説明

プロセスレス感光性平版印刷版

【課題】高湿度の環境下で長期保存をしても感光層と裏塗り層が張り付いたり、感光層が剥がれる事がなく、更に裏からの光の反射、散乱による画質の低下が改善されたプロセスレス平版印刷版を提供する事である。
【解決手段】プラスチックフィルム支持体上に親水性層と、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体または側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸基を含有する水溶性重合体と、光重合開始剤または光酸発生剤を含有する感光層を少なくともこの順に有し、プラスチックフィルム支持体の該感光層を有する側の反対側の面に金属酸化物とカーボンブラックを含有する裏塗り層を有するプロセスレス感光性平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックフィルムを支持体とし、支持体上に親水性層及び、感光層を少なくともこの順に有するプロセスレス平版印刷版に関する。特に、露光した後に水現像可能な、もしくは露光した後に印刷機に装着して、インキと湿し水の版面への供給により非画像部を取り去るプロセスレス感光性平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
製版システムのデジタル化に伴い、コンピュータ画面上で組版したデータを直接平版印刷版に出力する、コンピュータートゥープレートシステム(CTPシステムと呼ぶ)に適した印刷版の需要が高まっている。特に、デジタル機器の近くで従来の印刷版では通常行われていた特殊な薬品を使用した現像システムから、水による現像又は印刷機上で現像できる、プロセスレス感光性平版印刷版、或いは熱による相転移やインクジェットを利用した現像処理工程の全くない、感光性ではないプロセスレス平版印刷版が注目されている。
【0003】
これらのCTPシステムに於いては、特殊な現像用薬品を使用しないために、処理薬品コストがかからない、或いは廃液処理コストが安く済むと同時に環境負荷低減のメリットを持つ。更に、プラスチックフィルム支持体の印刷システムは、ロール供給が可能な上、アルミ支持体の印刷版に比べて軽く、取り扱いがしやすいという利点がある。
【0004】
これらのCTPシステムとしては、例えば、ワックスを塗布した印刷版に対してサーマルヘッドや高出力近赤外半導体レーザーによって画像部のワックスを溶かし、これが親油性の画像部となり、ワックスの溶解していない部分が親水性となるプロセスレス平版印刷版、熱によって画像形成層を溶融固着させ、固着していない部分を水又は印刷機上で除去するプロセスレス平版印刷版、或いはインクジェットヘッドで親油性物質を画像状に版面表面に印字するプロセスレス平版印刷版などが知られている。
【0005】
インクジェット方式で版面に親油性物質を画像状に印字するプロセスレス平版印刷版としては、特開2007−144823号公報に記載されている様に、硫酸エステル基を有するポリマーと金属酸化物を含有する親水性層を設けたプロセスレス平版印刷版が開示されている。特開2000−158839号公報ではアクリル樹脂とコロイダルシリカを一定の割合で支持体上に塗布して加熱する事によって親水性層を設けたプロセスレス平版印刷版が開示されている。
【0006】
熱溶融性の平版印刷版としては、特開2006−281470号公報に記載されているように、熱により疎水性になる層と、その上に平均分子量1万以上のポリアクリル酸が含有する親水性層を有するプロセスレス平版印刷版が開示されている。
【0007】
また熱によって画像形成層を架橋反応させるプロセスレス平版印刷版としては、特開2005−238527号公報のように、光熱変換剤を含む画像形成層を支持体の上に塗布し、その上に、親水性層を塗布し、赤外線で露光した箇所の親水層を、水又は機上現像で除去する方法が開示されている。
【0008】
更に、特定の波長の光に感光性を有する光重合性感光層を親水層の上に設け、露光後に水現像或いは機上現像によって未露光部を除去する方法がある。このような感光層を得るための光重合性組成物としては特開2003−215801号公報(特許文献1)に記載される。同公報によれば、プラスチックフィルム支持体上に、親水性層を設け、その上に、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体又は、側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸塩基を有する水溶性重合体、及び光重合開始剤又は酸発生剤を含有する事を特徴とする感光層を塗布する事で、露光とそれに続く水現像によって、未露光部が除去され、親油性の画像部及び、親水性層の非画像部を形成する事が出来る。
【0009】
上記光重合性感光層を用いると、例えば熱による画像形成方法と比較して低いエネルギーで画像を得る事が出来るという利点がある。更に、インクジェットと比較して、高精細な画質の刷版、更にはこれを使用する事により高画質の印刷物を得る事が出来る。
【0010】
しかしながら、上記光重合性感光層は、水溶性の高い重合体を含有する為に、吸湿性が高く、高湿度条件下で保存すると、例えばロールの形で保存したり、シート状で保存する場合、感光層と支持体が接着したり、支持体に感光層が転写するという問題がある。通常、支持体を有する感光層を有する側の反対面は、印刷版を印刷機の胴に巻き付けて使用する際に位置合わせの微調整をしやすくするために裏塗り層に微粒子を添加して印刷機の胴に対して滑りやすくしたり、或いは静電気を発生しにくくする為に裏塗り層に導電性物質を添加したりするが、高湿度の環境下で長期保存した場合、感光層と裏塗り層が張り付いたりまたこれに伴い感光層が剥がれるという問題があった。
【0011】
更に、プラスチックフィルム支持体の多くはアルミニウム支持体と異なり、光透過性を少なからずとも有するため、該プラスチックフィルム支持体上に親水性層を設け、感光層を更に設けた場合、露光時に、裏からの光の反射、散乱により得られる画像の画質が悪くなるという問題が有る。
【特許文献1】特開2003−215801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、高湿度の環境下で長期保存をしても感光層と裏塗り層が張り付いたり、感光層が剥がれる事がなく、更に裏からの光の反射、散乱による画質の低下が改善されたプロセスレス平版印刷版を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の発明により達成された。
プラスチックフィルム支持体上に親水性層と、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体または側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸基を含有する水溶性重合体、及び光重合開始剤又は光酸発生剤を含有する感光層を少なくともこの順に有し、プラスチックフィルム支持体の該感光層を有する側の反対側の面に金属酸化物とカーボンブラックを含有する裏塗り層を有するプロセスレス感光性平版印刷版。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高湿度の環境下で長期保存をしても感光層と裏塗り層が張り付いたり、感光層が表から剥がれる事がなく、更に裏からの光の反射、散乱による画質の低下が改善されたプロセスレス平版印刷版を提供する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明において金属酸化物の金属とは、金属及び半金属を含むものであり、例えばナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、モリブデン、錫、インジウム、バリウムが挙げられる。
