説明

ホルモン変化の症状を治療する又は予防するための方法

ホルモン変化の症状の治療又は予防方法はホルモン変化の1以上の症状を有する患者に有効な量の受容体アンタゴニストを投与することを含み、ここで上記受容体アンタゴニストはセロトニン2A型(5−HT2A)及びドパミン2型(D2)受容体から成る群から選ばれる少なくとも1に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は一般的にのぼせ、寝汗、及び不眠症の如きホルモン変化の症状の治療又は予防に関する。
【背景技術】
【0002】
背景の分野
(血管運動ののぼせとも呼ばれる)のぼせは閉経期周辺又は閉経後の女性が経験する最もよくある症状である。のぼせは暖かさの突然の感覚であり、それは通常皮膚が赤くなること、発汗、動悸、不安、興奮性、及びパニック、並びに寝汗を伴う。核温度における続く急降下のために悪寒がのぼせに続きうる。のぼせは変動する:それらは1週間に数回又は1時間に1回でありうる、それらは穏やかな暖かさからおびただしい発汗により特徴付けられうる、及びそれらは数秒間から60分間続きうる。上記症状は睡眠及び作業を妨害し、及び生活の質を害しうる。
【0003】
閉経後の女性のおよそ60〜70%はのぼせを有し、及び全ての閉経後の女性の約10〜20%はのぼせを含む耐えられない症状を報告するであろう。何人かの女性は15年間までこれらの症状を患いうる(Kronenberg F. “Hot flashes:epidemiology and physiology,” Ann. N.Y. Acad. Sci., 592:52−86(1990))。したがって、閉経期症状の同定及び適切な管理は女性の生活の質の維持に重要である。
【0004】
典型的なのぼせは胸における暖かさの感覚の突然の開始で起こり、それはその後首及び顔を含むように上へ広がる。のぼせは数秒間から数分間続きうる。しかしながら、上記感覚の重篤さは同じ女性において時により、及び女性により大きく変化する。のぼせにめまい、悪心、頭痛、動悸、おびただしい発汗及び寝汗が付随しうる。一人の女性がどのくらいしばしばのぼせを経験するかもまた1日何回もから1週間に1回又はそれより少ない回数に及んで、変化する。上記症状は睡眠及び作業を妨害し、及び生活の質を害しうる。何人かの女性においては、のぼせは熱い天候、ストレス、摂食又はアルコール摂取の如きいくつかの因子により誘発される。
【0005】
のぼせの病態生理は完全には理解されていないが、のぼせは視床下部温度調節設定点の一過性の低下から生ずることが仮定されている(Steams et al., “Hot flushes,” Lancet, 360:1851−1861(2002))。性ホルモン濃度における変化及びのぼせの開始の間の時間関係のために、上記症状は低下するエストロゲン値又は増加した性腺刺激ホルモン濃度から生ずると考えられる。したがって、のぼせは閉経期の女性において通常起こるが、タモキシフェンの如き抗エストロゲン薬を摂取する女性においても起こる。男性ホルモン欠乏処置中の男性もまた上記症状を経験する。
【0006】
エストロゲン置換治療は女性においてのぼせを効果的に最小限にし又は予防しうるが、多くの女性はホルモン置換治療の可能性のある危険性を心配する。これは乳癌を患う又は乳癌の家族歴、及び/又は凝血障害歴を有する女性にとって特に真実である(Col et al., “Patient−specific decisions about hormone replacement therapy in postmenopausal women,” JAMA, 277;1140−1147(1997); Gail et al., “The menopause,” Lancet, 353:571−580(1999))。
【0007】
クロニヂンの如きさまざまな非ホルモン剤もまた試験されてきた。クロニヂンは中枢活性α2アドレナリン作動性受容体アゴニストである。それは血中のカテコールアミン値をモニターする脳内の受容体を選択的に刺激する。これらの受容体は副腎髄質中のカテコールアミン(例えば、アドレナリンとしても知られるエピネフリン、及びノルエピネフリン)の生成を制御する脳からの下降交感神経で始まるネガティブフィードバックループを閉じる。脳をだましてカテコールアミン値がそれらの実際の値より高いと信じさせることにより、クロニヂンは脳が副腎髄質への脳のシグナルを減少させることを引き起こし、より低いカテコールアミン生成を導く。結果は低下した心拍数及び血圧である。