説明

ミシンの布押さえ足昇降装置

【課題】布押さえ足昇降装置の操作性の向上及び小スペース化を図る。
【解決手段】布押さえ足昇降装置1は、押さえ足11を上位置Hに導くための上位置案内部31と下位置Lに導くための下位置案内部32とを有する円筒カム30と、ミシンモータ50の正転時のみ上軸8に回転力を伝達する第一ワンウェイクラッチ機構70と、ミシンモータ50の逆転時のみ円筒カム30に回転力を伝達する第二ワンウェイクラッチ機構80と、ミシンモータ50に逆転駆動の開始を入力するための押さえ足昇降スイッチ90と、円筒カム30の所定の回転角度を検出するカム位置検出センサ100と、押さえ足11の上下動動作の有無を検出する押さえ足動作検出センサ110と、昇降スイッチ90からの入力操作に応じてミシンモータ50を駆動させカム位置検出センサ100からの検出信号に基づき押さえ足11を昇降させる制御部130とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの布押さえ足昇降装置に関し、特に、布押さえ足を手動によらず自動昇降可能なミシンの布押さえ足昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、針板上に載置された被縫製物を押さえる布押さえ足を昇降させるミシンの布押え足昇降装置が知られている。
一般に、布押さえ足昇降装置における押さえ足の昇降動作は、布押さえ足を昇降するための押さえ足昇降機構に連結された手動操作レバー又は膝上げレバーをミシンのオペレータが手動で操作することにより行われる(例えば、特許文献1参照)。
一方、この押さえ足の昇降動作を、ソレノイドやエアシリンダ等のアクチュエータを用いて実現する構成としたミシンの布押さえ足昇降装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−93677号公報
【特許文献2】特許第3377324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されるミシンの布押さえ足昇降装置にあっては、押さえ足がばねにより常に下方に付勢されている他、該押さえ足を昇降させる押さえ足昇降機構には、押さえ足が下位置と上位置との間を移動する際に、押さえ足が下位置に近接する側では該押さえ足を下方に付勢し、押さえ足が上位置に近接する側では該押さえ足を上方に付勢する付勢方向切替え機構が設けられているため、付勢方向が切り替わるまでは当該付勢力に抗して操作を行う必要があり、各レバーを操作するにあたりオペレータの負担が大きいという問題があった。
また、上記特許文献2に開示されるミシンの布押さえ足昇降装置にあっては、ソレノイドを使用する場合には上記付勢力に抗して動作させる必要があるため推力が大きな大型のものを必要とし、装置の小スペース化が困難であるという問題があった。さらに、エアシリンダを用いる場合には、エア供給源であるコンプレッサ等を必要とし、設備が大型化するという問題があった。
【0004】
本発明は、ミシンにおける布押さえ足昇降装置の操作性の向上及び小スペース化を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、針板上に載置された被縫製物を押さえる下位置と非縫製時に上方にて待機する上位置とに押さえ足を昇降自在に支持し、前記下位置に向かう途中の位置から前記押さえ足を下方に付勢すると共に前記上位置に向かう途中の位置から前記押さえ足を上方に付勢する付勢方向切替え手段を備える押さえ足昇降機構と、外周に前記押さえ足を上位置に導くための上位置案内部と下位置に導くための下位置案内部とを具備する原節を有する円筒カムと、前記原節に当接される従節の移動に応じて前記押さえ足昇降機構に前記押さえ足を下位置又は上位置に移動させる動力を伝達する昇降動力伝達手段と、前記円筒カムに回転力を付与する回転駆動モータと、前記回転駆動モータに駆動の開始を入力するための昇降入力手段と、前記円筒カムが所定の回転角度に位置することを検出するカム位置検出手段と、前記昇降入力手段からの入力操作に応じて前記回転駆動モータを駆動させ前記カム位置検出手段からの検出信号に基づき前記押さえ足を下位置又は上位置に配置する昇降制御手段とを備えることを特徴とするミシンの布押さえ足昇降装置である。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記回転駆動モータはミシンモータであり、当該ミシンモータの正転と逆転とを切替える切替回路と、前記ミシンモータの正転時のみ上軸に回転力を伝達する第一のワンウェイクラッチ機構と、前記ミシンモータの逆転時のみ前記円筒カムに回転力を伝達する第二のワンウェイクラッチ機構とを備え、前記昇降入力手段は、前記ミシンモータの逆転駆動の開始を入力する逆転入力手段であることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の発明において、オペレータの操作により前記押さえ足を下位置及び上位置に移動させる手動操作手段を備え、前記円筒カムは、その外周に前記手動操作手段による押さえ足の下位置及び上位置への移動に基づく前記従節の移動を許容する手動操作許容部を有することを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記上位置案内部は前記円筒カムの前半周に設けられ、前記下位置案内部は前記円筒カムの後半周に設けられ、前記手動操作許容部は前記上位置案内部と下位置案内部との間に設けられ、前記カム位置検出手段は前記従節が前記手動操作許容部に位置する際の円筒カムの回転角度を検出することを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記押さえ足の上下動動作の有無を検出する動作検出手段を備え、前記昇降制御手段は、前記動作検出手段と前記カム位置検出手段とに基づき、前記押さえ足が下位置に配置されている際に前記昇降入力手段からの入力操作が行われた際には押さえ足を上位置に移動するまで前記回転駆動モータを駆動し、前記押さえ足が上位置に配置されている際に前記昇降入力手段からの入力操作が行われた際には押さえ足を下位置に移動するまで前記回転駆動モータを駆動することを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の発明は、請求項1から請求項5の何れか一項記載の発明において、前記円筒カムは、その原節に、前記付勢方向切替え手段の付勢力による押さえ足の針板に対する衝突を防止する緩衝案内部を有することを特徴とする。
【0011】
