説明

ミシン

【課題】薄い被縫製物の厚さを検出する。
【解決手段】主軸角度検出手段2bと、中押さえ29と、中押さえ上下動機構M1と、中押さえモータ42により中押さえ上下動機構とは別に中押さえを上下移動させる中押さえ高さ調節機構M4と、中押さえモータの軸角度検出手段81と、中押さえの下降時に被縫製物への当接により中押さえモータの出力軸に外部トルクが加わると中押さえを上方移動させるように中押さえモータに対して高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段72と、中押さえの下死点における中押さえモータの検出軸角度から被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理手段72とを備え、中押さえ高さ制御手段は、高さ可変制御の前に、中押さえが下死点となる時の中押さえ高さが針板上面よりも下方となるように前記中押さえモータを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中押さえを備えるミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、上昇を行う縫い針に被縫製物が引っ張られないように縫い針よりも小さいストロークで上下動を行う中押さえによって被縫製物を押さえているが、中押さえは針板の上面近傍で上下動を行っているので、厚みがある被縫製物の場合には中押さえの下降時に被縫製物を踏みつけて傷つけてしまうという問題があった。
そこで、従来のミシンは、ミシンモータとは別に中押さえを上下動させることで中押さえの上下位置を調節するステッピングモータと、光学素子からなる布厚検出器とを設け、検出された布厚に基づいてステッピングモータにより中押さえの下死点高さを調整する制御を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平7−44983号公報(第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1における従来のミシンにあっては、光学素子からなる布厚検出器では被縫製物のふかつきを含めた自然状態の厚さを検出してしまい、縫い糸で圧縮された状態の布厚を検出することができないため、検出した厚さの値が大きくなり、その結果調整した中押さえの設定位置が高すぎてしまい、縫い針が上昇時に被縫製物が浮き上がらないように適正に押圧することができない問題がある。また専用の布厚検出器が必須であり部品点数の増加による生産性の低下を招くという問題があった。また、布厚検出器は被縫製物が位置する針棒の周囲に配置しなければならないが、当該中押さえやその上下動機構が設けられ、針棒の周囲に布厚検出器を配置するスペースの確保が困難であるという問題もあった。
本発明は、部品点数を低減し、針棒周囲のスペースを広く確保可能としつつ、ミシンを駆動しながら縫い目で圧縮された被縫製物の厚さを正確に検出することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明は、ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、位置決めモータにより縫い針と被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、毎針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータを記憶した記憶手段と、前記ミシンモータにより回転駆動される主軸の角度を検出する主軸角度検出手段と、縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえと、前記ミシンモータから動力を得て、前記縫い針の上下動に同期して前記中押さえを上下動させる中押さえ上下動機構と、中押さえモータにより前記中押さえ上下動機構の動作伝達部材の姿勢に変化を付与すると共に変化後の姿勢を支承することで前記ミシンモータとは別に前記中押さえを上下移動させる中押さえ高さ調節機構と、前記ミシンモータの駆動により前記中押さえ上下機構が行う前記中押さえの上昇と下降に同期させながら、前記縫製パターンデータに従って一針毎に位置決め機構を駆動させる縫製制御手段とを備えるミシンにおいて、前記中押さえモータの出力軸の角度を検出するモータ軸角度検出手段と、前記中押さえの前記下降開始又は下降途中から下死点までの間、前記中押さえ高さ調節機構による上下の位置変化を生じないように前記動作伝達部材の姿勢を維持し、前記中押さえの被縫製物への当接により前記中押さえモータの出力軸に外部からのトルクが加わると、前記中押さえを上方移動させる方向に回転を生じるように前記中押さえモータの出力を制御する高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段と、前記中押さえの前記下死点における前記中押さえモータの出力軸角度の検出角度から前記被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理を行う厚さ取得処理手段とを備え、前記中押さえ高さ制御手段は、前記高さ可変制御の前に、前記中押さえが下死点となる時の中押さえ高さが針板上面よりも下方となるように前記中押さえモータを制御することを特徴とするミシン。
【0005】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、毎針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータに基づいて前記位置決めモータの動作制御を行う縫製制御手段と、前記縫製パターンデータに対して、針数の順番に対応づけて、取得された前記被縫製物の厚さを記録する厚さ記録手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記中押さえ上下動機構の他の動作伝達部材を弾性力で支持すると共に前記中押さえの下降が阻害されることにより前記弾性力以上の負荷が前記他の動作伝達部材に生じたときに当該他の動作伝達部材の逃げ動作を許容する、前記中押さえ上下動機構に対する過剰負荷回避用の押さえバネを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明は、中押さえの下降による被縫製物への接触時に、中押さえ高さ制御手段が、中押さえモータが中押さえを上方移動させる方向に出力軸を回転させるので、被縫製物の押圧が回避される。
【0008】
さらに、請求項1記載の発明は、ミシンモータを駆動して縫い針及び中押さえが上下動させながら位置決め機構を縫製パターンデータに従って作動しているときであって、中押さえ高さ制御手段が、高さ可変制御の前に、中押さえが下死点(中押さえ上下動機構による上下動における下死点)となる時の中押さえ高さが針板上面よりも下方となるように中押さえモータを制御している。
例えば、中押さえの上下動において、中押さえの下死点における高さが針板の上面と一致するように設定されていると、被縫製物が薄い素材である場合には、被縫製物に中押さえが当接して中押さえモータの出力軸の回転が開始される前に、中押さえ上下動機構による中押さえの上昇に転じて、中押さえモータの出力軸の角度変化を良好に得ることができず、その結果、被縫製物の厚さ検出を良好に行うことができないという問題を生じる。
しかしながら、請求項1記載の発明は、中押さえの目標下降高さを針板よりも下方としているので(中押さえの底部が針板上面よりも下方となる)、下降する中押さえが被縫製物に当接した後も中押さえモータ上下動機構により下降動作が付与され続け、その結果、中押さえモータの出力軸は十分に回転を行うこととなる。つまり、中押さえモータの出力軸の回転が行われる前に中押さえが上方に引き返すという事態を回避することができ、その結果、被縫製物が薄い素材の場合であっても、良好に厚さ検出を行うことが可能となる。
【0009】
また、上記発明により、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いることなく被縫製物の厚さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。また、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いずに、中押さえを被縫製物に接触させて布厚を検出するので、ふかつきを含めた自然状態の厚さではなく、縫い糸で圧縮された状態の布厚を検出することができ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
さらに、中押さえによる被縫製物への接触時の押圧を中押さえモータにより抑制するので、被縫製物を押圧して傷つけることを回避でき、被縫製物の保護により縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0010】
なお、高さ可変制御の実行区間は、中押さえの下降動作の開始からに限らず、被縫製物に接し得る高さまで下降してから開始しても良い。つまり、被縫製物に接し得ない高さ(例えば、縫製対象としている被縫製物の厚さでは接し得ない高さ)にいる時点では、押さえバネに抗して中押さえモータを中押さえの下死点を維持することが可能な通常のトルクとなるように制御し、被縫製物に接し得る高さまで下降してから高さ可変制御を開始しても良い。
