説明

プラズマ発生装置およびプラズマ処理装置

【課題】スパッタ効率の高いことよりも、むしろ効率よくプラズマが生成し、かつエネルギー密度の高いプラズマ発生技術が求められている。
しかも安定したプラズマを生成させる際にはトリガーを必要とするため、装置内にトリガーを設置する空間を要すること、及びより装置が複雑になることによって装置が大型化していた。
【解決手段】板状のターゲット側電極の一方の面に、
1つの中心磁石と、該中心磁石の周囲に配置してなり、該中心磁石と極性が異なる1つ以上の周辺磁石との組み合わせからなるターゲット側磁石を設け、
該ターゲット側電極の他方の面にターゲット基板を近接して設けると共に、
該ターゲット基板に対向して試料を設置し、
該試料のターゲット基板に面する側の反対の側にアシスト磁石を設置し、該アシスト磁石の該試料側の極性と、該中心磁石のターゲット側電極側の極性が同じであるプラズマ発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体素子、金属、無機材料、高分子材料へのコーティングやエッチングを行うためのプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンプラズマ発生装置は、マグネトロン放電を用いてプラズマを発生する方式である。マグネトロン放電とは、電場と磁場が直交しているところで発生する放電である。電場方向に加速された電子は、磁場によって、サイクロトロン回転を行い、磁場を容易に横切ることができずトラップされる。従って、磁場のある部分の残留ガスを効率よく電離することとなりプラズマが発生する。
半導体素子の作成やコーティングなどに広く用いられているマグネトロンプラズマ発生装置として、例えば特許文献1〜8に記載された装置が採用されている。
【0003】
これらの装置において設置されたマグネトロン用電極は、図4に示すようなマグネトロン用電極の中心側磁極と、その中心側磁極の周囲に、中心側磁極とは反対の極をもつマグネトロン用磁石の周辺側磁石を同心円状になるように配置することによって、ターゲット基板の表面近傍に、その表面と平行な磁場がリング状に形成される。その磁場は図3において、点線矢印にて示される磁力線のように、中心側磁極をN極とした場合に中心側磁極を中心に放射状に拡がっている。
【0004】
このような装置において、ターゲット基板背後のターゲット側電極と接地電極間に電源によって電圧(直流電圧、パルス電圧、RF電圧、マイクロ波電圧)をかける。ターゲット側電極と試料側に設けられた接地電極の間に生じる電場はターゲット基板近傍では表面に対して垂直になる。この部分で発生した電子は、磁力線にトラップされるようにサイクロトロン運動をし、効率的に周囲のガスを電離しプラズマが発生することが可能になる。この現象をマグネトロン放電と呼んでいる。マグネトロン放電によるプラズマはターゲット基板の表面近傍かつ磁力線がターゲット基板表面と平行になる部分、すなわち図3にてプラズマ発生領域にリング状に発生する。
【0005】
このプラズマ中のイオンがターゲット基板に衝突し、基板中の原子をたたき出す効果をスパッタリング効果と呼んでいる。スパッタリング効果で放出された原子を、試料に堆積させることによって薄膜をコーティングする方法がスパッタコーティング法である。マグネトロン放電によるスパッタコーティング法は、プラズマがターゲット近傍に効率よく発生するため、小電力で大きなスパッタリング効果がえられ、また試料に電子が流入することが少ないため、試料温度の上昇が抑えられ、試料に与える損傷も少ないことから、半導体素子製造などに広く用いられている。
【0006】
しかし、このようなプラズマ発生装置において、ターゲット側電極2に高電圧のパルス電圧をかけても、このような高電圧をかけた割りにはプラズマがそれほど形成されず、流れる電流はごく僅かに留まるので、プラズマの発生効率及び発生するプラズマのエネルギー密度も十分に高いものではない。
このため例えば成膜装置に使用したときには未だ十分に早い成膜速度を得ることができず、かといって、このような現象を解消するために更に高い電圧をかけるとアーク放電を発生することが懸念される。
【0007】
一方、プラズマ発生装置としては、特許文献9及び10に記載の、図5に示すような装置によるペニング放電を利用したものもある。ペニング放電は一対の磁石が互いに異なる磁極を向き合うように配置し、その間に生じた磁場に平行な電場をかけることによって、放電を引き起こしプラズマを発生させるものである。このペニング放電では一対の磁石の向き合う磁極が反対の極であることが肝要で、仮に本発明のように、同じ極を向かい合わせるだけでは効率的にプラズマを発生することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−94164号公報
