説明

プラズマ処理装置及びそのガス供給方法

【課題】処理ガスの供給を交互に切り換える際に,これらの処理ガスが混ざり合うことなく,過渡現象を従来以上に抑制する。
【解決手段】ウエハのプラズマ処理中に少なくとも2種類以上の処理ガス(例えばCガスとCガス)を交互に切り換えて処理室内に供給する際に,切り換える処理ガスを供給する各ガス供給路については,そのガス供給路に設けられたマスフローコントローラ(MFC)の下流側の開閉バルブを開いたまま,マスフローコントローラに所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することによって,各処理ガスの供給を交互にオンオフする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の処理ガスを処理室内に供給可能なプラズマ処理装置及びそのガス供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では,処理室内に所定のガスを供給して,半導体ウエハ,液晶基板,太陽電池用基板などの被処理基板(以下,単に「基板」と称する)に対して成膜やエッチングなどの所定の処理を施すプラズマ処理装置が用いられる。
【0003】
このようなプラズマ処理装置におけるガス供給系において,複数種類のガスを混合して供給する場合には,各種類のガスを供給するガス供給路を複数設け,これを1本の共通ガス供給路に合流させて,プラズマ処理装置の処理室内へ処理ガスを導くようになっている。
【0004】
各ガス供給路にはそれぞれ,マスフローコントローラ(MFC)などの流量調整器が設けられるとともに,その上流側と下流側にそれぞれ開閉バルブが設けられる。また流量調整器の下流側のみに開閉バルブが設けられることもある。
【0005】
従来,このような各処理ガス供給のオンオフは,これらの開閉バルブを開閉することによって行い,流量調整器に所定流量を設定することによって各ガス供給路内を流通する処理ガスの流量を制御していた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−85962号公報
【特許文献2】特開平11−195641号公報
【特許文献3】特開2000−306887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,近年では処理の多様化や半導体デバイスの微細化要請に応じて,異なる種類の処理ガスを切り換えることによって同一装置内で連続して処理を行うことも少なくない。ところが,このような場合においても,各処理ガス供給のオンオフを,マスフローコントローラの開閉バルブを開閉することによって行うと,マスフローコントローラ内に残留するガスが一気に処理室内に流れ込んでからマスフローコントローラによる流量制御が開始されることになる。
【0008】
このため,各処理ガスの切り換え時においてガス流量の過渡現象が発生し易くなり,処理室内に供給されるガス流量が安定しないという問題がある。しかも,このようなガス流量の過渡現象は,ガスの切り換え間隔が短いほど発生し易くなる傾向がある。
【0009】
この場合,ガスの切り換えごとに安定工程を設けるようにすることでガス流量の過渡現象を吸収させることもできるものの,その分だけスループットが低下してしまう。
【0010】
なお,上記特許文献2,3には,エッチングガスとデポジションガスを交互に行う際,各ガスの切り換え時にそれぞれ遷移工程を設け,この遷移工程において一方のガスの供給を止める前に他方のガスの供給を開始し,一方のガスを徐々に流量を低下させるとともに他方のガスは徐々に流量を増やすものが記載されている。ところが,このような特許文献2,3の流量制御によれば,各ガスの切り換え時に交互に供給するガスが混ざってしまうため,切り換えるガスの種類によっては基板の処理に与える影響を無視できない。
【0011】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的とするところは,処理ガスの供給を交互に切り換える際に,これらの処理ガスが混ざり合うことなく,ガス流量の過渡現象を従来以上に抑制することができるプラズマ処理装置及びそのガス供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,減圧可能な処理室内に所定のガスを供給しながらプラズマを生成することによって,前記処理室内の基板に所定のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置のガス供給方法であって,前記プラズマ処理装置は,複数の処理ガス供給源にそれぞれガス供給路を接続し,これらガス供給路を介して前記処理室に所望の処理ガスを供給するガス供給系と,前記各ガス供給路にそれぞれ設けられ,設定された流量に応じて流量調整弁の開度を調整することによって前記ガス供給路を流れるガスの流量を制御する流量制御器と,前記各流量制御器の下流側にそれぞれ設けられた開閉バルブとを備え,前記基板のプラズマ処理中に少なくとも2種類以上の処理ガスを交互に切り換えて前記処理室内に供給する際に,前記切り換える処理ガスの各ガス供給路については,前記流量制御器の下流側の前記開閉バルブを開いたまま,前記流量制御器に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することによって,前記各処理ガスの供給を交互にオンオフすることを特徴とするプラズマ処理装置のガス供給方法が提供される。
【0013】
上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,減圧可能な処理室内に所定のガスを供給しながらプラズマを生成することによって,前記処理室内の基板に所定のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置であって,複数の処理ガス供給源にそれぞれガス供給路を接続し,これらガス供給路を介して前記処理室に所望の処理ガスを供給するガス供給系と,前記各ガス供給路にそれぞれ設けられ,設定された流量に応じて流量調整弁の開度を調整することによって前記ガス供給路を流れるガスの流量を制御する流量制御器と,前記各流量制御器の下流側にそれぞれ設けられた開閉バルブと,前記各流量制御器に流量を設定する制御部と,を備え,前記制御部は,前記基板のプラズマ処理中に少なくとも2種類以上の処理ガスを交互に切り換えて前記処理室内に供給する際に,前記切り換える処理ガスの各ガス供給路については,前記流量制御器の下流側の前記開閉バルブを開いたまま,前記流量制御器に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することによって,前記各処理ガスの供給を交互にオンオフすることを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。
【0014】
