説明

プリンタの制御装置

【課題】複数のモータが駆動源として存在する駆動制御系において、コギングトルクリップルの影響を抑制し、速度変動等の影響を受け難いプリンタの制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】第1のモータ、第2のモータのそれぞれのコギングトルクリップルを抑制する補正値を加算した第1のフィードフォワード制御系と第2のフィードフォワード制御系とを設け、フィードバック制御系と上記第1のフィードフォワード制御系と上記第2のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と第1のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と上記第2のフィードフォワード制御系との組み合わせとのいずれかを選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッドから被記録材にインクを吐出して記録するインクジェットプリンタに関し、特に、モータ駆動制御に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、記録ヘッドを搭載したキャリッジを、記録紙等の記録媒体の搬送方向に直交する幅方向に移動し、記録媒体表面に記録を行ういわゆるシリアル型画像プリンタである。シリアル型画像プリンタでは、記録媒体の搬送とキャリッジ走査とによる記録とを交互に繰り返し、記録媒体全体に画像記録を行う。
【0003】
これらの駆動手段としては、高精度化と低騒音化とを両立させるために、DCモータとエンコーダとを用いたフィードバック制御系が主流である。記録媒体の搬送を行う駆動手段では、停止精度の確保が重要視され、停止前速度の低速化と、停止前外乱トルクの除去(停止寸前の低速運転の安定化)とが必要不可欠である。一定した充分に遅い速度でモータの電源をOFFすることによって、モータが回転を始めてから停止するまでの時間である制定時間とモータの停止精度とを安定させることができる。キャリッジ走査を行う駆動手段において、インク着弾位置を安定化することによって高画質化するために、走査時の速度変動の安定化が重視される。
【0004】
このような駆動手段において、大きい周期をもつトルク変動に関して、一般的に知られているPID制御に代表されるフィードバック制御によって、外乱トルクを除去する。しかし、上記フィードバック制御によって解決できる周波数を超えているので、モータコギング周期に代表されるトルク変動を制御することができないという問題がある。
【0005】
キャリッジ駆動系におけるコギングトルクリップルの影響を解消するための手段として、次の手段が知られている。つまり、トルク変動を打ち消す方向に印加する電圧を補正する手段と、この結果となる速度変動量からインク吐出を行うタイミングの補正値を求め、ヘッド駆動を行う手段とが知られている(たとえば、特許文献1参照)。電圧での補正と、吐出補正とを組み合わせることによって、良好な画像が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−256226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
駆動源として、2つのキャリッジモータが設けられ、ベルトを介して、キャリッジに動力が伝達される。プラテン上で、キャリッジが往復動作を繰り返し、記録媒体へ画像形成する。キャリッジの状態がリニアスケールで検出され、上記2つのキャリッジモータへの指令値を算出するフィードバック制御系を構成する。このような構成の場合、駆動源となるモータが複数存在するので、各コギングトルクリップルが重畳することが考えられる。つまり、単独モータでのトルク変動の2倍のトルク変動が起きることが考えられ、その際の印刷物への影響は、容易に想像できる。
【0008】
従来例において、複数のモータが存在しているので、コギングトルクリップルの発生位置の組み合わせが無限に存在し、搬送誤差への影響を受けない状態とを相関付けることが困難である。
【0009】
特許文献1記載の発明では、単独モータでの動作を考えたものであり、複数モータでの条件とは異なる。
【0010】
本発明は、複数のモータが駆動源として存在する駆動制御系において、コギングトルクリップルの影響を抑制し、速度変動等の影響を受け難いプリンタの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のプリンタの制御装置は、制御対象の位置、速度情報を検出する状態検出器と、制御指令値と上記制御対象の位置、速度情報との差分値である操作量を演算する制御器と、上記操作量を入力する第1の駆動源、第2の駆動源とを具備し、上記第1の駆動源が発生した発生トルクと上記第2の駆動源が発生した発生トルクとを合算した合算トルクに基づいて上記制御対象を駆動するプリンタの制御装置であって、上記第2の駆動源の動力を遮断する動力遮断器と、上記動力遮断器が上記第2の駆動源の動力を遮断した状態で、上記位置、速度情報に基づいて、上記第1の駆動源のコギングトルクリップルを打ち消すための第1の補正推定値を推定する第1の補正値推定器と、上記状態検出器が検出したモータ角度情報と上記第1の補正値推定器が推定した上記第1の補正推定値とに基づいて、上記第1の駆動源のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第1の補正量を算出する第1のコギングトルク補正器とを含む第1のフィードフォワード制御系と、上記動力遮断器が上記第2の駆動源の動力を遮断しない状態で、上記位置、速度情報に基づいて、上記第2の駆動源のコギングトルクリップルを打ち消すための第2の補正推定値を推定する第2の補正値推定器と、上記状態検出器が検出したモータ角度情報と上記第2の補正値推定器が推定した上記第2の補正推定値とに基づいて、上記第2の駆動源のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第2の補正量を算出する第2のコギングトルク補正器とを含む第2のフィードフォワード制御系と、上記位置、速度情報に基づいて、フィードバックをかけるフィードバック制御系とを有し、上記フィードバック制御系と上記第1のフィードフォワード制御系と上記第2のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と第1のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と上記第2のフィードフォワード制御系との組み合わせとのいずれかを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数のモータが駆動源として存在する駆動制御系において、コギングトルクリップルの影響を抑制し、速度変動等の影響を受け難いという効果を奏する。したがって、安価なモータを複数個組み合わせることによって、駆動力を確保した駆動系を実現することができ、ユーザに訴求力の高い製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例であるインクジェットプリンタPR1を示す。