【特許文献2】特開2011−17088号公報
【特許文献3】WO2010/140526号公報
【特許文献4】特開2010−229485号公報
【特許文献5】特開2009−280863号公報
【特許文献6】WO2009/078094号公報
【特許文献7】特開2007−224390号公報
【特許文献8】特開2007−51218号公報
【特許文献9】特開2011−60430号公報
【特許文献10】特表2005−504880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
マグネトロン放電によるスパッタ成膜装置は簡便で効率が高く、試料への損傷が少ない優れた方法である。しかしながら、より効率的な製造システムを構築するために、成膜速度をより高くすることが望まれている。そのため、スパッタ効率の高いことよりも、むしろ効率よくプラズマが生成し、かつエネルギー密度の高いプラズマ発生技術が求められている。
しかも安定したプラズマを生成させる際にはトリガーを必要とするため、装置内にトリガーを設置する空間を要すること、及びより装置が複雑になることによって装置が大型化していた。
また上記のペニング放電においては、試料近傍においてプラズマが発生することにより、該試料表面を損傷する恐れが高かった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、プラズマ発生装置において、マグネトロン放電をおこすためのマグネトロン用磁石以外に、試料側にも永久磁石もしくは電磁石を設置し、さらに、マグネトロン放電側の磁石による同心円状の磁極配置の中心側の磁極と同じ極同士を正対するように配置することを基本とし、具体的には、以下の手段を採用する。
1.板状のターゲット側電極の一方の面に、
1つの中心磁石と、該中心磁石の周囲に配置してなり、該中心磁石と極性が異なる1つ以上の周辺磁石との組み合わせからなるターゲット側磁石を設け、
該ターゲット側電極の他方の面にターゲット基板を近接して設けると共に、
該ターゲット基板に対向して試料を設置し、
該試料のターゲット基板に面する側の反対の側にアシスト磁石を設置し、該アシスト磁石の該試料側の極性と、該中心磁石のターゲット側電極側の極性が同じであるプラズマ発生装置。
2.該アシスト磁石の磁場の大きさを制御可能とすることにより、発生するプラズマのエネルギー密度を制御する機構を有する1記載のプラズマ発生装置。
3.1記載のプラズマ発生装置を使用してなる成膜装置。
4.1記載のプラズマ発生装置を使用してなるイオン注入装置。
5.1記載のプラズマ発生装置を使用してなるエッチング装置。
【発明の効果】
【0011】
従来も磁場アシストによって、マグネトロン放電の局所化や効率化などの発明がなされているが、本発明では、前述した磁石配置が、実施例に示すように際立ってマグネトロン放電のエネルギー密度を向上させることを見いだしたものである。
これにより、簡便で効率が高いとされ、発生するプラズマにより処理する対象物への損傷が少ないというマグネトロン放電によるプラズマ発生装置の特性をさらに向上させることができる。
このような特性を活用して、かつ、エネルギー密度の高いプラズマを発生させることによって、スパッタ量を著しく増加させることによってスパッタ効率を向上させることができ、このプラズマ発生装置をプラズマ成膜装置に使用した場合には、成膜速度をより高くすることができる。
さらに、本発明では、アシスト磁石の磁極は正対するマグネトロン用磁石の中心磁石と同極であり、ペニング放電を誘発しない。従って、本発明によるプラズマのエネルギー増加は、従来から知られ、本発明に類似した磁石配置をもつペニング放電とは異なるものである。
また、本発明はターゲット側電極近傍のマグネトロン放電を増強するものであって、試料側電極近傍では、磁場があるにもかかわらず、放電を増強する効果はほとんどみられない。従って、ターゲット基板をマグネトロン放電によるプラズマがスパッタを起こす効果は増加するが、試料近傍にプラズマが発生して試料を損傷させる恐れは少ない。
しかもプラズマ発生装置にて必要とされていたトリガーを必要としないので、装置の複雑化や大型化を防止できるので、プラズマ発生装置全体をより小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のプラズマ発生装置の概要図