また、高さ可変制御における中押さえモータのトルクは、下降時において中押さえ高さ調節機構による上方への移動が行われない程度に低くすることが求められる。
【0011】
請求項2記載の発明は、縫製パターンデータに従って実行される毎針の被縫製物の相対的位置決め動作に同期して高さ可変制御が実行され、各針の厚さ取得処理が実行されて、針数の順番に対応づけて縫製パターンデータに被縫製物の厚さが記録されるので、中押さえの高さを被縫製物に対して逐一調節しながら適正な中押さえの下死点高さを設定して縫製パターンデータの設定作業を行う場合と比べて、煩雑な設定作業を不要とし且つ作業負担を軽減し、被縫製物の厚さを考慮した縫製パターンデータを容易に取得することが可能となる。
【0012】
請求項3記載の発明は、過剰負荷回避用の押さえバネを備え、下降する中押さえが被縫製物に当接すると、押さえバネが伸張又は収縮し、他の動作伝達部材の逃げ動作を許容することで中押さえ上下動機構の各部材の破損を防ぐことを可能とする。
かかる押さえバネにより、下降する中押さえが被縫製物に当接した場合に、その弾性力により中押さえモータの出力軸に対する回転を促すことが可能となる。
そして、このような押さえバネが存在する場合、特に、中押さえの下死点における高さが針板の上面と一致するように設定され且つ被縫製物が薄い素材である場合に、中押さえの当接による中押さえモータの出力軸への回転力の付与が押さえバネの伸縮により吸収され、特に、厚さの良好な検出を阻害する傾向を生じるが、そのような場合であっても、前述したように、中押さえモータの出力軸を効果的に回転させることができ、被縫製物が薄い素材の場合であっても、良好に厚さ検出を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明に係るミシンの実施の形態について詳細に説明する。
なお、本実施形態では、ミシンとして電子サイクルミシンを例に説明する。
電子サイクルミシンは、縫製を行う被縫製物である布を保持する保持枠を有し、その保持枠が縫い針に対し相対的に移動することにより、保持枠に保持される布に所定の縫製パターンデータ(縫製パターン)に基づく縫い目を形成するミシンである。
ここで、後述する縫い針108が上下動を行う方向をZ軸方向(上下方向)とし、これと直交する一の方向をX軸方向(左右方向)とし、Z軸方向とX軸方向の両方に直交する方向をY軸方向(前後方向)と定義する。
【0014】
電子サイクルミシン100(以下、ミシン100という。)は、図1に示すように、ミシンテーブルTの上面に備えられるミシン本体101と、ミシンテーブルTの下部に備えられ縫製の開始と停止を操作するためのペダルRや、ミシンテーブルTの上部に備えられユーザによる入力操作を行うための操作パネル74等を備えている。
【0015】
(ミシンフレーム及び主軸)
図1、図2に示すように、ミシン本体101は、外形が側面視にて略コ字状を呈するミシンフレーム102を備えている。このミシンフレーム102は、ミシン本体101の上部をなし前後方向に延びるミシンアーム部102aと、ミシン本体101の下部をなし、前後方向に延びるミシンベッド部102bと、ミシンアーム部102aとミシンベッド部102bとを連結する縦胴部102cとを有している。
このミシン本体101は、ミシンフレーム102内に動力伝達機構が配され、回動自在で前後方向に延びる主軸2(図4参照)及び図示しない下軸を有している。主軸2はミシンアーム部102aの内部に配され、下軸(図示省略)はミシンベッド部102bの内部に配されている。
【0016】
主軸2は、ミシンモータ2a(図8参照)に接続され、このミシンモータ2aにより回動力が付与される。また、下軸(図示省略)は、縦軸(図示省略)を介して主軸2と連結されており、主軸2が回動すると、主軸2の動力が縦軸を介して下軸側へ伝達し、下軸が回動するようになっている。
主軸2の前端には、主軸2の回動によりZ軸方向に上下動する針棒108aが接続されており、その針棒108aの下端には、縫い針108が交換可能に設けられている。つまり、主軸2の回動により縫い針108はZ軸方向に上下動する。
かかる主軸2とミシンモータ2aと針棒108aと主軸2から針棒108aに上下動の駆動力を付与する図示しない伝達機構により針上下動機構が構成される。
【0017】
なお、主軸2には、主軸角度検出手段としてのエンコーダ2b(図7参照)が設けられている。エンコーダ2bはミシンモータ2aの主軸2の回転角度を検知するものであり、例えば、ミシンモータ2aにより主軸2が1°回転するごとにパルス信号を制御装置1000に出力するようになっている。また、主軸2の1回転に伴い、針棒108aは1往復の運動を行う。
【0018】
また、下軸(図示省略)の前端には、釜(図示省略)が設けられている。主軸2とともに下軸が回動すると、縫い針108と釜(図示省略)との協働により縫い目が形成される。
なお、ミシンモータ2a、主軸2、針棒108a、縫い針108、下軸(図示省略)、釜(図示省略)等の接続構成は従来公知のものと同様であるので、ここでは詳述しない。
【0019】
(位置決め手段)
図1、図2に示すように、ミシンベッド部102b上には、針板110が配設されており、この針板110の上方に布保持部としての保持枠111及び縫い針108が配置されるようになっている。
保持枠111は、ミシンアーム部102aの前端部に配される取付部材113に取り付けられており、その取付部材113にはミシンベッド102b内に配置された位置決めモータとしてのX軸モータ76a及びY軸モータ77aが駆動手段として連結されている(図7参照)。
保持枠111は、被縫製物である布地を保持し、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの駆動に伴い、保持した布地を保持枠111ごと前後左右方向に移動するようになっている。そして、保持枠111の移動と、縫い針108や釜(図示省略)の動作が連動することにより、布地に所定の縫製パターンデータの縫い目データに基づく縫い目が形成される。
また、保持枠111は、布押さえ(図示省略)と下板(図示省略)とからなっており、取付部材113はミシンアーム102a内に配置された布押さえモータ79bの駆動により上下駆動が可能であり、布押さえ下降時に下板との間で布地を挟持し保持するようになっている。
そして、これら保持枠111、取付部材113、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが、縫い針と布地をX軸方向及びY軸方向に相対的に位置決めする位置決め機構として機能する。
【0020】
ペダルRは、ミシン100を駆動させ、針棒108a(縫い針108)を上下動させたり、保持枠111を動作させたりするための操作ペダルとして作動する。すなわちペダルRには、ペダルRが踏み込まれたその踏み込み操作位置を検出するためのセンサが組み込まれており、センサからの出力信号がペダルRの操作信号として後述する制御装置1000に出力され、制御装置1000はその操作位置、操作信号に応じて、ミシン100を駆動し、動作させるように構成されている。
【0021】
また、ミシン100には、ユーザによる操作入力を行うための操作パネル74が設けられており、操作パネル74に入力された各種データや操作信号は、後述する制御装置1000に出力される。
なお、操作パネル74は、液晶表示パネルとその液晶表示パネルの表示画面上に設けられたタッチパネルとを備えて構成されており、液晶表示パネルに表示される各種操作キー等をタッチ操作することにより、タッチパネルがタッチ指示された位置を検出し、検出した位置に応じた操作信号を後述する制御装置1000に出力するようになっている。
【0022】
(中押さえ装置)
ミシンアーム102aには、縫い針108の上下動による布の浮き上がりを防止するために、針棒108aの上下動と連動して上下動し、縫い針108の周囲の布を下方に押圧する中押さえ29を有する中押さえ装置1(図3参照)が設けられている。なお、中押さえ装置1の本体はミシンアーム部102aの内部に配設されており、縫い針108は、中押さえ29の先端側に形成されている貫通孔に挿入されている。
中押さえ装置1は、図3〜図5に示すように、縫製時に布を針板110側に押さえ付ける中押さえ29と、主軸2の回転により上下動する縫い針108に合わせて中押さえ29を上下動させる中押さえ上下動機構M1と、中押さえ29の下降動作阻害時に行われる逃げ動作を可能とすると共に逃げ動作の際に中押さえ29を針板110側に付勢する付勢機構M2と、中押さえ29を縫製終了後に退避高さ位置に上昇させる中押さえ退避機構M3と、中押さえ29の高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4とを備えている。
【0023】
中押さえ上下動機構M1は、先端に縫い針108を備える針棒108を上下方向に駆動させる主軸2(図4参照)の回動により、中押さえ29を上下動させるようになっている。
図4に示すように、主軸2には偏心カム3が固定され、その偏心カム3には接続リンク4が連結されている。接続リンク4には揺動軸抱き5が連結され、揺動軸抱き5には揺動軸6の一端部が連結されている。
