説明

プリント配線板およびその製造方法

【課題】繰り返し屈曲される使用下でも、配線パターンが早期に破断することをなくし、優れた耐久性を得ることである。
【解決手段】可撓性絶縁基材11の少なくとも一方の面に銅製の配線パターン12を有するプリント配線板10において、配線パターン12のうちプリント配線板10が屈曲使用される部位10Aに位置する配線パターン12A上に、伸縮性補強導体層13をスクリーン印刷よって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリント配線板およびその製造方法に関し、特に、フレキシブルプリント配線板、フレックスリジットプリント配線板等、屈曲使用されるプリント配線板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラムシェル型やスライド型の携帯電話器や、ハードディスクドライブ装置等に用いられるプリント配線板のうち、ヒンジ部や可動部に相当する部分は、比較的高頻度で、繰り返し屈曲される。このため、フレキシブルなプリント配線板が屈曲使用される部位は、特に、耐屈曲疲労性を要求される。
【0003】
このことに対して、従来のプリント配線板では、その屈曲使用部位は、基本的には、ポリイミドフィルム等による可撓性絶縁基材と、銅による配線パターン(導体パターン)と、ポリイミドフィルム等によるカバーレイによる3層構造であり、銅配線パターンが、その構成層中、最も硬い(硬質)ものになる。
【0004】
このため、屈曲、つまり曲げモーメントによるストレス(内部応力)が、その構成層中、最も硬い(硬質の)銅配線パターンに集中し、専ら引張応力によって銅配線パターンが破断(断裂)し、導通不良を生じるおそれがあり、特に繰り返し屈曲される使用下では、早期に生じるおそれがあり、耐久性に問題が生じる。
【0005】
そこで、以下に示す特許文献1には、プリント配線板が屈曲使用される部位に位置する配線パターン上に、銅より軟質の金属による強導体層を有し、屈曲によるストレスが補強導体層に分散し、同ストレスが銅配線パターンに集中することを回避する技術が記載されている。このような技術を採用することで、銅配線パターンが繰り返し屈曲によって早期に破断することが回避され、導通不良(断線)を生じ難くなり、耐久性が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−302879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記技術が提案された当時に比べて、近年ではプリント配線板を使用するクラムシェル型やスライド型の携帯電話器のさらなる薄型化が進んでいる。このため、プリント配線板の屈曲部の曲率半径がより小さくなる傾向にある。この結果、屈曲部で曲げモーメントによるストレス(内部応力)の集中を招きやすくなっていた。このため、上記従来の技術では、配線パターンの破断を十分に抑制することが困難になっていた。
【0008】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、配線パターンの破断を抑制する効果を向上して、より一層耐久性に優れたプリント配線板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、可撓性絶縁基材の少なくとも一方の面に配線パターンを有するプリント配線板において、配線パターンのうちプリント配線板が屈曲使用される部位に位置する配線パターン上に、伸縮性補強導体層を有するプリント配線板が提供される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、可撓性絶縁基材の少なくとも一方の面に配線パターンを有するプリント配線板の製造方法において、配線パターンの形成工程後に、配線パターンのうちプリント配線板が屈曲使用される部位に位置する配線パターン上に、高粘度化された伸縮性導体材をスクリーン印刷して伸縮性補強導体層を形成する工程を含むプリント配線板の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、配線パターンの破断を抑制する効果を向上して、より一層耐久性に優れたプリント配線板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明によるプリント配線板の一つの実施形態を模式的に示す平面図である。
【図2】この発明によるプリント配線板の一つの実施形態を模式的に示す側面図である。
【図3】(a)〜(e)はサブトラクティブ法によってこの発明によるプリント配線板を製造する工程の一つの実施形態を模式的に示す工程図である。
【図4】(a)〜(g)はセミアディティブ法によってこの発明によるプリント配線板を製造する工程の一つの実施形態を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明によるプリント配線板の一つの実施形態を、図1、図2を参照して説明する。
【0014】