【図2】実施例及び比較例で用いた装置の模式図
【図3】生成する磁界の概念図これによるプラズマ生成領域
【図4】マグネトロン放電によるプラズマ発生を利用した従来のスパッタコーティング装置の模式図
【図5】ペニング放電を発生させる装置の概念図
【図6】図2で示した装置を用いて、マグネトロン側電極に負のパルス電圧を掛けたときのプラズマによる電圧と電流の推移。(a)及び(b)は比較例、(c)及び(d)は実施例
【図7】実施例により発生したプラズマのパワー
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について図面を基に説明する。
図1は、本発明のプラズマ発生装置の概要図である。
真空容器1はプラズマ発生装置内の減圧環境を維持するための容器であり、プラズマ発生装置に使用される公知の真空容器を使用でき、プラズマ発生装置を運転するに必要な端子やポート等を備えている。この真空容器1の形状は任意であるが、例えば、円筒形の壁部と上部に天井となる壁、下部に底となる壁を設けてなる形状でも良い。真空容器1は金属製であり通常は接地される。
【0014】
ターゲット側電極2は、プラズマ発生処理装置にて接地電極3と共に電界を形成させるに必要な電極であり、真空容器1とは絶縁されている。ターゲット側電極2は真空容器1外に設けた高周波電源である電源4によりパルスの負電圧が印加される。
ターゲット側電極2は、銅、アルミニウム、ステンレス等の表面処理に応じた任意の非磁性金属から形成できる。ターゲット側電極2は板状であるのが好ましく、網状を呈していてもよいが、接地電極4との間で電界を形成するに必要な形状であればよい。ターゲット側電極2の大きさは処理しようとする試料5の大きさ及びターゲット基板6にもよるが、試料5よりも大きくすることが望ましい。
【0015】
マグネトロン用磁石は公知のマグネトロンに使用できる磁石であり、ターゲット側磁石7として使用される。その形状としては中心磁石8と周辺磁石9からなる構造を示すことが基本である。そして中心磁石8と極性が異なり、かつ中心磁石8の周囲に配置された1つ以上の周辺磁石9からなるターゲット側磁石7は、中心磁石8と周辺磁石9とが一体として形成された磁石でも良く、または、これらの磁石が別体であって一つの磁石を構成していなくても良い。マグネトロン用磁石は、ターゲット基板6の試料に面した側において100〜10000ガウスの範囲、好ましくは300〜6000ガウスとなる程度の磁力を有することが望ましい。
また、中心磁石8及び周辺磁石9のターゲット側電極に向いた面は、ターゲット側電極のマグネトロン用磁石側の面と等距離にあり、ターゲット表面上に形成される磁力線が中心磁石8を中心に全周方向に均一に形成されることが必要である。
【0016】
中心磁石8としては柱状であるものを使用できるが、均一な磁場を形成させる観点からみて円柱状であることが好ましい。また、周辺磁石9としては中心磁石8を中心に配置するが、より均一な磁場を形成させる上で、中でも中心部に中心磁石を配置可能な円筒形とであるものが好ましい。さらに、周辺磁石を円筒形とするのではなく、複数の柱状の磁石が中心磁石を取り囲むように互いに等距離に配置することで周辺磁石としても良く、かつそれぞれの柱状の磁石が中心磁石から等距離となるようにして配置してもよい。
いずれにしても配置された周辺磁石9の中心部に中心磁石8を配置することが必要である。
例えばより広範囲にプラズマを発生させる場合等には中心磁石を複数使用しても良い。この場合には、1つの中心磁石の周囲に周辺磁石を配置し、別の中心磁石の周囲にも同様に周辺磁石を配置すること、つまり中心磁石同士を直接隣接させることを避け、中心磁石の周囲に周辺磁石を配置することによって中心磁石間に必ず周辺磁石を配置しなければならない。
【0017】
ここで、中心磁石8は柱状で、かつ周辺磁石9が円筒状である場合には、柱状磁石を内側の空間に配置できる大きさで良く、中心磁石の外径よりも該円筒形の周辺磁石の内径が大きいことが必要である。ここで円筒形の周辺磁石9の外径と内径の差、あるいは周辺磁石9が円筒形ではない場合においても、試料の大きさ、磁界の強さ及び大きさ等を考慮して、内径を任意に決定することができる。
さらに、周辺磁石9が円筒形の場合にはその円筒の外径は任意に決定することができる。