揺動軸6の他端部には、図5に示すように、中押さえの上下方向D1の移動量を調節する中押さえ調節腕7の基端部が固定されている。中押さえ調節腕7には溝カム7aが形成されている。この溝カム7aは弧状の長孔になっており、この溝カム7aの所望の位置で第1リンク8の一端部が調節ナット9と段ねじ10により軸支されている。第1リンク8の一端部の固定位置は揺動軸6の中心に対して接離移動調節可能であり、中心からの距離に比例して第1リンク8に付与する往復動作量を増減調節することができる。
【0024】
第1リンク8の他端部は、図5に示すように、第2リンク11の長手方向略中間に段ねじ12より回動自在に連結されている。ここで、調節ナット9が係合する溝カム7aは、中押さえ29が上下往復運動の下死点にあるときに、段ねじ12の軸心を中心とした円弧の一部となるように形成されている。つまり、上軸2の角度が中押さえ29を下死点に移動させる位相のときにカム溝7aにおける第1リンク8の位置調節を行うことで、中押さえ29の下死点位置を不動状態のままストローク調節を行うことができる。
但し、ミシン10は、後述するように、被縫製物の厚さを算出する処理を行うが、その際には、中押さえ上下動機構M1の上下動ストロークが関係することから調節はみだりに行わない。また、調節する際には被縫製物の厚さを算出するためのパラメータとしての上記ストローク値を制御装置1000に設定入力して更新する必要がある。
【0025】
そして、第2リンク11の一端部は、後述する位置決めリンク13に軸支されている。第2リンク11の一端部が、位置決めリンク13に軸支されることで、通常の縫製時に中押さえ29が上下動を行う際には、引っ張りばね16の弾性力により第2リンク11の一端部が規制部材19に押し当てられた状態を維持する。そして、中押さえ29が布地の踏みつけ或いは何かに引っかかって予定された下死点位置まで下降できないような場合に、引っ張りばね16の弾性力に抗して位置決めリンク13が回動を行い、第2リンク11の一端部の支点が引っ張りばね16に抗して下降することで中押さえ29を上方に逃がすことが可能となっている。これにより、中押さえ上下動機構M1の破損が防止される。
【0026】
第2リンク11の他端部は、図5に示すように、第3リンク20の一端部に段ねじ21により回動自在に連結されている。第3リンク20の他端部には、第4リンク22の一端部が段ねじ23により第3リンク20の長手方向に対して直列となるように回動自在に連結されている。そして、本実施形態では、この第3リンク20と第4リンク22とで中押さえリンク部材24が構成されている。
第4リンク22の他端部には、リンク中継板25が段ねじ26により連結されている。リンク中継板25には中押さえ棒抱き27が固定されており、中押さえ棒抱き27には上下方向に延びる中押さえ棒28が保持されている。中押さえ棒28の下端部には、縫製時に布地を針板110側に押さえ付ける中押さえ29が取り付けられている。中押さえ棒28の上端部には押圧バネ30が設けられており、ボルト31及びナット32により中押さえ棒抱き27に取り付けられている。押圧バネ30は、中押さえ29が縫製時に縫い針108と同期して上下動を行う際に、中押さえ29を常時下方に押圧している。
そして、本実施形態では、第1リンク8、第2リンク11、第3リンク20、第4リンク22等により、中押さえ上下動機構M1が構成されている。
【0027】
段ねじ23は、角駒33及び案内部材34と共に第3リンク20と第4リンク22とを連結している。すなわち、第4リンク22の正面側には案内部材34が設けられ、この案内部材34の正面側には角駒33が設けられており、第3リンク20、第4リンク22、角駒33及び案内部材34が一つの段ねじ23で連結されている。
【0028】
案内部材34は、略F字状の板材であり、上端部34tが段ねじ35によりミシン筐体(ミシンフレーム102)に回動自在に取り付けられている。案内部材34の下端部近傍には、上下方向に長尺な長孔34aが形成されている。この長孔34aは、内側に角駒33がスライド可能に嵌めこまれており、案内部材34は、第3リンク20と第4リンク22の連結部Pを中押さえ29の上下方向D1に移動可能とし、かつ、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2を横切る方向D3への移動を規制している。
【0029】
また、図5に示すように、案内部材34には、当該案内部材34を第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2を横切る方向D3に移動させる移動リンク36の一端部が、段ねじ37により長孔34aの上部近傍に回動自在に連結されている。移動リンク36の他端部には偏心カム38が連結されており、この偏心カム38には可変軸39の一端部が連結されている。
可変軸39の他端部は、図4に示すように、ベアリング40、かさ歯車41を介して中押さえモータ42に連結されている。つまり、中押さえモータ42の駆動が、可変軸39、偏心カム38、移動リンク36の順に伝達され、移動リンク36が案内部材34を移動させるようになっている。
中押さえモータ42は、正逆方向に回動自在であるとともに、その回動量及び駆動のタイミングが制御装置1000により制御可能となっている。
そして、移動リンク36と案内部材34と角駒33等が、中押さえ29の高さを調節する中押さえ高さ調節機構M4として機能する。
【0030】
位置決めリンク13は、その中央部近傍で段ねじ14によりミシン筐体としてのミシンフレーム102に回動自在に取り付けられ、段ねじ14の位置は、中押さえ29が下死点にあるときの段ねじ12の位置と一致するようになっている。
位置決めリンク13の一端部は、ミシン面部側に向かって略コ字状に折り返されており、折り返された先端部にはばね掛13aが形成されている。本実施形態における位置決めリンク13は、その一端のばね掛け13aが、当該位置決めリンク13の回動中心である段ねじ14付近まで折り返されており、回動中心からばね掛け13aまでの距離が短くなるように形成されている。ばね掛け13aには引っ張りばね16の一端(上端)が連結されており、引っ張りばね16の他端(下端)は、ミシンフレームに固定されているばね掛15に連結されている。
引っ張りばね16は、ばね掛13aが形成されている位置決めリンク13の一端部を下方に引き下げるように付勢する。すなわち、引っ張りばね16は、第2リンク11における第3リンク20との接続部位が反力を受けた場合に、中押さえ29による踏みつけの発生により上方への反力を受けた場合に、その接続部位を下方に引き下げるように付勢する。つまり、引っ張りばね16と位置決めリンク13とが、中押さえ29の下降動作阻害時に中押さえ上下動機構M1に対する過剰負荷回避用の逃げ動作を可能とすると共に逃げ動作の際に中押さえ29を針板110側に付勢する付勢機構M2として機能する。そして、引っ張りバネ16は過剰負荷回避用の押さえバネとして機能する。また、第2リンク11は、逃げ動作を行う「他の動作伝達部材」として機能する。
なお、付勢機構M2は、位置決めリンク13が第2リンク11に連結されることによって中押さえ上下動機構M1に接続されている。
【0031】
位置決めリンク13の他端部にはストッパ17が連結されており、第2リンク11の一端部と位置決めリンク13の他端部とが一つの段ねじ18によって連結されている。また、ストッパ17は、段ねじ14で位置決めリンク13と共にミシンフレーム102に回動自在に取り付けられている。ストッパ17の一端部17aの上方には、当該ストッパ17の一端部の上方への移動を規制するように規制部材19が設けられている。なお、この規制部材19は、ミシンフレーム102の一部で代用してもよい。
【0032】
図4に示すように、かさ歯車41には、かさ歯車43が歯合されており、中押さえモータ42の駆動を可変軸39の軸方向と直交する方向D4に出力することができるようになっている。かさ歯車43の後端にはベアリング44、中押さえ昇降カム45等が同軸上に連結されている。
【0033】
中押さえ昇降カム45は、軸方向端面に図示しない溝を有する溝カムである。
中押さえ昇降カム45は、その溝がカム部となっており、当該中押さえ昇降カム45の回動範囲の半分は、回動中心から溝までの距離がほぼ同一の円弧状に形成され(以下、維持部という)、残る半分は、回動中心から溝までの距離が、その維持部における回動中心から溝までの距離よりも大きく、かつ、滑らかに変化する形状(以下、変化部という)となっている。
この中押さえ昇降カム45は、中押さえ29を縫製終了後の退避位置に上昇させる中押さえ上げ部材46の一端部46aを上下に昇降させるものであり、当該中押さえ昇降カム45の溝の内部には、中押さえ上げ部材46の他端部に設けられた円筒状のコロ47が摺動自在に嵌合されている。そして、コロ47が中押さえ昇降カム45の維持部に沿って移動する際には、中押さえ上げ部材46の一端部46aは昇降しないが、コロ47が中押さえ昇降カム45の変化部に沿って移動する際には、中押さえ上げ部材46の一端部46aが昇降するようになっている。
このような溝カムである中押さえ昇降カム45の図示しない溝の内側にはコロ47を介して押さえ上げ部材46の他端部が係合しているので、中押さえ昇降カム45が回転を行わない限り中押さえ上げ部材46は揺動を行うことがなく、一定の状態を維持することが可能となっている。そして、中押さえ昇降カム45、中押さえ上げ部材46及びコロ47により、中押さえ退避機構M3が構成されている。
【0034】
