説明

ブッシュ軸受及びそれを用いた自動車のラック−ピニオン式操舵装置

【課題】 ラック軸を、径方向であってピニオンの軸心方向に関しては所定の剛性をもって支持できる一方、ラック軸の軸方向に関しては低い摩擦抵抗をもって移動自在に支持できる上に、クリープ変形及び熱履歴に伴う応力緩和の影響を低減できるブッシュ軸受及びそれを用いた自動車のラック−ピニオン式操舵装置を提供すること。
【解決手段】 ブッシュ軸受7は、その外周面15に円周方向溝16を有する合成樹脂製のブッシュ17と、ブッシュ17の円周方向溝16に装着されている無端環状弾性部材18と、B方向におけるブッシュ17のギアハウジング6の内周面12に対する位置を決定する位置決め手段19とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブッシュ軸受、特に自動車のラック−ピニオン式操舵装置におけるラック軸を移動自在に支持するために用いて好適なブッシュ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特許第3543652号特許掲載公報
【0003】
ラック−ピニオン式操舵装置において、ピニオンの歯に噛み合うラック歯を有したラック軸は、ハウジングとしてのギアボックスにブッシュ軸受を介して移動自在に支持される。ブッシュ軸受としては合成樹脂製のものが種々提案されているが、斯かる合成樹脂製のブッシュ軸受は、通常、締め代をもってラック軸を移動自在に支持するようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
合成樹脂製のブッシュ軸受において、支持するラック軸に対して大きな締め代をもつようにすると、ラック軸を径方向に関して所定の剛性をもってしっかりと支持できるが、ラック軸をきつく締め付けることになるので、軸方向の摺動摩擦抵抗が大きくなって、ラック軸を良好な移動特性をもって支持できなくなる一方、支持するラック軸に対して小さな締め代をもつようにすると、ラック軸に対して低い摺動摩擦抵抗をもった軸方向の良好な移動特性は期待できるが、ラック軸に大きな心ずれやラック軸との間に隙間等が生じ易くなって、径方向の剛性的支持が低下することにもなる。
【0005】
また合成樹脂製のブッシュ軸受では、合成樹脂のクリープ変形によってラック軸との間に隙間が生じて径方向の剛性的支持が低下する虞があり、また熱履歴に伴う合成樹脂の応力緩和によって特に径方向の収縮が生じる場合には、ラック軸に対する締め代が増加して摺動摩擦抵抗が大きくなる虞がある。
【0006】
一方、ラック軸は、通常、ピニオンに隣接した側とピニオンから離れた側との二つの部位でブッシュ軸受により移動自在に支持されるが、特に、ピニオンに隣接した側のラック軸の部位では、ピニオンの歯とラック歯との噛み合いの影響により、ピニオンに対して接近、離反する方向の変位よりもピニオンの軸心方向の変位が生じ易く、斯かるピニオンに隣接した側でのピニオンの軸心方向のラック軸の部位の変位は、ピニオンの回転方向に応じて逆方向となる結果、ピニオンに隣接した側のラック軸の部位が大きな締め代をもってブッシュ軸受により支持されていると、ラック軸の曲がり変形と相俟って操舵感を大きく劣化させる虞がある。
【0007】
加えて、自動車のラック−ピニオン式操舵装置におけるラック軸を摺動自在に支持するために合成樹脂製のブッシュ軸受を用いると、ラック−ピニオン式操舵装置のギアボックス内が密閉されてギアボックス内の空気の流出入が困難となり、無理矢理な空気の流出入でもって、異音が生じたり或いはラック軸との間の隙間に適用されたグリース等の潤滑剤の早期の消失が生じたりする虞がある。
【0008】
本発明は、前記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ラック軸を、径方向であってピニオンの軸心方向に関しては所定の剛性をもって支持できる一方、ラック軸の軸方向に関しては低い摩擦抵抗をもって移動自在に支持できる上に、クリープ変形及び熱履歴に伴う応力緩和の影響を低減できるブッシュ軸受及びそれを用いた自動車のラック−ピニオン式操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のブッシュ軸受は、外周面に少なくとも一つの円周方向溝を有する合成樹脂製のブッシュと、このブッシュの円