このような本発明によれば,交互に切り換えて処理室内に供給する処理ガスについては,その流量制御器の下流側の開閉バルブを開いたまま,流量制御器に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することにより各処理ガスをオンオフさせることができる。これにより,各処理ガスの切り換え時において,交互に切り換える処理ガスが混ざり合うことなく,処理室内で発生するガス流量の過渡現象を従来以上に抑制できる。
【0015】
また,上記各流量制御器の上流側にもそれぞれ開閉バルブを設け,前記切り換える処理ガスの各ガス供給路については,前記流量制御器の下流側の前記開閉バルブのみならず上流側の前記開閉バルブも開いたまま,その流量制御器に対する所定流量とゼロ流量の設定制御を繰り返すことによって,前記各処理ガスの供給を交互にオンオフするようにしてもよい。
【0016】
これによれば,交互に切り換えて処理室内に供給する処理ガスについては,その流量制御器の下流側のみならず,上流側の開閉バルブも開いたまま,流量制御器に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することにより各処理ガスをオンオフさせることができる。これにより,各処理ガスの切り換え時において,交互に切り換える処理ガスが混ざり合うことなく,処理室内で発生するガス流量の過渡現象のみならず,マスフローコントローラ内で発生するガス流量の過渡現象も従来以上に抑制できる。
【0017】
また,上記各処理ガスを交互に切り換えて前記処理室内に供給する際に,前記各処理ガスの切り換え時間が閾値以下か否かを判断し,前記切り換え時間が閾値以下であると判断した場合,前記切り換える処理ガスの供給のオンオフは,前記開閉バルブを開いたまま,前記流量制御器に対する所定流量又はゼロ流量の設定によって行い,前記切り換え時間が閾値以下でないと判断した場合,前記切り換える処理ガスの供給のオンオフは,前記開閉バルブの開閉によって行うようにしてもよい。この場合,前記切り換え時間の閾値は,1秒〜15秒の範囲で設定することが好ましい。
【0018】
また,上記切り換える処理ガスは,例えば少なくとも2種類以上のエッチングガスである。また,上記切り換える処理ガスは,少なくともエッチングガスとクリーニングガスを含むようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,各処理ガスの切り換え時において,交互に切り換える処理ガスが混ざり合うことなく,ガス流量の過渡現象を従来以上に抑制することができる。これによって,より安定した処理ガスの切り換えをよりスムーズに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態にかかるプラズマ処理装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】同実施形態におけるマスフローコントローラの構成例を示す図である。
【図3】比較例にかかるガス供給制御を示すタイミング図である。
【図4】本実施形態にかかるガス供給制御を示すタイミング図である。
【図5A】Cガスの供給を遮断(オフ)してCガスの供給を開始(オン)したときの実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCFラジカルの発光強度をグラフに示した図である。
【図5B】Cガスの供給を遮断(オフ)してCガスの供給を開始(オン)したときの実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCFラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図6A】図3に示す比較例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCOラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図6B】図3に示す比較例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからOラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図6C】図3に示す比較例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCFラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図7A】図4に示す本実施形態にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCOラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図7B】図4に示す本実施形態にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからOラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図7C】図4に示す本実施形態にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCFラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図8】本実施形態の変形例にかかるガス供給制御を示すタイミング図である。
【図9A】図8に示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCOラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図9B】図8に示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからOラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図9C】図8に示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,処理室内のプラズマ発光スペクトルからCFラジカルの発光強度を検出してグラフに示した図である。
【図10A】図3に示す比較例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,マスフローコントローラ内のCガスの流量を検出してグラフに示した図である。
【図10B】図3に示す比較例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,マスフローコントローラ内のCガスの流量を検出してグラフに示した図である。
【図11A】図8に示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,マスフローコントローラ内のCガスの流量を検出してグラフに示した図である。
