説明

ブラケット固定構造

【課題】ケーブルを保持するブラケットを2枚のインシュレータで挟み込んで被固定部材に固定するブラケット固定構造において、ブラケットの組付け性を向上し、ブラケットの位置ずれを防止する。
【解決手段】各インシュレータ20には一つのボルト挿通孔にのみ突出部21tが形成され、両インシュレータ20は突出部21tが設けられている側を対向させる態様でブラケット10を挟むように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルを保持するブラケットを被固定部材に固定する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用変速機のケース上には、運転者によるシフトレバー操作を変速機に伝達するためのシフトケーブル、電気信号を伝達するためのワイヤーハーネス等、複数のケーブルが配索されている。これらケーブルの所定の位置への配索は、通常、ケーブルをブラケットで保持し、ブラケットをボルトでケースに固定することで行われる(特許文献1)。
【0003】
ところが、ブラケットとケースが直接接触する上記構成では、変速機の振動がブラケットを介してケーブルへと伝達されてしまう。ケーブルによって変速機と接続される部位(セレクトレバー、センサ、コントローラ等)によっては、振動が伝わるのが好ましくなく、この場合、何らかの防振対策をする必要がある。特に、シフトケーブルの場合、変速機の振動がシフトレバーを介して運転者の手に伝達されるため、その必要性が高い。
【0004】
そこで、ブラケットをケースに直接固定するのではなく、防振用のインシュレータを介してケースに固定する構成が考えられる。例えば、片面に防振部材を接着したプレートからなるインシュレータを一組用意し、ブラケットの一部を2枚のインシュレータで両側から挟み込み、この状態で2枚のインシュレータをケースに固定するようにする。この構成によれば、ケースとブラケットの間に防振部材が介在するので、変速機から伝達されてくる振動を防振部材で減衰し、ケーブルへと伝達される振動を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−52796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記2枚のインシュレータを用いる構成では、2枚のインシュレータのそれぞれ対応する位置に突出部を設けておき、ブラケットの一部を2枚のブラケットで挟む際にこれらを突き合わせるようにすれば、これら突出部の周囲に形成される段差を利用してブラケットを所定の位置に位置決めすることができる(図6参照)。
【0007】
しかしながら、このような構成では、ブラケットの組付け性が悪いという問題がある、これは、突出部同士を突き合わせる構成のために突出部の高さが元々低いことに加え、プレートに接着した防振部材の厚みのために、突出部の周囲に形成される段差の高さが小さく、ブラケットが段差を乗り越えやすいからである。
【0008】
ブラケットの位置ずれが大きくなってブラケットがインシュレータの突出部と接触すると、変速機の振動がインシュレータの突出部、ブラケットを介してケーブルへと伝達されるようになり、好ましくない。
【0009】
本発明は、このような技術的課題を鑑みてなされたもので、ケーブルを保持するブラケットを2枚のインシュレータで挟み込んで被固定部材に固定するブラケット固定構造において、ブラケットの組付け性を向上し、ブラケットの位置ずれを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のある態様によれば、ケーブルを保持するブラケットと、2本のボルト挿通孔を有するプレートと当該プレートのプレート面に設けられる防振部材とからなる2枚のインシュレータと、前記ボルト挿通孔にそれぞれ挿通される2本のボルトと、前記ブラケットを前記2枚のインシュレータによって挟み前記2本のボルトで被固定部材に固定するブラケット固定構造であって、各インシュレータには一つのボルト挿通孔にのみ突出部が形成され、両インシュレータは前記突出部が設けられている側を対向させる態様で前記ブラケットを挟むように構成されたことを特徴とするブラケット固定構造が提供される。
【発明の効果】
【0011】
上記態様では、突出部の高さを高くし、十分な高さの段差を突出部の周囲に形成することができる。この段差を利用すれば、ブラケットを容易に位置決めすることができ、ブラケットの組付け性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係るブラケット固定構造を示した図である。
