波路用の基材、これを用いたフィルム光導波路、及びこれらの製造方法

【課題】品質低下を伴わずに容易に製造できるフィルム光導波路、これに用いる基材、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】コア部20と、該コア部20を覆うクラッド部30とを備えるフィルム光導波路1に用いられるフィルム光導波路用の基材10であって、エポキシ樹脂組成物を含浸したシート状の紙を硬化してなるベースシート14と、該ベースシート14の一方の面に設けられた第一のエポキシ樹脂層12とを備えることよりなる。前記シート状の紙にエポキシ樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、エポキシ樹脂組成物を含浸した前記シート状の紙を硬化させ、ベースシート14を得るベースシート硬化工程と、前記ベースシート14の一方の面に新たにエポキシ樹脂組成物を塗布するエポキシ塗布工程と、前記ベースシートに塗布したエポキシ樹脂組成物を硬化する樹脂層硬化工程とを有することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム光導波路用の基材、これを用いたフィルム光導波路、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化から、大容量の情報を高速に伝送できる通信システムが望まれており、通信システムとして光通信システムの開発が行われ、波長分割多重(WDM)システム等、様々な光通信システムが開発されている。光通信システムにおいて、光導波路は非常に重要な構成要素であり、近年、この光導波路として、その柔軟性や強靭性から、高分子導波路、特にフィルム型の高分子光導波路(フィルム光導波路)が注目されている。光導波路は、屈折率の大きい材質で構成されたコア部と、コア部よりも屈折率の低い材質で構成され、コア部を覆うクラッド部とを備え、コア部に入射した光をコア部とクラッド部との境界で全反射を繰り返しながら伝搬させるものである。
【0003】
従来、高分子光導波路は、直接露光法、ナノインプリント法により製造されてきた。
例えば、非特許文献1には、インプリント工程と印刷工程とにより高分子光導波路を製造する方法が開示されている。
図8(a)〜(d)は、非特許文献1にて開示された、従来の高分子光導波路200の製造方法を示す工程図である。
図8(a)において、基材201上にクラッド材料を塗布し、下部クラッド層202を形成する。次いで、基材201上の下部クラッド層202に対して、凹凸パターン化された凸部204及び凹部205を有する金型203をプレスして、上記凹凸パターンを下部クラッド層202の表面に転写する(図8(b))。このようにしてインプリント工程が行われ、図8(c)に示すように、下部クラッド層202に、凸部204の転写により形成された凹部208、及び凹部205の転写により形成された凸部207が形成される。このようにして形成された凹部208内にコア材料を充填し、コア209を形成する印刷工程を行う(図8(d))。この印刷工程は、スクリーン印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、インクジェット、ディスペンサ塗布等によって行われる。こうして、下部クラッド層202上にコア209が形成された高分子光導波路200を得ることができる。
このような、転写を用いて高分子光導波路を製造する方法は、コアをクラッド上に形成する際にコアパターン形成のための現像作業が不要となるため、フォトリソグラフィを用いた製造方法に比べて効率良く製造を行うことができる。加えて、この製造方法は、レジスト材が不要となるのでコストダウンにも繋がり、有用な高分子光導波路の製造方法の1つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】杉原興浩 他5名、「成形加工法を用いた大口径高分子光導波路作製」、信学技報、社団法人電子情報通信学会、OME2003−83、p.17−21、2003年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インプリント工程にて用いられる基材は、シリコンやガラス等の平坦な面を有する硬質のものであるため、高分子光導波路をフレキシブルなフィルム光導波路とするには、高分子光導波路から基材を剥離する必要がある。フィルム光導波路をより容易かつ安価に製造するためにポリマーフィルムや紙等のフレキシブルな基材を用いて高分子光導波路を製造すると、コア部又はクラッド部を形成する材料の浸透により基材が吸湿してうねったり、コア部又はクラッド部の形成時に発生する応力による変形、UV照射による劣化等の品質低下を生じるという問題がある。従って、従来の技術では、ポリマーフィルムや紙を基材とし、フィルム光導波路を製造するのが困難であった。
