説明

ブレーキブースタ及び車両制御装置

【課題】簡単な構成によりブレーキブースタに十分な負圧を提供する。
【解決手段】内燃機関の負圧の供給を受ける圧力室を備えたブレーキブースタ本体61と、前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路たる吸気系1のうちスロットル弁11とサージタンク13との間の部位又はサージタンクとを接続し中途に逆止弁64を有する第1負圧通路62と、前記圧力室と吸気系のうちサージタンクよりも下流の部位とを接続し中途に逆止弁たるリードバルブ66を有する第2負圧通路63とを具備し、前記圧力室内に供給される前記負圧を利用して作動するブレーキブースタ6を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられるブレーキブースタ、及びこのブレーキブースタとともに用いられる車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両、特には自動車では、制動システムを構成する摩擦式のブレーキの操作力を制御するために気圧式倍力装置すなわちブレーキブースタを備えたものが知られている。このブレーキブースタは、負圧を蓄積する定圧室と負圧よりも高圧な空気が蓄積される変圧室とを備えるものが一般的である。そして、ブレーキブースタは、定圧室にはエンジン(内燃機関)の吸気通路から負圧を導入し、その負圧と変圧室の圧力との差を利用して、自動車の乗員がブレーキペダルを操作した場合にブレーキに加わる操作力が大きくなるように機能するものである。
【0003】
ところで、エンジンを始動した直後の冷間時には、一般に、エンジン回転数を上げるためにスロットル開度を大きくする制御を行うため吸気マニホルドにおいて十分な吸気管負圧が得られなくなることがある。また、空調装置の使用時や、排気ガス循環制御を行っている場合も同様に吸気通路からの吸気管負圧を十分に確保できなくなることがある。このような課題を解決するための手段の一つして、ベンチュリ効果を発生させるためのベンチュリ部を備え、このベンチュリ部によりベンチュリ効果を発生させて負圧をブレーキブースタに供給する構造が考えられている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、特許文献1の構造では、ベンチュリ効果を発生させるためのベンチュリ部、ベンチュリ効果を利用する必要がない程度に吸気通路内の負圧が大きい場合に吸気通路内の負圧を直接ブレーキブースタに供給させるための低圧バイパス通路、及び前記ベンチュリ部を経由して負圧をブレーキブースタに供給する状態と前記低圧バイパス通路を経由して負圧をブレーキブースタに供給する状態とを切り替えるための負圧切替弁等を設ける必要があり、構造が複雑なものとなるという別の不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−155687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の点に着目し、簡単な構成によりブレーキブースタに十分な負圧を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係るブレーキブースタの一つは、内燃機関の負圧の供給を受ける圧力室を備えたブレーキブースタ本体と、前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路のうちスロットル弁とサージタンクとの間の部位又はサージタンクとを接続し中途に逆止弁を有する第1負圧通路と、前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路のうちサージタンクよりも下流の部位とを接続し中途に逆止弁を有する第2負圧通路とを具備し、前記圧力室内に供給される前記負圧を利用して作動することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るブレーキブースタの他の一つは、複数の気筒を有する内燃機関の負圧の供給を受ける圧力室を備えたブレーキブースタ本体と、前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路のうちサージタンクよりも下流で前記複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続する部位とを接続する負圧通路とを具備し、前記圧力室内に供給される前記負圧を利用して作動することを特徴とする。なお、本発明において、「ブレーキブースタが作動する」とは、ブレーキブースタによりブレーキ力をアシストされることを示す概念である。
【0009】
