説明

ポリイミドフィルムおよびフレキシブル回路基板

【課題】ハンドリング性およびフレキシビリティに優れると共に寸法安定性が高く、さらには接着剤を介して金属箔と接着した場合の金属箔との剥離強度が高いポリイミドフィルム、このフィルムを容易に製造する方法およびそのフィルムを用いた回路基板の提供。
【解決手段】 鉄(III)アセチルアセトナートを含有するポリアミック酸を熱的または化学的にイミド化せしめることによって得られるポリイミドフィルム。このポリイミドフィルムは、ヤング率および熱膨張係数が制御され、かつ接着剤を介し金属箔と圧着された際に剥離強度が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドリング性およびフレキシビリティに優れ、寸法安定性が高く、また接着剤を介して金属箔と接着した場合に、極めて大きな剥離強度を得ることのできるポリイミドフィルムおよびそれを利用したフレキシブル回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、その優れた絶縁性と耐熱性から、例えば銅箔などの金属箔と積層したフレキシブル回路基板用のベースフィルムなどの用途に幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、ポリイミドフィルムは、これに積層した金属箔との剥離強度が十分でないため、長期的に使用された際に剥離することがあり、長期信頼性に欠けるという問題があった。この欠点を改良するために、ポリイミドフィルムに対するさまざまな電気、物理あるいは化学的処理が試みられてきたが、これらの処理はその処理工程に多くの試薬、時間、労力などを要すという問題があった。
【0004】
すなわち、ポリイミドフィルムの接着力を改質する方法としては、例えば、フィルム表面をプラズマ処理する方法(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この場合には、プラズマ処理を施すことによって工程数が増えるという問題があった。
【0005】
また、シラン系カップリング剤を塗布したポリイミドフィルムを使用したフレキシブル金属箔張り積層板(例えば、特許文献2参照)も知られているが、この場合には、シラン系カップリング剤を塗布する工程数が増えるばかりか、シラン系カップリング剤がポリアミック酸からポリイミドに閉環する際の熱処理によって分解するため、接着力が低下してしまうという問題があった。
【0006】
さらにまた、錫化合物を含有する接着性と耐熱性に優れたポリイミドフィルム(例えば、特許文献3参照)も知られているが、このポリイミドフィルムの剥離強度は15N/cm以下であり、十分な接着力を有しているものではなかった。
【0007】
ポリイミドフィルムには、上記の接着性(剥離強度)と共に、電子部品の高機能化に伴う寸法安定性が要求されるが、4.4’−ジアミノジフェニルエーテルとピロメリット酸無水物からなるポリイミドフィルムは、その熱膨張係数が大きいため、フレキシブル回路基板を作成するに至る工程で、基板が反り返るといった問題があった。熱膨張係数を小さくするために、パラフェニレンジアミン等の剛直性の高いモノマーを用いたポリイミドフィルム(例えば、特許文献4参照)ついても知られているが、この場合には、線膨張係数は小さくなるものの、十分な剥離強度を得ることができなかった。
【0008】
また、ポリイミドフィルムのヤング率は、ハンドリング性とフレキシビリティとのバランスから、3.5Gpa以上7Gpa以下の範囲にあることが好ましい。しかし、4.4’−ジアミノジフェニルエーテルとピロメリット酸無水物からなるポリイミドフィルムのヤング率は3.5Gpa未満である。さらにパラフェニレンジアミンを共重合することにより、ヤング率を3.5Gpa以上の範囲に調整することは可能であるが、この場合にも十分な剥離強度を得ることができなかった。
【特許文献1】特開平8−41227号公報
【特許文献2】特開平6−336533号公報
【特許文献3】特開平4−261466号公報
【特許文献4】特開昭61−181833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の第1の目的は、ハンドリング性およびフレキシビリティに優れると共に寸法安定性が高く、さらには接着剤を介して金属箔と接着した場合の金属箔との剥離強度が高いポリイミドフィルムを得ることにある。
【0011】
また、本発明の第2の目的は、ポリイミドフィルムのヤング率、線膨張係数を制御し、金属箔との剥離強度を向上させるための処理に、多くの試薬、時間、労力などを必要とせず、大量生産に適し、低コストでかつ高品質の高剥離強度ポリイミドフィルムを製造する方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明によれば、鉄(III)アセチルアセトナートを0.01重量%以上10重量%以下含有するポリアミック酸を熱的および/または化学的にイミド化することにより得られたポリイミドフィルムであって、JISK7113に準じ、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度100mm/分にて得られる張力−歪み曲線において、初期立ち上がり部の勾配から求めたヤング率が3.5Gpa以上7Gpa以下、島津社製TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定した熱膨張係数が14ppm以上28ppm以下であることを特徴とするポリイミドフィルムが提供される。
