説明

ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物及びそれからなる成形品

【課題】耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】以下の成分(A)〜(C)を含む樹脂組成物。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂:20重量%<成分(A)≦60重量%
(B)六方晶窒化硼素:8重量%≦成分(B)≦55重量%
(C)扁平ガラス繊維:15重量%≦成分(C)≦55重量%
(前記各成分の配合量は、成分(A)〜(C)の合計量に対する重量分率である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びそれからなる成形品に関する。さらに詳しくは耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れ、電気・電子部品等として好適な樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンサルファイド系樹脂、特にポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、PPS樹脂と言う)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、剛性、寸法安定性等に優れていることから、電気・電子部品、機械部品、自動車部品等の用途に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、PPS樹脂は、シンジオタクチックポリスチレン樹脂(以後、SPS樹脂と記す)、ナイロン66樹脂(以後、PA66樹脂と記す)、液晶ポリエステル樹脂(以後、LCP樹脂と記す)等の他のエンジニアリングプラスチックスに比べて耐電圧性に劣る難点を有しており、高電圧下での使用が制限される場合があった。
【0004】
さらに、近年、電気・電子部品の小型化を含む高付加価値化が求められ、従来よりも過酷な電気的・温度環境下においても使用に耐えうる絶縁材料が必要とされている。特に耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性及び流動性がバランスよく優れる絶縁材料の開発が求められていた。
【0005】
この求めに対し、高い絶縁性及び/又は伝熱性を持つフィラーを添加したPPS樹脂が提案されている。例えば、タルクを用いた樹脂組成物(特許文献1〜3)、シリカ被膜窒化アルミニウムを用いた樹脂組成物(特許文献4)及びシリカ被膜酸化マグネシウムを用いた樹脂組成物(特許文献5)が開示されている。
【0006】
しかし、タルクは耐トラッキング性及び耐アーク性を改良するが、耐電圧性の改良効果は充分ではなかった。シリカ被膜窒化アルミニウム及びシリカ被膜酸化マグネシウムは、伝熱性を改良するが、耐電圧性の改良効果は得られなかった。
【0007】
また、樹脂組成物の電気絶縁性及び/又は伝熱性を充分に高めるには、フィラーを多量に添加する必要があり、これが著しい流動性低下及び靱性低下を伴うという問題点を有している。低下した靭性を改善する方法として、エラストマー及び/又は繊維状フィラーの添加が広く知られているが、フィラーを多量に含む樹脂に対して、効果が充分とは言えなかった。
従って、これら樹脂組成物は電気絶縁性、伝熱性、流動性及び靭性が実用的にバランスよく優れているとは言えず、また耐電圧性を向上させる試みがなされていないことから、耐電圧性が充分ではなかった。
【特許文献1】特開昭53−5252号公報
【特許文献2】特開平5−21650号公報
【特許文献3】特開2003−128915号公報
【特許文献4】特開2005−146214号公報
【特許文献5】特開2005−306955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアリーレンサルファイド樹脂に六方晶窒化硼素及び扁平ガラス繊維を配合し、その配合比率を特定の比率とすることで、組成物の耐電圧性が著しく改善し、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れる樹脂組成物得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
本発明によれば、以下の樹脂組成物等が提供される。
1.以下の成分(A)〜(C)を含む樹脂組成物。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂:20重量%<成分(A)≦60重量%
(B)六方晶窒化硼素:8重量%≦成分(B)≦55重量%
(C)扁平ガラス繊維:15重量%≦成分(C)≦55重量%
(前記各成分の配合量は、成分(A)〜(C)の合計量に対する重量分率である)
2.前記ポリアリーレンサルファイド樹脂がポリフェニレンサルファイド樹脂である1に記載の樹脂組成物。
3.前記扁平ガラス繊維の断面扁平率が2〜20である1又は2に記載の樹脂組成物。
4.さらに以下の成分(D)を含む1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
(D)離型剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、赤外輻射率向上剤及び相容化剤からなる群から選択される1以上の樹脂添加剤