中押さえ上げ部材46は、その中腹部で軸部材すなわちピン48によりミシンフレーム102に回動自在に取り付けられて支持されている。かかる中押さえ上げ部材46は、その一端部46aが中押さえ棒抱き27の下方に位置するように設けられており、コロ47が中押さえ昇降カム45の変化部に沿って移動し、中押さえ上げ部材46の一端部46aが上昇することで中押さえ棒抱き27を上昇させ、中押さえ29を退避位置に上昇させることができるようになっている。
【0035】
(縫製時における中押さえの動作)
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ上下動機構M1の動作について説明する。
ミシンモータ2aの駆動により主軸2を回転させて偏心カム3を回動させると、接続リンク4の先端は主軸2の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動し、接続リンク4に連結された揺動軸抱き5も同方向に揺動する。その揺動軸抱き5が揺動することにより、揺動軸6も揺動するため、第1リンク8の一端部が揺動支点となって第1リンク8の他端部が揺動軸6の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。第1リンク8の他端部の揺動に伴い、第2リンク11の他端部は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に揺動し、第2リンク11の他端部に連結された第3リンク20及び第4リンク22は、その直列方向(上下方向)D2に揺動する。第3リンク20及び第4リンク22の揺動に伴い、第4リンク22に連結された中押さえ棒28は上下方向D1に沿って下方に移動するため、中押さえ29が上下方向に移動する。また、主軸2の回転により縫い針108が上下動するので、その縫い針108の上下動と連動するように中押さえ29は上下動する。
なお、以下の説明では主軸2の角度が0°のときに縫い針108及び中押さえ29が上死点に位置し、主軸2の角度が180°のときに縫い針108及び中押さえ29が下死点に位置するものとする。
【0036】
(中押さえ装置による中押さえの高さの調節動作)
次に、上記構成を有する中押さえ装置1の中押さえ高さ調節機構M4による中押さえ29の高さの調節動作について説明する。
中押さえモータ42の駆動は、かさ歯車41、ベアリング40を介して可動軸39に伝達され、可動軸39は回動を始める。可動軸39の回動により、偏心カム38も回動し、移動リンク36は、可動軸39の軸線に略直交する方向(第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3)に揺動する。移動リンク36の揺動により、案内部材34は第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3に揺動する。
このとき、図6(a)、(b)に示すように、案内部材34の長孔34aで連結された第3リンク20と第4リンク22の連結部Pの段ねじ23(角駒33)は、そのねじ部分が長孔34aによって、第3リンク20と第4リンク22の直列方向D2に対して横切る方向D3への移動が規制されているため(図6(a)参照)、揺動により伝達される力を逃がす場所が無くなり、段ねじ23(角駒33)は長孔34aに沿って上方に移動し、段ねじ23(角駒33)の案内部材34に追随した移動に伴って、直列に並んで連結されていた第3リンク20と第4リンク22同士がなす角度が変化し、中押さえリンク部材24は、略く字状になる(図6(b)参照)。中押さえリンク部材24が略く字状になると、中押さえ29は上下方向D1に沿って上方に移動する。これにより、中押さえ29の針板110からの中押さえ29の高さを調節することができる。
【0037】
(ミシンの制御系:制御装置)
また、ミシン100は、図7に示すように、上述した各部、各部材の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置1000を備えている。そして、制御装置1000は、縫製プログラム70a,枠位置ティーチングプログラム70b,中押さえ高さティーチングプログラム70cが格納されたプログラムメモリ70と、縫製パターンデータ71a及び各種の設定情報(図示略)を記憶した記憶手段としてのデータメモリ71と、プログラムメモリ70内の各プログラム70a,70b,70cを実行するCPU73とを備えている。
【0038】
また、CPU73は、インターフェイス74aを介して操作パネル74に接続されている。かかる操作パネル74は、各種画面や入力ボタンを表示する表示部74bと表示部74bの表面に設けられその接触位置を検知するタッチセンサ74cとを有しており、各種情報の入出力手段として機能する。操作パネル74で用いられる入力ボタンや入力スイッチはいずれも、表示部74bで表示され、タッチセンサ74cで入力が検知されることで押下式のボタンやスイッチと同等に機能するものである。
【0039】
また、CPU73は、インターフェイス75を介して、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bに接続され、ミシンモータ2aの回転を制御する。また、ミシンモータ駆動回路75bを通じてミシンモータ2aの通電電流を制御してトルクの増減を調節することが可能となっている。
なお、ミシンモータ2aはエンコーダ2bを備えており、ミシンモータ2aを駆動するミシンモータ駆動回路75bにおいて、エンコーダ2bからミシンモータ2aの一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は主軸2の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ2bからは、ミシンモータ2aの回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は主軸2の現在回転角度を認識することができる。
なお、ミシンモータ2aには、例えば、サーボモータを適用することができる。
【0040】
また、CPU73は、インターフェイス76及びインターフェイス77を介して、縫製すべき布地を保持する保持枠111に備えられるX軸モータ76a及びY軸モータ77aをそれぞれ駆動するX軸モータ駆動回路76b及びY軸モータ駆動回路77bが接続され、保持枠111のX軸方向及びY軸方向の動作を制御する。
【0041】
また、CPU73は、インターフェイス78を介して、ミシンモータ2aによる上下動とは別に中押さえ29を上下動可能な中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路78bが接続され、中押さえ機構1の動作を制御する。また、中押さえモータ駆動回路78bを通じて中押さえモータ42の通電電流を制御してトルクの増減を調節することが可能となっている。
なお、中押さえモータ42の出力軸にはモータ軸角度検出手段としてのエンコーダ81が設けられており、中押さえモータ42を駆動する中押さえモータ駆動回路79bにおいて、エンコーダ81から中押さえモータ42の一回転ごとに出力されるZ相信号が、インターフェイス75を介してCPU73に入力され、この信号によって、CPU73は中押さえモータ42の出力軸の一回転における原点(0°位置)を認識できる。また、エンコーダ81からは、中押さえモータ42の回転角度における1°ごとに出力されるA相信号が、インターフェイス78を介してCPU73に入力され、前述したZ相信号を基準にA相信号のパルス数をカウントして、CPU73は中押さえモータの出力軸の現在回転角度を認識できる。
【0042】
また、CPU73は、インターフェイス79を介して、布押さえ(図示省略)を上下に移動する布押さえモータ79aを駆動する布押さえモータ駆動回路79bが接続され、布押さえの上下動動作を制御する。
布押さえモータ79aは、カム機構を介して布押さえの上下動機構と図示しない糸切り装置とに接続されており、その1周360°の回転範囲の一部の区間を布押さえの上下動動作の駆動に割り当てられ、他の区間を糸切り装置の糸切り動作の駆動に割り当てられている。従って、布押さえモータ79aを制御することにより、布押さえの上下動動作のみならず、糸切り動作の制御も可能となっている。
なお、X軸モータ76a及びY軸モータ77a、中押さえモータ42、布押さえモータ79aには、例えば、ステッピングモータを適用することができる。
【0043】
また、CPU73は、インターフェイス82を介して、縫い糸に糸張力を付与する糸張子装置(図示略)の駆動源となる糸張子ソレノイド82aを駆動するソレノイド駆動回路82bが接続され、糸張力の増減を制御する。
【0044】
上記データメモリ71に記憶された縫製パターンデータ71aは、図8に示すように、縫製を行う際の運針パターンを実行するために、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(針落ち位置を示す縫い目データ)を示す縫いコマンド、終了コマンド及び中押さえ29の下死点高さを定める中押さえ高さコマンド、糸張力コマンド、糸切りコマンド及び終了コマンドが組み合わされている。
そして、並び順に従って各種コマンドが実行されることで任意のパターン(模様)による縫いが実行される。
図8に示す縫製パターンデータにおいて、「縫い」のコマンドでは、保持枠111を移動させる際のX方向移動量、Y方向移動量のデータ(パラメータ)が第一設定値と第二設定値とに記録され、X軸モータ76aとY軸モータ77aの回転駆動量がこれらにより決定される。
