説明

ブレーキ液圧制御装置

【課題】作動流体の漏れに対する制動力の低下を抑制する。
【解決手段】ブレーキ液圧制御装置100において、機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16とホイールシリンダとの間の流路に接続されるとともにアキュムレータ72とも連通されており、アキュムレータ72から供給されるブレーキフルードの液圧を利用してマスタシリンダ16から供給される作動流体の液圧を増圧する。アキュムレータ圧カット弁98は、アキュムレータ72と機械式増圧弁26との間に設けられ、アキュムレータ72から供給されるブレーキフルードの流れを遮断する。液レベルセンサ19は、ブレーキフルードの外部への漏れを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧回路の液圧の制御に用いるブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキペダルの操作力に応じた液圧を液圧回路内に発生させて、ホイールシリンダにその液圧回路内の液圧を供給することにより車両の車輪に制動力を付与する車両用液圧ブレーキ装置が知られている。このような液圧ブレーキ装置には、そのホイールシリンダの手前に増圧弁や減圧弁等の電磁弁が設けられており、これらの電磁弁を開閉制御することによってホイールシリンダへの作動液の給排量を調整して液圧を制御し、各車輪に適切な制動力を付与している。
【0003】
また、ブレーキ液圧を発生する液圧源として、マスタシリンダと高圧源とを備える液圧ブレーキ装置が知られている。このような液圧ブレーキ装置は、システムが正常に機能する場合、マスタシリンダとホイールシリンダとを遮断し、高圧源を液圧源としてホイールシリンダ圧の増圧を図る制御を実行する。上記の制御において、ホイールシリンダ圧はマスタシリンダ圧に対して所定の倍力比を有する液圧に制御される。
【0004】
一方、このような液圧ブレーキ装置は、システムに故障が認められる場合、マスタシリンダとホイールシリンダとを連通させて、マスタシリンダを液圧源としてホイールシリンダ圧の増圧を図る制御を実行する。上記の制御によれば、ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ圧と等圧に制御することができる。そのため、前述の液圧ブレーキ装置によれば、システムに故障が発生しても、少なくともマスタシリンダ圧と等圧のホイールシリンダ圧を発生させることができる。
【0005】
一方、前述の液圧ブレーキ装置においては、システムに故障が認められた場合、高圧源が正常であっても、ブレーキ液圧の液圧源が常に高圧源からマスタシリンダに変更される。そのため、ホイールシリンダ圧を容易に増圧することができる高圧源を有効利用することができず、この点においてなお改良の余地を残すものであった。
【0006】
これに対して、特許文献1には、システムに故障が認められた場合に高圧源を液圧源として有効に利用する液圧ブレーキ装置が開示されている。この液圧ブレーキ装置は、システムに故障が認められた場合にアキュムレータ等の高圧源の液圧をリニア制御弁を介さずに直接ホイールシリンダへ伝達するポンプ液圧通路が設けられている。そして、ポンプ液圧通路とフロント液圧通路との合流部に設けられた機械式増圧弁により、高圧源を液圧源としたホイールシリンダ圧の制御が可能となる。
【特許文献1】特開平11−48955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載のブレーキ液圧制御装置において、システムに故障が認められた場合には、機械式増圧弁により、アキュムレータから前輪のホイールシリンダへブレーキフルードが直接供給される。そのため、例えば、前輪の系統からフルードが漏れていた状態で機械式増圧弁が前述のように動作すると、リザーバ内のフルードの減少が促進され、場合によっては他の輪のブレーキフルードの減少も招くおそれがある。
【0008】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作動流体の漏れに対する制動力の低下を抑制するブレーキ液圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のブレーキ液圧制御装置は、作動流体の圧力に基づいて車輪に付与する制動力を制御するブレーキ液圧制御装置であって、ブレーキ操作部材の操作力に応じて液圧を発生するマスタシリンダと、前記ブレーキ操作部材の操作から独立して液圧を発生する高圧源と、前記マスタシリンダおよび前記高圧源の少なくともいずれかから供給される作動流体の流路を切り換え、ホイールシリンダに伝達される作動流体の液圧を制御する圧力制御機構と、前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間の流路に接続されるとともに前記高圧源とも連通されており、該高圧源から供給される作動流体の液圧を利用して前記マスタシリンダから供給される作動流体の液圧を増圧可能な増圧手段と、前記高圧源と前記増圧手段との間に設けられ、前記高圧源から供給される作動流体の流れを遮断可能な第1遮断手段と、作動流体の外部への漏れを検出する漏れ検出手段と、装置が正常な場合には前記高圧源を液圧源として、前記圧力制御機構に故障が認められる場合には前記増圧手段を液圧源として、所望のホイールシリンダ圧を発生させるように前記圧力制御機構および前記第1遮断手段の動作を制御する制御手段と、を備える。前記制御手段は、作動流体の外部への漏れを検出した場合には、前記第1遮断手段により前記高圧源と前記増圧手段との間を遮断する。
【0010】
この態様によると、作動流体の外部への漏れが検出された場合には、第1遮断手段により高圧源と増圧手段との間が遮断される。そのため、マスタシリンダからホイールシリンダへ供給される流路にて作動流体の外部への漏れが発生していても、高圧源から供給される作動流体が増圧手段を経由してその漏れ箇所に到達しない。その結果、高圧源における作動流体が更に漏れ出すことが回避され、制動力の急激な変動が抑制される。
【0011】
前記増圧手段は、マスタシリンダから液圧の供給を受ける加圧室と、前記加圧室の液圧により一方向に付勢される移動部材と、前記移動部材を他方向に付勢する液圧を蓄える調圧室と、前記移動部材が前記一方向に所定距離を超えて変位する場合に前記高圧源と前記調圧室とを連通状態とし、かつ、前記移動部材が前記他方向に所定距離を超えて変位する場合に前記高圧源と前記調圧室とを遮断状態とする連通制御機構と、を有してもよい。これにより、機械的に簡便な構成でマスタシリンダから供給される液圧を増圧することができる。
【0012】