周辺磁石を円筒形とするのではなく、複数の柱状の磁石が中心磁石を取り囲むように互いに等距離に配置してなる場合にも同様に、円形に配列された周辺磁石の内側の円の径と外側の円の径は、それぞれ上記の円筒形の磁石の内径及び外径と同様の範囲となる。
試料が小さい場合には、その試料の大きさを反映して他の装置の大きさを調整することができる。例えば、極性が互いに異なる中心磁石8と周辺磁石9の間の距離、及び中心磁石8及び周辺磁石9そのものを小さくすると、隣接する最も近く異なる磁極が互いに異なる磁石を結ぶポイントカスプ磁界の大きさも小さくなり、それと共にさらに小さな対象物に対して均一なプラズマ処理を行うことが可能になる。
接地電極3は試料5とターゲット基板6の間で、試料5寄りに設置される。この接地電極3により発生したプラズマが試料5表面に移動すると共に、発生するプラズマの空間的な分布を規制し、一定の空間内にてプラズマを発生させることが可能となる。このため、試料5上に薄膜を形成させる等の処理を行い得るように、試料5の被処理面が直接ターゲット基板6に対向できる開口部を形成するように設けられる。
【0018】
発生したプラズマを用いて試料5表面を加工する際には、試料5のターゲット側とは反対の位置にアシスト電極10を設置する。アシスト磁石10は試料5のターゲット基板7に向いた面とは反対の面に位置するように設置される。このとき、図1ではマグネトロン用磁石7の中心磁石8のターゲット基板6側の磁極をN極としているため、アシスト用磁石10のターゲット基板5方向の磁極を同じ極のN極としたときに本発明の効果が得られる(もしマグネトロン用磁石の中心の磁極がS極であるなら、アシスト磁石のターゲット方向の磁極はS極とする)。
試料5は、プラズマ処理されることができる試料であれば特に制限はなく、例えば半導体基板、硝子、樹脂等公知の試料を選択することができる。
【0019】
このような図1に記載の装置は図2の模式図に示すプラズマ処理装置の全体構成の一部となる。図1に示すプラズマ処理装置のターゲット側電極2に対して、電源4として10〜300A、好ましくは50〜300A、−100V〜−3000V、好ましくは−200V〜−1500V、更に好ましくは−500〜−1500Vのパルス電源を採用して、例えば5Ωの保護抵抗を介して接続し、接地電極と電源の他方の極は接地される。
さらに真空容器11は内部を真空にするために、図示しない真空ポンプに真空排気用配管12を通じて接続されて、減圧下にてプラズマ処理を行えるよう真空容器内の気圧の制御を行う。加えてAr、He、Kr、Xe等の任意のガスが充填されたガスボンベ13を流量調節器14及びガス導入配管を通じて真空容器11に接続することにより、プラズマ処理時に任意のガスを真空容器11内に導入することができる。その導入後の容器内の気圧は0.01Pa〜60Pa、好ましくは0.1Pa〜20Paとする。
具体的には、図2に示すように真空容器11内にマグネトロン用磁石15、ターゲット側電極16、ターゲット基板17、接地電極18、試料19、そしてアシスト磁石20を配置し、ターゲット側電極16を真空容器11外に配置した電源4の負極に接続した状態において、該マグネトロン用電極15によって形成される磁界はターゲット基板17表面上のそれほど該表面から離れない範囲において形成され、これによりターゲット基板17から放出されたプラズマを磁界の内部に閉じこめることができる。
【0020】
このように、磁界により影響を受けながら生成するプラズマの様子について、図3を示して説明する。
図3は図2に記載の装置において試料19側からターゲット基板17側をみた透過図であり、磁力線とプラズマ生成域を図示するものである。
磁力線は矢印で示され、N極である中心磁石21からS極である円筒状の周辺磁石22に向けて形成されており、その磁力線が形成されている範囲において、プラズマが発生するプラズマ発生領域23が存在する。本発明においては、まずこのように形成されてなるプラズマが、発生する磁界内に存在することが必要である。この場合、該マグネトロン用磁石15はターゲット側電極16に対して接触させて配置されてもよく、あるいはプラズマ発生域に十分に磁力が及ぶ範囲においてターゲット電極16から離間して配置されてもよい。このときには、アシスト磁石20のマグネトロン磁石15の中心磁石21への対向側の磁極を中心磁石21と同じN極とする。
【0021】
本発明のプラズマ処理装置を試料表面にスパッタリングによる成膜を行う成膜装置として使用する場合には、ターゲット基板としては、成膜される材料を基本に形成される。このため、試料表面に銅、クロム又はチタンからなる薄膜を形成させる際には、ターゲット基板も銅、クロム又はチタンから形成される。
