プラスチック成形品の製造方法
【課題】簡単な工程で革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることが可能なプラスチック成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】プラスチック成形品の製造方法は、革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程(S10〜S30)と、上記複合材料を用いて射出成形などにより成形品を形成する工程(S40)と、成形品の表面に形成されたスキン層の少なくとも一部を「物理的手段」としてのブラスト処理や表面研磨処理などにより除去して該成形品の内部の革繊維を露出させる工程(S50)とを備える。
【解決手段】プラスチック成形品の製造方法は、革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程(S10〜S30)と、上記複合材料を用いて射出成形などにより成形品を形成する工程(S40)と、成形品の表面に形成されたスキン層の少なくとも一部を「物理的手段」としてのブラスト処理や表面研磨処理などにより除去して該成形品の内部の革繊維を露出させる工程(S50)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形品の製造方法に関し、特に、革調の表面質感を有するプラスチック成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
革材と樹脂とを組合わせてプラスチック成形品を製造することが従来から行なわれている。
【0003】
特開2002−307517号公報(特許文献1)においては、皮革を含む廃手袋と熱可塑性樹脂とを含む材料を加熱することで可塑化して成形する廃手袋の処理方法が開示されている。
【0004】
また、特表2005−535792号公報(特許文献2)においては、多孔質の成形部材の外表面を革繊維およびバインダーを含むパルプに浸す工程と、減圧器で減圧することによって上記外表面上に革繊維とバインダーとを所望の厚さで堆積させる工程と、プレス器により堆積した革繊維の層を高密度化させた後、その表面に仕上げ加工を施す工程とを備えた立体的鋳型皮革の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−307517号公報
【特許文献2】特表2005−535792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、単に皮革と樹脂とを混ぜ合わせた材料を成形しているだけであるので、革調の表面質感を十分に得ることができない。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法では、革繊維およびバインダーを混ぜ合わせた材料とは別に、多孔質の成形部材を準備する必要があり、プラスチック成形品の製造工程が複雑化する。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡単な工程で革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることが可能なプラスチック成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプラスチック成形品の製造方法は、革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程と、複合材料を用いて成形品を形成する工程と、成形品の表面の少なくとも一部を物理的手段により除去して該成形品の内部の革繊維を露出させる工程とを備える。
【0009】
上記方法によれば、複雑な工程を経ることなく革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることができる。
【0010】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、複合材料を生成する工程は、革材を粉砕機で粉砕し、粉砕された革材と熱可塑性樹脂とを混合し、該熱可塑性樹脂を溶解させて混練する工程と、混練された革材と熱可塑性樹脂とをペレット化する工程とを含む。
【0011】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、粉砕機は回転カッターを含む。
【0012】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、革材と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせる工程は、加圧式ニーダまたは押出混練機を用いて行なわれる。
【0013】
1つの局面では、革繊維を露出させる工程は、ブラスト処理または表面研磨処理により行なわれる。