【0016】
かかる金属酸化物としては、例えばMgO、Al23、TiO2、V25、ZnO、ZrO2、MoO3、SnO2、In23、BaTiO3、SrTiO3が好適に挙げられる。中でもAl2O3、TiO2が好ましい。これらの金属酸化物は、例えば市販品として、アルミナ(例えば日本軽金属(株)社製のA32、A33Fなど、住友化学(株)社製AES11、AES−12、AES−23など、昭和電工社製A−43M、A−50Kなど)、酸化チタン(例えば石原産業(株)社製のR−780、R−830、CR−50、富士チタン工業(株)社製のTA100、TA200、TA300)等の微粒子が挙げられる。
【0017】
これらの金属酸化物は、単独で用いる事も、2種以上を併用する事も出来る。2種以上を併用する場合、これらの混合物の微粒子として添加する事も出来る。
【0018】
上記混合物の微粒子として、金属酸化物のうち1種以上を組成に含む天然鉱物微粒子も好適に用いられる。例えばカオリン(主成分:SiO2、Al23、及びH2O)、パミス(主成分:SiO2、Al23)、タルク(主成分:SiO2、MgO)が挙げられる。
【0019】
本発明で用いる金属酸化物の平均粒径は0.01〜30μmであるのが好ましく、0.1〜5μmで有るのが好ましい。また、裏塗り層中の金属酸化物の含有量は裏塗り層が含有する全固形分に対して10〜60質量%で有るのが好ましく、20〜50質量%がより好ましい。
【0020】
また、金属酸化物は、必要に応じて種々の表面処理が施されていても良い。表面処理は、例えばケイ酸アルカリ水溶液等による親水化処理、界面活性剤による分散安定化等から、目的に応じ適宜選択する事が出来る。
【0021】
本発明の裏塗り層は、上述した金属酸化物に加え、金属酸化物を安定に分散させ、又、塗布後は、摩擦等で上記金属酸化物が支持体から取れてしまうのを防ぐためにバインダーを含有するのが好ましい。かかるバインダーとしては、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の合成高分子化合物や、アラビアガム、デンプン、ゼラチン等の天然高分子化合物が挙げられる。また、本発明ではこれらが水、有機溶剤等の溶媒に分散させたエマルジョンであってもよい。本発明で用いるバインダーとしては、ゼラチンが好適に使用される。
【0022】
本発明の裏塗り層としてゼラチンを用いる場合、他の上記合成或いは天然高分子化合物やエマルジョンを併用して用いる事も出来る。更に、裏塗り層は、架橋剤を含有する事が望ましい。架橋剤としては、例えばクロムミョウバンのような無機化合物、ホルマリン、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサン、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な3員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子内に2個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物を1種もしくは2種以上を用いる事が出来る。
【0023】
裏塗り層中のバインダーの含有量は裏塗り層が含有する全固形分に対して、5〜60質量%であるのが好ましく、10〜50質量%がより好ましい。上記範囲であれば、表面の粗さが適度に保たれ、更に上述の金属酸化物が裏塗り層表面に現れるので、感光層が裏塗り層に張り付く事が無い。
【0024】
更に、本発明の裏塗り層は、カーボンブラックを含有する。かかるカーボンブラックは粒子径、ストラクチャー、表面形状に特に制限はないが、粒子径が小さく、分散性の良好なものが隠蔽力が高くなるため好ましく使用される。但し、添加量が多いと印刷面の画像部の視認性が低下する場合があるため、必要最低限の添加量がよい。具体的には、粒子径5〜100nmのカーボンブラックを0.1〜5質量%、好ましくは1〜4質量%の量で裏塗り層に含有させる事が好ましい。
【0025】
裏塗り層は更に、様々な添加剤を適宜添加する事が出来る。着色のための染料や顔料、塗布性を良好にするためのアニオン性、もしくはカチオン性の界面活性剤や、滑り性を良くする為に油脂化合物を添加する事ができる。
【0026】
本発明の裏塗り層の厚さは0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
【0027】
本発明のプロセスレス平版印刷版は支持体上に親水性層を有しその上に感光層を有する。本発明に用いる親水性層とは、具体的には親水性ポリマー及び親水性無機微粒子を含有し、更に、親水性ポリマーを架橋剤で架橋する事で、親水性層の支持体との接着を確保し、更に、印刷に対する強度を保たせる事が出来る。親水性層を構成する親水性ポリマーは、少なくとも親水性を有するモノマーと架橋剤と架橋反応をする事が出来るモノマーとの共重合体を用いる事が好ましい。親水性を与える為のモノマーとしては、アニオン性、カチオン性等のイオン性を有するモノマーが挙げられる。具体的には、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホ基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、塩化ジメチルジアリルアンモニウム、塩化2−トリメチルアンモニウムエチルアクリレート、塩化2−トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート、塩化2−トリエチルアンモニウムエチルアクリレート、塩化2−トリエチルアンモニウムエチルメタクリレート、塩化3−トリメチルアンモニウムプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、塩化N,N、N−トリメチル−N−(4−ビニルベンジル)アンモニウム等の4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
架橋剤と架橋反応するモノマーとしては、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、及びアセトアセトキシ基を有するモノマーが挙げられ、特に好ましい例は、カルボキシル基、アミノ基、水酸基が挙げられる。これらの反応性基を分子内に有する親水性ポリマーを得るには、該反応性基を有する各種モノマーを共重合する形で組み込む事が好ましく行われる。かかるモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシル基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール等の含窒素複素環含有モノマー、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類及びアセトアセトキシメタクリレート等が挙げられる。好ましい親水性ポリマーの例を下記に示す。
【0029】
【化1】