【図2】インクジェットプリンタPR1の制御構成を説明する図である。
【図3】プリンタコントローラ406の詳細構成を説明するブロック図である。
【図4】コギングトルクリップルの影響を抑制した駆動系を実現する図である。
【図5】コギングトルクリップルの影響を抑制した駆動系を実現する図である。
【図6】コギングトルクリップルの補正に関する概念を示す図である。
【図7】コギングトルクリップル補正値を算出するフローチャートである。
【図8】モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【図9】モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【図10】モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【図11】駆動波形と補正対象領域との関係を示す図である。
【図12】駆動波形と補正対象領域との関係を示す図である。
【図13】連結切り替えを示すブロック図である。
【図14】コギングトルクリップル補正値を算出するフローチャートである。
【図15】モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【図16】モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【図17】モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明を実施するための形態は、次の実施例である。
【0015】
図1は、本発明の実施例であるインクジェットプリンタPR1の概略斜視図である。
【0016】
インクジェットプリンタPR1は、インクタンクが着脱可能なインクジェットヘッドを搭載したシリアル式インクジェットプリンタである。つまり、インクジェットプリンタPR1は、記録媒体を間欠搬送しつつインクジェットヘッドを搭載したキャリッジを往復走査し、画像を形成するインクジェットプリンタである。なお、実施例は、記録媒体の行方向に走査しない長尺な記録ヘッドを持ついわゆるラインプリンタにも適用できる。
【0017】
プリンタのシャーシ114に、キャリッジ102を主走査方向に摺動自在に案内するガイドシャフト103が固定されている。キャリッジ102には、インクタンクを着脱可能なカートリッジタイプの記録ヘッド101が交換可能に装着されている。キャリッジ102の一部には、キャリッジ駆動伝達手段であるベルト104が係合し、ガイドシャフト103に沿った配置で、キャリッジ駆動手段である駆動モータ105の回転軸とプーリにベルト104を掛け回してある。これによって、駆動モータ105を駆動することによって、記録ヘッド101を搭載したキャリッジ102が主走査方向に移動可能である。
【0018】
記録用紙115は、給紙ベース106上から供給されたシート部材(記録媒体)であり、記録用紙115を、上記主走査方向と交差する方向に搬送し、好ましくは直交する方向に搬送する。プラテン112上で、記録用紙115を記録ヘッド101と対面させる搬送ローラ110が、シャーシ114に回転可能に取り付けられている。ピンチローラ111が搬送ローラ110と従動回転し、ピンチローラばね(不図示)によって搬送ローラ110に押圧されている状態で、ピンチローラ111が配置されている。搬送ローラ110の軸端には、搬送ローラギア109が取り付けられている。搬送ローラギア109には、DCモータである搬送用モータ107の回転軸に取り付けられているモータギア108が噛み合っている。
【0019】
また、搬送ローラ110の軸部には、コードホイール116が圧入して取り付けられ、コードホイール116の周辺部には、エンコーダセンサ117が配置されている。
【0020】
なお、記録ヘッド101としては、液体に熱エネルギを付与したときの膜沸騰を利用して、ノズルから液滴を吐出する形態の他に、薄膜素子に電気信号を入力し、上記薄膜素子を微小変位させ、ノズルから液体を吐出させる形態のものを適用することができる。
【0021】
このようなプリンタの記録待機中に、記録用紙115は、給紙ベース106に重ねられ(スタックされ)、記録開始時に、給紙ローラ(不図示)が、記録用紙115を装置内部へ給紙する。
【0022】
給紙された記録用紙115を搬送するために、DCモータである搬送用モータ107の駆動力によって、駆動伝達手段であるギア列(モータギア108、搬送ローラギア109)を介して、搬送ローラ110を回転させる。そして、搬送ローラ110とこれと従動回転するピンチローラ111とによって挟持された記録用紙115は、適切な送り量だけ搬送される。ここで、搬送ローラ110の軸端のコードホイール(ロータリエンコーダフィルム)116上のスリット(不図示)を、エンコーダセンサ117が検知し、カウントすることによって、記録用紙115の搬送量が管理される。そして、キャリッジ102を走査しながら、プラテン112に押し付けられている記録用紙115へ、画像情報に基づいて記録ヘッド101からインク滴を吐出させることによって、1行分の記録が行われる。
【0023】
このようなキャリッジ走査と用紙の間欠搬送とを交互に繰り返すことによって、記録用紙115に所望の画像が形成される。画像形成終了後に、排紙ローラ113が排紙し、記録動作が完了する。なお、「記録」は、文字、図形の他に、意味を持たない単なる線図の形成を意味する。
【0024】
図2は、図1に示すインクジェットプリンタPR1の制御構成を説明するブロック図である。
【0025】
インクジェットプリンタPR1のプリンタ制御用のCPU401は、ROM402に記憶されているプリンタ制御プログラムやプリンタエミュレーション、記録フォントを利用して、印刷処理を制御する。RAM403は、記録のための展開データ、ホストからの受信データを蓄えている。モータドライバ405は、モータを駆動し、プリンタコントローラ406は、RAM403のアクセス制御やホスト装置とのデータのやりとりや、モータドライバへの制御信号送出を行う。また、温度センサ407は、サーミスタ等で構成され、インクジェットプリンタPR1の温度を検知する。
【0026】
CPU401は、ROM402内の制御プログラムによって、本体のメカ的/電気的制御を行う。また、CPU401は、ホスト装置からインクジェットプリンタPR1へ送られてくるエミュレーションコマンド等の情報を、プリンタコントローラ406内のI/Oデータレジスタから読み出す。そして、コマンドに対応した制御を、プリンタコントローラ406内のI/Oレジスタ、I/Oポートに書き込み、読み出しする。
【0027】
