説明

ポリグリコール酸固化押出成形物及びその製造方法

【課題】切削、穴あけ、切断などの機械加工により二次成形品に成形することが可能なポリグリコール酸固化押出成形物とその製造方法を提供すること。
【解決手段】温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が10〜1,500Pa・sのポリグリコール酸を含有する樹脂材料から形成され、1.575〜1.625g/cmの密度、並びに5mm以上100mm以下の厚みまたは直径を有するポリグリコール酸固化押出成形物;並びに該ポリグリコール酸を含有する樹脂材料を固化押出成形後、固化押出物を加圧して、フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、それによって、固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制する工程を含むポリグリコール酸固化押出成形物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグリコール酸固化押出成形物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、切削、穴あけ、切断などの機械加工により二次成形品に成形することが可能なポリグリコール酸固化押出成形物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体形状や複雑な形状を有する樹脂成形物は、一般に、射出成形により成形されている。射出成形によれば、所望の形状を有する成形物を大量生産することができる。しかし、高い寸法精度が求められる成形物を射出成形によって製造するには、高い寸法精度を有する高価な金型が必要となる。しかも、射出成形物は、射出成形後の収縮や残留応力によって変形し易いため、成形物の形状や樹脂材料の特性などに応じて、金型形状を精密に調整する必要がある。射出成形では、不良率が高いため、製品がコスト高になることが多い。さらに、射出成形では、厚みの大きい成形物の成形が困難である。
【0003】
樹脂材料を押出成形して、平板、丸棒、パイプ、異型品などの各種形状を有する機械加工用素材(「切削加工用素材」と呼ぶことがある)を作製し、該機械加工用素材に切削、穴あけ、切断などの機械加工を施して所望の形状を持つ二次成形物を成形する方法が知られている。機械加工用素材を機械加工する方法は、高価な金型が不要なため、生産量の少ない成形物を比較的低コストで製造できること、成形物の仕様の頻繁な変化に対応できること、寸法精度の高い成形物が得られること、射出成形に適していない複雑な形状や大きな厚みを有する成形物を製造できることなどの利点を有している。
【0004】
しかし、如何なる樹脂材料や押出成形物でも、機械加工用素材に適しているわけではない。機械加工用素材には、例えば、肉厚で機械加工適性に優れること、残留応力が少ないこと、機械加工時に生じる摩擦熱により過度に発熱して変形や変色を起さないこと、高精度で機械加工をすることができることなど、高度の要求特性を満足することが求められている。
【0005】
高分子素材の機械加工には、一般に、金属材料に用いられている加工方法の大部分がそのまま利用されている。押出成形物であっても、通常のフィルムやシート、チューブなどの薄肉で柔軟性の大きなものは、切削加工などの機械加工に適していない。厚み若しくは直径が大きい平板または丸棒などの形状を有する押出成形物であっても、押出成形時の残留応力が大きすぎる押出成形物は、機械加工時や機械加工後に変形し易く、寸法精度の高い二次成形物を得ることが困難である。残留応力を低減した押出成形物であっても、切削、穴あけ、切断などの機械加工時に割れやクラックを発生し易いものは、機械加工用素材に適していない。
【0006】
押出成形によって機械加工に適した特性を有する機械加工用素材を得るには、樹脂材料の選択、押出成形方法などに工夫を凝らす必要がある。そのため、従来より、汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックを含有する樹脂材料を用いて、機械加工用素材に適した押出成形物を製造するための押出成形方法について、様々な提案がなされている。
【0007】
例えば、特開2005−226031号公報(特許文献1)には、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネートなどのエンジニアリングプラスチックを含有する樹脂組成物を固化押出成形して、機械加工用素材を製造する方法が開示されている。
【0008】
他方、環境にやさしい高分子材料として、生分解性プラスチックが注目されており、フィルムやシートなどの押出成形物、ボトルなどのブロー成形物、射出成形物などへの用途展開がなされている。近年では、生分解性プラスチックの機械加工用素材への適用に対する要求も高まっている。