5.絶縁破壊強さが25kV/mm以上である1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
6.耐アーク性が180秒以上である1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
7.熱伝導率が2〜15W/mKである1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
8.1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
9.8に記載の成形品からなる耐電圧性部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れる樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は下記成分(A)〜(C)を含む。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂:20重量%<成分(A)≦60重量%
(B)六方晶窒化硼素:8重量%≦成分(B)≦55重量%
(C)扁平ガラス繊維:15重量%≦成分(C)≦55重量%
(前記各成分の配合量は、成分(A)〜(C)の合計量に対する重量分率である)
【0012】
ポリアリーレンサルファイド樹脂(成分(A))の配合量は成分(A)〜(C)の合計量に対して20重量%超60重量%以下であり、好ましくは23〜57重量%である。
成分(A)の配合量が20重量%以下の場合、流動性の低下により混練が不可になる又は成形が困難となるおそれがある。一方、成分(A)の配合量が60重量%を超える場合、耐電圧性及び伝熱性が不足となるおそれがある。
【0013】
六方晶窒化硼素(成分(B))の配合量は成分(A)〜(C)の合計量に対して8〜55重量%であり、好ましくは8〜50重量%である。
成分(B)の配合量が8重量%未満の場合、耐電圧性及び電気絶縁性が不足となるおそれがある。一方、成分(B)の配合量が55重量%を超える場合、流動性の低下により混練が不可になる又は成形が困難となるおそれがある。
【0014】
扁平ガラス繊維(成分(C))の配合量は成分(A)〜(C)の合計量に対して15〜55重量%であり、好ましくは20〜45重量%である。
成分(C)の配合量が15重量%未満の場合、衝撃強度が不足し、得られる成形品の使用が困難となるとなるおそれがある。一方、成分(C)の配合量が55重量%を超える場合、流動性の低下により混練が不可になる又は成形が困難となるおそれがある。
【0015】
本発明で用いられるポリアリーレンサルファイド樹脂は、繰り返し単位が下記式
−(Ar−S)−
(式中、Arはアリーレン基、Sは硫黄を示す。)
で示される重合体である。
【0016】
本発明において、ポリアリーレンサルファイド樹脂は、好ましくはアリーレン基がフェニレン基であるポリフェニレンサルファイド樹脂である。このようなポリフェニレンサルファイド樹脂としては、上記アリーレン基が例えば下記式で表されるポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
【化1】

【0017】
これらのフェニレン基からなるポリフェニレンサルファイド樹脂は、同一の繰り返し単位からなるホモポリマー、2種以上の異なるフェニレン基からなるコポリマー及びこれらの混合物のいずれでもよい。
【0018】
また、本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、そのポリマー鎖の一部が他のポリマーで置換されていてもよい。
置換するポリマーとしては、ポリアミド系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリスチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、含フッ素ポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーン系エラストマー等が挙げられる。
【0019】
本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂は、例えば特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報等に記載の方法で製造することができる。
尚、本発明のポリアリーレンサルファイド樹脂は、空気中で加熱して高分子量化してもよく、また、酸無水物等の化合物を用いて化学修飾してもよい。
【0020】
本発明で用いられる六方晶窒化硼素とは、人造鉱物の一種であり、鉱物学的には化学式BNで表される。その結晶構造は黒鉛と同じ六方晶系であり、その硬度も黒鉛と同様にモース硬度2と低く、金属に対する磨耗性が低い。
六方晶窒化硼素は、その製造方法等によって不純物含有量及び結晶化度が異なる。本発明において、六方晶窒化硼素の製造方法について特に制限は無いが、不純物含有量が少なく、かつ結晶化度が高くなる製造方法が好適である。
【0021】
本発明で用いられる六方晶窒化硼素は粉末であり、その粒子サイズについて特に制限はないが、製造上の利便性の観点から、好ましくは平均粒子径が1μm〜200μmであり、より好ましくは30μm〜60μmである。
【0022】
