説明

ボタン穴かがりミシン

【課題】布切りメスで切開したボタン穴の周囲にボタン穴かがり縫目を形成するに際し、ボタン穴周囲の被縫布の繊維が解けたり抜けたりしないように、ボタン穴かがり縫目に補強のための縫目を形成する。
【解決手段】被縫製物に切開形成されるボタン穴の両側に沿う一対の側縫いと前記ボタン穴の少なくとも一端側に位置し両側縫いに連続する閂止めとによるボタン穴かがり縫目を形成する縫い形成手段を備えたボタン穴かがりミシンにおいて、
ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを、針が同一点に落ちないように、前記側縫い及び両側縫いに連続する閂止めの形成位置に形成する制御手段を備える構成にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被縫物上に切開形成されるボタン穴の周囲にボタン穴かがり縫目を形成するボタン穴かがり縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なボタン穴かがりミシンでは、被縫製物上に布切りメスを落下させてボタン穴を形成する前または後に、ボタン穴に沿ってその両側に形成される側縫いとその側縫いに連続し前記ボタン穴の一端または両端に閂止め縫いとを形成してボタン穴かがり縫目を形成している。
【0003】
また、家庭用ミシンによりボタン穴かがりを形成する場合、側縫い形成前に、直線縫いをボタン穴に沿い側縫い形成部に形成し、これによりボタン穴かがり縫いに風合いを持たせるようにしていた。
【0004】
そして、ソレノイドやボイスコイルモータ等の電気的駆動手段を利用して、糸調子器による糸張力を縫製中に変化させる糸張力調節装置も知られている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−165676号公報
【特許文献2】特開平09−084976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このボタン穴かがり縫目をウールギャバのように太い繊維による生地や最近の形状記憶生地のような新素材の生地に形成すると、その生地の繊維形成の特徴により、布切りメスにより切断された生地の、ボタン穴形成方向と直交する繊維が切断された後にボタン穴かがり縫いから抜けたり解け易くなり、商品の品質を低下する欠点が生じた。
【0007】
そして、上記した家庭用ミシンのように、側縫い形成前に直線縫いを形成するようにしても、ボタン穴に直交する繊維に対しては何らの補強にならず、上記と同様の欠点を生じた。
【0008】
この発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、生地の影響を受けずボタン穴かがり縫いを奇麗に仕上げるボタン穴かがりミシンを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
被縫製物に切開形成されるボタン穴の両側に沿う一対の側縫いと前記ボタン穴の少なくとも一端側に位置し両側縫いに連続する閂止めとによるボタン穴かがり縫目を形成する縫い形成手段を備えたボタン穴かがりミシンにおいて、
前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを、針が同一点に落ちないように、前記側縫い及び前記両側縫いに連続する閂止めの形成位置に形成する制御手段を備える構成にした。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御手段は、前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いの開始点が、ボタン穴に沿う方向にずれている構成とした。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御手段は、前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いの開始点が、ボタン穴に直交する方向にずれている構成とした。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御手段は、前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いのピッチが異なる構成とした。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1記載のボタン穴かがりミシンにおいて、
前記制御手段は、前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いの幅が異なる構成とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを、針が同一点に落ちないように、前記側縫い及び前記両側縫いに連続する閂止めの形成位置に形成したから、地糸切れ、縫い不良等を解消することができ、被縫製物の品質を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、このミシン構造の詳細およびボタン穴かがり形成方法については、本件出願人が先に出願した発明として特開平11-9859号公報に記載されているので、ここでは本発明に関連することのみについて説明する。
【0016】
これら図1〜図3において、1はボタン穴周囲に本縫目によりボタン穴かがり縫目を形成するミシン、5はミシンの主モータ、6は上軸、7はクランク機構、8は針棒、9は針、10は立軸、11は下軸、12は釜、13はボビンケース、14は布保持板、15は布押え、16は布切りメス、17は送りモータ、18は針棒揺動台、30は布切りメス下降シリンダ、40は基線モータ(第1の電気的駆動手段)、41は振り幅モータ(第2の電気的駆動手段)、42は針振り機構(基線変更機構及び針振り幅変更機構)である。
【0017】
図示のように、ミシン1は、上面に平坦なベッド面を有するベッド2と、このベッド2上の一端部側に起立する縦胴部3と、この縦胴部3上からベッド2とほぼ平行に沿って伸びるアーム4とから構成されて、側面視でほぼコ字状を成している。
