説明

ブレーキディスクおよびクラッチディスクの改良またはそれに関連する改良

炭素繊維強化ブレーキディスクおよびクラッチディスク、特にシリコン処理炭素−炭素繊維複合体等のセラミックディスクの摩擦特性は、摩擦面を平均粗さRaが2.5μm以下、好ましくは2.0μm以下であり、好ましくは最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrが少なくとも70%、好ましくは少なくとも90%となるように機械加工することによって高められる。高められた摩擦特性は、摩擦レベルの増加及び摩耗の減少の一方または両方を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦特性が向上した炭素繊維強化ディスク、さらには、ディスクブレーキシステムに使用されるブレーキローターのような炭素繊維強化ブレーキディスク、および炭素繊維強化クラッチディスクに関する。
【発明の概要】
【0002】
シリコン処理炭素−炭素繊維複合体などのセラミックディスクを含む炭素繊維強化ブレーキディスクやクラッチディスクの使用には多くの関心が示されている。この後者のディスクは、高い強度、高い使用温度での優れた物理特性および摩擦特性を維持する性能、ならびに、従来の金属製のブレーキディスクに比べ軽量、例えば、通常の鉄製のディスクに比べて50〜60%の軽量化が可能であるため特に関心がもたれている。このような軽量化は、性能や燃料経済性の改善にとって重要であり、自動車用ブレーキの場合、バネ下重量(unsprung weight)を減少することで、路面保持性能(road holding)、ハンドリングおよび快適性をも向上することができ得る。炭素−炭素繊維ディスクは、使用温度で比較的低い摩擦特性を示すため、概して航空用途に限定されるが、一方で、炭素繊維強化セラミックディスクは使用温度で効率的に動くため、自動車ブレーキの重要要件である時々の軽いブレーキ(occasional light braking)の提供が可能である。
【0003】
従来の市販の炭素−炭素繊維複合体ブレーキディスクおよびクラッチディスクは、たいてい、強化炭素繊維とピッチやフェノール樹脂などの炭素樹脂を所望の形状に近い形状に熱成形する、レジンチャー(resin char)法で製造される。得られた成形体は、例えば、不活性雰囲気下または真空下で約1000℃まで加熱することにより炭素化され、そして、任意に、例えば、2000℃を超える温度まで加熱することによりグラファイト化される。このように得られた素地(green bodies)を、その後、必要に応じて成形および/または結合してもよく、そして所望により、その後、例えば、少なくとも溶融シリコン浴に部分浸漬、または過剰のシリコンとともに真空容器に封入し、その後、その容器に高温および等方圧をかけることを含む熱間静水圧処理(hot isostatic pressure treatment)することでシリコン処理してもよい。
【0004】
炭素−炭素繊維複合体の形成のために、一連の化学気相浸透工程を経て最初の炭素繊維プリフォームを緻密化する化学気相浸透法(Chemical vapour infiltration procedures)を、レジンチャー法の代わりに用いてもよい。そのような方法によれば優れた構造完全性を有する複合体の生成が可能となるが、代わりにレジンチャー法に比べより動作コストが高い。1回の化学浸透工程のみを用いて緻密化された炭素繊維プリフォームにシリコン処理を行う、シリコン処理炭素−炭素繊維ブレーキディスクおよびクラッチディスクの製造に関するより経済的な方法が、WO−A−2007/012865に記載されている。
【0005】
このような方法で得られたシリコン処理炭素−炭素繊維複合体ブレーキディスクおよびクラッチディスクは、シリコン処理の前または後に所望の最終寸法に機械加工されてもよい。シリコン処理前の中間体生成物は、シリコン処理された最終生成物よりも硬くないため、より機械加工しやすい前者が好ましい。
【0006】
実際のところシリコン処理炭素−炭素繊維複合体ディスク等の炭素繊維強化セラミックブレーキディスクおよびクラッチディスクの摩擦面は、一般的にウェットやドライ旋削(turning on a lathe)を含む最終機械加工工程に供される。これは旋削した面(turned face)の周りにとても細かいらせんの形状を有する旋盤切削工具に由来する表面形状を生み出す。そのような表面の平均粗さ値Ra(粗さ曲線の面積を評価長さで割ることで求められる粗さ曲線の絶対値の積分)は、通常は3〜4μmかそれ以上になるだろう。もう一つの方法として、表面仕上げと同程度にその表面を粉砕(milled)または粉末化(ground)してもよい。
【0007】
本発明は、例えば、炭素繊維強化ブレーキディスクやクラッチディスク等の炭素繊維強化ディスクの摩擦面を、研磨(grinding)等によって平均粗さRaが2.5μm以下であるかなり平滑な仕上げに機械加工することが、ディスクの摩擦特性に予想外に有益な作用を及ぼすというわれわれの知見に基づいている。特に、われわれは、平滑摩擦面によって、より高い摩擦レベルを得ることが可能となること、および/または、表面摩耗レベルの著しい減少をもたらし製品寿命の延びをもたらすこと、を見出した。このような摩擦の増加と平滑性の増加との関連性は、本質的に驚くべきことである。摩耗の減少にみられるように、特に、セラミックブレーキディスクの研磨特性の場合、当業者であれば、高い摩擦は必ず高い摩耗を導くと予想するだろう
それゆえ、本発明の広範な側面によれば、炭素繊維強化ディスク、特に平均粗さRaが2.5μm以下、例えば、2.4μm以下、2.3μm以下、2.2μm以下、2.1μm以下および好ましくは2.0μm以下の摩擦面を有する炭素繊維強化ブレーキディスクまたは炭素繊維強化クラッチディスクが提供される。
【0008】
