説明

プランジャ段を有する流体制御用電磁弁

【課題】大きなリフト範囲にわたりより良好な調節可能性を有する流体制御用電磁弁を提供する
【解決手段】本発明は、電機子(2)と、磁極心(41)であって、電機子(2)と磁極心(41)との間に動作隙間(51)が設けられている磁極心(41)と、電機子(2)と結合され、且つ、電機子(2)と共に可動な弁部材(3)と、弁座(6)が形成され、通路開口(5)を有する弁体(4)であって、弁部材(3)が弁座(6)において通路開口(5)を開閉する弁体(4)と、弁部材(3)を閉鎖状態に復元させるために弁部材(3)に復元力を与える復元要素(7)と、磁極心(41)と電機子(2)との間に形成されたプランジャ段(12)とを備え、電機子は、弁部材および復元要素を受け入れるための中央通路内孔を有する、流体制御用電磁弁(1)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無通電時に閉鎖される、プランジャ段を有する流体制御用電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
無通電時に閉鎖される流体制御用電磁弁は、従来技術から、種々の形態において、特に例えば、自動車内のABS装置、TCS装置、ESP装置のための出口弁として既知である。これらの電磁弁は、電機子と結合された弁部材並びに磁極心を有している。磁極心と電機子との間に復元要素が設けられている。弁部材は、弁座における通路開口を開放したり、ないしは、通路開口を再び閉鎖したりする。このような電磁弁が、例えば、ドイツ特許公開第102007031981号から既知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ特許公開第102007031981号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1の特徴を有する、本発明による流体制御用電磁弁は、従来技術に比較して、電磁弁が大きなリフト範囲にわたりより良好に調節可能なように電磁力線パターンが形成されているという利点を有している。これは、本発明により、流体制御用電磁弁が、電機子と、磁極心であって、電機子と磁極心との間に動作隙間が設けられている磁極心と、電機子と結合され、且つ、電機子と共に可動な弁部材と、を備えることによって達成される。電磁弁は、さらに、通路開口に弁座が形成され、該通路開口を有する弁体であって、弁部材が弁座において通路開口を開閉する弁体と、弁部材を閉鎖状態に復元させるために弁部材に復元力を与える復元要素と、を備え、電機子は、弁部材および復元要素を受け入れるための中央通路内孔を有する。さらに、電磁弁は、磁極心と電機子との間に形成されたプランジャ段を備える。プランジャ段により、電磁弁が閉鎖されているときにおける十分に高い電磁力が得られるほかに、特に、電磁弁を調節可能な程度が明らかに改善された、全弁リフトにわたりほぼ線形の電磁力線パターンが達成される。
【0005】
従属請求項は、本発明の好ましい発展態様を示す。
【0006】
本発明の好ましい一形態によれば、プランジャ段は、プランジャ段凹部およびプランジャ段要素を備える。本発明の有利な他の一形態において、電機子、弁部材、復元要素および圧着部品が、事前組立可能な電機子アセンブリを形成し、この場合、プランジャ段要素は、圧着部品に配置され、プランジャ段凹部は、電機子における正面側凹部によって形成されている。これにより、コストの安い組立、および、より短いサイクル時間内において公差を補償するための正確な調節を可能にする、プランジャ段が組み込まれたコンパクトな電機子アセンブリが提供される。簡単な形状および大きな公差設定に基づき、プランジャ段要素はコスト的に有利な、ばら積み可能な量産部品として製造可能である。
【0007】
プランジャ段要素は、圧入により圧着部品と結合されていることが好ましい。これにより、簡単に、時間ならびにコストが最小となる装置費用および工具費用で、確実な固定が提供される。さらに、プランジャ段要素の外径と、電機子におけるプランジャ段凹部の内径との間の同軸度公差は、明らかに小さい集積公差に基づくものであり、本質的に圧着部品の案内のみを可能にすればよい。したがって、電機子が磁極心に対して傾いたり、ないしは、ラジアル・オフセットを有していても、これらはプランジャ段要素の心出しに対していかなる影響も与えない。磁極心、圧着部品および電機子の間の分路によって磁気回路に影響を与えないために、圧着部品は、さらに、非磁性材料から製造されていることが好ましい。
