説明

ブレーキ制御装置

【課題】電源電圧が低下した場合においても制動制御における制動力を確保しつつ、電力使用の効率化を図ることができるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】ある態様のブレーキ制御装置によれば、電源の出力電圧が閾電圧以上であれば通常の制動制御がなされ、設定された制動力およびその応答性が確保される。一方、電源の出力電圧がその閾電圧より低下すると省電力制動制御に切り替えられ、制動制御における電力消費が低減される。アキュムレータの蓄圧に際してオイルポンプのモータ駆動が開始されたときに、省電力制動制御への切替電圧である閾電圧を基準電圧V10からそれより低い調整電圧V1xに切り替え、省電力制動制御へ移行し難くしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪に付与する制動力を制御するブレーキ制御装置に関し、特に制動制御に用いられるアクチュエータの電源電圧のマネージメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ブレーキペダルの操作力に応じた液圧を液圧回路内に発生させ、その液圧を配管を通じて各車輪のホイールシリンダに供給することにより車両に制動力を付与するブレーキ制御装置が知られている。この液圧回路には、作動液としてのブレーキフルードを貯留するリザーバタンク、リザーバタンクからブレーキフルードを汲み上げるモータ駆動のポンプ、ポンプにより昇圧されたブレーキフルードを蓄積するアキュムレータを含む液圧源が設けられている。各車輪のホイールシリンダと液圧源との間には、ブレーキフルードの給排量を調整するために開閉制御される増圧弁や減圧弁等の電磁弁が設けられている。アキュムレータに蓄圧して液圧源を所定圧以上に保持することで、制動制御の応答性も確保されている。
【0003】
ところで、このような液圧回路に配置されたアクチュエータの作動電流は、車両に搭載されたバッテリにより賄われるが、経年劣化によりそのバッテリの出力電圧は徐々に低下する。また一般に、バッテリは、オルタネータの駆動や回生制動などによる蓄電が行われるものの、ブレーキ制御装置以外にも車両に搭載された他システムの電源としても共用されるため、複数のシステムが同時に起動するような場合、消費電力が一時的に増大する。このような場合にいわゆるバッテリ上がりを防止するために、バッテリの出力電圧を監視し、その出力電圧が設定値を下回ったときに通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える装置も提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−177555号公報
【特許文献2】特開2000−177570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなブレーキ制御装置においては、アクチュエータによってその消費電力の大きさも異なる。特に、ポンプ駆動のためのモータは他のアクチュエータよりも起動電流(突入電流)が大きく、消費電力も大きくなる。バッテリの出力電圧が低下した場合には、最低作動電圧が高いアクチュエータから順に駆動できなくなることも考慮すると、そうしたアクチュエータの起動状態や、その起動による電源電圧の降下分に基づく制動制御および電源マネージメントをするのが好ましい。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電源電圧が低下した場合においても制動制御における制動力を確保しつつ、電力使用の効率化を図ることができるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ制御装置は、電源から供給される電力に応じた駆動力を発生させるモータを含み、そのモータ駆動力に応じた制動力を車輪に作用させるブレーキ制御装置において、電源の出力電圧を検出する電圧検出部と、電源の出力電圧が予め定める閾電圧より低下したときに、通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える制動電力切替部と、モータの駆動が開始されたときに、閾電圧をそのモータの駆動開始前の基準電圧よりも低い調整電圧に切り替える制動電力調整部と、を備える。
【0008】
この態様では、電源から供給される制御電流が大きいほどモータ駆動力が大きくなり、その結果、大きな制動力を発生させることができる。モータ駆動力は、車輪の制動させるための制動機構に直接作用するものであってもよいし、制動制御が液圧などの媒体とする場合には、その液圧など媒体による制動力を増大させるように作用するものでもよい。前者の例としては、例えば電動キャリパをモータ駆動する構成が考えられる。一方、後者の例としては、例えば液圧源から作動液を汲み上げて昇圧し、液圧回路ひいてはホイールシリンダに供給するポンプをモータ駆動する構成が考えられる。
【0009】
この態様によると、電源の出力電圧が閾電圧以上であれば通常の制動制御(「通常制動制御」という)がなされ、設定された制動力およびその応答性が確保される。一方、電源の出力電圧がその閾電圧より低下すると省電力制動制御に切り替えられ、制動制御における電力消費が低減される。この省電力制動制御は、通常制動制御に比べてその制御応答性が劣る可能性はあるものの、制動機能そのものを維持することはできる。このように省電力制動制御へ移行しても、電源の出力電圧が再び閾電圧以上に回復すれば、通常制動制御へ復帰させてよい。