従来の炭素繊維強化ディスクの表面は、高倍率で観察した時、山頂と谷の形状であると考えられる。本発明の炭素繊維強化ディスクでは、この形状はかなり平滑である。例えば、研磨によってピークが取り除かれ、平滑なクレーターのある表面が残る。この新しい平滑性は、その材料の材料粗さ割合(material roughness ratio)Rmrを測定することによって定量化することができる。その材料粗さ割合は、最も高いピークの5%下の基準線(datum line)の10μm下で測定されたときに少なくとも70%であるべきであり、より好ましくは、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定されたときに少なくとも80%であり、より好ましくは、最も高いピークの5%下にある基準線の10μm下で測定されたときに少なくとも90%である。その材料粗さ割合は、最も高いピーク下の深さでの評価長さの百分率として表される、この場合、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定される材料表面の長さである。
【0009】
それゆえ、他の側面によると、本発明は、平均粗さRaが2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下の摩擦面であって、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrが少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%である摩擦面を有する炭素繊維強化ディスクを提供する。
【0010】
ディスクの強度を最適化するために、ディスクに含まれている炭素繊維は、互いに90°の角度で配置された複数の繊維を含むことが有利である。そのような配置は、例えば0°と90°で配置された炭素繊維の交互に重なった層を含む織布や不織フェルトなどの炭素繊維布の連続シートや円柱から切り取られ、そしてそれから例えば、レジンチャー、化学気相浸透または湿潤性モノマー含浸(wetting monomer infiltration)によって緻密化され、そしてその後、任意にセラミック化(ceramification)される。例えば、15°、30°、45°および60°またはこれらの複合などの繊維の他の方向もまた、ある応用、特に自動車用途においては有用である。ある応用においては、繊維がさまざまな方向および/または不規則な向きに配置することが望ましいこともある。
【0011】
炭素繊維強化セラミックディスクは、炭素−炭素繊維複合体ディスクに1種またはそれ以上の、例えば、メンデレーエフの元素の周期表(CAS version)のIII〜VI族から選択される溶融炭化物形成金属(molten carbide-forming metals)を染み込ませる等の周知の方法で得ることができる。このための代表的な金属としては、ホウ素等のIIIA族金属、シリコン等のIVA族金属、チタン、ジルコニウムおよびハフニウム等のIVB族金属、バナジウムおよびタンタル等のVB族金属、モリブテンおよびタングステン等のVIB族金属、ならびに、前述の金属の混合物などが挙げられる。シリコン処理炭素−炭素繊維複合体の使用が好ましい。
【0012】
本発明のブレーキディスクおよびクラッチディスクは、摩擦面の平均粗さRaが2.5μm以下であり、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrが少なくとも70%であることを有利な特徴とする。この材料粗さ割合は、評価長さの百分率として表される測定線の下の材料表面の長さである。
【0013】
ミツトヨ社製のサーフテストSJ−301計器等の市販の表面粗さ試験器をRaおよびRmr値の測定に用いることができる。一貫性を保つために、面における主な炭素繊維方向に沿って、および面における主な炭素繊維方向に交わるように、2、3もしくはそれ以上のそれぞれのディスク面の異なる場所で測定を行うことが望まれる。
【0014】
本発明は、さらに上記で定義された炭素繊維強化ブレーキディスクおよびクラッチディスクの製造方法を提供する。その方法では、予備成形ディスクの摩擦面が、求められる表面仕上げを得るために機械加工される。
【0015】
摩擦面を上記で定義されたRaの範囲未満、および、好ましくは上記で定義されたRmrの範囲を超える平滑性に機械加工することは、例えば、ダイヤモンドが埋め込まれた研磨ディスクを用いて研磨することによって達成される。特にセラミックディスクを処理する際には、冷却液を用いる湿式研磨工程(wet grinding process)を用いることが有利である。
【0016】
所望により、研磨工程の前に先行して、粗い表面凹凸を取り除くために、例えば旋盤上で、粗加工(coarser machining)を行ってもよい。これは、例えばセラミック化(ceramification)の間に導入されうる。この研磨工程は、最適水準の表面仕上げを得るために、任意に、連続してより細かな研削砥石を用いる工程を2回もしくはそれ以上行ってもよく、そして所望ならば続いてホーニング仕上げ(honing)などのさらなる処理を行ってもよい。要求される表面仕上げを作り出す他の機械加工方法が同様に良好に用いられることは理解されることであろう。
【0017】
一方で、炭素繊維強化セラミックブレーキディスクの製造における最終工程として摩擦面を研磨することは、従来技術の一般化された文献に存在するが(例えば、アメリカ特許6,527,092号 および7,045,207号を参照)、上記で定義された特性を有する表面仕上げを得るための研磨技術などの示唆はない。さらに、そのような研磨や他の機械加工により得られる特に平滑な表面が、われわれが観測したような予想以上の高められた摩擦特性を導き得ることを示唆していない。
【0018】
このような本発明のさらなる側面は、炭素繊維強化ブレーキディスクまたはクラッチディスクの摩擦特性を高めるための手段としての機械加工の使用として定義されうる。そこでは、平均粗さRaが2.5μm以下、例えば2.4μm以下、2.3μm以下、2.2μm以下または2.1μm以下、そして好ましくは2.0μm以下であり、また、好ましくは、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrが少なくとも70%であり、例えば、少なくとも80%、そしてより好ましくは少なくとも90%である。
【0019】
機械加工は、研磨によって容易に成し遂げられ得る。そして、そのディスクは、シリコン処理炭素−炭素繊維複合体または他の炭素繊維強化セラミックディスクを有利に含む。その高められた摩擦特性は、好ましくは摩擦レベルの増加および摩耗の減少の一方または両方を含む。