ランダム化臨床試験において、クロニヂンはプラシーボより中程度に有効であることが示されたが(Goldberg et al., “Transdermal clonidine for ameliorating tamoxifen−induced hot flashes,” J. Clin. Oncol., 12:155−158(1994); Pandya et al., “Oral clonidine in postmenopausal patients with breast cancer experiencing tamoxifen−induced hot flashes: a University of Rochester Cancer Center Community Clinical Oncology Program study,” Ann Intern Med. 132:788−793(2000))、口の乾燥、めまい、及びぼやけた視野を含む悪い作用がよくある。
【0008】
最近のランダム化臨床試験はまた、ヴェンラファキシン及びパロキセチンの如き、いくつかの選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)はのぼせの発生及び重篤さを最小限にすることにおいてプラシーボより有効であることを確認した(Loprinzi et al., “Venlafaxine in management of hot flashes in survivors of breast cancer: a randomized controlled trial,” Lancet 356:2059−2063(2000); Steams et al., “Paroxetine controlled release in the treatment of menopausal hot flashes: A randomized controlled trial,” JAMA 289:2827−2834(2003))。しかしながら、SSRIsでの悪い効果は頭痛、動揺、振せん、鎮静、及び性機能障害を含んで、中程度である。
エストロゲン置換治療の危険性及び現行の非ホルモン治療のぎりぎりの利点から、のぼせを含む閉経期に関連する症状を治療する又は予防するための代替の方法又は薬物について続く要求がある。
【発明の概要】
【0009】
発明の要約
1の局面において、本発明の態様はホルモン変化の症状の治療又は予防方法に関する。本発明の1の態様に従う方法はホルモン変化の1以上の症状を有する患者に有効な量の受容体アンタゴニストを投与することを含み、ここで上記受容体アンタゴニストはセロトニン2A型(5−HT2A)受容体及びドパミン2型(D2)受容体から成る群から選択される少なくとも1に結合する。上記受容体アンタゴニストはリスペリドン、クエチアピン、クロザピン、オランザピン、アリピプラゾール、ジプラシドン、ゾテピン、及び9−ヒドロキシリスペリドンから選択される1である。
本発明の他の局面及び利点は以下の説明及び付属の請求項から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本発明の態様はホルモン変化に関連する症状、詳細にはホルモン変化が付随する閉経期に関連する症状の治療又は予防方法に関する。以下の説明において、多くの詳細は本発明の理解を提供するために示される。しかしながら、本発明はこれらの詳細なしに実施されうること及び説明される態様からの多くの変形又は改変は本発明の範囲から離れることなく可能であることが当業者により理解されるであろう。本発明の方法は経口投与、注射、吸入、経皮パッチ又は本分野において通常使用される他の経路により有効な量の治療用剤を投与することを含みうる。
【0011】
さらに、以下は本発明の態様を例示するためにいくつかの実施例を示す。これらの実施例は例示目的のためのみである。当業者は、これらの実施例は網羅的なものではなく、及びそれらは本発明の範囲を限定すると意図されないことを理解するであろう。さらに、この明細書全体をとおして、ある濃度又は量範囲が有用である又は好適である等として示されるとき、終点を含む範囲内のいずれの及び全ての濃度又は量が示されたものとして考えられることが理解されるべきである。さらに、各数値は(既に明白にそのように改変されていない限り)用語「約」により改変されるものとして一度読まれ、及びその後文脈中で別段の定めなき限りそのように改変されるべきでないとして再び読まれるべきである。例えば、「1〜10の範囲」は約1〜約10の間の連続に沿う各及び全ての可能な数字を示すものとして読まれるべきである。言いかえると、ある範囲が表されるとき、2〜3の特定のデータ点のみが上記範囲内に明確に同定される又は言及される場合でさえも又はデータ点が上記範囲内に言及されないときでさえ、発明者は上記範囲内のどの及び全てのデータ点も特定されていると考えられることを認識し及び理解すること、及び発明者は上記範囲内の全範囲及び全ての点の占有を有することが理解されるべきである。