【0030】
親水性ポリマーの平均分子量は5000〜500000が好ましく、更に、10000〜200000がより好ましい。これより分子量が低い場合、親水性層が水と接触すると溶解したり、剥がれたりする場合がある。又この範囲を超えると、塗液の粘度が高くなり、均一な塗布が不可能になる場合がある。
【0031】
親水性層に用いられる架橋剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物が挙げられる。本発明に用いられるエポキシ化合物は、水又はメタノールやエタノールに可溶なものであり、分子内に親水性基と2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。これらの化合物はナガセケムテックス(株)より「デナコール」の商品名で販売されており、容易に入手できる。
【0032】
上記のようなエポキシ化合物と親水性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、親水性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシル基やアミノ基が特に好ましい。
【0033】
オキサゾリン化合物としては、置換基として下記に示す基を分子内に2個以上含む化合物が好ましく、市販される各種化合物として例えば、(株)日本触媒から「エポクロス」の商品名で提供される各種グレードの化合物が好ましく使用される。こうしたオキサゾリン化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、親水性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシル基が特に好ましい。
【0034】
【化2】

【0035】
イソシアネート化合物としては、水中で安定である化合物が好ましく、いわゆる自己乳化性イソシアネート化合物や、ブロックイソシアネート化合物が好ましく使用される。自己乳化性イソシアネート化合物としては、例えば、特公昭55−7472号公報(米国特許第3,996,154号明細書)、特開平5−222150号(米国特許第5,252,696号明細書)、特開平9−71720号公報、特開平9−328654号公報、特開平10−60073号公報等に記載されるような自己乳化性イソシアネートを指す。具体的には、例えば、脂肪族或いは脂環族ジイソシアネートから形成される環状三量体骨格のイソシアヌレート構造を分子内に有するポリイソシアネートや、ビュレット構造、ウレタン構造等を分子内に有するポリイソシアネートをベースポリイソシアネートとし、これに片末端エーテル化したポリエチレングリコール等をポリイソシアネート基の内一部のみに付加させて得られる構造のポリイソシアネート化合物が極めて好ましい例として挙げられる。こうした構造のイソシアネート化合物の合成法については上記の明細書中に記載されている。こうしたイソシアネート化合物の具体的な例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート等を出発原料とした環状三量化によるポリイソシアネートをベースポリイソシアネートとしたものが市販されており、例えば、旭化成工業株式会社からデユラネートWB40或いはWX1741等の名称で入手可能である。ブロックイソシアネート化合物としては、例えば特開平4−184335号公報、特開平6−175252号公報等に見られるように、重亜硫酸塩、アルコール類、ラクタム類、オキシム類、活性メチレン類などでブロックされたブロックイソシアネートが好ましく用いられる。こうしたイソシアネート化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に架橋反応が進行するためには、親水性ポリマー中に含まれる反応性基としては、水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0036】
上記のような種々の架橋剤と親水性ポリマーとの比率に関しては好ましい範囲が存在する。親水性ポリマー100質量部に対して架橋剤は1〜40質量部の範囲で用いる事が好ましい。又、上記記載の種々の架橋剤はいずれも好ましく使用されるが、特に好ましい架橋剤はエポキシ化合物である。
【0037】
親水性層が含有する親水性無機微粒子としては、画像部の接着性を良好にし、かつ非画像部の親水性を高める観点から、コロイダルシリカが好ましく用いられる。本発明に用いられるコロイダルシリカは形状は球形でも良いし、鎖状、或いはパールネックレス状のコロイダルシリカも好ましく用いられる。
【0038】
コロイダルシリカはSiO2単体から構成されるものでも良いが、シリカの分散性のpH依存性を変えるためにAl23などで表面を若干修飾したものを用いても良い。又、親水性層の塗液のpHによって、コロイダルシリカのアルカリ分散液、酸性分散液を選択して用いる事が出来る
【0039】
球状のシリカとしては、例えば日産化学社製の「スノーテックス XS」、スノーテックス S」、「スノーテックス 20」、「MP−2040」、「MP−1040」、「スノーテックス−ZL」などが挙げられる。これらのコロイダルシリカはpHが9以上であるが、酸性の塗液を作成する場合には、Naイオンを脱塩して酸性にした「スノーテックス O」、「スノーテックス−OL」などを用いる事も出来る。鎖状シリカとしては日産化学工業製「スノーテックスUP」、パールネックレス状シリカとしては「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」が挙げられる。
【0040】
親水性層に含有するコロイダルシリカの量は、親水性ポリマーとコロイダルシリカの質量比が、1:1〜1:4である事が好ましく、更に好ましくは1:1.5〜1:3である。コロイダルシリカは単一の種類を添加しても良いし、2種以上を混合しても良い。混合する場合はコロイダルシリカの全固形分量と本発明のポリマーとの質量比が上記質量比になる事が好ましい。
【0041】
他に、露光時以外の光を遮ったり、ハレーションを防止するために、親水性層は染料や顔料を含有しても良い。更に、酸化チタンや二酸化ケイ素などの無機微粒子を添加する事で表面に凹凸を作り、画像部の密着性を上げたり、非画像部の親水性を改善する事が出来る。
【0042】
親水性層は、上述した要素から構成される組成物の塗液を、支持体上に塗布、乾燥して作製される。塗布方法としては、公知の種々の方法を用いる事ができ、例えば、バーコーター塗布、カーテン塗布、ブレード塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、回転塗布、ディップ塗布等を挙げる事ができる。平版印刷版として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.3μmから10μmの範囲の乾燥厚みで形成する事が好ましく、更に0.5μmから5μmの範囲である事が好ましい。
【0043】
更に、架橋剤と親水性ポリマーを十分に架橋させるために、感光層を塗設する前に40〜100℃、好ましくは45〜80℃の温度下の条件で12時間〜1週間、好ましくは1日〜5日間保管する事が好ましい。
【0044】
本発明の感光層は、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体(以降、重合体Aと称す)または側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸基を含有する水溶性重合体(以降、重合体Bと称す)、及び光重合開始剤又は光酸発生剤を含有する。
【0045】
本発明に用いられる重合体Aとは、カチオン性基を有する水溶性ポリマー中の側鎖にビニル基が置換したフェニル基が導入されている重合体を表す。以下に重合体Aについて詳細に説明する。
【0046】
重合体Aにおけるカチオン性基とは、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基、ヨードニウム基、オキソニウム基、等の有機オニウム基から選ばれる基であり、これらのうち四級アンモニウム基が最も好ましい。
【0047】
上述した有機オニウム基を導入した重合体Aは、特公昭55−13020号公報、特開昭55−22766号公報、同平11−153859号公報、同2000−103179号公報、米国特許4,693,958号明細書、同5,512,418号明細書に記載されている従来公知の化学反応を用いて合成する事が出来る。即ち、所望の有機オニウム基を含有するモノマーを重合反応させたり、重合体を構成するポリマー鎖状に導入された三価のN原子、二価のS原子或いは三価のP原子等を、通常のアルキル化反応によって有機オニウム基を導入する方法が挙げられる。更にはアミン類、スルフィド類、ホスフィン類のような求核試薬とポリマー鎖状の脱離基(例えば、スルホン酸エステル類やハロゲン化物)との求核置換反応により、ポリマー主鎖又は側鎖に有機オニウム基を導入する方法も挙げられる。
【0048】
重合体Aに於けるビニル基が置換したフェニル基とは、光重合開始剤または光酸発生剤の作用により、光重合反応或いは光り架橋反応に寄与しうる基である。ビニル基が置換したフェニル基は、適当な連結基を介して重合体中に導入されている場合が好ましい。この場合の連結基としては特に限定されず、任意の基、原子またはそれらの複合した基が挙げられる。更に該ビニル基及び該フェニル基は置換基を有していても良い。ビニル基が置換したフェニル基を導入した重合体としては、更に詳細には、下記一般式化(I)で表される基を側鎖に有するものである。
【0049】
【化3】