【0018】
以上のミシン1において、その縦胴部3側の端部に主モータ5が備えられ、この主モータ5の駆動により回転する上軸6がアーム4内に配設され、この上軸6の先端部にはクランク機構7を介して針棒8を上下動可能に連結されており、この針棒8の下端に針9が取り付けられている。
【0019】
また、縦胴部3内に立軸10が配設されて、ベッド2内に下軸11が配設されており、この下軸11の先端部の釜12にボビンケース13が装着されている。なお、立軸10は、その上端部が上軸6とベベルギヤ6a、10aを介して連結されて、下端部が下軸11とベベルギヤ10b、11aを介して連結されている。
【0020】
また、針棒8は、針棒揺動台18に上下摺動自在に組み込まれている。この針棒揺動台18は、上端部を上軸6に平行な揺動支点軸18aを支点として揺動自在となっている。
【0021】
そして、ベッド2上には、移動可能な布保持板14が配設されて、この布保持板14の上方には、枠状クランプ体による布押え15と、上下動メスである布切りメス16が配設されている。この布切りメス16は、ソレノイドやエアシリンダ等の駆動手段の駆動により上下動されるようになっている。また、布保持板14及び布押え15は、送りモータ17の駆動により、布を挟持した状態でベッド2上を上軸6に沿い往復移動して布送りを行うようになっている。
【0022】
ミシン1の縦胴部3側の端部には、図2に示すように、針棒揺動台18の基準位置を決める第1の電気的駆動手段としての基線モータ40、及び振り幅を決める第2の電気的駆動手段としての振り幅モータ41が並列に配設され、その各々の出力軸から針棒揺動台18にかけて基線変更機構及び針振り幅変更機構としての針振り機構42が構成されている。
【0023】
基線モータ40及び振り幅モータ41の出力軸には、それぞれピニオン40a、41aが設けられ、これらピニオン40a、41aには、基線アーム43のセクタギヤ43dと、振り幅アーム55のセクタギヤ55dが、それぞれ噛み合わされた状態となっている。 針振り機構42は、図2及び図3に示すように、基線アーム43、基線レバー44、連結リンク45、針振りカムレバー46、針振りレバー47、連結軸48、針振り腕49、針振りカム54、振り幅アーム55、振り幅レバー56等から構成されている。
【0024】
基線アーム43は、ミシン1を貫通した状態で回転自在に保持された回転軸43aと、この回転軸43aの一端に基端側が固定され自由端側にセクタギヤ43dを有するギヤ部43bと、回転軸43aの他端に基端側が固定された二股部43cとにより構成され、これら各部は基線モータ40の駆動に伴い回転軸43aを軸心として一体的に回動するようになっている。
【0025】
そして、ミシン1の外部において、基線アーム43のセクタギヤ43dを、ピニオン40aに噛み合わせ、一方、ミシン1の内部において、基線アーム43の二股部43c内に、同じく二股状の基線レバー44の端部を水平ピン44aで揺動自在に連結している。この基線レバー44の二股部内において、連結リンク45の一端部を水平ピン44bで揺動自在に連結し、この連結リンク45の他端部に水平ピン45aで針振りカムレバー46を揺動自在に連結している。
【0026】
さらに、この針振りカムレバー46の下端部に水平ピン46aで針振りレバー47の先端部を揺動自在に連結している。この針振りレバー47の基端部は、アーム4内に上軸6に平行に配設した連結軸48の基端部に固定されている。この連結軸48の先端部には、針振り腕49の基端部が固定されており、この針振り腕49の先端部には、針棒揺動台18が図示しない角ゴマ等を介して揺動自在に連結されている。
【0027】
ここで、針振りカムレバー46は、上部がコ字状に開放されたカム係合凹部46bとなっていて、このカム係合凹部46bに偏心カムによる針振りカム54が係合している。
【0028】
この針振りカム54は、上軸6から減速ギヤ51、52を介して減速比1/2で回転が伝達される副軸53に備えられている。
【0029】
また、振り幅アーム55は、ミシン1を貫通した状態で回転自在に保持された回転軸55aと、この回転軸55aの一端に基端側が固定され自由端側にセクタギヤ55dを有するギヤ部55bと、回転軸55aの他端に基端側が固定されたアーム部55cとにより構成され、これら各部は振り幅モータ41の駆動に伴い回転軸55aを軸心として一体的に回動するようになっている。
【0030】
そして、ミシン1の外部において、振り幅アーム55のセクタギヤ55dを、ピニオン41aに噛み合わせ、一方、ミシン1の内部において、振り幅アーム55のアーム部55cに、振り幅レバー56の一端部を水平ピン56aで揺動自在に連結している。この振り幅レバー56の他端部は、前記水平ピン44bを介して前記連結リンク45及び基線レバー44に揺動自在に連結されている。
【0031】
なお、基線アーム43のセクタギヤ43dの近傍には、基線位置を検出する基線原点検出センサ57が配設され、同様に、振り幅アーム55のセクタギヤ55dの近傍にも、針振り幅を検出する振り幅原点検出センサ58が配設されている。これら基線原点検出センサ57及び振り幅原点検出センサ58は、例えば、フォトセンサにより構成されている。
【0032】
また、副軸53側の減速ギヤ52の一側面に、磁気センサによる針振り左右位置検出センサ59(基線側・針振り側検出手段)が配設されており、減速ギヤ52に左右位置検出用の磁石52aが設けられている。
【0033】
ところで、前記減速ギヤ52は、主軸6上の減速ギヤ51の2回転に対して1回転、即ち、針9が2回上下動するのに際して1回転する。前記針振り左右位置検出センサ59は、針9が上停止位置に位置し、かつ、基線側に振られている回転位相において、磁石52aに対向している。
【0034】
