マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌、その製造方法ならびに使用
本発明は、マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌に関する。薬物としてこの細菌の製造方法およびその使用も開示されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌ならびにその製造方法に関する。この非病原性細菌および/または弱毒化細菌を、特に種々の腫瘍を処置するための薬物として用いることができる。
【0002】
1893年、William B. Coleyは、急性連鎖球菌感染症の患者における腫瘍の縮小を記述した(Coley WB, Clin Orthop Relat Res, 1991:3−11)。
【0003】
それ以来、他の細菌が腫瘍に浸潤し、複製し、次いで優先的に蓄積することが示されてきた(Yu YA. et al., Nat Biotechnol 2004, 22:313−320; Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Dang LH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:15155−15160; Parker RC et al., Proc Soc Exp Biol Med 1947, 66:461−467; Malmgren RA & Flanigan CC, Cancer Res 1955, 15:473−478; Moese JR, Med Klin 1964, 59:1189−1192; Gericke D et al., Cancer Res 1964, 24:217−221; Thiele EH et al., Cancer Res 1964, 24:222−233; Carey RW et al., Eur. J. Cancer 1967, 3:37−46; Kohwi Y et al., Gann 1978, 69:613−618; Brown JM & Giaccia AJ, Cancer Res 1998, 58:1408−1416; Fox M et al., Gene Ther. 1996, 3:173−178; Lemmon M et al., Gene Ther. 1997, 4:791−796; Sznol M et al., J Clin Invest 2000, 105:1027−1030; Low KB et al., Nat Biotechnol 1999, 17:37−41;Clairmont C et al., J Infect Dis 2000, 181:1996−2002; Yazawa K et al., Cancer Gene Ther 2000, 7:269−274; Yazawa K. et al., Breast Cancer Res Treat 2001, 66:165−170; Kimura NT et al., Cancer Res 1980, 40:2061−2068)。
【0004】
腫瘍でのこの増菌の原因となるいくつかの因子が提唱されてきた。腫瘍に見られる異常な血管供給は、腫瘍の細菌コロニー形成に対する重要な一因子と考えられている。腫瘍または転移腫瘍は発達するにつれて、血管新生を刺激して新たな血管の形成を促進する。しかし、新たに形成された血管は、不完全な内皮内面および盲端を有し、極めて組織が乱れた状態であり、結果として血流が緩慢になり、かつ腫瘍または転移腫瘍への栄養分および酸素の送達が非効率的となる。この血管は組織が乱れかつ漏出しやすい構造体であるので、細菌が腫瘍組織に容易に侵入し、および不十分な血管新生による腫瘍増殖によって、腫瘍において複数の領域で低酸素および無酸素状態を引き起こす(Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Dang LH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:15155−15160; Brown JM, Cancer Res 1999, 59:5863−5870; Vaupel PW, Tumour Oxygenation.Gustav Fischer Verlag 1995, 219−232)。
【0005】
低栄養分の送達と酸素欠乏とが組み合わさることより、腫瘍内に低酸素/無酸素の細胞の非増殖をもたらし、細胞外嫌気性菌(クロストリジウム(Clostria)等)および通性嫌気性菌、例えば大腸菌(E.coli)の増殖を促進する(Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Dang LH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:15155−15160; Brown JM, Cancer Res 1999, 59:5863−5870; Vaupel PW, Tumour Oxygenation.Gustav Fischer Verlag 1995, 219−232)。
【0006】
遺伝子組換え偏性嫌気性菌クロストリジウム等の細胞外細菌の抗腫瘍効果は、低酸素領域において腫瘍細胞に対して毒性がある因子の局所産生および炎症の誘発に起因すると考えられた(Agrawal N et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2004, 101(42):15172−15177)。
【0007】
また、サルモネラ(Salmonella)等の通性細胞内細菌が腫瘍治療のために使用され、実験モデルの一部に有効であった(Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Low KB et al., Nat Biotechnol 1999, 17:37−41; Clairmont C et al., J Infect Dis 2000, 181:1996−2002; Pawelek, J. M., Low, K.B. and Bermudes, D. Cancer Res. 1997, 57:4537−4544)。ここでも、炎症反答を誘発することで抗腫瘍効果を媒介すると推測された。しかし、ヒトにおいて抗腫瘍薬としてのサルモネラの有効性は、わずかであった。
【0008】
ごく最近では、真核細胞へのDNA送達のために細胞内細菌を使用したことが記述されている。したがって、サルモネラ、赤痢菌(Shigella)またはリステリア(Listeria)等の細胞内細菌を用いて、毒素またはプロドラッグ変換酵素等の治療分子を腫瘍細胞に直接送達することが可能である。細胞外細菌による炎症反答の誘発または治療方法と対照的に、細胞内細菌の腫瘍標的の有効性は、感染している腫瘍細胞の割合および性質によって影響される。
【0009】
しかし、現時点で、細胞内細菌に感染した腫瘍細胞の割合に関する定量的情報は入手できず、および感染した細胞の性質も分っていない。
【0010】
実際、腫瘍は悪性細胞だけで構成されているのではなく、むしろ形質転換細胞および腫瘍間質の複合混合物からなる。さらに、非形質転換間質細胞は、その生理学的環境において同等の細胞と比較して、明確な表現型を示すことが多い。多くの腫瘍では、単球マクロファージ系統に属する細胞が腫瘍の白血球浸潤物の主構成成分である。腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、循環血中単球から生ずる。in situでのその補充および生存は、腫瘍由来のサイトカインおよびケモカインによって導かれる(Mantovani A et al., Immunol Today 1992, 13:265−270)。これに関連して、用語TAMを用いて、さらなる機能特性を意味することなく、腫瘍に存在するF4/80+ CD11b+マクロファージを表す。
【0011】
組織学的には、かなりの組織損傷が生じていると考えられる十分に血管新生化していない低酸素部位またはその近くに、多くのマクロファージが蓄積するように思われる。多くのマクロファージは、乳癌腫の無血管部位および壊死部位(Leek RD et al., Cancer Res 1996, 56:4625−4629; Leek RD et al., Br J Cancer 1999, 79:991−995; Lewis JS et al., J Pathol 2000, 192:150−158)および卵巣癌腫の無血管部位および壊死部位(Negus RP et al., Am J Pathol 1997, 150:1723−1734)に関して報告がされており、ネガティブな予後と関連している。低酸素を含む腫瘍内環境は、マクロファージの分泌活性において著しい変化を誘発することができ、マクロファージによる血管新生促進サイトカインおよび炎症性サイトカインの両放出を誘発する。これは、CD206等の明瞭な表面マーカーの発現においても明らかである(Cazin M. et al. Eur Respir J 1990, 3:1015−1022; Yun JK et al. Proc Natl Acad Sci USA 1997, 94:13903−13908; Tsukamoto Y et al. J Clin Invest 1996, 98:1930−1941; Rymsa B et al., Res Commun Chem Pathol Pharmacol 1990, 68:263−266; Rymsa B et al., Am J Physiol 1991, 261:G602−G607; Leeper−Woodford SK & Mills JW Am J Respir Cell Mol Biol 1992, 6:326−334; Luo Y et al. J Clin Invest 2006, 116:2132−2141)。
【0012】
一部の著者は、血管新生の促進、マトリックスリモデリングおよび適応免疫の抑制を含む、いくつかの腫瘍促進機能を発現するM2マクロファージとしてTAMを特徴付けてきた(Mantovani A et al., Cancer Metastasis Rev 2006, 25:315−322; Luo Y et al. J Clin Invest 2006, 116:2132−2141; Mantovani A et al., European Journal of Cancer 2004, 40:1660−1667)。さらに、in vitro培養されたマクロファージと比較すると、大部分のTAMにも、反応性酸素中間体および反応性窒素中間体の産生不全があるように見え(Siegert A et al., Immunology 1999, 98:551−556; Murdoch C et al., Int J Cancer 2005, 117:701−708)、かつ食作用の機能が損なわれている。多数のマクロファージが存在するにもかかわらず、これらの欠損が腫瘍組織において長期間にわたる増菌の原因となる可能性があり、この細菌には通常の条件下で食細胞によって容易に除去される非病原性細菌も含まれる。
【0013】
近年、Weibelら(Weibel et al., Cell Microbil 2008, Postprint; doi:10.1111/j. 1462−5822.2008.01122.x)は、マクロファージも位置する腫瘍組織内の領域で、偏性細胞外細菌の大腸菌K12が局在化し、複製することを示した。この著者らが示したことは、細菌の大部分が細胞外に存在し、一部の細菌だけがマクロファージによって取り込まれることである。しかしこれは、組織学的に示されただけであった。この細菌の存在が、少なくとも部分的には、M2表現型からM1表現型へのマクロファージの再プログラミングをもたらしたことに留意されたい。しかし、この処置は、4T1乳がんモデルにおいていかなる治療効果も示すことができなった。
【0014】
細胞外細菌と対照的に、病原性細胞内細菌は、マクロファージ内で生存するために戦略を生み出す。マクロファージまたは樹状細胞等の食細胞は、サルモネラ、赤痢菌およびリステリアを含む経口の細胞内病原体の初期標的であることが重要である。生理的条件下で、この細菌を全身適用すると、脾臓、肝臓または腸で食細胞によって血流からこの細菌が除去されることとなる。明確な毒性発現機構を用いてサルモネラおよび赤痢菌は、マクロファージ内で生存することができる。この両種は、III型分泌系(TTSS)を介して分泌されるIpaB(赤痢菌)およびSipBタンパク質(サルモネラ)によって媒介されるカスパーゼ−1の活性を介して、感染したマクロファージの炎症およびアポトーシスをさらに誘発することができる(Suzuki T et al., J Biol Chem 2005, 280:14042−14050; Zychlinsky A. et al., Mol Microbiol 1994, 11:619−627; Chen LM et al., Mol Microbiol 1996, 21:1101−1115; Hilbi H et al., J. Biol. Chem. 1998, 273:32895−32900)。この生理的状況と対照的に、Weibelら(Weibel et al., Cell Microbiol 2008, Postprint; doi: 10.1111/j.1462−5822.2008.01122.x)によって示されたように細胞外細菌にとっても明らかなTAMの食作用欠損は、細胞内細菌の取り込みをブロックし、腫瘍細胞の直接感染に有利に働くと思われる。
【0015】
さらに関連する先行技術の文献は以下のとおりである。Sica A et al., Eur.J. Cancer 2006, 42:717−727; Cardenas L. and Clements J. D. Clin Microbiol Rev 1992, 5:328−342; Forbes, N. S., Munn, L.L., Fukumura, D. and Jain, R. K. Cancer Res. 2003, 63:5188−5193。
【0016】
本発明の説明
本発明の目的は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的にまたは完全に枯渇し、かつ腫瘍治療を効率的に達成できる方法によって新規の腫瘍ワクチンを提供することにある。
【0017】
一態様では、本発明の目的は、マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌を提供することによって意外なことに解決される。
【0018】
好ましい一実施形態では、上述の細菌はマクロファージを感染させる能力がある。
【0019】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌からなる群から選択される。
【0020】
さらに好ましい一実施形態では、この細菌は、赤痢菌(Shigella)菌種、サルモネラ(Salmonella)菌種、リステリア(Listeria)菌種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)菌種、エシェリキア(Escherichia)菌種、エルシニア(Yersinia)菌種、ビブリオ(Vibrio)菌種、シュードモナス(Pseudomonas)菌種からなる群から選択される。
【0021】
さらに好ましい一実施形態では、この細菌は、フレクスナー赤痢菌(Shigellaflexneri)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ウシ型結核菌BCG(Mycobacterium bovis BCG)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)からなる群から選択される。
【0022】
好ましい一実施形態では、この弱毒化は、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失または不活性化によって起こる。
【0023】
好ましい一実施形態では、この弱毒化は、栄養要求性細菌をもたらす。
【0024】
さらに好ましい一実施形態では、このマクロファージは、M1マクロファージおよび/またはM2マクロファージであり、M2マクロファージが好ましい。
【0025】
さらに好ましい一実施形態では、アポトーシスの誘発は、カスパーゼ活性化、好ましくはカスパーゼ−1活性化によって達成する。
【0026】
別の好ましい実施形態では、この細菌は組換え型である。
【0027】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードする、少なくとも1つの染色体に組み込まれたDNA、好ましくは組換え型DNAを保有する。
【0028】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの染色体に組み込まれた調節DNA、好ましくは組換え型DNAを保有する。
【0029】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの調節DNAの染色体欠失または不活性化を保有する。
【0030】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを保有する。
【0031】
別の好ましい実施形態では、この少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドは、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードする。
【0032】
別の好ましい実施形態では、この少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドは、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAをコードする。
【0033】
別の好ましい実施形態では、この非病原性細菌および/または弱毒化細菌は、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA、ネズミチフス菌Δ−aroA、フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100からなる群から選択される。
【0034】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの細菌、好ましくは凍結乾燥した少なくとも1つの細菌と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0035】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌を含む薬物、または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0036】
別の態様では、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱(urinary bladder)癌、膀胱(bladder)癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択された生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌を含む薬物または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0037】
別の態様では、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱(urinary bladder)癌、膀胱(bladder)癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択された生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌を含む薬物または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物を提供ことによって、本発明の目的は意外なことに解決された。その薬物または医薬組成物によって
(a)アポトーシスが腫瘍関連マクロファージ(TAM)において誘発され、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的もしくは完全に枯渇し、および/または
(b)アポトーシスが疾患関連マクロファージにおいて誘発され、次いで疾患関連マクロファージが部分的もしくは完全に枯渇する。
【0038】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による薬物の使用を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。ここでは、前述の薬物はさらに少なくとも1つの薬理学的活性物質を用いる処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与する。
【0039】
好ましい一実施形態では、このさらなる薬理学的活性物質は、DNAトポイソメラーゼIインヒビターおよび/またはIIインヒビター、DNAインターカレーター、アルキル化剤、微小管(microtubuli)脱安定化剤、ホルモンおよび/または増殖因子受容体アゴニストおよび/またはアンタゴニスト、シグナル伝達インヒビター、増殖因子に対する抗体およびその受容体、キナーゼインヒビター、代謝拮抗剤からなる群から選択される。
【0040】
さらに好ましい一実施形態では、このさらなる薬理学的活性物質は、アクチノマイシンD、アミノグルテチミド、アスパラギナーゼ、アバスチン、アザチオプリン、BCNU(カルムスチン)、ブレオマイシン、ブスルファン、カルボプラチン、CCNU(ロムスチン)、クロラムブシル、シスプラチン、コラスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエチルスチルベストロール、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、DTIC(ダカルバジン)、エピルビシン、エルビタックス、エリスロヒドキシノニルアデニン、エチニルエストラジオール、エトポシド、フルダラビンホスフェート、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、グリーベック/グリベック(Gleevec/Glivec)、ハーセプチン、ヘキサメチルメラミン、ヒドロキシウレア、ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロン、イレッサ、イリノテカン、L−アスパラギナーゼ、ロイコボリン、メクロレタミン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メルファラン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、N−ホスホノアセチル−L−アスパルテート(PALA)、オキサリプラチン、ペントスタチン、プリカマイシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、プロカルバジン、ラロキシフェン、ラパマイシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、タモキシフェン、タルセバ、タキソテール、テニポシド、プロピオン酸テストステロン、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トリメチルメラミン、ウリジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、2’,2’−ジフルオロデオキシシチジン、5−フルオロデオキシウリジンモノホスフェート、5−アザシチジンクラドリビン、5−フルオロデオキシウリジン、5−フルオロウラシル(5−FU)、6−メルカプトプリンからなる群から選択される。
【0041】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による薬物の使用を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。ここでは、前述の薬物は放射線治療および/または手術による処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与される。
【0042】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による非病原性細菌および/または弱毒化細菌の製造のための、以下のステップを含む方法を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0043】
(a)非病原性細菌および/または非弱毒化細菌において、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompからなる群から選択された少なくとも1つの遺伝子を欠失もしくは不活性化する、および/または
(b)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAをこの非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込む、および/または
(c)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを、この非病原性細菌および/または弱毒化細菌に導入する、および/または
(d)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAをこの非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込む、および/または
(e)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAを染色体欠失させるかもしくは不活性化する、および/または
(f)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドをこの非病原性細菌および/または弱毒化細菌に組み込む。
【0044】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物または上述の諸態様および諸実施形態による薬物と、静脈注射用の薬理学的に許容される緩衝液とを含む医薬キットを提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0045】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物または上述の諸態様および諸実施形態による薬物を、ある疾患にかかっている哺乳類、好ましくはヒトに投与することを含む、前述の哺乳類、好ましくはヒトを処置する方法を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。その方法によって、
(a)腫瘍関連マクロファージ(TAM)においてアポトーシスを誘発し、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的にもしくは完全に枯渇し、および/または
(b)疾患関連マクロファージにおいてアポトーシスを誘発し、次いで疾患関連マクロファージが部分的にもしくは完全に枯渇する。
【0046】
好ましい一実施形態では、前述の疾患は、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱(urinary bladder)癌、膀胱(bladder)癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択されるものである。
【0047】
定義
本発明の過程において、細菌と関連して、用語「マクロファージを感染させる」とは、細胞のウイルス感染に類似して、マクロファージに侵入しまたは入り、次いでこのマクロファージの細胞内構成成分になる細菌をいう。
【0048】
本発明の過程において、細菌と関連して、用語「マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する」とは、このマクロファージが自殺して死ぬように、このマクロファージ内でプログラム細胞死(アポトーシス)を誘発する細菌をいう。
【0049】
本発明の過程において、用語「M1マクロファージ」または「M1型マクロファージ」または「M1型極性化マクロファージ」とは、通常は腫瘍部位に存在しないマクロファージをいう(Sica A et al., Eur.J. Cancer 2006, 42:717−727)。
【0050】
本発明の過程において、用語「M2マクロファージ」または「M2型マクロファージ」または「M2型極性化マクロファージ」とは、通常は腫瘍部位に存在するマクロファージをいい、M2a、M2bおよびM2c亜集団を含む(Sica A et al., Eur.J. Cancer 2006, 42:717−727)。このマクロファージは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)になり得るが、必ずしもなる必要はない。おそらく、TAMは偏ったM2集団を表す。
【0051】
本発明の過程において、用語「腫瘍関連マクロファージ(TAM)」とは、ある腫瘍に存在するF4/80+ CD11b+マクロファージをいう。
【0052】
本発明の過程において、用語「栄養要求性細菌」とは、感染した宿主において増殖速度の低下をもたらす、少なくとも1つの変異を保有している細菌をいう。
【0053】
本発明の過程において、用語「弱毒化細菌」とは、宿主を感染させるために必要な少なくも1つの毒性発現因子の機能喪失および/または宿主内での増殖障害をもたらす栄養要求突然変異のいずれかによりその毒性発現を弱毒化されている細菌をいう。言い換えれば、非弱毒化された野生型の対応物と比較すると、毒性発現が減少しており、たとえば、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、omp遺伝子が欠失もしくは不活性化している細菌、または温度感受性変異もしくは抗生物質依存性変異を有する細菌(Cardenas L. and Clements J. D. Clin Microbiol Rev 1992; 5:328−342)である。
【0054】
本発明の過程において、用語「組換え型DNA」とは、1つ以上のDNA鎖(の部分)の組み合わせまたは欠失または挿入を介して、それによって自然では通常、同時に発生しないDNA配列を組み合わせることによって分子遺伝学的に改変されている人工DNAをいう。遺伝子修飾に関して、免疫等のある特定の目的で異なる形質をコードまたは変化させるために、細菌の染色体および/またはプラスミド等の現存する生命体のゲノムに関連するDNAを付加する、または現存する生命体のゲノムにおいて関連するDNAを欠失させることで組換え型DNAが生成される。これは細胞内またはリボソーム内でプロセスを介して生じるのではなく、分子遺伝工学的にのみ改変されるという点において、遺伝的組換えとは異なる。
【0055】
本発明の過程において、用語「組換え型プラスミド」とは、プラスミドの形で存在する組換え型DNAをいう。
【0056】
本発明の過程において、用語「組換え型細菌」とは、この細菌に人工的に導入された組換え型DNAおよび/または組換え型プラスミドおよび/または非組換え型DNAを内部に持つ細菌をいう。
【0057】
本発明の過程において、用語「ヌクレオチド配列」とは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNAまたは二本鎖DNA/RNAのハイブリッドをいう。二本鎖DNAが好ましい。
【0058】
本発明の過程において、用語「後成的変化」とは、DNAレベルにおける変化、すなわち、DNAメチル化もしくは脱メチル化、ポリコームタンパク質間の結合、ヒストンのアシル化等による変化をいう。これは少なくとも1つの遺伝子の発現レベルに影響する。
【0059】
本発明の過程において、用語「調節DNA」とは、調節タンパク質間の結合によってまたは後成的変化を誘発することによって少なくとも1つの遺伝子の発現に影響するDNAの領域をいう。
【0060】
任意の細菌と関連して用語「菌種(spp.)」とは、本発明の目的のために、種、亜種等を含む所定の属の全メンバーを含むことを意味する。たとえば用語「サルモネラ菌種」は、チフス菌およびネズミチフス菌等のサルモネラ属の全メンバーを含むことを意味する。
【0061】
本発明の過程において、「細菌」と関連する用語「非病原性の」とは、宿主において疾患または病状を引き起こさない細菌をいう。
【0062】
細菌感染症には、炭疽病、細菌性髄膜炎、ボツリヌス症、ブルセラ症、カンピロバクター症、猫引っかき病、コレラ、ジフテリア、発疹チフス、膿痂疹、レジオネラ症、らい病(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、類鼻疽、MRSA感染症、ノカルジア症、百日咳(ゼーゼーいう咳)、ペスト、肺炎球菌性肺炎、オウム病、Q熱、ロッキー山脈紅斑熱(RMSF)、サルモネラ症、猩紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、結核、野兎病、腸チフス、発疹チフス、尿路感染症、細菌性心臓病が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0063】
ウイルス感染症には、AIDS、AIDS関連症候群(ARC)、水疱瘡(水痘)、感冒、サイトメガロウイルス感染症、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、手足口病、肝炎、単純ペルペス、帯状疱疹、HPV、インフルエンザ(流感)、ラッサ熱、麻疹、マールブルグ出血熱、伝染性単核症、流行性耳下腺炎、灰白髄炎、進行性多巣性白質脳症、狂犬病、風疹、SARS、天然痘(痘瘡)、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎、西ナイル病、黄熱病が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0064】
慢性炎症または慢性炎症性疾患には、慢性胆嚢炎、気管支拡張症、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、炎症性大腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病)、珪肺症および他の塵肺症が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0065】
自己免疫疾患には、全身性症候群(たとえばSLE、シェーグレン症候群、強皮症、関節リウマチおよび多発性筋炎)ならびに局所症候群(たとえばIDDM、橋本甲状腺炎、アジソン病、尋常性天疱瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、アトピー性症候群、喘息、自己免疫性溶血性貧血症、多発性硬化症)が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0066】
上述の細菌ならびに好ましい実施形態は、本明細書では本発明の細菌と呼ぶ。
【0067】
本発明の細菌は、腫瘍標的の過程において、有利には生ワクチンとして腫瘍治療での使用に適している。すなわち、本発明の細菌によって、部分的または完全に枯渇した腫瘍関連マクロファージ(TAM)においてアポトーシスが誘発される。それによって、腫瘍は露出され、従来の抗腫瘍薬によって攻撃されうる。
【0068】