また、「中押さえ高さ」のコマンドは、中押さえ29が被縫製物の各針落ち位置における布厚に対応した下死点高さとなるように中押さえモータ42の出力軸角度を制御するためのコマンドであり、中押さえモータ42により定められる中押さえ29の下死点高さが第一設定値に記録され、中押さえモータ42の回転駆動量がこれにより決定される。
また、「糸張力」のコマンドでは、糸調子装置が縫い糸に付与すべき糸張力が第一設定値に記録され、糸張子ソレノイド82aの出力がこれにより決定される。
また、「糸切り」は糸切り装置(図示省略)を作動させるコマンド、「終了」はミシン100の布押さえモータ79aを駆動させて布を解放させるコマンドである。
なお、図8のX移動量、Y移動量、中押さえ高さの数値データにおける表記は10倍表記であり、例えば、「15」は、「1.5mm」を示している。
また、縫製パターンデータ71aには、図示しないが、後述する中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行により取得される被縫製物の硬さも記録することが可能となっている。
【0045】
(縫製プログラムによる縫製処理)
プログラムメモリ70に格納された縫製プログラム70aは、上記縫製パターンデータ71aの各コマンドを順番に読み出して、コマンドに応じて制御対象を特定し、コマンド内の設定数値に基づいてミシンモータ2a、X軸モータ76a、Y軸モータ77a、中押さえモータ42、糸張子ソレノイド82aの動作制御を行い、縫製パターンデータ71aに基づく縫製を実行させるプログラムである。
例えば、上記図8の縫製パターンデータ71aの場合には、ペダルRの入力により縫製パターンデータにおける第一針目に関するデータである「中押さえ高さ」、「糸張力」、「縫い」のコマンド及びその設定値が読み込まれ、これらに基づいて、中押さえモータ42、糸張子ソレノイド82a、X軸モータ76a及びY軸モータ77aが各々の設定値に応じた動作量で駆動が行われる。また、最初の「縫い」コマンドの読み込みによりミシンモータ2aの駆動が開始される。
そして、ミシンモータ2aの駆動開始以降は、エンコーダ2bのカウントにより主軸角度が監視され、所定の主軸角度で縫製パターンデータ71aにおける毎針のコマンドの読み込みが行われると共に、コマンド毎に定められた所定の主軸角度で制御対象の動作が実行される。
【0046】
また、上記ミシンモータ2aの縫製時における回転速度及び回転駆動時のトルク値は、操作パネル74から設定された指令速度がデータメモリ71内に記録されており、これに従ってミシンモータ2aの駆動制御が行われるようになっている。
さらに、X軸モータ76a及びY軸モータ77aの保持枠111の位置決め制御については、枠移動開始から停止までの動作期間が主軸角度によって定められている。かかる動作期間は、X軸モータ76aとY軸モータ77aの各々について、動作量と動作期間との対応関係を示すテーブルが予めデータメモリ71内に記録されており、縫製時には、CPU73は、縫製パターンデータ71aから「縫い」コマンドの移動量を読み込むと、上記対応デーブルを参照して動作期間を読み出し、エンコーダ2bにより動作開始と終了のタイミングを計って各モータ76a,77aの制御を実行する。
【0047】
(枠位置ティーチングプログラムによる処理)
枠位置ティーチングプログラム70bは、縫製パターンデータ71aにおける各針の「縫い」及び「中押さえ高さ」のコマンドに基づく動作の確認及びその設定値の修正を行うためのものである。この枠位置ティーチングプログラム70bに基づくティーチングの際には、ミシンモータ2aの駆動を行わずに縫製パターンデータ71aの各針毎のコマンドを、操作パネル74に設けられた図示しない前進キーと後退キーの入力に従って縫製順又は逆順に一針ずつ実行して再現する。このとき、一針毎の再現動作により設定値に修正の必要がある場合には、オペレータは、操作パネル74を通じてコマンドの種類を選択し、その設定値を増減キーにより修正する。かかる入力があると、CPU73は、修正が行われたコマンドについて新たな設定値で再現動作を行う動作制御を実行する。そして、確定が入力されると、修正内容に従って縫製パターンデータ71aの更新を行う。
なお、縫製パターンデータ71aに「縫い」、「中押さえ高さ」以外のコマンドが含まれている場合にはそれらについても同様に再現し、また修正することが可能である。
【0048】
(中押さえ高さティーチングプログラムによる処理)
中押さえ高さティーチングプログラム70cは、縫製パターンデータ71aに対して「中押さえ高さ」のコマンド及び設定値の設定と被縫製物の硬さの記録を行うためのものである。前述した枠位置ティーチングプログラム70bの実行時にも中押さえ高さの設定を行うことは可能であるが、枠位置ティーチングプログラム70bの場合はオペレータが決定した中押さえ高さを数値入力することで設定が行われることとなる。
一方、中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行時には、予めオペレータにより針棒108aから縫い針108が取り外された状態で対象となる被縫製物をセットし、ミシンモータ2aを実際の縫製時よりも低速で駆動しながら、縫製時と同じように、縫製パターンデータ71aに従って仮想的に縫い動作を行う。そして、縫製パターンデータ71aに定められた各針落ち位置での中押さえ29の上下動により、後述する測定処理により、各針落ち位置における被縫製物の布厚が実測され、実測値に基づく「布押さえ高さ」コマンドが自動的にCPU73により縫製パターンデータ71a中に設定される。
【0049】
かかる中押さえ高さティーチングプログラム70cによりCPU73が行う制御について図9〜図14に基づいて詳細に説明する。
図9は、中押さえ高さティーチング動作時の中押さえ29の高さ変化を示した線図(上図)及びその際の中押さえモータ42の軸角度変化を示した線図(下図)である。図9の上図及び下図における0位置はいずれも針板110の上面高さを示し、上図における高さPはこの中押さえ高さティーチングおいて設定される中押さえ29の目標下死点高さを示す。また、下図における上方向は中押さえモータ42が中押さえ29を上方に移動させる方向への回転角度を示す。
また、図10(A)は図9の点a、図10(B)は図9の点b−c区間、図10(C)は図9の点c−d区間、図10(D)は図9の点d−e区間、図10(E)は図9の点e−f区間の各中押さえ高さにおける中押さえ高さ調節機構M4の動作状態を示した模式図である。なお、図10では各構成の重なる図示を避けるために便宜上、リンク20,22の屈曲方向と中押さえモータ42の配置を左右逆にしており、さらに、図の簡略化のために、位置決めリンク13を介して第2リンク11の一端部に連結された引っ張りバネである押さえバネ16を位置決めリンク13の図示を省略して直接第2リンク11の一端部に押圧バネとして直接連結された状態で図示しているが、その機能は同じであり、以下の原理説明には何ら影響はない。
【0050】
中押さえ高さティーチングプログラム70cに基づく中押さえ高さティーチングの際には、ミシンモータ2aを通常の縫製の場合よりも低速で駆動を行いながら、縫製パターンデータ71aに基づいてX軸モータ76a及びY軸モータ77aを駆動させて一針ごとの被縫製物の相対的な位置決め動作を再現する確認動作制御と、各位置において中押さえ29の上下動を行うと共に中押さえ29による被縫製物の押圧を抑制する高さ可変制御と、中押さえ29の下降時に被縫製物の厚さを検出する厚さ検出処理とが行われる。
さらに、上記厚さ検出処理において被縫製物の厚さが求められると、縫製パターンデータ71aに対して、針数の順番に対応づけて、取得された被縫製物の厚さを記録する厚さ記録処理が行われる。
このように、中押さえ高さティーチングプログラム70cを実行することにより、CPU73は、縫製制御手段、中押さえ高さ制御手段、厚さ取得処理手段、厚さ記録手段として機能することとなる。
【0051】
(中押さえ高さティーチングプログラム:確認動作制御)
上記各制御及び各処理についてさらに詳細に説明する。
上記縫製パターンデータ71aに基づく再現動作の際には、CPU73は、保持枠111に被縫製物をセットした状態で、ミシンモータ2aを低速駆動させて、ミシンモータ2aに同期して縫製パターンデータ71aに従って一針ずつ保持枠111の位置決め動作を行う。
【0052】
(中押さえ高さティーチングプログラム:高さ可変制御)
中押さえ29は、前述したように、中押さえ上下動機構M1により、主軸角度0°において上死点、主軸角度180°において下死点となるように縫い針108に同期して上下動を行う。但し、中押さえ29は縫い針108よりも下方に配置され、その上下往復のストロークも縫い針108よりも短く設定されている。
また、中押さえ高さ調節機構M4は、中押さえ上下動機構M1とは別に中押さえ29の高さを調節することが可能となっている。かかる中押さえ高さ調節機構M4の中押さえモータ42については、主軸角度180°(下死点)の時に中押さえ29の底部が針板上面と同じ高さとなる時の出力軸の角度を0°(原点)とするものとして以下の説明を行うものとする。