図3は、図2に示すプリンタコントローラ406の詳細構成を説明するブロック図である。図2に示す構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付してある。
【0028】
I/Oデータレジスタ501は、ホストとのコマンドレベルで、データをやり取りする。受信バッファコントローラ502は、I/Oデータレジスタ501からの受信データを、RAM403に直接書き込む。印刷バッファコントローラ503は、記録時に、RAM403の記録データバッファから記録データを読み出し、記録ヘッド101にデータを送出する。メモリコントローラ504は、RAM403に対して、3方向のメモリアクセスを制御する。プリントシーケンスコントローラ505は、プリントシーケンスをコントロールする。ホストインタフェース231は、ホストとの通信を司る。
【0029】
図4は、コギングトルクリップルの影響を抑制したインクジェットプリンタPR1の駆動系100を示す図である。
【0030】
インクジェットプリンタPR1の駆動系100は、PID演算器16と、コギングトルクリップル補正部TA10と、制御対象14と、エンコーダ15と、加算器A3と、動力遮断器31と、第1の補正値推定器ES1と、第2の補正値推定器ES2とを有する。つまり、インクジェットプリンタPR1の駆動系100は、第1のフィードフォワード制御系FFC1と、第2のフィードフォワード制御系FFC2と、フィードバック制御系FBCとを有する。
【0031】
制御対象14がシート部材を挟持して搬送する搬送ローラである場合、モータMT1、MT2は、上記搬送ローラを駆動させるモータである。制御対象14がキャリッジである場合、モータMT1、MT2は、上記キャリッジを駆動させるモータである。モータMT1、モータMT2の駆動力を上記搬送ローラに伝達する駆動伝達手段が設けられている。エンコーダ15は、上記搬送ローラの位置、速度を検出する状態検出器である。動力遮断器31は、モータMT2の動力を遮断する。
【0032】
なお、図4に示すインクジェットプリンタPR1の駆動系100、図5に示すインクジェットプリンタPR1の駆動系200における制御対象は、図1に示すキャリッジ102、搬送ローラ110の双方であり、搬送ローラ110に限定されない。制御対象が搬送ローラである場合には、図1に示す搬送用モータ107が2個存在するメカ構成であり、制御対象がキャリッジである場合には、図1に示す駆動モータ105が2個存在するメカ構成である。
【0033】
第1の補正値推定器ES1は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断した状態で、位置、速度情報32に基づいて、モータMT1のコギングトルクリップルを打ち消すための第1の補正推定値を推定する。つまり、第1の補正値推定器ES1は、制御対象を第1の一定速度で駆動させるフィードバック制御処理を実行する。また、第1の補正値推定器ES1は、上記フィードバック制御処理で、エンコーダを含む状態検出器によって検出されたエンコーダの位置毎での制御対象の実際の駆動速度を、1周期360度単位で解析して補正値とする処理を実行する。なお、上記第1の一定速度は、モータが単独でも動作可能な範囲である動作速度である。
【0034】
第2の補正値推定器ES2は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断しない状態で、位置、速度情報32に基づいて、モータMT2のコギングトルクリップルを打ち消すための第2の補正推定値を推定する。つまり、第2の補正値推定器ES2は、制御対象を第2の一定速度で駆動させるフィードバック制御処理を実現する。また、第2の補正値推定器ES2は、上記フィードバック制御処理で、エンコーダを含む状態検出器によって検出されたエンコーダ位置毎での制御対象の実際の駆動速度を、1周期360度単位で解析して補正値とする処理を実現する。なお、上記第2の一定速度は、モータが単独でも動作可能な範囲となる動作速度である第1の一定速度と同等の速度、または、モータが2個で動作可能な範囲となる第3の一定速度である。
【0035】
上記第1の一定速度と上記第2の一定速度は、シート部材搬送装置、キャリッジの停止する直前の微低速度領域に相当する速度である。また、1周期360度に相当する制御対象を駆動する距離は、駆動源のコギングトルク変動1周期分の駆動距離、または1周期360度に相当する制御対象の駆動距離をキャリッジ、搬送ローラの走査範囲から数箇所を選択した距離である。または、1周期360度に相当する制御対象を駆動する距離は、1周期360度に相当する制御対象の駆動距離の倍数でキャリッジ、搬送ローラの走査範囲で動作可能な最大領域となる距離である。そして、上記第1の一定速度は、メカ初期化動作時にキャリッジ、搬送ローラが動作する低速度である。上記第2の一定速度は、記録媒体への印字を行う印字速度、記録媒体を搬送する搬送速度である。
【0036】
第1のフィードフォワード制御系FFC1は、第1の補正値推定器ES1と、第1のコギングトルク補正器TA1とを含む。第1のコギングトルク補正器TA1は、エンコーダ15が検出したモータ角度情報26と第1の補正値推定器ES1が推定した上記第1の補正推定値とに基づいて、第1の補正量28を算出する。第1の補正量28は、モータMT1のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である。
【0037】
第2のフィードフォワード制御系FFC2は、第2の補正値推定器ES2と、第2のコギングトルク補正器TA2とを含む。第2のコギングトルク補正器TA2は、エンコーダ15が検出したモータ角度情報26と第2の補正値推定器ES2が推定した第2の補正推定値とに基づいて、第2の補正量30を算出する。第2の補正量30は、モータMT2のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である。
【0038】
フィードバック制御系FBCは、位置、速度情報32に基づいて、フィードバックをかける。
【0039】
なお、フィードバック制御系FBCと第1のフィードフォワード制御系FFC1と第2のフィードフォワード制御系FFC2との組み合わせを第1の組み合わせとする。フィードバック制御系FBCと第1のフィードフォワード制御系FFC1との組み合わせを第2の組み合わせとする。フィードバック制御系FBCと第2のフィードフォワード制御系FFC2との組み合わせを第3の組み合わせとする。そして、インクジェットプリンタPR1の駆動系100は、上記第1の組み合わせと上記第2の組み合わせと上記第3の組み合わせとのいずれかを選択する。
【0040】
また、エンコーダ15の代わりに、エンコーダ15以外の状態検出器を設けるようにしてもよい。PID演算器16の代わりに、制御指令値と上記制御対象の位置、速度情報との差分値である操作量17を演算する他の制御器を設けるようにしてもよい。さらに、モータMT1、MT2の代わりに、モータ以外の駆動源を設けるようにしてもよい。また、モータ角度情報26は、状態検出器が検出した状態情報である。