また、本発明のプラズマ処理装置をイオン注入装置として使用する場合、ターゲット基板17はイオン源として使用される。
【0022】
このような本発明の装置を操作する方法について、図2を基に説明する。
まず真空容器11内を真空ポンプにより真空排気用配管12を通じて真空にすると共に、ガスボンベ13に充填されたAr等の不活性ガスのバルブを開けて、ガス導入配管を通じて真空容器11に供給して、真空容器11内を減圧されたArガス等の雰囲気としておく。一方ターゲット基板17および試料19に関しても、目的とする処理に応じた試料19及びターゲット基板17を選択し、所定の場所に設置する。
一定の圧力の必要とするガスにより置換したら、求める被膜によって任意の印加条件、つまりパルスの電圧、パルス幅、パルスによる印加回数等の条件を変えて行うことができる。
これによりターゲット基板17近辺にポイントカスプ磁界が形成されて、その磁界内に生成されたArイオンやArプラズマ等が、ターゲット基板17の銅やアルミニウム等をスパッタして、得られた銅やアルミニウムのプラズマの薄層が試料19上に形成される。
【実施例】
【0023】
図2により本発明の実施形態を説明する。ガラス製で内径50mm長さ140mmの円筒状の真空容器にターゲット基板(直径33mm 厚さ3mm)を取り付けるターゲット側電極16が取り付けられている。ターゲット側電極16の試料側ではない側には、マグネトロン放電を引き起こすためのマグネトロン磁石15(材質:サマリウムコバルト磁石とパーマロイ合金で構成)が埋め込まれている。この磁石の磁極を正面からみると図3に示すように同心円状に中心磁石の中心磁極と周辺磁石のリング磁極とにわかれており、中心磁極表面の磁場は0.38テスラであった。ターゲットを取り付けた状態での中心磁極付近(磁極表面からおよそターゲット厚さ分の約3mm離れた場所)での磁場の大きさはおよそ0.15 テスラであった。またリング磁極の外形は27mmで、マグネトロン放電のプラズマはこのリング磁極より内側に形成される。
【0024】
ターゲット基板17の反対側には、試料19を設けその近傍には接地電極18、試料台が取り付けられている。試料台の中には、アシスト磁石20(直径15mm 長さ20mm 磁極表面磁場 5 テスラ)が、マグネトロン磁石15の中心の磁極と同極(ここではN極)で正対するように配置されている。ターゲット基板17表面からアシスト磁石20までの距離は、約20mmから50mmの間で可変させて実験を行った。ターゲット側電極16、接地電極18、試料台の材質は磁気遮へい効果がほとんどないSUS304を用いている。ガス導入配管を介してボンベ13から、Arガスを導入し、同時に真空ポンプで排気する。流量調節器14で導入するガス量を調整し、真空容器の中の真空度を1 〜10 Pa 程度に維持する。本実施例では、電源4を用いて、電極に負のパルス電圧(500V から 1500 V; パルス時間 200 μs) を1秒間に50回掛けることによって放電を誘発させた。
【0025】
アシスト磁石をターゲットまでの距離20mmに配置して用いた場合は、図6の(c)及び(d)に示すように、トリガーを使用せずに-1000 Vのパルス電圧で非常に高密度なプラズマが形成され、約100Aの電流が流れている。このように大電流が流れたので、保護用5Ωの抵抗による電圧降下でプラズマが形成しているときの電圧は500Vまで下がるが、アーク放電が発生することによって0になることはなく、安定したマグネトロンによるグロー放電が維持されていることがわかる。このように本発明による磁石の配置による磁場アシストによって、プラズマの発生効率が著しく大きくなることがわかる。
【0026】
この時のプラズマのパワーは電圧(図6の(C))×電流(図6の(d))で求めることができる。その結果を図7に示す。ターゲット電極にパルス電圧をかけると、約10 μs 後にプラズマが発生し、その直後にの10μs経過したときにはプラズマのパワーは40kWを超えている。プラズマが発生している部分のターゲット上の面積はスパッタリングの痕跡からおよそ4cm2であったので、この装置でのプラズマのターゲット基板面上での密度は10kW/cm2以上であることが示された。これは、極めて高い数値である。アシスト磁石の位置をターゲット基板から少しずつ遠ざけ、ターゲット基板上に及ぼすアシスト磁石からの磁場を減少させると、発生するプラズマ密度は徐々に下がっていった。すなわち本発明において、アシスト磁石からの磁場強度を制御することによってプラズマ密度が制御することが可能であることが示された。
