説明

マット及びその製造方法

【課題】表面に浮き彫りのような図柄や模様等を有して高い意匠性を備えるとともに、製作容易で生産性に優れたマットの製造方法を提供する。
【解決手段】裏面側に接着層5が設けられた繊維製の上張りシート原反を所要形状に裁断し、得られた所要形状の上張りシート2Aをマット基材1に重ね合わせて配置し、この上張りシート2Aの周縁部に沿って高周波ウェルダー加工を施すことにより、該上張りシート2Aの周縁部をマット基材1に接着すると共に、該上張りシート2Aの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面に浮き彫りのような図柄や模様等を有して意匠性が高く、例えば自動車用フロアマット等として好適に用いられるマット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タフテッドカーペットでは表現できない高い意匠性を備えたフロアマットとして、縦糸にパイル糸を結び付けて造られる緞通カーペットであって、その紋様の輪郭部位にあるパイル糸の先端を刈ることにより、紋様を浮き彫り状にしたものが知られている。
【0003】
また、同じくタフテッドカーペットでは表現できない高い意匠性を備えたマットとして、機械織で高密度にパイルが織り上げられた織りカーペットの一種であるウィルトンカーペット、手結びに似た方法によりパイルを機械的に基布に挿入して織り込んだ織りカーペットの一種であるアキスミンスターカーペットの他、プリント加工カーペットが公知である。
【0004】
また、意匠性の高いフロアマットとして、表面のカットパイルの先端部を鋏等の切断具により刈り込むことによって模様等をパイル面に形成してなるカービングマットも知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭63−235584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記緞通カーペットは、パイルの刈り込み作業に多大な労力と時間を要するため、生産性が低く高コストになるという問題があった。
【0006】
また、ウィルトンカーペット、アキスミンスターカーペット、プリント加工カーペットは、いずれも同様に生産性が低く高コストになるという問題があった。
【0007】
また、カービングマットも、鋏等の切断具による刈り込み加工は多大な時間を要するので、生産性が低く高コストである。
【0008】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、表面に浮き彫りのような図柄や模様等を有して高い意匠性を備えると共に、製作容易で生産性に優れたマット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]マット基材の上面の一部に繊維製の上張りシートが接着されてなり、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部が形成されていることを特徴とするマット。
【0011】
[2]繊維製のマット基材の上面の一部に繊維製の上張りシートが通気性ホットメルト樹脂層を介して接着されてなり、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部が形成されていることを特徴とするマット。
【0012】
[3]前記繊維製マット基材と前記通気性ホットメルト樹脂層との間に通気性の熱可塑性樹脂フィルムが積層されてなる前項2に記載のマット。
【0013】
[4]前記通気性ホットメルト樹脂層は、溶融ホットメルト樹脂が塗布ノズル孔から吐出されることで繊維状に塗布されて形成された多孔質樹脂層からなる前項2または3に記載のマット。
【0014】
[5]裏面側に接着層が設けられた繊維製の上張りシート原反を所要形状に裁断し、得られた所要形状の上張りシートをマット基材に重ね合わせて配置し、この上張りシートの周縁部に沿って高周波ウェルダー加工を施すことにより、該上張りシートの周縁部をマット基材に接着すると共に、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部を形成することを特徴とするマットの製造方法。
【0015】