本発明の細菌は、生治療薬(live therapeutic)として、マクロファージ炎症が付随する慢性炎症性疾患の治療で使用するのに適しており有利である。すなわち、本発明の細菌によって、疾患に付随するマクロファージにおいてアポトーシスを誘発し、次いでこのマクロファージは炎症部位から部分的または完全に枯渇する。それによって、持続性炎症の原因である1つの因子が欠損し、この慢性炎症を消失させることができる。この疾患の例としては、良性前立腺肥大症等の炎症に付随する良性増殖性疾患、またはクローン病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、喘息等の慢性炎症性自己免疫疾患がある。
【0069】
本発明の非病原性細菌および/または弱毒化細菌は、既知の様式で投与することができる。それによって、投与経路は、作用の適切な部位にもしくは所望の部位に前述の細菌を効果的に運ぶ、たとえば非経口的もしくは経口的に、特に静脈内に、局所的に、経皮的に、肺に、直腸に、膣内に、経鼻的に、もしくは非経口で運ぶ、または埋め込みによる任意の経路であってよい。静脈内投与が好ましい。
【0070】
非経口投与は、たとえば、静脈注射、皮下注射、筋肉内注射用の無菌の水溶液剤もしくは油性溶液剤、懸濁剤もしくは乳濁剤によって、埋め込みによってまたは軟膏剤、クリーム剤もしくは坐剤によって行うことができる。徐放形態としての投与も、必要に応じて可能である。埋め込みは、たとえば、生分解性ポリマーまたは合成シリコーン(たとえばシリコーンゴム)の不活性物質を含んでもよい。腟内投与は、たとえば膣リングによって可能である。子宮内投与は、たとえばベッサリーまたは他の適切な子宮内器具によって可能である。経皮投与は、特に、この目的に適している剤形によっておよび/またはたとえばパッチ等の適した方法によって追加的に提供される。
【0071】
経口投与は、たとえば、錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤、コーティング錠剤、顆粒剤または散剤として固形形態で行うことができるが、飲料溶液剤の形態でも行える。本発明の経口投与用化合物として、既知の通常使用され、生理的に許容される賦形剤と、担体(たとえばアラビアゴム、タルク、デンプン、糖(たとえばマンニトール、メチルセルロース、ラクトース)、ゼラチン、界面活性剤、ステアリン酸マグネシウム、シクロデキストリン、水溶性担体もしくは非水溶性担体、希釈剤、分散剤、乳化剤、潤滑剤、保存剤および香味料(たとえば精油))とを組み合わせることができる。本発明の細菌は、ナノ微粒子等の微粒子の組成物に分散させることも可能である。
【0072】
本発明の非病原性細菌および/または弱毒化細菌を製造する可能な様式は、以下のとおりである。
【0073】
(A)変異誘発、選択、および/または標的ゲノム修飾によって毒性細菌株、好ましくはサルモネラ菌株を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。弱毒化細菌株、好ましくはサルモネラ菌株を次のとおりに処置することができる。
【0074】
(i)恒常的なSipB/IpaB発現をもたらす負の調節DNAのゲノム欠失。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、分泌系、輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0075】
(ii)恒常的なSipB/IpaB発現をもたらす正の調節DNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、分泌系、輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0076】
(iii)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0077】
(B)変異誘発、選択および標的ゲノム修飾によってリステリアまたは赤痢菌等の毒性の細胞内病原性細菌を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。この弱毒化細胞を次のとおりに処置する。
【0078】
(i)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0079】
(C)変異誘発、選択および標的ゲノム修飾によって無毒性赤痢菌菌株を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。この弱毒化細胞を次のとおりに処置する。
【0080】
(i)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0081】
(D)変異誘発、選択および標的ゲノム修飾によって大腸菌、ビブリオ等の非病原性細菌または細胞外病原性細菌を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。この弱毒化細胞を次のとおりに処置する。
【0082】
(i)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0083】
[図1]相当量のTAMが異なるマウス腫瘍モデルで検出できることを示す。直径1〜1.5cmの腫瘍を、1×106B78−D14細胞(a)、1×1044T1細胞(b)および1×106P815−PSA細胞(c)を皮下注射したマウスから分離した。さらに、トランスジェニックMMTV−Her2/new FVBから自発性乳腺腫瘍を分離した(d)。腫瘍組織を固定してパラフィンに包埋した。ビオチン化抗F4/80モノクローナル抗体で腫瘍切片を免疫染色し、続いてヘマトキシリンで対比染色した(右側)。対照として、F4/80抗体を使用せずにアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼによる染色を行った(左側)。
【0084】
[図2]ネズミチフス菌Δ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す。腫瘍を有するマウス(群あたりおよびt時点でn=3マウス)に、1×106のネズミチフス菌Δ−aroAを静脈内感染させてから4時間後、6時間後、および7日後に、分離腫瘍細胞および対照として脾臓細胞のコロニー形成単位/細胞数(a)ならびに感染細胞/細胞数(b)を決定した。L−Topアガーに、段階希釈した細胞ライセートを播種することによってコロニー形成単位を決定し、非溶解のゲンタマイシン処置細胞を播種することによって感染した細胞数を決定した。右下がり縞のカラムは、ゲンタマイシンを使わずに処置した全脾臓細胞を表し、右上がり縞のカラムは、ゲンタマイシン処置した脾臓細胞を表す。横縞のカラムは、ゲンタマイシンを使わずに処置した全腫瘍細胞画分を表す。縦縞のカラムは、ゲンタマイシン処置した全腫瘍細胞画分を表す。黒カラムはマクロファージ画分を表し、白カラムはマクロファージが枯渇した画分を示す。いずれの時点においても、マクロファージが枯渇した腫瘍細胞と比較すると、マクロファージ画分においてかなり多くの細胞が見られた。感染から4時間後および6時間後、ほとんどの細菌は細胞内にあった。対して感染から7日後、無処置の全腫瘍細胞と比較すると、ゲンタマイシン処置した群においてコロニー形成単位数によって決定したように、10倍以上の細菌が細胞外で見られた。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差、**:p<0.01、***:p<0.001、(スチューデントのt検定)であった。
【0085】
[図3]腫瘍を有するマウスにサルモネラを静脈内感染させることにより、腫瘍関連マクロファージにおいて感染から6時間後にカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発し、感染から7日後には誘発しないことを示す。4T1腫瘍を有するマウスにサルモネラを感染させてから4時間後、6時間後および7日後、分離し溶解した細胞のカスパーゼ−1活性化(a)およびPARP切断(b)をウエスタンブロット法によって分析した。カスパーゼ−1抗体は、カスパーゼ−1の20kDaの活性サブユニットを検出し、PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。カスパーゼ−1活性化およびPARP切断は、全細胞ならびに感染から6時間後のマウス由来の腫瘍マクロファージ画分で検出できたが、マクロファージを枯渇した画分では検出できなかった。感染から7日後、カスパーゼ−1またはアポトーシスは、どの画分でも検出できなかった。GAPDHをローディング対照として用いた。感染から7日後、FACSによって相対量のTMAを決定した。棒グラフは、群毎に分析した3つの腫瘍の平均値±標準偏差を表す(c)。感染から7日後、サルモネラはマクロファージ数に影響を及ぼさなかった。
【0086】
[図4]aroA変異体フレクスナー赤痢菌菌株の特徴付けを示す。(a)LB培地中37℃、180rmpでの増殖速度の決定。一晩培養物を本培養用に1:20に希釈して、一時間ごとに外径を測定した。プラスミドのない無毒性菌株のフレクスナー赤痢菌BS176を、LB培地で、0.3外径/時間の最大増殖速度によって特徴付けた。これに対して毒性菌株のフレクスナー赤痢菌M90Tの最大増殖速度は、若干低下した0.2外径/時間であった(a)。aroA変異体を保有する菌株の最大増殖速度は、実質的に低下したものであった。M90TΔ−aroAの最大増殖速度は、野生型フレクスナー赤痢菌M90Tの最大増殖速度よりも2.5倍遅かった。ここでも、M90TΔ−aroAと比較して、BS176Δ−aroAの最大増殖速度は、若干高かった。(b)HeLa細胞を用いた浸潤アッセイ。100:1の感染効率で感染させた。この野生型菌株M90Tに比べて、35分間の感染(結合)および感染後1時間(浸潤)、続いてコロニー形成単位を決定した。フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA菌株(M90TΔ)は、その接着挙動または浸潤挙動において、野生型菌株と比較すると何ら相違を示さなかった。これに対して無毒性菌株のフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA(BS176Δ)菌株は、浸潤障害を示した。(c)細胞内の複製潜在能力を決定するために、100:1の感染効率で1時間、細胞を感染させた。続いて、ゲンタマイシンの存在下でさらに2時間、細胞をインキュベートして、溶解細胞のコロニー形成単位を決定した。前述の野生型菌株は細胞内複製の能力があったが、M90TΔまたはBS176Δのいずれも能力がなかった。(d)細胞間伝播の能力を決定するために、500:1の感染効率で1時間、HeLa細胞を感染させた。次いで、この感染した細胞を20グレイで20分間放射線照射し、Hela細胞の複製をブロックした。感染し照射した細胞および非感染HeLa細胞を70:1の割合で、2時間、8時間および12時間、ゲンタマイシンの存在下で同時インキュベートした。続いて、非溶解細胞をSea−Plaqueアガロースで段階希釈して、BHIアガープレート上に播種した。同時感染から12時間後、M90TΔのコロニー形成単位は17倍増大した。これに対して無毒性菌株BS176Δのコロニー形成単位は、わずか3倍増大し、細胞間伝播に対してM90TΔの損なわれていない潜在力を示唆した。(e)感染から1時間後(補足データ)および4時間後、HeLa細胞をGiemsa染色することによって、M90TΔの細胞間伝播能力を確認した。カスパーゼ−1活性化およびアポトーシス誘導を誘発するaroA変異体の能力を決定するために、J774A.1マウスマクロファージを感染させ、カスパーゼ−1の20kDa活性断片を認識するカスパーゼ−1抗体(f)ならびに85kDa切断断片を認識するPARP抗体(g)を用いて、細胞溶解物をウエスタンブロット法によって異なる時点で分析した。MT90Δは、カスパーゼ−1誘導およびアポトーシスの双方を誘発することができたが、BS176Δはできなかった。M90TΔによるアポトーシス誘導およびカスパーゼ−1プロセシングは、カスパーゼ−1特異的インヒビターYVAD−CHO(2.5mM)によって完全にブロックされた。β−アクチンをローディング対照として用いた。棒グラフは、3種類の異なる実験の平均値±標準偏差、***:p<0.0001(スチューデントのt検定)を表している。
【0087】
[図5]フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す。腫瘍を有するマウス(群およびt時点でn=3マウス)を、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA(c、d)およびBS176Δ−aroA(a、b)で静脈注射で感染させてから6時間および7日後に、分離した腫瘍細胞および対照として脾臓細胞のコロニー形成単位/細胞数(a、c)ならびに感染細胞/細胞数(b、d)を決定する。L−Topアガーに、細胞ライセートの段階希釈物を播種することによってコロニー形成単位を決定し、非溶解したゲンタマイシン処置細胞を播種することによって感染した細胞数を決定した。右下がり縞のカラムは、ゲンタマイシンを使用せずに処置した全脾臓細胞を表し、右上がり縞のカラムは、ゲンタマイシンで処置した脾臓細胞を表す。横縞のカラムは、ゲンタマイシンを使用せずに処置した全腫瘍細胞画分を表す。縦縞のカラムは、ゲンタマイシンで処置した全腫瘍細胞画分を表す。黒カラムはマクロファージ画分を表し、白カラムはマクロファージが枯渇した画分を示す。いずれの時点においても、マクロファージが枯渇した腫瘍細胞と比較すると、マクロファージ画分においてかなり多くの細胞が見られた。いずれの時点においても、M90TΔ−aroAの大部分は細胞内に見られた。これに対して無菌性菌株BS176Δ−aroAによる感染から6時間後、50倍以上の細菌が細胞外で見られた(a、b)。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差、**:p<0.01、***:p<0.001、(スチューデントのt検定)であった。
【0088】
[図6]腫瘍を有するマウスにフレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAを静脈注射で感染させることで、感染から4時間、6時間および7日後、TAMにおいてカスパーゼ−1プロセシングならびにアポトーシスを誘発し、かつ感染から7日後マクロファージ数を実質的に減少させたが、BS176Δ−aroAによる感染では見られなかったことを示す。4T1腫瘍を有するマウスに赤痢菌を感染させてから4時間、6時間および7日後、分離し溶解した細胞のカスパーゼ−1活性化(a)ならびにPARP切断(b)をウエスタンブロット法で分析した。カスパーゼ−1抗体は、カスパーゼ−1の20kDa活性サブユニットを検出し、PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。カスパーゼ−1活性化およびPARP切断は、M90TΔに対しては、感染から4時間および6時間後、マウス由来の腫瘍の全細胞およびマクロファージ画分において、ならびに感染から7日後、マクロファージ画分において検出できた。しかしBS176Δに対しては検出できなかった。ローディング対照としてGAPDHを用いた。感染から7日後、相当量のTAMがFACSによって決定され(c、d)、感染から7日後M90TΔはマクロファージ数において実質的な減少をもたらしたが、BS176Δではこの現象は見られなかった。ナイーブマウス、BS176ΔおよびM90TΔに感染したマウスの組織学的検査(e)によって、M90TΔ感染から7日後のマウス由来の腫瘍において、マクロファージ(抗F480染色)および強い炎症(抗CD45染色)の実質的な減少、ならびにサイトケラチン陽性4T1腫瘍細胞(抗CK染色)のほぼ完全な減少が明らかになったが、ナイーブマウスまたはBS176Δ感染のマウスではこの現象は見られなかった。棒グラフは、群毎に分析した4つの腫瘍の平均値±標準偏差、**:p<0.01、**:p<0.001(スチューデントのt検定)を表す。
【0089】
[図7]4T1腫瘍を有するマウスにM90TΔを静脈注射で感染させることで、腫瘍増殖がブロックされ、BS176Δの場合はブロックされないことを示す。(a)腫瘍移植から14日後、群あたりn=8マウスに1×106細菌を静脈注射で投与した。1×PBS静脈注射で対照群を処置した。M90TΔによる感染後、腫瘍増殖が実質的に減少し、続いて腫瘍増殖がブロックされた。BS176Δによる感染は、少量ではあるが有意な腫瘍増殖の減少をもたらした。腫瘍接種から31日後、動物福祉の理由でナイーブマウスおよびBS176Δマウスを屠殺した。すべての群に対してn=8、M90TΔに対してn=6(腫瘍増殖を比較するために、2匹のマウスを屠殺した)およびn=3(コロニー形成単位の決定およびFACS分析のために、3匹のマウスを屠殺した)。感染した動物は、それぞれ最初の感染から1日目−18、18日目−48、48日目−68。**:p<0.01、***:p<0.001。(b)感染から48日後、マクロファージ数およびコロニー形成単位を、それぞれFACSおよび段階希釈法で決定した。非増殖腫瘍は、極めて低いマクロファージ数を示し、細菌が検出できなかった。感染から49日目に、残りの3匹のマウスに1×106細菌を静脈注射で投与した。腫瘍の大きさが縮小したものは検出されなかった。感染から68日目に、コロニー形成単位を決定し、続いて組織学的検査を行った。細菌は、腫瘍、肝臓および脾臓で検出できなかった。
【0090】
[図8]M90TΔ−aroAは、ex vivoヒト腹水細胞から分離したマクロファージにおいてTAMを主に標的にして、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す(a)。ある患者からの細胞を分離した後3つの異なる細胞画分を、野生型フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAを用いて100:1の感染効率で1時間ex vivo感染を行った。300μg/mlゲンタマイシンと共に1時間のインキュベーション後、段階希釈物をBHIアガー上に播種した。翌日、コロニー形成単位を決定した。感染細胞中のカスパーゼ−1活性化およびPARPプロセシングをウエスタンブロット法で分析した(b)。この抗体は、プロカスパーゼ−1(45kDa)および活性化20kDaのサブユニットを検出した。マクロファージが枯渇した画分には、検出可能なレベルのプロカスパーゼ−1が含まれていないことに留意されたい。PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。ローディング対照としてGAPDHを用いた。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差、***:p<0.001(スチューデントのt検定)であった。
【0091】
[図9]カスパーゼ−1がマクロファージによって独占的に発現されることを示す。カスパーゼ−1発現についての、RT−PCR(左側)およびウエスタンブロット(右側)による分析。以下のプライマーを用いた。アクチンs1 5’−GTCGTACCACAGGCATTGTGATGG−3’、アクチンas 5’−GCAATGCCTGGGTACATGGTGG−3’;Casp1RT_左5’−TGCCCTCATTATCTGCAACA−3’、Casp1RT_右5’−GGTCCCACATATTCCCTCCT−3’。
【0092】
[図10]RAWマクロファージにおけるカスパーゼ−1サルモネラおよび赤痢菌のin vitro活性化を示す。RAW264.7マクロファージに10:1の感染効率で、フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA(対数増殖期の中間部)およびネズミチフス菌Δ−aroA(定常増殖期)を異なる時点で感染させた。続いて、細胞ライセートのカスパーゼ−1活性化についてウエスタンブロットを行った。aroA欠失を包含する赤痢菌菌株は、野生型赤痢菌菌株と比較するとカスパーゼ−1活性化において若干の遅れを示したが、2時間後同じ活性に達した。サルモネラ菌株は、インキュベーションから3時間後、カスパーゼ−1プロセシングを誘発した。対数期に収集したサルモネラ菌株は、このアッセイ(データを図示せず)においてカスパーゼ−1プロセシングを誘発しなかった。その後のすべての感染実験のために、定常期で収集した菌株を用いた。
【0093】
[図11]Giemsa染色によるJ774A.1マクロファージを示す。表示したものは、それぞれM90T(左側)、M90TΔ−aroA(中央)およびBS176Δ−aroA(右)による感染から1時間後のJ774A.1マクロファージである。
【0094】
[図12]ネズミチフス菌Δ−aroAに対するゲンタマイシンの細胞外活性および細胞内活性を示す。(a)1×106ネズミチフス菌Δ−aroAを、50、100、200および300μg/mlのゲンタマイシンを用いて1/2時間、1時間および2時間処置し、次いでコロニー形成単位を段階希釈法で決定した。(b)J744A.1マクロファージを、1×106ネズミチフス菌Δ−aroA(対数増殖期)で感染させた。DMEM培養液で細菌を3回洗浄して、4000rpm(4℃)で10分間遠心する。感染から1時間後、細胞を、50、100、200および300μ/mlのゲンタマイシンとともに1時間インキュベートし、続いて10μg/mlのゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした。細胞を溶解した後、コロニー形成単位を段階希釈法で決定した。MACS分離の間に細胞が再感染しないようにしかつ細胞外細菌数を算定するためには、1時間のインキュベーション間に細胞外細菌を死滅させるか、または実質的に減少させる必要がある。(a)に示したように、50、100または200μg/mlのゲンタマイシンとともに1時間インキュベートすると、対照と比較して、コロニー形成単位の3倍、10倍または100倍の減少をもたらした。これと対照的に、300μg/mlとともにインキュベートした場合、1時間のインキュベーション後、遊離細菌が1000倍以上減少し、2時間のインキュベーション後には細菌は完全に除去された。上述の濃度での細胞内細菌の活性を決定するため、細胞分離で使用したプロトコールと同様のものを用いた(b)。100〜300μg/ml用量のゲンタマイシンでは、これらの短いインキュベーション時間で細胞外細菌に対して僅かな活性を示す50μg用量と比較すると、わずかに1.5倍の活性増大を示した。100〜300μg/ml用量のゲンタマイシンでは、細胞内コロニー形成単位において有意差がなかった。したがって、最も高い300μg/ml用量のゲンタマイシンを今後の実験のために選択した。この用量は、細胞分離で用いた実験設定において細胞外細菌を1000倍以上減少させることになる。
【0095】
[図13]細胞分離の実験予定を示す。(a)腫瘍除去および全腫瘍細胞の分離後、(b)0.001%デオキシリボヌクレアーゼおよび2μg/mlディスパーゼで処置することで、全腫瘍細胞の一部分(1)を300μg/mlのゲンタマイシンで、またはゲンタマイシンを使わずに1時間処置した。処置後、コロニー形成単位およびカスパーゼ−1活性化について細胞を分析した。ゲンタマイシンで処置した標本は、主に細胞内細菌を含み、これに対して未処置の標本は細胞外細菌および細胞内細菌を含む。全腫瘍細胞の第2の部分(2)を、抗F4/80(IgG)抗体で標識化した。次いで、磁気ビーズで標識化した第2の抗IgG抗体を加えた。磁場でMACSカラムを用いて分離を行い、マクロファージ画分およびマクロファージ枯渇画分の2つの細胞画分をもたらした。マクロファージ画分の純度は、96〜99%(n=7)である。遊離細菌による細胞の再感染を防止するために、処置の間を通じて300μg/mlゲンタマイシンとともにインキュベートしたこれらの画分をもちいて、コロニー形成単位およびカスパーゼ−1プロセシングも評価した。マクロファージが枯渇した画分(d)と比較して、マクロファージ画分(c)が含む細胞量が実質的に低いことに留意されたい。コロニー形成単位を数えるために、播種後に標準化(コロニー形成単位/細胞数、感染細胞/細胞数)を行った。ウエスタンブロットのため、同等の細胞数を添加した。
【0096】
[図14]細胞分離後、3つの細胞画分の光学顕微鏡検査(×100)を示す。感染した細胞の数に関して結果に影響を及ぼし得る細胞分離の有効性を評価するために、3つの異なる細胞画分について光学顕微鏡検査を行った。左側パネルは、全腫瘍細胞の画分を示し、中央のパネルは分離したマクロファージを示す。左側パネルは、マクロファージが枯渇した画分を示す。すべての細胞画分の細胞は、主に単細胞のようにみえる。
【0097】
[図15]腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す。コロニー形成単位(a)および感染から6時間後にL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(b)を決定する。腫瘍を有するBalb/cマウス(n=4)に、ネズミチフス菌Δ−aroA(1×106)を感染させた。感染から6時間後、脾臓および腫瘍を摘出して、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染した細胞の数を決定した。
【0098】
[図16]腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAをin vivo感染させたことを示す。コロニー形成単位(a、b)ならびに感染から4時間後、6時間後および7日後にL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(c、d)を決定する。腫瘍を有するBalb/cマウス(n=4)に、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA(1×106)を感染させた。感染から4時間後、6時間後および7日後、脾臓および腫瘍を摘出して、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染細胞数を決定した。
【0099】
[図17]腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す。コロニー形成単位(a、b)および感染から6時間後にL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(c、d)を決定する。腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウス(n=4)に、ネズミチフス菌Δ−aroA(1×106)を感染させた。感染から6時間後、脾臓および腫瘍を摘出して、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染細胞数を決定した。感染動物および非感染動物において感染から7日後のマクロファージの相対的割合(e)を、FACS分析によって決定した。移植腫瘍で得た結果と同様に、自発性乳腺がんを有するトランスジェニック動物モデルにおけるマクロファージが枯渇した腫瘍細胞と比較すると、サルモネラは約100倍も高い効率でTAMを感染させた(a〜d)。このモデルにおいても、細菌の大部分は細胞内に存在した。サルモネラ処置は、感染から7日後の腫瘍においてマクロファージ数に測定可能な減少をもたらさなかった。
【0100】
[図18]M90T、M90TΔ−aroAおよびBS176Δ−aroAが、ex vivoトランスジェニックマウス由来の自発性乳腺がんから分離したマクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す。Balb/c(a、b)およびMMTV−Her2(c、d)由来の細胞を分離した後、3つの異なる細胞画分に、フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS186Δ−aroAを100:1の感染効率で1時間、ex vivo感染させた。300μg/mlゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした後、ウエスタンブロットのために異なるプローブを製造した。この抗体は、プロカスパーゼ−1(45kDa)および活性化カスパーゼ−1(20kDa)のサブユニットを検出した。マクロファージが枯渇した画分には、検出可能なレベルのプロカスパーゼ−1が含まれていないことに留意されたい。PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出する。
【0101】
[図19]M90TΔ−aroAが、自発性乳腺がんを有するトランスジェニックマウスの腫瘍のマクロファージに主に存在し、感染から7日後、実質的にマクロファージ数を減少させたことを示す。コロニー形成単位(a、c)および感染から7日後のL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(b、d)を決定する。MMTV−Her2/new FVBマウス(n=4)に、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびBS176Δ−aroA(1×106)を感染させた。感染から7日後、脾臓および腫瘍を摘出し、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染細胞数を決定した。感染動物および非感染動物において感染から7日後のマクロファージの相対的割合(e)を、FACS分析によって決定した。フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAは、感染から7日後、依然として主にTMAを感染させていた。発明者らも、感染から7日後のマクロファージの相対的割合(e)を、FACS分析によって決定した。BS176Δ−aroAに感染したマウスと比較すると、感染から7日後、マクロファージの量において有意差があった。***:p<0.005。静脈注射による感染から7日後、M90TΔ−aroAは、自発性腫瘍のマクロファージ内に主に存在している(マクロファージが枯渇した画分と比較すると5倍の差)。非浸潤性BS176Δ−aroA菌株は、極めて低い細胞数で、依然として腫瘍内に存在し、かつ主にマクロファージ内にも見られる。サルモネラと対照的に、非毒性BS176Δ−aroA菌株と比較すると、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発する能力がある感染性M90TΔ−aroA菌株に感染したマウスの腫瘍においてマクロファージ数は、実質的に4倍以上(***:p<0.005)減少している。
【0102】
[図20]腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスにM90TΔ−aroAを感染させると、静脈注射による感染から6時間後および7日後、腫瘍のマクロファージ画分においてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発するが、BS176Δ−aroAを感染させると、この現象が見られないことを示す。腫瘍を有するMMTV−Her2マウス(n=4)に、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δaro−A(1×106)を静脈注射で感染させる。6時間後および7日後、ウエスタンブロット法によって細胞画分を分離し、分析した。この抗体は、プロカスパーゼ−1(45kDa)および活性(20kDa)のサブユニットを検出した。抗切断PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。自発性腫瘍を有するトランスジェニックマウスに、静脈注射でM90TΔ−aroAを感染させると、感染から6時間後、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスの実質的な減少をもたらした。サルモネラと対照的に、アポトーシス促進性活性が7日目に存続していた。腫瘍を移植した動物で観察された結果と同様に、M90TΔ−aroA感染から7日後のマウスの全腫瘍細胞画分において、測定できるカスパーゼ−1誘導がなかった。これは、これらの腫瘍においてマクロファージが実質的に減少したことによって説明されると思われる。
【0103】
[図21]M90TΔ−aroAが、ex vivoヒト腹水細胞から分離したTAMを主に標的にすることを示す。腹水細胞は、2つの異なる細胞集団からなり、一方の細胞集団には接着細胞があり、他方の細胞集団には懸濁細胞がある。この2つの細胞集団(a、b)を分離細胞型として処置した。ある患者から細胞を分離した後、3つの異なる細胞画分に、野生型フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAを100:1の感染効率で1時間、ex vivo感染させ、対照としてRAW264.7マクロファージを感染させた。300μg/mlゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした後、段階希釈物をBHIアガー上に播種した。翌日、全コロニー形成単位を決定した。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差;***:p<0.001(スチューデントのt検定)であった。
【0104】
[図22]pMOhlipaプラスミドのグラフィカル模式図である。
【0105】
[図23]大腸菌pMOhlipaによるIpaB分泌の決定を示す。M90T(陽性、IpaB 64kDa)によって、およびBS176(陰性)によって感染させたRAW264.7マクロファージを対照として用いた。HlyAシグナル配列をIpaBに融合させたために、大腸菌pMOhlipaによるIpaB分泌を70kDa生成物によって検出した。
【0106】
[図24]in vitro大腸菌によるカスパーゼ−1活性化についてのウエスタンブロット分析を示す。RAW264.7マクロファージに、異なる大腸菌DH5α菌株(定常増殖期)を3時間および6時間感染させた。カスパーゼ−1活性化に対する陽性対照として、RAW264.7マクロファージにフレクスナー赤痢菌M90T(対数増殖期の中間部)を感染させかつスタウロスポリン(4μM)を用いて3時間処置した。ローディング対照としてGAPDHを用いた。
【0107】
[図25]in vivo脾臓組織におけるカスパーゼ−1活性化に関するウエスタンブロット分析を示す。腫瘍を有するBalb/cマウスに1×106大腸菌pMOhlipaをin vivo感染させ、脾臓細胞の分離およびカスパーゼ−1活性化のウエスタンブロット分析を行った。Balb/cから分離したTAMにM90Tを感染させ、カスパーゼ−1活性化に関する陽性対照とした。ローディング対照としてGAPDHを用いた。
【0108】
[図26]プラスミドpSPR17のグラフィカル模式図である。
【0109】
すべての引用文献および特許の内容を、参考として本明細書で援用する。以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、その実施例に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、相当量のTAMが異なるマウス腫瘍モデルで検出できることを示す図である。
【図2】図2は、ネズミチフス菌Δ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す図である。
【図3】図3は、腫瘍を有するマウスにサルモネラを静脈内感染させることにより、腫瘍関連マクロファージにおいて感染から6時間後にカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発し、感染から7日後には誘発しないことを示す図である。
【図4】図4は、aroA変異体フレクスナー赤痢菌菌株の特徴付けを示す図である。
【図5】図5は、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す図である。