【0012】
閉経期は正常な加齢の一部として女性の生涯において起こる自然なプロセスである。何人かの女性はほとんど症状を伴わずにこれらの過程を過ぎるが、一方で他の女性はのぼせの如き顕著な又は無力にする症状さえも有する。のぼせは一般的に体系的であり、及びドパミン、セロトニン、ノル−エピネフリン、及びアルファ−アドレナリン作動性受容体が関連する、視索前野前部視床下部に位置される体温調節設定点中心における変化から生ずるようである(Steams et al., “Hot flushes,” Lancet 360:1851−1861(2002))。
【0013】
さまざまな受容体のうち、本発明の発明者は、特定のサブタイプのドパミン、セロトニン、及びαアドレナリン作動性受容体がのぼせ及びホルモン変化に関連する他の症状の治療に有効な標的であることを発見した。詳細には、5−HT2Aアンタゴニスト及び/又はD2ドパミンアンタゴニストはホルモン変化に関連する症状を減少させる又は消去することにおいて有効であることが発見されている。
【0014】
したがって、本発明のいくつかの態様に従って、ホルモン変化の症状の治療又は予防方法は有効な量の5−HT2Aセロトニン受容体及び/又はD2ドパミン受容体のアンタゴニストの使用を含みうる。5−HT2A及び/又はD2受容体に結合するアンタゴニストの有効な量は投与様式、投与頻度、及び上記化合物を患者にデリバリーするために使用される医薬組成物の型、並びに患者の体重、性、年齢、及び身体的状態に因るであろう。一般的に、上記化合物の有効な量は約0.002mg〜約0.5mg/体重kg/日、好ましくは約0.005mg〜0.1mg/体重kg/日、及びより好ましくは約0.005〜約0.034mg/体重kg/日であろう。例えば、毎日の用量は約50Kg(110lb)の体重の成人患者について約0.1〜約25mg/日又は約100Kg(220lb)の体重の成人患者について約0.2〜約50mg/日に及びうる。個々の要求は変動するが、各化合物の有効な量の最適範囲の決定は当業者の技術の範囲内である。のぼせを含むホルモン変化の症状を治療することにより、本発明の態様は症状事件の数(発生又は頻度)、長さ、及び/又は重篤さを減少させる。患者に本発明に係る化合物を投与することは、少し例を挙げれば経口投与、注射、及び経皮パッチを含む、患者に同様の医薬を投与するために使用されるどんな好適な経路でも介しうる。上記化合物はどんな医薬として許容される担体又は賦形剤とも投与されうる。
【0015】
セロトニン(5−HT)受容体は約15の異なる受容体を含む。2型(5−HT2)セロトニン受容体はイノシトール三リン酸(IP3)及びヂアシルグリセロール(DAG)の細胞の値を増加させることにより細胞効果を仲介するGq/G11連結受容体である。本発明のいくつかの態様に従って、セロトニン2A型受容体はホルモン変化に関連する症状の治療又は予防のための標的である。5−HT値における減少は体温調節に関連する視床下部における5−HT2A受容体の感受性を増加させる。それゆえ、5−HT2A受容体の調節剤はホルモン変化に関連する症状の管理において有用でありうる。
【0016】
本発明の1の態様に従って、リスペリドンはホルモン変化の症状を治療するために使用されうる。リスペリドン(米国におけるBelivon(商標)、Rispen(商標)、Risperdal(商標))は脳内の神経間のコミュニケーションを妨害することにより機能する抗精神病薬である。リスペリドンは5−HT2Aアンタゴニストとしてはたらき、及び低い用量で5−HT2Aアゴニストの効果をすばやく及び効果的にブロックするために使用されうる。リスペリドンはまた強いドパミン2型(D2)、及びα2アドレナリン作動性受容体アンタゴニストでもある。したがって、リスペリドンは精神障害、例えば、統合失調症の治療において使用されている。しかしながら、以下の節において示されるように、リスペリドンはホルモン変化に関連する症状を減少させる又は消去することにおいて有効であることが予想外に発見されている。
【0017】
本発明の他の態様に従って、9−ヒドロキシリスペリドンはホルモン変化の症状のための治療として使用されうる。9−ヒドロキシリスペリドンはリスペリドンの主要な活性代謝産物であり、及びそれらは5−HT2A受容体及びD2受容体について同様の結合プロファイル及びアフィニティを有した(Leysen et al., “Risperidone: a novel antipsychotic with balanced serotonin−dopamine antagonism, receptor occupancy profile, and pharmacologic activity,” J Clin Psychiatry:55 Suppl:5−12(1994))。リスペリドンのように、9−ヒドロキシリスペリドンは5−HT2A及び/又はドパミン受容体についてのそのアンタゴニスト活性によりホルモン変化に関連する症状を効果的に治療し又は予防しうる。