【0009】
しかし、生分解性プラスチックの多くは、融点が低く耐熱性が不十分であること、強度や硬さ、可撓性などが不十分であること、厚み若しくは直径が大きく残留応力が小さな押出成形物を成形することが困難であることなど、機械加工に適した押出成形物を成形するのが困難なものである。
【0010】
例えば、生分解性プラスチックとして代表的なポリ乳酸を押出成形してなる肉厚の平板は、脆すぎて切削や穴あけなどの機械加工を行うことができない。ポリ乳酸を固化押出成形した肉厚の押出成形品も同様の欠点を有している。
【0011】
ポリグリコール酸は、強靭性、ガスバリア性などに優れた生分解性プラスチックである。例えば、特許第4073052号公報(特許文献2)には、ポリグリコール酸を押出成形によってシートに成形する方法が開示されている。該シートは、引張強さ、伸び、ガスバリア性などに優れている。しかし、ポリグリコール酸を押出成形してなる肉厚の押出成形物は、切削や切断加工時に割れを発生し易く、機械加工用に適したものではない。ポリグリコール酸を通常の固化押出成形によって肉厚の固化押出成形物に成形することは可能であるが、得られた固化押出成形物は、切断加工時に割れを発生したり、切削加工が困難であったりするなどの問題があった。
【0012】
【特許文献1】特開2005−226031号公報
【特許文献2】特許第4073052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、切削、穴あけ、切断などの機械加工により二次成形品に成形することが可能なポリグリコール酸固化押出成形物とその製造方法を提供することにある。
【0014】
ポリグリコール酸は、ポリ乳酸などの他の生分解性プラスチックと比較して、引張強さ、引張伸び、曲げ強さ、曲げ弾性率、硬さ、可撓性、耐熱性などに優れた結晶性樹脂であって、汎用のガスバリア性樹脂に匹敵または凌駕するガスバリア性を有している。ポリグリコール酸は、押出成形によってフィルムやシートに成形することができる。ポリグリコール酸を用いて機械加工用素材に適した特性を有する肉厚の押出成形物を得ることができるならば、ポリグリコール酸の新たな用途展開が可能である上、優れた諸特性を持つ二次成形物を提供することが可能となる。
【0015】
しかし、ポリグリコール酸に通常の押出成形法を適用して、厚みが大きな平板状の押出成形物を作製すると、得られた押出成形物は、硬さや強度、可撓性などが不足しており、切削、穴あけ、切断などの機械加工時に割れを発生し易いという問題のあることが判明した。
【0016】
押出機先端に取り付けた押出ダイと該押出ダイの通路と連結する通路を備えたフォーミングダイとを備えた固化押出装置を用いて、ポリグリコール酸を肉厚の固化押出成形物に成形することができる。しかし、得られた固化押出成形物は、切断時に割れを発生し易いこと、固化押出成形後の熱処理(アニーリング)によって割れを発生する場合があることなどの問題のあることが判明した。さらに、着色剤などの添加剤を含有させたポリグリコール酸を用いると、固化押出成形物の表面及び/または断面にスジ状の流れ模様が発生し易いことが見出された。
【0017】
そこで、本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリグリコール酸の溶融粘度、固化押出成形条件などを選択すると共に、固化押出物を加圧して、固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、固化押出物の密度を高める方法が有効であることを見出した。
【0018】
より具体的に、厚みまたは直径が大きな押出成形物は、通常のシートなどの厚みが薄い押出成形物とは異なり、押出機先端の押出ダイから溶融押出されると、厚み方向への膨張による影響が大きく現れる。例えば、通常の押出成形(溶融押出成形)または固化押出成形により得られた厚みの大きな平板は、厚み方向への膨張によって密度が大幅に低下することが判明した。その結果、ポリグリコール酸の高結晶化状態での密度を大きく下回る低密度の平板しか得ることができない。低密度の平板は、硬さや強度が低く、可撓性も低いため、機械加工に耐えることができない。平板以外の丸棒などの他の肉厚の押出成形物も同様の問題を抱えている。
【0019】
ポリグリコール酸の押出成形法として固化押出成形法を採用し、使用するポリグリコール酸の溶融粘度と固化押出条件を選択することに加えて、固化押出物の密度を高めるために、固化押出物を加圧して、フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、固化押出物の密度を特定の範囲内にまで高める方法を採用したところ、機械加工用素材に適した要求特性を満足する固化押出成形物の得られることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が10〜1,500Pa・sのポリグリコール酸を含有する樹脂材料から形成され、1.575〜1.625g/cmの密度、並びに5mm以上100mm以下の厚みまたは直径を有するポリグリコール酸固化押出成形物が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、下記工程1乃至4