そこで、本発明は、品質低下を伴わずに容易に製造できるフィルム光導波路、これに用いる基材、及びこれらの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフィルム光導波路用の基材は、コア部と、該コア部を覆うクラッド部とを備えるフィルム光導波路に用いられるフィルム光導波路用の基材であって、エポキシ樹脂組成物を含浸したシート状の紙を硬化してなるベースシートと、該ベースシートの一方の面に設けられたエポキシ樹脂層とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明のフィルム光導波路は、本発明の前記フィルム光導波路用の基材を備え、前記エポキシ樹脂層上に、前記コア部及び前記クラッド部が設けられたことを特徴とする。
【0008】
本発明のフィルム光導波路用の基材の製造方法は、本発明の前記フィルム光導波路用の基材の製造方法であって、前記シート状の紙にエポキシ樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、エポキシ樹脂組成物を含浸した前記シート状の紙を硬化させ、ベースシートを得るベースシート硬化工程と、前記ベースシートの一方の面に新たにエポキシ樹脂組成物を塗布するエポキシ塗布工程と、前記ベースシートに塗布したエポキシ樹脂組成物を硬化する樹脂層硬化工程とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明のフィルム光導波路の製造方法は、本発明の前記フィルム光導波路の製造方法であって、硬化することにより前記コア部となるコア材料を前記エポキシ樹脂層上に塗布するコア材料塗布工程と、一方の面に凹部が形成された金型で、前記コア材料に前記凹部を転写し、硬化するコア部硬化工程と、硬化することにより前記クラッド部となるクラッド材料を、前記コア部を覆うように塗布するクラッド材料塗布工程と、前記クラッド材料塗布工程で塗布した前記クラッド材料を硬化するクラッド部硬化工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、品質低下を伴わずに、フィルム光導波路を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態にかかるフィルム光導波路の断面図である。
【図2】本発明の基材の製造方法を説明する工程図である。
【図3】本発明のフィルム光導波路の製造方法を説明する工程図である。
【図4】本発明のフィルム光導波路の製造に用いるソフトスタンパの製造方法を説明する工程図である。
【図5】図4におけるソフトスタンパ用金型の製造方法を示す工程図である。
【図6】実施例1で得られたフィルム光導波路の写真である。
【図7】比較例1で得られたフィルム光導波路の写真である。
【図8】従来のフィルム光導波路の製造方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(フィルム光導波路)
本発明の一実施形態にかかるフィルム光導波路について、以下に図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかるフィルム光導波路1の断面図である。
図1に示すように、フィルム光導波路1は、基材10と、基材10の一方の面に設けられたコア部20と、コア部20を覆うクラッド部30とを備えるものである。
【0013】
<基材>
基材10は、ベースシート14と、ベースシート14の一方の面に設けられた第一のエポキシ樹脂層12と、ベースシート14の他方の面に設けられた第二のエポキシ樹脂層16とを備えるものである。
基材10の厚みTは、フィルム光導波路1の厚みを勘案して決定でき、例えば、基材10上に形成する導波路の厚みと略同等の70〜240μmとされる。上記範囲内であれば、フレキシブルなフィルム光導波路1を得られると共に、基材10の強度を十分なものにできる。
【0014】
ベースシート14は、エポキシ樹脂組成物を含浸したシート状の紙(紙製シート)を硬化してなるものである。
紙製シートは、植物パルプを抄紙して得られるシート状のもののみならず、セルロースを架橋する等して得られるセルロース膜を含む概念である。
紙製シートは、吸液性を有し、フレキシブルなものであればよく、例えば、ニトロセルロース膜、セルロース混合エステル膜、セルロースアセテート膜等のセルロース膜、植物パルプを抄紙して得られるもの等が挙げられ、中でも、セルロース膜が好ましく、ニトロセルロース膜及びセルロースアセテート膜がより好ましい。セルロース膜を採用することで、基材10の厚みをより薄くかつ均一にでき、フィルム光導波路1の品質低下をより防止できる。
【0015】
ベースシート14の厚みt1は、その材質や、基材10に求める厚み、強度等を勘案して決定でき、例えば、30〜100μmとされる。
【0016】
紙製シートに含浸するエポキシ樹脂組成物(含浸用エポキシ樹脂組成物)は、硬化前のエポキシ樹脂を含有するものである。エポキシ樹脂としては、硬化後もフレキシブル性を有するものであり、例えば、紫外線硬化性エポキシ樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂等の活性エネルギー線硬化性エポキシ樹脂が挙げられる。ここで、活性エネルギー線は、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。