【0014】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、成形品を形成する工程は、射出成形により行なわれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な工程で革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0017】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の特徴部分を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0018】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法を説明するフロー図である。図1を参照して、本実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法は、革材を乾燥させる工程(S10)と、乾燥させた革材を粉砕する工程(S20)と、粉砕された革材と熱可塑性樹脂とを混練する工程(S30)と、混練された複合材料を用いて成形品を形成する工程(S40)と、成形品の表面(スキン層)を除去して内部の革繊維を露出させる工程(S50)とを含んで構成される。
【0019】
以下に、上記プラスチック成形品の製造方法の実施例について、具体的に説明する。まず、図2に示される革のシェービング屑を110℃の温度下で12時間乾燥させる。この結果、シェービング屑の吸水率は、ほぼ0%となる。なお、本願明細書において「シェービング」とは、革製品の仕様に応じて革の厚みを調整するために、皮の裏面の余分な部分を削ることを意味する。したがって、「シェービング」は「裏削り」とも言われる。
【0020】
次に、乾燥されたシェービング屑を、回転カッターの付いたミル機(粉砕機)に投入し、繊維をほぐすように粉砕する。これにより、図3に示すようなシェービング屑の粉砕品が得られる。ここでは、回転カッターの回転数を3000rpm、スクリーンメッシュ径を1mmとした。結果として、メッシュから排出された粉砕品は、直径が0.1〜0.5mm程度、長さが1〜4mm程度の細長い形状となった。
【0021】
図4は、図3に示されるシェービング屑の粉砕品の顕微鏡写真である。また、図5,図6は、図2〜図4に示されるシェービング屑およびその粉砕品のSEM写真であり、図7,図8は、それらをさらに拡大したSEM写真である。
【0022】
上記の方法で得られた粉砕品を20wt%、「熱可塑性樹脂」であるポリプロピレン樹脂を80wt%の割合で混合し、加圧式ニーダに投入する。ここでは、混合槽の温度を180℃に設定し、加圧蓋をエアシリンダで下げて加圧することによりせん断応力を発生させながら、60分程度混練を行なう。この結果、シェービング屑の粉砕品が、基本樹脂であるポリプロピレン中に均一に分散される。このようにして混練された複合材料を冷却した後、粉砕機に投入してペレット化、または小片化する。なお、上記の加圧式ニーダに代えて、押出混練機が用いられてもよい。
【0023】
次に、上記のようにペレット化された材料を、所定の形状の金型を取り付けた射出成形機に投入し、射出成形を行なう。この結果、表面に樹脂を多く含む薄いスキン層(厚み:40〜50μm程度)が形成され、内部に革繊維が均一に分散した成形品が形成される。なお、革の粉砕品の添加量を30wt%,40wt%とした場合にも、同様の成形品を形成することができる。
【0024】
上記のようにして形成された成形品では、表面に樹脂リッチのスキン層が形成されているため、革繊維がポリプロピレン樹脂に覆われてしまい、革繊維を含まない樹脂成形品の表面の質感に対してほとんど差がない状態となっている。本実施の形態では、このスキン層の樹脂を除去し、内部に閉じ込められている革繊維を表面に露出させるために、細かい研磨材を高速で成形品の表面に衝突させ、成形品表面の樹脂を除去している。
【0025】
図9は、片側の面にのみ革繊維を露出させるための表面処理を施した状態を示す成形品の断面図である。また、図9に示される断面図の一部(革繊維の表面露出部分)を拡大して示した図である。図9,図10に示すように、表面処理を施していない側の表面にはスキン層10が残存しているのに対し、表面処理を施した側の表面上には革繊維20が露出している。このようにすることで、表面がバックスキンのような質感や革の香りを有する成形品が得られる。なお、本実施の形態に係る成形品は、100mm(長さ)×50mm(幅)×10mm(高さ)で厚み0.9mmの箱型成形品であるが、その成形性も良好であり、製品強度面でも実用上全く問題のないものを得ることができる。
【0026】
上述したスキン層を除去する方法は、研磨材を飛ばして成形品の表面を削る方法(ブラスト処理)であって、圧縮空気の力を利用して研磨材を噴射させるエアーブラスト法や、モータで回転する羽根車の遠心力を利用して研磨材を投射させるショットブラスト法がある。ここで、研磨材としては、アルミナ質研磨材(A:褐色アルミナ研磨材,WA:白色アルミナ研磨材,PA:淡紅色アルミナ研磨材,HA:解砕型アルミナ研磨材,AE:人造エメリー研磨材,AZ:アルミナジルコニア研磨材)、炭化ケイ素系研磨材(C:黒色炭化ケイ素研磨材,GC:緑色炭化ケイ素研磨材)などが考えられ、その粒度としては、37〜540μm程度の物を使用することが考えられる。その他の研磨材としては、アルミナビーズ,ジルコニアビーズ、ステンレスのビーズおよび粒子,天然石の粉砕物などが考えられる。
【0027】
なお、上述したブラスト処理に代えて、サンドペーパなどを用いた表面研磨処理が行なわれてもよい。
【0028】
革材と混合される樹脂(ベース樹脂)としては、PP(ポリプロピレン)の他に、PE(ポリエチレン),EVA,オレフィン系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,PS(ポリスチレン),AS(アクリロニトリル−スチレン樹脂),ABS樹脂,PC(ポリカーボネート),PC・ABS,PMMA(ポリメタクリル酸メチル),PA(ポリアミド),メチルペンテン樹脂,ポリ乳酸などの単体材料およびそれらの複合した材料を用いることが考えられる。
