説明

マイクロプレートデバイスおよびその利用方法

【課題】マイクロプレートデバイスの使用可能性・操作性を広げること。
【解決手段】本発明では、窪みが設けられたマイクロプレートデバイスであって、窪みの周方向に沿ってみた場合、窪みを形成する側壁面につき、その少なくとも一部の側壁部分が他の側壁部分と異なる傾斜角度を成していることを特徴とするマイクロプレートデバイスが提供される。本発明のマイクロプレートデバイスでは、各窪みの側壁面の傾斜角度が窪みの周方向において一定していないので、デバイスを傾ける方向によって“窪み収容物の排出”や“窪みにおける通過物の流れ・移動”などを制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロプレートデバイスに関する。より詳細には、本発明は、ケミカルチップ、マイクロアレイやウェルプレートなどの「プレート状部材に複数の窪みが形成されて成るデバイス」に関する。また、本発明は、かかるマイクロプレートデバイスの利用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野では、物質もしくは細胞の分離、固定化、分析、抽出、精製または反応などを行う各種処理に適した「チップ、セル、プレート等の微細構造を有する平板状部材あるいはこれらを積層した部材」が種々提案されている(以下、このような部材を「マイクロプレートデバイス」と称する)。例示すれば、マイクロプレートデバイスとしては、ウェルプレート、マイクロタイタープレート等の他、マイクロ化学チップ、バイオチップ、DNA(deoxyribonucleic acid)チップ等と称されるデバイスが一般に使用されている。
【0003】
このようなマイクロプレートデバイスにおいては、穴(ウェル)、部屋(チャンバー)および/または流路(チャネル)等の「窪み」が通常設けられており、使用時に際して試料、担体および/または処理に必要な物質等が「窪み」に収容されたり、あるいは「窪み」を移動・通過したりする。かかる「窪み」の構造は平面的に設計されており、側壁面についていえば“対称的な形状・配置”となっており、また、側壁面が実質的に“垂直”に設けられているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】住友ベークライト株式会社の製品情報(製品名:培養用マルチプレート)[online]、[平成21年11月30日検索]、インターネット〈URL:http://www.sumibe.co.jp/sumilon/plate.html〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような「窪み」の構造につき、本願発明者らが鋭意検討した結果、それがデバイス使用時にて必ずしも満足のいく効果を奏するとは限らないことを見出した。つまり、「窪み」(特に窪みの側壁面)が“対称的な形状・配置”/“垂直面”であるが故に、使用形態や使用条件などの点で制限されたり、デバイス製造の点で少なからず制約を受けたりする。例えば、複数のウェルに比重の高いビーズを収容したマイクロプレートデバイスを使用するに際しては、デバイスを傾けて特定のウェルに収容されたビーズだけを取り出したい場合があるが、“対称的な形状・配置”/“垂直面”ではそれが困難である。また、デバイスを傾けた際にビーズが飛び出すことがないように側壁面をできる限り“垂直”にしたい場合もあるが、デバイス成形時の“金型の抜き勾配”を考慮すると、“対称な側壁面”では対応が難しいと考えられる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて為されたものである。つまり、本発明の課題は、窪みの“対称的な形状・配置”/“垂直面”による制限や問題点を軽減することにより、マイクロプレートデバイスの使用可能性・操作性を広げることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、複数の窪み(凹部)が設けられたマイクロプレートデバイスであって、複数の窪みの各々において又はその複数の少なくとも一部の窪みの側壁面につき、窪みの周方向に沿ってみると、少なくとも一部の側壁部分が他の側壁部分と異なる傾斜角度を成していることを特徴とするマイクロプレートデバイスを提供する。
【0008】
本発明の特徴の1つは、窪みの側壁面が全て同じ傾斜角を成すように形成されておらず、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて側壁面の傾きが異なっていることである。つまり、本発明のマイクロプレートデバイスでは、窪みをその周方向に沿って見た場合、傾斜角が比較的大きい側壁部分が存在する一方、傾斜角が比較的小さい側壁部分も存在している。換言すれば、「窪みを形成する側壁面が、その窪みの周方向に沿ってみると、全て同じ傾斜角度を成していない」ともいえる。更にいうならば、本発明では、窪みの底面エッジと開口面エッジとを結んだ線(より具体的には垂直面・鉛直面に沿うように底面エッジと開口面エッジとを結んだ線)が成す角度、例えば、かかる線が水平面と成す角度が、窪みの周方向に沿った或るポイントaと別のポイントbとでは異なる。
【0009】
本明細書において「マイクロプレートデバイス」とは、一般にメディカルサイエンス分野やバイオ分野において分離、固定化、分析、抽出、精製、反応または混合などの各種処理を行う際に用いられる「複数の“窪み”を備えたデバイス」を意味している。従って、“窪み”とは、デバイスの種類によっては、“ ウェル(穴)”、“チャネル(流路)”または“チャンバー(部屋)”などと称すことができるものである。
【0010】
好ましくは、マイクロプレートデバイスは“プレート”ゆえに、100μm〜50mm程度の厚さを有している。かかるマイクロプレートデバイスを例示すると、ウェルプレート、マイクロタイタープレートの他、マイクロ化学チップ、バイオチップ、DNAチップなどのマイクロアレイ、マイクロアレイプレートまたはマイクロアレイチップなどを挙げることができる。例えばマイクロプレートデバイスがウェルプレートなどの場合では、“窪み”は“ウェル”と称されるものに相当することが多い一方、マイクロプレートデバイスがマイクロ化学チップなどの場合では、“窪み”は“チャンネル(溝)”や“流路”などと称されるものに相当することが多い。ここで、「マイクロプレートデバイス」における「マイクロ」とは、窪みの寸法(例えば“ウェル開口面の径”または“チャンネルの幅もしくは深さ”など)がミクロンメートル〜ミリメートルのオーダー(1μm〜10mm程度)であることを実質的に意味しているか、あるいは、「窪みが設けられたマイクロプレートデバイス」自体がミリメートルのオーダー(1〜300mm程度)であることを実質的に意味している。
【0011】
ある好適な態様では、窪みの開口面に対する側壁面の傾斜角度が0°(0°を含まず)〜90°の範囲にあって、その傾斜角度の最大値と最小値との差が5°〜85°となっている。1つ例示すると、窪みの周方向に沿った場合、『最も急な側壁部分』における傾斜角度が90°となっている一方、『最も緩やかな側壁部分』における傾斜角度が5°〜85°となっている。