含浸用エポキシ樹脂組成物は、液体、ゾル状又はゲル状のものであり、紙製シートに含浸できる程度の流動性を有すればよい。
【0017】
紫外線硬化性エポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族環状エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ブロム化エポキシ樹脂等が挙げられる。
脂肪族環状エポキシ樹脂の原料(未硬化物)としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、アリルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル−2−プロピレンオキシド、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−m−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エーテル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)ジエチルシロキサン等が挙げられる。
【0018】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の原料(未硬化物)としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールADジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールGジグリシジルエーテル、テトラメチルビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールヘキサフルオロアセトンジグリシジルエーテル、ビスフェノールCジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0019】
ブロム化エポキシ樹脂の原料(未硬化物)としては、例えば、ジブロモメチルフェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ブロモメチルフェニルグリシジルエーテル、ブロモフェニルグリシジルエーテル、ジブロモメタクレシジルグリシジルエーテル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらのエポキシ樹脂は、1種単独又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0020】
後述するコア部20又はクラッド部30をエポキシ樹脂で構成する場合、含浸用エポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂には、クラッド部30を構成するエポキシ樹脂と同じものを用いることが好ましい。クラッド部30と同じエポキシ樹脂を用いることで、フィルム光導波路1の変形をより抑制できる。
【0021】
含浸用エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて光重合開始剤、エポキシ樹脂用硬化剤等を配合することができる。
光重合開始剤は、エポキシ樹脂の種類に応じて決定でき、例えば、p−メトキシベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート等の芳香族ジアゾニウム塩、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等の芳香族スルホニウム塩、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート等の芳香族ヨードニウム塩、芳香族ヨードシル塩、芳香族スルホキソニウム塩、メタロセン化合物等が挙げられる。
また、含浸用エポキシ樹脂組成物には、粘度調整のための分散媒を配合してもよい。分散媒は、特に限定されず、水、有機溶媒等が挙げられる。
【0022】
第一のエポキシ樹脂層12は、ベースシート14の一方の面に設けられたエポキシ樹脂からなる薄膜であり、その表面が平滑なものである。
第一のエポキシ樹脂層12の厚みt2は、その材質や、基材10に求める厚み、強度等を勘案して決定でき、例えば、20〜70μmとされる。
【0023】
第一のエポキシ樹脂層12を構成するエポキシ樹脂は、含浸用エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂と同様である。
【0024】
第二のエポキシ樹脂層16は、ベースシート14の他方の面に設けられたエポキシ樹脂からなる薄膜である。
第二のエポキシ樹脂層16の厚みt3は、第一のエポキシ樹脂層12の厚みt2と同様である。
