説明

プレキャストRC柱の製造方法およびRC柱

【課題】高強度鉄筋を敢えて使用しなくても、設計想定荷重に対して柱主筋を降伏させることなく、圧縮・引張共有効に抵抗させることができ、しかもコンクリートの自己収縮による有害なひび割れ等の発生を効果的に防止することができるプレキャストRC柱の製造方法を提供する。
【解決手段】型枠内に、張力が付与された第1主筋11と、無応力状態の第2主筋12とを混在配置させた状態で、型枠内にコンクリートを打設した後、コンクリートの材齢初期段階で第1主筋11を解放することにより、コンクリートにプレストレスを導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度コンクリートを用いたプレキャストRC(鉄筋コンクリート)柱の製造方法および上記プレキャストRC柱を相互に接合してなるRC柱に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高層RC建物の低層階柱には、建物重量などによる大きな軸力が作用するため、一般に高強度コンクリートが用いられる(例えば特許文献1参照)。
図4は、地震時の柱における曲げモーメントと部材回転角との関係を模式的に示したもので、図中の×印は、部材端圧縮縁かぶりコンクリートが圧壊する時期を示している。この図から分かるように、使用するコンクリートが高強度になるほど、部材耐力および初期の剛性が高くなるとともに、上記かぶりコンクリートが圧壊する変形は小さくなる。
一般に、構造設計では、想定する地震に対して、柱に圧壊(設計終局限界)を生じさせない計画となっている。また、コンクリートの高強度化に伴い、柱に使用する鉄筋強度も大きくなる。これは、柱に生じる曲げモーメントが設計終局限界に達する以前に、圧縮側の主筋が降伏すると、上述した圧壊を誘発させる可能性があり、また中小地震で主筋が圧縮降伏すると、それ以降の長期的な柱の縮み(クリープ等による縮み)を増大させる懸念があるからである。このため、Fc100(設計基準強度が100N/mm2)以上のコンクリートを使用した柱では、主筋として高強度鉄筋USD685が用いられることが多い。
【0003】
図5は、Fc100超のコンクリートを用いた柱の主筋(USD685)について、地震時の応力履歴を模式的に示したものである。この図に見られるように、高強度鉄筋を主筋に用いているため、設計想定荷重の範囲では、主筋は圧縮降伏することなく弾性範囲内にある。一方、鉄筋の引張側に関しては、かなりの余力があり、鉄筋を圧縮・引張共、有効に使っていないことが分かる。
【0004】
コンクリートの高強度化は、部材断面の縮小化などのメリットがあるが、コンクリートが高強度になるほど初期強度発現時の自己収縮が大きくなる。そのため、RC部材では、収縮低減対策を施さないと、主筋などの鉄筋による変形拘束により、柱製造時にひび割れ(材軸に直交するひび割れ)を生じることもある。収縮低減対策は幾つかあるが、過剰な収縮低減対策を施すと、コンクリートの強度発現を抑制して、コンクリートの超高強度化を阻害する要因にもなり得る。
【特許文献1】特開2006−207281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、高強度鉄筋を敢えて使用しなくても、設計想定荷重に対して柱主筋を降伏させることなく、圧縮・引張共有効に抵抗させることができ、しかもコンクリートの自己収縮による有害なひび割れ等の発生を効果的に防止することができるプレキャストRC柱の製造方法およびRC柱を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、プレキャストRC柱の製造方法であって、型枠内に、張力が付与された第1主筋と、無応力状態の第2主筋とを混在配置させた状態で、上記型枠内にコンクリートを打設した後、上記コンクリートの材齢初期段階で上記第1主筋を解放することにより、上記コンクリートにプレストレスを導入することを特徴とするものである。
ここで、上記コンクリートの材齢初期段階とは、材齢1日〜3日程度をいう。ただし、コンクリート強度が高い場合や、大きい緊張力を導入したい場合、またはクリープが懸念される場合には、養生期間を確保する意味で、1週間程度導入を遅らせることもある。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストRC柱の製造方法において、上記コンクリートのクリープ安定時期にほぼ無応力状態となるように、上記第1主筋に付与する上記張力を調整することを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のプレキャストRC柱の製造方法において、上記コンクリートのクリープ安定時期に引張応力状態となるように、上記第1主筋に付与する上記張力を調整することを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明は、張力が付与された第1主筋と、無応力状態の第2主筋とが混在配置されたプレキャストRC柱が相互に接合されてなるRC柱であって、一方のプレキャストRC柱の第1主筋が他方のプレキャストRC柱の第2主筋と同軸上に配置されて両主筋が互いに接合されていることを特徴とするものである。