説明

プレーナ型電磁アクチュエータ

【課題】プレーナ型電磁アクチュエータにおいて、可動部の揺動動作に伴って可動部端縁部近傍に発生する渦に起因する可動部動作方向と反対方向のモーメントを低減して可動部の揺動動作の安定化を図る。
【解決手段】固定部2に一対のトーションバー3,3を介して揺動可能に軸支した可動部4を、電磁力により駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、可動部4のトーションバー3,3の軸方向と平行な両端縁部4aを凹凸形状に形成する。これにより、可動部の両端縁部近傍に生じる渦を細かく分散し、モーメントを低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力を利用して可動部を駆動する半導体製造技術を利用して製造したプレーナ型電磁アクチュエータに関し、特に、プレーナ型電磁アクチュエータの可動部の揺動安定性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のプレーナ型電磁アクチュエータとしては、例えば特許文献1に記載されているように、半導体基板を異方性エッチングして、枠状の固定部と、可動部と、前記固定部に可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを一体形成し、可動部に駆動コイルを設け、トーションバーの軸方向と平行な可動部両端縁部の駆動コイル部分に静磁界を作用させる静磁界発生手段として例えば永久磁石を設けて構成し、駆動回路から供給される電流により駆動コイルに発生する磁界と永久磁石による静磁界との相互作用によりトーションバーの軸方向と平行な可動部両対辺部に電磁力(ローレンツ力)を作用させて可動部を、トーションバーの軸回りに駆動する。
【特許文献1】特許第2722314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来のこの種のプレーナ型電磁アクチュエータを気体中で揺動駆動した場合、可動部周辺の気体の乱れが可動部の揺動動作に対して大きな影響を及ぼし、可動部の揺動動作を乱す要因になっている。これについて図6(a)〜(d)を参照して具体的に説明すると、可動部が動作するとその動作方向と逆側の可動部端縁部近傍に大きな気体の渦が生じる(図(a))。この気体の渦は可動部の動きに伴って可動部の動く方向に移動する(図(b))。その後、可動部が反転動作すると、気体の渦が可動部端縁部と衝突し、可動部の動作方向と反対方向のモーメントMが生じて可動部端縁部に作用する(図(c))。このモーメントMにより、破線で示す可動部の本来の揺動位置(モーメントMがない場合の位置)に対して実線で示すように可動部の揺動位置にずれが生じる(図(d))。これにより、可動部の揺動動作の安定性が乱されるという問題が生じる虞れがあった。
【0004】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、可動部の揺動動作に伴う渦の発生を抑制して可動部の揺動動作の安定化を図ることができるプレーナ型電磁アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1の発明は、固定部にトーションバーを介して揺動可能に軸支した可動部を、電磁力により駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、前記可動部の前記トーションバーの軸方向と略平行な両端縁部を凹凸形状にし、前記可動部の揺動動作によって前記両端縁部近傍に生じる気体の渦を抑制することを特徴とする。
【0006】
かかる構成では、可動部のトーションバーの軸方向と略平行な両端縁部を凹凸形状とすることで、可動部が揺動動作時に可動部端縁部近傍における気体の渦の発生を抑制できると共に、発生した渦が凹凸部により細かく分散され、可動部に作用する可動部動作方向と反対方向のモーメントを小さくすることができるようになる。
【0007】
請求項2のように、前記凹凸部における凸部の突出寸法及びピッチを、前記可動部の駆動周波数、振幅及び前記トーションバーの軸中心から前記端縁部までの長さに関係して定まる前記渦の直径から決定する構成とするとよい。
具体的には、請求項3のように、前記凸部の突出長さ及びピッチを、前記渦の直径の約1/5〜約5倍とするとよい。
【0008】
請求項4のように、前記可動部が、前記固定部に外側トーションバーを介して揺動可能に軸支される枠状の外側可動部と、該外側可動部に前記外側トーションバーと軸方向が直角な内側トーションバーを介して揺動可能に軸支される内側可動部とからなり、前記外側可動部の前記外側トーションバーの軸方向と略平行な両端縁部及び前記内側可動部の前記内側トーションバーの軸方向と略平行な両端縁部を前記凹凸形状とするとよい。