第二のエポキシ樹脂層16を構成するエポキシ樹脂は、含浸用エポキシ樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂と同様である。
【0025】
≪基材の製造方法≫
基材10の製造方法の一例について、図2を用いて説明する。図2は、基材10の製造方法を示す工程図であり、含浸用エポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂として紫外線硬化性エポキシ樹脂を用いた場合の製造方法を示すものである。基材10の製造方法は、含浸工程と、ベースシート硬化工程と、エポキシ塗布工程と、樹脂層硬化工程とを有するものである。
【0026】
まず、図2(a)に示すように、槽42内の含浸用エポキシ樹脂組成物40に紙製シート14aを浸漬させ、含浸用エポキシ樹脂組成物40を紙製シート14aに含浸させる(含浸工程)。この際、含浸用エポキシ樹脂組成物40の含浸量は、紙製シート14aへの含浸量が飽和する量、即ち紙製シート14aの繊維間に形成された空間の略全体を満たす量とされる。略全体とは、含浸用エポキシ樹脂組成物40が浸透しうる空間の内、90体積%以上をいう。
【0027】
含浸工程の後、図2(b)に示すように、紙製シート14aに含浸用エポキシ樹脂組成物40が含浸した含浸シート14bをガラス板44の間に挟み込み、紫外線46を照射し、含浸シート14bを硬化させる。紫外線の照射量は、エポキシ樹脂の硬化が進行するエネルギー量とされる。次いで、図2(c)に示すように、ガラス板44を剥離し、ベースシート14を得る(以上、ベースシート硬化工程)。
【0028】
ベースシート硬化工程で得られたベースシート14の一方の面に、樹脂層用エポキシ樹脂組成物を塗布する(エポキシ塗布工程)。樹脂層用エポキシ樹脂組成物の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法等が挙げられ、より平滑な面を得られることからスピンコート法が好ましい。樹脂層用エポキシ樹脂組成物の塗布量は、第一のエポキシ樹脂層12に求める厚みt2(図1)に応じて決定できる。第一のエポキシ樹脂層12の形成に用いる樹脂層用エポキシ樹脂組成物は、含浸用エポキシ樹脂組成物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。加えて、第一のエポキシ樹脂層12の形成に用いる樹脂層用エポキシ樹脂組成物中のエポキシ樹脂は、後述するクラッド材料がエポキシ樹脂である場合、クラッド材料と同じエポキシ樹脂を用いることが好ましい。クラッド材料と同じエポキシ樹脂を用いることで、基材10へのクラッド部30の密着性がよくなると共に、フィルム光導波路1の変形をより抑制できる。
次いで、図2(d)に示すように、ベースシート14に塗布された樹脂層用エポキシ樹脂組成物に紫外線46を照射し、エポキシ樹脂を硬化して第一のエポキシ樹脂層12を設ける(樹脂層硬化工程)。
さらに、ベースシート14の他方の面に樹脂層用エポキシ樹脂組成物を塗布し(エポキシ塗布工程)、図2(e)に示すように紫外線46を照射し、エポキシ樹脂を硬化して第二のエポキシ樹脂層16を設ける(樹脂層硬化工程)。樹脂層硬化工程における紫外線の照射量は、ベースシート硬化工程における紫外線の照射量と同様である。また、第二のエポキシ樹脂層16の形成に用いる樹脂層用エポキシ樹脂組成物は、第一のエポキシ樹脂層12の形成に用いる樹脂層用エポキシ樹脂組成物と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
こうして、ベースシート14の一方の面に第一のエポキシ樹脂層12が設けられ、他方面に第二のエポキシ樹脂層16が設けられた基材10を得ることができる。
【0029】
<コア部>
コア部20は、基材10上の任意の方向に延び、その長さ方向に光を伝搬させるものである。本実施形態では、コア部20の長さ方向に直交する断面が略矩形とされている。
コア部20の材質は、コア部20として機能するものであれば特に限定されず、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリシラン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアミド等が挙げられ、中でも、コア部の形成が容易なことから、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の紫外線硬化性樹脂が好ましい。
【0030】
<クラッド部>
クラッド部30は、コア部20を覆うように設けられたものであり、その屈折率がコア部20の屈折率よりも小さいものである。
クラッド部30の材質は、コア部20の屈折率等を勘案して決定でき、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリシラン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアミド等が挙げられ、中でも、クラッド部の形成が容易なことから、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の紫外線硬化性樹脂が好ましい。
