説明

プラスチックレンズの製造方法

【課題】プラスチックレンズの切削粉の発生を防止し、効率よくプラスチックレンズを製造するプラスチックレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑製樹脂にて形成されるセミフィニッシュトモールドを切削、研磨して、第一モールドのレンズ形成面を形成するモールド成形工程S101と、第一モールドおよび第二モールドをキャビティを介して対向させてこれらの第一モールドおよび第二モールドの周縁を連結してレンズ成形モールドを組み立てるモールド組立工程S102と、レンズ成形モールドのキャビティにプラスチックレンズの原料樹脂を注入し、プラスチックレンズを形成するレンズ成形工程S103と、モールド成形工程にて発生する切削粉およびレンズ成形工程にて利用済みの第一モールドを回収してセミフィニッシュトモールドを再生する再生工程S104と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メガネなどに利用されるプラスチックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、予め用意されたレンズ成形モールドにプラスチックレンズの原料樹脂を注入し、プラスチックレンズを製造するプラスチックレンズの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、顧客の眼鏡レンズの処方データに対応する形状のセミフィニッシュレンズを選択し、このセミフィニッシュレンズを数値制御用加工データに基づいて切削、研磨などして所望のレンズを製造する製造方法が採られている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−283204号公報(第4ないし第8頁、および図1参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載のような従来の眼鏡レンズの製造方法では、セミフィニッシュレンズを切削、研磨する工程において多量の切削粉が発生するという問題が挙げられる。一般に、レンズを形成するための原料樹脂組成物は熱硬化性樹脂を用いるため、これらの切削粉は再利用が不可能であり、これらの切削粉を廃棄すると環境に対して悪影響を及ぼすおそれがあるという問題もある。また、近年のレンズの高屈折率化に伴って原料樹脂組成物が高コスト化し、セミフィニッシュレンズを大量に切削することは、製造コストの増大を引き起こすという問題もある。さらに、レンズ形状に応じて複数のガラスモールドを予め製造する方法も考えられるが、このようなガラスモールドを予め加工後、保有しておくことは製造コスト的に困難であり、非効率的であるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、プラスチックレンズの切削粉の発生を防止し、効率よくプラスチックレンズを製造するプラスチックレンズの製造方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、第一モールドおよび第二モールドを対向させ、前記第一および第二モールドの外周縁間を連結させて形成される成形モールドにてプラスチックレンズを製造するプラスチックレンズの製造方法であって、熱可塑製樹脂にて形成される構造体を切削、研磨して、前記第一モールドまたは前記第二モールドのうち少なくともいずれか一方に前記プラスチックレンズの面形状に対応したレンズ形成面を成形するモールド成形工程と、前記第一モールドおよび前記第二モールドを対向させ、これらの第一モールドおよび第二モールドの外周縁を連結して前記成形モールドを組み立てるモールド組立工程と、前記成形モールドの前記キャビティにプラスチックレンズの原料樹脂を注入して重合硬化させ、プラスチックレンズを形成するレンズ成形工程と、を具備したことを特徴とする。
この発明によれば、モールド成形工程において、熱可塑性樹脂にて形成される構造体を切削、研磨してレンズ形成面を形成し、第一モールドおよび第二モールドのうち少なくともいずれか一方を創成する。そして、モールド組立工程およびレンズ成形工程にて、これらの第一モールドおよび第二モールドを組み合わせて成形モールドを組み立てて、この成形モールドを用いてプラスチックレンズを成形する。これにより、レンズ成形工程にて形
成されたプラスチックレンズを切削研磨することがないため、熱硬化性樹脂の切削屑が発生せず、環境への影響もなくなる。また、プラスチックレンズの切削がないため、プラスチックレンズの製造における製造コストの低減をも図ることができる。さらに、第一モールドまたは第二モールドのうち少なくともいずれか一方は、熱可塑性樹脂にて成形されるため、この熱可塑性樹脂にて成形されたモールドおよびこのモールドを切削した際の切削粉は再利用が可能となり、リサイクルによる環境効果が得られる。
【0008】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、前記構造体は、繊維状無機物または無機粒子を混合した熱可塑性樹脂にて形成されることを特徴とする。
この発明によれば、前記構造体は、熱可塑性樹脂に繊維状無機物または無機粒子などの無機物を混合した合成樹脂を用いて形成されている。これにより、構造体が加熱されて例えば表面硬さが柔らかくなった場合でも、これらの繊維状無機物や無機粒子が構造体表面の熱可塑性樹脂分子の移動を防止するため、構造体の熱変形を防止することができる。したがって、モールド成形工程における切削、研磨によるレンズ形成面の熱変形を防止でき、精度の高いレンズ形成面を生成することができる。
【0009】
本発明のプラスチックレンズの製造方法では、前記モールド成形工程は、前記構造体を切削、研磨して、非球面形状の前記レンズ形成面を形成することが好ましい。
この発明によれば、モールド成形工程では、非球面形状のレンズ形成面を形成する。上記したように、従来用いられているガラス製モールドでは、加工性が低く、加工時間が長く、加工コストも増大してしまう。これに対して、本発明のような熱可塑性樹脂のセミフィニッシュトモールドでは、容易に表面形状を加工することができる。したがって、累進多焦点レンズなどの複雑な面形状のレンズ形成面にも柔軟に対応してレンズ形成面を形成することができる。
【0010】