周方向溝に装着されている無端環状弾性部材とを具備しており、ここで、ブッシュは、軸対称に配されている一対の内側内周面と、円周方向において一方の内側内周面を挟んで配されていると共に当該内側内周面を径方向であって内外方向に移動自在とする一対のスリットと、円周方向において他方の内側内周面を挟んで配されていると共に当該内側内周面を径方向であって内外方向に移動自在とする他の一対のスリットと、径方向において一対の内側内周面よりも外側に配された少なくとも一対の外側内周面とを具備しており、各外側内周面は、一対の内側内周面と一対の外側内周面とにより規定された貫通孔に挿着されるラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面のうちの対応の外周面との間で隙間を形成するようになっており、各内側内周面は、少なくともその一部でラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面を除く対応の外周面に摺動自在に接触するようになっている。
【0010】
本発明のブッシュ軸受によれば、ブッシュが軸対称に配されている一対の内側内周面と円周方向において一方の内側内周面を挟んで配されていると共に当該内側内周面を径方向であって内外方向に移動自在とする一対のスリットと円周方向において他方の内側内周面を挟んで配されていると共に当該内側内周面を径方向であって内外方向に移動自在とする他の一対のスリットとを具備して、各内側内周面は、少なくともその一部でラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面を除く対応の外周面に摺動自在に接触するようになっている上に、無端環状弾性部材がブッシュの外周面の円周方向溝に装着されているために、ラック軸を径方向であってピニオンの軸心方向に関しては所定の剛性をもって支持でき、ラック軸のピニオンの軸心方向の変位を一対の内側内周面で抑制でき、ラック軸の軸方向の移動に関しては低い摩擦抵抗をもって移動自在に支持でき、しかも、各外側内周面は、内側内周面と外側内周面とにより規定された貫通孔に挿着されるラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面のうちで対応の外周面との間で隙間を形成するようになっているために、上記と相俟ってクリープ変形及び熱履歴に伴う応力緩和の影響を低減できる。
【0011】
ブッシュの形成材料としての合成樹脂は、耐摩耗性に優れて低摩擦特性を有し、しかも、所定の撓み性と剛性とを有すると共に熱伸縮の少ないものが好ましく、具体的には、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂及びフッ素樹脂のうちの少なくとも一つを含む合成樹脂等を挙げることができる。
【0012】
無端環状弾性部材は、断面において円形、楕円形、矩形又は扁平状の長円形を有しているが、本発明はこれらに限定されず、断面X字形状、断面U字形状又は断面台形状等の他の形状であってもよく、また、好ましくは、天然ゴム製又は合成ゴム製であるが、その他の弾性を有する熱可塑性合成樹脂、例えばポリエステルエラストマーであってもよい。斯かる無端環状弾性部材として、一般に使用されているOリングを好ましく用いることができる。円周方向溝に装着されている無端環状弾性部材は、ブッシュの外周面から部分的に突出していても、これに代えて、その全体が円周方向溝に配されてブッシュの外周面から突出していなくてもよいが、部分的に突出する場合には、ブッシュ軸受が嵌装されるハウジングの内周面にその外周面で接触するようになっていても、これに代えて、その外周面とハウジングの内周面との間で環状の隙間を形成するようになっていてもよい。
【0013】
ブッシュは、少なくとも一つの円周方向溝をその外周面に具備していればよいのであるが、複数の円周方向溝をその外周面に具備する場合には、各円周方向溝に無端環状弾性部材が装着されていてもよい。
【0014】
