説明

ポリチオフェン電子デバイス

【課題】酸素に曝露されても、周囲条件下で一定期間実質的に劣化せず、安定である電気デバイスを提供する。
【解決手段】電子デバイスは、構造式(I)、



式中、Xは、OまたはNR′の一つであり、mは、メチレンの数を表し、Mは、共役部分であり、RおよびR′は、水素、適当な炭化水素および適当なヘテロ原子含有基の少なくとも一つからなる群から選ばれ、aは、3置換チオフェン単位の数を表し、bは、共役部分の数を表し、nは、高分子の繰り返し単位の数を表す、で構成される半導体を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全体として、本明細書に例示される構造式の半導体、これらの半導体の調製プロセスおよびこれらの半導体の使用を目的とする。より詳しくは、本開示は、実施態様において、本明細書に例示される式のTFT高分子を目的とする。より詳しくは、本開示は、複数の安定化されたポリチオフェンを目的とする。これらの安定化されたポリチオフェンにおいては、ポリチオフェン中のチオフェン単位の3−置換基のベータ位および/またはガンマ位に、O(3.44、ポーリングの電気陰性度)およびN(3.04)など、C(2.55)より電気陰性度の高い原子が導入される。その結果得られるポリチオフェンは、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)などのポリ(3−アルキルチオフェン)より安定である。
【背景技術】
【0002】
開示されるポリチオフェンは、高分子薄膜トランジスタ用の半導体として選択することができる。開示されるポリチオフェンは、薄膜トランジスタなどの有機電子デバイス中の実質的に安定なチャネル半導体として選択することもできる。これらのチャネル半導体は、溶液プロセスによって加工することができる。これらのトランジスタは、空気中で安定である。すなわち、これらのトランジスタは、酸素に曝露されても、一定期間実質的に劣化しない。理論にこだわるわけではないが、OおよびNのような原子には、誘起効果と、強くはない共鳴(またはメソメリー)効果とがあり、ベータ位および/またはガンマ位にそのような原子があると高分子骨格に電子吸引性の効果を及ぼす。これによって、ポリチオフェン重合体のHOMO(最高被占軌道)エネルギー準位が低下し、従って、酸素に対する安定性が増加し、電界効果移動度などのトランジスタ性能が向上する結果となると考えられる。より詳しくは、O原子およびN原子は炭素(C)より電気陰性度が大きいが、OH、ORなど、OまたはNを含む置換基の正味の極性効果は、チオフェンの芳香族部分に直接結合していると、主として電子放出性共鳴効果のために電子放出性(供与性)になると考えられる。従って、ポリ(3−アルコキシチオフェン)は、通常、ポリ(3−アルキルチオフェン)より光誘起酸素ドーピングされやすい。本開示では、O原子およびN原子の共鳴効果を取り除くかまたは減らすために、OまたはNとチオフェン部分との間に、例えば1個または2個のメチレン基が挿入される。こうすると、OおよびNがチオフェン環の共役に関与しないと考えられるからである。しかし、チオフェン環に及ぼされる電子吸引性の誘起効果は依然としてある程度維持される。これらの置換基の正味の極性効果は、アルキル置換基より電子放出性が少なく、従って、高分子のHOMOエネルギー準位をポリ(3−アルキルチオフェン)と比べると低くする。従って、これらの高分子の酸素による酸化ドーピングに対する安定性が増加する結果となる。
【0003】
本明細書に例示される式の半導体で作製された、薄膜トランジスタすなわちTFTなどの電子デバイスがあると望ましい。これらの半導体は、溶媒溶解性が優れ、溶液プロセスによって加工することができる。これらのデバイスは、プラスチック基板などの複数の基板上に可撓性TFTを作製する場合に望ましい機械的耐久特性および構造的可撓特性を有する。可撓性TFTは、構造的可撓特性および機械的耐久特性を有する電子デバイスの設計を可能にする。プラスチック基板と、本明細書に例示される式の半導体とを一緒に使用すると、これまでは剛直であったシリコンTFTを、機械的耐久性が向上し、構造的に可撓性のTFT設計に変えることができる。これは、大面積画像センサ、電子ペーパーおよびその他の表示媒体など、大面積デバイスにとって特に価値がある。本明細書に例示される式の半導体を選択すると、実施態様において、スマートカード、ラジオ周波数識別(RFID)タグおよびメモリ/記憶デバイスなどの低価格超小型電子機器用の集積回路論理素子に適した長さの共役長も実現され、機械的耐久性、ひいては使用寿命も向上する。
【0004】
複数の半導体材料は、空気に曝露されると安定ではないと考えられる。これは、周囲の酸素によって酸化ドーピングされ、その結果、導電性が増加するためである。これらの材料から作製されたデバイスの場合、その結果、オフ電流が大きくなり、従って、電流オン/オフ比は小さくなる。従って、これらの材料の多くで、通常、材料プロセス時およびデバイス作製時に厳重な注意を払って環境中の酸素を除去し、酸化的ドーピングを回避し、もしくは最小化する。これらの予防措置によって製造コストが増大し、従って、特に大面積デバイスの場合、非晶質シリコン技術に代わる経済性の高い技術としてのある種の半導体TFTの魅力が相殺されてしまう。本開示の実施態様においては、これらの不利およびその他の不利は回避されるか、もしくは最小化される。
【0005】
立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)は、通常、周囲条件下で迅速に光酸化分解する。一方、ポリトリアリールアミン類は、空気に曝露されてもある程度の安定性を有することが知られている。しかし、これらのアミンの電界効果移動度は低いと考えられる。本明細書に例示される式の重合体によって、これらの不利を回避するかまたは最小化することができる。