この実施形態のプリント配線板10は、可撓性絶縁基材11の一方の面に銅製の配線パターン12を有する。可撓性絶縁基材11は、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、液晶ポリマ等、フレックスなフィルム材料により構成されている。
【0015】
配線パターン12のうちプリント配線板10が屈曲使用される部位10Aに位置する配線パターン12A上には、当該配線パターンを構成する銅より軟質の金属に比べてより伸縮性の高い伸縮性補強導体層13が形成されている。
【0016】
伸縮性補強導体層13は、以下に示すようにして作製される。先ず例えば単層カーボンナノチューブ(略称:SWCNT)をイオン液体、例えば1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム−3フッ化メタンスルフォニルイミド(略称:BMITFSI)等で溶解してゲル化したペースト状の導電物質(バッキーゲル)を作製する。このペースト状の導電物質を弾性樹脂の一種のフッ素系共重合ポリマー、例えばダイキン工業社製の商品名ダイエール−G801等に分散させることで作製することが可能である(以下に示す参考文献1参照)。
【0017】
このような単層カーボンナノチューブを用いた伸縮性導体では、その導電率が数十〜100S/cm程度となる。このため、伸縮性導体の導電率は金属導体に比べて大幅に小さく、伸縮性導体のみで導体回路パターンを構成することは困難となる。しかし、本発明では、特定の部位、すなわちプリント配線板10が屈曲使用される部位10Aに位置する配線パターン12A上にのみ伸縮性補強導体層13を配置している。このため、この箇所で配線パターンが断線した場合には、この箇所でのみ伸縮性補強導体層13に電流が流れるので、配線パターン全体としての抵抗値の上昇を最小限にとどめることが可能となる。
【0018】
一方、以下に示す文献2に記載されている技術では、ジェットミル法を応用して、対向するノズルからイオン溶液と単層ナノチューブを噴射して衝突させることで、一定の長さを保った単層ナノチューブを持つバッキーゲルを形成し、このバッキーゲルと弾性樹脂とを混合することで単層ナノチューブを均一に分散させることを可能にして、伸縮性導体材の高粘度化を達成している。
【0019】
このような技術を採用して伸縮性補強導体層13を高粘度化することで、基板等に印刷することが可能となる。これにより、プリント配線板の製造において、配線パターンを形成した後、例えばスクリーン印刷等の方法で、屈曲使用される部位10Aに位置する配線パターン上にのみ伸縮性補強導体層13を選択的に形成することが可能となる。
【0020】
更に、伸縮性補強導体層13の存在部を含む可撓性絶縁基材11の配線パターン面は、その全体を、ポリイミドフィルム等によるカバーレイ14によって絶縁被覆されている。
【0021】
プリント配線板10が屈曲使用される部位10Aに位置する配線パターン12A上には、伸縮性補強導体層13が形成されているから、屈曲によるストレスが伸縮性補強導体層13に分散し、このストレスが配線パターン12に集中することが避けられる。
【0022】
これにより、プリント配線板10がクラムシェル型やスライド型の携帯電話器や、ハードディスクドライブ装置等に用いられ、プリント配線板10の部位10Aがヒンジ部や可動部に相当する部分に当てられることにより、同部位10Aが比較的高頻度で、繰り返し屈曲されても、配線パターン12Aが早期に破断することが回避され、導通不良(断線)を生じ難くなり、耐久性が向上する。
【0023】
また、たとえ、配線パターン12Aが断線しても、伸縮性補強導体層13によって電気的導通がバックアップ維持され、導通不良と云うプリント配線板にとって致命的な損傷が生じ難くなる。
【0024】
さらに、伸縮性補強導体層13と並行する箇所の配線パターン12が破断した場合には、破断部のみ伸縮性補強導体層13に電流が流れる構造となっている。このため、伸縮性補強導体層13の抵抗値が配線パターン12の抵抗値よりも大きい場合であっても、配線パターン12の抵抗値の上昇を最小限に抑えることが可能となる。
【0025】
このプリント配線板10は、サブトラクティブ法、セミアディティブ法の何れの工法で回路形成されたフレキシブルプリント配線板、あるいはフレックスリジットプリント配線板に適用可能である。フレックスリジットプリント配線板の場合、いうまでもなく、屈曲使用される部位は、屈曲可能なフレックス部である。
【0026】
また、この発明によるプリント配線板は、フレックス部(屈曲使用される部位)の両面に導体パターンがある両面プリント配線板にも、同様に適用可能である。
【0027】
つぎに、サブトラクティブ法によってこの発明によるプリント配線板を製造する工程(製造方法)を、図3(a)〜(e)を参照して説明する。なお、図3(a)〜(e)は、図1の線X−Xに沿った断面図に相当する。
【0028】
図3(a)に示されているように、可撓性絶縁基材をなすポリイミドフィルム21の片面に銅箔22を貼り付けられた銅張積層板(CCL)20を出発材として用意する。
【0029】
まず、図3(b)に示されているように、導体パターン形成のために、銅張積層板20の銅箔22上にエッチングレジスト層23を形成する。
【0030】