ここで、上記プレキャストRC柱には、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法により製造されたプレキャストRC柱が含まれる他、脱型後に第1主筋に張力を付与する、いわゆるポストテンション方式により製造されたプレキャストRC柱も含まれる。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のRC柱において、両プレキャストRC柱が階中間部で接合されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1主筋に予め張力を付与するようにしたので、建物竣工時またはその後のクリープ安定時期における第1主筋の応力状態を無応力状態に近付けることができる。したがって、高価なUSD685などの高強度鉄筋を使用しなくても、設計想定荷重に対して第1主筋を降伏させることなく、圧縮・引張共有効に抵抗させることができる。
また、コンクリート打設時に第2主筋を無応力状態としたので、建物竣工時またはその後のクリープ安定時期には第2主筋が圧縮応力状態となり、その結果、地震時には第2主筋が早期に降伏することとなる。このため、地震時には第2主筋が弾塑性変形して履歴減衰効果を発揮することによって、その履歴ループ内の面積に相当する地震エネルギーが減衰されることとなる。
【0012】
また、コンクリートの材齢初期段階でプレストレスを導入するようにしたので、使用するコンクリートが、初期強度発現時における自己収縮の大きい超高強度のコンクリートであっても、主筋などの拘束による有害なひび割れ等の発生を効果的に防止することができる。したがって、前述したコンクリートの収縮低減対策を不要あるいは最小限とすることができ、それら対策に伴うコンクリートの強度低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明に係る製造方法によって製造されたプレキャストRC柱の一実施形態を示すもので、図中符号1がプレキャストRC柱、符号2が梁である。
このプレキャストRC柱1は、コンクリート硬化体10と、プレテンション方式により予め張力(緊張力)が付与された第1主筋11、配筋時に無応力状態の第2主筋12、帯筋(図示省略)等により概略構成されている。
【0014】
第1主筋11および第2主筋12は、プレキャストRC柱1の外周部に沿ってほぼ等間隔に交互に配置され、図1(b)の例では、柱の各角部と、その中間位置に第2主筋12が、それら第2主筋12の間に第1主筋11がそれぞれ配置されている。なお、このプレキャストRC柱1の上端または下端に接合される上下のプレキャストRC柱においては、図1(c)に示すように、第1主筋11と第2主筋12の配置が逆となっている。
【0015】
第1主筋11は、上記張力が材軸方向に一様になるよう、その両端部に鉄筋貫通型の定着金物13を有している。この定着金物13には、既製のナットと定着版を組み合わせたものを使用することもできる。
一方、第2主筋12は、その両端部に鉄筋継手金物14を有している。この鉄筋継手金物14は管状に形成されて、その一方の開口から第2主筋12を挿入した状態で第2主筋12と一体化されている。鉄筋継手金物14の他方の開口からは、隣接するプレキャストRC柱の端面から突出する第1主筋11の先端部が挿入可能となっており、当該第1主筋11を挿入した状態で鉄筋継手金物14の内部にグラウトを注入することにより、当該第1主筋11が上記第2主筋12に接合されるようになっている。
【0016】
第1主筋11、第2主筋12とも、使用する鉄筋の強度は、設計条件および設計応力に応じてSD345〜685を適宜選択することができる。また、本発明で使用するコンクリートの適用範囲は特に規定しないが、従来工法で高強度鉄筋を使用する可能性のあるFc60〜200が有効であり、強度増大に伴う自己収縮の影響を勘案すると、その強度が高いほど(例えばFc150以上)本発明による効果が大きいと考えられる。
【0017】
なお、本実施形態では、上記プレキャストRC柱1を、図1(a)に示すように、その上下に位置する他のプレキャストRC柱と、地震時応力の少ない各階中間部で接合することによりRC柱を構成している。このため、設計応力如何によっては、第1主筋11の定着金物13を省いて当該鉄筋の定着力で応力伝達する構成としたり、或いは第2主筋12の継手金物14を一部省略してメタルタッチにより接合することも可能である。