[6]裏面側に通気性ホットメルト樹脂層が形成された繊維製の上張りシート原反を所要形状に裁断し、得られた所要形状の上張りシートを繊維製マット基材に重ね合わせて配置し、この上張りシートの周縁部に沿って高周波ウェルダー加工を施すことにより、該上張りシートの周縁部をホットメルト樹脂層を介して繊維製マット基材に接着すると共に、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部を形成することを特徴とするマットの製造方法。
【0016】
[7]前記上張りシート原反の通気性ホットメルト樹脂層を形成した裏面側に、通気性の熱可塑性樹脂フィルムを連続的に重ね合わせて一対のロールにより引き取った後、この熱可塑性樹脂フィルムを重ね合わせた上張りシート原反を所要形状に裁断して得られた上張りシートを用い、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する状態で前記高周波ウェルダー加工を施す前項6に記載のマットの製造方法。
【0017】
[8]前記上張りシート原反の通気性ホットメルト樹脂層を形成した裏面側に、樹脂フィルムを連続的に重ね合わせて一対のロールにより引き取った後、
前記樹脂フィルムを剥がして所要形状に裁断して得られる上張りシートを用い、または所要形状に裁断後に前記樹脂フィルムを剥がして得られる上張りシートを用い、前記高周波ウェルダー加工を施す請求項6に記載のマットの製造方法。
【0018】
[9]塗布ノズル孔から吐出した溶融ホットメルト樹脂に、気流形成用ノズル孔から噴出させた気流を接触せしめて引き伸ばすことによってホットメルト樹脂を繊維状となし、これら繊維状体により形成されたカーテン状のホットメルト樹脂を、前記上張りシート原反の裏面側に塗布することによって、前記通気性ホットメルト樹脂層を形成する前項6〜8のいずれか1項に記載のマットの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
[1]の発明に係るマットは、マット基材上に接着される上張りシートによって種々の図柄や模様等を表示できるが、該上張りシートの周縁に沿った凹溝部を有することから、図柄や模様等が浮き彫りのように立体的に盛り上がって視認され、もって非常に高い意匠性が得られる。また、このマットの製作に際し、上張りシートの接着と、その周縁部の凹溝部の形成を高周波ウェルダー加工等で容易に行えるから、高い生産性が得られる。
【0020】
[2]の発明に係るマットは、繊維製マット基材上に接着される繊維製上張りシートによって種々の図柄や模様等を表示できるが、該上張りシートの周縁に沿った凹溝部を有することから、図柄や模様等が浮き彫りのように立体的に盛り上がって視認され、もって非常に高い意匠性が得られる上に、繊維製上張りシートが通気性ホットメルト樹脂層を介して繊維製マット基材に接着されていることで、これら繊維製上張りシート及び通気性ホットメルト樹脂層が更に吸音性の向上に寄与するため、極めて優れた吸音効果を発揮する。また、このマットの製作に際し、上張りシートの接着と、その周縁部の凹溝部の形成を高周波ウェルダー加工等で容易に行えるから、高い生産性が得られる。
【0021】
[3]の発明に係るマットによれば、繊維製マット基材と通気性ホットメルト樹脂層との間に通気性の熱可塑性樹脂フィルムが介在するから、上張りシートの裏面側に通気性ホットメルト樹脂層を連続的に形成してロールで引き取る際に、前記熱可塑性樹脂フィルムによって該ロールへのホットメルト樹脂層の付着を防止できると共に、この熱可塑性樹脂フィルムが通気性を有するために吸音性を阻害しないという利点がある。
【0022】
[4]の発明に係るマットでは、通気性ホットメルト樹脂層が、溶融ホットメルト樹脂を塗布ノズル孔からの吐出で繊維状にして塗布することで形成された多孔質樹脂層からなるため、その通気性を吸音特性との関係で好適な範囲に設定して良好な吸音性を確保できると共に、通気性ホットメルト樹脂層が均一な繊維層状になるから、少量塗布でも良好な接着性が得られるし、マットとしての柔軟性も十分に確保できる。
【0023】
[5]の発明に係る製造方法によれば、高周波ウェルダー加工により、上張りシートをマット基材に接着すると同時に、該上張りシートの周縁部に沿って凹溝部を形成できるから、優れた意匠性を備えた[1]の発明のマットを高い生産効率で容易に且つ確実に製造できる。
【0024】
[6]の発明に係る製造方法によれば、高周波ウェルダー加工により、繊維製上張りシートを繊維製マット基材に接着すると同時に、該上張りシートの周縁部に沿って凹溝部を形成できるから、優れた意匠性及び吸音性を備えた[2]の発明のマットを高い生産効率で容易に且つ確実に製造できる。