【図6】図6は、腫瘍を有するマウスにフレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAを静脈注射で感染させることで、感染から4時間、6時間および7日後、TAMにおいてカスパーゼ−1プロセシングならびにアポトーシスを誘発し、かつ感染から7日後マクロファージ数を実質的に減少させたが、BS176Δ−aroAによる感染では見られなかったことを示す図である。
【図7】図7は、4T1腫瘍を有するマウスにM90TΔを静脈注射で感染させることで、腫瘍増殖がブロックされ、BS176Δの場合はブロックされないことを示す図である。
【図8】図8は、M90TΔ−aroAは、ex vivoヒト腹水細胞から分離したマクロファージにおいてTAMを主に標的にして、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す図(a)、感染細胞中のカスパーゼ−1活性化およびPARPプロセシングをウエスタンブロット法での分析により示す図(b)である。
【図9】カスパーゼ−1がマクロファージによって独占的に発現されることを示す図である。
【図10】RAWマクロファージにおけるカスパーゼ−1サルモネラおよび赤痢菌のin vitro活性化を示す図である。
【図11】Giemsa染色によるJ774A.1マクロファージを示す図である。
【図12】ネズミチフス菌Δ−aroAに対するゲンタマイシンの細胞外活性および細胞内活性を示す図である。
【図13】細胞分離の実験予定を示す図である。
【図14】細胞分離後、3つの細胞画分の光学顕微鏡検査(×100)を示す図である。
【図15】腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す図である。
【図16】腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAをin vivo感染させたことを示す図である。
【図17】腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す図である。
【図18】M90T、M90TΔ−aroAおよびBS176Δ−aroAが、ex vivoトランスジェニックマウス由来の自発性乳腺がんから分離したマクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す図である。
【図19】M90TΔ−aroAが、自発性乳腺がんを有するトランスジェニックマウスの腫瘍のマクロファージに主に存在し、感染から7日後、実質的にマクロファージ数を減少させたことを示す図である。
【図20】腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスにM90TΔ−aroAを感染させると、静脈注射による感染から6時間後および7日後、腫瘍のマクロファージ画分においてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発するが、BS176Δ−aroAを感染させると、この現象が見られないことを示す図である。
【図21】M90TΔ−aroAが、ex vivoヒト腹水細胞から分離したTAMを主に標的にすることを示す図である。
【図22】pMOhlipaプラスミドのグラフィカル模式図である。
【図23】大腸菌pMOhlipaによるIpaB分泌の決定を示す図である。
【図24】in vitro大腸菌によるカスパーゼ−1活性化についてのウエスタンブロット分析を示す図である。
【図25】in vivo脾臓組織におけるカスパーゼ−1活性化に関するウエスタンブロット分析を示す図である。
【図26】プラスミドpSPR17のグラフィカル模式図である。
【実施例】
【0111】
実施例1:
方法
プラスミド。プラスミドpKD3、pDK4(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L. Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)およびpCP20(Cherepanov, P.P. & Wackernagel, W. Gene 1995, 158:9−14)を保有する大腸菌(Escherichia coli)菌株を、Wuerzburg大学、バイオテクノロジー学部から入手した。このプラスミドpKD3およびpDK4は、π依存性であり、かつFLPリコンビナーゼ認識部位(FRT部位)に隣接するクロラムフェニコール耐性遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子をそれぞれ保有する。pCP20プラスミドは、1つの温度感受性レプリコンと、l cl857リプレッサーの制御下においてIpRプロモーターから転写された酵母FLPコンビナーゼとを含む(Cherepanov, P.P. & Wackernagel, W. Gene 1995, 158:9−14)。
【0112】
培地、化学薬品および他の試薬。アンピシリン耐性、クロラムフェニコール耐性(CmR)およびカナマイシン耐性(KmR)の形質転換体を、100、25、および30μg/mlでそれぞれの抗生物質を含有するトリプチケースソイアガー(1.2%アガー)(TSA)(Difco Laboratories)上で選択した。計1mMのL−アラビノース(Sigma)を使用した。オリゴヌクレオチドはMWG社製であった。特に明記しない限り、酵素はFermentas社製であった。すべてのPCR検査では、Taqポリメラーゼを使用した。Taq(Biotherm, Genecraft)ポリメラーゼは、製造者の説明書に従って使用し、クローニングおよび変異誘発用のDNAを生成した。Qiagen製品(Hilden, Germany)を用いて、プラスミドDNAの分離、断片のゲル精製またはPCR産物の精製を行った。
【0113】
細菌株、増殖条件および遺伝学的方法。使用したネズミチフス菌(S.typhimurium)Δ−aroA菌株は、プラスミドベースのカナマイシン耐用を持つ(プラスミドpTolCKan、Hotz et al.、未発表データ)。プラスミド安定性は、in vivoで100%であり、したがってこの菌株を用いることで、カナマイシン上での選択が可能になった(データは図示せず)。使用したフレクスナー赤痢菌(S.flexneri)5a菌株は、NiceのSophia−Antipolis大学からの野生型M90T[ストレプトマイシン(Sm)耐性](Allaoui, A., Mounier, J., Prevost, M.C., Sansonetti, P.J. & Parsot, C. Mol Microbiol 1992, 6:1605−1616)およびその非浸潤性変異体BS176(毒性プラスミドpWR100が欠如している)(Sansonetti, P.J., Kopecko, D.J. & Formal, S.B. Infect lmmun 1982, 35:852−860;Buchrieser, C. et al. Mol Microbiol 2000, 38:760−7)である。すべての菌株を、トリプチケースソイブロス(TSB)(Becton Dickinson and Co.)、トリプチケースソイアガー(1.2%アガー)(TSA)(Difco Laboratories)、Luria−Bertaniブロス(LB)(Miller, J.H. A short course in Bacterial Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1992)またはブレインハートインフュージョン(BHI)の培地上で規定どおりに増殖した。1リットルあたり100mgのコンゴーレッド染料(Cr)を含有するTSAを用いて、赤痢菌(Shigella)菌種のCr+クローン(Maurelli, A.T., Blackmon, B. & Curtiss, R., 3rd.Infect lmmun 1984, 43:195−201)を選択した。必要に応じて、Amp(100μg/ml)、Kan(25μg/ml)またはCm(30mg/ml)(すべてSigma Chemical社製)を細菌培養物に加えた。pCP20を含有する菌株は、以下に特に記述しない限り30℃でインキュベートした。220kb毒性プラスミドpWR100のM90Tからの分離は、大型コンストラクトキット(QIAGEN)によって行った。
【0114】
直鎖DNA製造。抗生物質耐性遺伝子を含有する直鎖DNAは、DatsenkoおよびWanner(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)によって記述された方法を用いて、pKD3またはpKD4から製造した。PCR反応用のプライマーは、目的の遺伝子と50bpの相同性を有しならびにpKD3またはpKD4から準備するために使用するP1およびP2の部位を含有するようにデザインした。挿入断片の検証(下記)は、プライマーAroAupおよびAroAdownを用いて行った。PCR反応は、製造者(Biotherm, Genecraft)の推奨に従ってTaqポリメラ−ゼを用いて行った。
【0115】
PCR分析は、コロニーPCR法によって行った。簡潔にいうと、コロニーを50μlの水に再懸濁させて、10分間沸騰させDNAライセートを作製する。PCR法による適切なプライマーセットを用いて、各ライセートをアッセイした。PCR反応は、製造者(Biotherm, Genecraft)の推奨に従ってTaqポリメラ−ゼを用いて行った。以下のプライマーを使用した。
AroAup GGGGTTTTTATTTCTGTTGTAGAGAGTTGAGTTCATGGAATCGTGTAGGCTGGAGCTGCTTC
AroAdown GGCCGTGCATTTGGGATCAAGAATCGTCACTGGTGTATCTGCATATGAATATCCTCCTTA
AroAFr_up GATTTCTACCGCAATGACG
AroAFr_down GGAAACAAGTGAGCGTTTC
C1 TTATACGCAAGGCGACAAGG(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
C2 GATCTTCCGTCACAGGTAGG(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
K1 CAGTCATAGCCGAATAGCCT(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
K2 CGGTGCCCTGAATGAACTGC(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
増殖において減弱されているがその毒性においては減弱されてない菌株を作製するために、発明者らは、遺伝子操作した菌株のフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAから始めた。したがって、フレクスナー赤痢菌M90Tの200kb毒性プラスミドpWR100を大型コンストラクトキット(QIAGEN)によって分離した。次いで、この毒性プラスミドおよびアンピシリン耐性を保有するペルパープラスミドpCD20を、すでに構築されているBS176Δ−aroA菌株に形質転換した。この二重形質転換および30℃で一晩のインキュベーションの後、毒性プラスミドpWR100(pWR100_up 5’−GATGCAGGCCAAGAGGTTAG−3’;pWR100_down 5’−GCGTTGATGACCGCATC−3’)およびaroAノックアウト(AroAFr_up 5’−GATTTCTACCGCAATGACG−3’;AroAFr_down 5’−GGAAACAAGTGAGCGTTTC−3’)を求めてアンピシリン耐性コロニーをスクリーニングした。この菌株をフレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAと名付けた。温度感受性レプリコンを含有するpCP20プラスミドを、43℃で一晩インキュベートすることによってキュアリングした。
【0116】
HeLa細胞浸潤アッセイおよび生存アッセイ。HeLa細胞によるゲンタマイシン保護アッセイを、若干の修飾を加えて前述(Elsinghorst EA, 1994)のように行った。複数の75cm2フラスコ内で10%ウシ胎仔血清(FBS, Gibco)、2mM L−グルタミン(Gibco)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(双方とも180μg/ml、Gibco)を含有するDulbecco変法イーグル培地(DMEM, Gibco)で、HeLa細胞(ATCC CCL−2)単層をセミコンフルエンスになるまで増殖させた。1つのフラスコを0.25%トリプシン(Pan)でトリプシン処理し、次いでその細胞濃度をDMEMで2×105細胞/mlまで調整した。6穴プレートに2mlのHeLa細胞を播種し、約90%のコンフルエンスになるまで5%CO2中、37℃で一晩増殖させた。細菌を加える2時間前に、HeLa細胞を洗浄してDMEMを交換した。細菌の対数期培養物(LB培地で増殖した)を、100の推定感染効率で加えた。細菌を加えてから、プレートを5%CO2中、37℃で1時間、インキュベートした。D−リン酸緩衝生理食塩水(Gibco)で、前述のプレートを3回洗浄し、次いでゲンタマイシン(100μg/ml)を含有するDMEMとともに、5%CO2中、37℃で1時間、インキュベートした。特定の時点後に、0.1%Triton X−100溶液中でHeLa細胞を10分間溶解させた。この細菌をLBアガープレート上に播種し、次いで37℃で18時間増殖させてから細菌コロニーをカウントした。
【0117】
細胞内増殖アッセイおよび細胞間増殖アッセイ。細胞内増殖および細胞間伝播の挙動を調べるために、初めに細胞のGiemsa染色法を用いた。簡潔にいうと、カバーガラス(直径20mm)上の直径45mmの組織培養プレート中で100:1の感染効率で1時間感染させたHeLa細胞(1×105)を1×PBSで2回洗浄し、室温でメタノールを用いて5〜7分間固定した。プレートを風乾し、製造者の説明書に記述されているように製造したGiemsa染料(Sigma)を用いて15〜60分間染色した。プレートを蒸留水で3回洗浄してから、風乾させて、油浸下で観察した。感染から1時間後および4時間後の時点で調べた。
【0118】
L−Topアガーアッセイ。L−Topアガーアッセイを用いて細胞間伝播を決定した。6穴組織培養プレート中でHeLa細胞(7×105)に、500:1の感染効率で1時間感染させてから、1×PBSで2回洗浄した。次いで、感染した細胞に、20グレイで20分間放射線照射した。続いて、非感染HeLa細胞と、放射線照射した赤痢菌感染HeLa細胞とを70:1の割合で、2時間、8時間および12時間インキュベートした。100μg/mlゲンタマイシンとの1時間のインキュベーションの後、ゲンタマイシンの濃度が10μg/mlまで減少した。すべての時点で、Sea−Plaqueアガロース(Biozym Scientific GmbH, Oldendorf)で作製した段階希釈物をBHIアガープレート上に播種した。このアガープレートを37℃で一晩インキュベートした。細菌コロニーの数は、スポットをカウントすることによって決定した。すべてのコロニーは、感染したHeLa細胞を特徴づけていた。
【0119】
マウス。6週齢〜8週齢のメスマウスに、それぞれ100μlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁させた以下のいずれかを皮下に注射した。1×104マウス4T1乳がん細胞(ATCC:CRL−2539)、1×106B78−D14(Rymsa, B., Becker, H.D., Lauchart, W. & de Groot, H. Res Commun Chem Pathol Pharmacol 1990, 68:263−266;Lode, H.N. et al. J Clin Invest 2000, 105:1623−1630)黒色腫細胞、および1×106P815−PSA(J Fensterle, J., Bergmann, B, Yone, CLRP, Hotz, C, Meyer, SR, Spreng, S, Goebel, W, Rapp, UR and I Gentschev.Cancer Gene Therapy 2007)マスト細胞腫細胞。
【0120】
マウスに関わるすべての処置は、「Regierung von Unterfranken」(Wuerzburg, Germany)に従って行った。Balb/c o1a HSD、C57/BL6、DBA−2およびMMTV−Her2/new FVBは、Harlan Winkelmann GmbH(Borchen, Germany)に注文した。すべての動物は、lnstitut fuer Medizinische Strahlenkunde und Zellforschung(MSZ)の動物飼育施設で飼育した。
【0121】
腫瘍についての組織学的分析および免疫組織化学分析。4T1細胞(1×104)、B78−D14細胞(1×106)およびP815−PSA細胞(1×106)を、Balb/c、C57/BL6およびDBA/2マウスに皮下注射した。腫瘍の径が1.5〜2cmまで大きくなったとき、この腫瘍を無菌的に切除した。この腫瘍をホルマリンで固定し、薄切片化して、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0122】
腫瘍部位でマクロファージを識別するために、組織を4%緩衝パラホルムアルデヒド中で1日固定し、パラフィン包埋し、処理して薄切片化した。続いて、(Gouon−Evans, V., Rothenberg, M.E. & Pollard, J.W. Development 2000, 127:2269−2282)に記述されているように、パンマクロファージ抗F4/80ラットモノクローナル抗体(Acris Antibodies GmbH)を用いて薄切片を免疫染色し、次いでペルオキシダーゼをベースにした検出キット(Vector Laboratories)を用いて比反応性を検出した。抗CD45抗体(BD Pharmingen)およびペルオキシダーゼをベースにした検出キット(Vector Laboratories)を用いて、炎症の程度も検査した。
【0123】
腫瘍を有するマウスの静脈(I.v.)注射による感染。注射の前に細菌を対数期の中間部(赤痢菌)または定常期(サルモネラ)で収集して、1×PBSで3回洗浄し、次いで1×PBSで希釈した。細胞を移植してから14日後の4T1腫瘍を有するBalb/cマウスの外側尾静脈に、または0.5年齢の腫瘍を有するメスのMMTV−Her2マウスにこの懸濁液100μlを注射した。腫瘍および脾臓組織での細菌数を決定するために、マウスを屠殺して、臓器を切除し、重さを量り、70μmおよび40μmのセルストレーナーでホモジナイズした。各細胞画分の細胞数をカウントして、コロニー形成単位または感染した細胞の数を決定した。
【0124】
コロニー形成単位および感染した細胞数の決定。コロニー形成単位の数を決定するために、0.1%Triton−X(Roth)を含有する1×PBS中の段階希釈物をLBアガープレート上に播種した。ネズミチフス菌Δ−aroAを用いる実験のために、25μg/mlカナマイシンを含有するpTolCKanLBアガープレートを使用した。このアガープレートを、上下逆さまにして37℃で一晩インキュベートした。細菌コロニーの数は、スポットをカウントすることによって決定した。すべてのコロニーは、細菌コロニーを特徴づけていた。L−Topアガーアッセイ用に、1×PBSで段階希釈物を作製し、次いで5mlのSea−Plaqueアガロース(Biozym Scientific GmbH, Oldendorf)と約40℃で混合させた。LBアガープレート上に希釈物を慎重に滴下した。このアガープレートの底を下にして、37℃で一晩インキュベートした。細菌コロニーの数は、スポットをカウントすることによって決定した。すべてのコロニーは、感染した真核細胞を特徴づけていた。
【0125】
TMAの分離。磁気細胞分離のための染色法。磁気ビーズを用いる細胞標識化のための二段階方法を選択した。第1に、パンマクロファージ抗F4/80(IgG, Acris Antibodies GmbH;IgG, Santa Cruz)抗体で細胞を標識化した。第2に、この標識化細胞を抗IgG抗体で染色し、磁気ビーズ(Miltenyi Biotec GmbH)で標識化した。染色時間は計約30分であった。細胞の抗体標識化は、1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.01%アジ化ナトリウムを含む1×PBS中、4℃で、10〜15分行った。1×PBSで1回洗浄した後、抗体を標識化した第2のミクロビーズとともに前述の細胞をインキュベートした。4℃で10分間インキュベートした後、1回の洗浄段階で、まず非結合粒子を除去した。次いで、ミニカラム(Miltenyi Biotec GmbH)を約0.6テスラ(MACS永久磁石, Miltenyi Biotec)の磁場に設置して、1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.01%アジ化ナトリウムを含む500μl1×PBSで平衡化し、次いで細胞を分離した。磁気ビーズで標識化した細胞を磁場に保持し、スチールウールファイバーに結合させる。このカラムを外部磁場から取り出すと、前述のスチールウールは容易に消磁し、磁気細胞は、もはや結合した状態ではなく、単細胞懸濁として溶出することができる。
【0126】
FACS分析用の細胞の製造。腫瘍細胞上で発現する細胞表面抗原を、FcγRII/III(2.4G2, BD Bioscience)で処置した後、抗体を用いて染色することによって、およびFACScan(BD Immunocytometry Systems)を用いるフローサイトメトリー分析によって分析した。以下のモノクローナル抗体を使用した。すなわち、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)−抗マウスCD11b(M1/70.15.11.5, Miltenyi Biotec)、フィコエリトリン(PE)−抗マウスGr−1(RB6−8C5, Miltenyi Biotec)およびPE−抗マウスF4/80(BM4008R, Acris Antibodies)。
【0127】
有効性研究。腫瘍増殖の際の赤痢菌感染の治療効果を探索するために、6週齢〜8週齢のメスのBalb/cマウス28匹に1×1044T1細胞を皮下注射で投与した。腫瘍増殖は一日おきに定規で決定した。腫瘍量が約170mm3に達したとき(細胞移植から14日目)、3群のマウス(n=8)を無作為化によって決定した。フレクスナー赤痢菌M90TΔおよびBS176Δを前述のように製造し、その懸濁液100μlを、4T1腫瘍を有するBalb/cマウスの外側尾静脈に注射した。ナイーブ群では、100μl1×PBSを投与した。腫瘍の増殖は一日おきに観察した。腫瘍細胞移植から31日目、ナイーブ群およびBS76Δ−aroA群ならびに2匹のM90TΔ−aroAマウスを屠殺して、腫瘍の大きさを比較した(データは図示せず)。感染から48日目、3匹のM90TΔ−aroAマウスを屠殺し、腫瘍、肝臓および脾臓組織におけるコロニー形成単位を決定した。さらに、FACS分析を行い、前述のように腫瘍組織におけるマクロファージの量を決定した。感染から49日目、1×106フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAを再び静脈注射で投与した。感染から68日目、腫瘍、肝臓および脾臓組織におけるコロニー形成単位を再び決定した。さらに、前述のように、組織学的分析および免疫組織化学分析のために2つの腫瘍を製造した。
【0128】
ヒト腹水細胞のex vivo感染。この腹水細胞は、腹水細胞は、2つの異なる細胞集団からなり、一方の細胞集団には接着細胞があり、他方の細胞集団には懸濁細胞がある。この2つの細胞集団を分離細胞型として処置した。腫瘍細胞を分離して、前述のようにTAMを分離した。ある患者から細胞を分離した後、3つの異なる細胞画分に、野生型フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAをex vivo感染させた。対数増殖期まで増殖した細菌を遠心(4000rpm、10分間、4℃)して、D−MEM培地で3回洗浄した。100:1の感染効率で1時間感染させた後、細胞を300μg/mlゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした。次いで、50μg/mlゲンタマイシンを使用した。コロニー形成単位を決定するために、感染後2時間の細胞を収集し、またはウエスタンブロット用に製造した。
【0129】
ウエスタンブロット分析。6穴培養皿からの赤痢菌感染細胞または非感染細胞をPBSで2回洗浄して、120μlの2×Laemmli緩衝液(1M Tris−HCl、pH6.8;グリセリン86%;β−メルカプトエタノール;20%SDS、dH2O)中で溶解させた。遠心分離(20,000g、30分間)によって不溶物を除去した。免疫ブロットのために、10〜30μlのライセートを10%または15%SDS−PAGE(Laemmli, U.K. Nature 1970, 227:680−685)によって分離させ、ニトロセルロース膜の上に移した。5%脱脂粉乳を補充した1×PBS中で1時間ブロックした後、1×PBS中5%脱脂粉乳(フラクションV、Sigma−Aldrich)で希釈した適切な一次抗体(抗カスパーゼ−1(ICE)、Sigma製;抗切断PARP抗体(BD Pharmingen);抗GAPDH抗体(Chemicon international);抗β−アクチン抗体(Sigma))を用いて前述の膜を探索し、その後ペルオキシダーゼを結合させた二次抗体とのインキュベーション、高感度化学発光(ECL試薬、Amersham Biosciences, UK)による検出を行い、次いでX線フィルム(Kodak, XO−MAT−AR)に1〜10分間露出させた。
【0130】
結果
マクロファージ浸潤は、乳腺腫瘍(Leek, R. D. et al. Cancer Res 1996, 56:4625−4629; Leek, R.D., Landers, R.J., Harris, A.L. & Lewis, C.E. Br J Cancer 1999, 79:991−995; Lewis, J.S., Landers, R.J., Underwood, J.C, Harris, A.L. & Lewis, C.E. J Pathol 2000, 192:150−158)および卵巣癌腫(Negus, R.P., Stamp, G.W., Hadley, J. & Balkwill, F.R. Am J Pathol 1997, 150:1723−1734)を含む数種類のヒト腫瘍で記述されている。異なる実験腫瘍モデルにおいて浸潤したTAMのレベルを決定するために、異なる腫瘍モデルのパラフィン包埋組織におけるマクロファージ(図1)を染色した。試験したすべての腫瘍では、マクロファージのホットスポット(茶色の染色)を検出した。TAMはヒト乳癌腫では広範囲に及び(Kelly, P.M., Davison, R.S., Bliss, E. & McGee, J.O. Br J Cancer 1988, 57:174−177;Volodko, N., Reiner, A., Rudas, M. & Jakesz, R. The Breast 1998, 7:99−105; Lin, E.Y., Nguyen, A.V., Russell, R.G. & Pollard, J.W. J Exp Med 2001, 193:727−740; Bingle, L, Brown, N.J. & Lewis, C.E. J Pathol 2002, 196:254−265)かつネガティブな予後を伴うために、4T1モデルおよびトランスジェニックMMTV−Her2腫瘍モデルをさらなる研究のために使用した。
【0131】
初めに、細胞外区画および細胞内区画におけるサルモネラおよび赤痢菌の量的分布、ならびに腫瘍の異なる細胞型を調べることを模索した。したがって、移植(4T1)腫瘍および自発性(MMTV−Her2)腫瘍を用いて、1つのモデルを確立した。腫瘍を有するマウスに細菌を感染させ、感染後、異なる時点で腫瘍を摘出した。腫瘍細胞を分離し、腫瘍細胞懸濁液を得た。細胞外細菌および細胞内細菌を識別するために、ゲンタマイシンを使用してまたは使用せずにこの腫瘍細胞懸濁液を処置した。同時に、マクロファージおよびマクロファージが枯渇した画分で細胞を分離して、その細菌内容物を分析した(図13参照)。全コロニー形成単位タイターを決定するために真核細胞を溶解した後に、または感染細胞数を決定するために細胞溶解せずにTopアガーに播種することによって、平板培養を行った。
【0132】
実験の第一の組では、確立した4T1(図2)腫瘍または自発性乳癌腫(図17参照)を有するマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAを静脈内に投与した。図2に示すように、菌株ネズミチフス菌Δ−aroAは、感染から4時間後および6時間後に主にTAMをin vivoで標的にするが、とはいえこの菌株はin vitroで4T1細胞を容易に感染させる(データは図示せず)。感染から7日後、脾臓で検出されたのはわずかな細菌のみであった。これは先行研究(Arnold, H. et al. Infect lmmun 2004, 72:6546−6553)と一致している。4時間後、6時間後および7日後、マクロファージ枯渇腫瘍細胞と比較すると、マクロファージ画分ではかなり多くの細菌が見られた。感染から4時間後および6時間後、ほとんどの細菌は細胞内に存在した。これに対して、ゲンタマイシンで処置しなかった全腫瘍細胞と比較すると、ゲンタマイシン処置した腫瘍細胞から算出されたコロニー形成単位数によって決定されたように、感染から7日後、10倍以上の細菌が細胞外で見られた。
【0133】
続いて、SipB分泌によるカスパーゼ−1活性化を介して、マクロファージにおいてアポトーシスが誘発されるか追及した。さらに、アポトーシスの際に腫瘍組織においてマクロファージが減少するかにも関心を持った。したがって、ネズミチフス菌Δ−aroAによる感染(図3)後、カスパーゼ−1活性化およびアポトーシスの誘発に関して細胞集団を分析した。カスパーゼ−1活性化(図3a)およびPARP切断(図3b)は、感染から6時間後のマウス由来の腫瘍の全細胞およびマアクロファージ画分において検出できたが、しかしマクロファージが枯渇した画分においては検出できなかった。マクロファージ枯渇画分ではカスパーゼ−1プロセシングまたはカスパーゼ−1発現のいずれも検出できなかった。感染から7日後、カスパーゼ−1の誘発はいずれの画分でも検出されなかった。感染から7日後、TAMの相対量をFACSによって決定した(図3c)。この時点で、非感染マウスと比較すると、サルモネラはマクロファージ数に影響を及ぼしてなかった。これは、アポトーシス誘発が一過性であるか、または最低限であり、非効率的であることをさらに示唆している。一過性のアポトーシス誘発は、サルモネラの感染生物学によって説明することができる。サルモネラは、病原性アイランドSP1(SipBを含む)を感染の早期およびSP1からSP2に移る後期に発現する。SP2病原性アイランドは、カスパーゼ−1プロセシングを直接活性化することができるSipB等の毒性因子を含んでいない(Panthel, K. et al. Infect. Immun. 2005, 73:334−341)。
【0134】
サルモネラと対照的に、赤痢菌は、感染期間のあらゆる時点でIpaBを発現する(Schroeder, G.N., Jann, N.J. & Hilbi, H. Microbiology 2007, 153:2862−2876; Cossart, P. & Sansonetti, P.J. Science 2004, 304:242−248; Tamano, K. et al. Embo J 2000, 19:3876−3887)。したがって、フレクスナー赤痢菌もTAMを標的にしかつマクロファージ数を減少させるのに適しているか追及した。本研究では、フレクスナー赤痢菌菌株M90TおよびBS176を使用した。後者はプラスミドレス非毒性変異体である。その毒性に影響されない、動物実験用の弱毒化菌株を得るために、aroA遺伝子座の染色体欠失を保有する、ある菌株を構築した。サルモネラ等の他の細菌では、芳香族アミノ酸の生成に重要なaroA遺伝子の欠失は細菌において弱毒化をもたらす(Schafer, R. & Eisenstein, T.K.Infect Immun 1992, 60:791−797)。増殖減弱化した毒性菌株と非毒性菌株との遺伝的に定義された比較(Sansonetti, P.J., Kopecko, D.J. & Formal, S.B. Infect Immun 1982, 35:852−860)を可能にするために、無毒性フレクスナー赤痢菌菌株BS176内のaroA遺伝子座を除去し、続いて電気穿孔法によって毒性プラスミドpWR100を加えることを模索した。フレクスナー赤痢菌BS176菌株のaroA遺伝子座をノックアウトするために、DatsenkoおよびWanner(2000)の方法を適用した。結果として生じた菌株、フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAをBS176Δ−aroAまたは以下ではBS176Δと名付けた。続いて、フレクスナー赤痢菌M90Tから分離した毒性プラスミドpWR100を、菌株BS176Δに形質転換し、菌株フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100をもたらした。この菌株は、毒性菌株フレクスナー赤痢菌M90Tの主要な特徴を保有しているので、この菌株をM90TΔ−aroAまたは以下ではM90TΔと名付ける。
【0135】
フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAに等しいフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100菌株を、DSM21058としてGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)に寄託した。
【0136】
このaroA変異体を構築した後、in vitroの細胞外増殖および細胞内増殖、初期結合、浸潤および細胞間伝播に関して、この菌株を特徴付けた(図4)。プラスミドレス無毒性菌細胞のフレクスナー赤痢菌BS176を、LB培地で0.3外径/時間の最大増殖速度によって特徴付け、これに対して毒性菌株のフレクスナー赤痢菌M90Tは0.2外径/時間と最大増殖速度が若干減少した(図4a)。これは、大型の毒性プラスミドpWR100の存在によって説明できるであろう。予想どおり、aroA変異体を保有する菌株は、最大増殖速度が実質的に低下した。M90TΔ−aroAは、野生型フレクスナー赤痢菌M90Tよりも最大増殖速度が2.5倍遅かった。ここでも、M90TΔ−aroAと比較すると、BS176Δ−aroAの最大増殖速度は若干速かった。
【0137】
続いて、初期結合、浸潤、細胞内複製および細胞間伝播に関してこのaroA変異体の寄与を調べた。
【0138】
図4bに示すように、菌株M90TΔ−aroAは、野生型フレクスナー赤痢菌M90Tと比較して、その結合速度および浸潤において有意差を示さなかった。これと対照的に、BS176Δ−aroAは、予想どおりその浸潤挙動が減弱された。
【0139】
野生型M90Tは、2時間、aroA変異体よりも12倍速い細胞内複製速度を示した(図4c)。菌株フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAは、予想どおりその細胞内複製において強く減弱されていることをこれらのデータは示している。
【0140】