【0018】
リスペリドン及び9−ヒドロキシリスペリドンに加えて、5−HT2A及び/又はD2ドパミン受容体に結合しうる他の受容体アンタゴニストもまたホルモン変化に関連する症状を制御するために使用されうる。これらの他のアンタゴニストは、例えば、クエチアピン、クロザピン、オランザピン、アリピプラゾール、ジプラシドン、及びゾテピンを含みうる。
【0019】
本発明の他の態様に従って、クエチアピンはホルモン変化の症状のための治療として使用されうる。クエチアピンの抗精神病効果はドパミン及び5−HT受容体に対するそのアンタゴニスト活性により仲介されると考えられる。詳細には、ドパミン受容体D1、D2、及び5−HT受容体、5−HT1A及び5−HT2サブタイプは拮抗される。
クエチアピンのD2ドパミン受容体占有を評価する連続PETスキャンは、クエチアピンがD2受容体からすばやく解離することを明らかにした。理論的には、これは黒質線状体の及び結節状漏斗部の経路の如き領域におけるドパミンの通常の効果を誘発するためのドパミンの正常な生理的サージを許容し、したがって偽−パーキンソン病及びプロラクチンにおける上昇の如き副作用の危険性を最小限にする。クエチアピンはまたH1ヒスタミン受容体に対してもアンタゴニスト効果を有する。これは上記薬物の鎮静効果の原因でありうる。
【0020】
本発明のいくつかの態様に従って、クロザピンはホルモン変化の症状のための治療として使用されうる。クロザピンは、ドパミン受容体へのその結合プロファイル及びさまざまなドパミン仲介行為に対するその効果がより典型的な抗精神病薬により示されるものとは異なるので、「非定型」抗精神病薬として分類される。詳細には、クロザピンはD4受容体について高いアフィニティを有し、及びそれはまたD1、D2、D3及びD5ドパミン受容体でのドパミンの結合をより低い程度までは妨害する。しかしながら、クロザピンはカタレプシーを誘発しないし、それは「慣用の」精神遮断薬で見られる動物モデルにおけるアポモルフィン誘発表現型を阻害しない。この証拠は、クロザピンは線状体のドパミン受容体でより辺縁系で優先的により活性であることを示し、及びその比較的穏やかな錐体外副作用及びその強い抗コリン作動性活性を説明しうる。クロザピンはまたアドレナリン作動性、コリン作動性、ヒスタミン作動性及びセロトニン作動性受容体の異なるサブタイプの強いアンタゴニストでもある。
【0021】
本発明のいくつかの態様に従って、オランザピンはホルモン変化の症状のための治療として使用されうる。オランザピンはクロザピンと構造的に同様であり、及びドパミン及びセロトニン受容体について高いアフィニティを有する。オランザピンはヒスタミン、コリン作動性ムスカリン性及びα−アドレナリン作動性受容体について低いアフィニティを有する。オランザピンの活性の機構は知られていない。しかしながら、オランザピンの抗精神病活性は主にドパミン受容体、詳細にはD2ドパミン受容体の拮抗(アンタゴニズム)により仲介されると考えられる。5−HT拮抗もまたオランザピンの有効性において役割を果たしうる。しかしながら、5−HT2A拮抗の有意性は研究者の間で議論されている。
【0022】
本発明のいくつかの態様に従って、アリピプラゾールはホルモン変化の症状の治療として使用されうる。アリピプラゾール(Bristol−Myers SquibbからのAbilify(商標))は統合失調症の治療についてFDAによる認可を待っている新規不定型抗精神病薬である。アリピプラゾールは双極性障害に関連する急性躁病及び混合エピソードの治療についてFDAにより認可されている。アリピプラゾールは主にD2受容体の部分アゴニストとしてはたらくことによりその抗精神病効果を仲介するように見える。D2受容体での部分作動(アゴニズム)は、統合失調症の脳の辺縁系間及び皮質間領域の如き、それぞれ、ドパミン活性が高い又は低い状態でありうる領域におけるドパミン作動性活性を調節することが示されている。D2受容体の部分アゴニスト活性に加えて、アリピプラゾールはまた5−HT1A受容体の部分アゴニストでもある。他の不定型抗精神病薬のように、アリピプラゾールは5−HT2A受容体に対してアンタゴニスト活性を示す。アリピプラゾールはヒスタミン及びα−アドレナリン作動性受容体について中程度のアフィニティを有するが、コリン作動性ムスカリン性受容体について測定できるアフィニティを有しない。
【0023】