【図2】図1のA矢視図である。
【図3】インシュレータ単体を示した図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】2枚のインシュレータを介してブラケットが変速機ケースに固定される様子を示した図である。
【図6】比較例を説明するための図である。
【図7】本発明の実施形態の作用効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1及び図2は本発明の実施形態に係るブラケット固定構造1を示している。図中、仮想線(二点鎖線)はブラケット10により保持されるケーブル50を示している。この実施形態においては、ケーブル50は、運転者のシフトレバー操作を変速機に伝達するシフトケーブルである。また、ブラケット10が固定される被固定部材は変速機ケース60である。
【0015】
ブラケット10は、金属製であり、後述する2枚のインシュレータ20によって挟持されるベースプレート11と、ベースプレート11の縁部からベースプレート11に対して直角に延び、かつ、ケーブル50を保持するΩ字形状のクランプ部12を有する第1サイドプレート13と、ブラケット10の剛性を高めるためにベースプレート11と第1サイドプレート13の間を連結する第2サイドプレート14とで構成される。
【0016】
2枚のインシュレータ20は、図3、図4に示すように、それぞれ、プレート21と防振ゴム22とで構成される。
【0017】
プレート21は、丸みを帯びた略三角形の金属製で、2枚のインシュレータ20を変速機ケース60に固定するための固定部材としてのボルト30が挿通される2つのボルト挿通孔21a、21bを有する。防振ゴム22は、プレート21を構成する面のうち、ブラケット10のベースプレート11に対向して配置されることになる面(以下、「プレート面21p」という。)に加硫接着され、変速機から伝達される振動を減衰する防振部材として機能する。
【0018】
プレート面21pからは、2つあるボルト挿通孔21a、21bのうちの一方のボルト挿通孔21aの周囲から金属製の突出部21tが、プレート面21pに対して直角に突出している。この突出部21tは、中空の円筒形状をしており、内側に挿通されるボルト30を案内するとともに、2枚のインシュレータ20を組み合わせてボルト30で締め付ける際に、対向するインシュレータ20のプレート面21p(図示せず)に先端を接触させ、インシュレータ20間の距離を突出部21tの高さHに等しくするために用いられる。また、ブラケット10が突出部21tと接触しないよう、突出部21tの外周全面には、プレート面21pと同様に防振部材としての防振ゴム22が加硫接着される。
【0019】
これに対して、突出部21tが設けられない他方のボルト挿通孔21bの周囲は、防振ゴム22が加硫接着されておらず、プレート面21pが環状に露出している。これは、2枚のインシュレータ20を組み合わせる際、対向するインシュレータ20の突出部21t(図示せず)の先端をこの加硫接着されていない部分に挿入し、先端をプレート面21pに接触させてインシュレータ20間の距離を突出部21tの高さHに等しくするためである。
【0020】
なお、ここでは突出部21tの外周全面に防振ゴム22を接着しているが、先端近傍の外周に防振ゴム22を接着しないようにするとともに、ボルト挿通孔21bの周囲におけるプレート面21pの露出部分の幅を防振ゴム22の厚さ分だけ小さくしても良い。
【0021】
突出部21tの高さHは、2枚のインシュレータ20の間に配置される2枚の防振ゴム22の厚さh1×2にブラケット10のベースプレート11の厚さh2を加えた値ht(=2×h1+h2)よりも小さく設定される。これにより、2枚のインシュレータ20でブラケット10のベースプレート11を挟み込んでボルト30を締め付けた際に、防振ゴム22が所定量だけ潰れるようにする。防振ゴム22の1枚当たりの潰れ代は、値htから突出部21tの高さHを引いた値を2で割った値である。
【0022】
また、突出部21tの高さHは、防振ゴム22の厚さh1とブラケット10のベースプレート11の厚さh2の和よりも大きくする(H>h1+h2)。これにより、突出部21tの周囲にブラケット10のベースプレート11の厚さh2を超える大きな段差21sが形成され、この段差21sを利用してブラケット10を容易に位置決めできるようにする。
【0023】
