説明

マイクロ波加熱用容器

【課題】特定の樹脂材料で構成したマイクロ波加熱用容器等を提供する。
【解決手段】所定のマイクロ波透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有するマイクロ波加熱用容器であって、容器本体の一部又は全部を、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、又はポリベンゾイミダゾール系の樹脂材料で構成したことを特徴とするマイクロ波加熱用容器、及びこの容器を反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置。
【効果】150℃までの耐熱性、40MPaまでの耐圧性を有し、超臨界流体を用いた反応の反応容器として好適に使用することが可能な新しいマイクロ波加熱用容器等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波加熱用容器及びマイクロ波加熱反応装置に関するものであり、更に詳しくは、容器本体の一部又は全部を特定の樹脂材料で構成した、所定のマイクロ波の透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有するマイクロ波加熱用容器及び該容器を反応容器として含むマイクロ波加熱反応装置に関するものである。本発明は、マイクロ波加熱を利用した反応装置の技術分野において、従来の反応容器では、例えば、マイクロ波加熱高温・高圧容器(HT−HPvessel)として必要とされる条件のうち、第1条件としての、マイクロ波透過性、引張強度(耐圧性)、耐熱性、及び第2条件としての、耐薬品性、加工性、安全性、安価、の全てを満たす反応容器を作製することは困難であったことを踏まえ、これらの諸条件を全て満たすことを可能とする、新しいマイクロ波加熱用反応容器を提供するものであり、例えば、超臨界状態の媒体による反応又は高温高圧の水熱合成反応等を好適に実施することができる、新規マイクロ波加熱用反応容器等を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波を利用した化学反応に関しては、多くの報告がなされている。有機化合物、無機化合物の合成反応等において、使用されているマイクロ波加熱方式は、キャビティと呼ばれる密閉金属箱の中に、被加熱物を置き、これにマイクロ波を照射するものであり、周波数300MHZ〜30GHZ(波長1cmから1m)マイクロ波の中から、加熱の用途には、2450MHZの周波数が通常使用されている。マイクロ波は、誘電損失の大きい物質に当たると分子摩擦によって、熱エネルギーに変わり、電波は急速に減衰する。この加熱方式は、ヒーター等の外側からの加熱(外部加熱)に対して、物質自身が発熱するので内部加熱と呼ばれ、被加熱物を、選択的に、急速に加熱することが可能である。
【0003】
この、マイクロ波加熱を、例えば、有機合成反応等の化学反応において、加熱手段として採用すると、従来の熱伝導加熱よりも反応速度が数オーダーも上昇し、高収率で目的物が得られるばかりか、立体特異的な反応が生起することも報告されている。また、この加熱方法は、マイクロ波のエネルギーが、被反応物分子に直接伝わり、温度の急激な上昇を起こすのみならず、その一部分を高温とする局所加熱や、高圧下での加熱により溶媒を沸点以上に加熱するなどして、これまでの加熱方法では、難しかった、高温高圧条件下での反応を容易に遂行することを可能とする。また、この加熱方法は、従来の加熱方法よりも溶媒の使用が少量で済み、反応後の溶媒の除去が容易であり、固相反応も可能となる等、環境調和的な合成反応を実施することが可能である。
【0004】
マイクロ波加熱を利用した化学合成に関しては、例えば、有機カルボン酸とアミン類との脱水縮合反応を、有機塩基性物質の存在下に、マイクロ波加熱により進行させることにより、カルボン酸アミド又はカルボン酸イミド化合物を製造するにあたり、反応系に特別の水分離器、凝縮器、加熱装置等を設置することを不要とし、あるいはそれらの設置を簡略化することができ、しかも、脱水縮合反応の反応速度を高め、短時間で酸アミド又は酸イミド化合物を製造することができること、また、反応容器として、パイレックス(登録商標)ガラス製のNMR管が使用できること、が報告されている(特許文献1参照)。
【0005】
マイクロ波を用いた水熱合成としては、ピンホールのない緻密なZSM−5型ゼオライト膜を、短時間に効率良く製造する方法が報告され、例えば、反応温度は、90〜200℃、好ましくは130〜180℃で、反応時間は、0.5〜8時間行われる(特許文献2参照)。また、リン源とアルミニウム源とを含有する液状混合物から、結晶性リン酸アルミニウム水和物を合成するにあたり、マイクロ波照射により加熱することが報告され、耐熱ガラス容器中で、125℃以下の反応温度で0.5時間の反応により合成される。この方法では、従来、有機テンプレートを用いて数時間ないし数十時間を要した水熱合成反応を、数分ないし数十分〜1時間の範囲に短縮することができる(特許文献3参照)。