本発明のプラスチックレンズの製造方法では、前記構造体は、前記レンズ形成面が形成される面とは反対側の面に前記構造体を支持するとともに、前記構造体を切削、研磨する加工装置に着脱可能な構造体支持部を備えることが好ましい。
この発明によれば、構造体は、構造体支持部を備え、この構造体支持部により加工装置に着脱される。このため、構造体の構造体支持部を加工装置に取り付けることで、モールド成形工程における構造体のレンズ形成面の切削研磨作業を容易に実施でき、レンズ形成面を形成した後、この構造体支持部を取り外すだけで容易に構造体を取り外すことができる。したがって、モールド成形工程の作業効率が向上する。
【0011】
ここで、本発明では、前記構造体支持部は、前記構造体に一体形成されたことが好ましい。
この発明によれば、構造体支持部および構造体が一体的に設けられている。これにより、構造体を形成する際、例えば射出成形などにより構造体支持部を一体的に形成することができ、構造体に構造体支持部を着脱させる作業が不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、図面を用いて、本実施形態に係るプラスチックレンズの製造方法を詳細に説明する。
【0013】
〔プラスチックレンズの製造方法〕
図1は、本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造方法のフローチャートである。図2は、プラスチックレンズの製造方法におけるモールド成形工程のフローチャートである。図3は、プラスチックレンズの製造方法における再生工程のフローチャートである。図4は、モールド成形工程のブロッキング工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図である。図5は、モールド成形工程の外径加工工程(外周整形工程)における
セミフィニッシュトモールドの概略を示す図である。図6は、モールド成形工程の近似加工粗削り工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図である。図7は、モールド成形工程の仕上げ削り工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図である。図8は、モールド成形工程の鏡面仕上げ工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図である。図9は、モールド成形工程のデブロック工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図である。図10は、モールド組立工程にて組み立てられたレンズ成形モールドの概略を示す図である。図11は、レンズ成形工程の離型工程において、離型されたプラスチックレンズおよびレンズ成形モールドの概略を示す図である。図12は、再生工程の粉砕工程の概略を示す図である。図13は、再生工程の基材化工程にて再ブランク化された熱可塑性樹脂ブランクの概略を示す図である。図14は、再生工程の基材化工程にてセミフィニッシュトモールド形状に再ブランク化された熱可塑性樹脂ブランクの概略を示す図である。
【0014】
本実施の形態のプラスチックレンズの製造方法では、まず、顧客のプラスチックレンズの処方データを取得する。これには、例えばオンライン端末からの伝送や直接入力により入力手段を介して図示しないホストコンピュータに処方データが入力される。そして、ホストコンピュータは、入力された処方データを図示しない計算用コンピュータに伝送し、この計算用コンピュータにて、処方データに基づいたモールド形状を設計し、数値制御用加工データを生成する。この数値制御用加工データは、外径加工データ、近似加工面粗削りデータ、仕上げ削り加工データ、面取り加工データなどを有するデータ構造に構築されている。
【0015】
外径加工データは、後述する外径加工工程(外周整形工程)S202に用いられるデータであり、熱可塑性樹脂からなるセミフィニッシュトモールドの不要な外周部を削って所定の外径寸法まで径を縮小するための加工データである。
【0016】
近似加工面粗削り加工データは、後述する近似加工面粗削り工程S203に用いられるデータであり、セミフィニッシュトモールドの凸面側を切削して、後述する仕上げ削り工程S204における削りしろが少なくなるように、所望のモールド形状に近似した近似面形状を創成する加工データである。より具体的には、近似加工面粗削り加工データは、例えばプラスチックレンズの処方データに基づくモールド形状と相似形で、このモールド形状よりも所定寸法だけ厚手となるような粗削り用自由曲面形状、または最終のモールド形状を近似面形状として創成するように設定された加工データである。ここで、近似加工面粗削り加工データは、仕上げ削り工程S204における削りしろが、0.1〜5.0mmとなる近似面形状が形成されるように数値設定されていることが好ましい。
【0017】
仕上げ削り加工データは、後述する仕上げ削り工程S204に用いられるデータである。この仕上げ削り加工データは、近似加工面粗削り加工データに基づいて形成される近似面形状のセミフィニッシュトモールドの凸面から、0.1〜5.0mmの削りしろを削りだしてプラスチックレンズの処方データに基づくモールド形状を精密に創成する加工データである。
面取り加工データは、後述する面取り工程S205に用いられるデータである。この面取り加工データは、セミフィニッシュトモールドの加工面の縁の面取りに関する加工データである。
【0018】
そして、計算用コンピュータにて生成された数値制御用加工データは、ホストコンピュータに伝送され、ホストコンピュータの図示しない記録領域に適宜読み出し可能に記録する。
なお、計算用コンピュータにて数値制御用加工データを生成する例を示すが、これに限定されず、ホストコンピュータで数値制御用加工データを生成してもよく、さらには、プ
ラスチックレンズの処方データではなく、数値制御用加工データが直接ホストコンピュータに入力される構成などとしてもよい。
【0019】