前記第1遮断手段は、非通電時に開弁する制御弁であってもよい。これにより、例えば、装置における電源から供給される電圧が不十分であり制御弁の制御が困難であっても、高圧源と増圧手段との間が遮断されることはない。そのため、電源の失陥時など電動機構による制動力の補助が期待できないような場合であっても、高圧源から供給される作動流体の液圧を利用してマスタシリンダから供給される作動流体の液圧を増圧することが可能となり、フェールセーフ性の向上が図られる。
【0013】
車輪に制動力を付与する複数のホイールシリンダと、前記マスタシリンダおよび前記高圧源と前記複数のホイールシリンダとを接続し、前記マスタシリンダおよび前記高圧源における作動流体の液圧を前記複数のホイールシリンダへそれぞれ伝達できるように複数の流路が形成されている液圧回路と、前記複数の流路のそれぞれにおける異常を検出する異常検出手段と、前記複数のホイールシリンダのうち一部のホイールシリンダへの液圧の伝達を遮断できるように設けられた第2遮断手段と、を更に備えてもよい。前記制御手段は、異常を検出した流路が前記一部のホイールシリンダへつながる流路である場合には、前記第1遮断手段を開状態とし前記第2遮断手段を閉状態としてもよい。これにより、流路における異常を検出した場合であっても、異常を検出した流路と連通する一部のホイールシリンダ以外のホイールシリンダへは増圧手段からの液圧の供給が可能となり、制動力の低下を抑制することができる。
【0014】
前記第1遮断手段と前記増圧手段との間の流路における液圧を検出可能な液圧検出手段を更に備えてもよい。前記制御手段は、前記第1遮断手段を閉じた状態で高圧源にて液圧を発生させた際に検出される値と、前記第1遮断手段を開いた状態で高圧源にて液圧を発生させた際に検出される値と、に基づいて前記第1遮断手段の異常を判定してもよい。これにより、第1遮断手段の異常が簡便に判定できるため、例えば、作動流体の外部への漏れが検出された場合や複数の流路のそれぞれにおける異常を検出した場合において、より適正な制動制御が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作動流体の漏れに対する制動力の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0017】
(ブレーキ液圧制御装置の概略)
図1は、本発明の一実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置のシステム構成を示す図である。本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置100は、作動流体であるブレーキフルードの圧力に基づいて車輪に付与する制動力が電子制御ユニット10(以下、ECU10と称す)により制御される。ブレーキ液圧制御装置は、ブレーキペダル12を備えている。
【0018】
ブレーキペダル12には、ストロークシミュレータ14を介してマスタシリンダ16が連結されている。ストロークシミュレータ14は、ブレーキペダル12が踏み込まれた場合に、ブレーキペダル12に、ブレーキ踏力に応じたストロークを付与する機構である。マスタシリンダ16は、その内部に2つの液圧室を備えている。これらの液圧室には、ブレーキペダル12のブレーキ踏力に応じたマスタシリンダ圧PM/Cが発生する。
【0019】
マスタシリンダ16の上部には、リザーバタンク18が配設されている。リザーバタンク18には、ブレーキフルードが貯留されている。また、リザーバタンク18は、貯留されているブレーキフルードの液レベルを検出する液レベルセンサ19が備えられている。マスタシリンダ16の液圧室とリザーバタンク18とは、ブレーキペダル12の踏み込みが解除されている場合に導通状態となる。マスタシリンダ16には、第1液圧通路20および第2液圧通路22が連通している。第1液圧通路20には、その内部に導かれる液圧、すなわち、マスタシリンダ圧PM/Cに応じた信号を出力するマスタ圧センサ24が配設されている。マスタ圧センサ24の出力信号pMCはECU10に供給されている。ECU10は出力信号pMCに基づいてマスタシリンダ圧PM/Cを検出する。
【0020】
第1液圧通路20は、機械式増圧弁26に連通している。機械式増圧弁26には、大気圧通路27、フロント液圧通路28、および、ポンプ液圧通路29が連通している。大気圧通路27は、リザーバタンク18に連通することにより大気圧に開放されている。フロント液圧通路28からは、機械式増圧弁26により生成された液圧が吐出される。また、ポンプ液圧通路29には、高圧のアキュムレータ圧PACCが供給される。
【0021】
(マスタシリンダ圧補助機構)
図2は、本実施の形態に係るマスタシリンダ圧補助機構の概略を示す断面図である。図2に示すように、マスタシリンダ圧補助機構200は、機械式増圧弁26を備える増圧手段である。機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16とホイールシリンダ53,56との間の、第1液圧通路20に接続されている。そして、機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16で発生するマスタシリンダ圧PM/Cに対して所定の増圧比のホイールシリンダ圧PW/Cをホイールシリンダ53,56に発生させるために、増圧時にアキュムレータ72からホイールシリンダ53,56側へブレーキフルードを導入可能なように構成されている。以下に、機械式増圧弁26の構成について詳述する。
【0022】
(機械式増圧弁)
機械式増圧弁26は、ハウジング30を備えている。ハウジング30には、第1液圧通路20に連通するマスタ圧導入孔31、フロント液圧通路28に連通する液圧吐出孔32、ポンプ液圧通路29に連通する高圧導入孔33、および、大気圧通路27に連通する大気導入孔34が設けられている。
【0023】
ハウジング30の内部には、段付きピストン35が配設されている。段付きピストン35には、大きな断面積Sを有する大径部36と小さな断面積sを有する小径部37とが形成されている。段付きピストン35の内部には貫通孔38が形成されている。貫通孔38の下流側端部には、ニードルバルブ39が当接可能に配設されている。貫通孔38の内部には、ニードルバルブ39の弁座として機能する弁座38aが設けられている。ニードルバルブ39と段付きピストン35との間には、第1スプリング40が配設されている。第1スプリング40は、ニードルバルブ39を弁座38aから離座させる方向の付勢力を発生する。
【0024】
ハウジング30の内部には、ボール弁41、第2スプリング42、および、第3スプリング43が配設されている。また、ハウジング30の内部には、ボール弁41の弁座44が形成されている。第2スプリング42は、ボール弁41を弁座44に向けて付勢する。第3スプリング43は、段付きピストン35をマスタ圧導入孔31側へ向けて付勢する。弁座44の中央部には、ニードルバルブ39の貫通を許容する貫通孔44aが設けられている。