【0031】
(フィルム光導波路の製造方法)
本発明のフィルム光導波路の製造方法は、コア材料塗布工程と、コア部硬化工程と、クラッド材料塗布工程と、クラッド部硬化工程とを有するものである。
本発明のフィルム光導波路の一例について、以下に図3を用いて説明する。図3は、フィルム光導波路1の製造方法の一例を示す工程図であり、硬化することでコア部となる材料(コア材料)及び硬化することでクラッド部となる材料(クラッド材料)として紫外線硬化性エポキシ樹脂を用いた場合の製造方法を示すものである。
【0032】
液体、ゾル状又はゲル状等、流動性を有するコア材料を基材10の第一のエポキシ樹脂層12上に滴下し、基材10を傾け、滴下したコア材料を基材10上の全面に広げて塗布し、基材10上にコア材料層20aを形成する(図3(a))(コア材料塗布工程)。この際、基材10は、紙製シートに含浸用エポキシ樹脂組成物が含浸され、硬化されたものであるため、コア材料が浸透することなく、吸湿による変形がない。
次いで、図3(b)に示すように、ローラ56を備えるラミネータを用い、コア部形成用の可撓性を有する金型(ソフトスタンパ)50を基材10上のコア材料層20aに押し当てる。「可撓性を有する金型」とは、当接したローラ等の押圧手段の移動に伴って撓む樹脂製の金型である。
ソフトスタンパ50は、ベースフィルム52の一方の面にスタンパ凸部54が設けられ、スタンパ凸部54の間にスタンパ凹部55が形成されたものであり、スタンパ凹部55はコア部20の形状に対応したものとされる。
【0033】
ソフトスタンパ50は、以下の製造方法により得ることができる。
まず、図4(a)に示すように、平板状の基板の一方の面に複数のスタンパ用金型凹部65が形成され、スタンパ用金型凹部65の間にスタンパ用金型凸部64が形成されたソフトスタンパ用金型60を用意する。ソフトスタンパ用金型60の材質は、ソフトスタンパ50の材質に応じて決定できる。例えば、ソフトスタンパ50に紫外線硬化性樹脂を用いる場合、ソフトスタンパ用金型60の材質としては、紫外線を透過するものであればよく、例えば、シリコン基板、樹脂製フィルム、ガラス板等が挙げられる。また、ソフトスタンパ50に熱硬化性樹脂を用いる場合、ソフトスタンパ用金型60の材質としては、例えば、シリコン基板、樹脂製フィルム、ガラス板、セラミック板等が挙げられる。
ソフトスタンパ用金型60は、平板状の基板に凹部を形成することで得られる。図5(a)に示すようにソフトスタンパ用金型60の基体となる平板状基板60aを用意する。平板状基板60aの一方の面に、エンドミル70の先端部72を押し当て、先端部72を回転させながら矢印Cの方向に移動させる。この移動を繰り返すことで、先端部72の移動方向に延びる複数のスタンパ用金型凹部65が形成され、スタンパ用金型凹部65の間に複数のスタンパ用金型凸部64が形成される(図5(b))。
【0034】
図4(b)に示すように、ソフトスタンパ用金型60のスタンパ用金型凹部65が形成された面(以下、加工面)に、硬化することでスタンパ凸部54となる材料(凸部材料)を滴下した後、凸部材料を加工面の全体に広げるように塗布し、凸部材料層54aを形成する。凸部材料は、コア材料の種類等を勘案して決定できる。本実施形態では、コア材料が紫外線硬化性エポキシ樹脂であるため、凸部材料としては、紫外線を透過するものが用いられる。凸部材料としては、例えば、シクロオレフィン系ポリマー、エポキシ樹脂、ポリイミド、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリシラン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアミド等が挙げられる。凸部材料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート法が挙げられる。
【0035】
図4(c)に示すように、ローラ56を備えるラミネータを用い、ベースフィルム52を凸部材料層54aに押し当てる。ベースフィルム52の材質は、コア材料の材質に応じて決定でき、例えば、凸部材料と同様のものを硬化したものが挙げられる。
ベースフィルム52を凸部材料層54aに押し当てる際、ベースフィルム52を、その一端がソフトスタンパ用金型60のスタンパ用金型凸部64に当接し、他端が凸部材料層54aと離間した状態とする。そして、ベースフィルム52とスタンパ用金型凸部64とが当接している位置で、ベースフィルム52の背面51をローラ56で押圧(5〜20kg/cm)しつつ矢印Bの方向に転動させ、ベースフィルム52をスタンパ用金型凸部64に当接させる。この際、スタンパ用金型凹部65内の空気を押し出すようにローラ56を転動させ、スタンパ用金型凹部65内に入りきらない凸部材料をソフトスタンパ用金型60の加工面から除去する。こうして、ベースフィルム52とスタンパ用金型凸部64とを密着させることで、スタンパ用金型凹部65の形状に応じた凸部材料が、ベースフィルム52に転写される。次いで、凸部材料を硬化し、ベースフィルム52をソフトスタンパ用金型60から離れるように操作することで、ベースフィルム52の一方の面に複数のスタンパ凸部54が設けられ、スタンパ凸部54の間に複数のスタンパ凹部55が形成されたソフトスタンパ50を得ることができる(図4(d))。凸部材料の硬化の方法は、凸部材料の材質に応じて決定でき、例えば、凸部材料が熱硬化性樹脂である場合には、ホットプレートや加熱炉等により任意の温度に加熱するものが挙げられる。また、凸部材料が紫外線硬化性樹脂である場合には、ベースフィルム52の背面から、紫外線を照射して凸部材料を硬化するものが挙げられる。