各内側内周面は、好ましい例では、平坦面状であるが、これに代えて、凸面状であっても、更には、ラック軸の円筒状の外周面の曲率半径と同一又はそれよりも大きな曲率半径をもった凹面状であってもよい。各内側内周面は、少なくともその一部でラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面を除く対応の外周面に摺動自在に接触して、ラック軸を径方向であってピニオンの軸心方向に関しては所定の剛性をもって支持できる程度に、ラック軸の中心に関しての中心角θ1を有していればよく、好ましくは、ラック軸の中心に関して5°以上であって90°以下の中心角θ1を有しており、この場合、各外側内周面は、ラック軸の中心に関して(180°−θ1)の中心角θ2を有しているとよい。各内側内周面は、その一部で又はその全部でラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面を除く対応の外周面に摺動自在に接触していればよい。
【0015】
好ましい例では、各スリットは、ブッシュの軸方向の一端面で開口していると共に当該一端面から円周方向溝を通り過ぎてブッシュの軸方向の他端面の近傍まで軸方向に伸びている。斯かる各スリットは、軸方向と平行に伸びていても、これに代えて、軸方向に対して傾斜して伸びていてもよく、更には、一方のスリットは軸方向と平行、他方のスリットは軸方向に対して傾斜して夫々伸びていてもよい。
【0016】
ブッシュは、ブッシュの軸方向の他端面で開口していると共に当該他端面から円周方向溝を通り過ぎてブッシュの軸方向の一端面の近傍まで軸方向に伸び、しかも、ラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側に配された少なくとも一対の他のスリットを更に具備していてもよく、また、ブッシュは、前記の内側内周面、外側内周面、外周面及び円周方向溝を有した本体部と、この本体部の外周面に一体的に設けられていると共に円周方向において互いに離間している複数の突起とを具備し、この複数の突起は、ラック軸が貫通したハウジングの内周面に接触するようになっていてもよく、この場合、好ましい例では、複数の突起のうちの一つの突起は、一方の内側内周面を挟んで配された一対のスリットに円周方向において挟まれて配されており、複数の突起のうちの他の一つの突起は、他方の内側内周面を挟んで配された他の一対のスリットに円周方向において挟まれて配されている。本体部は、内側内周面及び外側内周面の部位で同一の肉厚をもって形成されていてもよいが、内側内周面では薄肉又は厚肉に、外側内周面では厚肉又は薄肉に形成されていてもよい。
【0017】
本発明のブッシュ軸受は、一方の外側内周面が内側内周面と外側内周面とにより規定された貫通孔に挿着されるラック軸のラック歯側の外周面との間で隙間を形成し、他方の外側内周面がラック軸のラック歯側とは反対側の外周面との間で隙間を形成し、各内側内周面がその少なくとも一部でラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面を除く対応の外周面に摺動自在に接触するように、ブッシュがラック軸に対して配されることを確保するために、円周方向におけるブッシュのハウジングの内周面に対する位置を決定する位置決め手段を更に具備しているとよい。
【0018】
位置決め手段は、好ましい例では、ハウジングの内周面に設けられた凹所に嵌合するように、ブッシュに一体的に設けられた突起を具備している。
【0019】
本発明の自動車のラック−ピニオン式操舵装置は、ピニオンと、このピニオンの歯に噛み合うラック歯を有したラック軸と、このラック軸が貫通したハウジングと、このハウジングに嵌装されていると共にハウジングに対してラック軸を移動自在に支持する上述の種々の態様のブッシュ軸受とを具備している。
【0020】
本発明のラック−ピニオン式操舵装置において、ハウジングとしては、ピニオンを収容するギアハウジングと共にラック軸を支持する中空支持部材であってよいが、好ましくは、ピニオンを収容するギアハウジングであって、ブッシュ軸受は、斯かるピニオンに隣接した側でのラック軸の部位を移動自在に支持するようにハウジングに、好ましい例ではハウジングとしてのギアハウジングに配される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ラック軸を、径方向であってピニオンの軸心方向に関しては所定の剛性をもって支持できる一方、ラック軸の軸方向に関しては低い摩擦抵抗をもって移動自在に支持できる上に、クリープ変形及び熱履歴に伴う応力緩和の影響を低減できるブッシュ軸受及びそれを用いた自動車のラック−ピニオン式操舵装置を提供することができる。