本発明の六方晶窒化硼素は、ポリアリーレンサルファイド樹脂との接着強度を高める目的等で、その表面をシリカで皮膜し、さらにシランカップリング剤等の有機化合物でコーティングを施して用いてもよい。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、六方晶窒化硼素の他に非繊維状のフィラーを含んでもよい。非繊維状フィラーとしては、例えばタルク、マイカ、カオリン、パイロフィライト、ベントナイト、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、窒化アルミニウム、炭化珪素、ガラスビーズ、ガラスフレーク、黒鉛、カーボンブラック、アルミニウム、銅等が挙げられる。
【0024】
本発明で用いられる扁平ガラス繊維とは、扁平形状の断面を有するガラス繊維であり、断面扁平率が好ましくは2〜20である。
上記断面扁平率とは、図1に示すように、扁平ガラス繊維の断面の短径をD1、断面の長径をD2としたとき、D2/D1で表される。
【0025】
本発明の扁平ガラス繊維は、その繊維長について特に制限はないが、製造上の利便性の観点から、好ましくは繊維長が1mm〜5mmである。
【0026】
本発明の扁平ガラス繊維は、ポリアリーレンサルファイド樹脂との接着強度を高める目的等で、その表面を有機化合物でコーティングする、多数のガラス繊維を有機化合物で収束する等の処理を施してもよい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、扁平ガラス繊維の他に繊維状フィラーを含んでもよい。繊維状フィラーとしては、例えば扁平ガラス繊維でないガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、アラミド繊維、酸化アルミニウム繊維、炭素繊維、銅繊維等が挙げられる。
【0028】
本発明の樹脂組成物は、好ましくはさらに離型剤(モンタン酸及びその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル及びN−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、難燃剤(赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、又はこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組合せ等)、酸化防止剤(リン系、硫黄系及びフェノール系等)、赤外輻射率向上剤(ブラックシリカ、カーボンブラック等)及び相容化剤(エポキシ系化合物、α-オレフィン系共重合体等)からなる群から選択される1以上の樹脂添加剤(成分(D))を含む。
成分(D)の配合量は、成分(A)〜(C)の合計重量を100重量部としたとき、例えば0.01〜1重量部である。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で成分(D)以外の添加剤を加えることができる。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れる。
耐電圧性を示す指標としては、絶縁破壊強さが挙げられる。本発明の樹脂組成物の絶縁破壊強さは、好ましくは25kV/mm以上である。絶縁破壊強さは、ASTM D149に準拠して測定することができる。
【0031】
電気絶縁性を示す指標としては、耐アーク性が挙げられる。本発明の樹脂組成物の耐アーク性は、好ましくは180秒以上である。耐アーク性は、ASTM D495に準拠して測定することができる。
【0032】
耐熱性を示す指標としては、荷重たわみ温度が挙げられる。鉛フリーハンダ適用の観点から、本発明の樹脂組成物の荷重たわみ温度は、好ましくは260℃以上である。荷重たわみ温度は、ASTM D648に準拠して測定することができる。
【0033】
伝熱性を示す指標としては、熱伝導率が挙げられる。放熱の観点から、本発明の樹脂組成物の熱伝導率は、好ましくは2〜15W/mKである。熱伝導率は、ホットディスク法により測定することができる。
【0034】
流動性を示す指標としては、スパイラルフロー長さが挙げられる。薄肉部品成形の観点から、本発明の樹脂組成物のスパイラルフロー長さは、好ましくは70mm以上である。
【0035】
靭性を示す指標としては、アイゾット衝撃強度(ノッチ有り)が挙げられる。落下衝撃等の観点から、本発明の樹脂組成物のアイゾット衝撃強度(ノッチ有り)は、好ましくは4kJ/m以上である。アイゾット衝撃強度(ノッチ有り)は、ASTM D256に準拠して測定することができる。
【0036】
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば公知の溶融混練法によって製造できる。具体的には、原料をヘンシェルミキサー、スパーフローター等の混合機で均一に混合した後、単軸あるいは2軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の公知の溶融混合機に供給して、280℃〜380℃の温度で混練することにより製造できる。
【0037】