【0010】
そして特に、モータの駆動が開始されたときに、閾電圧がそのモータの駆動開始前の基準電圧よりも低い調整電圧に切り替えられる。すなわち、モータの駆動開始時には、その定常駆動時の定常電流よりも大きな突入電流が要され、電源電圧を一時的に大きく降下させるが、そのような電圧降下が発生しても最低限の制動力は確保する必要がある。一方、その突入電流は一時的なものであり、モータの駆動開始後にはそれより低い定常電流が確保されればよい。そこで、この態様ではモータの駆動開始前、つまりモータのオフ状態においては閾電圧を比較的高くして省電力制動制御へ移行しやすくし、モータの駆動開始時の電圧降下に備えて十分な電源電圧を確保する。一方、モータ駆動後、つまりモータのオン状態においては、その後に大きな電圧降下が発生する可能性が低いため、閾電圧を基準電圧より低くして省電力制動制御へ移行し難くし、不必要な制御の切り替えを抑制するとともに制動制御の応答性を確保する。
【0011】
本発明の別の態様もまた、ブレーキ制御装置である。この装置は、電源から供給される電力に応じた駆動力を発生させるモータを含み、そのモータ駆動力に応じた制動力を車輪に作用させるブレーキ制御装置において、電源の出力電圧を検出する電圧検出部と、電源の出力電圧が予め定める閾電圧より低下したときに、通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える制動電力切替部と、車速が予め定める切替基準値以下となったときに、閾電圧を車速が切替基準値より高いときの基準電圧よりも低い調整電圧に切り替える制動電力調整部と、を備える。
【0012】
ここでいう「モータ駆動力」と「制動力」との関係、通常の制動制御と省電力制動制御との関係については上述のとおりである。「車速」については、車両に設けられたセンサ等の車速検出部により検出されたものを用いてもよいし、他システムから車速情報を取得できる場合には、その取得された車速を用いてもよい。
【0013】
この態様では、車速が切替基準値以下となったときに、閾電圧が基準電圧よりも低い調整電圧に切り替えられる。すなわち、低車速時は制動制御に対する運転者のフィーリングが比較的敏感になる傾向にある。このため、閾電圧を基準電圧より低くして省電力制動制御へ移行し難くし、不必要な制御の切り替えを抑制して可能な限り通常制動制御を継続させて制御の応答性を確保するものである。
【0014】
本発明のさらに別の態様もまた、ブレーキ制御装置である。この装置は、電源から供給される電力に応じた駆動力を発生させるモータを含み、そのモータ駆動力に応じた制動力を車輪に作用させるブレーキ制御装置において、電源の出力電圧を検出する電圧検出部と、電源の出力電圧が予め定める閾電圧より低下したときに、通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える制動電力切替部と、電源からの電力供給対象となる通電回路の温度を判定し、その温度が高くなるほど閾電圧が低くなるように設定する制動電力調整部と、を備える。
【0015】
ここでいう「モータ駆動力」と「制動力」との関係、通常の制動制御と省電力制動制御との関係については上述のとおりである。「通電回路の温度」については、その通電回路の温度そのものであってもよいし、通電回路の温度に応じて変化する特定のパラメータの検出値からその通電回路の温度を推定するものであってもよい。後者の場合、例えば、通電回路への通電時間に基づいて推定してもよい。あるいは、車両が置かれる外気温に基づいて推定してもよい。「通電回路」は、モータの駆動回路であってもよいし、制動制御のためのその他のアクチュエータの駆動回路であってもよい。
【0016】
この態様では、電源からの電力供給対象となる通電回路の温度が判定され、その温度が高くなるほど閾電圧が低くなるように設定される。すなわち、通電回路の温度が低くなると、その通電回路の抵抗値が小さくなるため、モータの突入電流が相対的に大きくなる。その結果、電源電圧の電圧降下が大きくなるが、そのような電圧降下が発生しても最低限の制動力は確保する必要がある。そこで、この態様では通電回路の温度が低いときには閾電圧を比較的高くして省電力制動制御へ移行しやすくし、モータの駆動開始時の電圧降下に備えて十分な電源電圧を確保する。一方、通電回路の温度が十分に高いときにはその後に大きな電圧降下が発生する可能性が低いため、閾電圧を基準電圧より低くして省電力制動制御へ移行し難くし、不必要な制御の切り替えを抑制するとともに制動制御の応答性を確保する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電源電圧が低下した場合においても制動制御における制動力を確保しつつ、電力使用の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】ブレーキ制御装置およびその周辺の電気的構成を表す図である。
【図3】液圧制御時に用いられる制御マップのひとつを表す図である。
【図4】液圧制御時に用いられる他の制御マップを表す図である。
【図5】液圧制御時に実行される電源マネージメントの概要を表すタイミングチャートである。
【図6】電源マネジメントを含むアキュムレータの蓄圧処理の流れを表すフローチャートである。
【図7】変形例に係る液圧制御時に実行される電源マネージメントの概要を表すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。 図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
ブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステム(ECB)を構成しており、車両に設けられた4つの車輪に付与される制動力を制御する。ブレーキ制御装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギーを電気エネルギーに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施の形態に係るブレーキ制御装置10が搭載される車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0020】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液を送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。
【0021】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、運転者によるブレーキペダル12の踏力に応じたペダルストロークを創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、通常時通電することにより開弁し、異常時等非通電時に閉弁する常閉型の電磁開閉弁である。また、マスタシリンダ14には、作動液を貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。
【0022】
マスタシリンダ14の第1出力ポート14aには、右前輪用のブレーキ液圧制御管16が接続されている。ブレーキ液圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の第2出力ポート14bには、左前輪用のブレーキ液圧制御管18が接続されている。ブレーキ液圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
【0023】
右前輪用のブレーキ液圧制御管16の中途には、右電磁開閉弁22FRが設けられており、左前輪用のブレーキ液圧制御管18の中途には、左電磁開閉弁22FLが設けられている。これらの右電磁開閉弁22FRおよび左電磁開閉弁22FLは、何れも、非通電時に開状態にあり、通電時に閉状態に切り換えられる常開型電磁弁である。なお、以下では適宜、右電磁開閉弁22FR、左電磁開閉弁22FLを総称して、「電磁開閉弁22」という。
【0024】
また、右前輪用のブレーキ液圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ液圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、「マスタシリンダ圧センサ48」という。
【0025】
一方、リザーバタンク26には、液圧給排管28の一端が接続されており、この液圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、液圧源の蓄圧部としてのアキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施の形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、作動液の圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。
【0026】
アキュムレータ50は、通常、オイルポンプ34によって所定液圧範囲(例えば14〜21MPa程度)にまで昇圧された作動液を蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、液圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50における作動液の圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧の作動液は液圧給排管28へと戻される。さらに、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50における作動液の圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51(「液圧検出部」として機能する)が設けられている。
【0027】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RR、左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下、適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」といい、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、何れも、非通電時は閉じた状態にあり、必要に応じてホイールシリンダ20の増圧に利用される常閉型の電磁弁(リニア弁)である。なお、図示しない車両の各車輪に対しては、ディスクブレーキユニットが設けられており、各ディスクブレーキユニットは、ホイールシリンダ20の作用によってブレーキパッドをディスクに押し付けることで制動力を発生する。