請求項7記載の発明は、請求項1から請求項6の何れか一項記載の発明において、前記昇降制御手段は、電源投入の際に前記回転駆動モータを駆動すると共に前記カム位置検出手段からの検出信号に基づき前記従節を前記手動操作許容部に配置することを特徴とする。
【0012】
請求項8記載の発明は、請求項5又は請求項7記載の発明において、動作不良をユーザに告知する警告手段を備え、前記昇降制御手段は、電源投入後又は前記昇降入力手段からの入力操作後、所定期間経過後に前記動作検出手段又は前記カム位置検出手段のうち何れか一方からの検出信号が検出されない場合に前記警告手段を作動する制御処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、昇降入力手段から回転駆動モータの駆動開始の入力が行われると、昇降制御手段により回転駆動モータが回転駆動されて円筒カムが回転する。そして、該円筒カム外周の上位置案内部に沿って従節が移動すると、昇降動力伝達手段を介して押さえ足昇降機構に動力が伝達され、上位置に向かう途中までの付勢方向切替え手段による下向きの付勢力に抗して押さえ足が上昇し該押さえ足が上位置に配置される。また、円筒カム外周の下位置案内部に沿って従節が移動すると、昇降動力伝達手段を介して押さえ足昇降機構に動力が伝達され、下位置に向かう途中までの付勢方向切替え手段による上向きの付勢力に抗して押さえ足が下降し該押さえ足が下位置に配置される。従って、ミシンのオペレータは、昇降入力手段からの入力操作を行うことで、付勢方向切替え手段による付勢力に抗するための大きな力を要することなく押さえ足を上位置又は下位置に昇降させることができる。また、カム位置検出手段により、円筒カムが所定の回転角度に位置することを検出することができる。これにより、例えば、押さえ足が下位置又は上位置に配置される際の円筒カムの回転角度を上記所定の回転角度に設定した際には、昇降制御手段によって押さえ足を上位置又は下位置に配置する制御を自動で行うことができるため押さえ足の操作性の向上が図られる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、昇降入力手段である逆転入力手段から回転駆動モータであるミシンモータの逆転駆動の開始が入力されると、昇降制御手段によって切替回路を介してミシンモータが逆転される。これに伴い、第一のワンウェイクラッチ機構及び第二のワンウェイクラッチ機構を介して円筒カムが回転する。つまり、回転力の大きなミシンモータを駆動源として円筒カムを回転することで、押さえ足を上位置又は下位置に昇降するための大きな推力を得ることができる。従って、押さえ足の昇降動作を円滑に実行することができる他、該押さえ足を昇降するために推力の大きな大型のアクチュエータを別に要することがなく、装置の小スペース化が図られる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、請求項1又は請求項2記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、従節が円筒カムの手動操作許容部に配置されているときは、手動操作手段を介してオペレータが手動で押さえ足を下位置又は上位置に移動させることができる。従って、ミシンの布押さえ足昇降装置の操作の自由度が向上する。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、円筒カムの前半周に上位置案内部が設けられ、後半周に下位置案内部が設けられていることにより、少なくとも当該円筒カムの一周以内の回転駆動によって押さえ足を上位置又は下位置に配置することができる。そして、下位置又は上位置に押さえ足が配置されているときは、手動操作手段を介してオペレータが手動で押さえ足を下位置又は上位置に昇降移動させることができる。
また、カム位置検出手段により、上位置案内部と下位置案内部との間に設けられた手動操作許容部に従節が位置する際の円筒カムの回転角度を検出することができる。そして、昇降入力手段からの入力操作に応じて回転駆動モータを駆動する昇降制御手段が当該カム位置検出手段からの検出信号に基づき回転駆動モータを停止することで押さえ足が下位置又は上位置に配置される。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、請求項4記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、昇降入力手段からの入力操作が行われると、昇降制御手段は、動作検出手段によって押さえ足の上下動動作の有無が検出されるまで回転駆動モータを駆動する制御処理を行う。すなわち、昇降制御手段は、押さえ足が下位置に配置されている際に上記入力操作が行われた際には押さえ足が上位置に移動するまで回転駆動モータを駆動し、また、押さえ足が上位置に配置されている際に上記入力操作が行われた際には押さえ足が下位置に移動するまで回転駆動モータを駆動する制御処理を実行する。つまり、昇降入力手段からの入力操作を行うことで、押さえ足の上下位置を自動的に切替えると共に、昇降制御手段がカム位置検出手段に基づき円筒カムの回転を停止するようにすることで上記切替えた位置で押さえ足を停止させることができる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、請求項1から請求項5の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、円筒カムの原節に当接される従節が緩衝案内部に沿って案内されるため、押さえ足を、付勢方向切替え手段の付勢力による当該押さえ足の針板に対する衝突を防止しながら下位置に移動させることができる。これにより、押さえ足と針板との衝突による当該押さえ足又は針板の損傷を防止することができる他、該押さえ足によって針板上に押さえつけられる被縫製物の損傷を防止することにより縫い品質の向上を図ることができる。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、請求項1から請求項6の何れか一項記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、昇降制御手段は、ミシンの電源が投入されると、カム位置検出手段によって円筒カムがその手動操作許容部に従節が配置される位置まで回転したことが検出されるまで回転駆動モータを駆動する制御を行う。また、カム位置検出手段によって検出される円筒カムの回転角度を、例えば、従節が上位置案内部と下位置案内部との間に配置される際の円筒カムの回転角度に設定した場合には、電源が投入された際に押さえ足を上位置又は下位置の何れかに配置することができる。
【0020】