【0009】
請求項4の構成において、請求項5のように、前記内側可動部の前記外側トーションバーの軸方向と略平行な両側縁部を凹凸形状とするとよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプレーナ型電磁アクチュエータによれば、可動部のトーションバーの軸方向と略平行な両端縁部を凹凸形状としたので、可動部の揺動動作によってその両端縁部近傍に生じる気体の渦を抑制することができると共に、発生した渦を細かく分散できる。従って、可動部の反転動作時に渦から両端縁部に作用する可動部動作方向と反対方向のモーメントを小さくでき、可動部の揺動動作の安定性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に本発明に係るプレーナ型電磁アクチュエータの第1実施形態の平面図を示す。
図1において、本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ1は、枠状の固定部2に一対のトーションバー3,3を介して揺動可能に軸支される可動部4と、通電により磁界を発生する駆動コイル5と、駆動コイル5に静磁界を作用する静磁界発生手段である例えば永久磁石6とを備え、通電により駆動コイル5に発生する磁界と永久磁石6の静磁界との相互作用によりトーションバー3,3の軸方向と平行な可動部4の両端縁部に電磁力(ローレンツ力)を作用させて可動部4を回動させるものである。
【0012】
前記固定部2、トーションバー3,3及び可動部4は、例えばシリコン基板等の半導体基板を異方性エッチングして一体に形成する。そして、本発明の特徴である可動部4は、トーションバー3,3の軸方向と略平行な両端縁部4aを等間隔に形成した三角形による凹凸形状としている。前記駆動コイル5は、図1に示すように可動部4の周縁に沿って巻回し、固定部2に形成した一対の電極端子7,7にトーションバー3,3部分を通って電気的に接続する。尚、駆動コイル5の巻回数は、図1では図示を簡素化するため1回の巻回数としてあるが複数巻回されている。前記永久磁石6は、図示のように可動部4を挟んで互いに反対磁極が対向するようにして固定部2の外側に設けられている。
【0013】
次に、本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの動作を説明する。
可動部4の駆動原理は従来と同様であり、可動部4上の駆動コイル5に電流を流すと磁界が発生し、この磁界と永久磁石6,6による静磁界との相互作用によりローレンツ力が発生し、トーションバー3,3の軸方向と平行な可動部4の両端縁部に互いに逆方向の電磁力が発生し、トーションバー3,3を軸中心として可動部4が回動する。この回動動作に伴ってトーションバー3,3が捩じられトーションバー3,3にばね力が発生し、このばね力と発生した電磁力とが釣合う位置まで可動部4は回動する。駆動コイル5に正弦波等の交流電流を流せば可動部4を揺動動作させることができる。これにより、可動部4に反射ミラーを設ければ光ビームを偏向走査することが可能となり、駆動コイル5に供給する交流電流の周波数を可動部4の揺動運動の共振周波数に設定すれば、一定周期で連続走査可能な光走査デバイスが実現できる。
【0014】
このプレーナ型電磁アクチュエータ1を気体中で揺動動作させた時に、可動部4周辺の気体の乱れにより可動部4の動作方向と反対側の可動部端縁部4a近傍に、図6に示すような渦が生じるが、本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ1では、可動部4の端縁部4aの凹凸形状により渦の発生を抑制できると共に、発生した渦が細かく分散される。このため、可動部4が反転動作した時に、端縁部4aと渦の衝突により端縁部4aに作用する可動部動作方向と反対方向のモーメントM(図6参照)を従来に比べて小さくでき、可動部4の位置ずれが抑制され可動部4の揺動動作が安定する。
【0015】
端縁部4aの凹凸形状における凸部の突出長さaとピッチbは、大き過ぎても小さ過ぎてもその渦抑制及び分散効果は小さい。大き過ぎると分散された渦の1つ1つの大きさがまだ十分に大きく端縁部4aに作用するモーメントMがまだ大きいため十分な効果が得られない。小さ過ぎると従来の可動部とあまり変わらず渦の分散が十分になされないためやはり十分な効果が得られない。
【0016】