以上の針振り機構42によって、針棒揺動台18は、電気的駆動手段としての基線モータ40及び振り幅モータ41各々の駆動で、基線アーム43から基線レバー44を経て、または、振り幅アーム55から振り幅レバー56を経て、以降は連結リンク45、針振りカムレバー46、針振りレバー47、連結軸48、針振り腕49及び針振りカム54を介して揺動がそれぞれ伝達されることにより、上端部の揺動支点軸18aを支点として基線の変更と振り幅の変更が行われる。 即ち、基線については、パルスモータによる基線モータ40の駆動で基線アーム43、基線レバー44、連結リンク45、針振りカムレバー46、針振りレバー47、連結軸48、針振り腕49及び針振りカム54を介して揺動が伝達されて、上端部の揺動支点軸18aを支点として針棒揺動台18が揺動することによって、基線が変更される。これが基線変更機構である。
【0035】
また、振り幅については、パルスモータによる振り幅モータ41の駆動で振り幅アーム55、振り幅レバー56、連結リンク45、針振りカムレバー46、針振りレバー47、連結軸48、針振り腕49及び針振りカム54を介して揺動が伝達されて、上端部の揺動支点軸18aを支点として針棒揺動台18が揺動することによって、振り幅が変更される。これが針振り幅変更機構である。
【0036】
ここで、針振り機構42は、基線位置を基準として振り幅を左側へ振る(増大する)もので、針振りカム54のカム頂部が基線側にある時が、基線アーム43の位置により針落ちが決まるものとなっている。
【0037】
また、針振りカム54のカム頂部がカム振り幅側にある時が、基線位置に対して振り幅量により針落ちが決まるものとなっている。
【0038】
そして、縫製の際は、主モータ5の駆動により回転する上軸6から減速ギヤ51、52を介して回転が伝達される副軸53に備えた針振りカム54が減速比1/2で回転し、この針振りカム54がカム係合凹部46bに係合した針振りカムレバー46が往復揺動を行い、その針振りカムレバー46の往復運動が、針振りレバー47、連結軸48、針振り腕49及び針振りカム54を介して針棒揺動台18に伝達される。
【0039】
この結果、前述した基線及び振り幅の変更に基づいて、上端部の揺動支点軸18aを支点として針棒揺動台18が往復揺動して、ボタン穴かがりの平行部(側縫い部)及び閂止め部(閂止め縫い部)の縫い目が形成される。
【0040】
この実施の形態の糸調子装置A(図1)は、ミシン1のアーム部4に設けられて、上糸に張力をかけて上糸の張力の制御を行なう。
【0041】
図4は糸調子装置Aの側面図、図5は糸調子装置Aの分解斜視図である。糸調子装置Aは、図4と図5に示すように、ベース部材69、一対の糸調子皿66、67、駆動手段であるソレノイド60、可動ピン68、および、ミシン1の制御を兼ねながらソレノイド60の駆動制御を行なう制御回路(図示略)等を備えて構成される。
【0042】
糸調子皿66、67は、1対の調子皿(固定皿66と可動皿67)の間に上糸を挟んで該上糸に抵抗力を与えると共に、ソレノイド60の推力により縫製中に上記抵抗力を連続的に変化させることの可能な動的な糸調子(アクティブテンション)である。
【0043】
ネジ71,71は、ベース部材69のネジ挿通孔69a,69aと、アーム部フレーム81Aのネジ挿通孔81Aa,81Aaに挿通されてソレノイド60のネジ孔60a,60aに螺合される。それにより、ベース部材69はアーム部フレーム81Aの外側に、ソレノイド60はアーム部フレームA81の内側に、ネジ71,71によりそれぞれ一体的に止着される。
【0044】
可動ピン68は、一端側のネジ部68bとネジが切られていない他端側の軸部68aを有し、調子皿(固定皿66と可動皿67)の中央貫通孔66a,67a、とベース部材69の挿通孔69bに挿通されて、プランジャ(可動部)61の先端のネジ孔61aに螺合される。可動ピン68とプランジャ61の固定位置はナット70の締付けにより適宜調整できる。可動ピン68が固定されたとき固定皿66と可動皿67の部分には軸部68aが位置するように設定される。
【0045】
この可動ピン68には、案内手段としてのスリット68cおよび糸通し孔68dが設けられており、上糸Lはスリット68cを介してその奥端の糸通し穴68dまで通された上で、2枚の調子皿(固定皿66と可動皿67)に挟まれるようにセットされる。2枚の調子皿(固定皿66と可動皿67)がセットされた状態では、糸通し穴68dが2枚の調子皿(固定皿66と可動皿67)の間の押圧面と重なる位置にあり、且つ、スリット68cの入り口が上記押圧面から外れた位置にある。それゆえ、2枚の調子皿がセットされた状態では、ミシン糸は糸調子皿66、67から外れないようになっている。
【0046】
図6は糸調子装置1のソレノイド60の断面図である。
【0047】
ソレノイド60は、機枠62、コイル用フレーム63、コイル64、プランジャ61、および、磁性部材65等から構成される。プランジャ61は、軸方向に移動可能で且つ回転不能に軸受け62A,62Bに支持されている。プランジャ61に固着された磁性部材65は、円筒形状でその一部に軸心からの径をかえる段部65aが形成されている。そして、この形状により、推力がストロークによらない特定ストローク区間W(図4)が得られる。
【0048】
このソレノイド60は、通電電流が一定のとき、推力がプランジャ61のストロークによらない特定ストローク区間Wが得られる。
【0049】
上記糸調子装置1において、可動ピン68とプランジャ61の固定位置はナット70の締付けにより適宜調整できるが、プランジャ61が糸調子皿66、67に作用される状態のプランジャ61のストローク区間が、上記特定ストローク区間Wに含まれるように、上記ナット70の締付位置が設定されている。ここで、プランジャ61が糸調子皿66、67に作用される状態とは、一対の調子皿(固定皿66、可動皿67)がベース部材69と可動ピン68に挟まれて当接した状態から、上糸が一対の調子皿の間に挟まれた状態までのことを指す。
【0050】
糸調子皿66、67に作用するプランジャ61のストロークを、特定ストローク区間Wに設定するには、例えば、ナット70をゆるめた状態で、ソレノイド60の後方に突出したプランジャ61の先端の突出量Wを計測しながら、可動ピン68の溝部68eをドライバ等で可動皿67と固定皿66がベース部材69に当接する状態で回転させ、その突出量を特定ストローク区間Wに対応する位置にもっていき、その位置でナット70を締めて可動ピン68とプランジャ61を固定することで達成される。