【図11B】図8に示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御によってプラズマエッチングを行った実験結果であって,マスフローコントローラ内のCガスの流量を検出してグラフに示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また,本明細書中1mTorrは(10−3×101325/760)Pa,1sccmは(10−6/60)m/secとする。
【0022】
(プラズマ処理装置の構成例)
先ず,本発明の実施形態にかかるプラズマ処理装置の構成例について説明する。ここでは処理室内に上部電極と下部電極(サセプタ)を対向配置して上部電極から処理ガスを処理室内に供給する平行平板型のプラズマ処理装置を例に挙げて説明する。図1は,本実施形態にかかるプラズマ処理装置100の概略構成を示す断面図である。
【0023】
プラズマ処理装置100は,例えばアルミニウム等の導電性材料からなる処理室102とこの処理室102内に複数種類のガスを供給するガス供給系200を備える。処理室102は電気的に接地されており,処理室102内には被処理基板例えば半導体ウエハ(以下,単に「ウエハ」とも称する)Wを載置する載置台を兼ねる下部電極(サセプタ)110と,これに対向して平行に配置された上部電極120とが設けられている。
【0024】
下部電極110には,2周波重畳電力を供給する電力供給装置130が接続されている。電力供給装置130は,第1周波数の第1高周波電力(プラズマ生起用高周波電力)を供給する第1高周波電源132,第1周波数よりも低い第2周波数の第2高周波電力(バイアス電圧発生用高周波電力)を供給する第2高周波電源134を備える。第1,第2高周波電源132,134はそれぞれ,第1,第2整合器133,135を介して下部電極110に電気的に接続される。
【0025】
第1,第2整合器133,135は,それぞれ第1,第2高周波電源132,134の内部(または出力)インピーダンスに負荷インピーダンスを整合させるためのものであり,処理室102内にプラズマが生成されているときに第1,第2高周波電源132,134の内部インピーダンスと負荷インピーダンスが見かけ上一致するように機能する。
【0026】
第1高周波電源132は,27MHz以上の周波数(例えば40MHz)の高周波電力を出力する。第2高周波電源134は,13.56MHz以下の周波数(例えば2MHz)の高周波電力を出力する。
【0027】
上部電極120は,その周縁部を被覆するシールドリング122を介して処理室102の天井部に取り付けられている。上部電極120は図1に示すように電気的に接地してもよく,また図示しない可変直流電源を接続して上部電極120に所定の直流(DC)電圧が印加されるように構成してもよい。
【0028】
上部電極120には,ガス供給系200からガスを導入するためのガス導入口124が形成されている。また,上部電極120の内部にはガス導入口124から導入されたガスを拡散する拡散室126が設けられている。
【0029】
上部電極120には,この拡散室126からのガスを処理室102内に供給する多数のガス供給孔128が形成されている。各ガス供給孔128は,下部電極110に載置されたウエハWと上部電極120との間にガスを供給できるように配置されている。
【0030】
このような上部電極120によれば,ガス供給系200からのガスはガス導入口124を介して拡散室126に供給され,ここで拡散して各ガス供給孔128に分配され,ガス供給孔128から下部電極110に向けて吐出される。なお,ガス供給系200の具体的構成例については後述する。
【0031】
処理室102の底面には排気口142が形成されており,排気口142に接続された排気装置140によって排気することによって,処理室102内を所定の真空度に維持することができる。処理室102の側壁にはゲートバルブGが設けられている。このゲートバルブGを開くことによって,処理室102内へのウエハWの搬入及び処理室102内からのウエハWの搬出が可能となる。
【0032】
プラズマ処理装置100には,装置全体の動作を制御する制御部150が設けられている。制御部150には,オペレータがプラズマ処理装置100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや,プラズマ処理装置100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなる操作部152が接続されている。
【0033】
さらに,制御部150には,プラズマ処理装置100で実行される各種処理を制御部150の制御にて実現するためのプログラムやプログラムを実行するために必要な処理条件(レシピ)などが記憶された記憶部154が接続されている。
【0034】
記憶部154には,例えば後述する第1,第2処理条件(レシピ)などが記憶されている。このような処理条件については,プラズマ処理装置100の各部を制御する制御パラメータ,設定パラメータなどの複数のパラメータ値をまとめたものである。各処理条件は例えば処理ガスの流量比(各マスフローコントローラ230に設定する流量など),処理室内圧力,高周波電力などのパラメータ値を有する。
【0035】
なお,これらのプログラムや処理条件はハードディスクや半導体メモリに記憶されていてもよく,またCD−ROM,DVD等の可搬性のコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体に収容された状態で記憶部154の所定位置にセットするようになっていてもよい。
【0036】
制御部150は,操作部152からの指示等に基づいて所望のプログラム,処理条件を記憶部154から読み出して各部を制御することで,プラズマ処理装置100での所望の処理を実行する。また,操作部152からの操作により処理条件を編集できるようになっている。
【0037】
(ガス供給系)
ここで,ガス供給系200の具体的構成例について説明する。ここでのガス供給系200は,処理室102内に4種の処理ガス(Cガス,Cガス,Oガス,Arガス)を選択的に供給できるように構成した場合である。これらのガスのうち,Cガス,Cガスはともにエッチングガスとして交互に供給され,Oガス,Arガスは必要に応じてこれらのガスとともに供給される。
【0038】
具体的にはガス供給系200は,Cガス,Cガス,Oガス,Arガスの各ガス供給源210A〜210Dを備える。これらガス供給源210A〜210Dはそれぞれガス供給路(配管)212A〜212Dを介して共通ガス供給路(配管)214に合流するように接続されている。共通ガス供給路214には開閉バルブ216が介在しており,その下流側は上部電極120に接続される。なお,共通ガス供給路214にはその中を流れるガスからパーティクルを除去するフィルタを介在させるようにしてもよい。
【0039】
各ガス供給路212A〜212Dにはそれぞれ,流通するガスの流量を調整する流量制御器の1例としてマスフローコントローラ(MFC)230A〜230Dが設けられている。各マスフローコントローラ(MFC)230A〜230Dの上流側と下流側にはそれぞれ,上流側開閉バルブ(第1開閉バルブ)220A〜220Dと下流側開閉バルブ(第2開閉バルブ)240A〜240Dが設けられている。
【0040】