aroA変異体の細胞内複製におけるこの欠損のために、細胞間伝播は、従来のアッセイで評価するのは難しい。したがって、細胞内複製に対して感受性がより低い、新規の伝播アッセイを開発した(図4d)。第1の段階では、HeLa細胞を500:1の高MOI(感染効率)で1時間感染させた。続いて、感染した細胞に放射線照射して、HeLa細胞の複製をブロックした。ゲンタマイシンの存在下で、非感染HeLa細胞の単層上で、感染し放射線照射したHeLa細胞を1:70の割合で、同時インキュベートした。感染細胞の数は、細胞溶解をしないようにSeaPlaqueアガロースの上に播種することで、決定した。予想したように、8時間後、野生型M90Tは、感染細胞の数が12倍増加したことを示した。その後の時点で、非弱毒化した毒性菌株は、細胞に対して毒性があり、かつコロニー形成単位決定がもはや可能ではなかった。M90TΔの場合、感染細胞数の増加は、同時感染から8時間後で6倍、12時間後で17倍であった。これに対して無毒性菌株BS176Δの場合、感染細胞数は、8時間後わずか3倍しか増加せず、12時間後までさらなる増加を示さなかった。これらの結果は、細胞間伝播に対してM90TΔの能力が損なわれてないことを示唆している。細胞間伝播のための遺伝情報を保有してないBS176Δで観察されたわずかな増加は、真核細胞を保護するためにわずかに10μg/mlの低めのゲンタマイシン濃度で12時間、細胞外細菌をわずかに部分的に死滅させることで、高度に感染した放射線照射細胞を初期の時点で部分的に細胞溶解させたことに起因すると思われる。細胞感染の特徴をさらに調べるために、Giemsa染色法によって感染細胞を組織学的に評価した(図4e)。感染から1時間後(図11参照)および4時間後(図4e)のHeLa細胞のGiemsa染色から、菌株M90TおよびM90TΔの細菌が細胞間接触部に主に位置していることが明らかになった。細胞間伝播も検出できた。これと対照的に、感染から4時間後でも菌株BS176Δの細胞内細菌は、検出できるものがほとんどなかった。さらに、無毒性菌株の場合、細胞間伝播の兆しが見られなかった。
【0141】
aroA変異体のカスパーゼ−1活性化を誘発する能力(図4f)およびアポトーシス誘発(図4g)を決定するために、J774A.1マウスマクロファージを感染させて、細胞ライセートを分析した。M90TΔは、カスパーゼ−1誘発およびアポトーシスの両方を誘発できたが、BS176Δはできなかった。カスパーゼ−1特異的インヒビターYVAD−CHOがカスパーゼ−1およびPARPプロセシングを完全にブロックしたので、M90TΔによるアポトーシス誘発はカスパーゼ1に依存することに留意されたい(図4fおよび4g)。
【0142】
続いて、サルモネラに対して観察されるように赤痢菌がマクロファージについて同様の好ましいターゲティングを示すか分析した。サルモネラに対して以前行ったものと同様の設定で、確立された4T1腫瘍(図5および図16)を用いてBalb/cマウスに赤痢菌を静脈注射した。ここでも、いずれの時点においても、細胞あたり著しく多い細菌(図5a、b)およびさらに多い感染細胞(図5b、d)がマクロファージ画分で見られた。さらに、M90TΔ−aroAの大部分は、細胞内で見られ(図5a、b)、これに対して無毒性菌株BS176Δ−aroAによる感染から6時間後、50倍多い細菌が細胞外で見られた(図5a)。
【0143】
また、カスパーゼ−1発現および活性化ならびにアポトーシスの誘発に関してマクロファージ画分を分析した(図6および図20)。感染から4時間後、6時間後および7日後、カスパーゼ−1活性化(図6a)およびPARP切断(図6b)をウエスタンブロット法によって分析した。M90TΔの場合、カスパーゼ−1活性化およびPARP切断は、感染から4時間後および6時間後マウスから採取した腫瘍の全細胞およびマクロファージ画分で、ならびに感染から7日後のマクロファージで検出できたが、BS176Δの場合は検出できなかった。さらに、感染から7日後、相対量の腫瘍関連マクロファージをFACSによって決定した(図6c)。腫瘍を有するBalb/cマウスおよびMMTV−Her2マウスにおいて、M90TΔ感染はマクロファージ数の実質的な減少をもたらしたが、BS176Δ感染はもたらさなかった(補足データ)(Lin, E.Y., Nguyen, A.V., Russell, R.G. & Pollard, J.W. J Exp Med 2001, 193:727−740; Bingle, L., Brown, N.J. & Lewis, C.E. J Pathol 2002, 196:254−265; Scholl, S.M., Crocker, P., Tang, R., Pouillart, P. & Pollard, J.W. Mol Carcinog 1993, 7:207−211; Kirma, N. et al. Cancer Res 2004, 64:4162−4170; Gouon−Evans, V., Rothenberg, M.E. & Pollard, J.W. Development 2000, 127:2269−2282; Pollard, J.W.& Hennighausen, L. Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91:9312−9316; Van Nguyen, A. & Pollard, J.W. Dev Biol 2002, 247:11−25; Pollard, J.W. Nat Rev Cancer 2004, 4:71−78; Murdoch, C., Giannoudis, A. & Lewis, C.E. Blood 2004, 104:2224−2234; Filderman, A.E., Bruckner, A., Kacinski, B.M., Deng, N. & Remold, H.G. Cancer Res 1992, 52:3661−3666)。
【0144】
ナイーブマウス(図6e、上段パネル)、BS176Δ(図6e、中央パネル)およびM90TΔ(図6e、下段パネル)に感染したマウスの組織学的検査では、M90TΔ由来の腫瘍においてマクロファージの実質的な減少およびマクロファージ凝集体の破壊(図6e、抗F480の染色、左側パネル)を確認し、強い炎症(図6e、抗CD45染色、右側パネル)が示された。しかしナイーブマウスまたはBS176Δに感染した感染7日後のマウスには前述の現象が見られなかった。
【0145】
M90TΔによって誘発された、マクロファージ数におけるこの実質的な減少および著しい炎症が治療効果と関連しているか調べるために、腫瘍を有するBalb/cマウスに細菌を投与して、腫瘍増殖を評価した(図7a)。BS176Δによる感染は、わずかであるが有意な腫瘍増殖の減少をもたらした。これと対照的に、M90TΔの単回静脈注射による感染は、腫瘍増殖において実質的かつ有意な減少をもたらした。腫瘍増殖は処置から19日後に完全にブロックされたことに留意されたい。非増殖腫瘍は極めて低いマクロファージ(3〜4%)数を示し、感染から48日後に細菌は検出できなかった(図7c)。49日目に1×106細菌を残りの3匹のマウスに静脈投与した。腫瘍の大きさにおいてさらなる減少は検出されなかった。68日目にコロニー形成単位を決定し、次いで組織学的検査を行った。腫瘍、肝臓および脾臓において細菌は検出されなかった(データは図示せず)。
【0146】
フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAによる処置がヒトにおいても適用可能か調べるために、卵巣癌腫患者から新しく分離した腹水に由来する細胞にM90TΔ−aroAを感染させた(図8aおよび図20参照)。M90TΔ−aroAは、ヒト腫瘍から分離したTAMを効率的に感染させ、かつこれらの細胞においてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発した(図8b)。ここでも、分離したヒト腫瘍に由来するTAMの感染は、マクロファージが枯渇した画分と比較して、少なくとも100倍より効率的であった。
実施例2: グラム陰性菌[Eschericha coli K12]におけるフレクスナー赤痢菌のipaB遺伝子(NC_004851)の発現および分泌
2a)分泌プラスミドにおけるフレクスナー赤痢菌のipaB遺伝子(NC_004851)のクローニング
赤痢菌のようにサルモネラは、SipBタンパク質によって仲介されるカスパーゼ−1の活性化を介して、感染したマクロファージの炎症およびアポトーシスを誘発することができる。このタンパク質はIII型分泌系(TTSS)を介して分泌される(Suzuki, T. et al. J Biol Chem 2005, 280:14042−14050; Zychlinsky, A. et al. Mol Microbiol 1994, 11:619−627; Chen, L.M. et al., Mol Microbiol 1996, 21:1101−1115; Hilbi, H. et al. J. Biol. Chem. 1998, 273:32895−32900)。サルモネラは、SipBによってカスパーゼ−1を活性化し、かつ初期の時点でTAMにおいてアポトーシスを誘発するが、後期の時点ではアポトーシスを誘発せず、相対量のTAMを減少させられなかった。これと対照的に、代謝的に減弱された毒性赤痢菌菌株は、4T1および自発性乳がんのモデルにおいてすべての時点でIpaBによってTAMでカスパーゼ−1を活性化し、アポトーシスを誘発することができるが、無毒性赤痢菌ではできなかった。
【0147】
サルモネラによる一過性のアポトーシス誘発は、感染の初期時点およびSPI1からSP12に移る後期時点で、病原性アイランドSPI1(SipBを含む)の発現によって説明されうる。SP12病原性アイランドには、カスパーゼ−1プロセシングを直接活性化できるSipB等の毒性因子が含まれてない(Panthel, K. et al. Infect.Immun. 2005, 73:334−341)。サルモネラと対照的に、赤痢菌は、感染の間のあらゆる時点でIpaBを発現する(Schroeder, G.N., et al., Microbiology 2007, 153:2862−2876; Cossart, P. & Sansonetti, P.J. Science 2004, 304:242−248; Tamano, K. et al. Embo J 2000, 19:3876−3887)。
【0148】
グラム陰性菌株において機能性ipaBを機能的に発現、分泌させる可能性を評価するために、ipaB遺伝子をpMoHly発現ベクターにクローン化させて、ipaBタンパク質の発現および分泌をもたらした。この分泌は、大腸菌のI型溶血素分泌系(T1SS)をコードしたプラスミドによって仲介される。分泌プラスミドについてはすでに述べており、種々のグラム陰性菌の目的で有用である。概念実証として、大腸菌菌株へのクローン化を行った。
【0149】
以下に、ipaBの分泌のためのI型分泌系を包含する大腸菌K12菌株の構成を記述する。原理的には、いかなる弱毒化通性細胞内グラム陰性菌株でも、この目的のために使用することができる。
【0150】
ipaB遺伝子を、I型送達プラスミドpMOhlykan内でクローン化した。単一のNsil制限酵素部位を、異種タンパク質を決定するインフレーム挿入配列のためのhlyA遺伝子の2つの残留配列間に位置づけた(Fensterle et al. Cancer Gene Therapy 2008)。Nsil制限酵素部位を含有する配列の挿入のために、新しいポリリンカーをpMOhlykan内に確立した。以下の制限酵素部位を、拡張多重クローニング部位(mcs)であるXhol、Pvul、NhelおよびKpnlのために使用した。
【0151】
Nsil部位(5’−TGCA−3’)に相補的なオーバーハングとともに制限酵素部位の配列を含有するオリゴヌクレオチド(CGGTACCGCTAGCCGATCGCTCGAGATGCAおよびTCTCGAGCGATCGGCTAGCGGTACCGTGCA)をアニーリングして挿入した制限酵素部位を有する配列部分を作製した。この結果として得た二本鎖DNA部分をアニーリングした後、Nsilを消化したpMOhlykan内にポリリンカーを挿入して、新しいプラスミドpMOhlykan mcsをもたらした。その後、抗生物質耐性クローンをスクリーニングした。mcsの正確な挿入を、制限酵素での消化および配列決定によって確認した。
【0152】
ipaBのコード配列は、1,138(bp)位にNsil制限酵素部位を含む。したがって、新しく構築したpMOhlykan mcsを用いて、ipaBの読み取り枠を挿入した。ipaB遺伝子を、プライマーSalm: mcs ipaB Xhol hin(AAAAAACTCGAGATGCATAATGTAAGCACCAC)およびSalm: mcs ipaB Kpnl rueck(AAAAAAGGTACCTCAAGCAGTAGTTTGTTGC)によるPCRによって増幅させた。順方向プライマーをデザインして、Xhol制限酵素部位を作製し、次いで逆方向プライマーをデザインしてKpnl部位を作製した。PCR産物およびpMOhlykan mcsをXholおよびKpnlによって消化させ、その後、ライゲーションによってipaBをpMOhlykan mcs内に挿入した。抗生物質耐性クローンのスクリーニングをPCRによって行い、次いで挿入を配列決定によって確認した。配列決定したクローンのpMOhlipaと呼ばれるプラスミドを、Mini Prep法によって分離して、さらなる研究のために使用した(図22)。
【0153】
このプラスミドを大腸菌DH5α内に形質転換して、機能性を評価した。図23には、組換え型大腸菌菌株による融合タンパク質の成功した発現および分泌を示す。大腸菌pMOhlipaおよび大腸菌ΔTolC pMOhlipaによるIpaB発現は、70kDaの産物を示した。これは、クローン化IpaBが、pMOhlykanモデルにおいてC末端のHlyA分泌シグナルと融合したためである。M90Tライセート中で、大腸菌pMOhlipaの沈渣中でおよび上清中でIpaBを検出した。この菌株には、大腸菌I型分泌機構の機能に必要とされるtolC遺伝子が欠けているので、大腸菌ΔTolC pMOhlipaの上清中では、IpaBが検出できなかった。
【0154】
異なる大腸菌DH5α菌株によってカスパーゼ−1が活性化されるか調べるため、RAW264.7マクロファージに感染させ、次いで感染後さまざまな時点でウエスタンブロット分析を行った(図24)。
【0155】
大腸菌pMOhlipa菌株がRAW264.7マクロファージ内でカスパーゼ−1を活性化したことをウエスタンブロットが示した(図24)。さらに、大腸菌ΔTolC pMOhlipaは、感染から6時間後、カスパーゼ−1活性化が極めて減弱したことを示した。ウエスタンブロット分析は2回行った。この結果をその都度決定したが、大腸菌ΔTolC pMOhlipaを介するカスパーゼ−1活性化のために、この分析は技術的問題になることもあり得た。大腸菌pMOhlipaは、感染から3時間後にカスパーゼ−1を活性化したが、M90T対照と比較すると、このカスパーゼ−1活性化は極めて減少したものであった。感染していないRAW264.7マクロファージを負の対照として用いた。大腸菌ΔTolCによって感染したRAW264.7マクロファージは、カスパーゼ−1活性化を示さず、カスパーゼ−1の酵素前駆体を示した。
【0156】
次の段階では、この系の有効性をin vivoで評価した。TAMは非浸潤性細菌の取り込みが欠損しているので(BS176の結果を参照されたい。大腸菌の結果のデータは図示せず)、静脈投与後、脾臓のマクロファージにおいてアポトーシスを誘発する大腸菌ΔTolC pMOhlipaの能力を評価した。図25に示すように、大腸菌ΔTolC pMOhlipaは、脾臓のマクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングの誘発に成功し、この系がin vivoで効果的であることを示した。
【0157】
TAMに影響を及ぼすために、赤痢菌、サルモネラおよび侵潤性大腸菌菌株を含むがこれらに限定されない侵潤性のグラム陰性細菌に、この系を移植する必要がある。侵潤性のipaB発現赤痢菌がTAMにおいてアポトーシスを誘発できることを立証するとともに、静脈投与後マクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングを誘発するこの系の機能性は、この系に従ってマクロファージを枯渇することを標的とする組換え型細菌をもたらすことになる。
【0158】
2b)グラム陽性細菌(リステリア菌(Listeria monocytogenes)EGDe)におけるフレクスナー赤痢菌のipaB遺伝子のクローニング
リステリアによるカスパーゼ−1活性化に関するデータは、矛盾しており、かつマクロファージ内でのカスパーゼ−1およびアポトーシスの誘発は、赤痢菌と比較すると少なくとも効率が低い(Cervantes, J. et al., Cell Microbiol 2008, 10:41−52; Franchi, L. et al., J Biol Chem 2007, 282:18810−18818)。しかし、リステリアは細胞内細菌であり、腫瘍内でマクロファージを標的とし、したがって(Singh, R. & Paterson, Y. Expert Rev Vaccines 2006. 5:541−552)マクロファージを標的とする細菌性腫瘍の治療に適していると思われる。持続したアポトーシス誘発を達成するために、ipaBの恒常的発現および分泌を有する弱毒化リステリア菌株を構築することにする。
【0159】
リステリア菌EGDeΔ−aroA内でIpaBを発現させるために、actA遺伝子(PactA)由来のリステリアプロモーターを用いた。リステリア菌EGDeΔ−aroA内でIpaBを分泌させるために、リステリオリシンの分泌シグナル(SShly)を、前述のプロモーターの3’末端に融合した。以下のプライマーを用いて、リステリア菌EGDから分離したゲノムDNAからPCRによってPactAを増幅した。すなわち順方向プライマーとして:PactA Pstl Ncol hin(TATCGACTGCAGCCATGGGAGCTCGCGGCCGCTGAA)および逆方向プライマーとして:PactAオーバーハングrueck(CTAGCATTATTTTTTTCATTTATACTCCCTCCTCGTGATACGC)。この逆方向プライマーは、分泌シグナルSShlyからの配列に相補的なオーバーハングを用いてデザインした。およびこの分泌シグナルを以下のプライマーによって増幅した。すなわち、SS hlyオーバーハングhin(GCGTATCACGAGGAGGGAGTATAAATGAAAAAAATAATGCTAG)およびSS hly BamHl rueck(AAAAAAGGATCCATCCTTTGCTTCAGTTTG)。その後、組換え型PCRを、PactA SShlyの増幅PCR産物を用いてかつ以下のプライマーによって行った。すなわち、PactA Pstl Ncol hin(順方向)およびSS hly BamHl rueck(逆方向)。その後、組換え型PCRの産物PactA+SShlyおよびプラスミドpUC18を、制限酵素PstlおよびBamHlによって消化させた。隣接するPactA+SShlyをライゲーションによってpUC18内に挿入して、次いで制限酵素での消化および配列決定によって適切に挿入されたかを確認した。SShlyが逆方向プライマーであるために、BamHl制限酵素部位を組み込んだ。したがって、プライマーを用いてPCRによってipaBを増幅し、それぞれの制限酵素部位、開始点のBamHlおよび末端のSacl、を作製した。すなわち、ipaB BamHl hin(AAAAAAGGATCCATGCATAATGTAAGCACCAC)およびipaB Sacl rueck(AAAAAAGAGCTCTCAAGCAGTAGTTTGTTGC)。次いで、ipaB遺伝子を、pUC18内のシグナル配列の後にシームレスにクローニングして、それを配列決定した。
【0160】
続いて、コンストラクトPactA+SShly+ipaBを、制限酵素PstlおよびSaclによってpUC18から切り取り、PstlおよびSaclが消化したグラム陽性発現ベクターpSP0内にライゲーションによって挿入し、新たなプラスミドpSPR17を得た(図26)。
【0161】
このコンストラクトを弱毒化したリステリア菌株内に形質転換させて、TAMの標的枯渇のために使用することができる。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌ならびにその製造方法に関する。この非病原性細菌および/または弱毒化細菌を、特に種々の腫瘍を処置するための薬物として用いることができる。
【0002】
1893年、William B. Coleyは、急性連鎖球菌感染症の患者における腫瘍の縮小を記述した(Coley WB, Clin Orthop Relat Res, 1991:3−11)。
【0003】
それ以来、他の細菌が腫瘍に浸潤し、複製し、次いで優先的に蓄積することが示されてきた(Yu YA. et al., Nat Biotechnol 2004, 22:313−320; Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Dang LH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:15155−15160; Parker RC et al., Proc Soc Exp Biol Med 1947, 66:461−467; Malmgren RA & Flanigan CC, Cancer Res 1955, 15:473−478; Moese JR, Med Klin 1964, 59:1189−1192; Gericke D et al., Cancer Res 1964, 24:217−221; Thiele EH et al., Cancer Res 1964, 24:222−233; Carey RW et al., Eur. J. Cancer 1967, 3:37−46; Kohwi Y et al., Gann 1978, 69:613−618; Brown JM & Giaccia AJ, Cancer Res 1998, 58:1408−1416; Fox M et al., Gene Ther. 1996, 3:173−178; Lemmon M et al., Gene Ther. 1997, 4:791−796; Sznol M et al., J Clin Invest 2000, 105:1027−1030; Low KB et al., Nat Biotechnol 1999, 17:37−41;Clairmont C et al., J Infect Dis 2000, 181:1996−2002; Yazawa K et al., Cancer Gene Ther 2000, 7:269−274; Yazawa K. et al., Breast Cancer Res Treat 2001, 66:165−170; Kimura NT et al., Cancer Res 1980, 40:2061−2068)。
【0004】
腫瘍でのこの増菌の原因となるいくつかの因子が提唱されてきた。腫瘍に見られる異常な血管供給は、腫瘍の細菌コロニー形成に対する重要な一因子と考えられている。腫瘍または転移腫瘍は発達するにつれて、血管新生を刺激して新たな血管の形成を促進する。しかし、新たに形成された血管は、不完全な内皮内面および盲端を有し、極めて組織が乱れた状態であり、結果として血流が緩慢になり、かつ腫瘍または転移腫瘍への栄養分および酸素の送達が非効率的となる。この血管は組織が乱れかつ漏出しやすい構造体であるので、細菌が腫瘍組織に容易に侵入し、および不十分な血管新生による腫瘍増殖によって、腫瘍において複数の領域で低酸素および無酸素状態を引き起こす(Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Dang LH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:15155−15160; Brown JM, Cancer Res 1999, 59:5863−5870; Vaupel PW, Tumour Oxygenation.Gustav Fischer Verlag 1995, 219−232)。
【0005】
低栄養分の送達と酸素欠乏とが組み合わさることより、腫瘍内に低酸素/無酸素の細胞の非増殖をもたらし、細胞外嫌気性菌(クロストリジウム(Clostria)等)および通性嫌気性菌、例えば大腸菌(E.coli)の増殖を促進する(Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Dang LH et al., Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:15155−15160; Brown JM, Cancer Res 1999, 59:5863−5870; Vaupel PW, Tumour Oxygenation.Gustav Fischer Verlag 1995, 219−232)。
【0006】
遺伝子組換え偏性嫌気性菌クロストリジウム等の細胞外細菌の抗腫瘍効果は、低酸素領域において腫瘍細胞に対して毒性がある因子の局所産生および炎症の誘発に起因すると考えられた(Agrawal N et al., Proc Natl Acad Sci USA. 2004, 101(42):15172−15177)。
【0007】
また、サルモネラ(Salmonella)等の通性細胞内細菌が腫瘍治療のために使用され、実験モデルの一部に有効であった(Jain RK & Forbes NS, Proceedings of the National Academy of Sciences 2001, 98:14748−14750; Low KB et al., Nat Biotechnol 1999, 17:37−41; Clairmont C et al., J Infect Dis 2000, 181:1996−2002; Pawelek, J. M., Low, K.B. and Bermudes, D. Cancer Res. 1997, 57:4537−4544)。ここでも、炎症反答を誘発することで抗腫瘍効果を媒介すると推測された。しかし、ヒトにおいて抗腫瘍薬としてのサルモネラの有効性は、わずかであった。
【0008】
ごく最近では、真核細胞へのDNA送達のために細胞内細菌を使用したことが記述されている。したがって、サルモネラ、赤痢菌(Shigella)またはリステリア(Listeria)等の細胞内細菌を用いて、毒素またはプロドラッグ変換酵素等の治療分子を腫瘍細胞に直接送達することが可能である。細胞外細菌による炎症反答の誘発または治療方法と対照的に、細胞内細菌の腫瘍標的の有効性は、感染している腫瘍細胞の割合および性質によって影響される。
【0009】
しかし、現時点で、細胞内細菌に感染した腫瘍細胞の割合に関する定量的情報は入手できず、および感染した細胞の性質も分っていない。
【0010】
実際、腫瘍は悪性細胞だけで構成されているのではなく、むしろ形質転換細胞および腫瘍間質の複合混合物からなる。さらに、非形質転換間質細胞は、その生理学的環境において同等の細胞と比較して、明確な表現型を示すことが多い。多くの腫瘍では、単球マクロファージ系統に属する細胞が腫瘍の白血球浸潤物の主構成成分である。腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、循環血中単球から生ずる。in situでのその補充および生存は、腫瘍由来のサイトカインおよびケモカインによって導かれる(Mantovani A et al., Immunol Today 1992, 13:265−270)。これに関連して、用語TAMを用いて、さらなる機能特性を意味することなく、腫瘍に存在するF4/80+ CD11b+マクロファージを表す。
【0011】
組織学的には、かなりの組織損傷が生じていると考えられる十分に血管新生化していない低酸素部位またはその近くに、多くのマクロファージが蓄積するように思われる。多くのマクロファージは、乳癌腫の無血管部位および壊死部位(Leek RD et al., Cancer Res 1996, 56:4625−4629; Leek RD et al., Br J Cancer 1999, 79:991−995; Lewis JS et al., J Pathol 2000, 192:150−158)および卵巣癌腫の無血管部位および壊死部位(Negus RP et al., Am J Pathol 1997, 150:1723−1734)に関して報告がされており、ネガティブな予後と関連している。低酸素を含む腫瘍内環境は、マクロファージの分泌活性において著しい変化を誘発することができ、マクロファージによる血管新生促進サイトカインおよび炎症性サイトカインの両放出を誘発する。これは、CD206等の明瞭な表面マーカーの発現においても明らかである(Cazin M. et al. Eur Respir J 1990, 3:1015−1022; Yun JK et al. Proc Natl Acad Sci USA 1997, 94:13903−13908; Tsukamoto Y et al. J Clin Invest 1996, 98:1930−1941; Rymsa B et al., Res Commun Chem Pathol Pharmacol 1990, 68:263−266; Rymsa B et al., Am J Physiol 1991, 261:G602−G607; Leeper−Woodford SK & Mills JW Am J Respir Cell Mol Biol 1992, 6:326−334; Luo Y et al. J Clin Invest 2006, 116:2132−2141)。
【0012】
一部の著者は、血管新生の促進、マトリックスリモデリングおよび適応免疫の抑制を含む、いくつかの腫瘍促進機能を発現するM2マクロファージとしてTAMを特徴付けてきた(Mantovani A et al., Cancer Metastasis Rev 2006, 25:315−322; Luo Y et al. J Clin Invest 2006, 116:2132−2141; Mantovani A et al., European Journal of Cancer 2004, 40:1660−1667)。さらに、in vitro培養されたマクロファージと比較すると、大部分のTAMにも、反応性酸素中間体および反応性窒素中間体の産生不全があるように見え(Siegert A et al., Immunology 1999, 98:551−556; Murdoch C et al., Int J Cancer 2005, 117:701−708)、かつ食作用の機能が損なわれている。多数のマクロファージが存在するにもかかわらず、これらの欠損が腫瘍組織において長期間にわたる増菌の原因となる可能性があり、この細菌には通常の条件下で食細胞によって容易に除去される非病原性細菌も含まれる。
【0013】
近年、Weibelら(Weibel et al., Cell Microbil 2008, Postprint; doi:10.1111/j. 1462−5822.2008.01122.x)は、マクロファージも位置する腫瘍組織内の領域で、偏性細胞外細菌の大腸菌K12が局在化し、複製することを示した。この著者らが示したことは、細菌の大部分が細胞外に存在し、一部の細菌だけがマクロファージによって取り込まれることである。しかしこれは、組織学的に示されただけであった。この細菌の存在が、少なくとも部分的には、M2表現型からM1表現型へのマクロファージの再プログラミングをもたらしたことに留意されたい。しかし、この処置は、4T1乳がんモデルにおいていかなる治療効果も示すことができなった。
【0014】
細胞外細菌と対照的に、病原性細胞内細菌は、マクロファージ内で生存するために戦略を生み出す。マクロファージまたは樹状細胞等の食細胞は、サルモネラ、赤痢菌およびリステリアを含む経口の細胞内病原体の初期標的であることが重要である。生理的条件下で、この細菌を全身適用すると、脾臓、肝臓または腸で食細胞によって血流からこの細菌が除去されることとなる。明確な毒性発現機構を用いてサルモネラおよび赤痢菌は、マクロファージ内で生存することができる。この両種は、III型分泌系(TTSS)を介して分泌されるIpaB(赤痢菌)およびSipBタンパク質(サルモネラ)によって媒介されるカスパーゼ−1の活性を介して、感染したマクロファージの炎症およびアポトーシスをさらに誘発することができる(Suzuki T et al., J Biol Chem 2005, 280:14042−14050; Zychlinsky A. et al., Mol Microbiol 1994, 11:619−627; Chen LM et al., Mol Microbiol 1996, 21:1101−1115; Hilbi H et al., J. Biol. Chem. 1998, 273:32895−32900)。この生理的状況と対照的に、Weibelら(Weibel et al., Cell Microbiol 2008, Postprint; doi: 10.1111/j.1462−5822.2008.01122.x)によって示されたように細胞外細菌にとっても明らかなTAMの食作用欠損は、細胞内細菌の取り込みをブロックし、腫瘍細胞の直接感染に有利に働くと思われる。
【0015】
さらに関連する先行技術の文献は以下のとおりである。Sica A et al., Eur.J. Cancer 2006, 42:717−727; Cardenas L. and Clements J. D. Clin Microbiol Rev 1992, 5:328−342; Forbes, N. S., Munn, L.L., Fukumura, D. and Jain, R. K. Cancer Res. 2003, 63:5188−5193。
【0016】
本発明の説明
本発明の目的は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的にまたは完全に枯渇し、かつ腫瘍治療を効率的に達成できる方法によって新規の腫瘍ワクチンを提供することにある。
【0017】
一態様では、本発明の目的は、マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌を提供することによって意外なことに解決される。
【0018】
好ましい一実施形態では、上述の細菌はマクロファージを感染させる能力がある。
【0019】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌からなる群から選択される。
【0020】
さらに好ましい一実施形態では、この細菌は、赤痢菌(Shigella)菌種、サルモネラ(Salmonella)菌種、リステリア(Listeria)菌種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)菌種、エシェリキア(Escherichia)菌種、エルシニア(Yersinia)菌種、ビブリオ(Vibrio)菌種、シュードモナス(Pseudomonas)菌種からなる群から選択される。
【0021】
さらに好ましい一実施形態では、この細菌は、フレクスナー赤痢菌(Shigellaflexneri)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ウシ型結核菌BCG(Mycobacterium bovis BCG)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)からなる群から選択される。
【0022】
好ましい一実施形態では、この弱毒化は、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失または不活性化によって起こる。
【0023】