【0022】
次に本発明を、図に示す好ましい実施の形態の例を参照して更に詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例に何等限定されないのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図7及び図8において、本例の自動車のラック−ピニオン式操舵装置1は、ピニオン2と、ピニオン2の歯3に噛み合うラック歯4を有したラック軸5と、ラック軸5が貫通したハウジングとしてのギアハウジング6と、ギアハウジング6に嵌装されていると共にギアハウジング6に対してラック軸5を軸方向であるA方向に移動自在に支持するブッシュ軸受7とを具備している。
【0024】
軸心11を有したピニオン2は、ステアリングホイール(操舵輪)の回転で軸心11を中心としてR1又はR2方向に回転されるようになっている。ギアハウジング6はブッシュ軸受7が嵌装される円筒状の内周面12を有している。
【0025】
ブッシュ軸受7は、特に図1から図5に示すように、その外周面15に円周方向溝16を有する合成樹脂製のブッシュ17と、ブッシュ17の円周方向溝16に装着されていると共に天然ゴム製又は合成ゴム製のOリング等からなる無端環状弾性部材18と、円周方向であるB方向におけるブッシュ17のギアハウジング6の内周面12に対する位置を決定する位置決め手段19とを具備している。
【0026】
ブッシュ17は、外周面15、円周方向溝16、B方向において180°間隔をもって軸対称に配されている平坦面状の内側内周面21及び22、B方向において内側内周面21及び22の夫々を挟んで配されていると共に内側内周面21及び22の夫々を径方向であるC方向であって内外方向に移動自在とする二対のスリット23及び24並びに25及び26、C方向において該内側内周面21及び22よりも外側に配された一対の外側内周面27及び28並びに一対の外側内周面27及び28の夫々をB方向において部分的に分断している一対の他のスリット29及び30を有した本体部35と、本体部35の外周面15に一体的に設けられていると共にB方向において180°間隔をもって互いに離間している二個の突起36及び37とを具備している。
【0027】
外周面15は、スリット23から26、29及び30によりB方向において部分的に分断されており、ギアハウジング6の内周面12との間で隙間38を形成している。
【0028】
内側内周面21は、ラック軸5の中心Oに関して5°以上であって90°以下、本例では30°の中心角θ1を有しており、内側内周面22もまた、ラック軸5の中心Oに関して5°以上であって90°以下、本例では30°の中心角θ1を有しており、特に図6から図8に示すように、内側内周面21は、その一部でラック軸5の外周面41においてラック軸5のラック歯4側及びラック歯4側とは反対側の外周面を除く外周面42に摺動自在に略線接触するようになっており、内側内周面22もまた、その一部でラック軸5の外周面41においてラック軸5のラック歯4側及びラック歯4側とは反対側の外周面を除く外周面43に摺動自在に略線接触するようになっている。内側内周面21及び22のA方向の夫々の端部44は、テーパー面をもって終端するようにしてもよい。
【0029】
B方向において内側内周面21を挟んで配された一対のスリット23及び24の夫々は、ブッシュ17の本体部35のA方向の一端面45で開口していると共に一端面45から円周方向溝16を通り過ぎてブッシュ17の本体部35のA方向の他端面46の近傍までA方向に伸びており、B方向において内側内周面22を挟んで配された一対のスリット25及び26の夫々もまた、ブッシュ17の本体部35のA方向の一端面45で開口していると共に一端面45から円周方向溝16を通り過ぎてブッシュ17の本体部35のA方向の他端面46の近傍までA方向に伸びている。
【0030】
ラック軸5のラック歯4側でラック軸5の中心Oに関して(180°−θ1)の中心角θ2を有している外側内周面27は、内側内周面21及び22と外側内周面27及び28とにより規定された貫通孔47に挿着されるラック軸5の外周面41においてラック歯4側の外周面48との間で隙間49を形成するようになっており、ラック軸5のラック歯4側とは反対側でラック軸5の中心Oに関して(180°−θ1)の中心角θ2を有している外側内周面28は、ラック軸5の外周面41においてラック歯4側とは反対側の外周面50との間で半円筒状の隙間51を形成するようになっている。