このようなマスフローコントローラ(MFC)230A〜230Dの具体的構成例について図面を参照しながら説明する。図2は,本実施形態にかかるマスフローコントローラ(MFC)の構成例を示す図である。マスフローコントローラ(MFC)230A〜230Dは同様の構成であるため,ここでは参照符号から添え字A〜Dをとって代表して説明する。
【0041】
図2に示すように,マスフローコントローラ(MFC)230は,その内部でガス供給路212を分流する本流路231と側流路232とを備える。具体的にはマスフローコントローラ(MFC)230内において,ガス導入口(IN)から導入されるガス供給路212からのガスは本流路231と側流路232によっていったん分流し,再び合流してから,流量調整弁(コントロールバルブ)235を介してガス導出口(OUT)からガス供給路212へ導出される。
【0042】
側流路232には,ガス供給路212内における流量を計測するための流量センサが設けられている。流量センサは,側流路232の上流側に設けられる上流側センサ233と,側流路232の下流側に設けられる下流側センサ234によりなる。
【0043】
上流側センサ233と下流側センサ234は例えば発熱抵抗線により構成される。これによれば,上流側センサ233で流体が流れると熱が奪われて温度が下降し,逆に下流側センサ234では熱が与えられ温度が上昇する。この結果,上流側センサ233と下流側センサ234とでは温度差が生じ,この温度差に応じた出力電圧(MFC出力電圧)を検出することによって流量を検出できるようになっている。
【0044】
マスフローコントローラ(MFC)230には,流量センサ(上流側センサ233,下流側センサ234)からの出力に応じて流量調整弁235の開度を制御することによってガス供給路212の流量を設定流量に調整するMFC制御回路236が設けられている。
【0045】
このようなマスフローコントローラ(MFC)230によって,ガス供給路212を流通するガス供給制御を行う場合には,制御部150によってMFC制御回路236に対して所定流量を設定する。すると,MFC制御回路236は,設定した所定流量になるように流量調整弁235の開度を制御することで,ガス供給路212を流通するガスの流量を制御するようになっている。
【0046】
例えばMFC制御回路236に対して所定流量を設定すると,流量調整弁235が開いてその開度が調整されてガスの流量が所定流量に調整され,ゼロ流量を設定すると流量調整弁235が閉じてガスの供給が遮断(オフ)される。本実施形態ではこのような機能を利用して,マスフローコントローラ230内の流量調整弁235を開閉バルブ(オンオフバルブ)のように用いることによって,ガスを切り替える際のガス流量の過渡現象を抑制する。この具体的なガス供給制御の詳細については後述する。
【0047】
次に,このようなプラズマ処理装置100によるウエハ処理の具体例について説明する。本実施形態では,例えばウエハW上に形成された酸化膜(例えばシリコン酸化膜)に,パターニングされた所定の膜(例えばレジスト膜,ポリシリコン膜)をマスクとして所定のアスペクト比のホール又はトレンチを形成するプラズマエッチングを行う場合を例に挙げる。
【0048】
ここでのプラズマエッチングとしては,その処理中にプラズマを生成したまま,異なる種類の処理ガスを短い時間で交互に切り替える場合を例に挙げる。これによれば,例えば堆積性の強い処理ガス(例えばCガス)を用いて行う第1ステップと,これよりも堆積性の弱い処理ガス(例えばCガス)を用いて行う第2ステップとを,プラズマを生成したまま交互に繰り返すことができる。
【0049】
これによれば,ホール径やトレンチ幅が広がりすぎないように調整しながらエッチングすることができるので,ウエハWの表面にアスペクト比がより高く,より深いホールやトレンチを形成できる。また,例えばCガスとCガスのように,切り替えるガスを両方ともプラズマエッチングに用いるガスとすることで,これらの処理ガスを切り替えるごとにその処理ガスの種類に応じてプラズマをオンオフすることなく,その処理中は高周波電力を印加し続けてプラズマを生成し続けることができる。このため,スループットをより向上させることができる。
【0050】
ところで,一般に処理ガス供給のオンオフは,マスフローコントローラ230の上流側と下流側の開閉バルブ220,240を開閉して行われ,マスフローコントローラ230内の流量調整弁235は処理ガス供給のオンオフではなく,専ら処理ガスの流量制御に用いられる。
【0051】
ところが,上述した本実施形態によるプラズマエッチングのように,複数の処理ガスを交互に切り替えるウエハ処理では,比較的短い時間で処理ガスを切り替えるので,もしこのようなウエハ処理においても処理ガスの供給のオンオフを開閉バルブ220,240の開閉によって行うようにすれば,処理ガスを切り換えるときにガス流量の過渡現象(例えばオーバーシュート,ゆらぎなど)が発生してしまう可能性が高い。しかも,処理ガスの切り換え間隔が短いほど,ガス流量の過渡現象が発生し易くなる傾向がある。
【0052】
以下,このようなガス流量の過渡現象について比較例にかかるガス供給制御を例に挙げて図面を参照しながら説明する。図3は比較例にかかるガス供給制御である。図3に示すガス供給制御では,各処理ガス(Cガス,Cガス)の供給をオンオフを上流側開閉バルブ220と下流側開閉バルブ240の開閉によって行った場合に処理室102内に発生するガス流量の過渡現象を例に挙げる。
【0053】
図3に示すように比較例にかかるガス供給制御では,Cガスの供給を開始(オン)するときには,例えば下流側開閉バルブ240A,上流側開閉バルブ220Aの順に開いて,所定のディレイ時間経過後にマスフローコントローラ230Aに所定流量を設定する。Cガスの供給を遮断(オフ)するときには,例えば供給開始(オン)のときとは逆に上流側開閉バルブ220A,下流側開閉バルブ240Aの順に閉じて,所定のディレイ時間経過後にマスフローコントローラ230Aにゼロ流量を設定する。
【0054】
これと同様に,Cガスの供給を開始(オン)するときには,例えば下流側開閉バルブ240B,上流側開閉バルブ220Bの順に開いて,所定のディレイ時間経過後にマスフローコントローラ230Bに所定流量を設定する。Cガスの供給を遮断(オフ)するときには,例えば供給開始(オン)のときとは逆に上流側開閉バルブ220B,下流側開閉バルブ240Bの順に閉じて,所定のディレイ時間経過後にマスフローコントローラ230Bにゼロ流量を設定する。
【0055】
こうしてCガスの供給をオンオフと,Cガスの供給をオンオフとを交互に繰り返すことによって,CガスとCガスとを交互に切り替えて供給する。
【0056】
ところが,このような比較例にかかるガス供給制御では,各処理ガスの供給を遮断(オフ)する際には上流側と下流側の開閉バルブ220,240を両方閉じるため,図2に示すようにマスフローコントローラ230内を含めた上流側開閉バルブ220Bと下流側開閉バルブ240Bとの間にガスが残留し易くなる。
【0057】