【0013】
なお、本発明のポリイミドフィルムにおいては、
接着剤を介して銅箔と熱圧着した際に、下記の方法により測定した剥離強度が15N/cm以上であること(剥離強度:接着剤フィルムであるパイララックス(デュポン社の登録商標)LF−0100を用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、180℃、4.4×10 Paで60分間加熱圧着し、得られた積層体をJIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした強さを剥離強度とする。)、および
ポリイミドが下記一般式(I)および(II)で示される構造単位を有すること
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
(ただし、式中のRは、下記一般式で示される基のいずれかであり、
【0017】
【化3】

【0018】
式中のRは下記一般式で示される基のいずれかである。
【0019】
【化4】

【0020】
また、式中のX:Yのモル比は1:99〜100:0である。)
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【0021】
また、本発明の上記ポリイミドフィルムの製造方法は、鉄(III)アセチルアセトナートを0.01重量%以上10重量%以下含有するポリアミック酸を熱的および/または化学的にイミド化することを特徴とし、前記熱的および/または化学的にイミド化する工程において、縦方向に1.05〜1.5倍および/または横方向に1.05〜1.8倍延伸することが好ましい。
【0022】
さらに、本発明のフレキシブル回路基板は、上記のポリイミドフィルムに接着剤を介して金属箔を圧着することによって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ヤング率が3.5Gpa以上7Gpa以下、線膨張係数が14ppm以上28ppm以下の範囲にあって、ハンドリング性およびフレキシビリティに優れると共に寸法安定性が高く、かつ接着剤を介して金属箔と接着した場合に、15N/cm以上の剥離強度を発現するポリイミドフィルムを得ることができ、このポリイミドフィルムは、長期信頼性に優れたフレキシブル回路基板用のベースフィルムとして利用することが可能である。
【0024】
また、ポリイミドフィルムのヤング率、線膨張係数を制御し、金属箔との剥離強度を向上させるための処理に、多くの試薬、時間、労力などを必要とせず、大量生産に適し、低コストでかつ高品質の高剥離強度ポリイミドフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明のポリイミドフィルムを詳細に説明する。
【0026】
まず、本発明における物性の定義について説明する。
【0027】
本発明でいうヤング率は、JISK7113に準じて、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度100mm/分にて得られる張力−歪み曲線において、初期立ち上がり部の勾配から求めた値である。
【0028】
ヤング率は、3.5Gpa以上7Gpa以下であることが好ましく、一方、3.5Gpa未満の場合はハンドリング性を、7Gpaより大きい場合はフレキシビリティを、それぞれ損なうので好ましくない。
【0029】
本発明でいう熱膨張係数は、島津社製TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定した値である。
【0030】
熱膨張係数は、銅箔と張り合わせ際の寸法変化率およびカールを小さくするためにも、14ppm以上28ppm以下でであることが好ましい。一方、この範囲から外れると銅の熱膨張係数との差異が大きくなり、銅との張り合わせ時にひずみが大きくなり寸法変化を大きくしてしまうため好ましくない。
【0031】
本発明でいう剥離強度とは、接着剤フィルムであるパイララックス(デュポン社の登録商標)LF−0100を用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、180℃、450kg/cm2で60分間加熱圧着することにより得られた積層体を、JIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした強さである。
【0032】
剥離強度は、必要に応じてプラズマ処理、コロナ処理などの電気処理や、物理、化学処理を行うことによって、さらに向上させることが可能である。しかしながら、本発明では、上記の処理を全く処理を施さない状態で、上記方法により測定した値を剥離強度と定義する。この値はポリイミドフィルムが本質的に有する剥離強度を的確に再現する。
【0033】
剥離強度は大きければ大きいほど好ましく、一方、剥離強度が15N/cm以下の場合は、フレキシブル回路基板としての使用時に金属箔層の剥がれなどを生ずることがあるため好ましくない。
【0034】
本発明のポリアミック酸に含有させられる金属化合物は、鉄(III)アセチルアセトナートである。これ以外の金属化合物では得られたポリイミドフィルムが、目的とするヤング率、熱膨張係数および剥離強度を示さないからである。
【0035】