請求項8記載の発明によれば、請求項5又は請求項7記載の発明と同様の効果を得ることができる他、特に、昇降制御手段により、電源投入後又は昇降入力手段からの入力操作後、所定期間が経過した際に、動作検出手段又はカム位置検出手段からの検出信号が検出されない場合、警告手段によりユーザに動作不良を告知する制御処理が行われる。これにより、ミシンのユーザは、押さえ足昇降機構、動作検出手段又はカム位置検出手段の動作不良すなわち異常を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図1〜図9を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について詳しく説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。また、本実施形態においては、各図中に示したXYZ軸を基準にしてミシンの各部の方向を定めるものとする。ミシンを水平面に設置した状態において、Z軸方向は鉛直方向となる上下方向を示し、Y軸方向はミシンアーム部3の長手方向と一致する左右方向を示し、X軸方向は水平且つY軸方向に直交する前後方向を示す。
【0022】
(全体構成)
図1〜図3に示すように、本実施形態におけるミシンの布押さえ足昇降装置1(以下、単に押さえ足昇降装置1とする)は、針板9上に載置された被縫製物たる布を押さえる下位置Lと非縫製時に上方にて待機する上位置Hとに押さえ足11を昇降自在に支持する押さえ足昇降機構10と、オペレータの操作により押さえ足11を下位置L及び上位置Hに移動させる手動操作手段としての手動操作機構20と、外周に押さえ足11を上位置Hに導くための上位置案内部31と下位置Lに導くための下位置案内部32とを具備する原節を有する円筒カム30と、上記原節に当接される従節たるカムフォロワ41の移動に応じて押さえ足昇降機構10に押さえ足11を下位置L又は上位置Hに移動させる動力を伝達する昇降動力伝達手段としてのリンク機構40と、円筒カム30に回転力を付与する回転駆動モータとしてのミシンモータ50と、ミシンモータ50の正転と逆転とを切替える切替回路60と、ミシンモータ50の正転時のみ上軸8に回転力を伝達する第一のワンウェイクラッチ機構70と、ミシンモータ50の逆転時のみ円筒カム30に回転力を伝達する第二のワンウェイクラッチ機構80と、ミシンモータ50に逆転駆動の開始を入力するための昇降入力手段としての押さえ足昇降スイッチ90と、円筒カム30が所定の回転角度に位置することを検出するカム位置検出手段としてのカム位置検出センサ100と、押さえ足11の上下動動作の有無を検出する動作検出手段としての押さえ足動作検出センサ110と、動作不良をユーザに告知する警告手段としてのアラームランプ120と、押さえ足昇降スイッチ90からの入力操作に応じてミシンモータ50を駆動させカム位置検出センサ100からの検出信号に基づき押さえ足11を下位置L又は上位置Hに配置する昇降制御手段としての制御部130と、を備えている。
以下、各部を詳しく説明する。
【0023】
押さえ足昇降機構10は、図2及び図3に示すように、針板9上に載置された布を上方から押さえつける押さえ足11と、該押さえ足11を下端に支持する押さえ棒12と、この押さえ棒12に固定され水平方向に伸びた延出部を有する押さえ棒抱き13と、押さえ棒12を常時下方に付勢する押さえばね19と、下位置Lに向かう途中の位置から押さえ足11を下方に付勢すると共に上位置Hに向かう途中の位置から押さえ足11を上方に付勢する付勢方向切替え手段たる付勢方向切替え機構14とを備えている。
押さえ足11は、ミシンアーム部3の先端で上下動可能に支持された押さえ棒12の下端に支持されており、縫製中は、後述するミシンモータ50によって回転される上軸8の回転に応じて図示しない針駆動機構と同期して下位置Lの近傍において上下動を行う。また、押さえ足11は、例えば、被縫製物を取り出す際などの非縫製時には、上記縫製中における上下動範囲である下位置L近傍の高さよりも上方の上位置Hに退避される他、後述する手動操作機構20を介して上位置Hよりもさらに上方の最上位位置Tに移動可能となっている。この最上位位置Tは、オペレータが押さえばね19の付勢力に抗して後述する手動操作レバー21を持ち上げることで押さえ足11が上昇可能となる位置であって、例えば、布厚の厚い被縫製物を針板9上に載置したり取り外したりする場合等に押さえ足11を上方に逃がす退避部となっている。そして、押さえ足11は、オペレータの手動操作によって最上位位置Tに上昇された後、オペレータが手動操作レバー21を放した際には下降して上位置Hに配置されるようになっている。
押さえ棒12にはコイル状の圧縮ばねである押さえばね19が装備されており、該押さえばね19の上端はミシンアーム部3に固定された係止部材17に係止され、下端は押さえ棒抱き13の上面に係止されている。
付勢方向切替え機構14は、軸15を介してミシンアーム部3に回動自在に支持された突起部16を有する。この突起部16は後述する手動操作レバー21の基端部に設けられており、押さえばね19の付勢力により常時下方に付勢される押さえ棒抱き13を下方から支持することで押さえ足11の高さを規定している。つまり、手動操作レバー21が下位置Lに配置されるときは図2における当該突起部16の左側の傾斜部が押さえ棒抱き13の下面に当接されることで押さえ足11を下位置Lに配置する高さに押さえ棒抱き13を支持する。ここで、手動操作レバー21が図2における反時計回り方向に回動されて上位置Hに移動される際に、突起部16の頂点が押さえ棒抱き13の下面に沿って移動され該突起部16の右側の傾斜部が押さえ棒抱き13の下面に接近すると、押さえ棒抱き13が常時下方に付勢されていることにより、上記右側の傾斜部が押さえ棒抱き13の下面と接する方向、すなわち、押さえ足11が上位置Hに配置される方向に付勢方向が切替わることとなる。また、手動操作レバー21が時計回り方向に回動されて下位置Lに移動される際には、突起部16の頂点が押さえ棒抱き13の下面に沿って移動され、該突起部16の左側の傾斜部が押さえ棒抱き13の下面と接近すると、左側の傾斜部が押さえ棒抱き13の下面と接する方向、すなわち、押さえ足11が下位置Lに配置される方向に付勢方向が切替わることとなる。そして、押さえ足11は、所定の保持力をもって下位置L又は上位置Hに維持される。
【0024】
手動操作機構20は、オペレータの手操作によって押さえ足11を昇降させる手動操作レバー21と、オペレータの膝操作によって押さえ足11を昇降させる図示しない膝上げレバーとを備えている。そして、押さえ足昇降リンク25を縦胴部側(図2における右側)に移動することで押さえ足11が下位置Lに配置され、逆に、押さえ足昇降リンク25をミシン頭部側(同左側)に移動することで押さえ足11が上位置Hに配置されるようになっている。