好ましい一実施形態では、この弱毒化は、栄養要求性細菌をもたらす。
【0024】
さらに好ましい一実施形態では、このマクロファージは、M1マクロファージおよび/またはM2マクロファージであり、M2マクロファージが好ましい。
【0025】
さらに好ましい一実施形態では、アポトーシスの誘発は、カスパーゼ活性化、好ましくはカスパーゼ−1活性化によって達成する。
【0026】
別の好ましい実施形態では、この細菌は組換え型である。
【0027】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードする、少なくとも1つの染色体に組み込まれたDNA、好ましくは組換え型DNAを保有する。
【0028】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの染色体に組み込まれた調節DNA、好ましくは組換え型DNAを保有する。
【0029】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの調節DNAの染色体欠失または不活性化を保有する。
【0030】
別の好ましい実施形態では、この細菌は、少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを保有する。
【0031】
別の好ましい実施形態では、この少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドは、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードする。
【0032】
別の好ましい実施形態では、この少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドは、IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAをコードする。
【0033】
別の好ましい実施形態では、この非病原性細菌および/または弱毒化細菌は、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA、ネズミチフス菌Δ−aroA、フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100からなる群から選択される。
【0034】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの細菌、好ましくは凍結乾燥した少なくとも1つの細菌と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0035】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌を含む薬物、または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0036】
別の態様では、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱(urinary bladder)癌、膀胱(bladder)癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択された生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌を含む薬物または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0037】
別の態様では、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱(urinary bladder)癌、膀胱(bladder)癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択された生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌を含む薬物または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物を提供ことによって、本発明の目的は意外なことに解決された。その薬物または医薬組成物によって
(a)アポトーシスが腫瘍関連マクロファージ(TAM)において誘発され、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的もしくは完全に枯渇し、および/または
(b)アポトーシスが疾患関連マクロファージにおいて誘発され、次いで疾患関連マクロファージが部分的もしくは完全に枯渇する。
【0038】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による薬物の使用を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。ここでは、前述の薬物はさらに少なくとも1つの薬理学的活性物質を用いる処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与する。
【0039】
好ましい一実施形態では、このさらなる薬理学的活性物質は、DNAトポイソメラーゼIインヒビターおよび/またはIIインヒビター、DNAインターカレーター、アルキル化剤、微小管(microtubuli)脱安定化剤、ホルモンおよび/または増殖因子受容体アゴニストおよび/またはアンタゴニスト、シグナル伝達インヒビター、増殖因子に対する抗体およびその受容体、キナーゼインヒビター、代謝拮抗剤からなる群から選択される。
【0040】
さらに好ましい一実施形態では、このさらなる薬理学的活性物質は、アクチノマイシンD、アミノグルテチミド、アスパラギナーゼ、アバスチン、アザチオプリン、BCNU(カルムスチン)、ブレオマイシン、ブスルファン、カルボプラチン、CCNU(ロムスチン)、クロラムブシル、シスプラチン、コラスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエチルスチルベストロール、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、DTIC(ダカルバジン)、エピルビシン、エルビタックス、エリスロヒドキシノニルアデニン、エチニルエストラジオール、エトポシド、フルダラビンホスフェート、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、グリーベック/グリベック(Gleevec/Glivec)、ハーセプチン、ヘキサメチルメラミン、ヒドロキシウレア、ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロン、イレッサ、イリノテカン、L−アスパラギナーゼ、ロイコボリン、メクロレタミン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メルファラン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、N−ホスホノアセチル−L−アスパルテート(PALA)、オキサリプラチン、ペントスタチン、プリカマイシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、プロカルバジン、ラロキシフェン、ラパマイシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、タモキシフェン、タルセバ、タキソテール、テニポシド、プロピオン酸テストステロン、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トリメチルメラミン、ウリジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、2’,2’−ジフルオロデオキシシチジン、5−フルオロデオキシウリジンモノホスフェート、5−アザシチジンクラドリビン、5−フルオロデオキシウリジン、5−フルオロウラシル(5−FU)、6−メルカプトプリンからなる群から選択される。
【0041】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による生理的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のために、上述の諸態様および諸実施形態による薬物の使用を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。ここでは、前述の薬物は放射線治療および/または手術による処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与される。
【0042】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による非病原性細菌および/または弱毒化細菌の製造のための、以下のステップを含む方法を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0043】
(a)非病原性細菌および/または非弱毒化細菌において、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompからなる群から選択された少なくとも1つの遺伝子を欠失もしくは不活性化する、および/または
(b)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAをこの非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込む、および/または
(c)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを、この非病原性細菌および/または弱毒化細菌に導入する、および/または
(d)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAをこの非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込む、および/または
(e)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAを染色体欠失させるかもしくは不活性化する、および/または
(f)IpaB、SipBからなる群から選択された少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドをこの非病原性細菌および/または弱毒化細菌に組み込む。
【0044】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物または上述の諸態様および諸実施形態による薬物と、静脈注射用の薬理学的に許容される緩衝液とを含む医薬キットを提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。
【0045】
別の態様では、上述の諸態様および諸実施形態による少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または上述の諸態様および諸実施形態による医薬組成物または上述の諸態様および諸実施形態による薬物を、ある疾患にかかっている哺乳類、好ましくはヒトに投与することを含む、前述の哺乳類、好ましくはヒトを処置する方法を提供することによって、本発明の目的は意外なことに解決された。その方法によって、
(a)腫瘍関連マクロファージ(TAM)においてアポトーシスを誘発し、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的にもしくは完全に枯渇し、および/または
(b)疾患関連マクロファージにおいてアポトーシスを誘発し、次いで疾患関連マクロファージが部分的にもしくは完全に枯渇する。
【0046】
好ましい一実施形態では、前述の疾患は、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱(urinary bladder)癌、膀胱(bladder)癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌性感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択されるものである。
【0047】
定義
本発明の過程において、細菌と関連して、用語「マクロファージを感染させる」とは、細胞のウイルス感染に類似して、マクロファージに侵入しまたは入り、次いでこのマクロファージの細胞内構成成分になる細菌をいう。
【0048】
本発明の過程において、細菌と関連して、用語「マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する」とは、このマクロファージが自殺して死ぬように、このマクロファージ内でプログラム細胞死(アポトーシス)を誘発する細菌をいう。
【0049】
本発明の過程において、用語「M1マクロファージ」または「M1型マクロファージ」または「M1型極性化マクロファージ」とは、通常は腫瘍部位に存在しないマクロファージをいう(Sica A et al., Eur.J. Cancer 2006, 42:717−727)。
【0050】
本発明の過程において、用語「M2マクロファージ」または「M2型マクロファージ」または「M2型極性化マクロファージ」とは、通常は腫瘍部位に存在するマクロファージをいい、M2a、M2bおよびM2c亜集団を含む(Sica A et al., Eur.J. Cancer 2006, 42:717−727)。このマクロファージは、腫瘍関連マクロファージ(TAM)になり得るが、必ずしもなる必要はない。おそらく、TAMは偏ったM2集団を表す。
【0051】
本発明の過程において、用語「腫瘍関連マクロファージ(TAM)」とは、ある腫瘍に存在するF4/80+ CD11b+マクロファージをいう。
【0052】
本発明の過程において、用語「栄養要求性細菌」とは、感染した宿主において増殖速度の低下をもたらす、少なくとも1つの変異を保有している細菌をいう。
【0053】
本発明の過程において、用語「弱毒化細菌」とは、宿主を感染させるために必要な少なくも1つの毒性発現因子の機能喪失および/または宿主内での増殖障害をもたらす栄養要求突然変異のいずれかによりその毒性発現を弱毒化されている細菌をいう。言い換えれば、非弱毒化された野生型の対応物と比較すると、毒性発現が減少しており、たとえば、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、omp遺伝子が欠失もしくは不活性化している細菌、または温度感受性変異もしくは抗生物質依存性変異を有する細菌(Cardenas L. and Clements J. D. Clin Microbiol Rev 1992; 5:328−342)である。
【0054】
本発明の過程において、用語「組換え型DNA」とは、1つ以上のDNA鎖(の部分)の組み合わせまたは欠失または挿入を介して、それによって自然では通常、同時に発生しないDNA配列を組み合わせることによって分子遺伝学的に改変されている人工DNAをいう。遺伝子修飾に関して、免疫等のある特定の目的で異なる形質をコードまたは変化させるために、細菌の染色体および/またはプラスミド等の現存する生命体のゲノムに関連するDNAを付加する、または現存する生命体のゲノムにおいて関連するDNAを欠失させることで組換え型DNAが生成される。これは細胞内またはリボソーム内でプロセスを介して生じるのではなく、分子遺伝工学的にのみ改変されるという点において、遺伝的組換えとは異なる。
【0055】
本発明の過程において、用語「組換え型プラスミド」とは、プラスミドの形で存在する組換え型DNAをいう。
【0056】
本発明の過程において、用語「組換え型細菌」とは、この細菌に人工的に導入された組換え型DNAおよび/または組換え型プラスミドおよび/または非組換え型DNAを内部に持つ細菌をいう。
【0057】
本発明の過程において、用語「ヌクレオチド配列」とは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、二本鎖RNA、一本鎖RNAまたは二本鎖DNA/RNAのハイブリッドをいう。二本鎖DNAが好ましい。
【0058】
本発明の過程において、用語「後成的変化」とは、DNAレベルにおける変化、すなわち、DNAメチル化もしくは脱メチル化、ポリコームタンパク質間の結合、ヒストンのアシル化等による変化をいう。これは少なくとも1つの遺伝子の発現レベルに影響する。
【0059】
本発明の過程において、用語「調節DNA」とは、調節タンパク質間の結合によってまたは後成的変化を誘発することによって少なくとも1つの遺伝子の発現に影響するDNAの領域をいう。
【0060】
任意の細菌と関連して用語「菌種(spp.)」とは、本発明の目的のために、種、亜種等を含む所定の属の全メンバーを含むことを意味する。たとえば用語「サルモネラ菌種」は、チフス菌およびネズミチフス菌等のサルモネラ属の全メンバーを含むことを意味する。
【0061】
本発明の過程において、「細菌」と関連する用語「非病原性の」とは、宿主において疾患または病状を引き起こさない細菌をいう。
【0062】
細菌感染症には、炭疽病、細菌性髄膜炎、ボツリヌス症、ブルセラ症、カンピロバクター症、猫引っかき病、コレラ、ジフテリア、発疹チフス、膿痂疹、レジオネラ症、らい病(ハンセン病)、レプトスピラ症、リステリア症、ライム病、類鼻疽、MRSA感染症、ノカルジア症、百日咳(ゼーゼーいう咳)、ペスト、肺炎球菌性肺炎、オウム病、Q熱、ロッキー山脈紅斑熱(RMSF)、サルモネラ症、猩紅熱、細菌性赤痢、梅毒、破傷風、トラコーマ、結核、野兎病、腸チフス、発疹チフス、尿路感染症、細菌性心臓病が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0063】
ウイルス感染症には、AIDS、AIDS関連症候群(ARC)、水疱瘡(水痘)、感冒、サイトメガロウイルス感染症、コロラドダニ熱、デング熱、エボラ出血熱、手足口病、肝炎、単純ペルペス、帯状疱疹、HPV、インフルエンザ(流感)、ラッサ熱、麻疹、マールブルグ出血熱、伝染性単核症、流行性耳下腺炎、灰白髄炎、進行性多巣性白質脳症、狂犬病、風疹、SARS、天然痘(痘瘡)、ウイルス性脳炎、ウイルス性胃腸炎、ウイルス性髄膜炎、ウイルス性肺炎、西ナイル病、黄熱病が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0064】
慢性炎症または慢性炎症性疾患には、慢性胆嚢炎、気管支拡張症、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、炎症性大腸疾患(潰瘍性大腸炎およびクローン病)、珪肺症および他の塵肺症が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0065】
自己免疫疾患には、全身性症候群(たとえばSLE、シェーグレン症候群、強皮症、関節リウマチおよび多発性筋炎)ならびに局所症候群(たとえばIDDM、橋本甲状腺炎、アジソン病、尋常性天疱瘡、乾癬、アトピー性皮膚炎、アトピー性症候群、喘息、自己免疫性溶血性貧血症、多発性硬化症)が含まれるが、これらに限定されないものとする。
【0066】
上述の細菌ならびに好ましい実施形態は、本明細書では本発明の細菌と呼ぶ。
【0067】
本発明の細菌は、腫瘍標的の過程において、有利には生ワクチンとして腫瘍治療での使用に適している。すなわち、本発明の細菌によって、部分的または完全に枯渇した腫瘍関連マクロファージ(TAM)においてアポトーシスが誘発される。それによって、腫瘍は露出され、従来の抗腫瘍薬によって攻撃されうる。
【0068】
本発明の細菌は、生治療薬(live therapeutic)として、マクロファージ炎症が付随する慢性炎症性疾患の治療で使用するのに適しており有利である。すなわち、本発明の細菌によって、疾患に付随するマクロファージにおいてアポトーシスを誘発し、次いでこのマクロファージは炎症部位から部分的または完全に枯渇する。それによって、持続性炎症の原因である1つの因子が欠損し、この慢性炎症を消失させることができる。この疾患の例としては、良性前立腺肥大症等の炎症に付随する良性増殖性疾患、またはクローン病、炎症性腸疾患、関節リウマチ、喘息等の慢性炎症性自己免疫疾患がある。
【0069】
本発明の非病原性細菌および/または弱毒化細菌は、既知の様式で投与することができる。それによって、投与経路は、作用の適切な部位にもしくは所望の部位に前述の細菌を効果的に運ぶ、たとえば非経口的もしくは経口的に、特に静脈内に、局所的に、経皮的に、肺に、直腸に、膣内に、経鼻的に、もしくは非経口で運ぶ、または埋め込みによる任意の経路であってよい。静脈内投与が好ましい。
【0070】
非経口投与は、たとえば、静脈注射、皮下注射、筋肉内注射用の無菌の水溶液剤もしくは油性溶液剤、懸濁剤もしくは乳濁剤によって、埋め込みによってまたは軟膏剤、クリーム剤もしくは坐剤によって行うことができる。徐放形態としての投与も、必要に応じて可能である。埋め込みは、たとえば、生分解性ポリマーまたは合成シリコーン(たとえばシリコーンゴム)の不活性物質を含んでもよい。腟内投与は、たとえば膣リングによって可能である。子宮内投与は、たとえばベッサリーまたは他の適切な子宮内器具によって可能である。経皮投与は、特に、この目的に適している剤形によっておよび/またはたとえばパッチ等の適した方法によって追加的に提供される。
【0071】
経口投与は、たとえば、錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤、コーティング錠剤、顆粒剤または散剤として固形形態で行うことができるが、飲料溶液剤の形態でも行える。本発明の経口投与用化合物として、既知の通常使用され、生理的に許容される賦形剤と、担体(たとえばアラビアゴム、タルク、デンプン、糖(たとえばマンニトール、メチルセルロース、ラクトース)、ゼラチン、界面活性剤、ステアリン酸マグネシウム、シクロデキストリン、水溶性担体もしくは非水溶性担体、希釈剤、分散剤、乳化剤、潤滑剤、保存剤および香味料(たとえば精油))とを組み合わせることができる。本発明の細菌は、ナノ微粒子等の微粒子の組成物に分散させることも可能である。
【0072】
本発明の非病原性細菌および/または弱毒化細菌を製造する可能な様式は、以下のとおりである。
【0073】
(A)変異誘発、選択、および/または標的ゲノム修飾によって毒性細菌株、好ましくはサルモネラ菌株を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。弱毒化細菌株、好ましくはサルモネラ菌株を次のとおりに処置することができる。
【0074】
(i)恒常的なSipB/IpaB発現をもたらす負の調節DNAのゲノム欠失。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、分泌系、輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0075】
(ii)恒常的なSipB/IpaB発現をもたらす正の調節DNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、分泌系、輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0076】
(iii)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0077】
(B)変異誘発、選択および標的ゲノム修飾によってリステリアまたは赤痢菌等の毒性の細胞内病原性細菌を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。この弱毒化細胞を次のとおりに処置する。
【0078】
(i)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0079】
(C)変異誘発、選択および標的ゲノム修飾によって無毒性赤痢菌菌株を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。この弱毒化細胞を次のとおりに処置する。
【0080】
(i)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0081】
(D)変異誘発、選択および標的ゲノム修飾によって大腸菌、ビブリオ等の非病原性細菌または細胞外病原性細菌を弱毒化、好ましくは栄養要求性にする。この弱毒化細胞を次のとおりに処置する。
【0082】
(i)恒常的に発現されるSipB/IpaBをコードするDNAのゲノム挿入またはプラスミド挿入。必要であれば、追加のDNA操作と組み合わせて、マクロファージ(浸潤物、III型輸送系)においてアポトーシスの誘発に必要な追加のエレメントを確実に発現させる。
【0083】
[図1]相当量のTAMが異なるマウス腫瘍モデルで検出できることを示す。直径1〜1.5cmの腫瘍を、1×106B78−D14細胞(a)、1×1044T1細胞(b)および1×106P815−PSA細胞(c)を皮下注射したマウスから分離した。さらに、トランスジェニックMMTV−Her2/new FVBから自発性乳腺腫瘍を分離した(d)。腫瘍組織を固定してパラフィンに包埋した。ビオチン化抗F4/80モノクローナル抗体で腫瘍切片を免疫染色し、続いてヘマトキシリンで対比染色した(右側)。対照として、F4/80抗体を使用せずにアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼによる染色を行った(左側)。
【0084】
[図2]ネズミチフス菌Δ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す。腫瘍を有するマウス(群あたりおよびt時点でn=3マウス)に、1×106のネズミチフス菌Δ−aroAを静脈内感染させてから4時間後、6時間後、および7日後に、分離腫瘍細胞および対照として脾臓細胞のコロニー形成単位/細胞数(a)ならびに感染細胞/細胞数(b)を決定した。L−Topアガーに、段階希釈した細胞ライセートを播種することによってコロニー形成単位を決定し、非溶解のゲンタマイシン処置細胞を播種することによって感染した細胞数を決定した。右下がり縞のカラムは、ゲンタマイシンを使わずに処置した全脾臓細胞を表し、右上がり縞のカラムは、ゲンタマイシン処置した脾臓細胞を表す。横縞のカラムは、ゲンタマイシンを使わずに処置した全腫瘍細胞画分を表す。縦縞のカラムは、ゲンタマイシン処置した全腫瘍細胞画分を表す。黒カラムはマクロファージ画分を表し、白カラムはマクロファージが枯渇した画分を示す。いずれの時点においても、マクロファージが枯渇した腫瘍細胞と比較すると、マクロファージ画分においてかなり多くの細胞が見られた。感染から4時間後および6時間後、ほとんどの細菌は細胞内にあった。対して感染から7日後、無処置の全腫瘍細胞と比較すると、ゲンタマイシン処置した群においてコロニー形成単位数によって決定したように、10倍以上の細菌が細胞外で見られた。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差、**:p<0.01、***:p<0.001、(スチューデントのt検定)であった。
【0085】
[図3]腫瘍を有するマウスにサルモネラを静脈内感染させることにより、腫瘍関連マクロファージにおいて感染から6時間後にカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発し、感染から7日後には誘発しないことを示す。4T1腫瘍を有するマウスにサルモネラを感染させてから4時間後、6時間後および7日後、分離し溶解した細胞のカスパーゼ−1活性化(a)およびPARP切断(b)をウエスタンブロット法によって分析した。カスパーゼ−1抗体は、カスパーゼ−1の20kDaの活性サブユニットを検出し、PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。カスパーゼ−1活性化およびPARP切断は、全細胞ならびに感染から6時間後のマウス由来の腫瘍マクロファージ画分で検出できたが、マクロファージを枯渇した画分では検出できなかった。感染から7日後、カスパーゼ−1またはアポトーシスは、どの画分でも検出できなかった。GAPDHをローディング対照として用いた。感染から7日後、FACSによって相対量のTMAを決定した。棒グラフは、群毎に分析した3つの腫瘍の平均値±標準偏差を表す(c)。感染から7日後、サルモネラはマクロファージ数に影響を及ぼさなかった。
【0086】
[図4]aroA変異体フレクスナー赤痢菌菌株の特徴付けを示す。(a)LB培地中37℃、180rmpでの増殖速度の決定。一晩培養物を本培養用に1:20に希釈して、一時間ごとに外径を測定した。プラスミドのない無毒性菌株のフレクスナー赤痢菌BS176を、LB培地で、0.3外径/時間の最大増殖速度によって特徴付けた。これに対して毒性菌株のフレクスナー赤痢菌M90Tの最大増殖速度は、若干低下した0.2外径/時間であった(a)。aroA変異体を保有する菌株の最大増殖速度は、実質的に低下したものであった。M90TΔ−aroAの最大増殖速度は、野生型フレクスナー赤痢菌M90Tの最大増殖速度よりも2.5倍遅かった。ここでも、M90TΔ−aroAと比較して、BS176Δ−aroAの最大増殖速度は、若干高かった。(b)HeLa細胞を用いた浸潤アッセイ。100:1の感染効率で感染させた。この野生型菌株M90Tに比べて、35分間の感染(結合)および感染後1時間(浸潤)、続いてコロニー形成単位を決定した。フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA菌株(M90TΔ)は、その接着挙動または浸潤挙動において、野生型菌株と比較すると何ら相違を示さなかった。これに対して無毒性菌株のフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA(BS176Δ)菌株は、浸潤障害を示した。(c)細胞内の複製潜在能力を決定するために、100:1の感染効率で1時間、細胞を感染させた。続いて、ゲンタマイシンの存在下でさらに2時間、細胞をインキュベートして、溶解細胞のコロニー形成単位を決定した。前述の野生型菌株は細胞内複製の能力があったが、M90TΔまたはBS176Δのいずれも能力がなかった。(d)細胞間伝播の能力を決定するために、500:1の感染効率で1時間、HeLa細胞を感染させた。次いで、この感染した細胞を20グレイで20分間放射線照射し、Hela細胞の複製をブロックした。感染し照射した細胞および非感染HeLa細胞を70:1の割合で、2時間、8時間および12時間、ゲンタマイシンの存在下で同時インキュベートした。続いて、非溶解細胞をSea−Plaqueアガロースで段階希釈して、BHIアガープレート上に播種した。同時感染から12時間後、M90TΔのコロニー形成単位は17倍増大した。これに対して無毒性菌株BS176Δのコロニー形成単位は、わずか3倍増大し、細胞間伝播に対してM90TΔの損なわれていない潜在力を示唆した。(e)感染から1時間後(補足データ)および4時間後、HeLa細胞をGiemsa染色することによって、M90TΔの細胞間伝播能力を確認した。カスパーゼ−1活性化およびアポトーシス誘導を誘発するaroA変異体の能力を決定するために、J774A.1マウスマクロファージを感染させ、カスパーゼ−1の20kDa活性断片を認識するカスパーゼ−1抗体(f)ならびに85kDa切断断片を認識するPARP抗体(g)を用いて、細胞溶解物をウエスタンブロット法によって異なる時点で分析した。MT90Δは、カスパーゼ−1誘導およびアポトーシスの双方を誘発することができたが、BS176Δはできなかった。M90TΔによるアポトーシス誘導およびカスパーゼ−1プロセシングは、カスパーゼ−1特異的インヒビターYVAD−CHO(2.5mM)によって完全にブロックされた。β−アクチンをローディング対照として用いた。棒グラフは、3種類の異なる実験の平均値±標準偏差、***:p<0.0001(スチューデントのt検定)を表している。
【0087】
[図5]フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す。腫瘍を有するマウス(群およびt時点でn=3マウス)を、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA(c、d)およびBS176Δ−aroA(a、b)で静脈注射で感染させてから6時間および7日後に、分離した腫瘍細胞および対照として脾臓細胞のコロニー形成単位/細胞数(a、c)ならびに感染細胞/細胞数(b、d)を決定する。L−Topアガーに、細胞ライセートの段階希釈物を播種することによってコロニー形成単位を決定し、非溶解したゲンタマイシン処置細胞を播種することによって感染した細胞数を決定した。右下がり縞のカラムは、ゲンタマイシンを使用せずに処置した全脾臓細胞を表し、右上がり縞のカラムは、ゲンタマイシンで処置した脾臓細胞を表す。横縞のカラムは、ゲンタマイシンを使用せずに処置した全腫瘍細胞画分を表す。縦縞のカラムは、ゲンタマイシンで処置した全腫瘍細胞画分を表す。黒カラムはマクロファージ画分を表し、白カラムはマクロファージが枯渇した画分を示す。いずれの時点においても、マクロファージが枯渇した腫瘍細胞と比較すると、マクロファージ画分においてかなり多くの細胞が見られた。いずれの時点においても、M90TΔ−aroAの大部分は細胞内に見られた。これに対して無菌性菌株BS176Δ−aroAによる感染から6時間後、50倍以上の細菌が細胞外で見られた(a、b)。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差、**:p<0.01、***:p<0.001、(スチューデントのt検定)であった。
【0088】
[図6]腫瘍を有するマウスにフレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAを静脈注射で感染させることで、感染から4時間、6時間および7日後、TAMにおいてカスパーゼ−1プロセシングならびにアポトーシスを誘発し、かつ感染から7日後マクロファージ数を実質的に減少させたが、BS176Δ−aroAによる感染では見られなかったことを示す。4T1腫瘍を有するマウスに赤痢菌を感染させてから4時間、6時間および7日後、分離し溶解した細胞のカスパーゼ−1活性化(a)ならびにPARP切断(b)をウエスタンブロット法で分析した。カスパーゼ−1抗体は、カスパーゼ−1の20kDa活性サブユニットを検出し、PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。カスパーゼ−1活性化およびPARP切断は、M90TΔに対しては、感染から4時間および6時間後、マウス由来の腫瘍の全細胞およびマクロファージ画分において、ならびに感染から7日後、マクロファージ画分において検出できた。しかしBS176Δに対しては検出できなかった。ローディング対照としてGAPDHを用いた。感染から7日後、相当量のTAMがFACSによって決定され(c、d)、感染から7日後M90TΔはマクロファージ数において実質的な減少をもたらしたが、BS176Δではこの現象は見られなかった。ナイーブマウス、BS176ΔおよびM90TΔに感染したマウスの組織学的検査(e)によって、M90TΔ感染から7日後のマウス由来の腫瘍において、マクロファージ(抗F480染色)および強い炎症(抗CD45染色)の実質的な減少、ならびにサイトケラチン陽性4T1腫瘍細胞(抗CK染色)のほぼ完全な減少が明らかになったが、ナイーブマウスまたはBS176Δ感染のマウスではこの現象は見られなかった。棒グラフは、群毎に分析した4つの腫瘍の平均値±標準偏差、**:p<0.01、**:p<0.001(スチューデントのt検定)を表す。
【0089】