【0025】
[7]の発明に係る製造方法によれば、上張りシート原反の裏面側に通気性ホットメルト樹脂層を連続的に形成してロールで引き取る際に、熱可塑性樹脂フィルムによって該ロールへのホットメルト樹脂層の付着を防止できるから、通気性ホットメルト樹脂層を有する上張りシートを高能率で量産できると共に、得られる吸音マットは、繊維製マット基材と繊維製上張りシートとの間に熱可塑性樹脂フィルムが介在していても、該樹脂フィルムが通気性を有するため、本来の優れた吸音性能を発揮するものとなる。
【0026】
[8]の発明に係る製造方法によれば、上張りシート原反の裏面側に通気性ホットメルト樹脂層を連続的に形成してロールで引き取る際に、樹脂フィルムによって該ロールへのホットメルト樹脂層の付着を防止できるから、通気性ホットメルト樹脂層を有する上張りシートを高能率で量産できると共に、この樹脂フィルムを剥がした状態で繊維製上張りシートを繊維製マット基材に接着するから、得られる吸音マットが本来の優れた吸音性能を具備するものとなる。
【0027】
[9]の発明に係る製造方法によれば、前記上張りシート原反の裏面側に、溶融ホットメルト樹脂を塗布ノズル孔からの吐出で繊維状にして塗布することにより、前記通気性ホットメルト樹脂層を形成するから、該ホットメルト樹脂層の通気性を吸音特性との関係で好適な範囲に設定して良好な吸音性を確保できると共に、通気性ホットメルト樹脂層が均一な繊維層状になるから、少量塗布でも良好な接着性が得られると共にマットとしての柔軟性も十分に確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、この発明に係るマットについて図面を参照しつつ具体的に説明する。図1は自動車の運転席用フロアマットとして用いられる本発明のマットの一構成例を示す平面図、図2(イ)は同マットの第一実施形態における断面図、図2(ロ)は同第二実施形態における断面図、図3は同マットに用いる上張りシートの原反の製作工程図、図4(イ)(ロ)はマット基材に対する上張りシートの高周波ウェルダー加工による接着操作を示す断面図である。
【0029】
図1に示すマットMは、繊維製マット基材1の表面に、葉形状で互いに異なる色合いの繊維製の上張りシート2A,2Bが接着されると共に、これら上張りシート2A,2Bの周縁部に凹溝部3が形成されている。前記凹溝部3は、上張りシート2A,2Bの周縁部に沿って形成された平面視で線状の凹溝である。前記繊維製マット基材1の表面は、前記上張りシート2A,2Bの表面とは異なる色合いを有する。なお、マット基材1は全周にわたって縁取り4されている。
【0030】
しかして、図2(イ)に示す第一実施形態のマットM1では、上張りシート2A,2Bと繊維製マット基材1との間に通気性ホットメルト樹脂層5が介在している。この通気性ホットメルト樹脂層5は、上張りシート2A,2Bの裏面側に一体化されており、両上張りシート2A,2Bの周縁部に沿う凹溝部3の部分でマット基材1に融着している。
【0031】
また、図2(ロ)に示す第二実施形態のマットM2では、上張りシート2A,2Bと繊維製マット基材1との間に、通気性ホットメルト樹脂層5と、その下面側に積層された通気性の熱可塑性樹脂フィルム6Aとが介在している。そして、これら通気性ホットメルト樹脂層5及び通気性熱可塑性樹脂フィルム6Aは、両上張りシート2A,2Bの周縁部に沿う凹溝部3の部分でマット基材1に融着している。前記通気性熱可塑性樹脂フィルム6Aとしては、特に限定されるものではないが、例えば多数の微細孔が穿設された熱可塑性樹脂フィルム等が挙げられる。
【0032】
なお、前記第一及び第二実施形態のマットM1,M2における繊維製マット基材1は、上方側の表皮材層11と下方側の吸音層12とが通気性ホットメルト樹脂層13を介して接着一体化されたものからなる。
【0033】
これらマットM1,M2においては、上張りシート2A,2Bの葉模様が周縁の凹溝部3によって浮き彫りのように立体的に盛り上がって視認されるから、非常に高い意匠性が得られる上、繊維製マット基材1による良好な吸音性に加えて、繊維製の上張りシート2A,2B及び通気性ホットメルト樹脂層5が吸音性の向上に寄与するため、極めて優れた吸音効果を発揮する。また、これらマットM1,M2では、上張りシート2A,2Bが周縁部のみでマット基材1に接着していることと、通気性ホットメルト樹脂層5,13が柔らかな多孔質構造になることから、マットとして十分な柔軟性が得られる。なお、第二実施形態のマットM2における熱可塑性樹脂フィルム6Aは、通気性を有するために吸音性能を阻害しない。