このため,各処理ガスの供給を開始(オン)する際,下流側開閉バルブ240を開いたときに,流量調整弁235よりも下流側に残留しているガスが一気に処理室102内に流れ込んでから流量調整弁235が開いて開度が調整されこれによる流量制御が開始されることになる。このため,処理ガスの供給開始直後でガス流量の過渡現象が発生し易くなり,処理ガス供給の初期段階で処理室102内に供給されるガス流量が安定しないという問題がある。
【0058】
そこで,本実施形態では,複数の処理ガスを交互に供給するガス供給路212については,少なくとも下流側開閉バルブ240を開いたまま,そのマスフローコントローラ230に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することで,処理ガスの供給をオンオフする。
【0059】
これによれば,処理ガスのオンオフをマスフローコントローラ230の流量調整弁235の開閉によって行うことができる。これにより,処理ガスのオンオフを繰り返しても,流量調整弁235よりも下流側に残留ガスが溜まらないので,処理室102内に供給されるガス流量の過渡現象の発生を従来以上に抑制できる。これによって,より安定した処理ガスの切り換えをよりスムーズに行うことができる。
【0060】
しかも,各処理ガスのオンオフを交互に繰り返すので,交互に切り換える処理ガスが混ざり合うこともない。これによって,交互に切り換える処理ガスが混ざり合うことによって生じるウエハ処理への影響も防止できる。
【0061】
このような本実施形態によるガス供給制御について図面を参照しながら説明する。ここでは,複数の処理ガスを交互に供給するガス供給路212について,上流側開閉バルブ220は開閉するものの,下流側開閉バルブ240は開いたまま,そのマスフローコントローラ230に所定流量とゼロ流量を繰り返し設定することによって,処理ガスの供給をオンオフする場合を例に挙げる。図4は,本実施形態にかかるガス供給制御を示すタイミング図である。
【0062】
図4に示すガス供給制御では,ウエハWのプラズマエッチングを行う前に,下部電極110にウエハWを載置して処理室102内を所定の真空圧力に減圧し,交互に供給するCガスとCガスについてのマスフローコントローラ230A,230Bの下流側の開閉バルブ240A,240Bを開く。
【0063】
そして,下流側開閉バルブ240A,240Bを開いたまま,先ずはCガスを供給し,電力供給装置130によって下部電極110に所定の高周波電力を印加してプラズマを生成することによってプラズマエッチングを開始する。具体的には,電力供給装置130によって,下部電極110に第1高周波電源132から27MHz以上の周波数の第1高周波(例えば40MHz)を所定のパワーで供給するとともに,第2高周波電源134から13.56MHz以下の周波数の第2高周波(例えば2MHz)を所定のパワーで供給する。次いで,所定のガス切り換え時間経過後にCガスの供給に切り換える。その後は,これらの処理ガスをガス切り換え時間ごとに交互に切り替えて供給する。
【0064】
この場合,Cガスの供給を開始(オン)するときには,上流側開閉バルブ220Aを開いてマスフローコントローラ230Aに所定流量を設定し,Cガスの供給を遮断(オフ)するときには,上流側開閉バルブ220Aを閉じた後,マスフローコントローラ230Aにゼロ流量を設定する。このとき,下流側開閉バルブ240Aは開いたままなので,マスフローコントローラ230Aに所定流量を設定することによってその流量調整弁235が開いてCガスの供給が開始(オン)され,マスフローコントローラ230Aにゼロ流量を設定することによってその流量調整弁235が閉じてCガスの供給が遮断(オフ)される。
【0065】
これと同様に,Cガスの供給を開始(オン)するときには,上流側開閉バルブ220Bを開いてマスフローコントローラ230Bに所定流量を設定し,Cガスの供給を遮断(オフ)するときには,上流側開閉バルブ220Bを閉じた後,マスフローコントローラ230Bにゼロ流量を設定する。このとき,下流側開閉バルブ240Bは開いたままなので,マスフローコントローラ230Bに所定流量を設定することによってその流量調整弁235が開いてCガスの供給が開始(オン)され,マスフローコントローラ230Bにゼロ流量を設定することによってその流量調整弁235が閉じてCガスの供給が遮断(オフ)される。
【0066】
こうして,下流側開閉バルブ240A,240Bを開いたまま,CガスとCガスのオンオフを所定回数繰り返し行うことで,CガスとCガスを交互に切り替える。そして,プラズマエッチングを終了すると,下流側開閉バルブ240A,240Bを閉じる。
【0067】
ここで,図3,図4に示すガス供給制御を行ったときの処理室102内におけるガス流量の変化を検出した実験結果について図面を参照しながら説明する。ここでは処理室102内のガス流量の変化をプラズマの発光スペクトルから特定のラジカル成分(所定波長)の発光強度によって検出した。なお,このときの処理条件は後述する第1処理条件,第2処理条件と同様である。
【0068】
図5A,図5BはともにCFラジカル(260nm)の発光強度を検出したものである。図5AはCガスの供給を遮断(オフ)してCガスの供給を開始(オン)したときのものであり,図5BはCガスの供給を遮断(オフ)してCガスの供給を開始(オン)したときのものである。図5A,図5Bにおける点線グラフは比較例にかかるガス供給制御(図3)によるものであり,実線グラフは本実施形態にかかるガス供給制御(図4)によるものである。
【0069】
図5A,図5Bに示す実験結果によれば,いずれの場合も実線グラフに示す本実施形態にかかるガス供給制御(図4)では,点線グラフに示す比較例にかかるガス供給制御(図3)において発生するQ1,Q2のような過渡現象が抑制されていることが分かる。
【0070】
次に,図3,図4に示すガス供給制御によりCガスとCガスを交互に複数回切り替えることによってウエハWのエッチングを行ったときの実験結果について図面を参照しながら説明する。図6A〜図6Cは比較例にかかるガス供給制御(図3)による実験結果であり,図7A〜図7Cは本実施形態にかかるガス供給制御(図4)による実験結果である。
【0071】
図6A,図7Aは処理室102内のプラズマス発光ペクトルからCOラジカル(483nm)の発光強度を検出したものであり,図6B,図7BはOラジカル(777nm)の発光強度を検出したものであり,図6C,図7CはCFラジカル(260nm)の発光強度を検出したものである。なお,上述した図5A,図5Bの点線グラフは図6Cの一部を拡大したものに相当し,上述した図5A,図5Bの実践グラフは図7Cの一部を拡大したものに相当する。
【0072】
なお,この実験ではウエハWに形成されたシリコン酸化膜に,ポリシリコン膜をマスクにして所定のアスペクト比のホールを形成するプラズマエッチングを複数枚のウエハWについて行った。図6A〜図6C,図7A〜図7Cはこれら複数枚のウエハWについての実験結果のグラフを重ねたものである。この実験での主な処理条件は以下の通りである。下記第1処理条件は堆積性の強い処理ガス(ここではCガス)を用いて行う第1ステップについてのものであり,下記第2処理条件は堆積性の弱い処理ガス(例えばCガス)を用いて行う第2ステップについてのものである。これらの第1,第2の処理条件による各ステップを10秒ずつ交互に行った。