【0006】
ペンタセンなどのアセン類、ヘテロアセン類およびそれらの誘導体も、TFT内のチャネル半導体として用いられると、満足できる高い電界効果移動度を有することが知られている。しかし、これらの材料は、例えば、光照射下、大気酸素によって急速に酸化されてしまい、周囲条件でプロセス加工可能とみなされていない。さらに、TFT用に選択されると、非置換アセン類は、実質的に不溶性であり、従って、基本的に溶液プロセス不可である。従って、そのような化合物は、真空蒸着方法によって加工されてきた。その結果、製造コストが高くなり、本明細書に例示される半導体によって作られるTFTでは考慮外であり、ほぼ無視されてきた。有機溶媒に溶ける置換アセン類がないわけではないが、通常、薄膜形成特性が劣り、従って、大面積電子部品を溶液プロセスで加工するには適さない。
【0007】
本明細書に例示される式のp−型半導体高分子から作製されたTFTは、機械的耐久性、構造的可撓性、ならびにデバイスの活性媒質上に直接組み込まれ、従って高価な真空蒸着プロセスを回避し、ひいては、デバイスの小型化を推進して持ち運びしやすくすることができる可能性を提供する点で、機能と構造との両面において従来のシリコンおよび他の半導体より望ましいものとすることができる。複数の既知の小分子系TFTデバイスまたはオリゴマ系TFTデバイスは、作製する際に難しい真空蒸着技法に依拠している。主として、用いられる材料が不溶性であるか、あるいは、一般的に、スピンコーティング法、溶液キャスト法または刻印印刷法による溶液プロセス法では一様な薄膜が得られないため、真空蒸着法が選択される。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,770,904号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さらに、真空蒸着法には、大面積規格用のムラのない薄膜の品質を実現する難しさも含まれる。例えば、立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)類の立体規則性成分から溶液プロセスによって作製されたものなどの高分子TFTは、ある程度の移動度を示すものの、空気中で酸化ドーピングされやすいという問題がある。従って、実用的な低コストTFT設計にとって、安定で溶液プロセスによって加工することができ、周囲の酸素によって性能に悪い影響が及ばない半導体材料は価値が高い。例えば、立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)で作り出されるTFTは、空気に敏感である。これらの材料から作製されたTFTは、常温の大気中では、一般に、大きなオフ電流、非常に低い電流オン/オフ比を示し、性能特性は急速に劣化する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
TFTデバイスなどの超小形電子デバイス用途に有用な、本明細書に例示される式の半導体を提供することは、本開示の特徴である。
【0011】
約1.5eVから約4eVのバンドギャップを有する、本明細書に例示される式の半導体高分子を提供することは、本開示の別の特徴である。バンドギャップは、薄膜の吸収スペクトルから求める。
【0012】
本開示のさらに別の特徴においては、超小型電子構成部品として有用な、本明細書に例示される式のp−型高分子半導体が提供される。これらの高分子は、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンおよび類似物などの普通の有機溶媒中に、例えば、少なくとも約0.1重量パーセントから約95重量パーセントの溶解性を有する。従って、これらの高分子は、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、刻印印刷法、ディップコーティング法、溶液キャスト法、インクジェット印刷法および類似法などの溶液プロセスによって経済的に作製することができる。
【0013】
本開示の別の特徴は、例示される式のp−型ポリチオフェン半導体によるTFTなどの電子デバイスを提供することにある。例えば、これらの半導体は、例えば約10−4から約10−9S/cm(ジーメンス/センチメートル)の電気伝導率を有する。
【0014】
本開示のさらに別の特徴においては、本明細書に例示される式の新規なp−型半導体、およびそれらのp−型半導体のデバイスも提供される。これらのデバイスは、酸素の悪影響に対する抵抗性の増加を示す。すなわち、これらのデバイスは、比較的高い電流オン/オフ比を示す。これらのデバイスの性能は、実質的に立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)またはアセン類で作製した類似のデバイスほど急速に劣化しない。
【0015】
さらに、本開示のさらに別の特徴においては、本明細書に例示される式の固有の構造的な特徴を有する新規な半導体の種類が提供される。これらの構造的な特徴は、適切なプロセス条件下で分子自己配置に寄与し、デバイス性能の安定性も高める。適切な分子配置によって、薄膜中の分子構造のより高い秩序が実現される。分子構造の高い秩序は、効率的な電荷キャリア輸送、ひいてはより高い電気的性能にとって価値の高いものとなり得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1から4には、本開示のさまざまな代表的な実施態様が例示されている。これらの実施態様では、薄膜トランジスタ(TFT)構成中のチャネルまたは半導体材料として、本明細書に例示される式の半導体が選択されている。
【0017】
実施態様において、高分子が開示される。より詳しくは、本明細書に例示される式の半導体、およびそれらの半導体の電子デバイスが開示される。より詳しくは、本開示は、構造式(I)、
【化1】