【0034】
上記実施形態では、マット基材1としては、繊維製のマット基材が用いられていたが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば非通気性のマット基材(例えば基布の裏面に非通気性のゴム製裏打ち層が積層されてなるマット基材等)が用いられても良い。これらの中でも、吸音特性をより向上できる点で、繊維製マット基材が好ましく用いられる。
【0035】
前記繊維製マット基材1の表皮材層11としては、特に限定されないが、例えば基布の上にパイルが植設されたものや、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。そして、この表皮材層11を構成する繊維としては、特に制約はなく、例えばポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アクリル繊維等が挙げられる。なお、基布の上にパイルが植設された構成では、基布の裏面にパイル抜け防止用のラテックスが塗布されていてもよい。また、パイルの形態と糸及び繊維の種類はいずれも限定されないが、形態ではカットパイルやループパイル等、糸の種類ではBCF糸、スパン糸、モノフィラ糸等、繊維の種類ではポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、アクリル、綿、羊毛等が挙げられる。
【0036】
前記繊維製マット基材1の吸音層12としては、特に限定されないが、ニードルパンチ不織布やスパンボンド不織布等の不織布が軽量で吸音性に優れることから好適である。しかして、このような不織布は、充分な吸音性能を確保する上で、厚さを3〜30mm程度、目付を200〜1000g/m2程度にすることが推奨される。
【0037】
前記上張りシート2A,2Bとしては、特に限定されないが、前記マット基材1の表皮材層11と同様に、基布の上にパイルが植設されたものや、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。また、これら上張りシート2A,2Bの構成繊維、基布の上にパイルが植設された構成におけるパイルの形態と糸及び繊維の種類についても、特に制約はなく、具体的にはマット基材1の表皮材層11として既述したものと同様のものが挙げられる。
【0038】
なお、上記実施形態では、マット基材1と上張りシート2A,2Bは、通気性ホットメルト樹脂層5により接着された構成が採用されていたが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば非通気性の接着層により接着された構成であっても良い。ただ、吸音特性をより向上できる点で、通気性ホットメルト樹脂層5により接着された構成を採用するのが好ましい。
【0039】
しかして、前記上張りシート2A,2Bの裏面側に通気性ホットメルト樹脂層5を形成する手段としては、特に制約されないが、所謂カーテン塗布の技法により、溶融ホットメルト樹脂を塗布ノズル孔からの吐出で繊維状にして塗布する方法(例えば特開2006−111256号公報参照)が推奨される。この方法では、通気性ホットメルト樹脂層5の通気性を吸音特性との関係で好適な範囲に設定して良好な吸音性を確保できると共に、通気性ホットメルト樹脂層5が均一な繊維層状になるから、少量塗布でも良好な接着性が得られる上に、マットとしての柔軟性も十分に確保できるという利点がある。
【0040】
即ち、図3に示すように、原反ロール20aから上張りシート原反20を、下流側の一対の搬送ロール7,7間での引き取りにより、上張りシートとしての使用時の裏面側を上向きにして連続的に繰り出し、支持台8上を通過する際に、上方に配置したカーテンスプレー塗布装置9の多数のノズル孔から溶融ホットメルト樹脂5aを吐出しつつ、該樹脂5aを気流形成用ノズルからの加圧空気流の接触で繊維状に引き延ばし、且つ全体的に幅方向にカーテン状にして降下させる。この降下する溶融ホットメルト樹脂5aは、近接する繊維状体が互いに接触して網目状になった状態で、上張りシート原反20の表面に塗布されて多孔質樹脂層を形成する。
【0041】
そして、上記多孔質樹脂層を設けた上張りシート原反20は、一対の搬送ロール7,7間に引き込まれる際、ホットメルト樹脂が搬送ロール7,7表面に付着するのを防止するために、フィルム原反ロール60から連続的に繰り出される樹脂フィルム6が多孔質樹脂層側に積層され、次いで空冷式の冷却装置21を通過する過程で多孔質樹脂層が冷却されて通気性ホットメルト樹脂層5となる。