この後、本実施の形態のプラスチックレンズの製造方法では、図1に示すような、各工程により、プラスチックレンズを製造する。すなわち、まず、熱可塑性樹脂からなる構造体としてのセミフィニッシュトモールド100(図4ないし図8参照)を加工して第一モールド100A(図9ないし図10参照)を成形する(モールド成形工程S101)。この後、成形された第一モールド100Aと予め形成された第二モールド200(図10および図11参照)とを組み合わせてレンズ成形モールド300(図10参照)を組み立てる(モールド組立工程S102)。そして、このモールド組立工程S102にて組み立てられたレンズ成形モールド300にプラスチックレンズの原料樹脂を注入し、プラスチックレンズ400(図11参照)を製造する(レンズ成形工程S103)。そして、このレンズ成形工程S103の後、プラスチックレンズの製造に用いた第一モールド100Aおよびモールド成形工程S101にて発生するセミフィニッシュトモールド100の切削屑を回収してセミフィニッシュトモールドを生成する(再生工程S104)。なお、本実施の形態では、内面累進多焦点レンズの製造方法について例示する。
以下、各工程S101〜S104について詳細に説明する。
【0020】
〔モールド成形工程〕
モールド成形工程S101は、ホストコンピュータと通信可能に設けられる図示しない形状創成装置(NC加工機)により、ホストコンピュータから伝送された数値制御用加工データに基づいて実施される。このモールド成形工程S101では、構造体としてのセミフィニッシュトモールド100(図4ないし図14参照)を加工して第一モールド100Aを成形する。
【0021】
ここで、セミフィニッシュトモールド100は、熱可塑性樹脂にて形成されている。このセミフィニッシュトモールド100は、金型に軟化した熱可塑性樹脂を射出圧を加えて充填することにより、仕上げ厚さ寸法よりも肉厚となるように射出形成される。なお、本実施の形態では、セミフィニッシュトモールド100により、内面累進多焦点レンズの凹面側を形成する凸状面を有する第一モールド100Aを生成するため、第一モールド100Aの形状に応じて、凸状面を有する形状に形成されたセミフィニッシュトモールド100を例示するがこれに限らない。例えばレンズの凸面を形成する凹状面を有する第二モールド200(図10参照)を生成する場合、第二モールド200の形状に対応した凹状面を有するセミフィニッシュトモールド100を用いることができる。また、第一モールド100Aおよび第二モールド200の双方をセミフィニッシュトモールド100から形成してもよく、この場合、例えば円柱状のセミフィニッシュトモールドを用いてもよい。
【0022】
また、セミフィニッシュトモールド100を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば特許第3462249号にて開示されているような、機械的強度および切削加工性が良好であるものを利用できる。具体的には、例えばポリフェニレンエーテル、ポリスチレンをブレンドした変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエテールケトン、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン4・6、ナイロンMXD6などの熱可塑性ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリルサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリチオエーテルサルホンなどが挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。相溶性が悪い2種以上の熱可塑性樹脂を併用して用いる場合、公知の相溶化剤を使用してもよい。
また、セミフィニッシュトモールド100を構成する熱可塑性樹脂には、繊維状無機物としての無機質繊維状強化材が含有されている。この無機質繊維状強化材としては、例え
ばガラス繊維、炭素繊維、岩石繊維などを除く公知のものが利用でき、例えば繊維状チタン酸カリウム、繊維状ケイ酸カルシウム、繊維状ホウ酸マグネシウム、繊維状硫酸マグネシウム、繊維状硫酸カルシウム、繊維状炭酸カルシウム、繊維状ホウ酸アルミニウムなどのウィスカーなどを挙げることができる。これらの無機質繊維状強化材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
なお、熱可塑性樹脂に、無機粒子としての無機質粒子状充填材を含有させる構成としてもよい。この場合、無機質粒子状充填材として、例えばタルク、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウムなどを挙げることができる。これらの無機質粒子状充填材は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用して使用してもよい。さらに、上記した無機質繊維状強化材と無機質粒子状充填材とを併用して用いてもよい。
【0023】
このようなセミフィニッシュトモールド100は、製造するプラスチックレンズの形状に対応して予め複数種類形成されて在庫されている。そして、モールド成形工程では、これらの複数種類のセミフィニッシュトモールド100から数値制御用加工データに基づいて最適なセミフィニッシュトモールド100が1つ選択される。すなわち、数値制御用加工データに基づいて、近似加工面粗削り工程S203でのセミフィニッシュトモールド100の切削量が最も小さくなる形状のセミフィニッシュトモールド100が選択される。この選択方法としては、例えば数値制御用加工データに基づいて自動的に適切なセミフィニッシュトモールド100を選択する方法であってもよく、手動により最適なセミフィニッシュトモールド100を選択する方法であってもよい。
【0024】
そして、モールド成形工程S101では、図2に示すように、上記のように選択したセミフィニッシュトモールド100に、ブロッキング工程S201、形状創成工程S210、鏡面仕上げ工程S206、デブロック工程S207、および洗浄工程S208を実施することにより第一モールド100Aを生成する。
【0025】
ブロッキング工程S201では、図4に示すように、選択されたセミフィニッシュトモールド100に、構造体支持部としてのブロック治具120を取り付ける。
具体的には、ブロッキング工程S201では、セミフィニッシュトモールド100のレンズ形成面とは反対側の面に、例えば低融点合金110を介してブロック治具120を固定する。この低融点合金110は、少なくともセミフィニッシュトモールド100を形成する熱可塑性樹脂の融点よりも低い融点を有する合金が用いられ、セミフィニッシュトモールド100およびブロック治具120に熱溶融により接着される。