によって例示されるか、または構造式(I)によって包含される高分子に関する。式中、XはOまたはNR′であり、mはメチレンの数を表し、mは例えば1または2であるとよく、Mは本明細書に例示される代表的な基から選択される共役部分であり、RおよびR′は水素、アルキルおよびアリールなどの適当な炭化水素、ヘテロアリールなどのヘテロ原子含有基であり、aは、3−置換チオフェン単位の数を表し、例えば、1から約20(挙げた2つの数の間のすべての値を含む)であるとよく、bは、共役部分の数を表し、例えばゼロから20であるとよく、nは、高分子の繰り返し単位の数を表し、例えば、2から約5,000、約5から約2,500、より詳しくは、約5から約1,000、約5から約800、または約5から約50であるとよい。
【0018】
実施態様においては、以下の構造式、
【化2】


のチオフェンを含む薄膜トランジスタが開示される。式中、R′′′は、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルまたはエイコサニルであるアルキル基を表し、nは、高分子の繰り返し単位の数を表し、例えば、約5から約1,000(中間の数字は、6、7、8、9、10、11、12、最大1,000などの2つの数の間のすべての数を含む)、約10から約500、または約20から約200であり、ポリチオフェン重合体の数平均分子量(M)は、約1,000から約200,000、約2,000から約10,000、または約5,000から約50,000であり、ポリチオフェン重合体の重量平均分子量(M)は、約1,500から約300,000、約3,000から約150,000、または約10,000から約100,000である。MとMとは、ともにポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定される。
【0019】
例えば、アルキルは、約1から約35個の炭素原子を有する置換基を含む。これらの置換基は、例えば、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシルまたはオクタデシルである。例えば、アリールの例は、約6から約42個の炭素原子を有する基である。これらの基は、例えば、フェニル、ナフチル、メチルフェニル(トリル)、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、トリデシルフェニル、テトラデシルフェニル、ペンタデシルフェニル、ヘキサデシルフェニル、ヘプタデシルフェニルおよびオクタデシルフェニルである。
【0020】
Mの例は、以下の代わりの構造式、
【化3】


によって表される。これらの構造式は、例えば、アルキルまたはアリールの炭化水素基、ニトロ、シアノなどのヘテロ原子含有基、例えば、チエニル、フラニル、ピリジニル、オキサゾイル、ピロリル、トリアジニル、イミダゾイル、ピリミジニル、ピラジニル、オキサジアゾイル、ピラゾイル、トリアゾイル、チアゾイル、チアジアゾイル、キノリニル、キナゾリニル、ナフチリジニル、カルバゾイルなどのヘテロアリール、および5−メチル−2−チエニル、3−メチル−2−チエニル、5−クロロ−2−チエニル、3−クロロ−2−チエニル、5−フルオロ−2−チエニル、3−フルオロ−2−チエニル、5−メチル−2−フラニル、3−メチル−2−フラニル、5−クロロ−2−フラニル、3−クロロ−2−フラニル、5−メチル−2−ピリジニル、5−クロロ−2−ピリジニル、N−メチル−5−フルオロ−ピロリル、6−メチル−3−カルバゾイル、6−クロロ−3−カルバゾイル、6−フルオロ−3−カルバゾイルなどの置換誘導体、それらの混合物、および類似物、またはフルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードのハロゲンの一つ以上でさらに置換されていてもよく、または置換されていなくてもよい。R′′は、水素、アルキルおよびアリールなどの適当な炭化水素、またはヘテロ原子含有基である。
【0021】
酸素または窒素をβ−位またはγ−位に含むポリチオフェンの例は、例えば、構造式、
【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


のポリチオフェンを含む。式中、各R′′′またはR′′′′は、例えば、約1から約35個の炭素原子を有するアルキル基または置換アルキル基を表す。これらのアルキル基または置換アルキル基は、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコサニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシペンチル、メトキシオクチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロヘプチル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシル、ペルフルオロウンデシルまたはペルフルオロドデシルである。nは、重合体の繰り返し単位の数を表し、例えば、2から約5,000、約5から約2,500、より詳しくは、約5から約1,000、約5から約800または約5から約200であるとよい。ポリチオフェン重合体の数平均分子量(M)は、例えば、約500から約400,000であるとよく、約1,000から約150,000を含み、ポリチオフェン重合体の重量平均分子量(M)は、約600から約500,000であるとよく、約1,500から約200,000を含む。どちらもポリスチレン標準を用いるゲル浸透クロマトグラフィーで測定される。
【0022】
本明細書に例示される式のポリチオフェン重合体は、以下の反応経路1
【化11】