【0006】
また、これまで、マイクロ波透過性のよい材料として、タッパー(登録商標)等の原材料である、ポリプロピレンやテフロン(登録商標)、及び陶磁器の原料であるセラミックスやガラス等が広く使用されている。しかし、ポリプロピレンやテフロン(登録商標)等は、引張強度が低く耐圧容器として適当な材料とは言い難い。一方、セラミックスやガラス材料は、引張強度が大きく耐圧容器として使用されているものもあり、マイクロ波加熱による化学反応を実施するにあたり、ガラス、又は石英等を材質とする容器を使用することが行われているが、これらの材質は、マイクロ波透過性は良いが、加工性に劣り、耐衝撃性に劣るため、取り扱いに注意が必要である場合があり、また、価格が高い、所望の形状構造のものが入手し難い、等の欠点を有している。
【0007】
また、高温高圧の反応容器内にマイクロ波を供給する方法及び装置としては、マイクロ波発振器と反応容器との間に、一つあるいは複数の窓を設けて圧力バランスを保ちながら行うやり方が提案されており、また、開口部に仕切窓としての第1の窓を設置した中空の導波管よりなる化学反応促進用マイクロ波供給装置を設けた高温高圧容器であって、該容器が耐圧容器及び反応容器で構成され、耐圧容器の内側に耐熱、耐食性の密閉式反応容器を備え、耐圧容器と反応容器の内圧を等しく制御できるようにした高温高圧容器が提案されている(特許文献4,5参照)。しかし、この種の方法及び装置では、装置の構成が、かなり複雑となり、試料の出し入れ等の操作性は劣るものと推察される。また、反応容器については、石英、テトラフルオロエチレンが材質として例示されているが、テトラフルオロエチレンは、高温高圧容器として十分な特性を有するものではない。
【0008】
【特許文献1】特開平11−199554号公報
【特許文献2】特開2000−58973号公報
【特許文献3】特開2002−29716号公報
【特許文献4】特開2002−113349号公報
【特許文献5】特開2002−113350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、マイクロ波加熱高温・高圧容器として必要とされる、前記第1条件及び第2条件の全てを満たすマイクロ波加熱用容器を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、容器本体の一部又は全部を特定の樹脂材料で構成することにより、優れたマイクロ波の透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有する新しいマイクロ波加熱用容器を作製し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、従来のセラミックスやガラス製等の反応容器に比較して、マイクロ波の透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性に優れたマイクロ波加熱用容器を提供することを目的とするものである。また、本発明は、誘電特性に優れ、その誘電正接が0.01以下で温度依存性並びに周波数依存性が極めて小さく、マイクロ波加熱の加熱特性に優れた、また、加工性がよく、接続部分の気密性を高めることが容易なマイクロ波加熱用容器を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、廉価で、高性能のマイクロ波加熱反応装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)マイクロ波加熱用容器としての所定のマイクロ波透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有するマイクロ波加熱用容器であって、該容器本体の一部又は全部を、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、又はポリベンゾイミダゾール系の樹脂材料で構成したことを特徴とするマイクロ波加熱用容器。
(2)マイクロ波加熱用容器が、高温高圧容器である、上記(1)に記載のマイクロ波加熱用容器。
(3)高温高圧容器が、150℃までの耐熱性、及び40MPaまでの耐圧性を有する、上記(2)に記載のマイクロ波加熱用容器。
(4)高温高圧容器が、水熱反応、又は亜臨界ないし超臨界の媒体中での反応を遂行するための反応容器である、上記(2)に記載のマイクロ波加熱用容器。
(5)亜臨界ないし超臨界の媒体が、二酸化炭素又は水である、上記(4)に記載のマイクロ波加熱用容器。