a)温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が10〜1,500Pa・sのポリグリコール酸を含有する樹脂材料を、押出機に供給し、該押出機のシリンダー温度245〜275℃で溶融混練する工程1;
b)該押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、該押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
c)該フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
d)該固化押出物を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、密度が1.575〜1.625g/cmで、厚みまたは直径が5mm以上100mm以下のポリグリコール酸固化押出成形物を得る工程4;
を含むポリグリコール酸固化押出成形物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、厚みまたは直径が大きく、切削、穴あけ、切断などの機械加工により二次成形品に成形することが可能なポリグリコール酸固化押出成形物とその製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によれば、残留応力が低減され、硬さや強度、可撓性などに優れ、カーボンブラックなどの着色剤が均一に分散してスジ状の流れ模様の発生がなく、機械加工に適した諸特性を有するポリグリコール酸固化押出成形物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明で使用するポリグリコール酸は、下記式(1)
【0024】
【化1】

【0025】
で表される繰り返し単位を含有するポリマーである。ポリマー中、式(1)で表される繰り返し単位の割合は、通常、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。式(1)で表される繰り返し単位の割合が70質量%未満であると、強靭性、結晶性、耐熱性、硬さ、ガスバリア性などが低下傾向を示す。多くの場合、ポリグリコール酸の単独重合体を用いることが好ましい。
【0026】
ポリグリコール酸は、グリコール酸の縮重合またはグリコリドの開環重合によって製造することができる。式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、例えば、シュウ酸エチレン、ラクチド、ラクトン類、トリメチレンカーボネート、1,3−ジオキサンなどの環状モノマーに由来する繰り返し単位が好ましいが、これらに限定されない。
【0027】
該環状モノマーに由来する繰り返し単位を1質量%以上の割合で導入することにより、ポリグリコール酸の融点を下げて加工温度を低下させることができ、それによって、溶融加工時の熱分解を低減することができる。また、共重合によりポリグリコール酸の結晶化速度を制御して、押出成形性を向上させることもできる。一方、該環状モノマーに由来する繰り返し単位が大きくなりすぎると、ポリグリコール酸が本来有する結晶性が損なわれ、得られる固化押出成形物の強靭性、耐熱性等が著しく低下するおそれがある。
【0028】
本発明で使用するポリグリコール酸は、高分子量ポリマーであることが好ましい。本発明で使用するポリグリコール酸の温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度は、10〜1,500Pa・s、好ましくは30〜1,300Pa・s、より好ましくは50〜1,000Pa・s、特に好ましくは70〜900Pa・sである。
【0029】
ポリグリコール酸の溶融粘度が低すぎると、溶融押出や固化押出成形が困難となる上、得られる固化押出成形物の可撓性や強靭性が低下して、機械加工時に割れが生じ易くなる。また、ポリグリコール酸の溶融粘度が低すぎると、固化押出成形物の熱処理(アニーリング)時に割れが発生することがある。ポリグリコール酸の溶融粘度が高すぎると、溶融押出加工時に高い温度に加熱しなければならないため、ポリグリコール酸の熱劣化が生じ易くなる。
【0030】