凸部の突出長さaとピッチbの適切な寸法は、発生する渦の直径(以下、渦径とする)と関係し、渦径は可動部4の動作速度により異なり、可動部4の動作速度は、可動部4の駆動周波数、振幅及びトーションバー3,3の軸中心から端縁部4aまでの長さL(図1に示す)に依存する。従って、凸部の突出長さaとピッチbの適切な寸法を、可動部4の駆動周波数、振幅及びトーションバー3,3の軸中心から端縁部4aまでの長さLから決定するとよく、凸部の突出長さaとピッチbの好ましい寸法としては、可動部4の揺動動作に伴って発生する渦の直径の約1/5〜約5倍とする。例えば、突出長さaを渦径の約1/5倍としピッチbを渦径の約5倍としてもよく、逆に突出長さaを渦径の約5倍としピッチbを渦径の約1/5倍としてもよい。かかる凹凸形状とすることにより、可動部4の端縁部4a周囲における渦の発生を十分抑制できると共に、十分細かく分散できるようになり、端縁部4aに作用する可動部動作方向と反対方向のモーメントMを十分小さくして可動部4の揺動動作の安定性を高めることができるようになる。
【0017】
上記実施形態では、凹凸形状を三角形状としたが、図2に示すような形状でもよい。(a)は三角形の頂部を円くした形状の例である。(b)は、矩形形状とした例である。(c)は半円形状の波形とした例である。(d)は矩形のフラクタル形状の例である。フラクタル形状の場合は、小さい矩形部分も大きな矩形部分もそれぞれの凸部の突出長さaとピッチbの寸法は、渦径の約1/5〜約5倍とすることが好ましい。
尚、可動部4の端縁部4aの凹凸形状はこれらの形状に限定されるものではなく、渦を十分に細かく分散できモーメントMを小さくできるような形状であればよいことは言うまでもない。
【0018】
また、図3に示すような可動部4が円形状のプレーナ型電磁アクチュエータ10の場合にも同様に、可動部4のトーションバー3,3の軸方向と略平行な可動部端縁部4Aを凹凸形状に形成すれば、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。尚、図3に示す本発明の第2実施形態において、第1実施形態と同様な要素には同一符号を付してある。また、図3では駆動コイル5、電極端子7及び永久磁石6については図示を省略してある。
【0019】
次に、2次元駆動型のプレーナ型電磁アクチュエータに適用した本発明の第3実施形態を図4に示す。尚、図1の第1実施形態と同一要素には同一符号を付して説明を省略する。
図4の2次元駆動型のプレーナ型電磁アクチュエータ20は、可動部4が、固定部2に外側トーションバー3A,3Aを介して揺動可能に軸支される枠状の外側可動部4Aと、外側可動部4Aに外側トーションバー3A,3Aと軸方向が直角な内側トーションバー3B,3Bを介して揺動可能に軸支される内側可動部4Bとからなる。そして、外側可動部4Aの外側トーションバー3A,3Aの軸方向と略平行な両端縁部4aを図1の第1実施形態と同様に凹凸形状としている。更に、内側可動部4Bの内側トーションバー3B,3Bの軸方向と略平行な両端縁部4bと外側トーションバー3A,3Aの軸方向と略平行な両側縁部4cを同じく凹凸形状としている。外側可動部4Aには外側駆動コイル5A(図の簡略化のため図中1本線で示す)を設け、内側可動部4Bには内側駆動コイル5Bを設ける。外側駆動コイル5Aは、外側可動部4Aの周縁に沿って巻回して設けられ一方の外側トーションバー3A部分を通って電極端子7A,7Aに電気的に接続される。内側駆動コイル5Bは、前述の駆動コイル5に相当するもので内側トーションバー3B,3B、外側可動部4Aの一部及び他方の外側トーションバー3A部分を通って電極端子7B,7Bに電気的に接続される。また、それぞれ対をなす永久磁石6A,6Aと永久磁石6B,6Bは、図示のように外側可動部4Aと内側可動部4Bを挟んで互いに反対磁極が対向するようにして固定部2の外側に設けられている。
【0020】
かかる2次元型のプレーナ型電磁アクチュエータ20は、外側駆動コイル5Aと内側駆動コイル5Bにそれぞれ交流電流を供給すると、外側トーションバー3A,3Aの軸方向と平行な外側可動部4Aの端縁部4aの外側駆動コイル5A部分に発生する磁界と永久磁石6A,6Aの静磁界との相互作用により発生するローレンツ力により、外側可動部4Aと内側可動部4Bが一体的に外側トーションバー3A,3A回りに回動する。また、内側トーションバー3B,3Bの軸方向と平行な内側可動部4Bの端縁部4bの内側駆動コイル5B部分に発生する磁界と永久磁石6B,6Bの静磁界との相互作用により発生するローレンツ力により、内側可動部4Bが内側トーションバー3B,3B回りに回動する。これにより、内側可動部4Bが2次元駆動され、内側可動部4Bに反射ミラーを設ければ、ミラーの反射光を2次元方向に偏向させることができ、光ビームを2次元走査することができる。