【0050】
式中、R1、R2及びR3は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基から選ばれる基を表し、これらの基を構成するアルキル基及びアリール基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。これらの基の中でも、R1が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)であり、R2、R3が水素原子であるものが特に好ましい。
【0051】
式中、R4は水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基から選ばれる基を表し、これらの基を構成するアルキル基及びアリール基は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。
【0052】
式中、m1は1〜4の整数を表し、pは0又は1の整数を表し、q1は1〜4の整数を表す。
【0053】
式中、L1は炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子又は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子群から成る多価の連結基を表す。具体的には下記に例示される構造単位より構成される基及び下記に示す複素環基が挙げられる。これらの基は単独でも任意の2つ以上が組み合わされていても良い。
【0054】
【化4】

【0055】
1を構成する複素環の例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、印ドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環、等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらの複素環は置換基を有していても良い。
【0056】
上述した多価の連結基が置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が挙げられる。
【0057】
連結基L1を構成する任意の原子団に於いて、この中にカチオン性基を形成する4級アンモニウム基等の有機オニウム基が含まれている場合が特に好ましく利用される。連結基中に、こうした有機オニウム基が含まれない場合においては主鎖を構成する繰り返し単位中に、別途有機オニウム基を有する繰り返し単位を含む事が必要である。
【0058】
重合体中にビニル基が置換したフェニル基を導入する方法については特に制限は無く、例えば特公昭49−34041号、同平6−105353号公報、特開2000−181062号、同2000−187322号公報等に示されるようないずれの方法を用いても良い。これらの場合には予め前駆体であるポリマーを合成する際に、有機オニウム基を有する繰り返し単位を共重合体の形で導入しておくか、前駆体ポリマーに重合性不飽和結合基を導入した形で、上述した方法等により、有機オニウム基を形成する事が必要である。
【0059】
重合体Aの前駆体を構成する事ができるモノマーの具体例としては、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、(4−ビニルベンジル)トリメチルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩モノマー、ジメチル−2−メタクリロイルオキシエチルスルホニウムメトスルフェート等の3級スルホニウム塩モノマー、2−クロロメチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−ブロモメチルスチレン、2−クロロエチルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート等のハロゲン化アルキル基含有モノマー等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0060】
又、重合体Aは、任意の他のモノマーとの共重合体を構成していても良く、これら共重合体を構成するモノマーは水溶性であっても非水溶性であっても良い。水溶性モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシル基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ベニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環含有モノマー及びこれらの4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、メタクリル酸のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。
【0061】
又、水現像性を最適化し、画像部の強度を向上させるために、非水溶性の任意のモノマーとの共重合体を形成する事も好ましく行われ、これらの例としては、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−へキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロへキシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等の、アルキル(メタ)アクリレート類、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のアリール(メタ)アクリレート類又はアリールアルキル(メタ)アクリレート類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを挙げる事ができる。これらの任意の組み合わせで構成される共重合体を重合体Aとして使用する事ができる。
【0062】
本発明の重合体Aは、ビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主鎖と結合している場合が特に好ましい。ビニル基が置換したフェニル基を主鎖に結合するための連結基を構成する任意の原子団に於いて、この中にカチオン性基を形成する4級アンモニウム基等の有機オニウム基が含まれている場合が最も好ましい。この場合に於いては、重合体中に含まれるビニル基が置換したフェニル基の数と有機オニウム基の数が正比例するため、感度を向上させるために重合体中に含まれるビニル基が置換したフェニル基の割合を増加しても水に対する溶解性が低下しない事から感度と水現像性の両方を同時に満足する事が出来る。上述したようなビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主査と結合している場合の重合体の単位構造は、具体的には下記一般式(II)で表す事が出来る。
【0063】
【化5】