高さ可変制御においては、CPU73は、後述する厚さ取得処理のために、毎針ごとに主軸角度0°の時に中押さえモータ42を所定の目標下降位置M(図12参照)となるように高さ調節制御を行う。この目標下降位置Mは、主軸角度0°(上死点)において中押さえ29の底部が針板110の上面よりも高くなり、主軸角度180°(下死点)において中押さえ29の底部が針棒110よりも低くなる位置であればよいが、この条件を満たす範囲でなるべく低位置となることが望ましい。例えば、主軸角度が上死点である場合に中押さえ29の底部が針板110の上面よりも高くなるのであれば、中押さえ高さ調節機構M4による調節可能範囲内における最低高さとしても良い。このように、毎針ごとに、中押さえ29を低位置に調節することの意義については、厚さ取得処理を説明する際に説明することとする。
【0053】
図11は、主軸角度とCPU73が行う中押さえモータの制御の種別との関係を示す説明図である。CPU73は、図9及び図11に示すように、中押さえ29の上下動の1ストローク(主軸2の1回転)を、中押さえ29が被縫製物の踏みつけにより反力を受けると中押さえモータ42の出力軸を上方移動方向に回転させる高さ可変制御を行う区間(高さ可変制御区間)K1と、外力にかかわらず中押さえモータ42の軸角度を一定に維持させる維持制御を行う区間(維持制御区間)とに大別して制御を行っている。
また、維持制御区間は、主軸角度0°から高さ可変制御区間K1の開始主軸角度までの間で中押さえモータ42の軸角度を原点に維持する第一維持制御区間K2と、高さ可変制御区間K1の終了主軸角度(180°)から主軸角度0°までの間で中押さえモータ42の軸角度を高さ可変制御により最終的に修正された中押さえモータ42の軸角度を維持する第二維持制御区間K3とに分けられ、第一維持制御区間K2と第二維持制御区間K3との間となる主軸角度(0°)で中押さえモータ42の軸角度を前述した所定の下降目標位置に戻す制御が行われる。なお、かかる中押さえモータ42の軸角度を所定の下降目標位置に戻す制御は、縫い針が被縫製物から抜けてから高さ可変制御が開始されるまでのいずれのタイミングで行っても良い。
なお、高さ可変制御区間、第一維持制御区間及び第二制御区間は、それぞれの区間の開始、終了となる主軸角度が予め設定によりデータメモリ77に記録されており、CPU73はエンコーダ2bによりそれぞれの開始角度となる主軸角度を監視して各区間毎の制御を開始する。
【0054】
高さ可変制御区間K1における中押さえモータ42のトルク設定を説明するために、中押さえ上下動機構M1及び中押さえ高さ調節機構M4の各部材により中押さえモータ42の出力軸に加わる外部トルクについて説明する。
まず、図10(A)及び図9のb−c区間に示すように、中押さえ29が針板110よりも上方に位置するときには、中押さえ棒28には押圧バネ30により下方の押圧力fが付与されており、中押さえ棒28に連結された第4リンク22は当該連結端部を中心とする反時計方向のトルクT1を受けることとなる。その結果、第4リンク22の他端部から角駒33を介して案内部材34は時計方向のトルクT2を付与され、さらに、案内部材34から移動リンク36及び偏心カム38を介して中押さえモータ42の出力軸は、押圧バネ30に起因する時計方向のトルクTfが付与されることとなる。かかる外部トルクTfは、中押さえモータ42の出力軸を中押さえ29の下降移動方向に回転させる。
このように、中押さえ29が針板110よりも上方に位置するときには、押さえモータ42の出力軸には外部からのトルクTfが付与された状態となるので、高さ可変制御区間K1では、中押さえモータ42の出力軸に外部トルクTfと逆回転方向(中押さえ29の上方移動方向)にほぼ等しい大きさの駆動トルクTmの出力で駆動制御されている。
これにより、中押さえモータ42は、外部トルクと出力トルクのバランスがとれた状態となり、高さ可変制御区間K1における中押さえ29の下降中には、中押さえ高さ調節機構M4による中押さえ29の高さ変化は生じない。
【0055】
さらに、図10(B)及び図9の点cに示すように、高さ可変制御区間K1において、中押さえ29が被縫製物の踏みつけを生じた場合には、第2リンク11の第3リンク20との連結端部側は時計方向の回動が制止され、その一方で、第2リンク11の中間位置をミシンモータ2の駆動によって第1リンク8が下方に押圧しているので、第2リンク11の回動支点となっている端部が引っ張りばね16に抗して下降することとなる。これにより、第2リンク11には、第1リンク8との連結部を中心に時計方向のトルクT3が付与され、第2リンク11に連結された第3リンク20は角駒33側の端部を中心とする反時計方向のトルクT4を受けることとなる。その結果、第3リンク20の端部から角駒33を介して案内部材34は反時計方向のトルクT5を付与され、さらに、案内部材34から移動リンク36及び偏心カム38を介して中押さえモータ42の出力軸は、引っ張りバネ16に起因する反時計方向のトルクTFが付与されることとなる。
一方、前述した押圧バネ30に起因する外部トルクTfは、中押さえ29が被縫製物に当接することで消滅し、中押さえモータ42の駆動トルクTmと同じ方向で外部トルクTFが付与されるので、中押さえモータ42の出力軸は回転を開始し、図10(C)及び図9のc−d区間に示すように、案内部材34を反時計方向に回動させる。これにより、連結された第3リンク20と第4リンク22の両端部の間隔が縮まり、中押さえ29による被縫製物への押圧が回避される。また、第3リンク20と第4リンク22の両端部の間隔が縮まることにより、第2リンク11はすぐに時計方向に回動してその支点側端部が規制部材19に当接した状態に戻るため、引っ張りバネ16に起因する外部トルクTFは消滅するが、中押さえモータ42の出力軸には回転を阻害する押圧バネ30に起因する外部トルクTfも付与されてないので、中押さえモータ42はその駆動トルクTmに従って回転駆動を継続する。
中押さえモータ42の出力軸の回転駆動は、主軸角度が高さ可変制御区間K1の終了角度である180°(下死点)まで継続するので、ミシンモータ2による下降移動力が付与されている間ずっと中押さえ29による被縫製物の押圧が抑止される。
【0056】
なお、高さ可変制御区間K1における中押さえモータ42の出力トルクTmは、押圧バネ30に起因する外部トルクTfと逆方向であって同じ大きさに設定しているが、例えば、押圧バネ30が存在しないようなミシンの場合には、中押さえ29が被縫製物に当接するまでは(例えば、各部材の重量や各部の摺動摩擦に負けて)勝手に上昇方向に回転を開始しない程度であって、尚かつ、中押さえ上下動機構M1の上下動動作を中押さえ29に伝達することが可能な程度の低トルクで上昇方向に駆動することが望ましい。
なお、トルク設定手段としての操作パネル74により高さ可変制御区間K1における中押さえモータ42の出力トルクTmについて任意に調節可能としても良い。
【0057】
また、前述した高さ可変制御における維持制御区間は、図11に示すように、主軸角度0°から高さ可変制御区間K1の開始主軸角度(図9のa−b区間)までの間で中押さえモータ42の軸角度を目標下降位置Mに維持する第一維持制御区間K2と、高さ可変制御区間K1の終了主軸角度(原則180°)から主軸角度0°(図9のd−e区間)までの間で中押さえモータ42の軸角度を高さ可変制御により最終的に修正された中押さえモータ42の軸角度に維持する第二維持制御区間K3とに分けられ、第二維持制御区間K3から第一維持制御区間K2に移行する際に、主軸角度(0°)において中押さえモータ42の軸角度を目標下降位置Mに戻す制御が行われる。
なお、高さ可変制御区間K1、第一維持制御区間K2及び第二制御区間K3は、それぞれの区間の開始、終了となる主軸角度が予め設定により定められており、CPU73はエンコーダ2bによりそれぞれの開始角度となる主軸角度を監視して各区間毎の制御を開始する。
【0058】
第一維持制御区間K2では、CPU73は、中押さえモータ42の指令角度を目標下降位置Mの角度(中押さえ29が下死点において針板の上面よりも十分に下方となる高さにする中押さえモータ42の軸角度)に維持する制御を行う。また、CPU73は、その際の中押さえモータ42の出力軸の維持トルクが引っ張りバネ16による外部トルクTFよりも大きくなるように電流制御を行う(なお、F>f、TF>Tf)。これにより、第一維持制御区間において、中押さえ29が不慮に何らかの物体の挟み込み等により下降阻止状態を生じたとしても、中押さえモータ42の出力軸は目標下降位置Mの角度を維持すると共に引っ張りばね16が伸びて中押さえ29の下降動作阻害時に行われる逃げ動作が行われる。
【0059】
また、第二維持制御区間K3では、図10(D)及び図9d−e区間に示すように、CPU73は、上死点到達まで、中押さえモータ42が高さ可変制御区間K1で最終的に到達した角度を維持する制御を行う。この場合も、CPU73は、中押さえモータ42の出力軸の維持トルクが第一維持制御区間と同じ値となるように電流制御を行う。
これにより、下死点を通過した縫い針108が被縫製物に突き刺さった状態で上昇を開始した場合に、被縫製物が縫い針108に引っ張られて中押さえ29に押圧接触するが、中押さえ29は当該押圧力に抗して一定の高さを維持するため、被縫製物の浮き上がりを防止することができる。
【0060】