【0073】
[第1処理条件(第1ステップ)]
処理室内圧力:40mTorr
ガス種及び流量比:C/C/Ar/O=0/57/500/20sccm
第1高周波(40Hz):1200W
第2高周波(2Hz):5000W
エッチング時間:10秒
【0074】
[第2処理条件(第2ステップ)]
処理室内圧力:40mTorr
ガス種及び流量比:C/C/Ar/O=57/0/500/40sccm
第1高周波(40Hz):1200W
第2高周波(2Hz):5000W
エッチング時間:10秒
【0075】
これらの実験結果によれば,COラジカル,Oラジカル,CFラジカルのいずれの場合も,図7A〜図7Cに示す本実施形態にかかるガス供給制御(図4)では,図6A〜図6Cに示す比較例にかかるガス供給制御(図3)において発生するQ1,Q2のような過渡現象が抑制されていることが分かる。
【0076】
このように,本実施形態にかかるガス供給制御(図4)によれば,交互に供給する処理ガスについては下流側の開閉バルブ240を開いた状態で,マスフローコントローラ230に所定流量とゼロ流量を繰り返し設定するので,流量調整弁235を開閉バルブのように用いて処理ガスのオンオフを繰り返すことができきる。
【0077】
これにより,流量調整弁235よりも下流側に残留ガスが溜まらないようにすることができるので,処理室102内に発生するガス流量の過渡現象を抑制できる。しかも,処理ガスを切り換える際には,一方の処理ガスの供給を遮断(オフ)して他方の処理ガスの供給を開始(オン)するので,処理ガスが混ざり合うことも防止できる。
【0078】
なお,上述した図4に示すガス供給制御では,ウエハWの処理中は下流側開閉バルブ240を開いたままにしておく場合を例に挙げて説明したが,これに限られるものではない。例えばウエハWの処理中は下流側開閉バルブ240のみならず,上流側開閉バルブ220についても開いたままにしておくようにしてもよい。
【0079】
(本実施形態の変形例)
次に,本実施形態の変形例として,このようにマスフローコントローラ230の下流側と上流側の両方の開閉バルブ220,240を開いたまま,処理ガスを交互に切り換えてプラズマエッチングを行うガス供給制御について,図面を参照しながら説明する。図8は本実施形態の変形例にかかるガス供給制御を示すタイミング図である。
【0080】
図8に示すガス供給制御では,ウエハWのプラズマエッチングを行う前に,下部電極110にウエハWを載置して処理室102内を所定の真空圧力に減圧し,交互に供給するCガスとCガスについてのマスフローコントローラ230A,230Bの下流側の開閉バルブ240A,240B,上流側の開閉バルブ220A,220Bの順に開く。
【0081】
そして,下流側開閉バルブ240A,240Bと上流側開閉バルブ220A,220Bを開いたまま,先ずはCガスの供給し,電力供給装置130によって下部電極110に所定の高周波電力を印加してプラズマを生成することによってプラズマエッチングを開始する。具体的には上記と同様に電力供給装置130によって,下部電極110に第1高周波電源132から27MHz以上の周波数の第1高周波(例えば40MHz)を所定のパワーで供給するとともに,第2高周波電源134から13.56MHz以下の周波数の第2高周波(例えば2MHz)を所定のパワーで供給する。次いで,所定のガス切り換え時間経過後にCガスの供給に切り換える。その後は,これらの処理ガスをガス切り換え時間ごとに交互に切り替えて供給する。
【0082】
この場合,Cガスの供給を開始(オン)するときには,マスフローコントローラ230Aに所定流量を設定し,Cガスの供給を遮断(オフ)するときには,マスフローコントローラ230Aにゼロ流量を設定する。このとき,上流側開閉バルブ220Aと下流側開閉バルブ240Aはともに開いたままなので,マスフローコントローラ230Aに所定流量を設定することによってその流量調整弁235が開いてCガスの供給が開始(オン)され,マスフローコントローラ230Aにゼロ流量を設定することによってその流量調整弁235が閉じてCガスの供給が遮断(オフ)される。
【0083】
これと同様に,Cガスの供給を開始(オン)する際には,マスフローコントローラ230Bに所定流量を設定し,Cガスの供給を遮断(オフ)する際にはマスフローコントローラ230Bにゼロ流量を設定する。このとき,上流側開閉バルブ220Bと下流側開閉バルブ240Bはともに開いたままなので,マスフローコントローラ230Bに所定流量を設定することによってその流量調整弁235が開いてCガスの供給が開始(オン)され,マスフローコントローラ230Bにゼロ流量を設定することによってその流量調整弁235が閉じてCガスの供給が遮断(オフ)される。
【0084】
こうして,下流側開閉バルブ240A,240Bと上流側開閉バルブ220A,220Bを開いたまま,CガスとCガスのオンオフを所定回数繰り返し行うことで,CガスとCガスを交互に切り替える。そして,プラズマエッチングを終了すると,上流側開閉バルブ220A,220B,下流側開閉バルブ240A,240Bの順に閉じる。なお,図8に示すガス流量制御において,下流側開閉バルブ240A,240Bと上流側開閉バルブ220A,220Bを開閉する順序は上記に限られるものではない。
【0085】
ここで,図8に示すガス供給制御によってCガスとCガスを交互に複数回切り替えることによってウエハWのエッチングを行ったときの実験結果について図面を参照しながら説明する。図9A〜図9Cは本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)による実験結果である。図9Aは処理室102内のプラズマス発光ペクトルからCOラジカルの発光強度を検出したものであり,図9BはOラジカルの発光強度を検出したものであり,図9CはCFラジカルの発光強度を検出したものである。
【0086】
なお,この実験ではウエハWに形成された酸化膜に,ポリシリコン膜をマスクにして所定のアスペクト比のホールを形成するプラズマエッチングを複数枚のウエハWについて行った。図9A〜図9Cはこれら複数枚のウエハWについての実験結果のグラフを重ねたものである。この実験においても,図3,図4の場合と同様に,上述の第1,第2の処理条件による各ステップを10秒ずつ交互に行った。
【0087】
これらの実験結果によれば,COラジカル,Oラジカル,CFラジカルのいずれの場合も,図9A〜図9Cに示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)では,図6A〜図6Cに示す比較例にかかるガス供給制御(図3)において発生するQ1,Q2のような過渡現象が抑制されていることが分かる。
【0088】
このように,本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)によっても,交互に供給する処理ガスについては下流側の開閉バルブ240A,240Bを開いた状態で,マスフローコントローラ230に所定流量とゼロ流量を繰り返し設定するので,流量調整弁235を開閉バルブのように用いて処理ガスのオンオフを繰り返すことができる。