本発明のいくつかの態様に従って、ジプラシドンはホルモン変化の症状の治療として使用されうる。ジプラシドンはドパミン、セロトニン、及びアルファ−アドレナリン作動性受容体について高いアフィニティ、及びヒスタミン受容体について中程度のアフィニティを有する。ジプラシドンは、それがまたセロトニン及びノルエピネフリンのシナプス再取り込みを阻害しうる点で、「不定型」のうちではいくらか独特である。ただし、この臨床的な有意性は未知である。ジプラシドンの活性の機構は未知である。しかしながら、その抗精神病活性は主にドパミン受容体、詳細にはD2ドパミン受容体に対するその拮抗により仲介されると考えられる。セロトニン拮抗もまたジプラシドンの有効性において役割を果たしうるが、ジプラシドンの5−HT2A拮抗の有意性は研究者の間で議論されている。ヒスタミン及びアルファアドレナリン作動性受容体での拮抗は鎮静及び起立性の如き、ジプラシドンの副作用のいくつかを説明するようである。
【0024】
本発明のいくつかの態様に従って、ゾテピンはホルモン変化の症状の治療として使用されうる。ゾテピンはD1及びD2ドパミン受容体について高いアフィニティを有する。それはまた5HT2A、5HT2C、5HT6、及び5HT7受容体にも影響する。さらに、それはまたノルアドレナリンの再取り込みをも阻害しうる。
【実施例】
【0025】
臨床的実施例
以下の実施例は本発明の態様がのぼせ、寝汗、及び血圧変動を含むホルモン変化の症状を減少させうることを例示するために提供される。本発明の態様はさまざまな状態下の患者にとって有効である。しかしながら、当業者は、これらの実施例が例示のためのみであり、及び本発明の範囲を限定するとは決して意図されないことを理解するであろう。
【0026】
本発明の態様はホルモン変化に関連する症状を緩和するために治療的に有効な量の5−HT2A及び/又はD2ドパミン受容体の(リスペリドン又は9−ヒドロキシリスペリドンの如き)アンタゴニストを投与することを含む。例えば、リスペリドンはのぼせ又はホルモン変化の他の症状の発生をうまく緩和するために何人かの患者に対して使用されている。以下はホルモン変化に関連する症状の緩和におけるリスペリドンの有効性を例示するために4の異なる患者からの4の特定の実施例を示す。当業者は、これらの特定の実施例は本発明の範囲を限定するとは意図されないことを理解するであろう。例えば、本発明の態様は5−HT2A及び/又はD2ドパミン受容体の他のアンタゴニストを含む、他の管理を使用しうる。
【0027】
患者1:リスペリドンは子宮摘出での場合におけるのぼせを解決した
68歳の女性はのぼせ、高血圧、及び不安のために2004年12月に入院した。彼女は、彼女が16年間特発性高血圧を患い、及び数年間抗高血圧薬を摂取していると語った。しかしながら、彼女の血圧はまだ変動しており、及び高血圧の突然の開始のために舌下アダレート(10mg)を摂取した後に、度々臨界値未満に落ちた。彼女は45歳での全腹部子宮摘出以外は、精神科又は体系的疾患歴を有しなかった。入院に際して、彼女ののぼせ発作は1日何回も起こり、数分間続き、及び通常180〜200/84〜96mmHgまでの高血圧、全身の震え、及び20〜60分間の不安が続いたことが観察された。上記臨床症状は50歳ごろ開始し、及び段々と悪化した。
【0028】
それぞれ140mmol/L及び4.0mmol/Lであるナトリウム及びカリウム値の如き、彼女の生化学及び血液学的結果は全て正常の範囲内であった。血漿コルチゾル値は正常の範囲内であり、及び日周的なリズムを示した。血漿アドレナリン、ノル−アドレナリン、VMA、エピネフリン、及びドパミン値、並びにT3、T4、及びTSHを含む甲状腺ホルモンもまた正常であった。交感神経及び副交感神経機能を評価するためのSSR及びRRIV試験はそれぞれ、彼女の自律神経系は正常であることを示した。EEGは病巣てんかん様放電も異常なバックグラウンド活動も示さなかった。脳MRIは加齢脳変化を示したが、視床下部又は脳幹における病変は示さなかった。24時間Holterスキャンは正常な洞リズムを示した。心エコー検査は正常な心室の大きさ、正常なLV収縮期パフォーマンス、及び壁の運動を示した。
【0029】
1ヶ月間の観察後、上記患者はPremarin(商標)0.625mg/日、Prozac(商標)20mg/日及びTofranil(商標)20mg/日の治療をそれぞれ1〜2カ月間受け、限定された成功を有した。エストロゲン離脱は視床下部5−HT2A受容体の感受性を増加させることにより視床下部に位置される体温調節設定点を変えうるので、5−HT2Aアンタゴニストでの管理はのぼせの如きホルモン変化の症状のための有効な治療を提供しうる。したがって、上記患者はリスペリドン(2mg/日)で治療された。3日間の治療後、彼女ののぼせは1〜2週間に1回の頻度まで顕著に減少した。動悸及び不安の如き関連する症状もまた顕著に改善した。その後、抗高血圧薬の投与量は減少された。患者の許可で、リスペリドン治療は中止され、及び上記治療を中止した後2〜3日以内にのぼせが再発した。上記症状はリスペリドン治療を再開した3〜4日後に再び緩和された。