【0029】
また、シェービング屑を粉砕する方法としては、乾燥させてから粉砕する方法の他に、50wt%程度の水分を含ませた状態で粉砕する方法、乾燥させた屑に分散助剤として界面活性剤およびカップリング剤を添加して粉砕する方法、水中で粉砕し、後で乾燥させる方法等が考えられる。
【0030】
また、革材の粉砕品と樹脂とを加熱混練する際に、分散剤やスリップ剤を添加してもよい。また、粉砕品と樹脂とを加熱混練する方法としては、加圧式ニーダーを使用する方法の他に、2軸の押出式混練機を使用して連続的に材料を生成する方法が考えられる。
【0031】
上述したシェービング屑においては、図11に示すように、1〜10μm程度の太さの細い繊維が100〜2000本程度集まった繊維(たとえば、図11中のA部)が3次元状に重なり合っている。シェービング屑は、幅が5〜10mm程度、長さが50〜300mm程度のものである。
【0032】
シェービング屑を粉砕した粉砕品は、直径が0.1〜0.5mm程度、長さが1〜4mm程度の細長い形状のものになることが多い。これは、1〜10μm程度の太さの細い繊維が100〜2000本程度集まった繊維の状態である。なお、シェービング屑をさらに細かく粉砕すると、1〜10μm程度の太さの細い繊維に粉砕できると考えられる。
【0033】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法は、革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程(S10〜S30)と、上記複合材料を用いて射出成形などにより成形品を形成する工程(S40)と、成形品の表面に形成されたスキン層10の少なくとも一部を「物理的手段」としてのブラスト処理や表面研磨処理などにより除去して該成形品の内部の革繊維20を露出させる工程(S50)とを備える。
【0034】
より具体的には、複合材料を生成する工程(S10〜S30)は、シェービング屑などそのままでは使用不可となった革の端材を乾燥させる工程(S10)と、乾燥させた革材を粉砕機で粉砕する工程(S20)と、粉砕された革材と熱可塑性樹脂とを混合し、該熱可塑性樹脂を溶解させて混練する工程(S30)と、混練された革材と熱可塑性樹脂とをペレット化する工程とを含む。なお、革材を粉砕する工程(S20)と革材と熱可塑性樹脂とを混練する工程(S30)とは、同一工程で行なわれてもよい。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態によれば、複雑な工程を経ることなく革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることができる。このようにして得られたプラスチック成形品は、携帯電話の筐体、パソコンの筐体、自動車のインスツルメントパネルなどの内装成形体や、筆記用具の筐体、パソコンのマウス、スポーツ用品のグリップ部材など、革の質感が好まれる表皮、外装材として幅広く利用される。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法を示したフロー図である。
【図2】革材のシェービング屑を示す図である。
【図3】図2に示されるシェービング屑を粉砕した状態を示す図である。
【図4】図3に示されるシェービング屑の粉砕品の顕微鏡写真である。
【図5】図2に示されるシェービング屑のSEM写真(その1)である。
【図6】図3に示されるシェービング屑の粉砕品のSEM写真(その1)である。
【図7】図2に示されるシェービング屑のSEM写真(その2)である。
【図8】図3に示されるシェービング屑の粉砕品のSEM写真(その2)である。
【図9】本発明の1つの実施の形態に係るプラスチック成形品の断面図である。
【図10】図9に示される断面図の一部(革繊維の表面露出部分)を拡大して示した図である。
【図11】革シェービング屑において革繊維が集まった状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
10 スキン層、20 革繊維。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形品の製造方法に関し、特に、革調の表面質感を有するプラスチック成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
革材と樹脂とを組合わせてプラスチック成形品を製造することが従来から行なわれている。
【0003】
特開2002−307517号公報(特許文献1)においては、皮革を含む廃手袋と熱可塑性樹脂とを含む材料を加熱することで可塑化して成形する廃手袋の処理方法が開示されている。
【0004】
また、特表2005−535792号公報(特許文献2)においては、多孔質の成形部材の外表面を革繊維およびバインダーを含むパルプに浸す工程と、減圧器で減圧することによって上記外表面上に革繊維とバインダーとを所望の厚さで堆積させる工程と、プレス器により堆積した革繊維の層を高密度化させた後、その表面に仕上げ加工を施す工程とを備えた立体的鋳型皮革の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−307517号公報
【特許文献2】特表2005−535792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法では、単に皮革と樹脂とを混ぜ合わせた材料を成形しているだけであるので、革調の表面質感を十分に得ることができない。