【0042】
かくして、得られた通気性ホットメルト樹脂層5及び樹脂フィルム6を一体化した上張りシート原反20は、所要形状(本実施形態では葉形状)に裁断(打ち抜きを含む)して上張りシートとする。このとき、第一実施形態の上張りシートM1では、樹脂フィルム6を剥がして所要形状に裁断するか、もしくは所要形状に裁断後に該樹脂フィルム6を剥がすことになる。従って、この第一実施形態では樹脂フィルム6の材質と性状に制約はない。一方、第二実施形態の上張りシートM2では、樹脂フィルム6として通気性の熱可塑性樹脂フィルム6Aを用い、これを被着した状態で使用する。
【0043】
また、第一及び第二実施形態のマットM1,M2に用いた積層構造のマット基材1は、上述したカーテン塗布の技法において、上張りシート原反20及び樹脂フィルム6に代えて表皮材層11及び吸音層12の各原反を用いる形で、同様にして連続的に製造される。この場合の溶融ホットメルト樹脂5aは、前記通気性ホットメルト樹脂層13を形成する。
【0044】
前記通気性ホットメルト樹脂層5、13に用いるホットメルト樹脂としては、特に限定されないが、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン系エラストマー樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、マットとして充分な耐熱性及び耐水性を確保する観点より、特にオレフィン系樹脂が好ましく、更にオレフィン系樹脂及びゴム成分を含有する樹脂組成物がより好適である。すなわち、ゴム成分を含有することにより、樹脂改質がなされ、溶融ホットメルト樹脂に気流を接触させた際に切れにくくなり、もって溶融ホットメルト樹脂が充分に引き延ばされるから、均一で良好な多孔質樹脂層を形成できる。
【0045】
前記オレフィン系樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、非晶性ポリαオレフィン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、非晶性ポリαオレフィン樹脂は接着強度を向上させる利点から特に好適である。この非晶性ポリαオレフィン樹脂としては、特に限定されないが、例えば非晶性ポリプロピレン、非晶性エチレン−プロピレン共重合体、非晶性プロピレン−ブテン−1共重合体等が挙げられる。
【0046】
前記ゴム成分としては、特に限定されないが、例えばポリブチレン、SBR、NBR、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレン共重合体)などが挙げられる。これらの中でも、ポリブチレンは、溶融樹脂の引き延ばし性と塗布状態の均一性をより向上させる作用を有することから、特に推奨される。
【0047】
更に、前記通気性ホットメルト樹脂層5、13に用いるホットメルト樹脂には、粘着付与剤(タッキファイヤー)を含有させることが好ましい。この粘着付与剤としては、例えばロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂(C5〜C9留分等)等が挙げられる。前記ロジン系樹脂としては、例えば生ロジン、エステル化ロジン、重合ロジン、水添ロジン、不均化ロジン等が挙げられる。前記テルペン系樹脂としては、例えば芳香族変性テルペン、フェノール変性テルペン等が挙げられる。前記石油樹脂としては、脂肪族系、芳香族系、これらの共重合体、水添系等が挙げられる。
【0048】
また、ホットメルト樹脂は、ワックス等の液状成分を含有することが好ましい。このワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。更に、ホットメルト樹脂として発泡性ホットメルト樹脂を用いることも可能である。
【0049】
前記上張りシート2A,2Bをマット基材1に接着する手段としては、例えば、通気性ホットメルト樹脂層5の溶着性を利用できる方法が好ましいが、特に高周波ウェルダー加工が推奨される。この高周波ウェルダー加工は、誘電損失の大きい物質を高周波電界内に置いて発熱、軟化させ、加圧溶接を行うものであり、短時間で確実に溶接できるという利点がある。しかして、この発明では、高周波ウェルダー加工によって、上記利点に加え、上張りシート2A,2Bの接着と同時に、その周縁部に沿う凹溝部3を形成できるから、高い生産性が得られる。