【0012】
別のある好適な態様では、マイクロプレートデバイスに設けられた複数の窪みについて、傾斜角度の最も緩い部分が全て実質的に同じ方向を向いている(つまり、デバイスを外側から全体的に見た場合に複数の窪みの“緩い傾きの側壁部分”が全て同じ側面側に設けられている)。同様に、別のある好適な態様では、マイクロプレートデバイスに設けられた複数の窪みについて、傾斜角度の最も急な部分が全て実質的に同じ方向を向いている(つまり、デバイスを外側から全体的に見た場合に複数の窪みの“急な傾きの側壁部分”が全て同じ側面側に設けられている)。
【0013】
更に別のある好適な態様では、マイクロプレートデバイスに複数設けられた窪みのうちの少なくとも或る一部の窪みについて、傾斜角度の最も緩い部分が全て実質的に同じ方向を向いている(つまり、デバイスを外側から全体的に見た場合、その一部の窪みだけが全て同じ側面側にその“緩い傾きの側壁部分”を有している)。同様に、別のある好適な態様では、マイクロプレートデバイスに複数設けられた窪みのうちの少なくとも或る一部の窪みについて、傾斜角度の最も急な部分が全て実質的に同じ方向を向いている(つまり、デバイスを外側から全体的に見た場合、その一部の窪みだけが全て同じ側面側にその“急な傾きの側壁部分”を有している)。
【0014】
本発明のマイクロプレートデバイスの窪みについては別の表現で規定することもできる。つまり、本発明においては、窪みの底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離(より具体的には、同一の垂直面・鉛直面に存在する底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離)が、窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて全て同じになっていないともいえる。このように規定されたマイクロプレートデバイスのある好適な態様としては、開口面の形状が底面の形状よりも大きくなっている(即ち、開口面の面積が底面の面積よりも大きくなっている)。また、別のある好適な態様では、開口面の形状の中心と底面の形状の中心とが非同軸となっている(即ち、開口面の重心と底面の重心とが相互に水平方向にずれている)。
【0015】
本発明では、上述したマイクロプレートデバイスの利用方法も提供される。かかる本発明の利用方法は、上述のマイクロプレートデバイスの窪みに対してマイクロビーズおよび液体を収容し又は流し、その後、(a)マイクロプレートデバイスを傾ける方向・向きによって、(b)マイクロプレートデバイスに供するフローの向きによって又は(c)磁場もしくは電場を与える方向によって、“マイクロビーズおよび液体の窪みからの排出”または“マイクロビーズおよび液体の窪みにおける流れ”を制御することを特徴とする。このような方法を通じて、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、反応または混合などを好適に行うことができる。尚、本発明のマイクロプレートデバイスの利用方法は、好ましくは以下の態様を有している:
・マイクロビーズを液体中に分散させた分散液を用い、マイクロビーズが液体中を沈降する作用を利用する。
・球形状のマイクロビーズを用いる。
・磁性を帯びたマイクロビーズを用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマイクロプレートデバイスでは、各窪みの側壁面の傾斜角度が窪みの周方向において一定していないので、デバイスを傾ける方向によって“窪み収容物の排出”や“窪みにおける通過物の流れ・移動”などを制御することができる。つまり、本発明のマイクロプレートデバイスは、方向によって依存性を有する“異方性”を備えたデバイスといえる。例えば図1(a)に示す態様を例にとると、マイクロプレートデバイス100をA側(傾斜角が比較的大きい側壁側)に傾けた場合ではビーズ60が窪み30から出て行きにくいものの、マイクロプレートデバイス100をB側(傾斜角が比較的小さい側壁側)に傾けた場合では、窪み30からビーズ60を容易に出すことができる。同様に、例えば図1(b)に示す態様を例にとると、マイクロプレートデバイス100をA側(傾斜角が比較的大きい側壁側)に傾けた場合では液体80が窪み30から出て行きにくいものの、マイクロプレートデバイス100をB側(傾斜角が比較的小さい側壁側)に傾けた場合では、窪み30から液体80を容易に排出することができる。
【0017】
つまり、複数の窪みを備えたマイクロプレートデバイスを想定すると、マイクロプレートデバイス全体を特定の方向に傾けた場合にのみ、マイクロビーズおよび/または液体を窪みから排出できたり、窪みにおける流れ状態などを変えることができる。更にいえば、このようなマイクロプレートデバイスでは、“窪み収容物の排出・飛出し”や“窪みにおける通過物の流れ・移動”などの制御に「デバイスの傾き」以外の手法を好適に用いることができる。例えば、“液体や気体などのフロー供給”や“磁場の印加(磁性ビーズを用いる場合)”などの手法を好適に用いることができ、フロー供給方向や磁場印加方向を特定の方向に対して作用させた場合にのみマイクロビーズおよび/または液体を窪みから排出できたり、窪みにおける流れ状態を変えることができる。
【0018】
更にいえば、例えば『マイクロプレートデバイスに複数設けられた窪みのうちの少なくとも或る一部の窪みについてのみ傾斜角度の最も緩い部分または最も急な部分が全て同じ方向を向いている』ような場合では、“デバイスの傾斜向き”、“フローの供給方向”または“磁場の印加方向・向き”などを変えることによって、ある特定の一部の窪みに収容されたマイクロビーズや液体のみを取り出したり、残したりすることができるし、あるいは、かかる特定の一部の窪みにおける流れ状態だけを変えることができる。
【0019】
以上のような本発明の特徴的効果に起因して、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野におけるマイクロプレートデバイスの実際の用途では、ゲートの開閉等の複雑な機構を用いずにマイクロビーズや液体等の移動を制御できるため装置の小型化が可能となる、低コスト化が可能となる、あるいは他の機構と組み合わせて複雑な制御が可能となる等の有利な効果が奏され得る。
【0020】
尚、本発明のマイクロプレートデバイスは、その製造の点でも有利な効果を奏する。具体的には、本発明のマイクロプレートデバイスの窪みは「傾斜角が比較的大きい側壁部」と「傾斜角が比較的小さい側壁部」とを有するので、デバイス成形時の抜き抵抗(金型から成形品を取り出す際の抵抗)を全体的に低減することができる。つまり、本発明では、抜き抵抗が一般に大きいとされる「傾斜角が比較的大きい側壁部分」を有しつつも、「傾斜角が比較的小さい側壁部分」で抜き抵抗を効果的に減じることができるので、全体として抜き抵抗を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の概念を説明するための図である。