本発明のポリアミック酸に含有する鉄(III)アセチルアセトナートの添加量は、0.01重量%以上10重量%以下であり、好ましくは0.05重量%以上5重量%の範囲である。すなわち、添加量が上記の下限未満の場合は、目的とするヤング率、熱膨張係数および剥離強度が得られず、上記の上限を超える場合は、均一なフィルムが得られないため好ましくない。
【0036】
次に、本発明のポリイミドフィルムの構成成分について説明する。
【0037】
本発明のポリイミドフィルムにおけるポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミンからなるポリアミック酸を前駆体としてなり、上記式(I)および(II)に示される繰り返し単位で構成されたものである。
【0038】
ポリイミドフィルムにおけるポリイミドの前駆体としてのポリアミック酸を形成する芳香族テトラカルボン酸類の具体例としては、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、およびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられるが、目的をするヤング率および熱膨張係数を容易に得るためには、ピロメリット酸および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸の使用が好ましい。ポリアミック酸の製造にあたっては、これらの芳香族テトラカルボン酸類の酸無水物が好ましく使用される。
【0039】
同じく前駆体としてのポリアミック酸を形成する芳香族ジアミン類の具体例としては、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンチジン、パラキシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメトキシベンチジン、1,4−ビス(3メチル−5アミノフェニル)ベンゼンおよびこれらのアミド形成性誘導体が挙げられるが、目的をするヤング率および熱膨張係数を容易に得るためには、パラフェニレンジアミン、ベンチジン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの使用が好ましい。
【0040】
また、本発明において、ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミック酸溶液の形成に使用される有機溶媒の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−,m−,またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0041】
本発明で用いるポリアミック酸の有機溶媒溶液(ポリアミック酸溶液)は、固形分として5〜40重量%含有するのが好ましく、10〜30重量%含有するのがより好ましい。また、その粘度は、安定した送液のため、ブルックフィールド粘度計による測定値で10〜2000Pa・sの範囲が好ましく、100〜1000Pa・sの範囲がより好ましい。ここで、有機溶媒溶液中のポリアミック酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0042】
本発明において、ポリアミック酸を構成する芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とは、それぞれのモル数が大略等しくなる割合で重合されるが、その一方が10モル%の範囲内で他方に対して過剰に配合されることが好ましく、5モル%の範囲内で他方に対して過剰に配合されることもより好ましい。
【0043】
重合反応は、有機溶媒中で撹拌そして/または混合しながら、0〜80℃の温度の範囲で、10分〜30時間連続して進められるのが好ましく、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。両反応体の添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸類を添加することが好ましい。重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミック酸の有機溶媒溶液を製造するのにとって有効な方法である。
【0044】
また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加することによって、重合反応の制御を行ってもよい。
【0045】
次に、本発明のポリイミドフィルムの製造方法について説明する。
【0046】
本発明においては、まず鉄(III)アセチルアセトナート含有ポリアミック酸を調整する。
【0047】
回転粘度計で測定した25℃における粘度が10Pa・s以上500Pa・s以下程度のポリアミック酸に鉄(III)アセチルアセトナートを添加することにより、ポリアミック酸に対し0.01重量%以上10重量%以下の濃度で溶解もしくは分散させた状態とする。なお、ここで使用するポリアミック酸は、予め重合したポリアミック酸であっても、鉄アセチルアセトナートを添加し溶解させた後に重合したものであってもよい。
【0048】
また、ポリアミック酸に添加する鉄(III)アセチルアセトナートは、単体で添加することも可能であるが、スラリーまたは溶液状態で添加することは好ましい有効な手段である。
【0049】