【0089】
これにより,流量調整弁235よりも下流側に残留ガスが溜まらないようにすることができので,処理室102内に発生するガス流量の過渡現象を抑制できる。しかも,処理ガスを切り換える際には,一方の処理ガスの供給を遮断(オフ)して他方の処理ガスの供給を開始(オン)するので,処理ガスが混ざり合うことも防止できる。
【0090】
さらに,本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)では,上流側開閉バルブ220についても開いたままにするので,後述するマスフローコントローラ230内に発生するガス流量の過渡現象についても抑制することができる。
【0091】
以下,このようなマスフローコントローラ230内でのガス流量の過渡現象について図面を参照しながら詳細に説明する。上述したように図3に示す比較例にかかるガス供給制御では,各処理ガスの供給を遮断(オフ)する際に上流側開閉バルブ220と下流側開閉バルブ240を両方を閉じるため,図2に示すようにマスフローコントローラ230内を含めた上流側開閉バルブ220と下流側開閉バルブ240との間にガスが残留し易くなる。
【0092】
このとき,ガス供給路212の圧力分布は,上流側開閉バルブ220よりも上流側が最も高く,上流側開閉バルブ220と流量調整弁235との間,下流側開閉バルブ240の順に低くなる。
【0093】
このため,各処理ガスの供給を開始(オン)する際,上流側開閉バルブ220を開いたときに,図2に示す上流側開閉バルブ220よりも上流側に残留しているガスが一気にマスフローコントローラ230内(上流側開閉バルブ220と流量調整弁235との間)に流れ込んでから,流量調整弁235が開いて開度が調整されこれによる流量制御が開始されるので,ガスの供給開始直後において流量センサで検出される流量にも過渡現象が発生し易くなる。
【0094】
この点,図8に示す本願実施形態の変形例にかかるガス供給制御では,下流側開閉バルブ240のみならず,上流側開閉バルブ220も開いたまま,各処理ガスの供給をオンオフするので,上流側開閉バルブ220よりも上流側から一気にマスフローコントローラ230内にガスが流れることも防止できる。これにより,マスフローコントローラ230内でのガス流量の過渡現象についても抑制することができる。
【0095】
ここで,図3,図8に示すガス供給制御によりCガスとCガスを交互に複数回切り替えることによってウエハWのプラズマエッチングを行ったときの実験結果について図面を参照しながら説明する。図10A,図10Bは比較例にかかるガス供給制御(図3)による実験結果であり,図11A,図11Bは本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)による実験結果である。
【0096】
図10A,図11Aはマスフローコントローラ230Aにおける流量センサで検出されたCガスのガス流量の経時変化をグラフにした図であり,図10B,図11Bはマスフローコントローラ230Bにおける流量センサで検出されたCガスのガス流量の経時変化をグラフにした図である。
【0097】
これらの実験結果によれば,図11A,図11Bに示す本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)では,図10A,図10Bに示す比較例にかかるガス供給制御(図3)において発生するQ3,Q4のような過渡現象が抑制されていることが分かる。
【0098】
このように,本実施形態の変形例にかかるガス供給制御(図8)によれば,下流側開閉バルブ240のみならず,上流側開閉バルブ220も開いたまま,マスフローコントローラ230に所定流量とゼロ流量を繰り返し設定するので,処理室102内でのガス流量の過渡現象のみならず,マスフローコントローラ230内でのガス流量の過渡現象をも抑制できる。
【0099】
ところで,本実施形態のように処理ガスを切り換えてプラズマエッチングを行う場合には,ガス切り換え時間を短くするほど,アスペクト比がより大きなホールやトレンチを形成することができる。ところが,このようなガス流量の過渡現象は,処理ガスの切り換え時間を短くするほど,発生し易くなる。
【0100】
そこで,上述した図4,図8に示すガス流量制御は,ガス切り換え時間が閾値以下である場合にのみ実行し,ガス切り換え時間が閾値以下でない場合には図3に示すガス流量制御を行うようにしてもよい。この場合のガス切り換え時間が閾値は,1秒〜15秒の範囲で設定することが好ましい。
【0101】
これによれば,ガス流量の過渡現象が発生し易くなるガス切り換え時間が短い場合にだけ,上述した図4,図8に示すガス流量制御を行うようにすることができる。これによって,よりアスペクト比が高く深いホールやトレンチを形成する場合に発生し易いガス流量の過渡現象を的確に抑えることができる。なお,ホールやトレンチのアスペクト比に応じて上述した図4,図8に示すガス流量制御を行うか否かを判断するようにしてもよい。
【0102】
なお,上述した図4に示すガス流量制御において,下流側開閉バルブ240を開閉するタイミングは,上述した場合に限られるものではない。例えば下流側開閉バルブ240を開く場合には,各処理ガスを最初に供給する前に開くようにしてもよい。また,下流側開閉バルブ240を閉じる場合には,各処理ガスを最後に供給した後に閉じるようにしてもよい。
【0103】
また,上述した図8に示すガス流量制御においても,下流側開閉バルブ240と上流側開閉バルブ220を開閉するタイミングは,上述した場合に限られるものではない。例えば各開閉バルブ220,240を開く場合には,各処理ガスを最初に供給する前に開くようにしてもよい。また,各開閉バルブ220,240を閉じる場合には,各処理ガスを最後に供給した後に閉じるようにしてもよい。
【0104】
また,本実施形態では,各マスフローコントローラ230の上流側と下流側の両方に開閉バルブ220,240を設けた場合ついて説明したが,これに限られるものではなく,各マスフローコントローラの上流側には開閉バルブを設けずに,下流側のみに開閉バルブを設けた場合に適用することもできる。
【0105】
また,本実施形態では交互に切り換えて処理室102内に供給する複数の処理ガスとして,CガスとCガスの2種類のエッチングガスを挙げて説明したが,これに限られるものではない。エッチングガス(例えばCガス)とクリーニングガス(例えばOガス)を交互に切り換えるようにしてもよい。これによれば,エッチングとクリーニングを繰り返す場合においても,ガス流量の過渡現象を抑制することができる。
【0106】
さらに,交互に切り換える処理ガスは2種類に限られず,3種類以上の処理ガスを交互に切り換えて供給するようにしてもよい。また,エッチングやクリーニングの処理だけでなく,2種類以上の処理ガスを交互に切り換える成膜処理にも適用可能である。
【0107】