【図2】図2は、本発明のマイクロプレートデバイスおよび窪みの態様を模式的に示した斜視図である。
【図3】図3は、本発明のマイクロプレートデバイスおよび窪みの態様を模式的に示した斜視図である。
【図4】図4は、「窪みの側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない態様」を説明するための図面である。
【図5】図5は、“窪み”の代表的な形態を示した斜視図、上面図および補足図である。
【図6】図6は、“傾斜角度”を説明するための図である。
【図7】図7は、“傾斜角度”(特に曲面を成す側壁面の傾斜角度)を説明するための図である。
【図8】図8は、「窪みの底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離が、窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない態様」を説明するための図面である。
【図9】図9は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図10】図10は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図11】図11は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図12】図12は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図13】図13は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図14】図14は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図15】図15は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図16】図16は、“窪み”の形態を例示した斜視図、上面図および補足図である。
【図17】図17は、段差を成す側壁面の形態を例示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
【0023】
《マイクロプレートデバイスの一般的な特徴》
本発明のマイクロプレートデバイス100は、図2および図3に示すように、プレート状部材50に対して複数の窪み30が形成されている。特に本発明では、窪みの各々において、窪みの周方向に沿ってみると(即ち、窪みを取り囲むような仮想的な包囲線上の各ポイントごとに側壁部分を捉えた場合)、窪みを形成する側壁面が全て同じ傾斜角度を成していない。別の観点でいうと、窪みの各々において、窪みの底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離が、窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとはなっていない。
【0024】
本発明のマイクロプレートデバイス100の材質(即ち、プレート状部材50の材質)は、樹脂、ガラス、シリコンまたは金属などであってよい。例えば樹脂について例示すると、特に制限されるわけではないが、シクロオレフィン樹脂(ノルボルネン樹脂)、シクロオレフィン共重合体樹脂、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル樹脂、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトンおよびポアミドイミドから成る群から選択される少なくとも1種以上のポリマー樹脂であってよい。
【0025】
本発明のマイクロプレートデバイス100の寸法は、用途によって種々に変わり得る。例えば図2に示すようなウェルプレートの形態を有するマイクロプレートデバイス100を例にとると、デバイス寸法(L、H、W)は、L=5〜300mm、H=0.2〜50mm、W=10〜300mm程度であり得る。窪み30の幅寸法および深さ寸法は、デバイス中に収まる幅寸法であればよく、通常2列以上ウェルを設けるため0.05μm〜145mm程度であってよい。ただしマイクロビーズを使用する場合には、マイクロビーズの直径寸法Dよりも大きい寸法を有していることが好ましく、それによって、後刻で行う反応に使用する反応液などを各ウェルに適量収容できる。図2に示すようなウェルプレートを例にとると、窪み30の幅寸法wは0.05μm〜20mm程度であって、窪み30の深さ寸法hは0.01μm〜10mm程度であってよい。尚、窪み30の幅寸法および深さ寸法は大きくなれば反応等に必要な液体量が増えるので好ましい場合が多いといえるものの、必要成分の量が反応等に必要十分とされる量を超えてしまうことに起因して不要な液体コストを要することになる。また、マイクロビーズを1個収納する場合には、移動距離が大きくなることに起因して必要成分が反応等が生じる部分に到達できなくなることも起こりうるため、窪み30の形態(例えばその側壁面の形態)にもよるが、窪み30の幅寸法および深さ寸法の上限としては、約10D以下が好ましいといえ、約5D以下が更に好ましい(D:マイクロビーズの平均サイズ)。ちなみに、振動等に付すことによって効率的な攪拌が可能である場合には、必要成分を広範囲に移動させることが可能となるため、更に大きな幅寸法および深さ寸法であってもよい。尚、図3に示すようなマイクロ化学チップやバイオチップの形態を有するマイクロプレートデバイス100の場合では、窪みがチャンネル形態を有し得るが、そのようなチャンネル幅は、0.05μm〜10mm程度であって、チャンネル深さは0.01μm〜10mm程度であってよい。
【0026】
本発明のマイクロプレートデバイス100に設けられている窪み30の個数も、用途に応じて種々に変わり得る。例えば、ウェルプレート、マイクロタイタープレート等、複数の窪み30の多くが“ウェル”に相当するような場合では、窪み(即ち“ウェル”)の個数は、好ましくは4〜1億個、より好ましくは6〜5千万個、更に好ましくは6〜1千万個となり得る(例えばある用途によっては、6〜9600個が好適である。また別のある用途によっては、好ましくは2500〜1億個、1万〜5千万個、更に好ましくは5万〜1千万個となり得る。)。また、マイクロ化学チップやバイオチップ等、複数の窪み30の多くが“チャンネル”に相当するような場合では、そのチャンネル形態の窪みの個数は、好ましくは1〜10万個、より好ましくは1〜1万個、更に好ましくは1〜5千個となり得(例えばある用途においては1〜2千個となり得)、また、マイクロ化学チップやバイオチップ等におけるウェルやチャンバー形態の窪みの個数は、好ましくは0〜10万個、より好ましくは0〜1万個、更に好ましくは0〜5千個となり得る(例えば、ある用途においては0〜2千個となり得る)。尚、ここでいう“0個”は、ケミカルチップなどで入口および出口が設けられたような場合であって、ウェルやチャンバーが設けられていない場合を想定している。
【0027】