上記鉄(III)アセチルアセトナートスラリーまたは溶液に使用される有機溶媒は、ポリアミック酸に使用される有機溶媒が好ましい。その具体例はジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−,m−,またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。ただし、ポリアミック酸に使用される有機溶媒に対して20重量%以下の量であれば、メタノール、エタノールなどのアルコール、またはヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素の使用も可能である。
【0050】
ポリアミック酸に鉄(III)アセチルアセトナートを添加する方法としては、口金押し出し前にこれらを単層ポリイミドフィルムに添加する方法、口金押し出し前に二層以上に積層ポリアミック酸フィルムの少なくとも最外層にこれらを混練りする方法、および口金押し出し後にこれらを添加した塗布液を塗布する方法などが挙げられる。
【0051】
また、有機金属化合物をポリアミック酸に添加することにより、ポリアミック酸の粘度が上昇し製膜性が低下するため、粘度の上昇を防ぐゲル化防止剤を添加することが知られている。しかし、鉄(III)アセチルアセトナートは、ポリアミック酸に添加しても粘度の上昇が遅いため、ゲル化防止剤を添加することは必ずしも必要ないが、少量のゲル化防止剤を添加することや口金押し出し直前に添加すること、冷却したポリアミック酸に添加すること、およびそれらを組み合わせた方法は好ましい有効な手段である。
【0052】
本発明においてポリアミック酸溶液を得るための反応手順としては、有機極性溶媒中に芳香族ジアミンを添加し溶解したのち、芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加する方法、または有機極性溶媒中に芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加したのち、芳香族ジアミンを添加する方法などいずれの方法でも可能である。このとき、芳香族テトラカルボン酸に無水物と芳香族ジアミンの添加量は、実質的に等モルとすることができる。
【0053】
次に、上記ポリアミック酸溶液を支持体にキャストして自己保持性のポリアミック酸フィルムを得る。続いて、得られたポリアミック酸フィルムの端部を固定し、200℃以上400℃以下の温度で熱処理を行うことにより、ポリイミドフィルムを得るのが好ましい。
【0054】
なお、ここでいう支持体とは、ガラス、金属、高分子フィルムなど平面を有し、ポリアミック酸をこの上にキャストした場合に、キャストしたポリアミック酸を支持することができるものを意味する。
【0055】
また、キャストとは、ポリアミック酸を支持体上に展開することを意味する。キャストの一例としては、バーコート、スピンコート、あるいは任意の空洞形状を有するパイプ状物質からポリアミック酸を押し出し、支持体上に展開する方法が挙げられる。
【0056】
得られたポリアミック酸をイミド化閉環環化させてポリイミドフィルムにする際には、脱水剤と触媒を用いて脱水する化学閉環法、熱的に脱水する熱閉環法、あるいはその両者を併用した閉環法のいずれで行ってもよい。しかし、高弾性化、低熱膨張化の観点からは、化学閉環法を用いることが好ましい。
【0057】
化学閉環法で使用する脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、フタル酸無水物などの酸無水物などが挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0058】
また、触媒としては、ピリジン、ピコリン、キノリンなどの複素環式第3級アミン類、トリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、N,N−ジメチルアニリンなどの第3級アミン類などが挙げられ、これらを単独あるいは混合して使用するのが好ましい。
【0059】
本発明のポリイミドフィルムの厚みは3〜250μmであることが望ましい。すなわち、厚みが3μm未満では形状を保持することが困難となり、また250μmを越えると屈曲性に欠けるため、フレキシブル回路基板用途には不向きである。
【0060】
ポリイミドフィルムは、延伸および未延伸のものをいずれも使用することができる。しかし、高弾性化、低熱膨張化の観点から、縦方向に1.05〜1.5倍および/または横方向に1.05〜1.8倍延伸を行う方が好ましい。また、延伸には一軸延伸および二軸延伸のいずれも採用することが可能だが、フィルムの等方性の観点から二軸延伸のほうが好ましい。
【0061】
また、フィルムの滑り性または加工性改善などを目的として10重量%以下の無機質または有機質の添加物を含有することも可能である。
【0062】
かくして得られるポリイミドフィルムは、ヤング率を3.5Gpa以上7Gpa以下、熱膨張係数の14ppm以上28ppm以下の範囲にあって、ハンドリング性およびフレキシビリティに優れると共に寸法安定性が高く、かつ接着剤を介して金属箔と接着した場合の剥離強度が15N/cm以上と高いことから、フレキシブル回路基板用ベースフィルムとして極めて有用である。
【0063】
すなわち、本発明のフレキシブル回路基板は、上記のポリイミドフィルムをベースフィルムとし、これに接着剤を介して金属箔を圧着することによって得られるが、ここで用いられる接着剤としては、アクリル系、ポリイミド系およびエポキシ系接着剤などが挙げられ、特に限定するものではない。
【0064】