【0028】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ減圧弁42FRまたは42FLを介して液圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁弁(リニア弁)である。一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して液圧給排管28に接続されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0029】
右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用する作動液の圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR、44FL、44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
【0030】
上述の電磁開閉弁22、増圧弁40、減圧弁42、モータ32等は、ブレーキ制御装置10の液圧アクチュエータ80を構成する。そして、かかる液圧アクチュエータ80は、ブレーキECU200によって制御される。
【0031】
ブレーキECU200は、ホイールシリンダ20におけるホイールシリンダ圧を制御する制御手段として機能する。ブレーキECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ等を備える。
【0032】
ブレーキECU200には、液圧アクチュエータ80を構成する電磁開閉弁22、シミュレータカット弁23、増圧弁40、減圧弁42、モータ32等が電気的に接続されている。また、ブレーキECU200は、上位のハイブリッドECU(図示せず)などと通信可能である。
【0033】
また、ブレーキECU200には、制御に用いるための信号を出力する各種センサ・スイッチ類が電気的に接続されている。すなわち、ブレーキECU200には、ホイールシリンダ圧センサ44から、ホイールシリンダ20におけるホイールシリンダ圧を示す信号が入力され、ストロークセンサ46からブレーキペダル12のペダルストロークを示す信号が入力され、マスタシリンダ圧センサ48からマスタシリンダ圧を示す信号が入力され、アキュムレータ圧センサ51からアキュムレータ圧を示す信号が入力される。
【0034】
さらに、図示しないが、ブレーキECU200には、各車輪ごとに設置された車輪速センサから各車輪の車輪速度を示す信号が入力され、ヨーレートセンサからヨーレートを示す信号が入力され、Gセンサから車両の加速度を示す信号が入力され、舵角センサからステアリングホイールの操舵角を示す信号が入力されたりしている。
【0035】
このように構成されるブレーキ制御装置10では、ブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置10は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル12を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてブレーキECU200は要求制動力を演算し、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力の情報は、上位のハイブリッドECU(図示せず)からブレーキECU200に供給される。ブレーキECU200は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ20の目標液圧を算出する。ブレーキECU200は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御則により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。
【0036】
その結果、ブレーキ制御装置10においては、作動液がアキュムレータ50から各増圧弁40を介して各ホイールシリンダ20に供給され、車輪に制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ20から作動液が減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。本実施の形態においては、アキュムレータ50、増圧弁40、減圧弁42等を含んで、ブレーキペダル12の操作から独立してホイールシリンダ20の液圧を制御し得るホイールシリンダ圧制御系統が構成されている。ホイールシリンダ圧制御系統により、いわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
【0037】
一方、このとき電磁開閉弁22FRおよび22FLは閉状態とされ、シミュレータカット弁23は開状態とされる。よって、運転者によるブレーキペダル12の踏込によりマスタシリンダ14から送出された作動液は、シミュレータカット弁23を通ってストロークシミュレータ24に流入する。
【0038】
また、アキュムレータ圧が予め設定された設定範囲の下限値以下であるときには、ブレーキECU200によりモータ32に電流が供給され、オイルポンプ34が駆動されてアキュムレータ圧が昇圧される。この昇圧によってアキュムレータ圧がその設定範囲に入りその上限値に達すると、モータ32への給電が停止される。
【0039】
図2は、ブレーキ制御装置およびその周辺の電気的構成を表す図である。