好ましくは、本発明のマイクロプレートデバイス100は、使用に際して「複数のマイクロビーズ」および「液体」を含んだ分散体と共に用いられる。具体的には、マイクロプレートデバイスの“窪み設置面”(即ち、窪みが設けられているプレート面)に対して、マイクロビーズと液体とから成る分散液を供すことによって、窪みの各々にマイクロビーズと液体とを共に収容させたり、あるいはマイクロビーズと液体とが窪みを通過するように分散液を流したりする。例えば“収容”に際しては、マイクロビーズおよび液体の自重に起因した沈降作用を利用してよいものの、必要に応じてデバイスを振揺に付したり、あるいは遠心処理に付したりしてもよい。更には、液体や気体のフローを供したり、あるいは、磁性マイクロビーズの場合では磁場を印加したり、もしくは、帯電可能なマイクロビーズの場合では電場を供したりしてもよい。
【0028】
「マイクロビーズ」および「液体」について詳述しておく。「マイクロビーズ」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において常套的に用いられている微粒子のことを実質的に意味している。マイクロビーズとしては、金属微粒子、ポリマー微粒子またはガラス、酸化物磁性体、その他のセラミック等の無機物微粒子などの微粒子だけでなく、細胞、微生物、細菌類、花粉、胞子およびその他の生体関連粒子などの粒状物であってもよい。このようなマイクロビーズは、球状、楕円状、米粒状、針状または板状などの各種形状を有し得る。ここでいう「球状」とは、アスペクト比(種々の方向で測定した場合の最大長さと最小長さとの比)が1.0〜1.2の範囲にある形状を指し、「楕円状」とは、アスペクト比が1.2〜1.5の範囲(但し、1.2を含まない)にある形状を指している。また、「米粒状」とは、その名の通り、“米粒”のような形状を意味している。後述でも触れるが、“窪みへの収容”が促進される観点でいうと、マイクロビーズが液体中で沈む場合には球形状を有していることが好ましい。マイクロビーズの平均サイズDは、例えば、好ましくは0.005μm〜10mm程度、より好ましくは0.01μm〜5mm程度である。ここでいう「サイズ」とは、ビーズのあらゆる方向における長さのうち最大となる長さを実質的に意味している。そして、「平均サイズ」とは、ビーズの透過型電子顕微鏡写真または光学顕微鏡写真に基づいて例えば300個のビーズのサイズを測定し、その数平均として算出したものを実質的に意味している。一方、「液体」は、メディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野においてマイクロビーズと共に常套的に用いられる液体であって、例えば、水、溶剤、バッファー、反応溶液または検体液などである。液体の粘度は、特に制限はなく、液体中の成分を利用するときの条件下にて液体が流動性を有していればよい。マイクロプレートデバイスに供される分散液(即ち、マイクロビーズと液体とから成る分散液)のマイクロビーズの含有量は、特に制限されるわけではないが、0.01〜50体積%程度である。尚、マイクロビーズの絶対量または個数は用途によって変わり得る。例えば“窪み”が1万個のウェルであれば、マイクロビーズの個数も少なくとも1万個であることが好ましく、それに応じた絶対量を有するマイクロビーズが分散液に含まれていればよい。
【0029】
《本発明の特徴》
本発明は、マイクロプレートデバイスにおける窪みの形態、特に、窪み側壁面の形態に着目して為されたものである。具体的には、窪みの周方向に沿ってみた場合、窪みを形成する側壁面につき、その一部の側壁部分が他の側壁部分と異なる傾斜角度を成している。換言すれば、本発明のマイクロプレートデバイスでは、窪み側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。これは、横軸に「窪みの周方向に沿った各ポイント」をとり、縦軸に「窪み側壁面の傾斜角度」をとった場合に得られるグラフが図4のようになることを意味している。換言すれば、本発明のマイクロプレートデバイスは、窪みの側壁面の傾きが“方向により異なる”ともいえる。“方向により異なる”とは、例えば、図4の斜視図に示すように『“H方向”に沿って窪みを外側からみた場合に最も近位の側壁面mの傾き』と『“I方向”に沿って窪みを外側からみた場合に最も近位の側壁面nの傾き』とが異なっていることを実質的に意味している。
【0030】
図5に本発明に係わる“窪み”の代表的な形態を示す(前述の図4の窪み形態と同一である)。図示するように、A側の側壁面の傾斜角度が比較的大きくなっている一方(即ち、A側の側壁部分の傾斜が比較的急になっている一方)、B側の側壁面の傾斜角度が比較的小さくなっている(即ち、B側の側壁部分の傾斜が比較的に緩やかになっている)。例えば、A側の側壁面の傾斜角度が約90°となっている一方、B側の側壁面の傾斜角度が60°となっている。これにつき換言すれば、図5の態様は、円〜楕円形のウェルにおいて、ある方向の側壁面が底面に対してほぼ垂直であって、別の方向の側壁面が約60°に傾いている例であるといえる(更にいうなれば、図5に示す態様では、垂直な側壁面に対向する側壁面の傾斜角が60°になっている態様であるともいえる)。このようなウェル形態を有する窪みでは、マイクロプレートデバイスを傾けた場合に、デバイスの傾きは同じであっても、傾ける方向によってウェル内部のビーズや液体が保持されたり、飛び出したりする効果が奏されることになる(図1参照)。また、図5に示すような態様について言えば、ウェル内部のビーズや液体が保持されるように垂直に近い側壁面を有しながらも、別の側壁面のテーパーによって“成形時の金型の抜き”を助力するといった効果も奏され得る。
【0031】
ここで、本明細書において「傾斜角度」とは、図6に示すように、窪みの開口面に対する角度αのことを意味している。換言すれば、マイクロプレートデバイス(特に底面が平面を成しているデバイス)を水平な面に置いた場合、「側壁面の上側エッジ」と「水平面Z(図6(a)参照)」とが成す角度が「傾斜角度」に相当するともいえる。尚、後述でも触れることになるが、図6(b)に示すように側壁面が曲面を成している場合や図6(c)に示すように側壁面が段差を成している場合では、「傾斜角度」は「平均傾斜角度」に相当する。簡易的には、この「平均傾斜角度」とは、図6(b)および(c)に示すように「側壁面の上側エッジと下側エッジとを相互に結んだ直線」が窪みの開口面または水平面Zと成す角度のことを実質的に意味している。また、特に側壁面が曲面を成している場合では、「平均傾斜角度」を、図7に示すように『“曲面の中間ポイントSを接点とする接線”が窪みの開口面または水平面Zと成す角度』とみなしてもよい(尚、「曲面の中間ポイントS」は窪み深さの半分に位置する曲面ポイントである)。
【0032】