また、接着剤を介して本発明のポリイミドフィルムと熱圧着される金属箔は銅箔であることが好ましいが、他の金属箔でもかまわない。
【0065】
かくして得られる本発明のフレキシブル回路基板は、長期的にも寸法安定性および高剥離強度を維持し、長期信頼性に優れるという性能を発揮する。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0067】
なお、実施例中の各種特定値は、以下の方法により測定した値である。
【0068】
[粘度]
ポリアミック酸の粘度は回転粘度計で測定した。粘度計としてはビスメトロン(単一回転型粘度計、型式VS−A1、芝浦システム株式会社製)を用いた。
【0069】
[ヤング率]
ヤング率は、JISK7113に準じて、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度100mm/分にて得られる張力−歪み曲線において、初期立ち上がり部の勾配から求めた。
【0070】
[熱膨張係数]
熱膨張係数は、島津社製TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定した。
【0071】
[剥離強度]
接着剤フィルムであるパイララックス(デュポン社の登録商標)LF−0100を用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、180℃、4.4×10 Paで、60分間加熱圧着することにより得られた積層体を、JIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした強さを剥離強度とする。
【0072】
[実施例1]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル29.24g(146mmol)、N,N’−ジメチルアセトアミド225gを入れ、窒素雰囲気下、室温で撹拌した。さらに30分から1時間後にかけてピロメリット酸二無水物30.80g(141mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6wt%)12.5gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。ここで得られたポリアミック酸の粘度は260Pa・sであった。
【0073】
DCスターラーを備えた200mlセパラブルフラスコ中に、得られたポリアミック酸100.00gと鉄(III)アセチルアセトナート0.16g(0.45mmol)を入れ、−10℃で1時間冷却した。これにβ−ピコリン12.0gと無水酢酸15.0gを加え、真空下で30分撹拌した。このポリアミック酸混合物の一部をガラス板上に取り、アプリケータを用いて均一な膜を形成した。これを90℃で30分時間熱処理を行い、得られたフィルムをガラス板から引き剥がした。これを200℃30分、300℃30分、400℃5分で熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、ヤング率、熱膨張係数および剥離強度を測定した結果を表1に示した。
【0074】
[実施例2]
DCスターラーを備えた200mlセパラブルフラスコ中に、実施例1記載 のポリアミック酸100.00gと鉄(III)アセチルアセトナート0.35g(1.0mmol)を入れ、−10℃で1時間冷却した。これにβ−ピコリン12.0gと無水酢酸15.0gを加え、真空下で30分撹拌した。このポリアミック酸混合物の一部をガラス板上に取り実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、ヤング率、熱膨張係数および剥離強度を測定した結果を表1に示した。
【0075】
[実施例3]
DCスターラーを備えた500mlセパラブルフラスコ中に、パラフェニレンジアミン4.98g(46mmol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル21.52g(107mmol)、N,N’−ジメチルアセトアミド224gを入れ、窒素雰囲気下、室温で撹拌した。さらに30分から1時間後にかけてピロメリット酸二無水物32.48g(148mmol)を数回に分けて投入した。1時間撹拌した後、ピロメリット酸二無水物のN,N’−ジメチルアセトアミド溶液(6wt%)14.1gを30分かけて滴下し、さらに1時間撹拌した。ここで得られたポリアミック酸の粘度は260Pa・sであった。
【0076】
DCスターラーを備えた200mlセパラブルフラスコ中に、得られたポリアミック酸100.00gと鉄(III)アセチルアセトナート0.10g(0.28mmol)を入れ、−10℃で1時間冷却した。これにβ−ピコリン12.0gと無水酢酸15.0gを加え、真空下で30分撹拌した。このポリアミック酸混合物の一部をガラス板上に取り実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、ヤング率、熱膨張係数および剥離強度を測定した結果を表1に示した。
【0077】
[実施例4]