【0025】
次に、図1、図4及び図5に基づき、本実施形態における円筒カム30の構成について詳しく説明する。
円筒カム30は、図1及び図4に示すように、外周に溝を有する略円筒状の回転体であって、スラスト方向が上軸8と平行すなわちY軸方向に沿うようにミシンアーム部3内に配設されている。この円筒カム30は、軸中心において上軸8と平行に設けられたカム軸35に固定されており、該カム軸35を中心に図1及び図4に示す矢印C方向にのみ回転可能となっている。
かかる円筒カム30は、図5に示すように、その外周に押さえ足11を上位置Hに導くための上位置案内部31と、下位置Lに導くための下位置案内部32と、上述した手動操作機構20による押さえ足11の下位置L及び上位置Hへの移動に基づく後述するカムフォロワ41の移動を許容する手動操作許容部34と、付勢方向切替え機構14の付勢力による押さえ足11の針板9に対する衝突を防止する緩衝案内部33とを備えている。
【0026】
上位置案内部31は、円筒カム30外周の半周に亘って設けられており、例えば、当該上位置案内部31を原節として従節たるカムフォロワ41(後述する)を案内した場合に、円筒カム30が矢印C方向に180°回転することで押さえ足11を下位置Lから上位置Hまで上昇させることができるようになっている。具体的に、上位置案内部31は、図5に示すように、円筒カム30の回転に応じて該円筒カム30のミシン頭部側(図5において左側)の端縁から縦胴部側(同右側)に向かって該円筒カム30のスラスト方向長さの半分強程度の位置までカムフォロワ41を導くように、円筒カム30の外周に形成された凸状の案内部となっている。なお、本実施形態では、上位置案内部31の立ち上がり開始位置の手前側にカムフォロワ41が配置された状態を円筒カム30の0°の位置とする。
【0027】
下位置案内部32は、上述した上位置案内部31が円筒カム30の前半周(例えば、0°〜180°)に設けられているとした場合に、該円筒カム30の後半周(例えば、180°〜360°)に設けられている。この下位置案内部32は、上述した上位置案内部31とは逆に、円筒カム30の回転に応じて該円筒カム30の縦胴部側(図5において右側)の端縁からミシン頭部側(同左側)に向かって該円筒カム30のスラスト方向長さの半分強程度の位置までカムフォロワ41を導くようになっており、円筒カム30の外周に形成された凸状の案内部となっている。なお、本実施形態における下位置案内部32は、図5に示すように、その立ち上がり開始位置が円筒カム30のほぼ180°の位置における該円筒カム30の縦胴部側の端縁から形成されており、押さえ足11が最上位位置Tに上昇される際のカムフォロワ41の移動を妨げない形状となっている。
【0028】
緩衝案内部33は、図5に示すように、円筒カム30の180°〜360°(0°)の範囲に設けられており、円筒カム30の外周において下位置案内部32とは逆側の端部すなわちミシン頭部側の端縁に形成された凸状の案内部となっている。かかる緩衝案内部33は、円筒カム30の270°付近に頂点を有する曲線形状を成し、270°〜360°(0°)の範囲において上述した付勢方向切替え機構14の付勢力によって下位置案内部32から離隔するカムフォロワ41を、押さえ足11の下位置Lに対応するミシン頭部側の端縁まで緩やかに導く形状となっている。なお、緩衝案内部33は、図5から明らかなように、円筒カム30が180°の際に押さえ足11が下位置Lに配置されることでカムフォロワ41がミシン頭部側の端縁近傍に位置する際にも、円筒カム30の回転に伴いカムフォロワ41が該緩衝案内部33を円滑に乗り越え、円筒カム30が360°(0°)まで回転した際には押さえ足11を円滑に下位置Lに導くことができるようになっている。
【0029】
手動操作許容部34は、図5に示すように、上述した上位置案内部31と下位置案内部32との間すなわち、円筒カム30の外周における0°(360°)と180°の二箇所にそれぞれ設けられている。この手動操作許容部34は、ミシンのオペレータによる上述した手動操作レバー21或いは膝上げレバーの操作を可能とするものであり、該手動操作レバー21又は膝上げレバーを操作することで押さえ足11が下位置L、上位置H又は最上位位置Tに移動する際に、後述するリンク機構40を介してカムフォロワ41が円筒カム30のスラスト方向に移動することを許容するためのものである。
【0030】
リンク機構40は、図1に示すように、一端がミシンフレームに回動自在に連結された第一リンク42と、この第一リンク42の他端に一端が回動自在に連結された第二リンク43と、この第二リンク43の他端に一端が回動自在に連結されるとともに長手方向の略中央部において支点軸44aを中心にミシンフレームに回動自在に連結され、さらに他端において上述した押さえ足昇降機構10の押さえ足昇降リンク25の他端と回動自在に連結された第三リンク44と、を備えている。
第一リンク42の長手方向の略中央部には、円筒カム30外周との対向面側に上述した円筒カム30の各原節31,32,33に当接される従節たるカムフォロワ41が取り付けられている。このカムフォロワ41は、支点軸42aを中心に図1において左右に揺動される第一リンク42の移動に伴い円筒カム30の外周をほぼスラスト方向に一端(図1における左端)から他端(同右端)までの範囲内において移動可能となっている。
そして、円筒カム30の回転に伴い、カムフォロワ41が上位置案内部31に沿って案内されるときは、支点軸42aを中心に第一リンク42の他端(図1における上端)が図1の矢印D方向に揺動され、第二リンク43を介して第三リンク44の一端(図1における上端)が第一リンク42の他端側と同じ方向に揺動される。これにより、支点軸44aを中心に第三リンク44の他端(図1における下端)が前後逆方向に揺動される。すなわち、第一リンク42の上端が図1において左側に揺動すると、第二リンク43を介して第三リンク44の下端が右側に揺動されるため、押さえ足昇降リンク25が縦胴部側に移動することで押さえ足11には下位置Lに向かう駆動力が伝達される。逆に、カムフォロワ41が下位置案内部32に沿って案内されるときは、第一リンク42の上端が支点軸42aを中心に矢印E方向に揺動され、第二リンク43を介して第三リンク44の下端が左側に揺動されるため、押さえ足昇降リンク25がミシン頭部側に移動されることとなって押さえ足11には上位置Hに向かう駆動力が伝達される。このように、カムフォロワ41から第一リンク42、第二リンク43及び第三リンク44を介して押さえ足昇降リンク25に押さえ足11を昇降するための動力が伝達される。