(6)上記(2)から(5)のいずれかに記載のマイクロ波加熱用容器を反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置であって、該反応容器、反応容器内部の試料の温度及び圧力を計測するための計測器、反応容器内部の試料をマイクロ波加熱するためのマイクロ波発振器、及び反応容器内部の試料の温度及び圧力の反応条件を制御するための制御システムを構成要素として含み、加熱用容器内部の試料の温度及び圧力を計測して、所定の温度及び圧力に制御する機能を有することを特徴とするマイクロ波加熱反応装置。
(7)反応容器が、反応容器内の容積を所定の値に調整するためのスペーサー及び開口部を密封するためのヘッドキャップを有する、上記(6)に記載のマイクロ波加熱反応装置。
(8)反応容器及びスペーサーを、ポリエーテルエーテルケトンから構成した、上記(7)に記載のマイクロ波加熱反応装置。
(9)水熱反応、又は亜臨界ないし超臨界の媒体中での反応を遂行するための反応装置である、上記(6)から(8)のいずれかに記載のマイクロ波加熱反応装置。
【0011】
次に、本発明について、更に詳細に説明する。
本発明は、所定のマイクロ波透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有する、マイクロ波加熱用容器であって、容器本体の一部又は全部を、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、又はポリベンゾイミダゾール系の樹脂材料で構成したことを特徴とする、マイクロ波加熱用容器及び該容器を反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置を提供するものである。
【0012】
本発明者らは、亜臨界ないし超臨界の媒体中での反応について、研究を進める中で、反応容器の一部又は全部を特定の樹脂材料で構成することで、優れたマイクロ波透過性、引張強度(耐圧性)、耐熱性、及び加工性を有する、マイクロ波加熱用容器を製造し、提供できることを見出した。近年、マイクロ波は、様々な技術分野において加熱手段として、しばしば使用されるようになり、特に、化学反応において、被反応物質に熱エネルギーを急速に付加する手段として採用されはじめた。そのためには、そうした反応条件に適合する、新しいマイクロ波加熱用反応容器の開発が待たれていたが、本発明は、こうした技術的ニーズに適合したものである。
【0013】
本発明者らの実験により、本発明のマイクロ波加熱用容器は、150℃までの高温、及び40MPaまでの高圧の反応条件下での超臨界流体を用いた、高温高圧反応の反応容器として好適に使用できること、また、このような反応を行う際に、容器に収容した試料の反応基質を選択的にマイクロ波加熱できる機能を有すること、が実証され、本発明のマイクロ波加熱用容器及びこの容器を反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置は、特に、150℃までの高温及び40MPaまでの超臨界流体を用いた超臨界反応容器及びその装置として、安定かつ安全に使用し得るものであることが確認された。
【0014】
マイクロ波加熱を、有機合成反応等の化学反応における加熱手段として適用すると、従来の熱伝導加熱よりも反応速度が数オーダーも上昇し、高収率で目的物が得られるばかりか、従来にない、立体特異的な反応が生起することも観察されている。また、マイクロ波のエネルギーが、被反応物の分子に直接伝わり、温度の急激な上昇を起こすのみならず、その一部分を高温とする局所加熱や、高圧下での加熱により溶媒を沸点以上に加熱して、これまで難しかった、高温高圧条件下での反応が可能となるに至った。また、従来の加熱方法よりも溶媒の使用が少量でよいため、反応後の溶媒の除去が容易であり、また、固相反応も可能となり、環境調和的な合成反応を実施することが可能であり、有用な反応方式として、今後の発展が期待されている。
【0015】
しかるに、マイクロ波加熱には、マイクロ波を反射する金属類は使用できないので、これまで、マイクロ波加熱用反応容器の材料として、セラミックス又はガラスを使用するのが通常であった。しかしながら、これらの材料は、引張強度に優れ、耐圧耐熱容器として使用できるものであるが、衝撃に弱く、また、加工性に劣る等の欠点を有している。本発明は、それらの欠点を克服した、マイクロ波透過性、引張強度(耐圧性)、耐熱性、耐薬品性、加工性、安全性に優れた、しかも安価なマイクロ波加熱用反応容器を提供するものである。
【0016】