【0030】
患者2:リスペリドンは自然な閉経期ののぼせを解決した
患者2は7年前に起こった自然な閉経後に耐えられないのぼせ及び寝汗を発展しはじめた57歳の女性であった。彼女はホルモン置換治療(Premarin(商標)0.625mg/日)に十分に応答したが、彼女は乳癌の可能性のある危険性を心配したので、彼女はこの研究の1年前に上記治療を中止した。ホルモン置換治療を中止した1ヶ月後、彼女は1日10回までののぼせ、彼女の睡眠を妨害する毎晩3回までの寝汗、及び頭痛を発展した。上記患者はその後神経学的診察を探した。上記患者はまた1日2回の頭痛、及び変動する血圧をも患った。リスペリドンは2mg/日の用量で開始され、及び上記患者は、のぼせの発生はリスペリドン治療の開始2日後に顕著に減少し、及び7日目までに完全に消去されたことを報告した。さらに、彼女はよく眠れ、及び彼女の血圧は安定した。リスペリドン治療及びのぼせの解決の間の関係を評価するために、リスペリドンは2日間にわたり次第に減らされた。上記患者はリスペリドン治療が完全に中止された2日後に再びのぼせ及び寝汗を経験した。毎日2mgのリスペリドンが再開され、及び上記患者はそれ以来のぼせを患っていない。
【0031】
患者3:リスペリドンは閉経周辺期の場合におけるのぼせを解決した
患者3は卵胞刺激ホルモンの増加した値、月経周期の長さにおける増加した変動性、のぼせの発展、及び不眠症に基づいて、閉経周辺期と診断された46歳の女性であった。上記患者はこれらの症状を2年間有していた。彼女はエストロゲン治療に十分に応答した。健康危険性のために、上記患者はエストロゲン治療を中止し、及び大豆イソフラボンの如きサプリメント治療を探したが、成功しなかった。リスペリドン治療(1mg/1晩)が開始された。そのとき、上記患者は1日7回ののぼせを経験していた。上記患者は彼女ののぼせの頻度及び強度はリスペリドン治療の開始3日後に顕著に減少されたことを報告した。彼女の許可を伴って、リスペリドンは2日間にわたり次第に減らされ、及びのぼせは3日後に再び発展した。リスペリドン治療(毎日1mg)が再開された後、上記患者はもはやのぼせを経験せず、及び彼女の睡眠及び彼女の生活の質は改善した。3ヶ月後、リスペリドンの投与量は1日0.25mg又はそれ未満まで減少され、及び上記患者ののぼせはそれでも顕著に消去された。
【0032】
患者4:リスペリドンはホルモン置換治療での場合における残留ののぼせを解決した
患者4は1時間に1回の頻度ののぼせ、動悸、不眠症、頭痛、不安、及び不安定な血圧を7年間超発展した56歳の女性であった。はじめに、上記患者は彼女の睡眠障害について精神科医を、及び彼女の高血圧について心血管の専門家を訪問した。1年後、耐えられないのぼせ及び他の閉経期症状のために、彼女はホルモン置換治療(Divina(商標))を受けた。彼女ののぼせは1日2回まで減少されたが、頭痛は持続し、及び抗高血圧薬での治療にもかかわらず彼女の血圧は180〜210/110〜90mmHgまで変動した。上記患者に残留ののぼせのために、リスペリドン治療、はじめの2日間は就寝時に1mg、続いて1晩2mgを開始した。上記患者ののぼせはリスペリドン治療の開始3日後に完全に消去された。さらに、上記患者は彼女の血圧が正常の範囲内に安定したので、1日4回ホルモンを摂取し、及び全ての抗高血圧薬の使用を中止することができた。
【0033】
上記データは、リスペリドン又は同様の受容体アンタゴニストは、のぼせ及び血圧変動の如きホルモン変化に関連する症状の緩和において有効であることを明らかに示す。ホルモン変化に関連する症状を緩和するための本発明に係る化合物の投与はのぼせを含むホルモン変化の症状を治療するために有用な他の好適な治療処置と組み合わせて行われうることもまた企図される。
【0034】
どのようにしてこれらの受容体アンタゴニストがホルモン変化に関連する症状を緩和するよう機能するのかという機構により束縛されるとは意図されないが、発明者はこれらの薬物はおそらく5−HT2Aセロトニン受容体、D2ドパミン受容体、及び/又はα1−アドレナリン作動性受容体を阻害することにより機能すると考える。
【0035】
閉経期は正常な加齢の一部として女性の生涯において起こる自然なプロセスである。約1/3の女性はほとんど又は全く症状を経験しないが、一方で残りの女性は重篤なのぼせの如き顕著な又は無力にさせるほどの症状を有しうる。のぼせは一般的に体系的であり、及びドパミン、セロトニン、ノル−エピネフリン、及びアルファ−アドレナリン作動性受容体の関連を伴って、視索前野前部視床下部に位置される体温調節設定点中心における変化から生ずるようである(Steams et al., “Hot flashes,” Lancet 360;1851−1861(2002))。