【0008】
本発明の好ましい一形態によれば、電磁弁は、さらに、磁極心と電機子との間に配置されているばね要素を備える。弁を閉鎖させるばね要素の漸増的ばね力は、復元要素と協働して、電磁弁を動作させたときに生じた電磁力の残りの漸増性を簡単に相殺できる。これにより、電磁弁を調節可能な程度が著しく改善される。ばね要素は、皿ばね、または、ディスクばねとして形成されていることが好ましい。
【0009】
本発明の有利な他の一形態において、ばね要素は、事前組立可能な電機子アセンブリの部分である。これにより、復元要素と協働したばね要素の共同調節、および、より少ない装置費用ならびに工具費用による、電磁弁の時間ならびにコストが最小の最終組立が可能となる。
【0010】
プランジャ段は、ダブル・プランジャ段または円錐プランジャ段を含むことが好ましい。このプランジャ段形状は、個々のプランジャ段部品の狭い公差設定なしに、特にコンパクトな構造容積内に所望のプランジャ段機能を可能にする。
【0011】
本発明の好ましい一形態によれば、磁極心の接触面が、プランジャ段要素の方向に球面状に形成されている。この形状により、場合により、ハウジング内における磁極心の傾斜位置を補償し、且つ、この傾斜位置に基づく電機子アセンブリの傾きを阻止可能である。
【0012】
他の有利な一形態において、電磁弁が開放されているときに流体を転向させるための衝突円板であって、弁部材の部分領域が衝突円板内の中央開口を貫通して案内されている衝突円板を備える。衝突円板は、流体の流入方向に対して180°反対方向に流体流れの転向を行わせ、且つ、電機子に対する衝突保護として働く。
【0013】
プランジャ段凹部は、先細に、特に円錐形に形成されていることが好ましい。プランジャ段要素は、電機子の方向に向けられた凹面を有することがさらに好ましい。この形状により、電磁弁が開放されているときにおける、ばねディスクの変形のための十分な自由空間が提供される。さらに、これにより、動作隙間の容積は僅かに拡大されるにすぎず、したがって、電磁弁の磁気回路のトラブルは明らかに低減される。
【0014】
以下に、本発明の一実施例が、添付図面を参照して詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好ましい一実施例による、流体制御用電磁弁の概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図1を参照して、本発明の好ましい一実施例により、流体制御用電磁弁が詳細に説明される。
【0017】
図1は、本発明の一実施例による流体制御用電磁弁1の概略断面図を示す。電磁弁1は、弁ブッシュ44に固定されたハウジング40を備え、ハウジング40の内部に、電機子2、弁部材3、および、ハウジング40と結合された弁体4が、中心軸線Xに同軸に配置されている。電機子アセンブリ60は、電機子2、弁部材3、復元要素7および圧着部品50を備え、圧着部品50は、調節装置12に当接し、電機子2と磁極心41との間には動作隙間51が形成される。磁極心41は、溶接継目43によりハウジング40に固定されている。電磁弁1を動作させたとき、弁部材3は、中心軸線Xの方向に磁極心41に向かって移動され、電磁弁1を停止させたとき、復元要素7により再び出発位置に戻される。
【0018】
図1からさらに分かるように、弁体4の外側にフィルタ45が配置されている。弁体4内において中心軸線Xに垂直に形成された流入通路46内を、フィルタ45を通過して導かれた流体が、矢印Pの方向に、中心軸線Xに同軸に形成された通路内孔49内に流入する。弁体4内において、通路内孔49に平行に、周囲方向に同軸に配置された複数の流出通路が形成され、図1には流出通路のうちの1つのみが示され、且つ、符号47で表わされている。弁体4内には、さらに、弁体4内の流出通路47と、ハウジング40内の電機子2との間の圧力均衡のためにバイパス通路52が形成されている。球48は、弁部材3とは反対側の、通路内孔49の端部を閉鎖する。