本発明の、マイクロ波加熱用容器は、第1条件として、所定のマイクロ波透過性、引張強度(耐圧性)、耐熱性を有し、更に、第2条件として、所定の耐薬品性、加工性、安全性を有し、安価なマイクロ波加熱用容器であって、容器本体の一部又は全部が、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、又はポリベンゾイミダゾール系の樹脂材料で構成される。これらの樹脂材料の具体例としては、ポリアミド系プラスチックスとして、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミドイミドが例示され、ポリイミド系プラスチックスとして、ポリイミドが例示され、ポリエーテル系プラスチックスとして、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンが例示され、ポリフェニレン系プラスチックスとして、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイドが例示され、ポリサルホン系プラスチックスとしては、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルホンが例示され、また、ポリベンゾイミダゾール系プラスチックスとして、ポリベンゾイミダゾールが例示される。
【0017】
本発明では、これらの樹脂材料の中で、特に好適に、例えば、ポリエーテルエーテルケトンが使用される。この樹脂は、融点:334℃であり、この樹脂材料で構成した本発明のマイクロ波加熱用容器は、200〜260℃の熱水中での連続使用が可能であり、また、優れた、耐疲労性、耐摩耗性、耐衝撃性を有し、濃硫酸、濃硝酸以外の薬品には溶解せず、誘電損失が小さく、機械切削加工に適している等の特性を有している。また、例えば、ポリサルホンで構成した本発明のマイクロ波加熱用容器は、熱変形温度が175〜180℃で、150℃での連続使用に耐え、酸、アルカリに耐え、誘電率:3.15、誘電損失:0.0050を示し、電磁波に対する透明性の点では、セラミックスよりも優れている。
【0018】
本発明において上記樹脂材料は、それらの単位を変性又は誘導体化したもの、各種の重合体との共重合体、又はこれらの樹脂類を混合した組成物を含むものであり、また、炭素繊維、ガラス繊維等のフィラー類を添加したものを含む。本発明では、これらの樹脂材料を用いて、少なくともマイクロ波加熱用反応容器本体(セル本体)を形成する。本発明のマイクロ波加熱用反応容器は、使用する反応装置、マイクロ波発生装置等の形状、構造に応じて任意に設計し、切削加工等の機械的加工により作製することができる。本発明で用いる上記樹脂材料は、金型による成形等の大量生産に適しているばかりか、加工性に優れているため、例えば、切削による、単品での生産にも適している。
【0019】
本発明の、マイクロ波加熱反応装置は、上記マイクロ波加熱用容器を反応容器として使用し、その基本構成は、例えば、反応容器、マイクロ波発振器及び反応容器内部の試料の温度及び圧力の反応条件を制御する制御システムからなり、反応容器内部の試料の温度、圧力を計測可能で、所定の温度、圧力に制御可能であるように構成される。マイクロ波発振器により発振されたマイクロ波は、導波管を通じて反応容器に照射され、マイクロ波は、上記樹脂材料で構成されている反応容器を通過して、反応容器内部に収容されている物質を加熱し、反応が促進される。反応容器内の、温度、圧力等は、制御システムにより監視され、その情報に基づいて、マイクロ波発振器が制御され、反応容器内の反応条件を所定の値に保持する(図1)が、これらの各手段の具体的な構成は、例えば、装置の種類、大きさ、使用目的等に応じて任意に設計することができる。
【0020】
本発明の、マイクロ波加熱用容器は、その形状構造が特に限定されるものではないが、例えば、図2に示されるごとく、中空部を有する円柱状の管よりなり、その一端が開口し、他端が閉鎖された形状を有する反応容器、反応容器の中空部に挿入され、反応容器の中空部の空隙容量を所定の値に調整するためのスペーサー、及び反応容器の開口部を密封して、反応容器内部を高温高圧に保持するためのヘッドキャップからなるものが例示される。ヘッドキャップに形成された孔からは、反応容器内に熱電対が挿入されて反応系の温度が検知され、他の孔からは、反応に必要な液状の試料の注入及び反応生成物の回収が行われる。反応容器内の圧力の検知にも同孔が用いられる。これらの反応容器及びスペーサーは、好適には、上記樹脂材料から構成され、ヘッドキャップは、マイクロ波を透過しない材料から選択される。本発明では、加工性に優れた素材を反応容器に使用しているために、その開口部を、金属製のヘッドキャップの密封構造に適合させることが容易となり、反応容器内を、高温高圧に保持することが容易である。本発明で使用される、マイクロ波発振器については、反応容器の形状、構造、大きさ、その内部に収容する試料の量、反応温度等の条件に応じて適宜選択され、特に制限されるものではない。
【0021】