ブレーキECU200には、適切な制動制御を実現するために車輪速センサ102、ヨーレートセンサ104、Gセンサ106、舵角センサ108、電圧検出センサ109、ストロークセンサ46、マスタシリンダ圧センサ48、ホイールシリンダ圧センサ44、アキュムレータ圧センサ51等が接続され、それぞれの出力信号が入力される。また、ブレーキECU200には、所定の通信ラインを介してハイブリッドECU100が接続されている。ブレーキECU200は、そのハイブリッドECU100から回生制動力等の情報を取得し、上述のように各ホイールシリンダ20の目標液圧を算出する。そして、各ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、液圧アクチュエータ80の増圧弁40、減圧弁42、電磁開閉弁22、モータ32等に制御電流を供給する。
【0040】
ブレーキECU200には、また、電源装置110が接続されている。電源装置110は、主電源装置112と補助電源装置114とを含む。主電源装置112は、ブレーキ制御装置専用ではなく、エンジン制御装置など他の車載装置にも電力を供給可能な共通の電源装置として設けられている。一方、補助電源装置114は、ブレーキ制御装置専用の電源装置として設けられたものである。
【0041】
主電源装置112は、主電源としての高圧バッテリ116および補機バッテリ118、DC/DCコンバータ120、および図示しない制御回路等を含む。高圧バッテリ116は、出力電圧が例えば288Vのハイブリッド車両用のバッテリであり、通常の走行状態において車輪を駆動する図示しない電動モータに電力を供給する。高圧バッテリ116は、車両制動時に図示しないモータジェネレータによって回生された電力を蓄える。一方、補機バッテリ118は、出力電圧が例えば12Vのバッテリであり、ブレーキECU200やハイブリッドECU100等の各種制御ユニット、液圧アクチュエータ80、ヘッドランプ等の各種補機等に必要な起動電流や制御電流を供給する。高圧バッテリ116の出力電圧は、DC/DCコンバータ120によって例えば12Vに降圧され、補機バッテリ118の充電に供される。
【0042】
補助電源装置114は、補助電源としてのキャパシタ122、監視回路124、切替回路126等を含む。補助電源装置114は、主電源装置112から供給された電気エネルギを蓄え、その電気エネルギをブレーキECU200を経由して液圧アクチュエータ80に供給可能なものである。キャパシタ122は、コンデンサからなる複数のセルを含んで構成され、そのセルごとに充放電状態が制御されるものである。主電源装置112から供給された電流は定電流回路等を含む蓄電回路を経てキャパシタ122に供給される。なお、このようなキャパシタの構造および蓄電制御等は公知であるため、その詳細な説明については省略する。
【0043】
監視回路124は、補機バッテリ118の出力電圧を監視し、その出力電圧が設定値以下となった場合に補機バッテリ118または高圧バッテリ116の失陥を判定する。切替回路126は、監視回路124によりそのバッテリの失陥が検出された場合に、補機バッテリ118に代えてキャパシタ122からブレーキECU200や液圧アクチュエータ80等に電力が供給されるように切り替える。補機バッテリ118の出力電圧は、電圧検出部としての電圧検出センサ109によっても検出され、その検出情報がブレーキECU200に入力される。
【0044】
なお、変形例においては、監視回路124および切替回路126をブレーキECU200内に実装してもよい。そして、ブレーキECU200が、補機バッテリ118の出力電圧を監視し、その電力の供給元を補機バッテリ118またはキャパシタ122に適宜切り替えるようにしてもよい。また、補機バッテリ118の出力電圧を検出する電圧検出センサ109を別途設けることなく、補機バッテリ118から供給される電圧値をブレーキECU200内にて監視するようにしてもよい。
【0045】
次に、本実施の形態のブレーキ制御方法の主要部について説明する。
上述のように、本実施の形態では液圧制動に際してアキュムレータ50への蓄圧を行い、そのアキュムレータ圧Paccが設定範囲に含まれるよう保持している。そして、制動制御が開始されると、増圧弁40を開放することでアキュムレータ50に蓄圧された液圧を各ホイールシリンダ20に供給する。しかし、このアキュムレータ50の蓄圧はオイルポンプ34の駆動により実現されるため、これを駆動するモータ32を適切に作動させる必要がある。一方、液圧アクチュエータ80を構成するモータ32や各種電磁制御弁は、補機バッテリ118によりその作動電流が供給されるため、そのモータ32等を適切に作動させるためには、補機バッテリ118の電力を安定に供給する必要がある。他方、補機バッテリ118は、例えばエンジン制御装置などブレーキ制御装置10以外の他システムにも共通の電源となっている。このため、補機バッテリ118が経年劣化している場合など、その電気エネルギーの安定した確保が難しくなった場合、あるいは、複数のシステムが同時に作動するなど消費電力が一時的に増大するような場合の電源マネージメントが特に重要になってくる。
【0046】
そこで、本実施の形態では、補機バッテリ118の出力電圧に閾置(「閾電圧」という)を設定し、その出力電圧が閾電圧より低下したときに、通常の制動制御(通常制動制御)からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える。それにより、ブレーキ制御装置10の最低限必要な作動を確保するとともに、他システムへの必要電力についても確保できるようにしている。具体的には、液圧アクチュエータ80において特に起動時の電気負荷が大きいモータ32による電圧降下を考慮した電源マネージメントを行う。すなわち、補機バッテリ118の出力電圧が閾電圧より低いか否かに基づいて通常制動制御と省電力制動制御との切替を実行する一方、モータ32の起動タイミングをトリガとしてその閾電圧の切り替えを実行する。