本発明で使用する樹脂材料は、ポリグリコール酸を主成分として含有する樹脂組成物である。主成分とは、ポリグリコール酸の含有割合が、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であることを意味する。その他の成分として、ポリグリコール酸以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリ乳酸などの他の生分解性プラスチックを挙げることができる。
【0031】
本発明で使用する樹脂材料には、染料や顔料などの着色剤を含有させることができる。着色剤を用いることにより、高級感があり、切削加工などがし易いポリグリコール酸固化押出成形物を得ることができる。着色剤としては、耐熱性に優れる点で顔料が好ましい。顔料としては、黄色顔料、赤色顔料、白色顔料、黒色顔料など、合成樹脂の技術分野で用いられている各種色調の顔料を用いることができる。これらの顔料の中でも、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどを挙げることができる。
【0032】
本発明で使用する樹脂材料は、全量基準で0.001〜5質量%の着色剤を含有するポリグリコール酸組成物であることが好ましい。着色剤の含有割合は、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。着色剤は、ポリグリコール酸と溶融混練することができるが、所望により着色剤の濃度が高いポリグリコール酸組成物(マスターバッチ)を作製しておき、このマスターバッチをポリグリコール酸で希釈して所望の着色剤濃度を有する樹脂材料を調製することもできる。着色剤の均一分散性の観点からは、ポリグリコール酸と着色剤とを溶融混練してペレット化した樹脂材料を調製することが好ましい。
【0033】
本発明で用いる樹脂材料には、機械的強度や耐熱性の向上を目的に、各種充填剤を配合することができる。充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維などの無機繊維状物;ステンレス、アルミニウム、チタン、鋼、真録等の金属繊維状物;ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質;等の繊維状充填剤が挙げられる。
【0034】
充填剤として、例えば、マイカ、シリカ、タルク、アルミナ、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、フェライト、クレー、ガラス粉、酸化亜鉛、炭酸ニッケル、酸化鉄、石英粉末、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等の粒状または粉末状充填剤を用いることもできる。
【0035】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。充填剤は、必要に応じて、集束剤または表面処理剤により処理されていてもよい。集束剤または表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネ-ト系化合物の官能性化合物が挙げられる。これらの化合物は、充填剤に対して予め表面処理または集束処理を施して用いるか、あるいは樹脂組成物の調製の際に同時に添加してもよい。
【0036】
本発明で用いる樹脂材料には、前記以外のその他の添加剤として、例えば、衝撃改質剤、樹脂改良剤、炭酸亜鉛、炭酸ニッケルなどの金型腐食防止剤、滑剤、熱硬化性樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ボロンナイトライドなどの核剤、難燃剤などを適宜添加することができる。
【0037】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物は、前記ポリグリコール酸を含有する樹脂材料から形成され、1.575〜1.625g/cmの密度、及び5mm以上100mm以下の厚みまたは直径を有するポリグリコール酸固化押出成形物である。
【0038】
ポリグリコール酸固化押出成形物の密度は、好ましくは1.577〜1.620g/cm、より好ましくは1.578〜1.615g/cmである。この密度は、多くの場合、1.580〜1.610g/cmである。ポリグリコール酸固化押出成形物の密度が低すぎると、強度や硬さ、強靭性、可撓性などが低下して、切削、穴あけ、切断などの機械加工時に割れを発生し易くなる。ポリグリコール酸固化押出成形物の密度が高すぎるものは、製造が困難である。
【0039】
ポリグリコール酸固化押出成形物の厚みまたは直径は、5mm以上100mm以下、好ましくは5mm超過100mm以下、より好ましくは8〜90mm、さらに好ましくは10〜80mm、特に好ましくは15〜70mmである。多くの場合、この厚みまたは直径が20〜50mmの範囲内で満足すべき機械加工性を有する固化押出成形物を得ることができる。
【0040】