本発明のマイクロ波加熱用容器は、その中に収容されている物質を、マイクロ波により加熱することができるものであり、高温高圧の水熱反応、亜臨界ないし超臨界の媒体を使用した反応等に使用することが可能であり、例えば、水熱反応によるゼオライトの製造、塩素化エチレンの水熱分解反応、超臨界二酸化炭素中でのフェノールの水素化反応等に好適に適用することが可能である。また、本発明のマイクロ波加熱用容器によるマイクロ波加熱では、物質の分子の分極性に基づき加熱作用が左右されるので、分子の分極性が低い溶媒分子を加熱しないで、分極性の高い溶質のみをマイクロ波で加熱する反応方式、また、分子の分極性の高い溶媒をマイクロ波により加熱する反応方式等の様々な応用が期待される。本発明のマイクロ波加熱用容器は、例えば、高温高圧水、超界の媒体としての、二酸化炭素、フッ化炭素、エチレン、プロパン、キセノン等を用いた高温、高圧反応におけるマイクロ波加熱用容器として使用することができるが、本発明のマイクロ波加熱用容器は、耐熱温度約150℃まで、耐圧圧力約40MPaまでの範囲内であれば、いかなる媒体にも使用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、(1)セラミックスやガラス製等の反応容器に比較して、優れたマイクロ波透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有し、マイクロ波加熱反応装置等の反応容器に適合したコンパクトな構造を有し、気密性に優れたマイクロ波加熱用容器を提供することができる、(2)誘電特性に優れ、その誘電正接が0.01以下で、温度依存性並びに周波数依存性が極めて小さく、マイクロ波透過性に優れたマイクロ波加熱用容器を提供することができる、(3)安価で、信頼性の高い、高性能なマイクロ波加熱用反応容器を提供することができる、(4)加工性が良く、機密性を高めることが容易であり、高温高圧の化学反応を遂行するために適合した、マイクロ波加熱用高温高圧容器を提供することができる、(5)このマイクロ波加熱用高温高圧容器を反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置を提供できる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
本発明のマイクロ波加熱用反応容器としての高温高圧樹脂製反応容器と、これを反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置の一例を、図2及び図1に示す。この反応容器は、円柱状の管よりなり、その一端が開口し、他端が閉鎖された形状を有する反応容器本体(セル本体)、反応容器の中空部に挿入され、反応容器の中空部の容量を所定の値に調整するためのスペーサー、及び反応容器の開口部を密封するヘッドキャップより主に構成されている。ヘッドキャップには、複数の孔が形成され、その一つから、熱電対を反応容器内に挿入して反応温度が検知される。他の孔は、反応に必要な液状の試料の注入、及び反応生成物の回収に使用し、反応容器内の圧力検知器も同孔に接続される。これらの反応容器及びスペーサーは、マイクロ波を透過するポリエーテルエーテルケトン(poly(ether−ether)ketone)から作製され、反応容器の容積はスペーサーにより15cmに調整した。ヘッドキャップは、SUS316からなり、反応容器の開口部との密封性は、樹脂製O−リングにより確保した。本実施例では、加工性に優れた素材である、ポリエーテルエーテルケトンを使用しているために、気密性を確保することが容易であった。反応容器内には、磁気攪拌子を設置した。反応継続中は、反応温度及び圧力を監視することにより、制御システムを通じて温度及び圧力の反応条件を適正な範囲に保持した。
【実施例2】
【0025】
本実施例では、マイクロ波加熱用容器として使用する材料の相違に基づく、容器中の物質の温度変化の差を従来の容器と対比し、検討した。実施例として、特定の樹脂材料製の反応容器、対照例として、マイクロ波加熱に通常使用されているガラス製反応容器を使用して試験した。容積15cmの各反応容器中に、水を入れ、マイクロ波の照射により70℃まで温度を上昇させて、両者の昇温曲線を比較した結果を図3に示す。両容器ともに、ほぼ同程度の急激な温度上昇を示した。このことは、上記樹脂材料製の反応容器が、マイクロ波加熱による物質の加熱に適していることを示している。次いで、各種の樹脂材料、即ち、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、ポリベンゾイミダゾール系の樹脂材料を使用して反応容器を作製し、反応温度、圧力を広範囲に変化させながら、同様の試験を繰り返すことにより、反応容器の耐熱、耐圧条件を検討した。その結果、これらの特定の樹脂材料を用いた反応容器は、水熱条件下では、〜約150℃、〜約40MPaの圧力下で十分な実用性があることが確認された。
【実施例3】
【0026】