通路内孔49の弁部材3に向けられた端部は、弁体4の通路開口5を形成し、且つ、弁座6を有している。弁部材3の部分領域10の端部は、弁座6に当接し、且つ、電磁弁1の無通電作動状態において通路開口5を閉鎖し、ないしは、電磁弁1を動作させたときには、弁座6から持ち上がり、且つ、弁座6を再び開放する。弁部材3の部分領域10は、衝突装置8の開口9内を可動に貫通して案内され、この場合、衝突装置8は、弁体4内に固定されている。衝突装置8と部分領域10との間には、弁部材3が干渉されることなく動けるように、リング状隙間23が設けられている。衝突装置8は、通路開口5内に流入した流体を、流出通路47の方向に180°転向させるように働く。本発明による電磁弁1は、さらに、磁極心41と電機子2との間に形成されたプランジャ段12を備え、プランジャ段12は、プランジャ段凹部14およびプランジャ段要素13を有している。図1からさらに分かるように、プランジャ段凹部14は、ここでは電機子2における正面側凹部によって形成され、正面側凹部は、外側の円筒形リング領域18およびそれに続く内部領域19を有し、内部領域19は、中心軸線Xの方向に先細に、ないしは、特に円錐形に形成されている。
【0019】
プランジャ段要素13は、磁極心41に向けられた、ほぼ平らな正面側20を有し、この正面側20は、圧着部品50の正面側21と同一面を形成している。プランジャ段要素13の電機子2に向けられた側22は、凹面を有している。プランジャ段要素13は、圧入により圧着部品50に固定されている。プランジャ段要素13の外径と、プランジャ段凹部14のリング領域18の内径との間に大きな同軸度公差が設けられ、これにより、プランジャ段要素13のプランジャ段凹部14内における心出しを、場合により発生する傾きに対しても、ないしは、電機子2の磁極心41に対するラジアル・オフセット対しても補償可能である。
【0020】
圧着部品50は、電機子2内に軸方向に可動に配置され、この場合、圧着部品50は、中央通路内孔16内の段差17により電機子2に拘束されているので、電機子2、弁部材3、復元要素7および圧着部品50を備えた、事前に組み立てられた電機子アセンブリ60が可能となる。電機子アセンブリ60は、さらに、ばね要素11を備え、ばね要素11は、磁極心41と電機子2との間の動作隙間51内に配置されている。ばねディスクとして、または、その代わりに、皿ばねとして形成されているばね要素11は、中央開口24を有し、中央開口24内を圧着部品50の端部領域25が貫通して案内されている。圧着部品50の端部領域25は、球面状に形成されている磁極心41の接触面15と接触し、これにより、磁極心41の傾斜位置を補償し、且つ、この傾斜位置に基づく電機子アセンブリ60の傾きを阻止可能である。
【0021】
図1からさらに分かるように、ばね要素11は、プランジャ段要素13の電機子2に向けられた側22の内周11aに当接し、且つ、プランジャ段凹部14の内部領域19の外周11bに当接している。プランジャ段要素13の電機子2に向けられた側22の凹面と、プランジャ段凹部14の凹んだ内部領域19とに基づき、電磁弁1が開放されたときにばね要素11が変形するための十分な自由空間が存在している。ばね要素11の特殊な支持位置は、弁を閉鎖させるように働く、緩やかに漸増する所望のばね特性曲線を与える。したがって、復元要素7の線形ばね特性曲線と共に、並列に配置されたばね要素11の特性曲線は、漸増的電磁力線パターンに抗う、全体として漸増的なばね特性曲線を与える。
【0022】
本発明による電磁弁1は、電機子アセンブリ60内に組み込まれたプランジャ段12により、電磁弁1が閉鎖されているときにおける十分に高い電磁力のほかに、弁リフトの全範囲にわたりほぼ線形の電磁力線パターンが達成され、この電磁力線パターンが、電磁弁1を定常的(比例的)に調節可能とする程度を著しく改善し、且つ、全ての作動点における正確な機能精度を提供するという利点を有している。使用されたプランジャ段形状に基づき、場合により発生する電機子アセンブリ60の傾き、ないしは、軸線オフセットに対しても、確実なプランジャ段12の機能が保証されている。
【符号の説明】
【0023】
1…電磁弁
2…電機子
3…弁部材
4…弁体
5…通路開口
6…弁座
7…復元要素
8…衝突円板(衝突装置)