さらに、この実施形態では、2枚のインシュレータ20は同一形状の同一部品である。すなわち、防振ゴム22が設けられている側を変速機ケース60側に向けた場合、ベースプレート11よりも外側に配置されるインシュレータ20として用いることができ、防振ゴム22が設けられている側を変速機ケース60と反対の側に向けた場合、ベースプレート11よりも内側に配置されるインシュレータ20として用いることができる。
【0024】
さらに、この実施形態では、インシュレータ20を構成するプレート21から突出部21tを除いた部分を、左右対称形状、具体的には、2つのボルト挿通孔21a、21bの中心を結ぶ線を二等分する線Cを挟んで左右対称形状としている。対称形状は、2枚のインシュレータ20を同一部品とするための必須の要件ではないが、対称形状とすることで、2枚のインシュレータ20を組み合わせたときの各インシュレータ20のはみ出し量を少なくし、ブラケット10の設置面積の低減、プレート21や防振ゴム22に使用する素材の量の削減が可能である。
【0025】
ベースプレート11を2枚のインシュレータ20で挟持されたブラケット10は、一対のボルト30により2枚のインシュレータ20を変速機ケース60に固定することにより、変速機ケース60に固定される。ブラケット10と変速機ケース60の間には、2枚のインシュレータ20が有する防振ゴム22が介在するので、変速機の振動がブラケット10、さらにはケーブル50へと伝達されるのを抑制することができる。
【0026】
図5は、本実施形態のブラケット10が変速機ケース60に固定される様子を示している。これを参照しながら本実施形態に係るブラケット固定構造1についてさらに説明する。
【0027】
まず、2枚のインシュレータ20を防振ゴム22が設けられている側を向かい合わせにし、2枚のインシュレータ20でブラケット10のベースプレート11を挟み込む。このとき、突出部21tはベースプレート11の対応する位置に形成される開口11a、11bに挿通される。
【0028】
突出部21tは、2つのボルト挿通孔21a、21bのうち一方のボルト挿通孔21aの周囲からのみ突出するので、2枚のインシュレータ20を向かい合わせにすると、それぞれのインシュレータ20から突出する突出部21tの位置がプレート21の面方向にずれ、突出部21tの位置はそれぞれ対向するインシュレータ20の第2のボルト挿通孔21bの位置とプレート21の面方向に一致する。
【0029】
このとき、突出部21tの周囲に形成される段差21sを利用してブラケット10の位置決めが行われるが、段差21sはブラケット10のベースプレート11の厚さh2を超える高さを有するので、段差21sにより十分な引っかかりが得られ、ブラケット10の位置決めを容易に行うことができる。
【0030】
ブラケット10を所定の位置に配置したら、2つのボルト挿通孔21a、21bにそれぞれボルト30を挿通する。そして、ボルト30を規定のトルクで締め付け、ブラケット10を変速機ケース60に固定する。この時、突出部21tの端面はそれぞれ対向するインシュレータ20のプレート面21pに接触し、これにより、2枚のインシュレータ20の間の距離が突出部21tの高さHに等しくなる。
【0031】
続いて、上記ブラケット固定構造1を採用することによる作用効果を図6、図7を参照しながら説明する。図6は比較例、図7は本発明の実施形態に係るブラケット固定構造1の部分拡大図を示している。
【0032】
図6に示す比較例では、プレート121の面方向同一位置において2枚のインシュレータ120の両方から突出部121tが突出し、これら突出部121tが突き合わされることで2枚のインシュレータ120の間の距離が所定距離に規制される。このような構成のため、プレート面121pからの突出部121tの高さH0が元々低く、プレート面121pに防振ゴム122が加硫接着された状態では、突出部121tの実質的な高さがさらに小さくなる。
【0033】
このため、突出部121tの周囲に形成される段差121sを利用してブラケット110を位置決めしようとすると、段差121sによる引っかかりが十分でなく、ブラケット110が段差121sを乗り超えやすくなる。そして、ブラケット110の位置が大きくずれてブラケット110と突出部121tが接触し、この状態でブラケット110が変速機ケース160に固定されると、変速機の振動がインシュレータ120の突出部121tを介してブラケット110に伝達され、ブラケット110で保持される図示しないケーブルへと振動が伝達されてしまう。
【0034】