【0051】
このプランジャ61のストロークは、ミシンで使用しうる極太の縫い糸に相当する値(約1mm)となる必要があり、少なくとも、通常使用する縫い糸の太さ(0.2〜0.3mm)に相当する値は必要である。その範囲において、極太又は通常使用する縫い糸の太さにわずかな補償値(コンマミリ単位)を加えた値に設定しても良い。
【0052】
なお、糸調子器を駆動する駆動手段は、この実施の形態の特殊なソレノイド60に限られず、ステッピングモータ、ボイスコイルモータ等の種々の駆動手段を用いても良い。次に、図7の制御ブロック図において、本実施形態例の制御について説明する。
CPU(Central Processing Unit )100、RAM(Random Access Memory)102、ROM(Read Only Memory)101、各パルスモータの回転量をカウントするY送りカウンタ103、基線カウンタ104、および針振りカウンタ105、布切りメスの駆動数をカウントする布切りメスカウンタ106、各パルスモータの駆動を行うY送りパルスモータドライバ111、基線パルスモータドライバ112、および針振送りパルスモータドライバ113、各種センサーや各駆動部のドライバおよび操作パネル110等とCPU100とを接続するI/Oインターフェース109、ミシンを駆動するミシンモータ5の駆動制御を行うミシンモータドライバ115、ミシンモータ5の回転量を上軸6の回転角度としてコード付けするミシンモータエンコーダ119、糸調子装置Aのソレノイド60を駆動するアクティブテンションドライバ120、布押さえ15を上昇させる押さえ上昇ソレノイド122を駆動する押さえ上昇ソレノイド駆動回路121、布切りメス16を下降させる布切りメス下降シリンダ30を駆動する布切りメス下降シリンダ駆動回路123、並びに、所定の割り込み条件(各パルスモータの回転量を示すカウンタ値、布の送り位置、上軸6の回転角度など)によりCPU100に割り込み信号を出力する割り込みコントローラ108等から構成される。
【0053】
上記ミシンモータドライバ115には、ミシンモータ5の他、ミシン針9が上方位置にあることを検出する針上位置センサ116、布押さえ15や布保持板14の基準位置を検出する送り基準位置センサ117、上軸6の回転角度を検出するTG(Tacho Generator)発生器118等が接続されている。
【0054】
I/Oインターフェース109には、操作パネル110や各駆動部のドライバ並びに駆動回路のほか、布切りメス16の下降を検知するメス下降検知スイッチ34、布押さえ15の下降を検知する押え下降検知スイッチ28、布送り(布押さえ15と布保持板14)が原点位置にある状態を検出するY送り原点センサ26、針振り機構の基線位置が原点にあることを示す基線原点センサ57、針振り機構の振り幅が原点にあることを示す針振送り原点センサ58、布押さえ15の下降を指示する押さえスイッチ124、並びに、ミシンモータ5の駆動スタートを指示するスタートスイッチ125などが接続されている。
【0055】
CPU100は、RAM102の所定領域を作業領域としてROM101に記憶されている制御プログラムに従い、操作パネル110からのデータや、接続された各種センサーから検出信号を入力したり、各ドライバを介して各種駆動部の制御を行う。
【0056】
ROM101には、操作パネル110から各種の設定パラメータを入力する設定入力処理や、各種縫製パターンを演算する演算処理、並びに、縫製パターンに基づいてボタン穴かがりの縫製を実行する縫製処理などの制御データや制御プログラムが記憶されている。 この実施の形態のボタン穴かがりミシン1は、操作パネル110から各種の設定データの入力、各縫製パターンの演算、ボタン穴かがりミシン1の駆動制御が行われて、種々の縫製パターンのボタン穴かがり縫製が行われるようになっている。
【0057】
先ず、図8に示される操作パネル110から入力される設定データの項目について説明する。
【0058】
即ち、図9に示されたボタン穴かがり縫目の各部の長さデータに関連して、「布切り長さデータ」a、「メス巾データ」b、「閂止め長さデータ」c、「閂止め巾データ」d、「側縫いピッチデータ」e、「閂止めピッチデータ」f、「布切りメス−第1閂止め間すきま長さデータ」g、および「布切りメス−第2閂止め間すきま長さデータ」hが設定可能である。
【0059】
また、糸調子装置Aのソレノイド60の補正値を示す「アクティブテンション補正データ」、各縫製タイミングにおける張力データである「側縫い張力データ」、「閂止め張力データ」、「縫い始め張力データ」、「縫い終わり張力データ」、および、「糸切り時張力データ」が設定可能である。
【0060】
さらには、本発明に関連して、「補強縫い選択データ」「補強縫いピッチ調整データ」、「補強縫い幅調整データ」、「飾り縫い選択データ」、「飾り縫いピッチ調整データ」、「飾り縫い幅調整データ」、「補強縫い糸張力調整データ」、「飾り縫い糸張力調整データ」等が設定可能である。なお、「補強縫い時縫い始め基線位置」を左右の補強縫いの夫々について設定可能なようにすることができる。同様に「飾り縫い時縫い始め基線位置」を左右の飾り縫いの夫々について設定可能なようにすることができる。
【0061】
そして、「補強縫い選択」のデータ項目に「1」をすることで補強1重縫いを選択し「0」を入力することにより補強縫いを行なわない選択がなされ、同様に「飾り縫い選択」のデータ項目に「0」又は「1」を選択することで飾り縫いするか否かが選択されるようになっている。
【0062】
ユーザーは、先ず、上記各設定データを操作パネル110から入力する設定入力処理を行う。入力する各データ項目には、予めデフォルトの設定データや、前回入力した設定データが記憶されており、ユーザーは変更の必要なデータ項目のみを入力変更する。
【0063】