【0031】
B方向において180°間隔をもって軸対称に配されていると共にラック軸5のラック歯4側及びラック歯4側とは反対側に配されたスリット29及び30の夫々は、ブッシュ17の本体部35の他端面46で開口していると共に他端面46から円周方向溝16を通り過ぎてブッシュ17の本体部35の一端面45の近傍までA方向に伸びている。
【0032】
円筒状の外周面55を有した突起36は、B方向において一対のスリット23及び24に挟まれて配されていると共にラック軸5が貫通したギアハウジング6の内周面12にその外周面55で合成樹脂製のブッシュ17の弾性力をもってぴったりと接触するようになっており、円筒状の外周面56を有した突起37は、B方向において一対のスリット25及び26に挟まれて配されていると共にラック軸5が貫通したギアハウジング6の内周面12にその外周面56で合成樹脂製のブッシュ17の弾性力をもってぴったりと接触するようになっており、而して、ブッシュ17は、突起36及び37を介してギアハウジング6の内周面12に嵌合されている。
【0033】
無端環状弾性部材18は、その外周面57とギアハウジング6の内周面12との間で隙間38よりも狭い環状の隙間58を形成する一方、ブッシュ17の本体部35を弾性的に僅かに縮径させるように、部分的に外周面15から突出して円周方向溝16に装着されている。
【0034】
位置決め手段19は、本体部35の外周面15に一体的に形成された突起60を具備しており、突起60は、ギアハウジング6の内周面12に形成された凹所59においてそのC方向の先端部及びA方向の端面においてギアハウジング6に係合しており、これによりブッシュ17は、B方向においてギアハウジング6に対して回転しない上に、ギアハウジング6内に必要以上に挿入されないようにされていると共に内側内周面21及び22、突起36及び37並びにスリット23〜26、29及び30がラック軸5のラック歯4に関して位置決めされて配されている。
【0035】
以上のラック−ピニオン式操舵装置1では、軸対称に配されている一対の平坦面状の内側内周面21及び22とB方向において内側内周面21及び22の夫々を挟んで配されていると共に内側内周面21及び22の夫々をC方向であって内外方向に移動自在とする二対のスリット23及び24並びに25及び26とをブッシュ17が具備して、内側内周面21及び22の夫々は、その一部でラック軸5のラック歯4側及びラック歯4側とは反対側の外周面を除く対応の外周面42及び43に摺動自在に接触するようになっている上に、無端環状弾性部材18がブッシュ17の円周方向溝16に装着されているために、ラック軸5をC方向であってピニオン2の軸心方向、即ち図8において上下方向に関しては所定の剛性をもって支持でき、ラック軸5のピニオン2の軸心方向の変位を一対の内側内周面21及び22で抑制でき、A方向の移動に関しては低い摩擦抵抗をもって移動自在に支持でき、しかも、外側内周面27及び28の夫々は、貫通孔47に挿着されるラック軸5のラック歯4側及びラック歯4側とは反対側の外周面48及び50のうちで対応の外周面48及び50との間で隙間49及び51を形成するようになっているために、上記と相俟ってクリープ変形及び熱履歴に伴う応力緩和の影響を低減できる。
【0036】
上記の例では、内側内周面21及び22の夫々を平坦面状としたが、これに代えて、図9に示すように、凸面状、即ち半円筒の凸面状であっても、更には、図10に示すように、ラック軸5の円筒状の外周面41の曲率半径よりも大きな曲率半径をもった凹面状、即ち半円筒の凹面状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の好ましい実施の形態の一例の図2に示すI−I線矢視断面図である。
【図2】図1に示す例の左側面図である。
【図3】図1に示す例の右側面図である。
【図4】図1に示す例の平面図である。
【図5】図1に示す例の底面図である。
【図6】図1に示す例の一部拡大説明図である。
【図7】図1に示す例を自動車のラック−ピニオン式操舵装置に用いた例の説明図である。
【図8】図7に示す例の右側面図である。
【図9】本発明の好ましい実施の形態の他の例の一部拡大説明図である。