[図7]4T1腫瘍を有するマウスにM90TΔを静脈注射で感染させることで、腫瘍増殖がブロックされ、BS176Δの場合はブロックされないことを示す。(a)腫瘍移植から14日後、群あたりn=8マウスに1×106細菌を静脈注射で投与した。1×PBS静脈注射で対照群を処置した。M90TΔによる感染後、腫瘍増殖が実質的に減少し、続いて腫瘍増殖がブロックされた。BS176Δによる感染は、少量ではあるが有意な腫瘍増殖の減少をもたらした。腫瘍接種から31日後、動物福祉の理由でナイーブマウスおよびBS176Δマウスを屠殺した。すべての群に対してn=8、M90TΔに対してn=6(腫瘍増殖を比較するために、2匹のマウスを屠殺した)およびn=3(コロニー形成単位の決定およびFACS分析のために、3匹のマウスを屠殺した)。感染した動物は、それぞれ最初の感染から1日目−18、18日目−48、48日目−68。**:p<0.01、***:p<0.001。(b)感染から48日後、マクロファージ数およびコロニー形成単位を、それぞれFACSおよび段階希釈法で決定した。非増殖腫瘍は、極めて低いマクロファージ数を示し、細菌が検出できなかった。感染から49日目に、残りの3匹のマウスに1×106細菌を静脈注射で投与した。腫瘍の大きさが縮小したものは検出されなかった。感染から68日目に、コロニー形成単位を決定し、続いて組織学的検査を行った。細菌は、腫瘍、肝臓および脾臓で検出できなかった。
【0090】
[図8]M90TΔ−aroAは、ex vivoヒト腹水細胞から分離したマクロファージにおいてTAMを主に標的にして、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す(a)。ある患者からの細胞を分離した後3つの異なる細胞画分を、野生型フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAを用いて100:1の感染効率で1時間ex vivo感染を行った。300μg/mlゲンタマイシンと共に1時間のインキュベーション後、段階希釈物をBHIアガー上に播種した。翌日、コロニー形成単位を決定した。感染細胞中のカスパーゼ−1活性化およびPARPプロセシングをウエスタンブロット法で分析した(b)。この抗体は、プロカスパーゼ−1(45kDa)および活性化20kDaのサブユニットを検出した。マクロファージが枯渇した画分には、検出可能なレベルのプロカスパーゼ−1が含まれていないことに留意されたい。PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。ローディング対照としてGAPDHを用いた。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差、***:p<0.001(スチューデントのt検定)であった。
【0091】
[図9]カスパーゼ−1がマクロファージによって独占的に発現されることを示す。カスパーゼ−1発現についての、RT−PCR(左側)およびウエスタンブロット(右側)による分析。以下のプライマーを用いた。アクチンs1 5’−GTCGTACCACAGGCATTGTGATGG−3’、アクチンas 5’−GCAATGCCTGGGTACATGGTGG−3’;Casp1RT_左5’−TGCCCTCATTATCTGCAACA−3’、Casp1RT_右5’−GGTCCCACATATTCCCTCCT−3’。
【0092】
[図10]RAWマクロファージにおけるカスパーゼ−1サルモネラおよび赤痢菌のin vitro活性化を示す。RAW264.7マクロファージに10:1の感染効率で、フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA(対数増殖期の中間部)およびネズミチフス菌Δ−aroA(定常増殖期)を異なる時点で感染させた。続いて、細胞ライセートのカスパーゼ−1活性化についてウエスタンブロットを行った。aroA欠失を包含する赤痢菌菌株は、野生型赤痢菌菌株と比較するとカスパーゼ−1活性化において若干の遅れを示したが、2時間後同じ活性に達した。サルモネラ菌株は、インキュベーションから3時間後、カスパーゼ−1プロセシングを誘発した。対数期に収集したサルモネラ菌株は、このアッセイ(データを図示せず)においてカスパーゼ−1プロセシングを誘発しなかった。その後のすべての感染実験のために、定常期で収集した菌株を用いた。
【0093】
[図11]Giemsa染色によるJ774A.1マクロファージを示す。表示したものは、それぞれM90T(左側)、M90TΔ−aroA(中央)およびBS176Δ−aroA(右)による感染から1時間後のJ774A.1マクロファージである。
【0094】
[図12]ネズミチフス菌Δ−aroAに対するゲンタマイシンの細胞外活性および細胞内活性を示す。(a)1×106ネズミチフス菌Δ−aroAを、50、100、200および300μg/mlのゲンタマイシンを用いて1/2時間、1時間および2時間処置し、次いでコロニー形成単位を段階希釈法で決定した。(b)J744A.1マクロファージを、1×106ネズミチフス菌Δ−aroA(対数増殖期)で感染させた。DMEM培養液で細菌を3回洗浄して、4000rpm(4℃)で10分間遠心する。感染から1時間後、細胞を、50、100、200および300μ/mlのゲンタマイシンとともに1時間インキュベートし、続いて10μg/mlのゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした。細胞を溶解した後、コロニー形成単位を段階希釈法で決定した。MACS分離の間に細胞が再感染しないようにしかつ細胞外細菌数を算定するためには、1時間のインキュベーション間に細胞外細菌を死滅させるか、または実質的に減少させる必要がある。(a)に示したように、50、100または200μg/mlのゲンタマイシンとともに1時間インキュベートすると、対照と比較して、コロニー形成単位の3倍、10倍または100倍の減少をもたらした。これと対照的に、300μg/mlとともにインキュベートした場合、1時間のインキュベーション後、遊離細菌が1000倍以上減少し、2時間のインキュベーション後には細菌は完全に除去された。上述の濃度での細胞内細菌の活性を決定するため、細胞分離で使用したプロトコールと同様のものを用いた(b)。100〜300μg/ml用量のゲンタマイシンでは、これらの短いインキュベーション時間で細胞外細菌に対して僅かな活性を示す50μg用量と比較すると、わずかに1.5倍の活性増大を示した。100〜300μg/ml用量のゲンタマイシンでは、細胞内コロニー形成単位において有意差がなかった。したがって、最も高い300μg/ml用量のゲンタマイシンを今後の実験のために選択した。この用量は、細胞分離で用いた実験設定において細胞外細菌を1000倍以上減少させることになる。
【0095】
[図13]細胞分離の実験予定を示す。(a)腫瘍除去および全腫瘍細胞の分離後、(b)0.001%デオキシリボヌクレアーゼおよび2μg/mlディスパーゼで処置することで、全腫瘍細胞の一部分(1)を300μg/mlのゲンタマイシンで、またはゲンタマイシンを使わずに1時間処置した。処置後、コロニー形成単位およびカスパーゼ−1活性化について細胞を分析した。ゲンタマイシンで処置した標本は、主に細胞内細菌を含み、これに対して未処置の標本は細胞外細菌および細胞内細菌を含む。全腫瘍細胞の第2の部分(2)を、抗F4/80(IgG)抗体で標識化した。次いで、磁気ビーズで標識化した第2の抗IgG抗体を加えた。磁場でMACSカラムを用いて分離を行い、マクロファージ画分およびマクロファージ枯渇画分の2つの細胞画分をもたらした。マクロファージ画分の純度は、96〜99%(n=7)である。遊離細菌による細胞の再感染を防止するために、処置の間を通じて300μg/mlゲンタマイシンとともにインキュベートしたこれらの画分をもちいて、コロニー形成単位およびカスパーゼ−1プロセシングも評価した。マクロファージが枯渇した画分(d)と比較して、マクロファージ画分(c)が含む細胞量が実質的に低いことに留意されたい。コロニー形成単位を数えるために、播種後に標準化(コロニー形成単位/細胞数、感染細胞/細胞数)を行った。ウエスタンブロットのため、同等の細胞数を添加した。
【0096】
[図14]細胞分離後、3つの細胞画分の光学顕微鏡検査(×100)を示す。感染した細胞の数に関して結果に影響を及ぼし得る細胞分離の有効性を評価するために、3つの異なる細胞画分について光学顕微鏡検査を行った。左側パネルは、全腫瘍細胞の画分を示し、中央のパネルは分離したマクロファージを示す。左側パネルは、マクロファージが枯渇した画分を示す。すべての細胞画分の細胞は、主に単細胞のようにみえる。
【0097】
[図15]腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す。コロニー形成単位(a)および感染から6時間後にL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(b)を決定する。腫瘍を有するBalb/cマウス(n=4)に、ネズミチフス菌Δ−aroA(1×106)を感染させた。感染から6時間後、脾臓および腫瘍を摘出して、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染した細胞の数を決定した。
【0098】
[図16]腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAをin vivo感染させたことを示す。コロニー形成単位(a、b)ならびに感染から4時間後、6時間後および7日後にL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(c、d)を決定する。腫瘍を有するBalb/cマウス(n=4)に、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA(1×106)を感染させた。感染から4時間後、6時間後および7日後、脾臓および腫瘍を摘出して、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染細胞数を決定した。
【0099】
[図17]腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す。コロニー形成単位(a、b)および感染から6時間後にL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(c、d)を決定する。腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウス(n=4)に、ネズミチフス菌Δ−aroA(1×106)を感染させた。感染から6時間後、脾臓および腫瘍を摘出して、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染細胞数を決定した。感染動物および非感染動物において感染から7日後のマクロファージの相対的割合(e)を、FACS分析によって決定した。移植腫瘍で得た結果と同様に、自発性乳腺がんを有するトランスジェニック動物モデルにおけるマクロファージが枯渇した腫瘍細胞と比較すると、サルモネラは約100倍も高い効率でTAMを感染させた(a〜d)。このモデルにおいても、細菌の大部分は細胞内に存在した。サルモネラ処置は、感染から7日後の腫瘍においてマクロファージ数に測定可能な減少をもたらさなかった。
【0100】
[図18]M90T、M90TΔ−aroAおよびBS176Δ−aroAが、ex vivoトランスジェニックマウス由来の自発性乳腺がんから分離したマクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す。Balb/c(a、b)およびMMTV−Her2(c、d)由来の細胞を分離した後、3つの異なる細胞画分に、フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS186Δ−aroAを100:1の感染効率で1時間、ex vivo感染させた。300μg/mlゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした後、ウエスタンブロットのために異なるプローブを製造した。この抗体は、プロカスパーゼ−1(45kDa)および活性化カスパーゼ−1(20kDa)のサブユニットを検出した。マクロファージが枯渇した画分には、検出可能なレベルのプロカスパーゼ−1が含まれていないことに留意されたい。PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出する。
【0101】
[図19]M90TΔ−aroAが、自発性乳腺がんを有するトランスジェニックマウスの腫瘍のマクロファージに主に存在し、感染から7日後、実質的にマクロファージ数を減少させたことを示す。コロニー形成単位(a、c)および感染から7日後のL−Topアガーアッセイによって感染細胞数(b、d)を決定する。MMTV−Her2/new FVBマウス(n=4)に、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびBS176Δ−aroA(1×106)を感染させた。感染から7日後、脾臓および腫瘍を摘出し、細胞を分離した。溶解細胞を段階希釈することによって全コロニー形成単位を決定し、次いでL−Topアガーに段階希釈した無傷細胞を播種することによって感染細胞数を決定した。感染動物および非感染動物において感染から7日後のマクロファージの相対的割合(e)を、FACS分析によって決定した。フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAは、感染から7日後、依然として主にTMAを感染させていた。発明者らも、感染から7日後のマクロファージの相対的割合(e)を、FACS分析によって決定した。BS176Δ−aroAに感染したマウスと比較すると、感染から7日後、マクロファージの量において有意差があった。***:p<0.005。静脈注射による感染から7日後、M90TΔ−aroAは、自発性腫瘍のマクロファージ内に主に存在している(マクロファージが枯渇した画分と比較すると5倍の差)。非浸潤性BS176Δ−aroA菌株は、極めて低い細胞数で、依然として腫瘍内に存在し、かつ主にマクロファージ内にも見られる。サルモネラと対照的に、非毒性BS176Δ−aroA菌株と比較すると、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発する能力がある感染性M90TΔ−aroA菌株に感染したマウスの腫瘍においてマクロファージ数は、実質的に4倍以上(***:p<0.005)減少している。
【0102】
[図20]腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスにM90TΔ−aroAを感染させると、静脈注射による感染から6時間後および7日後、腫瘍のマクロファージ画分においてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発するが、BS176Δ−aroAを感染させると、この現象が見られないことを示す。腫瘍を有するMMTV−Her2マウス(n=4)に、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δaro−A(1×106)を静脈注射で感染させる。6時間後および7日後、ウエスタンブロット法によって細胞画分を分離し、分析した。この抗体は、プロカスパーゼ−1(45kDa)および活性(20kDa)のサブユニットを検出した。抗切断PARP抗体は、85kDaの切断PARP断片を検出した。自発性腫瘍を有するトランスジェニックマウスに、静脈注射でM90TΔ−aroAを感染させると、感染から6時間後、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスの実質的な減少をもたらした。サルモネラと対照的に、アポトーシス促進性活性が7日目に存続していた。腫瘍を移植した動物で観察された結果と同様に、M90TΔ−aroA感染から7日後のマウスの全腫瘍細胞画分において、測定できるカスパーゼ−1誘導がなかった。これは、これらの腫瘍においてマクロファージが実質的に減少したことによって説明されると思われる。
【0103】
[図21]M90TΔ−aroAが、ex vivoヒト腹水細胞から分離したTAMを主に標的にすることを示す。腹水細胞は、2つの異なる細胞集団からなり、一方の細胞集団には接着細胞があり、他方の細胞集団には懸濁細胞がある。この2つの細胞集団(a、b)を分離細胞型として処置した。ある患者から細胞を分離した後、3つの異なる細胞画分に、野生型フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAを100:1の感染効率で1時間、ex vivo感染させ、対照としてRAW264.7マクロファージを感染させた。300μg/mlゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした後、段階希釈物をBHIアガー上に播種した。翌日、全コロニー形成単位を決定した。表示したすべての結果は、平均値±標準偏差;***:p<0.001(スチューデントのt検定)であった。
【0104】
[図22]pMOhlipaプラスミドのグラフィカル模式図である。
【0105】
[図23]大腸菌pMOhlipaによるIpaB分泌の決定を示す。M90T(陽性、IpaB 64kDa)によって、およびBS176(陰性)によって感染させたRAW264.7マクロファージを対照として用いた。HlyAシグナル配列をIpaBに融合させたために、大腸菌pMOhlipaによるIpaB分泌を70kDa生成物によって検出した。
【0106】
[図24]in vitro大腸菌によるカスパーゼ−1活性化についてのウエスタンブロット分析を示す。RAW264.7マクロファージに、異なる大腸菌DH5α菌株(定常増殖期)を3時間および6時間感染させた。カスパーゼ−1活性化に対する陽性対照として、RAW264.7マクロファージにフレクスナー赤痢菌M90T(対数増殖期の中間部)を感染させかつスタウロスポリン(4μM)を用いて3時間処置した。ローディング対照としてGAPDHを用いた。
【0107】
[図25]in vivo脾臓組織におけるカスパーゼ−1活性化に関するウエスタンブロット分析を示す。腫瘍を有するBalb/cマウスに1×106大腸菌pMOhlipaをin vivo感染させ、脾臓細胞の分離およびカスパーゼ−1活性化のウエスタンブロット分析を行った。Balb/cから分離したTAMにM90Tを感染させ、カスパーゼ−1活性化に関する陽性対照とした。ローディング対照としてGAPDHを用いた。
【0108】
[図26]プラスミドpSPR17のグラフィカル模式図である。
【0109】
すべての引用文献および特許の内容を、参考として本明細書で援用する。以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、その実施例に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、相当量のTAMが異なるマウス腫瘍モデルで検出できることを示す図である。
【図2】図2は、ネズミチフス菌Δ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す図である。
【図3】図3は、腫瘍を有するマウスにサルモネラを静脈内感染させることにより、腫瘍関連マクロファージにおいて感染から6時間後にカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発し、感染から7日後には誘発しないことを示す図である。
【図4】図4は、aroA変異体フレクスナー赤痢菌菌株の特徴付けを示す図である。
【図5】図5は、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAがin vivoで主にTAMを標的にすることを示す図である。
【図6】図6は、腫瘍を有するマウスにフレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAを静脈注射で感染させることで、感染から4時間、6時間および7日後、TAMにおいてカスパーゼ−1プロセシングならびにアポトーシスを誘発し、かつ感染から7日後マクロファージ数を実質的に減少させたが、BS176Δ−aroAによる感染では見られなかったことを示す図である。
【図7】図7は、4T1腫瘍を有するマウスにM90TΔを静脈注射で感染させることで、腫瘍増殖がブロックされ、BS176Δの場合はブロックされないことを示す図である。
【図8】図8は、M90TΔ−aroAは、ex vivoヒト腹水細胞から分離したマクロファージにおいてTAMを主に標的にして、カスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す図(a)、感染細胞中のカスパーゼ−1活性化およびPARPプロセシングをウエスタンブロット法での分析により示す図(b)である。
【図9】カスパーゼ−1がマクロファージによって独占的に発現されることを示す図である。
【図10】RAWマクロファージにおけるカスパーゼ−1サルモネラおよび赤痢菌のin vitro活性化を示す図である。
【図11】Giemsa染色によるJ774A.1マクロファージを示す図である。
【図12】ネズミチフス菌Δ−aroAに対するゲンタマイシンの細胞外活性および細胞内活性を示す図である。
【図13】細胞分離の実験予定を示す図である。
【図14】細胞分離後、3つの細胞画分の光学顕微鏡検査(×100)を示す図である。
【図15】腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す図である。
【図16】腫瘍を有するBalb/cマウスに、1×106フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAをin vivo感染させたことを示す図である。
【図17】腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAをin vivo感染させたことを示す図である。
【図18】M90T、M90TΔ−aroAおよびBS176Δ−aroAが、ex vivoトランスジェニックマウス由来の自発性乳腺がんから分離したマクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発することを示す図である。
【図19】M90TΔ−aroAが、自発性乳腺がんを有するトランスジェニックマウスの腫瘍のマクロファージに主に存在し、感染から7日後、実質的にマクロファージ数を減少させたことを示す図である。
【図20】腫瘍を有するMMTV−Her2/new FVBマウスにM90TΔ−aroAを感染させると、静脈注射による感染から6時間後および7日後、腫瘍のマクロファージ画分においてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発するが、BS176Δ−aroAを感染させると、この現象が見られないことを示す図である。
【図21】M90TΔ−aroAが、ex vivoヒト腹水細胞から分離したTAMを主に標的にすることを示す図である。
【図22】pMOhlipaプラスミドのグラフィカル模式図である。
【図23】大腸菌pMOhlipaによるIpaB分泌の決定を示す図である。
【図24】in vitro大腸菌によるカスパーゼ−1活性化についてのウエスタンブロット分析を示す図である。
【図25】in vivo脾臓組織におけるカスパーゼ−1活性化に関するウエスタンブロット分析を示す図である。
【図26】プラスミドpSPR17のグラフィカル模式図である。
【実施例】
【0111】
実施例1:
方法
プラスミド。プラスミドpKD3、pDK4(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L. Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)およびpCP20(Cherepanov, P.P. & Wackernagel, W. Gene 1995, 158:9−14)を保有する大腸菌(Escherichia coli)菌株を、Wuerzburg大学、バイオテクノロジー学部から入手した。このプラスミドpKD3およびpDK4は、π依存性であり、かつFLPリコンビナーゼ認識部位(FRT部位)に隣接するクロラムフェニコール耐性遺伝子およびカナマイシン耐性遺伝子をそれぞれ保有する。pCP20プラスミドは、1つの温度感受性レプリコンと、l cl857リプレッサーの制御下においてIpRプロモーターから転写された酵母FLPコンビナーゼとを含む(Cherepanov, P.P. & Wackernagel, W. Gene 1995, 158:9−14)。
【0112】
培地、化学薬品および他の試薬。アンピシリン耐性、クロラムフェニコール耐性(CmR)およびカナマイシン耐性(KmR)の形質転換体を、100、25、および30μg/mlでそれぞれの抗生物質を含有するトリプチケースソイアガー(1.2%アガー)(TSA)(Difco Laboratories)上で選択した。計1mMのL−アラビノース(Sigma)を使用した。オリゴヌクレオチドはMWG社製であった。特に明記しない限り、酵素はFermentas社製であった。すべてのPCR検査では、Taqポリメラーゼを使用した。Taq(Biotherm, Genecraft)ポリメラーゼは、製造者の説明書に従って使用し、クローニングおよび変異誘発用のDNAを生成した。Qiagen製品(Hilden, Germany)を用いて、プラスミドDNAの分離、断片のゲル精製またはPCR産物の精製を行った。
【0113】
細菌株、増殖条件および遺伝学的方法。使用したネズミチフス菌(S.typhimurium)Δ−aroA菌株は、プラスミドベースのカナマイシン耐用を持つ(プラスミドpTolCKan、Hotz et al.、未発表データ)。プラスミド安定性は、in vivoで100%であり、したがってこの菌株を用いることで、カナマイシン上での選択が可能になった(データは図示せず)。使用したフレクスナー赤痢菌(S.flexneri)5a菌株は、NiceのSophia−Antipolis大学からの野生型M90T[ストレプトマイシン(Sm)耐性](Allaoui, A., Mounier, J., Prevost, M.C., Sansonetti, P.J. & Parsot, C. Mol Microbiol 1992, 6:1605−1616)およびその非浸潤性変異体BS176(毒性プラスミドpWR100が欠如している)(Sansonetti, P.J., Kopecko, D.J. & Formal, S.B. Infect lmmun 1982, 35:852−860;Buchrieser, C. et al. Mol Microbiol 2000, 38:760−7)である。すべての菌株を、トリプチケースソイブロス(TSB)(Becton Dickinson and Co.)、トリプチケースソイアガー(1.2%アガー)(TSA)(Difco Laboratories)、Luria−Bertaniブロス(LB)(Miller, J.H. A short course in Bacterial Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1992)またはブレインハートインフュージョン(BHI)の培地上で規定どおりに増殖した。1リットルあたり100mgのコンゴーレッド染料(Cr)を含有するTSAを用いて、赤痢菌(Shigella)菌種のCr+クローン(Maurelli, A.T., Blackmon, B. & Curtiss, R., 3rd.Infect lmmun 1984, 43:195−201)を選択した。必要に応じて、Amp(100μg/ml)、Kan(25μg/ml)またはCm(30mg/ml)(すべてSigma Chemical社製)を細菌培養物に加えた。pCP20を含有する菌株は、以下に特に記述しない限り30℃でインキュベートした。220kb毒性プラスミドpWR100のM90Tからの分離は、大型コンストラクトキット(QIAGEN)によって行った。
【0114】
直鎖DNA製造。抗生物質耐性遺伝子を含有する直鎖DNAは、DatsenkoおよびWanner(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)によって記述された方法を用いて、pKD3またはpKD4から製造した。PCR反応用のプライマーは、目的の遺伝子と50bpの相同性を有しならびにpKD3またはpKD4から準備するために使用するP1およびP2の部位を含有するようにデザインした。挿入断片の検証(下記)は、プライマーAroAupおよびAroAdownを用いて行った。PCR反応は、製造者(Biotherm, Genecraft)の推奨に従ってTaqポリメラ−ゼを用いて行った。
【0115】
PCR分析は、コロニーPCR法によって行った。簡潔にいうと、コロニーを50μlの水に再懸濁させて、10分間沸騰させDNAライセートを作製する。PCR法による適切なプライマーセットを用いて、各ライセートをアッセイした。PCR反応は、製造者(Biotherm, Genecraft)の推奨に従ってTaqポリメラ−ゼを用いて行った。以下のプライマーを使用した。
AroAup GGGGTTTTTATTTCTGTTGTAGAGAGTTGAGTTCATGGAATCGTGTAGGCTGGAGCTGCTTC
AroAdown GGCCGTGCATTTGGGATCAAGAATCGTCACTGGTGTATCTGCATATGAATATCCTCCTTA
AroAFr_up GATTTCTACCGCAATGACG
AroAFr_down GGAAACAAGTGAGCGTTTC
C1 TTATACGCAAGGCGACAAGG(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
C2 GATCTTCCGTCACAGGTAGG(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
K1 CAGTCATAGCCGAATAGCCT(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
K2 CGGTGCCCTGAATGAACTGC(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L.Proc Natl Acad Sci USA 2000, 97:6640−6645)
増殖において減弱されているがその毒性においては減弱されてない菌株を作製するために、発明者らは、遺伝子操作した菌株のフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAから始めた。したがって、フレクスナー赤痢菌M90Tの200kb毒性プラスミドpWR100を大型コンストラクトキット(QIAGEN)によって分離した。次いで、この毒性プラスミドおよびアンピシリン耐性を保有するペルパープラスミドpCD20を、すでに構築されているBS176Δ−aroA菌株に形質転換した。この二重形質転換および30℃で一晩のインキュベーションの後、毒性プラスミドpWR100(pWR100_up 5’−GATGCAGGCCAAGAGGTTAG−3’;pWR100_down 5’−GCGTTGATGACCGCATC−3’)およびaroAノックアウト(AroAFr_up 5’−GATTTCTACCGCAATGACG−3’;AroAFr_down 5’−GGAAACAAGTGAGCGTTTC−3’)を求めてアンピシリン耐性コロニーをスクリーニングした。この菌株をフレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAと名付けた。温度感受性レプリコンを含有するpCP20プラスミドを、43℃で一晩インキュベートすることによってキュアリングした。
【0116】
HeLa細胞浸潤アッセイおよび生存アッセイ。HeLa細胞によるゲンタマイシン保護アッセイを、若干の修飾を加えて前述(Elsinghorst EA, 1994)のように行った。複数の75cm2フラスコ内で10%ウシ胎仔血清(FBS, Gibco)、2mM L−グルタミン(Gibco)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(双方とも180μg/ml、Gibco)を含有するDulbecco変法イーグル培地(DMEM, Gibco)で、HeLa細胞(ATCC CCL−2)単層をセミコンフルエンスになるまで増殖させた。1つのフラスコを0.25%トリプシン(Pan)でトリプシン処理し、次いでその細胞濃度をDMEMで2×105細胞/mlまで調整した。6穴プレートに2mlのHeLa細胞を播種し、約90%のコンフルエンスになるまで5%CO2中、37℃で一晩増殖させた。細菌を加える2時間前に、HeLa細胞を洗浄してDMEMを交換した。細菌の対数期培養物(LB培地で増殖した)を、100の推定感染効率で加えた。細菌を加えてから、プレートを5%CO2中、37℃で1時間、インキュベートした。D−リン酸緩衝生理食塩水(Gibco)で、前述のプレートを3回洗浄し、次いでゲンタマイシン(100μg/ml)を含有するDMEMとともに、5%CO2中、37℃で1時間、インキュベートした。特定の時点後に、0.1%Triton X−100溶液中でHeLa細胞を10分間溶解させた。この細菌をLBアガープレート上に播種し、次いで37℃で18時間増殖させてから細菌コロニーをカウントした。
【0117】
細胞内増殖アッセイおよび細胞間増殖アッセイ。細胞内増殖および細胞間伝播の挙動を調べるために、初めに細胞のGiemsa染色法を用いた。簡潔にいうと、カバーガラス(直径20mm)上の直径45mmの組織培養プレート中で100:1の感染効率で1時間感染させたHeLa細胞(1×105)を1×PBSで2回洗浄し、室温でメタノールを用いて5〜7分間固定した。プレートを風乾し、製造者の説明書に記述されているように製造したGiemsa染料(Sigma)を用いて15〜60分間染色した。プレートを蒸留水で3回洗浄してから、風乾させて、油浸下で観察した。感染から1時間後および4時間後の時点で調べた。
【0118】
L−Topアガーアッセイ。L−Topアガーアッセイを用いて細胞間伝播を決定した。6穴組織培養プレート中でHeLa細胞(7×105)に、500:1の感染効率で1時間感染させてから、1×PBSで2回洗浄した。次いで、感染した細胞に、20グレイで20分間放射線照射した。続いて、非感染HeLa細胞と、放射線照射した赤痢菌感染HeLa細胞とを70:1の割合で、2時間、8時間および12時間インキュベートした。100μg/mlゲンタマイシンとの1時間のインキュベーションの後、ゲンタマイシンの濃度が10μg/mlまで減少した。すべての時点で、Sea−Plaqueアガロース(Biozym Scientific GmbH, Oldendorf)で作製した段階希釈物をBHIアガープレート上に播種した。このアガープレートを37℃で一晩インキュベートした。細菌コロニーの数は、スポットをカウントすることによって決定した。すべてのコロニーは、感染したHeLa細胞を特徴づけていた。
【0119】
マウス。6週齢〜8週齢のメスマウスに、それぞれ100μlリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁させた以下のいずれかを皮下に注射した。1×104マウス4T1乳がん細胞(ATCC:CRL−2539)、1×106B78−D14(Rymsa, B., Becker, H.D., Lauchart, W. & de Groot, H. Res Commun Chem Pathol Pharmacol 1990, 68:263−266;Lode, H.N. et al. J Clin Invest 2000, 105:1623−1630)黒色腫細胞、および1×106P815−PSA(J Fensterle, J., Bergmann, B, Yone, CLRP, Hotz, C, Meyer, SR, Spreng, S, Goebel, W, Rapp, UR and I Gentschev.Cancer Gene Therapy 2007)マスト細胞腫細胞。