【0006】
また、特許文献2に記載の方法では、革繊維およびバインダーを混ぜ合わせた材料とは別に、多孔質の成形部材を準備する必要があり、プラスチック成形品の製造工程が複雑化する。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡単な工程で革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることが可能なプラスチック成形品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るプラスチック成形品の製造方法は、革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程と、複合材料を用いて成形品を形成する工程と、成形品の表面の少なくとも一部を物理的手段により除去して該成形品の内部の革繊維を露出させる工程とを備える。
【0009】
上記方法によれば、複雑な工程を経ることなく革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることができる。
【0010】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、複合材料を生成する工程は、革材を粉砕機で粉砕し、粉砕された革材と熱可塑性樹脂とを混合し、該熱可塑性樹脂を溶解させて混練する工程と、混練された革材と熱可塑性樹脂とをペレット化する工程とを含む。
【0011】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、粉砕機は回転カッターを含む。
【0012】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、革材と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせる工程は、加圧式ニーダまたは押出混練機を用いて行なわれる。
【0013】
1つの局面では、革繊維を露出させる工程は、ブラスト処理または表面研磨処理により行なわれる。
【0014】
1つの局面では、上記プラスチック成形品の製造方法において、成形品を形成する工程は、射出成形により行なわれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡単な工程で革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0017】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の特徴部分を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0018】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法を説明するフロー図である。図1を参照して、本実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法は、革材を乾燥させる工程(S10)と、乾燥させた革材を粉砕する工程(S20)と、粉砕された革材と熱可塑性樹脂とを混練する工程(S30)と、混練された複合材料を用いて成形品を形成する工程(S40)と、成形品の表面(スキン層)を除去して内部の革繊維を露出させる工程(S50)とを含んで構成される。
【0019】
以下に、上記プラスチック成形品の製造方法の実施例について、具体的に説明する。まず、図2に示される革のシェービング屑を110℃の温度下で12時間乾燥させる。この結果、シェービング屑の吸水率は、ほぼ0%となる。なお、本願明細書において「シェービング」とは、革製品の仕様に応じて革の厚みを調整するために、皮の裏面の余分な部分を削ることを意味する。したがって、「シェービング」は「裏削り」とも言われる。
【0020】
次に、乾燥されたシェービング屑を、回転カッターの付いたミル機(粉砕機)に投入し、繊維をほぐすように粉砕する。これにより、図3に示すようなシェービング屑の粉砕品が得られる。ここでは、回転カッターの回転数を3000rpm、スクリーンメッシュ径を1mmとした。結果として、メッシュから排出された粉砕品は、直径が0.1〜0.5mm程度、長さが1〜4mm程度の細長い形状となった。
【0021】
図4は、図3に示されるシェービング屑の粉砕品の顕微鏡写真である。また、図5,図6は、図2〜図4に示されるシェービング屑およびその粉砕品のSEM写真であり、図7,図8は、それらをさらに拡大したSEM写真である。
【0022】
上記の方法で得られた粉砕品を20wt%、「熱可塑性樹脂」であるポリプロピレン樹脂を80wt%の割合で混合し、加圧式ニーダに投入する。ここでは、混合槽の温度を180℃に設定し、加圧蓋をエアシリンダで下げて加圧することによりせん断応力を発生させながら、60分程度混練を行なう。この結果、シェービング屑の粉砕品が、基本樹脂であるポリプロピレン中に均一に分散される。このようにして混練された複合材料を冷却した後、粉砕機に投入してペレット化、または小片化する。なお、上記の加圧式ニーダに代えて、押出混練機が用いられてもよい。
【0023】
次に、上記のようにペレット化された材料を、所定の形状の金型を取り付けた射出成形機に投入し、射出成形を行なう。この結果、表面に樹脂を多く含む薄いスキン層(厚み:40〜50μm程度)が形成され、内部に革繊維が均一に分散した成形品が形成される。なお、革の粉砕品の添加量を30wt%,40wt%とした場合にも、同様の成形品を形成することができる。