【0027】
アシスト磁場からの磁場を用いて生成したプラズマを利用することにより、銅の薄膜を1時間に10μmの速度で成膜することができた。磁場アシストの付随する効果として、放電発生のトリガーが不要になった事があげられる。従来このような放電現象を引き起こすためには、プラズマを発生させるためのトリガーが必要であることが多かった。特に本装置のような直径50mm未満の装置にその傾向が強く、本装置でもアシスト磁石が取り付けられていない状態では、最終的に安定的なプラズマが得られるArの真空度が電圧を掛けただけではプラズマは発生せず、一度導入するArガスの流量を増大させ、数10Pa以上の圧力にして、放電現象を起こさせ、その後、真空度を1〜10 Pa 程度にして、安定したマグネトロン放電によるプラズマ発生を生じる領域に持っていく必要があった。しかしながら、アシスト磁石を取り付けた後は、電圧を掛けた直後にプラズマが発生し、安定した状態のプラズマを得ることができた。
【0028】
アシスト磁石が埋め込まれていない場合の結果、つまり上記特許文献1〜8に記載のプラズマ処理装置と同様の装置を用いた場合の結果に相当する結果を図6の(a), 図6の(b)に示す。パルス電圧が、−1500Vとアシスト磁石を使用した場合の約−400Vよりもはるかに高い電圧がかかっているにもかかわらず、あまりプラズマは形成されず、流れる電流はほんの5mA程度に過ぎない。
しかもパルス中の電値および電流値20μs付近からパルスの電圧及び電流が顕著に低下して安定的なパルスではなく、同時に電流の急激に低下することが明確である。
さらにそれ以上電圧をかけると、このシステムではアーク放電がさまざまなところで生じるようになり、マグネトロンによるプラズマを安定して形成することは不可能になった。
【0029】
このような結果によれば、本発明によると、特にアシスト磁石を使用しない場合よりも安定したパルス電流をターゲット電極に印加でき、そのために効率良くプラズマを生成でき、かつ生成したプラズマはより安定で高密度であることがわかる。
また、安定したプラズマ密度は、アシスト磁石の磁場強度を調整することにより制御できるので、表面処理操作に使用した際の処理量や処理速度も調整できるという効果を奏する。
また、安定した被膜を早い成膜速度にて得られる。
【符号の説明】
【0030】
1・・・真空容器
2・・・ターゲット側電極
3・・・接地電極
4・・・電源
5・・・試料
6・・・ターゲット基板
7・・・ターゲット側磁石
8・・・中心磁石
9・・・周辺磁石
10・・アシスト電極
11・・真空容器
12・・真空排気用配管
13・・ガスボンベ
14・・流量調節器
15・・マグネトロン磁石
16・・ターゲット側電極
17・・ターゲット基板
18・・接地電極
19・・試料
20・・アシスト電極
21・・中心磁石
22・・周辺磁石
23・・プラズマ発生領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のターゲット側電極の一方の面に、
1つの中心磁石と、該中心磁石の周囲に配置してなり該中心磁石と極性が異なる1つ以上の周辺磁石との組み合わせからなるターゲット側磁石を設け、
該ターゲット側電極の他方の面にターゲット基板を近接して設けると共に、
該ターゲット基板に対向して試料を設置し、
該試料のターゲット基板に面する側の反対の側にアシスト磁石を設置し、該アシスト磁石の該試料側の極性と、該中心磁石のターゲット側電極側の極性が同じであるプラズマ発生装置。
【請求項2】
該アシスト磁石の磁場の大きさを制御可能とすることにより、発生するプラズマのエネルギー密度を制御する機構を有する請求項1記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
請求項1記載のプラズマ発生装置を使用してなる成膜装置。
【請求項4】
請求項1記載のプラズマ発生装置を使用してなるイオン注入装置。
【請求項5】
請求項1記載のプラズマ発生装置を使用してなるエッチング装置。

【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7104(P2013−7104A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141206(P2011−141206)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】