次に、図3(c)に示されているように、銅箔22のエッチングを行い、エッチング後にエッチングレジスト層23を除去し、銅配線パターン24を形成する。
【0031】
次に、屈曲使用される部位以外の部位にレジスト層(図示省略)を形成する。その後、図3(d)に示されているように、このレジスト層をマスクにして屈曲使用される部位の銅配線パターン24の表面に、上述したようにスクリーン印刷により高粘度化した伸縮性導電材25を選択的に形成する。この伸縮性導電材25が、伸縮性補強導体層13を構成する。
【0032】
次に、レジスト層(図示省略)を除去し、図3(e)に示されているように、ポリイミドフィルム21の配線パターン面を、絶縁性カバーレイとして、ポリイミドフィルム26によって絶縁被覆する。これにより、プリント配線板30が完成する。
【0033】
次に、セミアディティブ法によってこの発明によるプリント配線板を製造する工程(製造方法)を、図4(a)〜(g)を参照して説明する。なお、図4(a)〜(g)も、図1の線X−Xに沿った断面図に相当する。
【0034】
まず、図4(a)に示されているように、可撓性絶縁基材をなすポリイミドフィルム41の片面に無電解めっき等によって導電性シード層42を形成されたものを出発材とし、図4(b)に示されているように、導電性シード層42上に導体パターン形成のためのめっきレジスト層43を形成する。
【0035】
次に、図4(c)に示されているように、導電性シード層42を給電電極として銅めっきを行い、導電性シード層42上に配線パターンとなる銅めっき層44を形成する。
【0036】
次に、図4(d)に示されているように、めっきレジスト層43を剥離し、図4(e)に示されているように、エッチングによって不要な導電性シード層42を除去し、配線パターン45を完成させる。
【0037】
次に、屈曲使用される部位以外の部位にレジスト層(図示省略)を形成する。その後、図4(f)に示されているように、レジスト層をマスクにして屈曲使用される部位の配線パターン45の表面に、上述したようにスクリーン印刷により高粘度化した伸縮性導電材46を選択的に形成する。この伸縮性導電材46が、伸縮性補強導体層13を構成する。
【0038】
次に、レジスト層(図示省略)を除去し、図4(g)に示されているように、ポリイミドフィルム41の配線パターン面を、絶縁性カバーレイとして、ポリイミドフィルム47によって絶縁被覆する。これにより、プリント配線板50が完成する。
【0039】
(参考文献1)
Science,American Association for the Advancement of Science(米国科学振興協会)発行,Vol.321,pp.1468−1472(2008)
(参考文献2)
Nature Materials,ネイチャー・パブリッシング・グループ発行,Vol.8,(6),pp.494−499(2009)
【符号の説明】
【0040】
10 プリント配線板
10A プリント配線板が屈曲使用される部位
11 可撓性絶縁基材
12 配線パターン
12A 屈曲使用される部位に位置する配線パターン
13 伸縮性補強導体層
14 カバーレイ
21 ポリイミドフィルム
22 銅箔
23 エッチングレジスト層
24 銅配線パターン
25 伸縮性導電材
26 ポリイミドフィルム
30 プリント配線板
41 ポリイミドフィルム
42 導電性シード層
43 めっきレジスト層
44 銅めっき層
45 配線パターン
46 伸縮性導電材
47 ポリイミドフィルム
50 プリント配線板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性絶縁基材の少なくとも一方の面に配線パターンを有するプリント配線板において、
前記配線パターンのうち前記プリント配線板が屈曲使用される部位に位置する配線パターン上に、伸縮性補強導体層を有するプリント配線板。
【請求項2】
前記伸縮性補強導体層は、カーボンナノチューブをイオン液体に溶解したバッキーゲルを弾性樹脂に分散して構成される
ことを特徴とする請求項1に記載のプリント配線板。
【請求項3】
前記伸縮性補強導体層の存在部を含む前記可撓性絶縁基材の配線パターン面に絶縁性のカバーレイが形成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプリント配線板。
【請求項4】
可撓性絶縁基材の少なくとも一方の面に配線パターンを有するプリント配線板の製造方法において、
前記配線パターンの形成工程後に、当該配線パターンのうち前記プリント配線板が屈曲使用される部位に位置する配線パターン上に、高粘度化された伸縮性導体材をスクリーン印刷して伸縮性補強導体層を形成する工程を含む
ことを特徴とするプリント配線板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216562(P2011−216562A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81458(P2010−81458)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】