これらのようなものであれば、スロットル弁とサージタンクとの間の部位と比較して、サージタンクよりも下流の部位は吸気弁の開閉に伴う吸気脈動がより大きいので、サージタンクにより大きな負圧を供給することができる。すなわち、特許文献1記載のものと比較して、このような効果を簡単な構成で得ることができる。特に、複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続するものであれば、このような気筒の空気流量が少ないことからさらに大きな負圧を供給できるとともに、この負圧通路を介して空気流量が少ない気筒に空気を供給できるので、気筒間の空気流量のばらつきを低減することができる。
【0010】
このように前記圧力室と複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒の吸入空気通路とを接続する負圧通路を有するブレーキブースタを用いる場合には、ブレーキ操作量が減少した際に前記負圧通路が接続されている気筒の燃料噴射量の増量補正を行う車両制御装置をともに用いるとよい。このようなものであれば、ブレーキ操作量が減少した際にブレーキブースタから空気が供給されることを加味して燃料噴射量の増量補正を行うので、気筒内の燃焼の安定を図ることができるからである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な構成によりブレーキブースタに十分な負圧を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における内燃機関を概略的に示す図。
【図2】同実施形態におけるブレーキブースタを概略的に示す図。
【図3】図2における要部を拡大して示す図。
【図4】同実施形態における吸気系内の負圧の時間変化
【図5】同実施形態における電子制御装置が実行する処理を示すフローチャート。
【図6】本発明の他の実施形態におけるブレーキブースタを概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
図1に1気筒の構成を概略的に示した3気筒の内燃機関たるエンジン100は、例えば自動車に搭載されるものである。このエンジン100は、吸入空気通路たる吸気系1、シリンダ2及び排気系5を備えている。吸気系1には、図示しないアクセルペダルに応じて開閉するスロットル弁11が設けてあり、そのスロットル弁11の下流には、サージタンク13、及びこのサージタンク13から各気筒に連通する通路14を一体に有する吸気マニホルド12が取り付けてある。シリンダ2上部に形成される燃焼室23の天井部には、点火プラグ8が取り付けてある。さらに、吸気マニホルド12の吸気ポート側端部には、燃料噴射弁3が取り付けてある。この燃料噴射弁3は、後述する電子制御装置4により制御される。これに対して、排気系5は、排気マニホルド53、フロントO2センサ51、三元触媒52、及びリアO2センサ54を備えている。
【0015】
また、本実施形態では、負圧室と変圧室とから構成される圧力室を備えるものであって、図2及び図3に示すように、前記吸気系1から負圧の供給を受ける図示しない負圧室、ブレーキペダルBPが踏み込まれていないときには前記吸気系1から負圧の供給を受け、ブレーキペダルBPが踏み込まれているときには前記吸気系1からの負圧の供給を遮断し外部から大気圧の供給を受ける図示しない変圧室、及びこれら負圧室と変圧室との間を区画するとともに変圧室側をブレーキペダルBPに接続している図示しないピストンを有するブレーキブースタ本体61と、前記負圧室と変圧室とから構成される圧力室とサージタンク13とを接続し中途に逆止弁64を有する第1負圧通路62と、前記圧力室と前記吸気系1のうちサージタンク13よりも下流の部位、より具体的には前記複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続する前記通路14とを接続し中途に絞り65を有する第2負圧通路63とを具備し、前記圧力室内に供給される前記負圧を利用してブレーキ力をアシストする、すなわちブレーキペダルBPの操作をアシストするするブレーキブースタ6をさらに具備する。
【0016】
前記ブレーキブースタ本体61は、前記負圧室内及び前記変圧室内の両方に前記負圧の供給を受けた状態からブレーキペダルが踏み込まれることによって、前記変圧室内に大気圧が供給される際に前記負圧室と前記変圧室との間に発生する差圧により前記ピストンが駆動されることにより、このピストンの負圧室側に接続したプッシュロッド60を駆動してブレーキペダルBPの操作をアシストする、従来周知のものとほぼ同様の構成を有する。なお、前記ブレーキブースタにおいては、ブレーキペダルが踏み込まれている状態から踏み込まれていない状態へと変化すると、変圧室内に供給されていた大気圧、言換えると大気空気が前記第1負圧通路62及び前記第2負圧通路63を通って吸気系1に供給されることとなる。
【0017】
また、前記第1負圧通路62も、サージタンク13から負圧をブレーキブースタ本体61の圧力室に導入するための従来周知のものと同様の構成を有する。
【0018】