なお、ブロック治具120の固定は、上記のような低融点合金110による固定に限られず、例えば接着剤や止具、ワックスなどを用いたものであってもよい。また、セミフィニッシュトモールド100とブロック治具120とが熱可塑性樹脂にて一体形成されたものであってもよく、この場合ブロッキング工程S201を省略することが可能となる。
ブロック治具120は、一端部がセミフィニッシュトモールド100に連結固定され、他端側が、セミフィニッシュトモールド100を切削する図示しない形状創成装置の図示しないセミフィニッシュトモールド設置部やセミフィニッシュトモールド100を研磨する図示しない研磨装置の図示しないセミフィニッシュトモールド設置部に着脱自在に取り付けられる。
そして、ブロック治具120が取り付けられたセミフィニッシュトモールド100は、例えばブロック治具120を加工装置の図示しないモールド加工部に着脱可能に固定することで、加工装置に設置される。
【0026】
形状創成工程S210では、形状創成装置は、数値制御用加工データに基づいて、セミフィニッシュトモールド100を切削して第一モールド100Aの形状を創成する。この形状創成工程S210では、セミフィニッシュトモールド100の加工中に発生する熱の影響による加工性や面粗度の悪化を防止するため、切削液や切削油を用いたウエット加工
を実施することが好ましい。そして、この形状創成工程S210は、外径加工工程(外周整形工程)S202、近似加工面粗削り工程S203、仕上げ削り工程S204、面取り工程S205を有している。
【0027】
外径加工工程(外周整形工程)S202は、形状創成工程S210の最初に実施される工程であり、数値制御用加工データの外径加工データに基づいて、図5に示すように、セミフィニッシュトモールド100の外周部を切削し、所定の外径L1まで縮小する。
【0028】
この外径加工工程(外周整形工程)S202の後、形状創成装置は、近似加工面粗削り工程S203を実施する。この近似加工面粗削り工程S203では、図6に示すように、数値制御用加工データの近似加工面加工データに基づいて、製造するプラスチックレンズの面形状に近似した近似面形状の近似レンズ形成面R1を創成する。この時、近似レンズ形成面R1と生成する第一モールド100Aのレンズ形成面Rとの厚み寸法差、すなわち面粗さは、100μm以下となるように近似レンズ形成面R1を形成する。
【0029】
そして、この近似加工面粗削り工程S203の後、仕上げ削り工程S204を実施する。仕上げ削り工程S204では、図7に示すように、数値制御用加工データの仕上げ削り加工データに基づいて、近似レンズ形成面R1を切削し、仕上げレンズ形成面R2を形成する。この時、仕上げレンズ形成面R2の面粗さが0.1〜10μmとなるように、近似レンズ形成面R1を切削して創成する。
【0030】
この後、形状創成装置は、面取り工程S205を実施する。面取り工程S205では、数値制御用加工データの面取り加工データに基づいて、セミフィニッシュトモールド100の縁の面取り加工を実施する。この面取り工程S205により、仕上げ削り工程S204後のセミフィニッシュトモールド100のエッジの欠けを防止し、シャープなエッジによる危険性を低下させることが可能となる。なお、第二モールド200をセミフィニッシュトモールド100から形成する場合、縁にシャープなエッジが形成されやすいため、面取り工程S205により効果的にエッジの欠けなどを防止可能となるが、第一モールド100Aをセミフィニッシュトモールド100から形成する場合、シャープなエッジが形成されにくいため、面取り工程S205を省略する製造方法を採ってもよい。
【0031】
また、以上の形状創成工程S210では、形状創成装置は、セミフィニッシュトモールド100の切削により発生する切削粉を回収手段により回収する。この回収手段としては、特に限定されないが、汚れなどが付着しない状態で切削粉を回収することが好ましい。具体的には、例えば切削液や切削油をフィルターを通すことで切削粉を回収する構成、切削液および切削油を遠心分離装置により分離して回収する構成などが上げられる。また、形状創成工程S210において切削液や切削油を用いない場合では、削り出し加工の加工部近傍に集塵機に接続されたダクトを設け、集塵機により発生する負圧を利用して切削粉を回収する構成などが挙げられる。ここで、回収された切削粉は、後述する再生工程S104にてリサイクルされる。
【0032】
そして、形状創成工程S210の後、形状創成装置は、鏡面仕上げ工程S206を実施する。この鏡面仕上げ工程S206では、図8に示すように、倣い研磨工具500を用いてセミフィニッシュトモールド100の仕上げレンズ形成面R2を研磨し、レンズ形成面Rを創成する。
ここで、倣い研磨工具500の構成について説明する。倣い研磨工具500は、図8に示すように、略容器状の工具筐体510と、この工具筐体510の開口部に設けられるゴムシート520と、を備えている。このゴムシート520は、半球状で柔軟性を有する形状に形成され、工具筐体510の開口部を閉塞する状態に設けられる。そして、工具筐体510とゴムシート520との間に形成される密閉空間には、例えば圧力気体や液体など
を圧入されている。これにより、密閉空間からゴムシート520に圧力を加えられ、ゴムシート520の半球状の形態が保持される。また、ゴムシート520の密閉空間の反対側の表面上には、例えば不織布などの研磨布530を張り付けられている。
そして、鏡面仕上げ工程S206では、この倣い研磨工具500の研磨布530にセミフィニッシュトモールド100の仕上げレンズ形成面R2を当接させるように、倣い研磨工具500をセミフィニッシュトモールド100に押し当て、もしくはセミフィニッシュトモールド100を倣い研磨工具500に押し当て、研磨液540をセミフィニッシュトモールド100とゴムシート520との間に供給しながら、この倣い研磨工具500とセミフィニッシュトモールド100の少なくともいずれか一方を回転および揺動させて鏡面仕上げの研磨を実施する。このような倣い研磨工具500を用いた鏡面仕上げ工程S206では、ゴムシート520が仕上げレンズ形成面R2に均一の圧力で当接するため、仕上げレンズ形成面R2が例えば内面累進多焦点レンズの凹面を形成する複雑な表面形状に形成されていたとしても、この仕上げレンズ形成面R2の形状に追随して均一に研磨することが可能となる。これにより、セミフィニッシュトモールド100の仕上げレンズ形成面R2に鏡面仕上げ加工が実施され、レンズ形成面Rが形成される。この鏡面仕上げ工程S206では、面粗さが100nm未満となる最終光学面が形成される。