【0031】
ミシンモータ50は、ミシンベッドの下方に配設され、図1に示すモータベルト51を介してミシンアーム部内のモータプーリ52に回転力を付与するミシンの駆動源である。かかるミシンモータ50は、後述する制御部130によって切替回路60を切替えることにより正転方向(図1に示す矢印B方向)又は逆転方向に切替えて回転駆動することができるようになっている。
【0032】
切替回路60は、ミシンモータ50に流す電流の正負を反転させることで該ミシンモータ50の正転と逆転とを切替えるためのものであり、周知の正逆反転回路により構成されている。この切替回路60は、後述する制御部130にからの制御信号に基づき、ミシンの電源投入の際又は後述する押さえ足昇降スイッチ90が押下された際にミシンモータ50を逆転(例えば、図6(c)参照)させ、該ミシンモータ50の逆転による後述する種々の動作処理の終了と共に正転(例えば、図6(b)参照)に切替えられる。
【0033】
第一のワンウェイクラッチ機構70は、上軸8に連結されたモータプーリ52と一体に設けられたモータプーリギヤ53の内部に設けられている。この第一のワンウェイクラッチ機構70は、従来周知の構成によりミシンモータ50の正転時に矢印B方向に回転される際にのみ上軸8に回転力を付与するようになっている。従って、ミシンモータ50の逆転時には、この第一ワンウェイクラッチ機構70を内包するモータプーリギヤ53から上軸8には回転力が付与されず、上軸8は停止した状態となる。
【0034】
第二のワンウェイクラッチ機構80は、モータプーリギヤ53と歯合するカムギヤ81の内部に設けられており、従来周知の構成によりミシンモータ50の逆転時のみカム軸35に矢印C方向に向かう回転力を付与するようになっている。従って、ミシンモータ50の正転時には、モータプーリギヤ53と逆方向に回転するカムギヤ81からカム軸35には回転力が付与されず、カム軸35及び円筒カム30は停止した状態となる。
【0035】
押さえ足昇降スイッチ90は、図3に示すように、ミシン頭部に配設された押しボタン式の入力スイッチであり、この押さえ昇降スイッチ90を押下することで後述する制御部130に所定の出力信号が送信される。本実施形態における押さえ足昇降スイッチ90は、ミシンモータ50の逆転駆動の開始を入力することで、円筒カム30を回転駆動して押さえ足11の上昇又は下降を開始するための逆転入力手段として機能する。
【0036】
カム位置検出センサ100は、図1及び図4に示すように、カム軸35に固定された略円盤状のカム位置検出板101と、このカム位置検出板101に形成されたスリット101a及び101bを検出するセンサ部102とにより構成されている。
スリット101a及び101bは、カム位置検出板101の端縁に設けられており、カム軸35を中心に互いに対象な位置に設けられている。本実施形態では、一方のスリット101aが円筒カム30の0°(360°)の位置すなわち、上位置案内部31の立ち上がり開始位置手前側の手動操作許容部34にカムフォロワ41が配設される際の円筒カム30の回転角度に対応し、他方のスリット101bが円筒カム30の180°の位置すなわち、上位置案内部31の終端と下位置案内部32間の手動操作許容部34にカムフォロワ41が配設される際の円筒カム30の回転角度に対応している。
つまり、カム位置検出センサ60は、円筒カム30が所定の回転角度すなわち、カムフォロワ41が何れか一方の手動操作許容部34に配設される際の円筒カム30の回転角度を検出するようになっている。
センサ部102は、例えば、受光部と発光部とを有するフォトセンサ等から構成されており、カム軸35を中心に回転するカム位置検出板101のスリット101a又は101bが当該センサ部102の検出部に配置されたときにOFFとなり、それ以外のときにはONとなる。そして、このセンサ部102で検出されたON/OFF信号が随時、後述する制御部130に送信されるようになっている。
【0037】
押さえ足動作検出センサ110は、押さえ棒12上部の一端に固定された押さえ足上昇検出板111と、ミシンアーム部内に固定され前記押さえ足上昇検出板111が通過するスリットすなわち検出部を有するセンサ部112とにより構成されている。押さえ足上昇検出板111は、押さえ足11の昇降動作に応じて押さえ棒12と一体に上下動を行う。センサ部112は、例えば、上述したセンサ部102と同様にフォトセンサ等から構成されている。
そして、押さえ足上昇検出板111がセンサ部112の検出部に配置される場合とされない場合とで、該センサ部112から後述する制御部130に随時、ON/OFF何れかの検出信号が送信されるようになっている。つまり、この押さえ足動作検出センサ110は、押さえ足11が下位置L又は下位置Lと上位置Hとの中間位置から上位置Hに上昇した場合、或いは、上位置Hから該上位置H以外の位置(下位置Lを含む)に下降した場合の何れかを検出することで、押さえ足11が、実際に上昇又は下降する動作を行ったか否かを検出するものである。
【0038】
アラームランプ120は、図3に示すように、ミシン頭部において上述した押さえ足昇降スイッチ90の近傍に設けられている。かかるアラームランプ120は、後述する制御部130からの制御信号に応じて点灯することで、ミシンのオペレータに動作不良を告知するためのものである。本実施形態では、特に、ミシンの電源投入後又は制御部130による後述する種々の制御処理の途中で、所定期間経過後において上述したカム位置検出センサ100又は押さえ足動作検出センサ110からの検出信号の変化が確認されない場合に点灯されるようになっている。
【0039】
次に、図6(a)に基づき、本実施形態における制御部130の構成について説明する。図6(a)は本実施形態における制御系回路を示すブロック図である。この図6(a)に示すように、制御部130は、CPU131と、図示しないROM及びRAM等を備えた周知のマイクロコンピュータであって、前記CPU31には押さえ足昇降スイッチ90と、カム位置検出センサ100と、押さえ足動作検出センサ110とからの出力信号等が入力されるようになっている。また、CPU31の出力側にはミシンの駆動源であるミシンモータ50の駆動回路132と、アラームランプ120とが接続されている。駆動回路132には、ミシンモータ50への電流を切替えることで該ミシンモータ50の回転方向の正逆を切替える正逆回転切換回路として、上述した切替回路60が内蔵されている。
【0040】