【0036】
図3(b)に示すように、ソフトスタンパ50を、スタンパ凹部55が形成された面の一端側のスタンパ凸部54が基材10に当接し、他端側のスタンパ凸部54がコア材料層20aと離間した状態とする。スタンパ凸部54と基材10とが当接している位置で、ベースフィルム52の背面51をローラ56で押圧しつつ、矢印Aの方向に転動させ、スタンパ凸部54を基材10に当接させる。この際、スタンパ凹部55内の空気を押し出すようにローラ56を転動させることで、スタンパ凹部55にコア材料が押し込まれ、スタンパ凹部55に入りきらないコア材料は基材10上から除去される。
次いで、スタンパ凸部54が基材10に当接された状態で、ソフトスタンパ50の背面51から紫外線を照射してコア材料を硬化し、ソフトスタンパ50を取り除くことで、基材10には、第一のエポキシ樹脂層12上にコア部20が設けられる(図3(c))(以上、コア部硬化工程)。この際、基材10は、コア材料が浸透していないため、紫外線を照射しても基材10内で新たな硬化物が生じることなく、変形しない。
【0037】
基材10上に設けられたコア部20を覆うようにクラッド材料を塗布する(クラッド材料塗布工程)。クラッド材料の塗布方法は特に限定されず、スピンコート法、ディップ法、スプレー法等が挙げられ、より平滑な面を得られることからスピンコート法が好ましい。次いで、塗布したクラッド材料に紫外線を照射することでクラッド材料を硬化し、クラッド部30を設ける(図3(d))(クラッド部硬化工程)。この際、基材10は、紙製シートに含浸用エポキシ樹脂組成物が含浸され、硬化されたものであるため、クラッド材料が浸透することなく、吸湿による変形がない。加えて、基材10は、適度な強度を有するため、クラッド材料が硬化する際の応力によっても変形しない。
こうして、基材10と、基材10の第一のエポキシ樹脂層12面に設けられたコア部20と、コア部20を覆うクラッド部30とを備えるフィルム光導波路1を得ることができる。
【0038】
上述したように、本発明によれば、基材は、フレキシブルな性質を備えているため、この基材上にコア部とクラッド部とを設けたものは、基材を取り除くことなく、フレキシブルなフィルム光導波路として利用できる。また、基材を取り除く必要がないため、フィルム光導波路を容易に製造できる。
加えて、本発明の基材は、紙製シートに含浸されたエポキシ樹脂組成物が硬化されたものであるため、コア材料又はクラッド材料が塗布された際、コア材料又はクラッド材料が浸透されず、変形しない。さらに、基材は、第一のエポキシ樹脂層を備え、コア部及びクラッド部を設ける側の面が平滑である。このため、この基材を備えるフィルム光導波路は、平坦なコア部を有することとなり、フィルム光導波路が曲がることによる漏光を少なくして、伝搬損失をより少なくすることができる。
また、基材は、適度な強度を有するため、クラッド材料が硬化する際の応力によっても変形しない。
【0039】
本実施形態によれば、ソフトスタンパを金型として、ソフトスタンパに形成されたスタンパ凹部を転写してコア部を設けるため、余剰のコア材料は、基材とスタンパ凸部との表面に沿って、ラミネータのローラの移動により押し出されて除去される。このため、基材上に残渣として残るコア材料を低減できる。
【0040】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
上述の実施形態では、コア部の長さ方向に直交する断面が略矩形とされているが、本発明はこれに限定されず、コア部の長さ方向に直交する断面が、例えば、円形や、三角形、五角形等の矩形以外の多角形であってもよい。
【0041】
上述の実施形態では、ベースシートの両面にエポキシ樹脂層が設けられているが、本発明はこれに限定されず、エポキシ樹脂層は、コア部及びクラッド部が設けられる面のみに設けられていればよい。即ち、上述の実施形態における第一のエポキシ樹脂層のみが設けられていればよい。
【0042】
上述の実施形態では、コア材料及びクラッド材料を紫外線照射により硬化しているが、本発明はこれに限定されず、コア材料又はクラッド材料の材質に応じて硬化方法を適宜選択することができる。
【0043】
上述の実施形態では、コア部硬化工程でソフトスタンパを用いているが、本発明はこれに限定されず、例えば、ガラス製、金属製の金型をコア部形成用の金型として用いてもよい。ただし、コア部の形状をより精度高く、かつ効率的に成形する観点から、ソフトスタンパを用いることが好ましい。