設定データの各項目には、該項目に対応して入力可能なデータ値の範囲を示す設定範囲データが予め記憶されており、この設定範囲データから外れたデータが入力された場合にエラー判定が行われるようになっている。また、データによりデフォルト値が設定されているものもある。
【0064】
上記の設定データは、縫製パターンナンバーに対応させて複数セット登録することが可能になっており、ユーザーが任意の縫製パターンナンバーを選択し呼び出すことで該ナンバーに対応した設定データのセットが読み込まれて実際の縫製制御に使用される。
【0065】
次に、図10乃至図13に示されたフローチャートにより、本発明の実施形態の作用について説明する。
【0066】
図10において、作業者がパネル110から必要なデータを設定する(S−0).スタートキー125がオンされると、事前にパネル110から入力設定されているデータ(図8)に基づいて縫製データが演算処理により決定される(S−2)。
【0067】
この演算設定では、前記補強縫いピッチ、補強縫い幅、補強縫い糸張力、飾り縫いピッチ、飾り縫い幅、飾り縫い糸張力がパネル110により補正されたデータを加味される。 次いで布押え15が布保持板14上に載置された被縫製物(図示しない)上に下降して挟持する(S−3)。
【0068】
再度スタートキー125がオンされると、補強縫いのサブルーチン(S−5)が処理される。図11において、補強縫い選択データが「0」の時は(S−9)、次の飾り縫いのサブルーチン(S−6)が処理される。
【0069】
図12において、飾り縫い選択データが「0」のときは(S-20)、次のかがり縫いのサブルーチン(S−7)が処理される。かがり縫いサブルーチンが終了すると、布切りメス16を上下動するように布切りメス下降シリンダ30が作動される(S−8)。
【0070】
図11フローチャートにおいて補強縫い選択データが「1」の時について、図14に示す縫い形状に従って、説明する。なお、図14において、iは側縫いの幅で、閂止め幅dとメス幅bとからi=(d−b)/2で求められる。jは補強縫いの幅であり、デフォルト値にパネル設定された調整値を加味した数値である。このデフォルト値は、j=i/3として設定されている。そして、R1、R2は左右の補強縫いの右側端縁であって基線位置となる。また、L1、L2は補強縫いの左側側縁であって、基線からの振り幅位置となる。
【0071】
補強縫い選択データが「1」のとき、補強縫い糸張力が設定される(S−10)。この補強縫い糸張力は、ウィップ縫い、すなわち上下糸の縫目結節点が被縫製布中に位置となる張力に設定するように、ソレノイド60に電流が供給される。ソレノイド60は、ストロークをほとんど変化せずに調子皿66、67の糸挟持力を変化するので、時間的にはほとんど瞬時に設定される。
【0072】
次いで、左側の縫い始め位置(P1)移動するように、Y送り、基線、振り幅パルスモータ20、40、41が制御される(S11)。
【0073】
次いで、補強縫いが縫い開始点P1から縫い始められ、設定された補強縫いピッチにより、設定された補強縫い幅で決定される前記右側側縁R1と左側側縁L1上に交互に針落ちするジグザグ縫いにより、図14下から上に向けて左側の補強縫いが形成される(S−12)。この補強縫いピッチは、デフォルト値によりボタン穴かがり縫目の側縫いピッチに比べても極めて細かなピッチに設定されている。
【0074】
パネル110から設定された布切り長さa、メス-第一閂止め隙間長さg、メス-第二閂止め隙間長さhとにより側縫い長さVはV=a+g+hで求められており、補強縫い長さはこれと同じ長さに設定され、パネル設定された補強縫いピッチ(図8、項目No.20)とこの補強縫い長さとにより、この間に縫われる針数(Na)が前記縫製データ処理(S−2)において算出されている。
【0075】
ミシンの針位置信号により一針毎に計算される針数値(N)が設定値(Na)に一致すると(S−14)、右側縫い始め位置P3に移動するように基線、振り幅パルスモータ40、41が制御される(S−15)。
【0076】
なお、左側補強縫いの最終針落ち位置P2から右側縫い始め位置P3に移動する際、第一閂止め(上側)縫い部の中間位置P5に一端針落ちさせてから移動させることにより、これらの位置を回避位置として渡り糸が第一閂止め縫い内に隠せる。
【0077】
その後、右側の補強縫いが縫い開始点P3から縫い始められ、前記と同様に、設定された縫いピッチにより前記右側側縁R2と左側側縁L2上に交互に針落ちし、図14上から下に向けて所定針数Naの補強縫いが形成される(S−16)。その後針上位置に停止される。
【0078】
この補強縫いは、上記のとおり縫いピッチの細かなジグザグ縫いにより形成されるので、繊維が縫い糸により拘束されるから縦横方向の繊維が抜けたり解けたりすることが無くなる。この縫いピッチが極めて細かくなるように設定すると最適であるが生地より多少の粗さは効果上影響が無い。
【0079】
また、補強縫いはボタン穴かがり縫目の側縫い形成時にその中心部付近にボタン穴に沿い膨らみを持たせる効果を生じ、ボタン穴かがり縫目に風合いを与える。
【0080】
なお、前記右側補強縫いの最終針落ち位置P4で終了せずに、次の飾り縫い又は穴かがり縫いへの継続時に第二閂止め縫い部(下側)の中間位置P6に針落ちさせることにより、渡り糸を第二閂止め縫い部内に位置させることができる。
【0081】
図12フローチャートにおいて、飾り縫い選択データが1のときについて、図15に示す縫い形状に従って説明する。
【0082】
飾り縫い糸張力が、ウィップ縫いとなるようにほぼ補強縫い時と同じ設定にされる(S−21)。そして前記補強縫いの最終位置P4または中間位置P6に引き続き、左側縫い始め位置P7に移動するようにY送り、基線、振り幅の各パルスモータ20、40、41が制御される(S−22)。
【0083】
飾り縫い幅は、デフォルト値としてはゼロ、すなわち直線縫いに設定されているが、図15の実施例ではわずかにジグザグになるようにパネル設定により調整設定されている状態を示している。また飾り縫いピッチはボタン穴かがり縫目の側縫いに比べて極めて大きく設定されている。
【0084】