を参照して例示されるプロセスなど、複数の適当な方法によって調製することができる。より詳しくは、まず、3−チオフェンメタノール(シグマ−アルドリッチから入手可能)を無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で水素化ナトリウム(NaH)と反応させ、ナトリウム3−チオフェンメタノラートを中間体として形成させ、次に、1−ブロモブタン(CBr)を加えて求核置換により3−ブトキシメチルチオフェンを形成させる。その結果得られた3−ブトキシメチルチオフェンを1モル当量のN−ブロモスクシンイミド(NBS)を用いて臭素化して2−ブロモ−3−ブトキシメチルチオフェンを発生させる。2−ブロモ−3−ブトキシメチルチオフェンの重合は、最初に、i)リチウムジイソプロピルアミド(LDA)およびii)マグネシウムブロミドエーテラート(MgBr・EtO)を用いることによって3−ブトキシメチル−2−チエニルマグネシウムブロミドを形成させること、次に、触媒量のビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンジクロロニッケル(II)(Ni(dppp)Cl)の存在下のカップリング反応によってポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)を形成させることによって実行される。ポリ(3−プロピルオキシエチルチオフェン)(2a)は、3−チオフェンエタノール(シグマ−アルドリッチから入手可能)と1−ブロモプロパン(CBr)から出発して同様に合成することができる。
【0023】
実施態様において、ポリチオフェン類は、参照によって本明細書に開示全体が組み込まれるR.D.マッカラフ(R.D.McCullough)らのジャーナルオブジアメリカンケミカルソサイエティー(J.Am.Chem.Soc.)1993年、119巻、11608〜11609頁に例示されるプロセス概念と同様にして調製してもよい。
【0024】
構造式(I)の高分子半導体は、普通の塗布用溶媒に可溶性または実質的に可溶性であり、例えば、実施態様において、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよび類似物のような溶媒中に、少なくとも約0.1重量パーセント、より詳しくは約0.5重量パーセントから、約10重量パーセントまたは約95重量パーセントの溶解度を有する。さらに、本明細書に例示される式のp−型半導体は、通常の4端子電気伝導率測定によって測定して、例えば約10−9S/cmから約10−4S/cm、より詳しくは、約10−8S/cmから約10−5S/cmの安定な電気伝導率を提供する。
【0025】
開示した式のポリチオフェン半導体は、例えば厚さが約10ナノメートルから約500ナノメートル、または約50から約300ナノメートルの薄膜など、溶液から作製されるとき、材料は、周囲条件において立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)から作製される同様なデバイスより安定である考えられている。保護されていないとき、本明細書に例示される式の前述のp−型半導体およびそれらのデバイスは、一般に、大気中の酸素への曝露の後、立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)のように数時間ではなく、数日、数週間安定であり、従って、本明細書に例示される式の半導体から作製されるデバイスは、より大きな電流オン/オフ比を提供することができ、それらの性能特性は、材料調製、デバイス作製および評価時に大気中の酸素を除外するために厳密な手順上の予防措置を施さなくても立体規則性ポリ(3−アルキルチオフェン)ほど著しく急速に変化しない。
【0026】
本開示のまた別の態様においては、基板と、ゲート電極と、ゲート誘電体層と、ソース電極およびドレイン電極と、ソース/ドレイン電極およびゲート誘電体層に接触する、構造式(1)の重合体で構成される半導体層と、で構成される薄膜トランジスタが提供される。本開示のまた別の態様においては、半導体構成部品を含む電子デバイスであって、デバイスは薄膜トランジスタであり、構成部品は本明細書に例示される構造式の少なくとも一つからなる群から選択される電子デバイスが提供される。本開示のまた別の態様においては、基板はガラスシート、ポリエステル、ポリカーボネートまたはポリイミドのプラスチックシート、またはアルミニウムシートなどの金属シートであり、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極は、それぞれ独立に、金、銀、ニッケル、アルミニウム、銅、白金、インジウム酸化チタンまたは導電性高分子で構成され、ゲート誘電体は窒化シリコンまたは酸化シリコンで構成された誘電体層であるTFTデバイスが提供される。本開示のまた別の態様においては、基板はガラスシート、プラスチックシートまたは金属シートであり、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極は、それぞれ金で構成され、ゲート誘電体層は有機高分子ポリ(メタクリラート)またはポリ(ビニルフェノール)で構成されたTFTが提供される。本開示のまた別の態様においては、半導体層は、スピンコーティング法、刻印印刷法、スクリーン印刷法またはインクジェット印刷法といった溶液プロセスによって形成されたデバイスが提供される。本開示のまた別の態様においては、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極、ゲート誘電体および半導体層は、スピンコーティング法、溶液キャスト法、刻印印刷法、スクリーン印刷法またはインクジェット印刷法といった溶液プロセスによって形成されたデバイスが提供される。本開示のまた別の態様においては、基板は、ポリエステル、ポリカーボネートまたはポリイミドのプラスチックシートであり、ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極は有機導電性高分子ポリスチレンスルホン酸塩でドーピングされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)から、または高分子バインダ中の銀のコロイド分散液の導電性インク/ペースト組成物から作製され、ゲート誘電体層は、有機高分子、または無機酸化物粒子−高分子複合体であるTFTデバイスとその薄膜トランジスタが提供される。
【0027】
図1において、基板16、基板16と接触する金属接点18(ゲート電極)、および絶縁誘電体層14の層で構成されるTFT構成10の概略が例示される。ゲート電極の一部またはゲート全体が誘電体層14と接触し、層14の上には二つの金属接点20および22(ソースおよびドレイン電極)が蒸着される。金属接点20および22の上の金属接点20と22との間に、Rはブチル(−C)であり、nは148である構造式(I)の安定化されたポリチオフェン半導体、ポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)で構成される層12が配置される。ゲート電極は、基板の中、誘電体層の中および類似物の中に含まれていてよい。