【0120】
マウスに関わるすべての処置は、「Regierung von Unterfranken」(Wuerzburg, Germany)に従って行った。Balb/c o1a HSD、C57/BL6、DBA−2およびMMTV−Her2/new FVBは、Harlan Winkelmann GmbH(Borchen, Germany)に注文した。すべての動物は、lnstitut fuer Medizinische Strahlenkunde und Zellforschung(MSZ)の動物飼育施設で飼育した。
【0121】
腫瘍についての組織学的分析および免疫組織化学分析。4T1細胞(1×104)、B78−D14細胞(1×106)およびP815−PSA細胞(1×106)を、Balb/c、C57/BL6およびDBA/2マウスに皮下注射した。腫瘍の径が1.5〜2cmまで大きくなったとき、この腫瘍を無菌的に切除した。この腫瘍をホルマリンで固定し、薄切片化して、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0122】
腫瘍部位でマクロファージを識別するために、組織を4%緩衝パラホルムアルデヒド中で1日固定し、パラフィン包埋し、処理して薄切片化した。続いて、(Gouon−Evans, V., Rothenberg, M.E. & Pollard, J.W. Development 2000, 127:2269−2282)に記述されているように、パンマクロファージ抗F4/80ラットモノクローナル抗体(Acris Antibodies GmbH)を用いて薄切片を免疫染色し、次いでペルオキシダーゼをベースにした検出キット(Vector Laboratories)を用いて比反応性を検出した。抗CD45抗体(BD Pharmingen)およびペルオキシダーゼをベースにした検出キット(Vector Laboratories)を用いて、炎症の程度も検査した。
【0123】
腫瘍を有するマウスの静脈(I.v.)注射による感染。注射の前に細菌を対数期の中間部(赤痢菌)または定常期(サルモネラ)で収集して、1×PBSで3回洗浄し、次いで1×PBSで希釈した。細胞を移植してから14日後の4T1腫瘍を有するBalb/cマウスの外側尾静脈に、または0.5年齢の腫瘍を有するメスのMMTV−Her2マウスにこの懸濁液100μlを注射した。腫瘍および脾臓組織での細菌数を決定するために、マウスを屠殺して、臓器を切除し、重さを量り、70μmおよび40μmのセルストレーナーでホモジナイズした。各細胞画分の細胞数をカウントして、コロニー形成単位または感染した細胞の数を決定した。
【0124】
コロニー形成単位および感染した細胞数の決定。コロニー形成単位の数を決定するために、0.1%Triton−X(Roth)を含有する1×PBS中の段階希釈物をLBアガープレート上に播種した。ネズミチフス菌Δ−aroAを用いる実験のために、25μg/mlカナマイシンを含有するpTolCKanLBアガープレートを使用した。このアガープレートを、上下逆さまにして37℃で一晩インキュベートした。細菌コロニーの数は、スポットをカウントすることによって決定した。すべてのコロニーは、細菌コロニーを特徴づけていた。L−Topアガーアッセイ用に、1×PBSで段階希釈物を作製し、次いで5mlのSea−Plaqueアガロース(Biozym Scientific GmbH, Oldendorf)と約40℃で混合させた。LBアガープレート上に希釈物を慎重に滴下した。このアガープレートの底を下にして、37℃で一晩インキュベートした。細菌コロニーの数は、スポットをカウントすることによって決定した。すべてのコロニーは、感染した真核細胞を特徴づけていた。
【0125】
TMAの分離。磁気細胞分離のための染色法。磁気ビーズを用いる細胞標識化のための二段階方法を選択した。第1に、パンマクロファージ抗F4/80(IgG, Acris Antibodies GmbH;IgG, Santa Cruz)抗体で細胞を標識化した。第2に、この標識化細胞を抗IgG抗体で染色し、磁気ビーズ(Miltenyi Biotec GmbH)で標識化した。染色時間は計約30分であった。細胞の抗体標識化は、1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.01%アジ化ナトリウムを含む1×PBS中、4℃で、10〜15分行った。1×PBSで1回洗浄した後、抗体を標識化した第2のミクロビーズとともに前述の細胞をインキュベートした。4℃で10分間インキュベートした後、1回の洗浄段階で、まず非結合粒子を除去した。次いで、ミニカラム(Miltenyi Biotec GmbH)を約0.6テスラ(MACS永久磁石, Miltenyi Biotec)の磁場に設置して、1%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.01%アジ化ナトリウムを含む500μl1×PBSで平衡化し、次いで細胞を分離した。磁気ビーズで標識化した細胞を磁場に保持し、スチールウールファイバーに結合させる。このカラムを外部磁場から取り出すと、前述のスチールウールは容易に消磁し、磁気細胞は、もはや結合した状態ではなく、単細胞懸濁として溶出することができる。
【0126】
FACS分析用の細胞の製造。腫瘍細胞上で発現する細胞表面抗原を、FcγRII/III(2.4G2, BD Bioscience)で処置した後、抗体を用いて染色することによって、およびFACScan(BD Immunocytometry Systems)を用いるフローサイトメトリー分析によって分析した。以下のモノクローナル抗体を使用した。すなわち、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)−抗マウスCD11b(M1/70.15.11.5, Miltenyi Biotec)、フィコエリトリン(PE)−抗マウスGr−1(RB6−8C5, Miltenyi Biotec)およびPE−抗マウスF4/80(BM4008R, Acris Antibodies)。
【0127】
有効性研究。腫瘍増殖の際の赤痢菌感染の治療効果を探索するために、6週齢〜8週齢のメスのBalb/cマウス28匹に1×1044T1細胞を皮下注射で投与した。腫瘍増殖は一日おきに定規で決定した。腫瘍量が約170mm3に達したとき(細胞移植から14日目)、3群のマウス(n=8)を無作為化によって決定した。フレクスナー赤痢菌M90TΔおよびBS176Δを前述のように製造し、その懸濁液100μlを、4T1腫瘍を有するBalb/cマウスの外側尾静脈に注射した。ナイーブ群では、100μl1×PBSを投与した。腫瘍の増殖は一日おきに観察した。腫瘍細胞移植から31日目、ナイーブ群およびBS76Δ−aroA群ならびに2匹のM90TΔ−aroAマウスを屠殺して、腫瘍の大きさを比較した(データは図示せず)。感染から48日目、3匹のM90TΔ−aroAマウスを屠殺し、腫瘍、肝臓および脾臓組織におけるコロニー形成単位を決定した。さらに、FACS分析を行い、前述のように腫瘍組織におけるマクロファージの量を決定した。感染から49日目、1×106フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAを再び静脈注射で投与した。感染から68日目、腫瘍、肝臓および脾臓組織におけるコロニー形成単位を再び決定した。さらに、前述のように、組織学的分析および免疫組織化学分析のために2つの腫瘍を製造した。
【0128】
ヒト腹水細胞のex vivo感染。この腹水細胞は、腹水細胞は、2つの異なる細胞集団からなり、一方の細胞集団には接着細胞があり、他方の細胞集団には懸濁細胞がある。この2つの細胞集団を分離細胞型として処置した。腫瘍細胞を分離して、前述のようにTAMを分離した。ある患者から細胞を分離した後、3つの異なる細胞画分に、野生型フレクスナー赤痢菌M90T、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAおよびフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAをex vivo感染させた。対数増殖期まで増殖した細菌を遠心(4000rpm、10分間、4℃)して、D−MEM培地で3回洗浄した。100:1の感染効率で1時間感染させた後、細胞を300μg/mlゲンタマイシンとともに1時間インキュベートした。次いで、50μg/mlゲンタマイシンを使用した。コロニー形成単位を決定するために、感染後2時間の細胞を収集し、またはウエスタンブロット用に製造した。
【0129】
ウエスタンブロット分析。6穴培養皿からの赤痢菌感染細胞または非感染細胞をPBSで2回洗浄して、120μlの2×Laemmli緩衝液(1M Tris−HCl、pH6.8;グリセリン86%;β−メルカプトエタノール;20%SDS、dH2O)中で溶解させた。遠心分離(20,000g、30分間)によって不溶物を除去した。免疫ブロットのために、10〜30μlのライセートを10%または15%SDS−PAGE(Laemmli, U.K. Nature 1970, 227:680−685)によって分離させ、ニトロセルロース膜の上に移した。5%脱脂粉乳を補充した1×PBS中で1時間ブロックした後、1×PBS中5%脱脂粉乳(フラクションV、Sigma−Aldrich)で希釈した適切な一次抗体(抗カスパーゼ−1(ICE)、Sigma製;抗切断PARP抗体(BD Pharmingen);抗GAPDH抗体(Chemicon international);抗β−アクチン抗体(Sigma))を用いて前述の膜を探索し、その後ペルオキシダーゼを結合させた二次抗体とのインキュベーション、高感度化学発光(ECL試薬、Amersham Biosciences, UK)による検出を行い、次いでX線フィルム(Kodak, XO−MAT−AR)に1〜10分間露出させた。
【0130】
結果
マクロファージ浸潤は、乳腺腫瘍(Leek, R. D. et al. Cancer Res 1996, 56:4625−4629; Leek, R.D., Landers, R.J., Harris, A.L. & Lewis, C.E. Br J Cancer 1999, 79:991−995; Lewis, J.S., Landers, R.J., Underwood, J.C, Harris, A.L. & Lewis, C.E. J Pathol 2000, 192:150−158)および卵巣癌腫(Negus, R.P., Stamp, G.W., Hadley, J. & Balkwill, F.R. Am J Pathol 1997, 150:1723−1734)を含む数種類のヒト腫瘍で記述されている。異なる実験腫瘍モデルにおいて浸潤したTAMのレベルを決定するために、異なる腫瘍モデルのパラフィン包埋組織におけるマクロファージ(図1)を染色した。試験したすべての腫瘍では、マクロファージのホットスポット(茶色の染色)を検出した。TAMはヒト乳癌腫では広範囲に及び(Kelly, P.M., Davison, R.S., Bliss, E. & McGee, J.O. Br J Cancer 1988, 57:174−177;Volodko, N., Reiner, A., Rudas, M. & Jakesz, R. The Breast 1998, 7:99−105; Lin, E.Y., Nguyen, A.V., Russell, R.G. & Pollard, J.W. J Exp Med 2001, 193:727−740; Bingle, L, Brown, N.J. & Lewis, C.E. J Pathol 2002, 196:254−265)かつネガティブな予後を伴うために、4T1モデルおよびトランスジェニックMMTV−Her2腫瘍モデルをさらなる研究のために使用した。
【0131】
初めに、細胞外区画および細胞内区画におけるサルモネラおよび赤痢菌の量的分布、ならびに腫瘍の異なる細胞型を調べることを模索した。したがって、移植(4T1)腫瘍および自発性(MMTV−Her2)腫瘍を用いて、1つのモデルを確立した。腫瘍を有するマウスに細菌を感染させ、感染後、異なる時点で腫瘍を摘出した。腫瘍細胞を分離し、腫瘍細胞懸濁液を得た。細胞外細菌および細胞内細菌を識別するために、ゲンタマイシンを使用してまたは使用せずにこの腫瘍細胞懸濁液を処置した。同時に、マクロファージおよびマクロファージが枯渇した画分で細胞を分離して、その細菌内容物を分析した(図13参照)。全コロニー形成単位タイターを決定するために真核細胞を溶解した後に、または感染細胞数を決定するために細胞溶解せずにTopアガーに播種することによって、平板培養を行った。
【0132】
実験の第一の組では、確立した4T1(図2)腫瘍または自発性乳癌腫(図17参照)を有するマウスに、1×106ネズミチフス菌Δ−aroAを静脈内に投与した。図2に示すように、菌株ネズミチフス菌Δ−aroAは、感染から4時間後および6時間後に主にTAMをin vivoで標的にするが、とはいえこの菌株はin vitroで4T1細胞を容易に感染させる(データは図示せず)。感染から7日後、脾臓で検出されたのはわずかな細菌のみであった。これは先行研究(Arnold, H. et al. Infect lmmun 2004, 72:6546−6553)と一致している。4時間後、6時間後および7日後、マクロファージ枯渇腫瘍細胞と比較すると、マクロファージ画分ではかなり多くの細菌が見られた。感染から4時間後および6時間後、ほとんどの細菌は細胞内に存在した。これに対して、ゲンタマイシンで処置しなかった全腫瘍細胞と比較すると、ゲンタマイシン処置した腫瘍細胞から算出されたコロニー形成単位数によって決定されたように、感染から7日後、10倍以上の細菌が細胞外で見られた。
【0133】
続いて、SipB分泌によるカスパーゼ−1活性化を介して、マクロファージにおいてアポトーシスが誘発されるか追及した。さらに、アポトーシスの際に腫瘍組織においてマクロファージが減少するかにも関心を持った。したがって、ネズミチフス菌Δ−aroAによる感染(図3)後、カスパーゼ−1活性化およびアポトーシスの誘発に関して細胞集団を分析した。カスパーゼ−1活性化(図3a)およびPARP切断(図3b)は、感染から6時間後のマウス由来の腫瘍の全細胞およびマアクロファージ画分において検出できたが、しかしマクロファージが枯渇した画分においては検出できなかった。マクロファージ枯渇画分ではカスパーゼ−1プロセシングまたはカスパーゼ−1発現のいずれも検出できなかった。感染から7日後、カスパーゼ−1の誘発はいずれの画分でも検出されなかった。感染から7日後、TAMの相対量をFACSによって決定した(図3c)。この時点で、非感染マウスと比較すると、サルモネラはマクロファージ数に影響を及ぼしてなかった。これは、アポトーシス誘発が一過性であるか、または最低限であり、非効率的であることをさらに示唆している。一過性のアポトーシス誘発は、サルモネラの感染生物学によって説明することができる。サルモネラは、病原性アイランドSP1(SipBを含む)を感染の早期およびSP1からSP2に移る後期に発現する。SP2病原性アイランドは、カスパーゼ−1プロセシングを直接活性化することができるSipB等の毒性因子を含んでいない(Panthel, K. et al. Infect. Immun. 2005, 73:334−341)。
【0134】
サルモネラと対照的に、赤痢菌は、感染期間のあらゆる時点でIpaBを発現する(Schroeder, G.N., Jann, N.J. & Hilbi, H. Microbiology 2007, 153:2862−2876; Cossart, P. & Sansonetti, P.J. Science 2004, 304:242−248; Tamano, K. et al. Embo J 2000, 19:3876−3887)。したがって、フレクスナー赤痢菌もTAMを標的にしかつマクロファージ数を減少させるのに適しているか追及した。本研究では、フレクスナー赤痢菌菌株M90TおよびBS176を使用した。後者はプラスミドレス非毒性変異体である。その毒性に影響されない、動物実験用の弱毒化菌株を得るために、aroA遺伝子座の染色体欠失を保有する、ある菌株を構築した。サルモネラ等の他の細菌では、芳香族アミノ酸の生成に重要なaroA遺伝子の欠失は細菌において弱毒化をもたらす(Schafer, R. & Eisenstein, T.K.Infect Immun 1992, 60:791−797)。増殖減弱化した毒性菌株と非毒性菌株との遺伝的に定義された比較(Sansonetti, P.J., Kopecko, D.J. & Formal, S.B. Infect Immun 1982, 35:852−860)を可能にするために、無毒性フレクスナー赤痢菌菌株BS176内のaroA遺伝子座を除去し、続いて電気穿孔法によって毒性プラスミドpWR100を加えることを模索した。フレクスナー赤痢菌BS176菌株のaroA遺伝子座をノックアウトするために、DatsenkoおよびWanner(2000)の方法を適用した。結果として生じた菌株、フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroAをBS176Δ−aroAまたは以下ではBS176Δと名付けた。続いて、フレクスナー赤痢菌M90Tから分離した毒性プラスミドpWR100を、菌株BS176Δに形質転換し、菌株フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100をもたらした。この菌株は、毒性菌株フレクスナー赤痢菌M90Tの主要な特徴を保有しているので、この菌株をM90TΔ−aroAまたは以下ではM90TΔと名付ける。
【0135】
フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAに等しいフレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100菌株を、DSM21058としてGerman Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)に寄託した。
【0136】
このaroA変異体を構築した後、in vitroの細胞外増殖および細胞内増殖、初期結合、浸潤および細胞間伝播に関して、この菌株を特徴付けた(図4)。プラスミドレス無毒性菌細胞のフレクスナー赤痢菌BS176を、LB培地で0.3外径/時間の最大増殖速度によって特徴付け、これに対して毒性菌株のフレクスナー赤痢菌M90Tは0.2外径/時間と最大増殖速度が若干減少した(図4a)。これは、大型の毒性プラスミドpWR100の存在によって説明できるであろう。予想どおり、aroA変異体を保有する菌株は、最大増殖速度が実質的に低下した。M90TΔ−aroAは、野生型フレクスナー赤痢菌M90Tよりも最大増殖速度が2.5倍遅かった。ここでも、M90TΔ−aroAと比較すると、BS176Δ−aroAの最大増殖速度は若干速かった。
【0137】
続いて、初期結合、浸潤、細胞内複製および細胞間伝播に関してこのaroA変異体の寄与を調べた。
【0138】
図4bに示すように、菌株M90TΔ−aroAは、野生型フレクスナー赤痢菌M90Tと比較して、その結合速度および浸潤において有意差を示さなかった。これと対照的に、BS176Δ−aroAは、予想どおりその浸潤挙動が減弱された。
【0139】
野生型M90Tは、2時間、aroA変異体よりも12倍速い細胞内複製速度を示した(図4c)。菌株フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAは、予想どおりその細胞内複製において強く減弱されていることをこれらのデータは示している。
【0140】
aroA変異体の細胞内複製におけるこの欠損のために、細胞間伝播は、従来のアッセイで評価するのは難しい。したがって、細胞内複製に対して感受性がより低い、新規の伝播アッセイを開発した(図4d)。第1の段階では、HeLa細胞を500:1の高MOI(感染効率)で1時間感染させた。続いて、感染した細胞に放射線照射して、HeLa細胞の複製をブロックした。ゲンタマイシンの存在下で、非感染HeLa細胞の単層上で、感染し放射線照射したHeLa細胞を1:70の割合で、同時インキュベートした。感染細胞の数は、細胞溶解をしないようにSeaPlaqueアガロースの上に播種することで、決定した。予想したように、8時間後、野生型M90Tは、感染細胞の数が12倍増加したことを示した。その後の時点で、非弱毒化した毒性菌株は、細胞に対して毒性があり、かつコロニー形成単位決定がもはや可能ではなかった。M90TΔの場合、感染細胞数の増加は、同時感染から8時間後で6倍、12時間後で17倍であった。これに対して無毒性菌株BS176Δの場合、感染細胞数は、8時間後わずか3倍しか増加せず、12時間後までさらなる増加を示さなかった。これらの結果は、細胞間伝播に対してM90TΔの能力が損なわれてないことを示唆している。細胞間伝播のための遺伝情報を保有してないBS176Δで観察されたわずかな増加は、真核細胞を保護するためにわずかに10μg/mlの低めのゲンタマイシン濃度で12時間、細胞外細菌をわずかに部分的に死滅させることで、高度に感染した放射線照射細胞を初期の時点で部分的に細胞溶解させたことに起因すると思われる。細胞感染の特徴をさらに調べるために、Giemsa染色法によって感染細胞を組織学的に評価した(図4e)。感染から1時間後(図11参照)および4時間後(図4e)のHeLa細胞のGiemsa染色から、菌株M90TおよびM90TΔの細菌が細胞間接触部に主に位置していることが明らかになった。細胞間伝播も検出できた。これと対照的に、感染から4時間後でも菌株BS176Δの細胞内細菌は、検出できるものがほとんどなかった。さらに、無毒性菌株の場合、細胞間伝播の兆しが見られなかった。
【0141】
aroA変異体のカスパーゼ−1活性化を誘発する能力(図4f)およびアポトーシス誘発(図4g)を決定するために、J774A.1マウスマクロファージを感染させて、細胞ライセートを分析した。M90TΔは、カスパーゼ−1誘発およびアポトーシスの両方を誘発できたが、BS176Δはできなかった。カスパーゼ−1特異的インヒビターYVAD−CHOがカスパーゼ−1およびPARPプロセシングを完全にブロックしたので、M90TΔによるアポトーシス誘発はカスパーゼ1に依存することに留意されたい(図4fおよび4g)。
【0142】
続いて、サルモネラに対して観察されるように赤痢菌がマクロファージについて同様の好ましいターゲティングを示すか分析した。サルモネラに対して以前行ったものと同様の設定で、確立された4T1腫瘍(図5および図16)を用いてBalb/cマウスに赤痢菌を静脈注射した。ここでも、いずれの時点においても、細胞あたり著しく多い細菌(図5a、b)およびさらに多い感染細胞(図5b、d)がマクロファージ画分で見られた。さらに、M90TΔ−aroAの大部分は、細胞内で見られ(図5a、b)、これに対して無毒性菌株BS176Δ−aroAによる感染から6時間後、50倍多い細菌が細胞外で見られた(図5a)。
【0143】
また、カスパーゼ−1発現および活性化ならびにアポトーシスの誘発に関してマクロファージ画分を分析した(図6および図20)。感染から4時間後、6時間後および7日後、カスパーゼ−1活性化(図6a)およびPARP切断(図6b)をウエスタンブロット法によって分析した。M90TΔの場合、カスパーゼ−1活性化およびPARP切断は、感染から4時間後および6時間後マウスから採取した腫瘍の全細胞およびマクロファージ画分で、ならびに感染から7日後のマクロファージで検出できたが、BS176Δの場合は検出できなかった。さらに、感染から7日後、相対量の腫瘍関連マクロファージをFACSによって決定した(図6c)。腫瘍を有するBalb/cマウスおよびMMTV−Her2マウスにおいて、M90TΔ感染はマクロファージ数の実質的な減少をもたらしたが、BS176Δ感染はもたらさなかった(補足データ)(Lin, E.Y., Nguyen, A.V., Russell, R.G. & Pollard, J.W. J Exp Med 2001, 193:727−740; Bingle, L., Brown, N.J. & Lewis, C.E. J Pathol 2002, 196:254−265; Scholl, S.M., Crocker, P., Tang, R., Pouillart, P. & Pollard, J.W. Mol Carcinog 1993, 7:207−211; Kirma, N. et al. Cancer Res 2004, 64:4162−4170; Gouon−Evans, V., Rothenberg, M.E. & Pollard, J.W. Development 2000, 127:2269−2282; Pollard, J.W.& Hennighausen, L. Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91:9312−9316; Van Nguyen, A. & Pollard, J.W. Dev Biol 2002, 247:11−25; Pollard, J.W. Nat Rev Cancer 2004, 4:71−78; Murdoch, C., Giannoudis, A. & Lewis, C.E. Blood 2004, 104:2224−2234; Filderman, A.E., Bruckner, A., Kacinski, B.M., Deng, N. & Remold, H.G. Cancer Res 1992, 52:3661−3666)。
【0144】
ナイーブマウス(図6e、上段パネル)、BS176Δ(図6e、中央パネル)およびM90TΔ(図6e、下段パネル)に感染したマウスの組織学的検査では、M90TΔ由来の腫瘍においてマクロファージの実質的な減少およびマクロファージ凝集体の破壊(図6e、抗F480の染色、左側パネル)を確認し、強い炎症(図6e、抗CD45染色、右側パネル)が示された。しかしナイーブマウスまたはBS176Δに感染した感染7日後のマウスには前述の現象が見られなかった。
【0145】
M90TΔによって誘発された、マクロファージ数におけるこの実質的な減少および著しい炎症が治療効果と関連しているか調べるために、腫瘍を有するBalb/cマウスに細菌を投与して、腫瘍増殖を評価した(図7a)。BS176Δによる感染は、わずかであるが有意な腫瘍増殖の減少をもたらした。これと対照的に、M90TΔの単回静脈注射による感染は、腫瘍増殖において実質的かつ有意な減少をもたらした。腫瘍増殖は処置から19日後に完全にブロックされたことに留意されたい。非増殖腫瘍は極めて低いマクロファージ(3〜4%)数を示し、感染から48日後に細菌は検出できなかった(図7c)。49日目に1×106細菌を残りの3匹のマウスに静脈投与した。腫瘍の大きさにおいてさらなる減少は検出されなかった。68日目にコロニー形成単位を決定し、次いで組織学的検査を行った。腫瘍、肝臓および脾臓において細菌は検出されなかった(データは図示せず)。
【0146】
フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroAによる処置がヒトにおいても適用可能か調べるために、卵巣癌腫患者から新しく分離した腹水に由来する細胞にM90TΔ−aroAを感染させた(図8aおよび図20参照)。M90TΔ−aroAは、ヒト腫瘍から分離したTAMを効率的に感染させ、かつこれらの細胞においてカスパーゼ−1プロセシングおよびアポトーシスを誘発した(図8b)。ここでも、分離したヒト腫瘍に由来するTAMの感染は、マクロファージが枯渇した画分と比較して、少なくとも100倍より効率的であった。
実施例2: グラム陰性菌[Eschericha coli K12]におけるフレクスナー赤痢菌のipaB遺伝子(NC_004851)の発現および分泌
2a)分泌プラスミドにおけるフレクスナー赤痢菌のipaB遺伝子(NC_004851)のクローニング
赤痢菌のようにサルモネラは、SipBタンパク質によって仲介されるカスパーゼ−1の活性化を介して、感染したマクロファージの炎症およびアポトーシスを誘発することができる。このタンパク質はIII型分泌系(TTSS)を介して分泌される(Suzuki, T. et al. J Biol Chem 2005, 280:14042−14050; Zychlinsky, A. et al. Mol Microbiol 1994, 11:619−627; Chen, L.M. et al., Mol Microbiol 1996, 21:1101−1115; Hilbi, H. et al. J. Biol. Chem. 1998, 273:32895−32900)。サルモネラは、SipBによってカスパーゼ−1を活性化し、かつ初期の時点でTAMにおいてアポトーシスを誘発するが、後期の時点ではアポトーシスを誘発せず、相対量のTAMを減少させられなかった。これと対照的に、代謝的に減弱された毒性赤痢菌菌株は、4T1および自発性乳がんのモデルにおいてすべての時点でIpaBによってTAMでカスパーゼ−1を活性化し、アポトーシスを誘発することができるが、無毒性赤痢菌ではできなかった。
【0147】
サルモネラによる一過性のアポトーシス誘発は、感染の初期時点およびSPI1からSP12に移る後期時点で、病原性アイランドSPI1(SipBを含む)の発現によって説明されうる。SP12病原性アイランドには、カスパーゼ−1プロセシングを直接活性化できるSipB等の毒性因子が含まれてない(Panthel, K. et al. Infect.Immun. 2005, 73:334−341)。サルモネラと対照的に、赤痢菌は、感染の間のあらゆる時点でIpaBを発現する(Schroeder, G.N., et al., Microbiology 2007, 153:2862−2876; Cossart, P. & Sansonetti, P.J. Science 2004, 304:242−248; Tamano, K. et al. Embo J 2000, 19:3876−3887)。
【0148】
グラム陰性菌株において機能性ipaBを機能的に発現、分泌させる可能性を評価するために、ipaB遺伝子をpMoHly発現ベクターにクローン化させて、ipaBタンパク質の発現および分泌をもたらした。この分泌は、大腸菌のI型溶血素分泌系(T1SS)をコードしたプラスミドによって仲介される。分泌プラスミドについてはすでに述べており、種々のグラム陰性菌の目的で有用である。概念実証として、大腸菌菌株へのクローン化を行った。
【0149】
以下に、ipaBの分泌のためのI型分泌系を包含する大腸菌K12菌株の構成を記述する。原理的には、いかなる弱毒化通性細胞内グラム陰性菌株でも、この目的のために使用することができる。
【0150】
ipaB遺伝子を、I型送達プラスミドpMOhlykan内でクローン化した。単一のNsil制限酵素部位を、異種タンパク質を決定するインフレーム挿入配列のためのhlyA遺伝子の2つの残留配列間に位置づけた(Fensterle et al. Cancer Gene Therapy 2008)。Nsil制限酵素部位を含有する配列の挿入のために、新しいポリリンカーをpMOhlykan内に確立した。以下の制限酵素部位を、拡張多重クローニング部位(mcs)であるXhol、Pvul、NhelおよびKpnlのために使用した。
【0151】
Nsil部位(5’−TGCA−3’)に相補的なオーバーハングとともに制限酵素部位の配列を含有するオリゴヌクレオチド(CGGTACCGCTAGCCGATCGCTCGAGATGCAおよびTCTCGAGCGATCGGCTAGCGGTACCGTGCA)をアニーリングして挿入した制限酵素部位を有する配列部分を作製した。この結果として得た二本鎖DNA部分をアニーリングした後、Nsilを消化したpMOhlykan内にポリリンカーを挿入して、新しいプラスミドpMOhlykan mcsをもたらした。その後、抗生物質耐性クローンをスクリーニングした。mcsの正確な挿入を、制限酵素での消化および配列決定によって確認した。
【0152】
ipaBのコード配列は、1,138(bp)位にNsil制限酵素部位を含む。したがって、新しく構築したpMOhlykan mcsを用いて、ipaBの読み取り枠を挿入した。ipaB遺伝子を、プライマーSalm: mcs ipaB Xhol hin(AAAAAACTCGAGATGCATAATGTAAGCACCAC)およびSalm: mcs ipaB Kpnl rueck(AAAAAAGGTACCTCAAGCAGTAGTTTGTTGC)によるPCRによって増幅させた。順方向プライマーをデザインして、Xhol制限酵素部位を作製し、次いで逆方向プライマーをデザインしてKpnl部位を作製した。PCR産物およびpMOhlykan mcsをXholおよびKpnlによって消化させ、その後、ライゲーションによってipaBをpMOhlykan mcs内に挿入した。抗生物質耐性クローンのスクリーニングをPCRによって行い、次いで挿入を配列決定によって確認した。配列決定したクローンのpMOhlipaと呼ばれるプラスミドを、Mini Prep法によって分離して、さらなる研究のために使用した(図22)。
【0153】
このプラスミドを大腸菌DH5α内に形質転換して、機能性を評価した。図23には、組換え型大腸菌菌株による融合タンパク質の成功した発現および分泌を示す。大腸菌pMOhlipaおよび大腸菌ΔTolC pMOhlipaによるIpaB発現は、70kDaの産物を示した。これは、クローン化IpaBが、pMOhlykanモデルにおいてC末端のHlyA分泌シグナルと融合したためである。M90Tライセート中で、大腸菌pMOhlipaの沈渣中でおよび上清中でIpaBを検出した。この菌株には、大腸菌I型分泌機構の機能に必要とされるtolC遺伝子が欠けているので、大腸菌ΔTolC pMOhlipaの上清中では、IpaBが検出できなかった。
【0154】
異なる大腸菌DH5α菌株によってカスパーゼ−1が活性化されるか調べるため、RAW264.7マクロファージに感染させ、次いで感染後さまざまな時点でウエスタンブロット分析を行った(図24)。
【0155】
大腸菌pMOhlipa菌株がRAW264.7マクロファージ内でカスパーゼ−1を活性化したことをウエスタンブロットが示した(図24)。さらに、大腸菌ΔTolC pMOhlipaは、感染から6時間後、カスパーゼ−1活性化が極めて減弱したことを示した。ウエスタンブロット分析は2回行った。この結果をその都度決定したが、大腸菌ΔTolC pMOhlipaを介するカスパーゼ−1活性化のために、この分析は技術的問題になることもあり得た。大腸菌pMOhlipaは、感染から3時間後にカスパーゼ−1を活性化したが、M90T対照と比較すると、このカスパーゼ−1活性化は極めて減少したものであった。感染していないRAW264.7マクロファージを負の対照として用いた。大腸菌ΔTolCによって感染したRAW264.7マクロファージは、カスパーゼ−1活性化を示さず、カスパーゼ−1の酵素前駆体を示した。
【0156】
次の段階では、この系の有効性をin vivoで評価した。TAMは非浸潤性細菌の取り込みが欠損しているので(BS176の結果を参照されたい。大腸菌の結果のデータは図示せず)、静脈投与後、脾臓のマクロファージにおいてアポトーシスを誘発する大腸菌ΔTolC pMOhlipaの能力を評価した。図25に示すように、大腸菌ΔTolC pMOhlipaは、脾臓のマクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングの誘発に成功し、この系がin vivoで効果的であることを示した。
【0157】
TAMに影響を及ぼすために、赤痢菌、サルモネラおよび侵潤性大腸菌菌株を含むがこれらに限定されない侵潤性のグラム陰性細菌に、この系を移植する必要がある。侵潤性のipaB発現赤痢菌がTAMにおいてアポトーシスを誘発できることを立証するとともに、静脈投与後マクロファージにおいてカスパーゼ−1プロセシングを誘発するこの系の機能性は、この系に従ってマクロファージを枯渇することを標的とする組換え型細菌をもたらすことになる。