【0041】
また、1周期360度に相当する制御対象14の駆動距離は、モータのコギングトルク変動1周期分の駆動距離、または、モータのコギングトルク変動1周期分の駆動距離と搬送ローラ1回転分の駆動距離との最小公倍数からなる距離である。
【0042】
図6は、コギングトルクリップルの補正に関する概念を示す図である。
【0043】
図6(1)は、モータが発生したトルクを示す図である。図6(2)は、モータへ入力する操作量を示す図である。なお、モータへ入力する操作量として、PWM駆動方式が一般的に使用される。
【0044】
図6の横軸は、モータ1回転分の角度情報であり、図6(1)の縦軸は、発生したトルク値であり、図6(2)の縦軸は、PWMのDuty[%]である。図6中の指令PWM(細実線)は、一定値で指令を出したときの状態であり、この場合、モータ全角度に50%Duty命令を送っている。望むべきトルク特性は、図6(1)に示す理想トルク(太実線)であるが、実際には、コギングトルクリップルの影響から、実際トルク(細実線)のようなトルク特性になる。
【0045】
モータ角度で25°、150°、275°近傍が、トルクの最も発生する場所であり、90°、215°、330°近傍が、トルクの最も減少する領域である。この、実際トルク(細実線)のトルク変動量を計測し、モータ角度に依存したトルク変動が相殺されるように、操作量を補正した特性が、補正PWM(細点線)である。
【0046】
モータ角度で、25°、150°、275°近傍では、操作量を減少し、90°、215°、330°近傍では、操作量を増加する傾向に補正することによって、実際に発生するトルクは、補正トルク(細点線)の状態である。
【0047】
図4に示す駆動系100と図5に示す駆動系200とでは、コギングトルクリップル補正の適用方式が異なる。すなわち、補正値を反映させるモータの対象が異なる。つまり、図4に示す駆動系100では、駆動系に配置される2つのモータMT1、MT2の双方に補正値を反映することによって、制御対象に伝達される合算トルクでのトルクリップルを抑制する。これに対して、図5に示す駆動系200では、モータMT1にのみ補正値を反映することによって、制御対象に伝達される合算トルクでのトルクリップルを抑制する。
【0048】
次に、図4に示す駆動系100について説明する。
【0049】
制御対象14の動作目標値として、制御指令値13が決められる。制御対象の状態を、エンコーダ15が計測し、位置、速度情報32が、PID演算器16に入力される。PID演算器16では、制御指令値13と位置、速度情報32との偏差量に基づいて、PID演算を行い、次命令として、操作量17を出力する。操作量17は、モータMT1、モータMT2のそれぞれに入力され、それぞれ、発生トルク19、発生トルク21を出力する。発生トルク19と発生トルク21とが、メカ機構に連結され、この合算トルク22が、制御対象14に加えられる。上記一連の処理が、フィードバック制御系FBCであり、このフィードバック制御を随時行うことによって、制御対象14を動作仕様に従い制御駆動する。
【0050】
第1のコギングトルク補正器TA1は、エンコーダ15が検出したモータ角度情報26と第1の補正値推定器ES1が推定した第1の補正推定値とに基づいて、モータMT1のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第1の補正量28を算出する。つまり、第1のコギングトルク補正器TA1は、エンコーダ15から得られるモータ角度情報26から、現在状態でのモータ角度を確認し、この確認した角度に応じて、コギングトルクリップルを抑制する第1の補正量28を算出する。加算器A1が操作量17に第1の補正量28を加算し、この加算値が、モータドライバ28dを介してモータMT1に入力される。制御対象14の誤差状態から、随時値を修正するのではなく、モータ角度によって一意に決定される補正値を加える。この制御ループが第1のフィードフォワード制御系FFC1である。
【0051】
第2のコギングトルク補正器TA2は、エンコーダ15が検出したモータ角度情報26と第2の補正値推定器ES2が推定した第2の補正推定値とに基づいて、モータMT2のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第2の補正量30を算出する。つまり、第2のコギングトルク補正器TA2は、エンコーダ15から得られたモータ角度情報26に基づいて、現在状態でのモータ角度を確認し、その角度に応じて、コギングトルクリップルを抑制する第2の補正量30を算出する。加算器A2が操作量17に第2の補正量30を加算し,この加算値が、モータドライバ30dを介してモータMT2に入力される。この制御ループが、第2のフィードフォワード制御系FFC2である。
【0052】
図7は、コギングトルクリップル補正値を算出する動作を示すフローチャートである。
【0053】
モータMT2への動力が、動力遮断器31によって遮断され、図7において説明する補正値算出フローチャートを実行する。
【0054】
コギングトルクリップル補正部TA10は、第1のコギングトルク補正器TA1と第2のコギングトルク補正器TA2とによって一連の処理が実行される部分である。インクジェットプリンタPR1の駆動系100は、フィードバック制御系FBCと、第1のフィードフォワード制御系FFC1と、第2のフィードフォワード制御系FFC2とを併用する。したがって、制御対象14に対して、2つのモータが存在する駆動制御系においても、コギングトルクリップルを抑制し、安定した駆動が可能である。
【0055】
図4に示す制御ブロック図によってコギングトルクリップル補正を適正に行うためには、第1のコギングトルク補正器TA1、第2のコギングトルク補正器TA2での第1の第1の補正量28、第2の補正量30の算出演算のパラメータを同定する必要がある。
【0056】
図8、図9、図10は、フローチャートの中で、モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。
【0057】
図8(1)、図9(1)、図10(1)は、モータが発生したトルクを示す図であり、図8(2)、図9(2)、図10(2)は、モータへ入力する操作量を示す図である。
【0058】
図8〜図10における横軸は、モータ1回転分の角度情報であり、図8(1)、図9(1)、図10(1)の縦軸が、発生したトルク値であり、図8(2)、図9(2)、図10(2)の縦軸が、PWMのDuty[%]である。操作量として50%Dutyが指定される場合を考える。
【0059】
図8、図9、図10に示すモータMT1、MT2は、それぞれ図4に示すモータMT1、モータMT2に相当する。
【0060】