【0064】
式中、A1+はアンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基、ヨードニウム基、オキソニウム基等の有機オニウム基から選ばれる有機オニウム基を表し、n1及びn2はそれぞれ0又は1を表す。A1+がヨードニウム基の場合はn1=n2=0であり、A1+がスルホニウム基の場合はn1=1かつn2=0であり、A1+がアンモニウム基又はホスホニウム基の場合はn1=n2=1である。
【0065】
式中、R5及びR6は、同じであっても異なっていても良く、それぞれアルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロへキシル基、ベンジル基等)、又はアリール基(例えばフェニル基、1−ナフチル基等)を表しこれらの基は置換されていても良く、この場合の置換基の例としては、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が挙げられる。更にR5及びR6は、上記一般式(II)で表されるビニル基が置換したフェニル基を含有する基であっても良い。
【0066】
式中、R7、R8及びR9は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ前記一般式(II)におけるR1、R2及びR3と同義である。これらの基の中でもR7が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)であり、R8及びR9が水素原子であるものが特に好ましい。R10は、前記一般式(II)におけるR4と同義である。L2及びL3は、それぞれ独立に炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子又は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子群からなる多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(II)におけるL1と同義である。m2は0〜4の整数を表し、p2は0又は1の整数を表しq2は1〜4の整数を表す。
【0067】
また、A1+で表される有機オニウム基を形成するN原子、S原子及びP原子等と、R5、R6或いはL2、L3から任意に選ばれる基とが組み合わさって環構造(例えば、ピリジニウム環、2−キノリウム環、モルホニウム環、ピペリジニウム環、ピロリジニウム環、テトラヒドロチオフェニウム環等)を形成していても良い。これら環構造は、ハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。
【0068】
又、本発明の重合体Aの中には、上記したようなビニル基が置換したフェニル基がカチオン性基を介して主査と結合した繰り返し単位を有する重合体の他に、ビニル基が置換したフェニル基が直接もしくはカチオン性基を含まない連結基を介して主鎖に結合した繰り返し単位とカチオン性基を有する繰り返し単位とを有する重合体も用いる事が出来る。
【0069】
本発明に於ける重合体Aの例を以下に示すが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例示された構造式の中の数字は共重合体トータル組成100質量%中における各繰り返し単位の質量%を表す。
【0070】
【化6】

【0071】
【化7】

【0072】
【化8】

【0073】
【化9】

【0074】
本発明の重合体Aを構成する各繰り返し単位が、全重合体中に占める割合については好ましい範囲が存在する。上述したように側鎖に重合性二重結合がカチオン性基を介して主鎖と結合している場合には、その繰り返し単位が重合体トータル組成10質量%から80質量%の範囲にある事が特に好ましい。
【0075】
また、ビニル基が置換したフェニル基が直接もしくはカチオン性基を含まない連結基を介して主鎖に結合した繰り返し単位とカチオン性基を有する繰り返し単位とからなる重合体の場合には、ビニル基が置換したフェニル基を有する繰り返し単位の場合は、5質量%から50質量%の範囲にある事が特に好ましい。そして、カチオン性基を有する繰り返し単位が占める割合は、30質量%から95質量%の範囲にある事が好ましく、50質量%から90質量%の範囲にある事が特に好ましい。カチオン性基を有する繰り返し単位が30質量%以上でなければ十分な水溶性が得られない場合があり、90質量%以下でなければ十分な画像形成ができない場合がある。
【0076】
本発明の重合体Aの分子量については好ましい範囲が存在し、質量平均分子量で1000から100万の範囲である事が好ましく、更に1万から30万の範囲にある事が特に好ましい。本発明に於ける重合体Aは、1種のみの単独で用いても良いし、任意の2種以上を混合して用いても良い。
【0077】
次に、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有し及びスルホン酸基を有する水溶性重合体(重合体B)について詳細に説明する。
【0078】
本発明の重合体Bは、ビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸基がそれぞれ直接もしくは任意の連結基を介して主鎖と結合した重合体である。これらの連結基としては特に限定されず、任意の基、原子またはそれらの複合した基が挙げられる。ビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸基は、それぞれ独立して主鎖に結合していても良いし、或いはビニル基が置換したフェニル基とスルホン酸基が連結基の一部又は全部を共有する形で結合していても良い。
【0079】
上記ビニル基が置換したフェニル基に於いて、該フェニル基は置換されていても良く、また、該ビニル基はハロゲン原子、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等で置換されていても良い。
【0080】
本発明の重合体Bは、更に詳細には、下記一般式(III)及び(IV)で表される基を側鎖に有するものである。
【0081】
【化10】

【0082】
式中、R11、R12、及びR13は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ前記一般式(I)に於けるR1、R2、及びR3と同義であり、R14は前記一般式(I)のR4と同義である。L4は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子又は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子原子群から成る多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(I)におけるL1と同義である。m3は0〜4の整数を表し、p3は0または1の整数を表し、q3は1〜4の整数を表す。
【0083】
上記一般式で表される基の中でも、R11が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であり、かつR12及びR13が水素原子であるものが好ましい。又、連結基L4としては複素環を含むものが好ましく、q3は1または2であるものが好ましい。
【0084】
【化11】

【0085】
式中、L5は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子又は、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子原子群からなる多価の連結基を表し、具体的には前記一般式(I)におけるL1と同義である。更にL5は前記一般式(III)のL4の一部又は全部を共有しても良い。
【0086】
式中、X+はスルホアニオンを中和するのに必要な電荷をもつカチオンを表す。このようなカチオンの具体例としては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン等の無機イオン(例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛等)、有機アンモニウムイオン(例えばアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ピリジニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム等)、ヨードニウムイオン(例えばフェニルヨードニウム等)、スルホニウムイオン(例えばトリフェニルスルホニウム等)ジアゾニウムイオン等が挙げられ、これらの中でもアルカリ金属イオン又は有機アンモニウムイオンが特に好ましい。
【0087】
重合体中にビニル基が置換したフェニル基を導入する方法については特に制限はないが、該ビニル基が置換したフェニル基を有するモノマーを重合させた場合には、該ビニル基も反応し、ゲル化を起こしてしまう事が予想され好ましくない。このため、ビニル基が置換したフェニル基を有さない前駆体ポリマーを合成しておき、しかる後、従来公知の高分子反応により該ビニル基が置換したフェニル基を導入する方法が特に好ましい。
【0088】
重合体中にスルホン酸塩基を導入する方法については特に制限はなく、該スルホン酸塩基を有するモノマーを共重合させても良いし、スルホン酸塩基を有さない前駆体ポリマーを合成しておき、しかる後、従来公知の高分子反応により該スルホン酸塩基を導入しても良い。
【0089】
本発明の重合体Bは、上述した側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する繰り返し単位、及びスルホン酸基を有する繰り返し単位からのみなる重合体であってもよいし、或いは本発明の効果を妨げない限り、更に他の繰り返し単位を導入した重合体であっても良い。又更に、他のモノマーとの共重合体であっても良く、このようなモノマーの具体例としては、重合体Aで例示した全ての水溶性モノマー及び非水溶性モノマーが挙げられ、これらモノマーは1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。
【0090】
本発明の重合体Bの例を以下に示すが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例示された構造式の中の数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0091】
【化12】