【0036】
ベンズイソキサゾール誘導体であるリスペリドンはセロトニン2A型5−HT2A、ドパミン2型(D2)、及びα1−アドレナリン作動性受容体に高いアフィニティで結合する不定型抗精神病薬である。リスペリドンはα2−アドレナリン作動性及びH1ヒスタミン受容体により低いアフィニティで結合する。リスペリドンはD1ドパミン受容体には結合せず、及びムスカリン性コリン作動性受容体について(>10-5Mの濃度で試験されるとき)全くアフィニティを有しない(Grant and Fitton, “Risperidone. A review of its pharmacology and therapeutic potential in the treatment of schizophrenia,” Drug 48:253−273(1994);Ota et al., “Peripheral injection of risperidone, an atypical antipsychotic, alters the body weight gain of rats,” Clin Exp pharmacol. physiol. 29:980−989(2002))。
【0037】
実験データは、5−HT2及びドパミン受容体の刺激は体温を増加させうることを示す。例えば、5−HT2A受容体の直接的な刺激はまた動物モデルにおいて高体温を誘発しうるが、一方で5−HT2Aアンタゴニストの投与はセロトニン症候群の動物モデルにおいて高体温を予防しうる。
【0038】
しかしながら、げっ歯類又はヒトへの5−HT1Aアゴニストの投与は核体温における減少を引き起こす。これらの結果は、上記2の5−HT受容体サブタイプ、5−HT1A及び5−HT2Aは体温制御に密接に関連することを示唆する(Oether et al., “Involvement of 5−HT1A and 5−HT1B receptors for citalopram−induced hypothermia in the rat,” Psychopharmacology, 154:429−434(2001); Salmi and Ahlenius, “Evidence for functional interactions between 5−HT1A and 5−HT2A receptors in rat thermoregulatory mechanisms,” Pharmacol. Toxicol., 82:122−127(1998))。
【0039】
閉経期中、性ホルモン、特にエストロゲン値における顕著な減少は血中セロトニン(5−HT)値における顕著な減少を引き起こしうる。セロトニン値における減少は視床下部における5−HT2A受容体の感受性を増加させる(Berendsen HH, “The role of serotonin in hot flashes,” Maturiatas, 36:155−164(2000))。したがって、不安の如き内部及び外部刺激がセロトニンの放出を誘発し、5−HT2A受容体の高められた感受性を刺激するとき、体温についての設定点が変化され、及びのぼせが起こる。
【0040】
LH−RHアゴニストの投与はのぼせをもたらしうるので、拍動性の黄体形成ホルモン(LH)分泌理論はのぼせの発展についての他のよくある説明である。ドパミン作動系は閉経後の女性において拍動性LH分泌及びのぼせの両方に関連するように見える。抗ドパミン作動薬は体温調節核に対するアドレナリン作動性効果を直接的に減少させることにより又は二次的なドパミン様活性で結節状漏斗部ドパミンニューロンに対する過プロラクチン血症により発揮される短ループフィードバックの如き機構をとおして間接的に又はオピオイド系を刺激することにより、のぼせを減少させるよう体温調節核に対してはたらきうる(Melis GB et al., “Effects of the dopamine antagonist veralipride on hot flashes and luteinizing hormone secretion in postmenopausal women,” Obstet. Gynecol., 72:688−692(1988);Wesel et al., Veralipride versus conjugated oestrogens: a double−blind study in the management of menopausal hot flashes,” Curr. Med. Res. Opin., 8:696−700(1984))。
【0041】