さらに、第二維持制御区間K3において、中押さえ29が上死点に到達すると(図9の点e)、CPU73は、中押さえモータ42を目標下降位置Mの角度に戻す制御を行う(図10(E)及び図9の点f)。つまり、高さ可変制御区間K1において、中押さえ29が被縫製物に接して中押さえモータ42の軸角度が変化していた場合に目標下降位置Mの角度に戻されることとなる。これにより、次の高さ可変制御時に被縫製物の厚さが薄くなった場合にも、中押さえ29が被縫製物に届かなくなる事態を回避し、適正な下死点高さにすることが可能となるので、その後の第二維持制御区間K3において、被縫製物の浮き上がりを防止することができる。
【0061】
なお、高さ可変制御区間K1の開始となる主軸角度(図9の点b)と終了となる主軸角度(図9の点d)は、いずれも操作パネル74から入力設定することができる。
高さ可変制御の開始角度は0°以上180°以下の範囲で設定可能であり、少なくとも、被縫製物が採り得る厚さ以上の高さから中押さえ29が高さ可変制御を開始する角度に設定されるものとする。
また、終了角度は、ミシンモータ2による上下動の下死点(主軸角度180°)まで行うことを原則とするが、180°以降であっても例えば190°程度までの範囲について微調整が可能である。
なお、これにより、操作パネル74は、「高さ可変制御を行う区間の開始と終了の主軸角度を設定する区間設定手段」として機能することとなる。
【0062】
(中押さえ高さティーチングプログラム:厚さ取得処理及び厚さ記録処理)
図12は厚さ取得処理における原理説明図である。
厚さ取得処理は、中押さえ29の上下動の際に行われる。前述したように、高さ可変制御では、毎針ごとに主軸角度0°において、所定の目標下降位置Mとなるように中押さえモータ42を制御する。
図12(A)の二点鎖線で示した中押さえ29は、目標下降位置Mにある状態を示している(なお、針板110が存在するので中押さえ29がここまで下降することは現実には不可能であり、目標下降位置Mはあくまで設定上の位置である)。
予め、主軸角度が上死点にあるときに、目標下降位置Mまで到達するように中押さえモータ42により中押さえ29の高さが下げられた状態で、ミシンモータ2の駆動により、主軸角度が下死点まで回転すると、下降する途中で中押さえ29が針板110に当接することで、高さ可変制御により、中押さえモータ42の出力軸が、目標下降位置Mと針板110との高低差に応じた角度α°だけ回転を生じることとなる。
一方、図12(B)に示すように、針板110の上面に被縫製物が存在する場合に中押さえ29の下降動作が行われると、高さ可変制御により、中押さえモータ42の出力軸が、(目標下降位置Mと針板110の上面との高低差)+(被縫製物の厚さ)に応じた角度β°だけ回転を生じることとなる。
従って、目標下降位置Mをデータメモリに登録することにより、CPU72は、中押さえモータ42の角度αを予め算出し、毎針ごとに中押さえモータ42のエンコーダ81から回転角度βを検出して、その差β−αを求めることで、縫製パターンデータ71aの毎針ごとの被縫製物の厚さを検出することが可能である。なお、角度差β−αと被縫製物の厚さとの関係を示すテーブルをデータメモリ71内に用意して、参照する処理を行っても良い。
また、厚さ取得処理は、予め全ての針落ち位置について先に回転角度βの記録を行い、その後、全針落ち位置についての被縫製物の厚さを求めても良い。
【0063】
また、厚さ記録処理では、CPU72は、厚さ取得処理で求めた毎針ごとの被縫製物の厚さを該当する縫製パターンデータ71aに記録する処理を行う。その際には、針数と被縫製物の厚さとを対応させて記録する。
なお、厚さ記録処理は、予め厚さ取得処理で全ての針落ち位置について先に被縫製物の厚さを求め、その後、全針落ち位置についての被縫製物の厚さを縫製パラメータ71aに記録しても良い。
【0064】
また、上記厚さ記録処理では縫製パターンデータ71aに対して実測された被縫製物の厚さが記録されるので、中押さえ高さティーチングの開始時には、縫製パターンデータ71a中に既に記録されていた中押さえ高さコマンド及びその設定値のデータは予め全て削除される。
また、厚さ取得処理により求められた毎針ごとの被縫製物の厚さを一つ前の針落ち位置での被縫製物の厚さと比較を行い、所定厚さの以上の変化を生じた場合に限り、縫製パターンデータ71aに対して記録しても良い。
また、検出された被縫製物の厚さを縫製パターンデータ71aの記録する際には、任意に設定可能な補正値の加算による補正を可能としても良い。
【0065】
(ミシンの中押さえ高さティーチングにおける動作説明)
図13は中押さえ高さティーチング前の基本動作の制御を示すフローチャートであり、図14は基本動作から中押さえ高さティーチングモードが選択されて実行する場合のフローチャートを示す。
これら図13及び図14に基づいて、中押さえ高さティーチングプログラム70cの実行によりCPU73が行う制御及び処理について説明する。
【0066】
まず、図13に示すように、操作パネル74に表示される縫製や各ティーチング等の動作制御の実行を促す準備キーの押下が行われると(ステップS11)、CPU72は、これを検出し、データメモリ71内の縫製パターンデータ71aの読み込みを実行する(ステップS12)。
次に、操作パネル74に実行動作の選択画面を表示し、縫製、枠位置ティーチング、中押さえ高さティーチングのいずれかのモードの実行をオペレータに選択させる。
そして、オペレータにより中押さえ高さティーチングモードの選択を受けると(ステップS13)、CPU72は、布押さえモータ79aを制御して保持枠111を上昇させた状態で待機し、オペレータによる被縫製物のセット待ちの状態とする。そして、操作パネル74に布押さえ下降の実行キーを表示し、当該下降の実行キーが押下されると(ステップS14)、CPU72は、中押さえ高さティーチングモードの処理を開始する(ステップS15)。
【0067】
中押さえ高さティーチングモードの処理を図14に示す。この処理は、中押さえ高さティーチングの実行中において、短い周期(例えば、主軸角度が1°変化するごとに繰り返される)で繰り返し行われる。
CPU72は、まず、ミシンモータ2aの駆動を開始すると共に、エンコーダ2bの出力から現在の主軸角度を検出する(ステップS21)。
そして、現在の主軸角度が高さ可変制御区間K1であるか判定を行い(ステップS22)、区間内である場合には、高さ可変制御を実行する(ステップS23)。
【0068】
即ち、CPU72は、中押さえモータ42を、中押さえ29の上昇側回転方向に駆動トルクTmの出力となるように制御する。その結果、中押さえモータ42の出力軸は、押圧バネ30に基づく下降側への外部トルクTfと駆動トルクTmとがバランスを採り、中押さえ高さ調節機構M4により上下動は行われることなく、中押さえ上下動機構M1に付与される下降動作に従って中押さえ29が下降を行う(図10(A)参照)。
そして、下降する中押さえ29が被縫製物に当接すると、瞬間的に引っ張りバネ16に基づく上昇側の外部トルクTFが中押さえモータ42の出力軸に付与されて中押さえモータ42の出力軸は上昇側に回転を生じる(図10(B),図10(C)参照)。この間、中押さえ上下動機構M1は中押さえ29に下降動作の付与を行い、その一方で中押さえ高さ調節機構M4が上昇動作を付与或いは許容することとなり、中押さえ29の上下動が相殺されて、ほとんど被縫製物を押圧することはない。
【0069】
次いで、CPU72は、エンコーダ2bを参照して、主軸角度が針最下点(下死点:180°)か否かを判定し(ステップS24)、針最下点ではない場合にはステップS26に処理を進める。
また、主軸角度が針最下点である場合には、中押さえモータ42のエンコーダ81の出力から中押さえ29が被縫製物に当接してからの回転角度βの検出を実行する(ステップS25)。さらに、CPU72は、β−αから被縫製物の布厚の算出を行い、当該布厚からその時の針数における中押さえ高さコマンドを生成し、縫製パターンデータ71aに記憶し、ステップS26に処理を進める。
ステップS26では、CPU72は、縫製パターンデータ71aに記憶された全ての針数について縫い針上下動が完了したか否かの判定を行い、完了した場合には、処理を終了し、完了していない場合には、処理をステップS21に戻す。
【0070】
また、ステップS22の判定において、主軸角度が高さ可変制御区間K1内ではないと判定した場合には、CPU72は、さらに、主軸角度が0°(上死点)か否かを判定し(ステップS27)、0°の場合には、中押さえモータ42を目標下降位置Mとなるように制御し(ステップS28)、処理をステップS26に進める。
また、主軸角度が0°ではない場合には、中押さえモータ42の出力軸が現在の角度を維持するように制御して(ステップS29)、処理をステップS26に進める。
【0071】
かかる処理により、主軸1回転において、主軸角度が高さ可変制御区間K1内の場合には、ステップS21,22,23,24,25,26の処理が繰り替えされることで高さ可変制御が実行されることとなり、主軸角度が第一又は第二維持制御区間K2,K3(0°の場合を除く)内の場合には、ステップS21,22,27,29,26の処理が繰り替えされることで維持制御が実行されることとなり、主軸角度0°の場合にはステップS21,22,27,28,26の処理が実行されることで中押さえモータ42の主軸角度を目標下降位置Mとする制御が実行されることとなる。
【0072】
(実施形態の効果)
電子サイクルミシン100では、制御装置1000により、中押さえ29の下降による被縫製物への接触時に、高さ可変制御により、中押さえモータ42が中押さえ29を上方移動させる方向に出力軸を回転させるので、被縫製物の押圧が回避される。