【0092】
【化13】

【0093】
【化14】

【0094】
【化15】

【0095】
【化16】

【0096】
【化17】

【0097】
本発明の重合体Bの重量平均分子量は、1000から100万の範囲である事が好ましく、更に1万から30万の範囲にある事が特に好ましい。本発明における重合体Bは1種のみの単独で用いても良いし、任意の2種以上を混合して用いても良い。
【0098】
前述した本発明の重合体A及びBの水に対する溶解性については好ましい範囲が存在する。即ち、25℃のイオン交換水100mlに対して前記重合体は0.5g以上溶解する事が好ましく、更に2.0g以上溶解する事が特に好ましい。
【0099】
本発明の感光層は、上述した重合体AもしくはBの他に、任意の公知の各種バインダー樹脂を混合して用いる事も出来る。この場合のバインダー樹脂は特に制限されず、具体的には、上記で例示したモノマーから任意に構成される重合体や、ポリビニルフェノール、フェノール樹脂、ポリヒドロキシベンザール、ゼラチン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等のセルロース樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げる事が出来る。これらバインダー樹脂としては水溶性である事が好ましく、上記で例示したような水溶性モノマーを少なくとも1種以上用いた水溶性バインダー樹脂やゼラチン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の水溶性バインダー樹脂である事が好ましい。
【0100】
本発明の平版印刷版の感光層は、前記した重合体AもしくはBと併せて、光重合開始剤又は光酸発生剤を含有する。本発明に用いられる光重合開始剤としては、光または電子線の照射によりラジカルを発生しうる化合物であれば任意の化合物を用いる事が出来る。
【0101】
本発明に用いる事の出来る光重合開始剤の例としては(a)芳香族ケトン類、(b)芳香族オニウム化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)アジニウム化合物(g)活性エステル化合物(h)メタロセン化合物(i)トリハロアルキル置換化合物(j)有機ホウ素化合物等が挙げられる。
【0102】
(a)芳香族ケトン類の好ましい例としては、”RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY”J.P.FOUASSIER,J.F.RABEK(1993)、P.77〜177に記載のベンゾフェノン骨格、或いはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン類、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン類、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類を挙げる事ができる。
【0103】
(b)芳香族オニウム塩の例としては、N、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。このような芳香族オニウム塩は、特公昭52−14277号公報、同昭52−14278号公報、同昭52−14279号公報等に例示されている化合物を挙げる事ができる。
【0104】
(c)有機過酸化物の例としては、分子中に酸素−酸素結合を1個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ−(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ−(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ−tert−ブチルジパーオキシイソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0105】
(d)ヘキサアリールビイミダゾールの例としては、特公昭45−37377号公報、同昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0106】
(e)ケトオキシムエステルの例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−p−トルエンスルホニルオキシイミノブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0107】
(f)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号公報、同昭63−142345号公報、同昭63−142346号公報、同昭63−143537号公報、特公昭46−42363号公報等に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げる事ができる。
【0108】
(g)活性エステル化合物の例としては特公昭62−6223号公報等に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号公報、特開昭59−174831号公報等に記載の活性スルホネート類を挙げる事ができる。
【0109】
(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号公報、同昭61−151197号公報、同昭63−41484号公報、同平2−249号公報、同平2−4705号公報等に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号公報、同平1−152109号公報等に記載の鉄−アレーン錯体等を挙げる事ができる。
【0110】
(i)トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号明細書、同第3,987,037号明細書、同第4,189,323号明細書、特開昭61−151644号公報、同昭63−298339号公報、同平4−69661号公報、同平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号公報、同昭55−77742号公報、同昭60−138539号公報、同昭61−143748号公報、同平4−362644号公報、同平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0111】
(j)有機ホウ素塩化合物の例としては、特開平8−217813号公報、同平9−106242号公報、同平9−188685号公報、同平9−188686号公報、同平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素アンモニウム化合物、特開平6−175561号公報、同平6−175564号公報、同平6−157623号公報等に記載の有機ホウ素スルホニウム化合物及び有機ホウ素オキソスルホニウム化合物、特開平6−175553号公報、同平6−175554号公報等に記載の有機ホウ素ヨードニウム化合物、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素ホスホニウム化合物、特開平6−348011号公報、同平7−128785号公報、同平7−140589号公報、同平7−292014号公報、同平7−306527号公報等に記載の有機ホウ素遷移金属配位錯体化合物等が挙げられる。また、特開昭62−143044号公報、同平5−194619号公報等に記載の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有するカチオン性色素が挙げられる。
【0112】
本発明に関わる光重合開始剤については特に有機ホウ素塩が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物及びオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)を組み合わせて用いる事である。
【0113】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式(V)で表される。
【0114】
【化18】

【0115】
式中、R15、R16、R17及びR18は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R15、R16、R17及びR18の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0116】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウム及びホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加する事で色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与する事が行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0117】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した一般式(V)で表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオン及びオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0118】
【化19】

【0119】
【化20】

【0120】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いる事で更に高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体及びオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0121】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を下記に示す。
【0122】
【化21】