DCスターラーを備えた200mlセパラブルフラスコ中に、実施例3記載のポリアミック酸100.00gと鉄(III)アセチルアセトナート0.25g(0.71mmol)を入れ、−10℃で1時間冷却した。これにβ−ピコリン12.0gと無水酢酸15.0gを加え、真空下で30分撹拌した。このポリアミック酸混合物の一部をガラス板上に取り、アプリケータを用いて均一な膜を形成した。これを90℃で15分時間熱処理を行い、得られたフィルムをガラス板から引き剥がした。株式会社井元製作所製手動二軸延伸機を用いて、縦方向1.2倍、横方向に1.2倍延伸した後に、金枠に固定した。これを200℃30分、300℃30分、400℃5分で熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、ヤング率、熱膨張係数および剥離強度を測定した結果を表1に示した。
【0078】
[比較例1]
実施例1記載の鉄(III)アセチルアセトナート添加前のポリアミック酸の一部をガラス板上に取り、実施例1と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、ヤング率、熱膨張係数および剥離強度を測定した結果を表1に示した。
【0079】
[比較例2]
実施例3記載の鉄(III)アセチルアセトナート添加前のポリアミック酸の一部をガラス板上に取り、実施例3と同様の方法を用いて、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムについて、ヤング率、熱膨張係数および剥離強度を測定した結果を表1に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
表1の結果から明らかなように、本発明のポリイミドフィルム(実施例1〜4)は、比較例1および2のポリイミドフィルムに比べて、ヤング率が3.5Gpa以上7Gpa以下、熱膨張係数が14ppm以上28ppm以下の範囲に制御され、かつ接着力が15N/cm以上と著しく改質されたものである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上説明したように、本発明によれば、ヤング率が3.5Gpa以上7Gpa以下、線膨張係数が14ppm以上28ppm以下の範囲にあって、ハンドリング性およびフレキシビリティに優れると共に寸法安定性が高く、かつ接着剤を介して金属箔と接着した場合に、15N/cm以上の剥離強度を発現するポリイミドフィルムを得ることができ、このポリイミドフィルムは、長期信頼性に優れたフレキシブル回路基板用のベースフィルムとして利用することが可能である。
【0083】
また、本発明によれば、ポリイミドフィルムのヤング率、線膨張係数を制御し、金属箔との剥離強度を向上させるための処理に、多くの試薬、時間、労力などを必要とせず、大量生産に適し、低コストでかつ高品質の高剥離強度ポリイミドフィルムを製造することができるため、この分野へ与える貢献度が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄(III)アセチルアセトナートを0.01重量%以上10重量%以下含有するポリアミック酸を熱的および/または化学的にイミド化することにより得られたポリイミドフィルムであって、JISK7113に準じ、室温でORIENREC社製のテンシロン型引張試験器により、引張速度100mm/分にて得られる張力−歪み曲線において、初期立ち上がり部の勾配から求めたヤング率が3.5Gpa以上7Gpa以下、島津社製TMA−50により、温度範囲50℃から200℃、昇温速度10℃/minの条件で測定した熱膨張係数が14ppm以上28ppm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
接着剤を介して銅箔と熱圧着した際に、下記の方法により測定した剥離強度が15N/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。
(剥離強度:接着剤フィルムであるパイララックス(デュポン社の登録商標)LF−0100を用いて、ポリイミドフィルムと銅箔(厚み35μm、ジャパンエナジー社製BAC−13−T)とを、180℃、4.4×10 Paで60分間加熱圧着し、得られた積層体をJIS C5016−1994に記載の方法で引き剥がした強さを剥離強度とする。)
【請求項3】
ポリイミドが下記一般式(I)および(II)で示される構造単位を有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

(ただし、式中のRは、下記一般式で示される基のいずれかであり、
【化3】

式中のRは下記一般式で示される基のいずれかである。
【化4】

また、式中のX:Yのモル比は1:99〜100:0である。)
【請求項4】
鉄(III)アセチルアセトナートを0.01重量%以上10重量%以下含有するポリアミック酸を熱的および/または化学的にイミド化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱的および/または化学的にイミド化する工程において、縦方向に1.05〜1.5倍および/または横方向に1.05〜1.8倍延伸することを特徴とする請求項4に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムに接着剤を介して金属箔を圧着してなることを特徴とするフレキシブル回路基板。

【公開番号】特開2006−137868(P2006−137868A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329203(P2004−329203)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】