説明

プリプレグ及びその製造方法とこれを用いたプリント配線板

【課題】本発明は、吸湿性、耐熱性、耐薬品性を維持し、安価で加工性に優れた、熱伝導率を高めることができるプリプレグおよびプリント配線板を提供することを目的とする。
【解決手段】芯材7と、この芯材7に含浸されたコンポジット材とからなり、前記コンポジット材は半硬化状態の樹脂体と、その樹脂体中に分散された、マグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれた無機フィラーであり、かつ、その表面が、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類からなる化合物による表面処理が施されている、若しくはSi、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類と、マグネシウムとの化合物により表面処理を施されている無機フィラーを少なくとも1種類以上含むことで、吸湿性、耐熱性、耐薬品性を維持し、安価で加工性に優れた、熱伝導率の高いプリプレグ及びプリント配線板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱対策が要求されるパワー系半導体等の各種電子部品を高密度に実装する際に用いられるプリプレグ及びその製造方法とこれを用いたプリント配線板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品実装用のプリント配線板としては、ガラスエポキシ樹脂からなるプリプレグと銅箔とからなる部材を、複数枚積層、一体化し、硬化したものが用いられている。
【0003】
機器の小型化、高性能化に伴い、電子部品の発熱が課題となることも多く、新たな熱対策として、放熱性(あるいは熱伝導性)を有するプリント配線板が求められる。
【0004】
例えば熱伝導性を高めた結晶性エポキシ樹脂を用いて、熱伝導性を高めるものが提案されている。図5を用いてその一例を説明する。すなわち図5(A)(B)は、共にメソゲン基を有する結晶性ポリマーを、磁場を用いて配向させ、熱伝導率を高くしようとする様子を説明する断面図である(例えば特許文献1参照)。
【0005】
図5(A)(B)において、複数個の磁石1(例えば磁場発生手段としての永久磁石)の間には、矢印2で示した磁力線が発生している。そしてこの矢印2で示した磁力線の間に、金型3の中にセットした樹脂4(例えば硬化する前の液体状態の結晶性エポキシ樹脂)を置き、この磁場の中で樹脂4を熱硬化させる。図5(A)は樹脂4に対して垂直な方向に磁場をかける様子を、図5(B)は平行な方向の磁場をかける様子を示す。
【0006】
しかし元々磁化されにくい結晶性エポキシを配向させるためには、磁束密度5〜10テスラの高磁場中で、温度150〜170℃に加熱した金型3の内部で、10分〜1時間硬化させる等の特殊な処理が必要になる。またこうして形成した結晶性エポキシ樹脂は、熱伝導性や機械強度(例えば曲げ強度)に異方性を有している可能性がある。その結果、こうした結晶性エポキシ樹脂を用いて作製したプリプレグやプリント配線基板は、方向依存性(あるいは異方性)を有してしまうため、柔軟性が低下する(例えば耐折曲げ性が低下する、あるいは曲げると割れやすい)という課題が発生しやすい(特許文献1)。
【0007】
一方、従来からプリプレグの熱伝導率を高めるために、無機フィラーを高密度に添加することが提案されている。たとえば、窒素化ホウ素、窒素化アルミなどの窒素化物、酸化チタン、酸化アルミなどの酸化物などの無機フィラーを使用する例などが挙げられる(特許文献2)。
【0008】
しかし、これらの窒素化物は値段的に高価であり、無機フィラーの充填量を増加させると、プリプレグ及びこれを用いたプリント配線板が非常に高価になってしまう。また、酸化チタンや酸化アルミなどの金属酸化物においては、その酸化物の硬度がかたく、プリント配線板作成時の機械加工性に劣る。
【0009】
そこで、無機フィラーに、アルカリ土類およびアルカリ金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物を使用する若しくは一部添加することで、値段的にも安価であり、加工性に優れ、熱伝導性を有するプリント配線板が得られる。
【0010】
しかしながら、これらのアルカリ土類およびアルカリ金属の酸化物、水酸化物、類炭酸化物は、その表面状態がアルカリ性であり、活性であるため、より熱伝導を向上させるために、その体積充填率を向上させると、プリプレグおよびプリント配線板とした際に、吸湿性や耐熱性の低下や配線時の耐薬品性低下などの課題が想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−225054号公報
【特許文献2】特開昭60-136298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように従来のプリント配線板の場合、プリント配線板の熱伝導率を上げようと無機フィラーの充填量を増加させると、値段の増加や加工性の低下が生じており、これらを改善しようとすると、プリント配線板の吸湿性による特性の悪化、耐熱性の低下、プリント配線板作成時の耐薬品性の低下などの課題が想定される。
