説明

プリント回路基板

【課題】基板上の搭載部品を増加させず、すなわち基板を拡大することなくノイズ除去作用が得られるプリント回路基板を提供する。
【解決手段】基板1A上の配線2に、電流の流れる方向に垂直の磁化容易軸を持つパーマロイ等の金属製強磁性材料層13を固着してインダクタンス値を高くする。また、基板1Aを、磁性粉を混合した樹脂により構成し、高周波領域におけるノイズ除去作用を得る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プリント回路基板に係り、より詳しくはノイズ除去のための構成に関する。
【0002】
【従来の技術】電子機器のデジタル化および高周波化に伴い、該電子機器から輻射されるノイズおよび該ノイズによる該電子機器の誤動作等が問題になっている。従来、ケーブル等において信号に混在しているノイズを除去するため、例えば特開昭56−107480号公報に示されるように、基板上にノイズ除去のためのインピーダンス素子やローパスフィルタを搭載している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、これらのノイズ対策部品を基板に搭載すると、そのノイズ対策部品の搭載分だけ基板を拡大する必要があり、小型軽量化の障害となり、コストアップにもつながるという問題点がある。
【0004】本発明は、上記問題点に鑑み、基板上の搭載部品を増加させず、すなわち基板を拡大することなくノイズ除去作用が得られるプリント回路基板を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1のプリント回路基板は、基板上の配線に、電流の流れる方向に垂直の磁化容易軸を持つ金属製強磁性材料層を固着したことを特徴とする。
【0006】請求項1においては、配線上に固着した金属製強磁性材料層は、磁化容易軸が電流の流れる方向に対して垂直方向となっているので、ノイズ電流が流れた際に、大きなインダクタンスを得ることができ、比較的周波数の低い領域においてノイズを除去することができる。
【0007】請求項2のプリント回路基板は、請求項1において、前記金属製強磁性材料層を複数層備え、該各強磁性材料層間に銅層を介在させたことを特徴とする。
【0008】請求項2において、強磁性材料としてパーマロイ等を設ければ、厚みを大きくすると剥離を生じやすくなるが、磁性材料層間に銅層を介在させることにより、トータルの磁性材料の厚みが大きくかつ剥離の生じない磁性材料を得ることができる。
【0009】請求項3のプリント回路基板は、請求項1または2において、基板を磁性粉を混合した樹脂からなるものにより構成したことを特徴とする。
【0010】このように、基板を樹脂に磁性粉を混合したものによって構成することにより、高周波領域での損失を増加させ、不要な高周波ノイズを除去することができる。前記金属製強磁性材料においては、20MHz以上になると比透磁率が下がってしまうが、磁性粉を樹脂に混合した基板では高周波領域における損失を増加させることができる。
【0011】請求項4のプリント回路基板は、請求項3において、前記基板が比透磁率100以上のNi−Znフェライトからなる磁性粉を樹脂に50wt%〜90wt%混合してなることを特徴とする。
【0012】このように、Ni−Zn系フェライトの粉末を混合した樹脂の成形体によって基板を構成すれば、高周波領域での損失を増大させ、不要な高周波ノイズを除去することができる。フェライトの混合比が50wt%未満では著しく磁気特性が低下するため、所望の特性は得られない。また、混合比が90wt%を超えると、樹脂の流動性が著しく悪くなるため、インジェクション成形等の成形の際の寸法精度が悪くなり、取扱いが困難となる。また、比透磁率が100未満のNi−Znフェライトでは磁気特性が低下するため、所望の特性が得られない。なお、Mn−Zn系フェライトでは電気抵抗が低いため、樹脂中に混合した場合、絶縁性の問題があって高周波領域における特性が得られず、高周波ノイズ除去の用途には適しない。
【0013】
【発明の実施の形態】図1は本発明によるノイズ対策を施すプリント回路基板のパターンの一例である。該基板1は樹脂基板(FR−4)上に銅電極(以下配線と称す)2のパターニングを施し、かつ電子部品が搭載できるようにランド3が設けられたものである。本発明においては、配線2上の必要部分、すなわちノイズを除去する必要のある部分にノイズ除去のための処理を施す。
【0014】図2は図1において点線で囲まれた領域4を拡大して本発明による処理を説明するものである。図2(A)はこの領域4におけるパターンを示しており、例えば基板1の厚みは0.8mm、配線2の厚みは18μm、幅W1は1mm、ノイズ除去処理を施す長さL1は4mm、ランド3の縦幅L2は1mm、横幅W2は2mm、間隔Gは1mmに設定されたものである。
【0015】このパターンにおいて、強磁性材料であるパーマロイ(鉄15〜25%、ニッケル75〜85%)のメッキを配線2上に施すことにより、磁歪がほぼ0の磁性膜を実現することができる。パーマロイメッキを施すに当たり、まず、電子部品を半田付けするランド3上へのメッキ防止と、他のメッキ不要な領域へのメッキ防止を図るため、図2(B)、図3(A)に示すように、領域4におけるランド3上と、領域4以外の他の領域にレジスト5によるマスキングを施した。