なお、鏡面仕上げ工程S206において、倣い研磨工具500を用いる方法を例示したが、これに限定されない。例えば数値制御研磨装置を用い、数値制御用加工データに基づいて、ポリシャヘッドと仕上げレンズ形成面R2との相対位置決めを実施し、かつ仕上げレンズ形成面R2の加工点における法線方向にポリシャヘッドの表面の任意の部位を一致させ、この法線方向からポリシャヘッドを強く押し当てて研磨加工する方法などを採用してもよい。
【0033】
この後、形状創成装置からのモールド設置部からブロック治具120を取り外し、不要となったブロック治具120と低融点合金110から第一モールド100Aを取り外すデブロック工程S207を実施する。これにより、第一モールド100Aが形成される。
【0034】
そして、デブロック工程S207の後、洗浄工程S208を実施して、第一モールド100Aを洗浄し、付着した汚れなどを除去する。
【0035】
〔モールド組立工程〕
そして、本実施の形態のプラスチックレンズの製造方法では、モールド成形工程S101の後、モールド組立工程S102を実施する。このモールド組立工程S102では、モールド成形工程S101にて成形された第一モールド100Aと、ガラス製の第二モールド200とを組み合わせてレンズ成形モールド300を組み立てる。この第二モールド200は、例えば金型に溶融ガラスを流し込むことで成形され、内面累進多焦点レンズの凸面側を形成する凹状のレンズ形成面R3を有している。なお、本実施の形態では、第二モールド200は、予め形成されたガラス製のモールドを利用するが、第一モールドと同様に、例えばモールド成形工程S101にて成形された熱可塑性樹脂からなる第二モールド200を用いてもよい。
【0036】
このモールド組立工程S102では、図10に示すように、第一モールド100Aおよび第二モールド200を、レンズ形成面Rおよびレンズ形成面R3を互いに対向させ、所定の距離だけ離間させて配置して保持する。次に、これらの第一モールド100Aおよび第二モールド200の周縁部に跨って粘着テープ310を巻き付ける。これにより、レンズ形成面R,R3と、粘着テープ310とで囲まれたキャビティ320が形成され、レンズ成形モールド300を組み立てることができる。
【0037】
粘着テープ310は、テープ基材に粘着剤層が形成されている構造を有する。テープ基材の材質としてはポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、
ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアミド類、ポリイミド類、ポリカーボネート類などが用いられる。粘着剤としてはアクリル系、ゴム系、シリコーン系等が使用される。粘着剤は、樹脂組成物中に溶け出したり、重合を阻害したりしないものが選定される。
粘着テープ310の幅は、第一モールド100Aおよび第二モールド200の両側面を保持してこれらの空隙を密封できればよく、これらから突出するような幅広でも差し支えない。
【0038】
〔レンズ成形工程〕
次に、モールド組立工程S102にて組み立てられたレンズ成形モールド300を用いて、プラスチックレンズを製造するレンズ成形工程S103を実施する。このレンズ成形工程S103は、原料樹脂注入工程と、硬化工程と、離型工程とを有している。
【0039】
原料樹脂注入工程では、レンズ成形モールド300のキャビティ320内にプラスチックレンズの原料樹脂を注入する。
ここで、プラスチックレンズの原料樹脂としては、例えば紫外線等の光により重合し硬化する光硬化性樹脂組成物、熱により重合して硬化する熱硬化性樹脂組成物等が挙げられる。光硬化性樹脂組成物は、光硬化性モノマーと、光重合開始剤とを含有するものであり、熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性モノマーと、熱重合開始剤とを含有するものである。このような原料としては、例えば、アリル系のモノマーを含有する樹脂組成物、メタクリレート系のモノマーを含有する樹脂組成物、チオウレタン系のモノマーを含有する樹脂組成物、チオエポキシ系のモノマーを含有する樹脂組成物が挙げられる。
【0040】
この原料樹脂注入工程では、例えば、レンズ成形モールド300の粘着テープ310の一部に、キャビティ320への小さな開口部を形成し、この開口部から注射針などの細い注入管を介して予め調整された硬化性樹脂組成物をキャビティ320へ注入する。この後、開口部に再び粘着テープ310を貼り付け、キャビティ320を封止する。また、開口部に接着剤を塗布して開口部を封鎖する方法を採ってもよい。
【0041】
硬化工程は、キャビティ320内に注入したプラスチックレンズの原料樹脂を硬化させる。これには、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物を用いた場合、キャビティ320中の紫外線硬化性樹脂組成物に対してモールドを通して紫外線を照射する。
また、熱硬化型樹脂も好適に使用できる。この場合は、紫外線照射設備は不要であり、キャビティ320中の熱硬化型樹脂に対して加熱により重合を行う。
【0042】
キャビティ320内の原料樹脂の硬化成形が十分に行われた後、図11に示すように、離型工程を実施する。これには、例えば第一モールド100Aおよび第二モールド200と、硬化樹脂との間に正確にくさびを打ち込むようにして力を加え、硬化樹脂層(プラスチックレンズ)400と接合している第一モールド100Aおよび第二モールド200を脱離する。この離型工程の際に、第一モールド100Aおよび第二モールド200と硬化樹脂層(プラスチックレンズ)400の表層部に温風を当てるなどして局部的に加温すると、くさびに加える力を減少させることができる。
【0043】
また、離型後のプラスチックレンズ400にアニール処理を実施するアニール工程や薄膜形成処理を実施する薄膜形成工程を設けてもよい。
【0044】
アニール工程は、重合歪みの低減を目的とする工程である。硬化樹脂のガラス転移点より少し低い温度雰囲気下で、好ましくはガラス転移点より2〜3℃低い温度雰囲気下で、30分〜2時間程度加熱処理を行うことで重合歪みを低減することができる。
【0045】
薄膜形成工程では、上述のアニール工程の後、プラスチックレンズ400の両側に、キズ防止用のハードコート層や、反射防止用の反射防止膜を積層する。
【0046】