【0013】
そこで本発明はプリプレグを構成する無機フィラーとその表面処理剤に着目し、さらには、構成樹脂および基材材料との組成に注目し、プリント配線板の熱伝導率を高めながらも、上記課題を克服した特性を保てるプリプレグおよびプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、本発明は、硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上20W/(m・K)以下となるプリプレグであって、このプリプレグは厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材と、この芯材に含浸されたコンポジット材とからなり、前記コンポジット材は半硬化状態の樹脂体と、その樹脂体中に分散された、無機フィラーとからなり、前記無機フィラーは、マグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸化物のいずれかであり、前記無機フィラーは、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類からなる化合物による表面処理が施されている、若しくは前記無機フィラーは、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類と、マグネシウムとの化合物により表面処理を施されているプリプレグとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプリプレグ及び、その製造方法とこれを用いたプリント配線板によれば、熱伝導性に優れ、吸湿特性や耐熱性や耐薬品性などの安定性を保ち、かつ安価でかつ加工性に優れたプリプレグおよびプリント配線板を得ることが可能となり、そして、本発明のプリプレグを用いて作製したプリント配線板を用いることで、電子部品などを高密度実装する事ができ、液晶やプラズマTV、各種電子機器の小型化、高性能化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態におけるプリプレグの断面図および拡大断面図
【図2】本発明の実施の形態におけるプリプレグの製造工程の一例を示す図
【図3】本発明の実施の形態における多層プリント配線板の製造工程を示す断面図
【図4】本発明の実施の形態における多層プリント配線板の製造工程を示す断面図
【図5】従来の熱伝導性を高める方法を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1におけるプリプレグについて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態におけるプリプレグの断面図と拡大断面図である。
【0019】
まず図1(A)を用いて説明する。図1(A)は、実施の形態におけるプリプレグの断面図である。
【0020】
芯材7の厚みは、10ミクロン以上300ミクロン以下が望ましい。芯材7の厚みが10ミクロン未満の場合、プリプレグ5(あるいはプリプレグ5を硬化してなるプリント配線板)の機械強度(例えば引張り強度等)に影響を与える可能性がある。芯材7の厚みが300ミクロンを超えた場合、プリプレグ5の厚みが増加してしまうため、取り扱い性(例えば、捲回しにくい等)に影響を与える場合がある。
【0021】
また芯材7に織布を用いた場合、図1(A)において、矢印11は、芯材繊維6が織られてなる芯材7の開口部(この開口部はバスケットホール部と呼ばれることもある)を示している。また芯材7に不織布を用いた場合、図1(c)において、矢印11は、芯材繊維6が結合して得られる芯材7のうち、繊維の存在していない空間を開口部として示している。
【0022】
図1(A)に示すように、実施の形態で説明するプリプレグ5は芯材7と、この芯材7に含浸させた半硬化樹脂体8から構成したものである。そして芯材7の開口部(矢印11で示した部分)や、芯材7の表面は、半硬化樹脂体8で覆われている(あるいは充填されている)。
【0023】
次に、開口部の構造について詳細に説明する。図1(B)は、本発明の実施の形態におけるプリプレグの開口部の拡大断面図である。図1(B)に示すように、半硬化樹脂体8中に無機フィラー9が分散されており、この無機フィラー9は表面処理層10により表面処理を施されている。この表面処理層10によって、吸湿性の抑制、耐熱性の向上、耐薬品性が向上されている。
【0024】
ここで実施の形態では、芯材7に、積極的に開口部を形成し、この開口部に図1(A)に示すように、半硬化樹脂体8を充填することで、プリプレグ5の厚み方向での熱伝導性を高めることになる。
【0025】
更にプリプレグ5をXY方向に縮みにくくすることで、プリプレグ5をZ方向(厚み方向)に伸びにくくすることができる。この結果、プリント配線板のZ方向の信頼性(例えば、スルーホール部分の接続信頼性)を高める効果が得られる。これはZ方向の熱膨張が抑えられるためである。