【0028】
図2には、基板36、ゲート電極38、ソース電極40、ドレイン電極42、絶縁誘電体層34およびRはブチル(−C)であり、nは148である構造式(I)のポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)の半導体層32で構成される別のTFT構成30の概略が例示される。
【0029】
図3には、ゲート電極として作用することができる高濃度にn型ドーピングされたシリコンウエハ56、熱成長酸化シリコン誘電体層54、ソース電極60とドレイン電極62とが上に蒸着されたポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)の半導体層52、およびゲート電極接点64で構成されるさらに別のTFT構成50の概略が例示される。
【0030】
図4には、基板76、ゲート電極78、ソース電極80、ドレイン電極82で構成されるTFT構成70の概略が例示される。本明細書に例示される式のp−型半導体、より詳しくは、半導体層72は、nが148であるポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)および絶縁誘電体層74で構成される。
【0031】
開示されていない他のデバイス、特にTFTデバイスも包含される。例えば、既知のTFTデバイスを参照すること。
【0032】
本開示のいくつかの実施態様では、図1、2、3および4のトランジスタ構成のそれぞれの上に任意選択の保護層が組み込まれてもよい。図4のTFT構成の場合、絶縁誘電体層74は、保護層として働いてもよい。
【0033】
実施態様において、本開示および図面をさらに参照して、基板層は、一般に、意図された用途によって、さまざまな形の適切なシリコンを含むシリコン材料、ガラス板、プラスチック膜またはシート、金属シートおよび類似物であってよい。構造的に可撓性のデバイスの場合、例えば、ポリエステルシート、ポリカーボネートシート、ポリイミドシートなどのプラスチック基板、またはアルミニウムシートなどの金属シートおよび類似物を選択するとよい。基板の厚さは、例えば、約10マイクロメートルから10ミリメートルを超える範囲、特に可撓性のプラスチック基板の場合、特定の厚さは約50から約100マイクロメートル、ガラスまたはシリコンなどの剛直な基板の場合、約1から約10ミリメートルあるとよい。
【0034】
ゲート電極をソース電極およびドレイン電極から分離することができ、半導体層と接触する絶縁誘電体層は、一般に、無機材料膜、有機高分子膜、または有機−無機複合膜であってよい。誘電体層の厚さは、例えば、約10ナノメートルから約5マイクロメートルであり、より具体的な厚さは、約100ナノメートルから約1,000ナノメートルである。誘電体層として適当な無機材料を説明するための例は、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸バリウムおよび類似物を含む。誘電体層用の有機高分子を説明するための例は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリ(メタクリラート)、ポリ(アクリラート)、エポキシ樹脂および類似物を含む。無機−有機複合材料を説明するための例は、ポリエステル、ポリイミド、エポキシ樹脂および類似物などの重合体中に分散したナノサイズの金属酸化物粒子を含む。絶縁誘電体層の厚さは、一般に、用いられる誘電体材料の誘電率によって、約50ナノメートルから約500ナノメートルである。より詳しくは、誘電体材料は、例えば、少なくとも約3の誘電定数を有し、従って、これに合せて誘電体の厚さを約300ナノメートルにすると、例えば、約10−9から約10−7F/cmといった望ましい静電容量を得ることができる。
【0035】
本明細書に例示される式のp−型半導体で構成される活性半導体層は、例えば、誘電体層とソース/ドレイン電極との間に配置され、誘電体層およびソース/ドレイン電極と接触する。この層の厚さは、一般に、例えば、約10ナノメートルから約1マイクロメートル、または約40から約100ナノメートルである。一般に、本開示のp−型半導体溶液のスピンコーティング法、キャスト法、スクリーン印刷法、刻印印刷法またはインクジェット印刷法などの溶液プロセスによってこの層を作製するとよい。
【0036】
ゲート電極は、金属薄膜、導電性高分子膜、導電性インクまたはペーストから作られた導電膜または基板(例えば高濃度にドーピングされたシリコン)自体であってよい。ゲート電極材料の例は、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、クロム、酸化インジウムスズ、ポリスチレンスルホン酸塩でドーピングされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS/PEDOT)などの導電性高分子、カーボンブラック/黒鉛またはアチソンコロイド社(Acheson Colloids Company)から入手可能なエレクトロダグ(登録商標)(ELECTRODAG(登録商標))などの高分子バインダ中に含まれるコロイド銀分散で構成される導電性インク/ペースト、およびノエレインダストリーズ(Noelle Industries)から入手可能な銀充填導電性熱可塑性インクおよび類似物を含むがそれらに限定されない。ゲート層は、真空蒸着、金属または導電性金属酸化物のスパッタリング法、スピンコーティング法、キャスト法または印刷法による導電性重合体溶液または導電性インクまたは分散液からの塗布によって調製することができる。ゲート電極層の厚さは、例えば、約10ナノメートルから約10マイクロメートルであり、具体的な厚さは、例えば、金属膜の場合、約10から約200ナノメートルであり、重合体導電体の場合、約1から約10マイクロメートルである。
【0037】
ソース電極層およびドレイン電極層は、半導体層への低抵抗オーム接触を提供する材料から作製するとよい。ソース電極およびドレイン電極として用いるのに適する典型的な材料は、金、銀、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性高分子および導電性インクなどのゲート電極材料を含む。この層の典型的な厚さは、例えば、約40ナノメートルから約1マイクロメートル、より詳しくは、約100から約400ナノメートルである。TFTデバイスは、幅Wおよび長さLを有する半導体チャネルを含む。例えば、半導体チャネル幅は、約10マイクロメートルから約5ミリメートルであり、具体的なチャネル幅は約100マイクロメートルから約1ミリメートルであるとよい。例えば、半導体チャネル長さは、約1マイクロメートルから約1ミリメートルであり、より具体的なチャネル長さは約5マイクロメートルから約100マイクロメートルであるとよい。
【0038】
ソース電極を接地させ、一般に、例えば、約0ボルトから約−80ボルトのバイアス電圧をドレイン電極に印加し、一般に、例えば、約+10ボルトから約−80ボルトの電圧をゲート電極に印加して、半導体チャネル上を輸送される電荷キャリアを集める。
【0039】
構造式(I)、
【化12】