さらに、本実施形態における制御部130は、押さえ足動作検出センサ110からの検出信号とカム位置検出センサ100からの検出信号とに基づき、押さえ足11が下位置Lに配置されている際に押さえ足昇降スイッチ90からの入力操作が行われた際には押さえ足11を上位置Hに移動するまでミシンモータ50を逆転駆動し、押さえ足11が上位置Hに配置されている際に押さえ足昇降スイッチ90からの入力操作が行われた際には押さえ足11を下位置Lに移動するまでミシンモータ50を逆転駆動する制御処理を行う。
また、制御部130は、電源投入の際にミシンモータ50を逆転駆動すると共にカム位置検出センサ100からの検出信号に基づきカムフォロワ41を手動操作許容部34に配置する制御処理を行う。
また、制御部130は、電源投入後又は押さえ足昇降スイッチ50からの入力操作後、所定期間経過後に押さえ足動作検出センサ110又はカム位置検出センサ100のうち何れか一方からの検出信号が検出されない場合にアラームランプ120を作動する制御処理を行う。
【0041】
(実施形態の動作説明)
次に、図8に示すフローチャートに基づき、上記構成を備えるミシンの布押さえ足昇降装置1の動作説明を行う。
まず、ミシンのオペレータにより押さえ足昇降スイッチ90が押下されると(ステップS1)、CPU131は、その検出信号に基づきミシンモータ50が停止しているか否かの判断を行う(ステップS2)。そして、ミシンモータ50が停止していることが確認されない場合(ステップS2;No)、CPU131は、再度、押さえ足昇降スイッチ90からの入力待ちを行う。一方、ステップS2において、ミシンモータ50が停止していることが確認された場合(ステップS2;Yes)、CPU131は、切替回路60を切替えることでミシンモータ50を逆転させるように駆動回路132を切替える制御処理を行う(ステップS3)。
【0042】
次に、CPU131は、駆動回路132を介してミシンモータ50の逆転駆動を開始し(ステップS4)、内部タイマーt及びtをリセット(ステップS5)してから内部タイマーtをスタートさせる(ステップS6)。
ここで、内部タイマーtは、押さえ足上昇検出センサ110からの検出信号が当該制御処理の開始から所定期間(時間)内に変化したか否かを判断することで、例えば、押さえ足11の昇降動作不良や断線等による当該押さえ足上昇検出センサ110の検出不良を検出してミシンモータ50の逆転駆動を一定時間で停止させるためのものである。また、内部タイマーtは、カム位置検出センサ100からの検出信号からのOFF信号が当該制御処理の開始から所定期間内に検出されたか否かを判断することで、例えば、円筒カム30の回転動作不良や断線等による当該カム位置検出センサ100の検出不良を検出してミシンモータ50の逆転駆動を一定時間で停止させるためのものである。なお、これら内部タイマーt,tは、予め所望の時間に設定することができる。この場合、t、tは、ミシンモータ50の逆転駆動によって円筒カム30が少なくとも一周すなわち360°以上回転可能な時間に設定されることが望ましい。これは、図5から明らかなように、本実施形態における円筒カム30によれば、当該円筒カム30が少なくとも一周(360°)する間に押さえ足11が下位置L又は上位置Hの何れかに移動されてその位置が変化する一方で、半周(180°)程度の回転では押さえ足上昇検出センサ110からの検出信号に変化が現れない場合(例えば、手動操作により0°において上位置Hからスタートする場合や180°において下位置Lに配置されている場合)を考慮したものである。
【0043】
次に、ステップS7に移行する。ステップS7において、CPU131は、押さえ足上昇検出センサ110から当該押さえ足上昇検出センサ110からの信号が変化したこと、すなわち、押さえ足11が実際に上昇或いは下降したことが検出されたか否かの判断を行う(ステップS7)。押さえ足上昇検出センサ110からの検出信号が変化した場合(ステップS7;Yes)すなわち押さえ足11が実際に動作(上昇又は下降)したことが確認された場合、CPU131は、内部タイマーtをスタートさせると共に(ステップS10)カム位置検出センサ100がOFFであるか否かの判断を行う(ステップS11)。
一方、ステップS7において、押さえ足上昇検出センサ110からの検出信号が変化しない場合(ステップS7;No)すなわち押さえ足11が実際に動作(上昇又は下降)したことが未だ確認されない場合、CPU131は、内部タイマーtが設定値に達したか否かの判断を行う(ステップS8)。そして、内部タイマーtが設定値に達していない場合(ステップS8;No)、CPU131は、再度ステップS7に移行して押さえ足上昇検出センサ110からの検出信号が変化したか否かの判断を行う。
【0044】
ここで、ステップS7、S8における処理は、ミシンモータ50の逆転駆動により円筒カム30が回転する過程において、該円筒カム30を180°回転させるか360°回転させるかを判断するものである。すなわち、例えば、円筒カム30が0°の位置において押さえ足11が下位置Lに配置されている場合(図7(a)参照)や、円筒カム30が180°の位置において押さえ足11が上位置Hに配置されている場合(図7(b)参照)には、当該円筒カム30を180°回転させた段階で押さえ足11の高さが変化することとなる。一方、円筒カム30が0°の位置において押さえ足11が上位置Hに配置されている場合(図7(c)参照)や、円筒カム30が180°の位置において押さえ足11が下位置Lに配置されている場合(図7(d)参照)には、当該円筒カム30の180°の回転では押さえ足11の高さに変化が現れないため、さらに180°(つまり、トータル360°)回転する必要が生じる。
すなわち、このステップS7、S8によれば、押さえ足昇降スイッチ90が押下された時点で押さえ足11が下位置Lに配置されている場合には上位置Hに配置されるまでミシンモータ50を逆転駆動し、逆に、押さえ足昇降スイッチ90が押下された時点で押さえ足11が上位置Hに配置されている場合には下位置Lに配置されるまでミシンモータ50を逆転駆動する制御処理が行われる。これにより、ミシンのオペレータは、手動操作レバー21や膝上げレバーによる手動操作によって押さえ足11を昇降させたか否かにかかわらず、現在押さえ足11が配置されている位置を切替えたい場合に押さえ足昇降スイッチ90を押下すれば手動によらず自動で切替えることが可能となるものである。
また、ステップS8において内部タイマーtの設定値に到達したと判断された場合(ステップS8;Yes)は、円筒カム30が360°以上回転しても押さえ足11が昇降動作を行わなかったこと、或いは、円筒カム30の回転不良を意味するため、CPU131は、アラームランプ120を点灯させて(ステップS9)オペレータに動作不良を告知した後、ステップS11に移行する。
【0045】