この設定に基づいて、前記飾り縫いピッチと前記側縫い長さVとにより演算設定される針数Nbだけ左側の補強縫いの上に飾り縫いの縫目が形成される(S−25)。左側の最終針落ち位置P8から右側の縫い始め位置P9に移動するが、補正縫い時と同様閂止め縫い部内に中間位置P10の針落ちを行なってもよい。同様に右側補強縫いの上に所定針数Nbの右側飾り縫いを形成し(S29)、最終位置P11において針下位置に停止する(S30)。この飾り縫いは、補強縫いとともにボタン穴かがり縫目の側縫い形成時にその中心部にボタン穴に沿い膨らみを持たせる効果を生じ、ボタン穴かがり縫目に極めて優れた風合いを与える。
【0085】
かがり縫いのサブルーチンについて、図13において説明する。
前記飾り縫いの最終位置P11又は、第二閂止め部中央の中間位置P12から、かがり縫いの縫い始め位置P13に移動する(S31)。側縫いの糸張力設定は、パール縫い、すなわち、上下糸の結節点が布上の側縫い中央部に位置するように、強い糸張力がパネル110において設定されている(S−32)。そして、前記ソレノイド60への電流量が増大し、前記したように瞬時に調子皿66、67への挟持力を増大する。
【0086】
そして左側縫いが所定針数(Nc)形成されると(S−35)、閂止め糸張力に設定される(S−36)。この閂止め糸張力は、ウィップ縫いとなるように、弱い糸張力が設定されているので、前記ソレノイド60への電流量が減少すると、前記と同様に瞬時に調子皿66、67は挟持力を減少する。
【0087】
そして所定針数(Nd)の第一閂止め縫いが完了すると(S−39)、前記と同様に側縫い糸張力設定がなされ(S−40)、前記ソレノイド60への電流が増大して調子皿への挟持力を増大し,その後所定針数(Ne)の右側縫いが形成される(S−43)。
【0088】
所定針数(Ne)の右側縫いが完了すると、再度、閂止め糸張力設定がなされ(S−44)、前記ソレノイド60への電流が減少して調子皿への挟持力を減少し、その後所定針数(Nf)の第二閂止め縫いを形成する(S−47)。
【0089】
その後、縫い終り時糸張力設定(S−48)により、ソレノイド60への電流量が調整されてから、針上位置に停止される(S−49)。
【0090】
その後、糸切サブルーチン(S−50)に従い、糸切を行なうように、Y送りパルスモータ20を制御し、押え15の移動に伴う糸切機構(図示しない)との機械的動作により糸切鋏みを開閉する従来周知の構造により、糸切りがなされる。この時、糸切り時張力設定により、ソレノイド60への電流量が調整される。 本実施例においては、先に両側縫い部に対応する補強縫いを形成してからボタン穴かがり縫いを開始する順序のものを示したが、ボタン穴かがり縫い開始後、各側縫い形成の直前に補強縫いを形成するようにしてもよい。すなわち、外側に縫目が出る側縫いの下に補強縫いが形成されるようにすればよい。
【0091】
なお、本実施例においては、本縫いによるボタン穴かがり縫目を形成するミシンにおいて説明したが、環縫いによりボタン穴かがりを形成するミシンにおいて実施してもよい。また、ボタン穴かがりは、眠り穴かがり、鳩目穴かがりどちらでもよい。
【0092】
さらに、本実施例においては、補強縫いのピッチ、幅を作業者が入力設定するものを示したが、かがり縫いのピッチ、幅の設定に応じて、それらよりも細かなピッチ、狭い幅となるように演算(計算)して自動設定したり、或いはデフォルト値を設定するようにしてもよい。また飾り縫いのピッチ、幅についても同様にデフォルト値を設定するようにしてもよい。
【0093】
さらに、補強縫い及び飾り縫いの糸張力設定を、デフォルトされているものをパネル110から調整値を入力するものを示したが、ウィップ縫いとなるように作業者がパネル110から新たに設定するようにしてもよい。
【0094】
さらに、本実施例においては、かがり縫いの前に、補強縫い、飾り縫いを形成するものを示したが、かがり縫いの側縫い形成毎に、その直前に補強縫いと、飾り縫いを形成するようにしてもよい。
【0095】
さらに、本実施例においては、補強縫いを、側縫いよりも幅の狭い高密度のジグザグ縫目により形成したものを示したが、補強縫いの幅設定時に「0」を入力し、側縫いよりも高密度(小さな)のピッチに設定された直線縫目により補強縫いを形成することにより、各繊維中或いは少ない繊維を挟んで針落ちされるので、ジグザグ縫い時と同様に縫い糸により生地の繊維を拘束することができて同様の効果が得られる。
【0096】
上記のジグザグ縫い時または直線縫い時のピッチは、生地の繊維の太さ、粗さ等により選択する必要があるが、細かな(小さな)ピッチにすればするほど、補強の効果が大きい。
【0097】
次に図16〜19に基づいて本発明の第2の実施形態を説明する。なお、本実施の形態が適用されるミシンは図1〜図6に示したものと同様であり、図7に示した制御ブロック図も同様である。この実施形態は、ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを側縫い及び閂止めの形成位置に形成し、更にこの時、針が同一点に落ちないようにするものである。
【0098】
図16は操作パネル110から入力設定される設定データの項目を示すチャート図、図17は補強縫いが直線縫いである場合の例を示し、(A)はボタン穴かがり縫目及び補強縫い目の各部の長さを示す説明図、(B)は補強縫いを縦方向にずらす例、(C)は補強縫いを横方向にずらす例を示す。操作パネル110からは第1の実施形態の場合と同様のデータ(図8)の他に図17(A)に示される「補強縫いピッチ」s、図17(B)に示される「縦方向ズレ量」t、図17(C)に示される「横方向ズレ量」uが設定可能である。ここで縦方向ズレ量とは、複数回繰り返す重ね縫いの夫々の回の補強縫いの開始点が前の回の補強縫い開始点に対してボタン穴に沿う方向にずらす場合のズレ量であり、横方向ズレ量とは複数回繰り返す重ね縫いの夫々の回の補強縫いの開始点が前の回の補強縫いの開始点針落位置に対してボタン穴に直交する方向にずらす場合のズレ量である。図17(B)及び(C)においては、2回の補強縫いを行う例を示している。なお、(B)においては図示の便宜上、2回目の補強縫いの幅が1回目の補強縫いよりも広く描いているが、実際には同じ幅であり、それぞれの補強縫いの平行部の大部分が重なっている。また、P1〜P14は第1回目の補強縫いの針落ち位置、P15〜P28は第2回目の補強縫いの針落ち位置である。従って、この場合の縦方向ズレt、横方向ズレuは1回目の補強縫いの開始点P1に対する2回目の補強縫いの開始点P15の縦方向および横方向のズレとなる。また、(A)において、L’、R’はそれぞれ左右の側縫いの形成位置に形成された補強縫いの横方向位置を示す。