以上の工程によりプラスチックレンズ400が製造される。
【0047】
〔再生工程〕
また、本発明のプラスチックレンズの製造方法では、上記レンズ成形工程S103の後、再生工程S104を実施する。この再生工程S104は、図3に示すように、熱可塑性樹脂回収工程S301と、洗浄工程S302と、粉砕工程S303と、基材化工程S304と、セミフィニッシュトモールド加工工程S305と、などを備えている。
【0048】
再生工程S104では、まず、熱可塑性樹脂回収工程S301を実施する。この熱可塑性樹脂回収工程S301では、熱可塑性樹脂にて形成された第一モールド100A、および/またはこの第一モールド100Aの形成時に発生する切削粉を回収する。具体的には、レンズ成形工程S103の離型工程でプラスチックレンズ400を離型した後の第一モールド100A、および/またはモールド成形工程S101における形状創成工程S210にて発生するセミフィニッシュトモールド100の切削粉を回収する。なお、本実施の形態では、第二モールド200をガラスで製造したが、例えば第二モールド200が熱可塑性樹脂にて成形されている場合、第二モールド200も回収する。
【0049】
洗浄工程S302では、回収した熱可塑性樹脂組成物を洗浄する。
【0050】
この後、図12に示すように、粉砕工程S303を実施する。すなわち、洗浄工程S302にて洗浄された熱可塑性樹脂組成物のうち、第一モールド100Aを粉砕機にて粉砕し、射出成形機のホッパへ投入可能な形状にする。
【0051】
そして、基材化工程S304を実施し、粉砕工程S303にて粉砕された第一モールド100Aや、熱可塑性樹脂の切削粉、研磨粉を溶融状態にした後、金型に所定の射出圧で射出されて充填し、熱可塑性樹脂ブランク100Bもしくはセミフィニッシュトモールド100を射出成形する。
【0052】
〔本実施の形態におけるプラスチックレンズの製造方法の作用効果〕
上述したように、上記実施の形態のプラスチックレンズの製造方法では、モールド成形工程S101において、熱可塑性樹脂にて形成されたセミフィニッシュトモールド100を切削、研磨してレンズ形成面Rを有する第一モールド100Aを形成する。そして、モールド組立工程S102で、この第一モールド100Aとガラス製の第二モールド200をキャビティ320を介して対向させ、これらの第一モールド100Aおよび第二モールド200の周縁を連結してレンズ成形モールド300を組み立てる。このモールド組立工程S102の後、レンズ成形工程S103にて、このレンズ成形モールド300にプラスチックレンズの原料樹脂を注入して硬化させ、プラスチックレンズを製造する。この後、再生工程S104にて、レンズ成形工程S103でプラスチックレンズ400を製造した後の第一モールド100A、および/またはモールド成形工程S101で発生するセミフィニッシュトモールドの切削粉を回収し、この回収した熱可塑性樹脂組成物を溶融して再度セミフィニッシュトモールド100を形成する。
このため、熱硬化性樹脂にて形成されるプラスチックレンズ400を切削研磨することがないため、熱硬化性樹脂の切削屑の発生を回避でき、環境への悪影響もなくすことができる。また、製造したプラスチックレンズ400を切削することがないため、最少量の原料樹脂のみでプラスチックレンズ400を製造することができ、プラスチックレンズ400の製造における製造コストの低減をも図ることができる。
【0053】
また、セミフィニッシュトモールド100は、無機質繊維状強化材および無機質粒子状充填材のうち少なくともいずれか一方を含有した熱可塑性樹脂にて形成されている。
このため、これらの無機質繊維状強化材や無機質粒子状充填材により、セミフィニッシュトモールド100の熱変形を良好に防止することができる。したがって、モールド成形工程において、セミフィニッシュトモールド100のレンズ形成面R、R1,R2の切削加工時の熱変形を防止できるので、精度の高いレンズ形成面Rを有する第一モールド100Aを生成することができる。よって、この第一モールド100Aを用いたレンズ成形モールド300により、プラスチックレンズ400を製造することで、精度の高い累進多焦点レンズを製造することができる。
【0054】
さらに、モールド成形工程S101では、予め生成されて在庫されている複数種類のセミフィニッシュトモールドから数値制御用加工データに基づいて、製造するプラスチックレンズ400のレンズ形状に対応する第一モールド100Aに最も近似した形状のセミフィニッシュトモールド100を選択する。
このため、モールド成形工程S101におけるセミフィニッシュトモールド100の切削量をより少なくすることができ、切削に要する作業時間も短縮させることができる。したがって、モールド成形工程S101の各作業の作業効率を向上させることができ、効率よくレンズを製造することができる。よって、プラスチックレンズ400の受注から製造、発注までのサイクルをより早めることができる。
【0055】
そして、モールド成形工程では、数値制御用加工データに基づいて、内面累進多焦点レンズに対応する非球面形状のレンズ形成面Rを創成する。すなわち、累進多焦点レンズなどの複雑な面形状のプラスチックレンズ400を製造することができる。
【0056】
また、モールド成形工程S101において、セミフィニッシュトモールド100にブロック治具120を取り付け、このブロック治具120を形状創成装置のモールド設置部に取り付けている。これにより、セミフィニッシュトモールド100の形状創成装置への取り付けが容易となり、作業効率を向上させることができる。また、セミフィニッシュトモールド100をブロック治具120により確実に数値制御用加工機のモールド設置部に固定することができるので、形状創成工程S210におけるセミフィニッシュトモールド100の切削研磨作業も精度よく実施できる。
【0057】
さらに、鏡面仕上げ工程S206では、半球状で柔軟性を有する形状に形成されたゴムシート520を工具筐体の開口を閉塞する状態に設置し、工具筐体510とゴムシート520との間の密閉空間に例えば圧力気体や液体などを圧入した倣い研磨工具500を用いている。このため、セミフィニッシュトモールド100の仕上げレンズ形成面R2をゴムシート520に押し当てて、倣い研磨工具500とセミフィニッシュトモールド100を互いに揺動、回転させることで、ゴムシート520が仕上げレンズ形成面R2に均一の圧力で当接して、仕上げレンズ形成面R2の形状に追随して均一に研磨することができる。したがって、レンズ形成面Rが例えば内面累進多焦点レンズの凹面を形成する複雑な表面形状に形成されていたとしても、容易に鏡面仕上げ加工を実施することができる。