リスペリドンは5−HT2A及びD2受容体について高いアフィニティを有する。リスペリドンはセロトニン症候群において前部視床下部における5−HT活性の高まりを打ち消し、及びノル−エピネフリン活性を減少させうる(Nisijima et al., “Risperidone counteracts lethality in an animal model of the serotonin syndrome,” Psychopharmacology 150:9−14(2000))。さらに、リスペリドンは健康な被験者及び統合失調症患者において循環プロラクチン値を上昇させうる(Markianos et al., “Neuroendocrine serotonergic and dopaminergic responsivity in male schizophrenic patients during treatment with neuroleptics and after switch to risperidone,” Psychopharmacology, 157:55−59(2001))。リスペリドンはまた結節状漏斗部ドパミンニューロンのループに対する及び前部視床下部におけるノル−エピネフリン活性に対する抗ドパミン作動性効果をとおしてのぼせを減少させ又は予防しうる。
【0042】
本発明の態様の利点は1以上の以下のものを含みうる。本発明の態様はのぼせ及び寝汗を含むホルモン変化の症状の治療のための組成物及び方法を提供しうる。さらにこれらの方法及び組成物はまた血圧の正常化及び動悸の消去/減少をも達成しうる。本発明に係る組成物はセロトニン2A型(5−HT2A)受容体、ドパミン2型(D2)受容体、及び/又はα1−アドレナリン作動性受容体アンタゴニストを含みうる、及びホルモン変化の症状を経験する女性の生活の質を改善するための多くの治療選択を提供しうる。
【0043】
本発明は限定された数の態様について示されているが、当業者は、本明細書中に開示される本発明の範囲から離れない他の態様が案出されうることを理解するであろう。したがって、本発明の範囲は付属の請求項によってのみ限定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルモン変化の症状を治療する又は予防するための医薬の製造における受容体アンタゴニストの使用であって、上記受容体アンタゴニストはセロトニン2A型(5−HT2A)受容体及びドパミン2型(D2)受容体から成る群から選ばれる少なくとも1に結合する、使用。
【請求項2】
上記ホルモン変化の症状はのぼせ、めまい、悪心、頭痛、動悸、おびただしい発汗、及び寝汗から選ばれる少なくとも1を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記受容体アンタゴニストはリスペリドン、9−ヒドロキシリスペリドン、クエチアピン、クロザピン、オランザピン、アリピプラゾール、ジプラシドン、及びゾテピンから選ばれる少なくとも1である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
上記受容体アンタゴニストはリスペリドンである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
上記受容体アンタゴニストは9−ヒドロキシリスペリドンである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項6】
上記受容体アンタゴニストはリスペリドン及び9−ヒドロキシリスペリドンの混合物である、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項7】
上記医薬は経口調剤、注射、吸入、及び経皮パッチから選ばれる投与形態中である、請求項1〜6のいずれかに記載の使用。
【請求項8】
上記医薬は0.1〜50mgのリスペリドンを含む投与形態中である、請求項4に記載の使用。
【請求項9】
上記医薬は0.1〜50mgの9−ヒドロキシリスペリドンを含む投与形態中である、請求項5に記載の使用。

【公表番号】特表2010−522137(P2010−522137A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540891(P2009−540891)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004514
【国際公開番号】WO2008/087491
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(509165460)ユン シン ファーマシューティカル インダストリアル カンパニー,リミティド (3)
【Fターム(参考)】