【0158】
2b)グラム陽性細菌(リステリア菌(Listeria monocytogenes)EGDe)におけるフレクスナー赤痢菌のipaB遺伝子のクローニング
リステリアによるカスパーゼ−1活性化に関するデータは、矛盾しており、かつマクロファージ内でのカスパーゼ−1およびアポトーシスの誘発は、赤痢菌と比較すると少なくとも効率が低い(Cervantes, J. et al., Cell Microbiol 2008, 10:41−52; Franchi, L. et al., J Biol Chem 2007, 282:18810−18818)。しかし、リステリアは細胞内細菌であり、腫瘍内でマクロファージを標的とし、したがって(Singh, R. & Paterson, Y. Expert Rev Vaccines 2006. 5:541−552)マクロファージを標的とする細菌性腫瘍の治療に適していると思われる。持続したアポトーシス誘発を達成するために、ipaBの恒常的発現および分泌を有する弱毒化リステリア菌株を構築することにする。
【0159】
リステリア菌EGDeΔ−aroA内でIpaBを発現させるために、actA遺伝子(PactA)由来のリステリアプロモーターを用いた。リステリア菌EGDeΔ−aroA内でIpaBを分泌させるために、リステリオリシンの分泌シグナル(SShly)を、前述のプロモーターの3’末端に融合した。以下のプライマーを用いて、リステリア菌EGDから分離したゲノムDNAからPCRによってPactAを増幅した。すなわち順方向プライマーとして:PactA Pstl Ncol hin(TATCGACTGCAGCCATGGGAGCTCGCGGCCGCTGAA)および逆方向プライマーとして:PactAオーバーハングrueck(CTAGCATTATTTTTTTCATTTATACTCCCTCCTCGTGATACGC)。この逆方向プライマーは、分泌シグナルSShlyからの配列に相補的なオーバーハングを用いてデザインした。およびこの分泌シグナルを以下のプライマーによって増幅した。すなわち、SS hlyオーバーハングhin(GCGTATCACGAGGAGGGAGTATAAATGAAAAAAATAATGCTAG)およびSS hly BamHl rueck(AAAAAAGGATCCATCCTTTGCTTCAGTTTG)。その後、組換え型PCRを、PactA SShlyの増幅PCR産物を用いてかつ以下のプライマーによって行った。すなわち、PactA Pstl Ncol hin(順方向)およびSS hly BamHl rueck(逆方向)。その後、組換え型PCRの産物PactA+SShlyおよびプラスミドpUC18を、制限酵素PstlおよびBamHlによって消化させた。隣接するPactA+SShlyをライゲーションによってpUC18内に挿入して、次いで制限酵素での消化および配列決定によって適切に挿入されたかを確認した。SShlyが逆方向プライマーであるために、BamHl制限酵素部位を組み込んだ。したがって、プライマーを用いてPCRによってipaBを増幅し、それぞれの制限酵素部位、開始点のBamHlおよび末端のSacl、を作製した。すなわち、ipaB BamHl hin(AAAAAAGGATCCATGCATAATGTAAGCACCAC)およびipaB Sacl rueck(AAAAAAGAGCTCTCAAGCAGTAGTTTGTTGC)。次いで、ipaB遺伝子を、pUC18内のシグナル配列の後にシームレスにクローニングして、それを配列決定した。
【0160】
続いて、コンストラクトPactA+SShly+ipaBを、制限酵素PstlおよびSaclによってpUC18から切り取り、PstlおよびSaclが消化したグラム陽性発現ベクターpSP0内にライゲーションによって挿入し、新たなプラスミドpSPR17を得た(図26)。
【0161】
このコンストラクトを弱毒化したリステリア菌株内に形質転換させて、TAMの標的枯渇のために使用することができる。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項2】
前記細菌が、マクロファージを感染させる能力がある請求項1に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項3】
前記細菌が、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌からなる群から選択される請求項1から2のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項4】
前記細菌が、赤痢菌(Shigella)菌種、サルモネラ(Salmonella)菌種、リステリア(Listeria)菌種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)菌種、大腸菌(Escherichia)菌種、エルシニア(Yersinia)菌種、ビブリオ(Vibrio)菌種、シュードモナス(Pseudomonas)菌種からなる群から選択される請求項1から3のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項5】
前記細菌が、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)BCG、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)からなる群から選択される請求項4に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項6】
前記弱毒化が、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phP/Q、ompからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失もしくは不活性化によって起こる請求項1から5のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項7】
前記弱毒化が、栄養要求性細菌を結果として生じる請求項1から6のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項8】
前記マクロファージが、M1マクロファージおよび/またはM2マクロファージであり、好ましくはM2マクロファージである請求項1から7のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項9】
前記アポトーシスの誘発が、カスパーゼ活性化、好ましくはカスパーゼ−1活性化によって達成される請求項1から8のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項10】
前記細菌が、組換え型である請求項1から9のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項11】
前記細菌が、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする、少なくとも1つの染色体に組み込まれたDNA、好ましくは組換え型DNAを保有する請求項10に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項12】
前記細菌が、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの染色体に組み込まれた調節DNA、好ましくは組換え型DNAを保有する請求項10から11のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項13】
前記細菌が、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの染色体欠失または少なくとも1つの調節DNAの不活性化を保有する請求項10から11のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項14】
前記細菌が、少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを保有する請求項10に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項15】
前記少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドが、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする請求項14に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項16】
前記少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドが、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAをコードする請求項14から15のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項17】
前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌が、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA、ネズミチフス菌Δ−aroA、フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100からなる群から選択される請求項1から16のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項18】
請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌、好ましくは少なくとも1つの凍結乾燥した非病原性細菌および/または弱毒化細菌と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項19】
薬物であって、請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物を含む薬物。
【請求項20】
マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、 胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱癌、膀胱癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択される生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のための請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物を含む薬物。
【請求項21】
それによって
(a)アポトーシスが腫瘍関連マクロファージ(TAM)において誘発され、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的にもしくは完全に枯渇し、および/または
(b)アポトーシスが疾患関連マクロファージにおいて誘発され、次いで疾患関連マクロファージが部分的もしくは完全に枯渇する請求項20に記載の生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のための請求項20に記載の薬物。
【請求項22】
請求項20に記載の生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のための請求項19から21のいずれかに記載の薬物の使用であって、前記薬物が、少なくとも1つのさらなる薬理学的活性物質とともに前記処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与される薬物の使用。
【請求項23】
前記さらなる薬理学的活性物質が、DNAトポイソメラーゼIおよび/またはIIインヒビター、DNAインターカレーター、アルキル化剤、微小管脱安定化剤、ホルモンおよび/または増殖因子受容体アゴニストおよび/またはアンタゴニスト、シグナル伝達のインヒビター、増殖因子に対する抗体およびその受容体、キナーゼインヒビター、代謝拮抗剤からなる群から選択される請求項22に記載の使用。
【請求項24】
さらなる薬理学的活性物質が、アクチノマイシンD、アミノグルテチミド、アスパラギナーゼ、アバスチン、アザチオプリン、BCNU(カルムスチン)、ブレオマイシン、ブスルファン、カルボプラチン、CCNU(ロムスチン)、クロラムブシル、シスプラチン、コラスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエチルスチルベストロール、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、DTIC(ダカルバジン)、エピルビシン、エルビタックス、エリスロヒドキシノニルアデニン、エチニルエストラジオール、エトポシド、フルダラビンホスフェート、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、グリーベック/グリベック、ハーセプチン、ヘキサメチルメラミン、ヒドロキシウレア、ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロン、イレッサ、イリノテカン、L−アスパラギナーゼ、ロイコボリン、メクロレタミン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メルファラン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、N−ホスホノアセチル−L−アスパルテート(PALA)、オキサリプラチン、ペントスタチン、プリカマイシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、プロカルバジン、ラロキシフェン、ラパマイシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、タモキシフェン、タルセバ、タキソテール、テニポシド、プロピオン酸テストステロン、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トリメチルメラミン、ウリジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、2’,2’−ジフルオロデオキシシチジン、5−フルオロデオキシウリジンモノホスフェート、5−アザシチジンクラドリビン、5−フルオロデオキシウリジン、5−フルオロウラシル(5−FU)、6−メルカプトプリンからなる群から選択される請求項22から23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
前記薬物が、放射線治療および/または手術による処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与される、請求項20に記載の生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防ための請求項19から21のいずれかに記載の薬物の使用。
【請求項26】
請求項1から17のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌の製造のための方法であって、以下
(a)aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を、非病原性細菌および/または非弱毒化細菌内で欠失もしくは不活性化するステップおよび/または
(b)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込むステップおよび/または
(c)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌に導入するステップおよび/または
(d)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込むステップおよび/または
(e)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAを染色体欠失もしくは不活性化するステップおよび/または
(f)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌に導入するステップを含む方法。
【請求項27】
請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物または請求項19から21のいずれかに記載の薬物ならびに静脈注射用の薬理学的に許容される緩衝液を含む医薬キット。
【請求項28】
疾患を患う哺乳類、好ましくはヒトを処置する方法であって、請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物または請求項19から20のいずれかに記載の薬物を前記哺乳類、好ましくはヒトに投与することを含み、それによって
(a)アポトーシスが腫瘍関連マクロファージ(TAM)において誘発され、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的もしくは完全に枯渇され、および/または
(b)アポトーシスが疾患関連マクロファージにおいて誘発され、次いで疾患関連マクロファージが部分的もしくは完全に枯渇される処置方法。
【請求項29】
前記疾患が、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱癌、膀胱癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルス感染症もしくは細菌感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択される請求項28に記載の方法。
【請求項1】
マクロファージにおいてアポトーシスを誘発する能力がある非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項2】
前記細菌が、マクロファージを感染させる能力がある請求項1に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項3】
前記細菌が、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌からなる群から選択される請求項1から2のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項4】
前記細菌が、赤痢菌(Shigella)菌種、サルモネラ(Salmonella)菌種、リステリア(Listeria)菌種、マイコバクテリウム(Mycobacterium)菌種、大腸菌(Escherichia)菌種、エルシニア(Yersinia)菌種、ビブリオ(Vibrio)菌種、シュードモナス(Pseudomonas)菌種からなる群から選択される請求項1から3のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項5】
前記細菌が、フレクスナー赤痢菌(Shigella flexneri)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、ウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)BCG、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、大腸菌(Escherichia coli)、チフス菌(Salmonella typhi)、エンテロコリチカ菌(Yersinia enterocolitica)、コレラ菌(Vibrio cholerae)からなる群から選択される請求項4に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項6】
前記弱毒化が、aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phP/Q、ompからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失もしくは不活性化によって起こる請求項1から5のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項7】
前記弱毒化が、栄養要求性細菌を結果として生じる請求項1から6のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項8】
前記マクロファージが、M1マクロファージおよび/またはM2マクロファージであり、好ましくはM2マクロファージである請求項1から7のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項9】
前記アポトーシスの誘発が、カスパーゼ活性化、好ましくはカスパーゼ−1活性化によって達成される請求項1から8のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項10】
前記細菌が、組換え型である請求項1から9のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項11】
前記細菌が、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする、少なくとも1つの染色体に組み込まれたDNA、好ましくは組換え型DNAを保有する請求項10に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項12】
前記細菌が、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの染色体に組み込まれた調節DNA、好ましくは組換え型DNAを保有する請求項10から11のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項13】
前記細菌が、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす、少なくとも1つの染色体欠失または少なくとも1つの調節DNAの不活性化を保有する請求項10から11のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項14】
前記細菌が、少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを保有する請求項10に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項15】
前記少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドが、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードする請求項14に記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項16】
前記少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドが、IpaB、SipBからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAをコードする請求項14から15のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項17】
前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌が、フレクスナー赤痢菌M90TΔ−aroA、ネズミチフス菌Δ−aroA、フレクスナー赤痢菌BS176Δ−aroA pWR100からなる群から選択される請求項1から16のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌。
【請求項18】
請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌、好ましくは少なくとも1つの凍結乾燥した非病原性細菌および/または弱毒化細菌と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項19】
薬物であって、請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物を含む薬物。
【請求項20】
マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、 胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱癌、膀胱癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルスもしくは細菌感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択される生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のための請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物を含む薬物。
【請求項21】
それによって
(a)アポトーシスが腫瘍関連マクロファージ(TAM)において誘発され、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的にもしくは完全に枯渇し、および/または
(b)アポトーシスが疾患関連マクロファージにおいて誘発され、次いで疾患関連マクロファージが部分的もしくは完全に枯渇する請求項20に記載の生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のための請求項20に記載の薬物。
【請求項22】
請求項20に記載の生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防のための請求項19から21のいずれかに記載の薬物の使用であって、前記薬物が、少なくとも1つのさらなる薬理学的活性物質とともに前記処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与される薬物の使用。
【請求項23】
前記さらなる薬理学的活性物質が、DNAトポイソメラーゼIおよび/またはIIインヒビター、DNAインターカレーター、アルキル化剤、微小管脱安定化剤、ホルモンおよび/または増殖因子受容体アゴニストおよび/またはアンタゴニスト、シグナル伝達のインヒビター、増殖因子に対する抗体およびその受容体、キナーゼインヒビター、代謝拮抗剤からなる群から選択される請求項22に記載の使用。
【請求項24】
さらなる薬理学的活性物質が、アクチノマイシンD、アミノグルテチミド、アスパラギナーゼ、アバスチン、アザチオプリン、BCNU(カルムスチン)、ブレオマイシン、ブスルファン、カルボプラチン、CCNU(ロムスチン)、クロラムブシル、シスプラチン、コラスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ジエチルスチルベストロール、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、DTIC(ダカルバジン)、エピルビシン、エルビタックス、エリスロヒドキシノニルアデニン、エチニルエストラジオール、エトポシド、フルダラビンホスフェート、フルオキシメステロン、フルタミド、ゲムシタビン、グリーベック/グリベック、ハーセプチン、ヘキサメチルメラミン、ヒドロキシウレア、ヒドロキシプロゲステロンカプロアート、イダルビシン、イホスファミド、インターフェロン、イレッサ、イリノテカン、L−アスパラギナーゼ、ロイコボリン、メクロレタミン、酢酸メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メルファラン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、N−ホスホノアセチル−L−アスパルテート(PALA)、オキサリプラチン、ペントスタチン、プリカマイシン、プレドニゾロン、プレドニゾン、プロカルバジン、ラロキシフェン、ラパマイシン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、タモキシフェン、タルセバ、タキソテール、テニポシド、プロピオン酸テストステロン、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、トリメチルメラミン、ウリジン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、2’,2’−ジフルオロデオキシシチジン、5−フルオロデオキシウリジンモノホスフェート、5−アザシチジンクラドリビン、5−フルオロデオキシウリジン、5−フルオロウラシル(5−FU)、6−メルカプトプリンからなる群から選択される請求項22から23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
前記薬物が、放射線治療および/または手術による処置の前および/または処置の間および/または処置の後に投与される、請求項20に記載の生理学的状態および/または病態生理学的状態の処置および/または予防ための請求項19から21のいずれかに記載の薬物の使用。
【請求項26】
請求項1から17のいずれかに記載の非病原性細菌および/または弱毒化細菌の製造のための方法であって、以下
(a)aroA、aro、asd、gal、pur、cya、crp、phoP/Q、ompからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を、非病原性細菌および/または非弱毒化細菌内で欠失もしくは不活性化するステップおよび/または
(b)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込むステップおよび/または
(c)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質をコードするDNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌に導入するステップおよび/または
(d)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含むDNA、好ましくは組換え型DNAを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌のゲノムに組み込むステップおよび/または
(e)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現をもたらす少なくとも1つの調節DNAを染色体欠失もしくは不活性化するステップおよび/または
(f)IpaB、SipBの群から選択される少なくとも1つのタンパク質の恒常的発現を可能にする少なくとも1つの調節DNAを含む少なくとも1つのプラスミド、好ましくは組換え型プラスミドを前記非病原性細菌および/または弱毒化細菌に導入するステップを含む方法。
【請求項27】
請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物または請求項19から21のいずれかに記載の薬物ならびに静脈注射用の薬理学的に許容される緩衝液を含む医薬キット。
【請求項28】
疾患を患う哺乳類、好ましくはヒトを処置する方法であって、請求項1から17のいずれかに記載の少なくとも1つの非病原性細菌および/または弱毒化細菌または請求項18に記載の医薬組成物または請求項19から20のいずれかに記載の薬物を前記哺乳類、好ましくはヒトに投与することを含み、それによって
(a)アポトーシスが腫瘍関連マクロファージ(TAM)において誘発され、次いで腫瘍関連マクロファージ(TAM)が部分的もしくは完全に枯渇され、および/または
(b)アポトーシスが疾患関連マクロファージにおいて誘発され、次いで疾患関連マクロファージが部分的もしくは完全に枯渇される処置方法。
【請求項29】
前記疾患が、マクロファージが疾患発症もしくは病状悪化に付随するマクロファージ炎症を含む疾患、腫瘍疾患、制御不能細胞分裂、悪性腫瘍、良性腫瘍、固形腫瘍、肉腫、癌腫、過剰増殖障害、カルチノイド、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、脳腫瘍、脳および/または神経系および/または髄膜から生ずる腫瘍、神経膠腫、神経芽細胞腫、胃癌、腎臓がん、腎細胞細胞腫、前立腺癌、前立腺癌腫、結合組織腫瘍、軟部組織肉腫、膵臓腫瘍、肝臓腫瘍、頭部腫瘍、頚部腫瘍、食道癌、甲状腺がん、骨肉腫、網膜芽細胞腫、胸腺腫、精巣がん、肺癌、気管支癌、乳がん、乳癌腫、腸癌、直腸結腸腫瘍、結腸癌腫、直腸癌腫、婦人科腫瘍、卵巣腫瘍/卵巣性腫瘍、子宮癌、子宮頚癌、子宮頚癌腫、子宮体癌、子宮体癌腫、子宮内膜癌腫、尿路膀胱癌、膀胱癌、皮膚がん、基底細胞腫、棘細胞がん、黒色腫、眼球内黒色腫、白血病、慢性白血病、急性白血病、リンパ腫、感染症、ウイルス感染症もしくは細菌感染症、インフルエンザ、慢性炎症、臓器拒絶反応、自己免疫疾患、糖尿病および/または2型糖尿病からなる群から選択される請求項28に記載の方法。
【図2】
【図3】
【図4−1】
【図4−2】
【図5−1】
【図5−2】
【図6−1】
【図6−2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18−1】
【図18−2】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図3】
【図4−1】
【図4−2】
【図5−1】
【図5−2】
【図6−1】
【図6−2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18−1】
【図18−2】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公表番号】特表2011−510646(P2011−510646A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544696(P2010−544696)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050995
【国際公開番号】WO2009/095436
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(503300502)エテルナ ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【氏名又は名称原語表記】AEterna Zentaris GmbH
【住所又は居所原語表記】Weismuellerstrasse 50,D−60314 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/050995
【国際公開番号】WO2009/095436
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(503300502)エテルナ ツェンタリス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (25)
【氏名又は名称原語表記】AEterna Zentaris GmbH
【住所又は居所原語表記】Weismuellerstrasse 50,D−60314 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】
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