【0018】
次に、上記構成からなるプレキャストRC柱1の製造方法について説明する。
先ず、図示省略の型枠内に、上述した第1主筋11および第2主筋12、帯筋等の鉄筋を配置する。この際に、第1主筋11が両端から引っ張られて張力が付与された状態、第2主筋12が無応力状態となるように各々を配置する(第1工程)。
次いで、上記型枠内にコンクリートを打設して(第2工程)、このコンクリートの材齢初期段階で、第1主筋11を解放して上記張力を解除することにより、コンクリートにプレストレスを導入する(第3工程)。その後、上記型枠を解体することにより(第4工程)、本実施形態のプレキャストRC柱1を得ることができる。
【0019】
ここで、上記第1主筋11に付与する張力は、図2(a)に示すように、建物竣工時またはその後のクリープ安定時期にほぼ無応力状態となるように調整する。すなわち、プレストレスの導入から建物竣工時またはその後のクリープ安定時期に至るまでの間に、建物重量などによってプレキャストRC柱1が縮み、その縮み量に応じて第1主筋11の張力が減少することとなるので、その減少分に相当する強さの張力を予め第1主筋11に付与しておく。
その結果、クリープ安定時期には第1主筋11をほぼ無応力状態とすることができ、設計想定荷重に対して第1主筋11を圧縮・引張共有効に抵抗させることができる。例えば、第1主筋11の強度がSD390〜490程度であっても、図2(a)に示すように、設計想定地震ではこの第1主筋11の変形を弾性範囲内に抑えることができる。
【0020】
一方、第2主筋12に関しては、プレキャストRC柱1に縮みが生じることにより、図2(b)に示すように、建物竣工時またはその後のクリープ安定時期に圧縮応力状態となるため、地震時には早期に圧縮降伏することとなる。このため、地震時には第2主筋12が弾塑性変形して履歴減衰効果を発揮することによって、その履歴ループ内の面積に相当する地震エネルギーが減衰されることとなる。
【0021】
なお、上記第3工程において、第1主筋11によりコンクリートに導入される圧縮応力(プレストレス)は、多くの場合、断面の平均応力で5N/mm2以下となるため、例えばFc60以上のコンクリートを対象とする場合には、コンクリートの強度発現過程の初期段階(材齢1〜3日)で導入可能である。この材齢初期段階でプレストレスを導入することにより、コンクリートの自己収縮に伴う有害なひび割れ等の発生を防止することができ、品質の高い安定したプレキャストRC柱1を製造することができる。
【0022】
以上のように、本実施形態によれば、プレテンション方式により予め張力が付与された第1主筋11と、配筋時無応力状態の第2主筋12(地震時にのみ抵抗する鉄筋)とを混在させるようにしたので、高価なUSD685などの高強度鉄筋を使用しなくても、設計想定荷重に対して第1主筋11を降伏させることなく、圧縮・引張共有効に抵抗させることができる。よって、プレキャストRC柱1の製造コストを低減することができる。
【0023】
また、コンクリートの材齢初期段階でプレストレスを導入するようにしたので、使用するコンクリートが、初期強度発現時における自己収縮の大きい超高強度のコンクリートであっても、主筋などの拘束による有害なひび割れ等の発生を効果的に防止することができる。したがって、前述したコンクリートの収縮低減対策を不要あるいは最小限とすることができ、それら対策に伴うコンクリートの強度低下を防止することができる。
【0024】
さらに、プレキャストRC柱1の接合部を地震時応力の少ない各階中間部に設ける構成として、1つの接合部に必要となる継手金物を、上階柱下端部と下階柱上端部とに分けて配置したので、1箇所の柱端部あたりの継手金物が従来工法(全主筋接合)よりも少なくて済み、その結果、グラウト注入用ホースの設置(配筋との取り合い)が容易となる。
また、本実施形態では、互いに接合されるプレキャストRC柱の一方の第1主筋11と、他方の第2主筋12とを同軸上に配置して両主筋11、12を互いに接合する方式としたので、一方の第1主筋11の張力導入時に用いる突出部11a(図1参照)を、他方の第2主筋12の継手金物14内に挿入して互いを接合できる。
【0025】
なお、本実施形態では、第1主筋11と第2主筋12を同じ本数としているが、設計上は設計外力に対して柱の設計耐力などを勘案し、適時にその割合を変更するようにしてもよい。両主筋11、12の本数が異なる場合には、本発明に係るプレキャストRC柱1を、従来工法によるプレキャストRC柱と組み合わせて部分的に使用することも可能である。
【0026】