【0025】
ハウジング30の内部には、上述した段付きピストン35およびボール弁41によって、加圧室45、調圧室46、高圧室47およびドレン室48が形成されている。加圧室45は、マスタ圧導入孔31に連通している。調圧室46は、液圧吐出孔32に連通している。高圧室47は、高圧導入孔33に連通している。また、ドレン室48は、大気導入孔34に連通している。
【0026】
ハウジング30の内部には、更に、ストッパ30aが形成されている。ストッパ30aは、調圧室46の内壁に、ニードルバルブ39の変位を規制するために設けられている。一方、ストッパ30bは、ドレン室48の内壁に、段付きピストン35の変位を規制するために設けられている。すなわち、ニードルバルブ39の、図2における右側変位端は、ニードルバルブ39がストッパ30aに当接する位置に規制される。また、段付きピストン35の、図2における左側変位端は、段付きピストン35がストッパ30bに当接する位置に規制される。
【0027】
(マスタシリンダ圧補助機構の動作)
以下、機械式増圧弁26を備えるマスタシリンダ圧補助機構200の動作について説明する。機械式増圧弁26は、マスタシリンダ圧PM/Cが発生していない場合は図2に示す状態に維持される。かかる状況下でブレーキ操作が開始されると、マスタ圧導入孔31から加圧室45へブレーキフルードが流入する。加圧室45に流入したブレーキフルードは、貫通孔38を通って調圧室46に到達する。このため、ブレーキ操作が開始された後、加圧室45の内圧、および、調圧室46の内圧は共にマスタシリンダ圧PM/Cまで上昇する。
【0028】
加圧室45および調圧室46に、共にマスタシリンダ圧PM/Cが発生すると、段付きピストン35には、F=S・PM/C−s・PM/Cで表され、かつ、調圧室46側へ向かう付勢力が作用する。その結果、ブレーキ操作が開始された後、段付きピストン35は、速やかに図2に示す位置から調圧室46側へ向かって変位し始める。
【0029】
段付きピストン35の調圧室46側へ向かう変位量が所定量に到達すると、ニードルバルブ39が貫通孔38を閉塞する状態が形成される。かかる状態が形成されると、以後、段付きピストン35に作用していた付勢力Fが、ニードルバルブ39を介してボール弁41に伝達され始める。このため、段付きピストン35の変位が上記の所定量に到達すると、その後、ボール弁41が弁座44から離座する状態が形成される。
【0030】
ボール弁41が弁座44から離座すると、高圧室47と調圧室46とが導通状態となる。このため、ボール弁41が開弁すると、その後、調圧室46の内圧は、マスタシリンダ圧PM/Cに比して高圧となる。この際、調圧室46に生ずる液圧をPcとすると、段付きピストン35に作用する付勢力の大きさは、F=S・PM/C−s・Pcと表すことができる。段付きピストン35は、上記の付勢力Fが正の値である場合は、ボール弁41を開弁させる方向に変位し続ける。
【0031】
調圧室46の液圧Pcが充分に大きな値となると、段付きピストン35に作用する付勢力Fは負の値となる。付勢力Fが負の値となると、段付きピストン35は、ボール弁41を閉弁させる方向に変位し始める。そして、ボール弁41が弁座44に着座すると、調圧室46の内圧Pcの上昇が停止される。機械式増圧弁26においては、運転者によってブレーキ操作が実行された後に上記の動作が繰り返し実行されることにより、調圧室46の内圧Pcが、Pc=(S/s)・PM/Cで表される液圧に制御される。調圧室46に発生する液圧Pcは、液圧吐出孔32からフロント液圧通路28に吐出される。このように、機械式増圧弁26によれば、運転者によってブレーキ操作が実行された場合に、マスタシリンダ圧PM/Cに対して所定の倍力比(増圧比)S/sを有する液圧Pcを、フロント液圧通路28に供給することができる。このように、段付きピストン35の調圧室46側の小径部37の面積sと加圧室側の大径部36の面積Sとの比が調整されることで、機械式増圧弁26において所望の増圧比が簡便な構成で実現される。
【0032】
一方、高圧室47に適正にアキュムレータ圧PACCが導かれていない場合は、ボール弁41を弁座44に向けて付勢する力が第2スプリング42の付勢力だけとなる。この場合、ブレーキ操作が開始された後、段付きピストン35が調圧室46側へ変位する際に、第2スプリング42の付勢力は第1スプリング40の付勢力より小さくされているため、ニードルバルブ39は、貫通孔38を閉塞することなくボール弁41を弁座44から離座させる。段付きピストン35の変位は、段付きピストン35がストッパ30bに当接するまで継続される。この際、ニードルバルブ39は、常に貫通孔38を導通状態に維持する。
【0033】
このため、高圧室47の内圧が適正に昇圧されていない場合は、ブレーキ操作の実行中、調圧室46の内圧が常にマスタシリンダ圧PM/Cと等圧となる。したがって、機械式増圧弁26によれば、高圧室47の内圧が適正に昇圧されていない状況下でブレーキ操作が実行された場合に、フロント液圧通路28からマスタシリンダ圧PM/Cと等しい液圧を吐出することができる。なお、機械式増圧弁26の調圧室46に上記のようにマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる場合は、そのマスタシリンダ圧PM/Cが、高圧室47および高圧導入孔33を介してポンプ液圧通路29にも供給される。
【0034】
このように、機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16とホイールシリンダ53,56との間の流路に接続されるとともにアキュムレータ72とも連通されており、アキュムレータ72から供給されるブレーキフルードの液圧を利用してマスタシリンダ16から供給される液圧を増圧できる。
【0035】
上述のように、本実施の形態に係るマスタシリンダ圧補助機構200を備えたブレーキ液圧制御装置では、ブレーキシステムの異常時などにおいても、アキュムレータ72などに蓄圧されているブレーキフルードを用いてマスタシリンダ16の液圧に対して所定の増圧比の液圧をホイールシリンダに発生させることができる。
【0036】
(ブレーキ液圧制御装置の構成および動作)
図1に示すブレーキ液圧制御装置において、フロント液圧通路28には、Frメインカット弁50が配設されている。Frメインカット弁50は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。フロント液圧通路28は、Fr第1連通路51およびFr第2連通路52に分岐している。Fr第1連通路51には、右前輪FRに配設されるホイールシリンダ53が連通している。また、Fr第1連通路51には、その内部に発生する液圧、すなわち、右前輪FRのホイールシリンダ圧PW/Cに応じた信号を出力するFR圧力センサ54が連通している。FR圧力センサ54の出力信号pFRはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pFRに基づいて右前輪FRのホイールシリンダ圧PW/Cを検出する。