【0123】
【化22】

【0124】
本発明に用いられる光酸発生剤としては、光または電子線の照射により分解し、塩酸、スルホン酸等の強酸やルイス酸の如き酸を発生し得る化合物であれば任意の化合物を用いる事ができる。本発明に用いる事のできる光酸発生剤の例としては、(k)芳香族ジアゾニウム塩化合物、(l)ピバリン酸−o−ニトロベンジルエステル、ベンゼンスルホン酸−o−ニトロベンジルエステル等のo−ニトロベンジルエステル類、(m)9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホン酸−4−ニトロベンジルエステル、ピロガロールトリスメタンスルホネート、ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸エステル類等のスルホン酸エステル誘導体、(n)ジベンジルスルホン、4−クロロフェニル−4′−メトキシフェニルジスルホン等のスルホン類、(o)リン酸エステル誘導体及び(p)米国特許第3,332,936号明細書、特開平2−83638号公報、同平11−322707号公報、同2000−1469号公報等に記載のスルホニルジアゾメタン化合物等を挙げる事ができる。
【0125】
上記光重合開始剤及び光酸発生剤は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。また、任意の光重合開始剤と任意の光酸発生剤を組み合わせて用いる事もできる。光重合開始剤及び光酸発生剤の含有量は、重合体AまたはBのいずれかの量に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更に1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0126】
本発明に於ける感光層を構成する他の好ましい要素として、分子内に重合性不飽和結合基を有する重合性モノマーを挙げる事ができる。重合性不飽和結合基とは、光重合開始剤または光酸発生剤の作用により、光重合反応或いは光架橋反応に寄与しうるエチレン性不飽和二重結合基を表す。特に、分子内に重合性不飽和結合基を2つ以上有する多官能重合性モノマーを使用する事が好ましい。このような重合性モノマーの例としては、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、エチレングリコールグリセロールトリアクリレート、グリセロールエポキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、これら例示化合物のアクリレートをメタクリレートに代えた多官能メタクリレート系モノマー、同様にイタコン酸エステル系モノマー、クロトン酸エステル系モノマー、マレイン酸エステル系モノマー等が挙げられる。
【0127】
他の重合性モノマーの例としては、スチレン誘導体が挙げられる。このスチレン誘導体としては、分子内に2つ以上のビニル基が置換したフェニル基を有する化合物が好ましい。例えば、1,4−ジビニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ビス(4−ビニルベンジルオキシ)ベンゼン、1,2,3−トリス(4−ビニルベンジルオキシ)ベンゼン、1,3,5−トリス(4−ビニルベンジルオキシ)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−ビニルベンジルオキシ)フェニル]プロパン、1,1,2,2−テトラキス[4−(4−ビニルベンジルオキシ)フェニル]エタン、α,α,α′,α′−テトラキス[4−(4−ビニルベンジルオキシ)]p−キシレン、1,2−ビス(4−ビニルベンジルチオ)エタン、1,4−ビス(4−ビニルベンジルチオ)ブタン、ビス[2−(4−ビニルベンジルチオ)エチル]エーテル、2,5−ビス(4−ビニルベンジルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,4,6−トリス(4−ビニルベンジルチオ)−1,3,5−トリアジン、N,N−ビス(4−ビニルベンジル)−N−メチルアミン、N,N,N′,N′−テトラキス(4−ビニルベンジル)−1,2−ジアミノエタン、N,N,N′,N′−テトラキス(4−ビニルベンジル)p−フェニレンジアミン、マレイン酸ビス(4−ビニルベンジル)エステル等が挙げられる。
【0128】
或いは、上記の重合性モノマーに代えてラジカル重合性を有する重合性オリゴマーも好ましく用いる事ができる。例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基を導入した各種オリゴマーとしてポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等を重合性モノマーと同様に用いる事ができる。
【0129】
上述した重合体A及び重合体Bを用いた感光層の中で、特に、重合体Bを用いた感光性組成物が、画像部の強度が特に優れている点で好ましい。重合体Bからなる感光層をプロセスレス平版印刷版として使用した場合には、現像処理を行わずに印刷機に装着して印刷するのに特に好適であり、且つ耐刷性に優れたプロセスレス平版印刷版を得る事ができる。
【0130】
本発明のプロセスレス平版印刷版の感光層は感光層に色素を含有する事で、様々な波長の光に対して感度を持たせる事が出来る。
【0131】
700〜900nmにおける増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号明細書、米国特許第4,508,811号明細書、同5,227,227号明細書に記載の化合物も用いる事ができる。
【0132】
好ましく用いる事の出来る増感色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。700〜900nm付近の近赤外光に対応する増感色素を下記に示す。
【0133】
【化23】