図8は、調整を開始する前の状態を示す図である。モータMT1のPWM(実線)、モータMT2のPWM(点線)の双方に、一定の50%Dutyが加わっている状態である。しかし、実際に発生しているトルクは、コギングトルクリップルの影響によって変動する。つまり、双方とも、モータ角度で25°、150°、275°近傍が、最もトルクが発生する領域であり、90°、215°、330°近傍が、トルクが最も減少する領域である。2つのモータが似たようなトルク変動特性を持っているので、合算トルク(太線)は、単独モータと比較すると、倍増したトルク変動特性をもつ。
【0061】
図7に示すS1で、動力遮断器31を用いて、モータMT2への動力を遮断する。S1で、制御系におけるモータMT2からのコギングトルクリップルの影響が削除されるので、モータMT1のコギングトルクリップルに関してのみの補正値を算出することができる。ただし、もともと2つのモータによる合算トルクで駆動することを想定している駆動系であり、片方の出力がなくなるので、動作可能な範囲に制限がかかる。このために、S2で、単独モータでの動作可能な範囲での低速度領域で、補正値検出のための目標動作速度(低速度)V1を定める。
【0062】
S3で、目標動作速度(低速度)V1で制御系を駆動させ、モータMT1単独でのトルク特性を確認する。S4で、モータMT1が補正を加える必要がない程度にコギングトルクリップルに優れたモータであれば、後述のS9に処理を移行する。補正が必要であれば、S5に遷移し、モータ角度におけるトルク補正を行うために、第1のコギングトルク補正器TA1に、補正値算出演算パラメータADUST1を設定する。
【0063】
なお、上記補正値算出演算パラメータADUST1は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断した状態で、モータMT1のコギングトルクリップルを打ち消すためのモータMT1の補正値である。上記補正値算出演算パラメータADUST1を検出する場合、速度情報からコギングトルクリップルに起因した速度変動成分を検出し、モータMT1へのPWMDUTY値を変化させつつ、その速度変動が最小になる値を検出する。この速度変動が最小である値が、補正値算出演算パラメータADUST1である。
【0064】
S6で、第2のフィードフォワード制御系FFC2を有効にした状態で、モータMT1を、目標動作速度(低速度)V1で駆動する。S7で、補正結果を確認し、適正に行われていれば、S8で、モータMT1への補正を開始し、S9で、モータMT2への動力遮断を解除する。これによって、モータMT1に対する補正を終了する。S7で調整エラーであると判断されれば、S5に戻り、設定値を変更し、再度補正確認する。ここまでが、モータMT1を対象とする補正値を算出する動作である。
【0065】
図9は、S9でモータMT2への動力を復帰した場合における発生トルクの様子を示す図である。
【0066】
モータMT1のPWMが、図8に示す場合では、50%Duty固定であるが、コギングトルクリップルの逆位相になるように補正されている。モータMT1のトルクは、図8に示す場合と比較すると、トルク変動が抑制された状態に変化し、合算トルクの変動量も、図8に示す場合の半分程度に抑えられている。
【0067】
S10で、モータが2個状態における補正値検出のための目標速度を決定する。この速度は、補正の対象となる速度領域に依存する。具体的には、搬送ローラ駆動系に関して、停止直前の低速度領域での速度変動を安定化するので、停止精度の向上を図ることが目的である。このために、補正速度は、低速度領域に設定される。この場合、モータ単独でも動作可能な速度になることが考えられ、目標動作速度(低速度)V1を、補正領域速度に設定し、モータMT1、モータMT2の双方の補正値検出速度に適用することが望ましい。この処理が、S12である。
【0068】
図11は、S12(検出速度を目標動作速度(低速度)V1に設定した場合)における駆動波形と補正対象領域との関係を示す図である。
【0069】
図11において、横軸は、時間を示し、縦軸は、速度を示す。駆動速度波形は、加速、定速、減速を経て、目標値に到達する。補正対象領域は、停止直前の丸で囲まれている可動領域である。これに対して、図11中、左の矢印は、モータが1つである場合における可動領域と、モータが2個である場合における可動領域とを示す。どちらの可動領域でも、図11中、丸で囲まれている可動領域を動かすことが可能であるので、補正値検出を、全て丸で囲まれている可動領域の低速度で行う。
【0070】
キャリッジ駆動系に関しては、印字中の速度変動の安定化が目的である。この場合、モータ2つを合算して初めて実現できるような速度になることが多く、印字速度に相当する目標動作速度(高速度)V2を設定する。この処理が、S11である。
【0071】
図12は、駆動波形と補正対象領域との関係を示す図である。
【0072】
図12において、横軸は、時間を示し、縦軸は、速度を示している。駆動速度波形は、加速、定速、減速を経て目標値に到達する。補正対象領域は、インク吐出を行う定速領域(丸で囲まれている部分)である。
【0073】
これに対して、モータが1つでの可動領域、2個での可動領域を、図12中、左の矢印が示している。補正対象領域は、モータ2個でしか動作できない領域である。このために、モータを単独で駆動した場合は、低速度で動作し、2個のモータを駆動した場合は、丸で囲まれている領域の高速度で動作するように使い分ける。ただし、キャリッジ駆動系においても、図11に示すやり方で補正値を検出し、速度依存分の変換係数を加味する方法も考えられる。
【0074】
S11またはS12で決定された設定速度によって、S13で、制御系を駆動し、モータMT2でのトルク特性を確認する。なお、これまでのステップによって、モータMT1でのコギングトルクリップルは抑制されている。
【0075】
S14で、モータMT2が補正を加える必要がない程度にコギングトルクリップルに優れたモータであれば、調整終了に遷移する。補正が必要であれば、S15に遷移し、モータ角度におけるトルク補正を行うために、第2のコギングトルク補正器TA2に、補正値算出演算パラメータADUST2を設定する。
【0076】
補正値算出演算パラメータADUST2は、動力遮断器31の動力遮断を解除し、モータMT1とMT2との合計トルクが合算トルク22である状態で、モータMT2のコギングトルクリップルを打ち消すためのモータMT2の補正値を求めるパラメータである。この際の合算トルク22では、第1のコギングトルク補正器TA1によって、モータMT1のコギングトルクリップルの影響を無視できる。
【0077】
S16で、第2のフィードフォワード制御系FFC2を有効にした状態でモータMT1とMT2とを設定速度(V1またはV2)で駆動させる。S17で、補正結果を確認し、補正が適正に行われていれば、調整を終了する。調整エラーであると判断されれば、S15に戻り、設定値を変更し、再度、補正を確認する。
【0078】