本発明のマイクロプレートデバイスでは、窪みの側壁面の傾斜角度(即ち、上述の角度α)が約5°〜90°の範囲内にあることが好ましい。かかる傾斜角度は、必要に応じて選択してよい。一般的には、側壁面の傾きが大きいほど(即ち、側壁面の傾斜角度αが90°に近くなるほど)、“窪み収容物”の飛び出しにマイクロデバイス全体を大きく傾けたり、強い遠心力を与えたり、液体や気体の強いフローを与える必要があり、飛び出しを抑制する方向に働く。その一方で、側壁面の傾きが小さいほど(即ち、側壁面の傾斜角度αが5°に近くなるほど)、“窪み収容物”を飛び出させるのにマイクロデバイス全体を大きく傾けたり、強い遠心力を与えたり、液体や気体の強いフローを与える必要がなく、即ち、より小さな傾き・遠心力・フローで“窪み収容物”を容易に飛び出させる・排出させることができる。尚、“窪みの収容物”をより安定的に収容したり流したりするなどの観点をも加味すると、窪み側壁面の傾斜角度の更に好ましい下限値は約10°である。
【0033】
本発明のマイクロプレートデバイスの窪みに関しては、上述したように、その側壁面の傾斜角度が比較的小さい部分と比較的大きい部分とが併存するが、それらの傾斜角度の差は5°〜85°であることが好ましい。換言すれば、本発明のマイクロプレートデバイスでは、窪みの開口面に対する側壁面の傾斜角度が0°(0°を含まず)〜90°の範囲にあって、傾斜角度の最大値と最小値との差が5°〜85°であることが好ましい。傾斜角度の最大値と最小値との差が5°未満では、収容物の飛び出し易さや金型の抜き勾配の効果等につき方向による違いがほとんど生じず、本発明の効果があまり期待できない。この点に鑑みると、傾斜角度の最大値と最小値との差はより好ましくは10°〜85°であり、更に好ましくは15°〜85°である。尚、最も急な90°を側壁面に設ける場合を想定すると(即ち、収容物の飛び出しを最も抑制できる側壁面を想定すると)、上述したように窪みの側壁面の傾斜角度の下限値は5°が好ましいので、傾斜角度の最大値と最小値との差の上限値が好ましくは85°となることを理解されたい。
【0034】
本発明の特徴となる“窪み側壁面”(別の表現を用いれば、“側壁面を形成する側壁部分”)につき、傾斜角度は表面側(=開口面側)から底面側まで全て同じでなくてもよく、そのうちの一部分の傾き(例えば上部半分の傾き)が“方向により異なる”ものであってよい。このような態様であっても、流れ出す/保持するビーズまたは液量等の制御が可能である。また、“窪み側壁面”(別の表現を用いれば、“側壁面を形成する側壁部分”)につき、上下方向に沿った傾きが途中で変化してもよく、側壁面自体が曲線であってもかまわない。
【0035】
尚、窪みの開口面および底面につき、その形状には特に制限はない。例えば、開口面および底面の形状(即ち、例えば図5の上面図で表される形状)は、円形、楕円形状、正方形、矩形または多角形状などであってよい。
【0036】
(開口面および底面によって規定される本発明の特徴)
本発明における窪み形態は、“開口面”と“底面”とによって規定することができる。具体的には、窪みの底面のエッジ部と開口面のエッジ部との水平距離が、窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない。これは、横軸に「窪みの周方向に沿った各ポイント」をとり、縦軸に「底面エッジ部と開口面エッジ部との間の水平距離」をとった場合、得られるグラフが図8のようになることを意味している。ここで、「底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離」とは、図8の上面図に示すように、底面の中心Oから放射方向に沿った底面エッジと開口面エッジとの間の水平方向の離隔距離を意味している。このように規定される窪み形態については、開口面の形状が底面の形状よりも大きくなっていることが好ましい。例えば、開口面の面積S1が底面の面積S2よりも好ましくは1.05〜100倍大きくなっており、より好ましくは1.1〜30倍大きくなっている。また、ある好適な態様では、開口面の形状の中心と底面の形状の中心とが非同軸となっている(即ち、開口面の重心と底面の重心とが相互に水平方向にずれている)。尚、この段落でいう「中心」とは、各エッジ部からできる限り等しくなる距離に位置するポイントを実質的に意味している。
【0037】
《窪みの種々の態様》
“窪み”の態様としては、その他に種々の態様が考えられる。以下それについて説明する。
【0038】
(底面および開口部の形状が円)
底面および開口部の形状が円となっている態様を図9に示す。図示する態様では、底面および開口部の形状が共に円形状となっている。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。また、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない。
【0039】
(上面図における底面エッジと開口面エッジとの接点が2つ)
上面図における底面エッジと開口面エッジとの接点が2つとなっている態様を図10に示す。図示するように、上面図においては、底面エッジと開口面エッジとの接点が“r点”および“s点”と2点になっている。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において全て一定していない。また、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない。更に、図10に示す態様では、側壁面Oの部分の傾きは下側半分につき急になっており、側壁面Oの部分における傾斜角度が開口面側から底面側まで全て同じとなっていない。
【0040】
(上面図における底面エッジと開口面エッジとの接点なし)
上面図において底面エッジと開口面エッジとの接点がない態様を図11に示す。図示するように、上面図においては、底面エッジと開口面エッジとの接点が存在していない。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において全て一定していない。また、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない。
【0041】
(底面および開口面の形状が四角形・矩形)
底面および開口面の形状が四角形・矩形となっている態様を図12に示す。図示する態様では、底面の形状が正方形であって開口面の形状が長方形となっている。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。また、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて全て同じとなっていない。また、図12に示す態様は、上述の“上面図における底面エッジと開口面エッジとの接点なし”の態様にも相当する。
【0042】
(底面および開口面の形状が多角形)
底面および開口面の形状が多角形となっている態様を図13に示す。図示する態様では、底面および開口面の形状が共に正六角形となっている。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。また、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない。また、図13に示す態様は、上述の“上面図における底面エッジと開口面エッジとの接点なし”の態様にも相当する。
【0043】
(溝形態・チャンネル形態)