【0037】
Fr第2連通路52には、Frサブカット弁55が配設されている。Frサブカット弁55は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。Fr第2連通路52には、左前輪FLに配設されるホイールシリンダ56が連通している。更に、Fr第2連通路52には、左前輪FLのホイールシリンダ圧PW/Cに応じた信号を出力するFL圧力センサ57が連通している。FL圧力センサ57の出力信号pFLはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pFLに基づいて左前輪FLのホイールシリンダ圧PW/Cを検出する。
【0038】
マスタシリンダ16に連通する第2液圧通路22には、Rrメインカット弁58が配設されている。Rrメインカット弁58は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。第2液圧通路22は、Rr第1連通路59およびRr第2連通路60に分岐している。Rr第1連通路59には、右後輪RRに配設されるホイールシリンダ61が連通している。また、Rr第1連通路59には、その内部に発生する液圧、すなわち、右後輪RRのホイールシリンダ圧PW/Cに応じた信号を出力するRR圧力センサ62が連通している。RR圧力センサ62の出力信号pRRはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pRRに基づいて右後輪RRのホイールシリンダ圧PW/Cを検出する。
【0039】
Rr第2連通路60には、Rrサブカット弁63が配設されている。Rrサブカット弁63は、常態で開弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより閉弁状態となる2位置の電磁弁である。Rr第2連通路60には、左後輪RLに配設されるホイールシリンダ64が連通している。更に、Rr第2連通路60には、左後輪RLのホイールシリンダ圧PW/Cに応じた信号を出力するRL圧力センサ65が連通している。RL圧力センサ65の出力信号はECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pRLに基づいて右後輪RLのホイールシリンダ圧PW/Cを検出する。
【0040】
ブレーキ液圧制御装置は、リザーバタンク18に連通するリザーバ通路66を備えている。上述した大気圧通路27は、リザーバ通路66を介してリザーバタンク18に連通している。リザーバ通路66は、逆止弁67を介してポンプ機構68の吸入側に連通している。ポンプ機構68の吐出側は、逆止弁69を介して高圧通路70に連通している。
【0041】
高圧通路70には、逆止弁71を介して上述したポンプ液圧通路29が連通している。逆止弁71は、高圧通路70側からポンプ液圧通路29側へ向かう流体の流れのみを許容する一方向弁である。高圧通路70の内圧が適正に上昇しない場合は、機械式増圧弁26の高圧室47の内圧が適正に上昇しない。この場合、上述のように、ブレーキ操作が実行されることによりポンプ液圧通路29にマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる。逆止弁71によれば、かかる状況下で、機械式増圧弁26を介してポンプ液圧通路29に導かれるマスタシリンダ圧PM/Cが、高圧通路70側に開放されるのを防止することができる。
【0042】
高圧通路70には、アキュムレータ72が連通している。アキュムレータ72は、ポンプ機構68から吐出される液圧をその内部にアキュムレータ圧PACCとして蓄えることができ、ブレーキペダル12の操作から独立して液圧を発生する高圧源として機能する。高圧通路70には、アキュムレータ圧PACCに応じた電気信号を出力するACC圧力センサ73が配設されている。ACC圧力センサ73の出力信号pACCはECU10に供給されている。ECU10は、出力信号pACCに基づいてアキュムレータ圧PACCを検出する。
【0043】
高圧通路70には、更に、アキュムレータ圧PACCが上限値を超える場合にオン信号を発生するULスイッチ74、および、アキュムレータ圧PACCが下限値を超える場合にオン信号を出力するLLスイッチ76が連通している。ポンプ機構68は、ULスイッチ74の状態、および、LLスイッチ76の状態に基づいて、アキュムレータ圧PACCが常にその上限値と下限値との間に収まるように駆動される。
【0044】
高圧通路70とリザーバ通路66との間には、定圧開放弁78が配設されている。定圧開放弁78は、高圧通路70側の液圧がリザーバ通路66側の液圧に比して、所定の開弁圧を超えて高圧となった場合に、高圧通路70側からリザーバ通路66側へ向かう流体の流れを許容する一方向弁である。高圧通路70には、FR増圧用リニア制御弁80(以下、FR増リニア80と称す)およびFL増圧用リニア制御弁82(以下、FL増リニア82と称す)が連通している。また、高圧通路70には、Rr増圧カット弁84を介してRR増圧用リニア制御弁86(以下、RR増リニア86と称す)およびRL増圧用リニア制御弁88(以下、RL増リニア88と称す)が連通している。Rr増圧カット弁84は、常態で閉弁状態を維持し、ECU10から駆動信号が供給されることにより開弁状態となる2位置の電磁開閉弁である。以下、上述した増圧用リニア制御弁を総称する場合は「**増リニア」と称す。
【0045】
FR増リニア80はFr第1連通路51に連通している。また、FL増リニア82はFr第2連通路52に連通している。同様に、RR増リニア86およびRL増リニア88は、それぞれ、Rr第1連通路59およびRr第2連通路60に連通している。**増リニアはECU10から駆動信号が供給されていない場合は閉弁状態に維持される。また、**増リニアは、ECU10から駆動信号が供給された場合に、高圧通路70側からFr第1連通路51,Fr第2連通路52,Rr第1連通路59,Rr第2連通路60側へ、駆動信号に応じたホイールシリンダ圧が発生するようにブレーキフルードを流入させる。
【0046】
Fr第1連通路51,Fr第2連通路52,Rr第1連通路59およびRr第2連通路60には、それぞれ、FR減圧用リニア制御弁90、FL減圧用リニア制御弁92、RR減圧用リニア制御弁94およびRL減圧用リニア制御弁96が連通している。以下、これらの減圧用リニア制御弁を、それぞれ、FR減リニア90、FL減リニア92、RR減リニア94およびRL減リニア96と称す。また、これらの減圧用リニア制御弁を総称する場合は「**減リニア」と称す。