【0073】
また、制御装置1000は、高さ可変制御の開始前となる主軸角度0°において、中押さえ29が下死点(主軸角度180°)となる時の中押さえ高さが針板110の上面よりも下方となるように中押さえモータ42を制御している。
これにより、中押さえ29の上下動において、中押さえ29の下死点(主軸角度180°)における高さが針板110の上面と一致するように設定されていると、被縫製物が薄い素材である場合には、被縫製物に中押さえ29が当接するのが主軸角度180°直前のタイミングとなり、高さ可変制御により中押さえモータ42の出力軸の回転が開始される前に、中押さえ上下動機構M1による中押さえ29の上昇に転じて、中押さえモータ42の出力軸の高さ可変制御による角度変化を良好に得ることができず、その結果、被縫製物の厚さ検出を良好に行うことができないという問題を生じる。
特に、付勢機構M2の引っ張りバネ16のような、過剰負荷回避用の押さえバネを有する構成の場合には、薄い被縫製物の場合に、当接時に瞬間的に生じる引っ張りバネ16の伸びにより被縫製物の厚さ分の中押さえモータの駆動が吸収されて、中押さえモータ42による厚さ検出がうまく行うことが困難となり得る。
しかしながら、上記電子サイクルミシン100では、中押さえ29の目標下降高さMを針板110から離れたより下方の高さとしているので、下降する中押さえ29を主軸角度180°よりもかなり早いタイミングで被縫製物に当接させることができ、当接後も中押さえモータ上下動機構M1により下降動作が付与され続け、その結果、中押さえモータ42の出力軸は十分に回転を行うこととなる。つまり、中押さえモータ42の出力軸の回転が行われる前に中押さえ29が上方に引き返すという事態を回避することができ、その結果、被縫製物が薄い素材の場合であっても、また、過剰負荷回避用の押さえバネが存在する場合であっても、良好に厚さ検出を行うことが可能となる。
【0074】
また、電子サイクルミシン100では、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いることなく被縫製物の厚さを求めることができ、部品点数の低減による生産性の向上を図ることが可能となる。また、接触位置検出や距離検出などを行う布厚検出器を用いずに、中押さえを被縫製物に接触させて布厚を検出するので、ふかつきを含めた自然状態の厚さではなく、縫い糸で圧縮された状態の布厚を検出することができ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
さらに、中押さえによる被縫製物への接触時の押圧を中押さえモータ42により抑制するので、被縫製物を押圧して傷つけることを回避でき、被縫製物の保護により縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0075】
また、電子サイクルミシン100では、縫製パターンデータ71aに従って実行される毎針の被縫製物の相対的位置決め動作に同期して高さ可変制御が実行され、各針の厚さ取得処理が実行されて、針数の順番に対応づけて縫製パターンデータ71aに被縫製物の厚さが記録されるので、中押さえ29の高さを被縫製物に対して逐一調節しながら適正な中押さえ29の下死点高さを設定して縫製パターンデータ71aの設定作業を行う場合と比べて、煩雑な設定作業を不要とし且つ作業負担を軽減し、被縫製物の厚さを考慮した縫製パターンデータ71aを容易に取得することが可能となる。
【0076】
(その他)
なお、上記電子サイクルミシン100では、高さ可変制御及び被縫製物の厚さの検出を、中押さえ高さティーチングの際に実行したが、通常の縫製において高さ可変制御及び被縫製物の厚さの検出を実行しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係るミシンを示す斜視図である。
【図2】ミシンの保持枠や中押さえの近傍を示す拡大斜視図である。
【図3】ミシンの中押さえ装置を示す側面図である。
【図4】中押さえ装置の分解斜視図である。
【図5】中押さえ装置の分解斜視図である。
【図6】中押さえ装置の中押さえの高さ調節に関する説明図であって、図6(a)は下死点を下方に調節した場合を示し、図6(b)は下死点を調節に当接した場合を示す。
【図7】本発明に係るミシンの制御装置を示すブロック図である。
【図8】縫製パターンデータのデータ構成を示す説明図である。
【図9】中押さえ高さティーチング動作時の中押さえの高さ変化を示した線図及びその際の中押さえモータ42の軸角度変化を示した線図である。
【図10】図10(A)は図9の点a、図10(B)は図9の点b−c区間、図10(C)は図9の点c−d区間、図10(D)は図9の点d−e区間、図10(E)は図9の点e−f区間の各中押さえ高さにおける中押さえ高さ調節機構の動作状態を示した模式図である。
【図11】中押さえ高さ調節機構の押圧バネが中押さえモータにもたらすトルク負荷を説明するための模式図である。
【図12】厚さ取得処理における原理説明図であり、図12(A)は針板上に被縫製物がない場合を示し、図12(B)は針板上に被縫製物がある場合を示している。
【図13】中押さえ高さティーチング前の基本動作の制御を示すフローチャートである。
【図14】図13の基本動作から中押さえ高さティーチングモードが選択されて実行する場合のフローチャートを示す。
【符号の説明】
【0078】
1 中押さえ装置
2 主軸
2a ミシンモータ
2b エンコーダ(主軸角度検出手段)
11 第2リンク(他の動作伝達部材)
16 引っ張りばね
20 第3リンク(動作伝達部材)
22 第4リンク(動作伝達部材)
29 中押さえ
30 押圧バネ
42 中押さえモータ
70a 縫製プログラム
70c 中押さえ高さティーチングプログラム
71a 縫製パターンデータ
73 CPU(縫製制御手段、中押さえ高さ制御手段、厚さ取得処理手段、厚さ記録手段)
76a X軸モータ(位置決めモータ)
77a Y軸モータ(位置決めモータ)
81 エンコーダ(モータ軸角度検出手段)
100 電子サイクルミシン
110 針板
1000 制御装置
M1 中押さえ上下動機構
M2 付勢機構
M3 中押さえ退避機構
M4 中押さえ高さ調節機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンモータにより縫い針を上下動させる針上下動機構と、
位置決めモータにより縫い針と被縫製物を相対的に位置決めする位置決め機構と、
毎針ごとの前記縫い針に対する被縫製物の相対的位置を定める位置情報を含む縫製パターンデータを記憶した記憶手段と、
前記ミシンモータにより回転駆動される主軸の角度を検出する主軸角度検出手段と、
縫製時に被縫製物の浮き上がりを防止する中押さえと、
前記ミシンモータから動力を得て、前記縫い針の上下動に同期して前記中押さえを上下動させる中押さえ上下動機構と、
中押さえモータにより前記中押さえ上下動機構の動作伝達部材の姿勢に変化を付与すると共に変化後の姿勢を支承することで前記ミシンモータとは別に前記中押さえを上下移動させる中押さえ高さ調節機構と、
前記ミシンモータの駆動により前記中押さえ上下機構が行う前記中押さえの上昇と下降に同期させながら、前記縫製パターンデータに従って一針毎に位置決め機構を駆動させる縫製制御手段とを備えるミシンにおいて、
前記中押さえモータの出力軸の角度を検出するモータ軸角度検出手段と、
前記中押さえの前記下降開始又は下降途中から下死点までの間、前記中押さえ高さ調節機構による上下の位置変化を生じないように前記動作伝達部材の姿勢を維持し、前記中押さえの被縫製物への当接により前記中押さえモータの出力軸に外部からのトルクが加わると、前記中押さえを上方移動させる方向に回転を生じるように前記中押さえモータの出力を制御する高さ可変制御を行う中押さえ高さ制御手段と、
前記中押さえの前記下死点における前記中押さえモータの出力軸角度の検出角度から前記被縫製物の厚さを求める厚さ取得処理を行う厚さ取得処理手段とを備え、
前記中押さえ高さ制御手段は、前記高さ可変制御の前に、前記中押さえが下死点となる時の中押さえ高さが針板上面よりも下方となるように前記中押さえモータを制御することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記縫製パターンデータに対して、針数の順番に対応づけて、取得された前記被縫製物の厚さを記録する厚さ記録手段とを備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
【請求項3】
前記中押さえ上下動機構の他の動作伝達部材を弾性力で支持すると共に前記中押さえの下降が阻害されることにより前記弾性力以上の負荷が前記他の動作伝達部材に生じたときに当該他の動作伝達部材の逃げ動作を許容する、前記中押さえ上下動機構に対する過剰負荷回避用の押さえバネを備えることを特徴とする請求項1又は2項に記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−148551(P2010−148551A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327123(P2008−327123)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】