式中、XはOまたはNR′の一つであり、mはメチレンの数を表し、Mは共役部分であり、RおよびR′は水素、適当な炭化水素および適当なヘテロ原子含有基の少なくとも一つからなる群から選択され、aはチオフェン単位の数を表し、bは共役部分の数を表し、nは重合体の繰り返し単位の数を表す、
の半導体を含む電子デバイスが開示される。支持基板と、ゲート電極と、ゲート誘電体層と、ソース電極と、ドレイン電極と、ソース/ドレイン電極およびゲート誘電体層に接触する、構造式(I)、
【化13】



式中、XはOまたはNR′であり、mはメチレンの数を表し、Mは共役部分であり、RおよびR′は水素、適当な炭化水素および適当なヘテロ原子含有基またはそれらの混合物であり、aはチオフェン単位の数を表し、bは共役部分の数を表し、nは重合体繰り返し単位の数を表す、
ポリチオフェン高分子から選択されるポリチオフェン高分子で構成される半導体層と、で構成される薄膜トランジスタが開示される。
【0040】
実施態様においては、本明細書に特に挙げなかった本開示のTFTデバイスのさまざまな構成部品のための複数の既知の材料も選択してよい。
【実施例】
【0041】
実施例1.
ポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)の合成:
1)3−ブトキシメチルチオフェン:
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(15ミリリットル)中の水素化ナトリウム(NaH)(油中60パーセント分散体2.63グラム、66mmol)の懸濁液を撹拌し、DMF(15ミリリットル)中の3−チオフェンメタノール(5.105グラム、43.8mmol)の溶液を滴下して加えた。水素の放出が止む(約0.5時間)まで反応混合物を撹拌した。その結果得られた懸濁液に、DMF(15ミリリットル)中の1−ブロモブタン(10.3グラム、75mmol)を滴下して加えた後、室温で4時間撹拌した。反応混合物を水(200ミリリットル)中に投入し、エーテル/ヘキサン(体積/体積で100ミリリットル/100ミリリットル)で抽出し、ブラインで洗浄した。その結果得られた有機層を硫酸マグネシウム(MgSO)上で乾燥させ、ろ過した。DMF溶媒を除去した後、淡黄色の液体が得られた。この液体を最初にヘキサン(約400ミリリットルでミネラルオイルを除く)、次にヘキサン/CHCl(ジクロロメタン)(体積/体積=1/1、1,200ミリリットル)を用いてシリカゲル上でカラムクロマトグラフィーに付した。溶媒を蒸発させた後、無色の液体が得られた。
収量 6.17グラム(81パーセント)
H NMR(CDCl中):7.29(dd、J=4.9Hz、J=3.0Hz、1H)、7.20(m、1H)、7.07(dd、J=4.9Hz、J=1.3Hz、1H)、4.50(s、2H)、3.46(t、J=6.6Hz、2H)、1.60(m、2H)、1.40(m、2H)、0.91(t、J=7.3Hz、3H)ppm
【0042】
2)2−ブロモ−3−ブトキシメチルチオフェン:
3−ブトキシメチルチオフェン(6.17グラム、36.24mmol)を100ミリリットルのCHCl中に溶解させた後、100ミリリットルの酢酸(AcOH)を加えた。その結果得られた混合物に、次に、N−ブロモスクシンイミド(NBS)(6.45グラム、36.24mmol)を撹拌しながら何回かに分けて加えた。その結果得られた混合物を、次に、室温、約23℃から約27℃で24時間撹拌した。H NMRによって反応完了を判定した。次に、蒸発によって溶媒を除去した。残る残渣をヘキサンに溶解させ、可溶分をシリカゲルの短いカラム(10センチメートル×3センチメートル)に通した。溶媒を除去した後、その結果得られた無色の液体を、ヘキサン/CHCl(体積/体積で3/2)を用いるカラムクロマトグラフィー、次に、減圧蒸留によって精製した。
収量:6.75グラム(74.8パーセント)
H NMR(CDCl中):7.24(d、J=5.6Hz、1H)、6.98(d、J=5.6Hz、1H)、4.44(s、2H)、3.46(t、J=6.5Hz、2H)、1.59(m、2H)、1.40(m、2H)、0.91(t、J=7.3Hz、3H)ppm
【0043】
3)ポリ(3−ブトキシメチルチオフェン):
よく乾燥した3ツ口フラスコに2−ブロモ−3−ブトキシメチルチオフェン(2.2425グラム、9mmol)および乾燥テトラヒドロフラン(THF)(60ミリリットル)を加え、この混合物を−78℃に冷却した。次に、上記混合物に、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)(THF/ヘプタン/エチルベンゼン中1.8M、5ミリリットル、シグマ−アルドリッチ)を滴下して加えた後、45分間撹拌した(溶液の色は、淡黄色から赤色に変化した)。次に、マグネシウムブロミドエーテラート(MgBr・EtO)(2.324グラム、9mmol)を溶液に加えた。4時間後、24.4ミリグラム(0.045mmol)のビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンジクロロニッケル(II)(Ni(dppp)Cl)を加え、その結果得られた混合物を暖めて室温に戻した。2時間後、24.4ミリグラム(0.045mmol)の追加のビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンジクロロニッケル(II)を加え、その結果得られた混合物を室温で24時間撹拌した。得られた溶液を、次に、メタノール(200ミリリットル)に滴下して加え、赤色の沈殿物を得た。次に、メタノール(24時間)、ヘプタン(24時間)を用いるソックスレー抽出によってこの固体を精製した後、得られた固体をクロロベンゼンに溶解させた。溶媒を除去した後、結果として得られた濃縮溶液をメタノール(200ミリリットル)に滴下して加え、沈殿物をろ過した。真空中で乾燥して、ポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)の赤色固体を得た。