【0026】
また芯材7の、開口率を高めることで、プリプレグ5のレーザーやドリルによるビア孔の加工性を高める効果も得られる。
【0027】
なおプリプレグ5の厚みは、20ミクロン以上500ミクロン以下が望ましい。プリプレグ5の厚みが20ミクロン未満の場合、プリプレグ5(あるいはプリプレグ5を硬化してなるプリント配線板)の機械強度(例えば引張り強度等)に影響を与える可能性がある。また厚みが500ミクロンを超えた場合、取り扱い性(例えば、捲回しにくい等)に影響を与える場合がある。
【0028】
なおガラス芯材7より、プリプレグ5の厚みの方を厚くすることが望ましい。これはプリプレグ5の方を、芯材7の厚みより厚くすることで、上付き樹脂(いわゆる、芯材7の表面を覆う余分な半硬化樹脂体8)の厚みを確保できる。そしてこの上付き樹脂を一定量確保することで、例えば後述する図3(A)〜図3(B)における内層パターンとなる銅箔16の厚みの吸収効果が得られる。この厚み吸収効果によって、例えば後述する図4(C)に示すプリント配線板20の表面に、凹凸が発生しにくくなる。
【0029】
次に図2を用いて、プリプレグ5の製造方法の一例について説明する。図2は、プリプレグ5の製造方法の一例を断面で説明する模式図である。図2において、13はロールであり、プリプレグの製造設備の一部を模式的に示すものである。12はコンポジット材ワニス、14は槽である。槽14の中には、半硬化樹脂体8を形成する部材、つまり、コンポジット材を、所定の溶剤(例えばメチルエチルケトン、アルコール類、シクロペンタノン等:本実施例ではメチルエチルケトンを使用))に溶解した状態でセットしている。
【0030】
まず芯材7として、ここでは厚み45ミクロン、開口率5%のガラス織布のものを用いた。そして図2に示すように、芯材7を、ロール13にセットし、矢印11aに示す方向に送り、槽14にセットしたコンポジット材ワニス12を含浸させる。そしてロール13を、矢印11bに回しながら、芯材7に含浸させたコンポジット材ワニス12の含浸量を調整する。そして乾燥機等(図示していない)の中を矢印11cのように流してコンポジット材ワニス12から溶剤成分を除去する。更に加熱等によりコンポジット材に含まれる樹脂成分を半硬化状態(本硬化の前の状態、いわゆるBステージ状態)とし、半硬化樹脂体8とする。こうしてプリプレグ5を、連続的に作製する。なおプリプレグ5の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0031】
次に槽14にセットするコンポジット材について説明する。コンポジット材は、プリプレグ5が硬化後に熱伝導率が0.5W/(m・K)以上、20W/(m・K)以下となる材料を選ぶことが望ましい。硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)未満の場合、開口部を介した熱伝導の効果が得られにくい場合がある。また熱伝導率が20W/(m・K)を超える材料は、高価であり、取り扱いが難しい場合がある。
【0032】
ここで硬化後に熱伝導率が0.5W/(m・K)以上、20W/(m・K)以下を実現するには、少なくともコンポジット材として、樹脂と、表面に化合物表面処理を設けている無機フィラーをこの樹脂中に分散した構成することが望ましい。
【0033】
そしてこの樹脂としてはエポキシ樹脂を用い、無機フィラーとしては、その表面に、(水素を除く第1族元素もしくは第2族元素)をM1とした場合、無機フィラーの表面には、M1以外の化合物による表面処理、あるいはM1とM1以外の化合物により表面処理が行なわれることが望ましい。なお無機フィラーは、「水素を除く第1族元素もしくは第2族元素」(すなわちM1)の、酸化物、水酸化物、炭酸化物を、少なくとも1種類以上含むものとすることが望ましい。
【0034】
M1としては、例えばマグネシウムを用いることが望ましく、M1(例えばマグネシウム)の酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれた無機フィラーであり、かつ、その表面が、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類からなる化合物による表面処理が施されている、若しくはSi、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類と、マグネシウムとの化合物により表面処理を施されている無機フィラーを少なくとも1種類以上からなる無機フィラーとからなる。
【0035】
なおエポキシ樹脂等を硬化させるための硬化剤等を必要に応じて添加することは言うまでもない。
【0036】
また、芯材繊維6に対して、シランカップリング剤、リン酸エステル、スルホン酸エステル、カルボン酸エステルなどの表面処理剤(図示していない)で表面処理を行うことで、芯材繊維6と無機フィラー9が表面処理剤を介して結合力を有することでプリプレグ5の熱伝導性と機械強度を両立する事ができる。
【0037】
