説明

ミシンの油漏れ防止装置

【課題】 軸受,駆動軸およびオイルシールで囲まれた油収容室内の圧力上昇を抑え油収容室の潤滑油がオイルシール外に漏洩しないミシンの油漏れ防止装置を提供する。
【解決手段】 ミシンのヘッド1の外殻を形成するフレーム2に軸受5が固定され、該軸受5には針棒4が上下動可能に挿通されている。該軸受5には針棒4の外周面に弾性的に当接するオイルシール6が外嵌固定されている。該軸受5には連通孔5bが設けられている。該連通孔5bは軸受5の肉部を上下に貫通して軸受5の上下端面に開口するよう形成されている。該連通孔5bは針棒室Bと油収容室Cとを連通するよう形成されており、油収容室Cの圧力を針棒室Bに逃がすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンフレームに固定される軸受を挿通して設けられ、軸線方向に往復変位する駆動軸に供給される潤滑油の漏れを防止するための漏洩防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のミシンの油漏れ防止装置としては、軸受にオイルシールを設けたものが従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記特許文献1記載の発明のミシンの油漏れ防止装置は、内周部が駆動軸の外周面に接触する環状のシール部材(オイルシール)を備えている。シール部材はミシン本体(フレーム)に固定される環状の案内部材(軸受)に装着されている。駆動軸は案内部材に挿通して設けられ、軸線方向に往復変位駆動(往復動)する。また、駆動軸はミシン本体内で潤滑油が供給されている。シール部材の内周部にはオイルシール部(オイルシールリップ)が形成され、オイルシール部は弾発性を有し弾性変形可能に形成されている。オイルシール部は駆動軸の外周面に弾発的に当接しており、駆動軸が往復変位駆動するときオイルシール部は変形する。オイルシール部は駆動軸に付着の潤滑油に対してシール性を有し、駆動軸からの潤滑油の漏洩を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−105516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の従来技術によれば、オイルシール部で掻き取られた潤滑油の一部が駆動軸,案内部材およびシール部材で囲まれた略密閉空間(油収容室)に留まることになる。
ところが、ミシンの駆動時、すなわち駆動軸の往復変位駆動時に油収容室の内圧が高まると、オイルシール部のシール性が低下し油収容室の潤滑油がシール部材外に漏洩することがあった。
上記した油収容室の内圧が高まる原因としては、駆動軸と案内部材やシール部材との摩擦熱による油収容室内の温度上昇やオイルシール部の変位に伴う油収容室の容積変化が挙げられる。
また、油収容室の内圧が高まると、シール部材が案内部材から脱落することもあった。
【0005】
したがって本発明の課題は、油収容室内の圧力上昇を抑え油収容室の潤滑油がオイルシール外に漏洩しないミシンの油漏れ防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1のミシンの油漏れ防止装置は、
ミシンの外殻を形成するフレームと、
フレームに固定される軸受と、
軸受に挿通され一部がフレームから突出し軸線方向に往復動する駆動軸と、
軸受に固定され、駆動軸に当接するリップを内周に備えたオイルシールと、
軸受,駆動軸およびオイルシールで囲まれて形成される油収容室と、
を備えるミシンの油漏れ防止装置において、
軸受に前記油収容室とフレーム内とを連通する連通孔が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ミシンの油漏れ防止装置において、駆動軸の往復動時に油収容室内の圧力を連通孔を通じてフレーム内に逃がすことができ、油収容室内の圧力上昇によるオイルシールからの潤滑油漏洩を防止できる。
また、油収容室内の圧力上昇によりオイルシールが軸受より脱落するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る油漏れ防止装置を取付けた偏平縫いミシンのヘッドを示す一部破断正面図である。
【図2】図1の要部を示す一部破断正面図である。
【図3】他の実施形態の要部を示す一部破断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図1−図2に基づいて説明する。ミシンのヘッド1はフレーム2で外殻を形成されている。ヘッド1の下端には筒状の軸受5がヘッド1の内外を上下に貫通してフレーム2に固定されている。軸受5にはヘッド1より下方において外周全周にわたって溝部5aが形成されている。軸受5には針棒4(駆動軸)が上下動可能に挿通されており、針棒4の下部はフレーム2外へ突出している。ヘッド1の内部空間である針棒室Bには公知の針棒機構Aが配置されている。針棒4は針棒機構Aに連結されており、主軸(図示しない)の回動に連動して軸線方向に上下往復動する。
【0010】