この厚みまたは直径が小さすぎると、切削などの機械加工により所望の形状の二次成形物を成形することが困難となる。例えば、フィルムやシート、チューブなどの厚みが小さな押出成形物は、一般に、剛性が小さく、柔軟であるため、切削加工やドリルなどによる機械的な穴あけ加工が困難であるか、実質的に不可能である。厚みまたは直径が小さすぎる成形物は、固化押出成形による成形が困難である。厚みまたは直径の上限は、一般に、100mmである。厚みまたは直径が大きすぎると、固化押出成形物を熱処理しても、残留応力を十分に除去若しくは低減することが困難となる。残留応力の大きな固化押出成形物を機械加工すると、得られた二次成形品に変形が生じ易くなる。
【0041】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物は、平板または丸棒であることが好ましく、固化押出成形とその後の緻密化処理が容易である点で平板であることがより好ましい。
【0042】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物は、下記工程1乃至4を含む製造方法によって製造することができる。
【0043】
a)温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が10〜1,500Pa・sのポリグリコール酸を含有する樹脂材料を、押出機に供給し、該押出機のシリンダー温度245〜275℃で溶融混練する工程1;
b)該押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、該押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
c)該フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
d)該固化押出物を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、密度が1.575〜1.625g/cmで、厚みまたは直径が5mm以上100mm以下のポリグリコール酸固化押出成形物を得る工程4。
【0044】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物が平板の場合の製造工程について、図1を参照しながら説明する。工程1において、ポリグリコール酸を含有する樹脂材料を押出機1のホッパー内に投入する。該樹脂材料としては、ペレットを用いることが好ましい。成形前に該樹脂材料を十分に乾燥して除湿しておくことが好ましい。除湿乾燥条件は、特に限定されないが、例えば、ペレットを乾熱雰囲気下に100〜160℃で1〜24時間程度保持する方法を採用することが好ましい。
【0045】
前記工程1において、押出機のシリンダー3内で樹脂材料の溶融混練を行う。シリンダー温度は、245〜275℃、好ましくは247〜273℃、より好ましくは250〜270℃に調整する。押出機のシリンダーに、固相樹脂輸送部、溶融部、液相樹脂輸送部などに対応して複数の加熱手段が配置されている場合、各加熱手段の温度を前記範囲内で互いに異ならせてもよく、あるいは各加熱手段の温度を同一温度に制御してもよい。
【0046】
前記工程2において、押出機先端の押出ダイ4から、溶融混練によって溶融した樹脂材料を溶融押出する。押出ダイからの溶融樹脂材料は、押出ダイ4の溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路6と、冷却手段8とを備えたフォーミングダイ5の該流路内に押出する。押出成形物の断面形状とは、押出成形物が平板の場合には、長方形であり、丸棒の場合には、円形である。
【0047】
前記工程3において、フォーミングダイ5の流路6内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイ5の先端から固化押出物11を外部に押出する。押出速度は、通常、10〜30mm/分、好ましくは15〜25mm/分である。
【0048】
該工程3において、冷却手段8に加えて加熱手段7を配置したフォーミングダイを使用し、先ず、加熱手段7によって、押出ダイ4出口付近の流路6内にある溶融押出物を230〜280℃、好ましくは250〜280℃の温度に加熱、次いで、冷却手段8によって、流路内の溶融押出物を該ポリグリコール酸の結晶化温度未満の温度に冷却して固化させる方法を採用することが好ましい。押出ダイ4の出口付近の温度を急冷すると、ポリグリコール酸の結晶化の進行が遅くなることがある。押出ダイ4の近傍の温度を前記範囲内にまで加熱した後に冷却することによって、溶融押出物の結晶化を促進することができる。押出ダイ4の出口温度を上記範囲内とすることによっても、押出ダイ4出口付近の流路6内にある溶融押出物の温度を前記範囲内とすることができる。
【0049】