なおこれら樹脂を半硬化状態とすることで、プリプレグ5となる。
【0038】
なおプリプレグ5に占める無機フィラー9の割合は、プリプレグ5全体の20体積%以上60体積%以下が望ましい。20体積%未満の場合、プリプレグ5の熱伝導性が低下する場合がある。また60体積%より高い場合、プリプレグ5の柔軟性や、熱プレスの際の配線埋め込み性に影響を与える場合があるためである。
【0039】
ここで、コンポジット材ワニス12の粘度が高いと塗布性が低下し、プリプレグの表面性の低下を招き、最終プリント配線板形成時に密着不良などの要因になりうる。特に、無機フィラー9の割合が多い場合は、無機フィラーの性状の影響をうけ、大幅に粘度特性が変化し、結果、プリプレグおよびプリント配線板の生産性に大きな影響を与える。
【0040】
次にプリプレグ5を用いて、熱伝導性の高いプリント配線基板を作製する方法について説明する。
【0041】
図3(A)(B)は、共にプリプレグ5の表面に銅箔を固定(あるいは一体化)する方法の一例を説明する断面図である。
【0042】
まず図3(A)に示すように、半硬化樹脂体8と、これを含浸させた芯材7と、からなるプリプレグ5の一面以上に銅箔16をセットする。そして、プレス15を、矢印11に示すように動かし、プリプレグ5の一面以上に銅箔16を貼り付ける。なお図3(A)(B)において、プレス15にセットする金型等は図示していない。そしてこれら部材を所定温度で、加圧一体化する。その後、図3(B)に示すようにプレス15を矢印11の方向に引き離す。こうして銅箔16をプリプレグ5の一面以上に固定し、積層体17とする。このようにして接着剤等を用いずに銅箔16をプリプレグ5の上に固定することで、出来上がった積層体17の高熱伝導化を実現する。
【0043】
次に積層体17の一面以上に固定した銅箔16を所定形状にパターニングする。なおパターニングの工程(フォトレジストの塗布、露光、現像、銅箔16のエッチング、フォトレジストの除去工程等)は図示していない。
【0044】
次に図4(A)〜(C)を用いて、積層体17を積層し、4層のプリント配線板を作成する様子を説明する。
【0045】
図4(A)〜(C)は、共に多層(例えば4層)プリント配線板を作成する様子を断面で説明する模式図である。
【0046】
まず図4(A)に示すように、少なくともその一面以上に、銅箔16を所定パターン形状に加工した積層体17を用意する。そしてこの積層体17を挟むように、プリプレグ5をセットする。更にプリプレグ5の外側に、銅箔16をセットする。なお市販の銅箔16を用いる場合、その粗面側をプリプレグ5側にセットすることで、銅箔16とプリプレグ5との接着力(アンカー効果)を高められる。そしてこの状態でプレス装置(図示していない)を用いて、これら部材を加圧、加熱、一体化する。このプレス時に加熱することで、プリプレグ5に含まれる半硬化樹脂体8が軟化し、プリプレグ5上に固定した銅箔16のパターンの埋め込み(あるいはパターンによる段差の埋め込み)や、銅箔16との密着力を高める効果が得られる。また接着剤を用いることなく、銅箔16を固定する効果も得られる。こうして積層体17を作成する。
【0047】
次にこの積層体17の所定位置に孔18を形成し、図4(B)の状態とする。図4(B)において、孔18はドリルやレーザー等(共に図示していない)で形成したものである。
【0048】
その後、孔18の内壁等に銅メッキを行い、図4(C)の状態とする。図4(C)に示すよう、銅メッキ部19によって、内層や表層に形成した銅箔16の間の層間接続を行う。次にソルダーレジスト(図示していない)等を形成することで、プリント配線板20を完成させる。
【0049】
次に、半硬化樹脂体8やコンポジット材を構成する部材について詳細に説明する。
【0050】
コンポジット材としては、エポキシ樹脂を主体とする熱硬化性樹脂に、熱伝導性を高める無機フィラー、さらに無機フィラー同士を強固に結合させるための表面処理剤、さらにプリント配線板20の柔軟性(あるいは割れにくさ)を高めるために、ゴム樹脂等を添加したものを使うことができる。
【0051】
なおエポキシ樹脂の内、40重量%以上を結晶性エポキシ樹脂とすることで、樹脂部分での熱伝導率を高めることができる。またエポキシ樹脂全てを(あるいは100重量%を)結晶性エポキシとすることで、熱伝導を高められる。また硬化後の結晶性エポキシ樹脂は、場合によっては割れやすくなる場合があるが、ゴム樹脂や熱可塑性樹脂等を添加することで、割れにくくできる。なおこれらを微粒子として添加することで、熱伝導に対する影響を抑えられる。
【0052】
なお主剤と硬化剤の割合は、エポキシ当量から計算する。
【0053】
なお結晶性エポキシ樹脂を用いた場合、ここに添加する熱可塑性樹脂にフェニル基を有したものを用いることで、その熱伝導率と機械強度の両方を向上させることもできる。またこうした熱可塑性樹脂を添加することで、出来上がったプリント配線板20の機械強度(例えば割れにくさ)を高める効果が得られる。
【0054】