窪みが溝形態ないしはチャンネル形態となっている態様を図14に示す。図示する態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。具体的には、側壁面aの部分が他の側壁面bよりも傾きが緩やかになっている(例えば側壁面bが約90°の傾斜角であるのに対して側壁面aが約60°の傾斜角となっている)。また、このような溝形態ないしはチャンネル形態の窪みであっても、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていない。このような溝形態ないしはチャンネル形態であっても、ウェル形態と同様の効果が奏され得る。
【0044】
(溝形態とウェル形態との組合せ)
溝形態とウェル形態との組合せの態様を図15に示す。図示する態様は、チャンバーにチャネルが繋がった例ともいえる。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。具体的には、側壁面cの部分が他の側壁面dよりも傾きが緩やかになっている(例えば側壁面dが約90°の傾斜角であるのに対して側壁面cが約45°の傾斜角となっている)。また、かかる態様についても、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていないことを理解されたい。このような態様を有するマイクロプレートデバイスを傾けた場合、A側のチャネルにはビーズや液体等の内容物を流しにくいが、B側のチャネルには容易に流すことが可能である。つまり、複数のチャンバーが好適に設けられている場合では、デバイス全体を傾けることよって全てのチャンバーが同じように傾くにもかかわらず、チャンバーごとに異なる流れの制御が可能となる。
【0045】
(階段形状の側壁面)
窪みの側壁面が階段状に“段差”を成している態様を図16に示す。図示する態様では、全方向階段状で形成されているが、方向によって水平方向の段幅が異なり全体として傾きが異なっている。かかる態様であっても、窪み30の側壁面における傾斜角度が窪みの周方向において一定していない。具体的には、側壁面eの部分が他の側壁面fよりも傾きが緩やかになっている(例えば側壁面fが約90°の平均傾斜角であるのに対して側壁面eが約60°の平均傾斜角となっている)。また、かかる態様についても、窪み30の底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離は、窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていないことを理解されたい。尚、側壁面の段差については段差の個数は特に制限されず、例えば図17(a)のように比較的多数のものであってもよいし、あるいは、図17(b)のように比較的少数のものであってもよい。
【0046】
《本発明の利用方法》
次に、本発明の利用方法について説明する。本発明の利用方法は、上述のマイクロプレートデバイスの窪みに対してマイクロビーズおよび液体を収容し又は流し、その後、マイクロプレートデバイスを傾ける方向によって、マイクロビーズおよび液体の“窪みからの排出”または“窪みにおける流れ”を制御する。このような本発明の利用方法を通じて、標的物質の分離、固定化、分析、抽出、反応または混合などを好適に行うことができる。以下、本発明の利用方法に関連してマイクロプレートデバイスの使用態様を例示的に説明する。
【0047】
(マイクロビーズの使用態様)
本発明の窪みにはマイクロビーズなどの粒子を入れて利用することは有効である。なぜなら、窪みの側壁面の傾きが方向によって異なるからであり、マイクロプレートデバイスを全体的に傾ける方向によってマイクロビーズを飛び出させたり保持させたりする制御を行うことができるし、あるいは、窪みに接続された流路等へとビーズを移動させたり保持させたりする制御も可能となる。
【0048】
尚、マイクロプレートデバイスを傾けることに代えて又はそれに加えて、デバイスに供する液体や気体などのフロー方向によっても、マイクロビーズを飛び出させたり保持させたりする制御を行うことができるし、窪みに接続された流路等へとビーズを移動させたり保持させたりする制御も可能となる。更にいえば、マイクロビーズの移動にその他の駆動力を用いてもよい。例えば「磁性を有するビーズ」の場合では“磁場”を用いてもよく、また、「帯電可能なビーズ」を用いる場合には“電場”を用いてもよい。
【0049】
マイクロビーズに対して上述のような駆動力を与える手段を例示すれば以下のものが挙げられる:
・デバイスを支持してそれを傾ける手段;
・フローや圧力を生じる種々のポンプ;
・ガス圧を生じるポンプやガスライン;
・回転に起因した遠心力を供する遠心手段;
・磁場を供する磁石;
・電場を供する電極;および
・方向性のある超音波などを発する振動手段
【0050】
マイクロプレートデバイスに用いられるマイクロビーズはいかなる形状であってもよいものの、その断面が円形に近いものが好ましい。断面が円形に近いと傾きやフローによって転がり易くなり、デバイスの傾きやフローの強さ・速さに対する応答性が高くなる。この点、球形に近いビーズは、いずれの方向にも転がり易いため、より好ましいといえる。
【0051】
(液体の使用態様)
マイクロビーズの場合と同様、本発明の窪みに液体を入れて利用することは有効である。なぜなら、窪みの側壁面の傾きが方向によって異なるからであり、マイクロプレートデバイスを全体的に傾ける方向によって液体を排出させたり保持したりする制御を行うことができるし、あるいは、窪みに接続された流路等に液体を移動させたり保持させたりする制御も可能になる。尚、マイクロプレートデバイスを傾けることに代えて又はそれに加えて、デバイスに供する気体のフロー方向によっても、液体を排出させたり保持したりする制御を行うことができる。
【0052】
(マイクロビーズと液体との組合せの使用態様)
マイクロビーズまたは液体の場合と同様、マイクロビーズと液体とを併用することも有効である。これにより、マイクロビーズをフローにより飛び出させたり移動させたり、ビーズ表面に吸着させた物質の反応溶媒として利用したり、あるいは、各種物質を供給・洗浄したりなど、幅広い実施が可能となる。
【0053】
マイクロビーズと液体との組合せとしては特に制限はないが、液体中にてビーズが速やかに沈降するものが好適に利用される。なぜなら、マイクロビーズが液体中にて窪み底面へと沈み得るので、マイクロデバイスの傾きの大きさや、遠心力の大きさや、あるいは液体のフローの強弱等によって、窪みからビーズを飛び出させる・飛び出させないの制御が容易となるからである。液体中に浮遊するビーズは液体と一緒に動くため、液体の飛び出させる・飛び出させないの制御に連動したビーズの制御は可能であるものの、液体とビーズとを分離させる等の制御が一般に難しくなる。
【0054】
一般に液体の比重は1前後であることから、沈降するビーズとしては比重1.02より大きいものが好適に利用される(ここでいう“比重”は、4℃の水[約1.0g/cm]を基準にした値である)。また、傾きに応じて容易に移動できるビーズとしては、比重2より大きいものが好適に利用される。最も好適には比重3.5より大きいビーズである。尚、比重が大きくなれば慣性も大きくなり、また、ビーズを含んだデバイスとしての全体重量も大きくなることから、ビーズの比重の好ましい上限値は20以下であり、更に好ましい上限値は10以下である。