【0024】
上記のようにして形成された成形品では、表面に樹脂リッチのスキン層が形成されているため、革繊維がポリプロピレン樹脂に覆われてしまい、革繊維を含まない樹脂成形品の表面の質感に対してほとんど差がない状態となっている。本実施の形態では、このスキン層の樹脂を除去し、内部に閉じ込められている革繊維を表面に露出させるために、細かい研磨材を高速で成形品の表面に衝突させ、成形品表面の樹脂を除去している。
【0025】
図9は、片側の面にのみ革繊維を露出させるための表面処理を施した状態を示す成形品の断面図である。また、図9に示される断面図の一部(革繊維の表面露出部分)を拡大して示した図である。図9,図10に示すように、表面処理を施していない側の表面にはスキン層10が残存しているのに対し、表面処理を施した側の表面上には革繊維20が露出している。このようにすることで、表面がバックスキンのような質感や革の香りを有する成形品が得られる。なお、本実施の形態に係る成形品は、100mm(長さ)×50mm(幅)×10mm(高さ)で厚み0.9mmの箱型成形品であるが、その成形性も良好であり、製品強度面でも実用上全く問題のないものを得ることができる。
【0026】
上述したスキン層を除去する方法は、研磨材を飛ばして成形品の表面を削る方法(ブラスト処理)であって、圧縮空気の力を利用して研磨材を噴射させるエアーブラスト法や、モータで回転する羽根車の遠心力を利用して研磨材を投射させるショットブラスト法がある。ここで、研磨材としては、アルミナ質研磨材(A:褐色アルミナ研磨材,WA:白色アルミナ研磨材,PA:淡紅色アルミナ研磨材,HA:解砕型アルミナ研磨材,AE:人造エメリー研磨材,AZ:アルミナジルコニア研磨材)、炭化ケイ素系研磨材(C:黒色炭化ケイ素研磨材,GC:緑色炭化ケイ素研磨材)などが考えられ、その粒度としては、37〜540μm程度の物を使用することが考えられる。その他の研磨材としては、アルミナビーズ,ジルコニアビーズ、ステンレスのビーズおよび粒子,天然石の粉砕物などが考えられる。
【0027】
なお、上述したブラスト処理に代えて、サンドペーパなどを用いた表面研磨処理が行なわれてもよい。
【0028】
革材と混合される樹脂(ベース樹脂)としては、PP(ポリプロピレン)の他に、PE(ポリエチレン),EVA,オレフィン系エラストマー,ポリエステル系エラストマー,PS(ポリスチレン),AS(アクリロニトリル−スチレン樹脂),ABS樹脂,PC(ポリカーボネート),PC・ABS,PMMA(ポリメタクリル酸メチル),PA(ポリアミド),メチルペンテン樹脂,ポリ乳酸などの単体材料およびそれらの複合した材料を用いることが考えられる。
【0029】
また、シェービング屑を粉砕する方法としては、乾燥させてから粉砕する方法の他に、50wt%程度の水分を含ませた状態で粉砕する方法、乾燥させた屑に分散助剤として界面活性剤およびカップリング剤を添加して粉砕する方法、水中で粉砕し、後で乾燥させる方法等が考えられる。
【0030】
また、革材の粉砕品と樹脂とを加熱混練する際に、分散剤やスリップ剤を添加してもよい。また、粉砕品と樹脂とを加熱混練する方法としては、加圧式ニーダーを使用する方法の他に、2軸の押出式混練機を使用して連続的に材料を生成する方法が考えられる。
【0031】
上述したシェービング屑においては、図11に示すように、1〜10μm程度の太さの細い繊維が100〜2000本程度集まった繊維(たとえば、図11中のA部)が3次元状に重なり合っている。シェービング屑は、幅が5〜10mm程度、長さが50〜300mm程度のものである。
【0032】
シェービング屑を粉砕した粉砕品は、直径が0.1〜0.5mm程度、長さが1〜4mm程度の細長い形状のものになることが多い。これは、1〜10μm程度の太さの細い繊維が100〜2000本程度集まった繊維の状態である。なお、シェービング屑をさらに細かく粉砕すると、1〜10μm程度の太さの細い繊維に粉砕できると考えられる。
【0033】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法は、革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程(S10〜S30)と、上記複合材料を用いて射出成形などにより成形品を形成する工程(S40)と、成形品の表面に形成されたスキン層10の少なくとも一部を「物理的手段」としてのブラスト処理や表面研磨処理などにより除去して該成形品の内部の革繊維20を露出させる工程(S50)とを備える。
【0034】
より具体的には、複合材料を生成する工程(S10〜S30)は、シェービング屑などそのままでは使用不可となった革の端材を乾燥させる工程(S10)と、乾燥させた革材を粉砕機で粉砕する工程(S20)と、粉砕された革材と熱可塑性樹脂とを混合し、該熱可塑性樹脂を溶解させて混練する工程(S30)と、混練された革材と熱可塑性樹脂とをペレット化する工程とを含む。なお、革材を粉砕する工程(S20)と革材と熱可塑性樹脂とを混練する工程(S30)とは、同一工程で行なわれてもよい。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態によれば、複雑な工程を経ることなく革調の表面質感を有するプラスチック成形品を得ることができる。このようにして得られたプラスチック成形品は、携帯電話の筐体、パソコンの筐体、自動車のインスツルメントパネルなどの内装成形体や、筆記用具の筐体、パソコンのマウス、スポーツ用品のグリップ部材など、革の質感が好まれる表皮、外装材として幅広く利用される。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係るプラスチック成形品の製造方法を示したフロー図である。