また、本実施形態では、建物竣工時またはその後のクリープ安定時期にほぼ無応力状態となるように、第1主筋11に付与する張力を調整するようにしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、建物竣工時またはその後のクリープ安定時期に引張応力状態となるように、第1主筋11に付与する張力を調整することも可能である。この場合、第1主筋11の引張降伏を促進させることが可能である。
【0027】
このように、本発明においては、第1主筋11の張力や両主筋11、12の本数割合を設計条件によって調整することにより、より効率的且つ合理的なプレキャストRC柱の設計が可能である。柱の主筋量は、使用する鉄筋の本数だけではなく径によって調整することが断面配筋上有効である。また、地震時に高圧縮・高引張力が作用する建物隅柱などに本発明を適用する場合には、高強度鉄筋(SD490またはUSD685)を芯鉄筋として別途配筋する従来工法と組み合わせて適用することも可能である。
【0028】
また、本発明に係るプレキャストRC柱1では、その接合部に変形が集中することが懸念されるため、原則として接合部は層中間部に設けることが望ましいが、一般のプレキャスト複合工法のように、建物各層における部材端部で接合を行う場合には、第2主筋12として高強度鉄筋(SD490またはUSD685)を使用するようにしてもよい。また、本実施形態では、1層1節のプレキャストRC柱1(図1)を例示したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、コンクリートの高強度化に伴い、柱断面を縮小する設計を採用した場合には、部材の軽量化により、図3に示すように、2層1節のプレキャストRC柱とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る製造方法によって製造されたプレキャストRC柱の一実施形態を示すもので、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A線に沿った断面図、(c)は(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図2】図1のプレキャストRC柱の各主筋の応力履歴を模式的に示すもので、(a)は第1主筋の応力履歴、(b)は第2主筋の応力履歴である。
【図3】図1のプレキャストRC柱の変形例を示すもので、(a)は縦断面図、(b)は(a)のA−A線に沿った断面図、(c)は(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図4】地震時の柱における曲げモーメントと部材回転角との関係を模式的に示したグラフである。
【図5】超高強度コンクリートを用いた従来のRC柱の高強度主筋(USD685)の応力履歴を模式的に示したグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 プレキャストRC柱
11 第1主筋
12 第2主筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストRC柱の製造方法であって、型枠内に、張力が付与された第1主筋と、無応力状態の第2主筋とを混在配置させた状態で、上記型枠内にコンクリートを打設した後、上記コンクリートの材齢初期段階で上記第1主筋を解放することにより、上記コンクリートにプレストレスを導入することを特徴とするプレキャストRC柱の製造方法。
【請求項2】
上記コンクリートのクリープ安定時期にほぼ無応力状態となるように、上記第1主筋に付与する上記張力を調整することを特徴とする請求項1に記載のプレキャストRC柱の製造方法。
【請求項3】
上記コンクリートのクリープ安定時期に引張応力状態となるように、上記第1主筋に付与する上記張力を調整することを特徴とする請求項1に記載のプレキャストRC柱の製造方法。
【請求項4】
張力が付与された第1主筋と、無応力状態の第2主筋とが混在配置されたプレキャストRC柱が相互に接合されてなるRC柱であって、一方のプレキャストRC柱の第1主筋が他方のプレキャストRC柱の第2主筋と同軸上に配置されて両主筋が互いに接合されていることを特徴とするRC柱。
【請求項5】
両プレキャストRC柱が階中間部で接合されていることを特徴とする請求項4に記載のRC柱。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−197499(P2009−197499A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41069(P2008−41069)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】