図10は、調整終了段階での発生トルクの様子を示す図である。
【0079】
モータMT1のPWMは、図8のままで補正済み状態である。モータMT2のPWMは、図8、図9では、50%Duty固定であるが、コギングトルクリップルの逆位相になるように補正されている。モータMT2のトルクも、図8に示す場合と比較すると、トルク変動が抑制された状態に変化し、合算トルクで見た場合、トルク変動は、ほぼ抑制されている。
【0080】
また、S1におけるモータMT2への動力遮断については、いくつかの手段が考えられる。
【0081】
図13は、コギングトルクリップル補正部TA30を示すブロック図である。
【0082】
図13に示すコギングトルクリップル補正部TA30は、図4に示すコギングトルクリップル補正部TA10において、手段の異なる動力遮断器(切り替え器38)を付加した場合を示す図である。
【0083】
動力遮断器31は、モータMT2から制御対象14までの動力の伝達経路をメカ構成から遮断する方式を採用したものである。これに対して、切り替え器38は、モータMT2の直前で動力を遮断し、モータMT2への電気的な結線を遮断する方式を採用したものである。切り替え器38は、操作量17上に位置し、モータMT2に入力される操作量を0にすることによってソフト的に動力遮断する方式を採用したものである。これらの方式の中から、構成上適切なものを選択し、モータMT1の補正値算出を実行する。図13に示す構成のうちで、図4に示す符号と同じ符合に対応する構成は、同義のものである。
【0084】
上記実施例において、フィードバック制御系FBCと第2のフィードフォワード制御系FFC2との組合せが、モータMT2のみに補正値を入れる組合せである。この組み合わせは、図4に示す実施例で、第1のフィードフォワード制御系FFC1の制御を使用しない発明に相当する。つまり、モータMT1のトルクリップル特性が優秀であり、第1のフィードフォワード制御系FFC1の補正を必要としない場合には、図4に示す例で、第1のフィードフォワード制御系FFC1の制御を実行しない。
【0085】
図5は、2つのモータのうちの片方に補正を実行するインクジェットプリンタPR1の駆動系200を示すブロック図である。
【0086】
なお、図5に示す構成のうちで、図4に示す符号と同じ符合に対応する構成は、同義のものである。インクジェットプリンタPR1の駆動系200において、第1のコギングトルク補正器TA1と第3のコギングトルク補正器TA3とは、コギングトルクリップル補正をモータMT1に加える。
【0087】
インクジェットプリンタPR1の駆動系200は、第3のフィードフォワード制御系FFC3を有する。第3のフィードフォワード制御系FFC3は、第3のコギングトルク補正器TA3と、加算器A4と有する。
【0088】
第1のコギングトルク補正器TA1は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断した状態で、エンコーダ15からのモータ角度情報26に基づいて、現在状態でのモータ角度を確認する。そして、確認したこの角度に応じて、コギングトルクリップルを抑制する第1の補正量28を算出する。これによって、モータMT1のトルク変動特性を抑制する。
【0089】
第3のコギングトルク補正器TA3は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断しない状態で、エンコーダ15からのモータ角度情報26と、第3の補正値推定器ES3が推定した第3の補正推定値とに基づいて、現在状態でのモータ角度を確認する。そして、確認したこの角度に応じて、コギングトルクリップルを抑制する第3の補正量35を算出する。これによって、モータMT2のトルク変動特性を抑制する。
【0090】
つまり、第3の補正値推定器ES3は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断しない状態で、エンコーダ15が検出した位置、速度情報に基づいて、モータMT2のコギングトルクリップルを打ち消すための第3の補正推定値を推定する。第3のコギングトルク補正器TA3は、エンコーダ15が検出したモータ角度情報と第3の補正値推定器3が推定した第3の補正推定値とに基づいて、モータMT2のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第3の補正量35を算出する。この算出された補正量35をモータMT1に与える。
【0091】
フィードバック制御系FBCは、位置、速度情報32に基づいて、フィードバックをかける。
【0092】
そして、インクジェットプリンタPR1の駆動系200は、次の第1の組み合わせ、第2の組み合わせ、第3の組み合わせのいずれかを選択する。上記第1の組み合わせは、フィードバック制御系FBCと第1のフィードフォワード制御系FFC1と第3のフィードフォワード制御系FFC3との組み合わせである。上記第2の組み合わせは、フィードバック制御系FBCと第1のフィードフォワード制御系FFC1との組み合わせである。上記第3の組み合わせは、フィードバック制御系FBCと第3のフィードフォワード制御系FFC3との組み合わせである。
【0093】
操作量17に第1の補正量28と第3の補正量35とを加算したものが、モータMT1に入力される。この一連の制御ループが、第3のフィードフォワード制御系FFC3である。コギングトルクリップル補正部TA20が、第3のコギングトルク補正器TA3の一連の処理を実行する。
【0094】
フィードバック制御系FBCと第3のフィードフォワード制御系FFC3とを併用することによって、制御対象14に対して、2つのモータが存在するような駆動制御系においても、コギングトルクリップルを抑制し、安定した駆動が可能である。
【0095】
図5に示す制御ブロック図によって、コギングトルクリップルを適正に補正するためには、第1のコギングトルク補正器TA1による第1の補正量28、第3のコギングトルク補正器TA3による第3の補正量35の算出演算のパラメータを同定する必要がある。
【0096】
図4に示す動力遮断器31の位置がいくつか考えられる。図13は、図4をベースとして、その変更可能性の例を示す図である。したがって、図13に示す例は、第1のフィードフォワード制御系FFC1、第2のフィードフォワード制御系FFC2が対象となる制御系である。
【0097】
図14は、コギングトルクリップル補正値を算出するフローチャートである。
【0098】
図15、図16、図17は、モータMT1、モータMT2で発生するトルクを示す図である。図15(1)、図16(1)、図17(1)は、モータが発生したトルクを示す図である。図15(2)、図16(2)、図17(2)は、モータへ入力する操作量を示す図である。図15、図16、図17の横軸は、モータが1回転した場合における角度情報を示し、図15(1)、図16(1)、図17(1)の縦軸は、発生したトルク値を示し、図15(2)、図16(2)、図17(2)の縦軸は、PWMのDuty[%]を示す。操作量として50%Dutyが指定される場合を考える。図15、図16、図17に示すモータMT1、MT2は、図4に示すモータMT1、MT2に相当する。