【0134】
【化24】

【0135】
上記のような増感色素の含有量には好ましい範囲が存在し、感光層1平方メートル当たり1〜300mgの範囲で添加する事が好ましく、更に、感光層1平方メートル当たり5〜200mgの範囲で添加する事が特に好ましい。
【0136】
本発明のプロセスレス平版印刷版は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加する事も好ましく行われる。特に、重合性不飽和結合基の熱重合或いは熱架橋を防止し、長期にわたる保存性を向上させる目的で、種々の重合禁止剤を添加する事が好ましく行われる。この場合の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物等が好ましく使用され、特にハイドロキノンが好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、重合体100質量部に対して0.1質量部から10質量部の範囲で使用する事が好ましい。
【0137】
プロセスレス平版印刷版の感光層が含有する場合の他の要素として、着色剤の添加も好ましく行う事ができる。着色剤としては、露光及び現像処理後に於いて、画像部の視認性を高める目的で使用されるものであり、カーボンブラック、フタロシアニン系色素、トリアリールメタン系色素、アントラキノン系色素、アゾ系色素等の各種の色素及び顔料を使用する事ができ、重合体1質量部に対して0.005質量部から0.5質量部の範囲で使用する事が好ましい。
【0138】
プロセスレス平版印刷版の感光層は、上述の要素以外にも種々の目的で他の要素を追加して添加する事もできる。例えば、感光性組成物のブロッキングを防止する目的もしくは現像後の画像のシャープネス性を向上させる等の目的で無機物微粒子或いは有機物微粒子を添加する事も好ましく行われる。
【0139】
本発明のプロセスレス平版印刷版の感光層は、上述した要素から構成される感光性組成物の塗液を、支持体上に塗布、乾燥して作製される。塗布方法としては、公知の種々の方法を用いる事ができ、例えば、バーコーター塗布、カーテン塗布、ブレード塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、回転塗布、ディップ塗布等を挙げる事ができる。平版印刷版として使用する場合の感光層自体の厚みに関しては、支持体上に0.5μmから10μmの範囲の乾燥厚みで形成する事が好ましく、更に1μmから5μmの範囲である事が耐刷性を大幅に向上させるために好ましい。
【0140】
本発明のプロセスレス平版印刷版の支持体として用いられるプラスチックフィルム支持体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロース等が挙げられる。これらプラスチックフィルム支持体の表面は、親水性層との接着性を良好にし、非画像部に保水性を与える目的で、各種親水化処理が施される。このような親水化処理としては、化学的処理、放電処理、グロー放電処理、火焔処理、紫外線処理、高周波処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面処理、及び表面に親水性層を塗設する方法等が挙げられ、これらの処理は組み合わせて実施しても良い。
【0141】
上記のようにして親水性層上に形成された感光層は、密着露光或いはレーザー走査露光を行った後、現像液により未露光部を除去する事でパターン形成が行われる。露光された部分は架橋する事で現像液に対する溶解性が低下し、画像部が形成される。
【0142】
本発明のプロセスレス感光性平版印刷版における感光性の画像形成層は、水現像できる事が大きな特徴である。水現像に用いられる現像液は、従来から一般に用いられているアルカリ剤を多量に含有する強アルカリの現像液(通常pH10を超える)とは異なり、実質的にアルカリ剤は含まない。従って、本発明の水現像に用いられる現像液のpHは10以下であり、好ましくはpH9.5以下であり、より好ましくはpH9以下である。pHの下限は3程度である。本発明の水現像に用いられる現像液は、水が現像液全体の70質量%以上、更には80質量%以上を占めるものであり、他に添加剤として、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルセルソルブ、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種有機溶剤、或いは、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の界面活性剤等を添加する事もできる。
【実施例1】
【0143】
合成例1
親水性ポリマー(WP−1)の合成例
攪拌機、温度計、還流冷却管及び窒素導入管を備えた1リッター4つ口フラスコ内に、アクリルアミド80g及びアクリル酸20gを秤量し、エタノール100g及び純水450gを添加して溶解した。60℃に調節した水浴上で、重合開始剤として2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩を0.4g添加して重合を開始した。重合開始後、系の温度が上昇するため、冷水を添加して内温を70℃に保ち、この温度で4時間攪拌を続けた。得られた共重合体溶液は精製せず、そのまま評価に用いた。
【0144】
下記組成の裏塗り層の塗液を作製した。次いで該塗液を、厚みが0.10mmの、ゼラチン下引き層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム支持体上に、乾燥厚みが3.0μmになるよう30m塗布、乾燥した。これを50℃に保たれた恒温機に二日間入れ、架橋させた。
【0145】
<裏塗り層塗液1>
ゼラチン 40.0 質量部
デナコールEX614 4.0 質量部
(ナガセケムテックス(株)製;エポキシ化合物)
アロン−T50 0.1 質量部
金属酸化物 A(表1記載) 30.0 質量部
カーボンブラック(Aqua−Black 162(平均粒径100nm):東海カーボン(株)製)
3.0 質量部
水で100質量部に合わせた。
【0146】
この後に、上記裏塗り層を塗布したポリエチレンテレフタレートフィルムの反対側の面に下記組成の親水性層塗布液を作製し、乾燥厚みが1.5μmになるよう塗布、乾燥した。これを50℃に保たれた恒温機に二日間いれ、架橋させた。
【0147】
<塗布液>
親水性ポリマー(WP−1) 3.1 質量部
デナコールEX811 0.47 質量部
(ナガセケムテックス(株)製;エポキシ化合物)
PS−M 6.2 質量部
(日産化学(株)製;コロイダルシリカ)
エタノール 10.0 質量部
水で100質量部に合わせた。
【0148】
下記組成の感光性組成物の塗液を作製し、次いで、該塗液を上記親水性層の上に、乾燥膜厚が1μm、70℃で2分間乾燥して試料を作製した。
<塗液A>
重合体A(CP−1) 3.0 質量部
光重合開始剤(BC−6) 0.5 質量部
光重合開始剤(T−4) 0.25質量部
増感色素(S−4) 0.1 質量部
青色顔料 0.1 質量部
1,3−ジオキソラン 25.0 質量部
水 25.0 質量部
【0149】
上記試料を外径80mmの紙コアに30m巻き付け、端をテープ止めして黒ポリ袋に入れて35℃、相対湿度80%の環境下で1週間放置した。この後、袋から出してテープを外し、以下の基準で感光層と裏塗り層とのブロッキングを評価した。○:感光層と裏塗り層が全く付着しない。○△:フィルムのエッジ部分がやや接着している。△:フィルム内部の一部で感光層と裏塗り層が接着している。△×:フィルムの大部分が接着している。×:フィルムが剥がれない程に感光層と裏塗り層が接着している。結果を表1に示した。
【0150】
また、上記試料の一部を、35℃、相対湿度80%の環境下で放置せずに、深さ0.1mm、幅10mmの溝が掘られている感光ドラムに巻き付け、波長が830nmでスポット径20μmのレーザービームで2400dpi、175線の、50%の平網と80%の平網を露光エネルギー120mJ/cm2で露光を行った後、25℃の水に15秒に漬けてセルローススポンジで感光層を擦って現像し、乾燥した。
【0151】
上記試料の50%平網を露光した箇所の網点面積率を測定した。更に、80%平網を露光した箇所を目視で観察し、ドラムの溝の模様が平網上に現れているか否かを下記基準で目視で評価した。○:画像部に溝の模様が全く見られない。△:薄くドラムの溝の模様が見られる。×:はっきりとドラムの溝の模様が見られる。結果を表1に示した。
【0152】
【表1】

【0153】
表1より判るように、比較例の試料は、高湿度条件下でブロッキングを引き起こすのに対して、本発明の試料は起こらなかった。又、カーボンブラックの添加によって、ドラムの溝の影響を防ぐ事が出来た。
【実施例2】
【0154】
実施例1の感光層に用いたポリマーを重合体B(SP−1)に変えた以外は全て実施例1と同じ条件で試料を作製し、実施例1と同じ基準での評価を行ったところ、同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム支持体上に親水性層と、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有するカチオン性水溶性重合体または側鎖にビニル基が置換したフェニル基及びスルホン酸基を含有する水溶性重合体、及び光重合開始剤又は光酸発生剤を含有する感光層を少なくともこの順に有し、プラスチックフィルム支持体の該感光層を有する側の反対側の面に金属酸化物とカーボンブラックを含有する裏塗り層を有するプロセスレス感光性平版印刷版。

【公開番号】特開2009−241300(P2009−241300A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88369(P2008−88369)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】