【0058】
[他の実施の形態]
以上、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の改良並びに設計の変更が可能である。
【0059】
例えば、上記実施の形態では、形状創成工程S210において、最初に外径加工工程(外周整形工程)S202を実施したが、例えば仕上げ削り工程S204の前後で外径加工
工程(外周整形工程)S202を実施してもよい。また、セミフィニッシュトモールドの外径が、製造するプラスチックレンズの外径の径を略一致する場合や、第二モールドの径と略一致する場合、外径加工工程(外周整形工程)S202を実施しない製造方法としてもよい。
【0060】
また、形状創成工程S210の後、鏡面仕上げ工程S206を実施してセミフィニッシュトモールド100のレンズ形成面Rを鏡面仕上げする製造方法を例示したが、これに限定されない。例えば、レンズ成形工程S103において、プラスチックレンズを離型した後、このプラスチックレンズの表面を鏡面仕上げする製造方法としてもよく、この場合、セミフィニッシュトモールド100の鏡面仕上げ工程S206を不要にできる。
【0061】
さらに、モールド成形工程S101において、ブロッキング工程S201により、セミフィニッシュトモールド100とブロック治具120とを低融点合金により着脱可能に取り付ける構成を示したが、前述したように、ブロック治具120を例えば接着剤や止具、ワックスなどによりセミフィニッシュトモールドに取り付けてもよく、ブロック治具120およびセミフィニッシュトモールド100を熱可塑性樹脂にて一体形成したものを用いてもよい。このようなブロック治具120と一体化されたセミフィニッシュトモールド100を用いることで、ブロッキング工程S201およびデブロック工程S207を省略することができ、より効率よく第一モールド100Aを生成することができ、その結果、プラスチックレンズ400もより効率よく製造することができる。
【0062】
また、上記実施の形態では、内面累進多焦点レンズの凹面を形成するレンズ形成面Rを形成するため、上記のような倣い研磨工具500を用いることが好ましいが、これに限定されず、上記したように、例えば数値制御用加工データに基づいて数値制御研磨装置にて研磨する方法としてもよい。また、単焦点レンズの凹面用のモールドや、凸面側に累進面が設けられるレンズの凹面を形成するモールドの研磨では、従来のような加工皿をもちいる研磨方法を採用することも可能である。
【0063】
さらに、上記方法では、複数種類のセミフィニッシュトモールド100から所定のセミフィニッシュトモールド100を選択し、このセミフィニッシュトモールド100を切削研磨することで第一モールド100Aを生成する例を示したが、これに限らない。例えば、モールド成形工程において、図13に示すような熱可塑性樹脂を基材化したブランクを直接切削研磨することで第一モールド100Aを形成する方法を採用してもよい。この場合でも、切削粉や使用済みの第一モールド100Aを再度回収してリサイクルすることができ、上記実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0064】
また、上記実施の形態では、非球面形状を有する内面累進多焦点レンズを製造する方法を例示したが、例えば、球面形状のレンズ面を有するプラスチックレンズを製造する方法にも適用できる。
【0065】
さらに、前記したように、第一モールド100Aを熱可塑性樹脂のセミフィニッシュトモールド100から製造する方法を示したが、第二モールド200や、第一モールド100Aおよび第二モールド200の双方を熱硬化性樹脂のセミフィニッシュトモールド100から生成する方法を採用してもよい。
そして、上記実施の形態では、セミフィニッシュトモールド100を射出成形により形成する例を示したがこれに限らない。例えば、基材化工程S304にて図13に示すような略円板状の熱可塑性ブランク100Bを成形し、この熱可塑性ブランク100Bを切削することにより、セミフィニッシュトモールド100を製造してもよい。この場合、熱可塑性ブランク100Bを例えば図示しないセミフィニッシュトモールド成形装置に装着し、削り出し加工などを実施することにより所定径寸法の球面形状のレンズ形成面を成形し
、セミフィニッシュトモールド100を成形する。この時、熱可塑性ブランク100Bの切削により発生した切削粉は回収され、再び再生工程S104で利用することができる。
【0066】
本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部若しくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0067】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0068】
〔実施例1〕
上記、プラスチックレンズの製造方法によりプラスチックレンズ400を製造した。
【0069】
モールド成形工程:熱可塑性樹脂を基材とするセミフィニッシュトモールド100を形状創成装置によって凸形状に非球面加工し、倣い研磨工具500を用いて研磨し、最終光学面が得られる第一モールド100Aを生成した。
モールド組立工程:第二モールド200として、レンズ形成面R3が曲率半径167.5mmとなるように球面加工されたガラスモールドを使用した。このモールド成形工程により形成された第一モールド100Aおよび第二モールド200を、中心厚み1.7mmの間隔で対向配置し、各モールド100A,200の外周縁を粘着テープで巻きつけてレンズ成形モールド300を組み立てた。
レンズ成形工程:モールド組立工程にて組み立てたレンズ成形モールド300のキャビティ320内にプラスチックレンズの原料樹脂を充填し、大気重合炉中で15時間昇温を実施した。重合硬化後に離型工程を実施して、屈折率1.67、S度数0.00D、C度数0.00D、加入度0.5Dの内面累進プラスチックレンズを得た。
【0070】
再生工程:モールド成形工程の形状創成工程にて発生した切削粉と、レンズ成形工程にて使用した熱可塑性樹脂製の第一モールド100Aを回収し、洗浄工程、粉砕工程、基材化工程を経て再びセミフィニッシュトモールド100を生成した。各工程において、ロスが発生するため再生率は約90%であった。