【0021】
このプレーナ型電磁アクチュエータ20の外側可動部4A,4Aを気体中で揺動動作させた時には、外側可動部4の両端縁部4aと内側可動部4Bの両側縁部4c近傍に渦が生じるが、それぞれの凹凸形状により渦の発生を抑制できると共に、発生した渦が細かく分散される。また、内側可動部4B,4Bを揺動動作させた時には、前述した第1実施形態と同様に内側可動部4Bの両端縁部4bの凹凸形状により渦の発生を抑制できると共に、発生した渦が細かく分散される。従って、2次元駆動型のプレーナ型電磁アクチュエータ20の揺動動作の安定性を高められる。
【0022】
前記第3実施形態は、枠状の外側可動部4Aの両端縁部4aの外側だけを凹凸形状としたが、図5に示す第4実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ30のように、枠状の外側可動部4Aの両端縁部4aの内側も凹凸形状とするとよい。尚、第4実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ30のその他の構成は図4の第3実施形態と同様の構成であり、第3実施形態と同様な要素には同一符号を付してある。また、図5では内外駆動コイル5A,5B、電極端子7A,7B及び永久磁石6A,6Bは図示を省略してある。
【0023】
尚、第3及び第4実施形態についても、図2に示す凹凸形状を適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るプレーナ型電磁アクチュエータの第1実施形態を示す平面図
【図2】第1実施形態の凹凸形状と異なる別の凹凸形状の例を示す図
【図3】本発明の第2実施形態を示す平面図
【図4】本発明の第3実施形態を示す平面図
【図5】本発明の第4実施形態を示す平面図
【図6】従来の問題点の説明図
【符号の説明】
【0025】
1,10,20,30 プレーナ型電磁アクチュエータ
2 固定部
3 トーションバー
3A,3A 外側トーションバー
3B,3B 内側トーションバー
4 可動部
4A,4A 外側可動部
4B,4B 内側可動部
5 駆動コイル
5A,5A 外側駆動コイル
5B,5B 内側駆動コイル
6、6A,6A、6B,6B 永久磁石
4a,4b 端縁部(凹凸形状)
4c 側縁部(凹凸形状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部にトーションバーを介して揺動可能に軸支した可動部を、電磁力により駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、
前記可動部の前記トーションバーの軸方向と略平行な両端縁部を凹凸形状にし、前記可動部の揺動動作によって前記両端縁部近傍に生じる気体の渦を抑制することを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項2】
前記凹凸部における凸部の突出寸法及びピッチを、前記可動部の駆動周波数、振幅及び前記トーションバーの軸中心から前記端縁部までの長さに関係して定まる前記渦の直径から決定する構成とした請求項1に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記凸部の突出長さ及びピッチを、前記渦の直径の約1/5〜約5倍とする請求項2に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記可動部が、前記固定部に外側トーションバーを介して揺動可能に軸支される枠状の外側可動部と、該外側可動部に前記外側トーションバーと軸方向が直角な内側トーションバーを介して揺動可能に軸支される内側可動部とからなり、前記外側可動部の前記外側トーションバーの軸方向と略平行な両端縁部及び前記内側可動部の前記内側トーションバーの軸方向と略平行な両端縁部を前記凹凸形状とした請求項1〜3のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記内側可動部の前記外側トーションバーの軸方向と略平行な両側縁部を凹凸形状とした請求項4に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−271700(P2008−271700A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111084(P2007−111084)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】