【0047】
**減リニアには、リザーバタンク18に連通するリザーバ通路66が連通している。**減リニアは、ECU10から駆動信号が供給されていない場合は閉弁状態に維持される。また、**減リニアは、ECU10から駆動信号が供給された場合に、Fr第1連通路51,Fr第2連通路52,Rr第1連通路59,Rr第2連通路60側から、すなわち、ホイールシリンダ53,56,61,64側からリザーバ通路66側へ、駆動信号に応じたホイールシリンダ圧が発生するようにブレーキフルードを流出させる。
【0048】
本実施の形態では、Frメインカット弁50、Frサブカット弁55、Rrメインカット弁58、Rrサブカット弁63、FR増圧用リニア制御弁80、FL増圧用リニア制御弁82、Rr増圧カット弁84、RR増圧用リニア制御弁86、RL増圧用リニア制御弁88、FR減圧用リニア制御弁90、FL減圧用リニア制御弁92、RR減圧用リニア制御弁94、RL減圧用リニア制御弁96、等により圧力制御機構を構成する。圧力制御機構は、マスタシリンダ16および高圧源としてのアキュムレータ72の少なくともいずれかから供給されるブレーキフルードの流路を切り換え、各ホイールシリンダに伝達されるブレーキフルードの液圧を制御する。
【0049】
また、本実施の形態では、第1液圧通路20、第2液圧通路22、フロント液圧通路28、ポンプ液圧通路29、第1連通路51、第2連通路52、第1連通路59、第2連通路60、高圧通路70、等により液圧回路が構成される。つまり、液圧回路は、マスタシリンダ16およびアキュムレータ72とホイールシリンダ53,56,61,64とを接続し、マスタシリンダ16およびアキュムレータ72におけるブレーキフルードの液圧を複数のホイールシリンダ53,56,61,64へそれぞれ伝達できるように複数の流路が形成されている。各ホイールシリンダは、車輪に制動力を付与するものとして機能する。
【0050】
次に、本実施の形態のブレーキ液圧制御装置の動作について説明する。本実施の形態のシステムにおいて、システムが備えるすべての制御弁をオフ状態、すなわち、図1に示す状態に維持すると、各輪のホイールシリンダ53,56,61,64を、アキュムレータ72から遮断し、かつ、機械式増圧弁26およびマスタシリンダ16と導通させることができる。この場合、左右前輪FR,FLのホイールシリンダ53,56には、機械式増圧弁26で増圧された液圧Pcが導かれる。また、左右後輪RR,RLのホイールシリンダ61,64にはマスタシリンダ16で発生されたマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる。
【0051】
上述のように、機械式増圧弁26は、マスタシリンダ16が発生するマスタシリンダ圧PM/Cをパイロット圧として、機械的な機構により液圧Pcを発生する。したがって、上記の状況下では、すべてのホイールシリンダ53,56,61,64のホイールシリンダ圧PW/Cを、何ら電気的な制御を介在させることなく、マスタシリンダ16を液圧源として制御することができる。以下、上述のように、マスタシリンダ16を液圧源として(すなわち、電気的な制御を介在させることなく)ホイールシリンダ圧PW/Cを制御する手法をマスタ加圧と称す。
【0052】
本実施の形態のシステムにおいて、システムが備えるすべての開閉弁をオン状態とすると、すなわち、Frメインカット弁50、Frサブカット弁55、Rrメインカット弁58およびRrサブカット弁63を閉弁状態とし、かつ、Rr増圧カット弁84を開弁状態とすると、すべてのホイールシリンダ53,56,61,64を機械式増圧弁26およびマスタシリンダ16から遮断し、かつ、すべての**増リニアの上流側にアキュムレータ圧PACCを導くことができる。
【0053】
上記の状況下で、各車輪に対応する出力信号pFR,pFL,pRR,pRLが目標のホイールシリンダ圧PW/Cと一致するように**増リニアおよび**減リニアを制御すると、各車輪のホイールシリンダ圧PW/Cを、アキュムレータ72を液圧源として目標のホイールシリンダ圧PW/Cに制御することができる。このように、本実施例のシステムによれば、すべての開閉弁をオン状態とし、かつ、**増リニアおよび**減リニアを適当に制御することで、マスタシリンダ16を液圧源として用いることなく、アキュムレータ72を液圧源として、各車輪のホイールシリンダ圧PW/Cを電気的な制御のみを用いて適正に制御することができる。以下、このような制御手法を、ブレーキバイワイヤ加圧(BBW加圧)と称す。
【0054】
本実施の形態のブレーキ液圧制御装置は、システムが正常に機能している場合は、上述したBBW加圧によって各車輪のホイールシリンダ圧PW/Cを調圧する。そして、システムに、BBW加圧の実行を妨げる故障が発生した場合は、マスタ加圧によりホイールシリンダ圧PW/Cを調圧する。上述のように、本実施の形態のブレーキ液圧制御装置は、アキュムレータ圧PACCが正常に昇圧されている場合には、マスタ加圧の実行中においてもアキュムレータ圧PACCを利用して、左右前輪FR,FLのホイールシリンダ53,56にマスタシリンダ圧PM/Cに比して高圧の液圧Pcを導くことができる。このため、本実施の形態のブレーキ液圧制御装置によれば、システムの故障時においてもアキュムレータ圧PACCを有効利用を図ることができる。
【0055】
また、本実施の形態のブレーキ液圧制御装置は、アキュムレータ圧PACCが正常に昇圧されていない場合には、機械式増圧弁26側から高圧通路70側へ液圧が開放されるのを防止しつつ、マスタシリンダ16で発生されるマスタシリンダ圧PM/Cを、左右後輪RR,RLのホイールシリンダ61,64のみならず、左右前輪FR,FLのホイールシリンダ53,56にも導くことができる。このため、本実施の形態のブレーキ液圧制御装置によれば、システムの故障に対して優れたフェールセーフ機能を実現することができる。
【0056】
なお、上記の実施の形態においては、ポンプ機構68およびアキュムレータ72が「高圧源」に、機械式増圧弁26の段付きピストン35が「移動部材」に、ボール弁41、弁座44およびニードルバルブ39が「連通制御機構」に、それぞれ相当している。また、ECU10は、BBW加圧の実行を妨げる故障を検出した際に、マスタ加圧を実行することによりフェールセーフが実現されている。
【0057】
ところで、上記の実施の形態においては、移動部材および連通制御機構を、段付きピストン35、ボール弁41、弁座44およびニードルバルブ39等を用いて実現しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、加圧室45の液圧と高圧室47の液圧とのバランスで変位し、高圧導入孔33および大気導入孔34の一方を選択的に調圧室46に導通させるスプールバルブを用いて移動部材および連通制御機構を実現してもよい。