また無機フィラーの平均粒径は、0.01μm以上50.00μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上10.0μm以下の範囲が望ましい。平均粒径が小さいほど比表面積が増えるため、放熱面積が増え、放射効率が高まるが、平均粒径が0.01μm未満になると、比表面積が大きくなり、コンポジット材の混練が難しくなる。また50.00μmを超えると、芯材7に形成した開口部への充填が難しくなる。
【0055】
なお無機フィラーの充填率を増加するために、異なる粒度分布を有する複数種の無機フィラーを選び、これらを混合して使用しても良い。
【0056】
次に、作成したプリント配線板20の特性の測定結果の一例について詳細に説明する。
【0057】
実施例として、以下の[表1]に示す無機フィラーを用いて、所定のエポキシ樹脂、硬化剤と混合してコンポジット材を形成し、これを所定の溶剤に溶解し、その後、芯材であるガラス織布に含浸・乾燥し、その後半硬化状態にして、プレプレグ化し、所定の方法でプリント配線板を形成した。
【0058】
比較例として、以下の[表1]に示す、表面処理のない無機フィラーを用いて、実施例と同様にプリント配線板を作成した。
【0059】
【表1】

【0060】
これら、実施例および比較例の無機フィラを用いて作成したプリント配線板を、30℃−60%において192H放置後の吸湿耐熱試験(両面全面銅箔)、耐薬品試験(配線板)を実施した。
【0061】
また、前述のように、無機フィラーの性状によって、コンポジット材ワニス12の粘度特性が大きく変化するため、ワニス粘度についても評価を行った。
【0062】
その結果を、下の[表2]に示す。
【0063】
【表2−1】

【0064】
【表2−2】

【0065】
【表2−3】

【0066】
[表2−1]から[表2−3]の結果から明らかなように、一定の熱伝導を得るために、必要な無機フィラー成分の量を添加された状態では、表面処理の実施されていない無機フィラーを用いた系においては、[表2−3]に示すように、吸湿耐熱試験、耐薬品試験のいずれかにおいて、問題が生じている。
【0067】
それに対して、(水素を除く第1族元素もしくは第2族元素)となるM1以外の元素を含む化合物による表面処理が施されている無機フィラーを用いた系に関しては、[表2−1]、[表2−2]に示すように、そのような異常がみられず、良好な結果が得られた。
【0068】
さらには、表面処理の実施されていない無機フィラーを用いた系においては、コンポジット材ワニスの粘度が、無機フィラー表面のアルカリ性と無機フィラー間の相互凝集作用により、粘度の上昇が見られているが、M1(すなわち、水素を除く第1族元素もしくは第2族元素)以外の元素を含む化合物による表面処理が施されている系では、粘度の低減も見られ、結果、プリプレグの塗布生産性への向上が見られる。
【0069】
なお硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上20.0W/(m・K)以下となるプリプレグであって、このプリプレグは、厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材と、この芯材に含浸した半硬化樹脂体とからなり、前記半硬化樹脂体は、半硬化状態の樹脂体と、その樹脂体中に分散された、無機フィラーとからなり、その無機フィラーが、(水素を除く第1族元素もしくは第2族元素)からなるM1の酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれた無機フィラーとすることが望ましい。
【0070】
またM1の酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれた無機フィラーの表面が、M1(すなわち水素を除く第1族元素もしくは第2族元素)以外の化合物による表面処理を施されることが望ましい。あるいは、無機フィラーの表面をM1と、M1以外の材料との化合物により表面処理を施しても良い。こうした無機フィラーを少なくとも1種類以上含むことにより、吸湿性、耐熱性、耐薬品性を確保し、高熱伝導性と加工性に優れたプリント配線板を安価かつ生産性も容易に提供できる。
【0071】
なお第1族元素とは、周期表において第1族に属する元素であり、例えば、水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムが該当する。
【0072】
第2族元素とは、例えば周期表の第2族に属する元素であり、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムが該当する。
【0073】
また、熱伝導の観点から、無機フィラーにはマグネシムの酸化物、水酸化物、炭酸化物特に、酸化物が好ましく、表面処理としては、Si、Al、Ti、Fe、Pなどの酸化物の皮膜や水酸化物のコロイド上の皮膜などが、容易かつ安全に使用できるものであり好ましい。
【0074】