【0099】
次に、図18および図19に示されたフローチャートにより、第2の実施形態について説明する。図18において、作業者が操作パネル110から必要なデータを設定する(S−51)。スタートキー125或いは操作パネル110に設けられた準備キーがオンされると、事前に操作パネル110から入力設定されているデータ(図8,16)に基づいて縫製データが演算処理により決定される(S−53)。なお、フローチャートにはスタートキーではなく準備キーを用いた例を示してある。
【0100】
この演算設定では、第1の実施形態と同様に補強縫いピッチ、補強縫い幅、補強縫い糸張力等がパネル110により補正されたデータを加味されると共に、図19に示すような本実施形態に特有の演算を行う(後述する)。再度準備キーをオンにすることにより、データを設定し直すことができる(S−54)。その後被縫製物がセットされ(S−55)、スタートキー125が押される(S−56)と、補強縫いが行われる(S−57)。補強縫いが終了後、かがり縫いが行われる(S−58)。かがり縫いが終了すると、布切りメス16を上下動するように布切りメス下降シリンダ30が作動される(S−59)。なお、かがり縫いのサブルーチンは第1実施形態に関連して説明した図13に示されるものと同様である。
【0101】
図19のフローチャートに示す演算を、図17に示す縫い形状に従って説明する。第1の実施形態と同様に、パネル110から設定された布切り長さa、メス−第一閂止め隙間長さg、メス−第二閂止め隙間長さhとにより側縫い長さVはV=a+g+hで求められており、補強縫い長さはこれと同じ長さに設定され、パネル設定された補強縫いピッチ(図16、No.10)とこの補強縫い長さ等により第1回目の補強縫いの針落ち演算を行う(S−60)。次いで、変数nに1がセットされ(S−61)、nが補強縫いの回数に達するまで各補強縫いの針落ち演算を行う(S−62〜S−64)。即ち、図17(B)の場合は縦方向へ(t×n)平行移動した位置を針落ち位置とし、図17(C)の場合は横方向へ(u×n)平行移動した位置を針落ち位置とする。nが補強縫いの回数に達するとかがり縫いの針落ち演算が行われる(S−65)。なお、図17(B)の場合は各補強縫いの上端及び下端の針落ち位置(第1回目の補強縫いの場合はP7とP14、第2回目の補強縫いの場合はP21とP28)が全て閂止めの形成位置に入るようにするための手段を設けることが望ましい。例えばS−63の演算の際に第n回目の補強縫いの上端または下端の針落ち位置が閂止めの形成位置から外れる場合には操作パネル110または図示しない表示パネル等へエラーメッセージが表示されるようにすることができる。同様に、図17(C)の場合は各補強縫いの右側端縁及び左側端縁の針落ち位置が全てかがり縫い(側縫い)の形成位置に入るようにするための手段を設けることが望ましい。例えば第1回目の補強縫いの場合は例えばP1とP13、第2回目の補強縫いの場合はP15とP27のうちのいずれか1つでもかがり縫いの形成位置から外れる場合には同様にエラーメッセージが表示されるようにすることができる。
【0102】
なお、以上においては、ボタン穴に沿う方向及び直交する方向にずらす例を示したが、これに限らず、重ね縫いの夫々の補強縫いのピッチsを異なるものとすることもできる。例えば操作パネル110から入力設定される図16の設定データの項目のNo.15「補強縫いピッチの変化量」s’を設定する。図18のフローチャートはこの場合にも同様に適用され、図19の針落ち演算はS−63の処理を「1回目の針落ちに対し、補強縫いピッチをs+n×s’」とすることのみが異なり、他は同一である。
【0103】
また、以上の第2実施形態については直線縫いを補強縫いとした例について説明したが、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫いを補強縫いとしてもよい。このようにジグザグ縫いを補強縫いとする場合には更に、補強縫いの幅を異なるものとすることもできる。たとえば操作パネル110から入力設定される図16の設定データの項目No.16の「補強縫いの幅」DおよびNo.17の「補強縫いの幅の変化量」D’を設定する。図18のフローチャートはこの場合にも同様に適用され、針落ち演算は、図19のS−63の処理を「1回目の針落ちに対し、補強縫いの幅をD+n×D’」とすることのみが異なり、他は図19と同一である。
【0104】
補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを側縫い及び閂止めの形成位置に形成する際、各補強縫いにおいて同じ位置へ針を落下させると、被縫製物の繊維を針で切断する地糸切れや、縫い込まれた糸を針で切断する等の事態が発生してしまい、強度不良となる。また、同じ場所の縫製を何度も繰り返すため、針糸ループが不安定となり目飛びや糸切れ等の縫い不良が発生する。しかしながら本実施形態においては、針が同一点に落ちないようにしたことにより、地糸切れ、縫い不良等を解消することができ、被縫製物の品質を大幅に向上させることができる。
【0105】
次に図20に基づいて本発明の第3の実施形態を説明する。なお、本実施の形態が適用されるミシンは図1〜図6に示したものと同様であり、図7に示した制御ブロック図も同様である。この実施形態はボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを左右の側縫いの形成位置に形成し、これらの左右の補強縫いの各開始位置P1、P8をボタン穴に直交する方向へ変化させることができるように構成したものである。即ち、操作パネル110から入力設定される図16の設定データの項目No.18の「左補強縫いのx方向開始位置」L’、No.19の「右補強縫いのx方向開始位置」R’を設定可能となっている。但し、xy方向は図20に示す方向とする。