〔比較例〕
凸面側が曲率半径167.5mmの球面形状のガラス製モールド、および凹面側が曲率半径120.0mmの球面形状のガラス製モールドを中心厚みが5.8mmになるように対向させ、外周縁を粘着テープで連結させてレンズ成形モールドを生成した。このレンズ成形モールドにプラスチックレンズの原料樹脂を充填し、大気重合炉中で25時間昇温を実施し、重合硬化後に離型工程して、セミフィニッシュトレンズを得た。このセミフィニッシュトレンズの凹面を形状創成装置によって切削し、中心厚みが1.7mm、屈折率1.67、S度数0.00D、C度数0.00D、加入度0.5Dの内面累進プラスチックレンズを得た。
【0071】
〔結果〕
表1に示すように、実施例においてプラスチックレンズの原料樹脂の使用量は12gであり、これに対して比較例での原料樹脂の使用量は47gであった。また、実施例では、
プラスチックレンズの廃棄量が0gであるのに対し、比較例では35gであった。さらに、実施例でのプラスチックレンズの重合炉昇温時間は15時間であるのに対し、比較例ではプラスチックレンズを重合させるために25時間を要した。以上の結果から、実施例では、プラスチックレンズの原料樹脂が大きく削減され、廃棄物の量がないことが分かる。また、プラスチックレンズの重合硬化時間も短縮でき、作業効率が向上していることが分かる。
【0072】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、メガネなどに利用されるプラスチックレンズを製造する製造方法に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本実施の形態に係るプラスチックレンズの製造方法のフローチャート。
【図2】プラスチックレンズの製造方法におけるモールド成形工程のフローチャート。
【図3】プラスチックレンズの製造方法における再生工程のフローチャートである。
【図4】モールド成形工程のブロッキング工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図。
【図5】モールド成形工程の外径加工工程(外周整形工程)におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図。
【図6】モールド成形工程の近似加工粗削り工程におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図。
【図7】モールド成形工程の仕上げ削り工程S204におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図。
【図8】モールド成形工程の鏡面仕上げ工程S206におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図。
【図9】モールド成形工程のデブロック工程S207におけるセミフィニッシュトモールドの概略を示す図。
【図10】モールド組立工程にて組み立てられたレンズ成形モールドの概略を示す図。
【図11】レンズ成形工程の離型工程において、離型されたプラスチックレンズおよびレンズ成形モールドの概略を示す図。
【図12】再生工程の粉砕工程の概略を示す図。
【図13】再生工程の基材化工程にて再ブランク化された熱可塑性樹脂ブランクの概略を示す図。
【図14】再生工程の基材化工程におけるセミフィニッシュトモールド形状の再ブランク化された熱可塑性樹脂ブランクの概略を示す図。
【符号の説明】
【0075】
100…構造体としてのセミフィニッシュトモールド,100A…第一モールド,120…構造体支持部としてのブロック治具,200…第二モールド,300…成形モールドとしてのレンズ成形モールド,320・・・キャビティ,400…プラスチックレンズ,
R…レンズ形成面,S101…モールド成形工程,S102…モールド組立工程,S103…レンズ成形工程,S104…再生工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一モールドおよび第二モールドを対向させ、前記第一および第二モールドの外周縁間を連結させて形成される成形モールドにてプラスチックレンズを製造するプラスチックレンズの製造方法であって、
熱可塑製樹脂にて形成される構造体を切削、研磨して、前記第一モールドまたは前記第二モールドのうち少なくともいずれか一方に前記プラスチックレンズの面形状に対応したレンズ形成面を成形するモールド成形工程と、
前記第一モールドおよび前記第二モールドを対向させ、これらの第一モールドおよび第二モールドの外周縁を連結して前記成形モールドを組み立てるモールド組立工程と、
前記成形モールドの前記キャビティにプラスチックレンズの原料樹脂を注入して重合硬化させ、プラスチックレンズを形成するレンズ成形工程と、
を具備したことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラスチックレンズの製造方法であって、
前記構造体は、繊維状無機物または無機粒子を混合した熱可塑性樹脂にて形成される
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のプラスチックレンズの製造方法であって、
前記モールド成形工程は、前記構造体を切削、研磨して、非球面形状の前記レンズ形成面を形成する
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラスチックレンズの製造方法であって、
前記構造体は、前記レンズ形成面が形成される面とは反対側の面に前記構造体を支持するとともに、前記構造体を切削、研磨する加工装置に着脱可能な構造体支持部を備えた
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラスチックレンズの製造方法であって、
前記構造体支持部は、前記構造体に一体形成された
ことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2008−68412(P2008−68412A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246389(P2006−246389)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】