また、その処理量としては、無機フィラーM1化合物に対して、酸化物換算で、[表1]において表示しており、好ましくは0.1〜100wt%程度である。0.1wt%未満では表面被覆効果が低く、吸湿性などを抑制する効果が低減し、100wt%以上は、表面処理材の影響が増加し熱伝導の低下や加工性悪化が見られる。また、望ましくは、特に、0.2wt%以上〜30.0wt%以下が、被覆性を保ち、フィラーの特性を保持する。
【0075】
また、表面処理の処理として、金属アルコキシド(MOR)から、加水分解および脱水反応やアルコール分解から得られる金属酸化物(MO)および金属アルコキシド(MOR’)膜によって形成される表面処理があげられる。この処理によって、生成反応温度も比較的低く容易に表面処理膜形成が可能であり、さらには、その膜中に微小な10nmから100nmのSiO2粒子を添加することで、膜中の熱歪による応力を緩和することも可能となり、より強固な膜を形成することが可能となる。
【0076】
ここでRとは、水素もしくは炭素数1から4の炭化水素を意味する。
【0077】
また、表面処理の処理として、一般式(化1)からなる有機ポリシロキサンによって、加熱処理を施し、表面処理を行なった系で、撥水性の付与の効果もあり、表面処理としての機能が十分得られる。特に、有機ポリシクロサンのR1、R2、R3の少なくとも1つがHとすることで被覆効率が上昇し、より強固な膜を形成することが可能となる。
【0078】
【化1】

【0079】
また、織布または不織布を構成する芯材繊維としては、ポリエステル、アラミド、ガラスからなる繊維を用い、ガラス繊維としては、結晶化ガラス繊維、石英ガラス繊維、強化ガラス繊維のいずれか一つ以上の繊維からなる請求項1に記載のプリプレグとすることで、芯材の開口率を高めた場合でも、その強度を保てる。
【0080】
また、半硬化樹脂体の樹脂としては、少なくとも半硬化状態のエポキシ樹脂、さらにはエポキシ樹脂と熱可塑性樹脂からなり、エポキシ樹脂の内、60重量%以上100重量%以下は、結晶性エポキシ樹脂とすることで、プリント配線板の熱伝導率を高められる。
【0081】
また、本発明の水素を除く第1族元素もしくは第2族元素M1の以外の材料(ここではM2とする)による化合物による表面処理を施した系では、前記コンポジット材を、厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材に含浸される際、コンポジット材ワニスの粘度の低減も見られることから、結果、プリプレグの塗布生産性への向上が図られる。
【0082】
よって、前記コンポジット材を半硬化状態にする工程を有するプリプレグの製造方法とすることで、放熱性に優れたプリント配線板を安価に製造できる。
【0083】
硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上20W/(m・K)以下となるプリプレグと、銅箔と、を複数枚積層し硬化してなるプリント配線板であって、前記プリプレグは、厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材と、この芯材に含浸した半硬化樹脂体とからなり、前記半硬化樹脂体は、半硬化状態の樹脂体と、その樹脂体中に分散された、無機フィラーとからなり、その無機フィラーが、水素を除く第1族元素もしくは第2族元素M1の酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれた無機フィラーであり、かつ、その表面が、M1(水素を除く第1族元素もしくは第2族元素)の以外のM2による化合物による表面処理が施されている、若しくはM2とM1による化合物により表面処理を施されている無機フィラーを少なくとも1種類以上含み、さらに好ましくは、マグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれた無機フィラーであり、かつ、その表面が、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類からなる化合物による表面処理が施されている、若しくは、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類と、マグネシウムとの化合物により表面処理を施されている無機フィラーを少なくとも1種類以上含む無機フィラーからなるプリント配線板を提供することで、携帯電話、プラズマテレビ、電装品、産業用の放熱が要求される機器の小型化、高性能化を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明に関わるプリプレグ及びその製造方法とこれを用いたプリント配線板を用いることによって、携帯電話、プラズマテレビ、あるいは電装品、あるいは産業用等の放熱が要求される機器の小型化、高性能化が可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1 磁石
2 磁力線
3 金型
4 樹脂
5 プリプレグ
6 芯材繊維
7 芯材(織布)
8 半硬化樹脂体
9 無機フィラー
11 矢印
12 コンポジット材ワニス
13 ロール
14 槽
15 プレス
16 銅箔
17 積層体
18 孔
19 銅メッキ部