【0050】
この高周波ウェルダー加工では、まず図4(イ)で示すように、裏面側に通気性ホットメルト樹脂層5を有する上張りシート2A,2Bを繊維製マット基材1上の所定位置に配置し、その周縁部上に高周波電極22を位置させる。そして、図4(ロ)で示すように、高周波電極22を降下させて上張りシート2A,2Bの周縁部に押接して高周波電界を印加することにより、その押接位置で通気性ホットメルト樹脂層5が高周波により発熱して溶融し、上張りシート2A,2Bの周縁部が該溶融樹脂を介してマット基材1に接着すると共に、前記押接位置で上張りシート2A,2B及びマット基材1が高周波により発熱溶融しつつ圧縮され、上張りシート2A,2Bの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部3が形成される。
【0051】
本実施形態では、前記高周波電極22の当接面(押圧面)は平坦面に形成されている(図4参照)。このように平坦面であることによって、凹溝部3の形成による浮き彫り感が強調されるものとなり、上張りシート2A,2Bによる図柄や模様等が浮き彫りのように十分な立体感を伴って視認され得て非常に高い意匠性が得られるものとなる。中でも、この平坦面の幅(W)は4〜9mmに設定されるのが好ましく、特に好ましい幅(W)は5〜8mmである。
【0052】
なお、図4では、高周波電極22と対向配置する電極を省略しているが、マット基材1の下面側全体が該電極上に載置されている。また、図示を省略したが、第二実施形態のマットM2では、上張りシート2A,2Bの下面側に接合した熱可塑性樹脂フィルム6Aが、高周波ウェルダー加工により、通気性ホットメルト樹脂層5と同様に高周波電極22の押接位置で溶融し、マット基材1に対して接着(溶着)作用を果たすことになる。
【0053】
上記実施形態では、高周波電極22を上張りシート2A,2Bの周縁部のみに押接して高周波電界を印加するようにしているが、これに加えて、例えば高周波電極22を上張りシート2A,2Bの中心線部にも押接して高周波電界を印加するようにしても良い。この場合には、図1に示すマットMにおける葉形状の上張りシート2A,2Bの中心線領域(葉の中央の最も太い葉脈(主脈)に相当する位置)にも線状の凹溝部が形成されたものとなる。
【0054】
上記実施形態では、マット基材1として、表皮材層11と吸音層12とを通気性ホットメルト樹脂層13を介して接合した積層構造のものを用いているが、この発明のマットは、前記マット基材が単層構造を含む種々の構成及び種々の繊維材質のものである構成を包含する。
【0055】
また、この発明において、マット基材1及び上張りシート2A、2Bの形状、組織形態、色合い、上張りシート2A、2Bの周縁に沿う凹溝部3の幅と深さ、各構成部分の厚さ等、細部構成については、上記実施形態以外に種々の設計変更が可能である。
【0056】
例えば、マット基材1と上張りシート2A、2Bとで組織形態、色合いともに相違する構成としても良い。例えば、マット基材1の表皮材層11がカットパイルを含む構成とし、上張りシート2A、2Bの表面層がループパイルを含む構成とし、カットパイルとループパイルとで色合いを異ならしめた構成等が挙げられる。
【0057】
或いは、マット基材1と上張りシート2A、2Bとで組織形態だけ相違する構成としても良い。例えば、マット基材1の表皮材層11がカットパイルを含む構成とし、上張りシート2A、2Bの表面層が前記カットパイルと同色のループパイルを含む構成等が挙げられる。
【0058】
或いはまた、マット基材1と上張りシート2A、2Bとで色合いだけ相違する構成としても良い。例えば、マット基材1の表皮材層11がカットパイルを含む構成とし、上張りシート2A、2Bの表面層がカットパイルを含む構成とし、前者のカットパイルと後者のカットパイルとで色合いを異ならしめた構成等が挙げられる。
【0059】
また、上記実施形態では、上張りシート2A、2Bの平面視形状としては、葉形状が採用されていたが、特にこのような形状に限定されるものではなく、例えば三角形、四角形、五角形等の多角形形状、円形形状等の他、各種図柄や模様に打ち抜かれた形状等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明のマットを自動車の運転席用フロアマットに適用した一例を示す平面図である。
【図2】図1のX−X線の断面を示し、(イ)は第一実施形態における断面図、(ロ)は第二実施形態における断面図である。