収量:1.01グラム(67パーセント)
H NMR(CDCl中):7.24(s、1H)、4.59(s、2H)、3.58(m、2H)、1.67(m、2H)、1.44(m、2H)、0.96(m、3H)ppm
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー):M/M=38,021/24,880=1.54(ポリスチレン標準、溶出液テトラヒドロフラン)
DSC(示差走査熱量測定)によって測定された融点:160℃および225℃
紫外可視:λmax=449ナノメートル(クロロベンゼン溶液)、482ナノメートル(薄膜)
【0044】
デバイス作製および評価:
例えば、図3に概略が例示される上部接触薄膜トランジスタ構成が選択された。試験装置は、上に約110ナノメートルの厚さの熱成長酸化シリコン層を有するn型ドープシリコンウエハで構成されていた。ウエハはゲート電極として働き、酸化シリコン層はゲート誘電体として働いた。酸化シリコン層は、キャパシタメーターで測定して約30nF/cm(ナノファラッド/平方センチメートル)の静電容量を有していた。シリコンウエハをまずイソプロパノール、およびアルゴンプラズマで洗浄した後、空気乾燥した。次に、清浄な基板を、トルエン中のオクチルトリクロロシラン(OTS8)の0.1M溶液中に60℃で20分間浸漬した。続いて、ウエハをトルエン、イソプロパノールで洗浄し、空気乾燥した。0.3重量パーセントの濃度でジクロロベンゼン中に溶解したポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)を用いて半導体層を析出させた。溶液を、まず1マイクロメートルのシリンジフィルタに通してろ過し、次に、OTS8処理済みのシリコン基板上に1,000rpmで120秒間スピンコートし、その結果約20から約50ナノメートルの厚さを有する薄膜を得た。真空オーブン中、80℃で5から10時間乾燥した後、シャドーマスク越しの真空蒸着によって半導体層の上に厚さがそれぞれ約50ナノメートルのさまざまなチャネル長さおよび幅を有する金のソース電極およびドレイン電極を析出させ、こうして、さまざまな寸法の一連のトランジスタを作り出した。
【0045】
キースリー(Keithley)4200 SCS半導体キャラクタリゼーションシステムを用いて、周囲条件において、暗箱(すなわち環境光を遮断する密閉箱)内で電界効果トランジスタ性能の評価を行った。飽和領域(ゲート電圧V<ソース−ドレイン電圧(VSD))におけるデータから、式(1)、
[数1]
(1): ISD=Cμ(W/2D)(V−V
によってキャリア移動度μを計算した。式中、ISDは、飽和領域におけるドレイン電流であり、WおよびLは、それぞれ、半導体チャネル幅および長さであり、Cは、ゲート誘電体層の単位面積当たりの静電容量であり、VおよびVは、それぞれ、ゲート電圧およびしきい値電圧である。飽和領域におけるISDの平方根とデバイスのVとの関係から、測定データをISD=0に外挿することによって、デバイスのVを求めた。
【0046】
電界効果トランジスタの別の特性は、その電流オン/オフ比である。これは、空乏領域におけるソース−ドレイン電流に対する蓄積領域における飽和ソース−ドレイン電流の比である。
【0047】
デバイスの移動特性および出力特性によって、ポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)はp−型半導体であることが明らかであった。W=5,000μm、L=90μmの寸法を有するトランジスタを用いて、少なくとも5個のトランジスタから、以下の平均物性値を得た:
移動度:10−3cm/V・秒
電流オン/オフ:10
【0048】
上記のプロセスを同じ条件下で繰り返すことによって、市販の立体規則性ポリ(3-ヘキシルチオフェン)(シグマ−アルドリッチ)を半導体層として用いるTFTを作製した。その結果、以下のようにデバイス性能値を得た。
移動度:10−4cm/V・秒
電流オン/オフ:2
【0049】
上記のTFTの結果は、ポリ(3−ブトキシメチルチオフェン)(1a)の周囲酸素に対する空気安定性が、立体規則性ポリ(3−ヘキシルチオフェン)と比較すると向上したことを示している。
【0050】
[付記]
(1)構造式(I)の前記nは5から約500の数を表し、前記mは1であり、前記aは1から約5であり、前記bは0から約7であり、前記Xは、酸素原子(O)である、請求項1に記載のデバイス。
(2)構造式(I)の前記適当な炭化水素は、1から約25個の炭素原子を有するアルキルである、請求項1に記載のデバイス。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本開示の実施形態における薄膜トランジスタの構造の一例を示す図である。
【図2】本開示の実施形態における薄膜トランジスタの構造の他の例を示す図である。
【図3】本開示の実施形態における薄膜トランジスタの構造の他の例を示す図である。
【図4】本開示の実施形態における薄膜トランジスタの構造の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10 TFT構成、14 誘電体層、16 基板、18,20,22 金属接点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)、
【化1】