冷却手段によって、押出成形物の温度をポリグリコール酸の結晶化温度未満の温度にまで冷却して固化させる。ポリグリコール酸の結晶化温度(溶融状態からの降温時に検知される結晶化温度)は、通常、130〜140℃程度である。冷却手段8の冷却温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。冷却温度の下限値は、好ましくは40℃、より好ましくは50℃である。工程1で使用する樹脂材料が着色剤などの添加剤成分を含有する場合、押出機のシリンダー内での溶融混練によってポリグリコール酸の結晶化温度が上昇することがあるが、その場合にも、冷却温度を前記範囲内とすることが好ましい。
【0050】
加熱手段7は、加熱源として、例えば、ヒーター9を備えている。冷却手段8は、例えば、冷媒として冷却水を循環させることができる水冷パイプ10を備えている。
【0051】
工程4において、該固化押出物11を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、密度が1.575〜1.625g/cmで、厚みまたは直径が5mm以上100mm以下のポリグリコール酸固化押出成形物を得る。加圧手段としては、例えば、図1に示す上部ロール群12と下部ロール群13との組み合わせがある。下部ロール群13を台の上に載せ、上部ロール群12に荷重を掛ける方法により固化押出物11を加圧することができる。下部ロール群13に上部方向への負荷を掛け、上部ロール群12に下部方向への負荷を掛ける方法によって固化押出物11を加圧してもよい。
【0052】
フォーミングダイから押出された固化押出物に、該フォーミングダイの吐出口から複数のロールを組み合わせたロール群12またはロール群12とロール群13とによって圧力を負荷することによって、該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制すると共に、該フォーミングダイ方向への背圧を掛けることができる。適当な負荷手段を併用して、固化押出成形物11にフォーミングダイ方向への背圧を加えてもよい。背圧の大きさは、通常、1,000〜5,000kg、好ましくは1,500〜4,000kgである。この背圧は、ダイ外圧(流路6に掛かる圧力)として測定することができる。
【0053】
この加圧によって、固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制するが、その程度は、最終的に得られる固化押出成形物の密度が1.575〜1.625g/cmとなる範囲内である。加圧後、固化押出成形物は、方向14に引き取られる。
【0054】
固化押出成形物が丸棒である場合には、丸棒状の固化押出成形物の周囲を取り囲むロール群を配置し、該ロール群に中心方向への圧力を負荷する方法がある。フォーミングダイから吐出させた固化押出物を加圧する方法は、該フォーミングダイ方向に背圧をかけることができ、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、密度が1.575〜1.625g/cmの範囲内とすることができる方法であれば、任意の方法を採用することができる。
【0055】
前記工程4で得られたポリグリコール酸押出成形物には、150〜230℃の温度で3〜24時間熱処理する工程5を配置してアニーリングすることが好ましい。このアニーリング処理によって、固化押出成形物の残留応力を除き、固化押出成形物自体及び機械加工後の二次成形物に変形などの不都合を生じさせないことができる。熱処理温度は、好ましくは170〜220℃、より好ましくは180〜210℃である。熱処理時間は、好ましくは4〜20時間、より好ましくは5〜15時間である。
【0056】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物は、平板や丸棒、パイプ、異形品などの形状を有することができるが、好ましくは平板または丸棒であり、より好ましくは平板である。平板は、加圧による緻密化が容易である。
【0057】
機械加工としては、切削、穴あけ、切断、及びこれらの組み合わせが代表的なものである。広義の切削加工法には、切削のほか、穴あけ加工を含めることがある。切削加工法としては、単一刃工具を用いる旋削加工、研削加工、平削加工、中ぐり加工などがある。多数刃を用いる切削加工法としては、フライス加工、穴あけ加工、ねじ切り加工、歯切り加工、型彫加工、やすり加工などがある。本発明では、ドリルなどを用いた穴あけ加工を切削加工と区別することがある。切断加工法としては、刃物(鋸)による切断、砥粒による切断、加熱・融解による切断などがある。この他、研削仕上法、ナイフ状工具を用いる打ち抜き加工やけがき切断などの塑性加工法、レーザー加工などの特殊加工法なども適用することができる。
【0058】