9…中央開口
10…部分領域
11…ばね要素
11a…内周
11b…外周
12…プランジャ段(調節装置)
13…プランジャ段要素
14…プランジャ段凹部
15…接触面
16…中央通路内孔
17…段差
18…リング領域
19…内部領域
20…プランジャ段要素の正面側
21…圧着部品の正面側
22…プランジャ段要素の電機子に向けられた側
23…リング状隙間
24…中央開口
25…端部領域
40…ハウジング
41…磁極心
43…溶接継目
44…弁ブッシュ
45…フィルタ
46…流入通路
47…流出通路
48…球
49…通路内孔
50…圧着部品
51…動作隙間
52…バイパス通路
60…電機子アセンブリ
P…流入方向
X…中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子(2)と、
磁極心(41)であって、前記電機子(2)と前記磁極心(41)との間に動作隙間(51)が設けられている磁極心(41)と、
前記電機子(2)と結合され、且つ、前記電機子(2)と共に可動な弁部材(3)と、
通路開口(5)に弁座(6)が形成され、該通路開口(5)を有する弁体(4)であって、前記弁部材(3)が前記弁座(6)において前記通路開口(5)を開閉する弁体(4)と、
前記弁部材(3)を閉鎖状態に復元させるために、前記弁部材(3)に復元力を与える復元要素(7)と、
前記磁極心(41)と前記電機子(2)との間に形成されたプランジャ段(12)と
を備え、
前記電機子(2)は、前記弁部材(3)および前記復元要素(7)を受け入れるための中央通路内孔(16)を有する
流体制御用の電磁弁。
【請求項2】
前記プランジャ段(12)は、プランジャ段凹部(14)およびプランジャ段要素(13)を備えた請求項1に記載の電磁弁。
【請求項3】
前記電機子(2)、前記弁部材(3)、前記復元要素(7)および圧着部品(50)が、事前組立可能な電機子アセンブリ(60)を形成し、
前記プランジャ段要素(13)は、前記圧着部品(50)に配置され、
前記プランジャ段凹部(14)は、前記電機子(2)における正面側凹部によって形成されている
請求項2に記載の電磁弁。
【請求項4】
前記プランジャ段要素(13)は、圧入により、前記圧着部品(50)と結合されている請求項3に記載の電磁弁。
【請求項5】
前記磁極心(41)と前記電機子(2)との間に配置されているばね要素(11)をさらに備えた請求項1ないし4のいずれかに記載の電磁弁。
【請求項6】
前記ばね要素(11)は、事前組立可能な電機子アセンブリ(60)の部分である請求項5に記載の電磁弁。
【請求項7】
前記プランジャ段(12)は、ダブル・プランジャ段または円錐プランジャ段を含む請求項1ないし6のいずれかに記載の電磁弁。
【請求項8】
前記磁極心(41)の接触面(15)は、前記プランジャ段要素(13)の方向に球面状に形成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の電磁弁。
【請求項9】
前記電磁弁が開放されているときに流体を転向させるための衝突円板(8)であって、前記弁部材(3)の部分領域(10)が、衝突円板(8)内の中央開口(9)を貫通して案内されている衝突円板(8)をさらに備えた請求項1ないし8のいずれかに記載の電磁弁。
【請求項10】
前記プランジャ段凹部(14)は、先細に、特に円錐形に形成されている請求項2ないし9のいずれかに記載の電磁弁。
【請求項11】
前記プランジャ段要素(13)は、前記電機子(2)の方向に向けられた凹面を有する請求項1ないし10のいずれかに記載の電磁弁。

【図1】
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【公表番号】特表2013−519853(P2013−519853A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553261(P2012−553261)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051862
【国際公開番号】WO2011/104116
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】