【0047】
図3は、液圧制御時に用いられる制御マップのひとつを表す図である。同図の横軸は補機バッテリ118の出力電圧VBを示し、縦軸はアキュムレータ圧Paccを示している。 電圧検出センサ109により検出された補機バッテリ118の出力電圧が閾電圧より低下したとき、ブレーキECU200は、アキュムレータ圧の設定範囲を広げることによりモータ32の駆動頻度を低減させて省電力制動制御へ移行させる設定範囲変更処理を実行する。
【0048】
すなわち、図示の制御マップにおいては、補機バッテリ118の出力電圧VBが閾電圧Vref(例えば11V)よりも大きい通常時において、アキュムレータ圧Paccの設定範囲の下限値である蓄圧開始液圧PaccONをPacc10(例えば16Mpa)に設定し、上限値である蓄圧終了液圧PaccOFFをPacc20(例えば18Mpa)に設定している。このため、アキュムレータ圧センサ51により検出されるアキュムレータ圧PaccがPacc10以下となったときにオイルポンプ34が駆動され、アキュムレータ50への蓄圧が開始される。そして、そのアキュムレータ圧Paccが上昇してPacc20以上となったときにオイルポンプ34の駆動が停止され、アキュムレータ50への蓄圧が終了される。その結果、アキュムレータ圧Paccは、蓄圧開始液圧PaccON(=Pacc10)と蓄圧終了液圧PaccOFF(=Pacc20)との間の設定範囲に維持され、応答性が確保された所望の制動制御が実現される。
【0049】
一方、補機バッテリ118の出力電圧VBが閾電圧Vref以下となった場合には、蓄圧開始液圧PaccONがPacc1x(例えば14Mpa)に嵩下げ設定されるとともに、蓄圧終了液圧PaccOFFがPacc2x(例えば21Mpa)に嵩上げ設定され、アキュムレータ圧Paccの設定範囲が上下に広げられる。これにより、アキュムレータ圧Paccがより低下しなければオイルポンプ34による蓄圧動作が開始されないようになる。一方、一旦蓄圧動作が開始されると、アキュムレータ圧Paccがより高く高められるまでその蓄圧動作が行われ、アキュムレータ圧Paccが消費されるまでの期間が長くなるようにされる。結果的に、オイルポンプ34の駆動頻度、つまりモータ32の起動頻度を少なくされる。それにより、モータ32の起動時の突入電流による大きな電圧降下の発生頻度を少なくし、その突入電流による電力消費を抑制することができる。
【0050】
図4は、液圧制御時に用いられる他の制御マップを表す図である。同図の横軸は最大制動G(減速度)を示し、縦軸は補機バッテリ118の出力電圧(電源電圧)Vを示している。図中斜線領域は、省電力制動制御が実行される領域を示している。図5は、液圧制御時に実行される電源マネージメントの概要を表すタイミングチャートである。同図には上段からモータ32の駆動状態、閾電圧Vrefの切り替え状態が示されている。同図の横軸は時間の経過を表している。
【0051】
上述した通常制動制御から省電力制動制御への移行により、補機バッテリ118の消費電力を抑制できるようになるが、反面、アキュムレータ50の蓄圧状態によっては制動制御の応答性を低下させる可能性がある。このため、本実施の形態では、モータ32の起動タイミングをトリガとしてその閾電圧Vrefの切り替えを実行してその省電力制動制御への移行を抑えることにより、その応答性についてもある程度維持できるようにする。
【0052】
すなわち図4のように、閾電圧Vrefとして基準電圧V10と調整電圧V1xとが切り替え可能に設けられている。基準電圧V10はモータ32の非駆動時に参照され、調整電圧V1xはモータ32の駆動時に参照される。本実施の形態では、基準電圧V10としてモータ32を起動させるための起動電流(突入電流)を確保可能な電圧値(例えば11V)が設定され、調整電圧V1xとしてモータ32の駆動状態を保持するための定常電流を確保可能な電圧値(例えば10V)が設定されている。起動電流は定常電流よりも大きいため、基準電圧V10は、調整電圧V1xよりもその電流差に相当する分高くなる。
【0053】
なお、図示のように、補機バッテリ118の失陥を判定するための失陥判定電圧Vmin(例えば9V)も設定されている。補機バッテリ118の出力電圧がその失陥判定電圧Vminを下回ると、制動制御を含む各種制御に支障をきたす可能性があるため、図示しない車載表示装置にその旨を示す状態報知がなされ、バッテリの交換が促される。
【0054】
同図には、補機バッテリ118の出力電圧と、そのとき得ることが可能な最大制動G(最大減速度)とがほぼ線形的な対応関係にあることが示されるとともに、モータ32の駆動状態によって省電力制動制御が制限されることが示されている。なお、ここでいう最大制動Gは、補機バッテリ118の電気エネルギーによりモータ32を最大出力にて駆動した場合に、オイルポンプ34の作動により蓄圧可能なアキュムレータ圧Paccに対応する。図示の例では、補機バッテリ118の出力電圧が失陥判定電圧Vminである場合に、減速度G1(例えば0.2G)まで得られ、調整電圧V1xのときに減速度G2(例えば0.4G)まで得られ、基準電圧V10のときに減速度G3(例えば0.6G)まで得られる。
【0055】