ポリグリコール酸固化押出成形物が肉厚の大きな平板や丸棒の場合、一般に、該固化押出成形物を適当な大きさまたは厚みに切断し、切断した固化押出成形物を研削して所望の形状に整え、さらに、必要個所に穴あけ加工を行う。最後に、必要に応じて、仕上げ加工を行う。ただし、機械加工の順序は、これに限定されない。機械加工時に摩擦熱により固化押出成形物が溶融して平滑な面が出にくい場合には、切削面などを冷却しながら機械加工を行うことが望ましい。摩擦熱により固化押出成形物が過度に発熱すると、変形や着色の原因となるので、固化押出成形物または加工面を好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下の温度に制御することが好ましい。
【0059】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物は、切削、穴あけ、切断などの機械加工を行うことにより、様々な樹脂部品などの二次成形物に成形することができる。具体的な用途としては、電気電子分野では、ウエハキャリア、ウエハカセット、スピンチャック、トートビン、ウエハボート、ICチップトレー、ICチップキャリア、IC搬送チューブ、ICテストソケット、バーンインソケット、ピングリッドアレイソケット、クワッドフラットパッケージ、リードレスチップスキャリア、デュアルインラインパッケージ、スモールアウトラインパッケージ、リールパッキング、各種ケース、保存用トレー、搬送装置部品、磁気カードリーダーなどが挙げられる。
【0060】
OA機器分野では、電子写真複写機や静電記録装置などの画像形成装置における各種ロール部材、記録装置用転写ドラム、プリント回路基板カセット、ブッシュ、紙及び紙幣搬送部品、紙送りレール、フォントカートリッジ、インクリボンキャニスター、ガイドピン、トレー、ローラー、ギア、スプロケット、コンピュータ用ハウジング、モデムハウジング、モニターハウジング、CD−ROMハウジング、プリンターハウジング、コネクター、コンピュータスロットなどが挙げられる。
【0061】
通信機分野では、携帯電話部品、ペーガー、各種摺動材などが挙げられる。自動車分野では、内装材、アンダーフード、電子電気機器ハウジング、ガスタンクキャップ、燃料フィルタ、燃料ラインコネクタ、燃料ラインクリップ、燃料タンク、機器ビージル、ドアハンドル、各種部品などが挙げられる。その他の分野では、電線支持体、電波吸収体、床材、パレット、靴底、ブラシ、送風ファン、面状発熱体、ポリスイッチなどが挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。物性及び特性の測定方法は、以下に示すとおりである。
【0063】
(1)溶融粘度
厚み約0.2mmのポリグリコール酸の非晶シートを約150℃で5分間加熱して結晶化させた試料を用い、D=0.5mm、L=5mmのノズル装着キャピログラフ〔東洋精機(株)製〕を用いて、温度270℃及び剪断速度120sec−1で試料の溶融粘度を測定した。
【0064】
(2)密度
ポリグリコール酸固化押出成形物から切り出した試料を、JIS R 7222(n−ブタノールを用いたピクノメーター法)に従って測定した。
【0065】
[実施例1]
温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が700Pa・sのポリグリコール酸とカーボンブラック〔アセチレンブラック;電気化学工業社製デンカブラック(登録商標)〕とを溶融混練し、ペレット化した樹脂材料(カーボンブラック濃度=0.1質量%)を、140℃で6時間保持して除湿乾燥した。
【0066】
除湿乾燥したペレットをL/D=20の30mmφ単軸押出機のホッパーに供給し、シリンダー温度250℃で溶融混練し、押出ダイ出口温度275℃で、フォーミングダイの流路内に溶融押出し、冷却温度80℃で冷却し固化させた。押出速度は、約20mm/10分であった。
【0067】
フォーミングダイの流路内で固化させた固化押出成形物を、上部ロール群と下部ロール群との間に通して加圧することにより、フォーミングダイ外圧(背圧)3,000kgに調整し、それによって、ポリグリコール酸固化押出成形物を緻密化した。次いで、該固化押出成形物を、210℃で8時間熱処理して、残留応力を除去した。熱処理によって、固化押出成形物に割れや変形を生じることはなかった。
【0068】
この方法によって、密度が1.593g/cmで、厚みが20mm、幅が500mm、長さ1,000mmの平板状ポリグリコール酸固化押出成形物を得た。この平板は、ミーリングカッターを用いて切断したところ、割れを誘発することなく切断することができた。その切断面には、混練不足に起因するスジ状の流れ模様がなく、均一で美麗な切断面であった。この平板を、直径800μmのドリルを用いて、ドリル送り速度200mm/分で穴あけ加工を行ったところ、割れを発生することなく、穴あけ加工することができた。
【0069】
[比較例1]