【図10】本発明の好ましい実施の形態の更に他の例の一部拡大説明図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ラック−ピニオン式操舵装置
2 ピニオン
3 歯
4 ラック歯
5 ラック軸
6 ギアハウジング
7 ブッシュ軸受
15 外周面
16 円周方向溝
17 ブッシュ
18 無端環状弾性部材
21、22 内側内周面
23、24、25、26 スリット
27、28 外側内周面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に少なくとも一つの円周方向溝を有する合成樹脂製のブッシュと、このブッシュの円周方向溝に装着されている無端環状弾性部材とを具備しており、ブッシュは、軸対称に配されている一対の内側内周面と、円周方向において一方の内側内周面を挟んで配されていると共に当該内側内周面を径方向であって内外方向に移動自在とする一対のスリットと、円周方向において他方の内側内周面を挟んで配されていると共に当該内側内周面を径方向であって内外方向に移動自在とする他の一対のスリットと、径方向において一対の内側内周面よりも外側に配された少なくとも一対の外側内周面とを具備しており、各外側内周面は、一対の内側内周面と一対の外側内周面とにより規定された貫通孔に挿着されるラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面のうちの対応の外周面との間で隙間を形成するようになっており、各内側内周面は、少なくともその一部でラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側の外周面を除く対応の外周面に摺動自在に接触するようになっているブッシュ軸受。
【請求項2】
内側内周面は、凸面状、凹面状又は平坦面状である請求項1に記載のブッシュ軸受。
【請求項3】
各内側内周面は、ラック軸の中心に関して5°以上であって90°以下の中心角θ1を有しており、各外側内周面は、ラック軸の中心に関して(180°−θ1)の中心角θ2を有している請求項1又は2に記載のブッシュ軸受。
【請求項4】
各スリットは、ブッシュの軸方向の一端面で開口していると共に当該一端面から円周方向溝を通り過ぎてブッシュの軸方向の他端面の近傍まで軸方向に伸びている請求項1から3のいずれか一項に記載のブッシュ軸受。
【請求項5】
ブッシュは、ブッシュの軸方向の他端面で開口していると共に当該他端面から円周方向溝を通り過ぎてブッシュの軸方向の一端面の近傍まで軸方向に伸び、しかも、ラック軸のラック歯側及びラック歯側とは反対側に配された少なくとも一対の他のスリットを更に具備している請求項1から4のいずれか一項に記載のブッシュ軸受。
【請求項6】
ブッシュは、前記の内側内周面、外側内周面、外周面及び円周方向溝を有した本体部と、この本体部の外周面に一体的に設けられていると共に円周方向において互いに離間している複数の突起とを具備しており、この複数の突起は、ラック軸が貫通したハウジングの内周面に接触するようになっている請求項1から5のいずれか一項に記載のブッシュ軸受。
【請求項7】
複数の突起のうちの一つの突起は、一方の内側内周面を挟んで配された一対のスリットに円周方向において挟まれて配されており、複数の突起のうちの他の一つの突起は、他方の内側内周面を挟んで配された他の一対のスリットに円周方向において挟まれて配されている請求項6に記載のブッシュ軸受。
【請求項8】
ブッシュの円周方向におけるハウジングの内周面に対する位置を決定する位置決め手段を更に具備している請求項1から7のいずれか一項に記載のブッシュ軸受。
【請求項9】
ピニオンと、このピニオンの歯に噛み合うラック歯を有したラック軸と、このラック軸が貫通したハウジングと、このハウジングに嵌装されていると共にハウジングに対してラック軸を移動自在に支持する請求項1から8のいずれか一項に記載のブッシュ軸受とを具備した自動車のラック−ピニオン式操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−187285(P2007−187285A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7247(P2006−7247)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】