【0020】
本発明はとりわけ、自動車用と航空機用のブレーキディスク特に、高性能車やオートバイのためのブレーキディスク、同様に、高性能自動車やオートバイのような高性能自動推進用用途のためのクラッチディスクを包含する。動力計上での自動車ディスク/パッドシステムのテストにおいて、本発明による平滑なシリコン処理ディスクは、旋削によって仕上げられる従来のディスクに比べより素早く固定された(bedded)。通常の固定(normal bedding)を超えて長く続いたテストでも高い摩擦レベルが維持された。この高い摩擦にもかかわらず、平滑なディスクは旋削下ディスクに比べて著しく低い摩擦特性を示した。
【0021】
1つのローター(rotor)と2つのステーター(stator)を含む3つのディスク(disc stack)を含む航空機用ブレーキディスクのテストにおいて、平均粗さRaが3〜4μmである従来の表面仕上げされたシリコン処理ディスクは、1160 同等ランディング(equivalent landings)として定量化される摩耗率を示した。一方で、2μm未満のRaを有する本発明のシリコン処理ディスクは、同等の摩擦特性を示したが、2762同等ランディング(equivalent landings)に相当する、著しく減少した摩耗率を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粗さRaが2.5μm以下であり、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrが少なくとも70%である摩擦面を有する炭素繊維強化ディスク。
【請求項2】
前記摩擦面が2.0μm以下の平均粗さRaを有する請求項1に記載のディスク。
【請求項3】
前記摩擦面が、少なくとも90%の、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrを有する請求項1または2に記載のディスク。
【請求項4】
互いに約90°で配置された複数の炭素繊維を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のディスク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセラミックディスク。
【請求項6】
シリコン処理炭素−炭素繊維複合体を含む請求項5に記載のディスク。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の自動車用ブレーキディスク。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の航空機用ブレーキディスク。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のクラッチディスク。
【請求項10】
予め形成された炭素繊維強化ディスクの摩擦面を所望の表面仕上げに機械加工する請求項1〜9のいずれか1項に記載のディスクの製造方法。
【請求項11】
前記機械加工が研磨によって達成される請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記研磨が、ダイヤモンドが埋め込まれた研磨ディスクを用いることによって達成される請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
ディスクの摩擦面を平均粗さRaが2.5μm以下であり、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmlが少なくとも70%となるように機械加工する、炭素繊維強化ディスクの表面特性を高めるための方法としての機械加工の使用。
【請求項14】
前記摩擦面が、平均粗さRaが2.0μm以下に機械加工される、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記摩擦面が、最も高いピークの5%下の基準線の10μm下で測定した時の材料粗さ割合Rmrが少なくとも90%である、請求項12または13に記載の使用。
【請求項16】
前記ディスクが、互いに約90°で配置された複数の炭素繊維を含む請求項13〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
前記ディスクが研磨によって機械加工される、請求項13〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
前記ディスクが炭素繊維強化セラミックブレーキディスクである請求項13〜17のいずれか1項に記載の使用。
【請求項19】
前記ディスクが、シリコン処理炭素−炭素繊維複合体を含む、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記ディスクが自動車用ブレーキディスクである、請求項13〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項21】
前記ディスクが航空機用ブレーキディスクである、請求項13〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
前記ディスクがクラッチディスクである、請求項13〜19のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
高められた摩擦特性が、摩擦レベルの増加および摩耗の低下の少なくとも1つを含む、請求項13〜21のいずれか1項に記載の使用。

【公表番号】特表2010−539423(P2010−539423A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525419(P2010−525419)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003141
【国際公開番号】WO2009/037437
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(508028195)サーフィス トランスフォームズ ピーエルシー (4)
【Fターム(参考)】