フォーミングダイから押出した固化押出物に、上部及び下部ロール群を用いた加圧処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして平板状のポリグリコール酸固化押出成形物を作製した。
【0070】
得られた平板状の固化押出成形物の密度は、1.560g/cmであった。この平板は、熱処理によるアニーリング工程で少し波打つなどの変形を生じた。該平板を、ミーリングカッターを用いて切断したところ、割れが発生した。切断面には、スジ状の流れ模様が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリグリコール酸固化押出成形物は、加工精度が高く、機械加工による各種樹脂部品などの二次成形物の成形に好適である。平板または丸棒のポリグリコール酸固化押出成形物は、所望により、機械加工することなく、あるいは切断加工及び/または穴あけ加工だけで、素材の特徴を活かした用途に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明で使用する固化押出成形方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0073】
1 押出機
2 ホッパー
3 シリンダー
4 押出ダイ
5 フォーミングダイ
6 流路
7 加熱手段
8 冷却手段
9 ヒーター
10 水冷パイプ
11 固化押出物
12 上部ロール群
13 下部ロール群
14 引き取り方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が10〜1,500Pa・sのポリグリコール酸を含有する樹脂材料から形成され、1.575〜1.625g/cmの密度、並びに5mm以上100mm以下の厚みまたは直径を有するポリグリコール酸固化押出成形物。
【請求項2】
平板または丸棒の形状を有する請求項1記載のポリグリコール酸固化押出成形物。
【請求項3】
該樹脂材料が、該ポリグリコール酸、及び全量基準で0.001〜5質量%の着色剤を含有するポリグリコール酸組成物である請求項1または2記載のポリグリコール酸固化押出成形物。
【請求項4】
機械加工用素材である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリグリコール酸固化押出成形物。
【請求項5】
下記工程1乃至4
a)温度270℃及び剪断速度120sec−1で測定した溶融粘度が10〜1,500Pa・sのポリグリコール酸を含有する樹脂材料を、押出機に供給し、該押出機のシリンダー温度245〜275℃で溶融混練する工程1;
b)該押出機先端の押出ダイから、溶融混練によって溶融した樹脂材料を、該押出ダイの溶融樹脂通路と連通しかつ押出成形物の断面形状を有する流路と、冷却手段とを備えたフォーミングダイの流路内に押出する工程2;
c)該フォーミングダイの流路内で樹脂材料からなる溶融押出物を冷却して固化させ、次いで、該フォーミングダイの先端から固化押出物を外部に押出する工程3;並びに
d)該固化押出物を加圧して、該フォーミングダイ方向に背圧をかけながら引き取り、その際、加圧によって該固化押出物の厚み方向若しくは直径方向への膨張を抑制して、密度が1.575〜1.625g/cmで、厚みまたは直径が5mm以上100mm以下のポリグリコール酸固化押出成形物を得る工程4;
を含むポリグリコール酸固化押出成形物の製造方法。
【請求項6】
前記工程3において、冷却手段に加えて加熱手段を配置したフォーミングダイを使用し、先ず、加熱手段によって、押出ダイ出口付近の流路内にある溶融押出物を230〜280℃の温度に加熱、次いで、冷却手段によって、流路内の溶融押出物を該ポリグリコール酸の結晶化温度未満の温度に冷却して固化させる請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程4で得られたポリグリコール酸固化押出成形物を、150〜230℃の温度で3〜24時間熱処理する工程5をさらに含む請求項5または6記載の製造方法。
【請求項8】
該樹脂材料が、該ポリグリコール酸、及び全量基準で0.001〜5質量%の着色剤を含有するポリグリコール酸組成物である請求項5乃至7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程4において、平板または丸棒の形状を有するポリグリコール酸固化押出成形物を得る請求項5乃至8のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−69718(P2010−69718A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239560(P2008−239560)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】