図5にも示すように、モータ32の非駆動状態においては、閾電圧Vrefが基準電圧V10に設定されるため、補機バッテリ118の出力電圧が基準電圧V10よりも低下したときに通常制動制御から省電力制動制御に切り替えられる。一方、モータ32の駆動状態においては閾電圧Vrefが調整電圧V1xに設定されるため、補機バッテリ118の出力電圧が調整電圧V1xよりも低下したときに通常制動制御から省電力制動制御に切り替えられる。すなわち、モータ32の駆動状態においては閾電圧Vrefが低い値に切り替えられるため、省電力制動制御へ移行し難くしている。
【0056】
図6は、電源マネジメントを含むアキュムレータの蓄圧処理の流れを表すフローチャートである。本処理は、イグニッションスイッチがオンにされた後、ブレーキECU200により所定の周期で繰り返し実行される。なお、蓄圧開始液圧PaccONの初期設定はPacc10、蓄圧終了液圧PaccOFFの初期設定はPacc20となっている。また、閾電圧Vrefの初期設定は基準電圧V10となっている。
【0057】
ブレーキECU200は、電圧検出センサ109の検出値に基づき、出力電圧VBが閾電圧Vrefより低くなっていると判定すると(S10のY)、通常制動制御から省電力制動制御へ移行させる。すなわち、蓄圧開始液圧PaccONをPacc1xに嵩下げ設定するとともに(S12)、蓄圧終了液圧PaccOFFをPacc2xに嵩上げ設定する(S14)。一方、出力電圧VBが閾電圧Vref以上であると判定すると(S10のN)、蓄圧開始液圧PaccONをPacc10に設定するとともに(S16)、蓄圧終了液圧PaccOFFをPacc20に設定する(S18)。すなわち、仮に出力電圧VBが一時的に閾電圧Vref以下となってその後に閾電圧Vrefよりも高電圧に復帰した場合には、蓄圧開始液圧PaccONおよび蓄圧終了液圧PaccOFFを初期設定に戻す。
【0058】
そして、ブレーキECU200は、アキュムレータ圧センサ51の検出値に基づき、アキュムレータ圧Paccが蓄圧開始液圧PaccON以下になったと判定すると(S20のY)、モータ32への通電を行ってオイルポンプ34の駆動を開始する(S22)。続いて、閾電圧Vrefを基準電圧V10から調整電圧V1xに切り替え(S24)、それ以降の省電力制動制御へ移行を抑制する。その結果、仮に次の処理タイミングのS10にて出力電圧VBが調整電圧V1x以上である場合には、省電力制動制御から通常制動制御へ戻される。
【0059】
そして、そのオイルポンプ34の駆動により、アキュムレータ圧Paccが蓄圧終了液圧PaccOFF以上になったと判定すると(S20のN,S26のY,S28のY)、モータ32への通電を停止してオイルポンプ34の駆動を停止する(S30)。続いて、閾電圧Vrefを調整電圧V1xから基準電圧V10に戻す(S32)。その結果、仮に次の処理タイミングのS10にて出力電圧VBが基準電圧V10より低い場合には、省電力制動制御へ移行される。なお、S26にてオイルポンプ34の駆動中でない場合(S26のN)には、S28〜S32の処理をスキップする。また、S28にてアキュムレータ圧Paccが蓄圧終了液圧PaccOFF未満である場合(S28のN)、S30およびS32の処理をスキップする。
【0060】
以上に説明したように、本実施の形態においては、アキュムレータ50の蓄圧に際してオイルポンプ34の駆動が開始されたときに、省電力制動制御への切替電圧である閾電圧Vrefが基準電圧V10からそれより低い調整電圧V1xに切り替えられる。すなわち、モータ32の駆動開始時には大きな突入電流が要され、補機バッテリ118の電源電圧を一時的に大きく降下させるが、モータ32の駆動開始前に十分な電源電圧が確保されることで、その電圧降下の影響を抑制することができる。一方、その電圧降下はモータ32の駆動開始時に生じる一時的なものであり、モータ32の駆動開始後にはそれより低い定常電流が確保されれば足りるため、閾電圧Vrefを低い値に切り替えて省電力制動制御へ移行し難くしている。それにより、不必要な制御の切り替えを抑制するとともに、制動制御の応答性を確保することができる。
【0061】
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。これらの実施の形態は例示であり、各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
(第1変形例)
図7は、変形例に係る液圧制御時に実行される電源マネージメントの概要を表すタイミングチャートである。同図には上段からモータ32の通電回路の温度、閾電圧Vrefの設定状態が示されている。同図の横軸は時間の経過を表している。
【0063】
本変形例では、モータ32の通電回路の温度を推定し、その温度が高くなるほど閾電圧Vrefが低くなるように設定する。すなわち、低温時には通電回路の抵抗値が小さくなるため通電電流が大きくなり、その結果、モータ32の駆動開始時の電圧降下も大きくなると考えられる。言い換えれば、通電回路の温度が上昇すると電圧降下は小さくなるため、省電力制動制御へ移行させることなく通常制動制御を可能な限り継続することで、制動制御の応答性を保持する余地が残されている。
【0064】
そこで、本変形例では、通電回路の温度が高くなるほど閾電圧Vrefが低くなるようにして、省電力制動制御への移行を抑制する。本実施の形態では、モータ32の駆動時間からその通電回路の温度を推定するための制御マップが用意されており、ブレーキECU200は、モータ32の駆動時間(通電時間)および停止時間(非通電時間)から、通電回路の発熱または放熱による通電回路の温度を推定し、その温度に応じて閾電圧Vrefを変化させる。同図には、通電回路の温度に対して閾電圧Vrefを線形的に変化させる設定例が示されている。