【0055】
必要に応じてマイクロビーズに検討対象物質や反応に関係する物質等を固定すると、ビーズの移動に伴ってそれら物質のデバイス中における移動が可能となる。かかる態様では、検討対象物質や反応に関係する物質等を固定あるいは吸着することが可能な物質や官能基等をビーズ表面に固定することが好ましい。固定化させる物質・官能基としては、核酸や蛋白質を結合可能なシリカ、金、水酸アパタイトのような無機物や、これらを化学結合可能な官能基、互いに結合可能なアビジンまたはビオチン、特異的に抗原を結合可能な抗体、特異的に抗体を結合可能な抗原等を挙げることができる。
【0056】
(マイクロプレートデバイスを利用した制御の一例)
マイクロプレートデバイスを利用した制御の一例を説明しておく。例えば、『マイクロプレートデバイスに複数設けられた窪みのうちの少なくとも或る一部の窪みJ,J,J・・・についてのみ傾斜角度の最も緩い部分が全て同じ方向(K方向)を向いている場合』を想定する。かかる場合、デバイス全体をそのK方向側が下方に動くように傾けた場合(例えば水平に設けられていたデバイスをK方向側に約5°〜約45°傾けた場合)にのみ、複数の窪みのうちの窪みJ,J,J・・・に収容されたマイクロビーズや液体のみを窪みから排出させることができる。同様にして、例えばデバイスにおいてK方向に向かってフローを供給した場合にのみ、複数の窪みのうち窪みJ,J,J・・・に収容されたマイクロビーズや液体のみをかかる窪みから排出させることができる。このような制御ができると、デバイスに設けられた複数の窪みの個々の窪みごとに異なる処理操作を施すことが可能となる。
【0057】
(マイクロプレートデバイスを用いた各種処理方法)
マイクロプレートデバイスの実際の用途を見据えた各種処理法について説明する。本発明のマイクロプレートデバイスを用いると、標的物質の分離、固定化、分析、抽出または反応などを好適に行うことができる。これらの処理に関する具体的な態様を例示する目的でウェルプレートを用いた標的物質の分析・抽出および精製ならびに分離・検出・スクリーニングを付加的に説明しておく。
標的物質の分析・抽出・精製:「標的物質の分析」では、例えば、標的物質を含むか含む可能性のある検体液または検体液と他の液の混合液(以下検体含有液という)と、標的物質と特異的に結合する抗原、抗体、核酸等を表面に固定したビーズをウェル内にて接触させ、標的物質をビーズ表面に十分結合する条件を与えた後、検体液を除くかあるいは洗い流し、必要に応じて洗浄を繰り返す。標的物質に特異的に結合する別の抗原、抗体、核酸等と、検出に利用可能な蛍光物質、発色基質、発光基質、磁性体等を結合した「標識物質」を含む液をビーズの入ったウェルに加え、ビーズ表面に結合した標的物質を標識する。この「標識物質」による蛍光、発色、発光、磁気等を検出することにより、標的物質の存在の有無、存在量等を測定することができ、即ち「標的物質の分析」ができる。また、先の操作の中の洗浄後に、結合した標的物質を溶出可能な液を入れて標的物質を溶出させれば、「標的物質の抽出」ができる。さらに、精製したい標的物質を含む液で同様の操作を行えば、「標的物質の精製」ができる。
細胞の分離・検出・スクリーニング:「細胞の分離」では、例えば、細胞を含む液をウェルプレート上に付与することにより細胞をウェル内に入れることによって、細胞を分離できる。また、「細胞の検出」では、例えば、ウェル内に入ったものを顕微鏡で観察したり、検出したい細胞に特異的に結合する標識物質により標識することによって、細胞を検出できる。更に、「細胞のスクリーニング」では、例えば、ウェル内に入った様々な細胞、例えばBリンパ球の中から、予め標識した抗原が特異的に結合したものを標識を基に見つけ出すことによって、目的とする細胞をスクリーニングできる。
【0058】
《本発明のマイクロプレートデバイスの製造法》
次に、本発明のマイクロプレートデバイスの製造法について詳述する。本発明のマイクロプレートデバイスの製造法は、特に制限はなく、考え得るいかなる方法を採用してもよい。例えば、マイクロプレートデバイスを直接加工してよいし、逆の形状を加工して転写型を作製してそれを転写してもよい。加工の手法を例示すれば、切削加工、フォトリソグラフィー、ドライエッチングまたはウェットエッチング等を挙げることができる。ただし、これらの手法は通常窪みの側壁面の傾きが同じ形状のものを作製する場合が多い。窪みの側壁面の傾きを方向により異なるようにするために、例えば以下のような手法を採用してよい。
切削:切削する刃等の傾きおよび/または形状などを方向により変える。
フォトリソグラフィー:照射する光の角度を傾ける、あるいは、壁に当たる部分に濃度勾配を持たせたマスクを使用し方向により濃度勾配を変える。
エッチング:段階的にエッチングの端部を変え、エッチング端部のずらし方を方向により変える。
【0059】
ある1つの製造法を例示する。かかる製造法では、まず、マイクロプレートデバイスの窪みの形状が模された「レジスト原盤」なるものから「スタンパ」を製作し、その後、かかるスタンパを鋳型(金型)として用いた射出成形を行う。かかる一連の製造工程を経時的に説明する。
【0060】
(レジスト原盤の作製)
鋳型の製作に用いる“レジスト原盤”を製造する。まず、“レジスト原盤”の原型となる基板を用意する。用意する基板は、その表面が平坦かつ平滑であれば、どのような種類のものであってよい。例えば、表面が平滑であって鏡面状に研磨されており、表面に熱酸化膜が形成されたシリコンウエハを用いることができる。また、石英から成る基板を用いてもよい。
【0061】
次いで、かかる基板の表面にレジストを形成する。レジストを形成した後、レジスト上にマスクを配して露光を行う。露光は、マスクによる一括露光に限定されるものでなく、直接レーザや電子線により露光を行ってもよい。更には、LIGA (Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスのように、シンクロトロン放射光を使用してもよい。
【0062】
ちなみに、マスクの階調を自由に変えることが可能な多階調フォトマスクを使用してよい。かかる多階調フォトマスクとしてはグレイトーンマスクおよび/またはハーフトーンマスクを用いることができる。グレイトーンマスクは、露光機の解像度以下のスリットを作り、そのスリット部が光の一部を遮り、中間露光を実現する。一方、ハーフトーンマスクは“半透過”の膜を利用することで中間露光を実現する。いずれも、1回の露光で「露光部分」「中間露光部分」「未露光部分」の3つの露光レベルを実現し、現像後に厚さが異なる微細構造物を得ることができる。
【0063】
露光を行った後、現像処理を行う。例えば、露光された基板をTMAH(テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド)溶液に浸し現像を行ってよい。かかる現像によって、マイクロプレートデバイスの形状が模された「原盤」が得られる(得られた「原盤」は、レジストによりパターン作製して得られたものなので、“レジスト原盤”と称すことができる)。