次に、ステップS11において、CPU131は、カム位置検出センサ100がOFFであるか否かの判断を行う(ステップS11)。
ここで、ステップS11における判断は、カム位置検出板101に設けられたスリット101a、101bのうち、何れか一方のスリットがセンサ部102によって検出される位置に配置されているか否か、すなわち、円筒カム30が0°又は180°の何れかに配置されているかを判断することにより、押さえ足11が下位置L又は上位置Hの何れかに配置されているかを判断するものである。
かかるステップS11において、カム位置検出センサ100からOFF信号が検出された場合(ステップS11;Yes)、CPU131は、ミシンモータ50を停止(OFF)した後(ステップS14)、切替回路60を切替えて駆動回路132を正転側に切替えて(ステップS15)処理を終了する。
一方、ステップS11でカム位置検出センサ100からOFF信号が検出されない場合(ステップS11;No)、CPU131は、内部タイマーtが設定値に到達したか否かの判断を行う(ステップS12)。そして、内部タイマーtが設定値に満たない場合(ステップS12;No)は、再度ステップS11に移行する。一方、内部タイマーtが設定値に到達した場合(ステップS12;Yes)、CPU131は、アラームランプ120を点灯させ(ステップS13)、ミシンモータ50を停止(OFF)した後(ステップS14)駆動回路132を正転側に切替えて処理を終了する(ステップS15)。
【0046】
次に、図9に示すフローチャートに基づき、電源投入時における押さえ足昇降装置1の動作について説明する。
電源が投入されると(ステップS20)、CPU131は、カム位置検出センサ100からの検出信号がOFFであるか否かを判断することにより、円筒カム30が0°又は180°の何れかに配置されているか否かを判断し(ステップS21)、検出信号がOFFである場合(ステップS21;Yes)すなわち押さえ足11が下位置L又は上位置Hの何れかに配置されている場合は処理を終了する。一方、カム位置検出センサ100からの検出信号がOFFではない場合(ステップS21;No)すなわち、例えば、停電等の理由により押さえ足昇降動作が途中で中断されたことによって押さえ足11が下位置Lと上位置Hとの中間に位置する場合、CPU131は、切替回路60を切替えて駆動回路132を逆転側に切替える制御処理を行う(ステップS22)。
次に、CPU131は、駆動回路132を介してミシンモータ50を逆転させるとともに(ステップS23)、内部タイマーt、tをリセットした後(ステップS24)内部タイマーtをスタートさせ(ステップS25)、カム位置検出センサ100からの検出信号がOFFであるか否かの判断を行う(ステップS26)。
【0047】
ステップS26において、カム位置検出センサ100からの検出信号がOFFである場合(ステップS26;Yes)つまり押さえ足11が下位置L又は上位置Hの何れかに配置された場合、CPU131は、ミシンモータ50を停止(OFF)した後(ステップS29)、駆動回路132を正転側に切替えて(ステップS30)処理を終了する。一方、ステップS26において、カム位置検出センサ100からの検出信号がOFFではない場合(ステップS29;No)つまり押さえ足11が未だ下位置Lと上位置Hとの中間に位置する場合、CPU131は、内部タイマーtが設定値に達したか否かの判断を行う(ステップS27)。そして、内部タイマーtが設定値に満たない場合(ステップS27;No)は再度ステップS26に移行してカム位置検出センサ100からの検出信号がOFFであるか否かの判断を行う。一方、内部タイマーtが設定値に到達した場合(ステップS26;Yes)、CPU131は、アラームランプ120を点灯(ステップS28)させてオペレータにカム位置検出センサ100又は円筒カム30の動作不良を告知する。その後、CPU131は、ミシンモータ50を停止(OFF)した後(ステップS29)駆動回路132を正転側に切替えて(ステップS30)処理を終了する。
【0048】
(実施形態の効果)
以上のように、本実施形態たるミシンの布押さえ足昇降装置1によれば、ミシンのオペレータは、押さえ足昇降スイッチ90からの入力操作を行うことで、付勢方向切替え機構14による付勢力に抗するための大きな力を要することなく押さえ足11を下位置L又は上位置Hに昇降させることができる。また、回転力の大きなミシンモータ50を駆動源として円筒カム30を回転することで、押さえ足11を上位置H又は下位置Lに昇降するための大きな推力を得ることができる。これにより、押さえ足11の昇降動作を円滑に実行することができる他、該押さえ足11を昇降するために推力の大きな大型のアクチュエータを別に要することがなく、装置の小スペース化が図られる。また、押さえ足11が下位置L又は上位置Hに配置されている際には、オペレータが手動で押さえ足11を下位置L又は上位置Hに移動させることができるため、ミシンの布押さえ足昇降装置1の操作の自由度が向上する。さらに、ミシンのオペレータは、手動操作レバー21や膝上げレバーによる手動操作によって押さえ足11を昇降させたか否かにかかわらず、現在押さえ足11が配置されている位置を切替えたい場合に押さえ足昇降スイッチ90を押下することで手動によらず自動で切替えることができる。また、緩衝案内部33を備えることにより、付勢方向切替え機構14の付勢力による押さえ足11の針板に対する衝突を防止することができるため、押さえる布や押さえ足11を損傷することなく縫製品質の向上が図られる。
【0049】
(その他)
なお、回転駆動モータは、例えば、円筒カム30と同軸で連結したパルスモータを採用することも可能である。この場合、カム位置検出センサ100や、第一及び第二のワンウェイクラッチ機構80,70等は省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態たるミシンの布押さえ足昇降装置の要部構成を示す概略図である。
【図2】本実施形態における押さえ足昇降機構の構成を示す概略説明図である。
【図3】本実施形態におけるミシンの外観構成を示す側面図である。
【図4】(a)は本実施形態における円筒カム周辺の構成を示す概略斜視図、(b)はカム位置検出センサを示す概略図である。
【図5】本実施形態における円筒カム外周の展開図である。
【図6】(a)は本実施形態における制御部の構成を示すブロック図、(b)はミシンモータの正転回路を示す概略図、(c)はミシンモータの反転回路を示す概略図である。
【図7】本実施形態たるミシンの布押さえ足昇降装置の動作を示す動作説明図である。