20 プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上20W/(m・K)以下となるプリプレグであって、このプリプレグは厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材と、この芯材に含浸されたコンポジット材とからなり、前記コンポジット材は半硬化状態の樹脂体と、その樹脂体中に分散された、無機フィラーとからなり、
前記無機フィラーは、マグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸化物のいずれかであり、
前記無機フィラーは、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類からなる化合物による表面処理が施されている、
若しくは前記無機フィラーは、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類と、マグネシウムとの化合物により表面処理を施されているプリプレグ。
【請求項2】
前記無機フィラーの平均粒子径が、0.01μm以上50.00μm以下である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記無機フィラーの平均粒子径が、0.1μm以上10.0μm以下である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記無機フィラーに対する表面処理量が、0.1wt%以上100wt%以下である請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記無機フィラーに対する表面処理量が、0.2wt%以上〜30.0wt%を特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記表面処理が金属アルコキシドから形成される金属酸化物若しくは金属酸化物と金属アルコキシドの複合物からなる請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記表面処理が粒子径10nmから100nmのSiO2粒子と金属アルコキシドから形成される金属酸化物若しくは金属酸化物と金属アルコキシドの複合物からなることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記表面処理が、一般式(化1)からなる有機ポリシロキサンによって施されていることを特徴とする請求項1に記載のプリプレグ。
【化1】

【請求項9】
請求項7記載の有機ポリシクロサンのR1、R2、R3の少なくとも1つがHであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項10】
前記樹脂体はエポキシ樹脂と硬化剤である、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記エポキシ樹脂のうち、40体積%以上は、結晶性エポキシ樹脂である請求項10に記載のプリプレグ。
【請求項12】
硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上20W/(m・K)以下となる、樹脂体とその樹脂体に分散された、請求項1および2記載の表面処理をなされた無機フィラーを少なくとも含む無機フィラーとからなるコンポジット材を用意する工程と、前記コンポジット材を、厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材に含浸させる工程と、前記樹脂体を半硬化状態とする工程と、
を有するプリプレグの製造方法。
【請求項13】
硬化後の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上20W/(m・K)以下となるプリプレグと、所定パターンに加工した銅箔とを複数枚積層し硬化してなるプリント配線板であって、
前記プリプレグが、厚みが10ミクロン以上300ミクロン以下の芯材と、樹脂体と、その樹脂体に分散された無機フィラーとからなり、
前記無機フィラーがマグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸化物から選ばれたものであり、
前記無機フィラー表面が、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類からなる化合物による表面処理が施されている、
若しくは前記無機フィラー表面が、Si、Ti、Zr、Fe、Alのうちの少なくとも1種類と、マグネシウムとの化合物により表面処理を施されているプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−116543(P2010−116543A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230347(P2009−230347)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】