前記第2負圧通路63は、上述したように、前記圧力室と前記複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続する前記通路14とを接続するものである。より具体的には、この第2負圧通路63の一端部は、吸気脈動が最も大きい部位である吸気ポート直前の箇所に接続している。また、この第2負圧通路63の吸気系1側の端部には、図3に示すように、リードバルブ66を設けている。このリードバルブ66は、吸気脈動に追随可能な逆止弁であり、ブレーキブースタ本体61の圧力室に正圧が導入されるのを防ぐ機能を有する。また、このリードバルブ66は、請求項中の逆止弁としての機能を有する。ここで、吸気系1内におけるサージタンク13内及び第2の負圧通路63が接続される部位の負圧の時間変化の一例を図4に示す。
【0019】
一方、前記電子制御装置4は、マイクロコンピュータ41と、メモリ42と、入力インターフェース43と、出力インターフェース44とを備えて構成されている。マイクロコンピュータ41は、メモリ42に格納された、以下に説明する種々のプログラムを実行して、エンジン100の運転を制御するものである。マイクロコンピュータ41には、エンジン100の運転制御に必要な情報が入力インターフェース43を介して入力されるとともに、マイクロコンピュータ41は、燃料制御弁3、点火プラグ8などに対して制御信号を、出力インターフェース44を介して出力する。この電子制御装置4は、請求項中の制御装置として機能する。
【0020】
具体的には、入力インターフェース43には、サージタンク13内の圧力を検出するための吸気圧センサ71から出力される吸気圧信号a、エンジン回転数を検出するための回転数センサ72から出力される回転数信号b、カムポジションセンサ73から出力される気筒判別信号c、ブレーキペダルBPに接続したブレーキ操作量センサ74から出力されるブレーキ操作量信号dなどが入力される。
【0021】
一方、出力インターフェース44からは、点火プラグ8に対して点火信号m、燃料制御弁3に対して燃料噴射信号n等が出力される。
【0022】
このような構成において、電子制御装置4は、吸気圧センサ71から出力される吸気圧信号aと回転数センサ72から出力される回転数信号bとを主な情報として、運転状態に応じて設定される係数を用いて燃料噴射量を演算し、燃料噴射量に対応する燃料噴射時間つまり燃料噴射弁3に対する通電時間を決定し、その決定された通電時間により燃料噴射弁3を制御して、燃料を吸気系1に噴射させる。さらに本実施形態では、燃料噴射量を決定するに当たって、ブレーキ操作量が減少した際には、前記第2の負圧通路が接続されている気筒において増量補正を行う。
【0023】
以下、ブレーキ操作量が減少した際に電子制御装置4が行う制御の手順をフローチャートである図5を参照しつつ説明する。
【0024】
まず、前記吸気圧信号aが示す吸気圧と前記回転数信号bが示す回転数とをパラメータとして燃料噴射量を演算する(S1)。次いで、ブレーキ操作量信号dが示すブレーキ操作量が減少しているか否かを判定する(S2)。ブレーキ操作量が減少している場合には、前記気筒判別信号cが示す気筒すなわちこれから燃料噴射を行う気筒がブレーキブースタの第2の負圧通路に接続した気筒であるか否かを判定し(S3)、これから燃料噴射を行う気筒がブレーキブースタ6の第2の負圧通路63に接続した気筒である場合には、ステップS1で演算した燃料噴射量に、ブレーキブースタ6から供給される空気量に対応させて増量する補正を行い(S4)、増量補正後の燃料噴射量を噴射する制御を行う(S5)。一方、ブレーキ操作量が減少していない場合、及びこれから燃料噴射を行う気筒がブレーキブースタ6の第2の負圧通路63に接続した気筒でない場合には、ステップS1で演算した燃料噴射量を噴射する制御を行う(S6)。なお、ステップS1による燃料噴射量の演算は、この種の内燃機関における吸気圧及び回転数をパラメータとした従来周知の燃料噴射量と同様のものである。また、前記増量補正による増量幅は予め実験により求められたものであり、電子制御装置4のメモリ42の所定領域に格納している。
【0025】
すなわち、ブレーキ操作量が減少した場合には、ブレーキブースタの第2の負圧通路に接続した気筒に対しては、前記ステップS1→S2→S3→S4→S5の制御が順次行われ、ブレーキブースタから供給された空気量の増加に対応して増量補正が行われた後の燃料噴射量が噴射される。一方、その他の気筒に対しては、前記ステップS1→S2→S3→S6の制御が順次行われ、通常の噴射量制御による燃料噴射量が噴射される。
【0026】
以上に述べたように、本実施形態によれば、第2の負圧通路63の一端を吸気弁の開閉に伴う吸気脈動が前記図4に示すようにより大きいサージタンク13よりも下流の部位、より具体的には吸気脈動が最も大きい部位である吸気ポート直前の箇所に接続しているので、サージタンク13に一端部を接続した第1の負圧通路62のみを設ける場合と比較して、ブレーキブースタ本体61に、より大きな負圧を供給することができる。
【0027】