これに対し、図7に示す本実施形態では、2枚のインシュレータ20を組み合わせた状態では、それぞれの突出部21tの位置がプレート21の面方向にずれ、突出部21tは対向するインシュレータ20のボルト挿通孔21bと面方向に同一位置となって先端がプレート面21pに接触する。このため、比較例に比べて突出部21tの高さHを高くすることができ、この例では、ブラケット10のベースプレート11の厚さh2を超える段差21sが突出部21tの周囲に形成される。したがって、ブラケット10を組付ける際には、この段差21sにブラケット10を引っかけることにより、ブラケット10を容易に位置決めすることができる。
【0035】
したがって、本実施形態では、ブラケット10の組付け性が比較例に比べて向上し、ブラケット10の位置ずれを抑えることができる(請求項1から4に記載の発明の効果)。ブラケット10がインシュレータ20の突出部21tと接触することがないので、変速機の振動がブラケット10を介してケーブル50に伝達されるのを抑制することができる。
【0036】
また、2枚のインシュレータ20を同一部品としたことにより、部品点数を削減し、ブラケット固定構造1のコストを低減することができる(請求項5に記載の発明の効果)。
【0037】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0038】
例えば、上記実施形態では、ブラケット10に保持されるケーブル50をシフトワイヤーとしたが、ケーブル50は力学的な力を伝達するケーブルに限定されず、電気信号を伝達するためのケーブルであってもよい。
【0039】
また、本発明に係るブラケット固定構造1は、上記実施形態のように、変速機の振動が伝達するのが好ましくない部位と変速機とを接続するケーブルを保持するブラケットを固定するのに用いるのが好適であるが、そのようなブラケットに限定されず、さまざまなブラケットの固定構造として用いることができる。
【0040】
また、上記実施形態では、防振部材として防振ゴム22をプレート面21pに加硫接着しているが、防振部材は防振ゴム22に限定されず、他の弾性部材(例えば、弾力のある樹脂部材)を他の接着方法(例えば、接着剤)でプレート面21pに接着するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
10 ブラケット
20 インシュレータ
21 プレート
21a ボルト挿通孔(第1のボルト挿通孔)
21b ボルト挿通孔(第2のボルト挿通孔)
21t 突出部
22 防振ゴム(防振部材)
30 ボルト(固定部材)
50 ケーブル
60 変速機ケース(被固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルを保持するブラケットと、
2本のボルト挿通孔を有するプレートと当該プレートのプレート面に設けられる防振部材とからなる2枚のインシュレータと、
前記ボルト挿通孔にそれぞれ挿通される2本のボルトと、
前記ブラケットを前記2枚のインシュレータによって挟み、前記2本のボルトで被固定部材に固定するブラケット固定構造であって、
各インシュレータには一つのボルト挿通孔にのみ突出部が形成され、両インシュレータは前記突出部が設けられている側を対向させる態様で前記ブラケットを挟むように構成されたことを特徴とするブラケット固定構造。
【請求項2】
請求項1に記載のブラケット固定構造であって、
前記突出部の前記プレート面からの高さが、少なくとも前記防振部材の厚みと前記ブラケットの挟持される部分の厚みの和よりも大きい、
ことを特徴とするブラケット固定構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のブラケット固定構造であって、
前記突出部の外周にも前記防振部材が設けられる、
ことを特徴とするブラケット固定構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のブラケット固定構造であって、
前記突出部の先端が、対向するインシュレータの前記プレート面に接触する、
ことを特徴とするブラケット固定構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一つに記載のブラケット固定構造であって、
前記2枚のインシュレータが同一形状である、
ことを特徴とするブラケット固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−106499(P2011−106499A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259753(P2009−259753)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】