【0058】
また、上記の実施の形態において、機械式増圧弁26は、ドレン室48が大気導入孔34から大気圧通路27を介してリザーバタンク18に連通させられていたが、大気導入孔34に大気圧通路27を接続せず、単純に大気開放するようにしてもよい。つまり、ドレン室48が常に大気圧に保たれていればよい。
【0059】
(リザーバにおけるブレーキフルードの保護)
上述のようなブレーキ液圧制御装置を始め、ブレーキバイワイヤ加圧による制御が可能な装置では、マスタシリンダ16やアキュムレータ72からホイールシリンダへの液圧を伝達する流路が複数系統ある場合が多い。このような場合、例えば複数系統の流路のいずれかにおいて液漏れがあったときであっても、フェールセーフの観点から、その影響がなるべく他の系統に及ばない構成とすることが望ましい。
【0060】
そのため、リザーバタンク内部の構成についても上述の観点から設計されることが好ましい。図3は、リザーバタンク内の構造とリザーバタンクから各ホイールシリンダへの複数の系統を模式的に示した図である。
【0061】
図3に示すリザーバタンク102は、2つの仕切り部材104,106により底部が3つの空間A,B,Cに隔てられている。また、リザーバタンク102の側面には、異常液レベルを検出する異常検出手段としての液レベルセンサ108が設けられている。異常液レベルは、仕切り部材104,106の上端より僅かに上方に設定されている。そのため、液レベルセンサ108により異常液レベルが検出された場合、すなわち、そのレベル以下のブレーキフルードしか存在しない場合、液面が仕切り部材104,106の上端より下方にあることが推認される。そして、その後は、液漏れなどの異常のある系統と直接つながっている空間の液面が他の空間の液面より先行して低下することになる。換言すれば、異常のある系統と直接つながっていない空間の液面は低下しにくくなる。
【0062】
図3に示すブレーキ液圧制御装置では、空間Aのブレーキフルードはアキュムレータ110で増圧された後、流路112を介して右前輪のホイールシリンダ114、左前輪のホイールシリンダ116に供給される。一方、空間Bのブレーキフルードはマスタシリンダ118で増圧された後、流路120を介して右後輪のホイールシリンダ122に供給される。また、空間Cのブレーキフルードはマスタシリンダ118で増圧された後、流路124を介して左後輪のホイールシリンダ126に供給される。さらには、マスタ加圧を実現するために流路112と流路120とをつなぐ連結路128の途中に前述と同様の機械式増圧弁130が設けられている。
【0063】
このような装置では、液圧回路や各弁に液漏れ等の不具合を生じた場合であっても、必要な制動力の確保の観点から(1)マスタシリンダ圧による後輪2輪の制動(2)アキュムレータ圧による前輪1輪、マスタシリンダ圧による後輪1輪の制動(3)マスタシリンダ圧による後輪2輪の制動、のいずれかが可能なことが求められる。しかしながら、例えば、流路120において液漏れが発生した場合、マスタシリンダ118からだけではなく、機械式増圧弁130を介してアキュムレータ72からもブレーキフルードがホイールシリンダ122へ供給される。そのため、このような状態で制動が繰り返されると、空間Bのブレーキフルードだけでなく空間Aのブレーキフルードも消費され、最終的には左後輪の制動力しか確保できなくなるおそれがあり、そのような状態になる前に早期の警報やメンテナンスが必要となる。そこで、本発明者は、機械式増圧弁によるマスタシリンダ圧の増圧の効果をなるべく損なわない範囲で、フェールセーフの観点から本願発明に想到した。以下、その構成と制御について詳述する。
【0064】
前述のブレーキ液圧制御装置100は、アキュムレータ72と機械式増圧弁26との間に設けられたアキュムレータ圧カット弁98と、ブレーキフルードの外部への漏れを検出する液レベルセンサ19とを備える。アキュムレータ圧カット弁98は、アキュムレータ72から供給されるブレーキフルードの流れを遮断し、機械式増圧弁26へのアキュムレータ圧の導入を遮断する。また、ブレーキフルードの外部への漏れを検出する漏れ検出手段としては、液レベルセンサ19のように機械的なものだけではなく、光学的なものであってもよい。また、他の圧力センサや流量センサ等の検出値から演算により間接的に液漏れが検出できる場合には、そのような演算が可能なECU10を漏れ検出手段として用いてもよい。
【0065】
ECU10は、前述の圧力制御機構の各制御弁や各センサに故障が認められる場合には機械式増圧弁26を液圧源として、所望のホイールシリンダ圧PW/Cを発生させるように各制御弁およびアキュムレータ圧カット弁98の動作を制御する。これにより、システムの故障時においても、マスタシリンダ16で発生する液圧に加えてアキュムレータ72における液圧も利用した制動が可能となり、システムの故障による制動力の低下を抑制できる。また、ECU10は、液レベルセンサ19やその他の手段によりブレーキフルードの外部への漏れを検出した場合には、アキュムレータ圧カット弁98に通電し閉弁することでアキュムレータ72と機械式増圧弁26との間を遮断する。
【0066】
そのため、マスタシリンダ16からホイールシリンダ53,56へブレーキフルードが供給されるフロント液圧通路28や第1連通路51、第2連通路52にてブレーキフルードの外部への漏れが発生していても、アキュムレータ72から供給されるブレーキフルードが機械式増圧弁26を経由してその漏れ箇所に到達しない。その結果、アキュムレータ72におけるブレーキフルードが更に漏れ出すことが回避され、制動力の急激な変動が抑制される。
【0067】
なお、アキュムレータ圧カット弁98は、非通電時に開弁するいわゆるノーマリオープン型の電磁制御弁である。これにより、例えば、ブレーキ液圧制御装置100に供給される電圧が0若しくは不十分でありアキュムレータ圧カット弁98の制御が困難であっても、アキュムレータ72と機械式増圧弁26との間が遮断されることはない。そのため、電源の失陥時など電動機構による制動力の補助が期待できないような場合であっても、アキュムレータ72から供給されるブレーキフルードの液圧を利用してマスタシリンダ16から供給されるブレーキフルードの液圧を増圧することが可能となり、フェールセーフ性能の向上が図られる。
【0068】
また、本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置100は、FR圧力センサ54、FL圧力センサ57、RR圧力センサ62、RL圧力センサ65の各センサを異常検出手段として用いることで、第1連通路51、第2連通路52、第1連通路59、第2連通路60の各流路における異常が検出できる。そこで、ECU10は、例えば、FR圧力センサ54の検出値が異常値を示した場合、第1連通路51に何らかの異常があるとしてFrメインカット弁50およびFR増圧用リニア制御弁80を強制的に閉弁状態にする。この際、ECU10は、アキュムレータ圧カット弁98については開弁状態となるように制御する。ここで、異常値とは、設計上の正常な制動制御では示さない値としてとらえることができる。