【0064】
(スタンパの作製)
次いで、「レジスト原盤」から「スタンパ」を作製する。具体的には、レジスト原盤に対してスパッタやめっき処理を行って、原盤パターンの反転パターンを有するスタンパを作製する。例えば、原盤に対してNiスパッタ膜を導電膜として形成し、スルファミン酸ニッケルめっきを行ってスタンパを作製できる。導電膜の形成をスパッタによって行うことに限定されず、無電解めっきやCVD (Chemical Vapor Deposition)などを用いて行ってもよい。
【0065】
上記めっき処理に用いるめっき液としては、応力の少ないスルファミン酸ニッケルめっき液を使用し、これにpH緩衝用の硼酸および陽極Niの溶解を促進する塩化Niを添加してもよい。また、めっき液のpH調整にスルファミン酸を用い、常にpH3.8〜4.2の範囲になるようにしてもよい。めっき液の温度は例えば50℃であってよい。更に、めっき液は常時濾過に付してもよい。
【0066】
スタンパ材質としては、Niに限定されるわけでなく、Ag、Au、Bi、Cd、Co、Cr、Cu、Fe、In、Ni、Pd、Pt、Ru、Snおよび/またはZn等の金属を用いてもよい。更に、Mn、Gd、Sm、W、Sb、Mo、P、B、Sなどを金属皮膜中に積極的に取り込み、硬度や潤滑性、粘り強さを高めたロール状あるいは平面板の合金製金型を作ることも出来る。
【0067】
(マイクロプレートデバイスの射出成形)
次いで、スタンパを鋳型として用いた射出成形を行うことによってマイクロプレートデバイスを製造する。具体的には、金属製スタンパの外形を加工し、それを成形機に取り付けた上で射出成形を実施する。成形樹脂としては、種々の樹脂を用いることができる。例えば、ポリカーボネート樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、シクロオレフィン樹脂を用いることができる。このような射出成形によって、本発明のマイクロプレートデバイスが最終的に得られることになる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明の適用範囲のうちの典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、種々の改変がなされ得ることを当業者は容易に理解されよう。
【0069】
● 窪み(例えばウェルやチャンネル)またはそれらの間のデバイスプレート面に対しては表面処理を施してもよい。特に水系の溶媒を用いる場合や、生体物質を扱う場合には、親水化処理を施すと好ましい場合が多い。一般に親水化処理によって、生体物質の吸着を抑えたり、水系液体の流れが良くなったり、泡が留まらなくなる等の効果が奏される。親水化処理にはいかなる手法を用いてもよいが、代表的な例としては、酸処理、アルカリ処理、UV処理、UVオゾン処理、プラズマ処理、親水性物質の塗布、蒸着、スパッタまたはCVD等を挙げることができる。
【0070】
● 窪み(例えばウェルやチャンネル)またはそれらの間のデバイスプレート面に対して金属コーティング処理を施してもよい。金属コーティング処理により、光の遮蔽効果や反射効果、親水化効果、チオール基の吸着効果(金等の場合)、導電性効果または帯電防止効果等が奏される。金属コーティング処理にはいかなる手法を用いてもよいが、代表的な例としては、蒸着、スパッタ、電解メッキまたは無電解メッキ等の実施を挙げることができる。
【0071】
● ビーズに対する処理と同様、検討対象物質や反応に関係する物質等を固定あるいは吸着することが可能な物質や官能基等を、窪み(例えばウェルやチャンネル)またはそれらの間のデバイスプレート面に対して固定化してもよい。
【0072】
● 窪みが設けられたプレートは、実際の用途などに鑑みて必要に応じて、相互に積層してもよく、または窪みを設けていないプレートを“蓋”として重ね合わせてもよい。
【0073】
● 窪みの“底面”のエッジは明確である必要はなく、Rがついていても(曲面となっていても)構わず、また底面自体が曲面であっても構わない。これらの場合であっても側壁面の傾斜角度が方向によって異なっていれば本発明の効果として変わりはない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のマイクロプレートデバイスはメディカルサイエンスやバイオサイエンスの分野において用いることができる。例えば、本発明のマイクロプレートデバイスを用いると、標的物質の分析、抽出、精製、細胞の分離、検出またはスクリーニングなどができる(特に、かかる処理・操作を一度に多量に行うことができる)。従って、本発明のマイクロプレートデバイスは、例えば遺伝子解析、発現解析、蛋白解析、抗原・抗体反応解析または細胞解析等の種々の用途に供すことができる。
【符号の説明】
【0075】
30 窪み
50 プレート状部材
60 マイクロビーズ
80 液体
100 マイクロプレートデバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窪みが設けられたマイクロプレートデバイスであって、
前記窪みの周方向に沿ってみた場合、前記窪みを形成する側壁面につき、その少なくとも一部の側壁部分が他の側壁部分と異なる傾斜角度を成していることを特徴とする、マイクロプレートデバイス。
【請求項2】
前記窪みの開口面に対する側壁面の傾斜角度が0°(0°を含まず)〜90°の範囲にあって、前記窪みにて前記傾斜角度の最大値と最小値との差が5°〜85°であることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロプレートデバイス。
【請求項3】
窪みが設けられたマイクロプレートデバイスであって、
前記窪みにつき底面エッジ部と開口面エッジ部との水平距離が、前記窪みの周囲方向に沿った各ポイントにおいて、全て同じとなっていないことを特徴とするマイクロプレートデバイス。
【請求項4】
前記窪みにつき前記開口面の形状が前記底面の形状よりも大きいことを特徴とする、請求項3に記載のマイクロプレートデバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロプレートデバイスに設けられた前記窪みに対してマイクロビーズおよび液体を収容し又は流し、その後、
前記マイクロプレートデバイスを傾ける方向によって又は前記マイクロプレートデバイスに供するフローの向きによって、前記マイクロビーズおよび前記液体の前記窪みからの排出または前記窪みにおける流れを制御することを特徴とする、マイクロプレートデバイスの利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−128019(P2011−128019A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286754(P2009−286754)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】