【0099】
図15は、調整を開始する前の状態を示す図であり、図8に示す状態と同じ状態である。図14に示すS1〜S12の処理は、図7に示す処理と同じである。
【0100】
図16は、S9で、終了時における発生トルクの様子を示す図である。この発生トルクの様子も、図9と同じである。
【0101】
S11またはS12で決定された設定速度によって、S18で、制御系を駆動し、モータMT2でのトルク特性を確認する。なお、これまでのステップによって、モータMT1でのコギングトルクリップルは抑制されている。S19で、モータMT2が補正を加える必要がない程度にコギングトルクリップルに優れたモータであれば、調整終了に遷移する。S19で補正が必要であると判断されると、S20で、モータ角度におけるトルク補正を行うために、第3のコギングトルク補正器TA3に、補正値算出演算パラメータADUST3を設定する。
【0102】
なお、補正値算出演算パラメータADUST3は、動力遮断器31がモータMT2の動力を遮断しない状態で、モータMT2のコギングトルクリップルを打ち消すためのモータ補正値である。発生トルク19には、モータMT2のトルクリップルに相当するトルク変動成分が含まれるが、合算トルク22においては、そのトルク変動成分と、モータMT2のトルクリップルとが相殺し合う。なお、モータMT1のトルクリップルは、第1のコギングトルク補正器TA1によって除去される。したがって、最終的に制御対象に伝達されるトルク成分に着目すると、モータMT1、モータMT2のトルクリップル成分は除去される。
【0103】
補正値算出演算パラメータADUST3を検出する場合、速度情報からモータMT2のコギングトルクリップルに起因した速度変動成分を検出し、モータMT1へのPWMDUTY値を変化させつつ、モータMT2起因の速度変動が最小になる値を検出する。この速度変動が最小である値が、補正値算出演算パラメータADUST3である。
【0104】
モータMT1の出力だけ見た場合には、故意に発生させたトルクリップルが存在するが、そのトルクリップルは、MT2のトルクリップルと干渉しあい、相殺できるので、合算トルク22では、トルクリップルが存在しなくなる。
【0105】
S21で、第3のフィードフォワード制御系FFC3を有効にした状態で、モータMT1とモータMT2とを設定速度(V1またはV2)によって駆動する。S22で、補正結果を確認し、適正に補正されていれば、調整を終了する。調整エラーであると判断されれば、S20に戻り、設定値を変更し、補正を再度確認する。
【0106】
図17は、調整終了段階における発生トルクの様子を示す図である。
【0107】
モータMT1のPWMは、図16に示すモータMT1に対する補正値に加え、モータMT2の逆位相に相当する補正が加えられる。モータMT2のPWMは、固定値のままである。モータMT1のトルクは、図16に示すトルク変動が抑制された状態から、モータMT2のトルクの逆位相となる状態に変化している。モータMT1のトルクとモータMT2のトルクとを加算した合算トルク(太線)では、トルク変動が相殺され、最終的に制御対象14に入力されるトルクに関して、変動がほぼ抑制されている。
【0108】
制御対象14に対して、2つのモータが存在する場合の補正手段として、図4に示す駆動系100と図5に示す駆動系200とのいずれかを選択して実行するので、コギングトルクリップルを抑制し、しかも、良好な動作特性を実現することができる。なお、機能をプリンタに搭載する前に、図4に示す補正手段を選択するか、または、図5に示す補正手段を選択するかを決定する。
【0109】
上記選択する場合、駆動系を構成する諸々の条件に応じて、適切な方を選択する。たとえば、図13に示すキャリッジ駆動系であり、しかも、振動の伝達経路を考えた場合、図4に示す補正方法を選択することが望ましい。また、補正対象となる周波数が高ければ、その周波数に応じた補正値の反映速度を求めることが考えられ、この場合、CPU占有率が少なくなると推測される図5に示す方が適していると思われる。また、補正値の反映手段が、ソフト上での指定のみではなく、ASICなどを用いた電気ハード構成によって補正を実行する手段も考えられる。これらの条件などから、制御対象14となる駆動系に適切な方式を選択し、コギングトルクリップルの抑制を実現する。また、上記実施例において、3個以上の駆動源を持つ系についても、補正対象を駆動源の数だけ増やすことによって、対応できる。
【符号の説明】
【0110】
PR1…インクジェットプリンタ、
100、200…インクジェットプリンタPR1の駆動系、
MT1、MT2…モータ、
14…制御対象、
31…動力遮断器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の位置、速度情報を検出する状態検出器と、制御指令値と上記制御対象の位置、速度情報との差分値である操作量を演算する制御器と、上記操作量を入力する第1の駆動源、第2の駆動源とを具備し、上記第1の駆動源が発生した発生トルクと上記第2の駆動源が発生した発生トルクとを合算した合算トルクに基づいて上記制御対象を駆動するプリンタの制御装置であって、
上記第2の駆動源の動力を遮断する動力遮断器と;
上記動力遮断器が上記第2の駆動源の動力を遮断した状態で、上記位置、速度情報に基づいて、上記第1の駆動源のコギングトルクリップルを打ち消すための第1の補正推定値を推定する第1の補正値推定器と、上記状態検出器が検出したモータ角度情報と上記第1の補正値推定器が推定した上記第1の補正推定値とに基づいて、上記第1の駆動源のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第1の補正量を算出する第1のコギングトルク補正器とを含む第1のフィードフォワード制御系と;
上記動力遮断器が上記第2の駆動源の動力を遮断しない状態で、上記位置、速度情報に基づいて、上記第2の駆動源のコギングトルクリップルを打ち消すための第2の補正推定値を推定する第2の補正値推定器と、上記状態検出器が検出したモータ角度情報と上記第2の補正値推定器が推定した上記第2の補正推定値とに基づいて、上記第2の駆動源のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第2の補正量を算出する第2のコギングトルク補正器とを含む第2のフィードフォワード制御系と;
上記位置、速度情報に基づいて、フィードバックをかけるフィードバック制御系と;
を有し、上記フィードバック制御系と上記第1のフィードフォワード制御系と上記第2のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と第1のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と上記第2のフィードフォワード制御系との組み合わせとのいずれかを選択することを特徴とするプリンタの制御装置。