式中、Xは、OまたはNR′の一つであり、mは、メチレンの数を表し、Mは、共役部分であり、RおよびR′は、水素、適当な炭化水素および適当なヘテロ原子含有基の少なくとも一つからなる群から選ばれ、aは、3置換チオフェン単位の数を表し、bは、共役部分の数を表し、nは、高分子の繰り返し単位の数を表す、
の半導体を含む電子デバイス。
【請求項2】
基板と、ゲート電極と、ゲート誘電体層と、ソース電極およびドレイン電極と、前記ソース/ドレイン電極および前記ゲート誘電体層に接触し、
【化2】


式中、Xは、OまたはNR′であり、mは、メチレンの数を表し、Mは、共役部分であり、RおよびR′は、水素、適当な炭化水素および適当なヘテロ原子含有基の少なくとも一つであり、aは、3−位置換チオフェン単位の数を表し、bは、共役部分の数を表し、nは、高分子繰り返し単位の数を表す、
から選択される高分子で構成される半導体層と、で構成される薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記nは2から約500の数を表し、前記mは1であり、前記aは1から約5であり、前記bは0から約7であり、前記Xは酸素原子である、請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記共役部分Mは、以下の構造式、
【化3】


式中、R′′は、水素、アルキル、アリールおよびヘテロアリールの少なくとも一つである、
の一つから選択される、請求項2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記半導体高分子は、
【化4】


【化5】


【化6】


【化7】


【化8】


【化9】


および
【化10】


式中、R′′′およびR′′′′は、それぞれ独立に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコサニル、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル、ヒドロキシヘキシル、ヒドロキシヘプチル、ヒドロキシオクチル、ヒドロキシノニル、ヒドロキシデシル、ヒドロキシウンデシル、ヒドロキシドデシル、メトキシエチル、メトキシプロピル、メトキシブチル、メトキシペンチル、メトキシオクチル、トリフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチル、ペルフルオロペンチル、ペルフルオロヘキシル、ペルフルオロヘプチル、ペルフルオロオクチル、ペルフルオロノニル、ペルフルオロデシル、ペルフルオロウンデシルまたはペルフルオロドデシルのアルキルまたは置換アルキルを表し、nは、2から約5,000の数である、
からなる群から選択される、請求項2に記載の薄膜トランジスタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−153667(P2008−153667A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321630(P2007−321630)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】