【図8】本実施形態におけるミシンの布押さえ足昇降装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態におけるミシンの布押さえ足昇降装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 押さえ足昇降装置(ミシンの布押さえ足昇降装置)
3 ミシンアーム部
8 上軸
9 針板
10 押さえ足昇降機構
11 押さえ足
12 押さえ棒
13 押さえ棒抱き
14 付勢方向切替え機構(付勢方向切替え手段)
15 軸
16 突起部
19 押さえばね
20 手動操作機構(手動操作手段)
21 手動操作レバー
25 布押さえ足昇降リンク
30 円筒カム(原節)
31 上位置案内部
32 下位置案内部
33 緩衝案内部
34 手動操作許容部
35 カム軸
40 リンク機構(押さえ足昇降伝達機構)
41 カムフォロワ(従節)
42 第一リンク
42a,44a 支点軸
43 第二リンク
44 第三リンク
50 ミシンモータ
51 モータベルト
52 モータプーリ
53 モータプーリギヤ
60 切替回路
70 上軸ワンウェイクラッチ(第一のワンウェイクラッチ機構)
80 カム軸ワンウェイクラッチ(第二のワンウェイクラッチ機構)
81 カムギヤ
90 押さえ足昇降スイッチ(昇降入力手段,逆転入力手段)
100 カム位置検出センサ(カム位置検出手段)
101 カム位置検出板
101a スリット(0°)
101b スリット(180°)
102 センサ部
110 押さえ足上昇検出センサ(動作検出手段)
111 押さえ足上昇検出板
112 センサ部
120 アラームランプ(警告手段)
130 制御部(昇降制御手段)
131 CPU
132 駆動回路
L 布押さえ足下降位置(下位置)
H 布押さえ足上昇位置(上位置)
T 布押さえ足厚布上昇位置(最上位位置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
針板上に載置された被縫製物を押さえる下位置と非縫製時に上方にて待機する上位置とに押さえ足を昇降自在に支持し、前記下位置に向かう途中の位置から前記押さえ足を下方に付勢すると共に前記上位置に向かう途中の位置から前記押さえ足を上方に付勢する付勢方向切替え手段を備える押さえ足昇降機構と、
外周に前記押さえ足を上位置に導くための上位置案内部と下位置に導くための下位置案内部とを具備する原節を有する円筒カムと、
前記原節に当接される従節の移動に応じて前記押さえ足昇降機構に前記押さえ足を下位置又は上位置に移動させる動力を伝達する昇降動力伝達手段と、
前記円筒カムに回転力を付与する回転駆動モータと、
前記回転駆動モータに駆動の開始を入力するための昇降入力手段と、
前記円筒カムが所定の回転角度に位置することを検出するカム位置検出手段と、
前記昇降入力手段からの入力操作に応じて前記回転駆動モータを駆動させ前記カム位置検出手段からの検出信号に基づき前記押さえ足を下位置又は上位置に配置する昇降制御手段とを備えることを特徴とするミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項2】
前記回転駆動モータはミシンモータであり、
当該ミシンモータの正転と逆転とを切替える切替回路と、
前記ミシンモータの正転時のみ上軸に回転力を伝達する第一のワンウェイクラッチ機構と、
前記ミシンモータの逆転時のみ前記円筒カムに回転力を伝達する第二のワンウェイクラッチ機構とを備え、
前記昇降入力手段は、前記ミシンモータの逆転駆動の開始を入力する逆転入力手段であることを特徴とする請求項1記載のミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項3】
オペレータの操作により前記押さえ足を下位置又は上位置に移動させる手動操作手段を備え、
前記円筒カムは、その外周に前記手動操作手段による押さえ足の下位置及び上位置への移動に基づく前記従節の移動を許容する手動操作許容部を有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項4】
前記上位置案内部は前記円筒カムの前半周に設けられ、
前記下位置案内部は前記円筒カムの後半周に設けられ、
前記手動操作許容部は前記上位置案内部と下位置案内部との間に設けられ、
前記カム位置検出手段は前記従節が前記手動操作許容部に位置する際の円筒カムの回転角度を検出することを特徴とする請求項3記載のミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項5】
前記押さえ足の上下動動作の有無を検出する動作検出手段を備え、
前記昇降制御手段は、前記動作検出手段と前記カム位置検出手段とに基づき、前記押さえ足が下位置に配置されている際に前記昇降入力手段からの入力操作が行われた際には押さえ足を上位置に移動するまで前記回転駆動モータを駆動し、前記押さえ足が上位置に配置されている際に前記昇降入力手段からの入力操作が行われた際には押さえ足を下位置に移動するまで前記回転駆動モータを駆動することを特徴とする請求項4記載のミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項6】
前記円筒カムは、その原節に、前記付勢方向切替え手段の付勢力による押さえ足の針板に対する衝突を防止する緩衝案内部を有することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項記載のミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項7】
前記昇降制御手段は、電源投入の際に前記回転駆動モータを駆動すると共に前記カム位置検出手段からの検出信号に基づき前記従節を前記手動操作許容部に配置することを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項記載のミシンの布押さえ足昇降装置。
【請求項8】
動作不良をユーザに告知する警告手段を備え、
前記昇降制御手段は、電源投入後又は前記昇降入力手段からの入力操作後、所定期間経過後に前記動作検出手段又は前記カム位置検出手段のうち何れか一方からの検出信号が検出されない場合に前記警告手段を作動する制御処理を行うことを特徴とする請求項5又は請求項7記載のミシンの布押さえ足昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−86600(P2008−86600A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271895(P2006−271895)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】