【図2】革材のシェービング屑を示す図である。
【図3】図2に示されるシェービング屑を粉砕した状態を示す図である。
【図4】図3に示されるシェービング屑の粉砕品の顕微鏡写真である。
【図5】図2に示されるシェービング屑のSEM写真(その1)である。
【図6】図3に示されるシェービング屑の粉砕品のSEM写真(その1)である。
【図7】図2に示されるシェービング屑のSEM写真(その2)である。
【図8】図3に示されるシェービング屑の粉砕品のSEM写真(その2)である。
【図9】本発明の1つの実施の形態に係るプラスチック成形品の断面図である。
【図10】図9に示される断面図の一部(革繊維の表面露出部分)を拡大して示した図である。
【図11】革シェービング屑において革繊維が集まった状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
10 スキン層、20 革繊維。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程と、
前記複合材料を用いて成形品を形成する工程と、
前記成形品の表面の少なくとも一部を物理的手段により除去して該成形品の内部の革繊維を露出させる工程とを備えた、プラスチック成形品の製造方法。
【請求項2】
前記複合材料を生成する工程は、
前記革材を粉砕機で粉砕し、粉砕された前記革材と前記熱可塑性樹脂とを混合し、該熱可塑性樹脂を溶解させて混練する工程と、
混練された前記革材と前記熱可塑性樹脂とをペレット化する工程とを含む、請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕機は回転カッターを含む、請求項2に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項4】
前記革材と前記熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせる工程は、加圧式ニーダまたは押出混練機を用いて行なわれる、請求項1から請求項3のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項5】
前記革繊維を露出させる工程は、ブラスト処理または表面研磨処理により行なわれる、請求項1から請求項4のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項6】
前記成形品を形成する工程は、射出成形により行なわれる、請求項1から請求項5のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項1】
革材を粉砕して得られた微小片と熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせて複合材料を生成する工程と、
前記複合材料を用いて成形品を形成する工程と、
前記成形品の表面の少なくとも一部を物理的手段により除去して該成形品の内部の革繊維を露出させる工程とを備えた、プラスチック成形品の製造方法。
【請求項2】
前記複合材料を生成する工程は、
前記革材を粉砕機で粉砕し、粉砕された前記革材と前記熱可塑性樹脂とを混合し、該熱可塑性樹脂を溶解させて混練する工程と、
混練された前記革材と前記熱可塑性樹脂とをペレット化する工程とを含む、請求項1に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕機は回転カッターを含む、請求項2に記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項4】
前記革材と前記熱可塑性樹脂とを混ぜ合わせる工程は、加圧式ニーダまたは押出混練機を用いて行なわれる、請求項1から請求項3のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項5】
前記革繊維を露出させる工程は、ブラスト処理または表面研磨処理により行なわれる、請求項1から請求項4のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【請求項6】
前記成形品を形成する工程は、射出成形により行なわれる、請求項1から請求項5のいずれかに記載のプラスチック成形品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−87247(P2008−87247A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268432(P2006−268432)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000161312)宮川化成工業株式会社 (13)
【出願人】(392025711)株式会社アウラ (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000161312)宮川化成工業株式会社 (13)
【出願人】(392025711)株式会社アウラ (4)
【Fターム(参考)】
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