本発明の樹脂組成物の製造過程おいて、原料の混合順については特に限定はない。例えば、全ての原材料を一緒に配合してもよく、一部の原材料を配合して混練し、その後、残りの原材料を配合し混練してもよく、又は一部の原材料を配合後、単軸あるいは2軸押出機により混練し、混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合してもよい。また、例えば成分(D)等の少量添加成分については、成形品を製造する際に添加してもよい。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、プレス成形、押出成形等の成形方法を用いて成形品を製造することができる。成形方法としては、特に射出成形が適している。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靭性がバランスよく優れている耐電圧性樹脂組成物である。そのため、本発明の樹脂組成物からなる成形品は、電気・電子部品に好適である。
【0040】
本発明の樹脂組成物からなる成形品の用途としては、具体的には以下の用途が挙げられる。センサー、LEDランプ、LEDスペーサー、絶縁ヒートシンク、ヒートスプレッダー、放熱板、コネクター、ソケット、抵抗器、抵抗素子ケース、基板封止材、基板ケース、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、バッテリーケース、コイル封止材、IGBT封止材、コンデンサー、バリコンケース、HIDランプ用電子バラストケース、LD光源画像表示ユニット部品、LED光源画像表示ユニット部品、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、インバータートランスボビン、液晶、沿面放電用絶縁基板、モーターブラッシュホルダー、ファンモーター軸受部材、コンピュター関連部品等に代表される電気・電子部品;テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯機器、洗濯機モーター部品、掃除機モーター部品、電子レンジ部品、音響部品、コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、電磁誘導加熱ヒーター部品、空気清浄機、加湿器、エアコン部品、ワードプロセッサー部品に代表される家庭、事務電気製品;オフィスコンピュター関連部品、電話器関連部品、CCDセンサーハウジング、CMOSセンサーハウジング、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用冶具、モーターコイルボビン、モーター部品等に代表される機械関連部品;デジタル顕微鏡、デジタル双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器、精密機械関連部品;ポンプ部品、湯温センサー、水量センサー等の水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、排気ガスセンサー、冷却水センサー、湯温センサー、スロットルポジションセンサー、エアフローメーター、ブレーキパッド磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプホルダー、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、ケース、車速センサー、ケーブルライナー等の自動車・車両関連部品。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によって、さらに具体的に説明する。
本発明の実施例及び比較例において、以下の原料を用いた。
PPS樹脂:H−1G(大日本インキ化学工業株式会社製)
六方晶窒化硼素:PT110(平均粒子径40μm、モメンティブ・クオーツ&セラミックス株式会社製)
扁平ガラス繊維:CSG 3PA−830(断面扁平率4、日東紡績株式会社製)
シリカコーティング窒化アルミニウム:FLE(平均粒子径17.4μm、東洋アルミニウム株式会社製)
シリカコーティング酸化マグネシウム:CF2−100B(平均粒子径25μm、タテホ化学株式会社製)
タルク:SP38(平均粒子径20μm、富士タルク工業株式会社製)
ガラス繊維:03JAFT591(断面扁平率1、オーウェンス・コーニング社製)
【0042】
実施例1〜4
PPS樹脂及び六方晶窒化硼素を、表1に示す配合比となるようにそれぞれ量りとった。この原料をドライブレンドして混合原料を調製し、二軸混練押出機TEM37BS(東芝機械株式会社製)を用いて、表1に示す配合比となるように適量の扁平ガラス繊維を供給しながら樹脂温度320℃で溶融混練した。溶融混練して得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥し、評価した。結果を表1に示す。
【0043】
得られたペレットの評価方法は以下の通りである。
(1)絶縁破壊強さ
IS80EPN(80t)射出成形機(東芝機械株式会社製)を用い、表に示す樹脂温度及び金型温度で、得られたペレットからなる80×80×厚さ1mmの角板成形品を成形し、ASTM D149に準拠し、絶縁破壊強さの測定を行った。
【0044】
(2)耐アーク性
IS80EPN(80t)射出成形機を用い、表に示す樹脂温度及び金型温度で、得られたペレットからなる20×20×厚さ3.2mmの角板成形品を成形し、ASTM D495に準拠し、耐アーク性の測定を行った。
【0045】
(3)荷重たわみ温度
IS80EPN(80t)射出成形機を用い、表に示す樹脂温度及び金型温度で、得られたペレットからなる127×12.7×厚さ3.2mmの棒状成形品を成形し、ASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa下での荷重たわみ温度を測定した。