【0016】次に図3(A)に示すように、プラスチック容器6のなかに300g/lの濃度の硝酸ニッケル液を入れ、その液中に8g/lの濃度となるように硫酸鉄を溶け込ませてメッキ液7とし、メッキ液7の温度を40℃、pHを希硫酸により約2.5に調整した。そしてそのメッキ液7中にニッケル板からなる陽極板9と基板1とを、基板1のメッキ面が陽極板9に対面するようにセットした。また、容器6の外側にマグネット等の磁場発生装置12を置き、直流電源10により配線2に電流を流したときに、配線2の方向と、磁場発生装置12による磁束の方向とが平行になるようにセットした。
【0017】そして、直流電源10の陽極、陰極をそれぞれワイヤ11により陽極板9、基板1に接続し、電流値を約30〜40mAに調整し、約30分メッキした。これにより付着したパーマロイの組成はニッケル80%、鉄20%であり、厚みは約10μmであった。そして、先の工程で付着させたレジスト5を除去するため、5%水酸化ナトリウム水溶液中に基板1を浸漬して剥離した。これにより、図2(C)に示すように、前記領域5上の配線2上にパーマロイでなる強磁性材料層13が固着されたものを得た。
【0018】このようにして強磁性材料層13を配線2上に固着させた基板1のインダクタンス特性を図4(A)に示す。強磁性材料層13を施していない図2(A)の配線2、ランド3の図示部分の両端14、15間に1MHzにおけるインダクタンス値は約1.8nHであり、一方、図2(C)に示すように、パーマロイでなる強磁性材料層13を固着した配線2、ランド3における前記両端14、15間のインダクタンス値は約6.8nHとなり、約3.5倍の値が得られた。
【0019】また、図3(B)に示すように、パーマロイでなる複数の強磁性材料層13を、その間に銅層17を介在させてメッキすることにより、さらにインダクタンス値を上げることができる。図3(B)の構造を実現するため、図2(B)に示したように、レジスト5を付けた状態でパーマロイでなる強磁性材料層13をメッキした後、レジスト5を残したままで基板1を硫酸銅液中に入れ、電流値3Aで約3分電解メッキを施すことにより、前記強磁性材料層13上に約2μmの銅層17を形成した。その後、前記同様に銅層17上に2番目の強磁性材料層13を前記の電解メッキにより10μmの厚みに形成した。その後、レジスト5を前記5%水酸化ナトリウム水溶液により剥離した。
【0020】このように2層に強磁性材料層13を形成したものにおいて、前記両端14、15間のインダクタンス値の周波数特性は図4(B)に示すようになり、1MHzにおけるインダクタンス値は約8.3nHとあがり、強磁性材料層13を設けない場合の約4.5倍の値が得られ、強磁性材料層13が単層の場合より高い値が得られた。このように、複数の強磁性材料層13間に銅層17を介在させることにより、脆いパーマロイでもトータルの厚みを増やした複数層の強磁性材料層13を実現することができ、インダクタンス値を高めることができる。
【0021】図5(A)、(B)は本発明の他の実施の形態をそれぞれ示す斜視図、側面図である。本実施の形態は、基板1Aとして、エポキシ樹脂に比透磁率が700で平均粒径が約50μmのNi−Znフェライトの破砕粉を約70wt%混合した樹脂基板を用いたものである。この基板1Aの比透磁率は約4.5であった。基板1A上に配線2上には前記強磁性材料層13が1層または前述のように銅層17を挟んで形成する。
【0022】図6は、前記FR−4基板1を用い、強磁性材料層13を設けない場合の前記配線2、ランド3の両端14、15間のインピーダンスの周波数特性と、基板1Aとして前記70wt%のNi−Zn粉を混合したエポキシ樹脂板を用い、強磁性材料層13を設けない場合の前記両端14、15間のインピーダンスの周波数特性を比較して示す図である。図示のように、1GHzにおける従来の基板1のインピーダンス値は約10Ωであり、一方本発明による磁性粉混合の基板においては約25Ωとなり、約2.5倍のインピーダンス値を得ることができた。したがって、高周波領域におけるノイズ除去作用が得られる。また、強磁性材料層13と共に磁性粉混合基板1Aを用いることにより、広い周波数領域でノイズ除去が可能な基板が得られる。しかも基板1Aは基板そのものであって、サイズを大きくする必要がなく、また、強磁性材料層層13は配線2上に設けられるので、基板1のスペースを取ることが無く、省スペース化に益する。
【0023】次に前記樹脂と磁性粉とからなる基板1Aとして好適な磁性粉の材料と混合率について検討した結果について説明する。図7(A)、(B)は、それぞれNi−Znフェライトでなる磁性粉の比透磁率μの違いによる比透磁率の実数部分μ’と虚数部分μ”を、比透磁率μが10、100、1000の磁性粉を用いた場合について示すものである。なお、この場合、磁性粉の混合率は70wt%である。図7から、高周波領域におけるインピーダンスに対する影響の大きい虚数部分μ”に高い値を得るには、比透磁率100以上であることが好ましいことが分かる。