また,本実施形態では流量制御器としてマスフローコントローラを用いた場合を例に挙げたが,これに限られるものではなく,流量調整弁の開度を調整することによって流量制御を行うものであればどのようなタイプの流量制御器でも適用可能である。例えばFCS(Flow Control System(登録商標))を用いるようにしてもよい。
【0108】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0109】
例えば上記実施形態ではプラズマ処理装置として,下部電極のみに異なる2周波の高周波電力を重畳して印加してプラズマを生起させるタイプのプラズマ処理装置を例に挙げて説明したが,これに限られるものではない。例えば下部電極のみに1種類の周波数の高周波電力を印加してプラズマを生起させるタイプや異なる2周波の高周波を上部電極と下部電極に別々に印加するタイプのプラズマ処理装置に適用してもよい。
【0110】
さらに,このような平行平板の容量結合型プラズマ処理装置に限られるものではなく,例えば誘導結合型(ICP:Inductively Coupled Plasma)プラズマ処理装置などにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は,複数の処理ガスを処理室内に供給可能なプラズマ処理装置及びそのガス供給方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0112】
100 プラズマ処理装置
102 処理室
110 下部電極
120 上部電極
122 シールドリング
124 ガス導入口
126 拡散室
128 ガス供給孔
130 電力供給装置
132 第1高周波電源
133 第1整合器
134 第2高周波電源
135 第2整合器
140 排気装置
142 排気口
150 制御部
152 操作部
154 記憶部
200 ガス供給系
210A〜210D ガス供給源
212A〜212D ガス供給路
214 共通ガス供給路
216 開閉バルブ
220A〜220D 上流側開閉バルブ
230A〜230D マスフローコントローラ(MFC)
231 本流路
232 側流路
233 上流側センサ
234 下流側センサ
235 流量調整弁(コントロールバルブ)
236 MFC制御回路
240A〜240D 下流側開閉バルブ
G ゲートバルブ
W ウエハ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能な処理室内に所定のガスを供給しながらプラズマを生成することによって,前記処理室内の基板に所定のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置のガス供給方法であって,
前記プラズマ処理装置は,
複数の処理ガス供給源にそれぞれガス供給路を接続し,これらガス供給路を介して前記処理室に所望の処理ガスを供給するガス供給系と,
前記各ガス供給路にそれぞれ設けられ,設定された流量に応じて流量調整弁の開度を調整することによって前記ガス供給路を流れるガスの流量を制御する流量制御器と,
前記各流量制御器の下流側にそれぞれ設けられた開閉バルブと,を備え,
前記基板のプラズマ処理中に少なくとも2種類以上の処理ガスを交互に切り換えて前記処理室内に供給する際に,前記切り換える処理ガスの各ガス供給路については,前記流量制御器の下流側の前記開閉バルブを開いたまま,前記流量制御器に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することによって,前記各処理ガスの供給を交互にオンオフすることを特徴とするプラズマ処理装置のガス供給方法。
【請求項2】
前記各流量制御器の上流側にもそれぞれ開閉バルブを設け,
前記切り換える処理ガスの各ガス供給路については,前記流量制御器の下流側の前記開閉バルブのみならず上流側の前記開閉バルブも開いたまま,その流量制御器に対する所定流量とゼロ流量の設定制御を繰り返すことによって,前記各処理ガスの供給を交互にオンオフすることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理装置のガス供給方法。
【請求項3】
前記各処理ガスを交互に切り換えて前記処理室内に供給する際に,前記各処理ガスの切り換え時間が閾値以下か否かを判断し,
前記切り換え時間が閾値以下であると判断した場合,前記切り換える処理ガスの供給のオンオフは,前記開閉バルブを開いたまま,前記流量制御器に対する所定流量又はゼロ流量の設定によって行い,
前記切り換え時間が閾値以下でないと判断した場合,前記切り換える処理ガスの供給のオンオフは,前記開閉バルブの開閉によって行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置のガス供給方法。
【請求項4】
前記切り換え時間の閾値は,1秒〜15秒の範囲で設定することを特徴とする請求項3に記載のプラズマ処理装置のガス供給方法。
【請求項5】
前記切り換える処理ガスは,少なくとも2種類以上のエッチングガスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置のガス供給方法。
【請求項6】
前記切り換える処理ガスは,少なくともエッチングガスとクリーニングガスを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラズマ処理装置のガス供給方法。
【請求項7】
減圧可能な処理室内に所定のガスを供給しながらプラズマを生成することによって,前記処理室内の基板に所定のプラズマ処理を施すプラズマ処理装置であって,
複数の処理ガス供給源にそれぞれガス供給路を接続し,これらガス供給路を介して前記処理室に所望の処理ガスを供給するガス供給系と,
前記各ガス供給路にそれぞれ設けられ,設定された流量に応じて流量調整弁の開度を調整することによって前記ガス供給路を流れるガスの流量を制御する流量制御器と,
前記各流量制御器の下流側にそれぞれ設けられた開閉バルブと,
前記各流量制御器に流量を設定する制御部と,を備え,
前記制御部は,前記基板のプラズマ処理中に少なくとも2種類以上の処理ガスを交互に切り換えて前記処理室内に供給する際に,前記切り換える処理ガスの各ガス供給路については,前記流量制御器の下流側の前記開閉バルブを開いたまま,前記流量制御器に所定流量とゼロ流量を繰り返して設定することによって,前記各処理ガスの供給を交互にオンオフすることを特徴とするプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11A】
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【図11B】
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【公開番号】特開2012−248788(P2012−248788A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121475(P2011−121475)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】