【0069】
また、ECU10は、例えば、FL圧力センサ57の検出値が異常値を示した場合、第2連通路52に何らかの異常があるとしてFrサブカット弁55およびFL増圧用リニア制御弁82を強制的に閉弁状態にする。この際、ECU10は、アキュムレータ圧カット弁98については開弁状態となるように制御する。このように、ブレーキ液圧制御装置100は、複数のホイールシリンダのうち一部のホイールシリンダへの液圧の伝達を遮断できるように設けられた遮断手段として複数の制御弁を備えている。具体的には、Frメインカット弁50、Frサブカット弁55、Rrメインカット弁58、Rrサブカット弁63、FR増圧用リニア制御弁80、FL増圧用リニア制御弁82、Rr増圧カット弁84、RR増圧用リニア制御弁86、RL増圧用リニア制御弁88、等が遮断手段として機能し得る。
【0070】
そして、ECU10は、異常を検出した流路が一部のホイールシリンダへつながる流路である場合には、アキュムレータ圧カット弁98を開状態とし対応する前述の制御弁を閉状態とする。これにより、流路における異常を検出した場合であっても、異常を検出した流路と連通する一部のホイールシリンダ以外のホイールシリンダへは機械式増圧弁26からの液圧の供給が可能となり、制動力の低下を抑制することができる。
【0071】
なお、ブレーキバイワイヤ加圧やマスタ加圧を含む各種の制動制御をより精度良く実行するために、本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置100においては、アキュムレータ圧カット弁98が正常に動作し得るか否かを判定する処理が前もって行われる。この処理は装置の電源がONになったときや制動制御が行われていないときなど、制動制御に支障を生じないタイミングで適宜行われる。
【0072】
本実施の形態では、アキュムレータ圧カット弁98が正常に動作し得るか否かの判定として、アキュムレータ圧カット弁98と機械式増圧弁26との間の流路における液圧を検出可能なカット弁圧力センサ99(図1参照)の出力値を用いる。なお、図1に示すブレーキ液圧制御装置100ではACC圧力センサ73が設けられているが、これを省略してカット弁圧力センサ99によりアキュムレータ圧を検出させてもよい。図4は、アキュムレータ圧カット弁98が異常か否かを判定する方法を示すフローチャートである。
【0073】
前述のように所定のタイミングでこの処理が開始されると、ECU10は、アキュムレータ圧カット弁98を開弁制御した後、ポンプ機構68のモータを駆動させる(S10)。そして、カット弁圧力センサ99が検出した値P1がポンプ機構68の駆動に伴い上昇しているか否かが判定される(S12)。検出値P1がモータの駆動に対応して上昇していない場合(S12のNo)、ポンプ機構68のうち増圧を実現する構成部品や、カット弁圧力センサ99などに異常があると判定される(S14)。
【0074】
検出値P1が正常に上昇している場合(S12のYes)、ECU10は、モータを駆動させた状態でアキュムレータ圧カット弁98を閉弁状態に制御する(S16)。そして、この状態における検出値P1の上昇速度(変化率)が所定値P0以下か否かが判定される(S18)。検出値P1の上昇速度ΔP1が所定値P0以下の場合(S18のYes)、カット弁圧力センサ99によりアキュムレータ72から供給されるブレーキフルードが遮断されていることが推定されるため、アキュムレータ圧カット弁98が正常であると判定される(S20)。一方、検出値P1の上昇速度ΔP1が所定値P0より大きい場合(S18のNo)、アキュムレータ圧カット弁98によるブレーキフルードの流れの遮断が良好でないことが推定されるため、アキュムレータ圧カット弁98が異常であると判定される(S22)。
【0075】
このように、ECU10は、アキュムレータ圧カット弁98を閉じた状態でアキュムレータ72にて液圧を発生させた際にカット弁圧力センサ99により検出される値と、アキュムレータ圧カット弁98を開いた状態でアキュムレータ72にて液圧を発生させた際にカット弁圧力センサ99により検出される値と、に基づいてアキュムレータ圧カット弁98の異常を判定することができる。これにより、アキュムレータ圧カット弁98の異常が予めかつ簡便に判定できるため、例えば、ブレーキフルードの外部への漏れが検出された場合や複数の流路のそれぞれにおける異常を検出した場合において、より適正な制動制御が可能となる。
【0076】
次に、ブレーキ液圧制御装置100を含むシステム全体に異常が起きた場合における制御方法について説明する。図5は、異常時における本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置100の制御方法を示すフローチャートである。
【0077】
はじめに電源やECUが失陥しているか否かが判定される(S30)。電源やECUが失陥している場合(S30のYes)、積極的な制御ができないため、各制御弁は図1に示す状態で保持される。つまり、アキュムレータ圧カット弁98、Frメインカット弁50、Rrメインカット弁58が開弁した状態でマスタ加圧が実行可能となる。電源やECUが正常な場合(S30のNo)、各ホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサとしてのFR圧力センサ54、FL圧力センサ57、RR圧力センサ62およびRL圧力センサ65が正常であるか否かが判定される(S32)。
【0078】
出力がないなど、ホイールシリンダ圧センサ自体に異常が認められる場合(S32のNo)、ECU10は、異常が認められたセンサに応じた個別の処理を実行する(S34)。例えば、ECU10は、異常が認められたセンサの値に基づくフィードバック制御を停止し、マスタ加圧制御に切り替えてもよい。各ホイールシリンダ圧センサが正常である場合(S32のYes)、各ホイールシリンダ圧センサが検出した値が異常であるか否かが判定される(S36)。異常値が検出されたホイールシリンダ圧センサがある場合(S36のYes)、ECU10は、ホイールシリンダ圧センサと対応するホイールシリンダに対して適切な個別の処理を実行する(S38)。
【0079】