【0065】
なお、本変形例では、モータ32の駆動時間および停止時間から通電回路の温度を推定する例を示したが、他のパラメータから温度推定を行ってもよい。例えば、モータ32の近傍に外気温センサを設け、検出される外気温から通電回路の温度を推定するようにしてもよい。その場合、その外気温センサの温度と通電回路の温度との対応関係が予め実験等を通じて設定される。あるいは、いずれかの電磁制御弁の通電時間および非通電時間から、モータ32の通電回路の温度を間接的に推定するようにしてもよい。
【0066】
(第2変形例)
本変形例では、制動制御の過程で車速が予め定める切替基準値(例えば30km/h)以下となったときに、閾電圧Vrefを基準電圧V10からそれより低い調整電圧V1xに切り替える。車速がその切替基準値よりも高ければ、閾電圧Vrefを基準電圧V10に保持する。すなわち、制動過程においては車速が低下して車両停止に近づくほど、車両を確実に停止させたいという運転者の制動要求も高くなり、制動制御に対する運転者のフィーリングが敏感になる傾向にあると考えられる。このため、本変形例では閾電圧を低くして省電力制動制御へ移行し難くし、可能な限り通常制動制御を継続させて制御の応答性を確保する。
【0067】
(第3変形例)
本変形例では、ブレーキECU200が、他システムの電源マネージメント情報を受け取る。具体的には、ブレーキECU200が、例えば電源電圧を共用するパワーステアリング制御装置の電源マネージメント情報を所定の通信ラインを介して受け取り、そのパワーステアリング制御装置にて既に省電力制御が実行されていると判定すると、省電力制動制御へ移行させるようにしてもよい。
【0068】
すなわち、補機バッテリ118の電源電圧を複数のシステムにて共用する場合、優先度の高いシステムへの供給電力を担保するために、それより優先度の低いシステムへの電力供給が抑制されることがある。ここでは、そのような他システムの省電力制御の実行情報から、補機バッテリ118の電気エネルギーが不足しがちであることが把握される。ブレーキECU200は、その省電力制御の実行情報の受信をトリガとして省電力制動制御へ移行し、補機バッテリ118の電圧低下を抑制する。その場合も、上記実施例と同様に、モータ32の駆動状態に応じて閾電圧Vrefを基準電圧V10と調整電圧V1xとの間で切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0069】
10 ブレーキ制御装置、 20 ホイールシリンダ、 22 電磁開閉弁、 32 モータ、 34 オイルポンプ、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 50 アキュムレータ、 80 液圧アクチュエータ、 109 電圧検出センサ、 110 電源装置、 116 高圧バッテリ、 118 補機バッテリ、 122 キャパシタ、 200 ブレーキECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される電力に応じた駆動力を発生させるモータを含み、そのモータ駆動力に応じた制動力を車輪に作用させるブレーキ制御装置において、
前記電源の出力電圧を検出する電圧検出部と、
前記電源の出力電圧が予め定める閾電圧より低下したときに、通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える制動電力切替部と、
前記モータの駆動が開始されたときに、前記閾電圧をそのモータの駆動開始前の基準電圧よりも低い調整電圧に切り替える制動電力調整部と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
電源から供給される電力に応じた駆動力を発生させるモータを含み、そのモータ駆動力に応じた制動力を車輪に作用させるブレーキ制御装置において、
前記電源の出力電圧を検出する電圧検出部と、
前記電源の出力電圧が予め定める閾電圧より低下したときに、通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える制動電力切替部と、
車速が予め定める切替基準値以下となったときに、前記閾電圧を車速が前記切替基準値より高いときの基準電圧よりも低い調整電圧に切り替える制動電力調整部と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
電源から供給される電力に応じた駆動力を発生させるモータを含み、そのモータ駆動力に応じた制動力を車輪に作用させるブレーキ制御装置において、
前記電源の出力電圧を検出する電圧検出部と、
前記電源の出力電圧が予め定める閾電圧より低下したときに、通常の制動制御からそれより電力消費を低減する省電力制動制御に切り替える制動電力切替部と、
前記電源からの電力供給対象となる通電回路の温度を判定し、その温度が高くなるほど前記閾電圧が低くなるように設定する制動電力調整部と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−167917(P2010−167917A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12599(P2009−12599)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】