針棒室B内の針棒機構Aには、公知の給油機構により潤滑油が供給され、針棒4と軸受5との摺動面は潤滑油によって潤滑される。この潤滑油が針棒4を介してヘッド1外に漏洩するのを防ぐために、軸受5には環状に形成されるオイルシール6が外嵌固定されている。オイルシール6は、本体6aと、バネ6cと、金属環6bとを有している。オイルシール6の本体6aは、ゴムなどの弾性を有する部材からなる。本体6aの上部内面には内向き即ち針棒4側に突出する取付部6abが全周にわたって形成させている。そして、この取付部6abは軸受5の溝部5aに嵌め込まれている。また、本体6aの下部は内向き即ち針棒4側に延出しており、その延出する先端には上から順にオイルシールリップ6ac,6acおよびダストシールリップ6adが本体6aの内周全周にわたって各別に形成されている。
【0011】
オイルシールリップ6ac,6acおよびダストシールリップ6adは各別に針棒4の外周面に弾性的に当接しつつ、針棒4の上下往復動に追従して変位する。したがって、針棒4が上下往復動しても針棒4に対するオイルシールリップ6ac,6acおよびダストシールリップ6adのシール性は損なわれない。オイルシールリップ6ac,6acは、主に針棒4に付着した潤滑油をシールする作用をなし、潤滑油が該オイルシールリップ6ac,6acより下方に滲出するのを防止する。また、ダストシールリップ6adは、主にダストシールリップ6adより下方において針棒4に付着したダストをシールする作用をなし、ダストが針棒4の上昇に伴いオイルシール6内に侵入するのを防止する。
【0012】
オイルシール6の本体6aの上部外周には、凹部6aeが周回して形成されている。凹部6aeには環状のバネ6cが取着され、本体6aの取付部6abを軸受5の溝部5aに向かって押圧している。このバネ6cの作用によって、上下往復動する針棒4に当接するオイルシール6であっても、軸受5からオイルシール6が脱落するのを確実に防止する。なお、バネ6cの強さは、針棒4の上下往復動中にオイルシール6が上下に振動しない程度に強くされていることが望ましい。これは、オイルシール6の上下振動に伴い、オイルシールリップ6ac,6acのシール性にムラが生じ、当該オイルシールリップ6ac,6acの下方に潤滑油が持ち出されることを防止するためである。金属環6bはオイルシール6の形状を保持するために鉄などの金属からなり、断面形状が略“Z”状に形成されている。金属環6bの一部は本体6aの内面に固定され、他部は本体6a内に埋設されている。
【0013】
軸受5下方には、軸受5,針棒4およびオイルシール6で囲まれた油収容室Cが形成されている。前述したように、針棒4に付着した潤滑油はオイルシールリップ6ac,6acでシールされるが、そのシールされた潤滑油の一部は油収容室C内に溜まる。軸受5には連通孔5bが設けられている。該連通孔5bは軸受5の肉部を上下に貫通して軸受5の上下端面に開口するよう形成されている。つまり、連通孔5bは針棒室Bと油収容室Cとを連通するよう形成されているので、連通孔5bにより油収容室Cの圧力を針棒室Bに逃がすことができる。以上の構成により、針棒4の上下往復動に伴い生じる油収容室C内の圧力上昇を抑えることができ、延いては、オイルシール6のシール性低下により針棒4に付着あるいは油収容室Cに溜まる潤滑油がオイルシール6の外に持ち出されるのを防止できる。
【0014】
本発明は上記実施形態に限らない。軸受の連通孔はフレーム内と油収容室とを連通するよう形成されていればどのような構造をとってもよく、例えば図3に示すように、連通孔5bのフレーム2内側開口が軸受5の側面に形成されるようにもできる。また、本実施形態では駆動軸として針棒を例示したがこの限りではなく、本発明は偏平縫いミシンのルーパ軸など、軸線方向に往復動する種々の駆動軸に適用できる。
【符号の説明】
【0015】
1 ヘッド
2 フレーム
4 針棒
5 軸受
5a 溝部
5b 連通孔
6 オイルシール
6a 本体
6ab 取付部
6ac,6ac オイルシールリップ
6ad ダストシールリップ
6ae 凹部
6b 金属環
6c バネ
A 針棒機構
B 針棒室
C 油収容室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの外殻を形成するフレームと、
フレームに固定される軸受と、
軸受に挿通され一部がフレームから突出し軸線方向に往復動する駆動軸と、
軸受に固定され、駆動軸に当接するリップを内周に備えたオイルシールと、
軸受,駆動軸およびオイルシールで囲まれて形成される油収容室と、
を備えるミシンの油漏れ防止装置において、
軸受に前記油収容室とフレーム内とを連通する連通孔が形成されることを特徴とするミシンの油漏れ防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−100755(P2012−100755A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249928(P2010−249928)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000113229)ペガサスミシン製造株式会社 (52)
【Fターム(参考)】