【0046】
(4)熱伝導率
IS80EPN(80t)射出成形機を用い、表に示す樹脂温度及び金型温度で、得られたペレットからなる60×60×厚さ2mmの角板成形品を成形し、熱伝導率測定装置TPA−501(京都電子工業株式会社製)を用いてホットディスク法スラブシートモードにて熱伝導率を測定した。
【0047】
(5)アイゾット衝撃強度(ノッチ有り)
IS80EPN(80t)射出成形機を用い、表に示す樹脂温度及び金型温度で、得られたペレットからなる63×12.7×厚さ3.2mmの棒状成形品を成形し、ノッチングマシーンにてノッチ加工し、ASTM D256に準拠してアイゾット衝撃強度(ノッチ有り)を測定した。
【0048】
(6)スパイラルフロー長さ(SFL)
IS30EPN(30t)射出成形機及び1mm厚のスパイラル金型を用い、表に示す樹脂温度及び金型温度で、得られたペレットを射出圧98MPaにて射出成形したときの、流動長さで評価した。
【0049】
【表1】

【0050】
比較例1〜15
PPS樹脂及び六方晶窒化硼素に、さらにタルク、シリカコーティング窒化アルミニウム、又はシリカコーティング酸化マグネシウムを用いて、表2、3又は4に示す配合比となるようにそれぞれ量りとった。この原料をドライブレンドして混合原料を調製し、二軸混練押出機TEM37BS(東芝機械株式会社製)を用いて、表2、3又は4に示す配合比となるように適量の扁平ガラス繊維又はガラス繊維を供給しながら樹脂温度320℃で溶融混練した。溶融混練して得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥し、評価した。結果を表2、3又は4に示す。尚、比較例5及び8においては、樹脂組成物が混練機内に詰まってしまい、評価することができなかった。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
比較例16〜19
下記に示す市販のガラス繊維強化樹脂を、熱風乾燥機を用いて120℃で3時間乾燥し、評価した。結果を表5に示す。尚、下記の市販のガラス繊維強化樹脂は、いずれも六方晶窒化硼素を含まない。
ガラス繊維強化PPS樹脂:C130SC(ガラス繊維配合量30重量%、出光興産株式会社製)
ガラス繊維強化SPS樹脂:S931(ガラス繊維配合量30重量%、出光興産株式会社製)
ガラス繊維強化PA66樹脂:CM3004G−30(ガラス繊維配合量30重量%、東レ株式会社製)
ガラス繊維強化LCP樹脂:E7008(ガラス繊維配合量30重量%、住友化学株式会社製)
【0055】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の樹脂組成物は、耐電圧性、電気絶縁性、耐熱性、伝熱性、流動性及び靱性がバランスよく優れるため、各種電気・電子部品の材料として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明で用いるガラス繊維の断面扁平率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)〜(C)を含む樹脂組成物。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂:20重量%<成分(A)≦60重量%
(B)六方晶窒化硼素:8重量%≦成分(B)≦55重量%
(C)扁平ガラス繊維:15重量%≦成分(C)≦55重量%
(前記各成分の配合量は、成分(A)〜(C)の合計量に対する重量分率である)
【請求項2】
前記ポリアリーレンサルファイド樹脂がポリフェニレンサルファイド樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記扁平ガラス繊維の断面扁平率が2〜20である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに以下の成分(D)を含む請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
(D)離型剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、赤外輻射率向上剤及び相容化剤からなる群から選択される1以上の樹脂添加剤
【請求項5】
絶縁破壊強さが25kV/mm以上である請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
耐アーク性が180秒以上である請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
熱伝導率が2〜15W/mKである請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【請求項9】
請求項8に記載の成形品からなる耐電圧性部品。

【図1】
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【公開番号】特開2008−285511(P2008−285511A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128979(P2007−128979)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】