また、第2の負圧通路63を複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続しているので、このような気筒の空気流量が少ないことからさらに大きな負圧を供給できるとともに、この負圧通路を介して空気流量が少ない気筒に空気を供給できるので、気筒間の空気流量のばらつきを低減することができる。
【0028】
さらに、上述したように吸気弁の開閉に伴う吸気脈動がより大きいサージタンク13よりも下流の部位にその一端を接続した第2の負圧通路63を設けることにより、前記特許文献1記載のもののようなベンチュリ部や負圧切替弁等を設ける態様のものと比較して、部品点数の削減及び構造の簡単化を図ることができ、上述した効果をより低コストで実現することができる。
【0029】
加えて、電子制御装置4が、ブレーキ操作量が減少した際に前記第2の負圧通路63が接続されている気筒の燃料噴射量の増量補正を行うので、ブレーキ操作量が減少した際にブレーキブースタ6から空気が供給されることを加味して燃料噴射量の増量補正が行われ、気筒内の燃焼の安定を図ることができる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に限らず、種々に変更してよい。
【0031】
例えば、上述した実施形態におけるブレーキブースタ6に替えて、負圧室と変圧室とから構成される圧力室を備えるものであって、図6に構成を示すように、前記吸気系1から負圧の供給を受ける図示しない負圧室、ブレーキペダルBPが踏み込まれていないときには前記吸気系1から負圧の供給を受け、ブレーキペダルBPが踏み込まれているときには前記吸気系1からの負圧の供給を遮断し外部から大気圧の供給を受ける図示しない変圧室、及びこれら負圧室と変圧室との間を区画するとともに変圧室側をブレーキペダルに接続している図示しないピストンを有し、前記負圧室及び前記変圧室内の両方に負圧の供給を受けた状態からブレーキペダルが踏み込まれることによって、前記変圧室内に大気圧が供給される際に前記ピストンの負圧室側に接続したプッシュロッドA60を駆動してブレーキペダルBPの操作をアシストするブレーキブースタ本体A61と、前記圧力室と複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続する通路14とを接続し中途に絞りA65及び逆止弁としてのリードバルブA66を有する第2負圧通路A63とのみを具備するブレーキブースタA6を採用してもよい。
【0032】
また、ブレーキ操作量が減少した際にブレーキブースタから空気が供給されることに伴う燃料噴射量の増量補正は、上述した実施形態に述べた以外の方法で行うようにしてもよく、場合によってはこのような増量補正を省略してもよい。
【0033】
その他、本発明の趣旨を損ねない範囲で種々に変更してよい。
【符号の説明】
【0034】
1…吸気系(吸入空気通路)
13…サージタンク
4…電子制御装置(車両制御装置)
6、A6…ブレーキブースタ
61、A61…ブレーキブースタ本体
62…第1の負圧通路
63…第2の負圧通路
A63…負圧通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の負圧の供給を受ける圧力室を備えたブレーキブースタ本体と、
前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路のうちスロットル弁とサージタンクとの間の部位又はサージタンクとを接続し中途に逆止弁を有する第1負圧通路と、
前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路のうちサージタンクよりも下流の部位とを接続し中途に逆止弁を有する第2負圧通路と
を具備し、
前記圧力室内に供給される前記負圧を利用して作動することを特徴とするブレーキブースタ。
【請求項2】
複数の気筒を有する内燃機関の負圧の供給を受ける圧力室と、
前記圧力室と内燃機関の吸入空気通路のうちサージタンクよりも下流で前記複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒に接続する部位とを接続する負圧通路と
を具備し、
前記圧力室内に供給される前記負圧を利用して作動することを特徴とするブレーキブースタ。
【請求項3】
前記圧力室と複数の気筒のうち空気流量が少ない気筒の吸入空気通路とを接続する負圧通路を有する請求項1又は2記載のブレーキブースタとともに用いられる車両制御装置であって、
ブレーキ操作量が減少した際に前記負圧通路が接続されている気筒の燃料噴射量の増量補正を行う車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−192877(P2012−192877A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59572(P2011−59572)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】