【0044】
上述の実施形態では、エンドミルを用いて、ソフトスタンパ用金型の凹部を形成しているが、本発明はこれに限定されず、エンドミルに換えて、グラインダ、ダイシングソー等を用いてもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
紙製シートであるセルロース膜(厚み;50μm、50mm角、三菱化学株式会社製)を含浸用エポキシ樹脂組成物(UV硬化エポキシ樹脂、NTTアドバンステクノロジ株式会社製)に15分間浸漬させ、含浸シートを得た。この含浸シートをガラス板の間に挟みこみ、UV照射機により紫外線を照射して、含浸シートを硬化し、ベースシートとした。得られたベースシートの両面に、樹脂層用エポキシ樹脂組成物をスピンコートで塗布し、塗布した樹脂層用エポキシ樹脂組成物を紫外線照射により硬化し、第一のエポキシ樹脂層と第二のエポキシ樹脂層とを設けた。得られた基材の第一のエポキシ樹脂層、第二のエポキシ樹脂層は、いずれも22μm厚であった。
【0047】
得られた基材の一方の面に幅45μm、高さ45μm、長さ50mmのコア部を設けた。コア部の形成は、ソフトスタンパ(ベースフィルム:シクロオレフィン樹脂、凸部:シクロオレフィン樹脂)を用い、コア材料を紫外線硬化性エポキシ樹脂(UV硬化エポキシ樹脂、NTTアドバンステクノロジ株式会社製)とし、上述の「フィルム光導波路の製造方法」と同様にしてスタンパ凹部を転写してコア部を設けた。
【0048】
次いで、上述の「フィルム光導波路の製造方法」と同様に、スピンコート法により紫外線硬化性エポキシ樹脂(UV硬化エポキシ樹脂、NTTアドバンステクノロジ株式会社製)を塗布し、塗布した紫外線硬化性樹脂を硬化し、フィルム光導波路を得た。得られたフィルム光導波路を図6に示す。
【0049】
(比較例1)
含浸用エポキシ樹脂組成物を含浸しないセルロース膜を基材とした以外は、実施例1と同様にして、フィルム光導波路を得た。得られたフィルム光導波路を図7に示す。
【0050】
図6に示すとおり、本発明を適用したフィルム光導波路は、変形等の品質低下が見られなかった。
一方、含浸用エポキシ樹脂組成物を含浸しないセルロース膜を基材とした図7に示すフィルム光導波路は、変形が著しく、手指で押さえないと巻回してしまうものであった。
これらの結果から、本発明を適用することで、品質低下を伴わずに容易にフィルム光導波路を製造できることが判った。
【符号の説明】
【0051】
1 フィルム光導波路
10 基材
12 第一のエポキシ樹脂層
14 ベースシート
14a 紙製シート
16 第二のエポキシ樹脂層
20 コア部
30 クラッド部
40 含浸用エポキシ樹脂組成物
50 ソフトスタンパ
55 スタンパ凹部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、該コア部を覆うクラッド部とを備えるフィルム光導波路に用いられるフィルム光導波路用の基材であって、
エポキシ樹脂組成物を含浸したシート状の紙を硬化してなるベースシートと、該ベースシートの一方の面に設けられたエポキシ樹脂層とを備えることを特徴とするフィルム光導波路用の基材。
【請求項2】
請求項1のフィルム光導波路用の基材を備え、
前記エポキシ樹脂層上に、前記コア部及び前記クラッド部が設けられたことを特徴とするフィルム光導波路。
【請求項3】
請求項1に記載のフィルム光導波路用の基材の製造方法であって、
前記シート状の紙にエポキシ樹脂組成物を含浸させる含浸工程と、
エポキシ樹脂組成物を含浸した前記シート状の紙を硬化させ、ベースシートを得るベースシート硬化工程と、
前記ベースシートの一方の面に新たにエポキシ樹脂組成物を塗布するエポキシ塗布工程と、
前記ベースシートに塗布したエポキシ樹脂組成物を硬化する樹脂層硬化工程とを有することを特徴とする、フィルム光導波路用の基材の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載のフィルム光導波路の製造方法であって、
硬化することにより前記コア部となるコア材料を前記エポキシ樹脂層上に塗布するコア材料塗布工程と、
一方の面に凹部が形成された金型で、前記コア材料に前記凹部を転写し、硬化するコア部硬化工程と、
硬化することにより前記クラッド部となるクラッド材料を、前記コア部を覆うように塗布するクラッド材料塗布工程と、
前記クラッド材料塗布工程で塗布した前記クラッド材料を硬化するクラッド部硬化工程とを有することを特徴とする、フィルム光導波路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−42812(P2012−42812A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185237(P2010−185237)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】