【0024】図8(A)、(B)は、Ni−Znでなる比透磁率μが700の磁性粉の樹脂に対する混合率を50、65、80wt%と変化させた場合の比透磁率μの実数部分μ’、虚数部分μ”の変化を示すものである。図8から分かるように磁性粉の混合率の低下に伴い比透磁率の実数部分μ’と虚数部分μ”は共に低下する。磁性粉の混合率が50wt%の場合、比透磁率の実数部分μ’の値は真空のμ’=1の2倍にも満たなくなり、所望の特性を得るには磁性粉の混合率は50wt%以上であることが好ましい。一方、磁性粉の混合率が90wt%を越えると、成形の際の寸法精度が悪くなるため、取扱いが困難となる。従って磁性粉の混合率は50〜90wt%とすることが好ましい。
【0025】
【発明の効果】請求項1によれば、基板上の配線に、電流の流れる方向に垂直の磁化容易軸を持つ金属製強磁性材料層を固着したので、比較的低周波領域のノイス除去が可能となり、所定の用途において、基板上にノイズ対策部品を搭載する必要がなくなり、基板上の搭載部品を増加させず、すなわち基板を拡大することなく実現でき、小型軽量化に寄与する。また、配線上に固着した金属製強磁性材料層は、磁化容易軸が電流の流れる方向に対して垂直方向となっているので、ノイズ電流が流れた際に、大きなインダクタンスを得ることができる。
【0026】請求項2によれば、請求項1において、複数の強磁性材料層を、その磁性材料層間に銅層を介在させて設けたので、トータルの磁性材料の厚みが大きくかつ剥離の生じない磁性材料を得ることができ、より大きなインピーダンス値を得ることができる。
【0027】請求項3によれば、請求項1または2において、基板を磁性粉を混合した樹脂からなるものにより構成したので、高周波領域での損失を増加させ、不要な高周波ノイズを除去することができ、より広い周波数領域におけるノイズ除去が可能となり、基板も拡大する必要がない。
【0028】請求項4によれば、請求項3において、前記基板が比透磁率100以上のNi−Znフェライトからなり、該磁性粉を樹脂に50wt%〜90wt%混合してなるので、高周波領域での損失を増大させ、不要な高周波ノイズを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるノイズ除去手段を施すプリント回路基板の配線パターンを示す平面図である。
【図2】(A)、(B)、(C)は本発明において基板上に配設する金属製強磁性材料層をメッキにより形成する場合の工程を示す図である。
【図3】(A)は本発明において、金属製強磁性材料層を配線上に形成する装置構成の一例を示す図、(B)は本発明の他の実施の形態を示す基板の側面図である。
【図4】(A)は本発明において、金属製強磁性材料層形成によるインダクタンス値の周波数特性図、(B)はさらに複数の金属製強磁性材料層を形成した場合のインダクタンス値の周波数特性図である。
【図5】(A)は樹脂と磁性粉でなる本発明による基板の他の実施の形態を示す斜視図、(B)は(A)の側面図である。
【図6】本発明において、樹脂と磁性粉でなる基板を作製した場合のインピーダンス値の周波数特性図である。
【図7】(A)、(B)は本発明において、それぞれNi−Znフェライトでなる磁性粉の比透磁率μの違いによる透磁率の実数部分μ’と虚数部分μ”の周波数特性を比透磁率μが10、100、1000である場合について示す。
【図8】(A)、(B)は本発明において、Ni−Znでなる比透磁率700の磁性粉の樹脂に対する混合率を50、65、80wt%と変化させて基板を構成した場合の比透磁率μの実数部分μ’、虚数部分μ”の周波数特性を示すものである。
【符号の説明】
1、1A:プリント回路基板、2:配線、3:ランド、5:レジスト、6:プラスチック容器、7:メッキ液、9:陽極板、10:直流電源、12:磁界発生装置、13:強磁性材料層、17:銅層

【特許請求の範囲】
【請求項1】基板上の配線に、電流の流れる方向に垂直の磁化容易軸を持つ金属製強磁性材料層を固着したことを特徴とするプリント回路基板。
【請求項2】請求項1において、前記金属製強磁性材料層を複数層備え、該各強磁性材料層間に銅層を介在させたことを特徴とするプリント回路基板。
【請求項3】請求項1または2において、前記基板を、磁性粉を混合した樹脂により構成したことを特徴とするプリント回路基板。
【請求項4】請求項3において、前記基板が比透磁率100以上のNi−Znフェライトからなる該磁性粉を樹脂に50wt%〜90wt%混合してなることを特徴とするプリント回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2001−135901(P2001−135901A)
【公開日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−314621
【出願日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【出願人】(000003067)ティーディーケイ株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】