本実施例では、亜臨界ないし超臨界媒体を、上記特定の樹脂材料製の反応容器に収容し、マイクロ波加熱により上記実施例2と同様に加熱実験を行った。反応容器に、300Wのマイクロ波を5分間照射しても、非極性の分子である二酸化炭素(臨界温度Tc=31.0℃、臨界圧力Pc=7.4MPa)には何ら影響を与えることはなく、実質的な、温度、圧力の変化は生じなかった(表1参照)。しかしながら、CHF(臨界温度Tc=25.9℃、臨界圧力Pc=4.8MPa)では、二酸化炭素と同条件でマイクロ波を照射すると、その分子の極性が高いために、圧力及び温度の上昇が認められた(表1参照)。図4に、マイクロ波加熱装置で樹脂製セルを用いて高圧条件下で、CHFを加熱したときの試料温度の時間変化を示す。こうした、温度と圧力の上昇は、初期の圧力が大きいほど顕著であった。このことは、圧力が高くなるほど、媒体の密度が増加し、誘電率が上昇することに起因する。このように、反応媒体により加熱特性が相違することは、反応媒体の特性に基づいて、特異な反応を進行させることが可能であることを示すものである。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
以上詳述したように、本発明は、所定のマイクロ波の透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有するマイクロ波加熱用容器、及びマイクロ波加熱反応装置に係るものであり、本発明により、セラミックスやガラス製等の反応容器に比較して加工性が容易であり、マイクロ波照射装置にあわせたコンパクトな反応容器を、簡便に作製することが可能であり、加工性が良く、機密性を高めることが容易な、マイクロ波加熱用容器を提供することができる。また、本発明は、誘電特性に優れ、その誘電正接が0.01以下で温度依存性並びに周波数依存性が極めて小さく、加熱特性に優れたマイク波加熱用容器を提供することを可能とする。更に、本発明は、上記マイクロ波加熱用容器を利用した、安価で、高性能の、マイクロ波加熱による高温高圧反応を遂行することが可能な、マイクロ波加熱反応装置を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の、マイクロ波加熱反応装置の概略図を示す。
【図2】本発明の、高温高圧樹脂製反応容器を示す。
【図3】マイクロ波加熱装置で、ガラス製フラスコ(○)と樹脂製セル(●)を用いて、水を70℃に加熱したときの試料の温度変化を示す。
【図4】マイクロ波加熱装置で、樹脂製セルを用いて高圧条件下でCHFを加熱したときの試料温度と照射時間の関係を示す。
【符号の説明】
【0030】
1:ヘッドキャップ
2:セル本体
3:スペーサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波加熱用容器としての所定のマイクロ波透過性、耐圧性、耐熱性及び加工性を有するマイクロ波加熱用容器であって、該容器本体の一部又は全部を、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテル系、ポリフェニレン系、ポリサルホン系、又はポリベンゾイミダゾール系の樹脂材料で構成したことを特徴とするマイクロ波加熱用容器。
【請求項2】
マイクロ波加熱用容器が、高温高圧容器である、請求項1に記載のマイクロ波加熱用容器。
【請求項3】
高温高圧容器が、150℃までの耐熱性、及び40MPaまでの耐圧性を有する、請求項2に記載のマイクロ波加熱用容器。
【請求項4】
高温高圧容器が、水熱反応、又は亜臨界ないし超臨界の媒体中での反応を遂行するための反応容器である、請求項2に記載のマイクロ波加熱用容器。
【請求項5】
亜臨界ないし超臨界の媒体が、二酸化炭素又は水である、請求項4に記載のマイクロ波加熱用容器。
【請求項6】
請求項2から5のいずれかに記載のマイクロ波加熱用容器を反応容器として使用したマイクロ波加熱反応装置であって、該反応容器、反応容器内部の試料の温度及び圧力を計測するための計測器、反応容器内部の試料をマイクロ波加熱するためのマイクロ波発振器、及び反応容器内部の試料の温度及び圧力の反応条件を制御するための制御システムを構成要素として含み、加熱用容器内部の試料の温度及び圧力を計測して、所定の温度及び圧力に制御する機能を有することを特徴とするマイクロ波加熱反応装置。
【請求項7】
反応容器が、反応容器内の容積を所定の値に調整するためのスペーサー及び開口部を密封するためのヘッドキャップを有する、請求項6に記載のマイクロ波加熱反応装置。
【請求項8】
反応容器及びスペーサーを、ポリエーテルエーテルケトンから構成した、請求項7に記載のマイクロ波加熱反応装置。
【請求項9】
水熱反応、又は亜臨界ないし超臨界の媒体中での反応を遂行するための反応装置である、請求項6から8のいずれかに記載のマイクロ波加熱反応装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−35056(P2006−35056A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216629(P2004−216629)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】