各ホイールシリンダ圧センサの出力値が正常である場合(S36のNo)、液レベルセンサ19により異常が検出されているか、つまり、液漏れなどにより液面レベルが下限値を下回っているか否かが判定される(S40)。液レベルセンサ19により異常が検出されない場合(S40のNo)、ECU10は、個別処理を実行する(S42)。具体的には、システム全体に特段の異常が認められないため、通常通りブレーキバイワイヤ加圧制御に切り替えられる。液レベルセンサ19により異常が検出された場合(S40のYes)、ECU10は、Frメインカット弁50を開弁し、アキュムレータ圧カット弁98を閉弁する(S44)。これにより、仮にフロント液圧通路28、第1連通路51、第2連通路52およびこれと連通するホイールシリンダにおいて液漏れが発生していても、アキュムレータ圧カット弁98により流路が遮断されているため、アキュムレータ72におけるブレーキフルードがこれらの通路の液漏れ箇所から流出することが回避される。その結果、液漏れが発生した経路とは異なる経路のブレーキフルードが無意味に外部へ流出することが抑制され、制動力の急激な変動が回避される。
【0080】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置のシステム構成を示す図である。
【図2】本実施の形態に係るマスタシリンダ圧補助機構の概略を示す断面図である。
【図3】リザーバタンク内の構造とリザーバタンクから各ホイールシリンダへの複数の系統を模式的に示した図である。
【図4】アキュムレータ圧カット弁が異常か否かを判定する方法を示すフローチャートである。
【図5】異常時における本実施の形態に係るブレーキ液圧制御装置の制御方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
10 電子制御ユニット、 12 ブレーキペダル、 16 マスタシリンダ、 18 リザーバタンク、 19 液レベルセンサ、 20 第1液圧通路、 22 第2液圧通路、 26 機械式増圧弁、 28 フロント液圧通路、 29 ポンプ液圧通路、 45 加圧室、 46 調圧室、 47 高圧室、 50 Frメインカット弁、 51 第1連通路、 52 第2連通路、 54 FR圧力センサ、 55 Frサブカット弁、 57 FL圧力センサ、 58 Rrメインカット弁、 59 第1連通路、 60 第2連通路、 62 RR圧力センサ、 63 Rrサブカット弁、 65 RL圧力センサ、 68 ポンプ機構、 72 アキュムレータ、 73 ACC圧力センサ、 80 FR増圧用リニア制御弁、 82 FL増圧用リニア制御弁、 86 RR増圧用リニア制御弁、 88 RL増圧用リニア制御弁、 90 FR減圧用リニア制御弁、 92 FL減圧用リニア制御弁、 94 RR減圧用リニア制御弁、 96 RL減圧用リニア制御弁、 98 アキュムレータ圧カット弁、 99 カット弁圧力センサ、 100 ブレーキ液圧制御装置、 200 マスタシリンダ圧補助機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の圧力に基づいて車輪に付与する制動力を制御するブレーキ液圧制御装置であって、
ブレーキ操作部材の操作力に応じて液圧を発生するマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材の操作から独立して液圧を発生する高圧源と、
前記マスタシリンダおよび前記高圧源の少なくともいずれかから供給される作動流体の流路を切り換え、ホイールシリンダに伝達される作動流体の液圧を制御する圧力制御機構と、
前記マスタシリンダと前記ホイールシリンダとの間の流路に接続されるとともに前記高圧源とも連通されており、該高圧源から供給される作動流体の液圧を利用して前記マスタシリンダから供給される作動流体の液圧を増圧可能な増圧手段と、
前記高圧源と前記増圧手段との間に設けられ、前記高圧源から供給される作動流体の流れを遮断可能な第1遮断手段と、
作動流体の外部への漏れを検出する漏れ検出手段と、
装置が正常な場合には前記高圧源を液圧源として、前記圧力制御機構に故障が認められる場合には前記増圧手段を液圧源として、所望のホイールシリンダ圧を発生させるように前記圧力制御機構および前記第1遮断手段の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、作動流体の外部への漏れを検出した場合には、前記第1遮断手段により前記高圧源と前記増圧手段との間を遮断することを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記増圧手段は、
マスタシリンダから液圧の供給を受ける加圧室と、
前記加圧室の液圧により一方向に付勢される移動部材と、
前記移動部材を他方向に付勢する液圧を蓄える調圧室と、
前記移動部材が前記一方向に所定距離を超えて変位する場合に前記高圧源と前記調圧室とを連通状態とし、かつ、前記移動部材が前記他方向に所定距離を超えて変位する場合に前記高圧源と前記調圧室とを遮断状態とする連通制御機構と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記第1遮断手段は、非通電時に開弁する制御弁であることを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
車輪に制動力を付与する複数のホイールシリンダと、
前記マスタシリンダおよび前記高圧源と前記複数のホイールシリンダとを接続し、前記マスタシリンダおよび前記高圧源における作動流体の液圧を前記複数のホイールシリンダへそれぞれ伝達できるように複数の流路が形成されている液圧回路と、
前記複数の流路のそれぞれにおける異常を検出する異常検出手段と、
前記複数のホイールシリンダのうち一部のホイールシリンダへの液圧の伝達を遮断できるように設けられた第2遮断手段と、を更に備え、
前記制御手段は、異常を検出した流路が前記一部のホイールシリンダへつながる流路である場合には、前記第1遮断手段を開状態とし前記第2遮断手段を閉状態とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記第1遮断手段と前記増圧手段との間の流路における液圧を検出可能な液圧検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記第1遮断手段を閉じた状態で高圧源にて液圧を発生させた際に検出される値と、前記第1遮断手段を開いた状態で高圧源にて液圧を発生させた際に検出される値と、に基づいて前記第1遮断手段の異常を判定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−137659(P2010−137659A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314675(P2008−314675)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】