【図3】同マットに用いる上張りシートの原反の製作工程図である。
【図4】同マットにおけるマット基材に対する上張りシートの高周波ウェルダー加工による接着操作を示し、(イ)は接着前の断面図、(ロ)は接着時の断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1…マット基材
2A,2B…上張りシート
3…凹溝部
5…通気性ホットメルト樹脂層
5a…溶融ホットメルト樹脂
6…樹脂フィルム
6A…通気性の熱可塑性樹脂フィルム
7…搬送ロール
9…カーテンスプレー塗布装置
20…上張りシート原反
M、M1、M2…マット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マット基材の上面の一部に繊維製の上張りシートが接着されてなり、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部が形成されていることを特徴とするマット。
【請求項2】
繊維製のマット基材の上面の一部に繊維製の上張りシートが通気性ホットメルト樹脂層を介して接着されてなり、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部が形成されていることを特徴とするマット。
【請求項3】
前記繊維製マット基材と前記通気性ホットメルト樹脂層との間に通気性の熱可塑性樹脂フィルムが積層されてなる請求項2に記載のマット。
【請求項4】
前記通気性ホットメルト樹脂層は、溶融ホットメルト樹脂が塗布ノズル孔から吐出されることで繊維状に塗布されて形成された多孔質樹脂層からなる請求項2または3に記載のマット。
【請求項5】
裏面側に接着層が設けられた繊維製の上張りシート原反を所要形状に裁断し、得られた所要形状の上張りシートをマット基材に重ね合わせて配置し、この上張りシートの周縁部に沿って高周波ウェルダー加工を施すことにより、該上張りシートの周縁部をマット基材に接着すると共に、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部を形成することを特徴とするマットの製造方法。
【請求項6】
裏面側に通気性ホットメルト樹脂層が形成された繊維製の上張りシート原反を所要形状に裁断し、得られた所要形状の上張りシートを繊維製マット基材に重ね合わせて配置し、この上張りシートの周縁部に沿って高周波ウェルダー加工を施すことにより、該上張りシートの周縁部をホットメルト樹脂層を介して繊維製マット基材に接着すると共に、該上張りシートの周縁部において該周縁部に沿った凹溝部を形成することを特徴とするマットの製造方法。
【請求項7】
前記上張りシート原反の通気性ホットメルト樹脂層を形成した裏面側に、通気性の熱可塑性樹脂フィルムを連続的に重ね合わせて一対のロールにより引き取った後、この熱可塑性樹脂フィルムを重ね合わせた上張りシート原反を所要形状に裁断して得られた上張りシートを用い、前記熱可塑性樹脂フィルムを有する状態で前記高周波ウェルダー加工を施す請求項6に記載のマットの製造方法。
【請求項8】
前記上張りシート原反の通気性ホットメルト樹脂層を形成した裏面側に、樹脂フィルムを連続的に重ね合わせて一対のロールにより引き取った後、
前記樹脂フィルムを剥がして所要形状に裁断して得られる上張りシートを用い、または所要形状に裁断後に前記樹脂フィルムを剥がして得られる上張りシートを用い、前記高周波ウェルダー加工を施す請求項6に記載のマットの製造方法。
【請求項9】
塗布ノズル孔から吐出した溶融ホットメルト樹脂に、気流形成用ノズル孔から噴出させた気流を接触せしめて引き伸ばすことによってホットメルト樹脂を繊維状となし、これら繊維状体により形成されたカーテン状のホットメルト樹脂を、前記上張りシート原反の裏面側に塗布することによって、前記通気性ホットメルト樹脂層を形成する請求項6〜8のいずれか1項に記載のマットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−254488(P2009−254488A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105363(P2008−105363)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000120696)永大化工株式会社 (22)
【Fターム(参考)】