【0106】
被縫製物に補強縫い及び側縫いを行なう際、布の伸縮作用により左右の補強縫い129L、129Rのx方向位置L’、R’(ジグザグ縫いの場合はx方向の中心)と左右の側縫130L、130Rのx方向の中心130Lc、130Rcがずれ、被縫製品の品質に悪影響を及ぼす場合がある。このような場合に、そのずれの量が被縫製物の性質から予め予測可能な場合には、本実施の形態により、左右補強縫いのx方向開始位置を調節することにより補強縫いと側縫のx方向の中心を一致させることが可能となる。なお、図16には「左補強縫いのx方向開始位置」L’と「右補強縫いのx方向開始位置」R’を互いに独立して設定可能な項目として示しているが、左右の補強縫いのx方向開始位置を一体的に扱い、L’とR’を同じ量だけ変化させるようにしても良い。また、第1実施の形態の補強縫い及び飾り縫いに対しても本実施の形態は適用可能である。すなわち、図14、図15のR1,R2或いはL1、L2を変化可能とすることができる。さらに、第2実施形態のように補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを行う場合にも本実施の形態は適用可能である。すなわち図17のR’、L’を変化可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明に関わるボタン穴かがりミシンの内部機構の斜視図である。
【図2】図1の反対側から見た状態の内部機構の斜視図である。
【図3】図2の針振り機構を針側から見た正面図である。
【図4】図1の糸調子装置を示す側面図である。
【図5】ミシンの糸調子装置の分解斜視図である。
【図6】糸調子装置のソレノイドを示す断面図である。
【図7】ボタン穴かがりミシンの制御ブロック図である。
【図8】操作パネルから入力設定するパラメータを示すパラメータテーブルのチャート図である。
【図9】ボタン穴かがり縫目の各部の長さを示す説明図である。
【図10】ボタン穴かがり縫いの動作フローチャートである。
【図11】補強縫いサブルーチンのフローチャートである。
【図12】飾り縫いサブルーチンのフローチャートである。
【図13】かがり縫いサブルーチンのフローチャートである。
【図14】補強縫いの順序を示す説明図である。
【図15】飾り縫いの順序を示す説明図である。
【図16】本発明の他の実施形態における操作パネルから入力設定される設定データの項目を示すチャート図である。
【図17】本発明の第2の実施形態における補強縫いの説明図で、(A)はボタン穴かがり縫目及び補強縫い目の各部の長さを示し、(B)は補強縫いを縦方向にずらす例を示し、(C)は補強縫いを横方向にずらす例を示す。
【図18】第2の実施形態のぼたん穴かがり縫いの動作フローチャートである。
【図19】第2の実施形態のぼたん穴かがり縫いの針落ち演算のフローチャートである。
【図20】本発明の第3の実施形態における補強縫いの説明図である。
【符号の説明】
【0108】
A 糸調子装置
1 ミシン
2 ベッド
3 縦胴部
4 アーム
5 主モータ
6 上軸
8 針棒
16 布切りメス
30 布切りメス下降シリンダ
40 基線モータ
41 針振りモータ
42 針振り機構
54 針振りカム
60 ソレノイド(駆動手段)
61 プランジャ
64 コイル
65 磁性部材
66、67 糸調子皿
68 可動ピン
70 ナット
110 操作パネル
120 アクティブテンションドライバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被縫製物に切開形成されるボタン穴の両側に沿う一対の側縫いと前記ボタン穴の少なくとも一端側に位置し両側縫いに連続する閂止めとによるボタン穴かがり縫目を形成する縫い形成手段を備えたボタン穴かがりミシンにおいて、
前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いを、針が同一点に落ちないように、前記側縫い及び前記両側縫いに連続する閂止めの形成位置に形成する制御手段を備えることを特徴としたボタン穴かがりミシン。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いの開始点が、ボタン穴に沿う方向にずれていることを特徴とする請求項1に記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いの開始点が、ボタン穴に直交する方向にずれていることを特徴とする請求項1に記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫い又は直線縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いのピッチが異なることを特徴とする請求項1に記載のボタン穴かがりミシン。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記ボタン穴かがり縫目の形成前に、側縫い部よりも幅が狭いジグザグ縫いで形成される補強縫いを複数回繰り返す重ね縫いの夫々の補強縫いの幅が異なることを特徴とする請求項1に記載のボタン穴かがりミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−6195(P2009−6195A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268466(P2008−268466)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【分割の表示】特願平11−296069の分割
【原出願日】平成11年10月19日(1999.10.19)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】