【請求項2】
制御対象の位置、速度情報を検出する状態検出器と、制御指令値と上記制御対象の位置、速度情報との差分値である操作量を演算する制御器と、上記操作量を入力する第1の駆動源、第2の駆動源とを具備し、上記第1の駆動源が発生した発生トルクと上記第2の駆動源が発生した発生トルクとを合算した合算トルクに基づいて上記制御対象を駆動するプリンタの制御装置であって、
上記第2の駆動源の動力を遮断する動力遮断器と;
上記動力遮断器が上記第2の駆動源の動力を遮断した状態で、上記位置、速度情報に基づいて、上記第1の駆動源のコギングトルクリップルを打ち消すための第1の駆動源の第1の補正推定値を推定する第1の補正値推定器と、上記状態検出器が検出したモータ角度情報と上記第1の補正値推定器が推定した上記第1の補正推定値とに基づいて、上記第1の駆動源のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第1の補正量を算出する第1のコギングトルク補正器とを含む第1のフィードフォワード制御系と;
上記動力遮断器が上記第2の駆動源の動力を遮断しない状態で、上記位置、速度情報に基づいて、上記第2の駆動源のコギングトルクリップルを打ち消すための第1の駆動源の第3の補正推定値を推定する第3の補正値推定器と、上記状態検出器が検出したモータ角度情報と上記第3の補正値推定器が推定した上記第3の補正推定値とに基づいて、上記第2の駆動源のモータトルクリップルを相殺し得るモータ操作量である第3の補正量を算出し、第1の駆動源に与える第3のコギングトルク補正器とを含む第3のフィードフォワード制御系と;
上記位置、速度情報に基づいて、フィードバックをかけるフィードバック制御系と;
を有し、上記フィードバック制御系と上記第1のフィードフォワード制御系と上記第3のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と第1のフィードフォワード制御系との組み合わせと、上記フィードバック制御系と上記第3のフィードフォワード制御系との組み合わせとのいずれかを選択することを特徴とするプリンタの制御装置。
【請求項3】
上記動力遮断器は、上記第2の駆動源へ入力される操作量を0にすることによってソフト的に遮断する方式と、上記第2の駆動源への電気的な結線を遮断する方式と、上記第2の駆動源から制御対象までの伝達経路をメカ構成から遮断する方式とのいずれかの方式を選択して動力を遮断する手段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリンタの制御装置。
【請求項4】
上記第1の補正値推定器は、制御対象を第1の一定速度で駆動させるフィードバック制御処理と、上記フィードバック制御処理で、エンコーダを含む状態検出器によって検出されたエンコーダの位置毎での制御対象の実際の駆動速度を、1周期360度単位で解析して補正値とする処理とを実行する手段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリンタの制御装置。
【請求項5】
上記第1の一定速度は、駆動源が単独でも動作可能な範囲である動作速度であることを特徴とする請求項4に記載のプリンタの制御装置。
【請求項6】
上記第2の補正値推定器は、制御対象を第2の一定速度で駆動させるフィードバック制御処理と、上記フィードバック制御処理で、エンコーダを含む状態検出器によって検出されたエンコーダの位置毎での制御対象の実際の駆動速度を、1周期360度単位で解析して補正値とする処理とを実現する手段であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリンタの制御装置。
【請求項7】
上記第2の一定速度は、駆動源が単独でも動作可能な範囲となる動作速度である第1の一定速度と同等の速度、または、駆動源が2個で動作可能な範囲となる第3の一定速度であることを特徴とする請求項6に記載のプリンタの制御装置。
【請求項8】
上記制御対象は、シート部材を挟持して搬送する搬送ローラであり、上記駆動源は、モータであり、
上記搬送ローラを駆動させる上記モータの駆動力を上記搬送ローラに伝達する駆動伝達手段と、上記搬送ローラの位置、速度を検出する状態検出器とが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリンタの制御装置。
【請求項9】
1周期360度に相当する制御対象の駆動距離は、駆動源のコギングトルク変動1周期分の駆動距離、または、駆動源のコギングトルク変動1周期分の駆動距離と搬送ローラ1回転分の駆動距離との最小公倍数からなる距離であることを特徴とする請求項8に記載のプリンタの制御装置。
【請求項10】
上記第1の一定速度と第2の一定速度は、シート部材搬送装置の停止する直前の微低速度領域に相当する速度であることを特徴とする請求項8に記載のプリンタの制御装置。
【請求項11】
上記制御対象は、記録ヘッドを搭載したキャリッジと、上記第1の駆動源、上記第2の駆動源の駆動力を上記キャリッジに伝達する駆動伝達手段とであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリンタの制御装置。
【請求項12】
上記プリンタの制御装置における1周期360度に相当する制御対象を駆動する距離は、駆動源のコギングトルク変動1周期分の駆動距離、1周期360度に相当する制御対象の駆動距離をキャリッジの走査範囲から数箇所を選択した距離、または、1周期360度に相当する制御対象の駆動距離の倍数でキャリッジの走査範囲で動作可能な最大領域となる距離であることを特徴とする請求項11に記載のプリンタの制御装置。
【請求項13】
上記プリンタの制御装置における第1の一定速度は、メカ初期化動作時にキャリッジが動作する低速度であることを特徴とする請求項11に記載のプリンタの制御装置。
【請求項14】
上記プリンタの制御装置における第2の一定速度は、記録媒体への印字を行う印字速度であることを特徴とする請求項11に記載のプリンタの制御装置。
【請求項15】
上記プリンタは、記録媒体を間欠搬送しつつインクジェットヘッドを搭載したキャリッジを往復走査し、画像を形成するシリアル式インクジェットプリンタであることを特徴とする請求項8または請求項11に記載のプリンタの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−135073(P2012−135073A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282683(P2010−282683)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】